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  [No.3397] タイトル未定(長編予定) 投稿者:久方小風夜   《URL》   投稿日:2014/09/17(Wed) 21:16:52   88clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:長編(予定)

 どうしてこうなったんだ。
 カヅキは周囲から聞こえる低いうなり声に身体を震わせ、額から脂汗を滴らせた。手に持った紅白のボールが足元にぽとりと落ちる。しかしそれを屈んで拾う余裕はカヅキにはなかった。



 そもそもカヅキがここに来たきっかけは、幼馴染であり先輩トレーナーにあたるユウトに、マンネリ化してきた手持ちに対しての愚痴をつぶやいたからだ。
 カヅキは言ってしまえば中堅どころのトレーナーである。ずぶの初心者ほどポケモンの扱いに慣れていないわけでもなく、かといって大きな大会で常勝出来るほどでもない。そこそこの規模の大会でぎりぎり入賞できるくらいで、ピンからキリまでいるトレーナー界全体では真ん中より上であろうが、名が知れたいわゆるエリート達とは実力は比べるべくもない。
 トレーナーとしての力は育成方法や戦術も当然関わってくるが、何よりポケモンの種類そのものによるところが大きい。中にはとんでもなく意外なポケモンで勝ち進む者もいるが、ほんのひと握りだ。特に中堅どころから頭ひとつ抜け出るには、より強力なポケモンを捕獲し育てることが必要になる。
 最近大きな変化もなかったパーティーに新しい風を入れるという意味も込めて、カヅキは新しい手持ちを増やそうかと考えていた。

 そんな事を先輩のユウトに言うと、ユウトは思い出したようにつぶやいた。

「そう言えば、『ランテンの森』だっけ……あそこにはかなり強いポケモンがいるんだってな」

 カヅキもその地名には聞き覚えがあった。同時に、そこは公には何も言われていないが、トレーナーの間では「入ってはいけない」と囁かれている場所であることも知っていた。
 昔は力のあるトレーナーが集まる場所であったとか、強いポケモンが生息しているとか、噂は様々であったが、少なくとも今現在、近寄ろうとする人はほとんどいない場所である。

 しかし、ユウトの言葉は、カヅキの興味を強く惹いた。
 かつてどうであろうと、今現在はトレーナーのいない場所である。人の立ち入らない場所には、普段見ないポケモンが生息していてもおかしくない。カヅキはエリートではないが、それなりに強く、トレーナーとなってそれなりに長く、ある程度の危険には対処できる。よっぽどのことがない限り、何とかなるだろう――。
 そんな楽天的な気持ちで、カヅキは「禁足地」である『ランテンの森』へ向かった。


 己の実力を過信し、軽い気持ちで過去のトレーナーたちの忠告を破った過去の自分を、カヅキは絶望の中で深く呪った。

 ランテンの森は予想通り、数多くのポケモンで溢れていた。長く人の手が入らず細いけもの道ばかりの薄暗い森では、普段森では見ない種類のポケモンもちらほら見られた。
 予想通り、珍しいポケモンがたくさんいる。カヅキはほくそ笑んだ。
 周囲をうろつくポケモンたちを見回し、自分のパーティーを埋めるポケモンは何がいいかと逡巡していた。

 しかし、思った通りに事が進んだのはそこまでだった。
 カヅキが森の中を歩いていると突然、ぞわりと全身が総毛だった。
 まずい、と思った時にはすでに遅く、カヅキの周囲からは低い獣のうなり声と突き刺すような殺気があふれ出していた。藪の中から数え切れないほどの目がぎらぎらと光って見えた。

 森の中から大きなモルフォンが飛びだしてきた。カヅキは腰のボールに手をかけ、応戦した。しかし長くは持たなかった。1匹倒し、2匹倒し、しかし周囲の気配は減るどころか大きくなる一方だった。
 間もなく最初に出したライチュウが倒れた。カヅキはライチュウをボールに戻し、一目散に駆けだした。全速力で逃げるカヅキをポケモンたちが追いかけてきた。
 カヅキは走りながらも手持ちを出して応戦した。しかし長くは持たない。ランテンの森のポケモンは噂通り、いや噂以上に強く、そして圧倒的な数の前にカヅキは尽くす手立てを失っていた。

