マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.1670] 第2章 第6話・己の役 投稿者:都立会   投稿日:2019/09/23(Mon) 20:38:49   12clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

顔を出した朝日のもと、

木のみを分け合って食べたエナナと

眠ったままのブースターをボールに入れると、

ナミはまた荷物を背負って海へ入った。

今日も海の水は荒々しかったが目指す島はもう目の前、

日が昇りきる前にナミは島の浜辺にたどり着くことが出来た。

『お疲れさん、

 体の方は大丈夫か?』

浜の上でボールから出るなりエナナはナミに聞いたが

『ええ、平気。

 早速行きましょう』

このぐらいの距離なら

シャワーズにとっては海の散歩に近い。

休む必要もなかった。

『なら、ここからはアタシの出番だ』

そう言うと渡りの鳥ポケモンから聞いたという

洞窟のある山に向かってエナナを先頭に歩き出した。

『といっても、

 鳥ポケモンは空に向かって開いた穴から入るらしい。

 アタシらじゃそこまでは登れないというから、

 別の入り口からだね』

そう言い一度町のある側に回ると、

そこには人間の作ったトンネルが。

『アタシ達は、

 ここから入るのが一番いいだろうとのことだ』

そう言うエナナを先頭に、

3匹は洞窟の中へと入って行った。


『来たようだな…』

ちょうどその時、

洞窟の奥で1匹のポケモンがつぶやいた。

そのポケモンが瞑想すると、

3匹の陸上ポケモンが洞窟の中を歩いているのが見えた。

今、洞窟の住人であるズバットに木の実を渡し、

道案内を頼んでいるようだ。

『来たって、

 例の鳥ポケモンが言ってたヤツですかい?

 エラー様』

その様子に、

すぐ近くに居た同族進化前のポケモンが訊ねた。

『そのようだ。

 人間の道具を身に着けている者がおる。

 彼女がそうなのであろう』

頭の中に浮かぶ映像を見ながら、

エラー様と呼ばれたそのポケモンは座ったまま言う。

『へぇ、本当に居たのかよ。

 で、どうします?

 俺がひっ捕まえてきましょうか?』

進化前のポケモンがそう聞くと、

『いや、まずは彼女らの事をもっと知りたい。

 ちょっと彼らに手伝ってもらおう』

進化後の方はそう言うと

『“君達、すぐにワタシの所へ来てくれ”』

とテレパシーを使い、

洞窟に住むポケモンを呼ぶと、

すぐに3匹のポケモンが彼の前に集まってきた。

『ご苦労。

 君達に今洞窟に入ったポケモンとバトルして欲しいのだ』

座ったままのポケモンはそう言うと

『まず君。

 君は赤く炎を蓄えるポケモンと闘ってほしい』

1匹目のポケモンに呼び出したポケモンは言うと、

『了解ー』

そのポケモンはずっとある方向を見たまま片手を上げて返事した。

『そして君には、

 真っ黒な毛皮を羽織ったポケモンの相手だ』

2匹目のポケモンはそう指示されると

『ウイイイーーーーーー!

 了解しやした!』

そのポケモンは目をキラッと光らせて答えた。

『そして最後は君。

 君には水色の大きなしっぽを持つポケモンの相手をしてほしい』

3匹目のポケモンはそう言われると

『はぁい、分かりましたぁ。

 クスクスクス…』

両手を口に当てて笑った。

『んじゃぁ、コイツらを送ってくぜ』

そういうとそのポケモンは3匹の方に近づくと、

シュンッ!!

一瞬にしてその姿を消したのであった。


『随分深いのね』

もう何度目か分からないハシゴを、

ゆっくり後ろ足から降りながらナミはつぶやいた。

何層にもなっている洞窟は人の手が入っており、

はしごがあるなどある程度進みやすいが

やはり奥へ行くと真っ暗である。

『ブースター、ひのこ』

ナミは地面に下りると、

ボールに入れていた2匹をまた外に出した。

フラッシュの代わりにブースターのひのこで

辺りを照らしながらまた歩き出す。

そうこうしながらも

洞窟を奥へと進んでいる時であった。

『キーッ!

 ココは床がヒビ割れてるから気を付けな』

ナミからもらった木の実を持ちながら

飛んでいるズバットが言った瞬間、

フワッ…

突然体が浮かび上がったのをナミは感じた。

『え、何これ!?』

そう思い周りを見ると、

『うわぁぁぁ!』

ブースターも同じようで宙で足をジタバタさせている。

『これは、ねんりきか?』

地面の上で見上げたエナナがそう言って駆け寄って来た。

その直後、

『きゃっ!』

急に体を持ち上げていた力が無くなると

ドスンッ!!

