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  [No.1669] 第2章 第5話・朝の風 投稿者:都立会   投稿日:2019/09/23(Mon) 20:37:47   16clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

波打ち際に入るとナミはすぐ

“なみのり”を使った。

バトルでは波を起こして闘う技だが、

水の上で使うとは波の力を利用して、

人を乗せてでも楽々進むことが出来るようになる。

上下にうねる海の上に浮かんだまま、

ナミは水の中のしっぽを小刻みに動かして泳ぎ始めた。

陸を離れると今度は“とける”を使い、

水に姿を溶けこませた。

これも普段はバトルで攻撃を和らげる為に使う技だが、

この姿だと空の上からも水の中からも

そこにポケモンがいるとは分かりにくい。

これでトレーナーに見つかったり、

野生ポケモン達にバトルを挑まれたりせずに済む。

ただ波間に漂うくらげポケモンの目には、

海面にウエストポーチが

シャワーズの形に盛り上がった波の上に浮かんでいる

…そんな奇妙な形に映ったのだろう。

たまに興味ありげに近づいて来てしまうのがいた。

しかしその時はボールの中からエナナの威嚇が。

突然響くその声に彼らは皆飛び上がり、

一目散に逃げていくのであった。


青い空の下、

島へと続く岩伝いに海の上を泳ぎ続けた。

潜ればもっと速く泳げるのだろうが、

背中には道具の入ったポーチが、

そしてベルトには2個のモンスターボールがついている。

大事な食糧である木の実、

ましてや炎タイプのブースターを

ずっと水の中にというのは気が引ける。

それに海の水は、湖とは違いとても荒々しい。

海の上では波が上下するだけでも、

その下では川よりも激しい海流が渦巻いているはず。

それに流されてしまったら…

それこそ一巻の終わりである。

降り注ぐ熱い日の光も、

“とける”で透き通らせた体で何とか和らげながら、

ナミはひたすら島を目指して泳ぎ続けた。


船や鳥ポケモンだとそれほど掛らない距離でも、

シャワーズが浮かびながら進む速度ではやはり遠い。

初めは高かった日も、

どんどん西の空に傾いていき、

ついに水平線を真っ赤に染め始めた。

ナミは連なる小さな島のどこかで、

今日は休むことにした。

人が居ない砂浜に囲まれた島を選んであがってみると、

その中央には木が生えている。

これは潮が満ちても島が沈んでしまわないということ。

ここならブースターでも安心して寝ることができる、

そう思ってナミが海の方を振り返ると、

夕焼けを受け真っ赤に染まった大きな島が見えた。

海上に並んでいる岩の先、

大きな山にいくつか見える人家の光。

それこそがナミの目指している島に間違いなかった。

距離にしてあと少し、

しかし今日はもう太陽が半分沈んでしまっている。

それに昼間からずっと泳いでいて体はもうヘトヘト、

おまけに背中は日差しで焼かれて“やけど”状態である。

『今日はここでまでね。

 ゆっくり休んで、

 明日の朝また出発しよう』

ナミはそう決めると木の下でウエストポーチを下ろし、

モンスターボールからブースターとエナナを出してあげた。

『1日ご苦労さん。

 くたびれただろう、

 これを食べなさい』

エナナは出てくるなり、

持っていたカイスの実を置くとナミに差し出した。

『ええ、ありがとうエナナ』

ナミは苦笑して言うと、

目の前の実を早速かじってみた。

カイスの甘さが疲れた体にはちょうど良かった。

ナミは大きなカイスを食べていると

『ええ!?オレたちは2匹で1つかよ』

『そうだよ。

 ずっとボールの中にいたんだからこれで十分だろ』

隣では1つの実を挟んで

ブースターがエナナに文句を言っていた。

『あ、良かったらこっちのも分けてあげる』

ナミはそう言って、

幾分食べた実を差し出そうとしたが

『いいよ、

 ナミさんは1日中泳いでいたんだから。

 それに明日もあるんだ、

 それぐらい食べておかないと。

 ずっと寝ていた誰かさんとは違うんだからね』

エナナはそう言って隣で、

カイスの実に噛り付いているポケモンを見て言った。

『だ、だれが寝てたっていうんだよ!』

エナナの言葉にブースターは

カイスの中から顔を出して反論すると、

『じゃぁ、

 あたしが威嚇している間、

