マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  •   [No.312] 第一話:投げられて冒険開始? 投稿者:ライアーキャット   《URL》   投稿日:2011/04/24(Sun) 18:08:59     61clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    「はぁ……はぁ………一体、どこに……消えたのだ…………?」
    暗い森の中を、一人の男が走っている。
    丈の長い白衣を着て白い髭をたくわえた、老年の男。
    足取りはとてもやみくもで、どこかの目的地に向かうようなそれではないようだった。
    ……はっきりしない走行なのは、目的のそれが止まっていないから。
    もっと具体的に言えば、それは常に移動し、男から……いや、男たちから逃げているから。

    「……ワン!」
    「ハーデリア、嗅ぎつけたのか!」
    男が立ち止まり、足元に目を向ける。
    そこには一匹の生き物が居て、地面に向けた鼻をしきりに動かしていた。
    人間ではなく、しかし人間と共存し、持ちつ持たれつの関係を築いている生き物。
    この世界ではそんな生き物を……ポケモンと呼ぶ。
    「ワンワン!」
    ハーデリアと呼ばれたそのポケモンは、暗闇の先、森の奥に何かの存在を感知したらしく、一直線に駆けていった。

    「待てハーデリア! 私を置いていくな!」
    男は再び走りだす。
    探していたものが見つかるかも知れない。なのにその表情は、さっきやみくもに走っていた時よりも、焦りがにじみ出ていた。
    「ワン! ワン! ガウ……、ギャン!」
    「ハーデリア!?」
    男は自分のポケモンの身を、案じていたのだ。
    探していたそのポケモンに――自分のポケモンが返り討ちにされないかを。

    ハーデリアが暗闇の奥から………吹っ飛んできた。
    その体は男の前の地面に叩きつけられ、力なく横たわる。
    「クウン………」
    「ちぃっ……! 相性が悪かったのだ。ノーマルタイプではやられてしまう!」
    男は白衣のポケットから、赤と白に色が別れた小さなボールを取り出す。
    「もう私に手持ちポケモンは居ない! 捕獲してくれるわ! 行け! モンスターボール!」
    人間がポケモンを捕まえる際に使う、カプセル状の球体。
    逃す訳にはいかないとばかりに、男はモンスターボールを幾つも暗闇に投げる。
    しかし相手の姿も見えず、加えて相手の体力が万全の状態で捕獲など出来るはずもない。

    「キ………ゲキイッ!」
    今度はモンスターボールが返り討ちに遭い、逆に男の方へ飛んでくる。
    男は捕獲される代わりに、跳ね返ってきたボールを体にぶつけられ、呻いた。痛みではなく、相手のあまりの手強さによる悔しさで。
    「ゲキィ………」
    やがて男の目にも見える位置――月の光が届いた地面に、そのポケモンは現れた。
    人間に似た小柄な体躯ながら、ハーデリアを格闘の末に倒し、モンスターボールを自らの技で投げ返して、今度は男に向け、構えをとる。両手を開いて相手にかざし、いつでも素早い移動が出来るように、腰をかがめて足に力を込める。
    それは柔道の構えだった。
    そのポケモンが戦いの際に用い、尊重しているスタイル。
    「ゲキイイ……!」
    「もはやこれまでか……!」
    男が目を閉じた時だった。突然新たに一匹のポケモンが出現し、柔道ポケモンに攻撃を加えた。
    柔道ポケモンの体がひとりでに宙に浮き、見えない力に弾かれる。
    それこそが、男を助けに現れたポケモンの持つ力。
    超能力、『ねんりき』。
    「ケエェェー……………シイィィィー………」
    「親父! 大丈夫か!?」
    念力ポケモンの後ろから、今度は人間が駆けつけてくる。
    脱色して白い色になっている、ガサガサした見た目の髪。若々しさとたくましさを両立させた顔つきの、青年だった。

    「ったく、無茶しすぎなんだよ。あいつが研究所から逃げ出したのを知った途端に走り出すなんて……机の上に手持ちポケモン入りのボール、全部置き忘れやがって」
    「こやつは一筋縄ではいかんのだ。仕方ないだろう。近隣の街で暴れられたりしたら………」
    「分かった分かった。 言い訳はいつでも聞くからよ、オトウサン」
    「ぐっ……」
    青年は男――自分の父親を軽薄にあしらいながら、本来は父親のものである念力ポケモンに命じる。

    「さあ行くぜケーシィ。ちゃっちゃと奴を戦闘不能にして連れ戻すんだ。そしてきのみでもキズぐすりでもあげて元気にして……暖かい風呂でもベッドにでも入れてやろうじゃねえか。エリも心配している。手早く済ませよう」
    青年とそのポケモンが、逃亡者たるポケモンと対峙する。互いに緊張が高まり、
    技を出すタイミングを計る。
    片方は自らの意思で、もう片方は人間の命令によって。

    そして――バトルが始まった。





    ポケットモンスターオリジナル 〜エリと格闘の軌跡〜



    ・第1話〜殴られて冒険開始?


