マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
このフォームからは投稿できません。
name
e-mail
url
subject
comment

[新規順タイトル表示] [ツリー表示] [新着順記事] [留意事項] [ワード検索] [過去ログ] [管理用]

  [No.1663] 第6話・白い床 投稿者:都立会   投稿日:2019/09/23(Mon) 20:30:21   7clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

木陰で十分休んだナミはウエストポーチを背負うと道の脇を歩きはじめる。

もうトレーナーに出会っても捕まる心配はないが、

また野生と勘違いされてバトルを挑まれるのはやっぱり面倒であった。

道沿いにしばらく歩くとナミは森へと行き先を変え、

ガザッ

森の中へと入っていった。

そして、あの原っぱへと続く獣道を歩いていく。

時刻は昼を過ぎたころだが、

森の中は今日も薄暗い。

しかし、

ナミはもう怖くはなかった。

時々見かける虫ポケモンに軽く会釈しながら、

ナミはいつもの原っぱを目指した。

しばらく行くと森の先に明るい光が差し込んでいるのが見えた。

ナミは走ってその光の中に出た。

青い空の下、

原っぱの草は今日も青々と茂り、

実のなる木も新たな実をつけていた。

そして、

『ただいま!

 エナナ』

そうナミが声を上げた先、

そう、ナミが寝ていた木の前でエナナは待っていた。

エナナはナミに気づくと立ち上がって近づいてきて、

『ナミ、

 どこ行ってたんだい』
 
といつもの綺麗な優しい声で話し掛けてくる。

『昨日から急にいなくなったんで、

 誰かに連れてかれたかと心配したよ。
 
 今日からは……』

そこまで言って、

エナナは急に言葉を切った。

『どうしたの、

 エナナ』

と尋ねるナミをエナナはじっと見つめると、

さらに近づいてナミの体をクンクンとかぎ始めた。

『……そういうことかい』

エナナはつぶやくと、

後ろを向いて黙ってしまった。

ナミが呼びかけても返事をせず、

何かじっと考えているようだった。

草をなでる風の音だけがサラサラと聞こえて来る。

しばらくしてエナナは口を開いた。

『よし。

 ナミ、
 
 勝負だ』

後ろを向いたままエナナは突然ナミに勝負を申し込む。

『エッ!

 何?

 エナナ?』

エナナにその理由を聞こうとしたナミだったが、

だが、エナナはそれには答えずナミに向かって突進して来る。

『ちょちょっと、

 きゃっ!』

突っ込んでくるエナナをナミはとっさに避けるが、

エナナは4つの足を地面にふんばって止まると、

ナミの方に向きなおした。

『いきなり、

 どうしたのエナナ!』

突然の攻撃にナミは戸惑い、

再び尋ねるが、

『ナミっ

 その背中の荷物を置きなさい。
 
 ナミとあたし、
 
 1対1のバトルだよ』

とエナナは真剣な目で言う。

それはグラエナ本来の獰猛な顔つきだった。

『エナナ、

 いきなりバトルだなんて。
 
 せっかく帰ってきた所なんだから、
 
 もう少し……』

『いいから、

 さっさと置きな!』

当惑するナミをエナナは一喝すると、

『うっ』

その言葉にナミは気圧され、

ウエストポーチを置きに木のほら穴に歩いていった。

暖かく迎えてくれると思ったエナナにバトルを申し込まれて、

ナミは困惑していた。

自分はもうバトルが出来るのは実証されたが、

今まで面倒を見てくれたエナナと闘うとなると、

やはり後ろめたさを感じた。

しかし、

バトルを申し込まれた以上、やるしかない。

“バトルはポケモン同士の挨拶みたいなもの”

