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  [No.3396] 蜘蛛の糸(仮タイトル) 投稿者:きとら   投稿日:2014/09/17(Wed) 20:13:59   96clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:かきかけ】 【いきおい】 【ホムハル

 あそこで失敗しなければ。元より関わらなければこんなことにならなかった。わかっていても、時間は戻せず、記憶も消せない。
 マグマ団との勝負に負け、拘束されてアジトまで運ばれた。目撃者などいない。最初からハルカがいなかったかのように、持ち物やポケモンも全てマグマ団の連中に奪われた。
 何をされるかわからない恐怖に、ハルカは何度も謝りの言葉を述べた。しかしそんなことで満足するわけがなく、連中は楽しそうにハルカを見ていた。幹部の許可が降りたら楽しい時間になるよ、と嫌な笑いを浮かべて。
 縛られて鎖でつながれたハルカを、体格のいい男たちが囲んでいる。見下ろされ、身動きが出来ずにハルカは震えるだけだった。
「ウヒョヒョ。やーっと捕まえたか」
 すぐさま幹部がやってきた。何度かハルカも会ったことがある。ホムラと名乗る細めの男は楽しそうだった。ここにいる男たちはやっと復讐できると楽しそうな顔をしていた。
「おい、どうだ? 散々コケにしてきたマグマ団に囲まれる気分は?」
 ハルカの前髪をかきあげ、ホムラは顔を覗き込む。恐怖でホムラの顔を見ることができない。するとホムラはハルカの前髪を引っ張る。ハルカから小さな悲鳴が上がった。ホムラは立ち上がる。手から茶色の髪が2、3本落ちた。
「ふーん、最初からそうだったらこんな目に会わなくて済んだのにな」
「……ごめんなさい」
 ハルカは必死だった。この男が何を考えているかは分からないが、マグマ団で誰よりも危険だということを本能で察知していた。そんな危険な男が率いる集団で、命の保証はない。
「今更謝っても遅えんだけどな。その心意気に免じて俺様のペットにしてやるよ。それともみんなに楽しませてもらうか? 選ばせてやるなんて俺様優しいだろ? ウヒョヒョ」
 ハルカに選択の余地はなかった。

 仮眠室のような狭い部屋に押し込められる。後から入ってきたホムラが扉の鍵を閉めた。これから何をされるのか分からない。ホムラから遠ざかるようにハルカは部屋の隅の方へ隠れるように身を置いた。
 ホムラは何やらロッカーの中を漁っている。一度ハルカを難しそうな顔をして見たが、すぐにロッカーに視線を戻した。
 殺されてしまうのかもしれない。もう逃げ場はなく、ホムラに背を向けてただ祈っていた。家族や友達に二度と会えない。そんなの嫌だ。でもハルカにはどうにもできない。ホムラの機嫌次第では……。
 いきなりハルカの頭に布が被さる衝撃が来た。必死で払いのけた。
「何やってんだ。それ着ろ」
 ハルカが払いのけたのは、マグマ団がみんな着ている服だった。上下揃ったセット。何を言ってるのか分からない。
「だから今きてる服の上からでいいから、それ着ろ」
 反抗することは許されない。恐る恐る服を取る。一番小さなサイズを選んだようだが、ハルカには大きくてダボダボ。
「あんま似合わねえなウヒョヒョ」
 ホムラが扉を開けた。引っ張られるようにハルカは立ち上がる。引きずられるようにマグマ団のアジトの中を歩いた。他の団員たちとすれ違うも、ハルカを新入りと勘違いしているのか誰も疑問を抱かないようだった。
「で、俺のペットならお前の荷物は俺のもの。俺が引き取っても問題ないな」
 倉庫らしきところに、ハルカの持っていた荷物とポケモンが乱雑に放置されていた。ホムラはそれらを手にすると、ハルカに押し付ける。
「ペットなら荷物くらい持て」
 そういって強引に押し付ける。
「それでなぁ、そこの扉あけると外に出ちまうわけだ。」
 するとホムラはハルカの両肩を掴み、鋭い眼光で目を見た。
「今回は見逃してやるが、次に俺たちの邪魔をしたら容赦しねえウヒョヒョ」
 ホムラの威圧感に首を縦に振る。
「最近のガキにしちゃ聞き分けいいじゃねーか。さっさと帰って夕飯にしろ」
 ハルカの頭を撫でた。そして扉を開ける。外の光が入ってきた。行け、とホムラに背中を押されてハルカは扉をくぐった。背後でバタン、と閉まる音がした。今後二度と振り返ることなくハルカは走り出した。
「隊長、今度うちらにも楽しませてくださいよ」
 団員が話しかけてくる。ホムラは軽く頭を叩いた。
「俺はあんなガキに興味ねーよ。お前あんの? ちょっとお前の神経疑うなぁウヒョヒョ」
 ホムラはハルカを抹殺しろなんて命令はしていない。俺が説教してやるから連れてこいと言ったのだ。それが団員任せだと暴走気味だ。よくない傾向だと同じく幹部のカガリも頭を悩ませていた。