ナミとブースターはエナナの足元に落ちた。

そして

ドゴッ、ガラガラガラ…

元々もろかった床が崩れ、

『何、どうなって…』
『わっ、誰かがねんりきで…』
『うわぁぁぁぁぁ!』

驚くズバットの前で3匹は、

さらに暗い地下へと吸い込まれていった。


パラパラ…

いったいどのくらい転がり落ちたのだろうか

『ううっ、みんな大丈夫?』

ナミは辺りの様子が落ち着いたところで声をかけた。

『なんなんだよ、今のは!』

まずいつも通りのブースターの声が聞こえた。

『エナナは?』

その様子に、

エナナも大丈夫だろうとナミは思い聞いてみたが

『いったい…、ここはどこなんだい?』

『え?』

予想とは違った答えに、

ナミは起き上がって周りを見渡した。

確かにそこは洞窟の中、

さっきまで居た層よりさらに深い場所なのだろう。

しかし、さっきまで真っ暗だったのとは違い、

そこはうっすらと灯りがあった。

目が慣れてくると、

次第に洞窟全体が見えてきた。

落ちる前の進んでいた道のような洞窟と違い、

大きな広場のような空間。

床は平らなのは歩きやすいが、

いったいどちらに進めばいいのか。

『どうしよう…

 誰かー!居ませんかー?』

ナミは叫ぶように呼びかけてみたが、

シャワーズの鳴き声が反響するだけで、

返事が返ってくる様子はない。

あのズバットも来られなかったようである。

『うーん、どうしよう。

 私たちで探すしかないのかも』

そう言って振り向いた時だった。

『あんたら、どこから来たんだ』

一瞬、洞窟のポケモンが言ったのかと思ったが、

その声はエナナのものであった。

警戒しているエナナの視線の先を見ると、

数匹のポケモンの姿が。

『え、いつの間に…』

間違いなくほんの数秒前、

ナミが辺りを見渡した時には居なかったはずであった。

ナミがそれを聞こうとしたが、

『出て行け。すぐに帰れ』

その間もなくその中の1匹、

岩の塊のようなポケモンが言った。

『あんたは確かノズパスっていう…

 勝手にここに入ったのは謝ります!

 私たちこの洞窟に居る、

 何でも知っているっていうポケモンに会いたいんです!』

ナミはそのポケモンに頼んだが

『ウィィ!

 いやダメだ、俺たちが会わせなイ!』

隣に居た黒くて目が宝石のようなポケモン、

ヤミラミがすかさず言ってきた。

『…てぇことは、

 オマエらを倒せば会せてもらえるってことか?』

その言葉にケンカっ早いブースターが食って掛かった。

『ちょっと、ブースター』

ナミは訳を聞こうとしたが、

『まぁ、そういう事だ。君の相手はワタシだ』

『おうよ!硬そうだからって舐めてんじゃねぇぞ!』

相性の悪いはずのノズパスの誘いに

ブースターは見事に勇んで行ってしまう。

もう止めるどころか口を挟むヒマすら無かった。

『ちょっと、

 色々と聞こうと思ってたのに…』

それでもナミは何とかして止めようとしたが

『まぁ、いいんでないかい?

 勝てば会わせて貰えるようだし』

エナナがナミの前に身を乗り出すようにして言う。

『ウィッ!そういう事ダ。

 物分かりがいいな、おばちゃン!』

その後ろからヤミラミが言う。

最後の一言は明らかな挑発であったが

『…なるほど、あたしの相手はあんたか』

普段は大人しいエナナが

いとも簡単にその挑発に乗ってしまう。

これも好戦的なポケモンの本能なのだろうか。

あっけに取られているナミの前で、

2匹もあっという間にバトルを始めてしまった。

『ウイィィ!
 
 まぁ“あくタイプ”同士、

 よろしく頼むゾ』

『なるほどそうか…

 ならば小細工は無用だな』

戸惑うナミの前でエナナはそう言うとヤミラミに突進し、

ドカッ!!