    「……そっか。無事に連れ戻せたんだね。良かったぁ……」
    中身を飲み干したコーヒーカップをことりと置きながら、思わず安心してため息をついた。
    いつも通りにごくごく普通に始まった朝の食卓の中で、私は『そのこと』がずっと気になっていたから。
    正面に座っている私のお兄ちゃんは、パンを口の中に詰め込んで頬張りながら(みっともない)片手間みたいな適当さで昨日の出来事を話す。
    「ま、結局ケーシィも体力を削られたから、最後はモンスターボールに頼らざるを得なかったがな。もぐもぐ……あくまで飼育の範囲内でポケモン育ててる俺らからしたら、ポケモン捕獲はちょいとした失態だよ。むぐむぐ」
    「お兄ちゃん、せめて口の中のものを飲み込んでから喋って欲しいんだけど………」
    「お前が朝からしつこく訊いてきたんだろうが。ったく、研究員でも何でもねえんだから、いちいちウチで飼ってるポケモンのことなんか気にすんなよな」
    「だって心配なんだもん。お兄ちゃんやパパみたいなポケモン研究家でなくたって、ポケモンは大切なパートナーなんでしょ?」
    『お前には関係ないだろ』みたいな態度に少しムッとしながら、私は私のパンを口にくわえる。
    「ポケモン持ってない私にだって、それくらいは分かるよ」
    「はんッ、そいつは結構なこってすなあ。可愛い妹め。……ごっそさーん」
    皮肉を捨て台詞に、お兄ちゃんは席を立って、食器をそのままにそそくさと行ってしまった。「ちょっと! 今日はお兄ちゃんが食器担当でしょ〜!」という私の抗議を完全に無視して。

    ……はぁ。全くいい加減なんだから。それなりにいい顔してるんだから、ちょっとは性格直せばいいのに。まあ、髪を白く脱色するのはいまいちセンスが分からないけどさ。
    「だから女の人にもすぐにフラれちゃうんだろうな〜……。長続きしてた人とも一年前から音信不通みたいだし」
    ぶつぶつ愚痴をこぼしながらパンを食べ終わり、席を立つ。かっこいい顔で嫌な奴のお兄ちゃんに代わり、食器を洗ってあげる為に。
    二人分のお皿とコーヒーカップを重ねて台所に「……あう、お皿が滑りそうで怖いなぁ」歩こうと「わっと、傾けちゃ駄目だよね」足を進めて「うわっ、落ちる落ちるバランスを」したんですけど「や、やっぱりテーブルにいくつか戻して……!」残念ながら「きゃーーーーー!」

    ガシャガシャガシャーン!!

    ……駄目でした。
    重ねたお皿を手で運ぶのって、やっぱり難易度高すぎるよね……。
    「お皿二段とコーヒーカップ二段。合わせて四段。そんなシロモノを持って三歩も歩くなんて……やはり私には出過ぎた領域だったのです……」
    「何をやっとるんだ、エリ」
    がっくりとうなだれる私に、辛辣な声がかけられる。
    名前を呼ばれたので、振り返えらざるを得ない。 私の名前はエリですから。
    視線を移すと、そこには髭をたくわえた男の人がいつの間にか立っていて、呆れた表情でこちらを見下ろしていた。
    ………まあ、私のパパなんだけど。

    ポケモン研究家、ランド博士。
    町の人達からはそう呼ばれて、まあ、そこそこ慕われているみたい。
    研究内容は『ポケモンの成長環境における能力値やわざの変化』とか何とか。お兄ちゃんはパパの助手をしていて色々手伝っているようだけど、私はそうでないからよく分からない。
    そんなパパの顔にはいつも通り、夜遅くに研究所から帰ってきてそのまま寝ちゃった次の朝に浮かべている、疲れの抜けきらない感じな表情が張り付いていた。手入れした顔は、昔図鑑で見せてもらったハーデリアっていうポケモンの進化形みたいなんだけど、寝起きはそれが爆発したような別人モノに変貌しちゃって、娘の私でも少々分かりづらいのでした。
    「パパ、ハーデリアの進化形って何だっけ」
    「『ムーランド』というが……それがどうした?」
    「ううん、何でもない」
    ありがとうムーランドパパ。

    「全く、またもや盛大に皿を割ってくれたものだな………おい、箒を探そうとするな。ワシがやる。お前では危なっかしくて見ていられない」
    「私が何かやるたびにそういうこと言うけどさ、パパ、私だって色々頑張ってるんだよ。一人でできることだって増えたし」
    「ほう。例えば?」
    「三日前パパが近所の人から預かってたコラッタを、パパが留守の間の三時間守り続けました。一緒に遊んでなつかれました」
    「なるほどそんな事があったな」
    納得するパパ。
    そして言葉を続ける。誉めて誉めて。
    「遊んで家中を台風のように壊滅させてくれたよな」
    「…………………」
    「お前は駆けっこしていただけと真顔で言っていたが、何故にタンスやテレビが倒壊してるのかがなかなかの謎だったな」
    「……二日前、隣町までキズぐすりを買いに一人でお使いできました。連れいったパパのケーシィも野生ポケモンに遭わせず戦わせずに」
    「そうだな。そして爆睡したお前を細腕で必死に支えつつよろめくケーシィがテレポートしてきたな。キズぐすりは隣町との間の道路に無造作に置かれていたな」
    「…………………………」
    「せいぜいがんばるがいいさ。可愛い娘よ」
    「パパーっ! 待って!」
    背中を見せて立ち去ろうとするパパに、私は必死で叫んだ。
    お皿をどうにかしてから行って欲しかったし………ううん、それよりも。
    今日ばかりは、パパに自分を駄目な娘だと認定される訳には――いかないんだから。

