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  [No.1665] 第2章 第1話・娘の涙 投稿者:都立会   投稿日:2019/09/23(Mon) 20:33:13   8clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

『それは本当なのかい?』

枝の上に居るオオスバメに、

黒い毛並みのポケモンが尋ねた。

『えぇ、本当よ。

 ウチらだって毎年必ず寄って、

 旅についての情報を教えてもらうんだから。

 あの方は何でもご存知よ』

旅の途中のオオスバメはそのツヤのある翼を、

くちばしで丁寧に手入れしながら言った。

『世界の全ての出来事を記憶している…か』

そのポケモンはしばらく考えた後、オオスバメにあることを頼んだ。


あれから何度もの夏と冬が過ぎていった。

ナミはすっかり野生のシャワーズの風格を漂わせていた。

ただその生活は野生ポケモンとはちょっと違っている。

毎日住処である森の原っぱで木の実を育て、

それを売りに行き、必要なものは通信販売で買う。

ブースターや他のポケモン達とバトルをして体を鍛え、

彼らといっしょに自分が作った木の実を食べる。

そんな人間の頭とポケモンの能力を使って、

充実した日々を送っていた。


ブースターとの間には子供もできた。

1匹目は行動派でせっかちな長男。

本人の希望でサンダースに進化し、

その後彼女らの元を離れていった。

2匹目は対照的にのんきでちょっぴり甘えん坊の次男だったが、

ブラッキーに進化するとこちらも先日巣立っていった。

人間とは違い、

生まれてからたった1年で自ら親元を離れていくポケモンの子供たちを、

ナミはいつも寂しい気持ちで見送ったのであった。


今彼女の元にいるのは数ヶ月前にタマゴから孵った、

おくびょうで弱気な娘であった。

その日もナミが町から帰ってくると、

娘はまだ木のほら穴の中で丸くなっていた。

『こら、いつまでそこにいるの。

 なっちゃん、もうお昼よ』

“なっちゃん”とは、ナミが昔母親に呼ばれていた名前である。

弱気なこの娘イーブイをナミは自然とこう呼ぶようになっていた。

ブースターもこの娘を“ナツ”と呼んでいる。

『だってママ、

 今日もまたバトルの練習するんでしょ。

 わたし、やりたくない』

『そんなこと言ってたら、

 1人前のポケモンになれないわよ。

 さぁ、ついていらっしゃい』

そう言うナミは身に付けていた

ウエストポーチとバンダナをほら穴の奥に置くと、

原っぱに出た。

その後ろを娘は、

ぴったりとくっ付くようにして着いてくる。

高く上がった太陽の光が、

原っぱの草に降り注いでいる。

『いつまでそうやって、

 くっついていちゃダメでしょ。

 さぁ始めるわよ』

ナミは大きなヒレのあるしっぽで娘を

そっと押して草の上に座らせると、

少し離れた所で娘と向かい合うようにして立った。

『さぁ、なっちゃん。

 まずはたいあたり!』

ナミはトレーナーのようにイーブイの娘に指示をだした。

娘はゆっくりと立ち上がると、

目をつむったままで勢いよく走りだした。

ナミはそれを軽く避けると、

『ダメ!

