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  [No.1658] 第1話・青い石 投稿者:都立会   投稿日:2019/09/23(Mon) 19:28:39   5clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「よし、今日はそこまで。

 もどって、チャモちゃん」

そう言うと少女はバシャーモをモンスターボールに戻した。

少女の名前はナミ。

ポケモントレーナーとして故郷のミシロタウンを旅立ってもう数年もたつ。

「あ〜、

 明日は何しようかな〜…」

彼女はトレーナーになって以来、

普通トレーナーがバッジの取得のため目指すジムには

一度も行ったことがなかった。

もちろんバッジも持ってない。


ポケモントレーナーであれば

自分のポケモンを育てることに専念でき、

ポケモンマスターになるためリーグチャンピオンを目指して

バッジを集める旅ができる。

それがこの世界の若者の常識であり特権である。

もちろん大人になったらポケモンマスターにならない限り

別の仕事を見つけなければならないが、

いま彼女にはそのようなことはどうでもよかった。

ただ、トレーナーであれば今は自由な生活ができる。

勉強も仕事もしなくてよい。

それが彼女がトレーナーをやっている理由であった。

とりあえずホウエン地方を一通り回ってからは、

毎日ポケモンとほとんど遊びのようなトレーニングをして、

時々道ばたで他のトレーナーとバトルをする。

それが彼女の日常であった。


その日も何人かのトレーナーとバトルして、

自分で育てた木の実を売りに

近くのフレンドリィショップまで来た時だった。

「おーい!

 ナミ〜」

店の向こうから手を振って近づいてくるトレーナーがいた。

「あら、ヒトシじゃない。

 ひさしぶり」

その声にナミも気づいて挨拶をする。

「7つめのバッジをゲットしたんでしょ。

 すごいじゃない」

ヒトシは同じミシロタウン出身で、

ナミとは幼なじみである。

「あぁ、

 もう少しでまたリーグ出場できるんだぜ。

 今の俺のラグラージたちとなら

 チャンピオンにだってなれそうなんだ。

 そいうナミはどうなんだい?」

とヒトシが尋ねると、

「私は相変わらずかな…。

 毎日ぶらぶらしてる」

「オイオイがんばれよ。

 そうかもう将来のことは考えてあるとか?」

「いや、

 別にまだ…。

 まぁとりあえず日々元気に過ごしております」

そう言って2人で店に入ると、

ナミは木の実を売って必要なものを調達した。


「お、

 よく育ったマトマとラブタの実じゃないか。

 ナミは木の実やさんにでもなるつもりかい?」

買い物を済ませてきたヒトシがナミの持ってきた木の実を見て言う。

「ん〜ん、

 全然。

 とりあえず小遣い稼ぎにやっているだけ」

そう言うとナミは店員から買い物袋を受け取り、

ヒトシと一緒に店を出る。

すると、

「そういえばさ、

 これからポケモンセンターに行くんだろ、

 ちょっと見せたいものがあるんだ」

とタイミングを見計らいながらヒトシが話しかけると。

「見せたいもの?

 いったい何なの?」

ナミは聞き返した。

「いいから見てのお楽しみ」

ナミの問にヒトシはそう答えると、

ポケモンセンターの方に歩いていった。

そして、ナミもその後を追って、

2人いっしょに中へと入る。

とりあえずナミは自分のポケモンを預けていると、

ヒトシは隅のパソコンから何かを引き出してきた。


「コイツだよナミ」

そう言いながら彼は1つのモンスターボールを見せると、

中のポケモンを目の前に出した。

中に入っていたのは茶色い小犬のようなポケモンだった。

「キャー!

 かわいい!