 やけに静かだったけど、

 何してたんだい?』

エナナの言葉にブースターは一瞬言葉に詰った後、

『…いつでも闘えるように、

 待ってたんだよ。

 …心配だったし』

と小さく絞り出すように言った。

『炎タイプで何ができるってんだい。

 水が怖くて尻込みしてた

 …そんな所だろうに』

というエナナにむくれるブースターに

『ふふふ、ありがとう』

ナミは笑って言った。

おおよそはエナナの言う通りだろうが、

それでもナミはブースターの言葉がとても嬉しかった。

見ると彼の口元にカイスの実のカケラが付いている。

お礼にそばに行って舐め取ってあげようか、

そう思って腰をあげようとしたが、

『う!痛ぁ〜い…』

背中に走った激痛に、

声を上げてしまった。

『あぁ、こりゃいかん。

 ナミさん、チーゴの実は持ってきたかい?』

その様子にエナナは急いで

ウエストポーチを咥えてナミの前に置くと、

『ラ、ラムの実があるわ。

 眠って治そうと思ったんだけど、

 今すぐ治した方が良さそうね』

ナミはその中からラムの実を1つ取り出した。

ラムの実はポケモンの体のどんな異常でも治す事ができる。

ナミが食べ終わると

背中のやけどもあっという間に治っていった。

『ふぅ、これでもう大丈夫』

ナミは立ち上がって言うと、

『あ、そうだ、

 ブースター。

 これ食べていいわよ。

 ラムでお腹いっぱいになったし』

と半分残ったカイスを差し出した。

それを聞いたブースターはぱっと笑顔になると

『おお、いいのか。

 サンキュー、ナミ』

と飛びつくように食べ始めた。

『どうやら、

 彼にとってはこっちの方が嬉しいみたいだね』

エナナの言葉に、

ナミはまた苦笑いするしかなかった。


その晩、ナミはエナナの

『ブースターと交代で見張りをするから、

 ゆっくり寝ていてくれ』

という言葉に甘えて休ませてもらった。

そしてぐっすり眠った翌朝早く、

ヒュッと吹いた潮風に目が覚めた。

起き上がってみると白々と明けつつある空の下、

エナナが砂浜に座り文字通り目を光らせて

辺りを見張っていた。

『エナナ、おはよう』

ナミも浜辺に出て声をかけると

『ああ、おはようさん。

 もういいのかい?

 体の具合は大丈夫かい?』

エナナは心配そうに聞いてきた。

『ええ、大丈夫。

 ブースターは?』

『アイツならねぇ。

 …ほら、見張りの時に掘り当てたのを飲んで眠っちまったよ』

見るとドリンク剤のビンを抱えて

気持ち良さそうに寝ているブースターがいた。

『ゴメンねエナナ、

 ずっと起きていたんでしょ?』

ナミは自分の夫の事を謝ると、

エナナ隣に座った。

2匹の目の前、

海の向こうに広がる東の空は、

白々と明けつつあった。

『大丈夫さナミさん。

 昼間はボールの中でゆっくりさせてもらったんだ。

 これくらい平気だよ』

エナナはその空の方から吹いてくる潮風に、

黒い毛並みを気持ち良さそうになびかせながら笑った。

ナミは一瞬間をおくと、

『ねぇ、エナナ。

 そのボールなんだけど、

 本当に居心地いいの?』

思い切って聞いてみた。

『ボール?

 ああ、あの中かね。

 ナミさんは入ったことないのかい?』

ナミの問いのエナナは逆に聞くと

『ええ、ちょっと怖くてね…』

ナミは少し声を落として答えた。

『怖いか…

 まぁ、ナミさんは実際に

 怖い思いもしているからねぇ』

エナナも思い出して言う。

エナナと分かれる前、

ナミはトレーナーに捕まりかけたのであった。

実際は最初から捕まる心配もなかったのであったが、

自分を捕獲する為に投げられたボールが近づいてくる、

その光景は今思い出してもやっぱり怖い。

『それで、どんな感じなの?』

ナミは改めて、

自分の知らない世界のことを聞いてみた

『ああ、とても居心地はいいよ。

 体が無いからとっても楽だし』

『ええっ!体が無いの!?』

トレーナーが当たり前のように使っているモンスターボール。

その予期せぬ事実にナミは度肝を抜かれた。

『そうだよ。

 体があったら、

 あんなちっこい玉の中に

 入れるわけがないだろう。

 あんた達トレーナーだって、

 どんなにでかくて重いヤツだろうと

 軽々と運んでいるじゃないか』

とエナナは何というわけでもなくさらっと言うが、

『で、でも、

 体が無いって…

 どういうことなの?
 
