マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  •   [No.570] 26話 初心者と熟練者の差 投稿者:照風めめ   投稿日:2011/07/06(Wed) 20:12:39     60clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    「あたしのターン!」
     風見のサイドは既に一枚だが、対して姉さんは二枚。ベンチの状況も伺えば、形勢は圧倒的に姉さんの不利だなんてのは火を見るよりも明らかだ。
    「オーダイルに水エネルギーをつけて攻撃。破壊の尻尾!」
     それでも果敢に姉さんのオーダイルが尻尾を振りかぶってガブリアスに攻撃を続ける。強いテールスイングに弾き飛ばされたガブリアスは、そのままぐったり倒れてしまう。
    「よし、ガブリアスはこれで気絶ね。サイドを引いて終わりよ」
    「ならば俺はボーマンダをバトル場に出す。そして俺の番だ。ボーマンダのポケボディー、バトルドーパミンの効果によりオーダイルの最大HPが130なのでボーマンダのワザに必要な無色エネルギーは全て必要無くなる。ボーマンダに水エネルギーをつけてトドメだ。蒸気の渦!」
     ボーマンダが勢いよく口から吐き出した白い蒸気の塊がオーダイルの巨体を持ち上げて吹き飛ばしてしまう。オーダイルのHPが尽きたのを目視した風見が最後のサイドを取ると、試合終了のブザーが鳴り響く。
    「ここまで、か」
     姉さんが苦虫を潰したような、今にも泣き出しそうな渋い顔を作るも、やや間を置いていつもの強気な笑顔に戻る。姉さんだってすごく悔しいのだろう。それでも無理に笑顔を作ってステージから戻ってきた姉さんは、まだぎこちない笑顔でそっと俺に呟いた。
    「ごめんね、負けちゃった」



     翔の姉ちゃんと風見が早速ぶつかったように、やっぱり皆仲良く勝ち上がるのはさすがに無理だった。分かってた事だけど、いざ現実となると寂しいものがある。
     でも俺だって負けたくない。翔たちと対戦することになっても、勝ちに行きたい。負けたら悔しい、当たり前だ。
     召集の放送が鳴り、呼ばれるままにステージに向かう。二回線の俺の相手は坊主頭の小太りの男性である。ネームプレートを見れば名前は喜田敏光(きだ としみつ)とある。黒縁の眼鏡を支える鼻の頭で脂汗が僅かに光っているように見える。
    「よろしくお願いします」
    「よっ、よろしく」
     おれが挨拶をするのがそんなにおかしいのかと、キョドる喜田さんを見て考えた。
     悩んでる暇なく対戦が始まる。対戦前の抽選で俺は後攻と決まった。後攻上等! やってやろうじゃねえか。
     相手の最初のバトルポケモンはペラップ60/60のみ。対する俺のバトルポケモンはヒートロトム80/80に、ベンチポケモンのエレブー70/70。相手がどんなデッキか全然想像つかねえ。
    「えっと、俺の番からだね。ペラップに超エネルギーをつけてワザの先取りを使わせてもらうよ。その効果で俺は山札からカードを一枚引く」
     まずはカードを積極的に引いてくる、か。風見はよく、「カード(手札)が多ければそれだけ戦略のパターンが増える」と言っていたような気がする。手札、ねえ。
    「よし! 俺のターン。ヒートロトムに雷エネルギーをつけてトレーナーカード発動、ゴージャスボール。その効果で山札から好きなポケモンを手札に加える。俺はエレキブルを加えるぜ」
     ゴージャスボールはノーリスクでポケモンを選べる強力なサーチカードだ。しかしその分欠点もあり、ゴージャスボールがトラッシュにあるとき新しくゴージャスボールを使うことが出来ない。つまり基本的に一回だけしか使えないというカードになる。
     さて、ヒートロトムだ。ロトムの強みはなんといってもポケパワー。ヒートを含むそれぞれのフォルムによっていろんなタイプになることが出来るのだ。例えばヒートロトムのポケパワー、ヒートシフトを使うと自分の番の終わりまで炎タイプになれる。これで草タイプのポケモンの弱点を突くことが出来るのだけど、相手はペラップ。いちいちポケパワーを使わなくても相性が良いじゃん。
     早速攻める、と言いたいが、ヒートロトムがワザで攻撃するにはエネルギーが足りない。まずはチャージからだ。
    「ヒートロトムのワザ、温める。自分の山札の炎エネルギーを一枚、自分のベンチポケモンにつける!」
     チン、と電子レンジ特有の心地よい軽い音がヒートロトムから放たれた。そして自らが宿る電子レンジの扉を開くと、炎エネルギーのシンボルマークがどことなく現れ、エレブー70/70に吸収されていく。
    「俺の番。まずはラルトス(60/60)を場に出してラルトルに超エネルギーをつける。そしてサポーターカード、ミズキの検索を発動。手札を一枚山札に戻し、その後山札のポケモンを選んで手札に加える。俺はキルリアを手札に加える」
     かなり流暢な手つきでプレイを進めていく喜田さん。そのせいかかなり熟練していそうな感じがする。
    「ペラップのワザ、先取りを発動。その効果で、俺はまたカードを引かせてもらうよ。っんしょ」
     再びカードを引いてくる。ペラップ60/60は無一つでもう一つある別のワザが使える。音痴というワザで、コイントスしてオモテなら相手を混乱させる厄介な効果だ。ただ、ワザの威力はたったの10。そう、10ダメージしか与えられないのだ。俺のヒートロトムは無色タイプに抵抗力をもっているため、いくら音痴を使われてもダメージはない。その点先取りしかしてこないのはなるほど確かに頷ける。
    「俺のターン! よっし、まずはエレブーをエレキブル(100/100)に進化させて、ヒートロトムに雷エネルギーをつける。つづいてウォッシュロトムをベンチに出すぜ」
     ウォッシュロトム90/90もポケパワー、ウォッシュシフトで水タイプになることが出来る。しかし喜田さんのペラップの弱点は雷、ラルトスは超。このポケパワーが活きると考えるのは難しいか。
    「俺はトレーナーカード、エネルギー付け替えを使うぜ。その効果でエレキブルについている炎エネルギーをヒートロトムに付け替える」
     これでヒートロトムで攻撃出来る。温めるは無で使えるワザだが、もう一つのワザは炎無無とエネルギーを三枚も要求しやがる。
    「さあ、ヒートロトムで攻撃だ、熱で焦がす!」
     ヒートロトムが再び電子レンジの扉を開く。が、先ほどとは違って今度はそこから決して優しくない熱風がペラップ60/60を襲いかかる。翼を盾にして攻撃を防ごうとするペラップだけど、それでも十分翼が傷つくような気がする。
    「このワザの元々の威力40に加え、ペラップは雷タイプが弱点なので10ダメージ追加で受けてもらうぜ。よって合計50ダメージだ! さらに熱で焦がすの効果によりペラップは火傷状態になる!」
    「うっ……!」
     ペラップのHPはこれでわずか10/60。火傷はポケモンチェックでコイントスをしてウラなら20ダメージを与える状態異常だから、ウラを一度でも出すとあっという間にお釈迦になる。むしろなって欲しい。
    「さあ、ポケモンチェックだ。ペラップの判定をしてもらうぜ!」
     今の所、俺のプレイングにミスはないはずだ。順調順調! このまま一気に上手く行けば……。
    「……オモテなので火傷のダメージなしだ」
     くっそ、なんだよー。そこはウラが出て欲しいのに。まあどうせペラップがバトル場にい続けても、先取りで山札からカードを引くだけなんだし何の脅威でもない。
    「俺の番。ラルトスをキルリア(80/80)に進化させ、手札の超エネルギーをキルリアつける。そしてトレーナーカード発動。ポケモン図鑑HANDY910is!」
    「ポケモン図鑑はんでぃきゅういちぜろ? ……何だそれ」
    「自分の山札のカードを上から二枚確認し、そのうち一枚を手札に加えてもう一枚を山札の下に戻す」
     なんだ、たった一枚だけ引くのかよ。それならもっといいサポーターとかでたくさんドローすれば良いと思うんだけどな。
    「ペラップの超エネルギーをトラッシュし、ペラップをベンチに逃がす」
    「なっ、しまった!」
     ベンチに逃げれば状態異常は消えてしまう。これじゃあペラップは火傷のダメージで気絶なんてことはなくなる。
    「キルリアをバトル場に出し、サイコリサーチを発動。このワザの効果は自分のトラッシュのサポーター一枚と同じにする。俺はトラッシュのミズキの検索を選択する。その効果で手札を一枚戻して山札からサーナイトを加える」
     サーナイトを加えたということは次の番に進化させてくる可能性が極めて高い。
    「くそっ、俺のターン」
     なんとかせめてあのペラップを倒せないものか。そのためのカードを! そう願って山札の一番上のカードを引く。
    「お! よっしゃあ! まずそこのペラップから倒してやるぜ!」



    翔「今日のキーカードはヒートロトム!
      なんと炎タイプにもなれる!
      相手の弱点を狙っていこう」

    ヒートロトムLv.46 HP80 雷 (DPt2)
    ポケパワー ヒートシフト
     自分の番に一回使える。この番の終わりまで、このポケモンのタイプは炎タイプになる。
    無 あたためる
     自分の山札の炎エネルギーを一枚、自分のベンチポケモンにつける。その後、山札を切る。
    炎無無 ねつでこがす  40
     相手をやけどにする。
    弱点 悪+20 抵抗力 無色−20 にげる 1

    ───
    石川薫の使用デッキ
    「夢への願いと古代の化石」
    http://moraraeru.blog81.fc2.com/blog-entry-646.html


      [No.569] 【再投稿】風乗りサラリーマン 投稿者:小樽ミオ   《URL》   投稿日:2011/07/06(Wed) 18:31:44     51clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     少しくすんだ色のワイシャツに袖を通し、襟元を軽く掴んで整えてから彼は食卓に着いた。思わず大きく伸びをしたくなるような朝の日差しに照らされた純白のディッシュからは、芳しい香りを帯びたほんわりとした湯気が立ち上っている。
     「今日はあなたの大好きなハムエッグよ」、彼の奥さんはそう言って、「ありがとう」と返す旦那さんのディッシュの脇に銀色のフォークをそっと置いた。

     トーストが焼けたことを告げる快音に続いて、トースターがこんがり焼けた小麦色を吐き出す。旦那さんがそれをキャッチするよりも早く、脇で食卓を眺めていたチルタリスが首を伸ばしてそれをくちばしにくわえてしまった。「こら、食べるんじゃない」と彼はチルタリスの頭をわしゃわしゃと撫でる。叱るような言葉に反して、すっかり惚気きった満面の笑顔を浮かべながら。一方の綿鳥はそんなことには少しも頓着せず、さくさくさくと物凄いスピードでトーストをかじっては嚥下していく。

