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  [No.1667] 第2章 第3話・縁と絆 投稿者:都立会   投稿日:2019/09/23(Mon) 20:35:27   17clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

顔に当たった朝日の光で、

ナミはいつものように目が覚めた。

いつもと違うのはすぐ横の木に開いたほら穴の中から

2つの小さな寝息が聞こえること。

イーブイとポチエナの子が同じように丸くなって眠っている。

我が子たちの愛らしい姿を見て微笑んだナミは

前足をついて起き上がってみると、

木の反対側では少し大きな寝息をたてる赤い毛の塊。

朝が弱いブースターもフサフサのシッポに包まったまま、

まだ目覚めていないようである。

彼の背中を見て昨晩のことを思い出したナミは、

振り向いて自分の体を見てみた。

水色の肌で大きなしっぽを持つシャワーズの体は、

朝日を浴びてきらきらと光っている。

これが今の自分の姿、

ちょっと前までとは全く違う自分の姿。

それまではこんな姿になるだなんて夢にも思わなかったが、

今ではこれが自分なんだと思えるようになっている。

ただ、人間としての自分も忘れたわけではない。

人間としての自分とポケモンとしての自分。

その岐路に今立とうとしている…

それがひしひしと感じられた。

正直まだ不安の方が大きい。

しかし前に進まないといけない。

昨日ブースターが言ったとおり、

戻れるか戻れないかまずは聞いてみよう。

どうするかはそれから考えればいいのである。

そう改めて心に誓ったナミは意を決したように頷いて立ちあがると、

朝の水やりも兼ねて朝食の木の実を取りにその4つの足で歩いていった。


木の下には先に起きていたエナナの姿があった。

『おはよう、エナナ』

ナミは木の中に頭を突っ込んでいるエナナに声をかけた。

『やぁ、おはようさん』

エナナが咥えていたラムの実を置いて言った。

『早いのね。どうしたの?』

『昨日はすっかりご馳走になったから、

 ちょいとお手伝いしようかと思ってね』

そう言うとエナナは実を傷つけないように

その付け根の枝を噛んで、

器用にオレンの実を木からとった。

『ありがとう。

 あ、それならそっちのウブの実もお願い。

 私じゃちょっと遠いから…』

『あいよ』

ナミは木に水をやるとエナナがとってくれた木の実を種類別に分け、

売り物用は持ってきたウエストポーチに詰め、

形の悪いものは朝食用にした。

それが一通り終わったところで

『エナナ、それで昨日の話なんだけど…』

とナミは早速言い出そうとすると、

『まぁ待ちなさい、

 その話は後でゆっくり聞くよ。

 まずは子供たちとあんたの寝ぼすけの旦那を起こして、

 朝ご飯にしようじゃないか』

エナナはそう言って、

朝食用の実を3つ口にくわえた。

『そうね。

 朝早くからも何だしね。

 エナナは朝ご飯、どれがいいかしら』

ナミもウエストポーチを背負うと

残った2つの実の枝をくわえて持ち上げた。

『何でもいいよ。

 そうだねぇ、

 ウチの子はしぶいのはダメだから、

 このヒメリの実を貰おうかね』

『えぇ、いいわよ。

 ブースターにはいつもこのラムの実。

 これでないと彼、

 いつまでたっても眠たそうなんだから』

『ほぉ、

 いいもの食べさせてもらってるじゃないか。

 あいつも幸せ者だねぇ』

2匹は木の洞穴に歩いていった。


『さて、あんたの答えが出たようだね。

聞かせてもらおうか』

朝食が終わると早速エナナが聞いてきた。

娘のイーブイとポチエナの子は木の実を食べ終わると、

もう原っぱの上を駆け回っている。

『私、そのポケモンに会ってみます。

 そして戻れるかどうか聞こうと思います』

ナミはエナナの目を強く見つめながら言った。

『いい答えだよ、ナミさん』

エナナは満足そうに微笑むと

『よし、それじゃぁ早速支度しなさい』

と言って立ち上がった。

『え?支度って今から行くの?