 何なのこの子?」

そのポケモンを見た途端、

ナミは叫び声を上げながらポケモンを抱きかかえる。

ポケモンはいきなりナミに抱きつかれたので、

驚いてジタバタしていたが、

しかし、ナミに抱かれて気持ち良くなったのか、

程なくしておとなしくなり、

ナミの腕の中から毛の色と同じ茶色い目で彼女の顔を見上げていた。

「カントー地方のポケモンで、

 イーブイってヤツだ。

 ちょっと分けアリでトレーナーから譲りうけたんだ」

「へぇ、

 イーブイちゃんか。

 すごくかわいいじゃない。

 どうしたのそのトレーナー、

 この子弱いの?」

ポケモンを抱えたままナミが尋ねると、

「いや、

 そのトレーナーもかなり頑張って育てたらしいから

 そんなに弱くはないんだけど、

 でも、いくら育てても進化しないらしいんだよ。

 イーブイは別名しんかポケモンと言って、

 進化させるときの方法で5種類の違うポケモンに進化するんだ。

 水、

 雷、

 炎の石を使うと

 それぞれシャワーズ、

 サンダース、

 ブースターに、

 トレーナーになついているとレベルが上がったときには

 エーフィかブラッキーに進化するらしいんだ。

 そのトレーナーはどうやらエーフィに進化させようと思ってたらしいんだけど、

 いくら可愛がっても、

 強く育てても全然進化してくれる様子じゃなかったらしいんだ。

 それで別のエスパーポケモンと交換してほしいっていうのが
 
 センターの掲示板に書いてあったので

 俺のバネブーと交換してやったってわけ」

そう説明するとヒトシはそれぞれの5匹の写真をポケモン図鑑で見せた。

「ふーん、

 そうなんだ。

 でも、その前飼っていた人って、

 この子のことあんまり可愛がってあげなかったんじゃないの」

図鑑を見ながらナミが尋ねると、

「いや、

 なんだかこのイーブイ自身が

 エーフィにはなりたくないみたいだったらしい。

 普通ならイーブイはどのポケモンにでも

 喜んで進化するそうなんだけど…」

「へ〜、

 あなたってよっぽどいじっぱりやさんなんですね〜」

ナミは腕の中のイーブイに話し掛けるように言うと、

ヒトシの図鑑に目をやった。

「エーフィってこれね。

 ピンク色できれいなポケモンね。

 あ、

 私はこのシャワーズがかわいいと思うけどな〜。

 水色で襟巻きなんかもしてとってもおしゃれじゃない。

 ねぇ、

 水の石で今から進化させたらどう?」

とナミは写真を見ながら勝手に意見を言う。

どうやらヒトシの話を聞いているうちに、

このイーブイというポケモンにとても興味がでてきたようであった。

「オイオイ、

 コレは俺のポケモンなんだよ。

 今日はおまえに見せようと思っただけで、

 別におまえの意見を聞こうっていうわけじゃないんだから」

ナミの言葉にヒトシは慌てて言うと、

それに答えるかのようにイーブイもまた少しじたばたをする。

しかし、ナミのイーブイに対する気持ちはいつの間にか大きくなり、

そしてどうしてもきれいな水色のシャワーズに進化さたくなってくると、

「じゃぁ、

 ヒトシは何に進化させるつもり?」

ナミは強い調子で尋ねる。

「実はまだ決めてないんだな〜。

 俺にはもうラグラージがいるから水タイプはいらないし、

 そうかと言って電気も炎も悪タイプのヤツもいるからな。

 だからもう少し考えてから進化させようと思うんだ」

「そうなの…」

ヒトシの返事を聞いたナミは残念がったが、

その時、ふとある考えが浮かび、

「ねぇ、

 だったらこの子と私がもっている他のタイプのポケモンと交換しない?」

とナミは尋ねた。

「まだジムの経験は無いけど、

 すごくかわいがって育ててるんだし、

 バトルだってちゃんとできるんだから」

「いや、

 いきなりそんなこと言われても…」

急なナミの申し出にヒトシはたじろぎながら断ろうとすると、

「ねぇ、

 お願い。

 この子私にちょうだい。

 私のポケモンなら、

 どの子とでも交換してもいいから」

と言うナミの頭の中は、

いまこの腕の中にいるイーブイのことでいっぱいになってしまっていた。

「分かった、

 分かった。

 それならとにかくナミのポケモン見せてくれよ」

ヒナミの気迫におされたようにヒトシは承諾すると、

ちょうど預けたポケモンの回復が終わるチャイムが鳴り響いた。

「さぁ、

 どの子でもいいわよ」

すぐにナミは自分の連れている6匹のポケモンをヒトシに見せると、

「え?