 ちゃんと相手を見てないとダメでしょ。

 さぁもう1回!』

今度はナミに向かってまっすぐに走ってきた。

ナミはそれを真正面から受け止めた。

しかしナミが微動だにせずに受け止められたので、

攻撃をした娘の方がしりもちを着いてしまった。

『よし、いいわ。

 だいぶ強くなったじゃない』

 ナミの前で草の上にぺったりと座っている娘に、

彼女は言った。

『だめ…

 ママには全然かなわない』

娘は下を向いたまま言う。

『そんなことはないわ。

 ママだっていっぱいトレーニングしたから

 強くなったのよ』

ナミはこの数年のことを思い出しながら言った。

人間からポケモンになってから長い時がたつ。

本当に色んなことがあった。

いろんなポケモン達が助けてくれた。

このイーブイの父だってそうである。

彼らが居たから今の自分がある。

この娘も今は弱気な子だけど、

いつか自分みたいに強くなるとナミは思っていた。

『大丈夫よ、なっちゃん。

 それにお兄ちゃんみたいに進化したら、

 びっくりするくらい強くなるのよ。

 なっちゃんは、何になりたいのかな?』

ナミは聞いてみた。

イーブイとして、

娘ももう進化については分かっているはずであった。

『わたし…、

 このままがいい。

 ずっとママといっしょにいたいから』

『もぅまたそんなこと言って…』

そう言う娘をナミは困った顔で言ったが、

もう少し大きくなったらまた考えるようになるだろうと思った。

『じゃぁ次は、そうね…

 “あなをほる”。

 やってみなさい』

ナミは次の指示を出した。

“あなをほる”は元来イーブイは自然には覚えない技だが、

父親が使える技なので、

娘にも受け継がれているはずであった。

『えっ、でもあれはまだ…』

娘がまた渋る。

『この前パパに教えてもらったでしょ』

そう言う母親に対し、イーブイは

『だってまだやった事ないんだもん。

 出来ないかもしれないじゃない』

と言う。

その姿にナミはシャワーズになった時の自分を重ねあわせた。

『そんなこと言ってたら、

 いつまでも出来ないわよ。
 
 なっちゃん、失敗を怖がっちゃだめ。

 何でもまずやってみなくちゃ。

 元々なっちゃんはできるんだから。

 さぁ、やってみなさい』

母親に言われて娘はしぶしぶ穴を掘って地面にもぐった。

ナミは娘が地面から出てくるのを待っていたが、

一向に出てくる様子が無い。

ナミは慌ててダイビングで

娘が掘った穴から地面に潜った。

娘はすぐに見つかった。

そこには硬い岩が埋まっていて、

それにぶつかって前に進めなくなっていたのだ。

ナミは岩の横から水と共に、

娘を地上へと押し上げた。

『なっちゃん、大丈夫?』

ナミが慌てて聞いた。

返事はない…

が、ちゃんと息はしている。

ただ気絶しているだけのようだ。

『ふぅ…』

ナミは安堵と困惑の気持ちが混じったため息をついた。

どうもこの子は野生ポケモンとしての強さが足りないのかもしれない。

この先どうやっていけばいいのだろうか。

そう感じながらナミは娘の首根っこをくわえると、

ほら穴の中まで運んでいった。


穴の中に娘を寝かせた時、

ブースターが帰って着た。

全身傷だらけである。

『痛ッタ〜。ナミ〜、

 きずぐすりくれ〜』

『どうしたの?いったい何してきたの?』

ナミは驚いて、ほら穴の中のウエストポーチから

“いいきずぐすり”を出しながら尋ねた。

『ヤルキモノの奴とバトルしたんだけど、

 あいつやりすぎだぜ。

 “元トレーナーの奥さんがいるから

 ちょっとぐらいムリしてもだいじょうぶだろ”

 ってこれはやりすぎだろ。

 イテ〜』

ナミに“いいきずぐすり”をかけられながら、

ブースターがぼやいている。

『まったく、

 ナミがいなかったらホントヤバかったよ。

 ありがとな』

そう薬の礼を言うブースターに、

『ねぇ…、そんな事ってよくあるの?

 その、私が人間だったからって…』

ナミはひかえめにと尋ねた。

『あ?あぁ、たまにな。

 ま〜、こんなにやられるのは初めてだけどな』

ブースターは笑って言った。だがナミの心には少し何かモヤモヤしたものが残った。


夕方になり、

親子3匹で木の実を食べた後ほら穴に戻ると、

ナミはパソコンをつけた。

見るとメールが届いていた。

ナミの人間の母親からのものだった。

“ナミ大変なの。

 お父さんが病気なの。

 とても深刻な状態で、

 すぐに戻ってきてほしいの。

 遠い所にいるって聞いてるけど、

 できるだけ早く戻ってきて。

 母より。”