『ウヒィィィッ!』

宝石の光るその体を、

いとも簡単に吹っ飛ばした。

少なくともこちらは大丈夫そうである。

『…だったら、

 やっぱり不利な岩タイプと闘ってるブースターを

 水タイプの私が…』

そう思ったナミが動こうとした瞬間であった。

『お姉ちゃん!!』

突然幼い男の子のような声に呼び止められた。

振り向くと、

ヤミラミよりさらに小さいポケモンがそこに居た。

大きなポニーテイルのような頭をしている。

『あなた…、はがねタイプね…』

そのポケモンの、

冷たく鼻を突く匂いにナミはピンときて言った。

確かに何か見覚えがある姿をしているが、

こんな小さなはがねタイプのポケモンなんていただろうか。

『えええっ!

 分かっちゃうの?

 ボクお姉ちゃんと闘えって命令されたんだけど…』

そう言うそのポケモンの声には元気がない。

どうもバトルをしたいという感じではなさそうである。

『でもお姉ちゃん水タイプでしょ?

 ボク泳げないし、

 錆びちゃうから水はキライなのに…

 ううっ、闘いたくないよ

 …うえぇぇぇぇん!!』

と、そのポケモンは突然泣き出してしまった。

『ちょ、ちょっと大丈夫?

 いいのよ、別に私も闘う為に来たわけじゃないし。

 だから泣かないで…』

そう言って、

ナミが戸惑いながらそのポケモンに近づいた時だった。

ガバッ!!

そのポケモンの後ろから真っ黒な影が飛び出すと、

『えっ、きゃぁ!!』

それはナミの体を挟み込みこんだ。

『クスクス…

 ごめんねお姉ちゃん。

 ボクは闘いたくなくても、

 ボクのアゴはバトルしたいみたいなの』

そのキバの根本でさっきまで大泣きしていたポケモンが

口を押えて笑っている。

『このキバは…クチート!』

自分を押さえ込んでいる口を見て、

ナミは思い出した。

あざむきポケモン、クチート。

愛嬌たっぷりの仕草で相手を油断させ、

そこを大アゴでかみつくというポケモン。

ただ仕草だけではなく、

“言葉”でも騙しているのは、

どんなポケモン学者も知らない新事実だろう。

『痛い!放して!!』

ブシュッ!!

そのクチートのキバの中に“みずでっぽう”を吹き付け、

ナミはそこから何とか逃れた。

しかし、小さいクチートにしては思った以上にダメージが大きい。

『うわぁ!

 ごほごほっ、

 お姉ちゃんヒドイ…』

ナミを吐き出したクチートはそう言ってまた涙を浮かべる。

それはもうクチートの騙しのテクニックだと分かっているのに

『うっ!何で可哀想だって』

なぜかナミの心にまだ響いてくる。

これは相手の容姿のせいだけではない。

『これは“わざ”?』

確かポケモンのわざの中に“うそなき”というもの、

相手の特殊攻撃への耐性を大きく下げる技があったはずである。

それを相手が使っているとなると、

今の自分の反応や体へのダメージも納得がいく。

しかもそれをまた受けてしまった。

『どうしよう。

 早くブースターの手助けに行きたいのに』

そう思った時だった。

ズサァ!!

ナミの横でポケモンの倒れる大きな音がした。

ブースターがもう負けてしまったのかと思ったが、

振り向くと毛皮が黒い。

『え、エナナ?』

完全にバトルのペースを握っていたはずのエナナであった。

ブースターはその奥で、

中々ダメージを与えられない相手にムキになって暴れている。

『はぁ、はぁ、

 まだ大丈夫だ。

 まったく何てしぶといヤツだ』

思わず駆け寄ったナミに、

エナナは肩で息をしながらそう言って立ち上がる。

『ウィィ!

 もう終わりカ?

 やっぱ年カ?』

息絶え絶えなエナナに対し、

その視線の先に要るヤミラミは余裕の笑みを浮かべる。

『そんな、最初にあんなに簡単に飛ばせてたのに…』

どう見てもおかしい、

こっちは何発も技が決まっているはずなのに、

なぜエナナが疲れ、ヤミラミが涼しい顔なのか。

『舐めんじゃないよ!

 まだこれからだ!』

エナナはそう言うと、

またヤミラミに“たいあたり”する。

『ヒィィィッ!』

そしてヤミラミが飛ばされる。

さっきから何度か見た光景であったが、

『えっ、今ヤミラミの体が…』

ナミはその時ヤミラミの黒い体が一瞬透け、

エナナの体と重なるのが見えた。

もしかして、これは…

『エナナ、とっしん!』

その瞬間、

ナミはとっさにエナナに向かって言った。

『ナミさん?