    「私は駄目な子だけど……何やっても失敗ばっかりだったけど、でも、でも……
    ポケモンだけは、ちゃんと面倒見れるから……大切に、出来るから――!」
    パパは背中を向けながら、何も答えない。
    信用出来ないっていうんでしょう? 分かってる。分かってるよ。自分が何も出来ない子だってことぐらい。
    だからこそ………小さい頃からパパやお兄ちゃんに見せてもらったり、短い時間を過ごしたりした、ポケットに入るあの子達とだけは、仲良くしたい。
    私はポケモンが、大好きだから。

    「フン………」
    パパは仏頂面で振り返る。うん、やっぱり信用出来ないって顔だった。
    「本当は恐ろしいくらいに、身震いするくらいに不安なんだが……ポケモンを連れ、旅をする。それが大人になる為の通過儀礼なのだからな。全く腹が立つわ」
    「それじゃあ……!」
    「ワシも親馬鹿ではない。可愛いかどうかは捨て置き、子には旅をさせよという言葉もある」
    視線だけでなく体全体を私の正面に向け、町のみんなに博士と呼ばれているポケモン研究家のパパは、心配そうな寂しそうな、だけどあくまでも厳格な大人の視線で、私を射抜く。

    「先に研究所に行って待っていろ。そこでお前に必要になるだろう物を渡してやる。勿論、お前のポケモンもな」
    「うん。……ありがとう、パパ」
    こんな私を、不安で堪らないのをこらえて――旅に出ることを許してくれて。
    「? 何故礼を言う?」
    「ううん、何でもない」
    だから私も、その不安を打ち消せるような人間になりたい。ポケモンと一緒に生きて一緒に成長していく人間……ポケモントレーナーに。
    私は食卓を離れる。「また新しい食器を買わねばならんな」という溜め息混じりの声が、後ろで聞こえた。



    ◆◆◆



    人とポケモンが共存して、この世界は成り立っている。
    そして私の住むこのミメシス地方では、子供は一定の年齢を迎えると、必ず自分のパートナーとなるポケモンを大人から授かり、色々な場所を旅して色々な経験を積んでいくことになるという。そうして初めて、その子供は大人となる為の準備を終了したことを認められる。
    通過儀礼。
    ……今日が私の番。
    私は今日から家族と離れ、旅に出る。友となるポケモンと一緒に。

    「待たせたな。……もっとも到着が遅れたのはお前のせいな訳だが」
    研究所の一室にて、パパは私を正面に姿勢を正す。
    実の親子であろうと、今日は特別な日。お互いに緊張して、思わず改まった態度になってしまうみたいだった。パパも毛皮らしい(汚らわしいの誤字だけどムーランド似的な意味で間違ってないから無修正)顔を修正し、博士のイメージにあう井出達になってるしね。

    「あー……何か気の効いた言葉でもかけてやろうかと思ったが、お前相手では小言ぐらいしか思いつかん。だから何も言わずにとっととイベントを済ませるとする」
    「ものっそ適当な言い分ですね……」
    脱力で思わず丁寧語になる私。

    「先ほどからお前もあからさまにチラチラ横目で見とるが………そこの机の上にある箱の中にモンスターボールが入っている。それがお前のパートナーのボールだ」
    部屋に入って、パパを待っていた時からずっと気になっていた箱に、私はようやく近づくことを許される。今よりもっと子供の頃、研究所の物に勝手に触るたびにすごく怒られまくっていた私は、待機していた間も遠目でしか見ることができなかった。
    「モンスターボールは三つある。お前が選ぶがいい」
    「三つ? 一つしか取っちゃ駄目なの?」
    「馬鹿者。いきなり三匹のポケモンを育てられるような素質がお前にあるものか」
    馬鹿って言われた。あうう。
    いやいや、そんな事より選ばなきゃ。私の初めてのポケモンを。
    箱の形は、いわゆるプレゼントボックス。立方体の上に蓋が乗り、リボンで封じられたもの。
    そのリボンを、ほどく。
    「研究所の敷地で育てているものをやりたかったが、あいにく今居るのは全員研究用でな。お前にやるポケモンはイッシュ地方という所から特別に取り寄せた」
    「ウイッシュ地方?」
    「それは某アイドルが両手を交差させて行うお家芸だ」
    「ティッシュ地方?」
    「それは某動画サイトで最近流行っている年齢制限必須っぽいポケモン動画に付けられるタグだ」
    よく知ってるじゃないですかぁお父さぁん?
    まあ戯言は置いといて。
    「……開けるよ?」
    蓋を両手で掴む。ボールを一つ手に取った瞬間から、私のポケモントレーナーとしての一歩が始まるのだ。
    「もったいつけるな。――いけ」
    私は、箱を開いた。

