マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.1661] 第4話・金の空 投稿者:都立会   投稿日:2019/09/23(Mon) 20:27:35   4clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

朝日が昇る頃、

ナミはいつもの木のほら穴で目を覚ました。

ナミがシャワーズになってから

もう1週間がたつ。

この1週間、

ナミはポケモンとして必要な事をたくさん学んだ。

物のくわえ方、

天気の読み方、

いろんなにおいの意味、

自然の中でのエサの採り方、

食べるときに注意のいる木の実の種類、

遠くへ行くときの目印のつけ方、

他の野生ポケモン達との付き合い方…。

全ては今は出かけているエナナから教わった事だった。

しかし、

この日ナミはポケモンとして大切なことをまだ

学んでないことに気がつくことになる。


ナミが起き上がって、

ほら穴を出ようとした時である。

突然目の前を茶色い影が通り過ぎた。

ナミは驚いて見てみると、

それはあのイーブイであった。

『よぉ、

 また来たぜ。
 
 どうだい、
 
 少しは強くなったか?』

イーブイは振り向きながら尋ねてきた。

ナミはうつむき加減で横を向いた。

昨日、

ポケモン図鑑で調べた時のナミのレベルは5、

技は相変わらず3つだけであった。

バトルの経験はないが、

この1週間でいろんなことを学んだことによりことにより、

やっと赤ん坊並にまでなったのだった。

『何だ、

 まだか。
 
 まぁまともに動けるようには
 
 なたみたいだな。
 
 はは…、
 
 オレも安心したよ』

その言葉にナミはカチンときた。

『何よ、かまわないでよ。
 
 私はあなたのせいでこんなに苦労してるんだから』
 
ナミはイーブイをキッとにらみつけて言った。

『それはお互い様だろ。

 それにあんたがそうなったのは、
 
 オレがあんなに嫌がってるのに
 
 無理やりシャワーズに進化させようとしたせいじゃないか』
 
『何言ってるのよ。

 それってあなたの勝手な好みでしょ。
 
 私を見てよ。
 
 そんなことなんかで、
 
 私はこんな姿にされて、
 
 すっごく怖い思いもいっぱいして…、
 
 全部あなたのせいよ』
 
ナミは怒りで震えた声で言った。

目に涙をためて、

ナミは今まで心の中にためていた感情を

目の前のポケモンに全てぶちまけた。

その時、イーブイの表情が一瞬くもった…ように見えた。

『え?』

そのことにナミは気づくと、

『勝手な好み…ね。

 でも、
 
 そんなこといわれても、
 
 オレにはどうすることもできないな』
 
とイーブイは顔をそらして言い、

そのまま森の方へと体を向けると、

『それより、

 早く強くなれよ。
 
 でないとこの野生世界では
 
 まともに暮らせないからな』
 
と言い残し、

とぼとぼと森の中へ歩いていった。


ナミはしばらくイーブイが歩いていった方を

睨んでいたが、

『ふぅ』とため息をつくと

草の上に腹ばいになった。

今まで心の中にしまっていた感情を思いっきり出して、

力が抜けてしまったのである。

思えばあの日以来、

こんなに感情が高ぶった事はなかった。

今日までシャワーズとして生きるのに必死で、

怒ることすらも忘れていた。

『でも、

 確かに強くなければ生きられないわ』

気持ちは落ち着くとナミは改めてそう思った。

自分がポケモンとして生きていくためには

バトルに強くなることは必要だという事は間違いなかった。

ポケモンが強くなるには実際に他のポケモンとバトルし、

経験をつんでいくのが一番であることは、

無論、ナミも知っていた。

しかし

ナミはやっと赤ん坊レベルにまで成長したところである。

その辺のポケモンにバトルを申し込んでも全くかなわない事も

十分に分かっていた。

『どうしたらいいのかな…』

ナミは考えた。

いま自分に出来る事を必死で考えた。

ポケモンになって以来、

動作はシャワーズの体に備わっている力に頼っていたので

こんなに頭を使うのも初めてだったが、

幸い頭は人間だった時と同じようにちゃんと働いた。

考えた結果、

いまナミがやる事は2つ。

体を強くする事と、

使える技を増やす事。

技に関してはすぐ思い当たることがあった。

『そうだ、

 まだアレがあったはず』
 
そう思うと、

ナミは自分が寝ていた木に戻った。

ほら穴の奥には、

ナミがシャワーズになった時に身に付けていた物、

破れた服、

履いていた靴、

ポケモン図鑑、

そしてウエストポーチなどが置いてあった。

みんなナミが進化した次の日の朝に

エナナが集めてくれたものを、

大切にしまっておいたのである。

『えっと、

 どこに入れたっけな〜』
 
ナミはウエストポーチの左端のファスナーを口で開けると、

中からCDのようなディスクがたくさん入ったケースを出した。

ケースには“わざマシン”の文字があった。

ポケモントレーナーの必須アイテムの1つ、

“わざマシン”