 それはさっきからやってるんだが…』

『いいから、とっしん!』

突然の指示にエナナは戸惑って聞いたが、

ナミは同じ言葉を繰り返した。

『ナミさんがそう言うのなら

 …せいやぁ!』

エナナはすぐに“とっしん”攻撃を繰り出し、

そしてまたヤミラミが軽々と飛んでいく。

『こうやってヤツは簡単に吹っ飛ぶんだが、

 何事もなかったように立って…』

エナナは宙を舞った後、

何事も無かったように着地した相手を見て言おうとしたが、

『そうじゃなくてエナナ、

 技の反動は?』

『…そういや、全然無いねぇ』

ナミの指摘を聞いて、

エナナもハッと気づいたようだった。

“とっしん”という技は、

強力な代わりに相手のダメージに応じた反動が必ず付いてくる。

しかし、その反動が全くないということは…

『エナナその人!ゴーストタイプ!』

“とっしん”や“たいあたり”といった

ノーマルタイプの技が全く効果のない相手、

それが“ゴーストタイプ”である。

それならあれだけの攻撃を受けて平気なのも納得できる。

『なるほど、

 最初に“あくタイプ”だと

 自己紹介してくれたのもその為か』

『ウィッ…』

エナナのその言葉にヤミラミが動揺している。

『エナナ、かみつく!

 とにかく、かみつく!』

それを見たナミがすかさず指示をする。

『あいさ!』

ガブッ!

『ウヒィィィ!』

エナナの攻撃に対する、

相手の叫び声がさっきとは違う。

これでもうこっちは本当に大丈夫だろう。

大丈夫じゃないのは…

『だぁ、コイツ!

 このっ!このっ!』

声がした先では、

ブースターがノズパスに飛びついていた。

自分の技がほとんど利かない相手に苛立っているのだろうが、

これではとてもバトルと言える状態ではない。

このままだと相手の攻撃を受け続けるだけだ。

同じ消耗戦をするのだったら…

『ブースター!

 そこでスモッグ!』

ナミはブースターに大声で

どくタイプの技“スモッグ”を指示した。

『“スモッグ”だぁ!?

 あんな弱えぇ技利くわけが…』

『いいから!顔に向かってスモッグ!』

予想通りの反論を、

ナミはさらに声を大きくして打ち消す。

『わ、分かったよ』

ボォォ、

モクモクモク…

ナミの気迫に圧されて、

ブースターは口の中で炎を不完全燃焼させると

スモッグを吐いた。

『うぐっ』

その煙にノズパスは顔をしかめる…が、ダメージはほとんど無く、

すかさず周りに岩を浮かべ始めた。

『“いわおとし”が来る!

 ブースター、かげぶんしん!』

“かげぶんしん”は素早い動きで相手を惑わせ回避率を上げる技。

常にイノムーの如く相手に突っ込んでいくブースターに

半ば無理やり覚えさせた技だ。

『しかたねぇなぁ!』

シュシュシュシュシュ…

ブースターは悪態付きながらも素早い動きでいわなだれを避けていく。

『よし!

 もう一度スモッグ!』

相手の攻撃をかわしたブースターにナミは再び指示を出す。

『無駄だって言ってんのに…』

ボォォ、モクモクモク…

やはり文句を言いながらも

ブースターはその通りスモッグを出す。

そのやり取りに、

ナミは何年も忘れていた感覚が蘇ってくるのを感じた。

『うぐっ!ごほっごほっ…』

するとスモッグを受けたノズパスが突然咳き込み、

膝をつくようにうずくまった。

『やった!

 “どく状態”になった!』

これなら有効な攻撃を与えられなくても、

時間と共に相手の体力は減っていく。

『よし!

 だったらもう好きに攻撃してもいいよな?』

初めて効果のあった攻撃に

ブースターはまた暴れたそうに言ってきたが、

『ダメ!

 あとは“ほのおのうず”で時間をかせぎながら、

“かげぶんしん”で回避を積んでおいて!』

ナミは最後まで戦うために、

バトルに勝つためにブースターに釘をさす。

『ちぇっ、分かったよ』

そう言って後ろを向いたブースター、

そしてその先に見える相手のポケモン。

今見えているその景色、

それこそがポケモントレーナーとしての

有るべき風景。

今この瞬間、

自分がやらなければいけない事を思い出していた。

エナナにもブースターにも指示は出した。

そして今度は…自分への指示!

