マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
このフォームからは投稿できません。
name
e-mail
url
subject
comment

[新規順タイトル表示] [ツリー表示] [新着順記事] [留意事項] [ワード検索] [過去ログ] [管理用]

  [No.1662] 第5話・銀の玉 投稿者:都立会   投稿日:2019/09/23(Mon) 20:29:07   5clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

朝。

カチリ!

窓から差し込んだ日差しでナミは床の上で目を覚ました。

ベッドではどうも寝心地が悪かったらしく、

いつの間にか床に落ちていたのである。

壁の時計を見ると、すでに8時を過ぎていた。

『あっ!』

寝坊をしてしまったことにナミは気づくと、

大急ぎで準備をはじめる。

要していたポケモンフーズを少し食べ、

ナミは鏡の前でウエストポーチとみどりのバンダナを身に付ける。

『よしっ』

これでトレーナーに可愛がられているポケモンの出来上がりである。

カチリ!

時計の針が9時少し前を指したところで、

ナミは部屋から出るとドアの前に座り

それが来るのを待つ。


それからしばらくの後、

エレベーターが上がって来た。

『来た』

響き渡るエレベータの音でナミはそれを察知すると、

ポーチの中から徐にポケモン図鑑をくわえて取り出す。

エレベータが静かにナミの正面に止まり、

そして、ドアが開くと、

中から出てきたのは1人の配達員だった。

「よっこらっしょ」

配達員は包装された大きな荷物を抱えていて、

「えっと…

 んーと、ここだな…」

配達員は荷物の送り先を再度確認し、

ナミに向かって近づいてきた。

そして、

「おや?」

玄関前に座るナミを見つけると、

「おや、お留守番ポケモンか。

 えらいね〜。

 それともご主人様は

 まだおねむかな?」

ナミに向かって配達員はそう尋ねると

サッ

ナミは咥えていたポケモン図鑑を配達員に向かって差し出した。

「じゃぁ、

 預かるね」

配達員はシャワーズからポケモン図鑑を受け取り、

機械に当て注文者の確認を始め出す。

それが終わると彼は図鑑をシャワーズに返し、

「それではポケモン君。

 これをご主人様に渡してください」

と言いながら抱えてきた小包をドアの横に置き、

ナミの頭を一撫ですると帰っていった。

エレベータのドアが閉まり配達員の姿が見えなくなると、

ナミはキョロキョロと周囲を確認し、

急いで後ろのドアを開けると、

重い箱を押しながら部屋の中へと入れる。


『ふぅ』

一仕事を終え、

ナミは一息入れるが、

だが、直ぐに次の作業が待っていた。

バリバリバリ!!

いやな味を我慢しながらナミはビニールテープを口ではがし

小包のふたを開ける。

中には沢山のドリンク剤とディスクが1枚、

そして見覚えのある木箱が入っていた。

まずナミはドリンク剤を1本ずつ出し、

種類別に並べてみる。

6種類のビンがそれぞれ10本ずつ、

注文通りである。

『どれからにしようかな…。

 とりあえずシャワーズの能力に

 あった物からね』
 
そう呟くとナミは

“マックスアップ”、

“リゾチウム”、

“キトサン”、

“インドメタシン”、

“ブロムヘキシン”を次々に飲んでいった。

50本目のドリンク剤を飲んだところで、

ナミはお中がもうタップタップになってしまい、

これ以上飲めなくなってしまった。

残ったタウリンはエナナへのお土産に持って帰ることにした。

次にディスクをケースから取り出すと、

ナミは新しい技、

“ふぶき”を覚えた。

そしてポケモン図鑑と10本のタウリン、

木箱を入れたウエストポーチを背負うと、

ナミはドアを開け、自分の部屋を出た。

もうここには住めなくはなったが、

あと何回かは通う事になりそうだとナミは思った。

慎重にナミは階段を下りると、

茂みの中を隠れるようにして

エナナのいる森に向かって走り出した。


町を出てしばらくしたところで

ナミは休憩することにした。

やはり朝にガブ飲みした

ドリンク剤がお腹にこたえたようである。

ナミはドリンク剤が詰まって重いウエストポーチを外し、

草むらの中に隠した。

チチチ…

燦々と日が差すいい天気だが、

夜中に雨が降ったのか、

地面が所々濡れていた。

ほのかに湿った風が、

ナミにとってまた心地よかった。

空を見上げると

雲がゆっくり流れており、

空高く鳥ポケモンが優雅に飛んでいるのが見えた。


しばらくうっとりして空を眺め、

そろそろ行こうと思った時である。

ナミはすぐ近くに、

とてつもない気配を感じた。

この気配、

そしてにおい…、

人間である。

ナミは慌てて振り向くと

そこに1人のトレーナーが立っていた。

一日部屋で過ごして

すっかり気が抜けていたナミは、

空に見とれていて今まで全く気が付かなかった。

「なんだ?