 ちょっと待ってよ、エナナ。

 ちゃんと詳しい行き方聞いてから行きたいし…』

ナミは思わず腰を浮かせて言うと

『その必要ない。
 
 あたしも一緒に行くからね』

エナナはその赤い目でナミを見て言った。

『え、エナナ、

 一緒に来てくれるの?』

ナミはてっきり1人で聞きに行くものと思っていただけに、

エナナが来てくれるのはとても心強かった。

『あぁ、もとよりそのつもりだよ。

 しっかり道案内するからね』

とエナナも頼もしくも言う。

『ありがとう、エナナ。

 また一緒に旅ができるわね』

ナミはエナナとホウエン地方を旅した時のことを

思い出しながら言った。

無論その時はトレーナーとそのポケモンとしてだったが。

『あぁそうだね。

 本当に久しぶりだね』

それを聞いてエナナも懐かしそうに言う。

しかしその時ナミの目に、

エナナの顔の向こうに広がる原っぱで、

娘イーブイを追いかけているポチエナの子の姿が写った。

『え、でもエナナがいなくなっちゃったら

 レナ君はどうするの?

 まだ一人にするのは早すぎるでしょ?』

そう尋ねるとエナナはそれを待っていたように

『それならウチの旦那に任せておけばいい』

と言う。

『旦那…?』

そういえば、ポチエナの子の父親については

まだ聞いていなかった。

キョトンとしているナミに

『ナミさんもよく知っているヤツだよ。

 実はさっきからもう来てはいるんだが…』

とエナナは言うと森の方を向くと

『お〜い、

 風下だからってあたしの耳まではごまかせんよ。

 いつまで隠れてるつもりだい。

 早くこっちへ来ないか』

と呼びかけた。

確かにそこには何いる気配がするが、

しかし返事が無い。

『大丈夫だって。

 別にナミさんはあんたのことを

 嫌いになったりしてないよ。

 早くお顔をみせてあげなさい』

エナナがまた呼ぶと、その気配が動いた。

そして一呼吸おいて

森から赤い影が飛んできたと思うと、

ナミの前に長身のポケモンが姿を表した。

『もしかして、

 …チャモちゃん?』

ナミの目の前にいるのはトレーナー時だった時に連れていたポケモン、

バシャーモのチャモだった。

なんだか気まずそうな顔をしている。

『え?どういう事?』

『どういう事って、こういう事さ』

混乱しているナミの前で、

グラエナがバシャーモに寄り添う。

『コイツがレナの父親。

 で、あたしの旦那だよ』

エナナが笑って言う。

『ウソ…、すごい。

 二人ってそんな関係だったの…。

 全然知らなかった…』

自分のポケモン達の意外な関係にナミは驚きを隠せなかった。

『まぁ、実際にこうなったのは

 あんたとバトルして別れた後なんだけどね。

 ほら、あんたも黙ってないで何か言ったらどうだい』

エナナがチャモの足を突付きながら言う。

『お、お久しぶりです、ナミさん』

チャモが言った。

その太い声はナミも覚えていた。

『ひさしぶりね、チャモちゃん。

 元気だった?』

ナミは明るく答えると、

『あ、チャモちゃん何も食べてないんじゃないの?