    「ちるりも早く朝ごはんにしたかったのよ。それに今朝も今朝とてパン争いに負けるあなたが悪いわ」
     洗ってあったフライパンの上にふきんを滑らせつつ、奥さんは上半身を旦那さんの方へと振り向けて笑った。肩の辺りまでこぼれた髪が甘い香りを振りまきながら舞い躍る。ティーカップの湯気の向こう、彼は奥さん以上に「やられたなぁ」とからから笑っていた。チルタリスのちるりはといえば相変わらず頓着もせず、パンカスを散らしながらさくさくさくさくとトーストにかじりついている。

     今朝は目覚めがよかった。彼はふと思いつつ、愛妻のお手製ハムエッグをフォークに刺しては口に運ぶ。つんとした塩コショウの程よい風味が口の中に広がり、半熟に焼かれた卵の黄身がとろりと舌の上へこぼれ落ちる。彼は「目玉焼きには塩コショウ派」だ。愛しの妻はそれをよく分かってくれていた。ほくほく顔で朝食をほおばる旦那さんに、彼の様子を黙って見つめていた奥さんの表情もほころぶ。ちるりは首を伸ばして、自分には与えられていないハムエッグ――ちるりの朝食は普段はもう少し遅いのである――を羨ましそうに眺めていた。

    「……ねぇ、ところで今日のお仕事だけど、電車とバスで行ったほうがいいんじゃないかしら?」
     唐突に、首をかすかに傾げつつ奥さんは切り出した。流れ落ちシンクを打っていた水流の音が掻き消えた。
     何で、と彼は左手で口元を覆いながら返す。右手にしていたフォークをディッシュの上に横たわらせてから。

    「今日は風が強いって、天気予報で言ってたの。進みづらいだろうし、服も髪もぐしゃぐしゃになっちゃうだろうし……」
    「いや、それなら構わないな。予定通りに出かけるよ」

     パン争いの話題を口にしていたときとは打って変わって、どことなく不安げな表情の奥さん。明らかに旦那さんを気遣っている雰囲気が見て取れた。しかし一方の旦那さんはと言えば、飲み干したティーカップに新たなお湯を注いでティーバッグを浸しつつそっけなく返した。立ち上る湯気の向こう側に互いの表情がかすむ。

     奥さんは無言でもう一度水を出した。
     かちゃん。洗い終わりしずくの拭き取ってあるものが次々と彼女の手で積み重ねられていく。リビングダイニングの朝にはさまざまな音が入り混じっていた。奥さんの流す水の音、食器同士の触れ合う音、そして二枚目のトーストを強奪したちるりの立てる快音。しかしそこには先ほどまでの夫婦の睦まじい会話はない。



     と、気まずい沈黙を破り捨てる突然な喚き声。ちるりであった。
     先ほどまで加えていたはずのトーストはディッシュの上へと放棄されていて、旦那さんと奥さんがちるりに目をやったときには、ちるりは電源の消えたテレビの前に翼を広げて直立していた。

     瞳をまんまるにして見つめる奥さんと旦那さん。ふと、顔を見合わせる。そこだけ朝の時計の針が止まっていた。
     ちるりは咳払いをするような仕草をしてみせると、真綿の翼で薄い液晶テレビの上面をなぞっていく。すうっ、とちるりがその翼を上げると、――その真綿には灰色のほこりが。あっ、彼は声を上げた。

    「あなた、もしかしたら頼んでおいた掃除忘れた?」
     旦那さんを見つめる、「典型的な姑」のような不愉快そうな視線。眉間にしわを寄せて、綺麗好きの綿鳥は激しい抗議の鳴き声を上げる。
     「いけね。ゴメンちるり、掃除忘れてた」彼がそう頭をかいて苦笑いすると、奥さんのクスクスという笑いの中でちるりはついに目すら細めていた。

     チルタリスは総じてチルットのころから綺麗好きで、汚れを見かけると自らの翼で拭き取る習性があるという。ゆえにちるりにはこの汚れは放ってはおけないらしい。もしかすると、掃除を忘れてそのままにしておいた精神すら許せないのかもしれない。
     「綺麗好き」というくらいだから自分の翼の汚れなどは到底許すはずもなく、ちるりはきゃあきゃあと叫びながら翼をばたつかせて風呂場へと向かってしまった。

     「ごめん、やっちゃった」と彼は申し訳なさそうに苦笑しながら、椅子の背もたれに掛けてあったゼブライカ色のネクタイを手に取る。薄い黒の地にそれよりも薄い灰色の稲妻模様が入ったそれを襟元に巻きつけ、手際よくそれを喉元で締めると、「さっきのことだけれど」と彼は言った。



    「――向かい風が吹いてるからって、そのたびに自分の進む道を変えるのかい」



     えっ、と、奥さんは聞き返した。何を言われたのか、よく分からなくて。シンクからは水音がこぼれたままだった。



    「風ぐるまだって、向かい風を味方に付けて回るんだ。
     ――俺だって、風当たりが強いからって自分の信念を曲げるわけにはいかないよ」



     奥さんがきっちりとアイロンを当てたワイシャツの襟をしっかりと直しながら、彼は朝の日差しのあふれ出した空を窓越しに見つめていた。風呂場の方からはちるりの満足げなハミングが響いてくる。
     ああ、そういうことだったのね。いつも家ではこうしてにっこり笑っているけど、きっとひとたびスーツに実を通したら、この人はこうやっていろんな逆境を乗り越えているんだろうな。――愛する人の背中を見つめて、それからちょっと恥ずかしそうにうつむいて瞳を伏せてから、もう一度彼女は顔を上げて、答えた。


    「あなたも、大変なのね」

     手にしていた食器がことりと置かれて音を立てた。そうね、あなたもいろいろあるものね、家のことも仕事のことも。やさしい笑顔を浮かべたまま奥さんは愛しい旦那さんに歩み寄る。「ネクタイ、曲がってるわ」――白い両手が首元へ、喉元へと回された。よれたワイシャツを、乱れたネクタイを正す小さな手。旦那さんはよそを向きながら、ひそかに頬を赤らめていた。


    「だから俺も、ちるりと風に乗って出かけるよ。向かい風でさえも味方につけられるように、な」

     ハミングがこぼれ出す部屋の外の方を見つめて、彼は穏やかな笑顔で言った。まだ櫛を通していない乱れ髪がいとおしい。
     今すぐにでも抱きついてしまいたい衝動を抑えながら、それでも彼の両肩に手のひらをポンと置くと、こぼした。



    「――でも、格好いいこと言ったけれど、何よりちるりと一緒に仕事に出かけたいだけでしょ?」



     ばれた? 彼は相変わらずの笑顔で微笑んだ。





    ◆   ◆   ◆





     開け放った純白のカーテンの向こう側、降り立ったテラスには予報通りの風が唸りを上げて吹いていた。空は心地のよい朝の光にからりと晴れ渡っている。ちるりの翼のような雲がちらほら、その空の青の中にやわらかな白を添えていた。髪を奪い行こうとする風に、「やっぱりね」と奥さんは呟いた。
     これくらいの風のほうがちるりと出かけるにはちょうどいいさ。そんな問答をしていると、ちるりが心地よさそうに歌声を奏でながら、真綿の翼をぱたぱたとはためかせて庭へと降りてきた。手入れを欠かさないその四肢は朝のしずくを浴びてよりいっそう美しく見えた。
     チルタリスの美しい歌声に、空を飛び交うスズメたちも上機嫌のようだった。到底チルタリスのような歌声には及ばないものの、自らの声でハミングに重ねて思い思いの歌を紡いでいる。ちるりもまた、その歌に自らの歌を絡ませるのがとても楽しそうだった。

    「それじゃあ、行こうかな。ちるり、よろしく頼むよ」

     黒の背広を直して、彼はちるりのおおらかな背に跨った。ちるりの胴体にくくりつけておいた手綱のような紐にカバンをしっかりと固定し、両手でその感触を確かめる。今日も今日とて変わり映えのない、しかしながら楽しみで仕方のない感触だった。

    「あなた、お弁当忘れてるわ。……そんなので大丈夫なの?」
     ああ、しまった。旦那さんはきっちりと握り締めたばかりの紐から手を離し頭を掻いた。奥さんはちょっぴり意地悪く笑って、バンダナで包まれた愛妻の弁当をそっと手渡した。自らの手のひらのぬくもりをそっと重ねながら。
     どちらからともなく、絡めあった視線を外す。そして互いにほっぺたを赤らめて、それからくすくすと笑いをこぼして。

    「今度こそ行ってくる。――それにしてもいい朝だな。仕事に出かける気合いも湧いてくるよ」
     ちるりの首元に提げられたカバンに、手際よく彼は愛する妻のぬくもりの篭もった、まだあたたかいお弁当を丁寧にしまいこむ。愛妻の笑顔と精一杯の感謝の念を篭めながら、しばしの別れを惜しむかのように、ゆっくりと。
     「気をつけてね」、奥さんは年を経て少しよれ始めたようにも見える背広の背中を叩いてみせた。「ああ、気をつける」と、彼は相変わらずの、それはそれはこの朝の世界を照らし出す太陽のような、やわらかで和やかな笑顔を浮かべて、愛妻に誓ってみせた。





    「ちるり、“そらをとぶ”!!」





     彼女の瞳に映るのは、見上げた太陽の光の中でまっくろなシルエットになった、上昇していく翼を持った影とその背に跨る人間の雄雄しい背中。
     風はただ、ひょおひょおと唸っていた。





    ◇   ◇   ◇

    【テーマ】自由題(風、サラリーマン)

    おとといは風が異様に強かったので、自転車通勤だと絶対に風に煽られるだろうなぁなどと思考をめぐらせつつこんな小説を思いつきました。

    ふと思う、ヒウンシティなんかに出てくる会社員もこんな生活を送ってるんじゃないかなぁ、と。
    あと、ああいうごく普通の会社員の中には、こうやって「そらをとぶ通勤」をしている人も結構いたりしてw と思ったり。
    そういうわけで、「そらをとぶ」で通勤をするサラリーマン男性、というテーマの小説が生まれましたw

    あと、当方チルタリス大好きです! サファイアでは二匹Lv.100まで育てました(笑)
    ずかんでもおなじみの綺麗好き(ただしチルットのずかん)なのですから、姑チックに「あーた、ここちゃんと掃除できていませんわよ? それでウチの息子の奥さんになろうと思ってらしたんですの?」とかやってもおかしくなさそうだなぁw と勝手な想像をしていました。


      [No.568] 蒼の運河に雪化粧 投稿者:小樽ミオ   《URL》   投稿日:2011/07/06(Wed) 18:29:51     34clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    かなり流れに乗り遅れましたが、私、小樽ミオの再投稿スレッドです。
    手直しをしている最中の作品もあって、全部終わってから再投稿しようなどと考えたらこんなことに(汗)
    途中ですが、準備できたものからぽつりぽつりと再投稿していきたいと思います。

    ※ラクダさんへ
    遅ればせながら、ちるりをお呼びくださりありがとうございました!(笑)