メールの内容にナミは困惑した。

父が病気と聞いて、

すぐにでも駆けつけたかった。

だが行ったところで、

シャワーズの姿では父にはとうてい

会えないことも分かっていた。

両親はシャワーズが自分の娘だと気づくわけはないし、

たとえ色々とやって気づかせたとしても、

それは両親を悲しませるだけの事である。

『どうかしたのか?』

ナミの様子に気づいたブースターが聞いてきた。

ナミはメールの内容を話した。

『それなら、

 そっと様子だけ見に行ってきたらどうだ。

 心配なんだろう』

話を聞いたブースターはナミに言ったが、

『でも…』

とナミは言って木の洞穴の中で寝ているイーブイに目をやった。

『大丈夫。

 ナツの面倒ならオレがちゃんと見るからさ』

とブースターは言ってくれた。

『ありがとう。

 数日で帰ってくるから、

 それまでよろしくお願い』

そう言ってナミはみどりのバンダナをかぶり、

そこに木の実の中で一番小さなクラボの実を何個か入れて

原っぱを後にした。

森に入っていくシャワーズの後ろ姿を見送ったブースターは

明日からの子守の為に早く寝ようとした時である。

『ねぇ、パパ。

 ママどうしたの?

 どこ行ったの?』

とブースターに聞く小さな声がした。


ナミは真っ暗な森を抜け道路にでた。

道ももう暗かったが、

一刻も早く病気の親の元に行きたかった。

ココから故郷のミシロタウンまでは

町を2つ越えないといけない。

今の自分の足なら途中で休んで、

明日中にはつけるだろうとナミは考えて歩き出した。

久々に来た一つ目の街は、夜でも賑やかだった。

日が暮れても町の中には多くの人々が行き交い、

建物のほとんどの窓には明かりが灯っている。

ポケモンになって以来、

朝日と共に起きて夕日と共に寝る生活をしていたナミにとっては、

その眩さに驚くと共に懐かしくもあった。

町を抜けたところで、

ナミは茂みを見つけ、そこで休むことにした。

久しぶりに遅くまで起きていて、

もう眠くて仕方なかったのだった。


翌朝、辺りが明るくなるとナミは目を覚ました。

幸い今日は日の光を分厚い雲が遮ってくれている。

ナミはバンダナに入れておいたクラボの実を1つ食べると、

また道の脇を歩き出した。

昼前には次の町には着いた。

この町はさほど大きくないのですぐに抜けることができた。

ここまで来ると故郷はもうすぐそこである。

段差をいくつか飛び降りて狭い道を通ると、

ついにミシロタウンに到着した。

ミシロタウンはポケモンの研究所がある以外は

小さな町で人通りも少ない。

ナミは久々に道の真中を堂々と歩き、

そして自分が生まれ育った家の前にたどり着いた。

やはりこの家も今のナミから見れば

巨大な建物であった。

しかし、そこは自分が子供のころから住んでいた家、

思い出は随所にみることができた。

ナミは気づかれないように家に入ろうとしたが、

古風な家のドアの取っ手は丸く

前足では開けることが出来ない。

仕方なくナミは家の横を通り、

裏の庭に回った。

庭も全く変わっておらず、

洗濯物のシーツが風に揺れていた。

それはシャワーズの目には白い大きな旗がはためく、

巨大な庭園のようであった。

ナミは父の部屋の窓の下まで行くと、

近くにあった木箱を窓の下まで押した。

そしてその上に乗り前足を窓枠にかけ中を覗いたが、

そこに父の姿は無かった。

『もしかして、病院に行ってるのかしら。

 まさか入院しているとか…』

そうナミが思った時、

隣の居間の方から話し声が聞こえた。

その声は間違いなく

ナミの父と母の声であった。

ナミはそっと居間の出窓に近づくと、

端からそっと中を見た。

テーブルの周りのイスに父と母が座って、

テレビを見ていた。

程なくして父は自分の部屋に歩いていった。

ここから見る限り、

父は元気そうであった。

『どういう事?

