マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.924] 怪しいパッチ:4 投稿者:リング   投稿日:2012/03/22(Thu) 23:25:08   60clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

-4-

 500万をはたいて購入した簡易喜怒哀楽メーターに刻まれた成果はゼロだ。私がいない事で寂しいという感情が芽生え『哀』に傾くでもなく、私がいない間に何かよからぬ事をたくらんで『楽』に傾くでもない。
 全く、スタリがこの家にいるとスタリの感情を受信してしまうから毎回外に連れて行って計測している私の身にもなってほしいものだな。購入するための金も安くはなかったというのに。

 人の脳には解明されていない部分が多い。脳神経なども、全か無かの法則*3の考え方は、コンピューターの信号である0と1のデジタル信号と同じようなものだと言うのに、その実態をなかなか掴ませてくれない。いろんなソフトを見て、それがどんなプログラムによって成り立っているのか、プログラムのソースコードを見なければわからない事が往々にしてあるように、きっと脳を解剖してこまごまと覗かなければ、脳の構造という物はきっと明らかにはならない。
 しかし、脳を覘く事が物理的に出来たとして、それを機械言語としてディスプレイへ表示することは不可能である。それでも、小脳は作れる。記憶装置は作れる……感情のまねごとをする機構は作れた。
 しかし、所詮は真似ごとなのだ。ポリゴン2をどれだけ虐待してもキルリアやムウマが何の反応も示さない。そんなものは、感情とは言えない。
 私の知り合いが研究を重ねた末に書きあげた論文である、『感情やそれを向ける方向が素粒子のスピンと指向性に与える影響』において実際に観測された事象と同等の結果が出なくては感情と呼ぶのはおこがましい。

 全く、無知な者どもはポリゴンをアップデートすることで感情を手に入れたとぬかよろこびをしているが、そんなものはプログラムの領域から抜け出せていないただの偶像にすぎないというのに。
 強さを求めるトレーナーにはただアップグレードするだけで有意義なのだろうから問題はないのだろうが、技術者にとっては不満の塊だ。チューリングテスト*4もまともにクリアできない個体が多いポリゴン2は感情の存在など全くないと断言できる。
 愛玩用としてポリゴンを飼う者が、珠に感情があると信じる者がいるが、そいつらほど滑稽なことなど無い。ただのぬいぐるみ萌えとしてポリゴン2を見るのならば全く問題はないというのに、何故そこに感情があると信じるのか私には理解できない。
 付喪神の存在を本気で信じていると言うのならば、あるいはそれも宗教の一種として納得できない事は無いのだが。

 しかし……この不毛な研究を続けて、もう12年か。日常の変化が乏しいものだ。昨日は、ユクシーなどが倒れていて少し面白い事もあったが、やはり地下にばかりこもっていて少し健康面が心配だ。太陽の光に当たらないのは少しばかり不味い事なのかもしれないな。
 だが、陽のもとでパソコンをいじるわけにはいかないし、今は少し外でやるには寒い……いや、サンルーフにすればよいのか? 天窓から太陽光が入るという家も悪くない。

         ◇

 さて、そうこうしているうちに日にちが経って試作プログラムの完成だ。思えばあれから8日か……ユクシーは今ごろどこでどうしているであろうか?

「レプ、こっちへ来い。アップデートプログラムの試作品を試してみる」
 レプ。シンオウの古い言葉で『3』を意味する言葉。何のことはない、1から5までの数をそろえただけであり深い意味はない。前回、トゥプ2にアップデートプログラムを試したのだから、次はこいつというだけである。
 アップグレードしてから再起動までの間、レプは眠っている。起きたら再起動完了ということだな。その時はちょうどよい機会だ。簡易喜怒哀楽メーターを起動させて何か食料を買いに行くとしよう。現在食料の備蓄が尽きて実に22時間の断食だからな。非常食やポケモンフーズを食べるというのもありだが、そこまで腹は減っていなかったらとりあえず我慢することにした。
 とりあえず、今は猛烈に海産物が食べたい気分だ。しかし、魚は腐りやすいからほっといて腐らせる可能性も考慮して街で食べるだけに留めておこう。なぁに、このシンオウの街なら寿司屋なんて探せばいくらでもあるさ。
 スタリを連れて歩む道。今日は晴れてはいるものの寒いものは寒い。ふむ、やはり歩いて片道2時間というのはいただけない距離だな。夏は自転車が使えるからよいものの、やはり車の免許を取っておくべきか。

 そうしてたどり着いた久しぶりの寿司は上手い。やはり私はトロなんかよりもサーモンの方が性に合っている。ボールの中で待っていたスタリにも、美味い缶詰を買っておいてやろう。
 まぁ、私にとって美味いポケフーズがスタリにとって美味いかどうかは分からぬがな。
 そうこうしているうちに帰り道だ。聞く話によるとユクシーは昨夜病院を抜け出したらしい。全く、行動的なことであるなと思いつつ、肩に背負う食料が重い。年を重ねるにつれて辛くなってくることだし、そろそろ犬ゾリでも買って、荷物を積み込みスタリにソリを引かせてみるのも悪くないかもしれない。
 なあに、この子は賢いから、ポケフーズの供給源である私のために、それくらいは喜んで役立ってくれるだろう。スタリが運動不足にならないためにも、スタリが自由に出入り可能な神通力によって開閉出来る扉を設けてやったのだからな。

 さて、我が家だ。レプはどうしているのであろうか? 感情メーターや、それが出力した情報を記録する装置に何か変化があればいいのだが……ふむ、なるほど。
 これはあってはいけない事が起こっているぞぉ。私の家の囲いにユクシーが座っているではないか。まったく、スイクンやフリーザーなどと違って格好良い見た目ではないから、囲いに乗っているからと言って『かっこいー』と言えるような見た目ではないから、ダジャレも言えない。
 あのユクシーはまさか新聞の勧誘に来たわけでもなかろう。罠から助けてやったチルタリスが人間に化けて羽衣を折るお話があるが、こいつもチルタリスよろしく恩返しにでも来たのであろうか?
 恐らく、スタリの神通力など比べ物にならないエスパーポケモンとしての能力もあるだろう。最初からユクシー姿での恩返しを慣行するつもりならば、色々なこき使い方があるはずだ。

 喋ることで意思の疎通も出来るのであればなおさらのこと。それこそチルタリスの羽衣よりも私にとって役立つものになる可能性もあろう。まぁ、役に立たなかったらエイチ湖に追い返せばよいことだ。いや、あのメロンパンのような頭をスタリにかじらせてみるのも良いかもしれんな。とにもかくにも、あのユクシーに話しかけてみようではないか。


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