    「…………………………、あれ?」
    「では内容を説明するぞ。三つのボールにはそれぞれ炎、草、水タイプのポケモンが……」
    「ねえパパ……ポケモンが居ないよ?」
    「そうか。そしてポケモンの名前と分類名を上げると、まず炎は……って、何い!?」
    私の指摘に、パパは遅ればせながら反応し、叩くように机の上に両手をつけて、箱の中を覗き込む。
    その中に、モンスターボールは見当たらない。
    三つあるというポケモン入りのボールが三つとも、無かった。
    「何故だ!? 届いた時は確かにボールが入っていた! 中のポケモンも確認したぞ!」
    「え、えと、まさか泥棒さんとか……?」
    大変だ。
    私の初めてが奪われた!
    アクシデントに慌てふためくパパ。私は状況が飲み込めず、とりあえずきょろきょろと辺りを見回したりしてみた。棚やパソコンの脇とかにもモンスターボールが置かれてるから、その中に混ざったんじゃ「………あ!」
    その時――三つのモンスターボールを見つけて、無意識に大声が出た。パパもこちらを振り返り………だから私の視線の先を見て、同じように声を上げた。

    「探し物はこれか? 親父。エリ」
    「お兄ちゃん!」
    「アキラ!」
    部屋の入り口に、お兄ちゃんが立っていた。白衣に着替えた姿で、うさんくさく気取ったポーズで。
    パパの助手。研究員のアキラ。私のお兄ちゃん。
    その片手には、三つのモンスターボール。

    「へへ……朝メシ済ませてから、お二人さんが来るまでの間に先回りして、ちょいと見させてもらったぜ」
    「お前、何を考えている! それはエリに渡すボールだ、さっさと返せ!」
    「へいへい。お騒がせしてすいやせんっした。受け取れ」
    お兄ちゃんはやけに素直に謝ってから、こちらにボールを下投げで渡そうとする。……けれど腕を下げた瞬間、何かを見つけたように目を丸くし、口元をニヤリと歪める。

    「………お兄ちゃん?」
    「返そう……と思ったが、気が変わったわ。いいこと思いついた」
    「……?」
    「今から俺が出すこの三匹を倒せたら、改めて選ばせてやるっていうのはどうだい?」
    そう言って、意地悪なお兄ちゃんはボールを一つ、投げる。渡してくれたのかと思ったけど、それは私に届く前に空中で――破裂音と共に、割れた。中から赤い稲妻が飛び出し、床の上で輪郭を纏い実体化する。
    「ツタアァアアーーーー、ジャッ!」
    それは緑色の体をした細長い体のポケモン。手足はとても小さく、遠目にはヘビさんのようにも見えた。
    「草タイプのポケモン………ツタージャだ」
    パパが後ろから解説をしてくれる。ツタージャはお兄ちゃんの前にさっそうと立ち、私の方をじっと見つめている。……何かを待っているかのように。

    「ほらほらエリさんよ、お前もさっさとポケモンを取り出せ」
    「取り出せって……何? どういうつもりなの? お兄ちゃん」
    「お前も知ってるだろうが。トレーナーはポケモンと遊ぶだけじゃねえ。互いにポケモンを戦わせて、強化したりもするんだぜ?」
    「それは知ってるけど………え? これ、ポケモンバトルなの?」
    「そうでなけりゃ何だってんだよ」
    当たり前のことのように言うお兄ちゃん。

    「で、でもお兄ちゃん、私が選ぶポケモン全部取っちゃってるじゃない。一つくらい返してくれなきゃ……」
    「おいおい、何を言ってるんだ?」
    下手っぴなお芝居をしているような軽い口調――気分が乗るとこの人はいつもこうなる――で、お兄ちゃんは私を笑った。
    「お前の足元に偶然にもモンスターボールが転がってるじゃねえか。そいつを拾って中のポケモンを出してやれ。俺はそいつが誰だか全然知らないが、そいつでお前は戦ってみろよ」
    「何を馬鹿なことを、何だそのボールは………、っ!?」
    私が拾ったボールを見て、何故かパパはオーバーなくらいに目を丸くした。え……何? 色が紅白じゃなくて青と白に分かれている以外に、おかしなとこは見当たらないけど。
    「ふざけるな! お前よりにもよって、あのポケモンを……!」
    「落ち着けよ親父。こいつはエリに与える試練さ」
    お兄ちゃんは目を細め、そこだけ笑いを消す。口で笑って目で無表情という器用なことができるのもこの人の特技。
    「この三匹じゃ性格がおとなしすぎて、エリに振り回されてお終いになっちまうさ」
    「な……! そんなのやってみなきゃ分からないよ!」
    「俺は無理だと思うね。可愛い妹よ。……ならばだ。ちょっと難易度を高くして、トレーナーを鍛えるくらいのポケモンを操らせるくらいのことをさせなきゃ、エリには分からないと思うのさ。旅の厳しさって奴をな」
    厳しさ……?
    それとこのポケモンバトルと、どういう関係があるんだろう。
    このボールの中に、その秘密がある………?
    「エ、エリやめろ、そのボールの中に入ってるのはな、お前が気にしていた昨日の……」
    「分かったよ」
    私はボール握りしめ、お兄ちゃんを正面から睨みつける。
    「お兄ちゃんの言ってることはよく分からないけど、私が馬鹿なのをいいことに意地悪してるってことは、分かった」
    「正当な評価だよ。………そのポケモンでどこまで抵抗できるか見てやるぜ。来な」
    「お兄ちゃんを見返して、私にもトレーナーぐらいはできるってことを――証明してやるんだからっ!!」
    私はモンスターボールを投げ、ポケモンを召喚した。パパが理由不明の呻き声を漏らしたのと同時に、それは床に降り立つ。

