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その白く清潔そうなトラックには、トゲキッスの絵が大きく描かれていた。
と、そういう風に書き始められればいいのだけれど、そこにいる誰もその生き物の名前を知らないし、第一に見たことすらないのです。埃臭い風の中、村外れの通りに砂像のように立ち並び、そのトラックが来るのを待っていた大人や子供や老人らはみんな、あの変な白いのが描いてある車が来た、としか思っていない。そもそも彼らにとっては車に描かれた絵などより、車が載せてくるものを自分が手に入れられるか、今日自分たちが何を貰えるのかの方がよっぽど大切なのです。
ざわめきの中、深い青色のフードを被った少女は、大人達に押しのけられて砂像の群れから弾き出されてしまわないように、ぐっと背伸びをしました。色んな食べ物や生活物資をどっさり積んだそのトラックを見る度に、あの卵に翼が生えたようなのは何だろうと思うのだけど、その一瞬の疑問は、座席から降りてくる迷彩服の男の人の大声と、物資を求めて動き始めた人々の喧騒の中、真夏の雪のように掻き消えてしまう。
迷彩服の人達に向けて、鳥の雛の口のように大きく開いて伸びた手。手。手の群れ達。そこに少女の手も堂々と混じっています。
「早くしろ!」少女のすぐ後ろのおじさんが怒鳴り声をあげた。負けじと少女も一層高く腕をあげ、手を広げます。迷彩服の人達が手振りで人々の昂ぶりを制し、白い紙に書かれた名前を1人ずつ読み上げだすと、にわかに人々は声を潜め、自分の名前が呼ばれるのを絶対に聞き逃すまいと、迷彩服の人達をぎらぎら睨みつけます。殺気めいた緊張感が通りに漂う中、迷彩服の人達は日焼けした腕をせわしなく動かし、呼びだしに応じて前に出てきた人々の手に次々、白い袋を持たせていく。
袋の中身はどれも同じはずでも、受け取る側の事情はみんな違います。父親が死んで稼ぎ手がいない家の母親、五人目の弟が生まれたばかりの家の長男、家をまるごと失って掘っ立て小屋に住んでいる家族の祖父。だからどうしても、張り詰めた静寂の糸はどこかでとぎれ、あちこちで争いあう声、怒鳴り声があがりだし、時には殴り合いさえ始まってしまう。
そうなると迷彩服の人達は、どこからか、いつの間にか、大人の背丈よりも大きな花を持ちだして地面に植えるのです。すると人々は自分たちのしていたことを全部忘れて、息を呑んでその魔法に釘付けになる。鮮やかな緑の葉と赤い花びら!風に花のいい匂いがふわっと香ると、もう何で争っていたのかとか、そんなことはすっかりどうでもよくなってしまう。そこに迷彩服の人達はまた名前を呼びかけ、白い袋を次々に持たせていく。人々が突然の声に驚いた時にはもう、花は夢のように消えてしまっているのです。
待ちかねた少女の手にそのずっしり重い袋が渡ると、彼女はお礼を言うなり青いフードを翼のように翻らせて、弾むように家へと駆けだしていきます。袋が重くて腕が痛いのなんか、赤ん坊の妹のお守りをするのに比べたら全然平気です。半分ガレキに埋まったような、生まれ育った村の表通りを、砂埃を立てて彼女は走っていきます。
その村は、外から来た人には、村というよりギャラドスが大暴れした跡みたいに見えるかもしれないけど、彼女はギャラドスどころかコイキングだって知らないし、見たこともない。ここには川も池もなくて、彼女は毎日往復四時間かけて山の方にある井戸まで水を汲みに行かなければならないから。村外れにあった井戸は、果てしない人間と人間の争いの最中に埋もれてしまったから。
人が人を撃つ。人が爆弾を持って人にぶつかる。毎日そんな事があちこちで起こる場所には、どんな野生のポケモンも近寄ることができません。
トゲキッスも、ギャラドスも、コイキングも。
通りに立ち並ぶ土作りの家々は、そっくりそのまま地面の砂の色なので、まるで土から生えてきたように見える時があります。
(本当に、家が勝手に土から生えてくるんだったらいいのに)
少女は横目で、崩れて壁だけになってしまった家を見ながら思います。だって、それなら、いくら爆弾に壊されても直さないで済むでしょう。
その壁だけの家の所で通りを外れて狭い路地に入り、少し奥まった所に少女の住む家はあります。
「ただいま、お父さん」
「おかえり、ムニラ」
お父さんの元気そうな声と、お父さんの腕が体の向きを変える、ずい、ずい、という音を聞くなり、名前を呼ばれた少女、ムニラは急いで家に上がってお父さんの側に座り、抱えてきた袋を降ろします。
「お父さん、『羽の卵』の人達からもらってきたよ」
「ありがとう、ムニラ。いつもすまないね」
「アーイシャは元気にしてた?家は何もなかった?お父さんには悪いことなかった?」
袋を開き、中に入っていた小麦粉やら調味料やら薬類やらを家のあちこちに片付けながらまくし立てるムニラに、
「そんなに心配しなくても、何もかも問題ないよ、ムニラ」
お父さんは笑ってそう言うけれど。
「アーイシャもいい子にしていたよ、ほら」
そう言って両腕だけで妹のアーイシャの所へ這っていくお父さんの、太ももに巻かれた包帯を見ていると。
包帯の先に、半月前まであったはずのお父さんの両足のことを思い出すと。
ムニラはいつも、心配でたまらなくなるのです。
次にまたいつ、あんな事が家族の誰かの身にあったらどうしよう、と。
ムニラの住む地方には名前がありません。この地方を誰が治めるか、という事で、ムニラが生まれる前からずっと、たくさんの組織が争っているからです。
ちゃんとした政府もあるにはありますが、どの組織も政府の言うことを聞かずに争いあい、自分たちの決め事に従わない人を虐げることばかりしているので、政府も鎮圧のために軍を出す以外にできることがない。
お父さんが両足を失ったのも、そうした反政府組織の攻撃に巻き込まれたからでした。お父さんは誰とも戦っていません。どこかの組織と敵同士だったわけでもありません。ただ、市場に買い物に出ただけです。たまたま、通りすがった荷車引きの男の荷物に、爆弾が仕掛けてあっただけなのです。
荷車引きの男は、荷車ごと食料品店に突っ込んで大爆発を起こし「名誉の死」を遂げました。食料品店の店主が、テロを起こしたその男の敵対する組織と密かに物資をやり取りしていたらしい、という話はムニラも聞きましたが、ずっと爆弾や銃の音ばかりを聞いてきたムニラにはもう、誰が誰と敵同士か、なんて話はうんざりなのです。
ムニラの住む砂と土の町に四季はありません。死にそうなくらい暑い日がずうっと続いた後に、死にそうなくらい寒い日がずうっと続く、その繰り返し。雨の降る日より銃弾がばらまかれる日の方がずっと多いし、風はいつでも埃と灰ばかり運んできます。
花が欲しいな、とムニラは時々思います。友達ともそんな話をする時があります。食べ物も薬も服もいつも何かしら足りないし、そのせいで泥棒や喧嘩はいつも絶えないけれど、花は元々ここに「ない」のだから。そのことを思うとき、ムニラの目には、灰混じりの風や銃痕の残る壁、砂埃に霞む青空がとても寂しいものに映るのです。
そんな時、この頃のムニラが思い起こすのは、最近この村を訪れる「羽の卵」の人達が魔法のように咲かせてすぐに消してしまう、赤い大きな不思議な花でした。いったいあの花は何なんだろう?花が育つには土、水、太陽、それから長い時間が必要なのに。
でも、もしもあの人達がするように、ムニラも何もない所に一瞬で花を咲かせる事ができたなら、どんなに素晴らしいことでしょう。ムニラのすることを見て、みんな喧嘩を辞めるかもしれないし、美しい花を見て、あの喜びに満ちた香りを嗅いだら、反政府組織も人を襲うのを辞めるかもしれない。
どうも武器らしい武器を持っていない様子の「羽の卵」の人達が、銃撃やテロや地雷をどうやってくぐり抜けてここまで来るのかムニラはよく知らないけど、きっとあの花のお陰なのだと、何となく納得していました。
けれど、そんな夢のような考えに浸れるのは、朝と夜の礼拝の時間、神様に感謝を捧げ、心の声で話しかける時くらいです。ムニラのお母さんはアーイシャを産んですぐに亡くなり、お父さんは歩けない体で、妹はまだ赤ん坊だから、彼女がお父さんを手伝って働き、お母さんの分だけ家事をして、妹を守ってやらないと、家族の誰も生きていけない。
だから、ムニラが自分自身の事を願えるのは、このお祈りの時だけでした。
(神様、私達のあるじさま、花をください。この村はとても寂しいのです)
一日を無事に過ごせた感謝の祈りの後、こう付け加えることが、いつからかムニラの夜の礼拝の決まり事のようになっていました。
けれど、その習慣が始まったのと同じくらいの頃から、ムニラは礼拝の後に気持ちが沈むことが多くなったのです。……
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このような話なので制作に時間がかかっていますが(中盤過ぎたくらいまでは書けてる)、できれば今月、最悪でも来月には仕上げます
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雨雲が去ったばかりの空に、大きな虹が懸かっていた。朝霧の残る踏み分け道はひんやりと涼しく、林の奥から聞こえて来るテッカニンの鳴き声も、気持ちの良い微風に遠慮してか控え目で大人しい。朝露に濡れた叢を緩やかにかわしつつ、ヒューイは木漏れ日に彩られた通い路を、のんびりとした二足歩行で進んでいた。
大きな房尾に尖がった耳。白い毛皮に緋色のライン。胴長の総身を覆う夏毛はそれでも十分に長く、立って用を足すにはやや不適とも見える短い前足には、幾つかの木の実が抱え込まれている。シンオウでは非常に珍しいポケモンである彼は、猫鼬と言う分類や、それに纏わる数々の逸話には到底似合わぬ表情で、幸せそうに欠伸を漏らす。この按配なら後二時間ぐらいは、あの狂気じみた殺人光線を恐れる心配は無いと言うものだ。
シンオウ地方はキッサキシティに程近い、とあるちっぽけな森の中。冬は止めど無く雪が降り注ぐこの辺りも、夏の盛りとあっては是非もなく、昼間はそこかしこに陽炎が立ち昇って、涼味も何もあったものではない。元々南国の住人である彼は兎も角、間借りをさせて貰っている同居人達は滅法暑さに弱いので、この季節は殆ど動こうとしない。勢い役立たずの居候である彼に、雑用の御鉢が回って来ると言う訳である。最も彼自身、現状には酷く窮屈さを感じている為、こうして何かをさせて貰っていた方が反って有難いのだけれど。
足裏に感じる、まだ温まりきっていないひんやりとした土の感触を楽しんでいる内。やがて不意に林道は途切れ、小さな広場に辿り着く。林の中にぽっかりと空いた、雑木も疎らな空白地。所々に岩の突き出たその場所が、朝の散歩の終着点だった。足跡や臭いなど、様々なポケモンの痕跡が感じ取れる中、ヒューイは真っ直ぐ手近の岩へと歩み寄ると、その根元を覗き込む。そこには良く熟れたクラボの実が幾つかと、硬くて噛み応えのありそうなカゴの実が一つ、大きな蕗の葉の上に並べられていた。此処には目的のものがない。そこで彼はその岩の傍を離れると、隣に腰を据えている三角の岩に場を移す。此方の根方にあったのは、喉元を綺麗に裂かれて無念気な表情を浮かべている、二匹の野ネズミの死骸。乾いた血の痕にぶるりと身震いした彼は早々にそこから離れると、三つ目となる赤い岩の方へと足を向けた。日に焼けた岩肌に眼を滑らせていく内、漸くお目当てのものを見つけ出す。岩陰に敷かれた緑の葉っぱに乗せられていたのは、つるりとした白肌も眩しい、三個の大きな卵だった。大きさからしてムクバード辺りのものだろうか。朝の光を浴びてつやつやと輝くそれは、如何にも新鮮で美味しそうだった。
品物の質に満足したヒューイは、次いで視線を戻し、自らのなぞった道筋を辿って、岩肌の一角に目を向ける。卵が置かれた場所より丁度腕一本分ぐらい上に岩を削って印が付けられており、続いてその下に、品物を置いていった主が必要としているものが、この種族独自のサインで簡潔に記されていた。一番上の表記を見た瞬間、彼は思わず顔をほころばせ、我が意を得たりと独り頷く。個人を表すそのサインの主は、顔見知りのマニューラ・ネーベル親爺のものだ。腕の良い狩人である半面酩酊するのが大好きな彼が欲しがるものと言えば、マタタビに辛口木の実と相場が決まっている。案の定『一個につきマタタビ三つ』と言う明記があるのを確認すると、ヒューイは抱え込んでいた緑色の木の実を全て下ろし、代わりに三つの卵を大事に抱え込んで、悠々とその場を後にした。
遣いに出て行ったザングースが帰って来た時、ねぐらの主であるラクルは、既に朝食となるべき獲物を仕留め、丁度綺麗に『調理』を終えて、住処に運び入れた所であった。内臓を取り分けて皮を剥ぎ、近くの流れでよく洗った野ネズミの肉を鋭い爪で分けていると、住居としている岩棚の入口から、「ただ今」の声が響いて来る。無警戒な足音が近付いて来た所で顔を上げ、そっけない挨拶を返しながら、彼女は狩りのついでに確保しておいたオレンの実を汚れてない方の腕で拾い、ひょいとばかりに投げてよこす。「お疲れさん」の言葉と共に飛んできたそれを、紅白の猫鼬は大いに慌てながらも何とか口で受け止めて、腕の中の荷物共々ゆっくり足元に転がした。
「どうやら収穫があったみたいだね。有難う、助かるよ」
やれやれと言う風に息を吐く相手に向け、ラクルは何時もと変わらぬ口調で礼を言う。御世辞にも温かみに溢れているとは言えない、まさに彼女自身の性格を体現しているような乾いた調子だったが、それでも好意と感謝の念は十二分に伝わって来るものだった。それを受けたザングースの方はと言うと、これまた生来の性分がはっきりと表れている感じで、多少慌て気味に応じて見せる。何時になっても打ち解けたようで遠慮会釈の抜けないその態度に、家主であるマニューラは内心苦笑を禁じ得ないのだが、それを表に出して見せるほど、彼女も馴れ馴れしいポケモンではなかった。
「いや、大した事じゃないし……! こっちは朝の散歩ついでなんだから、感謝されるほどの事もないよ。木の実だって、僕が育てた訳じゃないんだし」
「どう言ったって、あんたが私達の代わりに交換所に行ってくれたのには変わりないさ。対価だって自前で用意してくれたんだ。居候だからって遠慮せずとも、その辺は胸張ってくれて構わない」
「木の実一つぐらいじゃ足代ですら怪しいからね」と付け加えると、彼女はもう一度礼を言って、ザングースが持ち帰った卵の一つを引き寄せた。肉の切れ端を一先ず置いて立ち上がると、卵を軽く叩いて中の様子を確認してから、奥の方へと持っていく。干し草を敷いた寝床の一つに近付き、横になっていた黒い影にそれを渡すと、持ち帰った相手に礼を言うよう言い添える。体を持ち上げた黒陰は小柄なニューラの姿になって、そちらを見守る気弱な猫鼬ポケモンに、笑顔と共に口を開いた。
「有難う、ヒューイ兄ちゃん!」
「どう致しまして、ウララ。暑い日が続いてるけど、早く良くなってね」
ザングースが言葉を返すと、まだ幼さの残る鉤爪ポケモンは「うん!」と頷いて、彼が持ち帰った御馳走を嬉しそうに掲げて見せる。夏バテ気味の妹に寝床を汚さぬよう起きて食事するように言い添えると、ラクルはヒューイに向け、自分達も朝食にしようと声をかけた。
ヒューイは臆病者の猫鼬。ある日ふらりとこの近辺に現れた彼は、今目の前で一緒に朝食を取っている、マニューラのラクルに拾われた居候だ。元々人間に飼われていた為、野生で生きていく術も心得も一切持たなかった彼は、本来の生息地から外れたこの地で仲間も縄張りも持てず追い回された揚句、栄養失調で行き倒れになりかかっていた所を、全くの異種族であり野生のポケモンである、彼女によって救われた。
まだ根雪の深い春先の頃、泥だらけでふらふらのザングースを見つけた彼女は、マニューラという種族が当然取るべき行為をあえてやらずに、彼を生かして自分のねぐらまで運び込み、熱心に世話を焼いた。本来なら肉食性の狩人であり、仲間内の結束は固い半面異種族に対しては非常に冷酷なニューラ一族の事であるから、彼女のこの行動は当時大いに波紋を呼び、実際血縁関係にある親族達からも、さっさと始末を付けるよう何度も言われたらしい。今でもヒューイ自身、これに関してアクの強い冗談や皮肉を言われる事が少なくないのだから、当の本人であるラクルがどれだけ風当たりが強かったかは、推して知るべしである。
ところがしかしラクル自身はと言うと、そんな事は自分からはおくびにも出さず、後に周囲からの言葉よって己がどれほどの恩を受けたかを悟った彼が恐る恐る話題を向けてみても、「好きでやった事さ」と切り捨てるだけで、何ほどの事とも思っていないようだった。彼女は寧ろ、ヒューイが自分の妹であるウララの命を救った事実の方に強い借りを感じているようで、今でもやたらと『手のかかる』ポケモンである彼を止め置き、何くれと面倒を見てくれている。正直身の縮むような思いではあるものの、未だに自力で生きていける自信が毛ほどにも感じられない彼としては、こうして養って貰う他には光明が見出せないのが現状である。
ヒューイが彼女に恩を作ったと言うのも、いわば成り行き上の事に過ぎない。長い眠りから覚めたあの日、自分の置かれていた状況がまるで分かっていなかった彼に対し、恩人の冷酷ポケモンはどこか落ち着きに欠けた様子ながらも、好意的な態度で事の次第を話してくれる。「好きなだけ居てくれて良い」と言い置くと、気忙しげに場を立った彼女の態度が腑に落ちず、おっかなびっくり立ち上がった先で見たのが、熱にうなされているニューラと、それを看病しているニューラとマニューラの姉弟だった。狩りの際に負った傷が化膿し、明日をも知れぬ容体だったウララを救う為、ヒューイはその足でキッサキの町まで駆け走り、毒消しと傷薬を手に入れて来て、無事彼女の一命を取り留める事に成功する。長く人間と共に暮らし、『飼われ者(ペット)』の蔑称で呼ばれる身の上だったからこそ出来た芸当であり、同じように命を救われた彼としては寧ろ当然の行いであったものの、これによって彼自身の株が大いに上がったのは間違いなかった。結果的に、彼は家族の恩人としてラクル一家に受け入れられたし、群れの他の同族達からも、『役立つポケモン』として一応の存在を認めて貰えるようになったのである。
とは言え、やはり彼自身が居候でしかないのは間違いなく、群れの中では紛れもない異分子である。何とか自力でサバイバル出来るようになり、これ以上一家の負担にならぬよう心掛ける事だけが、目下の彼の唯一にして、最大の目標だった。
ヒューイの日課は固まっている。朝食が終わると外に出て肩慣らし、次いで昼食時まで木の実の探索と採集である。狩りの心得はラクル達から教えられはしたものの、未だに小動物さえ満足に捕まえられず、例え木の実と引き換えに交換して貰った獲物でも、裂けた傷口から臓物でもはみ出ていようものなら気味が悪くて持って歩くのも躊躇うほどで、自活の道はまさに多難としか言いようがない。
しかしそれでも、彼は黙々と日課をこなす。倒木相手に接近戦の練習をし、木陰を縫ってオレンやキーの熟れ具合を確かめると、昼食の為に一旦ねぐらに舞い戻る。手早く食事を済ませ、暑気をしのぐべく午睡に入る一家に断りを入れると、今度は狩りの修練を積む為に、森の中へと分け入った。ポケモンフーズと違い素早っこい獲物達に翻弄され、そのまま悄然と茜空を迎えるも、せめて見付けられるようになっただけずっとマシじゃないかと自分を励ます。帰る前に少し足を延ばし、自分で設けた秘密の菜園の様子を見たら、一日の活動は終了である。苦労して手に入れた珍しい木の実を植えているその場所は、未だに嘗ての生活を引きずっている彼の、苦肉の象徴とも言えるものであった。
黄昏過ぎて戻って来た彼の不首尾にも、誰も皮肉めいた事は言わない。群れの中でも一目置かれる狩りの名手であるラクルは、背中を丸めてもそもそと食む居候が増えた所で、家族に負担を掛けさせるような事はなかった。日暮れ時の短い間に自分の仕事を終える彼女に対し、ヒューイは畏敬の念を抱くと共に、自分がどうやってもその域には及ばぬであろう事を、忸怩たる思いで噛み締めるしかなかった。
狩りの腕は進歩せぬまま、暑い季節が通過していく。時々練習に付き合ってくれるラクルや彼女の弟のルプシに言わせれば、彼は余りにも「トロ過ぎる」らしい。
「迷いも戸惑いも挟む暇はないよ。近付くまでは用心深くしないといけないけど、行く時は一気に行かないと。あんたは何にしても時間を掛け過ぎるのが欠点だ」
ラクルの批評は厳しかったが、同時に「周到なのは悪い事じゃないけどね」と、言葉を添えてくれるのも忘れない。弟であるニューラのルプシは妹のウララと違って活発で、生意気盛りで既に自立を終えている優等生だったが、妹を救ってくれたヒューイに対しては好意的で、失敗続きの彼をからかいながらも根気よくコツを教えてくれた。……残念ながら、その好意に報える見込みは未だ立っていないのだけれど。
駆け足に過ぎるキッサキの夏は彼に何の進歩も齎さなかったものの、一方で並行して進めていた彼の試みそれ自体には、大きな成果を残してくれた。崖際の窪地に設けられた彼の菜園では、盛夏の日差しを一杯に浴びた果樹の群れが、綺麗な花を咲かせている。狩りに不適な地形の為主達は見向きもせず、かと言って優れた狩人であるニューラ一族の縄張りに好んで近付くポケモンもいない御蔭で、丹精込めたヒューイの努力の結晶は、今の所自身でも信じられぬほど順調であった。
進展に差が出ると、やはりどうしても結果が目についている方に傾くのは否めない。元々一種の保険として始めた木の実畑は、今や彼の日課において主要な地位を占めるようになっていた。水やりや草取りの方法も工夫し、彼なりに効率化すると共に、物言わぬ樹木に温かく接し、情を掛ける事を忘れない。傍目には突っ立っているだけの植物が如何に細やかな情によって揺り動かされるかを、ヒューイは良く分かっていた。
果樹の手入れは、今は亡き主が得意としていた仕事であった。遠いホウエンの出身で、根っからのコンテストびいきだった老人は、彼ら自らの手持ちに与えるポフィンやポロックを自作する為、四季を通じて欠かさず収穫出来るよう、木の実栽培に余念がなかった。毎日丹念に樹木を観察し、感情を込めて接するその手法を、彼は「目肥え」をやると称していた。「知ろうと思って見てみれば木の状態が理解出来、必要な手当てが分かる。例え枯れかかっている樹木でも、言葉を持って励ませば不思議と樹勢が回復し、大きな花を咲かせるものだ」――温厚な主の誰に聞かせるでもない問わず語りは、彼を強く慕っていたヒューイの耳に、今もしっかりと息づいている。
しかしそれは、同時に最も振り返りたくない思い出であった。……主人が倒れたあの日、偶々傍らにいて慌てて隣近所に急を告げた彼は、主が不帰の客となった事を理解するや、そのままいても立ってもいられぬままに、全てを捨てて逃げ出したのだ。コダックを模した如雨露が転がり、ふらりと倒れた老人の口から赤黒い血が零れるのを茫然と見ている事しか出来なかったヒューイにとって、身についたこの知識と業は、自分の無力さを象徴するものでもあった。
そうして逃げた臆病者が、今もこうして本来の生業を放棄して、嘗ての生き方にしがみ付いている。流されるままに死ぬべきだった所を救われ、ずるずると引っ掛かったその場所で、未だに受け入れるべき現実から目を背けている。さわさわと慰めるように青葉を揺らす若木に向け、ヒューイは微かに俯けていた顔を上げると、青空をバックに佇む物言わぬ友人達に、寂しさと自嘲の入り混じった笑みで応えた。
木の実畑の管理を終えて帰宅する途中、ヒューイは不意に行く手を遮られ、びくりと身を震わせた。
しかし直ぐに、相手の顔を見て胸を撫で下ろす。「よぉ」と気さくに声を掛けて来たのは、数少ない友好的な知人の一人である、中年マニューラのネーベルであった。右頬に二本の傷痕が走るコワモテの黒猫は、この一帯で最も優秀な狩りの名人である一方、その相貌に反し世話好きで情宜に厚く、新入りの異分子である彼に対しても、これと言った隔ても無く接してくれる稀有な存在である。
「久し振りにこっちに回ってみたら見た事もない木が並んでるし、手入れまでされてやがるからな……。どんな奴が植えたのかと思ってたが、お前さんだったのか。相変わらず変な事ばっかやってるなぁ」
感心と呆れが半々と言った表情で口にする黒猫親爺に、ヒューイは苦笑しつつ「はい」と答える。物々交換の常連、いわゆるマタタビ要員として始まった関係だったが、どうやらウマが合ったようで話すほどに打ち解けて、今では悩みと愚痴を交換出来る程度の間柄にはなっている。酩酊している時は底抜けの笑い上戸で、狩りの最中は近寄るのも憚られるほど真剣な表情を見せるが、平素の彼はガサツながらも御人好しの、すこぶる頼りになる親爺であった。
「何か出来ないかなと思って……。ラクルやみんなにお返ししたいと思っても、僕にはこう言う事しか出来そうにないし」
「こう言う事が出来るなら良いじゃねぇか」
おちょくるような色を引っ込め、不意に真顔になった相手の反応についていけず、気弱な猫鼬は少しどぎまぎしながら口を噤む。「お前なぁ……」から始まる年長者の言葉は、未だに周りを憚るばかりで一人前の雄として振る舞おうとしない若者へのもどかしさが、包み切れぬ気遣いと共に伝わって来る。
「お前も好い齢してるんだから、大概にしゃんとして歩けよ。オトコだろ? ガタイだって俺達より良いんだし、好い加減もっと強気に生きたらどうだ」
「はぁ……」
「はぁ、って……なぁ……。何でこう切れ味が鈍いのかねぇ?」
思わず首を捻るネーベルに、ヒューイは呑まれ気味だった己自身を取り戻しつつ、「でも僕は居候な上に余所者ですし」と控え目に答える。本当はほぼ無意識の内に言い訳にしているに過ぎないのだが、言った本人が気付いていないその逃避も、彼には御見通しらしい。人一倍鋭い眼でじろりと睨むと、引け腰でやり過ごそうとする若者に、諭し掛けるように言葉を紡ぐ。
「お前が誰かなんて気にしてどうする。男の貫目なんて、そんなもんとは何の関係もねぇよ。陰で何言われようが気にすんな。狩りがダメなら教えてやるし、俺の次ぐらいに上手くなりゃ、誰も何も言えねぇよ」
大真面目に「俺の次ぐらいに」と言う辺りが、如何にも彼らしい言い草である。だが、本気で自分を心配してくれている相手の前で、ヒューイは何時ものように笑って誤魔化す事は出来なかった。
「そもそもお前を拾って来たのはラクルなんだし、何か抜かす筋合いがあるならあいつに直接言うべきなんだ。思いがけずお前がやって来たせいでやっかんでる奴がどれほどのもんだって話だし、そうじゃない連中には実力で分からせれば良い。最悪狩りが上手くならずとも、お前には木の実や知識って武器があるだろ? 家族を食わせるのに、狩りと木の実にどれほどの差があるかってんだ。ラクルの奴じゃなくとも、群れの中にゃ狩りの出来る娘はごまんといる。お前一匹狩りが出来なくとも誰も困らん」
「ちょ、ちょっと待って……。僕はただの居候で……!」
「行き場のない雄って事ははっきりしてるだろうが。え? ここで骨を埋めた所で不都合なんか無いだろ」
何時の間にか自分の嫁取り話にすり替わり始めて、流石にヒューイは待ったをかける。如何に善意からくるものとは言え、此処まで世話を焼かれると彼としても堪らない。が、次に相手が口にした事は、彼にとっては思いもよらぬ内容で、それでいて誰も教えてはくれなかった事柄であった。
「居候云々にしても、ラクルにしたって自分の都合でお前を拾ったんだ。片意地張って庇い立てしてた辺り、お前と昔の出来事を重ね合わせてたんだろう。あいつはずっとその事で、爺さんを恨んでたからな……」
「え……?」
「ラクルがお前を拾った理由さ。直接聞いた訳じゃないが、多分あってると思うな、俺は」
事情を説明し始めた彼の言葉を一句も漏らさじと聞いている内、ヒューイはラクルの抱いているらしい感情が、自分のそれととてもよく似ているのに気が付いた――。
彼がねぐらに戻った時。岩棚の横穴には、主のラクルが一匹だけで残っていた。
ウララは兄のルプシと共に、川に涼みに行ったと言う。「あんたの御蔭で大分良くなった」と好意的な表情を見せる冷酷ポケモンに、ヒューイは聞いて来たばかりの内容を切り出すべきか、束の間迷った。
だがその逡巡を、優秀な狩人でもある相手は、あっさりと見破ったのだろう。どうかしたのかと問うて来る彼女に対し、引っ込みがちな猫鼬は、意を決して口を開く。
「実は途中でネーベルさんに会ってさ……。聞いたんだ。ラクルについて、色々と」
「ふーん?」とでも言いたげな表情を見せる彼女に若干気押されながらも、ヒューイは一度踏み出した勢いのままに、自分が聞いたその内容を繰り返す。多分怯まなかったのは、ずっと自分が苛まれて来た思い出と、重なっていたからだろう。
彼女には昔友達がいた。マニューラではない、彼らの縄張りの外から来た友達が。天敵に追われて傷だらけで逃げ込んで来た彼を、ラクルは仲間に告げずこっそり匿い、家族にも内緒の秘密の時間を過ごす内、すっかり打ち解けて仲良くなった。
だがある時、彼の存在が周りにばれた。友人に食べさせたいが一心で非常時の備えとして手付かずにしていたオボンの木に登った彼女は、同心している仲間がいるかどうか確認する為泳がされていたとも知らず、見張り番をしていた大人達を、真っ直ぐ隠れ家に導いてしまったのだ。悪ガキ共の度胸試し程度に思っていた彼らは、実態を知るとすぐさま彼女の友達を捕まえて、木の実泥棒と共に群れの頭を務めていた、彼女の祖父の下へ突き出した。
勿論彼女は、必死に友達の為に嘆願した。当時から既に頭角を現していた彼女は群れの内でも期待の星であり、捕えられた友人も、現場では何とか傷付けられる事も無く収まっていた。だが、厳格さで知られ、恐れられていた彼女の祖父は、群れの伝統的な慣習であり自らも定めた掟を揺るがせる気はなく、孫娘の涙ながらの訴えも黙殺して、潜り込んでいた異分子を即決で処分する決定を下したのである。「他種族と交流する事一切無用」と言うその原則の下あっさり息の根を止められ、獲物として分配された友人の末路に、ラクルは暫くショックから立ち直れず、旧に復しても祖父とだけは、最後まで打ち解けようとはしなかったと言う。
「困った親爺だね。酔っ払ってなくても御喋りなんだからさ」
ヒューイが打ち明け終えた後、黙って聞いていた彼女は開口一番そう言って、何とも言えぬ苦笑いを浮かべた。極力何でもないようには装っているものの、呟きと共に眼差しの内に宿った翳は、彼でもはっきり読み取れるほどに色濃くて、底の深いものだった。
「確かに、そんな事があったよ。……私もまだまだ未熟だったからね。後をつけられてたってのに、全く気付かず仕舞いだった」
淡々と語る言の葉が、ヒューイの耳には別の形で突き刺さる。何に憤懣を漏らすでもなく、敢えて自分の未熟さに焦点を当てようとするその姿。――それもやはり、彼には見慣れた光景だった。自嘲に満ちた、淡い諦観。「あの時こうすれば」、「自分がこうであったなら」。終わらぬ繰り言に縛られ、責め先を自身にしか見出せない苦悩は、何よりどうする事も出来なかった自身のそれと重なって、ヒューイの胸を締め付ける。その虚ろな瞳がやり切れなくて、彼は思わず前に出ると、嘗て見た事もないほど小さく感じた相手身体を、包み込むように抱き締める。
「なっ……!?」
思わず声を上げて固まり、次いで戸惑ったように身を離そうとするマニューラに、彼は微かに震えながらも、心の底から思いを込めて呼び掛ける。「君は悪くない」、と。
老人が倒れた日の朝、ヒューイは自分の主が、常に飲み続けていた薬を切らしていたのに気が付いた。文机の上に散らばっていた空のフィルムは数が足りず、何時もの半分ほども無い。老人は胸の血管が弱っており、既にここ数年で薬を手放せない身の上となっていた。主人が地に伏した時、彼は生まれ備わったその全力で駆け走り、隣の家の柵門をでんこうせっかで突き破る。必死に助けを求めて飛び込んだものの誰もおらず、結局何とか通行人を掴まえて戻って来たのは、三軒目を覘いた後だった。
多分何をどうしても、主は助からなかっただろう。薬は気休めと本人自身が語っていたし、既に意識を失って倒れた時点で手の施しようがなかった事は、直感的に覚っていた。……けれども、それで納得出来るかは別物だった。助けを呼べたのは彼だけであり、薬を受け取りに行くよう誘う機会もあった。ヒューイは主人のお気に入りだったし、老人は彼の全てであったのだ。
彼を失ってから、ヒューイは行くべき道を見失った。目の前のマニューラは傍目にはちゃんと立っていたが、絡み付いた苦悩の蔓は断ち切れず、未だ翳の刃に苛まれ、声も無く血を流している。終わりの見えぬその苦しみが分かるからこそ、彼はこれ以上恩人に、背負い続けて欲しくはなかった。
込み上げて来た衝動が去り、身体の震えが収まった後。ヒューイは恐る恐る身じろぎすると、既に抵抗を止めていた彼女の背から腕を引き、静かに下がって相手に詫びた。
「ごめん……」
視線を合わせる勇気も無く、ぽつりと呟く彼に対し、ラクルはやや置いた後、冷たく光る鉤爪を持ち上げると、俯く相手の顎にあてがい、そのままくいと持ち上げる。
「謝るこたないさ。何で謝る必要があるのか、こっちが聞きたいほどのもんだ」
柔らかくも何処か寂しげに微笑んで見せた彼女は、次いで「ありがとう」と口にすると、直ぐに自らの見せたその表情をはぐらかすように切り替えて、軽い溜息と共に苦笑する。
「私もヤキが回ったかな。居候のザングースに慰められているようじゃ、先が思いやられるね」
顎に当てた爪を引っ込め、どう反応すべきか戸惑っているらしい猫鼬に背を向けると、ラクルは夕食の支度をすべく、足早に岩棚を後にした。
平穏だった森に衝撃が走ったのは、それから数日後の事だった。
何時も通りの一日が過ぎ、後は夕食を待とうと言う時間帯。突然駆け込んで来たルプシの切羽詰まった呼び掛けが、彼らのねぐらに急を告げる。
「ハガネールが暴れてる!」と叫んだ彼の次の言葉に、ラクルは勿論此処の事情に疎いヒューイまでもが、血相を変えて外に飛び出す。不意に現れた鉄蛇ポケモンに襲われたのは、散歩に出ていたウララだったのだ。飛ぶように走り、見る見る内に引き離されていく両者の背中を焦慮に満ちた目で見詰めながらも、ヒューイは少しでも喰い下がろうと、必死に四足で地面を蹴って追い縋った。
何とか二匹の姿を捉えたままで辿り着いたその先は、既に大荒れに荒れていた。木々が折れ、地面が抉れて至る所に穴ぼこが空いた川岸で、先に駆け付けた数匹のニューラやマニューラ達が、巨大な鉄蛇を取り巻いている。辺りを睥睨するハガネールが余裕に満ちている反面、数には勝れども種族柄非常に不利な黒猫達は近付く事も出来ず、爪を光らせ威嚇するのみで、焦りの色を隠せていない。早くもやられ倒れ伏している者も二体ほどおり、苦戦中なのは一目瞭然であった。
駆け付けたラクルとルプシがすぐさま敵に向かう中、ヒューイは一先ず呼吸を整えながら、ウララの姿を探してみる。程なく彼は、ハガネールが圧し折ったと見える倒木の陰に蹲り、縮こまっている彼女を見て取った。恐らく怪我をして動けなくなった所で、仲間が駆け付けて来たのだろう。怯えと共に彷徨わせていた視線がかち合い、此方を認識した幼いニューラの瞳の内に縋るような色が浮かんだのを受け、ヒューイは意を決すると、覚悟を決めて前に飛び出す。先に突出したラクルが、迎え撃とうと巨体を廻らせるハガネールに飛び掛かるのを横目に見つつ、彼は目を瞑る思いで鉄蛇の尻尾の下を潜り抜け、ウララの許に滑り込む。
「大丈夫、ウララ?」
「うん……。ありがとう、ヒューイ兄ちゃん」
気が緩んだのか、目を潤ませて抱き付いて来る小柄なニューラを励ましつつ、ヒューイは手早く観察して、怪我の程度を確認する。幸い出血も骨折も見えず、せいぜい足を挫いたか、軽い打撲ぐらいのものらしい。
「早いとこ逃げよう。掴まって」
長居は無用とばかりに、ヒューイは自分の背中に彼女を乗せると、外の様子を窺がってから走り出す。必死に距離を取る背後では、ハガネールの繰り出したストーンエッジを家主のマニューラが身軽に避けて、氷の礫で反撃している。彼女の果敢な突貫により、どうやら勢いを取り戻した周りの鉤爪ポケモン達も、てんでに礫や凍える風を撃ち込んで、ラクルの奮闘を援護している。小煩く攻め立てて来る黒猫共の反攻に、大柄な鉄蛇ポケモンは効果的な対応が出来ず、苛立たしげに尻尾を地面に叩き付けた。
だが、一見単純な力押ししか出来そうになかったその相手は、直後思いもよらぬ手で反撃に移る。周りを囲むすばしっこい狩人達を一渡り睨み回した彼は、不意に全身を輝かせると、一呼吸置いて辺り構わず、鋼の身体から光の帯を乱射する。
「うわっ!?」
「ぎゃ!!」
まるで刺を撃ち出したテッシードを思わせるような多方面攻撃に、避け切れなかった黒猫達が悲鳴を上げて蹲る。自分に向けて飛んで来た光を慌てて横っ跳びにかわしつつ、ヒューイは普通のハガネールなら先ず覚える事はないその技の名称を、信じられない思いで口にする。
「ラスターカノン……!? まさか……」
ラスターカノンは光を一点に集めて照射する、中距離向けの遠隔攻撃。鋼タイプの技ではあるが、本来野生のハガネールは、この技を覚える事はない。これを使えるのは、技マシンで習った時――人間の手によって覚え込まされた個体のみが、この特殊な技を扱う事が出来るのである。しかもこのハガネールのそれは、本来一点に凝縮して単体の相手を狙うべき技を、威力を大きく下げる代わりに放射状に無差別攻撃を仕掛けると言う、非常に実戦向きのアレンジまで加えている。此処まで戦いに特化されたポケモンが、元々野生に居る筈がなかった。
頭に浮かんだ結論に彼が驚愕する中、ハガネールは続いて強烈な地震を繰り出して、自分の周りで動けなくなっている、鉤爪ポケモン達を一掃する。地面タイプ屈指の大技の余波は激しく、ラスターカノンを避け切っていたラクル達も大なり小なり巻き込まれて、辺りは技の轟音とダメージを受けたポケモン達の悲鳴や呻きで騒然となった。ヒューイ自身も巻き込まれはしたものの、地震が来るのはある程度予想出来ていた為、ウララ共々痛手を被る事は免れる。
身軽なラクルも直撃こそはしなかったが、堪えた衝撃に動きが鈍る。それを見て取ったハガネールは、訪れた勝機を見逃す事無く、すぐさま次の手を打って来た。戦意充実し咆哮を上げた鉄蛇は、巨大な鋼の身体を駒のように回転させ、一直線にマニューラ目掛けて突っ込んでいく。この種族最強の武器である、最大火力のジャイロボール。もしこれが直撃すれば、ハガネール自体の質量も相まって、ほぼ間違いなく致命傷は免れない。
「ラクル! 危ない!!」
必死に叫ぶヒューイの声に応えるように、マニューラの身体が横に跳ぶ。でんこうせっかで何とか回避したのも束の間、ハガネールは折角巡って来た好機を無為にする心算は無いらしく、そのまま方向を転換し、彼女のみに狙いを絞って追い掛け始めた。
一方ヒューイの方は、急いでウララを地面に下ろした。姉の名を呼ぶ小柄なニューラに下がっているよう伝えると、彼は地を蹴って前に出ながら、ずっと使う事のなかった、自分の能力(ちから)を呼び覚まそうと試みる。必死に距離を詰め、風を切って高速回転する鋼鉄の蛇を射程圏内に捉えると、地に着けていた二本の腕を持ち上げて、標的を見据え身構える。最速で呼吸を整え、無意識の内に鋭い爪が飛び出している己の腕に戦う力を込め始めると、程なく生まれた枯れ草色の塊が、どんどん大きくなっていく。――命中率の悪い技だが、得られるチャンスは一度きり。両手で保持したエネルギー弾が十分育ったのを確認すると、ヒューイは全神経を集中し、恩人に向けて突進していく巨大な灰色の駒に向け、思いっきり技を繰り出した。
矢声と共に解き放ったのは、格闘タイプの気合い玉。ただでさえ制御の難しいそれは威力の確かな大技の半面、ちゃんと使いこなせても尚命中精度が不安定と言う代物だったが、今回は的の大きさが幸いした。案の定、予想もしなかった弧を描いて彼の肝を冷やさせた光の玉は、それでも何とか予想進路から大きく外れる事は無く、猛進するハガネールに引っ掛かるように命中する。凝縮されたエネルギーが炸裂音と共に弾けると、マニューラに向かっていた鉄蛇の身体は凶暴な力に打ちのめされ、強引に進路を捻じ曲げられて、苦痛の吠え声と共に横転したまま地を滑る。回転する鉄骨のようなハガネールの巨体は、繰り出していた技の勢いそのままに地表を削りながら進んだ後、岩にぶつかって漸く止まった。ぐったりと横たわる彼は命に別条こそ無さげだったが、最早起き上がって戦う事は不可能だろう。
「すげえな……。あんたそんな技が使えたのか」
大きく安堵の息を吐くヒューイに向けて、ルプシが気圧されたように言葉を掛ける。タネを明かせば、物理ダメージに対して極めて強靭な半面、特殊攻撃に対しては非常に脆弱なハガネールと言う種の弱点を突いただけなのだが、その手の知識がまだ無い彼には、今の一撃が驚嘆に値する、恐るべきものに見えたのだ。……まぁ事実、強力な技である事は間違いないのだけれど。
此方も漸く安堵の表情を浮かべたラクルに、ウララが足を引き摺りながら走り寄っていくのを眺める内。唐突にヒューイは、今まで聞いた事も無い声で、背後から呼び掛けられていた。
「見事だな。大した腕だ」
称賛を意味する内容であるにもかかわらず、ハッとするほど冷たいものが入り混じったその声に、ヒューイは慌てて振り返りつつ、無意識の内に身構える。――果たしてその相手は、今まで出会った事も無いポケモンだった。
そこに居たのは、一匹の猿。燃え盛る炎を頭部に宿し、彼と同じく白を基調とした体毛を纏うその種族自体は、嘗て主と共に観ていたテレビの中で、よく目にしていた存在である。
「ゴウカザル……」
「まぁ、そうだ。見ての通りの事だがな」
彼の呟きが何処となく可笑しかったらしく、目の前の火猿ポケモンはやや表情を緩め、軽い苦笑と共に頷いて見せた。次いで再び目付きを戻した彼は、ヒューイに向けて「いきなりで悪いが、ちょっと付き合って貰いたい」と要請する。