      [No.567] 25、雷雨の道 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/07/05(Tue) 19:36:59     68clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     近所というのはとても不便なもので、田舎町ならなおさら話が広まるのは早い。センリからオダマキ博士のことを聞いた。それはさらに感情が迷宮入りするのに充分なことだった。どうしてそんなことになってるのか、ガーネットには到底理解できない。一つ屋根の下で二人がいることを想像するだけで耐えられない重圧が心にかかる。
     そして、気分転換に外に出ようとすれば、タイミング悪くハルカに出くわしてしまう。軽く挨拶して通り過ぎようとしても、向こうがそれを逃さない。ガーネットの手を掴むと、きついイントネーションで一方的に話しだす。その表情は、私の勝ちだと言わんばかり。そもそも最初から勝負しているつもりがないので、ガーネットとしては勝ちも負けもないのだけれど。
    「・・・これからギャロップの散歩だから」
    手を振り払い、ガーネットはシルクのボールを出す。未だに届かず、少ししゃがんでもらってから乗るのは変わらない。そして、何やら叫んでいるハルカを置いて、シルクに行けと命令する。
     
     どこへ行く宛もなく、コトキタウンを通り越して103番道路まで走り抜く。そういえば、ここで初めて勝負した。その前は木から枝と一緒に落ちて来て、何がなんだか解らなかった。それから、まだミズゴロウだったシリウスがどろかけで押し進めて。
    「ガーネットちゃん!」
    オダマキ博士が手を振っている。会釈をすると、彼は近寄って来た。傍らにはキャモメがついている。
    「オダマキ博士、こんな遠くまで来るんですか?」
    「本当はもっと遠くに行きたいんだけどね。ザフィールに頼ってばかりってわけにもいかないし」
    体格のいいヒゲのおじさん。それがオダマキ博士の見た目だった。キャモメがオダマキ博士のまわりをくるくる回っている。
    「そういえば、ザフィールはどうしてますか?」
    「キンセツシティのテッセンさんに用事を頼まれたから、それに行ったよ。それからヒワマキシティの方面に行くって言ってた」
    「えっ!?ありがとうございます!」
    外出禁止令が出たと言ってたから油断していた。彼に対する疑惑が全て晴れたわけではない。すぐさま家に帰ると、ポケモンを全て用意し、動きやすい服に着替える。そして早口で行ってくることを伝えると、シルクに乗って出かけて行く。
    「あっ」
    見送ったくれないが部屋に帰ると、テーブルの上に姉が使っていた万能粉が残っているのをみつけた。忘れていったのだろうけど、くれないには今から追いかけることができない。父親のセンリはジムのイベントとかで忙しくて今日は相手にしてくれない。
    「まあいいのかな、おねえちゃんあれなくても、よくなったのかもね」
    後ろでエネコが鳴く。今日の午後は雨だったな。降ってきたら洗濯物を取り込まなければ。それまでくれないは気にせず机に向かう。学校の課題がまだ残ってる。それを片付けられなければ、エネコと遊ぶ事も出来ない。


     シルクに乗りながら地図を確認する。ヒワマキシティはミシロタウンからかなり離れたところにある。シルクの足でも時間がかかりそうだった。かなり走り、110番道路まで到着する。海風が追い風のようにシルクに吹き付ける。少し風が湿っぽい。
    「雨か、なんとか抜けられるかな・・・」
    炎タイプのシルクは雨が苦手だ。カイナシティで小雨にあった時も、外に出るのを嫌がった。ザフィールが毎回ポケナビの呼び出しに応じるわけでもない。追いかけられなければ、きっとそのまま逃がしてしまうような気がする。
     ようやくキンセツシティの建物が見えてくる。街中ではなく、少し外れた道を行く。遠回りになってしまうが、市街地をギャロップで走り回るわけにもいかない。大きな街だから、ここを抜けるのにも時間がかかる。それにしても、随分長く走れるようになって来た。キンセツシティ上空は重い灰色に塗りつぶされている。雨が近い。
     
     キンセツシティの東から、ヒワマキシティへと向かうルートがある。119番道路を北にまっすぐ行けばヒワマキシティはもうすぐ。けれども、シルクはそこで立ち止まる。目の前には大きな川。飛び越えられるような幅ではない。休憩がてらシルクをボールに戻し、水を渡るシリウスを呼び出した。すると外に出てすぐ、シリウスはあたりを見回す。
    「どうしたん?」
    ガーネットの質問に短く鳴いた。河原に広がる大きな石を選んでいるようだった。ラグラージの習性、嵐を予知して岩を積み上げて巣を守る。巣がここにあるわけではないのに。前線通過だけなのに大げさだな、と思ってしまう。
    「行くよー!」
    ガーネットの声にシリウスは振り向いた。体より大きな岩をもの惜しげに見つめて、川へと身を沈める。そしてガーネットを乗せると、一気に川を泳いだ。遠くの空は黒く、雨を予感させる。風も冷たい。雨をしのぐ道具を何一つ持って来なかったことを悔いた。
     向こう岸へと着く。まだ雨は降ってない。ここからは自分の足で走るしか無さそうだ。ザフィールのことだから、あの素早い足で今頃はヒワマキシティにいるのだろう。早く追いつきたいけれど、こうも天気に邪魔されては中々進めそうになかった。
     北へ走る。豊かな雨を象徴するように、伸びに伸びている草むら。かき分けて進む中、一際眩しい光が一面に降り注ぐ。その直後の轟音。雷まで鳴っていた。大粒の雨が、ガーネットの体に降り掛かる。辺りは自分の足音も聞こえない程の土砂降りが続く。視界は白く、土はぬかるんでいた。余計に急がないとならない。
    「なんでこんなときに・・・」
    119番道路を流れる滝は、大雨で勢いを増していた。続く川も濁った水が激流となっている。すでに全身はびしょぬれ。その間にも体は冷えていく。追跡はとりあえず中断し、どこか休める建物で乾かさないとならない。今にも滝に飲み込まれそうな橋を渡り、急な坂道を登る。何度も何度も雷鳴が響いていた。雷光と雷鳴の時間はとても短い。紫色の稲妻が遠くにくっきりと見えた。
     その坂を登りきったところで、土砂降りの中に白い建物が見えた。何やら文字は見えないけれど、看板も立っている。事情を話せば雨宿りくらいさせてもらえそうだ。力が入らなくなってきた足を踏ん張り、荒い息を鎮めるように建物へ向かう。手の感覚がじんわりとしていた。
    「すいませ・・・」
    入り口の自動ドアのようなものを開ける。物凄く静かだった。電気がついているのだから、人がいるのかと思ったが、気配すらしない。ふらつく頭を押さえて、濡れた体で奥へと入っていく。誰かいたら怒られやしないかドキドキしていた。
    「だめだよ!」
    いきなり後ろから引っ張られた。振り返ればかなり小さな子供。そのままガーネットを引っぱり、カギのついた扉がある部屋までつれていく。
    「あいつら、僕が寝てる間に・・・」
    「あいつ、ら?」
    「あの赤いフード、マグマ団だ。ここにいるポケモンを奪おうとしてる。危ないから外に出ちゃダメ!」
    部屋の外を、足音が通り過ぎた。警備しているようだった。間一髪で助かったことを少年に礼をすると、ガーネットはドアの扉に手をかける。
    「大丈夫、追い払ってあげるよ」
    「そんな!やつら危ないよ、危険だよ!それに、お姉ちゃん・・・熱がある」
    「そう、かもね。でも、いつまでも占拠させておくわけには行かないの。マグマ団みたいなやつらには。しっかりカギかけておくんだよ」
    外に出た。どこから来るのかも解らない。慎重に慎重を重ねて、建物の中を行く。やはり走れない。走ろうとすると頭が重くのしかかる。痛みは無いが、一歩出るだけでふんわりと視界が揺れた。無茶は出来ない。マイナンのボールを握りしめる。かつかつと廊下に響く足音が遠くからした。
    「いけ・・・」
    マイナンがボールから飛び出す。そして足音に向かって電気をためると、そのまま突進する。その人物が麻痺して倒れたと同時に、駆け足が複数聞こえる。残っていたマイナンを見ると、大騒ぎになってしまった。素早く戻し、シリウスのボールを手に取る。
    「侵入者発見!」
    「どっちがよ!」
    一瞬だけボールを投げる手が遅れた。そのため、シリウスが一発目を食らってしまった。グラエナがシリウスの腕に噛み付いている。そのまま振り回し、グラエナを引きはがすと、泥を追い打ちのようにかける。
    「やばい、つよいぞこの女!・・・っていうかどこかで・・・」
    「おい、そいつカナシダトンネルにいた女じゃないか!?」
    どんどんマグマ団たちが集まってくる。こんな万全ではない時にこうもされては指示が追いつかない。カペラのボールを開ける。ふわふわとした翼がガーネットの体をなでた。
    「ボスがいってたな」
    「連れてかえればご褒美くれるって!」
    今マグマ団に捕まるわけにはいかない。カペラは歌い、シリウスは近づくポケモンを泥を水圧で吹き飛ばす。ポケモンの悲鳴、マグマ団の怒声、足音、そして雷鳴。そんなドタバタしていたものだから、マグマ団は増える一方。
    「つーか静かにしてください!一体なにごとなんですか!!静かにことを済ませるって言われましたよね!トレーナーに気づかれたらどうするんですか!」
    2階から一人のマグマ団が降りてくる。この大騒ぎの中、一際通る声で。カペラがそれに気付き、ふんわりと羽ばたいた後、その人物に寄っていく。そして嬉しそうに周りを飛ぶと、足元に座る。
    「なん、で・・・いるの?」
    「お前こそなんでいるんだ!?」
    マグマ団たちがざわめく。知り合いなのかと。人間たちが混乱してる中、カペラはのんきに歌いだす。カペラにとって側にいるのは敵ではなく、主人といつも一緒にいた人間にしか見えないからだ。
    「なんで?なんでいるの?なんで2階から来たの?なんでマグマ団なんかと一緒になってんの?・・・ねえ、ザフィール答えなさいよ!」
    ただ事ではない主人の様子に、カペラは驚いて歌うのをやめる。そしてガーネットのところに戻ると、慰めるようにふわふわの翼で触って来た。
    「ザフィール、どうするんだ?」
    「いい、俺がやる。特性持ちだから、うかつに近づくとケガするぞ」
    一歩一歩、ザフィールが近づいてくる。違う人物に見えるのはマグマ団の服装のせいか。他の団員たちが見てる中、ただならぬ彼の様子に、ガーネットは後ろを向いて走り出す。アクア団のような冷たさ。それが今のザフィールだった。それがとても怖くて怖くて、あっけにとられている団員を押しのけて建物から出ていく。

     まだ降り続く土砂降り。雷鳴も近く、空は真っ黒だ。あれは何かの見間違い。そう、その見間違いだ。こんなに熱があって、ちゃんと人物が見分けられるわけがない。何かの・・・
    「危ない!」
    腕を掴まれる。いつもならそんなもの振り払えるのに、力が入らない。それに掴む力が普段とは違う。青あざになりそうなくらい強くつかまれる。
    「大雨で増水してる、鉄砲水に流されるぞ」
    「うるさい!離してよ!」
    振り返ってみる彼は、間違いなくマグマ団。その事実を突き飛ばし、にらみつけた。
    「私はお前なんか知らない!」
    雨音に負けない大声で叫んだ。ずぶぬれの体は、さらに体温を上げていた。視界が揺れる。立っていられない。ぐるぐるとした景色が暗く途切れる。雷鳴が近くに聞こえていた。


      [No.566] 第4話 フルバトルその1 VSロット 投稿者:マコ   投稿日:2011/07/05(Tue) 19:09:49     52clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    一人の若者と一人の老人がある部屋に入ると、そこには砂浜、そして海が広がっていた。
    「この潮のにおい……わたしが生まれた場所に似ている……」
    「……」
    静かに語る老人、ロットの話を、青年……カワニシは黙って聞いていた。
    「我らが主、ゲーチス様は、出会った時からわたしの望みを理解なさっていた……他人の望みや意思を理解する能力は、この世界を生きる上で大切な能力……そして、その能力を生かすことこそ、完全な世界を得るための計画の一端……」
    「それやったら、何で議員の人達を消したん?矛盾しとるようやけど……」
    「彼らにはその能力が足りなかったということ。見たところ、お前よりもずいぶんと年をとっているのにも関わらず、な」
    「……それは、あんたのエゴやろ?あの人らが話すことは、まああんまりええものではないけど……それでも、居るべきちゃうん?」
    「……我らの崇高な目的が、伝わらないということか」
    「崇高って言うても、俺には理解し難いねん。伝わらないっていうか、合わないんかもしれへん」
    「ならば、実力をもって押さえつけるまで!」
    仮想空間に展開された砂浜で、バトルの火蓋は切って落とされた!!


