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  [No.3434] タイトル未定(コジョンドの話) 投稿者:クーウィ   投稿日:2014/10/04(Sat) 15:51:46   69clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


 旭光が静かに踏み込むにつれ、淡い朝靄が動き始めた。夜の冷気を宿す晩春の空気が、色づき始めた草露を残
し、森の奥へと引き退いていく。徐々に強まる白い光は輝きを増し、夜半の雨に打ち叩かれた下草を、力付ける
ように優しく包む。イッシュはシッポウの西に広がるヤグルマの森に、何時もと変わらぬ夜明けが訪れていた。
 シッポウの街並が漸く目覚めようとしているこの時間、既にこの地の住人達は朝餉の支度を終えており、てん
でに箸を取る為稼業を切り上げ、住居の中へと舞い戻っていた。森際に点在する家屋は何れも一風変わった造り
であり、その殆どが広い庭を構え、更によく整備され細かい砂を敷き詰めた一区画を、その真ん中に設けている
。砂敷きの広場には木製の杭が立っており、散々に打ちすえられたらしいそれらはまだ比較的新しく、中には早
朝の鍛錬の結果へし折られた物も混じっている。ヤグルマの森近辺は格闘家の修練場として知られており、南方
の試し岩を基点として、幾つかの個人道場が散在していた。
 無人となったばかりの稽古場が小鳥達の囀りに満たされる中、不意に何処か遠い場所から、微かな矢声が聞こ
えてくる。砂浴びを楽しんでいたムックル達は小首を傾げ、次いで何かに納得したように頷き合うと、小さな翼
をはためかせ、てんでに声のした方へと飛び去ってゆく。雲一つない朝空にゴマを撒いたような黒点が散らばる
と、まるでそれを引き寄せるが如く、再び鋭い気合いが風に乗って、ヤグルマの里に響き渡った。

 踏みにじっていた下草を朝風に散らしつつ、じっと相手の隙を窺っていたコジョンドのスイは、その雪白の痩
身を宙空に閃かせ、眼前の敵に躍り掛かった。鞭の一振りの様に風を切り裂く武術ポケモンは一本の征矢と成り
、自分の一挙手一動を完全に把握しているであろう対戦相手に向け、一直線に突き刺さっていく。
 果たして相手方のポケモンは、彼女の動きに対し的確な反応を示した。既に波導を通し、コジョンドの攻撃を
予測していたのだろう。相手の体が宙に浮いた瞬間には早くも姿勢を下げて地面を蹴り、最早軌道を変える事の
出来ない武術ポケモンの死角に位置すべく旋転する。くるりと半身を廻したルカリオは、必要最小限の動きでコ
ジョンドの攻撃範囲から逃れると、そのまま着地際の間隙に乗ずべく拳を固め、尻尾を揺るがし身構える。
 が、しかし――波導ポケモンが狙い撃とうとしたその隙は、コジョンドが着地寸前に見せた揺らぎによってあ
っさり消え去り、相殺される。完全に掴んでいた筈の相手の波導が予想外の乱れを見せた時、彼女は既に攻撃の
態勢に入っており、踏み込んだ脚は全体重を乗せて、次の一撃に向けた最終アプローチを終えてしまっていた。
「しまった」と臍を噛むのも束の間、次の瞬間ルカリオのリンは鞭の様なもので目元を強打され、出鼻を潰され
た瓦割りは空を切って、蒼い痩身はバランスを失い、大きくたたらを踏む。曝け出された無防備な脇下にはっけ
いを打ち込まれた事により、早朝の一本勝負は呆気ない幕切れを迎えた。
「フェイント、か。引っ掛かった」
 息を詰まらせつつ立ち上がったルカリオが渋い表情で零すと、コジョンドのスイは稽古相手に手を差し伸べ、
苦笑いしつつ応じて見せる。
「見切りにはそうするしかないだろ? お互い様さ」



間に合わなかった企画作品その2。嘗て書いた作品の系列につながる御話。所謂過去編。それ以外については同
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