というイーブイの言葉をナミは思い出した。

そうだこれは挨拶なのだ。

ナミがポケモンとして自分の力で闘えること、

それをエナナに伝えるために、

ナミはポーチを置くと、

意を決っしてほら穴を出た。

原っぱの真ん中にエナナはいた。

ナミはそれに正面から向き合う形で立ち止まった。

『あんたが自分で

 強くなるためにいなくなっていたとは、

 正直驚いたよ』

ナミを見据えながらエナナは言う。

彼女の気迫がナミにビンビン伝わってくる。

ナミの胸も高鳴っていた。

『あんたのその強さ。

 あたしに見せてくれ。
 
 いいか手加減はするな。
 
 全力でかかってきなさい』

その言葉にナミは黙ってコクリとうなずいた。

エナナは本気だ。

真正面に対峙するとそれがよく分かった。

エナナのレベルは30をこえているはずであった。

今のナミのほぼ2倍である。

本気を出しても勝てないかもしれない。

だが、

今はやるしかない。

『よろしくお願いします。

 それでは、
 
 いきます』
 
ナミは1呼吸置いて、

エナナに向かって走り出した。

そして“たいあたり”。

だがエナナはひらりとかわした。

さすがに早い。

避けたエナナはまたじっと原っぱの真ん中で

ナミが来るのを待っている。

ナミは体制を立て直し、

もう一度エナナに“たいあたり”を行う。

今度はなんとか当たった、

と言うよりもエナナが動かなかったために

当てる事が出来た。

が、

そう思ったとき、

ナミの横腹にエナナの“かみつく”が決まった。

『どうした。

 そんなもんじゃないだろ。
 
 本気で攻撃してこないか』

そう言うエナナの牙が、

ナミのお腹に食い込む。

ナミはしっぽをふって何とか振り払い、

すかさず間合いをあけた。

エナナにかまれた横腹はまだ痛い。

『あんたの“たいあたり”なんて、

 私には利かないよ。
 
 あんたの体からは、
 
 水のにおいがするじゃないか。
 
 もっと水ポケモンらしい
 
 技があるんだろ、
 
 それでかかってきなさい』

ナミに向かってエナナは言う。

その時ナミの心の中で何かが吹っ切れた。

そうだ、

エナナは見たがっているんだ。

自分がこの2日何をしていたのか。

気を使ってたいあたりなんか使っている場合ではない。

本当の力を見せるんだ。

自分に生きていく事を教えてくれたエナナに最高の挨拶、

そしてお礼をするために。

ナミは“なみのり”を使った。

波が草の上を走り、

エナナに向かって押し寄せる。

エナナは待ってましたとばかりに波に向かって走り、

それを真っ向から受けた。

波がエナナを襲う、

それに耐えるエナナ。

大きな波についに弾き飛ばされたエナナだったが、

空中で横に一回転し、草の上に着地した。

『すごいねぇ。

 こんな技を覚えていたとは。
 
 これであたしもやっと
 
 本気になれるよ』
 
そう言うとエナナはナミに向かって

また突進してきた。

ナミはそれに向かって“みずでっぽう”を撃つ。

エナナはそれを伏せるようにしてかわすと、

ナミの前で方向を変え、

その反動を利用して今度はナミの顔にすなをかけた。

ナミはとっさに目をつむったが、

砂が少し目に入ってしまった。

『さぁ、

 これであんたの目はつぶしたよ。
 
 あたしに攻撃をあてることができるかな』

エナナは挑発してきた。

ナミは相手のエナナを見ようとしたが、

痛くて目を開けてられない。

そのことに気を取られていると、

急にエナナの足音が近づいて着て、

ナミの体が宙を舞った。

ナミに“とっしん”したエナナは、

ナミの周囲を回って、

別の方向から体当たりしてきた。

ナミはかなりのダメージを負いながら、

“みずでっぽう”を放ったが

相手が見えないので当てる事ができない。

その時また足音が聞こえてエナナが迫ってきた。

その時、ナミは気づいた。

エナナは草の上を走っている。

そこには必ず足音が発生する。

シャワーズの優れた耳でこれを聞き取れば、

見えて無くてもエナナの位置は分かるのではないか。

そう思ったナミはじっと足音を聞いた。

まっすぐ自分に向かって走ってくる足音。

方向は首周りのヒレからの感覚からすると…、

右斜め前から。

足音が大きくなってくる。

ナミのところまで

もう少し、

あと少し…。

音が急に大きくなったところで、

ナミは左に跳んだ。

エナナの牙が自分の体をかすめるが分かった。

ナミは振り返りながらその方向に向かって

“みずでっぽう”を発射した。