 このポケモン。
 
 見たことないな〜」
 
そのトレーナーはナミをまじまじと見て言った。

青い帽子に黄色いシャツ、

そして帽子同じ色の短いズボンをはいた少年。

年はナミよりずっと下、

トレーナーになって一年経ってないぐらいである。

「珍しいポケモンかな。

 よ〜し、
 
 ゲットしてみんなに自慢してやろっと」
 
これはもうバトル開始である。

ナミは自分の不注意を後悔したが、

もう戦うしかなかった。

何としてでもここで捕まるわけにはいかない。

ナミの初めてのバトル、

しかも相手はトレーナーで何匹もポケモンを持ってるが、

とにかく今自分が持っている力を信じてやるしかない、

勝つしかない。

ナミはそう覚悟を決めた。

「見た感じ水タイプだな。

 …それなら、
 
 行っけ!
 
 ジュン!」

そう叫びながらトレーナーは草タイプのもりトカゲポケモン、

ジュプトルをくりだした。

見た感じレベルは今のナミより少し上ぐらいである。

「ジュン、

 まずはすいとる攻撃!」

ジュプトルは地面を1蹴りすると、

一気に間合いを詰めてきた。

そのまま吸い付いてこようとするのを

ナミはとっさに横に避けた。

ふしぎなあめとドリンク剤のおかげで、

昨日に比べナミの体は驚くほど軽かった。

ナミは地面にしっかりとふんばると、

さっき覚えたばかりの技、

“ふぶき”を使った。

ナミは周りの空気中の水分を凍らせて結晶にすると

それは目の前のジュプトルに向けて吹き付けた。

思わぬ大技にジュプトルは避けることも出来ず、

氷の攻撃をまともに喰らい、

目を回して倒れた。

「ウソ!

 こいつふぶきなんて使えるのかよ!」

びっくりしたトレーナーはそう言うと、

ジュプトルをボールに戻した。

「それならこっちも…、

 行けアナン」

トレーナーがボールを投げると、

中から出てきたのはアサナン、

さっきのジュプトルよりもかなり強そうである。

「アナン、

 親譲りの技見せてやれ!
 
 とびひざげり!」

アサナンはふぶきに負けない大技、

“とびひざげり”をつかった。

アサナンのひざは

とっさに横に避けようとしたナミの脇腹にヒットし、

ナミの体力の半分近くを減らした。

あと1回喰らったらひんし寸前、

捕獲しごろになってしまう。

何とかして倒さなければならないが、

普通に攻撃してもレベル差がありすぎた。

そう思ったとき、

ナミにある考えが浮かんだ。

『水は…、

 あった!』

草むらの近くに水たまり。

それを確認するとナミは

相手に体当たりをするように、

アサナンめがけて走り出した。

「来たな、

 たいあたりか。
 
 アナン、
 
 もう一回とびひざげり」

アサナンはナミがぎりぎりまで近づくのを待って

飛び上がった。

その瞬間、

ナミはアサナンの真下で体をひねり、

“てだすけ”を使って

アサナンを空高くへと押し上げた。

アサナンは攻撃相手のポケモンに

自分の技をてだすけされ驚いていたが、

空中で姿勢を整えると

真下にいるシャワーズ向かって

ひざから突っ込んでいった。

だが、

そこにシャワーズの姿は無かった。

ナミはアサナンを押し上げた反動で、

水たまりに“ダイビング”していたのであった。

勢いあまったアサナンは

高い所から地面にまともにぶつかった。

何とか立ち上がろうとしたアサナンだったが、

その直後自分の真下の地面が割れて

水が噴き出したかと思うと、

中からシャワーズが飛び出し、

ダイビングの水ごとアサナンをまた空中へと突き上げた。

さすがのアサナンもノックアウトであった。

「アナン!

 いったい何なんだよコイツ。
 
 ポケモンがこんな技の使い方するなんて、
 
 聞いた事ないぞ」

普通なら覚えている技を手当たり次第に使ってくるだけの野生ポケモンが、

思わぬ頭脳攻撃をしてきたことにトレーナーはたじろいでいた。

だがその一方で、目の前のこの未知のポケモンを

捕まえたいと言う気持ちが強まっていくのは、

彼の目を見れば明らかだった。

「こうなったら

 ぜったい捕まえてやる。
 
 バメオ!
 