 マグマ団の栄光はそれからしばらくして陰りを見せ、そのまま解散してしまった。窃盗や社会に不安を与えたとして幹部ら数名が責任を取ることとなった。
 そして本日、ホムラはその期間を終えて再び社会へと戻る。持ち物はその間の対価であるわずかな金と数日の着替えのみ。
 昔の仲間に連絡を取ろうにも、みな行くあてもないようなやつらばかりだった。そんなやつらの唯一の場所としてもマグマ団は存在していた。それがない今、マグマ団みたいな組織を作って、前のように居心地のいいものを作ろうか。あの時のことが昨日のことのように思い出される。
 持っていたポケモンは引き離され、再び育てる気力もない。トレーナー資格を再び取得しても、また離されてしまうのでは取っても無駄だ。
 これからどうやって生きていこうか。まだ30にもならないのに、先は全く見えない。
 人通りの多い場所に出る。なんとなくポケモンセンターに入った。トレーナー関連の仕事にありつけるのではないかと思った。しかしそんな都合よく出ているわけはないし、あってもホムラより腕の立つ人間などたくさんいる。
 設置されているテレビでは、注目のバトルを放送していた。何となく見ていると、なんだが知ってる名前がそこにある。顔が映った時、ホムラは驚いた。
「あいつ、チャンピオンになりやがったのか」
 団員に負けて大泣きしてた子供は、いつの間にか成長していた。確実に年月は流れていた。
「人間って変わるんだな……」
 顔こそ変わってないようだが、雰囲気は王者そのものだった。あの時のハルカがこうなるとは誰が予想できたのか。
 何なら、チャンピオンの過去をバラしてその筋で金を貰うか。しかしそれをバラしたところで色恋沙汰ではないから大したダメージは無いだろうし、社会的信用も向こうのが高い。やるだけ無駄だとテレビから目を逸らした。
 
 ポケモンセンターから出て、再び人混みの中に混じる。何もかももうない。行く場所もない。
 終わったか。陸地を増やすという夢が散って、残ったのは生きる場所もないという現実。今日も明日も生き残らねばならない。なのに生き残る術は奪われた。せめてポケモンたちさえいれば、頑張ろうという気になったのに。
 はっはっはっという息遣いが近くに聞こえる。強そうなグラエナがホムラの顔を覗き込んでいた。人懐っこく、ホムラの顔を舐めた。撫でるともっと、と言うように顔を舐めてきた。
 強そうな外見とは裏腹に、仕草がとてもかわいい。前に持っていたグラエナも同じような仕草をした。もしかしたら、という期待で同じ名前を呼んでみる。グラエナはさらに嬉しそうにホムラに寄ってきた。
「運命の再会、だったら嬉しいんだけどな」
 もしそうだとしても今のグラエナには持ち主がいるはすだ。よく見るとグラエナの毛皮の中に首輪があった。連絡先があり、ホムラは公園の端の公衆電話からかける。数回のコールの後、息が絶え絶えの女性の声がした。向こうも必死で探しているようだった。それだけ大切にされているようだ。
「グラエナ、いたんですか? すみません、ありがとう、ございます」
「公園にいるんで、引き取りに来てください……体当たりするなウヒョヒョ」
 電話の間も、グラエナはホムラにじゃれまくる。仕方なくグラエナの頭をなでてやっても、構いたりなさそう。
「……ホムラ?」
 電話の向こうの声色が変わった。知り合いの番号にかけた記憶はない。
「そこ動かないで! 動かないでね!」
 電話が切れた。カガリの声ではなさそうだし、彼女もポケモンと離されている。他に知り合いと言ったら絶縁された両親くらいだ。
 公園のベンチに座った。グラエナも従う。よく手入れされた黒い毛皮が眩しい。
「ホムラいた!」
 その声を聞いてグラエナがそっちに走り出した。今の主人のようだ。まだ若い女性だ。何も知らないで引き取ったのか、知ってても目の前にいる人間が、前の主人と知らないのか分からない。
「……ところでさっきから名前呼ばれてるけど、俺たち知り合いだっけ?」
「マグマ団幹部のホムラでしょ。知ってるよ。昔ホムラのペットになって荷物持たされた」
「……まさかと思うがじゃあなんでチャンピオン様がこんなところにいて俺のグラエナ持ってるのか説明してもらおうか」
「私じゃ不満? とにかく探してた。こっち来て」
 グラエナが行こうよ、とホムラを呼んでいるみたいだった。行くところもないホムラはとりあえずついて行った。

