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  [No.3522] シンデレラ・ガールはくじけない(仮) 投稿者:   《URL》   投稿日:2014/11/30(Sun) 22:40:21   70clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

ガタゴト揺れるトラックの荷台。その片隅で眠る、眼鏡を掛けたひとりの少女。

「……トウマ、君……」

頭をかくんと揺らして、かすれた声でぽつりと呟く。その声を聞くものはおらず、その声が誰かに届くことはなく。言葉を発した少女の耳にさえ入ることなく、瞬く間に形を失って消えてゆく。

ゆらり揺られて数時間。いつまでも走りつづけるとさえ思われていたトラックが徐々にスピードを落とし、やがて完全に停止した。ガチャリ、とドアを開ける音が聞こえ、運転席から誰かが下りてくる。

そして車から下りてきた「誰か」が、荷台の扉を開く……!

「おーい! 着いたぞ夏実(なつみ)! ホウエンのミシロタウンだ!」
「……はっ!」

少女の名は夏実。夏の果実と書いて「なつみ」と読む。

「お父さん……もう着いたの?」
「ああ、思っていたより道が空いていたからね。さあ、ずっとそんなところにいて疲れたろう? 外へ出てゆっくり休むといい」

父に促された夏実は、すぐ側に置いていた小ぶりなボストンバッグを手にすると、すっくと力強く立ち上がって見せた。夏実が外へ出ようとしているのを見た父親は踵を返して、自分の荷物を取りにいくべく運転席へ戻る。

コツコツと足音を立てながら歩き、夏実はトラックの荷台から降りて――大地に一歩を踏み出す。

「ここが……ホウエン地方・ミシロタウン!」
「前に、どこかで聞いたことがあるわ……ミシロタウンのテーマカラーは、一点の曇りもない<白>だと!」
「人はその白を『何者にも染まらない』白だと言う……だけど、わたしの考え方は違う!」
「白! それはまるでからっぽのキャンバス! すべての始まりの色、すべての下地になる色!」
「そして……キャンバスには必ず絵が描かれるように、その<白>はずっとずっと続くものじゃないっ!」
「ただ<未だ白い>だけ! いつか何かが描かれ形をなす! だから<ミシロ/未白>なんだって!」
「……これよ、これ! 新しい……まったく新しい自分に生まれ変わるための一番初めの場所には、これ以上ない場所よ!」

ボストンバッグを地面へぼすっと落とすと、両腕を目いっぱい広げて、夏実が上を、空を、天を仰ぎ見る!

「さよなら昨日までの自分! こんにちは今日からの自分!」
「今までとは違う新しい毎日が! このミシロタウンからスタートするのよ! ここはわたしが<リスタート>する町!」
「ド派手に描いて見せるわ! この未だ白いキャンバスに! パーフェクトな<理想の自分>をっ!」

引越し作業をお手伝いする働き者のゴーリキーさんたち数名が、空に向かって最高にハイなテンションで絶叫する夏実を軽ぅーくざわつきながらチラ見していたのは、これまた別のお話。

 



 

「お母さん! 来たよ!」
「いらっしゃい、長旅お疲れさま。なっちゃんの部屋は二階よ。軽く片付けもしておいたから、なっちゃんの好きなように使ってちょうだい」

先に新居に入っていた母親と軽く言葉を交わしあってから、夏実は自室のある二階へ向かっていく。

夏実は今年十二になる少女であり、家族としては父親と母親がいる。以前はいささか歳の離れた兄も一つ屋根の下で暮らしていたが、もう五年ほど前に旅立ったきりまともに姿を見ていない。最後に顔を合わせたのはいつだろう、夏実の記憶は覚束ない。こんな時、自分の記憶を掘り起こせたら、あるいは過去の出来事をリプレイできたら便利だろうに――と、無駄話はこれくらいにしておこう。彼女はそのような家庭環境で育ち、そして今日! 父親の仕事の都合でここミシロタウンへ引っ越してきたのだ。

だが、彼女は父親の転勤に巻き込まれて、言われるまま着いてきたというわけではなかった。

「――なんでも、ホウエン地方で最近、新しいエネルギー資源になりそうな鉱石が発掘されたらしい」
「父さんは直接石を掘りにいく訳じゃあないが、エンジニアとしていろいろお手伝いをしなきゃいけなくなった。拠点はミシロタウンという小さな町の近辺にあるそうだ」