 でんこうせっか!」

その声と同時にオオスバメが出てきて、

“でんこうせっか”で攻撃してきた。

ナミはすぐにふぶきで撃退。

「コンコも

 でんこうせっか!」

次のロコンも

“でんこうせっか”をしてきた。

こちらもなみのりですぐにやっつけたが、

2匹の素早い攻撃でナミはかなりのダメージを負ってしまった。

回復したいが、

相手が自分を捕まえようとしている以上、

無防備に眠るわけにもいかなかった。

相手の残りはどうやらあと2匹。

できれば相性のいいのが出てきてほしい、

ナミは心の中で祈った。

「だいぶ弱ってきたな。
 
 よっし出番だ、
 
 ルイ!」
 
ボールから出た銀色の丸いポケモンに、

『ウソ…

 もうダメ…』

ナミは体が震えた。

そこに居たのは、

じしゃくポケモン、コイル。

水タイプの天敵、電気タイプである。

しかもほとんどの攻撃を受け付けつけない

はがねタイプも持っている。

レベルは低めのようだが、

シャワーズとの相性は最悪である。

「ルイ!

 でんじは!」

コイルはその電帯質の体から

“でんじは”を出した。

ナミはダイビングでかわそうとしたが、

電磁波を受けて体がまひしてしまい、

すぐに地上に出てしまった。

「ようし、

 仕上げだ。
 
 でんきショック!」
 
コイルはが放った電気は、

ナミの頭からしっぽの先まで貫いた。

ナミは目の前が一瞬真っ白になり、

体の隅々までダメージを受けたのを感じた。

何とか踏みとどまったが、

もう限界である。

「よし、

 そろそろいいな。
 
 こんな珍しいポケモンを捕まえるなら、
 
 このボールだ。
 
 いけ!
 
 プレミアボール」

トレーナーはナミに向けてプレミアボールを投げた。

プレミアボールは何かの記念に作られた

珍しいタイプのモンスターボールで、

普通のモンスターボールとは異なり表面が銀一色に光っている。

ナミは避けなければと思ったが、

電磁波のせいで体がしびれて言う事を聞かない。

そんなナミに向かって、

ボールが近づいてくる。

必死のナミは銀色のボールが自分に向かって

ゆっくり近づいてくるように見えた。

あと1メートル、

『何とか避けなくちゃ…』

あと50センチ、

『足さえ動いてくれれば…』

あと10センチ、

『おねがいだから、動いて…』

あと5センチ…、

『イヤ!ダメ!!来ないで!…』

あと1センチ…、

『もうだめ…!当たる!』

ボールが目の前まで来た時、

ナミは目を閉じた。

ナミは初めてポケモンを捕まえた時のことが頭に浮かんだ。

キノココにボールが当たると、

それに反応したボールの口がパカっと開き、

ポケモンが光ながら吸い込まれていく。

バトルに疲れたキノココは暴れもせずにボールの中に入った…

それが今、

自分に起こるのである。

そう思った瞬間、

ボールが腰に当たって跳ね返るのが分かった。

ナミは、

その時を待った。

多分、

まともな抵抗はできない。

ボールの中に入ったら、

自分はもうこのトレーナーの物である。

もうエナナには会えない。

“必ず帰ってきます”

そう残したのに、

もう帰れそうにない。

目をつむったままナミは

心の中でエナナに謝りながら、

ボールが開くのを待った…

時間がゆっくりと流れる。

その時が来るのがとても長く感じられる。

少しでも動いたら、

また時間が流れはじめるような気がして、

じっと身構えたままナミは動けなかった。

とても長く感じられる時間。

自分にはもう何十秒も経ったような気がする。

もうすぐボールが開き、

中に吸い込まれる。

もうすぐ、

もうすぐ…。


「なんでだよ!」

その時突然、

トレーナーが叫ぶのが聞こえた。

ナミはハっとして目を開けた。

そこに見えたのはすごい顔をして睨んでいるトレーナー。

そしてその視線の先に落ちている銀色のボール。

ナミはすぐには何が起こっているのか理解できなかった。

「なんでゲットできなんだよ!」

そう叫ぶトレーナーは

自分のポケモン図鑑を取り出した。

図鑑はアラームを発している。

「何だよ!

 コイツ、
 
 トレーナーのポケモンじゃないか。
 
 何でこんな所にいるんだよ!」

ナミはようやく状況が理解できた。

他人のポケモンをとるのはドロボウである。

そのためモンスターボールもすでにトレーナーが捕まえて

登録されているポケモンには、

投げても反応しないようになっている。

ナミはシャワーズになった時、

自分のポケモンとして図鑑に登録されていたことを初めて知った。

「このナミってトレーナーは

 どこにいんだよ。
 
 自分のポケモンを野放しにするなよな。
 
 クソッ!
 
