マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.1660] 第3話・緑の湖 投稿者:都立会   投稿日:2019/09/23(Mon) 20:25:39   13clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

ナミは夢を見ていた。

小さい頃、母と2人で野原に出かけた時の夢だった。

ナミは草の上を走り回り、すっかりはしゃいでいた。

突然、彼女の近くの背丈の長い草むらからガササガと音が響くと、

そこには見ると1匹の白と茶色のシマシマのポケモンがいた。

「ママ、

 ポケモンさん!」

ナミは母を呼ぶと、

「あら、

 ジグザグマさんね。
 
 かわいい子ね」

とジグザグマを見ながら母が笑う。

その時。ジブザグマはナミ達の存在に気づくと

ザザザ…

野原をジグザグに走り始めだした。

「ママ、私、

 じぐざぐまさんと遊ぶ」
 
そう声を上げてナミはジグザグマの後を追い始めると、

「あんまり遠くに行ったらダメよ」

その後ろから母が声を掛けた。


ザザッ

ザザッ

ジグザグマは野原をジグザグに走って逃げ、

ナミもそれを真似してジグザグに走る。

ジグザグマは時々止まっては

ナミの方をチラリと見てまた逃げる。

ナミもそれを真似して

また追いかける。

そうやってジグザグマとナミは

緑の野原をどこまでも走っていった。

そんな追いかけっこをしばらくしていると、

ピクッ!

ジグザグマの耳が微かに動いたと思った途端、

ザザザザ…

ジグザグマは一直線に長い草むらへと入ってしまうと、

そのまま見えなくなってしまった。

「あ〜、

 行っちゃった」

ジグザグマが走っていった方向を見ながらナミはそう言うと、

母親の所に戻ろうと思った。

が、辺りをいくら見回しても

母の姿を見つけることが出来なかった。

ジグザグマを追いかけるのに夢中で

かなり離れた場所まで来てしまったのだ。

「ママ!

 ママ!」

ナミは母を呼びながら草むらの中を走る。

しかし、これまでジグザグに走ってきたため、

母親がどちらにいるのか分からず、

ただ無我夢中に走っているだけであった。

すると、ナミの脚に草が絡まり、

「あぁっ」

ザザザッ!!

ナミはその場に倒れてしまうと、

ついに泣き出してしまった。

「ママ、

 どこにいるの?」

黄昏時、

西に傾いた陽は当たりの草を金色に染めていく。

そして、その金色が朱色に変わり始めても、

ナミは泣き続けていた。

”きっとママが見つけてくれる”