父は最初、ミシロタウンへは単身赴任で来るつもりでいた。元々住んでいたカントーのクチバシティからはあまりにも、あまりにも遠すぎるし、なんといってもミシロタウンは「℃」いや「ド」の付く超田舎! そんなところに多感な時期の娘を連れて行こうとするほど父親は無粋では無かったし、無茶をする人間でもなかった。割と気の利くお父さんだったのだ。

「というわけで、父さんはしばらく家を空け……」
「お父さん! わたしもミシロタウンへ行きたいっ! みんなで引っ越そうよ!」
「……えぇえぇええぇぇ〜っ!?」

そんなお父さんの配慮を一撃でブッ飛ばしたのは、他ならぬ夏実自身だった。単身赴任でしばらく家を空ける、夏実、それに母さん。しばらく寂しくなるが、必ず帰ってくるからな。その間家を頼む――とカッコよく言い終える前に、夏実が「ミシロタウンへ行きたい」と身を乗り出してアピールしてきたのだ。

「そうね! やっぱり家族みんな、ひとつにまとまってた方がいいわ!」
「か、母さんも!?」

家族はいつも一緒にいた方がいい、母親もそう言ってきたことで、ミシロタウンへは単身赴任ではなく家族総出で引っ越して向かう方向へ一気にシフトした。まったく予想外の展開に、お父さんはすっかりタジタジだ。

「いや、母さんはもしかしたら着いてくるんじゃないかと思ってたから、正直なところそれほど驚いたわけじゃないが、まさか夏実が付いてくると言うとは……」
「そのミシロタウンって、自然がいっぱいのキレイな場所なんでしょ? わたしそういう場所好きだから!」
「ねえお父さん、みんなで引っ越しましょうよ。会社も補助を出してくれるんでしょう?」
「ああ。単身赴任じゃなくて家族みんなで引っ越す方が会社としては負担が少ないし、父さんもそうできるならそれに越したことはないと思っていたが……夏実、本当に一緒に行くのか?」
「もちろん! それに――ちょうど心機一転、新しい場所で新しいことを始めてみたいって思ってたの!」

とまあこんなやり取りの末、夏実は一家揃ってミシロタウンまで引っ越してくるという流れに相成ったわけだ。

さてさて、その夏実が今何をしているかというと――。

「あったあった。お母さん、ちゃんと鏡をここにセットしてくれたんだ」

二階の部屋へ上がって真っ先に向かったのは、部屋の隅に設置された立て鏡だ。普段から自分の容姿をチェックするために使っている何の変哲もない鏡――別に鏡の向こうに別の世界があったりするわけでもない、受けた光を機械的に跳ね返すだけのただの鏡だったが……。

「いよいよ……いよいよ! この時がやってきたのね!」

それを見つめる夏実の瞳は、真夏の炎天下を齎す太陽のように燦々と輝いていた。「キラキラ」などという可愛げのある形容ではまるでなまぬるい、「ギラギラ」した強烈な眼光をほとばしらせながら、鏡の向こうにいる自分――眼鏡を掛けて、少し野暮ったいワンピースを身に着けた<自分>に語りかける。

「さあ夏実、目に焼き付けておくのよ」
「――これが<わたし>よ。さよならを言う<わたし>……!」
「ここでお別れをして……もう二度と! 戻ってこない!」

言い終えるや否や――夏実は手に提げていたボストンバッグのジッパーを、バァァァッ! と勢いよくオープン!

「男は度胸、女は愛嬌って言うけど、女の子にだって度胸が必要な時があるわ!」
「そう! 今この瞬間こそ! わたしには<度胸>が必要なのよ!」

バッグの中から取り出した真っ赤な布を掲げて、夏実は大きく目を見開いた……!

 



 

夏実が部屋にこもってから……きっかり一時間が経った。

「……OK、OK」
「バッグに入れてあったものは全部使った、何も余ってない、足りないものもない」
「チェックリストには全部○が付いた、空白も×もひとつもない、ただ○があるだけ」
「おかしな感じがするところはどこにもない、このまま走り出すことだってできるわ」

パタパタと体を払い、腕をぐるりと回し、ついでに首もぐりぐりやっておく。どこをとっても異常は無い、まさしく最高のコンディションだ。

夏実にとって、この一時間は人生で二番目か三番目かに長い一時間だった。蛹が羽化し蝶となるには相応に長い時間を必要とするが、彼女の変身にもまた、これくらいの時間が必要だった。

そう――彼女は<変身>したのだ!