 病気じゃなかったの?』

そうナミが困惑していると、

「ナミから返事は?」

部屋にいる父に母が呼びかけた。

「いや、着てないな。

 もしかしたら今ごろ急いで向かっているのかもしれんな」

父の答える声が聞こえた。

「あの子はメールばっかりで

電話もよこさんからなぁ」

「あなたが病気と聞いたらすぐに飛んでくるわよ。

 あれでもあの子、あなた想いだから。
 
 それにもしかしたら前にメールにあった、

 いいパートナーってのも連れてくるかもよ」

母親が笑って言う母に戻ってきた父が苦笑いしている。

両親の会話に、ナミはやっと状況が理解できた。

あのメールはウソだったのだ。

何年も帰ってこない娘を呼ぶために、

あんなメールを送ってきたのだ。

ナミは父が病気ではないので安心が、

次第に悲しい気持ちになってきた。

そうだ両親は自分に会いたがっているのだ。

遠い所に勤めていると思っている自分に。

何年もメールだけで声も聞いてないので、

病気だとウソまでついて呼ぼうとしたのだ。

ナミも今すぐに会って、

両親を安心させたかった。

だがこのシャワーズの姿では、

今家の前に居るのに合うことが出来ない。

行ったところで娘が帰ってきたことに、両

親は気づかないだろう。

そんな状況にナミは出窓の横で一人、

声を押し殺しながら涙を流していた。


ひとしきり泣いたところで、

ナミは原っぱに帰ろうと思った。

帰って早く家には帰れないとのメールを打とうと思った。

言い訳の文章を考えながら歩き出そうとした時、

彼女の前に1匹のポケモンが現れた。

見ると原っぱにいるはずのブースターがそこにいた。

腰にはナミのウエストポーチが

赤い毛皮にきつく食い込んでいる。

『よぉ。どうだった?』

ブースターがそっと聞いてきた。

『えぇ、なんだか大丈夫だったみたい』

涙を隠すようにそう言ったナミだったが、

その時ブースターの後ろに、

もう1匹のポケモンがいることに気がついた。

『なっちゃん!』

娘のイーブイがそこにいた。

『なっちゃん、どうしてここに?』

ナミが驚いて娘に聞いた。

潤んだその茶色い大きな瞳が、

娘の心が今どれだけ揺れているのかを表していた。

『パパが、つれてきてくれたの。

 “ママはママのパパとママに会い行ったんだって”って。

 …ねぇ、何でママのパパとママは人間なの?

 何でママはポケモンなの?』

娘が泣きながら聞いてくる。

『いや、おまえを追いかけてくる途中に

 一通り説明はしたんだが、

 どうしてもおまえの口からも聞きたいって

 言ってきかなくて…』

ブースターが気まずそうに横から言う。

ナミはそんな娘に対し、全てを話した。

元は人間でポケモントレーナーだったこと。

パパを別のポケモンと交換してシャワーズにしようとした事。

それがひょんな弾みから自分がポケモンになった事。

動けない所を自分のポケモンに助けてもらった事。

そのまま森のポケモンになった事。

『そしてシャワーズとして

 パパと暮らすようになったのよ』

ナミは全部話して聞かせた。

『じゃぁ、パパがママをポケモンにしたって事?』

娘が尋ねた。

『そうじゃないわよ。

 あれはママがむりやり嫌がるパパを…』

ナミが答えようとすると、

『じゃぁ、パパがシャワーズになっていたら、

 ママは人間だったの?』

さらに娘が尋ねてきた。

『そうじゃないわ。

 あの時ママはこうなることになってたのよ』

ナミも必死に娘を落ち着かせようとした。

『わからないよ。

 なんでママが人間だったの?

 なんでわたしがうまれたの?