 えっと、このマトマはもう危ないから…

 オボンでいい?』

と言ってウエストポーチの中から

黄色いオボンの実を咥えて出すと

チャモに近づいて差し出した。

『あ…あぁ、

 ナミさんどうも…』

とチャモは木の実を受け取ると、

自分の足元で首を高くあげているナミの顔が見えた。

そのシャワーズの微笑を見て、

チャモはずっとあった胸のつかえがとれるのを感じた。

ナミがシャワーズになった時、

助けを求める彼女を冷たく突き放したのだった。

全ては突然ポケモンにになった彼女を、

この野生の中で生きていけるようにするためにと

他のポケモン達と相談して事だったのだが、

彼女にとってそれはとても辛い事だったに違いない。

その事が今までずっと気になっていたのだった。

『ほらな、言ったとおりだろ。

 ナミさんは別にあんたを嫌いになったりはしてないよ』

『エナナ、

 ちゃんと説明しておいてくれたのか?』

所々斑点のある黄色い実を手にしたチャモが

ヒソヒソ声でエナナに尋ねた。

『いや、もうナミさんだって分かってるさ。

 トレーナーとポケモンの関係もあんなものじゃないって事もね』

『えぇ、私の事を思ってあんな事言ったのでしょ。

 ありがとうチャモちゃん』

ナミにそう言われて、

チャモは照れくさそうに横を向いた。

『そういういうことで、

 ウチの子については大丈夫だ。

 いつもは頼りないコイツだが、

 子供の面倒みるのだけはすごく上手いんだから』

エナナが言った。

『そうね、それなら大丈夫ね。

 チャモちゃんが一緒なら心配ないわね』

そう言ってナミが草むらの中で

じゃれ合っているイーブイとポチエナの子を見た時である。

その視線の前に赤い毛並みポケモンが割り込むように入ってくると

『な、なぁ、

 まさか2匹だけで行くつもりか?』

と少し言葉に詰まりながら聞いてきた。

『えぇそうだけど、

 …どうしたの?』

ナミはブースターの課を見て尋ねた。

何だかとても嫌な予感がする。

ナミの言葉にブースターは何かを考えるように少し間をおくと

『…女2匹だけの旅だなんて、

 そんな危なっかしいことさせるわけにはいかないな。

 仕方が無い、

 オレもいっしょに行ってやるよ』

と少し胸をはるような感じで言ってきた。

『ちょ、ちょっと待ってよ。

 昨日は留守番してくれるって言ったじゃない』

ブースターの突然のナミが慌てて言うと

『何だよ、オレが行ったらダメなのかよ』

とブースターが怪訝そうな顔をして聞いてきた。

『そうじゃなくて、

 なっちゃんはどうするのよ。

 2人とも居なくなってどうするのよ』

とナミはブースターの向こうにいる娘を見て言った。

今度は娘がポチエナの子を追っかけている。

『それならいっしょに連れて行けばいいじゃないか』

ブースターはまるで他人事のように軽く言う。

『そんなの出来るわけ無いでしょ。

 行くのは海の向こうなのよ。

 連れて行けるわけないじゃない』

『おまえ、昔この地方ぜんぶ旅したんだろ、

 それも一人でポケモン何匹も連れて。

 …1匹くらい増えたって平気だろ』

『無茶言わないで。

 その時とは違うのよ、

 ポケモンだけで行くのよ。

 途中で買い物もできないし、

 何か困っても人に助けてって言うことも出来ないのよ。

 何かあったらどうするのよ』

とナミは必死で説得しようとする。

