マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.937] 怪しいパッチ:11 投稿者:リング   投稿日:2012/03/29(Thu) 23:46:30   42clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

-11-

 ふう……考えてみれば、今まで夜更かしなんてする事は本当に稀だった。いつも気ままに飛んで、気ままに食べて、気ままに眠っていたから……こんな風に意地になって何かに打ち込んだりすることなんて久しく忘れていた。
 疲れたけれど凄く充実していたような……

 スタリの部屋に忍び込んでみると、スタリは案の定眠っていた。安らかな寝息は小さい音だが、この人里から遠く離れた家ではよく響く。扉をゆっくり開けるとその音に目覚めたのか、スタリは僅かに目を開けて私を確認して、尻尾で手招きするとそのまま眠ってしまった。
 丸まっている彼の体に寄り添うように腰を掛ける。恐る恐る慎重に背中をくっ付け合わせると、尻尾に優しく包まれてなんとも暖かい。
 せっかくのキュウコンの高い体温も、体毛が長いせいでその熱が中々伝わってこないが、こうして尻尾の中に包まれると彼の熱がじわりと伝わってくる。スタリは起きているのか眠っているのかも分からないような意識の中で、明確に私を歓迎してくれているのでしょうか。
 上等な絨毯のように滑らかな毛皮と、スタリの熱。人間には小さすぎても私にとってはキングサイズのベッドよりもよっぽど寝心地が良い。

 今日は……といっても天辺をとっくに過ぎちゃっていますから今夜が正しいのでしょうか。今夜は疲れましたから……お休みなさい。
 スタリ、エミナ。

         ◇
『おはよう……というか、この場合は『おそよう』かしらね、ラマッコロクル。もう昼だからそろそろ起きなさいよ』
 もう、昼ですか……でも、まだ……眠い。

『ラマッコロクル。もう夜だからそろそろ起きなさいよ……』
 え?

『ラマッコロクル……もう朝だからそろそろ起きなさいよ』
「うわぁぁぁぁぁ!!」
 あまりの気味の悪さに発狂しそうな剣幕で起きてみれば、もう太陽は最も高い位置に上っていた……また昼を迎えてしまったのですか!? 確か最後に寝たのは12月5日の深夜と早朝の境目あたり……今は何月何日!? 

『あ、起きた。冗談よ、まだ最後に会話した次の日のお昼よ』
「い、意地悪……」
 心臓が思いっきり高鳴っている私に対し、スタリはひたすら面白そうにケラケラと笑っていた。と、それよりも私には仕事があるのだ。

「まずい、ごはん作らなきゃ……」
 サイコキネシスを発動して、ふわりと体を浮かせ部屋の外に出ようとしたのもつかの間。スタリの神通力によってそれは止められた。
 これは……あまり強い力ではありませんね。まぁ、タイプや素養そのものの差に年季も違いますから、スタリの神通力が私より強い力だとユクシーとしての面子が立ちませんが……それ以上にスタリには本気を出す気が無いようですね。
「あの……」
『ご主人なら、本当に集中すると1日くらいなにも食べなくっても平気だから。何かで集中が途切れると、突然腹が減ってくるみたいだけれどね。だからまぁ、触らぬ神にたたり無しって言うでしょう? 放っときゃ良いのよご主人なんて。』
 そんなんで良いのかとも思いたくなるが、私よりも遥かに長く暮らしているのであろうスタリがそういうのだから間違いないでしょう。なら、ここはスタリの言うとおりに従っておくべきでしょうか。

『私はこれから、外に遊びに行って来るわ。貴方も、暇を持て余しているのならば何かをやってみたらどう? 狩りとか、楽しいよ?』
 言うなり、スタリは窓を神通力で開けて2階から飛び降りて外へと降り立った。暇を持て余していると言えばそうですが……私はどうすればいいのでしょう? 昨日に張り切りすぎてしまったから、もう疲れのとれた今日に暇となると、なんだか拍子抜けですね。皿洗いもすぐに終わってしまった。
 今、やるべき事があるとすれば……暇を潰す方法があるとすれば、昨日のコードの続きを読む事でしょうか。あまりエミナの気を散らして食事の用意をしろなどと言われないように気をつけて、ノートパソコンを貸してもらいましょう。

