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  [No.1668] 第2章 第4話・友の子 投稿者:都立会   投稿日:2019/09/23(Mon) 20:36:24   11clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

町を抜け、道の脇を通り、獣道を進み、

ナミとエナナは森の原っぱに帰ってきた。

そこに見えたのは

『パパぁ、パパぁ、大丈夫?』

『父さん、しっかりしろよぉ』

緑の草の上に重なって倒れている2匹のポケモンと、

そんな父親にすがりつく子供達の姿。

『引き分けね…』

『相打ちか…』

それを見た母親らはそうつぶやくと、

すぐに彼らに駆け寄った。

そしてナミはウエストポーチから買ったばかりの

“いいきずぐすり”を取り出すと、

2匹の傷ついた体にかけてあげた。

『サンキュー、ナミ』

『すみませんナミさん』

少し元気になったブースターとバシャーモはナミに礼を言うと、

『おまえのあの蹴り、利いたぜ。

 さすが格闘タイプだよな』

『そっちこそ、いろんな技を覚えてるじゃないか。

 おまけに炎は全然利かないし…』

と草の上に座ったまま互いの強さを認め合っている

…かと思いきや、

『でも、あそこでおれが当てていたら勝てたよな』

『何だと!それならオレこそ…』

とすぐにまたやり合いそうな雰囲気になっている。

しかしそんな2匹の前に黒い毛皮が近づくと

『止めんか!旅の前からナミさんに苦労かけてどうすんだい!』

とエナナは一喝。

そのグラエナの気迫に傷のまだ癒えない2匹は、

『はい…』
『はい…』

と小さく言ったきり一瞬で大人しくなった。

一仕事終えたエナナは『ふぅ』っと息をつくと

『どうだいナミさん。

 アイツを置いていったら毎日こんな感じだよ。

 どうするね?』

と後ろのシャワーズに困った顔を作って聞いた。

つられてナミも苦笑いすると

『そうね、連れて行くしかないみたいね』

と半ば諦めた感じで言い、一匹のポケモンに歩み寄った。

彼を連れて行くためには彼女にその事を言って、

納得してもらわなければいけない。

元気になったブースターの背中に嬉しそうにべったりとくっついている

茶色いそのポケモンにナミは近づくと、

『なっちゃん、あのね…』

とイーブイの目の高さにしゃがむと声をかけた。

いつもと違う母親の雰囲気に

『何なの?』という顔をしている娘にナミは

『ママとパパね、

 これからしばらく出かけなくちゃいけないの』

とゆっくりと話しかける。

『出かけるって、また町まで?』

『ううん、もうちょっと遠い所なんだけど…』

娘の問いかけにナミは曖昧な答えると、

イーブイの顔に息に不安が広がった。

『晩ごはんまでには戻ってくるんだよね』

『いいえ、もうちょっとかかるんだけど点』

『じゃぁ夜、寝るまでには帰ってくるよね』

『それは…』

歯切れの悪い母親の答えにイーブイは

『ねぇパパそうなんでしょ?』

今度は父親の顔を見上げて聞いた。

『う〜んと、行くのは海の向こうだからそうだな、

 行くだけで数日。

 それにもしかしたらママはもう…』

『ブースター!』

ナミの叫ぶような呼びかけにブースターがはっと娘を見ると、

イーブイのその茶色い目が潤んでいる。

『なっちゃん聞いて。

 ママたちちょっと遠いところにいるポケモンさんに

 会いに行かなくちゃいけないの。

 会って少しお話して、

 そしたらすぐに帰ってくるから、

 それまでここで待っていてほしいの』

ナミはすぐブースターの言葉を取り消すように言うと

『それならわたしも行く!

