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  [No.3374] シロガネ携帯獣記 炎馬の王 投稿者:ラクダ   投稿日:2014/09/10(Wed) 23:24:42   145clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:一粒万倍日】 【企画】 【書き出し】 【芽が成長しますように!

 ジョウトとカントーに跨る霊峰、シロガネ山。数多の強者がひしめくこの山に、一際名を轟かせる猛者がいた。
 彼の名はライカ。シロガネの麓に生息するギャロップの中で、歴代最も大きな群れを率いた長である。
 大地を駆ける音、雷の如く。たなびく赤焔のたてがみ、猛火の如き気性を表す。畏敬と賞賛の念を持って、人々は彼をこう称した。
 誇り高き炎馬の王、シロガネ平野を統べる主――そして、彷徨う孤独な炎馬の王、と。
 
 これは、栄光と自由の中に生きた一頭のギャロップの物語である。


 まだ幼い仔馬の頃から、彼はすでに王者の頭角を現していた。輝く炎を纏う美しい容姿もさることながら、その年に産まれたポニータの中で一番足が速く、また気性も荒かった彼はあっという間に仔馬たちのリーダー格に納まった。子分を従えて颯爽と走り回る様は微笑ましくもあり、同時に将来有望である事を予感させるものだった。
 独り立ちを迎え群れを出た後は、同じく所属を持たない若い雄馬達を纏め上げて新たな集団をつくり、互いに争うことで自分の能力を磨き上げた。天性の俊足に加えて、戦闘での立ち回り方や仲間内での優劣のつけ方を学んだ彼は、数年後、小さな群れを率いる長へその座をかけた闘いを挑むことになる。
 燃え盛るたてがみから激しい火花を散らしつつ、二頭の雄馬が対峙する。甲高いいななきで相手を牽制し、前足を踏み鳴らし地を掻いて自らの力を見せつけ、睨み合ったまま有利な位置取りを探してぐるぐると歩き回る。互いに一歩も引かないことを悟った彼らは、ついに雄叫びを上げて相手に突進した。
 首筋を狙って食らいつき、身を翻して後足を蹴り出し、棹立ちになって前足を叩きつけ、ごうごうと音を立てて燃えるたてがみや尾を打ち振るう。両者の闘いは互角に見えた。年長の雄馬には豊富な経験と技量があり、若い雄馬にはがむしゃらに突き進む体力と気力があった。
 何度もぶつかり合い、退き、またぶつかる内に、やがて群れの長に疲労の色が見え始めた。動きに僅かな躊躇いとふらつきを見て取ったライカは、ここぞとばかりに相手を攻め立てた。とうとう決定的な後足の一打が雄馬の胸に叩き込まれ、長は悲鳴を上げてくるりと背を向けた。
 走り去る敵を、ライカは追わずに見送った。勝敗は決した、群れの長との激しい戦いに打ち勝って見事その座を手に入れたのだ。
 野性の世界は厳しい。弱肉強食の理の中で暮らす生き物達は、本能的に強い者を求める。雌馬達は自分と仔を生かす為、老いた統率者より力を示した若き挑戦者を選び、自ら進んで頭を垂れた。座を追い落とされた古き長は失意のうちに群れを去り、代わって新しい長が誕生した。
 自分の群れを手に入れた彼は、それを守るために全力で戦った。幼い仔馬を襲うリングマに真っ向から立ち向かって撃退し、縄張りを巡って他の群れと争い、虎視眈々と最高位の乗っ取りを狙う雄馬達を蹴散らし。全てにおいて優位を保った彼の元にはその強さを慕った雌馬達が集まり、また強力な庇護の下で産まれた仔馬たちは、外敵の脅威にさらされることなくすくすくと育った。時が経つほどに群れは栄え、いつしかシロガネ平原に住まう者の中で一大勢力を誇ることとなった。
 しかし、彼に注目していたのは同族のみならず。野生ポケモンの最大の敵――人間もまた、この強く逞しいギャロップに深い関心を示したのである。
 野を疾駆する彼の姿を見た者は、その速さに舌を巻いた。敵と対峙する彼を目の当たりにした者は、凄まじい気迫に度肝を抜かれた。燃えるたてがみを振りたてて誇らしげに歩く様は、見る者全てを魅了した。
 大地を駆ける音、雷の如く。たなびく赤焔のたてがみ、猛火の如き気性を表す。その素晴らしいギャロップの噂はシロガネ山から遥か離れた土地まで轟き、いつしか人々の間で『シロガネ平野の炎馬王ライカ』として知られるようになった。
 噂が噂を呼び、ライカはますます神格化されて語られる。比類なきギャロップと称されたその内容は、残念ながら欲深な人間達を引き付けるに余りあるものだった。
「その足の速さはレースに使える、きっと優秀な成績を収めるだろう」
「いや、それほど力のある馬なら戦わせるべきだ」
「何を言う、美しい姿を活かしてコンテスト用に仕立てなければ」
 各々の目的の為に、彼を手に入れたいと願う者は沢山いた。そんな人間が大挙して押し寄せ、基地とされたシロガネの麓は黒く染まった。無数に蠢く人間達を警戒し、恐れをなしたポケモン達は山の奥地や洞窟の中に身を隠したが、しかし彼の群れは逃げも隠れもしなかった。欲望にぎらつく二本足どもを横目に、悠々と草を食み野を駆ける。
 ギャロップ達は知っていた。群れが戴く長は賢く力のある者で、どんな脅威からも守ってくれるのだと。
 けれどギャロップ達は知らなかったのだ。人間がいかに狡賢く、執念深い生き物であるかを。



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 今一番時間を割いて書いているもの、元ネタはシートン動物記の野生馬のお話。
 企画に便乗して上げさせていただきました。一粒万倍日ってとっても縁起のよさそうな素敵な響き、完成しますようにできますようにと願いを込めて。
 皆様の作品もどんどん芽が出て成長しますように!


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