そう思いながらナミは草の上にしゃがんだままじっとしていた。

しかし、いくら経っても母親は現れなかった。

もうすぐ日が暮れて夜になってしまう。

ナミはずっと地面を見ていたが、

これでは全くダメだと思うようになった。

よし、自分でママを探そう。

ママが見つからなくても

誰か大人の人を見つけて一緒に探してもらおう。

そう思ってナミが立ち上がった時であった。

「ナミ!」

とナミの名前を呼ぶ母の声が後ろから響いた。

「え?」

その声にナミが振り返ると、

沈んでいく夕日の方から

走ってくる母の黒い影が見えた。

「ママ!」

ナミも叫びながら母親に向かって走っていき、

思いっきり抱きついた。

「どこ行ってたの、ナミ。

 あんまり遠くへ行っちゃダメだって
 
 言ったでしょう。
 
 あまりママを心配させないで。」

「ママごめんなさい。

 私、
 
 ポケモンさんを夢中で追いかけてて…。
 
 もうどこにも行かない」

ナミはそう言って母親の顔を見上げた。

ナミの顔は夕日に照らされ真っ赤だったが、

日に背中を向けている母親の顔は陰になり、

よく見えない。

「さぁ、

 帰りましょ。
 
 今日はママがおいしいオボンの実のサラダを
 
 つくってあげるから」

と言って母親が歩き出した時である。

その黒い影はみるみる姿を変え、

1匹のグラエナの形になった。

「ほら、

 早くついていらっしゃい」

と呼ぶグラエナ姿の母に対し、

「はーい、

 ママ」

ナミもシャワーズの姿になって追いかけようとした…、

そこでナミは目を覚ました。


そこは木の根元にあいた大きなほら穴の中で、

外には見慣れた原っぱが広がっていた。

外はすっかり明るくなっており、

朝の日差しがさんさんと降り注いでいた。

ナミは自分の体を見ると

『はぁ…』とため息をついた。

やっぱり昨日の事は夢ではなかったのだと思った。

ポケモンに変身してしまった事、

絶望から死ぬ事を考えた事、

そして必死に動けるようにがんばった事、

それらをナミは思い出した。

『これから私、

 どうしたらいいんだろ…』

ナミはそうつぶやいたが、

今はそんなことを言っても仕方がなかった。

とりあえずナミは洞穴から外に出てみた。

よく晴れたすがすがしい朝で、

そよそよと吹く風がとても気持ちよかった。

『おや、

 やっと起きたね』

原っぱの中からエナナが顔を出した。

『さぁ、今日も昨日と続きだからね。
 
 とりあえず朝ご飯を食べて元気つけないとね』

そう言ってエナナはオボンの実を1つナミの前に置いた。

ナミはしばらくじっとそのオボンの実を眺めていた。


この日も朝から歩く練習だった。

昨日やった事はもう体が覚えていたので、

お昼前にはナミはもう草の上を元気に走り回っていた。

『よし、

 もう地上での動きは大丈夫なようだね』

と走り回るナミを見てエナナが言う。

怖い顔をしているが、

ナミにとっては自分に新しいことを教えてくれるいいコーチであった。

『あたしはちょっと今から出かけるから、
 
 しばらくここで休んでなさい』

そう言うとエナナは森の中に入って行った。

ナミは草の上に腰を下ろし

しっぽの先のヒレを自分の右側から前に持ってきて

地面の上に休ませた。

これがシャワーズとしてナミが一番落ち着く姿勢であった。

すぐそばにはナミが植えた実のなる木があり、

今日もいくつかの新しい実が膨らみはじめていた。

『これでもう、

 餓え死にする事はないみたいね』

実を見ながらナミは安心したが、

ふと気になったことがあった。

“野生では自分で食べ物を探さないといけない”

それはイーブイもチャモちゃんも言っていたことだった。

それならなぜこの実に手を出さなかったのだろうか。

チャモちゃんはずっと一緒にこの場所に来ていたから、

このことは知っているはずだし、

イーブイも辺りを見ればすぐに気が付いたはずである。

あのままここにいれば、

食べ物に不自由することはないのではないか。

そう思っていたときに、背後に誰かの気配を感じた。

『このにおい、
 
 知ってるにおいだわ。
 
 エナナでも
 
 チャモちゃんでもない。
 
 だれだろう…』

とそう思いながら振り返ると、

森の中からあのイーブイが現れた。

『よぉ』

イーブイが声をかけて来た。

『どうやら無事に
 
 生きてるみたいじゃないか。
 
 はは…、
 
 安心したぜ』

その言葉にナミはムッとして横を向いた。

別にあなたに安心してもらう筋合いはない。

そう思った。

『まぁ、
 
 こっちはいきなり知らない土地で放されたから
 
 けっこう苦労してんだけどね。
 
 あんたはその木があるから心配いらなくていいね』

そう言って、

イーブイは実のなる木を見上げた。

『どうぞ、

 好きに食べていいわよ。
 
 どうせもう私の物でもなんでもないんだから』

ナミは横を向いたまま言った。

『あんたに言われなくても勝手に食べるさ』

とイーブイが言ったので、

ナミは思わず振り向いた。

さっきあんなに物欲しそうに言っていたのに…、

『変なヤツ』

とナミは小さくつぶやいた。

ナミの前でイーブイはマトマの実を一つちぎり、

悠々と口へ運んでいく。

大方食べ終わった時、

『ところであんたは、

 バトルはできるのか?』

『え?』

イーブイからバトルと言われてナミは驚く。

まさかポケモンの口からその言葉が出るとは

思ってもみなかったからである。

『バ、
 
 バトルって
 
 ポケモンバトル?
 
