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輪廻転生と聞くと、あなたは何を思い浮かべるでしょうか。
悔いの残る人生をやり直したいと願う人、あるいは現世で切れてしまった縁を来世では必ず繋ぎとめたいと考える人もいるかもしれません。
ですが、次にこの世に返ってきたとき、必ずしも人間の姿で生まれてくるとは限らないのです。
前世の記憶を持つと主張する人々の話を集めていると、そのうちの決して少なくない割合で、自分はかつてポケモンだったと語る人が存在するのです。
「僕の前世は硬い鎧のコドラで、年がら年中薄暗い洞窟の奥に陣取っては、甘い鉄鋼石を齧っていたなぁ」そう話してくれたのは、初めてのポケモンをもらったばかりだという、わんぱく少年でした。
「私の前世は、乳飲み子のいる家で飼われていたニャースでした。年老いて死ぬまで、それはもう、可愛がってもらって……。ちなみに、その家の赤ん坊は、今の私の夫です」なんて若い女性も。
しかし、これまで聞いてきた中で、最も驚くべき――そして想像を絶する記憶を持つ人は、トキワタウンに住む老人をおいて他にないでしょう。
「聞くところによると、あなたはこれまでの輪廻の記憶をすべて受け継いで生まれてきたそうですね」
「ええ、そうです。太古の海底に張り付き揺蕩うリリーラから、唸るだけで大気を震わせ、尾の一振りで岩山を砕くバンギラスまで。今となっては名前も知れぬ生物であったことも、その地の支配者として君臨していたことさえもあります。ですが、それだけではありません。……私は自分が死んだ後、何に生まれ変わって行くのかまですべて知っているのです」
「……なるほど、来世も、ということですか。それでは、あなたの来世とは?」
「来世で、私はキャタピーに生まれます。残念ながら、木の葉を食らって身を太らせ、いよいよサナギになろうとしたところで、巣立ちを終えたばかりのオニスズメに食べられる運命にあります」
老人は唇を歪め、仄暗い笑みを浮かべました。
「錆びついた神話に残る大昔から、手の届かない遥か彼方の未来まで、ありとあらゆる姿で私は生まれました。人間であるこの生など、例えるならば時渡りの精霊セレビィがたった一度羽根を震わせる時間にも満たないものなのです」
なるほど、海千山千という言葉がこれほどふさわしい人はいないかも知れません。
ですが、一つ疑問が残ります。並の人間ならば、輪廻の記憶など忘れてしまっているか、覚えていたとしてもせいぜい一つ。なぜこの老人に限り、ここまで鮮明で膨大な記憶を現世に受け継ぐことができたのでしょうか。
「なに、別になんてことありゃしません。私の前世が、――ネイティオだったというだけの話ですよ」
過去と未来を同時に見るという霊鳥の生まれ変わりの、底知れぬ静けさを湛えた両目は、視線をそらすのを中々許してはくれませんでした。
――
(9/15 追記)
お待たせいたしました。
たったこれだけの話なのですが、久しぶりに書くと中々言葉が出てきませんね(汗)
1000字が長い長い……。
感想をいただきましたので、この場でお返事させていただきます。お二人に感謝です!
>逆行さん
小さな生き物を含めたら、人間の個体数よりその他の方が圧倒的に多いでしょうから、人間に生まれる確率はどれほどのものか……。
人間に生まれるのがベストかどうかは分からないんですけどね。
でも、転生の先がポケルスだったら、確かに最悪ですねw その発想はなかったですw
生まれ変わりのネタは、オカルトの王道だと思うのですが、そういわれればあまり見かけませんね。
楽しんでいただけたら幸いです!
>砂糖水さん
企画立案お疲れ様です!
こういう、気軽に参加できる企画は書くのも読むのも楽しくて良いですね。
文章を投稿するきっかけがつかめずに悩んでいたところだったので、渡りに船でした。
ネタを考えるときに狙ったわけではないんですが、切りの良いところで分かれました。
もしもポケモンに生まれ変わったら……。砂糖水さんの魅力(甘味的な意味で)をもってすれば、きっと弱肉強食の世界でも大丈夫です。
それでは、お読みいただき、ありがとうございました!