 走って走って、カヅキは森の中の少しだけ開けた場所に追い込まれた。
 手持ちはみな力尽き、走る体力も既にない。それなのに、周囲の殺気はますます強くなっている。じりじりと後ずさりしていたカヅキは、とうとう大木の幹に退路を塞がれた。

 どうしてこうなったんだ。
 カヅキは周囲から聞こえる低いうなり声に身体を震わせ、額から脂汗を滴らせた。手に持った紅白のボールが足元にぽとりと落ちる。しかしそれを屈んで拾う余裕はカヅキにはなかった。

 辺りを取り囲み、じわじわと迫る大型のポケモンたち。カヅキは涙と鼻水を滴らせながら、最後の気力を振り絞って叫んだ。


「だ、誰か……誰でもいいから、助けてくれぇーっ!」






「――その言葉、『依頼』と受け取ってもいい?」






 突然、カヅキの頭の上から、鈴を転がすような声が響いてきた。カヅキははっと目を見開いた。

 空気を包んだスカートをふわりと膨らませ、ひとりの少女が地面に降り立った。
 揺れる長い黒髪が、まるで羽のようにカヅキには見えた。

 モノクロの世界から抜け出したような少女だった。
 ふくらはぎまである真っ直ぐな髪も、ジャケットの上着も、プリーツスカートも、膝より長いブーツも、革の手袋も、全て真っ黒。上着下の丸襟ブラウスと、顔と首元からわずかに覗く素肌は、色白を通り越した白。大きな深緑色の瞳だけが、唯一彼女に色彩を与えていた。
 突如上空から舞い降りた黒衣の天使は、カヅキににっこりと笑顔を向け、言った。


「ご依頼ありがとうございます! 『携帯獣萬屋(ポケモンティンカー)』です!」



「ポケモン……ティンカー……?」

 聞き慣れない単語を耳にし、カヅキは呆然と単語を繰り返した。
 そんなカヅキの前で、少女は左手首につけられた腕時計型のデバイスを操作し、空中に画面を浮かび上がらせた。

「それじゃまずは、システム……というか、依頼料についての説明だけど……」
「ちょ、ちょっと待って」

 呑気に解説を始めた少女をカヅキは慌てて止めた。
 黒い少女が空から降りてこようが、現在カヅキが置かれている状況は変わらず絶体絶命のまま。辺りの殺気は全く消えていないし、むしろ少女の出現によって強くなった気配さえある。

「金なら払う! いくらでも払うから、そんなことより早く助けてくれ!!」
「……あ、そ。わかった」

 少女はきょとんとした表情をカヅキに向けると、デバイスを操作し画面を消した。

 カヅキは何を馬鹿なことをやっているんだ、と頭を抱えた。目の前の能天気な少女だけでなく、己に対してもである。
 溺れる者は藁をも掴むというが、まさにそれである。目の前にいるのはどう見ても自分より年下――おそらく15歳かそこら――の、押したらぽっきり折れてしまいそうなか弱い少女である。そんな少女にこの瀕死の状況で助けを求めるとは、どうにかしている。
 大会上位に食い込んでくるような実力のある有名トレーナーは大体知っているが、見たことのない顔である。仮に見たことがあったならば忘れるわけがない自信がカヅキにはあった。
 なかなか、いやかなり、いやものすごく、かわいい。絶世の美少女だ。完全にストライクど真ん中である。空から舞い降りた救いの天使に、カヅキは完全に一目惚れだった。
 しかし今はそれどころではない。いくら外見がよかろうとも、今この状況でポケモン相手に色仕掛けは効くまい。
 少女はカヅキの方を向いたまま、ポケモンの群れに背を向けたまま、上着の下に両手をつっこんだ。

「……草タイプが28、地面が17、虫が22、飛行が20、格闘と鋼がそれぞれ8……全部で103。結構いるなあ。なるほど、おっけー」

 少女はそう言うと不敵に微笑み、殺気のする方向へ振り向きながら、腰から白と黒の小さな球が並んだ平紐を取り出し、宙に放った。
 それが赤い部分に塗装が施されたモンスターボールと、それが大量に取り付けられたベルトだと、カヅキが気付くのには少し時間がかかった。