 あれって
 
 トレーナーのポケモン同士がやることじゃないの?』

ナミの声が驚きで高く上ずっている。

『何言ってるのさ。
 
 知らないポケモンと出会ったらまずバトル、
 
 気の合った仲間がいたらすぐバトル。
 
 それが常識だろ』

そんなナミにイーブイは言う。

『常識だって、

 いきなりそんなこと言われても困るわ』

『何を言っているんだ
 
 バトルはポケモン同士の挨拶みたいなもんさ』

『でもバトルに負けて
 
 “ひんし”になったら大変じゃない』

そんなイーブイにナミはあわてて指摘する。

この自然の中で動けなくなったら

それは”最期”を意味するからだ。

『あぁ

 あれはトレーナーが闘う気力な無くなったポケモンを見て
 
 勝手にそう言っているのさ。
 
 確かにトレーナーがいてくれたら、
 
 いい技を指示してくれるし
 
 多少ムリもできるけどな』

心配顔のナミを見ながらイーブイは笑って言うと

『でも、攻撃されたら、
 
 怪我して痛いし、
 
 それに、イヤじゃないの?』

ともナミは聞いた。

まさか自分がバトルをすることになるとは

思っていなかった。

『そんなことはないさ。
 
 相手の攻撃を受けるのも相手を知るうちだし、
 
 ケガなんて寝て起きたらすぐに治るさ。
 
 それともあんたはオレたちが

 イヤイヤバトルさせられてると思ってたのか?』

とイーブイがまた笑って言う。

言われてみれば確かにそうであった。

ポケモンたちはいつも喜んで、

いろんなポケモン達とバトルし、

その時はどんなポケモンもイキイキとしていた。

『で、
 
 あんたは今
 
 どんな技が使えるんだ?』

とイーブイは聞いてきた。

ナミは考えた。

自分がポケモンの技を出すなんて考えた事もない。

それに今は歩き回ることだけで精一杯である。

『…分からない』

とナミは返事をすると、

『何だよ、

 それなら自分で調べてみな。
 
 いつもオレたちに向けてた赤いやつ、
 
 えっと、ポケモンずかんだっけ?
 
 あれで使える技が分かるんじゃないか?』

全国1000万のトレーナーの必需品・ポケモン図鑑。

ポケモンの種類、

タイプからポケモン個々の強さ、

特性、性格、

使える技までが分かり、

さらにはトレーナー自身の身分証にまでにもなる優れものである。

『でも昨日、
 
 あの時に落としちゃって…。
 
 今から探さないと』

そうナミが言うと、

イーブイは

『それなら
 
 そこにあるじゃないか。』

と言って、

あごで森のほうを指した。

それはナミが寝ていたほら穴なある大木の横であった。

そしてそこにはナミのウエストポーチや

空のモンスターボール、

さらには破れた服までもが集められていた。

ナミはそこまで歩いていくと、

自分が昨日着ていた服に顔を近づけると

知っているにおいがした。

『このにおい、
 
 エナナが集めてくれてたんだ』

そう言うとナミはポケットの中に顔を突っ込み、

ポケモン図鑑をくわえて出した。

そして図鑑のレンズを胸につけて、

前足で抱くようにしてボタンを押すと、

図鑑が反応した。

“シャワーズ。
 
 あわはきポケモン。
 
 タイプ:みず。
 
 性別:メス。
 
 性格:おだやか…”

『何がおだやかよ。
 
 こっちは全然、
 
 心中おだやかじゃないわよ』

そう思いながら、

ナミは十字ボタンを押して、

技の画面に切り替えた

“レベル1。
 
 使える技:
 
 たいあたり、
 
 しっぽをふる、
 
 てだすけ
 
 ……以上”