    「キィ……ゲキイィイイイィイ!」
    「わ………見たことないポケモン!」
    赤い体色に、小柄な人間のような輪郭。その上から白い服を着ていて、真っ黒な帯を締めていた。
    この服は………えっと、昔テレビで見た『カラテおう』っていうトレーナーが着てたみたいな……………格闘モノの?
    「ナゲキ――じゅうどうポケモンのナゲキ、だ」
    「ナゲキ……?」
    パパはどこかが痛いのを我慢しているみたいな表情でポケモンの解説をする。……何でさっきから苦しそうな顔つきなんだろう?

    「ツタージャ、『たいあたり』だ!」
    はうっ!? しまった!
    自分のポケモン見つめてて、命令するの忘れてた!
    バトルでのポケモンはトレーナーの命令があって初めて行動出来るのに!
    ツタージャはお兄ちゃんを見て頷くと、体全体でナゲキに突っ込んできた。あわわ、攻撃を許した後じゃ、わざの指示なんて出来ないよ!

    「ナゲ…………キイィッ!」
    「ジャア!?」
    と、思ったら。
    ナゲキは何も命令をしていないのに、近づいてくるツタージャに拳を突き出し……パンチをくらわせた。ツタージャの小さな体が吹っ飛ぶ。
    「『いわくだき』。岩をも破壊する勢いの攻撃だ」実況役になったらしいパパの解説がフィールドに響く。
    ……だからどうして、どこか神妙な顔つきなのさ。

    「ツタアァア………ージャッ!」
    「『にらみつける』だ、ツタージャ」
    ツタージャは倒れたものの、素早く立ち上がり、ナゲキを鋭い眼光で射抜く。これは……ただの視線じゃない!?
    「防御力を下げさせてもらったぜ。ポケモンの技は、何も攻撃だけじゃねえんだよ。再度『たいあたり』!」
    ツタージャはまだまだ体力が有り余っているようだった。軽快なステップで床をジャンプし一一机や椅子、本棚にピョンピョン飛び移ってから、いきなり飛びかかってくる。
    向かえうつナゲキは……あれ? その構えはもしかして、また『いわくだき』!?
    「ナ、ナゲキ、駄目だよ! ツタージャの体力は、多分まだ半分以上ありそうだから………削り切れないっ!」
    こっちの防御力が下がってるらしいし、ツタージャの方が若干、素早さも上に見える。攻撃を耐えられたらこっちが不利だ!
    「ゲキイィイイイィ!」
    ナゲキは再び、ツタージャの体をはじき飛ばした。『いわくだき』を使って。
    ああ、でもツタージャはまだ平気。空中で一回転してから着地し、長い首を上げて――。
    「ジャアァアァ……ッ」
    ――そして目を回して、その場に倒れ込んだ。
    「え……倒れた? ていうか倒せた!?」
    「これは……」
    お兄ちゃんにも予想外のことだったらしく、不思議そうに首を傾げる。
    どうして『いわくだき』の威力が、一度目より上がってるんだろう?
    パパ、教えて!

    「ポケモンの技には三種類が存在する。ダメージを与える技、痛みなくポケモンの体に影響を与える技、そして三つめは……ダメージを与え、体に影響を与える技だ」
    「てことは、『いわくだき』は………」
    「たまに相手の防御を下げる効果がある。……偶然それが発動して、結果的に技の威力が上がったという訳だ」
    ありがとうムーランドパパ!
    そしてナゲキ!
    私は1人拍手をしつつ、MVPたる柔道ポケモン様に駆け寄った。相手のポケモンを倒したんだからこれ、でバトルは終わりだよね?
    ナゲキは今私の存在に気がついたみたいに顔だけで振り向き、じっとこちらを見つめる。
    「お疲れ様〜! すごいね! すごく強いんだねナゲキ! 私、感動したよ!」
    そう言って、私はナゲキを両手で持ち上げようと、体に触れた。
    「あ………バカ!」
    「エリ、やめろ!」
    「へ?」
    何がですか? そう言葉を続けようとする前に、私の服……胸倉をナゲキが掴んできた。。

    バチーーーーーーーーーーーーーーン!!!