 もしかしてコイツでもいいのかい?」

ヒトシはその中にきのこポケモンのキノガッサを見つけるとナミに尋ねた。

草・格闘タイプのキノガッサは今の彼のメンバーに入れるのにはうってつけで、

見た感じちゃんと育てられている感じだったが、

ナミが初めて自分で捕まえたポケモンであることも知っていたからだった。

「えぇ、

 もちろん」

「本当にいいのか?」

「なによ、

 しつこいわね。

 早く交換してよ」

ナミにとっては何よりも早くイーブイを自分のものにしたかったのだ。

ヒトシは少し肩をすくめると2匹をボールに戻し、

パソコンでポケモン交換の手続きをした。

「終わったぞ。

 はい、

 イーブイ」

そう言いながらヒトシがポケモンの入ったボールを差し出すと、

ナミはそれを奪うようにして取って

「こんにちは、

 イーブイちゃん。

 私がかわいく進化させてあげますからね〜」

とボールの中のポケモンに話し掛けるように言うと、

さっさとポケモンセンターを出て行ってしまった。


「シャワーズに進化させるためには、

 水の石ってアイテムが必要なのね」

ナミがいつも行くフレンドリィショップでは水の石は取り扱っていないので、

通信販売でデパートから取り寄せることになった。

そして、自分の部屋のノート型パソコンで早速注文をした翌日の朝、

デパートから水の石が届いた。

待ちきれないような素振りでナミがデパートの箱を開けると、

そこには石が入っている木箱と、

その使用説明書が入っていた。

「えっと、

 ポケモンをモンスターボールから出して、

 石を持ってポケモンに近づければいいのね。

 注意点は、

 進化するとポケモンの大きさや重さが変わるから

 屋外で使う事と……」

ナミは木箱の周りのテープを外しながら、

付いてきた説明書に目を通す。

「……石が光りだして進化が始まってからは

 むやみにポケモンに触らないことね。

 そうよね、

 進化の途中で邪魔なんかされたらポケモンも迷惑だもんね」

自分で納得しながら木箱を開けると、

中には握りこぶし大の水色の石が入っていた。


「へぇ…

 これが水の石…、

 きれい…」

初めて見る水の石にナミは驚きながらその石を取り出すと、

日の光にかざしてみた。

朝の日差しを浴びた半透明の石はキラキラと輝き、

石な中には雫のような模様が浮き上がって見える。

「“この石から出る放射線とポケモンの細胞とが反応して

 大きなエネルギーが生まれ、

 そのエネルギーでポケモンが進化する”かぁ…。

 ホント不思議な石ね」

そう言うとナミは、

水の石と説明書をウエストポーチに入れ、

腰にいつものようにモンスターボールを6つつけて部屋を出た。


ナミが向かったのはいま彼女が住んでいる所の裏にある森の奥深く、

人知れずある小さな原っぱ、

彼女の見つけたひみつの場所である。

だれも来ないので、

毎日ポケモンとトレーニングをしている場所であり、

密かに木の実を育てているのもここの一角であった。

ナミは腰につけている一番端のボールを手に持ち原っぱに向かって投げると、

中から昨日ヒトシと交換したイーブイが飛び出した。

そのポケモンは地面に降りると、

昨日と同じように茶色い目で彼女を強く見つめた。

ナミは自分のポケモン図鑑を取り出すと、

改めてそのイーブイのことを詳しく調べてみた。

“イーブイ。

しんかポケモン。

タイプ:ノーマル。

性別:オス。

性格:いじっぱり…”