「どジャアア〜〜ン!」

なんだかイマイチよく分からないがとりあえず見てくれのインパクトだけはある両手を広げたポーズをキメて(少なくとも夏実の認識ではキマっているのだ)、夏実が今一度鏡を見やる。

「で……できた……ついにできたわ……! イメチェン第一歩・大成功よ!」
「これが新しいわたしっ! 言わばニュー夏実っ!」

そこに映し出されていたのは! 先程までとは似ても似つかない、別人としか思えない少女の姿だった! テンションの上がった夏実が、ひとつひとつ丁寧に自分の容姿について説明していく!

「坂道だって山道だってずかずか歩けるスパッツ! アンド・スニーカーっ! でもってグローブも装着!」
「腕も脚もこーやって肌を見せて、健康的に! それでもってテーマカラーは派手に燃え上がる赤!」
「地味っ娘の象徴・『眼鏡』も今日でおさらばよ! コンタクトに変えただけで……ホラっ! お目々ぱっちり!」
「髪だってばっさり切ったわ! それだけじゃないっ! 見てこの左右オンリーのオリジナリティあふれる髪型! アクティブ感六割増し!」
「そしてそして……これよこれ! モンスターボールのシルエットの入った……真っ赤なバンダナ!」

夏実が自信を持って語るだけあって、その容姿の変貌ぶりは間違いなくホンモノだった! イメチェンという言葉がここまでストレートに伝わる変化も珍しいだろう。彼女の思い描く「新しい自分」への変身は、確かに成功していた!

「どうよこれ! どこからどう見たって『外でアクティブに動いてそうな活発な女の子』そのものよ!」
「『窓際で頬杖を付いているか図書室で借りた本を読んでそうな女の子』……そんなのとは無縁のアグレッシブさ!」

窓際で云々というのは、彼女が昔クラスメートから言われた言葉を丸々引用したものだ。見てくれを変える前の夏実は、その文句がぴったり当てはまる、超の付く「地味っ娘」だった。いつもどこかおどおどしていて自分に自信が持てない、穏やかな性格という言葉は臆病な気質と紙一重。

そんな自分にサヨナラバイバイすべく、夏実は今こうして革命的なイメチェンを図ったのだ!

「か……完璧、だわ……! まるでわたしじゃないみたい……!」
「はっ……! そうよ、<わたし>じゃない! <わたし>じゃないんだわ!」
「これからは<あたし>! もっと強気でアグレッシブでイケイケ感たっぷりの<あたし>にする!」
「<あたし>は地味っ娘をやめるわ! 夏実ぃーっ!!」

文字通り言葉通りのドヤ顔を決めて絶叫し、最後に夏実は満足げにニヤリと笑った。

さて、ひとしきり満足したところで、夏実は次なる一歩を踏み出す。

「さあ! この<あたし>の見事な変身っぷりを見せつける最初の相手には、やっぱりお母さんが相応しいわね! だって今までの<わたし>の姿を一番見慣れてるわけだし!」

ノリノリで階段を降りる夏実。心なしか、いやどう見ても確実に足取りも軽い。生まれ変わった自分を見て、母はどんな顔をするだろうか、どんな声を上げるだろうか、どんな反応をするだろうか。想像するだけでワクワクしてくる。こんなに清々しい気持ちになったのは久しぶりのことだ。夏実は鼻歌を歌いながら、階段の最後の一段を降りた。

と、ちょうどそこに母親が立っていたではないか。そしてそのまま、階段を降りてきた夏実とハタと目が合う。

「あら――」

驚きの表情を見せる母。そう、これが見たかったのだ、夏実が不敵に微笑む。

そして、母親が口にした言葉は――。

「――もう遊びにきてくれたなんて、うれしいわ。ごめんなさいね、家の中、まだ片付いてなくって」
「……はい?」
「夏実は二階にいるわ。おとなしくてちょっとのんびり屋さんだけど、仲良くしてあげてちょうだいね」

明らかに反応がおかしい。というかどういう反応だ、これは。

(ははあん。お母さんったら、あたしのことをミシロタウンに元から住んでた別の子だって勘違いしてるのね。直感で分かったわ)

「ちょっとちょっとお母さぁん、何を言ってらっしゃるの? あたし夏実よ、二木夏実。押しも押されもせぬ、あなたの実の娘でございますよ?」
「……えっ? なっちゃん? あなた、なっちゃんなの……?」
「もちろん。ちょーっと見てくれは変わっちゃいましたけどネ! ついでに一人称もチェンジチェンジ!」

左右にぴょこんと伸びた髪をファサアッとやりつつ、夏実が本日二度目のドヤ顔を決める。お母さんはぽかんとアホの子のように口を開けて、完全に別人と化した娘を見つめるばかりだ。お母さんの驚きっぷりに、夏実も満足している様子。

「さ、ちょっと出かけてくるわ! なんか今すごくいい気分なの! 新しい自分に生まれ変わったって感じでね! なんかこう首から下が別人になったみたいだわ!」
「あっ、ちょっと、なっちゃん……!」
「行ってきまぁ〜す!」

母親の声をよそに、夏実は玄関のドアをバァン! と開けて颯爽と外へ歩き出す!

