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ご機嫌な蝶になって きらめく風に乗って 今すぐ君に会いに行こう――
服を選ぶのにどれだけかかったか。
カント―は比較的温暖な気候で、極端に気温が違う、なんて場所はない。ただ、シオンタウンなんかは別の意味で肌寒いかもしれない、という親父の意見があった。
あたしは言った通りマサラから一度も出たことがないから、ふーんそうなんだ、じゃあ上着一枚くらい持って行くか。それでおしまい。
ただ、やはりあたしも女なので、それなりに御洒落をしたい。遭難なんかしたら御洒落もくそもないんだけど、そうならない前提で旅をしようと思っていた。
どうせ行くなら、楽しみたい。
「キナリ、まだ終わらないの?」
お袋の声が聞こえた。このオロオロした少しばかり高めの声とも、しばらくお別れだ。
「服選んでるの」
「貴方、今から長旅に出るっていうのに、そんなのんきなこと……」
やれやれ。今までずっとあたしが家から出ないことを嘆いていたのに、いざ行くとなったらこれか。全く、めんどくさい。
でも、そんなお袋があたしは嫌いになれない。
「いいでしょ別に。マサラは田舎だけど、トキワまで行けば結構都会って聞いてるし。まさかジャージ姿で行けとか言わないよね?」
「そりゃそうだけど……」
「よし、こんなもんかな」
カーネルは昨日から、出発前の健康診断として研究所にお泊りしている。ポケモンだって、そりゃ人間よりかは万能な体を持っているけれど、不死身ではないのだ。
旅先で何かあったら大変だ。
全身鏡で、今の格好を確認する。カーキ色のキャップに、黒のスキニーパンツ。下は黒のスニーカー。上はピーコックブルーのフード付きシャツに、簡単に折り畳めるジャケット。
そして、胸にネックレス。お守りだ。
「よし!」
部屋を眺める。CDに付いて来たポスター三枚、机と本棚に大量に入れられた大量の本たち。フィギアにゲーム機にテレビにタオルケットが散乱したベッド。
……次に会うのは、いつになるだろう。
「親父は?」
「外よ。ママも行くわ。研究所」
これは初耳だった。
「カーネルちゃん以外にも、ポケモンを連れて行くんでしょ? 何を選ぶのか、ママも見たいのよ」
もちろん、パパもね。とお袋は言った。さっきとは違う、しっかりした声だった。
研究所までの道を行く時、二人は一度も喋らなかった。それでも研究所のドアを開けて、カーネルが待ってました!と言わんばかりに飛びついてきた時は、驚いた声を出した。
「やめてよカーネル、くすぐったいよ」
もふもふの毛が顔や首に当たる。カーネルは、オスのイーブイだ。性格はれいせいだけど、こういう時に甘えたりするのは、親が寂しがりと無邪気だからなのかもしれない。
何処からか逃げ出してきて、研究所に侵入したのを博士に見つかって、ここで暮らすことになった。やがて私と出会い、何故だが気が合って、こうしてパートナーになった。
カント―御三家以外のポケモンをパートナーに選ぶのは、マサラでは私が初めてらしい。でも、流石に外の世界を知らないカーネルだけでは不安だと、博士が気を利かせてくれた。
「キナリちゃん、博士がお待ちだよ」
研究員の一人であるキサラギさんがやって来た。カーネルがどいて、やっとあたしは起き上がることができた。
「朝からずっとそわそわしていてね。ドアが開いた音がした途端、出て行ってしまったんだ」
「素早さが高いんですかね」
「サンダースにしたら、もっと素早くなるかもしれないね」
カーネルは進化の意味を分かっているのだろうか。
廊下の突き当りのドアを開ける。見知った顔の御爺さんが、あたしを見た。
隣の長机には、三つのモンスターボール。
「おお、キナリちゃん。パパさんとママさんも」
「お世話になります。 ……こんな時期に、御三家ポケモンを取り寄せてもらうなんて」
「いやいや、また新しいトレーナーが旅立つんです。 おめでたいことですよ」
あたしはボールを眺める。
伊達に研究所に出入りしてない。御三家がどういうポケモンかくらい、分かっているつもりだ。でも、いざ選ぶとなると、すごく迷う。
草タイプのポケモン、フシギダネ。
炎タイプのポケモン、ヒトカゲ。