    「あ痛ーーーーっ!!」
    床が消失し、体全体が反転するような感覚。次いで背中が壁……じゃなかった、床に激突する衝撃。
    目に見えるのは、天井。じんわりと、じわりじわりと、衝撃の走った背中が痛く、なってくる。
    ………え? 何? 何ですか? 何が起こったのですか? ググれば分かりますか?
    「ゲキィ……」
    顔を横に向ける。床に倒れて、横倒しになった私の視界。
    だから目の前に居るナゲキの全身も横に見える。パーにした片手を振り抜いて私を睨んでいる、その姿が。
    「立てるか……エリ」
    「あ………はい、今立ちますお父上様。……どっこい正一。あの、一体何が……」
    「お兄様が説明しよう。お前はナゲキに投げ技を食らって倒れたのさ」
    「だから私も心配だったのだ……」
    ナゲキに………攻撃された?

    「ナ、ナゲキさん?」
    「ゲキイィ!」
    「あでゅーー!!」
    今度はハッキリと見えた。顎を蹴り上げられました。
    ……そんな攻撃、柔道にあったっけ?
    「柔道は受け身の武術だ。積極的に相手を叩きのめすモノではない。……しかし訳あってそのナゲキは狂暴でな。人間の言うことを聞かんのだ」
    「喜ぶといいぜ妹。そいつこそがお前の気にしてた、昨日の脱走者さ。会えて嬉しいだろう?」
    額に手を当て俯くパパと、面白がるようにニヤけてる外道。

    「ゲキ……ゲキィ…ゲキイィ」
    ナゲキは辺りを見渡し、闘争心に塗りつぶされた視線を周囲にばらまく。……目が合った相手から撃沈させようと言わんばかりの挙動。
    ツタージャを相手にしてた時、ナゲキは私の命令無しに技を繰り出していた。
    あれはただ単に、トレーナーなんて要らないという態度の表れ、だった……?

    「さあエリ、再度立ち上がれ。次のポケモンを出すぜ」
    「え……えぇ!? まだあるの!? ツタージャを倒したのに!?」
    「ポケモンバトルはな、相手の手持ちポケモンを全て倒すまで終わらないんだよ」
    そうなんですか!? 一匹倒せばいいと思ってた!
    だって全員倒しちゃったら、そのトレーナーさんどうするの!? どうしようもなくて目の前が真っ白になっちゃうんじゃないの!?
    「エリ、エクスクラメーションクエスチョンマークと三点リーダを使い過ぎだ」
    「パパ! 今ワタクシめは混乱しております!」
    「親父(はいけい)見てないで対戦相手の方向けっつうの。いくぜニ匹目!」
    お兄ちゃんはツタージャをボールに戻し一一ボールから光線が放たれ、ポケモンをフィールドから回収した――次のボールを投げる。

    「ブィ〜♪」
    「おぉっ! ブタさんだ!」
    「よくこの状況で相手のポケモンに感心できるな……。ちなみにそいつはポカブ。ひぶたポケモンだ」
    出てきたポケモン。見入る私。呆れるパパ。
    「ゲキィ!」
    そしてナゲキは先ほどと同じように、焼き、じゃなかった、ポカブに突っ込んでいく。
    二度も最初の命令を忘れるようなお馬鹿な人間はもはや眼中にないようです……。

    「ポカブ、『まるくなる』だ! ナゲキの攻撃に備えろ!」
    「ブウ!」
    丸っこいポカブの体が更に丸められた。か、かわいい。
    そこにナゲキが組み付く。
    「ナゲエェエィ!」
    「ポ……ポカァ!?」
    「え………え? 何かすごい!?」
    ナゲキはポカブを抱いたまま、床の上をタイヤみたく凄い勢いで転がり始めた。ニ匹とも小さな体格。綺麗な球体の形でゴロゴロと。
    例えるなら……地球さんの回転を倍速したみたいに。その位壮大な、絡み合い。
    「………『ちきゅうなげ』か」
    パパの呟きと同時一一相手の体位が上になった所で、ナゲキは回転の勢いを利用しポカブを投げ飛ばした。壁にぶつかったポカブはバウンドし、空中で一回転して綺麗に着地。
    「相手の防御力に関係なく、固定のダメージを与える技だ。『まるくなる』で防御を強化しても、それは無視される」
    「なら連発される前に攻撃すればいいだけだ! ポカブ、『たいあたり』!」
    「またですか!? ナ、ナゲキ……」
    そろそろ私も何か命令しないと! パパと違って私はモブキャラじゃないんだから!
    あうう、でもナゲキがどんな技を使えるのか分からない! コマンドとか表示されればいいのに!
    こうなったら頼りになる人に泣きつくしかない!
    「パパぁ、ナゲキってどんな技が使えるの!?」
    「ワシに訊くのか!? 自分で考えろ!」
    「ガ………『ガンガンいこうぜ』!!」
    「ねーよ!」
    言ってる内に、ポカブはナゲキに激突する。素早く離れ、投げ技を防止するのも忘れない。