 だってこの前もわたし、

 ママのパパとママの所までいけたんだもん』

心配したとおりイーブイは一緒に行きたいと言い出した。

『それはダメ。

 もっと遠いところなのよ』

『もっと遠くたってわたし平気だよ!』

『行くのは海の向こうなのよ。

 そんな危ないところ連れて行けるわけないじゃない』

『大丈夫だって。

 お願い、置いてかないで!』

『でもなっちゃん、あのね…』

どうも今朝のブースターとの会話を

繰り返している感じになってしまった。

違うのは今度こそ本当に連れてはいけないこと。

やっぱりムリヤリ置いていくしかないのか。

そうナミが思った時、

『レナ、ちょっと来なさい』

と後ろで声がすると、

エナナがポチエナの子を連れて来た。

『なっちゃん。

 ほら、レナ君だよ』

グラエナは自分の子供をイーブイに見せると

『レナ君はね、

 ママたちが会いに行っている間ココに居るんだけどね、

 あたしが居ないと寂しいって言うんだよ』

と言う。

『え、そんなこと…』と言おうとしたポチエナの口を、

エナナは塞ぐように体を寄せると、

『だからね、

 代わりにだれかレナ君と一緒に居てほしいんだけどね。

 そうだねぇ、

 できれば同じくらいの年で、

 大きさも同じくらいの友達がいいんだけどねぇ…』

と言ってイーブイのことを見ながら言う。

そしてイーブイがグラエナの言っていることが分かったという顔をした瞬間、

『なっちゃん、やってもらえないかな』

エナナはすかさずそうお願いをする。

『え、でも…』

返事に困っているイーブイに

『どうしてもレナ君を一人にしておくのは、

 おばちゃんも心配なんだよ。

 仲のいいお友達が一緒なら嬉しいんだけどね』

と言ったエナナはさらにヒソヒソ声で

『それにだよ、

 パパもママが居ないってことは、

 1日中ずっとレナ君と一緒に

 遊んでいられるってことだよ』

と、ニッと笑みを見せて言った。

それでもイーブイがどう答えていいのか迷っていると

『あれ、それとももしかしてレナ君は嫌いかい?』

エナナが逆に聞いた。

『ううん、大好き!』

イーブイがしっぽを振って答えたのを見るとグラエナは

『レナもなっちゃんと遊びたいよね』

今度は自分の子に聞いた。

『うん!もちろん!』

ポチエナも元気に答える。

『よし、決まった。すぐに遊んであげなさい』

エナナは2匹の子供に言うと

『行こう、なっちゃん』

『うん!』

2匹のポケモンは原っぱに駆け出していった。


『ありがとうエナナ。

 本当に何から何まで…』

暖かい母親の目で見送るグラエナに、

ナミは申し訳ない気持ちでいっぱいで言った。

『いいんだよナミさん。

 私もあんな可愛い子達に

 寂しい思いなんかさせたくないんだよ』

そうエナナは原っぱを駆け回る

ポチエナとイーブイを見つめながら言うと、

『ほら、いまのうちだよ。

 早く帰ってあの子を安心させるためにも、

 すぐ出発しようじゃないか』

と促した。

『ええ、すぐに準備するから待ってて』

そういうとナミは早速旅支度を始めた。

傷薬やポケモン図鑑、

そしてビニールに入れたラムや食料用の木の実をポーチに入れ、

念のためにわざマシンも左端に入れてしっかりファスナーを閉めた。

そして帰ってきてから植える木の実を

袋に入れて洞穴の横に隠していると、

エナナがポケモンの食べる木の実の中でも

特に大きい実であるカイスを2つ採ってきた。

これは自分らが持っていくのだという。

いきなり指名されたブースターは初め渋っていたが、

『ブースターには大きすぎるのかもね』

とナミが言うと一変、

『な、平気に決まってるだろ!』

と言ってカイスを咥えて、

さっさと獣道の方に行ってしまった。

『ははは、やるねぇ。

 …おっと、大切なものを忘れてたよ』

一言でブースターを見事に操ったナミに

エナナは関心して笑ったエナナは、

洞穴から何かを咥えてきてナミが背負ったポーチの中に入れ

『よし、これで大丈夫だね。

 じゃぁ後は頼んだよ。

 目を離すんじゃないよ』

と子供たちを見守っているチャモに念を押すように言った。

『木の実は採ってすぐのを食べさせてね。

 よろしくお願いね』

頷いて答えるバシャーモにナミも言うと、

最後にポケモンの走り回る音のする原っぱの方に向かって

『じゃぁ、レナ君のことお願いね』

と呼びかけた。

『分かってる!