シャワーズの自分に野生ポケモンである娘を

安全に連れて行けるわけがない。

自分が行くには娘をここに残すしかないが、

それにはどうしてもブースターも残って

娘のことを見てもらうしかなかった。

しかし当のブースターは全く聞く耳を持たない感じで

『そんなのナミだったらきっと大丈夫だって。

 それじゃぁオレも行くことで決まりでいいな』

と強引に言って来る。

『そんなぁ…』

困り果てたナミはため息をついた。

もうこうなったらテコでも動かない。

無理やり置いてきても、

先日みたいに娘を連れてまた勝手に付いてきてしまう。

ナミが思い悩んでいると、

それを黒い色の耳でずっと聞いていたポケモンが

『連れて行ってやりなよ』

と同じく真っ黒な唇を開いて言った。

『そんな!エナナまで…』

エナナの予期せぬの言葉に

ナミは飛び上がるようにして振り向くと、

『お、良い事言うじゃんか!』

さっきからの不満そうな表情から一変、

ブースターの顔は割れんばかりの笑顔になった。

これでブースターが一緒に行くことは完全に決まってしまった。

『ちょっとエナナ…』

『大丈夫さナミさん。

 あんたの子もウチのに見てもらえばいいさ。

 なぁあんた』

とエナナが隣のポケモンを見上げて言うと、

『はい、ナミさんの子も自分がお預かります。』

とオボンの実を大方食べ終わったチャモが

ナミの目を真っ直ぐ見て言った。

『…本当に大丈夫なの?』

ナミは不安そうに聞いた。

何といっても自分の子を他人に預けるのである。

自分のポケモンであったチャモの事を信用していない訳ではないが、

娘の事を考えるとどうしても心配になってくる。

まだサンダースやブラッキーになった

あの兄達だったら問題は無いが、

臆病はこの子は母親の自分が居なくなったら…

できることなら自分がいない間は父親であるブースターに

見て欲しいと思ってしまう。

『あぁ、前に他のヤツの子をしばらく預かったこともあるし…、

 ほれ、見てみなさい、

 あんなに仲のいい友達がいるんだ。

 何日かなら問題無いだろう』

とエナナは、

原っぱの上にいる2匹のポケモンの子を見て言った。

イーブイの娘がポチエナの子に後ろから飛び掛っている。

友達を捕まえた娘は2匹一緒に草の上を転がると、

そのままじゃれ合っている。

2匹の楽しそうな様子を見たナミも

『そうね、なっちゃんも友達がいたら…』

大丈夫かなと言おうとしたがその時、

『ちょっと待てよ。

 勝手に決めんなよ。

 だれがお前に預けると言ったんだよ』

とブースターが今度は突っかかるように入ってきた。

『ええっ!?

 ちょっと、何言ってるのよブースター。

 あなたのこと思って言ってくれてるんじゃない。

 あなたも行けるように、

 なっちゃんのこと預かってくれるって言ってくれてるのよ』

とナミはまた驚いて言った。

今日のブースターは何か様子がおかしい。

『信用ならないね。

 どんなヤツかも分からないのに大事なナツを預けるだなんて、

 そんなことオレが許さないね』

と2メートル近くある長身のバシャーモの目を

きっとにらみ付けて言う。

そんなブースターに

『それだったら、いったいどうするのよ』

いったい娘はどうするか…と思ってナミは言うと、

『だったら?

 やい、そこのチャモってやつ!

 こっちに来い!