「貴様、元は人間の手持ちだろ? 気合い玉が使えるのなら、先ず間違いあるまい。なら――」
「ちょっと待てよ。いきなりでって言うけど、実際訳分からないし迷惑だ。ヒューイをどうする心算だよ?」
『飼われ者(ペット)』ではなく『手持ち(パートナー)』と呼ばれた事に、ザングースが目を見開く一方、傍らで見守っていたニューラのルプシは、抱いた敵意と警戒心を隠さぬままに、両者の会話に割って入る。普段なら同時に爪を光らせ、頭ごなしに威嚇もする所だが、今回は穏やかならぬ口調ながらも、自分から踏み出す事はない。この種族をよく知らぬ彼も、目の前の相手が自分より遥かに危険な存在だと言う事は、本能的に悟れていた。……果たしてその炎の猿は、横槍を入れた彼の方をじろりと睨み、冷たい口調で吐き捨てる。
「邪魔するか、小僧。首を突っ込むなら容赦はせんが構わんのだな?」
「待って……!」
思わず後ろに下がりかけるニューラを追い立てるが如く、険悪な表情で一歩進んだゴウカザルに対し、ヒューイは慌てて両者の間に割って入ると、ルプシを庇うように立ち塞がる。「行くよ」と答えた彼の顔を無言で見詰める火猿ポケモンは、ややもして一つ頷くと、くるりと背を向け歩きだす。その時背後で上がった叫びに、思わずそちらを振り返るザングースに対し、彼は変わらず前に進みながら、「気にするな」と呼び掛けて来る。
「仲間を連れて帰るだけだ。貴様が大人しく付いて来るなら、今は此処の連中に手は出さん」
冷たい声音の裏に見え隠れするその意図に、内心怯えを掻き立てられるも――事実上の選択権を奪われたヒューイは、ルプシに一言心配するなとだけ告げて、前を行く相手の後を追い、今の自分の生活圏である、縄張りの外へと向かい始めた。
ゴウカザルはソグと名乗った。自らも名前を言ったヒューイに対し、彼は「さっき聞いた」と素っ気無く応じつつも、やはりその反応が可笑しいらしく、微かに苦笑しながら首を振る。距離を置いた雰囲気を保ちつつも、不思議なほどに悪意の無いそんな相手の態度に、ヒューイは戸惑いを隠せぬ反面、それほど悪くないと思っている自分に気付く。
やがて見慣れた森を抜け、人間の使う道路が見え始めた頃。唐突に立ち止まったゴウカザルが、くるりと此方に向き直った。
「ここらで良かろう」
そう呟いた彼は、次いで「改めて聞くが、お前は元は人間の手持ちだったんだよな?」と念を押す。ヒューイがそうだと肯定すると、ゴウカザルは満足気に頷いて、「なら話は早い」と呟いた。そして不意に真剣な目付きになると、向かい合う彼が思ってもみなかった事を口にする。
「ヒューイと言ったな。元手持ちなら、是非とも勧めたいのだが……貴様、俺達の仲間に入らんか?」
「え……?」
思わず絶句する彼に対し、ソグは自分が、主を無くしたポケモン達で構成されたグループの、リーダーを務めているのだと言い添える。彼らは高い実力を持ちつつも、野生の世界で独自の縄張りを持てなかったり、上手く生活に溶け込めなかった者の集団で、旅をしながら「此処ぞ」と思った所に滞在し、そこで一定期間土地のポケモン達の厄介になって暮らしているのだと言う。
「さっき貴様が倒したハガネールも、俺達の仲間だ。今は隣の森の厄介になってるんだが、其処の連中に頼まれたのが、今回の件と言う訳さ。あの森はとても豊かで広大だが、主のニューラ共は余所者嫌いで、外から来た奴には容赦しない。だから少しばかり締めてやって、縄張りを削って貰うよう依頼されたんだ」
「でも……それって、彼らから言えばただの侵略なんじゃないかな……? 確かにもっと寛容になっても良いとは思うし、外の世界とも助け合えるならそれが何よりだけれども……」
ゴウカザルの言葉にも頷ける点がある事を認めながらも、ヒューイは控え目に彼の方針に反論する。ラクルが苦しむ切っ掛けとなった出来事を踏まえてみても、排他的に過ぎる姿勢は彼にしたって好きになれない。――けれども、だからと言って外の考え方を押し付けて、それを力づくで認めさせるなど、本来余所者である自分達がして良い事ではない筈だ。現にウララは危険な目にあったし、ラクルに至っては命すら奪われかねなかった。自分の身近な存在が脅かされた彼にとり、ソグ達の行いは不当な侵略以上の価値を見出せるようなものではない。
結局平行線を辿った議論に、最後はソグも諦めた。だが彼は、ならばと表情を改めると、最後に一つだけ釘を刺して来る。
「そう言う事なら仕方がない。惜しい話だが、貴様の事は諦めよう。……ただし、受けた依頼は撤回する心算はない。もし今度邪魔しに来たなら、その時は貴様も敵と見做して、容赦無く叩き潰させて貰う。それだけは肝に銘じておけ」
決別の言葉を終えたゴウカザルは、送りはしないが邪魔立てもせぬと、彼がラクル達の縄張りに戻るのを黙認する意思を示す。臆した色が顔に出ぬよう懸命に表情を取りつくろいつつ、相手の判断に言葉少なに謝意を伝えたヒューイは、冷たい視線を送って来る火猿ポケモンに背を向けると、再び元来た道を踏み分けて、長い家路を辿り始めた。
無事戻って来たヒューイの伝えた内容に、群れのメンバー達は大いに動揺し、議論百出して騒ぎ立てた。
ある者は今直ぐ戦いに向けて技を磨くべきだと言い、またある者は守り易いよう、役割分担をすべきだと言う。幼い者を巻き込まぬよう避難させる事が提案されれば、別の者は年端の行かぬ連中でも、見張りや連絡役は担えるのだから、留めるべきだと主張する。けれども全員が受けて立ち、迎え撃つ事を選択したのは変わらなかった。相手がどれだけ手強くとも、余所者如きに好きにされてなるものかと言う訳である。
その一方で困った事に、ヒューイ自身への風当たりも、露骨に強くなって来た。ラクル一家は言うまでも無く無事を喜び、感謝の念と共に迎えてくれたが、他の大半の同族達は疑いの目を向けて来るか、そうでなくとも嫌悪の情を隠そうとしない。余所者は十把一絡げで余所者であり、外からの悪影響が齎されれば、異分子の印象はただ悪化する一方だった。ルプシなどはハガネールを降した点を挙げたりして懸命に擁護してくれるのだが、あくまで排他論を捨てきれぬ一部の連中に言わせれば、敵であるゴウカザルと共に縄張りの外に出た事を見ても、グルであると判断した方が自然であると主張する始末。無関心や陰口程度なら兎も角、下手をすると闇討ちすらされかねない雲行きに直面して、流石のヒューイも嫌気が差すと同時に、自分がどうするべきであるのか思い悩んでいた。
正直な所、ソグのやり方は許せないと感じたし、出来るなら止めるべきだとも思う。けれども、いざ止められるかどうかとなれば全く自信が無かった。口で言って思い止まるような相手じゃないし、争い事も苦手である。ハガネールの時は他に選択肢が無かったし、そもそも横から手を出しただけで、正面から立ち向かったと言う訳ではない。一応心得も無い訳ではなく、バトル自体が始まってしまえばどうとでもなると思われるのだが、敵意を込めて睨まれるだけで萎縮してしまう自分にとり、こんな状況で自ら渦中に飛び込むのは、無謀以外の何物でもなかった。
寝ても覚めても思い悩んでいる彼に対し、ラクルが相談を持ち掛けたのは、それから三日後の事である。日課であった木の実畑の管理にも出ず、憂いを含んだ目でぼんやりと空を眺めていたヒューイに、家主のマニューラは「頼みたい事がある」と切り出して、彼を現実に引き戻した。
「もし私に何かあった場合に、ウララの事を頼みたいんだが……構わないだろうか? ルプシが無事で残っているとは限らないし、いたとしてもあの子は身体が強くない。その点あんたは病気や薬になる木の実に詳しいし、妹に関してはあいつよりよっぽど頼りに出来る。……こんな場所に縛り付けたくは無いけれど、せめてあの子が一人前になるまでは面倒見てやってくれないか?」
「ちょっと待って……! そりゃもし何かあったら、言われるまでも無く引き受けるけどさ……。何もそんな縁起でもない事言わなくても」
承諾しつつも、そんな事考えたくも無いと言う表情のヒューイに対し、ラクルは何時に無く真剣な面持ちで、自らの見据えた展望を語る。
「私もこんな事は言いたくないよ。……でも、もし本気で向こうが攻めて来るなら、勝ち目があるかは怪しいもんだと思うしかない。この間のハガネールだって、私達だけじゃ手に負えなかったんだ。あんなのが束になって掛かって来たら、追い払うどころか逃げ散るだけで精一杯ってとこだろう。そうなれば私らは幼い連中を守る為にも、前に出て時間を稼がなきゃならない。命までは取られなくとも、不具にぐらいはされる覚悟をしといた方が良いだろうな」
淡々と語る彼女の目には、その絶望的な内容とは裏腹に、恐れる気配は微塵もない。怖くないのかと尋ねると、ラクルは軽く苦笑して、「これがうちの一族の伝統だからね」と頷いて見せる。
「祖父さんがよく言ってたよ。受け止めずに逃げ出すのは簡単だけど、結果を見詰めるのは死ぬより辛いって。最初は意味が分からなかったけど、あの事があってから骨身に染みた。別れが辛くて延ばし延ばしにしたせいでああなったんだから、そう言う意味では重い教訓だったね。……今だって、ウララ達に当て嵌めてみれば答えははっきりしてる。逃げる訳にはいかない」
強い光を湛えて語る彼女の瞳を、ヒューイはまるで憑かれたように、言葉も無く見詰め続ける。その内でうねる嵐のような波頭に気付かず、件のマニューラは自分を見据える猫鼬に向け、少しだけ表情を和らげて付け加えた。
「とは言った所で、結局偉そうな事を言えた義理でもないんだけどね。……あんたに諭されるまで、私もずっと前を向けてはいなかった。私をこうさせてくれたのは、間違いなくあんたなんだ」
ぶるりと震えたヒューイに向け、彼女は微笑み手を差し伸べる。大揺れに揺れる感情の波に頭の中をかき回され、固まったまま動けない猫鼬の片腕を取ると、ラクルはもう片方の腕も持ち上げ、冷たく光る鋭利な爪を立てぬよう、己の両手で相手の掌をそっと包んだ。
「……だからさ。もう役立たず面するのは止めな。私達はあんたを必要としてるし、あんたは自分で思ってる以上に、私達にしてくれてるんだ。あんたの御蔭で、私も色々な事が見えて来た。祖父さんがなんで外の連中を受け入れなかったのか分かったし、それを頭に入れた上でも、自分のやり方は間違って無いと確信出来た。……なのに、未だにあんたは辛い思いをしてる。自分が救われる為に播いたタネであんたが苦しんでるってのに、私はまだあんたの事をろくに知らないし、聞かせて貰った事すら無い。不公平だと思わないか?」
噴き上がって来た熱湯のような塊が、何とか踏み止まろうとしていた、ヒューイの思考力をゼロにした。「少し待って……」と震える声で答えた彼に、ラクルは「分かってるよ」と応じると、そのまま何も言わずに言葉を待った。
多分、その時が来たのだろう。淀み溜まったの胸の重荷が、行き場を失っていた古い涙に包まれて、外に運び出される段階が。傷の舐め合いはしたくない――無意識の内に築かれていたちっぽけな砦(みえ)が跡形も無く崩れ去る中、ヒューイは今なら全ての事を、素直に話せる気がしていた。
その日以来、ヒューイは持ち得る限りの全力で、来たるべき日に備え始めた。あの後、自らも戦うと強固な意志の下に宣言した彼は、長らく錆び付かせていた技の鍛錬を繰り返し、放つ呼吸やタイミングなどを思い出しつつ、傍ら滞っていた何時もの日課を再開して、木の実の世話に精力を注ぐ。衰え始めた初秋の日差しに揺れる果実は、もう充分に大きく熟し始めており、使えるようになるのは目前だった。この近辺では決して見る事は出来ないだろう特徴的なラインナップは、機会さえあれば街の方に出かけていき、バトルの後の齧り残しを拾ったり、鳥ポケモンの糞を穿り返すなどして、コツコツ集めて来たものである。
「そろそろ良いかな」
やがて満足のいく色つやに仕上がったそれを手に取ると、彼は樹木に一声掛けてから、爪で丁寧に付け根を刈って収穫する。秋口の夕日を眩しく弾くヨプの実に、ヒューイは心強げな視線を向けて、己が成果に納得したように頷いた。
ゴウカザル達が現れたのは、それからホンの数日後――木の実の取り入れがまだ終わらぬ、午後下がりの事だった。丁度収穫の為にねぐらを離れていたヒューイは、息を切らせて知らせに来てくれたルプシに会うまでその一大事に全く気付かず、最初の段階から大きく後れを取ってしまう。「既に招集が掛かってる」と告げるニューラは、案内を頼んだ彼のペースにもどかしげな様子だったものの、何だかんだで鈍間な猫鼬に付き合ってくれた。
懸命に走りながらも、ヒューイは途中で一度立ち止まり、尻尾を激しく打ち振って、中に仕舞った唯一の私物を振り落とす。当ても無く駆け出したあの日以来、これだけは肌身離さず持ち続けていたその私物は、嘗ての主人に与えて貰った、小さな筒型のペンダントだった。
「何だそれ?」
振り出したそれを大事そうに拾い上げ、自らの首に慌ただしく引っ掛けるヒューイに対し、振り返ったニューラが怪訝そうに質問する。「大事なものだよ」と曖昧に濁し、再び走り出した猫鼬は、これから始まる危険に満ちた騒乱が何とか上手く片付く事を祈りつつ、嘗て幾多の場面を共にした思い出の品に、決意に満ちた眼差しを向けた。
彼らが到着した時には、もう戦いが始まっていた。予てから想定していた通り、有利に戦える種族を中心に攻め込んで来た相手方に対し、縄張りの主である味方の側は、その圧倒的な劣勢を高度なチームワークで喰い止めている。数に勝る黒猫達の集団戦術に、一息に押し切ろうとした略奪者達が手を焼いているのを見て、ヒューイは改めてマニューラ達の実力に感嘆した。
けれども、やはりそれだけでしのぎ切れるほど甘くはない。攻撃が分散しているだけで、消耗のペースは間違い無く味方の方が不利だった。せいぜい十数体に過ぎない攻撃側のポケモン達が未だ殆ど脱落していないのに比べ、群れのメンバーで倒れた者は、見える限りでも十指に余る。このまま彼我の比率が接近し続け、膠着状態を維持出来る許容範囲を割ってしまえば、防衛側は一気に総崩れとなり、受ける被害は計り知れない。直ぐにでも敵の数を減らさなければ、明日を待たずに悲嘆の声が木霊して、森を覆い尽くすだろう。
無論それが分かっているヒューイに、手をこまねいている心算は無い。「どうする?」と聞いてくれたルプシに対し、彼は大きく一つ深呼吸すると、両手の爪を露わにしながら返答する。
「援護して! 一匹ずつ片付ける!」
「了解だ! よし、行こうぜ!」
覚悟を決めて地を蹴るヒューイに遅れじと、爪を研ぎ終えた生意気盛りの黒猫が、勇躍して後に続く。自らも己を奮い立たせ、全身の毛を逆立て始めた猫鼬を、ルプシはニヤリと小気味良さげな笑みを浮かべて追い抜くと、視線の先のジバコイルに向け、氷の礫を投げ付けた。身軽にヒットアンドアウェイを繰り返すマニューラに向けマグネットボムを放とうとしていた磁場ポケモンは、頭部のアンテナを直撃した氷塊に、苛立ったように振り返る。すぐさま踵を返して避退するルプシに対し、用意していた必中技の目標を切り替えようとした彼の判断は、ニューラのすぐ後ろから迫って来ていた気合い玉への対応に、僅かではあるが致命的な遅延を生じさせた。慌てて再度志向先を変更するも、元より高度な集中力を要求される精妙な曲技が、度重なる意識の乱れに付いて行ける筈がない。中途で放ったマグネットボムはあらぬ位置で炸裂し、迎撃に失敗した気合い玉は、一撃で彼の継戦能力を奪い去った。撃破されたジバコイルが地面に墜落したのを受けて、戦っていた相手のマニューラが、表情を輝かせつつ駆け寄って来る。
「ヒューイ!」
「ラクル、遅れてごめん」
合流した家主に対し、ヒューイは先程までの勢いに到底似合わぬ声で謝ると、束の間普段の表情に戻り、バツの悪そうな笑みを浮かべた。見慣れた彼のそんな態度に、ラクルの方も何時もの調子で応じると、さっさと戦線に復帰するよう促して見せる。
「構わないさ。ただしその分、しっかり働いて貰うからね」
次いで弟と同じく、どうするべきかを質問して来た彼女に対し、ヒューイはこれまた同じように、自分の動きを支援して欲しいと要請する。快諾してくれたマニューラに向け、一声「行くよ」と声を掛けると、彼は再び手近な相手に狙いを定め、重ねて奮い立てるで己自身を鼓舞しながら、乱闘の渦に突っ込んでいった。
次々と敵を撃破しながら、ヒューイは自分でも知らない内に、戦いの場に溶け込んでいた。心の弱さに封じ込められた本能が息を吹き返し、臆心が生み出す躊躇いの掛け金が外れた先にあったのは、相手を捩じ伏せ自らの力を証明すべく牙を剥く、ザングースと言う種族本来の、純粋な闘争心だった。
嘗てヒューイは、主人と共にコンテストに参加していた。一般的なザングースとは全く異なる彼の技のレパートリーは、そこに端を発している。馴染まぬ技を薬籠中に使いこなすべく、彼はたゆまぬ鍛錬を重ねる傍ら、どんなパフォーマンスにも応じられるよう、徹底して身の軽さを追求した。老いた主を喜ばせるべく励んだ修練の道ではあったが、そこに見え隠れする強い闘争本能には、殆ど気付いていなかった。臆病なのは今と全く変わらなかったが、例えどんな形であれ、自身の事は思い通りにならねば気が済まなかった。扱いの難しい気合い玉や雷も、的中させられるまで放ち続けた。彼は負けず嫌いだった。
心の痛手に一度は折れたその牙が、今再び、違う形で表れていた。駆け疾る彼が力を解き放つ度、手強く働き続けていた敵ポケモンが、一体また一体と地に這っていく。相前後して氷の礫や辻斬りを放つラクルとルプシの姉弟と共に、ヒューイは戦いに没頭している己が心の赴くまま、目に付く敵に襲い掛かった。
フリーフォールで獲物を浚うエアームドに雷を当てて撃墜すると、ラクルの辻斬りを弾き返したハッサムに気合い玉を投げ付けて、そのまま弟の繰り出す袋叩きに便乗し、はさみポケモンに利き腕の爪を叩き付ける。次いで立ち向かったエテボースは俊敏な動きで身をかわし、彼の大技を尽く避ける見事なフットワークを披露したものの、ラクルの放つ氷の礫のコンビネーションには対応出来ず、複数に被弾して力尽きた。礫の名手である彼女は、形も特性も違う幾つかの氷塊を同時に生み出し、変幻自在の波状攻撃で素早い相手を討ち止める。弧を描き飛ぶ羽根型の礫で動きを封じ、針のような形状の細い氷柱で攻め立てられれば、如何に素早い尾長ポケモンとて、逃げ切る余地などありはしない。
矢継ぎ早に相手を仕留め、戦況が著しく変化し始めた所で現れたのがソグだった。傍らに三匹の仲間を従えた彼は、ヒューイ達の前に立ち塞がると、敵意も顕わに言い募る。
「やってくれたな青二才! こうなったからには生かしておかんぞ。覚悟しろ!!」
怒りに満ちた咆哮と共に、火猿ポケモンの頭頂部から、炎の柱が立ち昇る。共に居並ぶドクロッグにブーバーン、ドラピオンの三匹も、それぞれ憤怒の情を剥き出しにして、此方に襲い掛かって来た。
対するヒューイは、素早く一時後ろに下がった。何も言わずとも彼の思惑を心得たらしい姉弟は、何とか時を稼ぐべく、一団となって向かて来る、敵の群れへと斬り込んでいく。
ただでさえ不利な相手に数的有利を取られた彼らに、持ち堪えられる時間は限られている。それを分かっているヒューイは、すぐさま繰り出すべき技の呼吸を整えるべく、全神経を集中した。同時に胸から下がるペンダントに手をやると、細かな鎖で繋いであるそれを勢い良く引き千切り、丁寧に閉じ合わされた蝶番をこじ開けて、中に入った物を摘み出す。細かい作業をこなす間も技の集中は絶やす事無く、やがて彼の周りには、何時しか微かな揺らぎが生まれ始めた。最初は毛先に感じる程度だったそれは急速に勢いを増していき、昂った彼の心に応えるように、激しい渦を巻き始める。
最初にザングースの変化に気が付いたのは、歴戦の勇士であるソグであった。直ぐにそれが危険なものであると看破した彼は、目の前を隔てるマニューラ目掛け、速攻でケリを付けるべく突っ込んでいく。放たれた礫を敢えて無視し、庇った腕に突き刺さったそれを抜きもせずに詰め寄せた彼は、驚愕に目を見開き、次いで顔を庇うように口元に手を添えた相手に対し、激烈なインファイトを叩き込む。すさまじい威力を誇るその一撃は、標的のマニューラを一発で粉砕し、ザングースに向け突き進む彼と、同じく猫鼬に照準を定めるブーバーンに対し、突破口を開く。先ず助からぬであろう黒猫の後を追わせるべく、真っ直ぐ標的に向けて狙いを定める爆炎ポケモンの腕先から灼熱の炎が迸り出た時、何者かが脇から飛び出して来て、技への集中で無防備な、ザングースの前に立ちはだかった。
火達磨になった相手が誰かを理解した時も、ヒューイは何とか歯を食い縛り、技への集中力を維持し続けた。完全に援護を失った彼の瞳の内に、此方に向けて一直線に突っ込んで来るゴウカザルと、その背後で追い詰められたニューラのルプシが、ドラピオンの尻尾を必死に避けている様が飛び込んで来る。
絶体絶命のようにも思えたが、既に彼の成算は立っていた。大き過ぎる代償の果てに整ったそれを繰り出すべく、ヒューイは握り締めた掌を緩め、そこに包み込んでいたものを、乱暴に口の中に放り込む。ペンダントの中に仕舞い込まれていたそれは、傍目には何の変哲も無い、萎びた植物の茎であった。奮い立てるで高揚した戦意に後押しされ、逆立てた毛を風に揺らしつつ好戦的にほくそ笑んだ彼は、その枯れ草をガリリと噛んで飲み下す。口中に広がる刺激的な辛みが全身に力を行き渡らせ、万を時して荒ぶる風が意識と完全に同調すると、彼は己が全霊を込め、自らの意志に従うそれを、認識している全ての敵に向け解き放つ。吹き荒ぶ風は時ならぬ見えない刃となってゴウカザル達を包み込み、全身を滅多切りに切り裂いて、一瞬の内に全体力を奪い去り、戦闘不能に追い込んでいった。
パワフルハーブによって解放されたかまいたちに、ソグ達が為す術も無く薙ぎ倒された後。漸く自由になったヒューイが真っ先に走り寄ったのは、ブーバーンの火炎放射から自分自身を庇った相手――数少ない友人の一人である、マニューラのネーベルの許であった。全身火達磨となり、絶叫と共に倒れ伏していた彼の傍らに飛び込んだヒューイは、まだ完全には鎮まっていない周囲の状況も目に入らぬまま、くすぶり焦げた冷酷ポケモンに押し被さるようにしゃがみ込む。
「ネーベルさん! ネーベルさん!! お願い、しっかりして……!」
「よせ、爪が刺さるから落ち着け。……あー、きつかった。ったく、死ぬかと思ったぜ」
が、今にも泣き出しそうな彼の呼び掛けとは裏腹に、件のマニューラは思いがけぬほどしっかりした声音で反応すると、そのままひょいと頭を上げて、思わず仰け反る若い友人に視線を向ける。「なんで……?」と信じられぬ表情で呟くヒューイに、彼はほれとばかりに、ヘタだけ残った木の実の破片を突き出して見せた。
「オッカ……?」
「そ、お前のな。暇がありゃ食ってやろうとかっぱらって来たんだが、意外な所で役に立ったわ。辛くて美味い上に命まで救ってくれるたぁ大したもんだなこれ」
平気な顔で「かっぱらって来た」とのたまうその相手は、空いた口の塞がらぬ彼に向け、「時々失敬して楽しませて貰ってたのよ」と悪びれる事無く打ち明ける。「代わりに今度狩りのレクチャーを――」と焦げた親爺が続けた時には、ヒューイはもう既に座を立って、同じく致命傷を受けた筈の、家主の許へと駆け出している。
だが、そちらに向かうヒューイの表情は、意外なほどに落ち着いていた。……事実、先に傍らに寄り添っていた弟の呼び掛けに反応した彼女は、次いで隣にしゃがみ込んだ猫鼬に目を向けて、弱々しくも柔らかな笑みを浮かべて見せる。
「……ごめん。遅くなっちゃって」
「全くだ。何時も何をするにも遅(とろ)いんだからさ」
激しい戦いに決着が付き、漸く落ち着きを取り戻した周囲の視線を集めつつ。何時もの姿と雰囲気に戻った両者の脇に、あの日収穫したヨプの実の欠片が、風に揺られて転がっていた。
あの戦いから暫くの間、ヒューイは紛れもない英雄として、群れの連中から下にも置かぬ扱いを受けていた。戦後処理や今後の方針についても強い発言権を認められ、一時は異分子でありながら指導者層の一員として、受け入れられる雰囲気すらあったのである。
だが一月経ち、更に二月も経った今、彼の立場は嘗てと同じ、『少し変わってはいるが役に立つポケモン』に戻って来ていた。あれだけの働きを見せたと言うのに、彼は相変わらず狩人になれる気配が無く、普段の物腰も前と同じで、やっぱりやる事が何処かずれている。自然彼への接し方も軽いものとなっていき、以前と違う点と言えば、悪意のある陰口が聞かれなくなったぐらいだろう。……とは言え、彼にはそれで十分だったのだけれど。
一方で周囲の環境については、明確に変化が訪れていた。
まだ影響力のあった当時、ヒューイが真っ先に主張したのは、戦いに敗れ虜囚となった、ソグ達の助命と解放であった。幸いあの戦いでの犠牲者は無く、群れの連中の反感もその分許容範囲に収まっていた為、彼の必死の説得は、何とか実を結ぶ形となった。更に彼はそれに合わせ、長年断絶状態にあった群れと外の世界との交流を、推進する事も提案する。此方も抵抗は根強かったが、今回の事件もこの孤立主義に端を発していたと言う事実もあり、取りあえず通行や冬季以外の限定的な滞在ぐらいは認めても良かろうと言う風に落ち着く。正直まだまだ小さな一歩だったが、抉じ開けた風穴が残り得る限り、前進の機会は常にある。――少なくとも、ヒューイやラクルはそう信じていた。
ヒューイの日常は、今も変わらない。来たるべき冬に備えてせっせと集めた木の実を貯蔵する彼の姿に、「ザングースとはパチリスの親戚だったのか」と言った冗談は聞こえて来るものの、既にその手の言い草に慣れ切っている彼には、何程の事でもなかった。
「よくもこれだけ集めたもんだね」
「うちだけの分じゃないからね。交換に使える事も考えたら、冬の間は幾らあっても困らないと思うよ。この森は木の実集めをするポケモンも少ないから、独り占めの心配はないし……」
「そんな考え方してるから、自分の縄張りが持てないのさ」
やれやれと言う風に首を振るラクルに対し、ヒューイは曖昧に苦笑して見せる。何だかんだ言っても、自分がこの手の思考法から抜け出せる事はないだろう。――人間の世界で習い覚えたその知識や習慣は、やっぱり彼の一部に違いないから。
今の彼には、あるがままの自分を受け入れてくれる、掛け替えのない家族がいる。拾って貰ったヒューイにとっては、ただそれだけで充分だった。
・後書き
ポケモン小説wikiさんの第八回仮面小説大会にエントリーさせて頂いた作品。こっちは一般部門。これも一粒万倍日に乗せた奴なので覚えておられる方もおるやもしれませんね。
実は期日に二日遅れており、ペナルティも貰ってしまった代物。見てわかる通り終盤はめっちゃ駆け足で竜頭蛇尾な終わり方です。……うん、その通り。未完成なんだ。ゴメンorz せめて完成させてから投稿しようと思ったんだけど、どうにもポケモンGoが忙しくて……(撲殺)
ホワイティ杯とブッキングしてたせいではあるんだけど、向こうの夏の終わりも未完成だったことを考えるとやっぱり自分は仕事の出来ん人間なんだなぁと悲しくなりました……。しくしく。
タグ: | 【書いてみた】 |
Subject ID:
123221
Subject Name:
心の鏡
Registration Date:
2010-11-29
Precaution Level:
Level 2
Handling Instructions:
確保個体は管理局保有の対有異常性形態獣用の専用モンスターボールに収容し、本案件の担当となるタマムシシティ西部のバイオリサーチセンターに移送した上で、静止状態にて管理してください。
当該個体からのヒアリングのための実体化を行う場合は、半径200m以内に担当者以外の局員および携帯獣を立ち入らせず、必ず単独でヒアリングを行うようにしてください。
個体#123221は他のオブジェクトの調査のため有用と思われる性質を持ちますが、異常性事案の防止のため個体#123221を使用して調査を行うことは原則として禁止されています。個体#123221を使用した実験を行う場合、形式F-116980に則った完全な計画書を提出した上で、3名以上の高レベル責任者から承認を得る必要があります。
個体#123221の関与の疑いのある事象が確認された場合、対レベル3バイオハザードスーツを着用した局員を急行させ、同時に当該地域の警察機関等と連携し、個体の確認されたエリア一帯への立ち入り禁止措置を取ってください。
個体#123221自体には強い攻撃性を持つ個体は確認されておらず、標準的な携帯獣の捕獲手順に従ってモンスターボールに収容することは容易です。また、個体群は総じて高い知能と社交性を持つため、彼らが意志の疎通が可能な形態を取った場合は会話による説得も可能であり、既に複数の個体が説得により管理局へ収容されています。
Subject details:
案件#123221は、特異な性質を持つメタモンの個体群に掛かる一連の案件です。特異な性質を持たない通常のメタモンは、この案件の取扱い範囲外です。
特異個体#123221が初めて確認されたのは2010年の9月半ばです。
セキチクシティに位置する警察機関および管理局緊急チャンネルへ「異常な生物がいる」という通報が殺到するという事案が発生しました。すべての通報において一貫して多種多数の人間及び携帯獣の身体の一部より成り立つ異常な生命体のことが伝えられており、何らかの異常事案の発生が憂慮されたため、最寄り拠点であるセキチクシティ第十拠点より複数の局員が出動し、関係各局と連携の上事態の収拾に当たりました。
局員が通報を元に探索を行っていたところ、セキチクシティ東部に向かっていた局員が通報と一致する異常な生命体を発見しました。携帯獣の身体的部分を有することから携帯獣と同等の性質を持つと推測した局員が特異個体#123221を捕獲することに成功し、その後個体#123221はタマムシシティ西部のバイオリサーチセンターへ移送され、その性質についての詳細なテストが行われました。
テストの結果、個体#123221はおよそ半径200mほどの範囲内における有知性生物の精神が思い描いた姿を取ることが判明しました。この範囲内に複数の有知性生物が存在する場合、個体#123221は有知性生物の総数に応じた複数の特徴を持つ形態に変身します。この範囲内に他の有知性生物が存在しない場合、個体#123221はいかなる場合であっても変身を行いません。
また、範囲内に有知性生物が存在する場合であっても、個体#123221が自己の意志に従って変身を行うことはなく、その姿形は常に周囲の有知性生物の想像の通りになります。
これまでに十数体の個体#123221が確保されていますが、各個体からのヒアリングの結果、彼らは一貫して自己のこの形質について、また他者の望みを叶えることそのものについて肯定的であるということが判明しています。しかし彼らの特異性の起源については話が一定せず、彼らは必ずヒアリングに当たった局員が最も強く信じる仮説に沿って自らの由来を語ります。
こうした精神に干渉する性質はエスパータイプの携帯獣に多く見られますが、いかなる携帯獣識別用デバイスを用いても個体#123221は通常のメタモンとして判定されます。
Supplementary Items:
本案件に付帯するアイテムはありません。
―――
586さん「Subject notes.」シリーズの「書いてみた」となります。本家でメタモンらしき話が出てきたのに刺激されまして。
嘗ての景色は、やたら低い。
森に住んでいた。されど、緑色の丸い体を寝かせずして、木の頂点など見えなかった。高い所がどうなのか、立った状態では把握できない。えげつなく制限された視界。それは、特に飛行種族に対して、多大な幸福を齎した。
ある日眼前に、二本の棒が出現した。棒は交互に動いて、近づいてきた。全体的に肌色。下部は白く、手前に出っ張る。以前も、似たようなのを見た。今回は毛がない。だから違うと、思った。ところが、棒が静止した後、ボールが降ってきた。赤と白のボールだ。弱小獣、弱らせる必要なし。人間だと分かれば、すぐに逃げた。後悔の波に溺れた。目を瞑った。しかし当たった感触あらず。どうやら外れたようだ。人間は去った。道具を切らしたか。捕まらずに済んだ。運が良い。
まあでも、人間はそんな怖くない。たまにしか遭遇しない、何より殺さない。問題は、天敵の方。食物連鎖の底辺、キノコポケモンのキノココ。鳥タイプはもちろん、キャタピーも稀に齧ってくる。キノココには、栄養が詰まっている。嬉しくない取り柄だ。おかげで毎年、世界標的グランプリの最上位に君臨する。
キノココは、頭に毒胞子を持つ。けれど、モモンの実と食べれば解決。第一に、それのみ口にしても死にはしない。毒は然程、脅威にならず。
もはや絶望的。逃げ足も遅く、痺れ粉も精度に難あり。そして視界も狭い。それでも僕は何とか、今日まで生存できた。かつてオオスバメに襲われ、危なかったことはあった。激しい戦いの末勝てて、捕食から避けられた。何故あんな、巨大な燕を倒せたのか。僕は本当に、運が良かったのだ。
月日が経ち、僕は人間に捕まった。生きて行く上で、最大の心配ごとが消えた。そんな瞬間だった。この時点では、捕まってむしろ良かった。仲間はほとんど喰われたから。
主人は、やや精神が、不安定だった。けれど良い人だった。疲れたら、即回復させてくれた。道具も惜しみなく使ってくれた。何より嬉しかったのは、弱かった僕を、強く育ててくれたことだ。
ゲットされた時点で、主人はバッジを二個得ていた。その後も、悪くないペースで進んだ。決して平らな道ではなかったが。主人は、勝つことに必死だった。勝つためなら、手段を使い尽くした。タウリンなどの、能力を上げる道具。それらを買いまくった。そのせいで、常にお金に困った。食費を切り詰め、野宿をして対処した。僕達に負担は一切掛けない。
そんな主人に、向かい風が吹いた。主人のような行為は、ドーピングと蔑称され、好ましく思われていなかった。よって周りから、白い目で見られる。馬鹿にされる。トレーナー失格だと、おせっかいが説教を垂れてくる。タウリンは高価だ。貧富で差が出て不公平。だから嫌われている。禁止薬物が混入していると、嘘情報も流されていた。僕は生まれて初めて、誰かのために戦おうと思った。
それでも、歩みは止めず。旅の途中で、僕はキノガッサに進化した。筋肉のついた、手足が生えた。太長い尻尾も得た。格闘技も覚え、力が大きく成長した。自分より遥かに大きいハガネールを殴り飛ばしたとき、その細長い鋼の体が宙に浮いたのを見て、しばらく茫然としてしまったのを覚えている。更に依然として、頭の胞子は残っていた。キノコの胞子で眠らし、覚ます前に格闘技で攻め倒す。この戦法は気持ちが良かった。強化された僕を見て、主人は嬉しそうに褒めてくれた。体を寝かせずとも、見上げるだけで、主人の顔が見えた。
とうとう、ポケモンリーグの出場権を得た。強敵しかいない場所。自分の参加は無理か、と考えた。だが一、三回戦に出させてくれた。一回戦は、相手がずっと眠ってくれた。睡眠から気絶に変えて勝利を決める。三回戦では敗北した。相手はカゴの実を所有。即座に起き上がって、攻撃をぶちかましてきた。次のミロカロスがギリギリで倒して次に進めたしたらしい。
今度は四回戦。負けたのに、出番を貰える予定だった。
だが主人は、リベンジの機会として、出番を与えたのではない。あの人は、勝つことが全てと考えているから、そんなはずはない。
かつての自分は、そんな主人に疑問を抱いていた。別に、負けてもいいだろうと。いやもちろん、勝った方が嬉しい。けれど、そこまで気負う必要もない。だって誰も、死なないのだから。バトルは安全第一。殺し合いではない。打ち所が悪くて逝くことはあるが、それは競技中の事故、すなわち異常な事態としてカウントされる。負けることと死ぬことに、因果関係はない。人間の方も、基本的には安全。トレーナーは離れて立っていて、攻撃はほぼ当たらない。そして当たってもだいだい死なない。奴らは思った以上に頑丈だった。主人は一度、火炎放射をまともに受けたが、即手当したのも幸いして、今では火傷の跡も消えている。亡くなる人もいるかもだが、スポーツとして成り立っているのだから、極僅かであると推測できる。また、リーグのスタジアムは、観客が流れ弾を受けぬよう、先端の技術が搭載されている。昨日、破壊光線が客席に飛んだが、透明な壁に阻まれて、掻き消されたのを目撃した。まさしく科学の力というのはすごい。
対して野生の戦闘は酷い。喰うか喰われるかの対決。喰われようとしている側は命がけ。場合によっては、喰おうとする側も命がけ。勝たないと死んでしまうから、絶対に勝たなくてはならない。トレーナー同士のバトルは死なないのだから、そこまで勝ちに拘らなくてもいい。極めて単純明快な理論。
それなのに主人は、いや主人意外の人間も、勝つことに必死だった。死を賭した世界に身を置いてきた僕としては、どうしても訝しく思わずにはいられない光景だった。あの頃は。
このことを、仲間のトゲキッスに相談したこともあった。卵よろしく白くて丸い体型に、空気を切り裂く巨大な翼。目はくりんとしており、温和な雰囲気を醸し出す。しかし、性格はかなりきつい。感じたことをばんばん放つ。エアスラッシュで怯ませるのが得意で、僕と同じく運に左右されやすいバトルスタイル。後オスだ。
「結論から言うと、勝った方が正義になるからだよ」
トゲキッスが、全てを悟っているかの如く堂々と話す。ちなみに彼は、昔別のトレーナーの元にいたらしく、長く人間を観察してきている。
「勝った方が正義 ? どういうことだ」
「勝った方が、善悪の概念の塗り替えるのさ」
「意味が分からない」
「人間は、どちらの意見が正しいか決めるとき、議論をするだろ」
「たまにやっているのを見るね」
「議論は、勝った方が正しい意見を言ったことになる」
「そうだけだも」
「同じで、バトルも勝った方が正義になるんだ」
「バトルと議論は違うだろ」
「一緒だよ」
「一緒にしたって、別に議論だって勝つためにやる訳じゃないと思うよ。互いの意見を交換して、分かり合うためにやるものだろう」
「定義上はそうなっているけど、実際は勝つためにやるものなんだよ。勝って相手の意見をねじ曲げることに、人間は快感を抱くんだ。そして意見をねじ曲げられることには、相反して不快感を抱く。だから是が非でも勝とうとする。分かり合うためにやるなんて、誰も思ってないんだよ」
彼の話は、意味不明だった。最も今は違うけれど。
現在僕は、ボールの中にいる。ボールの中でも、外の様子は見れ音も聞ける。昔はそうではなかったらしいが、便利な世の中になったものだ。主人は、ポケセンの待合室で椅子に座っていた。スマホでゲームをやっていた。試合前の緊張をほぐす一つの手段だ。余談だが、スマホのゲームには、課金というシステムがある。課金とは、お金を払いゲームを有利に進められるアイテムを買うこと等を言う。されどこの課金も、ドーピング行為と同理由で嫌われている。課金するお金のあるなしで、有利不利が出てしまう。課金は卑怯という意見が世間を支配していた。
主人以外にも、ポケセンには当然多くの人間がいた。近くで二人の人間が会話していた。彼らは何やら、お互いベストを尽くそうと約束し、目をぱっちり開けて、これ以上ない満面の笑みを浮かべつつ、極めて力強く握手をしていた。本日ぶつかる予定らしい。されど果たして、彼らの言動は本心か。たぶん違う。こいつに是可否でも勝たなくては。それが本心。人間がすごいと感じるのは、感情を表に出さずにいられることだ。彼らは様々なお面を持つ。ときと場合でそれらを使い分ける。すごいと思う反面、彼らの本性が分からずに、恐怖を感じることもある。
心中では、勝った方が正義だと思いつつ、その本心を誰も口にしない。変わりにほざくのは、価値観は人それぞれだという、無難で偽りの綺麗ごとばかり。というのは、果たして真実か。そんなことを、考えていた。
◇
今と同様、待合室にいたときの話。違う場所ではあるけど。三人のトレーナーがいた。年齢は十代の後半か。三人とも、弱気そうな感じだった。痩せていたり、髪型が地味だったりしている。バトルも弱そうだ。案の定話を聞く限り、彼らは負け続けているらしい。
そんな彼らは、「切断」について話題を変えた。切断とは、バトルで負けだと分かったとき、走って逃げてしまうという、露骨な反則行為のことを示す。切断をやると、法で裁かれる。手口はあまりにも単純。しかし唐突に逃走されれば、追いかけるのは容易でない。得られたはずの賞金を損してしまう。最近多発しているとか。主人も一回やられた。やっかいなのが、「捕まえてくれー」って叫びながら逃げる奴がいること。周囲の人間は、強盗やロケット団に追われている光景と錯覚する。バトル中に張られた緊張の糸。それを、前振りなくブツンと切られる。だから切断と呼ばれた。
彼らの中の一人が、本日切断をやられたらしい。そのことに対して、憤っていた。それは至極当然のこと。けれど、憤った後に、冷静な声に戻って、真剣な表情を浮かべ放ったことが、なかなかに衝撃的で、未だに印象に残っている。
「前から俺はな、犯罪者は全員死刑にした方がいいと思ってたんだ。いいだろう極刑で。人殺しから、切断まで。そうすれば、真面目に生きている奴が損をしなくて済む。もちろん冤罪の問題もある。だがそれは置いといて。犯罪をして捕まって即死刑になれば、犯罪が大幅に減少するに決まっている。死ぬ覚悟で犯す者は稀だろう。ロケット団みたいな組織も、すぐに消滅する。俺は理不尽なことが嫌いだ。頑張った人が報われないで、ずるい奴ばかりが得をするのはおかしいだろう。犯罪者なんてどうせ更生しないんだから、殺した方がいいんだ。根が腐っている奴には、説得しようが辛い思いをさせようが無駄なのさ」
彼は比較的早口で、ここまで言い終えた。直ぐ様、笑って誤魔かす準備を整えていた。聞いていた二人は普通に共感していたらしく、真剣な表情でうんうん頷いていた。彼は口角を元の位置に戻した。主人はスマホでゲームをやっていて、盗み聞きはしていない。