 周囲に無数の赤い閃光が走り、カヅキと少女を何重にも取り囲むように、様々な種類のポケモンが姿を現した。しかもその全てが、バンギラス、カイリュー、メタグロスといった、大型で威圧感のあるポケモンだった。
 カヅキは口をポカンと開けて、周囲を見回した。少女が繰り出したポケモンは、見える範囲だけでも20匹以上はいるだろうか。
 少女はぱん、と手袋をした手を打ち鳴らした。辺りを覆っていた殺気が、戸惑いと恐怖に変わっていくのがカヅキにもはっきりわかった。

「さあ、かかってくる子はいる?」

 凛とした少女の声を合図に、2人を囲むポケモンたちが、一斉に咆哮を上げた。周囲から慌て怯える声が聞こえ、生き物の気配が消えていった。あっという間に辺りは静まり返り、そこにはカヅキと少女と少女のポケモンたちだけが残された。
 少女は納得したようにうなずくと、ベルトを拾い、ぱんぱんと2回手を叩いた。再び辺りに無数の赤い閃光が走り、2人を囲んでいたポケモンたちが全てボールに収まった。

 ずるずる、と音を立て、カヅキは背中を樹の幹に預けたまま放心状態で地面にへたりこんだ。
 少女はベルトを腰に巻きなおし、カヅキに笑顔を向けた。

「依頼完了! で、いいかな?」
「あ、う、うん……」

 カヅキは混乱した頭で少女の笑顔を確認し、ほんのり頬を染めた。
 少女は首をかしげ、大丈夫? とカヅキに手を差し出した。カヅキは顔を真っ赤にし、大丈夫大丈夫、と言って慌てて起き上がった。

 左手首の腕時計型デバイスをいじる少女の姿を見ながら、カヅキは先程の嵐のような展開を思い出していた。
 カヅキの混乱のもととなっていたのは、野生のポケモンに傷ひとつつけず事態を収集した手際でも、彼女の使うポケモンの種類でもない。一番の原因は、彼女の厚かったポケモンの数だ。
 確認できただけでも20数匹。見えない場所や上空に飛んだものも合わせれば30は超えるだろう。それだけのポケモンを連れ歩き、育て、指示を出せることが不思議でしょうがなかった。
 それはトレーナーとしての実力云々の世界ではない。そもそも、カヅキ達トレーナーにとって、ポケモンを同時に7匹以上連れ歩くことは、事実上「不可能」だからだ。

 トレーナーの「手持ち」は最大6匹。それはこの世界どこに行っても共通のルールだ。
 免許取り立ての初心者も、この道何10年のベテランも、どんなにあくどい人間だって、手持ちが6匹を超えることは絶対に「あり得ない」。
 トレーナーの持っているポケモンは全てボックス管理システムによって管理されており、最大数を超えたら自動的に転送されるようになっている。たとえ電子端末の使えないところでも、数を超えたらその分のボールは開かなくなる。詳しいシステムなどカヅキは知りもしないが、「そういうこと」になっているのはわかっている。トレーナーとしての常識だ。
 しかし目の前の美少女は、いとも容易くその常識を打ち壊して見せた。
 一体どうやって、とカヅキが尋ねようとするより先に、少女が口を開いた。

「じゃあえっと、野生ポケモンの追い払い5万、数が103で1匹当たり3千だから30万9千、人命救助10万、プランB4万、手数料含めて……占めて50万円、お願いね」
「はぇっ!?」

 カヅキは素っ頓狂な声を上げた。少女は笑顔で首を捻った。

「ん? どうしたの?」
「ご、ごじゅうまんて……いくらなんでもそれは……」
「え? でも、お金なら払うって言ったよね?」
「いやいや、言ったけど、言ったけどさ、でも……」