『3つだけか。
 
 まぁ
 
 良かったじゃないか、
 
 使える技があって。
 
 その大きなしっぽは
 
 お飾りじゃなかったってとこかな』

図鑑の発する音声を聞いたイーブイが、

からかうように言った。

『それよりも
 
 レベルが1ってどういうことよ。
 
 これじゃ、
 
 タマゴから孵ったばかりの
 
 ポケモンよりも下じゃない』

ナミは図鑑の画面を見ながら言った。

タマゴから孵ったばかりのポケモンでも

この地方ではレベル5である。

『当然だろ。
 
 オレ達はタマゴの中にいる時から
 
 周りのことは分かってるし、
 
 生まれてすぐにでも闘えるんだからな。
 
 それに比べあんたはただシャワーズになっただけで、
 
 歩くのもおぼつかないんだからね。
 
 やっぱり人間様が作った機械は正確だな。
 
 とりあえず、
 
 今使える攻撃技は、
 
 たいあたりだけか。
 
 いっちょオレにやってみろよ』
 
そう言うとイーブイは

ナミ真正面の少し離れた位置に移動し、

『さぁ、
 
 かかって来いよ』

とナミを挑発した。

ナミは迷った。

自分が技を使えるのが信じられなかったし、

目の前のポケモンを本当に攻撃して

良いのかも分からなかったからだった。

だが、

イーブイ本人がいいと言っているのである。

それもナミがシャワーズになってしまう原因を作った張本人である。

ナミは

『思いっきり吹っ飛ばしてやる!』

と思いながら、

全力でイーブイに向かって走っていった。

そしてイーブイに肩から思いっきり”たいあたり”したが、

それはいとも簡単に受け流されてしまった。

『なんだよソレ、

 本当にそれが技かよ。

 本当にレベル1だな』

とイーブイは笑ったと思うと、

急に真剣な目つきになり、

『技っていうのは、
 
 こういうんだよ』

と言うなり、

ものすごい勢いで穴を堀り、

地中へともぐった。

『わっ』

ナミは驚いてイーブイが入って行った穴に近づこうとすると、

突然自分の真下の地面が盛り上がり、

中からイーブイが飛び出してきた。

ナミはイーブイの意外な攻撃をくらって倒れてしまった。

『おっと、
 
 もう“ひんし”かよ。
 
 まぁいい、
 
 これでバトルがどういうものなのか
 
 分かっただろ。
 
 また来てやるから、
 
 それまでにはもっとまともな技が
 
 使えるように頑張っておくんだな』

そう言うとイーブイはまた森の中に入って行ってしまった。


『おい、

 ナミ。

 大丈夫か』

という声でナミは目がさめた。

エナナが戻ってきて倒れているナミを見つけたのであった。

『どうした。

 誰か来たのか』

そう尋ねながらエナナは地面の穴、

そしてマトマの実の食べ残しを見てナミに聞いた。

それに対し、

『別に…、

 何でもないわよ』

とナミは返事をする。

それを聞くとエナナは

『そうか』

と、それ以上は尋ねはしなかった。

『それよりも、

 エナナ。

 どこに行ってたの?』

逆にナミが聞くと、

『あぁ、
 
 今からあんたの新しいトレーニングをするんだが、

 今でもそれがそこにあるのか確かめに行ってたんでね。
 
 大丈夫ちゃんと昔のままだったよ。
 
 ついておいで』

エナナはそう言うと森の方へ向かって歩いていった。

ナミもそれを追うために立ち上がった。

イーブイが言った通り、

体はもう何とも無かった。


うっそうとした森の中、

2匹は歩いていた。

エナナはナミの少し前を黙って歩いていく。

辺りはうす暗く、

木々が立ち並んでいるので、

ナミはエナナを何度も見失いそうになった。

しかし、シャワーズの鼻はエナナのにおいを確実に嗅ぎ分け、

エナナのいる方へとナミを導いていく。

時々はるか上の木のてっぺんあたりで、

鳥ポケモンたちが会話しているのが聞こえた。

しばらく歩いているとナミは森の先から、

何を感じるようになった。

気配ともにおいとも違う、

首のまわりのヒレに直接くる冷たい感覚、

そんなものを感じていた。

『ほら見えてきた』

とエナナが言った時、

森の端が見え、

その先に空から差し込む日の光が輝いていた。

ナミが森から出て

外の光に目が慣れると、

そこに見えたのは森の中の大きな湖だった。

周りの木々の姿を映し、

その水面は深い緑色に染まっていた。

シャワーズになって初めて見る湖だったので、

どのくらいの大きさの湖かは分からなかったが、

かなりの大きさだとナミは思った。

湖の周りには沢山のポケモン達が

水を求めてやってきており、

水を飲んだり、

水浴びをしたり、

木陰や草の上で昼寝をしたりしていた。

エナナは湖の縁まで歩いていくと

水に口をつけて、

美味しそうに飲み始めた。

ナミも水の側までやってくると、

シャワーズの姿が映った水面に顔を近づけ、

1口飲んでみた。

湖の水はとても冷たく、

そしておいしかった。

湖の水は昨日から木の実しか口にしていない

ナミの乾いたのどを潤し、

しっぽの先までその潤いが届くようであった。

ゴクゴクと水を飲む

ナミにエナナは話し掛けた。

『さて、

 湖にシャワーズのあんたを連れてきたという事は、