どんな罪を犯した人でも全員死刑にしろ。殺してしまえ。何と危ない考えだ。弱気そうな彼の口から、飛び出して良いものじゃない。人間は主に、人を殺した場合死刑になる。まあようするに、国に殺されることになる。それ以外は、違う罰を与えられる。お金を払わされたり、牢屋に入れられたり。けれどそんな軽い罰では、被害者は満足しない。死刑にして欲しいと、不満を漏らす。
この会話は、後に僕が勝つことに必死になるように心変わりすることに、大きく貢献してきた。
これはゲットされて、間もない頃の話だ。何やら、たくさんの人間が集まっていた。二十人くらいで、老若男女様々。彼らの視線の先には、奇抜な格好をした団体がいた。合羽のようなものに身をつつみ、その上にエプロンのようものを着ていた。奇抜な格好をあえてして、人々を惹きつける目的か。彼らの中で、他とは異なる姿をした、風格のある男が一人いた。だがこれまた、良く分からない格好で、巨大な目が描かれた服を纏い、右目に用途不明の装置を付けていた。その男が今まさに、演説を開始する瞬間だった。
その団体はプラズマ団だった。プラズマ団に関しては、名前とどのような活動をしているか、概要だけは知っていた。ポケモンを、解放しようとしているのだ。ポケモンは人間に、自由を奪われ、戦わされている。この現状を、変えたいとのこと。
されど僕としては、人間の元にいる方が、安全で良いと感じるのだけど。仲間や住む場所と離れるのは嫌だが、しかし正直、喰われないメリットがかなり大きかった。その心配のあるなしで、天国と地獄ぐらい違う。ただ、食物連鎖の上の方にいる者の気持ちは知らない。
それで、演説もそのことについてな訳だが、話し方が上手いせいで、聞いている人達の多くが、完全に入り浸ってしまっていた。これはもう、洗脳されていると言って差し支えない。一方で主人は、あまりちゃんと聞いていなかった。主人が人の話に、耳を傾けない人で安心した。影響されたら一大事だ。主人に解放されたら、また命がけの日々を送る。せっかく手に入れた安心を、失ってはたまったものではない。僕はボールの中で、心臓はバクバクだったし、汗はだらだらだった。意外にも今日が数日前以来の、人生の分岐点になる恐れがあったのだ。
演説が終了した。途端に、花火のようにうるさい拍手が発生した。これは、もしかしたら。この後主人が他の人に、解放しろと責められるんじゃ。まずい。これだけ大勢に言われるのだ。主人はいったいどうなるだろう。
でも、その心配は無駄になった。人々の集まりから、一人の男が、前に出てきた。ニ十代前半くらいの若い人。目が凛々しく、背筋は伸びている。拳を握りしめていた。プラズマ団は一斉に、こいつは何をするつもりだ、とでも言いたげな顔をした。流石の主人も注目していた。
男は演説した人に向かって、堂々と叫んだ。
「人間とポケモンのあり方? そんなもの、人それぞれだ。それに首を突っ込むのは、意味が分からない。君たちがやっているのは、一方的な考えの押し付けだ。ポケモンと共存するという価値観を否定し、さも自分の意見が絶対的に正義だというように論理を振りかざし、人々を洗脳させる。はっきり言わせてもらう。不愉快だ。価値観を否定するのは、人間として最低な行為だ! それは、全ての戦争の元だ。絶対にやってはいけない。それに、君たちはポケモンの解放を訴えているようだが、そんな君たちが、他者の価値観を束縛するのは、明らかにおかしい。矛盾していることになぜ気がつかない」
先ほどより一回り大きい、盛大な拍手が沸き起こった。しかも、うるさいと感じない、真に心のこもった拍手だ。洗脳が解けた瞬間だった。完全に、彼の言い分が正しいという雰囲気。僕は助かった。命がけの日々に戻らずに済んだ。
価値観は人それぞれ。素晴らしい考え方だ。何が正しくて、何が間違っているのか。そんなことは、誰にも分からない。だから自分の価値観を、他人に押し付けるな。まさしく、その通りだと思った。この考えは、この世の全ての問題を解決する。そんな気さえもした。
プラズマ団の人達は、返す言葉がなくなっていた。何も言わず、黙りこんでしまった。どう反論すべきか、明らかに必死に考えていた。演説していた人は、やれやれと言った感じでため息をついた。演説を台無しにされた怒りに震える、等と言った様子は見せなかった。
プラズマ団は、顔を真っ赤にして去っていった。背中が見えなくなるまで、人々はブーイングを飛ばした。その後は、集った人々全員で、男を胴上げしていた。大袈裟な気もするが、これにてめでたしめでたし。ただ、洗脳されていなかった主人が、どことなく腑に落ちていない感じで、気になった。また、ヒーローになった男が、嫌に悦に浸っている表情をしていたのも、気になっていた。
それから、数日後のこと。主人は、父親に呼ばれた。話があると言われた。電話では駄目らしい。一旦家に、戻らなくてはいけない。これはかなり大変だ。でも主人はバックレもせず、律儀に約束の時間通りに向かった。帰るまで、何度も父から電話が掛かってきた。今どこにいるのか、しつこく確認させられた。
「ちゃんと服洗っているか」
家に帰った息子に対し、父親が最初に放った言葉がそれだった。
「洗ってるよ」
「暑いときちゃんと帽子被ってる?」
「被ってるよ」
なぜこんなに過保護なのか。そんなこと、わざわざ呼んで聞くのか。他にも様々なことを質問された。ご飯ちゃんと食べているかとか。朝起きれているかとか。
「最近どうだ順調か」
と、ここでようやく本題に入りそうだ。本題に入るときは、自分から切り出すのではなく、相手から出すように仕向ける人が多い。
「別にどうというか……」
主人は決して、苦戦している訳ではなかった。バッジは、一個も得られない人が大半だ。むしろ主人は、良い方だ。それなのに。
「約束覚えているか?」
「忘れた」
「嘘つくな。本当は覚えているだろう」
「今は百八個かな」
「本当は何個だ」
「三個。もうちょっと待って」
「もうちょっと待ってを何回繰り返しているんだお前は」
「百八回かな」
「だから冗談で誤魔化すんじゃないよ。お前はそうやって嘘をつくから駄目なんだ。ちゃんと正直に、どうしたいのか言ってみろ」
「まだ続けたい」
「別に続けていけないなんて言ってないから。考え方は人それぞれだ。俺は旅に出なかった。まだお前は違う。何が正しいなんてないんだから。俺はお前に旅を止めろなんて言わない。ただお前の本当の気持ちを知りたいんだ」
「だから、まだ続けたい」
「本当にそう思っているのか。これからきついぞ色々と。別にお前はやりたいようにやればいいんだけどな」
「本当にそう思っているよ」
「いやだから、俺は別に考えを押し付けるつもりはないんだ。ただお前の本当の気持ちを知りたいんだ。で、どうしたいんだ」
「……」
明らかに噛み合っていない会話。どう見ても押し付けている価値観。主人が腑に落ちていない表情をしていた理由が、ここで判明した。父親は、本当は止めて欲しいと思っている。しかし、それを直接言うと、価値観の押し付けになる。そうなると、自分が悪者になってしまう。だからこうして、遠回りして責め立てる。
考え方は人それぞれ。これが、広範囲に渡って浸透し、綺麗な道徳観として形成され、ギラギラした王冠を被った王様の如く、民衆から盛大に讃えられている。それを批判する者が現れれば、民衆から一斉にタコ殴りにされるのが目に見えるから、違和を感じても誰も指摘しない。かつては僕もその民衆になっていた。
ところが、心の奥底では、自分こそが正しいと、常に信じ続けている。そして、自分の描く心理を、他人に押し付けたいと、思っているのだ。父親が過保護なのは、子供の考えを支配したいと、考えているからなのだ。
勝ち続けないと、駄目な状況。それが生まれてしまった。僅か過ぎる猶予を貰えた。もう少し伸ばしてくれと、言える空気ではなかった。それでも、主人には才能があった。また、主人は努力家でもあった。有象無象ではない。だから、先へ進めた。壁を越えられた。
だが主人は、憎まれていた。原因はそう、ドーピング行為だ。自分より才能のある人間が、誰もやってない愚行をしている。絶好の叩き対象だった。その状況を僕は、僕がキノココのとき、様々な奴から命を狙われていた状況に重ねた。現在の主人は、昔の自分だ。
主人は、ドーピングを止めなかった。勝つことが困難になるのを恐れた。主人の実力を持ってしても、ドーピングに頼らざるを得ない厳しさ。敗北が続けば、父親の正しさに従わないといけない。絶対にそれは嫌なのだろう。主人は、旅を続けたかったし、何より自分の正しさに従いたかった。トゲキッスも言っていたが、人間は、意見をねじ曲げられることに不快感を抱くのだ。
罵倒の声は、増幅する。バッジが増えれば、知名度が上がる。顔までも知られる。もう手遅れになった。行いを改めても意味がない。
そしていよいよ現れた。タウリンを僕に使っていた主人の傍らに、一人の真面目そうな男がやってきた。主人よりやや年上の彼は、名前を確認した後、挨拶もせず説教を始めた。今すぐドーピングを止めろ。やっているのはお前だけだ。みんな悪いと思っているからやらない。タウリンには、禁止薬物が入っている。これは紛れもなく事実だ。それは、生物の寿命を縮める。そんなものを使って、無理矢理成長させられるポケモンのことを考えろ。
黙りこみ、俯き、片手に持ったタウリンをしまいもせず、話を只管聞く主人に、そいつは更なる幾多の正論を浴びせてきた。正論、正論、正論。道徳的用語の、オンパレード。それを極めて真面目な声で。決して、責める側が悪人にならぬよう、ポケモンのことを、第一に考えている匂いを混ぜつつ。そして、彼は最後に、「悔しかったら見返してみろ」などという、お決まりの文句を吐いて去っていった。
もちろん主人は、ドーピングを止めなかった。逆らうかのように使う量を増やした。そして主人は、新たな行動を取った。それは、非常に納得のできるものだった。
ドーピングは、「正式」な反則ではない。「正式」な反則は、有名な別のものがある。それがそう、「切断」だ。主人はこの日、二度目の切断に出くわした。災難は畳み掛けるようにやってくるものだ。前回なら、主人は犯人を追いかけていた。しかし、今回は違った。逃げていく人を、主人はスマホで写真を撮った。そしてそれを、ネットに公開した。写真だけでは意味不明だから、文章を付け加えたのだろう。
このようにして、主人は自己の正当化を図った。自分よりも、悪人扱いされている人。そいつに、私刑を与えたのだ。当然、ネットには本名で投稿したのだろう。それを見た人が、主人は良い人だと、認めるように。
悔しかったら見返してみろ、悔しかったら「これ」をやってみろと言われて、本当に「これ」をやろうとする人は、たぶんほとんどいない。それは、相手の思う壺であり、余計に悔しくなるから。だから普通は、「軸から外れた行い」をする。真の意味で見返すとは、全く想定されていなかったこと、あるいは背徳的なことをやり、相手の困った顔を見ることだ。そんなことは、人間間でもポケモン間でも常識だ。これを声に出すと、途端に周囲から馬鹿にされ、顔が真っ赤になる未来が見える。だから例え常識でも、誰も話さないのだろう。
結果的に主人の行動は、あまり効果を齎さなかった。と言うのも、いくら知名度があっても、写真はそこまで、大勢の人に見られなかった。そもそもそれ一つでは、主人の潔白を証明するには不十分。相変わらず、責められた。
そして、あるときのことだ。十歳くらいの幼い子供が、主人の前に立った。その少年は恐らく、トレーナーになったばかりだ。純粋無垢な子供。先ほどまで、ポケモンと仲良く戯れていた。そんな彼はしかし、主人が、最も言われたくないであろうことを、放っていったのだ。
「消えろ、犯罪者」
主人は落ち込み、膝をついた。ぼたぼたとみっともなく涙を零した。ひと目を気にしてその場から離れる。とうとう切断をした連中と、同じ人種だと言われた。しかも、一切穢れのない小さい子共に。能力を上げる道具の多用は、決して犯罪ではないのに!
主人が正しくなろうとしてやった行為は、全て無駄打ちに終った。無駄打ちどころか、負のループに突入している。ああ、どうしたら主人を、救ってあげられるのだろう。どうしたら主人は、正しくなれるのだろう。答えはもう、僕の中で出ていた。僕がやれること、やるべきことはそう、一つしかないのだ。
人間は、犯罪者を殺したいと思う。人間は、正しくない人を犯罪者にする。議論でも何でも、勝った方が正しくなる。これらから導き出される結論は……。
結局、それが真実なのだ。だから、こうする他はない。
◇
ようやく四回戦の、出場順が回ってきたようだ。主人はスマホをしまい、会場へと向かう。主人は今が、一番緊張しているだろう。始まる直前が、最も緊張する。バトル中は、さほどでもない。ポケモン側も、緊張のピークは待ち時間だ。そしてこの待ち時間が、トレーナーよりも遥かに長い。
野性だった頃の、あの命がけの戦闘は今も忘れない。キノココだった自分は、オオスバメに喰われかけた。相手の素早い動きに、全く付いていけず。僕は何度か攻撃を受けた。オオスバメは、殺してから毒を除いて、落ち着いて食べるつもりだろう。一先ず僕は頭を振り回し、毒胞子を付着させた。体力は少しづつしか削られない。このままでは、先に僕がくたばってしまう。僕は賭けに出た。精度の良くない痺れ粉を使用した。麻痺をさせることには成功した。相手がずっと動けず、毒が回って倒れるのを狙った。しかし、麻痺状態でも動ける確率の方が高い。だから成功しないと思っていた。心の底では死をすでに覚悟していた。ところが、ああバトルは面白いものだ。思惑通りにことが運んでしまった。オオスバメは、痺れて地面に這いつくばる状態を維持していた。僕はもう、がむしゃらに体当たりした。相手の瞼が完全に、閉じられるまで。
あのとき勝てたのは、やはり運だろう。実力ではない。けれど、それでもいいのだと思った。運でも実力でもどっちでもいい。とにかく勝てばいいのだ。主人が何故大事な四回戦に、運に左右されやすい僕を選んだのか。一か八かということなのだろうか。だとしても、運なんて関係なしに、僕は勝たなくてはいけない。
会場にいよいよ入る。
このバトルに勝たないと、主人は殺されてしまう。気負いすぎていない。これは、導き出された真実だ。仕方がないのだ。自分こそ正しいと思う奴らがいるから、仕方がないのだ。ポケモンバトル。それは結局、野生の戦闘と何ら変わりない。異なる点は、死ぬのは自分ではなく、主人だという所。だったら尚更勝たなくてはいけない。
弱かった僕を、ここまで強くしてくれた主人。キノコの胞子と格闘技のコンボの練習に、明け方まで付き合ってくれた。強くするために、自らの生活を犠牲にし、悪役にまでなった。重症を負ったときには、寝ないで看病してくれた。残り少ない食糧をくれた。バトルでは喰われることはないから怯えることはないということを、教えてくれた。
そんな心優しき主人を、絶対に失いたくはない。それに主人は、嘗ての僕と同じように、様々な奴から、命を狙われている。自分と同じ状況になったら、助けたくなるものである。
鼓膜を突き破りかねないほどの、大歓声。観客から身を守る透明な壁は、音までは遮らないようだ。観客は誰一人として、主人のことを嫌ってはいないように思える。けれど違う。確かに主人は、ここまで上り詰めた。正しいと認められるための、確かな名誉を手に入れた。だが、まだ先がある。観客の中にはまだ、主人の正しさを信じない者が紛れている。そいつらを消滅させるために、これから戦うのだ。
対戦者が現れる。そいつは右手を握って上げる。観客の歓声がピークになる瞬間だった。それぞれ所定の位置についた。お互いにボールを投げた。審判が旗を上げた。戦いの火蓋が切って落とされた。
命の選別
*
六年生の夏休み、おじいちゃんが入院することになった。お父さんが運転するワゴンに乗って、家族で病院に向かった。普段通らない道を通って、見慣れないビルや家をみて、少しずつ全く知らない景色になっていく。青い空に白く雲が浮かんでいて、その下はしばらくすると、道以外どこまでもどこまでも緑の田んぼになった。お父さんとお母さんはおじいちゃんと難しい話をしていた。大人の話は私にはよくわからなかったけれど、まるで分かっているようなふりをした。そうすればなぜかおじいちゃんが元気になれるような、そんな気がしたからだ。いつの間にか車の中で眠っていたみたいで、気がついたらどこかの駐車場にいた。お母さんにせっつかれ、目を擦りながらドアを開けると、目の前に大きな病院があった。グレーの大きな建物二つが真ん中の通路で一つにつながっていた。建物の入口をくぐると、うっすら消毒液のにおいがした。少し黄味がかかった壁と、薄暗い照明のせいで、自分の色がいつもよりぼんやりしてみえた。
お父さん達が受付で話している間、私は壁に貼ってあるポスターを見ていた。
「予防しよう ○○症 おかしいとおもったらまずは病院へ!」
「ーーは頭痛・肩こりの原因になります! まずは病院へ!」
大きな待合室を奥へ奥へと進みながら、私はまずは病院へ! と勧めるポスターをたくさん眺めていた。その中で、一際目を引くポスターがあった。それはただ大きな画用紙にマジックで、しかも、あんまり上手じゃない字で、
「ポケモンの対戦相手求む!! 僕は伝説は使いません。 六◯二号室 大野元基」
とあった。それをみて、思わずつぶやいていた。
「ポケモン…?」
もう一度読んでそれ以上の意味を読み取ろうとしたけれど、
「あらっ」
「まただわ」
振り返ると、私のすぐ後ろに看護師さんが二人いて、あっさりとポスターをはがしてしまった。急いで読んだ内容を心にしまう。
「……六○二号室。ポケモン。 ……大野 …君」
暫くすると看護師さんに案内されて、みんなでおじいちゃんが入る病室に向かった。三○四号室から入ってすぐ右が、おじいちゃんの部屋になると説明された。上からぶら下がっているカーテンで部屋を六つに分けているみたいだ。六人部屋なのかも。カーテンの向こうに人がたくさん居る気配がして、耳をすますといろんな声が聞こえてきた。すぐにお医者さんが来て、お父さん達と難しい話をしていた。私も大人しく聞いているふりをしようとしたけれど、
「メイ、ねぇ部屋をちょっと出ていない?」
「えっ?」
「これからお母さん達は大事な話をするの、ちょっと、冒険してらっしゃい」
強制的かつ不自然に部屋を追い出された私の、向かう先はもちろん決まっていた。さっきみた六○二号室、大野君の部屋だ。暫くうろうろするとすぐに階段が見つかって、六階まで上った。六○二号室の前で、入り口の横についていたプレートを確認する。
「あった!」
声が思っていた以上に廊下に響いて、慌てて口を押さえたけれど看護師さんに気づかれてしまった。焦って逃げようとしたけど、足が全然動かない。看護師さんの優しそうな笑顔に、私はぎこちなく頬の端を持ち上げた。あはは。
「こんにちは。お友達のお見舞い?」
「え……はい」
もういっそ、そういうことにしてしまおうと思った。
「相手は? 大野君?」
「……はい」
「クラスメイト? すぐ、案内するね。左手奥に居るからね」
そういうと、さっさと入っていってしまった。私は全身に冷や汗をかいていて、心臓がどうにかなってしまいそうだった。そもそもどうして、こんな事になってしまったのか。あのポスターか。いや、私のせいでしょう。
看護師さんが、
「大野君、お見舞いよ」
とカーテンを開けるのを、私は絶望的な気持ちでみていた。思わずギュッと目を閉じる。
「お見舞い?」
少し低い、かすれた声。恐る恐る目を開けると、流れ星の描かれた黒いバンダナを巻いた同い年位の男の子が、上半身を起こして座っていた。切長で鋭い一重瞼に見据えられて、誰? と言われているような気がしてしまう。この場からいなくなってしまいたい。でも、男の子の両手に小さな最新小型ゲーム機が握られているのをみて、ポスターの人だやっぱり、とひそかに確信した。
「ポスターみたの」
私が早口でそう言った瞬間、大野君の表情が、警戒から驚きへ変わっていくのが分かった。看護師さんは私たちを交互にみると微笑んで、ごゆっくり、とかなんとか言って出て行ってしまった。
「……誰だか、わかんないけど。ポケモンやってんのか? 俺と戦おうぜ」
当たり前だけどそう切り出された。私は更に冷や汗をかきながら、
「私……ポケモン持ってないの」
「え」
「ポスターをみて、つい。どんな人なんだろう、と思っちゃって」
「えー」
「ごめんなさい」
謝ると大野君は、
「べ……別にいいよ。しょーがねーもん。ポケモンやってないならさ」
と拗ねたように言った後、名前は? と聞いてきた。
「私、メイコ」
「メイコか、オレはモトキ。大野元基さ。見ての通り入院してる」
「うん」
「オレ昔からポケモンやってるんだ。病気が見つかる前から、ずっと」
「へえぇ」
「メイコは今、何年生?」
「メイで良いよ。そう呼ばれてるし。私、六年生」
「ってことは、十二歳か」
「うん」
「じゃ、オレと一緒だ」
「大野君も?」
「モトキでいい」
そう言って、モトキは私の方をみた。
「色、黒いんだな」
肌の事を言っているみたいだった。
「夏だから。色々遊んでいたら、いつの間にか黒くなってたんだ、プールとか行ってたし。後はサッカーの練習したりとか、鉄棒とか」
そこまで言って、モトキの透き通るように白い肌が目に入った。慌てて口をつぐむ。
「ご、ごめん」
「なんで謝ってんの」
「え」
「オレには夏休みとかなくて、そういう風にみんなで遊べないからかわいそうとか思ってんの?」
「そんな……」
モトキ、みんなって言った? でもみんな……みんなって誰の事? 反論したくて、でも出来なくて目を逸らしたけれど、モトキの目はさっき初めて会った時と同じように、まっすぐに私を捉えて離さない。
「そもそも何でポケモン出来ないのに、オレのとこ来たの? なんなの? メイ、あんたオレの事哀れみたいの?」
違う、と言いたかった。でも口に出さなくても読み取られたみたいで、
「違うの? じゃあ何? なんでここ来たの?」
「あのポスターを貼っているのはどんな人なんだろうと思って……。ポスターをみて、ポケモンは分からないけれど気になったから来たの、それだけなの!」
殆ど叫ぶようにして、そう答えた時だ。
「そこまでだ、モトキ」
私の後ろから低い声がした。モトキがパッと顔を上の方に向けた。切れ長の一重瞼で睨みつけ、明らかに納得していない表情をしていた。
「だって!」
「男子たる者、言い訳をするな。大体せっかくお前の所に遊びに来てくれたのに、なのに何だお前、そんなかわいい女の子に突っかかって」
「頼んでない」
私も声の主の方を振り向いた。相手は黒いニット帽を被った、優しそうな瞳をしたお兄さんだった。年上の人の年齢は私にはよく分からなかったけれど、高校生くらいかなと思った。
「ごめんね」
お兄さんが大きな手を私の頭にのせて、撫でてくれた。モトキは口を尖らせたままお兄さんを睨んでいる。
「モトキの所へ遊びに来てくれてありがとう」
「いいえ」
「あいつの作ったポスター見て、来てくれたんだってね。こいつすぐ部屋抜け出して、対戦相手募集のポスター貼って来ちゃうの。ポケモンやってる子は少なくはないんだけど、ここは病院だから常に遊べる訳じゃないしね。一緒に遊んでくれる相手が欲しいんだよ、こいつ」
「……」
「さっき、モトキがつっかかって行ったでしょう? こいつね、凄い負けず嫌いなんだ。だからきっと感じたんだろうね。メイちゃんは外で思いっきり遊べるのに、自分は病院の中に居るから君と同じようには遊べない。メイちゃんが悪いと思って黙ったのを、こいつは同情だと思って怒ったんだ。そうだろう?モトキ」
モトキは押し黙ったまま、私を睨んでいる。私は深呼吸した。
「私は、モトキと友達になりたいって思ったんだ。最初からいやな事言っちゃったかなと思ったから、黙ったの。嫌われたくなかったんだよ。だって、そうしたら友達になれないじゃん……」
さっきとは違って、するりと言葉が出てきた。
「……」
「モトキ、こういう時はなんていうのかもう知ってるよな」
「……」
「モトキ」
「友達になってやっても……いいぜ」
「モトキ、違うだろう」
お兄さんが呆れたように呟いた。でも次の瞬間、モトキはごめん、と下を向いて目を伏せた。
「ありがとう」
私も同じ言葉を返すと、モトキはそっぽを向いた。でもお兄さんがモトキの頭を撫でると、なんと、モトキの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。お兄さんが微笑む。
「よしよし」
「オレ……オレも、本当は友達になりたかった」
私は笑った。
「大丈夫、もう、なってるよ」
「本当?」
「うん。あっ、もういかなきゃ。今おじいちゃんが入院しててね。二十分くらいしたら戻りなさいって、お母さんに言われたんだ」
「そっか……また来る?」
「絶対、また行く。おじいちゃんのお見舞いじゃなくっても、絶対絶対また、モトキの所に遊びにいくよ」
「ほんと? じゃあオレ、待ってるから」
モトキはそう言って笑った。初めて見る笑顔だった。
「今度はポケモン見せて」
「まかしとき」
「じゃあね」
そう言って、病室を後にした。その後の帰りの車で私は、外の道を真剣に見つめていた。あの角を曲がる、あのお店の脇をずっとまっすぐにいくとか、そんな風に。自転車も練習しておこう、そうすれば一人でも来れるに違いない。
その晩はベッドの中で、いつまでもいつまでもモトキとポケモンと、あのお兄さんの事を考えていた。
*
乾いた風が、優しく少年の頬を撫でていった。少年が歩きながら空を見上げると、突き抜けるような真っ青な空が、紅葉でいっぱいの並木道の上に広がっていた。秋だった。赤。オレンジ。燃え立つような緋色。落ち着いた深紅。それから黄色。綺麗に色づいた葉が風に巻き上げられて重なり合い、地面に新しいグラデーションを描いていく。その葉をゆるく踏みながら、少年は歩いていた。その彼の横を紫色のポケモンが軽快な足取りで追い抜いていった。少し先で立ち止まると、少年の方へ振り返る。
「キュィーッ」
一声鳴いて、二股の尾をゆったりと振る。
「待てよ、エーフィ」
少年が微笑むと、エーフィは額に抱く珠をルビーのように光らせて応答した。はやくしないと、おいてっちゃうよ……まるで、そういっているかのように。
やがて少年とエーフィは、大きな塔にたどり着いた。錫の大きな鳥ポケモンの像が出迎える入り口を通り、穴や壁に阻まれながら、時折どこからともなく現れる坊主のトレーナーに驚かされながら、塔の一番上までたどり着いた。薄暗い塔の屋上で軋んだ扉を開け放ち、外へ飛び出す。荒れ狂うような風に煽られ、体ごと吹き飛ばされそうになる。グッと足に力を入れ、少年は片手で視界を庇いながら、前を見据えた。見なくても、エーフィが隣で刃物のような緊張感をまとっているのが分かる。強い風に押されながらじりじりと進むと、刹那、白い爆発的な閃光に一瞬で視界を塞がれた。思わず少年は両手で顔を覆った。その瞬間に吹き飛ばされたのかは分からなかった。奇妙な、上下が分からない無重力の世界に投げ出されたように、少年の体は急に軽くなった。目を閉じ手で覆っているはずの暗い視界の向こうから、白い光が網膜を破ってくる。暫くすると、一面真っ白い視界の端からうっすらと、ゆるゆると、何かの色が見えた。夕暮れのような薄い紫、早朝の澄んだ空のような薄い青、萌黄のような緑……その変化に、少年の心がカチリと反応した。虹だ、虹の色と同じだ。程なく橙と赤が混じってきた、眩いその色彩の中に大きなシルエットが見えた。虹色の鳥だ、と気づいた瞬間、世界が暗転した。
「モトキ! モトキ!! モトキってばッ」
甲高い声と共にゆさゆさと体を揺さぶられて、我に返った。
「……」
「もう十時だよ! まだ寝てたの?」
「夢……」
夢を見ていた。凄く綺麗な夢を。オレ、エーフィと一緒だった? 一緒に居た場所は、あの鳥のポケモンは、何だっけ……
「夢見てた?」
まだ心臓がドキドキしていた。興奮冷めやらぬあの夢の内容を思い出そうとするのを遮って、ベッドの脇からちょっかいを出してくるのは、アキラだ。同い年でポケモンをやっている、一番の親友。いや、戦友というべきか。
「ああ」
「どんな夢?」
「いや……あんま思い出せない。忘れちゃった」
自分だけの中にしまっておきたかった。
「なぁんだ。ね、じゃあバトルしよ、戦おうよ」
くりくりとした目でこっちを見てくる。目覚めた後の体のだるさで気がついた。自分の体調が、今日はあまりよくないと言う事に。でも、バトルはしたい。バトルをすれば、体調も良くなるかもしれないし……なんて。
「なぁ、オレ横になったままでも良い? ルールはどうする」
軽く言ったつもりだったが、アキラの表情が氷のように固まったのが分かった。早口で言う。
「モトキ体調よくないでしょ」
「体調良かったら十時まで寝てないって……それに売られたバトルは……買うしかないだろ」
「……」
「特に……アキラなんかに、売られた日には……」
そう言ってアキラを見たら、泣きそうな顔をしていたのでぎょっとした。
「おい」
「……」
「アキラってば」
「……売らない」
「……は?」
「バトルは売らない。だからまた今度にしよ」
「……なんだそりゃ」
一瞬よくわからなくて、アキラの方へ捻っていた自分の体を戻して天井を見上げた。十秒くらいたって気がついた。それは、多分優しさなんだろうと思った。
「ごめん」
「ううん。でも今度、モトキが僕の方に売りに来てね、バトル」
「ああ」
暫くぼぉっとしていて、また眠りかけていた頃だ。
「ねぇ」
急にアキラがこちらに身を乗り出して来た。まだ居たのか。眠気が吹き飛ぶ。
「なに」
「あの女の子、またモトキの所来てくれたね」
目配せしながらにこにこ笑っている。オレは一瞬で血の気が引いた。
「……どっから見てた」
「隣のベッドから」
「隣、人いるぞ」
「モトキが知らない間に仲良くなったんだ」
しれっと言う。
「なんでだよ」
ツッコミ所が多すぎてどこから対処したらいいのか分からない。オレが睨んでも、アキラは我関せず、といった体だ。それどころか、変化球をぶん投げて来た。
「モトキ、あの子のこと好きなんでしょ?」
「は?」
「見れば分かるって。モトキ、凄いうれしそうだった」
なんか、関節が痛くなってきた。
昨日の午後の事だ。いつものようにポケモンをしていたオレの元に、来客が有った。
「やっ」
ベッドを間仕切るカーテンを断りもなくあけると、浅黒い肌にタンクトップを着た、短髪の女の子が顔を覗かせた。オレは不意打ちすぎてそのままの姿勢で固まってしまった。
「な……」
そいつは呻いたオレに手を振って、
「約束通り、遊びに来ました」
律儀にそう言って、オレのベッドの脇の椅子に腰掛けた。
「え」
「あれ、私の事忘れちゃった? 私今日すっごい楽しみにしてたんだから、モトキに会いにいくの。病室抜けるのちょっと大変だったんだよ、怪しまれて。楽しみに……してたのに……」
覚えてないなんて、としょんぼりとうなだれたその姿を見て、さすがに慌てた。
「んな、んなわけねーだろ!!覚えてる、覚えてる。メイコ。メイ、って呼ばれてるんだろ。先月の今頃おじいちゃんが入院して病院に来て、オレの作ったポスター見て遊びに来てくれて、また会おうねって言ったんだ」
「覚えてるじゃん」
「あのな、忘れたなんて言ってない」
オレがちょっと睨みつけると、メイは舌を出して、おかしそうに笑った。ちょっと、あれ、って思った。
「メイって……こんな風に笑うんだな。それに結構喋るのな。前会った時は、すげーおとなしいやつだって思ったのに」
「だってはじめてだったし」
「なにが? オレやお兄さんに初めて会ったからってこと?」
「いや…そうじゃなくて、入院してる人に会ったのが初めてだったから。私が知らないってことで、なんか、失礼なこととか言っちゃったら嫌だし」
それはちょっと、違うんじゃないの。
「別にメイが何言っても、重要なのって、言われたオレやお兄さんが失礼って感じるかどうかなんじゃねえの? 別になんでも良いじゃん。もう、友達なんだから」
「はー……そっか。モトキ頭良いね」
「メイはもっと頭使え」
「ねぇ、ポケモン見せて!」
「話聞いてる?」
そう言いながら、ちょうど遊んでいたポケモンの画面を見せる。
「ここ、どこ?」
なだらかな丘の上を、自転車に乗った主人公が行く。場所は町と町の間、どこかの道路だ。メイに問われて、自分があんまり道や町の名前を覚えていない事に気がついた。ポケモンの種類、技、特性。そう言う事にしか興味がなかったんだ。
「分からない。……あ、いい事思いついた。ちょっと待って」
画面を操作して、初めてポケモンを貰った町へ飛んだ。家が三つしかないね、とメイが言う。
「ここでゲームが始まって、博士からポケモンを貰うんだ。……この施設でね。オレだけじゃなくて、他の幼なじみ二人が居て、そいつらと一緒に選ぶんだ。タイプは三種類から選べた。草・炎・水タイプ」
「どれにしたの?」
「オレは水。草は水に、炎は草に、水は炎に強いってタイプの説明が有って、オレの家でバトルして、そっからめくるめく旅のスタートだ。図鑑を貰って、色んな町に居るジムリーダーを倒して、最終的に四天王とチャンピオンを倒してエンディングだな」
「モトキは今、どの辺?」
「オレはもうクリアしちゃった」
「えっ、クリアしちゃったら終わりじゃないの?」
「クリア後に行ける所とか、イベントもあるんだぜ。終わった後は、四天王やチャンピオンのレベルが上がるから更にレベルアップを目指せるよ」
「ふーん」
オレは最寄りのポケモンセンターに行って手持ちを入れ替えると、バトル用のポケモンを見せた。サザンドラ、ダイケンキ、シャンデラ、エーフィ、ウォーグル、エルフーン。
「この…エルフーン、すっごく可愛いね!!あとエーフィも。シャンデラも可愛い!!」
メイがはしゃいだ声をあげる。女の子はこういうのが好きなんだろうか。
「メイ、ピカチュウ位は知ってる? どっちが可愛い?」
「エルフーン!」
そんなに気に入ったのか。確かに可愛い顔してるけど。
「ポケモンって、六匹しかいないの?」
「いやいや。ポケモンはもっともっとたくさん居るよ。何種類か忘れちゃったけど…その中から、手でもって歩けるのは六匹。他の捕まえたポケモンはパソコンに預けとける」
「ほぉー」
「やってみる?」
「やれるの?!」
「やれる。ちょっと待っとき」
机の中の引き出しからソフトをもう一つ取り出して、さっき自分が遊んでいたソフトと交換した。
「オレ、ポケモン二つ持ってるから。片方、メイにやるよ」
「本当?! モトキってお金持ちなんだね」
「いやいや。オレがずーっとポケモンにしか興味がなくて、そればっかりやってるから。親がソフトの発売日に両方買って来てくれたんだけど、オレは片方しかやらないし」
「そうなんだ。ありがとう」
メイはオレを見て笑った。かわいいと思ってしまった。
「DSはためてたお小遣いで買えるから大丈夫。楽しみっ!! 早くやりたいなぁ」
「楽しみだな」
新しいポケモンゲームを始める時のワクワクは、オレにも良く分かった。
「で? メイちゃんの事、好きなんでしょ?」
「なんで」
「嫌い?」
「嫌いな訳……」
突如、一気に体中に悪寒が走った。このままだとまずい。
「アキラ、帰れ」
「あ……怒った? ごめん、だから……」
「オレ今日、熱ある。うつったらやばい……やばい……はやく……」
「わかった。ごめん」
アキラは短く言うと、さっとオレの病室を離れた。ぼーっとして来た頭でそれだけ確認すると、安心した。アキラの言う「好き」の意味を、自分の心はどうしたいのか考えているうちに、段々、段々、意識が漂うように遠のいていくのが分かった。
*
モトキに貰ったゲームソフトを進めるうちに、私と周りの世界が少しずつ変わっていった。
のめりこむようにポケモンをやって、朝起きてから寝るまで、学校でも休みの時でもずっとポケモンのことを考えていた。暫くすると親からクレームがきた。いい加減にしなさい。勉強しなさい。しかたがないから、勉強については休み時間に、図書館で全部終わらせるようにした。帰ってゲームをしたい一心で、ものすごくはかどった。帰ってからはずっとポケモンが出来た。成績はそんなに悪くはないと自分でも思う。それさえちゃんと維持しておけば、親だって何も言わないだろうと思った。
でも遅くまでゲームをやっていたから、朝は凄く眠かった。お昼になっても眠かった。授業中は寝ないように、ノートの脇に捕まえたポケモンを描いた。ミジュマル、シママ、シキジカ……。描いていなければ起きていられなかった。うっかり寝て授業中に目立つのは怖かった。寝たが最後、誰の口から先生に告げ口されるか分からないし、物を隠されたり、ノートが無くなってしまうかも知れない。常に気が抜けなかった。六年生が始まってすぐの五月、女子のリーダーに、彼女が目をつけた男の子と私が仲良くしているのを見られて以来、私はクラス中の人に無視されている。今のところ、蹴られたり叩かれたりした事はない。そういうんじゃなくて、無視されたり、わざと「メイコは居ない」っていう風に扱われている。そのくせ、私と隣の席になると机を露骨に離したりする。見えていないのかいるのかよくわからなかった。クラスの休み時間、皆が思い思いに友達と騒いでいる間、一人で座っているのはそんなに苦痛じゃない。だけど、体育の時間のように、グループを組んで何かをやらなければいけない時は辛かった。いつも一人だけ余った。嫌々入れてくれた班はいつも不機嫌な顔をしていた。私も、自分なんかと組まなければいけなくて、ほんとうにすみませんと思っていた。本当は、心がえぐられるようにいつもキリキリ痛んでいたのに。でもそのうち、何も感じないようになった。何も考えないようにすれば何も感じないでいられるって、気づいたんだ。自分で自分を消せる魔法を使えたら、どんなにいいだろうと思っていた。
モトキに初めてその事を打ち明けたのは、もう夏も終わる頃だった。その頃になると、私は宿題のない日は良く自転車を走らせて病院に通うようになっていた。
「イジメ?」
くりくりした目を見開いて、椅子に座ったアキラがまっすぐに私の瞳を見つめた。場所はモトキの居るベッドの脇。三人それぞれゲームを進めていた。
「しょうがないよ。私一人で何が出来る訳でもなし。もう少しすれば卒業するし」
「オレには分かんないな」
モトキも視線を上げて、まっすぐに私を見つめてきた。
「なんで、皆で寄ってたかってメイに意地悪するんだ。オレ、全然わからない」
「だから、私がリーダーの女の子の気に触れちゃったからだって」
「私が好きな人だから、仲良くならないでって。邪魔しないでって。その子も、直接そう言えば良いんだよね」
アキラがニコッと笑顔を見せた。仲良くならないで、なんておかしいけど、そう言われてみればそうかもしれない。
「そいつ、何様なんだ? 個人的な嫉妬にメイを巻き込むなんて。好きなら自分で直接アタックすりゃあ良いじゃないか。人を使って相手に嫌がらせするなんて、馬鹿だろ」
「……」
「友達とは仲良くするのが普通だろ。ケンカしたって、絶対後で仲直りして、また仲良くなるのが普通だろ! そりゃあ気の合わない人だって出てくるかも知んないけど。だからって、嫌いだからって! 嫌がらせするなんて馬鹿みたいだろ、放っときゃあ良いじゃん。意見、違うんだからさ。メイに意地悪したり、無視したり……そいつらの事、オレは許さない。絶対許さない」
モトキの素朴な疑問は、フタをしていた私の心の奥底の感情と強く共鳴した。
「なんで……」
なんで、二人ともこんな風に言ってくれるんだろう。二人とも病気で、私なんかよりずっとずっと、本当に大変な思いをしているはずなのに。でも私は仕方がない、自分のせいだ、って全部諦めていた。何も感じないようにすれば良いって、嘘で自分を守っていた。こんなに力強い言葉で、全力で私の味方をしてくれる人なんて、今まで誰もいなかった。自分でさえも自分の味方じゃなかったのに、そんな風に肯定されてしまったら、どうしたら良いのか分からない。多分、泣きそうな顔になっていたんだと思う。
「クラスで……誰も、メイちゃんの味方が居ないなら。僕達がなるよ。なっ、モトキ?」
「オレ一号な」
「えーっ、ずるい!! 僕一号が良いーっ」
じゃれあう二人をみて、おかしくて、久しぶりに友達と話せた事も相まって、楽しくて、二人の言葉がうれしくて、体の芯が熱くなった。気づいたら、笑いながら私は泣いていた。
「はじめの一歩はみんなで踏み出そうって」
「せーの!!」
モトキに借りたゲームソフトの中で、幼馴染み三人ではじめの一歩を踏み出すシーンが有った。
友達がゲームの最初からいるんだ。ポケモンも友達。しかも、一緒に旅に出られるなんて。世界が友達で溢れているなんて、すごく羨ましい。私はモトキとアキラの事を思い出した。現実はゲームみたいに三人一緒に旅立てる訳じゃない。二人ともとっくにゲームはクリアしてしまっているし、バトルでは到底勝てそうもない大先輩だ。でも、同じ現実では三人とも同じ「六年生」で、友達だった。
「僕さぁ、抗がん剤入れられて、暫くうわーって具合悪くなって、ちょっとずつ元気になって、またしばらくすると抗がん剤入れられるのね。僕らの胸に入ってるカテーテルから入れられるのね。片方から抗がん剤入れて、もう片方からは必要な時に採血するの。サイクルは1ヶ月くらいでね。治療ってそういうもんなんだけど」
ある日、私が二人にああだこうだ言われながら三人目のジムリーダーを倒して、一息ついた所で、アキラがざっくりと自分の治療の説明をしてくれた。
「強い抗がん剤入れられるとね、もう本当に全然駄目になっちゃって、動けなくなっちゃう。高熱が出たり、吐いたりしてさ。時間が過ぎてくのが遅くって。そう言う時はね、思い出すんだ」
アキラが窓の外を見た。綺麗に手入れされた病院の中庭が見える。