「新しい町、新しい風景、そして新しい自分! 何もかもが新しいっ! とっても気分がいいわ!」
「ついでに家も新しく……あらぁん?」

夏実はてっきり、今日ここミシロタウンに越してくるような人は、自分たち一家くらいのものだろうと思っていた。

だが――夏実は目にする。お隣もピッカピカの新品であること、そしてまだ配送業者のトラックが止まっていることを!

「へぇ〜、お隣さんも引っ越してきたんだぁ!」

そう! 新居は「二軒」あった!

「新しいのはお隣さんもってことね。ここはひとつ! 挨拶回りといきまっしょい! やるっきゃないのよ!」

得意気にふんと鼻を鳴らして、夏実がずかずか歩いていく。夏実は外見の変身に成功したのをきっかけに、自分の内面にも容赦なくメスを入れていこうと意気込んでいた。引っ込み思案で臆病なかつての自分を捨て去るべく、今までではまずやらなかったようなことにも大胆かつ果敢にチャレンジしていこうというのだ。

して、お隣さん家の扉の前までやってきた夏実。すぅーっと一度深呼吸をして、準備はすっかり整った。お隣さんがどんな人でも、元気いっぱい挨拶して見せよう。これは新しい自分に完全に生まれ変わるために必要な試練なのだっ。夏実は固い固ーい意志を持って、扉をコンコンとノックした。

「ノックしてもしもぉーし?」

今行きまぁーす、という元気な声が聞こえてくる。ふーむ、この声色は女の子かしら、それもあたしと同い年くらいの。一体どんな子かしら、けどどんな子でも仲良くなって新しい人間関係を――。

などと結構のんきしていた夏実の目に飛び込んできたもの、それは!

「はぁーい! こんにちは!」
「こんにち……はぁぁぁああ!?」

夏実が目にしたものを彼女の口から説明することは期待できなさそうなので、私の口から説明しよう。

現れた少女の風貌は――夏実とほぼ同じ背丈の、夏実とほぼ同じ体型だった。ここまでは何も珍しいことではない。その少女は赤・白・黒でカラーリングされたスポーティな服を身に着けていた、夏実とまったく同じだ。アンダーは黒いスパッツ、夏実とまったく同じだ。手にはグローブ、足にはスニーカー、夏実とまったく同じだ。左右にぴょこんと伸びた独特のヘアースタイル、夏実とまったく同じだ。そして頭には白いモンスターボールの柄が入った赤いバンダナ。

夏実とまったく同じだ。

(ど、どどっ、どういうことぉ!?)
(あああ……あたしが! あたしが目の前に<いる>っ!?)

目の前の少女は――夏実とまったく<同じ>だったのだ!

「ま……まさか――D4Cっ!? D4Cの攻撃が始まってるって……!」

夏実は恐怖した。こんな何の取り柄もないただの女子小学生を、大統領が直接攻撃してくるとは! もしかして自分は合衆国にあだなす存在だと思われたのだろうか。これといって何か敵対的な行動を起こした記憶はないし、大体合衆国には行ったこともない。人違いか何かとしか思えない! 夏実の頭はグルグルするばかりだ!

とまあ、混乱の極みに陥ってひたすらグルグルしている夏実を見た相手の少女。しばらくきょとんと首を傾げていたものの、やがてポンと手を打って。

「<引越し>……あっ! もしかしてあなた、隣に引っ越してきたっていう『ナツミ』ちゃん?」

あまりの活舌の悪さに「D4C」を「引越し」と聞き違えられてしまうほどだったが、それは偶然にも会話の扉を開くキーワードになった。

「は? え? あ、はい……確かに今日、お隣に引っ越してきたばっかりですけども……」
「やっぱり! さっきあなたのお母さんがうちに挨拶しに来てくれたのよ。その時に『ナツミという娘がいますので、よかったら仲良くしてあげてください』って言ってたわ」

母の言っていた不可解な言葉の意味を、ナツミはここに来て正確に理解した。母は先にここへ挨拶に出向いていて、その時にこの少女――イメチェン後の自分に徹頭徹尾クリソツなこの少女と既に出会っていたのだ!