「失礼」
 申し訳程度の小声でラマッコロクルは作業室へ入る。
「おや、メロ……ラマッコロクルか」
 なんだか、その呼び方猛烈に懐かしい気がしますが、その呼び方は嬉しくないのでやめてください。

「どうした、今スタリは出て行ったばかりだからこの部屋は暖かいだろう? 温まりに来たならば、あそこの棚の上に乗るといい。上の方は暖かい空気が集まるからな、むしろ暑いくらいだぞぉ」
 お断りします。切実にお断りさせていただきます!! まったく、言う事がいちいち鼻につく人ですね、貴方は。
「いや、そうじゃなくって昨日のノートパソコンとフラッシュメモリを貸してもらおうと思って……」
「ほう、タメ口が板についてきたなぁ、いい調子だ。そうだな、ノートパソコンはそこにあるから今のうちに起動しておけ。USBには、今からデータを保存する……よし、これを読め」
 私は念力を使い、エミナの手の平に乗せられたフラッシュメモリを受け取り、ノートパソコンに差し込んでパソコンの起動を待つ。間違っても私の目を見られないようにそっぽを向いて、起動したパソコンを操作して、コードを読み進める。
 やっぱりだ……この人は、エミナは天才だ。こんなにほとんど無駄なく、上手い所に無駄が多いという何とも矛盾したプログラム……これが、たった一人で人間の脳や思考に極限まで近づけようとした研究成果なのでしょうか?

 ですが、一体なぜこんな研究を? そりゃあ、損得計算抜きの直情的な行動が出来るというのは、人間の最も特徴的な性質ですが……そんなもの、ポリゴンに搭載してしまえば、この新バージョンへのアップデーターは商品として成り立たないのではないでしょうか? ポリゴンの商品としての価値を大幅に下げてしまうような……
 ポリゴンをポリゴン2へ進化させるアップグレードは、ポリゴンの強化や行動の多様化による可愛らしさの増大というように、愛玩用としても戦闘用としても優れた性能を発揮しましたが……これでは、愛玩はともかく、戦闘にはいささか問題ありと言わざるを得ないです。
 ならば……新しいポリゴンを愛玩用に特化させるため? ですが、愛玩用のポケモンだったら見た目の改良や、さらに多くの仕草を自動でプログラムできるようにすれば済むだけ。感情を作る必要までは無いはず。

「読み終わっ……たので。もう一回読んでさらに理解したいところですけれど……一つ、質問よろしいでしょうか?」
 パソコンの内部の時計はまともに合わせられていなかったが、ちょうど読み始めた時から7時間半ほど経っていたから今はもう夜の時間帯だろう。エミナは脳への糖分の補給のつもりなのか、何処で買ってきたのかブドウ糖の粉末を舐めているだけでこの時間まで腹を持たせていたらしい。エミナは何とも自身の体の悲鳴に鈍感だ。

「おぉ、どうした? しかし、結局丁寧語が直らんなぁ……まぁ、いいか」
 後ろを振り向くことなくエミナは私に応じてくれた。それでも、暴風雨のような指づかいや減らず口は相変わらずで、返答するまでの早さも衰えている様子はない。大体、この人はいつ眠ったのだろう?
「この人工知能……何を目指して、作ったのでしょうか? この無駄なく無駄が多いという何とも矛盾したプログラムは……人間の脳を目指して作ったとか、感情を持ったポリゴンを作りたいとも言っておりましたが……昨日というか、今日の深夜聞いた時はまさか……冗談でしょうと思いましたけれど……」
「そのまさか、なのだよ。考えても見ろ。私が今までお前に嘘をついたか? まぁ、この短い交流期間の間に嘘を一つ吐く方が珍しいのかも知れんがな」
 違う、そんなことは分かっていたようなものだ。私が訪ねたかったのは、多分こっちだ……まるで、アグノムを見ているようなこの人の執念じみたこの思考錯誤の孤軍奮闘を行えるバイタリティは、どこから来るのか……と。
「では、なぜ人間の脳に似せた物を作りたいと思ったのですか?」
「ふむ……それはだなぁ……ちょっと失礼」
 スタリがいなくなって数時間。密閉された空間とはいえどかなり寒くなってきている……というのに、エミナはおもむろに下半身の服を脱ぎ始めた。一体何の意味があるといのでしょうか?


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