「僕のポケモンが技を喰らった時の事を。強い技を受けて、もうHPがほんのちょっとしか残ってない時の事を。どくどくとか、でんじは受けちゃった時の事を。そうやって、僕だけじゃない、僕の育てたポケモンも一緒に僕と乗り越えてるんだって、そう思い出すんだ」
そういって、物思いに耽るように目を閉じた。隣でモトキがそっと笑みを浮かべていた。多分、同じ事を考えてるんだろうなって思った。だけど、
「そうそう、サザンドラに流星群喰らって、殆ど瀕死になってたりとかさ」
「そうそう……ってそれモトキのサザンドラの事でしょ! 僕のポケモン、そんなに弱くありません」
「そうですか」
「そうです。全く、油断も隙も無い」
口を尖らせたアキラをみて、モトキも私も笑ってしまった。
「はは……でも何となく分かるぜ、その気持ち」
モトキがいたずらっ子のように瞳を輝かせて、アキラに同調した。
「だろ?」
「新しい抗がん剤を試したとき、オレもきつかった。口はやけどで、体は麻痺状態の上に瀕死。食いもんも何も食べられないし、のどから血は出るわで。普通は状態異常って1つしかなんないけど、参ったよ」
「そうそう」
笑っているけれど、そんな状態になったらいったいどういう気持ちになるのか想像もできなかった。辛くて苦しいんだろうなってことしか分からなかった。でも、そんな事をもう笑って話している二人は、とってもかっこいいとも思った。
「まぁ、メイは体は大丈夫なんだからさ。辛かったらオレ達みたいに、ポケモンの事思い出せよ。同じポケモントレーナーなんだからさ」
「でもモトキ、フツーの学校でそんな、まひとかやけど状態になるの? なんないんじゃないの? メイちゃん、どう?」
「うーん……なんないかも」
そりゃあ、可能性としては叩かれたりする事はあるかもしれないけど、瀕死になったりする訳じゃないなぁ、と思った。
「あっ、でも氷状態にはなる……かもしんない」
私は学校の教室を思い出した。挨拶する相手は誰もいない。一緒に何か話す相手も誰もいない。仲良くなりたくても、存在を認めてもらえなければ、そもそものスタート地点にも立てない。多分、凍っている。感覚も常識も、色々全部。
「メイちゃん、大丈夫?」
何でもないように見せていたつもりだけど、アキラに顔を覗き込まれてしまった。
「大丈夫。……ごめん」
「負けんなよ、メイ」
いつの間にかモトキが切れ長の目をしっかりとこちらに向けていて、そう言った。
「負けんな。メイ、もっと強くなれ。オレ達は体力勝負だもん。お前はオレ達より体力有るだろ、心の勝負なんだろ。オレ達はいつも応援してるよ、がんばれ、がんばれって思ってるよ。友達だもん。強くなって、勝ってこいよ!」
そうモトキに言われるその時まで、私は自分の事で頭がいっぱいだった。でも初めて、病気と戦っている二人に比べて、たかが三十五人に存在を無視されている私なんて、なんてお気楽で、ちっぽけなんだろうって思えた。目の前が一気に開けた気がした。
アキラが一足先に病室に戻って、モトキと二人にきりになった時、そっと耳打ちされた。
「辛いかもしんないけどさ、辛い事があれば笑うといいぜ。ニュースで見たんだ。辛くても笑ってれば、脳がそんなに辛いって思わないんだって。アキラだってあんな事言ってたけど、無菌室から出て来た時はやせてがりがりになってて、しばらく口もきけないくらいだったんだ」
「そう、なんだ……」
「喋る体力も残ってなかったんだって。生きるのでいっぱいいっぱいだった。でも、麻痺だのやけどだって今は、笑うだろ」
「そうだね」
「だからメイも大丈夫、きっと、そうやって笑える日が来る」
「ありがとう」
「約束な、約束だ。オレ達は病気と。お前はクラスのやつらと。お互いに勝って、笑おうぜ。絶対、負けるんじゃねぇぞ。でもポケモンはもっと早く強くなって、早くオレ達と戦えるようになれよ」
「うん」
そう頷いた時、何か柔らかい物が頬に触れた。えっ、と思った瞬間、キスをした相手が一重瞼を細めて、照れたようなうれしそうな顔をしているのが見えた。
*
キラキラと雪が舞っていた。穏やかな太陽があたりを照らし、積雪の反射で眩しい道を、一人の少年が進んでいた。周りの細々とした木々には殆ど葉もなく、雪の重みだろうか、随所で枝が折れていた。片腕で日差しを遮りながら、少年は雪を踏みしめ、歩を進めた。足下でキュッキュッと音が鳴る。少年の視線のやや先に、紫のシルエットがあった。四肢に二股の尾を持つポケモンが、ゆらゆらと尾を振り合図する。こっちだよ、とでもいうように。
「エーフィ、待って」
少年がそのポケモンの名を呼ぶと、白い息が漏れた。エーフィは立ち止まったまま、少年が追いついてくるのを待った。その時だ。
「寒くても大丈夫ッ!!」
突如、左前方の雪中から男がずぼ、と飛び出して叫んだ。不意うちすぎて、少年は声も出なかった。
「熱い心を持ってるからね!!」
ずいずいっ、と目前まで迫られ、
「……えーっと」
少年は思わず目線をそらす。なんかだか少し、暑苦しい。
「……」
「えっ、なに?バトル?」
うんうん、と男は腕組みしながら激しく頷いた。大人のくせに変な人、と少年は思う。
「エレブー、雷パンチ!!」
ぼってりとした腹の目立つ、黄色い虎模様のポケモンが長い腕にエネルギーを溜め、バチバチと火花を散らす。
「エーフィ、いいね。いつものあれでいく」
少年のエーフィが耳をピクピクと動かし返答する。エレブーがその身体に似合わぬスピードで突っ込んで来た。まだ準備の出来ていないうちに、強烈な一撃を見舞われた。エーフィの顔が苦痛に歪んだのを見て、少年の心臓の鼓動が、寒さのせいでなく加速する。その一方で少年は分かっていた。大丈夫、あいつはこんな一撃で倒れるようなやつじゃない、と。予想通りエーフィは身体を二、三度ふるわせ、すぐに立ち上がった。
「瞑想」
少年の呟きに、エーフィは瞳を閉じた。精神を一つに集中させ、体の外側の力を抜く。足に使っている意識を抜いて、攻撃用の力に昇華する。エレブーはややエーフィから距離を保っていた。様子見と行った所だろうか。いや違う、蓄電だ、と少年は読んだ。身体に蓄えられた青い電気エネルギーが、体の至る所から溢れ出ている。見る間に、両手にその青い電気を寄せ集めていく。もうすぐ来る。
「何をぼやぼやしてんの、少年!」
雪男が叫んだ。
電撃波、命中率100%、と少年の知識が告げていた。ならば、こっちも応戦だ。人差し指を立て、
「ぶつけろ、エーフィ!!」
電気の球に向かって、まっすぐ指を差す。その声に合わせ、紫色のエネルギーが捻り上げられていく。
「サイコキネシス!!!」
練られた膨大なエネルギーごと、エレブーにぶつかる。ガァンとぶつかり合う重い音。
「やるね、あんた」
男が、倒れたエレブーをボールに戻しながら呟いた。
「まぁね」
相応の時間をポケモンに賭けて来ている。謙遜などしていられない。男は面白そうに笑うと、質問を投げかけて来た。
「良いね、少年。名前は?」
「オレの名前は……」
「モトキッ!モトキってばッ!!」
甲高い声と一緒にゆさゆさと体を揺さぶられて、オレは目を覚ました。前にもこんな事があったような気がする。
「あ? なんだよアキラ……」
部屋の中はまだ薄暗い。最近日が短くなって来たとはいえ、すぐにまだ、早朝だって事に気がついた。
「お兄さんが……お兄さんが!!」
泣きそうな、いや、実際アキラは泣いていた。大きな瞳からぼろぼろと涙をこぼしながら、お兄さんがお兄さんが、とうわ言のように繰り返す。嫌な予感に、全身が鳥肌たった。
お兄さんは二十歳で、遠い所へと旅立った。病院の前で、たくさんのお医者さんと看護師さんがお兄さんを見送った。オレはお兄さんをただ見送る事しか出来なかった。十二のオレ達と、八つ離れたお兄さんの二十という数字が、果てしなく遠いもののように思えた。二十になったらお酒が飲めるんだよ、と嬉しそうにしていたお兄さん。優しかった。お兄さんは本当に優しかった。オレが初めて入院したときに、優しく声をかけてくれた。アキラとお兄さんと三人で折り紙を折った。副作用で殆ど寝たきりになっていた時、お見舞いに来てくれた。メイと初めて会った時、頭を撫でてくれた。オレはお兄さんに、なにができたんだろうか。してもらうばかりで、なにも出来なかったんじゃないだろうか。けれども、そんな感傷に耽る間もなく、アキラも病院を去ることになった……といっても、退院だけど。メイになら、また来いよって何にも考えずに言える。だけどアキラに対しては、また来いよとは言えない。本当はそう思っていたとしても、言っちゃいけないんだ。
病院の前の並木道から、イチョウの黄色い扇がくるくると舞い落ちてきた。薄暗い、クリーム色の病院の待合室の玄関で、洋服に身を包んだアキラは手を振った。
「モトキ、僕、家に帰っていいよって先生に言われたんだ」
そんな事は知っている。遊んでいる時はもちろん、対戦している時にまで、今日まで何回も何回も、自分でそう言っていたじゃないか。オレが黙っていると、アキラは右の方に視線を向けた。先生とアキラの父さんと母さんとが何やら話し込んでいて、こっちには気づいてないみたいだった。ふいにアキラはオレのパジャマの袖を掴んで引き寄せ、オレに耳打ちした。
「僕、がん、治ってないと思う。なんで帰れるのか分からないんだ」
「えっ……」
それ、どういう意味だ。問う間もなく、アキラはパッとオレから手を離し、眩しそうに目を細めて笑った。いや、笑ってない。オレに、じゃあね、と振っている右手が、小刻みに震えていた。意外にアキラの手が大きい事に、初めて気がついた。アキラ……。
イチョウの葉が落ちて、アキラが居なくなっても、オレはポケモンを続けた。アキラと会う前から、ポケモンはずっと日常の一部だったし。同時に、以前から試していた事を、一人で続けてみようと思った。ポケモンのストーリーをクリアして、お互いとのバトルを繰り返したオレ達は、ある準備を始めていたんだ。その方法は、ずっと前に貼紙をした時に対戦した人が教えてくれた。お兄さんより年上だったその人は、ポケモンに関して、オレやアキラとはちょっと違う知識を持っていた。オレ達はどのポケモンを手持ちに入れるか、覚えさせる技や、持たせる道具は何にするか……それだけを考えていた。バトルにおいて大事な事はそれしかないと思っていた。その人は違った。
「シュゾクチ。セイカクのイッチ。フリ。これが重要なの」
「?」
「??」
首を傾げるオレ達に、そのお姉さん……そう、お姉さんだった……は、その内容を丁寧に説明してくれた。育てたいポケモンとメタモンを一緒に預け、卵を孵す。何回も、何度でも、育てたいポケモンにあう性格の子が生まれるまで。そこから能力の高いポケモンを選んで、育てて強くする。ポケモンを「選ぶ」事でバトルに勝つ方法を知っていたんだ。それは、いわゆる「厳選」と呼ばれているものだ。
ちなみに、オレ達ではそのお姉さんには手も足も出なかった。というか、一匹も倒せなかった。そんな事も手伝って、次の日からオレとアキラは、お互いと戦わない時間を使って、卵をたくさん作り始めた。一日に何度も何度も、飽きずに道路を往復して卵を孵した。ひたすら卵を孵した。オレのエルフーンとシャンデラは、この厳選で作った。手塩をかけて作っただけに、強いし、凄く愛着がある。メイがポケモンを初めて手にした頃にすっかり手持ちを入れ替えてしまったせいで、暫くこの「厳選」をやっていなかった事に、アキラが居なくなってから気がついた。よし、サザンドラでまた厳選を始めてみよう、メイにも勧めてみよう、とこの時のオレは思ったんだ。
*
何かがおかしかった。言葉では説明しにくくて、私の語彙では足りなかった。夏休みが終わってから学校の行事が増えて忙しくなって、一ヶ月と少しの間病院に来られなかった。しかも、おじいちゃんが退院しちゃった。退院しちゃったって言い方は良くないか。中々前みたいにお見舞いに行った後に、モトキ達と遊ぶってことが出来なくなってしまった。お菓子を買って、やっと懐かしい六◯二号室に顔を出したときのことだった。いつもみたいにモトキのカーテンを開けた。久しぶりだからきっと、モトキは喜んでくれると思った。今まで何してたんだって怒られるかも知れない。怒られたかったっていうのは変だけど、やっぱり、モトキに会いたかった。もちろん、アキラにも。カーテンを開けたら、モトキはやっぱりいつもと同じように、ゲームをしていた。
「モトキ」
「メイ」
画面から目線を上げて、モトキは薄く微笑んだ。元々あんまりモトキは、アキラみたいに感情表現が豊かじゃない。だけど、何かが違った。何かがおかしかった。まるで何かを諦めてしまったような、何かを我慢しているような、そんな表情をしていた。視線は私に向けられているけれど、どこか私を突き抜けてその先を見据えるように虚ろだった。何が有ったのかすぐにでも聞いてみたかったけど、とりあえずいつも通りで居ようと思った。
「久しぶり。ごめんね、なかなか来れなくて」
「……」
モトキは少し間を置くと、
「……いや」
と言ったきり、黙ってしまった。
「何かあったの?」
「……」
「なんか、今日のモトキ……今日しか最近、知らないけどさ……おかしいよ。ねぇ、何が有ったの」
「退院した」
「……」
「退院した。……アキラが」
「え」
不意打ちを喰らった。もう、アキラはいないんだ。でも病気が治って退院したんだ、そう思った。だから、
「そっか……寂しいな……でも良かったね、治ったんでしょ?」
「……」
モトキは唇を噛んだ。その時とっさに、”オレはまだ退院できない”って思ってしまったかと思って、ごめん、って謝った。モトキはかぶりを振った。
「治ってない。……アキラは、あいつは治ってないって言った。言ったんだ……なんで帰れるのか分からない、僕は治ってないと思うって、そう言ったんだ……」
私は言葉が出なかった。その意味している事が良くわからなくて。モトキは俯いて、言葉を絞り出すように紡いだ。
「治ってないのに帰れるっておかしくないか。なんで……まさか、あいつもしかして……って、思うんだ……でもそれ以外の理由が考えられないんだ……ずっとその事ばっかり考えるんだ。ポケモンをやってるとき以外は、その事しか考えられなくてさ……」
「……ねぇ、モトキ」
モトキが私の方を見た。
「でもモトキがそうやって、落ち込んでもさ、色々考えてもさ……」
「言われなくても分かってるよ。意味ないんだろ」
「いや、そうじゃなくってさ、なんでそれを反動に出来ないの……いつもみたいに」
「反動?」
私はモトキとアキラから、強さを学んだと思っていた。
「”そう言う時はね、思い出すんだ”って……アキラはそう言ってたよ、そうでしょう? ”辛い時は僕だけじゃない、僕の育てたポケモンも一緒に僕と乗り越えてるんだ”って……」
「アキラは別に、今具合悪くないだろ。それと何の関係があるんだよ?」
何だか話が噛み合ない。
「人だって同じでしょ、ポケモンだけじゃないよ。アキラがモトキの側に居たみたいに、モトキだってアキラの側に居るんだよ。私だって……。苦しくても、辛くても、離れてても側に居るって分かってるから、頑張ろうって思えるんでしょ」
「アキラはオレの事なんか、今忘れてるさ……メイには分からん」
「なんで」
「家に帰れるってことがどんなに嬉しい事か、分からないだろ? いつも自分の親が近くにいて、好きな食べ物でいっぱいの食事が出て、好きに兄弟と遊べる。思い出す訳ないだろ、病院の事なんて」
「……そうかなぁ」
「それにオレ、今厳選ばっかやっててバトルしてないし」
「厳選?」
「そう」
そういって、モトキは持っていたゲーム機の画面を見せてくれた。元々の手持ちのポケモンは、”シャンデラ”しか居ない。残りは全部、”タマゴ”ってなってた。
「他のポケモンは? エーフィとか、エルフーンは?」
「今はボックスに預けてある。このタマゴの中身は、全部モノズだ」
見た事も聞いた事もないポケモンだった。思わず首を傾げると、モトキはああ、と頷くと、
「モノズはジムリーダーを全員倒して、チャンピオンロードに行かないと捕まえられない。オレのサザンドラは、もともとこいつから二回進化してる」
「へえぇ……」
「いっぱいいるから、やるよ。どれが良い?」
そう言ってモトキは、ポケモンセンターのパソコンを開けた。
「どうしていっぱい、モノズがいるの? モトキにはもうサザンドラがいるじゃん」
「厳選をやると沢山タマゴを孵さなきゃいけないんだ」
「さっきから言ってるその厳選って……何?」
「厳選ってのは、生まれつき強いポケモンを探すこと。その後は上手く育てて強くするんだ。ポケモンにはみんな個体値があるから、この値が良いポケモンを探して、そいつを親にしてタマゴを孵すんだ。良い親からは良い子が生まれる確率が高いから」
「……」
良くわからない。
「良い値と同じ位大事なのが、そのポケモンの性格だ。それなら分かるだろ」
「うん、私のフタチマルは”おだやか”だし、メブキジカは”むじゃき”だよ」
「性格で能力の上がりやすさも決まるんだ。ポケモンの強さを見る画面で攻撃力とか、防御力が出てる所、あるだろ。上がりやすい能力は赤く、上がりにくい能力は青くなってるだろ。分かる? 例えばフタチマルなら、特防が赤く、攻撃が青くなってるはずだ」
私は慌てて自分のソフトをつけて確認した。モトキの言う通りだった。全然気づかなかった。
「サザンドラで欲しい性格は”ひかえめ”なんだ。特攻が上がりやすくて、攻撃が上がりにくい。メイのフタチマルとちょうど逆でさ。特攻の技しか入れないから、攻撃の能力は必要ない」
「ふーん」
サザンドラはいつも強くて、流星群を何度も打ってアキラのポケモンをなぎ倒してた。そんなに強いポケモンなのに、やんちゃでもなければゆうかんでもない、”ひかえめ”なポケモンが良いって言うのがなかなかイメージできなかった。変なの。
私にポケモンの知識はそんなになくて、知識がないから余計にそう見えたのかも知れないんだけれど、モトキのボックスは異様だった。一面が同じポケモンで埋まっていた。モノズって言っていたっけ。ボックス一個じゃない。三個も四個もモノズでいっぱいだった。
「うわ……」
「どれが良い?」
「どれって……」
「好きなので良いよ。オレここのポケモン逃がしちゃうし、いずれ」
「え」
「そこに入ってるポケモンは、性格も個体値も欲しいやつじゃなかった」
「ねぇ、モトキ……さっきからずっと思ってたんだけど、こういうの……おかしくない?」
モトキが顔をしかめる。
「おかしい? 何が?」
「だって、せっかく生まれたのに……生まれたばっかりなのに。みんなまだレベル1なのに。育ててあげれば良いじゃん、せっかく生まれた命なんだから」
「強くならないやつを育てても、意味ないだろ」
悪気はなかったんだろうと思う。モトキは自分のポケモンを育てる事について言っただけだったと思う。でも、私は感じてしまった。自分と、自分のポケモンまでまとめて弱いって、ストーリーを進めて来た事も、レベルを上げて強くなって来た事も、まとめて意味ないって言われた気になってしまったんだ。気づいたら声を荒げていた。
「意味がないなんて、そんなわけないじゃん!」
「最初から強いやつを選ばないと強くなれないの! オレはもっと強くなりたいんだ!!」
「おかしいよ! 命を選ぶなんて絶対おかしいよ! 生まれつき強くなかったら捨てちゃうなんて、そんなのおかしいよ!」
モトキのパジャマの肩をつかんで、揺さぶりながら私は叫んでいた。でも次の瞬間、自分が何を叫んだのか気づいて、全身の血の気が引いた。
「あ……」
手をパジャマから離した。でもごめんとは言えなかった。自分が間違ってないって思ったから。モトキだって自分が間違ってないと思ってると思った。やっぱり何も言わなかった。そんな事に無性に腹が立った。
「帰るね」
「ああ」
手を振るわけもなく、振り返る事もなく、私は病院を後にした。その帰り道、鮮やかな秋の夕日を見ながら思った、どうしてこんな事になったんだろうと。でも、私は自分を曲げるつもりはなかった。モトキに私の気持ちに気づいてほしいとも思わなかった。私に知識がないだけで、ポケモンを強くする為には一般的な方法なんだろうと思ったから。強さが命を選ばなければ手に入らない物なんだとしたら、私は強さなんていらない。その変わり、知りたいと思った。どうして、モトキがあんなに強さを求めるのかを。
*
持てるだけのタマゴを持って、道路を往復する。何も考えずに十字キーを操作すると、画面が主人公に合わせてスクロールする。その時のオレはぼーっとしてて、何も考えてない。考えてないってことにさえ、最近まで全く気がつかなかったくらい。自転車でひたすら道を往復しながら、我慢して、粘って、時々待ちきれなくなって、タマゴがもうすぐ産まれそうか確認する。実際にタマゴが孵る瞬間はこの上なく最高だ。やっと産まれた、ありがとうっていう嬉しさ。ステータスを見るまでのドキドキ感。でもステータスを見ると大抵、自分の望んでない性格のポケモンだった。そんな時は思わず、見なきゃ良かったって思ってしまう。それでも十回に一回位は望んだポケモンが産まれるから、そいつをポケモンの個体値を見てくれるジャッジの所へ連れて行く。
でも大体あっさりと、
「平均以上の能力を持ってますね」
終了だ。”平均以上”。つまり、普通ってことだ。オレが欲しいのは”素晴らしい能力”のポケモンだった。それが難しければ、せめて次点の”相当優秀な能力”のポケモンが欲しかった。どうしても生まれつき能力の高いポケモンが欲しかったんだ。モノズはタマゴが孵化するのに必要な歩数が多いから、何日も、何日も、勉強もしないで、朝から夜までずーっとタマゴを孵していた。タマゴを孵しながらも、時々、メイの言った事が頭に引っかかっていた。”命を選ぶなんておかしい”って、そう言っていた。現実世界では確かに、倫理上良くない事は知っている。でもこれはゲームの話で、現実の話じゃない。ゲームなんだから、強くなる為には何をしたって良いはずだ。良いはずだと思うんだ。一方でメイの言う事も正しいような気もしている。そいつは認める。例えばゲームのストーリーを進めてると、ポケモンを奪う”敵”が出てくる……主人公がそいつを倒そうとする理由は、当たり前すぎて説明もされないんだけど、人のポケモンを奪うのは間違っているから。単純に比較してみると、じゃあ、ポケモンを選ぶのは間違ってないのか? いらないポケモンを”逃がす”って曖昧な表現しかされてないけど、それってつまり、”捨てる”ってことじゃないのか? それは主人公が間違っているんじゃないか? そうなってくる。メイの方が正しい気がする一方で、自分のしていることも間違っていない気がしていた。現に強さを求めて、タマゴからポケモンを選んで厳選している人なんて、たくさんいるじゃないか。バトルで強くなる為には、強いポケモンが居る事が大前提なんだ。メイはあの時ケンカして以来、病院に来ていない。オレがずっと病院に居るからこっちから仲直りしに行けないし、そもそもオレ自身が悪いと思ってないから謝れないし、結局仲直りは無理なのかもしれなかった。メイはポケモンを始めたばっかりだけど、厳選でケンカになるとは思わなかった。アキラもいなくて本当に、厳選しかやることがみつからなかった。
そんな日が暫く続いた。前に試したステロイド剤と抗がん剤じゃダメだったみたいで、父さん母さんと、先生が相談して新しいのを試す事になった。治療は大っ嫌いなんだけど、やらないと病気は絶対治らない。オレの病気は風邪みたいに、自然に治る病気じゃないから。それにそろそろ、同じ病室の皆が頑張っているのに自分だけ毎日ずっと厳選しているのに、飽きていた。あっと言う間に手術の日になって、手術室であっさり気を失い、病院で意識を取り戻した時には、もう起き上がれなくなっていた。それが熱によるものなのか、腫瘍を抑える薬が効いているのか、それともオレはもう駄目になったのか、全然分からなかった。前に試した薬の時も、口に凄い口内炎が出来たり、高熱が出たのは覚えているけど、ねぇこんなにきついもんでしたっけ、副作用って。怖くて聞けなかったし、そもそも聞く力はどこにも残っていなかった。ふと、薬漬けにされたポケモンって、こんな感じになるのかなと思った。強くなる為に、薬をいっぱいからだに入れられて……そして……。ただ、その先を考える力が今のオレには残っていなかった。そのポケモンは辛いだろうなと思った。酸素マスクの中で息をして、吐いて……吐くたびに、体力の炎がどんどん、弱まっていく気がした。ただ生きている。それだけしか、今のオレには出来なかった。閉じた瞼の向こうに人がいる気配がする。父さんと母さんと、先生かな。でも、目を開ける力は今はない。
意識が少しずつ、遠のいていく。
*
クラスで突然席替えが有った。方法は先生による完全なるくじ引き。皆がぶつぶつ文句を言ったけど、私はほっとしていた。先生が決めるなら、「メイコと同じ班なんて嫌だ!!」って面と向かって言われなくてすむと思ったから。幸運な事に誰にも何も言われなかったし、一番後ろの左端席を引き当てた。この一番端っこの席なら、クラスで目立たなくてすむ。まぁ元々クラスでは、”メイコなんて居ない”って言う事になっているんだけども。波を立てないように、誰にも気づかれないように、なるべくひっそりと過ごしたかった。昼休みは相変わらず図書館で全部宿題をやるようにしていたけれど、授業の合間の短い休み時間は、クラスで本を読む事にした。端っこの席は思った以上に居心地が良くって、一人で本を読んでいても、全く寂しいと思わなかった。ちなみに他の女の子達はカラフルな手帳や文具やらを持って、テレビの話題で騒いでいた。全然気にならなかった。他の事を考えていたから。
私が借りたのは子どもの病気についての本、がんの本だ。モトキやアキラと話している時、二人がよく口にする言葉が気になっていた。例えばコウガンザイとか、カテーテルとか。それが何を意味するのか良く分からなかった。あまりにも自然に二人が話しているから、聞き返せなかった。しかも私は、そもそも根本的な所で、二人が何で入院しているのか知らなかった。分かったフリをしていれば病気が良くなるって信じていたおじいちゃんの時と違って、自分でちゃんと調べないといけない、調べないと分からないと思った。病院にいるから、子どもの病気なんだろうという見当はついていた。図書館で二、三冊当たってみて、二人ががんだっていうこと、コウガンザイは、がんに抗う薬、抗「がん」剤だっていう事が分かった。次の日には、小児がんの四割が白血病だってこと、白血病はがんの一種って事が分かった。次の次の日には、多分、二人共確実に白血病なんだろうってことが分かった。治る確率は八割だとか。八割で二人とも元気になって、中学生になるのかな。
でも二割の確率で、治っても再発するとあった。二割の確率で二人は死んじゃうかも知れない。もう会えなくなるのかも知れない。
――「アキラは、自分は治ってないと思う、なんで帰れるのか分からないって、そう言ったんだ……」
あの時、モトキは見た事も無いくらい動揺していた。誰かに助けを求めるように、でも誰とも触れ合いたくないように、視線をあちこちにさまよわせて。決して私と目を合わせようとしなかった。私はどうしてモトキが、アキラの事であんな風にうろたえるのか全然分からなかった。また具合悪くなったら、入院すれば良いじゃないって軽く考えてた。モトキを励ましていたつもりで、私は理想ばっかり語っていた。反動だどうのって語っていた。自分が恥ずかしくて消えてしまいたくなった。あの時モトキは怖かったんだ、アキラが死んじゃうかも知れないって思って。だって、二割の確率で死んじゃうんだから。そう唐突に理解した時、ぎゅっと心臓を鷲掴みにされたように胸が痛くなった。あんなに一生懸命病気と闘っていても、治らないで死んじゃうかも知れないんだ。今まで、二人が死ぬかも知れない可能性を私は考えた事がなかった。二度と会えなくなっちゃうかも知れないんだ。アキラが居なくなったらどうしよう。足が震えた。急に周囲の時間がぼんやり霞んで、音が遠のいたように思った。
「――さん、――芽衣子さん」
ふと気がつくと、目の前で先生が私の名前を読んでいた。クラスの人達が全員振り返って、私の方を見ていた。どうやら、五時間目の授業が始まっていたらしい。
「――さん、教科書も出さないで、ぼんやりして……どうしたんですか? 具合でも悪いんですか?」
具合悪いのは私じゃない。そう叫びたかったけど、黙っていた。先生はかがみ込んで私と目を合わせると、
「具合悪くなければ、教科書を出して」
「出しません」
思った以上に大きな声が出た。クラスで数ヶ月ぶりに発言したせいで、音量調節が上手く行かなかったのかも知れない。同じ教室に居る人間が、一斉に息をのんだ気配がした。
「私は具合悪くありません。でも、教科書も出しません。もう授業にも出ません。だって私は、このクラスに”居ない”っていうことになってるんですから」
アキラが居なくなってしまうことに比べたら、クラスなんてちっぽけなものだ。算数の授業だって。もう、何もかも、どうでもいいんだ。どうにでもなっちゃえば良いんだ。酷く投げやりな気持ちになりながら、それでも、冷静に周りを見ている自分が居た。先生が驚いた隙に机の中の教科書をかき集めて胸に抱え、するっと通路の脇をくぐり、自分のランドセルを掴んでそのまま走って教室を飛び出した。
「――さん!!」
追いつかれてたまるか。追いつかれやしない。私は不思議な高揚感に包まれていた。全てがどこか霞がかった、遠い夢の出来事のようだった。
*
「モトキ、ねぇ、モトキってば」
ゆさゆさと体を揺らされる感触。耳になじんだ懐かしい声。まさか、と思う気持ちが胸いっぱいにこみ上げて、いやいやあいつは退院したはずだ、と理性がそれを押しとどめる。
「ちょっと、モトキ聞いてるの? どうせ寝たふりなんでしょ?」
やっぱりそうだった。声で確信して、無視して反対側に寝返りを打つ。
「ちょっと!! やっぱり起きてるじゃない、モトキ、起きてー! 起きてー!!」
耳元で叫ばれて仕方なく目を開けると、想像に違わず、そこにはアキラが立っていた。心なしか、少し日焼けした気がする。照れているような恥ずかしがっているような笑みを浮かべながら、
「えへへ……やっぱり、帰って来ちゃった」
「……そうか」
「聞いて聞いて。こんどね、モトキの隣のベッドになったの」
「え」
「いつでも遊んだり対戦したり、話したりできるよ、また」
「そうだな」
また会えた事が、素直に嬉しい。だけど一方で、アキラの直感が正しかったんだと思うと、胸が締め付けられるように痛んだ。
「……」
「モトキ、大丈夫だよ」
「え」
「僕はもう一回頑張るつもりだから、大丈夫。負けないよ」
迷いの無い笑顔に、オレはつられて笑った。こいつは同い年の割に子どもっぽいようでいて、本当は強い芯のある、したたかなやつなんだ。本当のポケモントレーナーなら、挨拶代わりに対戦しようってなるはずだ。だけどオレ達は、どちらからとも無く、とりあえず近況を話し合う事にした。アキラは坊主頭に短く毛が生えてきていて、まるでスポーツ刈りにしたみたいだった。くりくりした目の上には長い睫毛が生えていた。ちょっと羨ましい。
「学校に行ったんだ。院内学級じゃない、普通の人が通う学校は初めてだったんだ、僕……」
アキラは目を細めて語った。
「人がすっごくいっぱい居て。びっくりしたよ。先生が僕の病気について、ちゃんと皆に説明してくれた。授業も受けた。図工が面白かった。先生のリンゴの塗り方が本物そっくりでびっくりしたんだ。ただ赤く塗るだけじゃなくてね。陰とか考えて、ちょっとしか塗らない。でも、本物みたいなの! 分かる?」
全然分からないけど、とりあえず頷く。
「ポケモン対戦もしたんだよ。クラスで出来た友達と」
あ、これなら分かるな。
「どうだった?」
「勝ったに決まってるじゃん」
「へぇー」
「みんなね、伝説のポケモンばっかり使うんだよ。でも僕はモトキと同じで、伝説は使わないでしょ。使わなくても僕が勝つから、みんな、うっそーって顔してた」
「へえぇ」
「楽しかったよ……短かったけどね」
「……」
「お待たせ」
「え?」
「モトキの番」
「オレ? オレはもう一回新しい治療を始めたよ。二週間たってやっと、食事もとれるようになって来たところ。それだけさ」
「メイちゃんは?」
なんでこいつは、触れられたくない所をストレートについてくるんだ。
「別になんもねぇよ」
「そんなことないでしょ? 何か有ったからそんな風に言うんでしょ?」
「最近メイは来てないから。学校も始まったし、忙しくなったんだろ。全然会ってない」
「もう好きじゃないの?」
アキラは視線を外さずに、まっすぐに質問してくる。
「モトキはメイちゃんの事嫌いなの? それとも、メイちゃんがモトキの事嫌いになったの? あんなに仲良しだったのに。僕の居ない所で、何かあったんでしょ。メイちゃんが学校始まったからって、急にモトキの所に来なくなる訳ないじゃない。だって、初めて有ったときは夏休み前なんだから」
アキラは変わった気がする。年の割に子どもっぽい見た目と喋り方は相変わらずだけど、根っこは一回り逞しくなって帰って来たように思う。なんて言うか、鋭くなった。こいつ。
「ケンカした」
アキラが驚いて、瞬きする。
「ケンカ? なんで?」
「厳選で」
「厳選」
アキラがオレの言葉をなぞる。まるで今その言葉を思い出したかのように。
「厳選で……」
考え込む時、宙に視線を彷徨わせるのはアキラの癖だ。今のこいつになら、厳選でケンカになった理由までしっかり見透かされそうで、なんか嫌だ。
「いいじゃん、なんでも。ポケモンやろうぜ」
「メイちゃんは、嫌だったんじゃないかな。僕たちと違って、厳選そのものが」
だからその話題はもう良いってば、そう割り込んだけれど、アキラは無視して話を続けた。
「メイちゃんは草むらで捕まえたポケモンを、大事に育ててたよね。でも僕たちは大量に卵を孵化させて、命を選んで、逃がして、最終的に一匹しか育てないじゃない。それが嫌だったんだよ、自分のやっている事が、意味ないって、弱いって言われたような気になっちゃったんだよ。きっと」
「……」
そうなんだろうか。メイの気持ちも、分からなくはない。だけど、だけど……
「オレは強くなりたいんだ。誰にも負けたくない。バトルでもっと強くなりたい。その為に出来る事だったら、卵を孵すのがどんなに単純で、苦痛で、辛くてもやる。自分の力でそのポケモンを育てて、もっと強くなりたい……強くなりたいんだ。だから厳選するし、厳選をしたいんだ……まだ途中だけど」
一皮むけたアキラに比べて、オレは同じ言葉を繰り返しているだけのような気がした。だけど心の奥底からわき上がってくる思いを止められなかった。
「倫理的には命を選ぶ事は間違ってるんだろ。そんなこと分かってる。だけどポケモンはオレの生活の中で唯一、自分で何をするか選べるんだ……選べるんだよ。使うポケモン、どの四技を入れるか、性格、持ち物……厳選はその中の一部なんだ。草むらを自転車で駆け回ったり、色んな人と対戦したり、ポケモンを捕まえたりするのもそうだけど、オレ、ゲームの中では自由で居たいんだ……ゲームの中でしか、自由で居られないんだ」
喉の奥から言葉を絞り出しながら、同時にオレは驚いていた。そんな事を自分が思っていたなんて、今まで全然気がつかなかった。喋りながら奥から奥から涙が溢れてきて、かっこわるいと思いながらも止められなかった。滲んだ視界の向こう側で、アキラは共感と悲しさの入り交じった複雑な表情をしていた。そして言った。
「モトキ、バトルしよう」
バトルでのアキラは変わらなかった。手持ちは不動の六匹、オノノクス、メタグロス、ドダイトス、ウルガモス、ラプラス、バンギラス。本人曰く一番最後に「ス」がつくポケモンは、強いらしい。否定はしないけど、肯定も出来ない。その方程式じゃ、オレの手持ちで強いのは一匹もいないことになる。
アキラの一匹目はドダイトス、オレはダイケンキだった。冷凍ビームの一撃で沈める。二匹目はラプラス。水VS水氷だと、重要なのは技の相性になる。ラプラスは耐久性も覚えられる技も、総合的なステータスもダイケンキより上だ。手強い。ただ、素早さだけはこっちの方が強いから、先手は打てるはずだった。一撃で倒せなければ多分やられるだろう、そう思った。技はおそらく、雷か。一撃で倒す可能性に賭けて、草結びを選んだ。草結びはその名の通り草タイプの技で、相手の体重が重い程効果がある特殊な技だ。二百二十キロあるラプラスには結構な威力で、かつ、相性で二倍のダメージを与えられる。急所に当たれば倒せるかと思ったが、残念ながら耐えられた。アキラの番だ。技は予想通り、雷。三割の確率で外れるので命中率こそ若干難がある技だが、それに十分見合う程の威力がある。命中。くそっ。ダイケンキが一撃で倒れた。次のポケモンは少し迷った末、ウォーグルを選んだ。空を飛ぶ要員であるこいつはそんなに強くないけれど、攻撃力も高いし、素早さはラプラスより速い。シャドークローでラプラスを倒したが、ウォーグルはその次のターンで出て来たオノノクスに倒された。龍を倒せるのは手持ちの龍しかいない。オレはサザンドラを選んだ。素早さならばオノノクスに負けない自信があった。流星群を放ち、オノノクスが一撃で倒れる。四対三。アキラがちらとゲームから視線を上げて、こちらを見た。繰り出して来たのはメタグロス。サザンドラの方が先に攻撃できるけど、メタグロスは防御が高いので、流星群で二段階特攻が下がったサザンドラですぐに倒せるかは微妙だ。大文字を繰り出す。でも、アキラが防御を相当高めて育てたメタグロスは破れなかった、どころか、
「オッカの実!」
思わず口をついて出た。オッカの実は、自身に効果が抜群である炎の技の威力を半減するアイテムだ。アキラが笑って、
「へっへ。何度もサザンドラにはやられないよ!」
メタグロスの体力を十分に削りきれないまま、冷凍パンチをくらってサザンドラは倒された。安定して強いアキラの残りのポケモンに対して、サザンドラが倒されたオレの残りの手持ちでは少し厳しい。ゲーム機を持つ手に力が入る。残りはシャンデラ、エーフィ、エルフーン。厳選したシャンデラが倒されたらそれこそ後がないような気がして、無茶を承知でエーフィを繰り出した。アキラが、おや、と意外そうな顔をした。だが先制はこっちだ。
「めざめるパワー!」
「!」
めざめるパワーは、個体によって技のタイプが変わる不思議な技だ。オレのエーフィは厳選をしていないから、そこまで強い訳じゃない。でもこの間、ゲームの中のフキヨセシティにいるおじさんに聞いたら、「地面」タイプの技が使えると言われた。いつか使える時が来ると思って、技の中に組み込んだ。メタグロスが倒れた。アキラはポケモンを交代しながら、何タイプ? と聞いて来た。地面、と返す。アキラの残りはウルガモスとバンギラスのどちらかだ。いくら「地面」のめざめるパワーを持っているとは言え、エーフィでは両方とも相性が厳しい。アキラはウルガモスを選んだ。エーフィに先制できるからだ。ちょうのまいでステータスを上げてくる。オレの残りの手持ちでは一撃で倒せないのを見込んでいるんだろう。バトンタッチを使ってエーフィを交代させても良いと思ったが、アキラの残り一体がバンギラスではエーフィはいずれ、一撃で沈められてしまうだろう。ここはウルガモスの体力を少しでも削るために攻撃させる事にした。どくどくを選んで当てた。その次のターンで、むしのさざめきを繰り出されて一発でやられてしまったけれど。シャンデラに交代する。
ウルガモスとシャンデラでは、炎・虫対炎・霊だから相性的にはまあまあだ。ウルガモスの方がステータスは強い。でもシャンデラの方が相性はいいし、色々な技を使えるのが強みだ。お互いに特殊攻撃を繰り出し合う。シャドーボール。暴風。シャドーボール。暴風。ウルガモスはちょうのまいでステータス全体を上げていたが、エーフィが残したどくどくが意外に大きな効果をあげて、最終的に僅差でシャンデラが勝った。アキラがバンギラスを繰り出す。シャンデラは鬼火を放った直後に、地震で即刻倒された。オレのラストはエルフーンだ。オレの手持ちはアタッカーが多いが、こいつだけは特殊だった。いたずらごころという特性を持ち、変化技を素早さに関係なく相手より先に出す事ができる。身代わりを出して待った。バンギラスが地震を繰り出す。身代わりは倒されなかった。アキラがしまった、という顔をした。
「鬼火の効果!」
そうだ、と言ってニヤッと笑った。鬼火は相手をやけど状態にする。八分の一ずつ体力を削っていくが、相手の物理攻撃を半分にするという効果もある。やどりぎの種を出す。更にバンギラスから体力を削って、エルフーンの体力を僅かながら回復させる。加えて、持たせた食べ残しで更なる回復を計った。身代わりを出しながらコットンガードで更に身代わりを倒されにくくし、最終的にエナジーボールでバンギラスを倒した。オレの勝ちだった。
「モトキ……僕、学校に行って思ったのね。友達いっぱいできるし、皆で給食食べて、デザートを誰が貰うかで競ったり、いっぱい話して、日本の事とか色々勉強してさ。そういうのが自由なのかなって思ったよ。でもメイちゃんは友達に無視されるって言ってたじゃない。それって、どんな気持ちなんだろうって……」
アキラが天井を見上げて、目を閉じながら言う。
「どんな気持ちになるのかな。僕は考えたよ。悲しくって、辛くって、寂しいと思う。我慢して、頑張って、毎日過ごすのって、大変だと思う。僕が自由だって感じた事も、メイちゃんにとってはただ、辛い事なのかも知れないって、そう思ったよ。ねぇ、僕たちもさ、薬を変えた時は辛いけど、体調が良くなってくると、自由を感じるじゃない。ポケモンだけじゃないよ、モトキ。僕はモトキと話してる時も、自由だって思ってるよ……」
「そっか」
「……」
「アキラ?」
耳を澄ますと、隣のアキラのベッドからは規則正しい寝息が聞こえて来た。
「寝たんかい」
まだ話の途中だったのに。
たわいもない、こういう話をすることを、自由と言えるんだろうか? 体は不自由でも、話すことは自由だとか、不自由でなければわからない自由があるとか、アキラはそういうことを言いたかったんだろうか?