水が何かに当たる音が聞こえた。

そして何かが草の上を転がり、

そしてすぐに立ち上がる音。

エナナに命中したのだ。

その方向から声がした。

『よし、

 よく当てたねぇ。
 
 だが、
 
 あたしはまだまだ元気だよ』
  
 エナナが立ち上がって
 
また走って来る。

前よりも早い。

こっちに来る。

ナミは“みずでっぽう”を放ったが、

避けられたのが分かった。

そして、

至近距離からエナナの足音とにおい。

ダメよけられないと思った瞬間、

エナナの“とっしん”がヒットした。

ナミの体がまた弾き飛ばされ草の上に落ちる。

大丈夫、

まだやれる。

今度はあの技で勝負しよう。

ナミはそう思うとまた音でエナナの位置をさぐった。

来た、

今度は真正面。

ナミは次の技の準備をした。

そしてエナナに向けて軽く“みずでっぽう”を放った。

エナナが軽く避けるのが分かった。

今である。

ナミは自分が作った水たまりの中に“ダイビング”した。

すぐ上をエナナが通った。

ナミは水の中で目をあけると、

目の中の砂がとれた。

ナミはそのまま地面の中を進み、

エナナの真下から水と共に地上に飛び出した。

ナミの頭がエナナのお腹を突き上げる。

しかしエナナも負けじとナミに噛み付いてくる。

2匹は絡まるようにして草の上に落ちた。


『ゲホッ!ゲホッ!…』

水を飲んだエナナがむせている。

だが、

まだまだ闘えそうだ。

一方、

ナミは目が見えるようにはなったとはいえ、

かなりのダメージである。

『やるねぇ、

 ナミ。
 
 だが、
 
 まだまだだよ』
 
エナナがまた立ち上がった。

またあの強力な“とっしん”を受けたら

もう立ってはいられない。

ナミは強力な攻撃する方法を考えた。

そしてある考えが浮かぶと、

ナミはすぐにやってみることにした。
 
エナナに向かってナミは“なみのり”を出した。

エナナはそれを飛び越すようにして向かって来た。

ナミはエナナのキバをギリギリで避けて

今度は“ふぶき”を出した。

氷タイプの大技だが、

速い相手には命中させにくい。

エナナは避けてまた向かってくる。

これでは遅すぎた。

エナナに向けてナミはもう一度“なみのり”をした。

“ふぶき”を出そうとした時にエナナの体当たりがヒットした。

ナミはダメージをうけながらも“ふぶき”を出したが、

今回も失敗だった。

ナミはやり方を変えることにした。

今度はエナナが来るのを待った。

エナナが突進してくる。

ナミはギリギリまで待った。

エナナの黒い毛並みが目の前まで来た。

精一杯の力でナミはそれを避けようとした。

ガッ!

後ろ足にぶつかったが、

ダメージは軽い。

その瞬間、

作っておいた水でナミは“なみのり”を出した。

エナナの後ろから波が襲う。

エナナは波を振り切ったが、

ナミはすかさず“ふぶき”を吹き付けた。

エナナは避けるようにして横に飛びのき、

急旋回してまたナミに向かって走ってきた時だった。

エナナが急に体制を崩した。

見ると自分の足元の草が

一面氷に包まれている。

ナミの“ふぶき”が“なみのり”の水を凍らせたのだ。

まるでそこにツルツルの真っ白な床ができたようだった。

氷で滑って転びかけているエナナにナミはすかさず

“なみのり”を浴びせた。

足場の悪いエナナは避ける事が出来ずに

大波に呑まれた。

倒れこむエナナを今度は“ふぶき”が襲う。

それにも何とか耐えた時、

エナナの視界からナミの姿が消えた。

ナミが“ダイビング”を使ったのだとエナナは分かった。

だがエナナはその場から動こうとはしなかった。

『はぁ…、はぁ…』

大きく肩で息をしながら、

黙ってナミが仕掛けてくるのを待った。

ふいに地面の氷が割れ、

水が噴出してきた。

そしてその下からナミが飛び出した時、

エナナはそれに向かって“たいあたり”した。

2匹のポケモンが真正面からぶつかった。


エナナの体は衝撃で氷の上を滑っていた。

そして凍ってない草の上で止まると、

彼女は上半身を起こして飛んできた方向を見た。

そこには氷の上に立っている

ナミの姿が見えた。

荒い息のまま、

しっかりと4つの足で立ち、

エナナを見ている。

エナナはそれを見て一瞬微笑んだと思うと、

草の上に倒れ込みそして今度は大声で笑った。

『ははは…、

 合格だ、
 
 合格。
 
 ナミ、
 
 本当に強くなったな。
 
 予想以上だよ』

エナナは草の上で豪快に笑った。

すぐにナミが飛んできた。

『大丈夫?