 大きなカフェに誘われ、そこでホムラがいなかった数年間の話をされた。マグマ団の処遇が決まり、ポケモンの新しい飼い主を探していたことを知って名乗り出たこと。マグマ団の一部ではあるが連絡先を知っていること。
「世間の皆様の説得が一番大変だったの」
「そりゃそうだ。それで俺が聞きたいのはそこじゃねえ。どうしてマグマ団に肩入れしてんだよお前が。チャンピオンがそんなことしてお前がマグマ団だと疑われんぞ」
「あーもうそりゃあ真っ先に疑われた! あの制服記念に取っておけばよかったなぁー」
「違うそうじゃねえ」
 話が微妙にかみ合わないし、ホムラの記憶の中には、大泣きしてるハルカしかないのでこんなに明るく語られても調子が狂ってしまう。
「はぁ……もういい……付き合いきれん……」
「えー。そういえばホムラ今後どうすんの? トレーナーやるの? だとしたらグラエナ欲しいよね?」
「しばらくトレーナーやらん」
「じゃあグラエナはもうしばらく預かるね」
 終始ハルカのペースで会話は終わる。とても嬉しそうなハルカと、ひたすら聞いてるホムラ。しかも日常のことを聞かされても、ポケモンリーグがどうのと聞かされてもピンと来ない。
「ホムラこれからどうするの? 家帰るの?」
「家探すの。これから」
「……あのさ、うち来て」
「うちってお前の家? お前何言ってるかわかってる? 普通、未婚の、しかも未成年が、前科者を家にあげねーよウヒョヒョ」
「ホムラは大丈夫だよ。それにホムラは俺様のペットにしてやるって言ったんだから、主人とペットが一緒に住んでてておかしくないよ」
「その話は忘れておけ。その方が幸せになる」
「いいからうち来て! 引っ張っても連れてくから!」
「あーわかったよ。お前、信用ガタ落ちすんぞ……」
 一度だけ、どんな暮らしをしてるのか見るのも悪くない。チャンピオンという、雲の上の存在が知り合いにいるのだから。

 夕方にハルカの住んでるというマンションに来た。チャンピオンになってから親元を離れたという。かなり上の階で、夜景がよく映りそうなところだった。一人で住むには広い部屋で、中にはポケモンを鍛えるための道具が置いてあった。
「いい暮らししてんな」
「でしょ? ホムラ座ってて」
 リビングのようなところには小さなテーブルとふんわりとしたクッションがあった。本当に全く違う世界に住む人間になったようだ。
 なんだか座りが悪い。ハルカが何か企んでいてこんなことをしてるようにしか思えない。ホムラが侵入してきて脅してきたと訴えれば、世間はハルカの味方だ。再びホムラが社会からつまみ出されれば今度こそ戻るところはない。
「ホムラ今日は泊まってくれるんだよね?」
「は? なぁお前自滅の道進んでるぞ……」
「帰るとこ、ないんでしょ?」
 そこをつかれると反論できない。笑顔でハルカは答えた。
「一人は寂しいから」
 部屋の明かりは眩しい。ハルカは隣に来て話し始めた。自宅で落ち着いてるのか、カフェとは違って少し暗い。その方がホムラも話しやすかった。
「ハルカひとつ聞くが、俺がここでお前を傷つけて金持って逃げることは考えなかったのか?」
「ホムラがお金ないこと知ってるし、ないなら渡す」
 話にならなかった。なぜこんなにハルカが絶対に信用しているのか分からないし、それは何か企んでいるものの裏返しかもしれない。

 さすがに寝床を共にするのはホムラも抵抗があった。夜景の見えるリビングに毛布一枚借りて、ここで寝ると言い張る。
 慣れない寝床に眠気が来ない。カーテンを引いても夜景は騒がしく、ホムラの眠気を邪魔していた。そしてもうひとつ眠りを邪魔するものが来た。
「なんだよ。お前は寝室で寝ろよウヒョヒョ」
 毛布にそっと入って、ホムラの手を握っていた。成長したと思ったのは外見だけで、中身は親がいないと不安で寂しい子供のままのようだ。
「……やだ。ホムラと寝る」
「もうひとつ聞く。俺がお前に手を出す可能性を考えなかったか?」
「ホムラそんなことしないでしょ? あったかい」
「男を知らないで育つとこうなるのか……お前天然記念物だよ」
 全く警戒心がないのに、よくチャンピオンやってられるよな、と心のなかで感心する。言い寄ってくる男なんてたくさんいるだろうし、そいつらをみんなこんな風に接してたら無事じゃ済まないはずだ。