難しく考えるうちに、段々オレも眠くなってきた。
*
秋も終わりの頃になって、私は久しぶりに病院に顔を出した。モトキのベッドのカーテンを開ける前、ちょっとためらっていたら、
「メイちゃん?」
びっくりして、心臓が一瞬止まりそうになった。
「アキラ?」
「うん、僕だよ」
隣のベッドから、確かにアキラの声がした。屈託の無いその声に心が安心する。
「僕、病院に戻って来てて今、モトキの隣のベッドにいるんだ。モトキは今、ちょっと検査に行ってるよ。僕のとこで待ってたら」
「うん」
アキラの居るベッドのカーテンを気軽に開けたら、びっくりして、もう一度私の心臓が止まるんじゃないかと思った。ベッドに横たわるアキラは点滴につながれて、少し疲れたような表情を浮かべていた。手と足が少し黒い。その手を振って、久しぶり、とアキラは笑顔を作る。
「アキラ……」
「びっくりした?」
アキラが微笑む。
「うん」
思わず、本当の事を言ってしまった。しまったと思ったけど、それもアキラには伝わってたみたいで、
「三週間前位かな、新しくまた薬を始めたんだ。これでも大分良くなって来たんだよ。メイちゃんはいつも、割と僕たちが体調悪くない時に来てくれるよね。運命かな」
冗談っぽく笑うアキラの姿を見ながら、何気なく、左手に持っているゲーム機に目がいった。やっぱり続けているんだ。ポケモン。
「メイちゃんは、モトキとケンカしたんだって?」
不意打ちだった。唐突なその切り出しに、反論する事も出来ない。
「え」
「厳選が理由だって、モトキは言ってた。メイちゃんは、僕たちが卵をいっぱい孵して、逃がして、良い個体値のポケモン一匹だけを選んで、薬漬けにしたりするのが嫌なんだよね。メイちゃんは草むらで出会ったり、人から貰ったりしたポケモンを大事に育ててたもんね」
「……」
「モトキはまっすぐに、強さを求めてる人だから。僕なんかよりずっと……。モトキ、言ってたよ。ゲームの中は唯一自分が自由で居られる場所なんだって。その為に出来る事だったら、きっとモトキは信じられないくらいの努力をするよ。本来、負けず嫌いだから」
こいつね、凄い負けず嫌いだから。モトキと初めて会った時の、お兄さんの言葉が浮かんだ。アキラまでモトキの味方をするのかって思ったけど、腹は立たなかった。アキラと話していると、不思議に穏やかな気持ちになる。
「わかる」
私は言った。
「あの時のモトキ、悪気はなかったと思うの。でも私ね、自分とポケモンまでまとめて弱いって、ストーリーを進めて来た事も、レベルを上げて強くなって来た事も、まとめて意味ないって言われた気になっちゃったんだ」
――「意味がないなんて、そんなわけないじゃん!」
「最初から強いやつを選ばないと強くなれないの! オレはもっと強くなりたいんだ!!」
「おかしいよ! 命を選ぶなんて絶対おかしいよ! 生まれつき強くなかったら捨てちゃうなんて、そんなのおかしいよ!」
あの時モトキのパジャマの肩をつかんで、揺さぶって、私はそう叫んでいた。
「メイちゃんの言う事も、分かるよ。だって僕も思うもん。僕は体強くないじゃない、だから僕のゲームの中では絶対、捨てられてたと思うんだ」
「……」
「だからメイちゃんがそうやって、草むらで出会ったり、人と交換したり、貰ったポケモンを大切にしてくれると、僕は凄くほっとするんだよ。僕も冒険に出たり、強くなれるチャンスがあるんだろうなって気になれるからね。でもモトキの気持ちも分かる。強くなりたいって気持ちは、お互い同じ。でも、モトキの方がずっとずっと、強くなりたいって気持ちは強いんだ。僕なんか比べ物にならないほどにね。言わなくても分かるよ……だって、友達だから」
胸がざわつく。こんなにかっこいい言葉で語れる程お互いの事が分かってるんだって、羨ましくて。戦っても居ないのに負けた気がした。いや、戦っても負けるけどね。絶対。
暫くアキラとたわいもない事を話していた。アキラの学校の事も聞いた。リンゴの話は何となくしか分からなかったけれど、ポケモンの話は良くわかった。クラスで対戦ができるなんて、ちょっと羨ましかった。
ふと急にカーテンが開いて、
「おい」
「わっ」
「あ、モトキ」
アキラが画面から視線だけ上げて、モトキを歓迎する。つられて私も視線を上げた。点滴台を右側に持ちながら現れたモトキは、前にケンカした時とあまり変わってない。少なくとも、見た目にはそう見えた。
「アキラの意味分かんない話、聞かされてたのか」
「え?」
「そんなことないよ、ねぇ?」
アキラが口を尖らせて不満を口にする。モトキは申し開きもせず謝りもせず、私も何も言わなかった。まるで何もなかったみたいに。何もなかったみたいに元通りになった。モトキはごく自然にアキラと私の会話に入ってきて、三人でいつまでも話を続けた。
*
アキラが死んだ。
年が明けてすぐの事だった。
予兆はあった。気のせいでなければ。クリスマスプレゼントを貰った頃のアキラははしゃいでいたけど、オレの目には、気を使って無理してるようにみえた。バトル中は何回も集中力が切れて、致命的なミスを犯すことが多くなったし、年末にはついに、バトルをやれるだけの体力がなくなった。対戦の途中で頭を切替えたり、指示を決められるだけの体力がもう、なかったんだ。
もうすぐ二度と会えなくなるんじゃないかって思って、毎日毎日心の中で、どうしようって思っていた。ずっと思っていただけで、何も出来なかった。夜はいつも、明日もアキラに会えますようにって思いながら寝ていた。怖くて実際には殆ど眠れなかったけど。夜中の三時くらいにいつも目が覚めて、遠くの部屋にいる看護師さんの足音を聞きながら、アキラの呼吸に耳をそばだてた。六時くらいになると、真っ暗だった窓の外の空が仄かに薄暗くなって、少しずつ少しずつ、白い光が下から薄暗い空を押し上げていく。白い光の中から太陽が顔を出す頃には、灰色だった空は一面、スカイブルーになってる。部屋で一番右奥のベッドを割当てられていたオレは、毎日ベッドから日の出をみた。日の出は凄い。何度みても毎回新鮮で、綺麗だった。日の出をみると、今日もアキラに会えるんだなって思ってうれしかった。このまま何事もなく、バトルが出来なくても構わない、構わないからアキラが元気になってくれればいいって思った。初日の出もそうやって見た。お正月の頃のアキラは、ずっと寝ていた気がする。先生や看護師さんが夜、アキラのお父さんとお母さんと一緒に、急に部屋からアキラを連れて行ったのがそれから一週間後だった。アキラは帰ってこなかった。
その日は一睡もできなかった。日の出を見た後、父さんと母さんがオレのベッドにやってきた。オレは両親が何を切り出そうとしているのか分かっていた。言わないで。聞きたくない。信じたくない。だって、オレ、準備できてない。どうしていいのか全然分からない。
「モトキ。もう、分かってるかもしれないけど……」
切り出したのは父さんだった。声を震わせながら。オレは寝返りを打った。耳を両手で塞ごうとした。
「アキラ君はね……今朝早くに亡くなったよ」
抗えない何かに力任せに叩き付けられたような衝撃が、全身を貫いた。
父さんがオレの肩に手を掛けた。それを振り払う。体の震えが止まらない。ついに来た。恐れてたのに。何でだよ。何でいっちゃうんだよ。濁流のような怒りと悲しみと涙が、体の奥底から迫り上がってくる。慟哭。ああ、ああ、ああ。アキラはあんなにがんばってたのに。
「モトキ」
母さんも泣いていた。父さんも。二人でぎゅっと抱きしめてくれたけど、その輪の中でオレは、力の限り、まるで赤ん坊の頃に戻ったときのように泣き叫んでいた。心の芯を粉々に砕かれたように胸が痛んだ。辛い。苦しい。おいてかないで。寂しいよ。怒りの後に色んな思いがあふれてきて、悲しくなった。
「何でッ」
オレは何回も何回も、叫んでた。叫ばずにはいられなくて。
「何でアキラなんだよ、何でアキラを連れてっちゃうんだよ!」
「アキラッ、アキラッ、アキラアアアアアアァァァァッッ!!!!」
もう二度と、ポケモンもできないんだ。一緒に病気と戦って、一緒にポケモンで戦って。勉強も一緒にしてた。あんまり勉強してなかったかもしれない。ケンカして。笑って。笑って。色んなこと、話し合って。語って。何もかも、もう、二度と出来ないんだ。だってアキラは、死んじゃったんだから。
*
アクアブルーに澄んだ海が、遠く地平線まで広がる。柔らかな白い砂浜は太陽の熱で温もり、波が覆う度に本来の温度を取り戻す。少年は裸足だ。少年より少し前を、二又の尾を持つ紫色のポケモンが軽やかに歩く。ポケモンはあちこちにある砂浜の漂流物を、時折歩を止めては熱心に調べている。
「エーフィ、行くよ」
そう少年が呼びかけると、ポケモンは残念そうに顔を上げた。少年とエーフィは砂浜の道をどこまでも進んでいく。気がつくと、少年は海を遡り、川へ辿り着いていた。茜と菫色に染まる空を、東の端から黒い闇が押し出していく。その中で、透き通ったその川だけが奇妙に光っている。少年は屈み、水面を覗き込んだ。透明なはずなのに、なぜかぼんやりとしか顔が見えない。隣のエーフィを見ると、ただならぬ形相でしきりにあたりを警戒していた。全身の体毛が細かく震えている。
「エーフィ?」
問いかけたその一言が不自然にこだまして、少年も思わず視線をあたりに巡らす。遠くに船が一艘浮かんでいた。目を凝らして、少年はそれが手漕ぎボートだと確認する。船は殆ど音もなく波間を滑り、やがて少年とポケモンのすぐ側までたどり着いた。焦茶色のよれた服を纏い、フードを目深に被ったその漕ぎ手は、殆ど聞こえないくらいの声で呟いた。
「坊主、この船に乗るかい」
フードの漕ぎ手が不自然に歪んでしまい、私は消しゴムを手に取った。国語の時間だ。今朝見た夢を、ノートの隅っこに描いている。夢の中で私は、エーフィを連れて旅をしている事になっていた。この続きは、目覚まし時計にジャマされて見られなかったんだけれども。男になっていたし、不穏な感じだったけれど、ポケモンと一緒に旅をするってこんな感じなんだな、いいなって思った。夢で見た雰囲気を忘れたくなくて、いつでも思い出せるように描いている。
「それ」
ふいに隣からぼそっと声がして、心臓が飛び上がるくらい驚いた。集中していなかった、絵と、先生にばれないことと、授業のノートを取ることにしか。声の主は隣に座っている男子だった。名前は……覚えてない。
「なに?」
私が睨むと、男子はちょっと怯んだみたいだ。
「いや、それ。……エーフィだろ」
「!」
「……そう思っただけ」
それだけ言うと、何事も無かったかのように授業モードに戻ってしまった。
「……」
今、会話したんだ、人と。……ん? 私はしゃべってないか。話しかけられたんだ。最後にこのクラスで誰かと話したのはいつだっけ? 五月だっけ? 自分の身を守る事ばっかり考えてたせいで、クラスの人の事が殆ど分からなかった。あと一ヶ月で卒業するっていう今更になって気がついた。でも、同時に別のことにも気づいた。このクラスの中にだって、モトキやアキラのように、ポケモンをやっている人がいるんじゃないか。隣の男子もやっているのかも。そう思うと、今まで霞んでよく見えなかった世界が急に、手に取るように近くに感じられるようになった気がした。一月の終わり頃の話だ。それ以上、暫く何も起こらなかった。でも私は時々、他の人の会話の端々に、ポケモンの単語がある事に気がつくようになった。単語の切れ端を繋ぎ合わせて組み立てたら、何人かは放課後に集まって、バトルする時もあったみたい。その中には隣の席の男子もいた。ポケモンやってる友達がいっぱいいて、いいなぁ。私も仲良くなりたい。仲良くなって、一緒に戦いたい。心が前向きに動いていた。久しぶりに、自分の望む物がはっきりと分かって、なんかすっきりした気分だった。
そのすっきりした気分を大事に温めながら、私はある日、病院を訪ねた。クラスでポケモンをやっている人が居ること。仲良くなって、戦いたいって思ってること。それを二人に話すつもりだった。六◯二号室の前に来た時に、看護師さんに呼び止められた。最初にこの部屋に入ろうとした時に、「ごゆっくり」って言ってくれた看護師さんだった。
「モトキ君に会いに来たの?」
「はい、モトキ君と、アキラ君に。三人で、ポケモンやっているんです。私のクラスの人にもやっている人が居るって分かったよーって、そう言おうと……」
そこまで言って看護師さんの顔を見上げた。看護師さんはとても悲しそうな目をしていた。なんだろう。直感的に、二人に何かあったんじゃないかと思って、怖かった。でも、口を開いても何も声が出なかった。
「お嬢ちゃん。お名前を聞いても良いかな」
「メイコ。メイでいいよ……」
「メイちゃん」
看護師さんは屈んで私の両肩を持ち、まっすぐ私を見て言った。
「アキラ君はね……亡くなったの。お正月が終わってすぐに……」
体のどこかが自然に停止した気がした。何も考えられないのに、目から自然に涙があふれてくる。
「アキラ君は亡くなる間近は、ずっと寝ていたのよ。苦しがったりしなかった。穏やかに亡くなったの。でもアキラ君が亡くなった頃、モトキ君は凄く動揺していて……毎日泣いていたわ。親友だったからね」
なぜか頭の中に、窓際のベッドに体育座りをして、膝を抱えるモトキの姿が浮かんだ。
「……」
泣きながら、私は頷いた。色々なアキラを思い出していた。対戦している時の真剣な目つき。三人で話している時の柔らかな笑顔。退院して戻って来てからの、鋭い表情。後から後から涙が溢れて来て、止まらなかった。看護師さんが私が落ち着くまで抱きしめてくれた。暫くすると看護師さんは私の肩を抱いて、一緒に病室に入った。
「アキラ君が亡くなってから、モトキ君、殆ど喋らなくなっちゃったのね。形見にゲームソフトを貰ったみたいで、遊んでいる姿も見た事はあるんだけど……そのうち具合悪くなっちゃって、今、ずっと薬で眠ってるのよ」
「いつから?」
「ここ一週間くらいかな」
看護師さんがそっと、モトキのベッドのカーテンを開ける。モトキはただ、眠っているみたいに見える。
「……モトキ……」
口に出すのは怖かったけれど、どうしても、どうしても確かめておきたかった。
「モトキ、死んじゃうの?」
看護師さんはそっと言った。
「分からない。分からないけど、病気よりも、アキラ君が亡くなったショックで、具合悪くなったみたいなのよ。だから、今はモトキ君を信じてあげて。応援してあげて、メイちゃん」
「はい」
暫くすると看護師さんは仕事に戻ったから、わたしはモトキのベッドの側にあった椅子に一人座って、考えた。信じるって何だろう? 応援って、何をすればいいんだろう? 今、私がここで何かモトキに話しかけたら、それはモトキに伝わるんだろうか。たとえ、寝ていても? 寝ていても返事をする事はあるけど、それはやっぱり、意識のどこかが起きているからでしょう? 薬で寝ていて、伝わるものなのかなぁ。止めどなく考えながら、ふと顔を上げた。モトキの枕元の棚が見えた。今までに無くきちんと整頓されている。モトキは特に綺麗好きって訳じゃないから、お父さんお母さんが整えてくれたのかも知れない。こっそり、モトキがいつも持っていたゲーム機に手をのばした。スイッチを入れる。良く知っているようで、全く知らないモトキだけのゲーム画面が現れる。うわっ。なに、この220時間って。こんなにやってたんだ。手持ちのポケモンを見てみた。サザンドラ、ダイケンキ、シャンデラ、エーフィ、ウォーグル、エルフーン。私が初めてモトキに見せてもらったのと同じポケモンだ。意外だった。モトキが一番最後にゲームをした瞬間は、厳選するためじゃなく戦う為だったって事が。モトキは一番強いメンバーを連れて、一体どこへ行くつもりだったんだろう。
*
コルクのような弾力のある、黒い土の上をまっすぐに歩いていた。空も、これから進む先も、霞がかった濃灰色に覆われていている。どうしてこの道を進んでいるのか分からない。でも、進まなければいけないということを、なぜか心で理解している。周りには誰もいない。誰もいないばかりでなく、何の植物も生えていなければ、動物も居なかった。更に付け加えれば、自分が歩いている音もしなかった。呼吸の音もしない、完全に無音の世界だった。ただ、歩いても、歩いても、体は疲れなかった。時間感覚はとっくに麻痺している。どれくらい歩いたのか。昼なのか、夜なのか、朝なのか。どこまで歩けば良いのかも含めて、全く、全く、何も分からなかった。どれくらいの時間が経ったのか分からない。気のせいかと思うほどかすかに、どこかで、波の打ち寄せる音が聞こえたような気がした。立ち止まると音はやんだ。歩き出すと、波の音がまた聞こえた。歩けば歩くほど音に近づけるような気がした。心が急いた。気づいたら、走り出していた。爽快だった。走っても走っても、息は全く切れなかった。スピードだけがぐんぐん上がっていって、まるで自分が別の生き物になったようだった。ひたすらまっすぐに進む。波の音ははっきりと聞こえるくらいにまで大きくなっていた。その内に、前方に微かな光が見えた。あれが目指す最終地点だという事を、自分の心が告げていた。光に近づくつれ、少しずつ周囲の濃灰色が薄くなってくる。駆けるうちに自分の手が見えてきた。思いのほかゴツゴツしている。足も見えてきた。そうやって自分の姿が分かるようになると、周りの景色もだんだん見えて来た。黒いコルク土の上に一本の白線がずっと続いていて、自分はその上を走って来たのだと知った。そして、ついに終着点に辿り着いた。光の正体は一本の川だった。川の水が発光しているから、遠くからでも光って見えたんだと気づいた。川のすぐ側に立って水をすくってみた。水は透明なのに、なぜかぼんやりとしか顔が映らない。
誰かいないだろうか。人を探してみようと思った。来た道を振り返っても誰もいなかった。でも川の先へ目を凝らした時、遠くの方にボートが浮かんでいるのに気がついた。漕ぎ手はフードを目深に被った人で、岸にはもう一人、杖を持った高校生くらいの青年が立っていた。随分遠くに居るように見えたのに不思議と、二人の会話を聞き取る事が出来る。
「坊主、この船に乗るかい」
フードを被った方が低い声で言った。結構おじいさんなのかもしれない。
「……これは、”あっち”行きの船なのかな」
「勘がいいね。君が駄賃を持っている事も分かってる。準備は良いね」
「駄賃? ああ、これのこと?」
青年が頭につけていたバンダナを外すと、中から紐に通した五十円玉が六枚現れた。
「そうさ。さ、船に乗りな、坊主」
「船に乗る前に、ちょっとだけ時間をくれないか」
「時間?」
そう時間、と青年が返す。
「大事なものを忘れてしまって。ちょっと、時間が必要なんだ」
「良いだろう。先は長い。準備の時間も必要だろうな」
「どうも」
青年はボートに背を向けた。あれは誰だろう。ここはどこなんだろう。あの人なら何かを知っているかもしれない。自然と、その青年の方に自分の足が向かう。青年は、どっちの方向に歩き出そうか少し迷っているように見えた。
「すみません!」
自分が声を上げると、その青年が振り向いた。
「あなたの大事なものを探す時間を削ってしまって、すみません。ここはどこなのか、教えてもらえませんか。自分がどこから来たのか分からないんです」
「!!」
青年は驚いた表情のまま固まっている。いったいどうしたんだろう。
「モトキ」
「え?」
「モトキでしょう」
「は?」
「思い出せないの?」
「はい?」
いったいこの人は、何の話をしているんだろう。
「君の名前だよ、モトキ」
「はぁ……名前、ですか。なんでまた……自分には、名前なんて分かりません。何のことですか」
「忘れちゃったのか」
良く話が飲み込めないのに、青年に露骨にがっかりした顔をされてしまった。
「じゃあ、僕の名前も分からない?」
「お兄さんの名前?」
青年と目があう。すらりと背の高い、目のくりっとした優しそうなお兄さんに見える。こんな知り合いいただろうか。知らないなぁ。
「……」
「覚えて、ないんだ」
そっか、でもそうかもね、とお兄さんは寂しそうに笑った。
「大人にしてもらったんだ。お兄さんと同じ二十歳に。向こうでお酒を飲むんだよ。僕はこれからすぐ、”あっち”に行かなきゃいけないんだ。でも大事なものを忘れて……。取りに行ったら出発する。モトキはまだ行かなくて良いはずだよね。どうしてここにいるのか分からないけど……」
「”あっち”って、何ですか?」
「”あっち”が何だか、モトキにも分かる日が来るよ。もっとずっとずっと先にね。ところで、早く帰った方が良いよ。みんな心配しているんじゃないかな」
「みんなって、誰ですか?」
「それも覚えてないの?」
お兄さんは悲しそうな顔をした。また良く分からないうちにお兄さんを傷つけた事を知って、質問するのは止めにしようかと思いはじめた。
「お兄さんは……自分の、友達なんですね。どこかでの」
「そうだね」
お兄さんは眩しそうに目を細めて笑った。
「モトキ、君の進む道はあっちだよ」
川沿いの遠くの方で一点だけ、光が射してくる場所があった。「そこ」を指差しながらお兄さんは言った。
「僕は忘れ物を見つけたら出発するから。こっちに来ちゃダメだからね。いいね」
「はい」
「じゃあね」
光の射す方向へ駆け出した。途中で振り返ると、お兄さんが手を振っていた。いつまでもいつまでも振っていた。
川の水だけが光る薄暗い周囲の中で、不自然に「そこ」は光っていた。まるでそこだけ世界が破れて、光が溢れ出て来てしまったかのようだった。お兄さんが指差した時はほんの僅かな隙間に見えたのに、近づくにつれ意外にそれが大きな穴であることが分かった。人が一人通れそうな位だった。走る速度を緩めないまま、その穴に飛び込んだ。刹那、襲って来た爆発的な閃光に思わず目を覆った。網膜の裏からでも感じられるような強い白光だった。上下左右の感覚が飛んだ。異空間に放り出された感触があった。自分が回っているのか世界が回っているのか、うねるような低い音がずっと、耳の奥に響いていた。
どの位の時間が経っただろう、うねるような音の合間に、カツッ、カツッという固い音が混じるようになってきた。その音が大きくなるにつれ、視界を覆っていた網膜を焼くような眩しさが弱まっていくのが分かった。もう大丈夫だと思った頃に目を開けた。少し離れた所に、大きな角を生やした立派な牡鹿が立っていた。角に綺麗な桃色の花をいくつか咲かせていた。振り返ったそのシカと目が合った。ああ、メブキジカだと思った瞬間、いつの間にか知らない場所に立っていた。
大きな空間だった。人一人が立てる音が複雑に混ざり合わさってがやがやとした雑音を生んでいた。同い年位の子どもの声が聞こえた。アナウンスの声がレジの応援を頼んでいた。遠くで小さな子どもが泣く声もした。親が叱る声も聞こえた。ジグソーパズルが並ぶ棚、プリンターのインクが並ぶ棚、文房具が並ぶ棚、おもちゃが並ぶ棚がある。おもちゃの棚の奥には、ゲームが並ぶコーナーがあった。一つを手に取る。ポケットモンスターと書かれたその箱に心のどこかが反応し、酷く懐かしい気持ちで胸がいっぱいになった。ふと目線を上げると、空いたスペースでゲーム機を持って集まっている子どもが何人か目に入った。年は、自分と同じくらいだろうか。四人。三人は男の子で、一人は女の子だった。女の子は短髪に浅黒い肌にタンクトップを着ていた。まるで男の子みたいだった。少し離れた所から様子を伺った。男の子三人は、結構仲が良い友達同士のようだった。女の子は最近友達になったばかりみたいで、色々教わっているようだと、そんな風にみえた。
「――って俺達とやる前は、どこかでポケモンやってたの?」
ポケモン、と言う単語に心が躍った。なぜだろう。
「やってたよ。ソフトをくれた友達が居て、その友達ともう一人と三人でポケモンやってたの」
力強く凛々しいその声に、心がもっと踊った。聞いた事のある声だと思った。
「へぇ、うちのクラスの奴?」
「ううん。全然別の友達」
女の子はにかんだように笑って、言葉を続けた。
「病院で出来た友達なんだ。モトキと、アキラっていうの」
モトキ、モトキ。お兄さんも自分の事をそう呼んでいた。オレはモトキというのだ、どこかでモトキと呼ばれていたのだ、そう理解した。違う誰かのことだろうか、それとも僕の事を言っているんだろうか。女の子の後ろに回って、ゲーム機を覗き込んだ。画面の右上で何かが動いていた。黄色い貝を被り、顎に立派なひげを生やした紺碧のアザラシのような生き物だった。名前は思い出せなかったけれど知っている、そう思った。女の子に背を向けるような形でもう一体、生き物が動いていた。大きな角を生やした逞しい牡鹿。さっきまでは覚えていたのに。あれは……。
「メブキジカ、ウッドホーン!」
女の子が指示を出す。男の子が叫ぶ。
「ダイケンキ!」
どちらも知っている、と思った。メブキジカもダイケンキも。なぜ知っているんだ。あの女の子のことも、ポケモンという単語も、画面の中の生き物のことも。その全てに胸が苦しくなった。懐かしさでいっぱいになるような、何かが溢れ出しそうなような、色々な気持ちでぐちゃぐちゃになりそうだった。どうしてこんな気持ちになるのだろう。そういえば、君の進む道はあっちだよ、とあのお兄さんも言っていた。どうして僕の進む方向を知っているのだろう。そういえば、”お兄さんと一緒にしてもらったんだ、向こうでお酒を飲むんだよ”と言っていた。別のお兄さんもいたのだろうか。一緒にしてもらったって、何を一緒にしてもらったんだ。訳の分からないことばかりだった。
バトルを終えた女の子に、別の男の子が話しかけた。
「つえーんだな、――って」
「教わった先生が強かったからね」
「俺も教わろうかなー。どこにいるんだ? その、モトキと……」
「モトキとアキラ?」
「そうそう」
「××病院。自転車で四十分くらいかな。でも……」
「でも?」
女の子は言いよどんだ。聞いていた男の子のうち一人がさりげなく席を立った。残った他の二人は、
「でも?」
「なんだよ――、もったいぶんなよ」
「モトキは具合悪くて、ずっと眠ってる」
男の子二人は面食らったような顔をした。思わず、自分の手を広げて見つめた。天井の蛍光灯に透かすと、心なしか透けて見えるような気がした。オレは夢を見ているのか、魂だけの存在なのかと、そう思った。なぜだかは分からないけれど、ずっと眠っているというそのモトキが、オレだという確信があった。
さっき席を立った男の子が帰ってきて、女の子に問いかけた。
「じゃあ……アキラは?」
「アキラは……」
女の子は俯いた。何となく嫌な予感がして、でも、その直感が正しい事も知っていた。さっきから気持ちばかり理解が先行して、頭が追いついていないような、そんな感覚がする。
「アキラは……死んじゃった。一ヶ月前に」
その言葉に、周りの喧噪が一気に遠のいて、静寂に包まれたような気がした。でも、その静けさを破ったのも同じ声だった。
「その時、強くなりたいと思ったんだ。アキラみたいに明るくて優しくなれるように、自分が強くなろうと思ったんだ」
女の子の瞳は潤んでいたが、泣いてはいなかった。まっすぐに男の子三人を見据えて、覚悟を宿した瞳をしていた。視線を外さないその姿が、記憶の中のだれかと結びついた。くりくりとした大きな瞳。明るく良く笑って、言動は子どもっぽい。だけど話すとすごく大人びていて、まっすぐ視線を話さないでこちらを鋭くついてくる。最高の好敵手。どうして今まで思い出せなかったんだろう。手で顔を覆い目を閉じた。深呼吸。
――「モトキ。ねぇ、モトキってば」
ゆさゆさと、手で体を揺さぶられる感触が確かにした。懐かしい声。細いけれど大きな手。
待ってて。探し物をオレが、持っていくから。
もう一度ゆっくりと目を開けると、さっきの薄暗い川辺に戻って来ていた。川だけが仄かに光る中で、少し離れた所にさっきの船が泊まっているのが見えた。船上の影は二人。さっき、お兄さんに戻ってきてはいけないと言われた事を思い出しながら、耳を澄ました。
「……なんだい坊主、もういいのかい」
「ええ」
「探し物はみつかったのか」
「……いいえ。でも、良いんです。もう吹っ切れましたから。僕は向こうでお酒を飲むんです」
オレは走り出した。船頭がオールで岸を押し、川へ漕ぎ出す。流れに乗り、加速し始めた船を走って追う。頭の中をフル回転させながら念じた。ポケットに手を突っ込みながら強く思った。来い。来い。ふと、ポケットを弄る手が薄い小さなプラスチックを掴んだ。そのプラスチックの破片を握りしめて、オレは懸命に走った。船の横に並走しながら、名前を叫んだ。
「アキラ!!!」
船に乗った青年が、びっくりした顔でこっちを見たのが分かった。
「モトキ!! 来るなって言っただろ!!」
青年……アキラの険しい声に、そうだった、と今更その事を思い出しながら、構わず続けた。
「これ、探し物!!」
小さなプラスチックが宙を舞う。アキラが船から立ち上がり、両手で包み込むように受け止めた。
「……!」
「探し物、それだろ!!」
アキラがギュッと掌を組みあわせ、祈るように胸に抱いた。薄暗くて表情は見えなかったけれど、その姿だけで、何も言わなくても正解だと分かった。アキラの名前と、形見で貰ったゲームソフト。
「アキラ、向こうで、お兄さんといっぱい対戦してこい!! お酒飲みながら!!」
そういうとアキラは、
「モトキ! 僕がいなくても、メイちゃんと仲良くするんだよ!」
うるさい、余計なお世話だ。そう返すと、笑い声が返ってきた。アキラは大きく手を振った。その動作に呼応するかのように、オレの視界の周囲がだんだんぼんやりし始めた。帰るんだ、という強い確信があった。元居た場所に帰るんだ、と。
*
外から反射する日差しが教室の中にまで差し込んでくる。さほど大きくない教室に三十五人も詰め込まれているせいで、よけいに暑苦しい。夏服を着ていることがせめてもの救いだ。冷暖房設備がないから授業中も額を汗が流れる。言われている事を書き写すだけで精一杯で、理解できる段階へ意識を持っていけない。やっと授業を終えてため息をつくと、隣の席に座っている友達がやってきて、
「メイ、麦茶飲む?」
「神様ッ!」
水筒の中身を分けてくれた。冷たい麦茶が喉を通って胃の中に染み渡る。
「ありがとうございます、ありがとうございます」
思わず拝むと友達は、
「メイちゃんって本当、おいしそうに麦茶飲むよね。大人になったらきっと、麦茶じゃなくてビールをそうやって飲んでるんじゃない?」
「ビール?」
「ビールって麦の酒って書くんだよ、知ってた?」
「マジ?」
そんな会話をしていたら、
「おい、――。転校生が来るらしいぞ」
小学校卒業直前に一緒にポケモン対戦をしていた仲の男子の一人が、後ろの席に駆け込みながら言った。急に担任の先生が慌ただしく教室に入ってきて、クラスメイトは全員、猛スピードで自分の席についた。
「知ってるよ」
「え?」
後ろの男子が疑問符を浮かべる。先生が一人の男の子を連れてきた。小柄で細く色白で、短髪に切れ長の一重瞼。緊張した面持ちで前を見据えていたけれど、私と目が合うと驚いたのか、一瞬で間が抜けた顔になった。先生が色々と説明している合間に、後ろの男子が問いかけてくる。
「何で知ってるの、あいつのこと」
私の答えに、男子は納得の表情を浮かべて転校生を見た。
「私の、”先生”だから」
ーーー
あとがき
こんにちは、art_mrと申します。
アイデアをとにかく最後まで形にしようとしたら、気づけば41000字くらいになってしまいました。
長文すみません。最後までお付き合いいただきありがとうございます。
タグ: | 【こたつ】 【コタツ】 【炬燵】 【うちにもこたつはあるけど】 【布団が無い】 |
はいはい、いらっしゃいませ。化生電気店にようこそ!