    ロットの一番手は岩山ポケモン、レジロック。対するカワニシの最初のポケモンは、彼の一番のパートナーであるドレディアだった。
    両者が対峙してすぐに、岩山ポケモンの周囲に尖った岩が出現し、あっという間に花飾りポケモンを取り囲もうとした。しかし、彼女はそれをことごとく必中の葉で砕き、攻撃が来ないと見るや踊りだす。神秘的な蝶の舞を。
    それを見て、老人は指示を行った。
    「電磁砲」
    岩山ポケモンの方も蝶の舞をただ見ているだけではなかった。その間にロックオンで狙いを定め、必中となった攻撃を当てたのだ!
    草タイプである彼女は、もともとの相性の良さと蝶の舞による強化が味方してか、電気の大技でダメージをそう食らわなかったが、痛いことにマヒを起こしてしまった!
    「……動きを制限されたってことやな。やけど、ここで一気に決めとかなアカン!ドレディア、花びらの舞!!!」
    蝶の舞により強化された花びらたちは、意思を持つかのように目の前に佇む大きな岩に向かい、確実に傷をつけていった。そして、さらに、
    「ギガドレイン!」
    最後の一押し、と言わんばかりの吸収の技が決まり、とうとう岩山は倒れた。


    次いでロットが出してきたのは黒鉄の体のポケモン、レジスチル。ドレディアでは有効打を打てずにあっさり倒されるのがオチだ。それに先程の戦闘のダメージもバカにならない。そのため、花飾りポケモンを引っ込めたカワニシは、代わりに火の粉ポケモンのバオッキーを出した。
    場に出てきた火の猿は、あっさりと鈍重な黒鉄に近づくと、口を大きく開いて欠伸を行った。ふわあ、という音もはっきりと聞こえるくらいだ。
    それに気付いてか気付かずか、老人は指示を行った。
    「ド忘れから、鉄壁」
    ただでさえ堅い守備をもっと堅固にしようと考えたのだ。

    しかし、覚えているだろうか。先の欠伸のことを。

    ド忘れは無事に発動したのだが、鉄壁を行おうとした瞬間に、

    ドッスーーーン!!!

    黒鉄ポケモンが倒れて動かなくなったのだ!口がどこにあるかは分からないが、ご丁寧に寝息まで立てていた。
    「お前、一体、何を……」
    「欠伸、ようやく効果が出たみたいやな。時間差でそっちを眠らせてん」
    レジスチルにイビキや寝言といった対策技があれば、ここから展開を変えることができたかもしれない。交代させれば効果が発動しなかったので、そうすれば良かったのだが、もう遅い。更に、対抗できそうな技がなかったために、何もできない。反撃をされない状態の火猿は容赦なく炎を吹き付けた。
    大の文字を形どった炎が黒鉄を燃やし、とうとうそいつは反撃する間もなく倒されたのであった。


    ロットの3番手は氷山ポケモンのレジアイスだった。対抗してカワニシはドリルポケモン・ニドキングを出した。
    「……愚かな。氷のタイプを持つポケモンに、地面のタイプで挑もうとは」
    「あんまり高をくくって欲しくないなあ。相性不利でも、逆転可能ってよう言うから」
    氷山ポケモンは、相性が有利なのをいいことに、一撃で倒そうと吹雪を放った。
    しかし、大きな体に似合わぬ反射神経をいかんなく発揮したドリルポケモンは、それをあっさりと回避し、反撃の炎を撒き散らす。あっという間に、レジアイスは瀕死寸前まで追い込まれた。
    「ここまでやるとは。……こうなったら、……道連れにしてやるっ!!!」
    「マズイ……!」
    突如、レジアイスが光り出したのだ!それが何を指すか、分かったカワニシは急いで指示を発した。
    「ニドキング、守れーっ!!!」
    そのまま、爆風が一面にブワッと広がり、場の様子が分からなくなった。

    モクモクとした煙が晴れ、そこにいたのは、

    傷らしい傷を負ってはいないニドキングと、倒れこむレジアイスだった……!


    ロットが4番目に出してきたのは、場を覆いつくしてしまいそうなくらい大きな浮きクジラ、ホエルオーだった。
    (でか過ぎる……どう攻めようか……)
    迷った末にカワニシが選んだのは、サンダースだった。

    ポケモン最大級の大きさを誇る浮きクジラは、潮吹きを行い、小さな雷ポケモンを一瞬のうちに倒そうとした。水は容赦なく、その黄色い獣に当たった、かのように思えた。

    しかし、そこにいたのは、怪獣のような、もふりとしたぬいぐるみ。
    「まさか……」
    とっさの回避だった。身代わりに騙されたともとれる。
    本体はどこなのか、ロットが血眼になって探していると、突然、ホエルオーはものすごい量の電撃に当てられ、墜落していた。
    探していたサンダースはホエルオーの背中に乗っていたのだ!
    「ようやったな、サンダース!」
    身代わりを行った影響で若干フラフラしていた雷ポケモンを、カワニシは優しく撫でてあげた。


    こうなるとロットの方にも焦りが見えるのは明白だ。自分はあと2匹。対する青年は、まだ万全とは言い切れないが、6匹残している。
    ここで老人が出したのは、赤の体を持つ夢幻ポケモンのラティアスだった。迷うことなく、青年は大ボスポケモンのドンカラスを場に送り出した。


    さすが、大ボスというだけあって、プレッシャー特性を持っていないながらも、ドンカラスの威圧感はすごいものがあった。怯えの表情を見せるラティアス。
    しかし、両者ともすぐに戦闘モードに切り替わり、攻撃に次ぐ攻撃の応酬を繰り広げることとなった。
    竜の波動に悪の波動、ドラゴンクローに辻斬り。一旦間合いをとって瞑想に悪だくみ。トレーナーの指示なしで、激しく攻防が繰り返され、そして、

    ヒュルルル、……ドシャ、

    落下してきたのは、……夢幻ポケモンの方だった。


    ロットの最後の1匹は、ラティアスと対になる存在の夢幻ポケモンのラティオスだった。
    一方のカワニシは、最後のポケモンに、2枚貝ポケモン・パルシェンを据えた。
    「こんな鈍重な貝が、幻のポケモンに勝てるはずはない!お前、勝負を捨てたか!」
    「ナメんといてほしいねんけど。伝説とか関係ないで」
    素早さで勝る青の竜は、破壊力満点の光・ラスターバージを繰り出す。さらに10万ボルトも追加する。
    しかし、大量の棘を持つ2枚貝は殻を固く閉じることで強力な攻撃を受け切ったのだ!
    そんなことが数度続き、夢幻ポケモンに疲労の色が見え始めたところで、パルシェンは反撃の狼煙を上げた!
    「殻を破れ!!!」
    すると、棘だらけの貝の薄皮にヒビが入り、パリーンという音とともに割れた!
    そして、その薄皮が氷の針を形作り、
    「連撃を決めろ!氷柱針!!!」
    ラティオス目がけて大量に飛んでいった!
    「フッ、氷柱針は一撃の攻撃力なんぞたかが知れている。そんなもので倒せると踏んだのか」
    ロットはカワニシが殻を破るからの氷柱針のコンボを敢行した意味を知らなかったのかもしれなかった。
    「おじいさん、タネを教えたろうか。殻を破ることで、結果的に守りは犠牲になったけど、攻撃と速さは一気に上がってん。ほんで、俺のパルシェンの特性は『スキルリンク』。氷柱針も最大回数ヒット可能や。これでもたかが知れているって言えるん!?」
    「!!!!」
    ロットの視界の片隅で、ラティオスが力なく墜落していくのが見えた……。


    「わたしの完敗だ……この鍵を受け取ってくれないか」
    ロットはカワニシに何かの鍵を手渡した。
    「これ、は……」
    「先に進むのに必要なものだ。向こうに見えるあのドアをこの鍵で開くと、勝負を終えたお前の仲間達と再会できる。6人揃ったなら、お前達が先に行かせたあの女と再会できるかもしれない」
    「!!!!」
    大事な情報を聞きとったカワニシはドアの元に向かい、施錠を解き、先を急いだ……。

    七賢人完全撃破まで、あと、5人。


    次に続く……。


    マコです。いよいよバトル。
    七賢人のポケモンのほとんどは、トレーナーから奪った希少なポケモン。
    ですが、それを一般的なポケモンで打ち破る。
    これはなんとも言えず、カッコイイです。
    次に出る七賢人は誰でしょうね。
    ヒントは……「しょあっ!!!」