 ぬか喜びしちまったじゃねぇか。
 
 こうなったら倒してやるまでだ。
 
 ルイ!
 
 でんきショック!」

悔しがりながらトレーナーはポケモンに命令した。

あいてのコイルの

“でんきショック”が

ナミにヒットした。

だが、ナミはびくともしなかった。

もう捕まえられることはない、

そう分かった瞬間ナミはすかさず

“ねむる”を使っていたのだった。

ねむると体力は一気に回復する。

「ねむるが使えるなんて

 ずるいぞ!
 
 そうか、
 
 さっきもふぶきも
 
 トレーナーに教えてもらってたのか。
 
 出て来い、
 
 ナミってトレーナー!」

トレーナーは怒って、

コイルの電気をナミに浴びせさつづけたが、

体力が回復してしまえば特殊防御に優れたナミにとって、

自分よりもレベルの低いコイルの攻撃なんかは全く問題にならなかった。

ナミは目を覚ますと、

渾身の力で

“なみのり”を繰り返し出した。

何重にも寄せてくる特大の波に呑まれたコイルは

自分の電気に感電し、

ついに戦闘不能になった。

「ヤバイ!

 トレーナーがいない時の
 
 ポケモンに負けたりなんかしたら、
 
 かっこ悪すぎ」

トレーナーは言った。

怒りの感情があせりに変わっているのが、

顔中に出ていた。

「頼むぞ!

 アゲハ!」

トレーナー最後のポケモンは

アゲハントであった。

ナミよりもレベルは上のようだが、

もうそんな事は問題ではなかった。

「アゲハ、
 
 しびれごな!」

トレーナーはまたナミを麻痺させようとしたが、

元気になったナミは攻撃をあっさりとかわすと

ふぶきをおみまいした。

なんとか耐えて

“あさのひざし”を使って

体力を回復しようとするアゲハントに、

ナミは容赦なくもう一度冷たい結晶を吹き付けた。

「うわぁ!

 アゲハまで!」
 
そう叫びながらひんし状態になったポケモンを

ボールに戻すトレーナーに、

ナミはゆっくり近づくと思いっきり

『私を捕まえるなんて

 どういうつもりよ!
 
 どっか行ってしまいなさい!』

と怒鳴ってやった。

言葉は通じたかどうか分からないが、

シャワーズに吠えられたトレーナーは、

一目散に走って逃げていった。


ナミはトレーナーの姿が見えなくなると、

ぺったりと道の上に座り込んだ。

まだ息が荒い。

『わたし…、

 勝ったのね』

初めてのバトル、

負けたら最後と思ったバトル、

そして一度はもうダメだと思ったバトル。

それに勝ったのだ、

それも自分ひとりの力で6匹ものポケモンを相手して。

ナミは疲れた一方、

この上ない喜びを感じていた。

シャワーズになって、

初めて歩けた時とも

泳げた時とも違う、

この充実した気分。

もう怖いものなどない。

バトルもちゃんとできたし、

いつトレーナーに捕まるかどうか心配することも無くなった。

ナミはすっかり自信に満ち溢れていた。

『とりあえず、

 またトレーナーに見つからないように
 
 隠れておこう。
 
 そうだ、
 
 あれも確認しておかなきゃ』
 
ナミはいったん冷静になり、

ウエストポーチを隠している茂みに戻ると、

ポーチをくわえて低い木の裏に回った。

そしてポケモン図鑑を取り出すと、

自分のことを調べた。

基本データの画面の一番下を見るとそこには

“おやのトレーナー:ナミ(ID:*****)”と出ていた。

『そうだったの。

 私は私のポケモンになっていたのね。

 これならあのトレーナーは
 
 私をゲットできないわけね。

 あの人、

 プレミアボールなんて貴重なもの使っちゃって、

 今ごろ怒って私のことを探しているのかしら』

いるはずもないトレーナーを

必死に探しているあの少年の姿を想像すると、

ナミはとてもおかしくなって笑ってしまった。

ナミの心は頭上に広がる青空のように、

晴れ晴れとした気分であった。

『とにかく、

 私の初勝利、
 
 おめでとう!
 
 やった〜!』

そう言ったナミは空中に向け、

口から水を高々と吹き上げた。

それに図鑑が反応し、

画面に文字が出た。


“シャワーズはレベル16にあがった。

 シャワーズはあたらしく、

 みずでっぽうをおぼえた。”


つづく


- 関連一覧ツリー (★ をクリックするとツリー全体を一括表示します)

- 以下のフォームから自分の投稿記事を修正・削除することができます -
処理 記事No 削除キー