    「『たいあたり』を繰り返せ! ヒット・アンド・アウェイだ!」
    「ポカポカブー!」
    離れては突撃の戦術が連続で行われる。吹っ飛びこそしないものの、ポカブの『たいあたり』はさっきのツタージャのそれよりも、ナゲキを大きく揺さぶっているようだった。
    ナゲキはそれに対して……微動だにしない。
    ただポカブの『たいあたり』を、直立不動で受け続けている。
    「一体どうして……?」
    もしかして、私の命令を待っている、とか?
    おお、改心してくれたんだ!
    「ナゲキ、『いわくだき』だよ! 反撃しちゃえ〜!」
    「ゲキイィ……?」
    「はうっ!?」
    こちらを振り向くナゲキ。……恐ろしい目つきでした。す、すいやせん。
    私を頼ってくれた訳ではないようです。じゃあ何で動かないの……?

    「どうやらナゲキには、ナゲキの考えがあるようだな……」
    「パパ……」
    もう台詞を表示することでしか存在をアピールできてないですね……。
    「お前のことは本当に信用していないようだ」
    「………うう」
    「まあ落ち込むな。お前だけではない。あのナゲキはここに来た時から、他者との関わり合いを避けていたのだ」
    「そうなの?」
    「奴が最初に使った技、『いわくだき』だが、あれはワシが『わざマシン』を使って覚えさせた技なんだ。研究の一環でな……その時も暴れて大変だったよ」
    人間を信用せず、決してなびかないナゲキ。柔道を暴具に使用するほどの精神状態になっているポケモン。

    ――訳あって気性が荒くてな。

    何が…あったんだろう。

    「お前も知っている通り、この研究所は敷地内でポケモンを放し飼いにしているが、そこでも奴だけは遊ぶポケモン達から一匹離れ、一心不乱に体を鍛えているだけだったよ」
    ナゲキに再び視線を向ける。……まだ攻撃を受け止めているまま、動いていない。
    「ナ、ナゲキ……」
    私は見ていることしか、出来ないのだろうか。
    私の声は、ナゲキには届かない……? 受け入れてもらえない……?
    ナゲキは私を必要としていない。
    なら私は……。

    「……………ナアァア!」
    「ブウ…………ッ!?」
    その時、またも私の意志――ナゲキへの干渉とは無関係に、決着がつく。
    攻撃に全然抵抗していなかったナゲキが、いきなり全てを弾き飛ばすかのような闘気を放ち、ポカブを壁に叩きつけたのだ。
    今度は綺麗に着地することもなく、ポカブは前後の足を床と平行に伸ばして、気を失った。
    「ポカカ〜〜………」
    「戻れ、ポカブ」
    戦闘不能のニ匹目のポケモンをボールに回収し、お兄ちゃんはナゲキを見やる。

    「……なるほどな。『きあいだめ』と推測したんで早めに倒そうかと思ったら、『がまん』だったか」
    「ゲキ………」
    「じゅうどうポケモンらしい、見事な受け身技だったぜ」
    ……お兄ちゃんが見ているのはナゲキだけ。当たり前だ、私は何の役にも立っていないのだから。
    そもそもこのポケモンバトルにすら、参加出来ていない。
    「さてナゲキ。三匹目を出すぜ。お前なら楽勝かな? それともここまでのダメージがかさんで苦戦することになるのかな?」
    お兄ちゃんは意地悪にも、私を無視してバトルを続けようとしている。
    片方のトレーナーが命令を放棄してポケモンに戦闘を一任するのなら……もうそんなのはポケモンバトルとは呼べない。野生ポケモンとの戦闘と同じ。
    「…………っ」
    このままじゃ私は――また失敗しちゃう。
    ナゲキだけがどんどん相手を倒しているこの状況に流されてはいけない。私も何かやらなきゃ。
    私はポケモントレーナーに、なるんだから。

    「固まっているどこかの妹に、もう存在意義は無いだろう。じゃあ三匹目を出すぜ。ナゲキ……倒してみな!」
    「ゲキーーー!!」
    そして。
    ナゲキはバトルの最中に……突然はじけた。
    「むっ!? な、何だ!?」
    「ナゲキ!?」
    「う、うおおおっ!?」
    その場に居た全ての人間が、ナゲキのいきなりの行動に驚く。
    「ゲキゲキゲキー!!」
    ナゲキはカンカンに怒った様子で、壁を殴り、机を倒し、拳を振り回して暴れ始めた。近づこうものならこっちが吹っ飛ばされてしまうような勢いで。
    「どうしたのナゲ……きゃっ!」
    それから……逃亡。窓に飛びかかり、ガラスが割れるものすごい音と共に、ナゲキは外に逃げ出した。