「見ての通り、私も今日引っ越してきたばっかりなの。ほら、あそこに止まってるトラック。そこの荷台に乗ってきたのよ!」
「えぇえーっ!? そ、そちらさんもたった今日来たばっかり!? それもトラックの荷台に乗ってぇーっ!?」

ナツミはもう驚きっぱなしだ。何から何まで自分にそっくりな女の子が、手を伸ばせばハイタッチできそうなくらいの近くにいるのだから!

(『イメチェンしたらお隣さんと双子みたいになっちゃった』……これはピッピも月までブッ飛ぶ衝撃……!)
(か、変えてみる……? 細かいところをちょこちょこと……い、いや! そんなわけには行かないわ! だってこのスタイルにたどり着くまで一ヶ月と二十日かかったのよ! 今更ちょこまかいじるなんてできっこない! やりたくない!)
(それに――これは<あたし>が作ったイメージ! このお隣さんに目玉が飛び出るくらいソックリなのは絶対的な事実だけど、それとこれとは話は別っ! あたしはあたしで、他の何者でもないんだから!)

一人で葛藤しつつ、チラチラとチラーミィよろしくお相手の容姿を窺う。

(で、でもほら、細かいところを見ていけば結構違いが……)
(……ああぁあ〜っ! 違いが見つかるどころか細部まで余すところ無く徹底的に似ていることを今一度再認識せざるを得ない〜っ!)

見れば見るほど完璧に一緒で、ナツミはその度に衝撃を受けまくるのだった。もういろいろとボロボロだ。

「ええっと、大丈夫?」
「だ、だいじょぶです……すいません、めっちゃくちゃ取り乱しちゃって……」
「ううん。仕方ないよ。だって扉を開けたら、自分にすごくそっくりな人がいたんだもの。私だってすごくビックリしたわ。でも、なんだかすてき! めったにできない経験だもの!」

ビックリした、そう言いながら朗らかに溌剌とした笑みを見せる少女の姿を、ナツミは食い入るように見つめる。明るく、アクティブで、元気な女の子。自分はこんな女の子になりたくてイメチェンをしたのだ。彼女の様子を見るに――イメチェンの方向性そのものは、決して間違っていなかったのだと自覚する。

「そっか……そうですよね! こんなこと、ちょっとやそっとじゃ起きないですし!」
「うん! 私とナツミちゃんだから起きたことだよ。これって、なんだか運命を感じちゃうね!」

はきはきと明るく話す少女に、ナツミはとても強い好感を抱いた。こんな人のそっくりさんなら、あたしだって大歓迎だ。暖かな気持ちが満ちていくのを感じる。

「改めて――初めまして、ナツミちゃん。私、<ハルカ>っていうの。よろしくね!」
「はい! ハルカさん、よろしくお願いします!」
「あははっ、そんなにかしこまらなくていいよ。もっと気軽に呼んでほしいな」
「気軽に……じゃあ、ハルカちゃん! よろしくね!」
「うん! その方がいいよ! ナツミちゃん!」

ナツミとハルカ、ハルカとナツミ。まるで鏡写しのような二人が、互いに手を取り合って笑う。

「あっ……そうだ。ひとつだけ聞かせて」
「えっ? ハルカちゃん、どしたの?」
「私のこと――どこかで見た記憶って、無いかな?」
「ハルカちゃんを……見た記憶……?」

今までとは少し違う神妙な面持ちで、ハルカがナツミに訊ねた。自分をどこかで見た記憶は無いか。突然の質問に、ナツミは大いに困惑した。

(ど、どうしよう……)

何故か、というと。

(全っ然そんな記憶無い……! もしかして超昔にハルカちゃんとどこかで会ったり遊んだりしたのかもしれないけど、さっぱり思い出せない……!)