 どういうことか分かるね』

ナミは顔を上げると

コクリとうなずいた。

水ポケモンのシャワーズは普通、

水辺で生活する。

そのためにはまずは泳げなくてはならない。

そのくらいナミにも分かった。

シャワーズは水中にとても適した体なので

歩けるようになった時のように

すぐに泳げるとは思うが、

はたしてちゃんと泳げるのかナミはとても心配だった。

『まずは

 その体を水に慣らそうか。

 水に入ってごらん』

とエナナは指示をする。

だがナミはすぐには水に入る事ができなかった。

さっき飲んだ時の感覚からすると、

水はかなり冷たいに違いなかった。

シャワーズにとっては、

こんな冷たさは平気だろうと心のなかでは思っても、

その1歩がなかなか踏み出せない。

『あぁ、もう。

 いちいち世話がやけるねぇ』

そんなナミにエナナはじれったさを口にしながら、

ナミの後ろから体でグイグイと押していった。

『うっ…』

ナミは目をつむって水の中に入っていき、

エナナが押すのをやめるとゆっくり目を開けた。

ナミの4つの足はひざの辺りまで水に浸かっていた。

水は予想通り冷たかったが、

それは想像していた刺すような感じではなく、

とても気持ちよかった。

ナミは自ら湖の中のほうへ進んでいった。

水はどんどん深くなり、

肩まで浸かるようになった。

ナミは目をつむって、

冷たい水が全身を包み込み一体となる、

そんな感触を静かに楽しんでいた。

そして、そのまま体を倒すと頭までが水に浸かった。

水の中はもっと幻想的であった。

上には水面がキラキラと輝き、

水の底は土や木の根っこがなだらかな凹凸を作り、

大きな斜面が湖の真中に向かって広がっていた。

湖のもっと深いところでは魚ポケモン達がゆったり、

時にはすばやく泳いでいるのが見えた。

しばらく浅いところで水の感触を楽しんでいると、

ナミは急にエナナに呼ばれた。

『水に浸かるのはいいが、

 自分で泳がなくちゃ。

 あたしについておいで』

エナナにそう言われてついて行くと、

小高い丘の上に着いた。

その向こうは湖に川が流れこんでいる所であった。

そこでエナナは驚くべきことを言った。

『さぁ、

ここから飛び込んでみな』

『えっ!

 ここから!?』

びっくりしながらナミは聞き返すと、

下を見た。

川の流れはかなり速そうである。

『そうだよナミ。
 
 これだったら、
 
 あんたも自分で泳がなくては
 
 ならないからね』

『でも、

 もし泳げなかったら

 死んじゃうじゃない』

ナミは恐怖で泣きそうになりながら

必死にそう言うが、

『泳げないなんて、

 そのしっぽや頭のヒレは

 何のためにあるんだい』

そう言うとエナナはナミの首根っこをくわえて、

高く持ち上げた。

『待って!

 もうちょっと練習してから…』

とナミは懇願するが、

エナナは首を大きく振りかぶり、

彼女を川の中へ投げ込んだ。

川の勢いは水の中の方が激しく、

水の流れに巻かれるようにして

ナミはあっという間に湖の深い所まで流されてしまった。


水の中でナミは目を開けた。

静かな水の中、

ナミは1人漂っていた。

上を見ると遠くに水面が見え、

キラキラと輝いていたが、

下を見ても水は深く底は見えない。

とにかく息が切れる前に水面に上がらなければならない。

ナミはそう思うと

4つの足をばたつかせて泳ごうとした。

しかしなかなか前には進まず、

ナミはあせった。

必死にもがいても水面ははるか遠くで揺れるばかりで、

一向に近くならない。

その姿が気になるのか、

魚ポケモン達が遠くのほうからナミを見ていた。

水の中に入ってから数分がたった。

ナミはわずかに

息苦しさを感じ初めていた。

『大変、

 このままじゃホ本当に溺れちゃう。

 水ポケモンなのに溺れるなんて冗談じゃないわ』

そう思ってまた必死に足をばたつかせるのだが、

水面は近くなるどころか

逆にどんどん遠くなっていくようで、

顔も真っ赤になり、

息ももう続きそうになかった。

ナミはその苦しさのあまり

体を激しくくねらせた…、

その時だった。

急に体の周りの水が

前から後ろへ流れ出したと思うと、

遠くに見えた水面がぐんぐん近づき、

ナミの体は水面を突き抜け宙を舞った。

ナミの魚のようなしっぽが水をかいたのだ。

空中で息継ぎができたナミはまた水中に戻ると自分の尻尾を見た。

さっきの様に体をくねらせるみたいに上下に動かすと、

しっぽもそれにつられ、

大きく上下に動き水をかいた。

進み方さえ分かればあとは簡単だった。

耳と頭の上のヒレを使えば、

曲がるのも回転するのも簡単だった。

周りの水の流れも、

首からしっぽに先まで背中に生えている長いヒダのようなもので

感じることができたし、

光る水面を見れば自分が今どっちの方を向いているのか

すぐに分かった。

ナミはまさしく水を得たシャワーズとなって湖の中を自由に泳ぎ回った。

時々水面からから嬉しそうに飛び跳ねるナミを、

エナナは小高い丘の上から満足そうに眺めていた。


つづく


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