え、店の名前が読めないって? こりゃ失礼、「けしょう」って読むんですわ。うちの苗字をそのまんま使ったんだけど、これがまた読みにくいって不評でねえ。いっそ平仮名にでもしようかなーなんて思ってたところで。やっぱり変えるべきかね、こりゃあ。
ただね、口の悪い知人に言わせると『けしょう、なんて優しい字面になった日にゃあ、どんな化粧映えのする美人がいるんだろうなんて期待しちまう。そんで店に入ってヒヒダルマみてえなツラのオッサン見ちゃ、一気に買う気も失せるだろうよ』ってことで。そりゃあ一理あるかもしれんが、しかし全く失礼な奴だねホント。向こうだって、大層なツラじゃないのにねえ。
おっと、関係無い話は置いといて。うちにいらしたって事は、何か家電製品をお探しですかね。小さな店ですが、色々と取り揃えておりますよ、はい。
ほほう、ご自宅のこたつを買い換えたい、と。なるほどなるほど。お客様はどんなタイプがお好みで? 昔ながらの和風か、今風のモダンか、あるいはダイニングこたつもございますよ。
ふむ、和風がお好きと。そうですなあ、それならこちらなんていかがでしょう。天然木使用のウレタン塗装、綺麗な木目に程よい艶出し加工が美しい自慢の一品です。この足のがっちりした安定感、天板の色艶、いいでしょう?
おお、お気に召された? いやー嬉しいなあ。この子は実にいい性格で……あ、いや性格ってのは木目のね、この並びがいいっていう意味ですよ、ええ。
さてさて、どうなさいます? こちら展示品で最後の一台だからね、買ってもらえるならお値段を勉強させてもらいますよ。えーと電卓電卓っと……そう今がこれ位でですね、思い切って差し引いてこのぐらいでどうです? そんでもって、即決してくれたら配送料もタダにしちゃいますよ。
……よし、成立ですな! いやーめでたい、実に喜ばしい。気に入ってもらえて、このこ……たつも喜んでるでしょう、ええ。ちょっとお待ちくださいね、今配送係を呼びますから。
おーいゴーちゃん、仕事だよー! こちらのお客さんのお宅まで、こたつを一台運んでおくれー!
来た来た。うちの力仕事担当、ゴーリキーのゴーちゃんです。なかなかの美人さんでしょ? 気は優しくて力持ち、仕事熱心で真面目ないい子ですよ。さくさく仕事してくれるから、見てるこっちも気持ちいいやねえ。
おっとと、喋ってないでお手続きといきましょうかね。こちらの書類に記入をお願いしますよ……はい、確かにいただきました。保証書はこれね。丈夫な造りだから壊れることはないだろうけど、念の為にね。
しっかり持ったかいゴーちゃん。なんならお客さんも乗っけて……いいって? そんなに遠慮しなくていいのに。自分で歩く? ふむ、そうですか。
ではこれにて完了ですな。どうぞそのこたつを可愛がってやってください。時々磨いたり布団変えてやったり、大事に扱うといいことありますよ、きっと。もし使わずに放置したり手入れをおろそかにすると……まあ、そんなことはなさらんでしょうから大丈夫でしょうな。いえいえ、独り言ですからお気になさらず。
はいどうも、お買い上げありがとうございました! 今後とも化生電気店をご贔屓に!
はいいらっしゃい。おっと、いつぞやのお客さんじゃないですか。毎度どうも、今日は何をお探しで……え? 以前のこたつの件で話がある? はてさて、何でしょう。
……はあ、こたつがおかしい、と。作動点検ならすぐにでも……作動じゃなくって動作がおかしいって? そりゃまたどういう意味ですかな?
ほう。うたた寝しているといつの間にか場所がずれている、足を突っ込んだら冷たい風が吹いてきた、風も無いのに布団が捲れる、時々振動して物を落とす、その他色々と。まことに失礼ですが、お客さんがうっかり蹴っ飛ばしてたとかコード抜いちゃったとか、そういう事なんじゃないですかねえ。割と良くあるんですよ。
おや、にやにやしてらっしゃる。決定的な事がある、って? ……何、飼っているスカタンクが潜り込もうとした瞬間に、こたつが後退りして震えた? あー、まあ気持ちは分かるというか……いえいえ、独り言ですよ。
ん、そのボールは……あっ!
あーらら。バレちゃいましたか。いやいや、騙すつもりはなかったんですがね、まあ黙っとくつもりはあったんですが。今となっちゃあ、もう駄目ですな。
はい、全ての不具合はこのロトム、コタツちゃんによるものです。いかにもロトムらしいイタズラ好きな子でね。しょっちゅうあれやこれやを仕掛けては、使う人間が不思議がるのを見て楽しんでるんですわ。ちっとばかしやりすぎて店に返されること数回、今回はどうなるかと思ってたんだが……いやー、やっぱり駄目だったかあ。まあ仕方がない、代金は全額返金の上でその子を引き取ります…………えっ?
ええっ、コタツちゃんを手元に置いておきたいって! 何をそんなに驚いてって、そりゃ驚きますよ。今まで正体に気付いた方々は、例外なく怒って突っ返しに来たんですからね。てっきりお客さんもそうかと……はあ、この子にはバトルの才がある、今はまだまだだが磨けばかなりのモノになる、と。そりゃさっぱり知りませんでした、恥ずかしながらバトル関連には疎いもので。ひょっとしてお客さん、エリートトレーナーさんか何か……ああ、やっぱりね。いや納得しましたよ。今までのお客さん方は、みなさん一般人でしたからね。
将来は育てたこの子を主力メンバーの一員にしたいと? 嬉しい事言ってくれるねぇお客さん! うんうん、いつかこたつフォルムで世を沸かせて……って、こたつフォルム? そんなのあるんですかね? 無いから相談しに来たと、そういうことですか。
うーん、まあその辺りはバトル関連の、ポケモンリーグ協会でしたっけ? そこらで聞いてもらった方がいいでしょうな。出来れば、うちの店で手に入れたってのは内密に、ね。やー、正規では認められてないフォルム形態の“商品”を扱ってることが知られたら、こっちも少々マズいことがあるもんで…………いやいやいや、怪しい意味じゃないよ? ほら、うちは裏路地でひっそりやってる小さな店だから、人が大挙して押しかけてくると混み合って大変だからね、そういう意味でね。
まあ、そこさえ気を付けてもらえたら、後はお客さんの自由にしてください。こちらとしてはその子を可愛がってもらえたならそれで良し、細かいこたぁ口出ししませんよ。
もうお帰りになる? はい、お気を付けて。良かったらまたいらしてください、ぜひコタツちゃんとの武勇伝を聞かせてくださいよ。待っておりますからな!
それではまた、いつか。ご来店ありがとうございました!
――――――――――――――――――――――――――
ガチ書きに疲れて息抜きがてら。
随分前、マサポケに「お題」があった時の事。チャットだったかなんだったか、「こたつフォルムのロトム」という話題がありまして、よしこれで一つ、と思い立って放置すること幾年月。短いながらようやく完成。
どうせ電気店と銘打ってしまったなら、いっそ他の家電も合わせたいなあと思いつつ、例によって予定は未定なのでした。
読了いただき、ありがとうございました!
シビルドンの姿をググって知ったときにはもうどうしようかと思ったんですが、とてもよかったです
いっそ好きっていってほしかったなって気持ちと
でもそういった擬人的な感情移入はどこまでありなんだろうって部分と
なかなか複雑なものがありますね
ふたりに幸あれ
「近代闘獣とは純粋な興行であり、観客を喜ばせる余興であり、そして観客が何より見たいのは、動物が生死に挑む本物の冒険なのだ」(386のさよなら異文、調教譚)
ポケモンバトルで派手なキメ技はとても大事なのです
…というプロトレーナー論なんていかがでしょう
※大丈夫、新しい手持ちが入ってあまりご主人が構ってくれなくなったポケモンが、おしゃれしようと頑張るだけのお話だよ!
ご主人のアイカさんは、最近私達の事を構ってくれない。
旅の途中でいただいたヌメラの女の子が卵から孵化してからというもの、最近は毎日ヌメラへのポケパルレに夢中なのだ。抱き着いてぬめったり、なでなでしてぬめったり。生まれたばかりの新しい子に構いたくなる気持ちは分かるけれど、もう少し私の事も大事にして欲しいの。
そんなこんなで、最近はバトルの時と食事の時くらいしかまともに声をかけてもらっていない。他の子達も似たような状況なので、あまり不満ばかり愚痴るのも大人げないし。だからと言って、このまま引き下がるのも嫌である。私への視線を取り戻させて見せるんだから!
「そんなわけで、私はご主人を振り向かせるために綺麗になりたい! 皆だって、最近構ってもらえなくって寂しいでしょ? ここらで、ご主人に構ってもらえるようにモーションかけましょう! ご主人の視線を取り戻すの!」
食事の最中、仲間にそう持ち掛けてみる。ヌメラ(♀)は現在おねむの最中で、主人はそれに構っている。ヌメラは、とても弱い上に好奇心が旺盛なポケモンだから目が離せないらしいけれど、でも……それなら私達に世話を任せたっていいと思うの。だから、私達にも構って欲しい。
「そうだね。私は誰かから女性を奪うのは好きだけれど、女性を奪われるのは好きじゃない……ヌメラもご主人も、私のものになるべきだ。私が美しすぎるから」
少し(かなり)ナルシストなウィッチ(男ならウィザードじゃ……?)お兄さん。彼はご主人と最も長い付き合いの男の子だ。少し(かなり)ウザったいところを除けば、メロメロのうまい美青年で、決して印象は悪くない。
「一部の意見には同意ね。私もご主人を奪われるのは好きじゃないわ」
「ふふ、もちろん君も一緒に盗んであげるから安心してよ。そうだね……主人に振り向いてもらいたいなら美しくならないと。月桂樹やヒイラギのような優雅な木の枝を盾の鞘に刺そうじゃないか。あ、カエデなんかもいいんじゃないか……そういえば私も最近ストックの木の枝が尽きてきたな。食事が終わったら少し選んでおくか」
「いや、盾は私の大事な場所を守るものなんだけれど……あ、でも枝を切るなら私に任せてね。庭師も真っ青な剣裁きで切ってあげるから」
マフォクシーのウィッチお兄さんは、私をテールナーにでもするつもりだというのか。さすがにそれは御免こうむるわ。
「やっぱりあれぞい! 女なんてキスで攻めてやれば落ちるぞい! おいどんなら7か所同時にキスできるもんな!」
「あんたに聞いた私が馬鹿だったわ!」
ガメノデスのシチフクジンさんは四肢および肩についた4本目の腕にまで脳がついているが、リーダーである頭の脳は少々筋肉ばかり詰まっていて発想がヤバイ。というかその7倍キッスは恐怖でしかないと思うわ。
「ご主人は雌だからなぁ……やっぱり、翼を広げて体の大きさをアピールするのが一番だろ?」
ウォーグルのアレク。あんたもウォーグルの基準でものを語らないで……。
「私に翼なんてないってば。飾り布くらいしかないでしょ! 広げたって魅力的じゃないわよ……」
ため息をつきつつ、私はアレクに反論する。
「美しくなるなら、磨かなきゃだよねー。僕も原石は見れたものじゃないけれど、きちんと磨いてもらったら、とってもキレーでメレシーウレシーだったよー」
メレシーのアメジストは、間延びした声でそう告げる。なるほど、磨くのか……。
「そうだねぇ。私も、ご主人が振るう包丁の冷たい輝きは大好きだよ。パパが旅に合わせて美しいものを選んで送ってくれたらしいけれど、あの濡れたような美しい刃がねぇ……私はその輝きも嫌いじゃない。いつか盗んじゃおうかな……うふふ。潤んだ女性の瞳というのは素敵だしね……」
ウィッチお兄さんは、妖しく微笑みながら、ご主人がさっきまで使っていたウェットティッシュで手入れされた包丁を見る。こいつ、マジシャンの特性のせいか、やけに手癖が悪いんだよなぁ。
「うーむ……そうか、あの輝きか。血液の滴る私の剣も格好いいと思うけれどなぁ……でも、研いで綺麗になるのも必要か……」
私は特殊型として育てられているから、ニダンギル時代と違ってあまり、剣の手入れは必要ない。そうか、だからご主人があんまり構ってくれなくなっちゃったんだなぁ。特殊技が弱かったころは、ガンガン切り裂いていたから、すぐ切れ味も落ちちゃったものね。そしてそのたびに研いでもらっていたけれど、今は私が大きすぎて研ぐのも難しいというわけだ。
「そうだ、俺の羽飾りを頭につけてみろよー。ご主人は雌だし、きっと惚れるぜ」
「却下」
アレクは、同種の雌(いない)とでも仲良くやっててください。
「でもさー。サヤカちゃん、ご主人より身長大きいよねー。そんな体をどんな石で自分を磨くのー?」
「そ、それは……」
アメジストの言葉に、私はドキッとする。そうとも、私の身長は180センチメートルほど。同族の中でもかなり大きい部類に入る。ご主人の持ち物を思い浮かべる。確か進化の石がいくつかあったけれど、あれは使えないし。かといって、硬い石や変わらずの石など他の石も小さすぎる。そうなると、手近にあって大きな石と言えば……?
「ねぇ、アメジスト。私と一緒に美しさを磨かない?」
「え、そんなのよりおいどん達と研がないか?」
私の研ぎのパートナーにふさわしそうなのはアメジストしかいない。シチフクジンさんは……岩タイプだけれどちょっと遠慮しておこう。
「んー……最近垢がたまってきたから、それを削ってくれるなら、メレシーウレシーだよー」
「なんだ、どうやら話もまとまったみたいだね。ふふ、美しくなった君の刃で、私が使う木の枝を綺麗に細工してくれることを願うよ」
「は、はい。ウィッチさん。喜んで!」
「それとも、木の枝の代わりに君を抱いて寝るのもいいかな?」
これでも、宮殿の庭師の真似をして遊んでいたくらいだから、私は枝を切るとかそういうのが好きなんだ。
「あ、抱かれるのは謹んで遠慮いたします……」
けれど抱かれるのはそこまで好きではない、一応。こう、包容力のある人ならいいけれど……。
「それじゃ、そういう訳でアメジストちゃん。夜、主人が寝静まったら……私と一緒にお互いを磨き合いましょう。朝起きたらご主人を驚かせてやるんだから!」
「いいよー。でも、僕は砥石にされるなんて初めてだから優しくしてねー」
「それはもう当然。生まれたての赤子をなぜるように、慎重にやらせてもらいますとも」
「ふふ、綺麗になれるといいね……とはいえ、私も最近ご主人に甘えていないなぁ。耳でも舐めれば喜んでくれるかな?」
ウィッチさんは妖艶に微笑み、ご主人の方を見る。
「おいどんもご主人に7倍キッスしてあげて構ってもらおうかな? きっと一発でメロメロぞい」
「いや、それはご主人が嫌がるんじゃないかと……」
「大丈夫大丈夫。それより、刃を研ぐなら水が必要ぞい。おいどんも協力しようか? それに、刃を研ぐなら目の粗い石と細かい石があったほうがいいぞい? ロックカットするよりもきれいになりそうだし、おいどんもたまにはおしゃれしたいぞい」
「あ……そうね」
忘れてた……水の事。それに、目の細かさの事も……そうよね、やっぱり荒い砥石を使ったほうが最初はよさそうね。あんまり気が進まないけれど、シチフクジンさんを参加させてあげましょうか。
「それじゃあ、私は、さっそく今日の夜からご主人にポケパルレをさせるよ。僕が美しいから、ご主人には拒否権なんてないしね」
あるでしょ、ウィッチ。
「じゃあ、主人を寝かしつけておいてくれるかしら? 私はその隙に体を綺麗にしちゃうわ」
「了解、サヤカ」
とにもかくにも夜は更ける。ウィッチも早速ご主人とポケパルレをしまくった挙句、そのまま寝落ちして添い寝の真っ最中。いつか食べてしまうんじゃないかというような表情でご主人を抱いている彼の目が妖しくも艶やかだ。ご主人が今はぐっすり眠っているから、『君達は早く済ませてきなよ』とばかりに、彼はご主人の首筋に鼻を押し付けながら手を動かしていた。
ともかく、私とアメジストとシチフクジンとで、ボールの中から勝手に飛び出し、揃ってテントの外へ出る。
「ふー……深夜って言っても、まだまだたくさんのポケモンが起きているぞい。気配がそこかしこにあるぞい」
「そりゃあ、夜行性のポケモンだって多いし……私だって、元は夜行性よ?」
「僕は暗い所に住んでたから。夜のほうが落ち着くなー」
すっかり夜も深まってみると、かわされるのはこんな会話。そういえば私も、夜にこうやって外に出たのは久しぶりの事だ。野生時代は夜行性だったのよねー。
「ともかく、一緒にキレーになろーよー。サヤカ姉さんの体を味わいたいよー」
「いいわよ。でも、まずは荒く研いでからね。そういう訳だから……シチフクジンさん、お願いできます?」
「おうよ、当然。もうぶっかけちゃっていいのか?」
「僕の準備は万端だよー」
「了解ぞい! ならば、水を出してと……」
シチフクジンが、体中から水を発して自身の体表を濡らす。
濡れた岩を凝視しながら、私は鞘であり盾でもある体の一部をそっとはだけさせる。錆びているがため、シャッという小気味の良い音は発生せず、ジャリッという錆びた音。あぁ、こんなことならもっとこう、錆びが止まりそうなものでも塗りたい気分……となるとヌメ……いや、あれは油ではないか。
ともかく、私の大切な部分を曝け出してみると、手入れ不足が響いたのか、案の定錆びだらけ。いくら、特殊技主体でほとんど刃を使わないからって、こんなにだらしない体を見せつけるのはやっぱり恥ずかしい……
ギルガルドに進化してから、全く研いでいなかったんだ、切れ味も悪くなるはずである。私も、今現在は、物理技と言えば聖なる剣くらいしか使っていないし、それを使う相手はほとんど鋼や岩、氷など堅そうなやつばっかりで、斬るというよりは叩き斬る感じで使うからあんまり切れ味は必要ないのだ。全身から水を出したシチフクジンの体表には豊かな水が滴り、僅かな月明かりに照らされて鈍く光を照り返している。人間にとっては一般的には暗いと言える明るさだから、ご主人にはこのかすかな光は見えないだろう。
その濡れている姿を見て、シチフクジンが相手だというのに私は湧き上がるギルガルドの本能を抑えきれなくなった。本来なら雨の日とかに、適当な岩で自身の体を研いでいたのだ。そうすることで年々擦り減っていく岩は、私達ヒトツキ族の繁栄の証。誇らしい気分にすらなってくるものであった。
「さ、横になってシチフクジン」
「うむ、どうぞ。研ぎ過ぎて痛くしないで欲しいぞい」
ごろんと横たわった彼の上半身をよく見てみると、以外にも老廃物がたまって劣化したような色の岩がたまっている。へぇ、岩タイプの子もこんな風になるんだぁ。
彼の濡れた体に私はそっと体を重ね合わせて、私の下半身もじっとりと濡らす。血に染まって薄汚れた私の肌が冷たい彼の肌に触れて、そういえばこんな風に誰かと優しく触れ合うのも久々だと思う。ご主人は触れてくれたとしても、盾やグリップ、飾り布だけなんだもの。切っ先を触れてくれないのは物足りないわ。ニダンギルの頃までの経験を思い出しながら、15度ほどの角度をつけてそっと彼の体とこすり合わせる。心地よい金属音が耳に響いて、甘美な欲求が呼び起された。
こんなに大きくなってしまった体でも、小さかったあのころのように体を研げるのかと少しだけ心配もしたけれど、大丈夫そうどころか、十分すぎるくらいだ。濡れた体同士が擦りあわされるたびに、シチフクジンの体からこそげ取られた垢が、研糞となって滴る水を濁らせる。この水の濁りが、美しい刃を作り出すための決め手となるのだ。
研糞を十分出したら、まずは先端のギザギザの刃。相手に治りにくい傷を与えるため構造を持った切っ先からゆっくりと研ぎだす。表面の垢が剥がれ、まだ固くきめ細かい部分に刃を這わせる。先端ゆえ、体ごと向かってゆくように突きだす攻撃にはなかなか使える。かたき討ちの時なんかは、これで思いっきり相手を突き刺すものだ……けれどまぁ、当然今の私は使わないけれど。
引いて押して引いて押して。マグロのように横たわったシチフクジンの体を太刀で圧迫しながらそうしていれば、少しずつ鈍くなった切っ先が削れていることが実感できる。最初は感じなかった感触も、研がれ、体内の神経と近くなっていくことによって、痺れるように私の中を駆け抜けていく振動。体の奥の方、神経が通い、そして丈夫な芯の存在する骨髄まで響くような感触。よし、ここら辺はもうそろそろ大丈夫。徐々に根元の方へとゆっくりと近づいてゆこう。
そうして、ひたすら続く往復運動。人間に飼われようとも、獣として生まれたさだめである本能に突き動かされるまま、妖しい水音とともに私は少しずつ美しくなってゆくのを感じる。そう、ご主人にゲットされたり、庭師の真似をしたりと、野生を失いかけてきた私だけれど、こういった野生の欲求はどれほど澄ました顔をしていても消えるものではない。いや、人間の手持ちになってすました顔をするよりも、研ぎすました白刃、切っ先、刀身の方がよっぽど気持ちよくって自然体だ。
砥石が乾燥しないようにと、シチフクジンは適宜水を追加して、全身をしとどに濡らしている。うーん……シチフクジンの事はあんまり好きじゃなかったけれど、彼がいてくれてよかった。少々ごつごつがあった彼の体も、私の体にとがれ削られ、徐々になめらかな岩の形をしてきている。いま、それを知るのは研いでその感触を感じている私しかいないけれど、濁った研ぎ汁を洗い流せばきっと、垢の部分が削られ、磨かれた美しい岩が覘くはずだろう。
さて、あんまり胸の前方の部分ばっかりやっていてもバランスが悪いので、その無駄な垢が削れた彼の体を一度見てみよう。
「次は貴方の背中で研ぎたいわ」
研糞がついたままの刃を見せながら、シチフクジンに告げる。
「おう、随分ゴリゴリやっていたけれど、まだ半分も終わっていないんだな……どれどれ」
と、シチフクジンは胸の濁った水を洗い流した。
「おぉ、随分と滑らかになったぞい」
シチフクジンの言葉通り、彼の胸は予想以上に滑らかに慣らされている。研ぎまくったものねぇ。
「でしょう? どんな岩でも磨けばいい感じになるのね」
「うらやましー。僕も早くやって欲しいなー」
「だとよ、サヤカ。それじゃあ、早いとこ終わらせるぞい。次は背中を頼むぞい」
「えぇ、ご主人が戦闘中に見るのは背中だものね。きっちり美しく磨いてあげなくっちゃ」
背中を頼むと言ってうつぶせに横たわったシチフクジンに同じように刃を添える。こびりついていた研糞とともに、研磨を再開する。右側の根元まで研ぎ終えれば、今度は左側の先端から根元を目指す。すっきりした爽快感が左右対称ではないせいで、余計に不快感が募っていた左半身。
先ほど、右半身を研いできたときは、まるでまとわりついていた虫を振り払えたかのような気分だったけれど。その感触を、いよいよ左半身にも与えられるという事だ。その感触を想像するだけで、うっとりとしてヨダレが出てしまいそうだ。
癖になるこする摩擦音。荒々しい彼の体表に揉まれ、研がれ、洗練されてゆく。質量で見れば、1パーセントにも満たないような小さなダイエットなのに、研ぐことで得られる爽快感は、ボディパージで鞘や盾を投げ捨てた時よりも体が。そして心が軽くなる気分だ。
そうして、次は彼の下半身。ヒトツキ時代から、異性の下半身に触れる事なんて、仲間で一緒に狩りをした時くらいだったけれど、こんな形で下半身に触れることになるとは思いもよらなかった。ご主人だって、抱いたりしているときに触れるのは上半身のみだから、何だか新鮮な気分だ。
そんな初体験をシチフクジンで達成するのはいささか不本意だけれど、まぁいいわね。そうして左右の研ぎをどちらも終えたら、次は体の背面。研ぐことで付いた『返り』を削る作業だ。研ぐことで裏側に出っ張ってしまった返りを取り去れば、私の切れ味も、そして美しさも完璧なものになる。
裏返り、仰向けのまま美しくきらめく星を見て軽く刀身を研いでゆく。あぁ、思えばシチフクジンと一緒に同じ星を見て居ることになる。このシチュエーション、もっとこう……立派な鍵をもったクレッフィとか、同じく立派な剣を持ったギルガルドや、美しい結晶の生えたギガイアスと味わいたいシチュエーションであるのが残念だ。でも、異性と一緒に、こうして星を見る……ニダンギル時代に仲間たちと一緒に星を眺めた時も、言い知れない満足感があったけれど、シチフクジンが相手なのに不覚にもそれに近い感動を感じてしまうのが情けない。
涼しい夜風に刀身を冷たく冷やされながら返りを研い行く。最近の手入れ不足のせいで、長丁場になってしまって、さすがに疲れてきたのだけれど、こすりあげるたびに私の体の奥底から『もっと研げ』という欲求があふれ出し、私の体は止まることがない。ようやくすべて研ぎ終えた頃には、心地よい疲労感に包まれて、気持ちの良いため息が自然と漏れ出した。
でも、まだ終わっていない。私がさらに美しくなるのはこれから。そう、これからなんだ。
「お待たせ、アメジスト」
「むー、遅いぞー」
「ごめんね。でも、シチフクジンと同じく、貴方の体も一緒に綺麗にしてあげる」
両肩の飾り布で彼の顔をなぜる。撫でられるのが嬉しいらしく、アメジストはこちら側に顔を寄せて甘えてきた。堅い体同士がふれあって、小気味の良い音がした。数秒ほど抱擁してそっと体を離すと、自分の体を研ぎに使われるのが初めてなので、若干緊張しているような面持ちだ。怯えたように濡れた瞳がちょっとかわいいかもしれない。
「大丈夫よ、安心して。さっきシチフクジンにやったように、痛くはしないから」
「う、うん……お願い」
ごろんと、アメジストが横たわる。
「それじゃ、水をかけるぞい」
そこに、振りかけられるシチフクジンの水。
「ねぇ、シチフクジン。私の研ぎ汁も落としてくれないかしら? きっちり流し切るつもりでお願いするわ」
「あいよ、ちょっと威力強めで行くぞい」
あぁ、私の体が洗い流されてゆく。刀身の腹の方まできっちり錆を落とした私の刃は、美しい黄金色を呈している。けれど、私はさらに美しくなって見せる。彼が悪いわけではないけれど、シチフクジンの岩は粗い。そのため、グッと目を近づけないとよくわからないほどではあるが、切っ先には細かな傷やあらが残り、剣の切っ先は、切れ味も輝きも研ぐ前よりはましといった程度か。
そう、野生の頃皆の憧れだったレベルの高いニダンギルのお兄さんは、沢山の雌の鞘にその刀身を納めるべく、宮殿内部にある大理石の非常に細やかな目を利用して研いでいたものだ。そうやってきめ細かな石で研がれたあの方の刀身の美しい事。濡れてもいないのに、光の加減で濡れているように光を照り返すその様は、雌として鞘がうずいたものだった。
その時の美しさ……メレシーの宝石よりも輝いて見えた記憶がある。さて、粗い研糞を落としたら、次はいよいよきめ細かな彼の体で私の刀身を研ぐのだ。やはり最初はアメジストの表面に垢のように古く風化した岩がこびりついているが、往復しているうちに、それらは禿げて、中にある堅くてきめ細かな岩肌が覘く。
守りを固めた姿の私に匹敵する丈夫さを誇る岩のボディは、息がふれるほど近づいてみれば、かすかにキラキラと輝いている。濁った研ぎ汁すらかすかに煌めいて美しくなりそうなその体を、今から擦りあわせようとするのだと思うとなんだか少し緊張する。ごくりと生唾を飲みこんで、私は再びそっと彼と体を重ね合わせる。
シャリンシャリンと立てる音は、今までで一番なめらかで耳の奥まで透き通るような金属音だ。そして、きめ細やかな分だけ非常に緩やかな振動が私の体の中に伝わってくる。そう、それは例えるならばじっとり濡れたウィッチの舌が私の刀身を這うような、そんな感覚。往復運動の回を追うごとに吸い付くように、そして吸い込まれるように一体感が味わえる。きっと、私の体にあった小さな傷が、この目の細かな砥石に撫ぜられて消えて行っているのだろう。
とろけそうなほどに優美な感触は一度味わうと癖になる。時間が許す限り、この甘く爽やかな感触を味わっていたい。虚ろな目をして、私は初めての体験にひたすら身をやつしていた。
やがてその心地よさにも終止符を打つ時が来た。右も左も裏も表も、すべての部分を研ぎ終えたのだ。
全身からあふれるような満足のため息をついてから、潤んだ目でシチフクジンの方を見る。
「ねぇ、私の体を洗い流してくれないかしら?」
美しくなった私は、こうして水をかぶることで産声を上げるのだ。
「おう、おいどんに任せるぞい」
シチフクジンは研糞を洗い流すために水鉄砲を放つ。そうすると、研ぐ前とは見違える自分の姿があった。ご主人からちょろまかした手鏡には、自身の体も鏡と見まがうばかりに磨かれた姿が、手鏡との合わせ鏡として映っている。
「おー、綺麗になったなー。仲間が綺麗になってメレシーウレシーぞー」
「美しい……あぁ、研がれたお前ががこんなに美しいとは思わなかったぞい」
私の仲間達も、こんなに褒めてくれる。良し、この姿でご主人にアタックかけて、久しぶりに振り向かせて見せるんだから。とにもかくにも、私は布巾で体をふき取ってみる。あまりに切れ味が良かったのか、軽く刃に触れただけなのに少しだけ切れてしまったのが主人に申し訳ない。
そうして体をふき取ってもなお、鏡面のように研磨された私の体は、美しく濡れたような刀身を保ったまま。濡れた女性の瞳は美しいと言っていたウィッチにも惚れてもらえそうなくらいに美しいと自負できる。
テントの中に戻ってみれば、ウィッチもさすがに主人と添い寝をしたまま眠っていたが、気配を感じて目を覚ましてしまったようだ。
「おや、君は……人違いかな、サヤカちゃんによく似ているが、とても美しい」
ブレードフォルムにして露出度を上げ、体のラインを強調する私に、ウィッチさんは立ち上がって褒める。
「ふふん、もちろん私はサヤカよ。それは『私が見違えるほど綺麗になった』という褒め言葉として受け取っておくわ、ウィッチさん」
「おや、君だったのか。はぁ、なんて美しい刀身だ……本当に、見違えたよ。思わず、ご主人から奪ってしまいたいほどに、綺麗じゃないか」
そう言って、ウィッチさんは私の肩にそっと指を添え、私の目の下、胸にじっとりと濡れた舌を這わせる。
「うん、触り心地も滑らかだ。ふふ、やっぱり……君の事もご主人から奪ってしまおうか……皆私に奪われてしまえば、みんな幸せだろ?」
「ダメよウィッチ……寝言は寝て言わなきゃ」
「おやおや、口の悪いお嬢さんだ。太刀なのにタチが悪い」
そう言って、モフモフの体で私を抱きしめる。褒めてくれるのは嬉しいけれど、ご主人に抱きしめられた方が嬉しいのよ。
「わーおー、ウィッチが大胆だなー」
と、その光景を見てアメジストは無邪気な感想を漏らしていた。茶化されると恥ずかしいわ。
「でも明日は、私はご主人のものだし、私さっきまで貴方がいた位置にいるんだから、覚悟してよね!」
緩く啖呵を切ると、ウィッチは妖しく微笑んだ。
「うん、どうぞご自由に。雌を奪って僕のものにするのは楽しいけれど、ご主人は1人しかいないから分け合わなきゃね。明日は君の自由にするといいよ」
と言って、ウィッチは抱いていた私を開放して、ご主人との添い寝に戻る。よし、明日は私がその添い寝のポジションを狙ってやる! 明日、主人にポケパルレをねだるのがが楽しみで寝られないかと思ったけれど、披露していた私は予想以上にぐっすりと夢の世界へと旅立っていった。夢の中でも、ご主人とポケパルレ出来たらいいなぁ。
22:56:05 No.017 http://masapoke.sakura.ne.jp/stocon/novel01.html 01 第四の霊獣、ソルトロス
22:56:29 No.017 いてらー
22:56:48 No.017 禁止事項を逆手にとってきやがったな
22:56:58 砂糖水 たしかに
22:57:20 No.017 でも タイトルがタイトルだから ぎょっとするよね?w
22:57:35 砂糖水 うまいこと伝承って感じがする
22:57:38 たわし 確かに・・・。
22:57:45 砂糖水 ちょっと日本語おかしいか
22:57:46 ラクダ いってらっしゃいです。
22:57:48 リング でも、世界中にUMAはいますからねぇ。ポケモン世界にもいるのでショウなぁ
22:57:49 No.017 しょっぱなからオリポケか!? 禁止じゃねーの!? って
22:57:55 クーウィ 行ってらっしゃいですー
22:57:55 音色 悪くないんだけども、うぅん?みたいなのが残る(個人的に
22:58:19 No.017 うん、ちょっとわかるうまく説明できないけど
22:58:36 No.017 えーとね たぶんね 小説的じゃないんだよな 記事的なんだよ
22:59:09 リング ふむふむほうほう
22:59:13 砂糖水 ああそうか
22:59:21 No.017 講義であって小説と少し違う
22:59:21 音色 最後のまとめ方がお話というよりはライターみたいな視点だからかなぁ
22:59:39 クーウィ 大学のレポートと言う感じすかね 発想やら内容は大好きなのですが、小説と言うよりは論文っぽいと言うか……
22:59:50 No.017 それがこう悪く無いけど 物足りない感じに繋がってるのかな
23:00:00 ラクダ 文章がうまくてさらさら読める、上手いとも思う、だけど……。
23:00:13 リング かといって、戦いのシーンを書くと、動きの描写が苦手って人もいますし……そういう問題でもないのかな
23:00:35 No.017 あのね 登場人物の心の葛藤がないのよね
23:00:40 音色 講義を受けている先生と生徒がでてきて、最後に生徒たちがぞろぞろ教室から出ていくときの会話とか入ってたらもうちょっとなんとか、ならないか。
23:00:57 ラクダ 二つ目は全体の流れが上手い、の意ね
23:01:30 No.017 記事ならば 記事的な感じに徹して 最後のほうはもっとあっさり締めていいかも こう中途半端なんだよな
23:01:43 リング 記事にするには長すぎる。小説としては記事的……帯びに短しタスキに長しってことか
23:01:51 流月 昔話チックな語り口だなぁと
23:02:10 流月 桃太郎とかこんな感じだった記憶がある
23:02:42 No.017 まあこれは人の感情は入りようが無いから 記事的な感じにより徹する のがいいのかな
23:03:30 No.017 あとはソルトロスというタイトルをどうするかw
23:03:43 No.017 これは編集的な意見なんだけど
23:03:47 ラクダ 面白いんだけど、拭えないモヤッと感。どう表現すればいいんだろう……。
23:04:28 No.017 ソルトロスって単語を 目次で見たときに なんだよオリポケかよって感じで 除外してしまいそうな人がいそうな
23:04:36 No.017 内容的には問題無いのだが
23:04:42 リング タイトルを削るしかないかも
23:05:00 No.017 なので たとえば タイトルを塩の涙とかに変えるとかね
23:05:12 No.017 まあそれも一案
23:05:24 No.017 他に意見なければ次いきます
23:06:06 No.017 02 こうもり http://masapoke.sakura.ne.jp/stocon/novel02.html
23:06:24 No.017 感想:これぞ小説ですね。
23:06:41 リング この物語を見た感想としては、世界が狭いという風に感じました。
生身のポケモンが少ないということはともかくとしても、ハーフやクォーターの苦悩や歴史的な扱い、世間的な扱いがあまり描かれておらず、また世界観に広がりを感じにくいのが原因といいますか。
例えば、『ポケモンと結婚することはとっても良いことだって言う神様がいた』として、そしてユミちゃんの祖父がポケモンだとして、『だから何?』という印象が強くなってしまいました。
中途半端でどっちつかずな『こうもり』というのも、社会的な立場を象徴するものとユミちゃんやシュウ遺伝子が実際にそうなっているものとで関連性が薄く、そもそもシュウ君やユミちゃんがポケモンとのクォーターという設定が必要だったのかと……。
普通に二重国籍や片親など、の設定でもいけたような気がして、無理してポケモンとのハーフという設定を持ってきたような、別の物語を無理矢理くっつけたような、中途半端な作品になってしまったという印象です。
23:06:57 No.017 小さくて読めないw
23:06:58 砂糖水 細かくて見えねえwww
23:07:01 クーウィ ですね!>これぞ 一番読んでて楽しめました
23:07:16 No.017 昔話との絡め方もうまいし 起承転結が出来てる
23:07:41 音色 ただ、なんか、お題とは微妙に違うラインを言っているような、そうでないような…気はしました
23:07:58 No.017 また人とポケモンのあいのこ(この場合クォーターだけど)がシンオウぽくていいなぁち
23:08:00 流月 評価分かれてるなぁ
23:08:01 No.017 と
23:08:08 流月 これは好みかな
23:08:15 砂糖水 布袋思い出した
23:08:15 クーウィ リングさんの指摘も鋭いな……
23:08:30 音色 あと、先が読めちゃう展開だなぁと思ってしまった。蝙蝠の例えは悪くないしうまいんだけども、そのおかげでどうなるかわかっちゃった
23:08:44 No.017 異種族が絡むことで一種の「鳥居の向こう」が表現できてるかなぁと思った
23:09:10 音色 嫌いじゃないけどなんか、うん、微妙かなぁ
23:09:22 リング なんというのか、もっと主人公がハーフやクォーターに積極的に絡める位置にいながら、絡めない。そういうジレンマを前面に押し出していけば変わったかもしれない
23:09:26 クーウィ 個人的には小説としては面白かったです でも、テーマとしてみるとソルトロスの方がずっと惹かれた
23:09:31 No.017 3作の中だと一番採用したいと思ったね
23:10:03 No.017 あとね これは女の子のほうが共感出来ると思うよ
23:10:10 音色 それはある
23:10:14 No.017 女の子の狭い世界
23:10:23 たわし うむ
23:10:39 音色 狭い怖いキツイ辛い
23:10:40 砂糖水 あまり縁のなかった人
23:10:49 No.017 一人の女の子だもん世界狭いのは当たり前じゃん だからクォーターの歴史みたいなところは私は気にならなかった
23:11:49 No.017 背景の説明は必要だけど やりすぎると主題を置いていくから、この作品においてはこれくらいでいい
23:12:35 イサリ 確かに個人の視点が強い、というのは感じました。それゆえに、のめり込むように読んでしまいます
23:12:46 No.017 まあ あえて言うならクォーターからさらに八分の一でもよかったかなって気はする
23:12:55 砂糖水 視野の狭さが良くも悪くも、みたいな?