 人間だったらわたしどうなってたの?』

とイーブイはとうとう泣き崩れてしまった。

その時、ポケモンの鳴き声を聞いたナミの両親が、

出窓をあけて顔を出した。

「おい、見てみなさい。

 庭に珍しいポケモンがいるぞ」

「あらほんと。見たことないポケモンね。

 3匹だからご家族かしらね」

人間の姿を見たブースターは泣きじゃくる娘をくわえると、

一目散に垣根の中に駆け込んだ。

だがナミは両親に自分の姿を見られ、

その場に立ち竦んでしまった。

四つの足がまるで石にでもなってしまったかのように動けない。

しかしそのすぐ後、娘の泣く声にハッとわれにかえると、

急いでブースターのあとを追った。

「行ってしまったか。

 それにしてもあの子はいつ帰ってくるのかな」

背後でナミの親がそう言っているのが聞こえた。


夕暮れ時の人通りのない道を

シャワーズとブースターがゆっくりと並んで歩いていた。

娘は泣きつかれてブースターの背中の上で眠っている。

『ホントにごめんな。

 勝手に連れてきたりして…』

しばらく黙って歩いていたブースターが、

申し訳なさそうに言った。

『いえ、いいのよ。

 この子にはいつかは話さないと

 いけないって思ってたし…』

ナミも静かな口調で答える。

それっきりまた2匹はまた黙ってしまい、

ミシロタウンの外まで歩いていった。

隣の町近くまで来た時、

辺りはだいぶ暗くなってきていた。

今日は道の脇の低木の下に泊まることにした。

ナミがバンダナから小さなクラボの実を取り出すと、

娘を木の下におろしたブースターが

『ちょっとまて、

 おまえの好きなラブタの実を持ってきたんだ』

といって腰のウエストポーチを指した。

『いいの。今日は食欲ないから…』

ナミがそう言って断ろうとすると

『こういうときは、

 しっかり食べて元気つけなくちゃ』

とブースターが励ましてくれた。

ナミは小さくうなずくとポーチを開け、

中からラブタの実をだすと食べ始めた。

それでも半分も喉を通らず、

黙ったまま実を見つめる。

『大丈夫か?』

隣に座ったブースターは心配して聞いてきた。

『大丈夫よ。

 ただちょっと…ね…』

ナミは気丈に答えようとした。

だが、顔をそむけてしまう。ぼんやりとした目で、

体の前に回した自分のしっぽを眺めた。

『おまえ…、

 …戻りたいのか?』

ブースターは思い切って尋ねた。

それはブースター自身とっても非常に辛い問いであった。

『分からない…』

ナミはひたひたと地面をたたく、

しっぽに目を向けたまま静かに答えた。

『今の生活はとても好きだし、

 シャワーズのこの姿も今じゃすごく気に入ってる。

 あなたに会えたことは本当に良かったと思うし、

 この子にも感謝している。

 あの時ポケモンになれなければ、

 こんなにいい生活は絶対できなかったと思うの』

ナミは自分の本心を探るように話していった。

『でも、親にも会えないのはやっぱり悲しい。

 いいえ、会う事はできても

 顔を見せることができないのが悔しい。

 自分は本当に元気なのに、

 それを伝えることができないのが……』

ナミの目からまた涙が溢れ出した。

ブースターはどうしていいか分からず、

ただ見ている事しかできなかった。

そんな時、

『ママ、泣いちゃだめ』

イーブイが声をかけてきた。

『あ、なっちゃん。

 起きてたの』

ナミは涙を前足でぬぐって娘を見た。

『ママごめん。

 わたしワルイ子だった。

 もうあんなこと言わない。

 だからもう泣いちゃだめ』

イーブイがナミの前足あたりに擦り寄ってきた。

ナミは娘の体に首をまわして乗せた。

それはまるで我が子を両手でぎゅっと抱くように…

『ごめんね。

 ママもう泣かないから。

 今日は来てくれてありがとう』

イーブイの背中でナミは語りかけた。

『ママ、わたしお腹すいた。

 あのラブタの実、食べていいよね』

そう言うとイーブイは、

ナミが食べ残したラブタの実を元気に食べだした。

ブースターが体を寄せてきた。

ナミはその暖かい体に、

自分の体を預けるようにしてもたれかかり、

木の実を食べる我が子の姿を見守った。


つづく…


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