 オレと勝負だ!』

その言葉を見事に勘違いしたブースターは、

バシャーモに吠えるように言うと原っぱに駆け出していった。

もう言うことすること滅茶苦茶である。

『ちょ、ちょっとブースター。

 そうじゃなくて…』

とナミは止めようとしたが、

『いいよ。

 ナミさんに鍛えてもらったオレの力、

 見せてやるよ』

とチャモもオボンの実のヘタを捨てると、

原っぱ向かって飛び上がっていった。

子供たちはものすごい勢いで

原っぱに飛び込んできた父親たちを、

興味津々で見ている。

『もぅ、チャモちゃんまで…』

ナミも呆れ顔で追いかけようとしたが

『ほっとけばいいさ。

 まったくどいつもコイツも、

 男ってヤツはドツキ合わんと分からないんだから。

 …それよりいつまでも

 あんなの相手にしていたら日がくれちまうよ。

 いろいろやる事があるだろ、

 早くやってしまおうじゃないか』

フッと短くため息をついたエナナが、

木のほら穴の横に置いてあるウエストポーチを鼻で指して言った。

『…そうね、

 旅をするのだったら持って行きたいものもあるし。

 じゃぁちょっと行ってくるね』

そう言ってナミは木の側に座り、

ペンを咥えてメモに買うものを書き込んだ。

そして馴れた手つきで木の実の詰まったウエストポーチを巻きつけると、

『町に行くのなら、

あたしもご一緒してもいいかね?』

とエナナが寄ってくると聞いてきた。

『えぇ、もちろんいいよ。

 一緒に行こうエナナ』

とナミは快く返事をすると、

緑色のバンダナを頭につけて立ち上がった。

そして入ってきた父親に

自然と追い出される形で原っぱの脇にいる子供たちに

『なっちゃん、レナ君。

 ママたちちょっと出かけてくるから大人しく…』

と呼びかけようとした。

しかし2匹のポケモンの子供は

『パパ〜、がんばって〜』

『父さん、負けんなよ〜』

と緑の草の上で始まった父親同士のバトルを

応援するのに夢中になっている。

ナミはエナナと顔を見合わせてふぅっと小さく笑うと、

『じゃぁ、行ってくるわね』

と言って、並んで森の道へと入っていった。


『彼の事、悪く思いなさんなよナミさん。

 アイツも一緒に行きたいのだよ』

薄暗い獣道をしばらく歩いていると、

ちらっと後ろを振り返ったエナナが話しかけてきた。

『分かってるわよ。ただ…』

ナミはそこで言葉を切った。

ブースターの本当に言いたい事はナミも分かっている。

彼が自分の事を心配してくれている事も、

一緒に行ってナミの力になりたいと思ってくれているという事も。

そして何よりこれは自分が

ポケモンから人間に戻れるかどうか知る旅だから。

ナミをシャワーズにしてしまったのが

当時イーブイであったブースターであるから。

だからこそ人間に戻るのならそれをちゃんと見届けたい、

ナミがポケモンであるその最後の最後まで

一緒に居たいという彼の想いも知っている。

だからブースターが行きたがっているのは良く分かるし、

ブースターを連れて行くこと自体については

ナミは反対したりはしない。

ブースターとグラエナ2匹を

自分の“なみのり”でその島まで連れて行くことくらいなら

今のナミなら問題なく出来るだろう。

ただ1つだけそれにはどうしても心配なことがある。

娘のためにブースターにはどうしても残っていて欲しかった。

獣道を歩きながらナミがそう考えていると

『…なっちゃんといったかね、

 ナミさんの子。

 心配になるのは分かるが、

 大丈夫だよあの子は。

 確かにちょっと気弱なところはあるが、

 芯はしっかりしてるよ』

エナナが前を見ながら言ってきた。

『ナミさんことだ。

 ずっとあの子にべったりだったんだろう?