ポケモンは強くなる過程で自然に新しい技を覚えるが、

普通は覚えない技を好きな時にポケモンに教えることができる道具、

それがわざマシンである。

トレーナーとして旅をしていると、

色んな場所で手に入れることができる。

しかし旅に必要な秘伝マシン以外は1回しか使えないとの貴重性から、

ナミはもったいなくてまだ使ったことがなかった。

『私、

 どれを覚えられるんだろ…』

シャワーズは水ポケモンである。

当然水タイプの技が使える。

そう思ってナミは持っている30枚ほどの

ディスクを順に見ていったが、

なかなか水タイプの技が見つからない。

もしかして持ってないのかとナミは思ったが、

最後の方でようやく

2枚のディスクが見つかった。

秘伝マシンの3番“なみのり”と8番“ダイビング”

共にトレーナーの旅に欠かせない技なので

何回でも使えるようになっているが、

それを使うのが許可されるだけのバッジを持ってないナミには

今まで必要のないものだった。

『よし、

 これを覚えてみよう。
 
 使い方は確か、
 
 ポケモンの頭の上にのせるんだったけ…』
 
使い方を思い出しながらナミは

“なみのり”のディスクを傷つけないように

そっと前足ではさんで取り出すと、

頭の上にのせた。

頭に置いたとたん、

ディスクは鉄につけた磁石のように

しっかりとナミの頭に張り付き、

ディスクから頭の中に直接叩き込まれるようにして

情報が流れ込んできた。

体の動きから力の入れ方、

使う場所によるやり方の違い、

使うときに気をつけることまで

どんどん頭の中に入ってきた。

それはナミが一生かかっても、

思いつかないことばかりだった。

そしてだいたい分かってきたとナミが思った時、

ディスクは頭の上からポロッととれ地面に落ちた。

ナミは頭の中に入った情報の内容に驚きを隠せなかった。

『そんなこと、

 本当に私出来るの?』

ナミはシャワーズになってから、

何度も思った事を口にした。

いくらなんでも想像をはるかに越えていたからだった。

しかし、そう思うことほど、

今まで出来てきたのである。

『よし、やってみよう』

とナミは決心すると

ほら穴から出て、

隣の木の前に行った。

『水の無い所ではまず、

 波ができるほどの水を作るのね。』

ナミが一生かかっても思いつかない事、

その1である。

ナミは全身に力を入れると、

体全体から水が噴き出し、

ナミの周りに貯まりだした。

同時に空気中の湿気も凝縮させると

水はどんどん量を増していき、

一瞬で彼女の周りにはちょっとした池ができた。

『まったく、

 ポケモンの体って
 
 いったいどうなってるのかしら。
 
 自分でも分からないわ…
 
 えっと、
 
 これから波をおこすのね』

ナミはそう呟き今度は精神を集中させ、

周りの水を前に持っていくようイメージした。

すると見事に池の後方から波が押し寄せ、

ナミの体の下を通過したと思うと、

目の前の木にバッシャーンと押し寄せた。

『すごい…。
 
 私にこんなことができるなんて…』
 
今までポケモンが技を繰り出すところは何度も見てきたが、

それを見るのと自分でやるのとはまさしく大違いである。

水はすぐに蒸発したが、

ナミは何度もやってみた。

技は毎回成功し、

目の前の木を大きく揺らした。

『なみのりは

 これでもういいわね。

 次はダイビングね』

ナミはまたディスクを頭にのせ“ダイビング”を覚えると、

すぐにまた使ってみた。

今度の標的は木の前にある小石である。

さっきのように小さな池を作ると、

ナミはその中に思い切って飛び込んでみた。

浅いと思われたその池の水はナミが飛び込んだ瞬間、

彼女の体の周りを取り囲み、

地面を削るように流れ始めた。

そしてナミはその水と共に土の中を進んだ後、

水ごと地面から飛び出し、

小石の真下から跳ね飛ばした。

ナミはまさか自分が地面の中を移動する日が来るとは

思ってもみなかったのでとても興奮した。

ナミはまた何度もやってみた。

十回近くもやると、

小石はこなごなに砕けてしまった。

それを見てナミはするべき事を思い出した。

『そうだった、

 遊んでる場合じゃないわ。
 
 他に覚えられる技を調べないと…。
 
 でもどうやって?
 