『お姉ちゃん、

 もういいの?
 
 ボク泣き疲れちゃったんだけど?』

そう言って涙目の、

しかし口元が笑っているクチートが言う。

どうやらエナナ達に指示している間にも、

“うそなき”を続けていたらしい。

だがもう“彼”への対策も考え付いていた。

『ええ、待たせえてごめんね。

 お姉ちゃんポケモンだけど、

 トレーナーでもあるから』

そう言ってナミはクチートに微笑みかけた。

『…え??』

あざむきポケモンクチート、

自分の可愛い顔でポケモンを騙すのはお手の物でも、

バトル相手の笑顔には慣れてないらしい。

『そんな顔で油断させるなんて悪いコね。

 でもその可愛い顔はお姉ちゃんも好きよ?』

そう言った瞬間、

ナミの背後から無数のハートマークが飛び出すと、

クチートに向かって飛んで行った。

『え??

 あっ!

 お姉ちゃん…??』

それを受けたクチートの目も同じ形へと変化した。

これは異性のポケモンの動きを封じる技“メロメロ”。

自分の匂いで相手を誘惑するみたいだし、

使った後のブースターの嫉妬も鬱陶しいので

普段は使わないようにしているが、

今はそう言っていられない状況である。

『あぁ、シャワーズのおねえちゃん…』

フラフラとした足取り、

クネクネした動きでクチートが近づいてくる。

『う〜ん、

 自分のせいでそうなっちゃったところ悪いけど、

 私もポケモンでこれはバトルだからゴメンね』

プシャァ!!

そんな様子のクチートにナミは容赦なく

“みずでっぽう”をおみまいした。

『わぁぁ、おねーちゃーん』

クチートはその水溜りの中で猫撫で声を上げていた。

しかし続いて

ナミの“なみのり”の波がクチートを襲う。

ザバーン!!

それでもクチートはまだ好色な目をして攻撃してこない…

メロメロが利き過ぎてしまったのだろうか。

『ギョエエェェェェェェェェェェッ!』

その時、後ろからものすごい叫び声が聞こえた。

見るとエナナがヤミラミを口に咥えて立っている。

よほど強く噛んだのだろうか

ヤミラミの背中の青い石は割れてしまっている。

ギロッ!

ヤミラミを咥えたまま、

エナナの眼がこっちを向いた。

バトルで気が立っているのかグラエナの赤い目が

より一層見開いている。

『うっ…

 エナナったらもう…』

ポケモンバトルでは相手の命までとってしまう事は無いと分かっていても、

…その姿はやっぱり怖い。

『はぁ…はぁ…』

『ふぅ…ふぅ…』

その向こう側では息絶え絶えなブースターとノズパスの姿。

始めはブースターの方ばかりダメージを受けていたのが、

ノズパスにもどくの効果がじわじわと溜まって来たようだ。

2匹とも体力をほとんど消耗し立っているのがやっとの状態だが、

ブースターの回避を上げた今、

ノズパスの方が先に倒れるのも、

もう時間の問題だろう。

『そして私の相手は…』

クチートはメロメロ状態。

相変わらず目の前のシャワーズに心奪われているようだ。

これ以上焦らすのも可哀想である。

『じゃぁトドメのなみのり!』

そう言って、

ナミが自分の周りの水で波を作ろうとしたときであった。


『全員そこまで!』


突然その声が洞窟に響き渡ると。

フワッ…

『ええっ!』

ナミの体が浮き上がり、

ザバーー!

波となっていた水は一気に地面に崩れ落ちた。

『これは、さっきのねんりき?』

そう思ってナミが周りを見渡すと、

クチートやノズパスにブースター、

そしてねんりきが利かないエナナは

ヤミラミを咥えたまま平たい岩に乗せられて、

全員宙に浮かんでいた。

そして他にもう1匹。顔から長いヒゲを生やし、

手には銀色に輝くスプーンを持ったポケモン。

『全員よくやった。

 今からエラー様の所に案内してやろう』

ユンゲラーが6匹の真ん中で“ねんりき”を操っていた。

『エラー様って、

 もしかしてこの洞窟の…』

『そうだ。

 “この洞窟に居る何でも知っているっていうポケモン”

 …の事だ、トレーナーさんよ』

ナミの言葉にそう答えたユンゲラーは念を強め、


『テレポート!』

シュンッ…


その一言でその場に居たポケモン達は一瞬にして

全員姿を消したのであった。


 つづく…


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