23:13:12 音色 それでもなんか俺はこの作品の空気はあれなんだよなぁ。うぅん
23:13:35 砂糖水 なんかそう考えると、いいかもなあと思う
23:14:13 No.017 ただ、リーフィアの特徴を受け継いでる事に関しては 人間と交わるとイーブイじゃなくて進化系の特徴が出ちゃうみたいな説明は欲しかった
23:14:40 リング 体が悪いから田舎に住んでいたのかもしれない
23:15:09 クーウィ 取りあえずは更なる投稿を待ちたい作品かなぁと 敢えて言っちゃうと、本格的に小説してる作品って今のとここれしかないですし(苦笑)
23:15:21 No.017 そうなんだよねー
23:15:24 No.017 じゃ最後ね
23:15:47 No.017 http://masapoke.sakura.ne.jp/stocon/novel03.html 03 雨守神の嫁入り
23:15:57 No.017 まあガチアイヌ神話ですね
23:15:57 クーウィ 今のとこは小説としては蝙蝠が最上だけど、もっと良いのが来るかもしれないと言う感じ
23:16:02 砂糖水 これ、すごいと思うんだ でも、でもさっていう
23:16:21 No.017 描写はかなりポケモンにあわせて工夫してるね
23:16:44 砂糖水 途中で一人称になってるのがなあ 一応空行で変わりますよーてのはあるんだけど
23:16:50 音色 テーマガチ勢と言わざるをえない
23:16:53 リング 全体的な感想としては、やや格式ばった語り口調といいますか。文章が非常に硬い印象があり、物語がすんなりと頭に入ってこないで読み進めざるを得ない感じでした。
キャラについては、白龍の娘がほとんど喋ることなく、そのためにキャラの印象が非常に薄く感じられてしまいます。その反面、兄が思いっきり喋りまくっているので、もう兄さんと結婚しちゃえよと。娘の印象が薄いため、恋のために奮闘した主人公の頑張りに感情移入が難しくなってしまいます。
23:16:58 No.017 悪くは無いけど 他の投稿を見てから決めたい感じ
23:17:03 リング この企画のテーマとの兼ね合いに関してですが、アイヌ文化にポケモンを上手く落とし込み、民俗文化の物語を上手く描写できていたと思います。
ただし、民俗文化の価値観は、現代の私たちに理解しがたいものが満載です。そういった理解しがたい事を書く事は悪いことではなく、むしろそういうのもありなのかと思わせる腕の見せ所だと思いますが、それを理解させたり納得させたりするだけの説得力のある描写がほしかったところ。
23:17:05 砂糖水 リングさんw
23:17:15 音色 リングさん批評モード
23:17:19 リング 感情表現を多めに取り入れる。語り口調をもう少し分かりやすくする、などの工夫は、小説の持ち味や雰囲気を損なう諸刃の刃かもしれません。良いくも悪くも、分かりやすさを犠牲に雰囲気を重視した分相応の印象を受けました。
23:17:48 No.017 アイヌの昔話の本読むとほんとにこんな感じなのよね
23:17:59 リング あと、 腹から→同胞
23:18:00 クーウィ 昔話以外の何物でもない 小説、ではないなぁ(苦笑)
23:18:17 No.017 むしろこれはマネしてるから良いのであって 現代的な小説表現をするとつまらなくなってしまうかなって思った
23:18:19 ラクダ 壮大なガチアイヌ神話。登場する神々にわくわくした。物語に引き込まれたし、硬い語り口も気にならなかった……が、ちょっと、その、ボリュームが……w
23:18:31 砂糖水 ユーカラはたしかに一人称なんだけどさ であるなら、私はどこそこのここういう男です、みたいにはじめてほしかったような
23:18:42 音色 印刷して読みたい。パソコンでこれ読むとすごい目が痛い
23:18:44 No.017 そうだね コピーにしてはボリュームがあるね
23:19:02 音色 ボリュームと言えば溢れる師匠疑惑(((
23:19:18 リング 取りあえずリオルを焼くか
23:19:23 No.017 作者さんへ なんか改訂版きてたけど これ以上増やすなw
23:19:26 クーウィ 擬人化は専門外です
23:19:26 ラクダ それはありますね>一人称 いきなりの変化に、ん?ってなって何度か前後を読み直しました……。
23:19:35 砂糖水 最後に者になり代わって というなら 途中でそういう一言いれてほしかったの
23:19:51 音色 いや、知ってますw
23:19:59 No.017 じゃあ 言いきったら
23:20:00 砂糖水 勇者になり代わって 勇抜けた
23:20:10 音色 増えてたのか>改訂版
22:27:06 No.017 http://masapoke.sakura.ne.jp/stocon/kiji21.html 21 嘆きの湖の伝説
22:27:36 No.017 ギャラドスに一言言わせてくれ
22:27:41 砂糖水 はい
22:27:46 No.017 このロリコンめ!
22:27:52 砂糖水 そこかwwwwwwwwww
22:27:57 たわし 言うと思った
22:28:04 No.017 すまん 言ってみたかった
22:28:39 砂糖水 わりとオーソドックスな話な気はするけど、だからこそふつうに面白い
22:28:47 No.017 これは小説にしてもおもしろそうだよなー
22:28:47 こま 火の七日間か・・・
22:29:01 砂糖水 おおほんとだ
22:29:52 ラクダ ロリコンにしか見えなくなってきたwww なんというか、文章のぶつ切り感が気になります。あと書きたいことを詰めようとして必死になってるような……?文字数足りなかったのかなあ。
22:30:12 No.017 オーソドックスなのであまり突っ込み所はない あと この伝説にかけた 行事の記事とかでもよかったかもね
22:30:52 No.017 http://masapoke.sakura.ne.jp/lesson2/wforum.cgi?no=2956&reno= ..... de=msgview チョウジタウンなら私も書いてるぜ!!!
22:30:58 No.017 と無駄に宣伝
22:31:07 リング しかし、人間界ではケモナーが変態と呼ばれるが、このギャラドスは……
22:31:09 砂糖水 ww
22:32:16 No.017 さて 次
22:32:33 No.017 http://masapoke.sakura.ne.jp/stocon/kiji22.html
22:32:45 砂糖水 ブイズ
22:32:46 No.017 何度も言うが 空行が(ry
22:32:59 砂糖水 そこは直せばいいですやん
22:33:35 穂風湊 ちょっと席空けてました こんばんはです
22:33:35 音色 悪くないんだけど、なんか足りない気もする
22:34:01 流月 たぶん、小説のつもりで書いてた人が多いからなんじゃないかなと>空行 てか、それ文句言ってたら始まらない
22:34:25 No.017 私は編集だから空行と戦う立場なんです!
22:34:28 たわし こんばんはー。
22:34:47 No.017 なので 執念深く指摘します
22:34:49 砂糖水 空行vs鳩大明神
22:35:21 No.017 まあ、何が言いたいかというと行詰めてね★
22:35:39 リング ニンフィア用の神社が早急に望まれるな
22:36:31 ラクダ トレーナーが行く先(進化含む)を決めるのではなく、ポケモンに選ばせるというところが良いと思いました。
22:36:31 砂糖水 wwww
22:36:40 No.017 完全に好みなんだけど こう イーブイが出来すぎ というか 狙いすぎな感。ただこれは完全に好みの問題。
22:36:59 砂糖水 みんなブイズ好きだなあ
22:36:59 お知らせ ラクダ(Win/IE9)さんは行方不明になりました。
22:37:59 No.017 あと今はブイズの繁殖容易そうだけど昔は難しかった漢字があるから 昔ながらの行事というよりは昔は身分の高い人がやっていて 最近になってからみんなもできるようになったとか そういう考察が欲しかった
22:38:49 音色 そもそも貴重な進化の石等のアイテムをそうぽんぽんと手に入れられるのかと思った
22:38:57 砂糖水 ああそうか…イーブイは珍しいポケモンですもんね
22:39:29 穂風湊 そうですね。進化の石も高価でしょうし
22:40:27 音色 てかどんだけ流通してるんだ。シンオウのアイテムなんかどうやって取り寄せてんねん、ともつっこむ
22:40:42 ラクダ 狩りに市場で手に入るとして、個人でやるなら相当な出費だよなあとは思った。資金無い子はどうしたんだろうかと。ある意味、それを含めれば小説用のネタになるかもですが。
22:41:04 ラクダ 狩りじゃない、仮に
22:41:13 こま 剥ぎ取りですか
22:41:37 音色 リアル泥棒
22:41:38 穂風湊 貿易都市で商品が多く集まるなら、安く買えたかもしれません
22:42:02 No.017 あとはこれも完全な好みだが イーブイには旅の途中で何かの縁やきっかけがあって進化して欲しい 個人的な好み
22:42:15 音色 とてもわかる
22:42:16 ラクダ 追剥ぎ型トレーナーの旅立ち!これは新しい!(いいえ
22:42:44 流月 えっ、トレーナーって元々金奪う盗賊の同義語なんじゃ・・・
22:42:50 砂糖水 んー進化の石のかけらとか使って方角だけ決めるとか・・・
22:44:54 No.017 うん なので私的な結論としては 王侯貴族の行事としてならありかな! と
22:45:20 音色 しかし太陽のリボンと月光のリボンがある時点で「え?」とはなった。
22:45:32 No.017 あるいは その土地牛耳ってる名家の行事
22:45:45 リング ポケダンの道具ですからねぇ。どちらにせよ懐いていないといけませんし
22:46:01 No.017 一般でやるには少し「ん?」っとなっちゃう
22:46:29 ラクダ 流月さん、しーっ……!(
22:46:42 No.017 あと無理して 全部出す必要も無いかなー それこそ 3種とかでもありじゃないかな
22:47:07 イサリ あるいは、お祭りなどで代表として一人だけがやって、その年の恵方を占うとかですかね
22:47:15 No.017 あーなるほどね
22:47:26 No.017 町の代表で
22:47:29 穂風湊 それいいですね >恵方を占う
22:47:34 No.017 それも悪く無いね
22:47:38 砂糖水 おおー
22:48:04 No.017 その町の旅立ちの子全員だと無理が出てくるんだな
22:49:12 No.017 さてあとは作者さんに委ねるとして 次
22:49:19 No.017 最後です (記事の
22:49:37 No.017 http://masapoke.sakura.ne.jp/stocon/kiji23.html 23 山姥と糸車
22:49:37 砂糖水 まだ小説3つもあるのか…
22:49:56 リング 銀の弾って日本でも魔よけの効果ありましたっけ?
22:50:26 砂糖水 貴金属だからなにかしらありそうな気も
22:50:50 No.017 これって元ネタは狸の糸車だよね
22:50:59 流月 というか日本だと金属が魔除けの発想自体がない気がする
22:51:19 音色 確かにねぇ
22:51:33 No.017 銃の弾使い尽くして 枝削って刺したとかでも十分かもなぁ
22:52:21 砂糖水 つ http://www.geocities.jp/shonanwalk2010/K-mukashibanashi-20.html
22:52:25 こま 銃弾を60発も持ち歩くとか、戦争でもするつもりなのか
22:52:37 ラクダ 魔よけの文字を刻んだ弾を一つ持ち歩く、という話なら聞いた事が。銀の聖性は日本にはちょっと……?
22:52:45 No.017 あ、狸の糸車は別の話か しかし昔読んだ事あるような気がする
22:53:11 リング あぁ、日本でも魔よけの効果が合ったんだ……
22:53:46 流月 魔除けの意味があったのか…日本の場合、桃とかの食べ物の方が魔除けのイメージがある
22:53:58 ラクダ あるんだ!?というか、元ネタがあったんですね……。素直に驚いた。
22:54:09 砂糖水 どうせなら猟犬が役立たずで〜みたいにしてもよかったかも?
22:54:23 No.017 ヨルノズクってところがいいと思ったw
22:55:22 No.017 ういでは
22:55:26 ラクダ ヨルノズク=シンオウの神のイメージが強かったから、確かにここは新鮮でした。
22:55:38 No.017 小説
22:55:40 リング ヨルノズクはシンオウが一番に合う
22:55:40 No.017 いきますか
22:55:53 砂糖水 ここからが本番の気もw
22:09:16 No.017 http://masapoke.sakura.ne.jp/stocon/kiji19.html 19 干支ポケ大論争
22:09:32 リング 作者は病気
22:09:36 音色 これはまぁ、ありったけを詰め込んだ感じに見える
22:09:36 砂糖水 www
22:10:16 音色 とにかく干支に関するポケモン拾っていってまとめてぶち込んであるかな。嫌いじゃないけど、ちょいとごちゃっとしてる気がする
22:10:33 No.017 http://www.nicovideo.jp/watch/sm1417786 元ネタのひとつがこれであることは確定的にあきらか
22:10:38 砂糖水 コミカルな感じで面白い
22:10:48 砂糖水 鳩さんwww
22:10:52 No.017 明らかに他とテンションが異なる
22:11:22 たわし 一番笑った記事はこれですねw凄く同調して読めるというか。
22:11:24 イサリ これは少し長すぎるかな、と。一つか二つに絞って掘り下げた方がいいかと思いました。
22:11:31 No.017 つまり 犯人はこまさん(いいえ
22:11:39 こま ?!
22:11:43 こま !?
22:11:50 No.017 白状しろ
22:11:57 砂糖水 こまさん驚くの巻
22:11:59 ラクダ ポケモンの選択とその理由に共感、面白く読めたけどちょっと長かったかな〜……?という感じでした。最後の方はなにがなんだか。
22:12:15 音色 詰め込みすぎ感は否めない
22:12:39 No.017 まあ 見開き2ページコースですね
22:12:53 ラクダ 好きですが記事としては……ううむ。
22:13:03 No.017 ・文字数は(1)1000〜1400程度 (2)4200程度 どちらかを選択。 の(2)枠を狙ってる
22:14:00 流月 とはいえ、削るとしたらどれ削るか悩みどころ
22:14:00 音色 多い方なのは分かってるけど、なんか無理やり水増ししてないだろうな
22:14:15 No.017 作者 お前これがやりたかったんだろ とミミロップの部分を読んで思いました
22:14:31 ラクダ (1)の記事に慣れていたせいで、よけい違和感を感じたのかも。これがマサポケのカフェ掲載なら、それほど気にならなかった、かな?
22:14:52 流月 これはこれでありだと思うけれど、絵にするならどれか絞ったほうがいいんだろうな
22:14:55 No.017 ミミロップに絞るか 今のまま全干支制覇か かなー
22:15:28 No.017 いや全部描いて貰えばいいと思う こういうの出来そうな絵師さんの心当たりならあるよん
22:16:29 流月 なら、全干支制覇でいいんじゃないですかね
22:16:55 No.017 あと問題の年賀状柄を描く絵師と メインイラストの絵師 それぞれ違う人が良いだろうね
22:17:19 リング 豪華すぎるww
22:17:24 こま ちなみに自分がお話書いたら人間出てこないはず、よって自分じゃない!
22:17:30 No.017 まあ 通れば です
22:17:36 No.017 では次
22:17:45 リング うかんさんなら問題の奴はかけそうだが……
22:18:00 No.017 http://masapoke.sakura.ne.jp/stocon/kiji20.html 20絆の温度
22:18:26 No.017 これはタイトルがいいね なんか紀行文ぽい
22:18:29 リング シンオウのギャロップは番場馬になってそうで、すばやさがひくそう
22:18:38 ラクダ 内容はものすごく好みなのに、あまり入り込めなかった作品でした。文章が淡々と流れるせい?
22:18:57 リング 番場馬の競馬は見ていて面白いんだけれどね……
22:19:13 たわし 逆にその淡々とした感じが好きです。
22:19:19 No.017 ばんえい競馬型ギャロップ
22:19:33 イサリ 自然の描写の美しさがトップレベルだと思いました
22:19:42 ラクダ ガチムチギャロップか……(
22:20:47 No.017 こう空気感で勝負してる感じだよね ただ具体性には欠ける 悪く言えば想像だけで書いてる感じ 馬を使った開拓についてネットの範囲で良いから調べた方が良い
22:20:57 茉莉 ガチムチギャロップ…そう考えると土地ごとに多少ポケモンの体格も違ってるんでしょうね
22:21:30 リング ちなみにこんなん http://shunpei-inakaseikatu.blogzine.jp/photos/uncategorized/dsc00369_1.jpg
22:21:48 No.017 すごく…ばんえいです
22:22:10 リング ばんえい競馬で検索したら育て屋の写真が
22:22:28 たわし すごく・・・ガチムチです
22:22:41 こま http://blog.hobbystock.jp/report/images/tp0188/021.jpg
22:22:45 流月 サラブレットと別物だなぁ
22:23:35 リング 素早さ種族値60くらいのギャロップになりそう
22:23:49 No.017 まあ このギャロップの場合 炎つかえるのも大きいので 実際の開拓がどうかに加えて、そこを記事に生かせるとなぁ
22:24:30 流月 攻撃種族地は高そうだな いや防御かな
22:24:46 No.017 小説に取り入れるなら 経営危機の牧場と子馬の誕生かな ただし馬はタマゴから生まれる
22:25:22 No.017 だから足引っ張るとかの描写が描けないんだよな…
22:25:38 砂糖水 ※ただし馬はタマゴから生まれる
22:25:52 砂糖水 ツボったwww
22:26:08 No.017 借金のカタにタマゴはいただいてくぜえ 牧場の馬がみんな追いかけてきてひーってなる とか
22:26:37 こま 自転車ならぬ、乗馬で殻割かぁ
22:26:47 No.017 次いきましょう
21:18:53 No.017 http://masapoke.sakura.ne.jp/stocon/kiji13.html 13 盗まれた才能
21:19:15 No.017 イマイチホラーになりきれなかった感
21:19:48 音色 怖い…と感じるのが不発した感じ
21:20:20 ラクダ これ滅茶苦茶好きでした。確かに怖さは微妙ですが、その分じわっと来るものがあって。
21:20:22 No.017 まあ 都市伝説の一つとしてはありな感じだけど
21:20:38 茉莉 グローバルリンクを彷徨うポケモンにまつわる話…っていうのが面白くて好きです。他のポケモンでもできそう
21:20:43 穂風湊 内容とは全然関係ないですが、VOCALOIDの名前は「跳音ミミ」の方が良かったかなと
21:20:52 No.017 怖いに重きをおくかどうかで評価変わるかなぁ
21:21:08 リング 私の小説には緑音サナとエルが出てくるなぁ
21:21:17 穂風湊 VOCALOIDの名前に「音」の字が入ってるので
21:21:33 No.017 いやわりと最近は崩れてきてるよ
21:21:39 No.017 猫村いろは とか
21:23:55 イサリ 盗んだ才能が怖くなって……というのがもう少し強調されるといいかなーと思いました。
21:39:22 No.017 http://masapoke.sakura.ne.jp/stocon/kiji14.html 14 ニドランの結納
21:39:54 No.017 みんな絵に見とれてるのか返事が無いwwwwww
21:40:20 リング 閉経の早いポケモン
21:40:38 音色 いいよね、縁結び
21:40:45 音色 するっとかわいい
21:40:50 ラクダ 正にそれでしたw>絵に見とれて返事ない
21:41:12 音色 ラブカスでやったらどうなっていたかな
21:41:30 No.017 実は茉莉さんの素晴らしさを広める会だった
21:41:42 リング な、なんだってー
21:41:49 No.017 なんちゃって
21:42:05 ラクダ これは和風ほのぼのな絵になりそう。投稿作の中で五指に入るお話。
21:42:21 No.017 たしかにラブカスもありですよねー
21:43:00 No.017 なければ次
21:43:16 No.017 http://masapoke.sakura.ne.jp/stocon/kiji15.html 15縁切りの鎌
21:43:51 No.017 おーい 絵から戻ってこいwww
21:43:58 音色 二ドランに続いてこれってことはまぁ、うん、狙ったのか
21:44:08 No.017 狙ってますね
21:44:15 音色 デスヨネー
21:44:20 たわし ニドランと対になってるのが面白いなって。
21:44:37 穂風湊 縁切りは面白いなーと
21:44:38 音色 それも作者様の狙いですね。はい。
21:45:05 No.017 縁切り神社はまじにあるしね
21:45:20 音色 ほほう
21:45:54 No.017 http://park2.wakwak.com/~kabura/imifu/nazo/engiri/engiri.htm
21:46:42 No.017 http://www.google.co.jp/search?q=%E7%B8%81%E5%88%87%E3%82%8A%E7%A ..... &hl=ja ほれ こんなにヒットするぞ
21:47:08 ラクダ 縁切りにストライクを選択する、そこにおおっ、てなった。あの大鎌で断ち切るっていうイメージがすごく良かったです。
21:47:28 流月 とりあえず、家に帰る途中のどこかのはず
21:47:31 ラクダ おかえりなさいです。そしてこんばんはです。
21:47:33 砂糖水 縁切りと縁結びは表裏一体
21:47:42 No.017 実際に鎌を描いた 絵馬というのが存在する
21:47:51 流月 うぃ、こんばんはー
21:47:52 音色 ストライクもそうだけどカブトプスもでてきたわ
21:48:05 砂糖水 かげうす( …ごめん>るたまろ
21:48:41 たわし こんばんはー。
21:49:00 ラクダ あっ、あるんですね!>鎌絵馬 それが元ネタかなあ。なるほど。
21:49:11 No.017 さて次
21:49:12 流月 ええんや、ここ最近ネットにinしてなかったから>さっちゃん
21:49:16 イサリ 検索結果の一番上がコワカッタ
21:49:29 No.017 16 狐払 http://masapoke.sakura.ne.jp/stocon/kiji16.html
21:50:02 No.017 さっきも同じ事言ったけど 改行と空行が多いかな。もっと詰めて良い
21:50:09 砂糖水 すまぬ>るたまろ
21:51:03 No.017 あと イマイチ 祭りの規模がわからなかったな。元ネタのトマト祭りってもっと大々的な感じがするから
21:51:04 砂糖水 いつだったか話題に出たマトマ投げがようやっと登場か、と思った
21:51:18 砂糖水 あれ間違った(
21:51:32 No.017 こうマトマだらけになって真っ赤になった道の様子とか書かれてるといいんじゃマイカ
21:51:50 No.017 最後のオチはいいなw
21:51:53 穂風湊 確かにトマト祭りっていうのもありましたね
21:51:54 砂糖水 肌がヒリヒリしそう
21:51:57 流月 これ割と好き
21:52:34 穂風湊 今写真見てきたのですが、予想以上に真っ赤でびっくりしました http://www.google.co.jp/search?hl=ja&rlz=1T4SNJB_ja___JP468&a ..... kgXVl4C4Ag
21:52:48 砂糖水 これはwww
21:52:50 流月 規模とか書かれてないの絵描きさんのインスピレーションを縛らない方がいいと思ったからかも知れない
21:52:52 No.017 あと 絵師の一人は「父親は目元を赤く縁取っているのが特徴的な男性」は別にいらなくない? と言ってたので一応書いておく
21:53:11 No.017 やばい
21:53:17 音色 どしました
21:53:18 No.017 赤すぎるwwww
21:53:23 No.017 狂気を感じる
21:53:33 ラクダ ネタや内容は面白いです。けど、どことなく物足りない感。ゾロアーク親子のくだりは「裏の話」……?
21:54:02 リング もはやホラー映画
21:54:05 ラクダ 写真がエグいwww怖すぎるwww
21:54:13 No.017 実際のトマトに比べると小規模な雰囲気やね それはそれでおk だけどまだ付け足せそうな感じはあるね
21:54:26 穂風湊 これをそのまま絵にすると、ホラー以上になりそうですね
21:54:31 音色 お話は嫌いじゃないけどなんかうーん
21:55:41 No.017 本家トマト祭りをストレートに記事にしたやつも読みたいな。で、いいほうを記事にしたらいい
21:56:45 No.017 奥さんがぶつけてるのは好きw
21:56:46 音色 マト祭り合戦
21:57:05 No.017 ニドランもそうだがあえて対抗馬をぶつけにいくのもいいんでないか
21:57:14 砂糖水 奥さんはっちゃけてそうw
21:57:20 イサリ 奥さんのキャラクターいいですよね
21:57:23 No.017 奥さんはっちゃけてるよなww
21:57:36 ラクダ オチにニヤリとしたw
21:57:59 No.017 うむ オチはよい
21:58:09 No.017 では次
21:58:31 No.017 http://masapoke.sakura.ne.jp/stocon/kiji17.html 17 渡し守の歌
21:59:02 No.017 これなー 消えた文化ということで題材の取り方はすごくいいんだけど もうちょっとこう欲しいな
21:59:24 たわし 私はこれ好きですねー。BW2でイッシュにラプラスが現れたのもあって、そのへんゲームとリンクしてる感じで面白かったです。
21:59:29 砂糖水 ラプラス!ラプラス!ラプラス!
21:59:41 茉莉 ビレッジブリッジでのラプラス出現率低いですよね〜
21:59:41 穂風湊 音楽親父いいですよね。BGM聴きによくいってました
22:00:26 No.017 しかし、今でも時々、橋の下から澄んだ歌声が聞こえる事があるという。 ここ膨らませられない? 音楽を演奏してるとどこからか聞こえてくるとか 昔祭りをやっていた日になると聞こえてくるとか
22:00:57 No.017 ある曲を演奏してると聞こえてくることがあるとかさ
22:01:08 音色 ほむほむ
22:01:24 リング ふーむ……なるほど
22:01:36 No.017 あるいは特定の楽器を演奏するとか というのは昔ラプラスを呼ぶときにその楽器を使っていたから とか
22:01:53 ラクダ なんというか、ポケモン世界に実際にありそうでいいなあと。しっくりくる。元ネタはBW2なのか、やってみようかな……。
22:02:14 No.017 題材はいいけど練り込み足りない感
22:02:20 音色 BW時代も親父たちはいるしラプラスでるよー
22:02:34 音色 なるほど
22:02:42 音色 なんか馬頭琴おもいだしたわ
22:02:46 たわし えっそうなの・・・>ラプラス
22:02:55 音色 粘れば出る>ラプラス
22:03:08 No.017 クリア後に 渦巻いてるとこに出るんだっけか
22:03:32 No.017 他になければつぎいきますー
22:03:40 たわし そうなんですか・・・知らなかった。やり込みしてないからな・・・。
22:03:40 音色 うぃす
22:03:42 ラクダ ←記憶が飛んでいるので二週目ライモンに滞在中 親父もラプラスもいるんだ……!がんばって進めよう
22:04:00 No.017 http://masapoke.sakura.ne.jp/stocon/kiji18.html 18 岩神様、数十年ぶりに表へ。
22:04:11 No.017 作者は確定的にあきらか
22:04:31 砂糖水 wwwwww
22:04:34 No.017 岩ポケモンご神体というのはいいよねえ
22:04:45 No.017 他の岩ポケモンでも使えそうだわ
22:04:52 音色 確かにw
22:05:30 リング レジロックとか可愛いですよね
22:05:44 たわし 心に残ったというか、和みましたね。いかにも小記事という感じでまとまりもよくて好きです。
22:05:45 No.017 ただ「そのお陰なのか否か、我が国は、世界トップクラスの長寿国としても有名である。平均寿命は、男女共に最高水準を維持している。」は飛躍しすぎだと思ったw
22:06:22 No.017 新聞記事っぽいのはいいね こう あえて新聞ぽくまとめて スクラップみたいな感じで貼ったらおもしろいかも
22:06:37 音色 そもそも無機物系のポケモンに寿命はあるのか・・・?
22:06:51 音色 デザイン面でもいい感じな気がする、スクラップ
22:08:13 イサリ ガントルの寿命を考えると、八代目って相当長い伝統ですね。
20:57:33 No.017 http://masapoke.sakura.ne.jp/stocon/kiji08.html クサビラ様
20:58:16 音色 パラセクトでやったら不気味度は倍増したと思うよ
20:58:32 砂糖水 それはwww
20:58:32 No.017 これも元ネタがあります
20:58:36 No.017 http://reason1.jugem.jp/?eid=674
20:58:37 たわし その発想はなかった・・・>パラセクト
20:58:46 リング キノコってカロリー少ないけれど大丈夫なのか
20:58:54 穂風湊 パラセクトの大群が押し寄せて来たら怖いですね……
20:59:14 No.017 http://www.iw.vrtc.net/~masa/kusabira.html
20:59:34 音色 パラセクトの本体はキノコだし、キノコの意志でこれをやったと考えたら、ねぇ
21:00:17 音色 まぁ俺がパラセクト好きなだけなんだけどね!
21:00:21 たわし 個人的に凄く好きな話でしたね。元ネタを知ってたらまた違ったのかもしれないですが。
21:01:19 ラクダ それはちょっと思った……<キノコってカロリー ただ、満腹感を与えてくれるので飢えて動けなくなることは避けられた、という感じなのかなと。
21:01:30 No.017 http://www.nicovideo.jp/watch/sm20788972 ところで茉莉さんの動画が2525再生したようですね
21:01:40 砂糖水 oo
21:01:54 砂糖水 半角のままだった…
21:02:15 イサリ うーん、ホウエンが舞台なので、キノガッサの方が自然でしょうか。
21:02:51 音色 いや、そこは分かってるんだけどね
21:02:58 No.017 作者がホウエンにしたかったんでしょう(
21:03:08 音色 ですよね作者様
21:03:17 砂糖水 ソウデスネー
21:03:21 No.017 では次
21:03:33 イサリ 察しました
21:03:49 No.017 http://masapoke.sakura.ne.jp/stocon/kiji09.html 09 鮫の子孫たち
21:03:59 No.017 これね もう作者バレしすぎてね
21:04:03 音色 先手を打たれて悶えた
21:04:08 砂糖水 www
21:04:13 ラクダ この方の作品は大抵わかるけど、これはもう名乗っているも同然で吹いたww
21:04:32 音色 やりたかったことをポケモンまで被って『アウト―――!』っていう
21:05:06 No.017 まあ隠す気ないよね この人
21:05:15 砂糖水 ソウデスネー
21:05:25 No.017 まだ 結構あるから巻きます
21:05:28 No.017 次
21:05:31 リング ダレダローサクシャハー
21:05:40 砂糖水 ww
21:05:47 No.017 http://masapoke.sakura.ne.jp/stocon/kiji10.html 10ひとりあそび
21:06:04 No.017 大 好 き で す
21:06:12 砂糖水 こわい
21:06:19 リング ジュペッタ好きのマサポケ民
21:06:36 音色 ぽんと都市伝説を持ってきたパターン
21:06:47 No.017 ただ粉々に砕けた よりは メリメリと扉を引きはがしたとかのほうがよかった
21:06:59 音色 珍しいホラー型なので楽しい
21:07:14 No.017 それだけかな
21:07:29 No.017 あと気付いてると思うけど元ネタは ひとりかくれんぼです
21:08:06 リング 自分自身を呪う術になっているとか
21:08:09 ラクダ ぞわぞわした。これを持ってくるか!という驚きと喜びを感じた作品。ただ、「なんとなく空のボールを持っていて捕獲成功」というくだりが物足りなかったなーと。あっさり
21:08:39 No.017 でもこう そこがうわさ話っぽいかなーとか>なんとなく空のボール持ってた
21:09:26 リング クイックボールかダークボールだったのかな
21:09:48 No.017 あとこれは 鳥居の向こうのほうに ちょろっと入れて置いてもいいなぁとか思った
21:10:11 No.017 こう真ん中当たりに息抜き というか ジャブパンチで
21:12:15 No.017 http://masapoke.sakura.ne.jp/stocon/kiji11.html 11 探検の舞台は
21:12:26 No.017 これはうまいよな!!!
21:12:45 穂風湊 読んでいて楽しかったです。なるほど、と
21:12:45 リング フカヒレ美味しいです
21:12:48 音色 本当にうまい
21:12:51 No.017 シンオウ地下通路はこうして出来ました
21:12:55 ラクダ いってらっしゃいです。
21:12:58 音色 この発想はなかった
21:13:24 No.017 あまり言う事は無いです
21:13:33 No.017 ボリューム的にも詰まってるし
21:13:35 ラクダ これは素直に面白かった。丁寧かつ優しいお話。
21:14:20 No.017 あんまり異論も出なさそうなので 次
21:14:31 No.017 http://masapoke.sakura.ne.jp/stocon/kiji12.html 12 天井渡り
21:14:42 リング ゴキブロス
21:14:44 No.017 ゴ キ ブ ロ ス
21:14:54 No.017 皆考える事は一緒かwww
21:14:58 音色 色々な意味で、うん、これは
21:15:13 こま ゴ☆キ☆ブ☆ロ☆ス
21:15:39 No.017 まさか記事部門で コンドーム って単語目にするとは思わなかった
21:16:08 穂風湊 wwwww
21:16:10 音色 鳩さんそればっかやもんなぁw
21:16:12 No.017 というか入れる必要会ったのかwwww コンドームはwwwww
21:16:22 音色 狙ったのか、天然なのか、
21:16:31 音色 鳩さんを釣るためのエサかもしれない
21:17:11 ラクダ 天井をはい回る=天の高みの太陽のイメージになるほど納得。日食の件もなるほど……しかしこの方、性的なネタが好きだなあと(
21:17:20 No.017 つうか なかなか命がけの願掛けだよな トレーナーの皆さんモテないのか?
21:17:42 No.017 昔の人の世界観的なのはいいね
21:17:54 リング あの世界の人たち身体能力高いので
21:18:08 No.017 そうだねwwww
21:18:36 No.017 特に意見なければ次ー
■6/2 感想・批評チャットログ抜粋
スレッドがばらばらなのでこちらに再掲します
19:45:55 No.017 No.017さんがアップをはじめました
20:05:52 No.017 エントリーは23作品
20:07:37 No.017 じゃあ 01アサギの市から
20:07:57 No.017 感想だけでなく ここがわからなかった とか こうするといいって意見もどうぞー
20:08:28 音色 一番手さんなんで「あー、こんな風に書くんだ」と勝手に基準点にした
20:08:35 砂糖水 わたしもー
20:08:48 リング ゲンガーのやつか……。
20:08:54 砂糖水 ものすごーく参考にしました
20:09:14 No.017 これってたぶん何か元ネタがあるんだよね 知ってる人いる?
20:09:23 砂糖水 あとなんか元ネタありそうなんだけど全く分からないので、その辺わかったらもっと面白いんだろうなと
20:09:34 砂糖水 私も聞きたーい
20:09:51 No.017 絵師さんがついた場合は元ネタとかをなるべく提示したほうがよさそうですね
20:09:55 穂風湊 うーん、わかんないですね……
20:10:04 リング なんだか、求めている羽織はかぐや姫の要求っぽいものですねぇ
20:10:11 音色 勝手に創作だと思ってる
20:10:11 No.017 元ネタといえば 02のミルホッグデーだけどね
20:10:29 リング 夢特性のヒノアラシの特性が貰い火だけれど
20:10:32 No.017 ああ、たしかにかぐや姫は入ってるっぽいよね
20:10:38 砂糖水 ああなるほど
20:11:03 たわし なるほど、言われてみればかぐや姫っぽいかも
20:11:21 音色 日本の怪談で似たようなのはあるけど空気が違うからアレンジなのかな、とちらっと思った
20:11:54 砂糖水 なんかこう、言い回しが素敵すぎるから元ネタあるのかなーと思ってたんだけど…
20:11:57 No.017 こう呪いに対して、何らかの返しをするって昔話は結構あるけど、元ネタ知ってたほうが楽しそうだね。知らないととっつきにくい印象を持った
20:11:58 音色 アイテムが完全に火鼠の皮衣やん、とも思った
20:12:06 砂糖水 自分で考えたならセンスやばい
20:13:35 砂糖水 言い回しがきれいすぎてうらやま(
20:13:42 たわし 比較的、今回集まった記事の中では絵にしにくい方かなと思った>アサギの市
20:14:01 No.017 あー
20:14:03 No.017 わかる
20:14:16 たわし 私は物書きじゃないので、絵描き視点じゃないと意見言えないのでアレですが・・・。
20:14:27 音色 するっと読めて「うん、そうだね。それで、えーと、うん」みたいにちょっとのこらなかったかな
20:14:34 No.017 アサギの市の途中というより アサギの市の中の話だとだいぶ描きやすかった
20:14:55 茉莉 私は絵にしやすいかも、と感じました。童話のお話の挿絵みたいな
20:15:14 No.017 しかしゲンガーという配役は見事
20:15:19 No.017 すげえ民俗っぽい
20:15:33 茉莉 確かに、場面で描くのは難しいかもしれないです
20:15:54 お知らせ ラクダ(Win/IE9)さんが入室しました。
20:16:06 No.017 場面というよりは物語全体で構成しないとむずかしいですよね>絵
20:16:15 たわし そのへんは描き手に寄るかもしれないです>描きやすい・描きにくい
20:16:17 お知らせ ラクダ(Win/IE9)さんは行方不明になりました。
20:16:25 音色 ちょいと思ったのは
20:16:39 音色 なんでこの時点で男がゲンガーだってわかったんだろうと
20:16:39 No.017 あるいは カット何枚か描いて、見開き内で散らすか だな
20:17:07 リング 影がゲンガーだとか
20:17:10 砂糖水 ラクダさんどんまい
20:17:13 たわし 茉莉さんが言われたように、童話の挿絵みたいな感じでしたら描きやすいかもしれないですね。
20:17:30 リング それならそれで、文章できちんと描かなきゃ意味が無いですが
20:17:34 穂風湊 昔話系の話だと、相手の正体を見抜いていたってのはよくあるけれど
20:17:36 音色 だって、仮に同じことを頼まれて犠牲者が出ていたならその犠牲者しか真実しか知らないのに何時気付いたのかなと
20:17:50 たわし ふむふむ・・・
20:18:12 音色 影で知ったならその描写を描いてほしかった。俺的に『なぜそこでその結論になる』って感じで
20:18:18 No.017 これさー ゲンガーと女に何か因縁がありそうだから 小説部門で誰か書いたら楽しいんじゃない?
20:18:31 砂糖水 たぶん若者が何らかの力を持っていたんだろうけど、そこのへん書いてないからなーという
20:18:56 No.017 呪いの成立過程っていうの?
20:18:58 砂糖水 おお、いいですね」それ>小説部門で
20:19:25 No.017 で 鳥居とフォルクローレ両方読むと腑に落ちるの
20:19:31 砂糖水 おお
20:19:33 No.017 むしろ作者がやれwwwwww
20:19:41 たわし wwwww
20:19:50 砂糖水 よし、作者さん見てたらぜひ
20:19:53 リング 作者でてこーい
20:19:59 穂風湊 作者さん頼みました
20:20:08 No.017 よし 次いきましょう
20:20:14 砂糖水 このなかにいたらうける
01の元ネタ
イギリスの民謡「スカボロー・フェア」
tp://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%83%9C%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A7%E3%82%A2
20:20:28 No.017 http://masapoke.sakura.ne.jp/stocon/kiji02.html 02 ミルホッグ・デー
20:20:47 No.017 これは元ネタがはっきりしてるので描きやすい題材ですね
20:21:12 リング グラウンドホッグデーが元ネタですねー。バンビ2では印象的だった
20:21:19 No.017 元ネタ http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%82%A6%E3%83%B3 ..... 7%E3%83%BC
20:21:53 砂糖水 なんかこう、こういうのもいいんだって思いましたね、これ こういう形式でもいいんだっていう
20:22:15 砂糖水 まあ私が難しく考えすぎなんでしょうけども
20:22:23 キタバ 一番クスッとくる楽しい話でした
20:22:30 No.017 ぐぐれば資料も豊富に出てくるし やりやすいですね
20:22:37 リング しかし、ミルホッグと似ていない
20:22:47 No.017 ミネズミのほうが似てるなw
20:22:57 砂糖水 そこ突っ込んじゃダメwww
20:23:06 No.017 しかしあえてミルホッグ それがいい
20:23:12 音色 「これってなぁに?」でやりたかったと思われるw
20:23:16 砂糖水 ミルホッくんがいい
20:23:37 たわし ミルホッグ可愛いくりくり
20:23:56 穂風湊 ミルホッくんだからよりかわいさが増す感じですね
20:24:02 No.017 http://pijyon.schoolbus.jp/irakon/sp2/014.html これのせいで完全に印象がwwww
20:24:13 砂糖水 wwwww
20:24:34 リング フィル君なんていなかったんや
20:24:41 音色 そうなんだよー!それのおかげで破壊力が高いんだよー!ww
20:25:04 たわし www
20:26:22 No.017 やっぱ絵師さんには元ネタお伝えしといたほうがいいねー
20:26:38 No.017 他にご意見は?
20:27:37 No.017 うい では次
20:28:01 No.017 03 冬の神 http://masapoke.sakura.ne.jp/stocon/kiji03.html
20:28:24 No.017 えーと なんかマサポケ民フリーザー好きですよね って思いました
20:28:38 No.017 いや過去にも結構フリーザーの短編が多くてね
20:29:16 砂糖水 肝心の部分が短いのがなー 解説多いのはどうよ、みたいな
20:29:31 音色 出だしは面白かった
20:29:43 音色 すごく好きだね
20:29:46 リング 弓矢の矢羽をフリーザーの羽で作れば必中とかそういうのを考えたことはあった
20:29:49 砂糖水 ラクダさんおかえりなさい
20:29:59 No.017 まあ記事だからそれでもいい気がする>解説多い
20:30:11 No.017 もう少し水増しするのもありかな
20:30:22 音色 ちょっと短すぎる気もするのは確か
20:30:42 No.017 ページ的にはまだ余裕がありますね PDF参照
20:30:46 ラクダ 面白かった……が、最後の朝廷からキッサキを守り云々、からいきなりスキー場に行っちゃったのがなんとも。惜しい気がしました。
20:31:09 ラクダ ただいまです。やれやれ <砂糖水さん
20:31:12 No.017 キッサキの神殿の事をもっと書くとか
20:31:12 音色 でも個人的な見解で『書きたいネタ詰め込んだら意外と短かった』みたいなパターンじゃないかなと
20:31:28 No.017 蝦夷地の侵攻のことをもっと描くとか
20:31:31 No.017 そのへんかなー
20:31:46 たわし 面白かったです。マサポケ民ってフリーザー好きなんですね・・・(今知った)
20:31:51 砂糖水 なるほどー
20:32:18 No.017 個人的にはまだ足せると思う
20:32:24 音色 いきなり朝廷の下りは確かに「は?」とはなったけど
20:32:33 穂風湊 足すとしたらどのあたりになるんでしょう
20:32:43 No.017 じゃあもうちょっとそこをくわしく書くとかだな
20:33:27 No.017 個人的に そのへんは日本の歴史とかさなるのであまり私は違和感が無かった( 自分の小説でも似たようなの書いてるからかもしんないけど
20:34:24 音色 歴史的には問題ないけども、なんかね、うん。
20:34:26 ラクダ 個人的には「朝廷の進行にどう対応したのか」を具体的に読みたかったかな、と <穂風湊さん あっ途中で切れちゃったもったいない!と思ってしまったので。
20:35:28 穂風湊 そうですね。ちょっと短い気はしたかもしれません。
20:35:28 No.017 他なければ次行きましょう
20:35:49 No.017 04 大文字 http://masapoke.sakura.ne.jp/stocon/kiji04.html
20:36:25 穂風湊 キュウコンさんのお話!