 体も鍛えないといけないし…』

ナミはまた考えた。

エナナが帰ってきたら聞こうかとも思った。

しかしエナナもシャワーズが

どの技マシンを使えるかは知らないはずだし、

何よりこの問題は自分自身で解決したかった。

しばらく考えた結果、

ナミはある結論に達した。

それは今の自分にとって

ここでの訓練以上に厳しい冒険だった。

『でもやるしかない。

 私にできることはこれしかないわ』

そう思うとナミはいつも寝ているほら穴のある木に戻った。

“出かけてくる。

 しばらくしたら戻ってくる。

  エナナ”

というエナナが残した印が入り口の横にあった。

ナミはその上から自分の印をつけた。

“出かけてきます。

 必ず戻ってきます。
 
  ナミ”


ナミはポケモン図鑑を入れたウエストポーチを

何とか体に巻きつけると森に入り。

そして獣道を通って町の方へと歩いていった。

今まで原っぱに行くときに何度も通った所だが、

ポケモンになって初めて一人で歩くナミはとても怖かった。

高い森の木が日の光を遮っているので薄暗く、

いつ何が出てきてもおかしくはない。

それでもナミは心細いのをぐっと我慢して、

前へ進んでいった。

しばらくすると森をぬけ、

道路脇に出た。

ナミはほっとして道に出ようとしたが、

急に何かの気配を感じて茂みに低く隠れた。

来たのは1人のトレーナーだった。

ナミはそれを見て、

言い知れぬ恐怖を感じた。

1週間前は自分もそうだった、

人間という存在。

今のナミから見れば、

それは巨大な怪物そのものだった。

そうだ、

今の自分にとって人間は、

自分を捕まえようとしている怪物なんだ。

もし見つかって捕まったら、

もう帰って来られない。

絶対見つかるわけにはいかない。

ナミはそう思うと、

トレーナーが見えなくなるのを待って道路に出て

町に向かって道路わきを走り出した。


久しぶりに見る町の風景は、

すっかり変わってしまっていた。

ナミが前に来たのが1週間前なので

町自体は全く変わっているはずはないのだが、

ナミはまるで異世界に迷い込んだかのように思えた。

巨大な建物、

自分の背丈の何倍もある大きなドア、

ものすごい勢いで走る車、

行き交う人間たち…。

何もかもがナミの知っているものではなくなってしまっていた。

そんな町の裏をナミは茂みに隠れるようにして進んでいった。

やっとのことでナミは目的の場所にたどり着いた。

それはナミが1週間前まで住んでいた場所、

白い小さなマンションである。

ナミは回りに人間がいないことを確認して、

マンションの中に入っていた。

彼女の部屋は3階。

エレベーターのボタンには届かないので

ナミは階段を1段1段上っていった。

途中で人間が上から降りてきたが、

ナミはご主人様を待つポケモンのふりをしてうまくかわした。

人間の方もウエストポーチを巻いたシャワーズを

別に気にはしなかったようだった。

ようやくナミは3階の真中にある

自分の部屋の前にたどり着いた。

ウエストポーチからカギを取り出すと、

ナミは回りにだれの気配も感じないことを再度確認した。

口にカギをくわえて鍵穴に差し込み、

首ごとひねるとカギが開いた。

念のためカギを抜いてから

ドアの取っ手に前足をかけて

ぶら下がるようにするとドアが開いた。

ドアが丸ノブでなくて良かったと思いながら、

ナミは1週間ぶりに自分の部屋に入った。

そこはうす暗い迷宮だった。

入るとまずやわらかい靴があり、

その先には段差があった。

キッチンの横を通り過ぎ、

少しホコリのたまった木の床の上を奥へと歩いていくと、

ベッドから落ちかけた布団が行く手を遮っていた。

それを何とか乗り越えると

今度はカーペットの上にデパートの箱が立ちはだかっていた。

それを体で押してどけ、

ようやく窓までたどり着くと、

ナミは重いカーテンを引っ張って、

外の光を部屋の中に招きいれた。

昼の光が暗い迷宮を白い壁をした部屋へと変えた。

そこもやはり別世界だった。

全てのものが大きくなっており、

シャワーズになったナミを見下していた。

『私、

 やっと帰ってこれたのね…』

それでもナミは胸がジンと熱くなった。

しかし、

感傷に浸るのは後である。

ウエストポーチを下ろすと

ナミは部屋の端にある本棚に歩み寄った。

そしてその一番下の段、

ナミがあまり読まない本を入れてある所の

ガラスのふたを開けると、

中から一冊の本を取り出した。

“トレーナーのためのポケモン大辞典 全国版”