水タイプのポケモン、ゼニガメ。
「……一度ボールから出そうか」
難しい顔をして考えている私を見かねたのだろう。キサラギさんが博士に許可をもらい、ボールを全部投げた。
中から出て来た三体は、あたしの膝小僧くらいしかない、小さな姿をしていた。踏まれたらおしまいなイメージを植え付けて来る。
カーネルが挨拶をすると、三体は戸惑いながらも挨拶を返して来た。やはり、ポケモン同士の方が意志疎通がしやすいらしい。
「……こうして見ると、みんな小さいわねえ」
お袋がそっと、フシギダネを抱き上げた。その優しさに安堵したのか、フシギダネは怯えることなく腕に収まる。
「不思議ね。 ダイキもこんなに小さなポケモンを連れて、旅立ったのね」
ダイキはゼニガメを選んだ。あのゼニガメは、今はどうしているだろうか。
旅が楽し過ぎて、一年に一度くらいしか連絡してこないダイキ。もう、カメックスになっただろうか。
「……」
あたしはヒトカゲに右の人差し指を出した。ヒトカゲはあたしを少し見た後、おずおずと自分の左手を出して来た。
小さい。人の赤ん坊の指のようだ。
「……おいで」
そっと両腕を広げると、ヒトカゲはあたしにすり寄って来た。そのまま抱きしめる。
あったかい。小さくても炎タイプなんだということが分かる。
「ヒトカゲって、進化したら翼が生えて飛べるようになるんですよね、確か」
「うん。 リザードンっていうポケモンになるよ」
「あたしは、この子をそこまで成長させられますかね」
「そりゃ、君次第だよ。 でも、これだけは言える。 君がポケモン達に精一杯何かを伝えようとすれば、きっと彼らも応えてくれるさ」
ヒトカゲが鳴いた。頭をなでると、気持ちよさそうに目を閉じる。
「……決めた」
「博士、あたし、この子と一緒に行きます」
ヒトカゲにニックネームを付けるか、と聞かれてあたしは悩んだ。どうしよう。付けるとしたら、やっぱりセンスのいい名前を付けてあげたい。
「この子、オスだね」
「……後で付け直せますかね」
「どうだろうなー」
「じゃあ、いいです。 変えるくらいなら、最初からこのままで」
よろしくね、“ヒトカゲ”。
六年のブランクは、決して小さな物じゃない。
でもあたしには、それを賄うだけの知識がある。
さあ、行こう。世界を広げる旅へ。
無限大な夢の後の 何もない世の中じゃ そうさ愛しい 思いも負けそうになるけど
マサラから出たことはなかったが、ネット上では様々な情報を入手できる。
あたしは一番初めのジムは、ニビにすると決めていた。というか、トキワシティのジムが全く機能していなかった、というのが理由だ。
各ジムは何処からでも挑戦していいようだが、どうせなら近場から挑戦していった方が効率がいいだろう。ジムリーダーは挑戦者が持っているバッジの数によって、使うポケモンを決めるそうだから。
一番道路を抜け、トレーナーとバトルしてみた。
野生ポケモンとのバトルとはまた違う。向こうは、トレーナーの指示によって技を繰り出したり、躱してくる。体力だけでなく、頭も使うのだ。
それでも何とか勝って、レベルを上げて、ニビシティを目指す。途中、トキワの森という深い森を通ることになった。
ここはさっきまで生息していなかった虫タイプのポケモンが多い。季節は四月で、幸いにもコクーンの孵化の時期にはギリギリ当たらなかった。
彼らが孵化し、一斉に巣立つのは初夏だ。五月から六月初旬という所。この時期になると各地の警察署が特定のルートしか入っちゃいけないという指示を出す。
むしよけスプレーを必ず持参するとか、黒や黄色の服は着ないとか。
万一襲われた時の対処法、とか。
ヒトカゲは森にいる時、ずっとあたしの足の側から離れなかった。ポケモンにしか感じない何かがあるのか、と思ったが反対にカーネルは何処吹く風で前を行く。
時折出て来る虫タイプは、二匹を交互に出してバトルさせた。いくら相性のいいヒトカゲがいても、ずっとバトルさせたら疲れてしまう。
入ってから約一時間。出口付近にいた虫取り少年とのバトルを終え、あたしは森を抜けた。
「……」
マサラとは比べ物にならないくらい、発展した街。トキワも結構大きかったが、どちらかといえばこちらの方がより広くて近代的な気がする。