20:36:32 音色 誰かやると思った
20:36:37 No.017 これはむっちゃ絵にしやすいだろう! というのが第一印象 ミルホッグデーもそうだけどこういう行事系にもっときてほしい 編集者としては
20:37:00 砂糖水 みんな大好きキュウコン
20:37:22 No.017 ただ 改行(空行)が多すぎるでしょう。全部詰めちゃっていいよ。その分描写増やしましょうよ
20:37:49 たわし キュウコンやっぱり人気なんだなーと思いました。ストーリーとしても読みやすかったです。
20:38:05 リング 流石のキュウコン贔屓。
20:38:09 茉莉 ポケモン目線が新鮮で好きです
20:38:24 リング 悲しげに鳴く声とか絵になりますよね
20:38:24 穂風湊 今確認しようとしたら、PDFのリンク先がアサギの市になってました
20:38:29 No.017 とりあえずオンリーでキュウコン好き絵師に売り込んでおいた まだ返事はないけど
20:40:10 No.017 内容、題材としてはいいんじゃないですかね 王道で
20:40:34 穂風湊 見れました。確かに空行が目立つような気がします
20:40:46 No.017 実際の大文字をどうやってるかネットだけでもいいから調べられる範囲で調べたらいいんじゃないかな
20:41:13 No.017 というかこれは取材すれば小説一本書けちゃうな
20:41:55 No.017 私が絵をつけるなら ご主人と大文字見てるところを絵にするなー
20:43:46 No.017 他にご意見は
20:44:05 No.017 なければつぎいきますー
20:44:19 No.017 05 海蛇の話(一) http://masapoke.sakura.ne.jp/stocon/kiji05.html
20:44:39 砂糖水 一と二のセットでずるいw
20:45:16 リング 八尾比丘尼でしたっけ、元ネタ
20:45:22 穂風湊 元ネタが出てきそうで出てこない。なんだったかな
20:45:41 No.017 やおびくには(二)のほうね
20:45:49 砂糖水 一は鶴の恩返し的な
20:45:54 ラクダ ミロカロス=海蛇or人魚な構想は私も持っていたので、見た瞬間にニヤリ。なんだかうれしかった。内容は面白くかつ王道昔話だった……が、故に目新しさはなかったかなと。
20:45:58 音色 人魚の肉を食うと不死になるってのと鶴の恩返し
20:45:58 No.017 これは日本神話だかで奥さんが鮫だったのが元ネタ
20:46:11 リング ミロカロスはサタンというイメージがあるなぁ
20:47:38 リング 鳩さんサメ好きですねぇ
20:48:01 たわし 元ネタがデジャヴってニヤってした
20:48:36 No.017 http://masapoke.sakura.ne.jp/stocon/kiji06.html ついでなので(二)のほうも
20:49:14 No.017 これはお姫様のほうを主人公か主要登場人物にして小説化 でもおもしおいね。現代まで生きてる事にしてさ
20:49:51 砂糖水 イサリさんこんばんはですー
20:49:57 リング ぬーべーでは現代まで生きていた八尾比丘尼がアグレッシブなお姉さんになっていたなぁ
20:51:22 No.017 07 屏風の大唐犬 http://masapoke.sakura.ne.jp/stocon/kiji07.html
20:52:07 砂糖水 一休さn(
20:52:21 砂糖水 冗談です…
20:52:39 No.017 まあ 一休さんも入ってるよな
20:52:44 音色 タイトル見て一休さんかと思ったらそうでもなかった
20:52:52 音色 この発想は面白い
20:53:08 ラクダ これは絵向きだと思いました。あと個人的にウインディ好きなのでほくほく。
20:53:26 No.017 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8B%A9%E9%87%8E%E6%B4%BE 個人的にはこういうイメージなんだがw
20:54:15 イサリ この話好きですね。すっきりまとまっていて、読みやすいです。
20:55:28 お知らせ 穂風湊(Win/IE9)さんは行方不明になりました。
20:55:30 たわし 私も一休さんが過ぎりましたが、内容はほっこりする感じで好きでした。絵にもしやすいと思います。
20:55:36 キタバ イメージしやすくて読みやすかったです
20:55:37 No.017 http://www.ne.jp/asahi/hiro/papa/syourinji.htm あるいはこのページの下のとか
20:55:53 砂糖水 おお
20:56:06 茉莉 私は雪舟を想像しました
20:56:31 No.017 雪舟かー
20:56:53 No.017 他にご意見は
20:57:16 No.017 なければ次いきますー
のぞきおじいさんは名物なので警察が黙認するようになりました。密かにタマムシジムの盗撮写真を賄賂に……とか考えるとまたネタが生まれますね。
しかし、プレゼントという技は良質のネタ技でした。
きたーっ! 季節のイベント恒例のニュースのお時間だーっ!
ひそかに期待しておりました!
しかし今回の人は名前からして、心の中では祝福しているのでしょうなw
回復ばかり出たのも実は狙い通りだったりして。
リア充末永く爆発しろ。
それより警察は通報してきたじいさんをどうにかする気はないんですかwww
こんばんは、ニュースの時間です。
さて、今日の午後3時頃、タマムシシティで通行人を襲っていた男が暴行未遂の現行犯逮捕されました。男は住所不定無職の末永博鉢(すえながばくはつ)容疑者で、容疑を概ね認めている模様です。
末永容疑者は今日の午後2時頃からタマムシシティの繁華街でカップルのみを狙って犯行を開始。デリバードの技「プレゼント」で攻撃を試みたところ、回復の効果ばかりが出たとのことです。当日はクリスマスイブで容疑者を怪しむ人はほとんどいませんでした。しかし、不審に思ったタマムシジム名物のぞきおじいさんに通報され、駆け付けた警官の任意同行に従ったそうです。
この事件の被害者となったカップルは「ちっ、見る目がねえな。俺達は別にそんな関係じゃねえよ」「またまたそんなこと言って。他の先生方の噂になっちゃいますよ」と熱々の様子。一方のぞきおじいさんは「街の風紀を乱すなんぞ言語道断。これからも街のために通報するぞい」とコメントしています。
それでは、ここで天気予報です。
執筆時間は5分。勢いがあればいけるものですね。
タグ: | 【ドM募集】 【急募:生贄】 【求む生贄】 【きとかげさんの文才に嫉妬】 【批評会】 |
どうも、他力本願017です。
スレ立て乙であります。
ぴっちぴちの生贄がくるといいですねぇ。
楽しみです。
お越し頂いた皆様、ありがとうございましたー
次回は9/17のポケモンオンリー「チャレンジャー」にて出展予定でございます。
どうぞよしなに。
暑い、暑すぎる
現在時刻は9時30分ちょっと前。確かに早起きだと胸を張るには遅すぎるが、まだ朝のはずなのに。
びしょ濡れのシーツをケムッソのように這い出て鳴り続けるゴニョニョ時計の頭を叩く。
ホウエンの夏の朝は遅くて暑い。
※オリジナル設定、登場人物有り
※ごくごく少量の流血有り
日に照らされて焦げ付きそうなサドルに跨り、夏の道を緩やかに下ってゆく。トレーナー修行の旅ではなく、家から一番「近い」学校に進級したのだが流石はホウエンの離島。来るかも分からないバスを除けば文字通り野を越え山を超えて行くしかない。
ぼうぼうに茂った草むらの脇を抜け道に砂利が混じり始めるとほぼ無意識にギアを変える。入学当初は戸惑ったが今ではこの坂道も何ともない。タイヤが砂を踏みしめるジャリジャリとした振動を物ともせずぐいぐいと漕いでゆく。
こんなに必死で登っても目的地は壊れかけの扇風機位しかないボロ校舎だ。暑さで鈍った頭にふとそんな事がよぎり益々憂鬱になる。視界が開け崖の向こうに海が広がると、見慣れぬものが現れた。
―――あ、かげろう
突然の事に思考が明晰になるより先にゆらり、と宙に舞った虫のようなものは姿を消していた。さっきから頭痛がするような気がする。
暑さにやられたかな。早いところ着いたら何か飲もう。生ぬるい水道水しか無いけれど。
何となくしかめっ面をしてみながら慣れすぎた道を急いだ。
「遅いぞユウコ。」
仏頂面の先生は校門前の木陰で南京錠をくるくると回しながらあぐらをかいていた。チョークの粉が染み付き茶色く煤けて所々穴の開いた白衣に、かかとを潰したスニーカー。数人居た同級生たちと共に過ごした日々と先生の制服姿は一切変わらない。変わったことと言えば、ポケモンに限らない一般教養の勉学と部活動に精を出す学年になるまでには、ユウコを残して全ての生徒が旅へ出てしまったくらいだ。
先生のあとに着いて校舎脇の小道へはいる。伸び放題の草むらを掻き分けて、ポトポトと木から落ちてくるタネボーたちを刺激しないように奥を目指す。突き当たりで右を向けばボロ校舎に擬態したような倉庫が置いてある。
「言っとくけどなぁ、本当に使い物になるか分からないからな。」
酷暑の中ベッドに未練を残してはるばる来たのに今更それはないだろう、とユウコはいくらかむっとしながらブラウスのボタンを二つ開けてパタパタしていると錆びた鍵が回った。
ひんやりとした倉庫の中は天然もののタイムカプセルのようにあらゆる物が無造作に積まれていた。郷土資料館にでも提供したら良さそうな古びた農作業具に、一チームすら作れないのに真新しいバスケットボールの得点板まである。何に使われていたかも分からない劣化したプラスチックのかけらをぼんやりと拾っていると、先生がダンボールの山から手だけを出してこっちだと招いた。
「随分と早く見つかりましたね。」
先生の喜々とした顔に少し面食らう。
「そりゃそうだ。これは私のだからな。ささ、暑くなりきる前に校庭に持って行くぞ。」
「私物って、先生の趣味には思えないのですが。」
「人を見た目で判断するのは良くないぞ。」
「それじゃあ余程ひどい目にでもあって人格が変わってしまったとか。」
「人には触れられたくない過去があるものさ。」
「都合の良いときだけ善良な教育者になるのは止めて下さいよ。」
「いいじゃない、教師だもの。」
いつの間にか仏頂面に戻った先生は眉一つ動かさず台詞だけでおちゃらけてみせた。それ以上言い返す気力も失せ、擦り切れた細長いダンボールを担ぎ倉庫を後にした。
校庭、もとい元校庭があった場所を眺めユウコは唖然とした。砂が風を纏いとぐろを描いて荒れ狂う、例えるならば今まさに、地を離れ空へと飛び立たんとする蟻地獄。そんな物が校庭を占拠していたからだ。
「なにこれ……。」
そう呟いた瞬間、風が変化した。砂と共に明らかな敵意が向けられる。
コンッカチッ
軽金属の衝突音と共にあらわれた無数の星屑が猛進する砂の渦を迎え撃つ。一つの渦が掻き消された先には、既にいくつもの渦が形成され始めていた。
「ぐままもう一度、スピードスター。」
くおっと短く応えたマッスグマは吹き付ける砂をするするとかいくぐると星型の閃光を吐き出した。幾つかは砕け、あるものは突き抜け、真っ直ぐに標的を仕留める。しかし切り裂かれたそばから砂は無尽蔵に湧く。中心は一向に見えない。
「あーあ……うわっ!」
外股を掠めていった衝撃波にユウコは飛び退く。スカートを見ると裾がバッサリと裂けていた。
「ボサッとすんなって。そこら辺にでも隠れてな。しっかし埒が開かないねぇ。かぎわけるだよ!」
ぐままは迎撃を止め目を閉じ耳を倒して全神経を鼻腔に集中させる。祈りを捧げるように悠々と天を仰ぎ、渦が迫る一歩手前で身体を翻す。してやったり、とでも言いたげに青い瞳がギラギラと輝く。先生の口がにやりと歪んだ。
「はかいこうせん!」
「えっ、ちょっとっ!」
着地と同時に放たれた熱光線は砂嵐を破り、グラウンドをも抉り。地獄の主を撃ち抜いた。
「面倒なやつは嫌いだよ。」
校庭に一直線の焼き焦げを付けておきながら実に良い笑顔である。これがカナズミの学校だったなら間違いなくクビがとぶだろう。最も採用すらされない気もするが。
すなじごくが晴れ、横たわるポケモンにユウコは見覚えがあった。
「驚いたね、ビブラーバじゃないか。」
流石のユウコにも聞き覚えがある。暑さと乾燥の厳しい砂地に生息する蟻地獄ポケモンの成長した姿。呆気にとられているうちにビブラーバは慌てて起きあがるとふわふわと頼りなく飛び去ってしまった。
「わざわざ余所のトレーナーが島に来るとは思えないし、こんな所でここまで成長できるのですか?」
「こんな湿っぽい所へ来ておきながらホームシックとは、随分な物好きもいたもんだ。ま、とにかく校庭も取り返せたし始めるぞ。」
ユウコの質問に面倒くさそうに答えると、先生は反動でへたり込むマッスグマを抱えた。太陽がギラギラと照りつけた校庭は確かに砂漠にも見える気がした。
ダンボール箱をあけるとユウコが生まれるよりずっと前の日付の新聞の塊が入っていた。ひときわ大きな塊を解くと中からは細長いアルミの三脚に傷だらけの黒い筒が一本。先生はぽってりとした凸レンズを慎重に拾いながら唐突に切り出した。
「ところでお前、ポケモン関連の仕事には興味無かったんだっけ。」
またか。ユウコは密かにため息を付くと新聞紙の隙間から茶色くすすけたメモを見つけ、引っ張り出した。折り畳まれた紙の表には「天体望遠きょう組立図」とたどたどしい字で書いてある。
「まあ、ここに残ったくらいですから。」
メモの内容に目を走らせると何かから書き写したのであろう望遠鏡の原理や作り方、そして行間には改良点やアイディアがびっしりと埋められていた。その横にはやせ細ったバンギラスのような、恐らく望遠鏡の絵が添えられている。
ひらがなと誤字のやや多い幼い子供の字。鉛筆を握りしめ夢中に文字を刻み込むあどけない少年の姿が浮かび、先生をそっと盗み見る。
「こいつを買ったころはな、宇宙飛行士になりたかったんだ。でもやめた。」
「はあ、どうしてですか。」
どうでもいい、とは素直に答え無かった。話題が自身から逸れることを願いながら聞き返した。
「歯磨き粉みたいなメシを毎日食わされると知ったからさ。」
むすっとした顔は何の感情も帯びていない。
三脚のネジがひとつ足りない。箱へ手を伸ばすと目の前にネジと鼻先が差し出された。得意げに尻尾を振り回すぐままの顎を掻いてやる。先生が二つ目のレンズをはめ込みネジを締めた。
「ほれ、見てみな。」
望遠鏡と呼ぶにはやや質素な黒い筒を覗いてみた。拡大された校舎が逆さ吊りになり、空は地平にへばりついている。二枚の凸レンズに絶妙なバランスによって観察対象は倒像となり、拡大されて瞳へ届く。頭では理解していてもむず痒い違和感がある。
「本当に逆さまですね。」
「良いよな宇宙は。逆さまに見えたって誰も怒りゃしない。」
「先生だって誰にも怒られないんでしょう。」
「居るんだよ。それなりにちゃんとしないと五月蠅いのが。」
ぐままは素知らぬ顔で背中を毛繕っていた。先生はユウコの手から望遠鏡を奪うと三脚に取り付け、満足そうに頷き、ニマニマと笑った。
「せっかくここまでして二人だけで観察するのも勿体ないな。」
呆れたようにユウコが答える。
「それじゃあ下の学年でも呼びますか。」
「分かってるじゃないか。チビ達を招待しての野外天体ショー、天文部と参加者は今夜校庭に再集合だ。」
そう言った先生の顔は降り注ぐ太陽の光によく似ていた。
この人も少年みたいに笑うことあるんだ。そうだ、私が最後にあんな気持ち良さそうに笑ったのは何時だったかな。
ユウコは真夏の空に望遠鏡を高々と向けた。明日も明後日も永遠に来なくてもいいから、ずっと吸い込まれていたい。そう思わせる青くて深い空だった。
「サイユウシティでは西北西の風、風力3、晴れ、22ヘクトパスカル、気温は31度…」
地図の下の端、サイユウに記された丸印の左斜め上に羽を書き入れ、丸の中に晴れを表す縦線を伸ばす。さざ波のようなラジオの雑音をBGMに、天気を読み上げるアナウンサーの声がユウコの部屋に流れる。
心地よい秩序を持った音声の海に乗り、北へ北へ。海を越え天気図が埋められる。未だ訪れた事のない、これからも訪れるか分からない、遥か遠くの風が吹く。
海を飛び立ち空を滑る。いつの間にか薄緑の羽根を羽ばたかせ、波に揺られるようにふわり、ふわり。キッサキの分厚い雪雲を抜けると更に遠くイッシュの地へ。静かな恍惚の中で天気図は埋まってゆく。
夢から醒めるように自分の部屋へと着陸すると、放送終了にぴったり合わせてラジオを止めた。新聞の切り抜きから月齢を写しパンチで穴を開けバインダーに閉じる。
そういえば。あのポケモンはどうしてこの島へ来てしまったのだろう。住み慣れた砂漠を離れてふわふわと海を渡って。
馬鹿な奴、とユウコは思った。透けるような緑の羽根は、海を渡るにはかなり、頼りない。ふわりとカーテンが風に膨らむ。かげろうが離れない自分の思考に苛立つ。
再び開いたバインダーに目を落とす。天候は良好、月の光量も控え目で、絶好の鑑賞日和となりそうだ。
サイコソーダに浮かべた氷が溶けてからりと音をたてる。橙が染み始めた部屋でナップザックを拾い上げた。
こんな日には。
星でも見るに限る。
湿っぽい海風と下がりきらない気温に汗がにじむ。巣に帰れと言うかのように鳴き交わすキャモメの声が響いている。
砂利道にさしかかり、ギアを変える。ほの赤く暮れかかる海が崖越しに見えてくる。坂を登りきりユウコがギアを戻して速度を緩めた、その時だった。
視界の外れから、薄緑の塊がはらりと降ってきた。あの、ビブラーバだ。慌ててブレーキをかけ、自転車を降り捨てるとそろそろと忍び寄る。こちらに気付く様子もなく倒れ込んでいる。
「死にかけかしら。」
呼吸にあわせて微かに動いてはいるものの確かな反応はない。過度な湿気に当てられたためか素人目にも緑の皮膚が赤くかぶれているのが分かる。
胸の辺り、羽の付け根まで照らした時ユウコは息を飲んだ。羽の付け根辺りに、自分の背まで疼くような亀裂が走り血が滲んでいる。恐らくは他のポケモンに裂かれたばかりの傷だろう。それも、空を飛べるビブラーバを更に高くから狙える凶暴な何かから逃げ際に付けられた。
全身を隈無く照らすと赤黒いものが点々とこびりついている。ポケモンバトルなどという生易しい物ではない。激しい闘争を物語る不規則な赤い斑点。
どうしようか。野生のポケモンに無闇に干渉する必要などない。放っておけば自然の中で処理されるだけの話だ。
ユウコには手持ちも居なければポケモンの知識も浅い。島のポケモンは見知っているとは言え、丸腰で自分の身を危険に晒すことになりかねない。
でも―――
暴れるなよ、と念じながら恐る恐る手を伸ばす。しかしどこを掴んで良いのやら。逡巡し、意を決して尾に触れた。
その途端、羽根が激しく振動し、ユウコは弾き飛ばされた。ビブラーバは威嚇するように羽根を震わせると、ユウコではなく空中を睨み付けた。
ユウコはようやく気付いた。頭上でキャモメの声が、五月蝿い。
先程までまばらに飛んでいたキャモメが次々と集まり円を描いていた。中心は、此処。
「逃げるよ!」
未だに臨戦態勢をとるビブラーバに声を掛けた。この状況は嫌な予感がする。このままこの場所に留まるのは危険だ。
頑として動こうとしないビブラーバを抱き上げようとするが、羽根を震わせ触ることすら出来ない。何度目か手を伸ばしてようやく尻尾を掴むと、バダバタと羽ばたき出し、ユウコは数メートル引き摺られて投げ出された。敵意に満ちた目でユウコを一瞥すると、ゆらりと飛び立った。
バランスを大きく崩しながら飛ぶビブラーバと後を追うキャモメ。ユウコは駆け出していた。
「崖に住んでいるキャモメには手出ししてはならないよ。」
島に住む者ならば人もポケモンも誰もが教わる事だった。
「彼等一羽一羽はかよわいものさ。でもね、もしもその一羽に手を出そうものならば……」
上空を飛び回るキャモメは少なくみても数十は集まっているようだ。彼等が追う先には今にも堕ちそうな一匹のポケモン。
不安定に飛ぶビブラーバより上空を保ち、キャモメの群れは風の強い海沿いへと追い込むように飛び回る。ビブラーバも時折衝撃波や砂の渦でささやかな抵抗を見せるが、そのたびに高度を上げるキャモメにはさっぱり当たらない。
十分に追い付いたことを確認したのか、鋭い鳴き声と共に風の刃が降り注ぐ。小さな体から放たれる狙いの甘い高威力の絨毯爆撃は、敢えて射撃方向をずらして散らす事で命中率をカバーしている。
呆れるほどに練られた連携に、圧倒的な数の暴力。これではもはや闘いではない。狩りだ。
遂に一発のエアスラッシュがビブラーバを撃墜した。待ちわびて居たかのように一斉にキャモメたちが飛びかかる。
「うわあああああああぁぁぁっっ!!!」
ユウコは叫んだ。ありったけの声で叫びながらナップザックを振り回し、群がるキャモメに突進していった。
突然の人間の登場に豆鉄砲を喰ったかのようなキャモメ達を振り払い、ビブラーバを抱え上げる。なるべく、陸へ。ナップザックをもう一周振り回すと、近くのサトウキビ畑へと飛び込んだ。
ユウコの背丈を優に越す高い茎の間を慎重に進んで行く。しゅるりと細長い葉の陰に切れ切れに見える空は夕日で赤く染まり、しつこくキャモメが飛び回っている。もう直ぐ日も沈むだろうに実に執念深い。
ビブラーバが弱々しく訴えるように羽根を震わせていることに気付きそっと降ろした。
「ねぇ、……」
ダメで元々、話し掛けたユウコにビブラーバはさも煩そうに首を傾ける。
「あなた、キャモメ、襲ったの…?」
しゃがんで問い掛けるユウコについと顔を背けるとぶぶっと羽根を鳴らす。
「えーっと、…どの位?」
先程とは反対へ首を回すとぶぶぶっと鳴らした。何を言いたいのかはさっぱり分からない。しかしキャモメの様子を見ればある程度の想像はつく。
「それで、思いもかけずにこっぴどくやられたのね。」
ユウコを見据えると二本の短い触覚をツンと立てて羽根をはたはたと振った。今度のは拒否のつもりらしいと分かった。一方的に反撃されているようにしか見えないのだが。
葉の隙間からちらちらと白い鳥が見え隠れしている。おおよその見当は付いているのだろう、かなりの数が集中してきていた。
足元からぶぶぶぶぶっと音がする。ユウコを通り越し天高く向けられた眼はキャモメを鋭く捉えていた。
「どうしても諦めないのね。」
ユウコの事など気にも留めない様子で羽根も触覚もピンと立て構えている。
「あのさ、私このあたりは詳しいの。だからその…協力、しようか?」
ビブラーバは今度こそユウコを真っ直ぐ見つめると、目を瞬かせて首をぐいぐいと回した。
ユウコにとってこのあたりは道も畑も我が家のような物だった。極力茎を揺らさぬように、こごみながらジグザグに進んでキャモメをまいてゆく。ビブラーバは大人しく腕の中に収まってくれている。
ついにサトウキビの林から出ると、地面に開いた洞窟のなかへ身を滑り込ませた。島のそこかしこに開いている、石灰質が雨水に溶かされた窪地。地理の時間に先生がそう説明していた、気がする。
洞窟の中程で降ろしたビブラーバに目配せをすると、四枚の羽を二枚の尾を扇子のように広げて応じる。ユウコは親指をぐっと立てると洞窟から出て、ナップザックから懐中電灯を取り出した。暮れなずんだ空の元、自分へ向けてスイッチを滑らせた。
小さなスポットライトに照らされたユウコに気付きみゃあみゃあと敵の発見を伝えるキャモメに向かって、下瞼を引っ張り舌をペロリと出す。色めき立つキャモメを確認すると、更に挑発するように石を群れに投げ込み洞窟に逃げ込む。怒りに我を忘れたキャモメたちは一斉に洞窟へとなだれ込んできた。ユウコはビブラーバから距離を取り後ろに控えた。
「今だよ!」
掛け声と共に地表が蠢く。異常を察したキャモメ達は、引き返そうとするが後から後から流れ込む仲間に押し戻される。
遂にとぐろを巻いた砂が宙へ飛び立った。避けようと飛び上がり壁にぶつかり堕ちるもの。仲間と衝突しいがみ合うもの。焦りの余り自ら呑み込まれにゆくもの。空中の蟻地獄は錯乱状態のキャモメを次々と引きずり込む。
キャモメの声が徐々に収まり、ビブラーバはすなじごくを収めた。砂煙ごしに息を荒げたビブラーバと気絶して転がるキャモメが現れる。
ついさっきまでの怒号と悲鳴の喧騒など初めから無かったかのように風の音だけ微かにが聞こえる。白い羽毛の混じった砂を踏み、洞窟の外を目指した。
甘かった。どうりで静かな訳だった。洞窟の入り口には、キャモメの大群が音もなく待ち伏せていたのだ。
みゃーあ!!
キャモメの一声で猛攻が開始された。天から降り注ぐエラスラッシュ。体の大きい数羽は螺旋を描きつばめがえしを繰り出す。ビブラーバはとっさに砂を張り防御態勢を取った。
「ひゃあっ!」
ユウコは左腕を押さえて転げた。鋭い痛みが二の腕を刺す。恐る恐る手を離すと真っ白なブラウスが裂けじわりと赤い染みが広がっている。
戦闘へ顔を上げるとビブラーバが凄まじい殺気でユウコを見ている。
「大丈夫だよ!大丈夫だから!」
きゅーーーううぅぅぅ!!!
ビブラーバは憤怒していた。ユウコは訳も分からず身を竦ませた。
来るんじゃなかった。やっぱりこんな事するんじゃなかった。
馬鹿なのは私だったんだ。こんなことをして、何かが変わるなんて勘違いして。
後悔しているユウコをよそにビブラーバはゆったりと向き直った。キャモメの群れも気圧されて静まり返った。
羽根が大きく、大きく振られている。次第に速く、激しく、小刻みに、速く速く速く速く!
耳をつんざくような羽音が次第に、次第に、柔らかなメロディーを奏で始める。
まるで歌っているみたい。女声の、暖かくって物悲しい声。ユウコは場違いにもそう思わずにいられなかった。
歌声がフォルティシモに達すると、ビブラーバは地を蹴った。四枚の羽根の一対が大きく伸び、昆虫のような体躯は骨が張り出し肉が盛り上がる。
竜と呼ぶには繊細過ぎるが、精霊と呼ぶにも逞し過ぎる。変貌を遂げたビブラーバ、いや、フライゴンはキャモメの群れを突き破り天高く抜けていった。
高く、高く。上り詰めたフライゴンは翼を翻して地上を見下ろし、腹にエネルギーを溜め始める。呆気にとられていたキャモメ達も陣を組み迎撃態勢を取り出している。
最後の力を振り絞り、熱く激しく濃縮された、ドラゴンのエネルギー砲がついに放たれた。
幾筋にも分かれたエネルギーの塊は空を駆ける。慌てて放たれたキャモメ達の射撃も打ち砕き、煌めき、尾を引く。キャモメ達は雪のように堕とされ、散り散りに逃げて行く。
一つの銀河が丸ごと現れたかのような星の雨。あまりに神々しく、厳かな星々の怒りの進軍。
夏の宵空に地に近すぎる流星群が、ちっぽけな島を覆った。
ユウコはふらふらと舞い戻ってきたフライゴンが地に足を着けるや否や抱き着いた。
「やったっ!やったぁ……!」
キャモメの大群は一羽残らず撤退していた。今頃はがっかりしながらねぐらの崖を目指しているだろう。
フライゴンの少し照れくさそうな困ったような顔に気づきユウコは腕を解いた。
穏やかな風に吹かれて空を見る。夜の闇がさらさらと夕暮れの赤をすすぎ、気の早い星がうっすらと見え始めていた。
「私、もういかなくっちゃ。」
フライゴンはくぅー?と鳴いて首を傾げる。その様子がビブラーバの時のサトウキビ畑での傾げ方にそっくり過ぎて可笑しくなる。
「あなたが昼間暴れてたとこ。学校っていうとこでね、星を見るの。だからもういかなくっちゃ。」
ユウコがそっと肩を撫でると、フライゴンは数歩下がり腰を低くすると首を深々と下げた。
「えっ?」
戸惑うユウコにフライゴンは悪戯っぽく笑った。
滑らかなひんやりとした鱗が覆う長い首を跨いで、腕を回す。喉に触れた手には呼吸が伝わってくる。翼を大きく振り上げると、地面をそっと蹴った。
くるりくるりと旋回しながら高度を上げ、地面が遠くなってゆく。空気がひんやりと冷めてゆく。ユウコの生きてきた全てが詰まった島が遠くなってゆく。
空から見下ろす島はびっくりするくらいに小さかった。まばらに漏れる民間や灯台の灯りは、まるでミニチュアのおもちゃを見ているよう。自分の家も、学校も、じっちゃんの畑も町の役場も、今なら全部一歩で行けてしまいそうだった。
フライゴンに促され海を見渡す。水平線の向こうに、光が広がっていた。遥かに遠いのに、島よりも鮮烈な光。ユウコの知らない沢山の命が発している光。
緩やかに緩やかに地面が近付いてくる。風が熱を帯びる。人生の大半通い詰めた学校が近付いてくる。
ユウコを校舎の裏で降ろしたフライゴンは、海の方を向いた。
「もう出るの?」
フライゴンはユウコの問い掛けにゆっくりと頷いた。
「もう無茶したら駄目だからね?」
フライゴンはむくれるように離陸態勢を取る。
「じゃあね。旅、楽しんでね!」
既に小さくなったフライゴンは、一回転宙返りを決めると海の彼方へと消えていった。
波の音だけが残されたユウコを包んでいた。視界の外れで星が一つ流れた気がした。
「あーゆっこばばあがちこくしたぁ!」
「ヒロトくん!ばばあとかゆったらいけないんだー!せんせーにゆっちゃうよ!」
「うっせ!やーい、おばあさん!」
校庭は集まったちびっこたちのせいでてんやわんやの大騒ぎになっていた。
ヒロトくんはユウコがぽかりと殴る格好だけすると、大はしゃぎで逃げていった。
「ユウコ遅いぞ」
仏頂面の先生は何も変わらずにむすりと言った。
「色々と忙しかったんですよ。」
ユウコは先生の寝転がっているブルーシートの隣に横になった。
「望遠鏡とられちゃったよ。」
先生は少し悲しそうな声を作った。昼間組み立てた望遠鏡はちびっこたちが奪い合いながら覗いている。
「実はあれがなくても流星群の観察自体は出来るんだけどねぇ。」
自分を慰めるように呟く先生の声を聞きながら、空を見ていた。痩せた月のまだ登らない空につい、つい、と星が走る。
「先生。」
「ん、どした?」
「本当のところ、どうして宇宙飛行士を目指さなかったんですか?」
「そうだねぇ……」
子供たちのはしゃぎ声、風にざわめく木々。沢山の流れ星。時が止まったかのような熱帯夜。
「こっちのが、気楽だろ?」
「そんなことだろうと思いました。」
先生は先生だから良いな、と付け加えるのは何だか恥ずかしいから止めにした。
もしやりたいことが有るとするならば。とりあえず、次にあいつに会った時にはお礼くらい言いたいな。
ユウコは目を閉じると流れ星の洪水みんなにいっぺんに願ってみた。
終わり
小説を、それも大好きなポケモンで書き上げてみたい。
そんな願いを抱き幾星霜。
何作か途中で放り投げ、やっと完結まで書き切れたので恥を晒しに来ました。
はじめまして、孤狐です。
物語を書くのがこんなにも大変で、楽しいとは。
結構疲れたので、もうしばらく書けそうにありませんが;
そうそう、今日明日はペルセウス流星群が見られるそうで。
今日は曇ってしまいましたが明日は晴れますように!
日にちを間に合わせるため特に最後のほうは急ピッチで仕上げたので、誤字脱字等かなりありそうなので見つけ次第どしどし報告してください。
いつ直せるか定かではありませんが;
【第1話】
ズダダダダダ!!!!ズダダダダダ!!
街中に銃声が響き渡る。戦争だ。レインが住むマルス地方は、まだ発展途上で、銃や戦車や爆弾などは無い。住居も木の中に作り、狩をして暮らしている。戦争ではポケモンと弓と槍で戦う。なので、相当不利だ。
ドガガガーーーーン!!
爆弾が落ちた。
人々「キャーーー!!助けてーー!!」
??「フライゴン、ハクリュー、人々を避難させろ。プテラ、いけーー!!」
ある人はプテラに乗り、弓を構え、堂々と敵に突っ込んでいった。
??「いけープテラ!ヤーー!!」
ある人は矢を射った。その矢は、敵に命中した。
??「プテラ、破壊光線だ!!」
プテラの破壊光線により、敵のガンシップは次々と破壊されていった。
敵大佐「何だあいつは?撃破しろ!!」
ズダダダダ!!ズダダダダダ!!
敵のガンシップから銃声が聞こえた。
??「うわっ!!」
ある人は銃に撃たれ、死んでいった。
その人の死から、マルス軍は次々と死に、残ったのは僅かだった。
・・・・・・・あの悲惨な出来事から15年。
レイン「で、そのある人ってのは?」
レイン母「あなたの、お父さんよ。」
レイン「え・・・・・」
レインが住む村の入り口には、レインのお父さんの石碑が建っている。村の勇者だ。
レイン母「レイン。私たちの一族は、代々続くドラゴン使いなのよ。あなたももう10歳。だから、ドラゴンを授けます。」
レインはモンスターボールをもらった。
レイン「なんだろ・・・えっ、レックウザ?何で伝説のポケモンが?」
レイン母「あなたのお父さんにレックウザが心を開いたのよ。天空の城で。」
レイン「えーすごい。」
レイン母「10歳になるともう1人で自立です。家を作り、これからもレックウザと共に過ごしなさい。ずっと一緒に。」
第2話へ続く
どうも、ヴェロキアです。
お題の『ポケモンのいる生活』を書きたいと思います。
よろしくお願いしまーす。
では次の回からスターートッ!!
コメントいただけた! ホントどうもありがとうございます。
しかし、案の定と言いましょうか、みなさまドン引き。
こんな虫ネタ、死体ネタ、さらに汚物ネタと、出してから言っても遅いですが人を選びますよね。AとCの話に実際に遭遇したら自分なら絶望してます。
「背筋が寒くなるもの」「身の毛もよだつもの」には、おぞましいと感じたり目を背けたくなるものも含まれると思います。
そういう点では、今回は正解を得られたような気が。自分の評価の株が底値を割った気もしますが。
>もしかしたら寄ってきたよくないものを消してくれるのだろうか?
飛んで火にいる夏の虫。このあと腐臭につられて寄ってきたよからぬ虫をランプラーが退治してくれることでしょう。その命でランプラーも少しは満たされるはず……。
>「男3人(学生)集まると、必ずバカなこと引き起こすよな」
自分にはそんな友人はいませんでしたがやはりお約束ですよね。ちょっとCの悪ノリが過ぎたおかげであの始末ですが、それが男子の日常、と。
ナマ物が腐りやすい夏、死肉はともかくとして食べ物にはご注意ください。
>炊飯器
あの手のモノで一番恐ろしいのは中途半端に水気が残っていてドロドロになっているものでしょう。
今回のアレは、駅雑炊のようになっていた、というのが自分の予想です。
あくまで予想です。実際に試したこともやらかしたこともありませんからね。スパゲティの茹で汁を「再利用できるかも」と鍋に入れたまま数日放置し、液面にカビを生えさせたことはありますけども。あの時のやっちまった感は悲しかったなぁ。
笑いが取れたのならもはやそれでオッケー。読み手が混乱するようなノンジャンルの作品を、ご一読いただきありがとうございました。
以上、MAXでした。
余談ながら、「猫は祟る」でグーグル検索したら先頭に猫の幽霊に関するお話(コピペ?)が出てきました。不思議なお話で結構面白かったです。
風も穏やかですね。空も晴れてますし、ホエルオーの上だと物凄く星が一つずつくっきりと見えますね。
あー、そうですね、ダイゴさん寝てますから別に返事しなくていいですよ。
こんな明るい星空を満天って言うんでしょうか。私は初めて見ましたよ。隣にダイゴさんがいるからですかね。いつもより綺麗に見えます。学校で習った星座も解りません。ダイゴさんなら解りますかねえ。起きてたら教えてくれたかもしれませんが、今は出来ませんね。
相当疲れてたんですね。ホエルオーが大きいからいいですけど、落ちないでくださいね。
やっと会えたんです。とても探したんです。嬉しく無いわけないですよ。私の好きな人。これが恋することだと教えてくれたのはダイゴさんです。そしてこれが愛だと気付かせてくれたのはダイゴさんです。
あんな手紙一つでいなくなって……心配したんですよ。本当に心配して、いてもたってもいられなかったんです。
でもこうして、この手で触れられる距離にいる。ダイゴさんの髪がさらさらしてて気持ちいいです。よく見えませんが、きっと寝顔も美しいですよ。だってあんなに笑顔が素敵で、優しい人が美しくないわけないです。
頬を撫でたら、少し苦しそうな寝息が聞こえました。起こしてしまったかと思いましたが、そうでもないみたいですね。いいんですよダイゴさんそのまま寝てて。ホエルオーもゆっくりと泳いでますから。
ダイゴさんに貰ったダンバルも、今では立派なメタグロスです。今は連れてきてませんよ、安心してくださいね。
そうですよ。今いるのはホエルオーだけです。二人きりなんですから、ポケモンたちは置いて来ました。ポケモンたちも好きですけれど、私はダイゴさんと過ごす時間がもっと大切なんです。
やっぱりダイゴさんに触れていたいと思います。抱きしめたダイゴさんはいい匂いがします。
好き。大好きダイゴさん。
もう絶対どこにも行かないでください。私と一緒にいてください。
そんなこと言ったら、ダイゴさんはとても困った顔をしましたね。
大好き。誰よりも大好き。そんなダイゴさんを独り占めしたいと思うのは間違ってませんよね。みんな言ってましたもの、それが恋することだって。
でも、ダイゴさんが困るなら仕方ないと思います。
ダメなんですよね、私だと。
ダイゴさんの気持ちは私に向いてないんです。
だからこうして最初で最後のデートにワガママいって来てもらいました。ほら、遠くに小さな明かりが見えるのが、ルネシティですよ。こんなところにまで来たんですよ。
もう二度と離しません。
もう二度と何処へも行かせません。
これが最初で最後だとしても、ダイゴさんがどうしても欲しい。ダイゴさんの気持ちを捕まえることの出来るボールを持っていない私には、この方法しかないのです。
私とダイゴさんを縛って。もっと離れないように私の手とダイゴさんの手を縛って。
さあホエルオー、私たちが海面についたら好きなところへ行って。いままでありがとう。
ここはカイオーガが眠ってた場所。紅色の珠で目覚めて、藍色の珠で眠っていった場所。
私たちもここに眠るの。
深い深い海底に。
誰も起こしに来ることのない、暗い海底に。
苦しく無いよう、眠ってもらってますから。
さあ、行きましょう
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背筋凍る話で盛上がってる中、空気読まずにカップリングだぜ!ダイハルだぜ!
hahahahahahaha!
【好きにしていいのよ】
明日は少しメンバーが替わりまして
No.017
カンツァーさん
小樽ミオさん
での店番となりますー
皆さんよろしゅう〜
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