これっぽっちも記憶に無かったからである。ハルカも「初めまして」と言っていたし、多分これが初対面のはず。けれどあの訊ね方は「昔どこかで会っていて親しくしていた友達」に訊ねるような言い方だ。あるいはどこかで面識があったのかも知れない、だが悲しいかな、ナツミはちっとも思い出せなかった。

追い詰められたナツミは、最後の手段を取ることにした。

「ご、ごめんなさいっ! まったく無い、です……昔どこかで会ってたら、本当にごめんなさいとしか言えないよ……」

最後の手段というか、普通に謝罪した。忘れたことを怒られようとも、やっぱり人間正直なのが一番なのだ。

「ホントに? ホントだよね?」
「うん……はあ……あたしってこう、人の顔覚えられなくって……」
「私たちは完全に初対面で、ナツミちゃんは私のこと全然知らなかった、顔も見たこと無かった、そうだよね?」
「そう、その通り……あっ、でもでもっ、今のでハルカちゃんの顔は覚えたよ! 覚えたっていうか憶えた! うん、今ので憶えたっ!」

これが完全な初対面だ、ナツミがそう言いきったのを見たハルカは。

「――よかったぁ! やっぱり運命だったんだね! すっごく嬉しい!」
「へ? ハルカちゃん、あたしには何がなんだかさっぱり……」
「ふふふっ、何でもないよ。ただ、ナツミちゃんに会えてよかったってだけ!」

ナツミの立てていた予想に反して、大いに喜んでいた。いまいち理由が飲み込めなかったものの、ナツミにとってよい流れになっているのは間違いなかった。

「ごめんね、ヘンなこと聞いちゃって」
「ハルカちゃん……」
「でもね、聞いときたかったんだ、どうしても。もしかしたら、って思っちゃって」
「……分かる、分かるわその気持ち! だって<納得>はすべてに優先するもの! あたしだってそう思う!」
「分かってくれてありがとう、ナツミちゃん。さ、この話はもう終わりにして……」

うちへ上がってお茶でも飲みましょ――ハルカがそう言いかけた、刹那のことだった。

 

「うわああぁあ! たっ、助けてくれえっ!」

 

二人の耳に飛び込んできたのだ! 助けを求める誰かの悲鳴がッ!





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本当は12/4まで待つべきところですが、今日の朝から書き始めたらほぼノンストップでここまで来た(来てしまった)ので投稿しました。いいや! 限界だッ! (投稿ボタンを)押すねッ!

キリのいいところというか、本来この先まで書いて初めて第一話だろ! と言われそうなところでぶち切れてますが、
来年の頭くらいから本文を書き始めて、年末くらいにどーんとまとめて公開できればいいな、と思ってます。
うちにしては珍しく(自覚有)、全編通して明るくド根性なノリで攻めていきたいです。
がんばれナツミちゃん! 泥まみれになっても血まみれになってもイメチェンを果たすべくがんばるのだ!

それにしてもセリフにも地の文にも後書きにもつくづく「!」が多いお話だと思います。


(以下余談)
先日遅ればせながらアルファサファイアを始めまして、せっかくなので女の子主人公を選んだのですが、
うちの悪い癖で小説と絡めたくなり、さりとてルビサファ♀主人公モデルのキャラクターなんで誰も居ないぞ……
と諦めかけていた時、「かごの外へ」に「ホウエンに従姉妹がいるモブ(※大介君)」がいたことを思い出し、
じゃあそのキャラクターになりきろう、せっかくだからここで名前も付けちゃおう! ということで爆誕したのが
このナツミちゃんです。
外見は本文中でもしつこく触れていますが、ルビサファ♀主人公そのものです。が、本人が知恵を絞って
イメチェンした結果偶然似てしまったというあまり類を見ない(考えついてもやらない系のアレ)設定の持ち主であり、主人公本人ではありません。
そんなある意味「コスプレしただけのただの一般人」とも「ハルカとユウキに続く第三の主人公」とも言える何とも言えない立ち位置のナツミちゃんを主人公に、
うちがプレイ中に起きた出来事や思いついたネタを混ぜた半プレイレポ的な凸凹珍道中を描けたらいいな! なんて思っています。期待せずにお待ちください。


(さらに余談)
投稿ボタンを押す直前に、なんとなくスレ全体を読み返しました。
するとなんということでしょう! ナツミちゃんが既に登場していて目を疑いました。
これこそD4Cの攻撃と違うん? と思いました。

(´・ω・`)<鳩さん……名前が衝突したのも運命なんや……堪忍な……


(エクストリーム余談)
「鳩さんの新作と586の新作でキャラクターの名前が衝突する」事件は、実は去年も「シズちゃん」で起きていました。

(´・ω・`)<あのね、「ツクシ」のお母さんやから「スギナ」にしてん……原作に無い名前やったしこれしかない感あったから即決やってん……


完。


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