 嫌な汗がカヅキの全身から噴き出した。多少のお礼は考えていたが、桁が予想より遥かに多い。カヅキは決して金がないわけではないが、楽な暮らしかと言われれば全くそんなことはない。元よりトレーナー1本で食って行くのはかなり厳しい道だ。大会上位者でさえ、兼業トレーナーが少なくない。
 それにしても、50万とはいくらなんでも吹っかけすぎである。足元を見られているとしか思えない。見目麗しい少女が上目遣いで小首を傾げてこようとも、こればかりははっきりしなければ。
 カヅキが異を唱えようとした、その時だった。

「シュリ」

 どこからか突然声がした。よく通るバリトンの声だ。
 少女の後ろから、少女とほとんど同じ大きさの影が気配もなく現れた。
 現れたのは少年だった。その姿を見て、カヅキは目を見開いた。
 くせの強い髪の毛、袖なしのスーツ上下、ネクタイ、革靴、革の手袋は真っ黒。シャツと素肌は白。大きな瞳は深い蒼色。
 瞳を除く全身の色合い、体格、そして何よりその顔は、目の前の美少女と瓜ふたつだった。

「シュン」

 『シュリ』と呼ばれた美少女は、『シュン』と呼んだ自分によく似た少年に顔を向けた。2つの顔が並んだ様子はまるで鏡写しのようで、双子か何かかな、とカヅキは思った。

「お前、悪徳業者か何かみたいだぜ」
「えぇー、そうかなあ?」

 シュリは唇を尖らせて首をひねった。
 どうやら窘めてくれるようだ、とカヅキは内心ほっと息をついた。

「依頼料のことちゃんと事前に話したのか?」
「話そうとはしたけど、『いいから早く助けろ、金は払う』って言うものだから」
「そっか。それじゃしょうがねぇな」

 シュンは頷くと、カヅキに向き直った。

「じゃ、きっちり払ってもらおうか」
「ええぇぇー!?」

 業者が増えただけじゃないか……とカヅキは頭を抱えた。
 シュリは屈託のない笑顔で、シュンはどことなく不機嫌そうな顔でカヅキをじっと見つめてくる。表情は違えど、緑と青の2組の瞳が放つプレッシャーは底知れない。
 どうしよう……とカヅキは情けなくも泣きそうになった。

「シュリちゃん。シュン君。その辺にしてあげなよ」

 カヅキを見つめるふたりの背後から、また別の声が聞こえてきた。シュリとシュンが全く同じタイミングと動作で後ろを振り返った。
 シュリとシュンよりほんの少し背の高い、年齢も同じか少し上くらいに見える人影が歩いてきていた。ぼさぼさの黒髪を右手で掻き、左手をだぼだぼのフリースのポケットに突っ込んでいる。左目の目尻に小さなシールを貼っている他は、飾り気も何もないだるそうな見た目だ。

「ユズキ」
「何でてめーまでここに来てんだよ」

 やっほー、とユズキは笑顔で右手を上げた。シュンの顔がより一層不機嫌になったように見えた。
 カヅキは次々増える登場人物に小さなため息を着いた。それを聞き付けたのか、ユズキは笑顔でカヅキに近寄ってきた。

「やー、どーもどーも。ボクはニノマエ・ユズキっていいます。この子たちの、えーっと何だろ、上司? 代表? 保護者? みたいなのやってます」

 誰が保護者だ、とシュンが不機嫌そうにつぶやいたのがカヅキには聞こえた。
 そのつぶやきが聞こえているのかいないのか、ユズキはポケットから棒付きキャンディを4つ取り出すと、1つを口に含み、残りをシュリとシュンに差し出した。

「はい、どーぞ」
「わーい」
「いらねぇよ阿呆か」
「ほら君も」
「あ、どうも……」

 薦められるまま、カヅキは赤いビニルに包まれたキャンディーを受け取った。「辛くて渋いズリ味!」とパッケージに書いてある。一体どこに需要があるのだろうか、とカヅキはひっそり眉をしかめ、そっと上着のポケットにしまい込んだ。
 ユズキは余った1本を再びフリースのポケットに戻し、さて、と口を開いた。