「ポケモン図鑑でも性格はいじっぱりだって…。

 あなたよっぽど気が強いのね」

そう話し掛けると、

イーブイは小さく「ブイ!」と鳴いた。

「さぁ、

 今日は特別な日よ。

 あなたは超かわいく進化するんだから」

そう言いながらナミはポーチの中から水の石を取り出すと、

それを見たイーブイは少し身構えるような体制になった。

「これであなたはシャワーズに進化するのよ。

 エーフィはいやだったみたいだけど、

 シャワーズならあなただってOKでしょ」

そう言うとナミは手に水の石を持ち、

イーブイに近づける。

すると、イーブイは1歩2歩あとずさりしたが、

それでもナミが近づくと目をつむってじっとした。

「いい子ね。

 すぐに進化させてあげるからね」

そう言い聞かせナミが水の石をイーブイに近づけると、

ポケモンに反応してか石が鮮やかに光り始めた。

そして水の石から帯状の光が何本か出てくると、

目の前のイーブイを囲んだ。

光の帯びが包むようにイーブイの周囲を包むと

細胞の変化が始まったか、

イーブイの体はぼんやりと水色に光りはじめた。

しかし、当のイーブイは目を瞑り、

何かに耐えているような表情であったが、

ナミは光の美しさに見とれ、

そして新たなポケモンの進化に胸躍らせており

そんなことには全く気が付かなかった。


説明書によるとポケモンが光り始めるとすぐに進化が始まり、

変化が見られるそうである。

しかし、イーブイが水色に光はじめてからもう1分ぐらい経つが、

一向に進化する気配が見られなかった。


「おかしいな〜。

 はやくかわいいシャワーズちゃんになってよ〜」

そう言いながらナミは持っていた水の石をイーブイにもっと近づける…

その時であった。

光の中にいるイーブイの目が開いたかとおもうと、

突然ナミに向かって飛びついてきた。

ナミはとっさに受け止めようとしたが、

予想以上の衝撃を胸にうけバランスをくずし、

手に持っていた石を落として地面に仰向けに倒れてしまった。

下が芝生だったおかげで痛みも感じず、

お腹の上からイーブイがピョンと地面に飛び降りるのを感じると

ナミはゆっくりと目を開けた。

芝生の上に落ちた水の石はまだ光っており、

そこから光の帯も四方に出ていた。

しかし、その向こうに見えるのイーブイは、

元の茶色の毛並みに戻っており、

少し離れた場所から彼女をじっと見ていたのであった。


「いったい何なのよ…」

と思って石に手を伸ばした時である、

ナミは自分の右手がうっすらと青く光っているのに気が付いた。

それは石から出ている光が手に当たっているのではなく、

明らかに腕自体が光を放っているのであった。

しかも石から出ている光は目の前のイーブイではなく、

自分自身のに降り注いでいるようであった。

「え?」

ナミはびっくりして起き上がってよく見ると、

彼女の足、

腕、

くび、

体全体が光っており、

それもどんどん強く光っていくようであった。

それと同時にナミは今まで感じたことの無い不思議な感覚、

体の細胞一つ一つが体の中で離れていく、

浮き上がっていく、

そんな感覚を体全体から感じていた。

「何なの、

 これ…」

何がおこっているのか分からず

ナミは両手で自分の腕を抱き小刻みに震えていたが、

その間も体からの光がどんどん強くなっていった。

そして、その光が水の石と同じくらいの強さになった時である、

ナミはそれまで浮いていると感じていた細胞が突然動き始めたような気がした。

いや、気がしただけでなく、

実際に体が勝手に動いているようで頭は揺れ、

体はしびれたようにいうことを聞かなくなり、

ナミはまた地面に倒れこんだ。

そして混濁する彼女の頭の中に、

昨日ヒトシの図鑑で見た1匹のポケモンの姿が浮かんだ。


最初にナミが感じた変化は、

自慢の長い髪の毛が全て抜け落ちることであった。

そして肌から油のような液体が噴き出したと思うとそれは肌を覆い、

全身しわ一つないすべすべとした皮膚が形成された。

お尻から何か大きな物が突き出てくる強い力を感じると、

ソレは穿いていたスパッツを突き破り、