 いってらっしゃい!』

草の中から返ってきた元気な娘の声にナミはほっと胸を撫で下ろすと、

先に行ったブースターを追って獣道へとその一歩を踏み出した。


『…なぁ、別に重いから言うんじゃないけど、

 島までずっと咥えていくのかコレ』

『なに、海までだからもう少し辛抱しな。

 …こっちだよ』

文句を言うブースターをなだめながら

エナナの案内で暗い森から道路に出ると、

いつも行く町とは反対の方へ足を向けた。

しばらくして道路から下へと降りる大きな階段を1段1段下っていくと、

そこには大きな砂浜が、

その先にはもっと大きな青い海が広がっていた。

遠くで走り回って砂浜に足跡を付けている子供や

静かに糸を垂らしている釣り人も姿が見える。

ナミたちは彼らに気づかれないようにそっと波打ち際まで来ると、

カイスの実を砂の上に下ろしたエナナが海を指した。

『見えるかい。

 あそこに茶色い岩があって、
 
 その先には灰色の岩が並んでいて

 また茶色の岩がある。

 オオスバメの話だと、

 それが例のポケモンのいる島まで

 一直線に続いているそうだ』

『じゃぁ、その岩伝いにいけば、

 その島まで行けるのね』

ナミも海から突き出す岩を見て言った。

大きく上下する波の間から見え隠れする岩の列の先、

目をじっとこらしても見えるのは遠くの岩の頭だけ。

しかしこれから島は到底見えそうにない。

これはかなりの長旅になりそうであった。

やはり2匹も背負って海を渡るのはとても危険である。

行き方も分かったし、

エナナ達には戻ってもらおうとナミが思った時であった。

『ちょっと、エナナさんよぉ』

自分ではなく、

後ろにいるブースターがエナナに声をかけた。

『とりあえずコレはどうするんだよ。

 ここまで持って来たけど、

 まさかもう食べるつもりなのか?』

とカイスを突付きながら言った。

『もちろん持っていくさ。

 大事な食料なんだから』

さらっと言うエナナに

『え、でもそんな大きなの咥えたままじゃ危ないわよ』

ナミも慌てて指摘した。

『…オイオイ、

 ナミさんまですっかり野生のポケモンだねぇ。

 忘れちゃ困るよ。

 あたしたちはナミさんのポケモンだということを』

そう言うとエナナはナミのポーチに口を突っ込むと、

出発するときに入れたものを1個ずつ出した。

『あ、それって…』

目の前に置かれた赤と白の2色のボールに

ナミははっとして言った。

『そうだよ。

 あたしたちがこれに入れば、

 ナミさんだって重くなくていいだろ』

とエナナは自分のボールに前足を置いて言った。

トレーナーが自分のポケモンを入れておくためのボール、

それがモンスターボールである。

『しっかりしておくれよ。

 2匹重ねて背負ってくつもりだったのかい。

 せっかくこういう便利なものがあるんだから使わないとだね』

確かにエナナの言うとおり、

これは使わないという手はなかった。

しかし、

『ちょっと、

 ポケモンになってからは何だか使いづらくてね…』

とナミは苦笑いしながら言った。

シャワーズになって以来、

どうもこのポケモンを中に入れるボールは苦手であった。

それ以来使う必要もなくなったので、

ずっと木の洞穴の奥に隠すようにしまってあったのだ。

しかし今日はそんなことよりも、

できるだけ安全に島へ渡るのが何よりも重要である。

『それじゃぁ、久しぶりにお願いするよ』

エナナはそう言ってカイスの実を咥える。

ポケモンが何か持っていれば、

1つだけなら一緒に入れることができる。

ナミは2つのボールのボタンを押して一回り大きくすると、

『じゃぁ、いくわよ』

というナミの言葉に頷いて答えるエナナにボールを向けた。

その瞬間、ボールから赤い光線が飛び出しエナナへと伸びると、

黒いグラエナの体を咥えている実もろとも真っ赤に染めた。

グラエナの輪郭がゆらゆらと揺れたかと思うと次の瞬間、

赤い光の塊となって大きな音とともに

ボールの中に吸い込まれていく。

そして全ての光が入ると蓋が閉まり、

元の静寂の戻った砂浜には小さなボールだけが残った。

『エナナ、聞こえる?』

とナミはボールに心配そうに呼びかけてみると

『(ああ、聞こえるよナミさん。

 懐かしいねこの感覚。

 久しぶりにゆっくりさせてもらうよ)』

中からエナナの声が聞こえた。

普段と変わりないエナナの声にナミはほっとすると、

『じゃぁ、次はあなた。

 準備して』

と、もう一つのボールを用意した。

『よっと、早くしてくれよ』

カイスの実を持ち上げてそう急かすブースターに

ナミはボールを向けると、

ボールから出た赤い光がブースターをより赤く染め上げる。

そして赤一色の光となったブースターは勢いよくボールの中に飛び込み、

ボールを何度か横に揺らした後やっと静かになった。

『(やっと入ったようだね。

 それじゃぁナミさん、

 よろしくお願いするよ)』

『(た、頼むから途中で置いていったりしないでくれよ)』

2つのモンスターボールからの声に、

『ええ、任せて。

 じゃぁ行くわよ』

ナミは気合を入れて答えると、

ウエストポーチの止め具にしっかりとボールを取り付け、

寄せては引く波へと向かっていった。


つづく…


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