 ハルカのツテで住居も仕事も見つかった。マグマ団とはいえ、人を率いてた立場にいたのだから、組織の動き方はすぐにわかる。それでもマグマ団と知って、罵られることが多く、立場は下の下だった。もらえる額も多くなく、やっと生活していけるかどうかというところだ。
 そして週末になるとハルカがやってくる。そのまま泊まる。最初こそ拒否していたが、ホムラは何も言わなくなった。狭い部屋で、嬉しそうにホムラと話していく。友達いないのかと聞いてみた。
「チャンピオンになったら、みんな離れて行っちゃった。なんか住むところ違うよねーって」
 ハルカはホムラのベッドに転がりながら明るく答えた。占領されてはホムラも居場所がなく、追い出されるように床に座っていた。
 するとハルカは起き上がり、ホムラの顔をじっと見た。
「……ホムラ」
「なんだ」
「好き」
 やっぱり、という思いと何もわかってねえ!という思いが混ざる。一日二日の付き合いではない。そんなこととっくに気づいていた。だからこそ突き放すべきだったのだ。勇気出して言葉にしたようで、ハルカは真剣だ。
「半年いてね、やっぱり私はホムラが好き。ホムラが前科者でも、ホムラは私を助けてくれた!」
「ウヒョヒョ、バカか」
 それだけ返すと、ハルカの手を掴み、そのまま押し倒した。あれだけ強気だったのにいざ行動に出されたら怖いのか目を閉じている。あの時と一緒だ。
「俺はこういうことしてもおかしくありませんって言われてんだよ。それなのに警戒心なく近寄ってくるお前は本当にバカだ。もう帰れ」
 ゆっくりと目を開けて、そしてホムラを真っ直ぐ見て。今にも泣きそうな顔で訴えていた。
「やだ。ホムラはそんなことしないの知ってる。ホムラがあの時助けたくれなかったら、私は……」
 団員から言われた言葉を思い出した。確実にハルカを食う気だった。あの時は子供だから、まさかそんなことを本当にするとは思わなかった。でも今となれば、あってもおかしくない話だと認識できる。
「今でもあの時思い出して怖い。ホムラは何考えてるか分からないけど、ずっと会いたかった」
「ウヒョヒョ意味わかんね。恩返しのつもりなら、俺は十分助かった。自分自身差し出す必要ねえよ。お前はチャンピオンなんだ、わざわざ前科ついてる人間と関わろうとするな」
 それでもハルカは首を縦に振らなかった。嫌だ、離れたくないと言うばかり。
 言葉では説得できなそうだ。ホムラが手を離し、体を起こした。すると突然ハルカはホムラの体に抱きつき、そのままベッドに倒れこむ。誘うかのようにホムラの唇はふさがれた。強引だったためか、すぐにホムラは離した。
「なにすんだ! お前わかってんのか?」
「うん。……ホムラ、して」
 愛を囁くようにハルカは言った。まさか子供だと思っていた人物から、甘く、性を喚起させるような言い方をされるとは思わず、ホムラはじっとハルカを見つめた。
「したら気が済むか?」
「もっと欲しくなっちゃう」
「じゃあダメだ。それで俺を離せ」
 そう言ってもハルカはホムラにしがみついたまま。離してくれそうにない。少しためらい、ホムラはハルカの唇に触れた。何年も触れてない感覚は優しい。苦しそうにハルカが体を動かし、服の上からでも伝わる体温がまたホムラを夢中にした。
 より体が絡んでいた。息が荒く、とろけた目。ハルカの頭をホムラは撫でた。
「これで満足か?」
 自身もかなり息が荒くなっていた。こんな状況でも頭が冷静な判断をしてくれるのはありがたい。これ以上はダメだ、と警報が鳴っている。
「この先も……してほしい」
「また今度な」
 ハルカの額に口付けする。そう言わないと解放してくれないだろう。今度も何もないのに。でもこの欲望は際限がないことを知っている。
 二人はその後も無言が続いた。少し離れたところに座るホムラにハルカが黙って近寄る。そして猫のように膝に乗って、ホムラの胸に顔をうずめた。
「ホムラ、好き」
「さっき聞いた」
 頭を撫でた。目を細めて嬉しそうにハルカはホムラにしがみつく。
 ホムラにはなぜここまでハルカが自分に固執するのかわからなかった。
 





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