 エナナ。
 
 すぐにオボンの実を
 
 とってくるから』

そう言って行こうとしたナミのしっぽのヒレを、

エナナは噛むようにして止めた。

『大丈夫だ、

 ナミ。
 
 どおってことない。
 
 それよりも昨日いなくなってからで、
 
 よくそこまで立派に闘えるようになったな。
 
 他のポケモンとバトルしたのは分かったが、
 
 それだけじゃないだろ。
 
 一体何をしたんだ?』

いつもは物静かなエナナがとても饒舌だった。

そんなエナナにナミは昨日イーブイに出会ったところから

自分で森を出たこと、

自分の部屋に行った事、

ふしぎなあめ等の道具を使ったこと、

そして初めてバトルをしてトレーナーに捕まりかけたことまで、

一切何ももらさないように話した。

ナミが話し終わるとエナナは言った。

『よくもまぁ、

 そんなに自分一人で考えて
 
 行動したな。
 
 シャワーズになった時とは
 
 大違いだよ。
 
 そうか、
 
 そんなことしてたのか。
 
 やっぱりあんたらには
 
 頭では勝てないね』

そう言うエナナの顔は本当に嬉しそうだった。

『ホントに大丈夫なの?

 エナナ何か変だよ。』

『心配ないよ、

 ナミさん。
 
 あたしは嬉しいんだよ、
 
 あんたが自分1人で行動できるようになってくれて。
 
 体もそんなに立派になって。
 
 もうあんたは1人前だよ』

改めて聞いたナミにエナナはまた笑って言った。

だがその笑みの中に、

次第に影が出来ていくのをナミは感じた。

『さて、

 バトルについては
 
 今日から教えようと思っていたんだが、
 
 そこまで闘えるなら
 
 あたしが教えなきゃならない事は、
 
 もう何も無いみたいだね』

エナナが腰をあげた。

『これであたしの役目は

 終わったようだ。

 ナミさん、

 お別れだ。

 あたしも野生に帰らせてもらうよ』

あまりにも突然のエナナの言葉に、

ナミはすぐにはその意味が理解できなかった。

『え?

 何?
 
 お別れって…』

『私がナミさんと居るのは

 今日で終わりということだ。
 
 これからはあたしも
 
 1匹の野生ポケモンになるのさ』
 
エナナは森の方に歩いていった。

ナミが慌ててエナナの横に走ってきた。

『待って、

 そんな急にお別れだなんて。
 
 まだ私、
 
 エナナに教えてもらってないこと
 
 沢山あるよ』

『大丈夫だ、

 ナミさん。
 
 これからは自分で
 
 学んでいけばいい。
 
 それにダメなんだよ。
 
 あたしみたいなのがいると、
 
 逆にその邪魔になってしまうんだよ』

歩きながら体を寄せてくるナミにエナナは先を見ながら言う。

『でも私、

 ずっとエナナと一緒にいたい』

ナミの目からは涙がこぼれていた。

それを見たエナナは困った顔をした。

『それがその甘えが禁物だよ、

 ナミ。
 
 もうあんたは自分の力で
 
 生きていけるんだから』

一旦足を止めたエナナが

ナミの顔を見ながら言った。

『でも、

 ひとりじゃ心細いよ…』
 
とナミは震えた声で言う。

『それは心配ないよ。

 あんたのことを思っているのは、
 
 あたしだけじゃない。
 
 少なくともあれ以来、
 
 あんたのことをずっと気にかけていたヤツが1匹いる。
 
 昨日なんかもあんたが居なくなったって知って、
 
 何があったんだって泣きついてきたぐらいだからね。
 
 不器用だがいいヤツだから、
 
 まぁ仲良くしてやってくれ』

そう言いながら原っぱの端まで来た時、

エナナは立ち止まった。

そして薄暗い森の方を向いたまま、

『ナミさん。

 楽しかったよ。
 
 ありがとう』

と言うと、

薄暗い森の中に駆けていった。

ナミは体が固まってしまい、

黙ってエナナを見送ることしか出来なかった。

エナナの姿が森の中に消えた時、

ようやく口が動いた。

『何言ってるのよ。

 それは私のほうだよ。
 
 ありがとう、
 
 エナナ』


つづく…


- 関連一覧ツリー (★ をクリックするとツリー全体を一括表示します)

- 以下のフォームから自分の投稿記事を修正・削除することができます -
処理 記事No 削除キー