地図を出して、施設を確かめる。ポケモンセンター、フレンドリィショップ、あの高台にあるのは、多分化石研究所。確か、化石を見つけたら復元してくれるらしいんだけど……。
何万年も昔、このカント―はほとんど海だった。そこには、今は絶滅してしまい、化石しか残っていないポケモンが沢山生息していた。その化石を何処かで見つけてくれば、その研究所で復元、ポケモンに戻してくれるのだという。
ネットで見たことがあった。まあ、あたしは化石なんて持ってないから関係ないけど、覗いてみるのも悪くない。
そして、あの威圧感を放つ建物が……。
「ほら、見て。 あそこがニビジムだよ」
カーネルとヒトカゲが、気合いを入れるように鼻から息を勢いよく吐き出した。
決して諦めない気持ちがあるなら どんな時でも 希望は味方する
目の前にそびえ立つ、巨大な岩蛇。
イシツブテをどうにか倒したあたし達の前に、今度はイワークが立ち塞がった。こいつさえ倒せば、念願のジムバッジが手に入る。
だけど、流石リーグ公認ジム。そう簡単には、勝たせてくれないらしい。
「イワーク、“たいあたり”だ!」
ジムリーダーであるタケシさんが指示を飛ばす。それに応え、イワークが長い体をうねらせて突進してくる。
「カーネル、かわして!」
その大きさに怯んでいたカーネルだったが、あたしの声で我に帰ったらしい。即座にフィールドを移動させ、相手からの直撃を避ける。
イワークに当たった岩は、その勢いによって粉々に砕け散った。破片が、あたし達の前を浮遊して落ちて行く。
「すごい……。 何て威力」
でも、負けていられない。
「“かみつく”!」
イワークの体は、大小様々な岩によって形成されている。そして、それは頭に近付けば近付くほど、大きくでかく、重くなっていく。
でも尻尾の方は……。
「長くて軽いから、相手を振り払ったり叩きつけたりするのに向いている。 つまり、コントロールしやすいってこと。 でも、細いから、神経に一番近い場所でもある!」
カーネルが尻尾に噛付いた。途端に体の芯まで痛みが走り、イワークは暴れ出す。
「耐えて!」
噛付いたまま、必死で耐えるカーネル。
「甘い! “アイアンテール”だ!」
イワークが尻尾を大きく振り上げた。そのまま、壁に向かって尻尾を勢いよく叩きつける。
壁の破片が飛び散った。
「カーネル!」
次にアタシが見たのは、目を回して壁の破片と寝ているカーネルだった。これで戦闘不能。
「ご苦労さん」
アタシの手持ちは、あと一匹。
最初にカーネルを出したのは、ヒトカゲよりも有利に戦えると思ったからだ。相手は岩、ヒトカゲは炎。確かにカーネルはノーマル・悪タイプの技ばかり覚えているけど、ダメージはヒトカゲが受けるより少なくなるはずだ。
でも、今カーネルは戦闘不能。そうなれば、必然的にヒトカゲが出ることになる。
いけるか……。
「どうした? 次のポケモンは?」
「……ヒトカゲ!」
ヒトカゲは勢いよく雄叫びを上げた。その足には震えも、怯みもない。
むしろ、早く戦いたい、戦わせろ!というオーラが全身がから溢れている。
「ヒトカゲ……」
向こうが気合い十分なのを見て、あたしはパン!と頬を両手で叩いた。
ヒリヒリする。でも、良い薬だ。
そうだ。ポケモンが戦いたいと思ってるのに、トレーナーであるあたしが躊躇ってどうする。
あたしに出来るのは、気合い十分のヒトカゲに上手く指示を出し、勝たせてあげることだけ。
それだけだ。
「やるよ、ヒトカゲ!」
「カゲッ!」
尻尾の先に灯る炎が、一層燃え盛った気がした。
きらめきをバッグに詰め込んで 君が笑う楽園まで行こう
カーネルとヒトカゲの活躍で、あたし達は無事に一つ目のバッジを入手した。カント―のリーグに挑戦できるだけのノルマは、最低でも8つ。
ほとんどのトレーナーは、このままオツキミ山を越えてハナダシティ・ハナダジムに行くそうだ。途中で出会ったおじさんから教えてもらった。
山を越えるということは、それなりに危険が伴うと考えるべきだろう。
あたしは回復薬と、非常食にもなるおいしい水やチョコレートなどを大量に持つことにした。
オツキミ山は、岩だらけで木が一本もない場所だった。出てくるポケモンは、イシツブテやズバットばかり。