      [No.565] 24、ニューキンセツ 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/07/04(Mon) 21:39:39     61clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     アクア団の誘いを蹴った。その事だけでもう充分だ。ホムラにその事を伝えると、じゃあ俺とカガリが行くと言ってくれた。もう心配なことは何も無い。それに充分強い。進化しないと悩んでいたポニータだって、すでにギャロップ。ジムリーダーの子って、才能まで受け継ぐのか、育て方がいいように思えた。
    「はい、もしもし」
    カガリからだった。ホムラは別の用事でいないらしく、代わりに連絡をしたと前置きする。
    「それでね、今は自宅?」
    「はい。ちょっと父親に怒られて、しばらく出て行くのはダメだって言われて」
    「ふっ、未成年だもんね、仕方ない。みんなが揃ったら行きたいところあるんだけど」
    「遊びじゃないですよね」
    「遊びみたいなもんよ。あるところに天気を自由に変えられるポケモンがいるって知ってる?また連絡するから、謹慎してなさい」
    受話器の向こうにいるカガリは少し笑っていた。そんなポケモンは聞いたことがない。一時的に天気を変える技ならあるが、あれは本当に一時的。恒久的に変えることが出来るのは、マグマ団が探しているグラードンくらいなもの。もう一対、天気どころか天候まで変えてしまうカイオーガというのもいるらしい。もしかしたらその2匹のどちらかが見つかったとでもいうのだろうか。
    「あー、だるい」
    落ち着く事ができないヤルキモノのように、ザフィールがうろうろしている。完全なとばっちりもいいところなのに。ミシロから外出禁止がこんなに辛いとは思わなかった。さらに辛いのは隣の部屋に厄介になってる人のこと。入り口にタンスを置いて、完全封鎖しているからいいものの、勝手に入って来られるのである。
    「さーくん!さーくんあけてよ!」
    オダマキ博士によれば、両親がいないハルカがかわいそうではないのかという訳の分からない理論によるのだ。じゃあ、何も部屋を隣にしなくてもいいものなのに。全く話を聞いてもらえず、家なのにリラックスすることもできず。ベッドの上でキーチに対して延々と愚痴を述べるのみ。
    「ハルちゃんどうした?」
    「さーくんが開けてくれないんですー!」
    部屋の入り口でオダマキ博士とハルカの声がする。ああもうやめて。二人が合わさるとこちらが不利になるばかりなのに。オダマキ博士まで開けろコールをしてくるのはもう地獄だとしか思えない。仕方なくタンスを移動し、入り口を開ける。
    「さーくん!」
    開けた瞬間に抱きつかれ、不意打ちをくらったかのごとく後ろへ転ぶ。しかも移動したばかりのタンスの角に頭をぶつけて。左手で押さえると、少しふくれていた。こぶが出来たようだ。
    「よし、姉弟仲良くしろよ」
    それを見たオダマキ博士が言った言葉。最初は聞き流したが、後から意味を理解して起き上がる。
    「待って、どういう意味!?」
    「そういう意味だ。お姉ちゃんが出来るんだ、よかったなザフィール」
    どうしてそういう展開なのだ。確かにオダマキ博士は両親がいないハルカに対してとても情をかけている。だからって、なんで、しかも義理の姉になるのか理解できない。すでに母親は了承済みであるとか、知らないのはザフィールばかり。それにしても、こんな抱きついてくるのが姉だなんておかしいと思わないのか。いろいろ言いたいことがあるのに、オダマキ博士は素知らぬ顔。
    「それより、お前そろそろ外に行きたいんじゃないか?」
    見透かしたような言葉に、ザフィールの目は輝く。その後のオダマキ博士の言葉に、二つ返事で了承した。


     というのもハルカから逃げたかったため。ついでにガーネットから距離を置くため。最近は町中で買い物ついでに会っても笑ってもくれない。少し前まではあんなに笑ってくれていたりしたのに。理解不能の女が身近に2人。ああ、さらに緑猫をくわえて1匹。カガリだけだ、この難解な人間関係の文句を不満な顔一つせず聞いてくれるのは。
     スバッチの翼で空を行く。そして見えて来たのはホウエン最大の電気街。そこのジムリーダーに会うのだと言われた。キンセツシティジムへ、地図を頼りに歩き出す。

    「いやだ!」
    ジムの前まで来ると、入り口でもめている人影があった。見た事ある、フエンタウンで会ったラルトスを連れていて、名前は確かミツル。彼の横にいるラルトスがどうしていいか解らず、きょろきょろとしていた。
    「僕だって強くなった、それを証明したいんだ!」
    「そんなこといったって無理だよ。まだ治りきってないんだから」
    「あれから発作も起きてない、引き起こすようなこともなにひとつ!だから伯父さんお願いします」
    近づくとミツルがこちらに気づいたようだった。何をしているのかと聞けば、ジムに挑戦したいとのことだった。
    「ザフィールさんからも言ってください!」
    「えっ!?いや、いいんじゃないの?やってみなけりゃ解らないし」
    うかつに言ったことが間違いだった。ミツルの叔父はなぜそんな無責任なことを言うんだと怒る。こちらに矛先を向けられても、とザフィールは小さくなった。
    「なにをやっとるかね!」
    豪快な声が聞こえる。ジムの中からほがらかなおじさんが出て来たのだ。確かこの人がジムリーダーのテッセン。何でもないと言うようなミツルの叔父をよそに、ミツルはテッセンにそのことを訴える。
    「ほっほっほ、オダマキ博士の息子に頼もうかと思ったんじゃが、お前さんにも出来そうじゃのう。やってみるか?わしに挑戦する以上のことじゃから、出来たらバッジを渡してやろう」
    「そのオダマキ博士の息子って俺なんですけど・・・」
    テッセンはザフィールの方を見る。そうじゃったそうじゃったと豪快に笑いながらザフィールの肩を叩く。
    「じゃあお前さんがた、ちょっと頼まれてくれ。ニューキンセツっていうな、発電所が最近なにかと暴走してのう。爆発したら大惨事じゃ。その前に止めてくれないか?」
    まだ大爆発するような大惨事にならんから大丈夫じゃーと笑っている。父親を経由したとはいえ頼まれたことなのだからザフィールは行くと答えた。ミツルは決めかねているようだったが、ザフィールと一緒なら、と答える。


     無人とはいえ発電所である。セキュリティのため、道路と面していない。淡水と海水が混じる付近の海に面していて、船で渡る他はない。けれどザフィールは曲がりなりにもポケモントレーナー。久しぶりに海に出れたことが嬉しそうなホエルコのイトカワに乗って渡る。大きなポケモンだから、ミツルも一緒に。
     大きな建物めざしてイトカワは進む。ザフィールは預かったニューキンセツのカギを握りしめた。入り口近くで降りると、イトカワをボールに戻す。ボールに戻るのが嫌そう。いつか海水浴行くからなーと声をかける。
    「さて、ここか」
    見てばかりの建物だったニューキンセツ。入れば地下へと続く階段がある。薄暗く、切れかけの蛍光灯がちかちか点灯している。
    「怖くないんですか?」
    ミツルが聞く。ザフィールの影に隠れるようにして歩いていた。
    「んー、そりゃ何か出そうな気がするけど、大丈夫だろ」
    「すごいですね」
    ミツルがため息をついた。慰めるかのようにスピカがズボンの裾を引っ張った。
    「危ない!」
    ビリリダマが後ろからやってくる。キーチの素早いリーフブレードで斬る。うなるようにビリリダマは転がっていく。そして前に進もうと振り向けば、コイルがいる。
    「電気に引きつけられてやってきたのか。面倒なことになってるな」
    気づけばもっとたくさんの野生のコイルやビリリダマがいる。キーチが全てを斬りつけられるわけもなく、スピカがねんりきで攻撃している。念力を出す瞬間、赤い角が光り、それにつられてさらにポケモンたちが集まって来た。面倒なことになってきている。ザフィールは思った。
    「逃げる!走るから」
    といっても、マグマ団の時みたいに相方が健康で走れるわけでもなく、ガーネットの時みたいに蹴散らしてくれるわけでもない。かといって走ればミツルを引き離してしまうのは解ってる。スピカの体力もそろそろ限界を迎えるようだった。
    「イトカワ!のしかかれ」
    ボールから出た大きなイトカワ。そのまま下にいるビリリダマやコイルを下敷きに。少しは数が減った。それに、この攻撃で少しひるんだ様子。逃げ出すポケモンもいる。するととたんに動きが止まった。
    「な、なんだ!?」
    ザフィールが思うのも無理はないこと。いつの間にか現れたのか、にこにこしているポケモンがビリリダマやコイルの背後に立っている。
    「ソーナノ・・・しかもたくさん」
    影踏みで動けない野生のポケモンをソーナノたちが囲っている。一体なぜこんなことになっているのか、人間たちには理解できない。キーチもザフィールの傍らに立ち、ソーナノたちを見守っている。
    「いまのうちに!機械を止めたら大人しくなるかもしれない」
    ザフィールは走り出す。こんなに自分が足が速かったかと思わずにはいられない。少し走っては止まり、ミツルを待つ。彼もザフィールについていくのが精一杯だ。視界も、ちらつく蛍光灯のせいで見えにくい。しかも建物のセキュリティのために扉が開いたり閉まったりするものだから、余計に難しい。こんなにも一緒にいて気を遣わなければいけないのも初めてだった。
    「ここ、です、ね」
    ミツルの息が上がってる。対してザフィールはいつもと変わらず。その二人は、建物の一番奥へとたどり着く。セキュリティも万全すぎて、中々着くことができなかったけれど。
    「そうだな、これを止めればいい。しかし凄い熱」
    近づくだけで暴走していることが解るくらいの熱気が伝わる。なるほど、大爆発間近というわけだ。機械のまわりに、電源の切り替えボタンを発見し、おそるおそる手を伸ばす。熱くて火傷しそうだ。パチっという音とともに、機械の作動音が低くなり、停止する。
    「よし、これで大人しくなるはずだ。あれ?」
    「どうしました?」
    「スピカどうした?」
    いつも子供のようにミツルの後を引っ付いていたのに、全く姿が見えない。ミツルの慌てっぷりを見ると、ボールにしまったわけではなさそう。ということは・・・
     二人は顔を見合わし、元来た道を戻る。どこにおいてきた。その検討もさっぱりつかない。暴走した野生のポケモンに食われていなければいいが。セキュリティをくぐり抜け、時には挟まれかけたりしてニューキンセツの地下を走る。探してもスピカの特徴をみつけることが出来ず、二人は言葉に出さないまでも、内心は焦っていた。
     楽しそうな声がする。セキュリティの扉を1枚隔てたところで。それを開けると、たくさんのソーナノの中に、赤い花のようなスピカ。二人をみつけると、ソーナノがにこにこの顔で迎えた。まわりには動かないビリリダマとコイル。事態が良く飲み込めてない二人をよそに、ソーナノたちはとても楽しそう。