「料金のことだけどさ、シュリちゃん、いかなる理由があろうとも事前説明が無かったのは事実なんだし、事態が事態なんだから割引つけてあげよう」
「はーい」
「あ、ありがとうございます……」
「というわけで、合計50万円に緊急割引つけて、49万円ってことで」
「1万しか変わってないじゃないか!」

 1万は決して小さくないが、現状では大して変わりがない。助かった、と少し期待したカヅキはがっくり心を折られた。
 ユズキは笑顔のまま、少し困ったように眉をしかめた。

「うーん、君の気持もわからないことはないんだけど、こっちも仕事だからなあ」
「そ、そもそも、君たちはどういう? 『ティンカー』って……」
「カヅキ!!」

 突然、怒鳴るような声が聞こえてきた。カヅキにとっては聞き覚えのある声だ。
 カヅキにとって先輩トレーナーにあたるユウトが、ピジョットの脚につかまって上空から降りてきた。

「先輩!?」

 ユウトはカヅキに対して一瞬驚いたような表情を見せた後、そばに立っている3人に視線を向けた。

「あんたらは?」
「初めまして、『ポケモンティンカー』のシュリです」
「ティンカーだと?」

 シュリの言葉を聞いたユウトは、あからさまに不機嫌そうな顔をしてシュリをにらみつけた。

「おいカヅキ、こんな奴らに関わんな! 帰っぞ!」
「あ、え、あの」

 戸惑うカヅキの腕を引っ張り、ユウトは再びピジョットの脚につかまった。
 カヅキ君、とユズキが笑顔で声をかけ、ポケットから小さな手帳を取り出してさらさらと何かを書きつけてページを1枚破り、カヅキの上着のポケットに入れた。

「いつでもいいから、気が向いたらそこに連絡してね」

 笑顔で右手を上げるユズキと、不機嫌そうなシュンと、何やら神妙な顔をしているシュリの姿は、あっという間に森の木々に隠れて見えなくなった。



+++



 瀕死の手持ちをポケモンセンターに預け、近くのコンビニでいつもの黒地に紫色のドガースのシルエットが印刷されている煙草を1箱買い、カヅキはユウトと行きつけの居酒屋に来ていた。
 ビールを1杯とお通しのマカロニサラダに少々箸をつけたところで、ユウトが口を開いた。

「ま、ケガもなくてよかったな」
「はい、ご心配おかけしました、先輩」
「にしても、ティンカーの奴ら、こういうところすぐつけこんできやがるな」
「先輩、その『ティンカー』って何なんです? 俺、初めて聞いたんですけど……」
「詐欺師だよ。高額の依頼料せびってくるモグリのトレーナーさ」

 ユウトはポケットから青いパッケージの煙草を取り出し、火を点けた。

「モグリ?」
「あいつら、トレーナーカード持ってねぇんだ。無免許だよ」
「確か、ポケモン扱うだけだったらトレーナーカードなくってもいいんですよね? ポケセンとか大会とかでは必要ですけど」
「まあそうだが、普通取るだろ。常識的に」

 灰皿に灰を落とし、ユウトは不機嫌そうな態度を崩さず続けた。

「何か困ってることがあると、すぐやってきては馬鹿高い金を要求するんだ。まじトレーナーの風上にも置けねえよ」
「でも、おかげで俺こうやって生きてるんですけど……」
「あ? 困った奴がいたら手助けするのが当然だろうが」
「……そう、っすよね」

 何となくもやもやとする気持ちを抱きながら、カヅキは上着のポケットに手を突っ込んだ。
 がさり、と音がした。机の下でこっそりと取り出してみると、手帳の切れはしと赤いパッケージに包まれたキャンディーが現れた。切れはしには住所と電話番号が書いてあった。
 紙を4つ折りにしてポケットに戻し、カヅキはふう、とため息をついてユウトに言った。

「先輩、ズリ味のキャンディーっていりますか?」
「あ? んなゲテモノいらねぇよ」

 どうしようかなこれ、とカヅキは辛渋い物体を手の中でくるくると弄んだ。





++++++++++


いずれ書きたい長編の1話目の書きだし(の試し書き)
昔から自分の小説を知っている人なら見覚えある奴が出てくる。かも。
使わなくなったキャラはリサイクルするもの。


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