マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.929] 怪しいパッチ:7 投稿者:リング   投稿日:2012/03/25(Sun) 21:34:19   54clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

-7-

「そうだ、名案が浮かんだぞぉ」
 どうせろくでもないこと請け合いの気がするのは気のせいでは無いでしょう。『名案』ではなく『迷案』の間違いでは?
「さぁ、ラマッコロクルよ。この金で掃除機のフィルターを買ってこい。お釣りは自由に使っていいぞ」
 あのですねぇ……5千円札を渡されても困ります。
「私が、街のスーパーマーケットに行って『すみません、掃除機のフィルターは何処でしょうか?』などと言ったら騒ぎになりますよ。私は、みだりに人間界に姿を現す事は出来ない存在です!! 何を考えているのですか全くもう!?」
「なんだ、そうなのか。連れないことを言うなぁ……ではしかたがない、雑巾とバケツだけで何とか頑張ってくれ」
 えぇぇぇぇぇぇ!? そうなってしまうのですかぁ? 私って本当にとんでもない人に恩返しをしに来てしまったんじゃ……あ〜あ、本当に止めておけばよかった。
 と、兎に角気を取り直しましょう。床が汚いと言う事は拭いた傍から綺麗になるということ、終わった頃にはかなり気持ちよくなるはずです。
 床を拭いて10秒立たずにバケツへ雑巾を放り込んで洗って絞ってはまた拭いて10秒立たずにバケツに放り込んで……あの、どれだけ汚いのですかこの家は。
 バケツの水も、見る見るうちに底が見えないくらいに汚くなってしまって……えぇい、水を捨てましょう。こんな不衛生なところでどうして暮らしていられるのでしょうかね、エミナは。

         ◇


 やっと……半分くらいか。この家に入ってからまだ数時間しか経っていないはずですが、なんだかすでに1週間は経過しているような気分です。今まで、気ままに飛び回ったりしながら食料を採集して、のんびり暮らしていたツケですかね。ぐうたら生活が板についてしまうとは情けないものです。
 ともかく、ちょっと休みましょう。念力の使いすぎで頭が痛いですし、糖分の一つや二つ(?)取らなくっては……何か食べたいですね……近くの川からコイキングでも捕まえてきますかね……

『お疲れ様、ラマッコロクル』
 いや、スタリさん。『お疲れ』……ではなく本音としては貴方にも手伝って欲しいくらいなのですが。神通力ならば貴方だって使えるでしょうに。でなければ、貴方のその豊かな体毛を抱える尻尾で床を拭いてもらいたいくらいです。全く、飼いポケは飼い主に似ると言うのは本当なのですか。
 おや……スタリが神通力で何かを取り出して……これはコラッタの死体ですか。狩りたてのようで、まだ死後硬直も始まっていない新鮮な物のようです。

『これ、差し入れだから遠慮なく食べちゃって』
 差し入れ……ですか? そういえば、スタリの体毛に僅かですが雪の結晶が残っていますし……外に狩りでも行って来たのですかね?
「ありがとう……ございます」
『なぁに、気にしないで。お口に合うかどうかは分からないけれど、私の好物だからまぁ、いいか』
 やはり、スタリはエミナのポケモンのようです。口癖まで似ていて、どんな教育を受けていたのやら……
『あのご主人に仕えるのは大変だろうけれど……一緒に頑張りましょうね。私はまたご主人の暖房になってくるわ』
 スタリは、すれ違いざまに2本の尻尾で私の体を撫でて行った。これは、歓迎と受け取ってよいのでしょうかね? エミナはロクでもないやつだけれど……スタリも……いや、あいつもある程度ロクでもないか。でも、エミナよりは幾分か気の利くところもあるようですし、キュウコンには雄は少ないですから、野生ならモテたのでしょうねぇ。
 とりあえず……飼い主からも、その手持ちからも歓迎を受けたわけですし……恩返しも気兼ねなく出来るのでしょうか。なんと言うか、スタリさんもこの家と言うか、ここでの暮らしが気に入っているようですし……私も頑張って恩を返してみましょうかね。さて、土足で上がるのを躊躇するくらいになるまで掃除の続きをしなくっては。

         ◇

 ふう……埃だらけの書斎。洗濯物が散乱している居間。洗い物が食べ残しの腐った匂いと共に朽ち果てている食卓兼台所。すでにスタリの部屋と化している2階の応接室。
 掃除は作業室を除いて終わりましたし、たまっていた洗濯物もベッドのシーツも洗えました……粉石鹸があってよかった……乾燥機がないから干さなければなりませんが、外に干すと凍るから今日はスタリに頑張ってもらうとしましょう。
 後は、作業室なのですが……入っても良いのでしょうかねぇ? というかものすごく入りたくないのですが……これまでも吐き気がするほどひどかったと言うのに、作業室なんていったらどれほどの惨状が広がっていることなのやら。想像の範疇の外にあります。
 いや、もしかしたら『作業中は入ってくるな』と追い返されてしまうかもしれませんから、行くだけ行って後回しにしましょう。そうだ、それが良いに決まっています。
 恐る恐るドアノブを回す念力には否が応にも力がこもります。深呼吸で心を落ち着かせねば……こういう時でもエムリットならばリラックスできているのだというから、こういう時エムリットが羨ましくなります。
「失礼します……」
 綺麗だ。なにゆえにここまで綺麗なのでしょうか? この家の中に在って台風の目のごとく、嘘のようにゴミも埃も落ちておらず、資料は整然としている。先ほどまでは、人間の住処とは到底思えずベトベトンの住処と形容するに違和感を感じさせないほど醜悪な場所すらあったというのに。この部屋は一体?

「おや、掃除は終わったのか? だが、この部屋に掃除は必要ないぞ。なぜなら、スタリの炎が燃え移らないように常に綺麗にしているのだからな」
 なるほど……この部屋の綺麗さは暖房代わりのスタリさんが火事を起こさないための配慮なのですね。それにしたって極端に綺麗過ぎてなんというか、眼が眩む気分になります。と、それよりも……この作業室での彼女の髪は異常に薄く見える……というか、傍らにはカツラが置かれている。

「あぁ、そのカツラは見ての通り私のだよ。通気性がよくってなかなかの優れものなのだ」
 なぜ髪が薄いのか……それは分かりませんが、一応見た目を気にするような常識は持ち合わせているのですね……少し安心しました。
「そうだ、この作業室から続く地下にも部屋があるが、そこも掃除する必要はない……というか、万が一入るときはスーツを着てから頼むぞ。毛も埃も例え一粒でさえ入れてはいけない機器が入っているのでな。そこはスタリも立ち入り禁止だ。
 あぁ、そうだ……この部屋に掃除が必要がないのだから、お前の次の仕事はお洗濯だな。私の洗濯物を全て片付けておいてくれるかな?」
「いえ、洗濯はすでにベッドのシーツに枕カバーや布団カバーも含めてきちんとやっておきました……後でスタリに乾かしてもらおうかと」
「ほう!」
 いや、あの。手をポンと叩いて感心されると嫌な予感がするのですが……そうやって思わせぶりに不安な精神状態にさせるのは少し控えていただけると嬉しいのですが……
「仕事が早いことだ。では、次は料理だな。味の期待はしないでおくが、なるべく美味しいものを頼むぞ」
『私のポフィンもお願いね』
 ちょ、二人揃って!? ……えぇい!! これも恩返しです……恩返しの一環としてやりますよ。やればいいのでしょう!


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