    「いやー、助かったよ!」
    キンセツシティに戻ればテッセンが大きな口をあけて笑っている。ジムリーダーがジムを空けるわけにもいかないし、かといって暴走した電気タイプのポケモンを押さえられるトレーナーは限られてる、と悩みのタネだったようだ。
    「やっぱり、何かあったらオダマキ博士を頼るのは正解!あの人は詳しいし親切だ。坊やもそうなるんじゃよ!」
    ザフィールの肩をばしばし叩く。お礼として電気タイプの技を教えてやると言うのだ。
    「あー、俺はいいや、プラスル結構強いし」
    ミツルを向く。足元にはスピカに懐いてしまったソーナノも一緒に。
    「え、いいんですか?」
    「いいよ。ほら、ジムリーダー直伝の技だから覚えて損はないぜ」
    「わっはっは!疑うようなら、そのラルトスに覚えさせてやろう!これが、10万ボルトじゃ!」
    スピカの角が光る。テッセンの直伝の技が記憶に吸収されていく。それを見て、良かったなと声をかけた。そしてザフィールはテッセンに軽い挨拶をした。
    「それじゃ、オダマキ博士によろしく伝えておくれ」
    「はい。解りました。ミツルも元気でな。無理すんなよ」
    スバッチのボールを掴んだ。それと同時にポケナビが鳴る。集合は急いでるのだろうか。電話に出ると、ホムラの声が聞こえる。
    「よぉ、お楽しみでしたか?謹慎中のザフィール君」
    もう伝わってる。しかもさりげなくネタを混ぜて。ザフィールは本当にホムラに話してしまったことを悔やむ。
    「もうとけました。今はキンセツシティです」
    「なんだ、やっぱり電話してよかったわ。さっきカガリから聞いたと思うんだけど、天気研究所に行かなきゃなんねーのに、人数がいねえんだわ。どうよ?」
    「聞くまでもなく行きます。何時までに?」
    「ん、明日でいいよ。ほら、明日だと凄い低気圧が来るらしいから、雨だと外にトレーナーもいないしな」
    時間を覚えると、ポケナビを元に戻す。家に戻らず、このまま行こう。そのために全て持って来たのだから。手持ちに後一匹余裕がある。ならば、それでも探してようとした。キンセツシティを抜け、大きな川で遮られているところへと出る。
    「やあ」
    その声に立ち止まる。優しさとは無縁の、人を見下した目。身長もあるのだけど、それだけではない。ザフィールが好かない人間だと思っているダイゴ。身なりはフォーマルなのに、どこか変な感じがするのは気のせいだろうか。
    「ザフィール君、会えて嬉しいよ」
    言葉だけ。ダイゴの目は相変わらず見下している。負けじとザフィールもダイゴをにらんだ。
    「君は自分の住んでいるホウエン地方が好きかい?」
    「は?好きとかそういう問題なんですか?」
    「僕はホウエン地方が好きだよ。それにポケモンたちもね。僕はみんな大好きだ。それを乱そうとするのが、僕の一番大嫌いなことなんだよ」
    「え、だからなんの・・・」
    「だから、君に生きて・・・」
    いきなりダイゴににらまれる。視線が少し変わった。何が起きたのかよくわからず、ザフィールは1歩後ろへと下がる。ダイゴはしばらく黙り、そして元の見下すような目で見てきた。
    「君のポケモンはまだ弱い。育て方が足りない」
    ダイゴがポケットからボールを出す。そこから出たエアームドは大きく翼を広げた。勝負を挑まれているのか、ダイゴはそのまま立っている。海が近い。イトカワのボールを出す。
    「ホエルコ、か。進化すればホエルオー」
    「そうだよ、ホエルコでわるか・・・」
    イトカワが得意の海に潜ろうとした時だった。エアームドが大きく翼を動かす。エアカッターがイトカワを切り裂いたのだ。ザフィールが指示するより早く。そしてその威力は普通のエアームドではない。
    「解っただろう、君は弱い」
    エアームドがボールに戻って行く。瀕死のイトカワをボールに戻すということもせず、ただ見つめている。強さも半端ではない。余裕の表情で、何が起きたか解らないザフィールを見ている。
    「君ごときに負けるわけがない。天と地の差だ」
    茫然と水面のイトカワを見つめていたが、その言葉にザフィールはダイゴをにらみ返し、ダイゴの腕を掴む。
    「覚えてろ・・・俺はお前を超える。その時に同じことを言ってやる。覚悟して待ってろ!」
    イトカワをボールにしまった。そしてダイゴの前から逃げるように去って行く。その後ろ姿を見送ることもせず、ダイゴは立っていた。
    「僕はもうダメだ、代わりに・・・」
    手がボールを選んだ。エアームドのボールを。移動しろという命令。
    「ラティオスとラティアスがヒワマキシティで待っている。行け」
    エアームドが舞い上がる。ダイゴを乗せて。鋼の翼が風を切った。


      [No.564] 23、決意 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/07/03(Sun) 20:29:50     52clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     ポケナビに連絡が入る。ホムラからだった。呼び出しかなと思って出た。寝起きだったために、声に張りがない。軽い挨拶から入る会話は、いつものようなのんびりとしたもの。
    「そうそう、この前いってたあの子いるじゃん?」
    「はいはい、ガーネットですね」
    「マグマ団に来ねえか?って伝えて」
    「待ってください。そのためには俺が死ぬじゃないですか、やめてくださいっていうかそんなんだったらホムラさんが直接いってください」
    きっとマグマ団なんて口にしたらそれこそハルカ以上の殺意で来るのは間違いない。もうそれだけはこりごりだ。
    「なんだ、隠し通してんのか。これはお前にも伝えておくが、アクア団のさあ、アオギリの片腕のイズミっていうやついるじゃん。ちょー色っぽい姉ちゃん」
    「ホムラさん・・・そんな事思いながら戦ってたんですか」
    色っぽいかどうか、ザフィールには理解できそうにない。常に戦ってきたし、強さは他の団員と全然違うし。
    「当たり前だろ。カガリの足も中々いいが、俺はイズミのが色っぽくていいなあと思ってんぞ。お前、カガリを口説こうと思うか?」
    「あのですね、話が脱線してますよ。それで、イズミがどうしたっていうんですか」
    「ああ、あの子をアクア団に頻繁に誘ってきてるらしいし、カナズミにいる仲間からの連絡で、イズミとあの子が会ってるところを見たらしい。アクア団に誘われる前に、こっちに誘えば良し。これに関して、ボスの許可は降りてるからがんばれ」
    ポケナビが切れる。全くいつも言いたいことだけいって切るのだから、解らない。質問は受け付けてくれないのがホムラの欠点だと思う。幹部なら少し下のものの気持ちを考えてくれてもいいのに。
     ザフィールは布団の中でそう思っていたが、ホムラの言葉をもう一度思い出して気づく。イズミがガーネットと会ってるということ。何をのんきに自分の先輩の考察をしているんだ。すぐに着替えると、ポケモンと共に家を飛び出した。

     受話器を置く。マグマ団のアジトにある会議室にホムラはいた。といっても、そんな人数が入れるものではなく、主にマツブサと今後の方針を決める時に使う部屋なのだが。ホワイトボードに書かれた内容を読み直しながら、イズミとカガリだったらやっぱりイズミのが色っぽくて口説きたいと思う。
    「へえ、色っぽい姉ちゃん、ねえ」
    「そうそう、まじ色っぽいんだよー。ああいうボンキュッボンな女が・・・ってカガリ!?」
    後ろを振り向けば、ジュペッタのような怨念付きのカガリ。
    「口説こうと思わないとか、余計なお世話なのよあんたは!!」
    「い、いや、それとこれは・・・ああおやめになって・・・うひょひょひょ・・・・!!」
    カガリのエネコロロのくすぐる攻撃がホムラにヒットしている。その後もずっとホムラの特徴的な笑い声が聞こえてきていた。


     アクア団は去っていった。しばらくはミシロタウンで自由に行動できそうだ。ただ、アクア団の反撃で、カゼノ自転車のギアが外れてしまった。これはどう力を入れても直せそうにないし、下手にいじって壊れてしまったらもったいない。
    「仕方ない、シルク乗せて!」
    少し大きくなってしまったから、1回じゃ届かない。少ししゃがんでもらい、ようやく背中に乗る。そしてガーネットの指示の通りにシルクは走り出した。ポニータの時より早く、そして長い距離を走る。トウカの森からミシロタウンなど、下手な鳥ポケモンよりも早かった。
     ミシロタウンの特徴、大きな建物であるオダマキ博士の研究所が見えて来た。もうそろそろ減速しないと家を通り過ぎて知らないところにいってしまいそう。ミシロタウンの入り口でシルクをボールにしまった。そこからゆっくりと歩く。そろそろテッカニンの声が聞こえて来てもおかしくない季節。少し探検しながら帰ろうか。
     ミシロタウンの公園には、小さな子が遊んでいた。野生のジグザグマがちょろちょろ走っている。特に一緒に遊ぶわけでもなく、かといって逃げるわけでもなく。ほどよい距離で、二つのグループが存在していた。
    「今日は疲れたなー。緊張したし」
    ジムリーダーの実力というのはやはり凄かった。そこらのトレーナーに勝てるからといって、ジムリーダーに勝てるわけがない。木々の下にあるベンチに座ると、一息ついた。隣にはシルクが座っている。
     シルクがふとそちらを見た。そして頭を低くし、角を相手に突き出す。
    「なによ、別に危害くわえようっていうんじゃないわよ」
    ガーネットも気づいた。その独特のイントネーションに。もう帰ったと思っていたが、まだいたのか。先日のハルカだった。足元にはアチャモがいる。心配するオダマキ博士にもらったのだとか。ガーネットには信じられなかったが。
    「いちゃ悪いわけ!?」
    機嫌が悪いのか悪くないのか、ガーネットには解りかねる。ザフィールはいい子だといっていたが、それが信じられない。特に話していると信じられなくなってくる。
    「事情も知らないで、私たちの事に口出さないで!」
    「いやそれはこっちの言葉だけど。あんたはどう思ってるか知らないけど、ザフィールは事件の証拠なんだから勝手に持って行かれても困る」
    「な、なによそんな破廉恥な!」
    ハルカが顔を赤らめて言う。何を変なこといったかガーネットには解らない。
    「あ、あんたさーくんのこと好きなのね!だからそうやって・・・」
    「好きなのはそっちでしょ、人のことをぐだぐだ言ってんじゃ・・・」
    「ガーネット!?」
    大慌てでザフィールが走ってくる。髪も乱れ、服も乱れて。きっとこんな時間まで寝てたんだろう。ハルカの姿を見て一瞬驚く。
    「だ、大丈夫か!?あの、その、アクア団のイズミと接触したって・・・」
    「ああ、大丈夫。ポケモンも強くなったから、追い払ってみた」
    軽く言われて、ザフィールはため息なのか息を切らせてるのか解らないような呼気を吐く。そして、そんな彼にハルカはべったりとくっついていた。ガーネットとしてはとても面白くない光景。昨日、助けてやってラブラブ解決ですかそうですかと言葉が出そうになった。必死に引きはがそうとしているザフィールを見ると、この後に及んで男だったら覚悟決めたらいいと思う。ため息をつき、彼に投げかける。
    「だから大丈夫、もうザフィールに迷惑かけたりしないよ」
    「迷惑って思ったことはないけどさ、お前がアクア団の口車に乗せられてたらどうしようって・・・」
    「うん、本当は途中まで迷ってたんだけどね」
    「なんだって?じゃあ、フエンで言ってたのは本当なの?」
    フエンで何したのよ、とハルカが叫んだ。私を差し置いて浮気したのね、とザフィールは散々せめられている。やはり付き合ってるのかと再度聞いたが、ザフィールは否定し、ハルカは肯定する。
    「・・・とりあえず、それは本当。解決したとしても、私がアクア団にいたってことが事実として残ったら、それは・・・」
    目が合った。今はその先を言葉に出来ない。ハルカがいるからではなく、ザフィールに言ってはいけないこと、いいことが混ざった言葉だから。結局、ハルカと付き合っていないと否定しても、それは心からではないのだろう。その証拠に、二人はぴったりと寄り添っていた。
    「ごめん、今日は疲れたんだ。色々合って。だからもう帰る。じゃあね」
    二人に背を向けて歩く。シルクがいいのかと言うように横を歩いていた。頬のあたりをなでると、喜ぶように鳴く。
    「いい、シルク。私はザフィールのことなんて好きじゃないからね。くれないも勘違い甚だしい」
    家の前に着く。玄関を開ければ、そのくれないがおかえりと迎えてくれた。