 まさかその、

 魂だけにしちゃうとか?』

ナミにとっては信じられない話である。

『そうじゃないよ。

 この中でもちゃんと足は4つあるし。

 そうだねぇ、

 感じとしてはタマゴの中にいた時が一番近いかな。

 難しいことを言う人間は電気のシンゴウがどうとか…

 あぁ、寝ている時に自分の体から

 抜けちまう事がたまにあっるってヤツは、

 その時にそっくりだとかとかも…』

とエナナは色々と考えながら説明している。

やはりポケモン自身にとっても、

よくは分からないようだ。

『とにかく、

 体が無いからケガしていても痛くない、

 腹も減らないし歳も取らない。

 ただ、ずっと同じだから体力が回復しないのが欠点かねぇ』

『年もって、じゃぁずっと入っていても平気なの?』

『何にしろ限度ってもんはあるがね。

 何十年もずっと忘れられていて、

 意識の方が先にぽっくり逝っちまったヤツがいるって噂は聞くし、

 逆に昔の勇者とやらが入れたポケモンが

 何百年もして出てきたって話も聞くし…

 普通ならを燃えるように一夏を生きる虫ポケモンが

 何年もずっと一緒に居られるのもコレのお陰だね』

『それじゃぁ、

 ボールに入ることって、

 ポケモンにとって悪い事って訳じゃないのね』

『そうだねぇ。

 まぁソイツ次第ってことはあるけどね。

 トレーナーのになってもずっと外に居たいってヤツも中にはいるし、

 一生野生で居たいってヤツも、

 もちろんいるからね』

というエナナの言葉に、

『それでその、

 エナナは…、エナナは…』

ナミは昨日思ったことを聞こうとした。

この機会を逃したらもう二度と聞くことは出来ないだろう。

だけど、どんな答えが返ってくるか、

正直とても怖い。

ナミが言葉に詰まっているとしていると、

『何だよナミさん怖い顔で。

 言ってみなさい』

グラエナの笑った目が後押ししてくれた。

『私、エナナをこのボールで捕まえて…』

とナミが言うと、

それで察したエナナは

『何だいそのことか。

 ナミさんのポケモンになれて、

 良かったと思う。

 …いや、良かったんだよ、あたしは』

今度は顔全体で笑ってそう言った。

『本当?

 本当にそう思うの?』

ナミの顔も明るくなった。

『ああ、そうだよ。

 あたしはナミさんのポケモンでよかったと思うよ。

 もちろん、

 人間だったときのナミさんのポケモンとしてもね。

 だってずっと一緒にいたじゃないか』

『でも、それはご飯をもらうためとか、

 もう逃げられないからとかかもしれないし』

ナミがそう言うとエナナは苦笑して

『ああ、チャモに言わせたあのセリフかい。

 まぁ、そう言うヤツも確かにいるけどね。

 あたしは良かったと思うよ。

 ナミさんで間違いなかったってね』

とナミを見て言う。

『間違いなかったって?』

ナミは聞くと、

『人間はこれも知らなかったんだね。

 トレーナーがポケモンを捕まえようとしているとき、

 ポケモンもそのトレーナーのポケモンと闘って、

 トレーナーのことを品定めしているんだよ』

エナナの口からまた新しいことを聞くことが出来た。

『へえ、

 ポケモンがトレーナーのことを』

『ああそうだよ。

 そしてこのトレーナーなら…

 となればボールの中に入るんだよ』

『もし違う時は?』

『そのときは、

 やられた“フリ”をして逃げればいいだけだよ。

 だから網とか罠とかで無理矢理捕まえる人間は、

 あたしは許せないね』

エナナはそういう。

確かにポケモンの方でも選んでいるとしたら、

トレーナーとはある意味対等な関係かもしれない

『でも、でも、

 それまでは野生で生活してたんでしょ?

 それまで一緒にいた家族とか仲間とかとは

 別れることになったんでしょ?