トレーナーになった時、

親が買ってくれた、

いわばトレーナーの参考書だが、

この分厚い本をナミは面倒くさくて

1度も読んだことが無かった。

ポケモンは一緒にいれば自然に育つ、

それが自分のモットー…などと言っていたが、

今はそんな事言っている場合ではない。

まずナミはシャワーズのページを開いてみた。

“イーブイの進化形の一つ。

特攻が高いので特殊攻撃が得意だが、

物理攻撃は苦手。

新たな技を覚えさせるのなら

特殊攻撃にするのがオススメである。

またレベルアップによって変わった技を覚える。”

とあった。

そしてその下にはシャワーズが覚える技、

使える技マシンが載っていた。

『私こんなにいっぱい

 技を覚えられるんだ。
 
 えっと、
 
 私は特殊攻撃が得意なのね。
 
 私が持っているもので特殊攻撃の技は…』

とリストを見ていったが、

『…え?

 ウソ、

 1つも無いの?』

と愕然とした。

今ナミが覚えている技以外で、

シャワーズが技マシンで覚えられる特殊攻撃は

“みずのはどう”、

“れいとうビーム”、

“ふぶき”、

“たきのぼり”の4種類。

どれも威力の高い技である。

この中で時に覚えておきたいのは、

“れいとうビーム”と“ふぶき”、

ナミがまだ使えない氷タイプの技である。

しかし、

ナミの技マシンのケースの中には、

どの技のディスクも入っていなかった。

『う〜ん、まいったな〜。
 
 とりあえず持ってる中で
 
 良さそうな技を覚えとこぉっと…』

そう言うとナミはディスクを2枚取り出した。

バトル中に体力を回復のための技、

44番“ねむる”、

それと状態異常技として洒落でお色気技の

45番“メロメロ”を覚えた。

とりあえず、

これで攻撃技はたいあたりと水タイプの技が2つ、

そして補助系の技が一通り使えるようにはなった。

次にナミは“強いポケモン育成法”のページを開いた。

ポケモンを強くする一番の方法は

バトルすること…、

というお決まりの文章に続き、

その他の方法の項目を見つけた。

“ポケモンのレベルは経験をつむと上がるが、

 「ふしぎなあめ」を食べさせると

 無条件で1つレベルをあげることができる”

“ポケモンに与えると能力が上がる道具がある。

 「マックスアップ」で体力、

 「タウリンで」攻撃力、

 「ブロムヘキシン」で防御力、

 「リゾチウム」で特殊攻撃力、

 「キトサン」で特殊防御力、

 「インドメタシン」で素早さがそれぞれ上がる。

 1匹のポケモンに使えるのは1種類につき最高10回まで。”

『あった…』

ナミは歓喜した。

これこそナミが探していた、

バトル以外で強くなる方法だった。

“ふしぎなあめ”は

確か物入れにしまってあったが、

その他の道具は持って無いので今から手に入れるしかない。

これらの道具は確かデパートで売っていたはずであった。

まさか買いに行くわけにもいかないので、

パソコンでの通信販売を使うことにした。

前に水の石を取り寄せた時に使ったことがあるので、

注文は簡単だった。

商品一覧で探していると、

デパートではわざマシンも

いくつか取り扱っているのを見つけた。

その中には14番“ふぶき”もあった。

もちろんこれも早速注文した。

合計金額593,500円ナリ。

高い買い物だったが、

貯金があったのでどうにか買えた。

届くのは明日の朝である。

ナミは次にベッドの横のもの入れを開け、

中からビニール袋を取り出した。

開けてみると

中には“ふしぎなあめ”が10個入っていた。

わざマシンと同じく、

“ふしぎなあめ”も行く先々でもらえる貴重なアイテムである。

ナミはずっと大切にしまっておいたのだが、

今こそこれを使う時である。

ナミは1つ食べてみた。

味は普通の飴に似ていたが、

飲み込こむと体が少し

大きくなるような気がした。

ナミはおやつ代わりというわけでもなかったが、

10個全部食べた。
 


やる事が全部終わったので、

ナミは他のことについて調べる事にした。

まずは自分のこと。

一番気になっていたのは図鑑で調べたとき性格が

“おだやか”