      [No.563] Section-15 投稿者:あゆみ   投稿日:2011/07/03(Sun) 17:53:23     45clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    ナナカマド博士の助手・コレキヨから謎の花とポケモンの共生関係が述べられる。だが、その後の展開はその場にいる誰もが凍り付くものだった。
    「あの花が開花すると、やがては周囲の高まった酸素に呼応して、あのポケモンたちの、いわば種子とも言うべきものを宇宙に向かって打ち上げるのだろう。そうならないうちにあのポケモンを退治しなければならない。・・・あのポケモンは私たち人類と共生することは不可能だ。」
    「そうかもしれないですね。・・・ですがコレキヨさん、そのポケモンの種子を宇宙に打ち上げると、どうなるのです?」
    「・・・あの種子を打ち上げるのはただではすまない。種子を打ち上げるとき、周囲の高まった酸素が大爆発を起こす。その威力はこの星に生息するポケモンが引き起こすだいばくはつの比ではないだろう。」
    高濃度の酸素が大爆発を起こす。しかもポケモンの技としてのだいばくはつとは威力が比較にならないと推測される。その言葉が発せられた瞬間、その場にいた誰もが凍り付いた。
    「これからあの花が今後どうなるか、シミュレートを行いたい。」
    そう言うとコレキヨはプログラムを立ち上げた。――バンギラスデパートに発生した巨大な花のつぼみが、やがて花を開き、種子を打ち上げる。そのとき想像を絶する規模の大爆発が起きるのだという。
    「爆発が起きると、その威力はたちまちこの一帯を飲み込む。メタグロスやギガイアスが放つだいばくはつなど、とても比較できない規模になるだろう。」
    そしてシミュレートが種子打ち上げのときの大爆発の様子を映し出した。どこまでの範囲が被害を受けるかを示すため、タウンマップとCGによるコトブキシティ周辺の映像の2つが映された。だが、その被害はその場にいた研究員たちの想像を遥かに上回るものだった。
    タウンマップとCGの画面に赤く塗りつぶされた円が引かれ、CGの画面では爆発が天をつくばかりに高く上空まで広がっていくのが見受けられる。その被害はたちまちのうちにコトブキシティ中心街ばかりか、テレビコトブキやポケモントレーナーズスクール、ポケッチカンパニー本社など、コトブキシティの主だった施設を次々に破壊していき、やがてコトブキシティのほぼ全域が見るも無惨なクレーターと化してしまった。
    「・・・この通り、コトブキシティ中心部8キロ四方の範囲は間違いなく壊滅する。今後、あのつぼみが花を咲かせたら、それは種子発射のため花が活性化を始めた証拠だ。何としても種子発射とそれに伴う大爆発だけは避けなければならない。」
    「だが、それにはどうすれば・・・?」
    コレキヨがディスプレイを操作すると、画面に地下鉄の線路が映し出された。あの花の根がびっしりと張り巡らされており、それを破壊するのは容易ではなさそうである。だが・・・。
    「この根っこを破壊すれば、花の活性化は幾分か抑えることができるのではと考えられている。」
    「しかし、それにはどうすれば・・・?」
    「ポケモンレンジャーを派遣して根っこを破壊することになるだろう。ただし、あのむしポケモンをどう対処するかにもよるだろう。報告では地下鉄に残っていた乗客を救出したとき、あのポケモンをキャプチャできたという。現在、このポケモンをコトブキ大学に送っており、調査が進められている。果たしてどこまで対処できるか・・・。」
    この星の人間やポケモンが文字通り危機に瀕している。そればかりか、草体に手をこまねいていてはコトブキシティが全滅してしまうのだという。果たして、この危機を食い止めることはできるのだろうか。

    <このお話の履歴>
    全編書き下ろし。


      [No.562] 22、トウカジムリーダー戦 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/07/03(Sun) 17:44:14     52clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     目の前の扉を開ける。どんなポケモンの攻撃も受け付けないような造りになっている。そしてその向こうには、父親でありトウカジムリーダーのセンリが待っている。ガーネットが入ると、静かに言った。
    「思ったより時間かかったんじゃないか?」
    最初に強くしてくれと言ってきてから一週間。初めは最初のトレーナーにも苦戦していた。まさかの強さに持っているポケモンたちを皆きたえた。どれくらいとは解らない。けれどこれをしなければ、やたらと感じる視線を撥ね付けることができない。そう思っていた。
    「思ったよりかかった。そこらのとはレベルがとんで違う」
    「それは光栄。それがポケモントレーナー、そしてジムトレーナーだ。さて、ここに来たということは、私も手加減はしない。ガーネットも本気でかかってくるんだ」
    「わかった」
    ガーネットは深呼吸をする。緊張しないわけじゃない。そしてボールを握り、宣言する。
    「ジムリーダーセンリ、勝負!」
    現れたシリウス。頭のヒレが二つに分かれ、ラグラージへと進化したばかり。トレーナーたちと何度も戦う上で進化したもの。対するセンリは、ケッキングを繰り出す。
    「ケッキングはなまけっていう特性がある。最初の1回の攻撃を避ければ・・・」
    体に溜め込んでいる泥をなげつける。顔にかかるが、ケッキングは別にそれがどうしたと言わんばかりに動かない。そういえば家にいた時もこうだった。そしてやたらとけだるい声をあげる。それを見ていたシリウスにもそれは伝播する。眠気を誘う、ケッキングの常套手段だった。
    「戻れ、そして行け」
    レグルスと呼ばれたザングースが場に出る。ジムのトレーナーたちが言っていた、攻撃力を上げる技があると。ガーネットはレグルスに命じる。激しい動きで動き、攻撃力を上げる、剣の舞。爪が長い剣のように見える。ケッキングはそれをぼーっとみていた。なまけているのだ。
    「きりさけ!」
    走った。宿敵を倒すかのようにレグルスはケッキングに鋭い爪で切り裂く。これでたいていのポケモンは倒して来た。けれど相手はジムリーダーのポケモン。予想以上に耐える。そもそも、ケッキングは何が起きても表情も動きも変わらないから、端からでは本当に解りにくい。
    「進化すると、それだけ耐久が増えるんだ。それくらいではやられることはない」
    ケッキングは起き上がる。ガーネットは久しぶりにケッキングが起き上がる瞬間を見た。その太い腕、大きな拳から放たれる技がレグルスの体を捕らえる。そのまま体が浮き上がると、何の抵抗もなしに床へと落ちた。今の攻撃でだいぶ体力が持って行かれてしまった。戻すか戻さないか。しばらくケッキングは動かないはずだ。けれど考える暇はない。正直、ここまで強いとは思わなかった。
    「ブレイククロー!」
    次のポケモンに賭ける。そのためにもレグルスで出来ることを。あまりの鋭い攻撃に、受けたポケモンの防御力が下がるこの技。1度、切り裂く攻撃を受けていたのもあり、ケッキングはさらにだらけた姿勢を取る。それがノックダウンの印だと解るのは、センリがケッキングを戻したため。攻撃力が上がっている今ならば、倒れることなく次もいけるかもしれない。
    「弱ってるところを狙え」
    センリが出したのはヤルキモノという白い猿。ケッキングと違って、素早く、そして怠けない。レグルスが指示を受けて攻撃を体勢に入る直前、ヤルキモノのきりさく攻撃を受けた。2、3回後ろにまわりながら床に伏せる。確かにヤルキモノは素早い。けれども、ケッキングほどの攻撃力は無いはずだ。再びシリウスのボールを出す。
    「マッドショット!」
    素早さを下げれば良い。体に溜め込んだ泥を飛ばす。その角度を見切ったのか、ヤルキモノが横に避けた。
    「きりさけ!」
    詰め寄る速度も普通のポケモンとは違った。シリウスの死角から近づき、気づいた時には避けられない距離まで。爪跡がシリウスの体にくっきりと残る。いくらラグラージは体格が良くて体力があっても、何度もこうされては倒れるのも時間の問題。
    「どうした?耐えるだけか?」
    シリウスはじっと顔を手で覆う。その間にもヤルキモノはシリウスに傷を付けて行く。そして再度、ヤルキモノが空中に跳んだ。
    「いまだ、我慢を解き放て!」
    今まで受けた傷を全て相手に返す技。ガーネットの指示にあわせてヤルキモノに拳を向ける。空中にいるヤルキモノは避けることが出来ず、シリウスの反撃を全てくらった。
    「なるほど、ね」
    それでもヤルキモノはまだ起き上がる。1秒足りともじっとしていられない。センリのかけ声に再びシリウスに爪で切り裂く。
    「戻れ。行け、リゲル」
    2本の足でリゲルが立つ。進化してから一番鍛えたポケモンだ。速さはヤルキモノより遅い。けれど絶対に最初に出る技がある。
    「マッハパンチ!」
    目にも止まらない拳がヤルキモノをとらえた。これにはヤルキモノでも耐えきれない。センリはボールに戻した。これがガーネットの知る限りの、センリのポケモンだった。
    「よし、倒した!」
    「ガーネット、相手の事を知ったつもりになるのが一番の命取りとなる」
    こちらに来てからその力をつけなかったわけではないだろう。センリとしても、常に強くなる努力を怠るわけがない。ガーネットがそのことに気づく前に、センリの3体目、再びのケッキングが現れた。
    「対策もできる、まずはしびれごな!」
    同じポケモンならば戦い方は一緒だ。リゲルが頭の笠からしびれごなを振りまいた。ケッキングの体が麻痺しているのかしていないのかも妖しいけれど。安心した時、リゲルを打つ大きな音がする。扉まで吹き飛ばされ、目をまわして倒れているのだ。
    「攻撃技でなくて良かったよ。相手がどういう状態にあるかを見てから指示を出す臨機応変さも必要なんだ」
    そういえば、このケッキングは大人しかった。ずっとなまけているのだとばかり思っていた。気合いを入れていたのだ。このケッキングの切り札、気合いパンチ。攻撃されると出せない技ではあるが。
    「・・・マイナン、いけ」
    大きなケッキングを見て、マイナンは少しひるんだ。けれど動かないと見ると、ケッキングに甘える。攻撃力をがっくり下げ、相手の弱体化を図る。ケッキングはしびれているのかなまけているのか区別がつかない。しかし、そろそろ動くはずだ。センリが指示している。
    「からげんき」
    ケッキングは立ち上がった。大きな体は、誰が見ても怖い。マイナンも驚いて逃げようとするが、ケッキングの足の攻撃にガーネットの腕の中に戻る。麻痺させたことが仇となったようだ。状態異常の時に攻撃力が上がる技。攻撃力を下げようとも元のケッキングの力は高い。焼け石に水状態のケッキングに、ガーネットは頭を悩ませた。残るボールは2つ。どんなに鍛えても未だ進化できないシルク、そして戦いを好まないカペラ。少しでも、とカペラのボールを選択する。
     わたくものような翼を持つカペラ。大人しくて戦いを好まないのは知っている。だからこそ、一番育てにくかったし、進化もとても遅かった。青い体は大きくなり、翼もひろがったチルタリスは、ケッキングを見ると高い声でさえずる。
    「ケッキング、眠れ」
    センリが指示をすると、少し遅れてケッキングが目を閉じる。その間にも、カペラはケッキングにも体ごとぶつかっていたのに。眠って体力を回復する技だと解る。麻痺させたのも全て無効。攻撃力が低いカペラの突進も全て無かったことにされてしまった。
    「竜の舞」
    翼を広げ、円を描くように飛ぶ。攻撃力と素早さが上がる技。攻撃も低いカペラにとって、必要不可欠な技だった。その間、ケッキングが攻撃されないのを良い事に、気合いパンチを放ってきた。痛そうにしているが、チルタリスとなったカペラにとって、格闘技はそんなに痛いものではない。
    「カペラ歌って眠らせて!」
    美しい声が広がる。ケッキングは多少ふらつくが、眠ったばかりなので、眠気を引き起こすことは出来なかったようだ。けれど、ケッキングは今、だらーっとなまけている。
    「竜の息吹」
    歌う時と同じく、息を吸い込むと目に見える気流がケッキングに襲いかかる。全体に行き渡り、末梢の神経をぴりぴりとさせる。
    「からげんき」
    麻痺しているケッキングの攻撃は凄まじい。わたくもの翼をこれでもかというほど拳を入れる。
    「戻れカペラ」
    戦えない程ではないけれど、ほとんど体力はない。元気なのはシルクだけ。どんなに育てても進化しなかった。けれど、今ここで出さなければ負けを認めることになる。ガーネットはシルクのボールを投げた。
    「炎の渦!」
    ケッキングはだらけている。シルクはケッキングのまわりを走り、風を作る。その気流に炎が乗り、ケッキングを囲い込む。次に来るはずの攻撃はきっとからげんき。その攻撃を食らったらおしまいである。
    「シルク、とびはねろ!」
    他のポニータよりジャンプが下手。着地も下手。もちろん、とびはねたのだけど、あまり高度は高くない。ケッキングが攻撃を空振りする。その直後、シルクのダイヤモンドより堅い蹄がケッキングの顔に命中する。痛いはずなのだが、ケッキングは表情一つかえずになまけている。
    「もう一度!」
    とびはねた。2ターンかかる技というのは、他のポケモントレーナーに避けられている。次の行動が読めるから、と。けれどケッキングの攻撃を避けるにはこれしか無い。
    「シルクはジャンプ苦手なんだよな。もう限界なんじゃないか?」
    3回目に飛び上がった時、1回目より確かに飛び上がった高度が低い。堅い蹄でケッキングに攻撃するけれど、次はもう出来ないかもしれない。それにこの技は命中に不安がある。飛び上がるので、正確な狙いが定められないのだ。もし、外した時に気合いパンチなどされてしまえばそれこそ終わり。特に足を狙われてはシルクは戦えない。
    「次は外す。ケッキング、ポニータが飛び上がったら気合いパンチだ」
    「させるか。命中させてやる。かえんぐるま!」
    炎のたてがみが燃える。そして頭からしっぽの先まで炎で身を包む。そのままケッキングに向かって手加減なしに突進する。ケッキングは言われた通りに集中する。これが外れたらシルクは倒れる。これが当たったらケッキングが倒れる。どちらかの賭けだ。炎技も苦手で、走ることが大好きなシルク。本当は戦いに向いていないのかもしれない。
     ケッキングが聞いた事もないような悲鳴をあげる。炎がケッキングにうつっていた。火球となったシルクがケッキングの腹に思いっきりぶつかっていた。まとっていた炎は全てケッキングにうつる。慌てるようにセンリがケッキングを戻した。そしてシルクは次の準備に入る。姿勢を低くして、足に力を入れて。鋭い角を振りかざし、相手を威嚇するように。
    「ギャロップ・・・」
    他のギャロップよりは小さい。けれども、シルクは確実にポニータからギャロップへと進化していた。
    「はは、さすがじゃないか。上級者向けと言われてるポニータを進化させるなんて」
    センリは懐から何かを取り出す。そしてガーネットへと差し出した。それを受け取る。ジムリーダーに勝った証のバランスバッジ。それはシルクの炎に照らされて光っていた。
    「ジムリーダーとして受けた勝負に負けたのだから、渡すのが筋だろう。おめでとう、ガーネット」
    この時やっとガーネットは、終わったことを確信した。永遠に終わらないかと思われたものが、勝利の証となっている。
    「ありがとうお父さん!じゃ、私帰るから!」
    「夕方は雨降るから気をつけてなー。ポケモンは回復させてから帰るんだぞー」
    すでに親子の会話となっていた。受け取ったバッジを大切に鞄にしまうと、ポケモンセンターに入っていく。進化もできた。強くもできた。これならばいける。ポケモンセンターを出た後、ガーネットはカゼノ自転車を組み立てると、トウカシティの外れへと向かう。