周りの皮膚や肉などを引っぱっていくようにどんどん大きくなっていき、

先が分かれたと思うと魚のしっぽのような形になった。

それにつられるように腰も胸部も細く円くなり、

首からしっぽまでなだらかな流線型を描くようになった。

そうしている間にも手足は短く、

逆にかかとからつま先とも間は長くなり、

完全な獣の4つ足となっていた。

そして首の間から十数本の筋が生えてきたと思うと立派な襟巻きに、

耳も尖がっていき頭の上に生えてきた筋と共に魚のヒレのようなものが形成された。

ナミはその間、

体が変化するすさまじい感覚から言葉にならない声をあげていたが、

顔の骨がでっぱり、

鼻が尖って上唇が2つに割れると、

それは甲高い動物の鳴き声に変わっていた。


彼女の体が光りだしてから数分後、

光がおさまるとそこにはぶかぶかの服にくるまれ、

しっぽの先に黒いスパッツの切れ端をぶら下げた

1匹のシャワーズの姿があった。

しばらくして

横でずっとその「進化」を見守っていたポケモンが彼女に寄ってきた。

そして1声「ブイ!」と鳴いた。

その声で彼女ははっと気が付いた。

『オイ、

 起きろ!』

と言われた気がしたからである。

草の上に寝そべったまま声のした方に何とか目をやると、

そこにあのイーブイがいた。

だが、

彼女がそこに見たものはかわいいイーブイではなかった。

確かに目に映っているのは、

さっき彼女に飛び掛ったイーブイの顔そのものであったが、

彼女にはそれはたくましい青年の顔、

そのように見えた。

『進化は終わったようだな。

 どうだい、

 かわいいシャワーズになった気分は?』

耳に伝わってくるのは昨日から何度も聞いたイーブイの鳴き声だが、

まぎれもなく彼女にはそう聞こえた。

『オレはシャワーズなんかに進化させられないように

 耐えてやるつもりだったが、

 まさかあんたがシャワーズに進化するなんてな…。

 ホントびっくりだよ』

体の形がすっかり変わってしまい動けない彼女の前で、

イーブイが話し始める。

『オレは自分の肉体で闘うのが好きなんだよ。

 水とか泡とかなんか使って闘うシャワーズになんかにされたら、

 オレの一生終わったようなもんなんでね』

そう言うとイーブイは、

落ちている石に顔を近づけてクンクンと臭いを嗅ぐ。

『どうやらその心配ももうなさそうだな。

 言っとくが、

 オレがなるのはブースターだ。

 その熱い肉体で思う存分にオレは闘うのさ』

と言うと今度は、

ナミの前足となってしまった手を覗き込み、

『もうその手ではモンスターボールは投げられそうにないな。

 もうあんたはトレーナーじゃない。

 それじゃあオレはこれからは自由にさせてもらうよ。

 炎の石も見つけたいし、

 これからは食べ物も自分で見つけなきゃならないんでね』

と言い残し森の方に歩きだしてゆく。

それを見たナミは何とかして呼び止めようとしたが声が出ない。

それでも何とか短い鳴き声をあげるとそれは

『待って…』

という言葉として彼女の耳に聞こえた。

彼女は続けて鳴いた。

『待って…、

 待って…、

 どこ…、

 行くの…、

 わたし…、

 どうしたら…』

途切れ途切れに発せられるその言葉は

歩いているイーブイにも伝わったらしく、

振り返ると草の上で彼を見上げるシャワーズに向かって言った。

『そんなこと自分で何とかしな。

 オレもあんたも、

 これからは自分の力で生きていかなくちゃならないんだ。

 とにかく今のうちに動けるようにはなった方がいいな。

 いつまでもそんなトコに居たら、

 そのうち他のポケモンに襲われてしまうぞ』

 そう言うとイーブイは森の中へ入って行ってしまった。


『待って…、

 待って…、

 戻って…、

 行かないで…、

 助けて…、

 お願い…、

 誰か…、

 助けて…』

森の奥深く、人知れずある小さな原っぱに

シャワーズの甲高い鳴き声が響いていた。


つづく…


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