 でもたまには親が離れて他のポケモンと

 過ごした方がいいことだってある。

 ほら可愛い子には旅をさせろというんだろ。

 人間の子だってだからトレーナーという旅をすんじゃないか。

 あの子はちょうどその年頃だと思うけどね』

『そうかもしれないけど…』

それでもナミが黙って考えこんでいるとエナナはさらに

『それにチャモがずっとついているんだ。
 
 どうかな、預けてはくれないかな』

とややナミの顔を覗きこむようにして聞いた。

『…そうね。私もチャモちゃんの事を信用しないとね。

 うん。

 でもエナナとチャモちゃんがそんな仲だっただなんて、
 
 知らなかったからびっくりしたわ』

ナミはやっと顔を上げて言うと

『あたしがナミさんと一緒に居る間、

 変なヤツとかが来ないか、

 チャモ達に見張っててもらっていたんだよ。

 それでナミさんと別れた後、

 もうその必要がなくなったと皆に伝えに行ったんだが、

 そしたらいきなり告ってきてねぇ。

 まだ若いのにこんなオバさん捕まえて、

 ホント物好きなヤツだよ』

と言うとエナナは口を大きく笑う。

『そうだったの。

 ずっとチャモちゃんと一緒だったけど、

 全然気づかなかったわ。

 子供の面倒を見るのが上手だなんてのも知らなかったし…』

『というよりヤツもまだ子供なんだね。

 父親というよりは大きなお兄ちゃんだね。

 おかげでこっちは子供2匹も抱えて大変だよ』

とエナナは苦笑いすると、

『あ〜、それ何となく分かる』

ナミも笑って言った。

その時森の獣道の先に明かりが見え、

ほどなくして2匹は道路に出た。


しばらく道路わきを歩くと町の入り口が見えた。

『エナナ、こっち』

ナミはエナナを呼ぶと町の裏に入っていった。

昨日のブースターの時と同じように

今日も民家の生垣やジムの壁を伝うように進み、

池を周ったところでナミは

『じゃぁ、ここで待ってて』

とエナナに言うとメモを咥えて

フレンドリィショップに入った。

「いらっしゃいポケモンちゃん。

 お、今日はご注文か?」

レジにいた店員はそう言って

シャワーズの口の見ると手を伸ばしメモを受け取ると、

そこに書かれたものを用意する。

そしてシャワーズの付けているウエストポーチから木の実を取り出し、

代わりに持ってきた傷薬などをを入れ、

ナミのポケモン図鑑で代金を清算して返すと、

「それじゃ、今日はご主人さまの所までもよろしくな」

と言ってみどりのバンダナをかぶったシャワーズの頭を撫でた。

店員が手をどけるとナミは一言

『ありがとう』

と言ってみた。

シャワーズの愛らしい鳴き声に、

店員はにっこりと笑顔になった。


店から出たナミはすぐに池の畔に行くと

『お待たせ。

 じゃぁエナナ帰ろう』

と伏せるようにして待っていたエナナに言った。

するとエナナは

『ちょっと待った。

 その前に寄りたい所があるんだが、

 これからいいかな?』

と立ち上がりながら行ってきた。

『一緒に?