 それでも良かったの?』

『うーん、そうだねぇ、

 それは難しい話だねぇ』

ナミの質問にエナナは少し考える。

『あたしの場合について話そうか。

 あの時、私は数あるポチエナの群れの1つにいた。

 まぁ、群れと言っても数匹の気の合うヤツらが

 集まっただけのモンだがね。

 その中の1匹と好き同士になり、

 息子をもうけた』

『え、じゃぁ、チャモちゃんとは再婚?』

『私だって、

 この年まで何もしてない訳じゃないさ。

 チャモが何匹目の相手かすらも忘れちまったよ』

『え、はぁ、そうなんだ…』

爆弾発言をさらっと言うエナナ。

こういう時は改めて生きる尺度の違いという物を感じざるをえない。

『それで、

 私はその子に早く一人前のポチエナになってほしかった。

 将来なるだけ苦労はして欲しくは無いからね。

 出来る限り多くの事を教えようと必死だった。

 だがその子無事に大きくなってきた頃、

 群れでケンカがあった。

 原因は本当につまらないものだよ。

 でもそれで群れは解散。

 その時私はあの子を連れて行こうとしたが、

 だがあの子は父親の方について行ったのさ』

『でも、それって親離れってことじゃ…』

エナナの言葉に、

ナミはそう指摘した。

ポケモンの子供が自ら母親から離れていくのも自然の摂理、

それはナミも身をもって体験していた。

『分かってるよ。

 大きくなるまでが母親の役目だってことは分かっている。

 ヤイヤイ言うアタシなんかより、

 自由にさせてくれる父親の方がいいっていうのも分かる。

 …でも頭ではそうだと分かってはいても、

 気持ちはどうにもならなくてねぇ。

 悔しくてもう何もかもどうでも良くなって、

 意味も無く暴れて走って…

 気がついたら一人っきりになっていた。

 …あの草むらでね』

『じゃあその時私が?』

ナミが聞くと、

『そうだよナミさん』

グラエナはゆっくり頷く。

『あの時のあたしにとっては、

 初めて間近に見る人間だった』

『私が初めてだったの?』

『そうさ。

 何であの時あそこに居たか、

 全く不思議なもんだよ』

そうエナナは笑いながら首をかしげる。

ナミがそのエナナの様子に

『それは夢中で走って、

 たまたま出ちゃったんじゃ…』

と言うと、

エナナは前足を振りながら

『いや、そうじゃない。

 そもそもあんな人間が来るような所に

 出てきていたこと自体おかしいんだ。

 野生でいたいと思っているポケモンは、

 絶対にトレーナーと出会ってしまう場所には行かないものさ。

 あたしもそうだったはずなんだが…、

 ホント、

 何でそこに行ったかは今でも分からないんだよね』

そう言って苦笑した。

『でも、エナナがそうしたからこそ、

 私たちは出会えたのよね。

 不思議な縁ね』

ナミは何だかボーっとした気持ちでグラエナの苦笑いを見つめた。

あの時、

成り行きで捕まえたポチエナがグラエナとなり、

シャワーズとなった自分と旅をしている。

そんな不思議なこの時に、

ナミは夢うつつのような気持ちでエナナの話を聞いていたが、

『全くその通りだね。

 あたしがそこに居て、

 ナミさんがその上から飛び降りた。

 本当に、
 
 それが自然な流れだったとしか言いようが無いことだね』

『…自然な流れ?』

突然の理解できない言葉に、

ナミは気持ちを持ち直して聞き返した。

シャワーズになって以来、

他のポケモンの鳴き声が言葉として理解できる。

今もグラエナのエナナと話が出来るのもそのおかげである。

そしてその言葉は大体理解できるが、

たまにそうでない言葉が出てくるのである。

『自然な流れさ。

 そうだねぇ、

 水が低いところに流れることとか、

 毎日、日が昇って沈むこととか、

 一番簡単な事だとそういう感じだね』

エナナは海の向こう、

すっかり明るくなっている空を眺めながら言う。

『病気になって死んでしまう事がある、

 それも自然な流れ。

 悪いヤツに捕まってヒドイ目に会ってしまう、
 
 それも自然な流れ。

 いいヤツと会ったけど何かの理由で

 別れなければならないのも自然な流れ。

 ちょっとした気まぐれだって、

 何となく選んだ事だって全部が自然な流れ。

 …そしてあの日あの時あたしがナミさんと出会えた、

 それも自然な流れだったってことだよ』

グラエナが今はシャワーズである自分のトレーナーに言う。

『じゃぁ、私がシャワーズになったってのも、

 自然な流れってこと?』

『そうかもしれない。

 そして今、

 戻れるかもとこうして一緒に旅をしている。

 これも自然な流れだよ』

エナナがそう言った時、

海の向こうから眩い光が射し込んできた。

見ると水平線の向こうから真っ赤な太陽が

頭を覗かせえていた。

日の出である。

『…眩しい

 …きれい』

ずっと森で暮らしていたナミが、

初めて見る水平線からの太陽の輝きに目を細めていると、

『そうだね、ナミさん』

エナナも朝日を見つめながら

『…確かにトレーナーのポケモンになって

 失うものが無いわけでは無い。

 だがそうなる事でアタシ達ポケモンは、

 それに比べて有り余ほどの物を

 手に入れることができるんだよ。

 こうやって心静かに

 朝日を眺められるのもそのひとつさ。

 そしてあんた達トレーナーが

 ポケモンを必要にしているように、

 ポケモン達もトレーナーを必要としている。

 人間に戻ってもこれだけは覚えておいておくれ

 ナミさん』

そう言いい、

また黒い毛並みを潮風に気持ち良さそうになびかせていた。


 つづく…


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