であったことである。

『なるほどね。

 “おだやか”は、
 
 特殊防御が高くて物理攻撃技が苦手。
 
 そして“かしこさ”が高いかぁ。
 
 人間の賢さをもっていて、
 
 ポケモンになりたての私はこうなるのね。
 
 ホントに図鑑って正確ね』

とあのイーブイがいつか言っていた言葉をつぶやいた。

その時、

ナミは表の一番端の欄に目が行った。

“性格:いじっぱり。

 物理攻撃が得意で
 
 特殊攻撃が苦手。”

『これって、

 確かあのイーブイの性格よね。
 
 シャワーズの能力と、
 
 全く正反対だわ』
 
特殊攻撃が得意で物理攻撃が苦手のシャワーズと、

その全く反対の性格“いじっぱり”。

それを調べてみると、

エーフィもシャワーズと同じだった。

もしあのイーブイがシャワーズやエーフィになっていたら

どうなったのだろうか、

ナミは考えた。

多分どっちの攻撃技も苦手になってしまうのではないか。

得意な攻撃技が無いということは

ポケモンにとって正に死活問題である。

“シャワーズになんかにされたらオレの一生終わったようなもの”

…あのイーブイはそう言っていた。

彼はこのことを知っていたのだろうか。

何かで読んだか誰かに教えてもらっていたのだろうか…。

いや、

多分彼は生まれつきの本能というものでこの事をわかっていたのだろう。

自分は物理攻撃が苦手なポケモンになれない、

なってはいけないことを…。

ナミはしばらく黙ってその事を考えていたが、

急にパソコンに向かうとデパートの注文票に道具を1つつけ加えた。


その日ナミは自分の部屋に泊まることにした。

幸い冷蔵庫は自分で開けることができ、

いくつか食べ物も入っていた。

とりあえず中にあるものを食べていたが、

味は以前のようには感じるが、

スパゲティもハンバーグもプリンも

ナミの口にはあまり合わなかった。

これならエナナがとってくれる木の実の方が

よっぽど美味しいとナミは思った。

中の物を一通り食べ終えたが

何かもの足りなさをナミは感じた。

『そうだわ。

 あれなら口に合うかも』
 
そう思いつくとナミは戸棚から1つの袋を取り出した。

袋には

“ポケモンフーズ”

と書いていた。

トレーナーのポケモンの主食である

これなら美味しいかも、

そう考えてナミはいつかじってみた。

木の実に比べるとまあまあだが、

他のよりはこっちのほうが断然口に合った。

量は他のものでもうとっていたので、

ナミは1つ食べると満足することができた。


ナミはベッドの上に座り、

窓から見える夕焼けを眺めていた。

空一面、

金色に染まっている。

夕日が笠を被っているという事は今夜は雨だろうか。

ポケモンになって1週間、

やっと自分の場所に帰ってこられた、

彼女はそう感じていた。

シャワーズになって以来、

初めてゆっくりできた。

思えばエナナとトレーニングしている時はもちろん、

食べている時も、

寝ている時も、

気の抜ける時は1秒たりとも無かった。

やっと落ち着いてこれからのことを考えることができた。

ナミはここでまたずっと、

以前のような生活がしたかった。

気が向いた時に起きて食べて、

外へ出かけ、

自分のポケモン達と遊び、

好きな事をして過ごす毎日…。

彼女はそんな生活が懐かしかった。

しかし、

この場所ももう、

彼女を受け入れてくれないことも、

ナミはよく分かっていた。

手の届かない電気のスイッチ、

重くて開けられないたんす、

ひねる事の出来ない水道の蛇口、

着る必要のなくなった洋服…。

ここで生活するのは、

今のナミにはとてもムリな話だった。

自分が住まない以上、

ここもこのままにしておくわけには

いかなかった。

数週間以内にはあけ渡さないといけないだろう。

部屋にある荷物は親に取りにきてもらうしかない。

その時両親はどんな思いをするのだろうか。

ナミは悩んだ。

自分の娘が急にいなくなって、

とても心配するだろう、

悲しむだろう。

できればそうはさせたくはない。

とナミは考えた。

そして口にペンをくわえて

何度も書き直しながら

一枚の置き手紙を書き上げた。

そしてそれが終わると

ベッドの上に横になり、

安心してスヤスヤと眠りだした。


“お父さん、お母さんへ

 私はまたトレーナーとして旅をすることにしました。
 
 急な出発だったので連絡できなくてゴメンナサイ。
 
 こっちに帰って来られるのはいつになるか分かりませんが、
 
 頼れる仲間がいつもいっしょなので心配しないで下さい。
 
 いるものだけ持っていくので、
 
 残していった物は家に運んでおいてください。
 
 落ち着いたらまたメールで連絡します。
 
 ナミ”


つづく


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