 もちろんいいけど、どこ行くの?』

とナミは聞くと、

『行けば分かるよ。

 すぐ近くだよ』

とだけエナナは言うと池に背を向け、

森とは逆の方向に歩き出した。

ナミはその後をついて行くと、

フレンドリィショップの横をすり抜け町の反対側へと出ると、

道路へとエナナは歩みを進める。

するとその先に道の両側に立ち並んでいた木が

一部途切れている場所が見え、

黒いグラエナの姿がその中へと消えていった。

すぐにナミが追って入ると、エナナはすぐ向こうで、

その先を見据えた状態で立ち止まって待っていた。

その彼女の足元にはちょっとした段差、

その下には草むらが見えた。

『ナミさん、ここを覚えているかい?』

『もちろんよ。

 私たちが始めて会った場所だもの…』

眼下で朝の日差しが燦々と降り注ぐ草むらの、

一点を見つめながら尋ねたエナナに、

ナミも同じ場所を見ながら答えた。

この道路は、

昨日は親子3匹で通って帰り、

その前の日はこのすぐ近くで目を覚ましたこの道。

しかしそのずっと前、

ナミがまだポケモントレーナーになったがばかりのころ、

2匹のポケモンと出合った場所でもあった。

1匹目はこの道路をずっと次の町の近くまで

行った所で捕まえたキノココ。

今はキノガッサになり、

知り合いのトレーナーの所で

チャンピオンポケモンになったそうである。

そして2匹目はそれからしばらく経った後、

この草むらで出会った。

『あたしもはっきりと覚えているよ』

と言ったエナナが段差を飛び降りると

『ちょうどここだ。

 あたしはまだポチエナだった』

とポチエナの視点に合わせて、

頭を低く伏せた。

『そう。

 ポチエナのエナナがそこにいて、

 私がその前に飛び降りたの』

と言うとナミもその時の事を思い出しながら段差から飛ぶと、

エナナのすぐ前に後ろ足から着地した。

『そうだ。

 あたしは驚いて、

 思いっきり吠えた』

エナナは伏せたまま1歩退くと

「プシャー!」と威嚇した。

『そうそう。

 私もびっくりして、

 慌ててチャモちゃんを出したっけ。

 まだアチャモの』

そう言ってナミは人間だった時のように、

立ち上がってボールを投げる仕草をしようとした。

しかし2本足で立ち上がった途端フラフラと視界が揺れると、

ナミは地面に手を…前足をついてしまった。

『無理しなさんな。

 ちゃんと分かってるから』

座り込んだナミを見て、

エナナが起き上がって言う。

『うん、大丈夫。

 それでエナナとチャモちゃんのバトルになって…』

ナミはその黒い頭を見上げると

バトルの様子を頭に浮かべながら言った。

“ひっかく”や“なきごえ”で、いくらアチャモに攻撃させても

猛然と“とおぼえ”と“たいあたり”を仕掛けてくるポチエナ。

『…エナナすっごく強かった』

『そんなことないさ、
  
 あれはチャモがまだヒヨっ子だったからだよ。

 今のチャモたちや…

 いや、別れる前のナミさんにだって

 あん時のアタシじゃ全く敵わないよ』

とナミの言葉にエナナは苦笑いをした。

ナミは大きなヒレのついた首を振った。

『そんな、本当に強かったのよ。

 いくら攻撃しても向かってきて、

 全然追い払えなくて…』

そうやって闘ってるうちに、

だんだんとチャモに疲れが見えてきてナミは焦ってくると…

『それで思わず買ったばかりのモンスターボールを投げたら…』

『ほほぅ…』

ナミがそう言ったとき、

エナナが小さく声を上げた。

『あっ…』

苦笑から少し驚きに変わったエナナの顔を見て、

ナミは言葉が詰った。

そう、それが2人の出会い、

そして始まりだった。

ナミがボールを投げ、

エナナはその中に入り、

そしてエナナはナミのポケモンになった。

ポケモントレーナーが野生のポケモンを捕まえるという、

人間から見たらごく普通の行為。

しかしそれはポケモンから見たらどうか。

実際ナミも1度トレーナーに

捕獲されそうになったことがある。

あの時の恐怖は今でも忘れることができない。

しかしそれはナミ自身もやっていたこと。

自分はここでエナナを捕まえて自分のモノにした。

それはエナナから野生を、

それまでの生活や日常を奪ってしまったのではないか。

そう思うとナミは居たたまれなくなってくる。

そんなナミの様子にエナナは

『うぅむ…』

と小さく唸ると少し間をおいて、

『…遅くなったね。

 それじゃぁ帰ろうか』

と言って、

段差の上の道路に向かって歩き出す。

その声はとても穏やかでそして優しい。

それがナミにとってはとてもありがたかった。

少なくとも今エナナは自分を恨んだりはしていない。

それどころか自分のために情報を持ってきて、

一緒に旅までしようと言ってくれている。

その事をエナナにどう言えばいいかと思っていたが、

『ほら、ぼーっとしてないで。

 早く帰ってやらないと、

 ウチらの旦那さんの手当てはダレがしてあげるんだい』

少し先で振り向いたエナナのその言葉で、

ナミの頭に浮かんできたのは激しく闘う2匹の赤いポケモンの姿。

『あ、そうだった大変!

 ブースターって“ひんし”になっても闘おうとするから、

 早く行かないと』

はっとその事を思い出すと、

ナミは慌ててエナナに駆け寄った。

『いやいや、チャモのヤツ、
 
 熱くなってきっと炎ばっかり使ってるだろうから、

 今ごろ旦那さんの返り討ちにあってるさ』

『そんな、チャモちゃん格闘も持ってるから、

 ブースターもう今頃やられちゃってるわよ』

『何にしろ帰ったら分かるさ、

早く行こうじゃないか』

と喋りながらシャワーズとグラエナ、

2匹のポケモンは小走りで来た道を戻っていった。


つづく…


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