この前のジム戦で、“メタルクロー”を覚えたヒトカゲが活躍してくれる。でも、使い過ぎると危険なので、逃げられる野生ポケモンとの戦闘はなるだけ避けることにした。
ここは、たまにだがピッピという可愛らしいポケモンが見つかることがあるらしい。何でも女性に人気で、遠く離れたゲームコーナーの景品にもなっているとか。
ポケモンを景品にしていいものかどうか。そこら辺はまあ、個人の考えに任せることにする。ちなみに、あたしは普通に捕まえたい。
「しかし、埃っぽいな」
しばらく雨が降っていないせいもあるだろうけど、山の中は砂埃が舞っていた。おかげで着ているジャケットに砂が積もって、ザリザリする。
ここで思ったのは、今のあたしの手持ちがこのままで良いのか、ということ。別にカーネルとヒトカゲに不満があるわけじゃない。ただ、もう少しポケモンを持っている方が、戦闘でも有利になるんじゃないかと思ったのだ。
ハナダジム戦も控えてることだし、草タイプか電気タイプの一匹でもいれば、それなりに有利に戦えるだろう。
「――まあ、無理してゲットする必要もないと思うけどさ」
ふと見ると、薄暗い空間の中で白衣を着た男が、もぞもぞ動いている。ポケモンを探してるわけじゃなさそうだ。
不思議に思って声を掛けると、彼は数メートルほど飛び上がった。
「ご、ごめんなさい。 脅かすつもりは……」
だが、彼は突拍子もないことを言ってきた。
「……君も化石を取りに来たのかい」
見ると、男の両腕の中に、石の塊のような物が二つあった。ただの石ではないことが、男の必死な様子と、ぼんやりとだが何か模様のような物が浮き出ていることで分かった。
「それ、化石なんだ! この山で採れるなんて、初耳」
「これは僕が見つけたんだ! 君にはやらないぞ!」
話が噛みあわない。ただ、奪うとか奪わないとか関係なく、盗人扱いされたのには流石に腹が立った。
「あのね、あたしは何もしてないからね。 そっちが勝手に勘違いしてるだけで、君から化石を奪おうなんて思っては……」
「いけっ、サンド!」
問答無用というわけか。まあ仕方ない。ちゃっちゃと終わらせよう。
結論から言えば、あたしの勝ち。ただ、その後が大変だった。
負けたと知った向こうは、そのまま全部身包みを剥がされると思ったらしい。化石を抱いたまま、何処かへと逃げ出そうとした。
だが、化石って意外と重い。
元々貧相な体をしていた男は、その重さに耐えきれなかったのだろう。走り出してすぐに転んで、あたしに起こされた。
そこでやっと、あたしが盗人じゃないって分かったらしい。話を聞けば、何でもここ最近、オツキミ山に化石を強奪しようとする変な集団が現れたとか。
「君は違うみたいだ。 ごめん、早とちりしちゃって」
「その化石、どうするの」
「グレンタウンに持って行くよ。 研究所でポケモンに復元してもらうんだ。 ……うん、君に片方あげるよ。 今回でよく分かった。 欲を出し過ぎると、碌なことにならないね」
……というわけで、あたしは片方の化石を選ぶ権利を手に入れた。彼はこの岩石だらけの場所から化石を掘り出しただけあって、かなり詳しい。
かつて、この場所は海で、オムナイトとカブトという古代ポケモンが生息していたらしい。彼らは進化するとそれぞれオムスターとカブトプスというポケモンになり、バトルの用途もまた大分違ってくるそうだ。
「先に選んでいいよ」
「そうだなー……。 じゃあ、こうらの化石で」
地図を開いて、グレンタウンを調べる。マサラタウンからが一番近いけれど、生憎あたしは水ポケモンを持っていない。泳いで行くわけにもいかないから、しばらく復元はお預けだ。
ごたごたしてたら、いつの間にか出口まで来ていた。外に出ると、満月が美しい。
静かな夜だ。
正しさなんてもの 人の物差しによって変わる
ロケット団。
あたしがその名前をきちんと聞いたのは、ハナダに行ってからだった。
ジム戦をするために訪れたそこは、何と強盗に入られていた。盗まれた物は確か、技マシンだったと思う。
そんな物盗んで、どうするんだか。
その後、何だかんだで黒い趣味の悪い服を着た男と対峙したあたしは、そいつをバトル(と物理)でボコボコにしてやった。