     時々、ポケモントレーナーが近くを通るけれど、軽い挨拶を交わすだけにした。急いでることを伝えると、たいていは身を引いてくれるものだ。そしてガーネットは進みに進んで、ほとんど人が通らないトウカの森へと進む。
    「待っていたのよ」
    ブレーキを握り、自転車から降りる。倒れないようにそれをたたむ。そして目の前の相手と向かい合った。
    「ええ、私も待っていました。私の前に現れてくれるの」
    青いバンダナ、そして海賊のような風貌。豊かな髪が特徴のイズミだった。本当は会いたくもない。けれど決着をつけなければいつまでもつけられてしまう。そしてセンリにも迷惑をかけることになる。
    「そう?その割にはおびえてるように見えるけど」
    「そう見えるなら話は早い。私はアクア団に協力しない。事件のことは解決していないけど、アクア団のような集団に属してまで解決することじゃないし」
    イズミはため息をつく。残念ね、と。
    「ならば貴方をもう一度捕獲するまでよ」
    「何がそう私に執着するのか解らないけど」
    マイナンのボールを開く。出た瞬間から電気をため始め、辺り一面へ電気を飛ばす。電撃波だった。隠れていたアクア団たちは出ばなをくじかれた。次にシリウスがボールから出される。後ろから近づこうとしたアクア団には、リゲルがマッハパンチで吹き飛ばす。
    「これ以上、ケガしたくなかったら」
    シルクが鋭い角を振り回す。危なくて誰も近づけない。
    「二度と私に近づかないで!」
    カペラが歌い、眠らなかったものをレグルスがきりさく。指示をしなくても攻撃するよう訓練もしてきた。それならば追いつかない場合にポケモンたちの判断で攻撃が出来る。アクア団を意識しての練習を重ねた結果。
     自分たちより強いポケモンに、イズミは不利と判断する。戦力を削ぐのはよろしくない。イズミは撤退の命令を出すと、煙のように消えていた。


      [No.561] 七色列島物語 投稿者:サン   投稿日:2011/07/03(Sun) 13:20:27     52clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     ぴちょん。どこかで水が滴った。
     薄暗い世界は、まるで洞窟のように静寂に包まれていた。そこには鍾乳洞の中のように、波紋を残した尖った岩があちこちから突き出ている。終わりもなく、始まりもない、現世と分かれた不思議な世界。透明なガラス球のような球体が大小さまざまな大きさで宙を漂い、立ち込めた白い霧が悪戯好きな妖精となってきらきらと笑い誘う。

    「アグノム……」

     青く澄んだ湖の畔で、誰かが呟いた。ほっそりと痩せたしなやかな体と、細長い顔に半開きになった海色の瞳。額には翡翠色の玉を下げた細い紐が真一文字に横切っている。
     傍らにたたずむ青い光が、その者に答えるかのように鈍く輝いた。

    『まさか、こんなことになるなんてね……』

     光がゆっくりと“彼女”に近づくと、照らされたその体に小さな膨らみが二つ、陰影を残してよく映えた。光は慈しむようにして彼女の周りをくるくる回った。

    『まだこんなに幼いのに……これも運命か』

     彼女の体の小さな膨らみ。それは、彼女に抱き抱えられた二匹の子供だった。何も知らない無垢な表情で、静かに瞼を閉じている。

    「そんなに気を使わないで、アグノム。私、何となくこうなるような気はしていたの」

     そう言って、彼女は笑った。誰もが作り笑いだと分かるほど、悲しみを堪えた表情で。

    「仕方のないことなのよ。これは竜の血をひく者の、遠い昔からのさだめ」

    『…………』

    「でもね」

     不意に、彼女の強張った頬をつたう一滴。

    「できることなら、もっと、平和な時代に産んでやりたかった……!」

     彼女は声を震わせ、子供たちをぎゅっと抱きしめた。この上もなく強く。この上もなく優しく。

    『……シア』

     光は黙って親子の様子を見守っていたが、おずおずと前に出た。

    『悪いけど、もうあまり持ちそうにないんだ。子供たちを……』

    「ええ……分かってる」

     眠り続ける子供たちに、彼女は静かに笑いかけた。

    「ごめんね……」

     水鏡が割れた。波紋が幾重にもなり、彼女の足取りを湖に印しては消えてゆく。
     湖の中心まで来ると、青い光がゆらゆら揺れた。

    『準備はいいかい?』

    「ええ」

     悲しき宿命。逃れることは叶わない。でも、できることなら。どうか、この愛しき命たちに、今しばらくの平穏を。
     彼女は額についた宝石の飾り紐を引きちぎり、祈りを込めて二匹の子供の間に当てやった。
    光が白みを帯びて輝きを増す。彼女の頬を濡らした涙がきらりとそれを反射した。

    「ノウ、リオ……必ず、絶対生き抜いてね……!」

     ぴちょん。こぼれ落ちる一滴、そして――

    ザパーン!

     大きな水音。白い光が二つの体を包み込む。眩い輝きが芽吹いたばかりの若葉に染み込み、全てを溶かして新たな息吹が生み出される。脈々と波打つ命の鼓動。立ち上るいくつもの気泡。二つの体の輪郭を、青く透き通らせて煌めかせ、アグノムの光は弾けて散った。遠ざかる水音。混沌とした世界が七色の本流に飲み込まれ、あちらこちらに飛散して、色の洪水が押し寄せる。
    そして変化のときは唐突に終わりを迎える。
     闇色の濃淡を残した雲の隙間から、いくつもの光の矢が放たれた。
     柔らかな風、ひんやりとした草の感触、繋がれた、青と赤の小さな手。
     ゆりかごから投げ出された二つの命は、朝焼けの中、静かに始まりのときを迎えようとしていた。





    ―――――――――――――――
    はじめまして!サンと申します。

    はるか遠い昔に辺境の小説板に投稿していたものを
    原型もわからなくなるぐらいに修正してみました。

    いろいろぶっ飛んだ設定も多いし
    広げた風呂敷をどこまで回収できるかわかりませんが
    少しだけお付き合いいただけるとうれしいです!

    【批評していいのよ】


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