1、カリバーン
我が名はカリバーン。一振りの大剣と堅牢なる大楯なり。つまるところのギルガルドである。カリバーンとは我が主たる永遠の姫君が付けられた有難き銘であり、我が誇りたる名である。つまるところのNN(ニックネーム)という奴である。仰々しいと言うなかれ、我は結構気に入っておるのである。
何? 主が永遠の姫君とはなんであるか? ははぁ、確かに気になる所であろう。けれど存外難しい事ではない。比喩でも揶揄でも何でもない、文字通りの永遠である。つまるところの不老不死という奴なのだ。無論、我も右に同じくして不老であり不死である。
見よ、この錆ひとつない刃を! 手入れを怠っていないことは勿論だが、全盛期から不老を取り付けられたと考えるとその点においては悪くはなかったのだろう。……もっとも、物語における不老不死と違わずに、良い点悪い点など数えれば不思議な事に悪い事ばかりが多いのも変わらないのだが。
少し話がずれたが、我が主の話であったか。若々しさ、初々しさ、変わらぬ容姿はもはや枯れぬ華と同じくして、けれどそれは造花でも干した花でもない! あぁ、なんと麗しい事か。カロスの娘はみな流行に敏感というだろうが、我が主の前には一時の流行り物に身を包んだだけの付け焼刃の小娘などかすんでしまうだろうよ!
……あぁ、すまぬ、我が主の素晴らしさではなかったな。何故不老不死などというけったいな事になったのか、が知りたいのだろう? 皆同じことを尋ねる顔をするのでね、分かっておる分かってる。
けれど何も難しい話ではない。大昔、不老不死になった男がいた。何故その男は不老不死になったのか? カロスの400年前の戦争は知っているだろう? 最終兵器の光、だったか。そいつをあびると消えた命がもう一度灯り、輝く命は永遠のものとなるという。それを100年ほど前だったかな、優秀な、それはそれは優秀な紅い科学者が紅い服の集団をまとめ上げてもう一度使おうとしたのよ。
それを止めたのが、当時まだ駆け出しのトレーナーだった我が麗しき勇気溢れる主よ。あちらこちらで騒動を起こして回るフレア団、とか言ったそいつらを鮮やかに蹴散らして周り、遂にはボス所まで追い詰めて、見事うちまかした。無論その時の吾輩の活躍足るや、主の指示の元ばっさばっさと敵を切り伏せたものだ。
けれどな、最後の最後で最終兵器は天に向かって一発放たれてしまったのだよ。けれどその光はくるりと空で宙返りして兵器そのものに降ったのだ。かくして兵器は二度と光を撃つことなど無くなった。……これが、当時の見解だ。
けれどな、けれど、その光をな、我が主と、主を守護する我を含む6体のポケモンは、天に昇っていくその光を浴びてしまったのだよ。その時は浴びたなんて思いもせんかったのだ。何せ敵の大将首を倒してから、主の御友人たちを先に逃がし、そして自らが逃げるのに必死で、背後の強烈な光になんて気が付きなどせんかったのだから。
長らく地中に埋まっていて、老朽化が進んでいたのかもしれぬ。天に昇るだけの光は、おそらくどこかの日々から漏れていたのだろう。そして、我が主と、当時敵のボスとやらを討ちとるがために我が主が選りすぐった6体の猛者には幸か不幸か、不老不死がプレゼントされた、というわけだ。どうだ、実に面白くとも何ともないだろう。
最初は誰もが気が付かなかったのだ。それはそうだろう。たったの1年か2年のそこらで気が付くはずはない。主はそのあと、破竹の勢いでこのカロスのチャンピオンまで上り詰め、しばらくのんびりしておられたしな。
異変に気が付いたのは5年だか、いや10年だったか。もう年月など曖昧でな。ただ、主殿の御友人殿には明確な変化が現れ出していたのにも拘らず、主殿だけは何も変わらなかったのだ。背が伸びるだの、声が変わるだの、そういう変化が、主殿には一切起らなかったのだ。これは妙だ、と主殿は考えたし、友人殿も考えた。さらに10年か何かが経過して、いよいよそれは確信にしか変わらんかった。
ついに主殿はカロスの地を飛び出した。廻った先は別の土地よ。自分を知らぬ人間しかいない場所へ主殿は飛び出して、ぐるぐるぐるぐるあちらこちらを回られた。無論我もついておったさ。と、いうよりも、あの時の6体以外は主殿はほとんどつれなかったのだ。
ふむ、延々とこの話では暗くなるな。
ひとつ、我と主殿の出会いの話でも致そうか。
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お風呂の中でなんか浮かんだフレーズを書きなぐっただけ。
XYの最終兵器の光をうっかり浴びちゃって主人公とその手持ち6体が不老不死になった、っていうネタがずーっとあったんだけど、いまいち形にならなかった。
のを、お風呂入ったら突然カリバーンとかいうギルガルド(手持ちにギルガルドは絶対入っているっていうイメージはあった)が登場して語りだしたのでしばらく語らせてみたけどなんだこの主人公大好きな大剣は。
そういう話。続くかどうかは知らない