かなり特徴のある話し方をする男だった。カント―の人間じゃないらしい。何か……。イッシュ地方とかいう、海の向こうの出身だと聞いた。
面倒なので警察には引き渡さなかった。盗まれた物を取り返せただけでも、満足したし。
ただ、これで終わりじゃなかった。
二番目、三番目とバッジを手に入れたあたしは、シオンタウンという街へたどり着いた。ここは、親父が言っていた『別の意味で寒気がする街』だ。
確かに言われた通り、妙に肌寒く感じる。その理由が、ポケモンセンターにいた女性の話で分かった。
ここは、ポケモンタワーという、ポケモンのお墓がある街なのだ。不謹慎かもしれないが、やはり未練を持って死んだポケモンもいるのだろう。
きちんと供養されても、どうしても捨てきれない何かがある……。
ポケモンだって機械じゃないし、そういうこともきっとあるだろう。
ポケモンタワーには、ゴーストタイプが生息しているらしい。扱いは難しいが、上手くいけばトリッキーな戦法で活躍してくれるゴーストタイプ。
一匹は欲しい所だ。まだカーネルと……リザードしかいないし。
だが、そうは問屋が卸してくれなかった。
何故か……本当に何故か、そこはロケット団に占拠されていた。
墓荒らしでもしてるのかと思ったら、違った。
ここにはゴーストタイプ以外に、カラカラというポケモンが生息しているらしい。それで、このカラカラが被っている頭の骨は、裏ルートで高く売れるそうだ。
つまり、金儲けのためだけに、ここを占拠してカラカラを襲っているというわけだ。
一人下っ端団員を捕まえたあたしは、それを聞き出して吐き気がした。こんなに吐き気を催す邪悪にあったのは、多分生まれて初めてかもしれない。
だけど、トラブルの元はそれだけじゃなかった。
何と、そのタワーには幽霊が出るという話まであった。最初はてっきり、ロケット団が一般人を寄せ付けないためだけに作った噂話かと思ったんだけど……。
出た。本当に、あたしは見た。
おかげでみっともない醜態を晒すことになってしまった。やだやだ。
そこで、一匹のはぐれゴースと出会ったあたしは、道案内をしてもらうことになる。そいつは周りに馴染めず、いつも一匹でいたらしい。
でも、あたしが持っていた音楽プレーヤーに興味を示したようで、自ら道案内を買ってくれることになった。
……いざバトルになると、逃げ腰になるけど。『おくびょう』なのかもしれない。ま、良いけどね。
さて、上の方に行くにつれて、だんだん空気が冷たくなって来た。霊感がないあたしでも分かる。
『何かいる――』
冷たい空気と共に、それは現れた。子供に描かせたら、こんな感じになるだろうな……。そんな姿だ。
攻撃しようとしても、相手は幽霊。実体がない上に、カーネル達も怖がって技を出せない。
おまけにゴースが全く役に立たない。ゴーストタイプが幽霊にビビッてどうすんの!
だが、ここで転機が訪れる。
騒ぎまくってたあたし達の前に、上からロケット団の下っ端がやって来た。どうやら、騒ぎは上にまで響いていたらしい。で、業を煮やした上司に言われて様子を見に来た、と。
……いや、その騒ぎの現況を殺してしまえ、的なイントネーションだったのかもしれない。現にその下っ端は、人の一人でも殺してそうな面構えだった。
しかし彼も運が無かった。
階段を下りてきた途端、転んだあたしの下敷きになってしまったからだ。
華の女子高生(十六歳!)の下敷きになるなんて、男としては喜ばしいこと……でもなかったようだ。まあ、その瞬間相手は気絶していたから、話は聞けなかったけど。
男はおでこにゴーグルのような物を装着していた。そういえば、ロケット団は幽霊騒動に悩まされなかったのだろうか。ポケモンの攻撃が全く効かないなら、当然彼らが使うポケモンも使えないということになる。
もしかして、とあたしはそのゴーグルをぶんどった。途中、ブチブチという音がしたような気がするが、気にしない。
少し躊躇った後、レンズの部分だけ目に当てる。
「……!」
レンズを通してみた幽霊は、以前図鑑で見たことのあるポケモンに、よく似ていた。そしてその瞬間、あたしは全てを悟った。
この幽霊は……。ロケット団に殺されたカラカラの、肉親だと。
―――――――――――
好きな曲の歌詞に合わせて書いてみたその一。
まだまだ続く。