    「……やれやれ。荒い武人だぜ」
    「呆れている場合か馬鹿者!」
    ケンタロス(でっかい牛ポケモンさん。昔テレビで見た)の大群が通り過ぎた後みたいに荒れ果てた研究室内。パパは焦り、お兄ちゃんはこの期に及んでまだ茶番癖を振りかざしている。
    そして私は……。
    「ちっ……! 昨日の再現のようだが、アキラ、奴を追うぞ! エリはここで………エリ!?」
    ランド博士の慌てた声は、廊下を走る私の背中の方から聞こえてきたのだった。

    「ゲキィーー!!」
    「ピチュッ!? ピピチュピチュ〜〜!!」
    「コラララッ! コラッタコラッタ〜!!」
    「ビパパパ〜!! ビッパビッパ〜〜!」
    疾走するナゲキ。驚いて逃げ惑うちっちゃなポケモン。
    赤い柔道着のポケモンを、必死で私は追いかける。
    たくさんのポケモン達が放し飼いにされている、研究所の広大なお庭。

    その向こうには森がある。私が子供の頃から(今でも子供だけど)よく遊んだ森。ナゲキはそこへ向かっていた。
    町の外まで逃げるつもり、なのだろう。

    「ウッソウッソ〜!」
    「ゲキィ!!」
    「ウソウソウソ〜〜! キィイイィイイ……」
    立っていたポケモンを投げ飛ばすナゲキ。
    速度が一瞬緩んだのを見て飛びかかる。……そしてかわされた。私は顔面から転んだ。
    「ううう………」
    立ち上がる。走る。痛いけど、今はナゲキを追わなくちゃ。

    ――追ってどうしようというのか。
    捕まえる? 連れ戻す? 人間を攻撃するくらい警戒しているポケモンを?
    嫌がるのを拘束して、研究所に帰ろうと?

    「考えちゃ………駄目だ」
    私達はとうとう、森に入る。
    小さな子供が一人で遊んでも危なくない、緩やかな地形の森。
    騒ぎが届いていたのか、ポケモンの姿は見えなかった。だから私とナゲキが走っているだけ。
    飛んだり跳ねたり、木と木の間を縫うように駆け抜けたり。

    「ナゲキ! 待ってよ〜〜〜!」
    大声を出す。
    果たしてナゲキは………驚いたのか、急ブレーキをかけて、止まった。
    そしてこっちを見る。
    「ナゲキ……」
    怖い目つきじゃない。不思議がるような、あるいは怪しむような、困惑に満ちた視線だった。
    そりゃあ……そうだろうね。そんな目つきにもなるよね。
    自分を追いかけている人間が出した声がとっても楽しそうなものだったら、変な奴だとも思うだろう。
    「はーっ、はーっ………んっと、えっとね」
    言葉が出てこない。
    そもそも何が言いたくてナゲキに叫んだのかさえ、私自身も分からなかった。
    行かないで?
    話を聞いて?
    こっちを向いて?
    どれも違う気がする。
    そう思うのはきっと――楽しいと思ったから。
    久しぶりにポケモンと本気で追いかけっこして、楽しいと思ってしまったから。

    「……ごめんねナゲキ」
    私はこういうお馬鹿さんだから、ナゲキがどうして人を嫌うのか、どうしていきなり暴れて逃げ出したりしたのか、分からない。そんなナゲキに私は何かをしてあげられるのか、何もしてはいけないのかどうかも。
    だけど……だけどね。

    ナゲキに歩み寄る。……疲れちゃったのか、バトルのダメージが響いたのか、あるいはやっぱり私を変な奴だと思っているのか、ナゲキは逃げも暴れもしなかった。
    私はその体を、ぎゅっと抱きしめる。
    逃がさない為ではなく、まだ原因も分からないナゲキの憤りを一一少しでも落ち着かせてあげる為に。
    「ゲ、ゲキィ! ゲキィイ!」
    物理的干渉にナゲキは抵抗する。きっと昨日お兄ちゃんが捕まえようとした時も、こんな反応をしたのだろう。

    背後の茂みがガサガサと音を立てた。……お兄ちゃんだった。
    足下には貝殻を持ったラッコさんみたいなポケモンを従えている。これが三体目なのかな。
    「う、おいエリ、何をしてんだ?」
    「ナゲキを癒やしてあげてるの」
    何かまずそうな顔つきをしている。多分理由は「痛っ……!」ナゲキの、抵抗。
    直接抱きしめるのが危険な行為と言いたいらしい。だからお兄ちゃんもモンスターボールを使わざるを得なかった。

    「ナゲゲイーーーーーーッ!」
    「あ痛ーーーーーーっ!」
    また投げられた。土の上に叩きつけられた。
    私のお洋服に、めいっぱいの土が付く。

    「言わんこっちゃない! 行けミジュマル! 『みずでっぽう』だ!」
    「ミジュジュプ〜〜!」
    ミジュマルと呼ばれたラッコさんはナゲキに向け、口から水を勢いよく吹き出す。
    ……服の汚れなんて、どうでもいい。
    ナゲキの前に飛び込み、代わりに『みずでっぽう』を受ける。痛いくらいの水圧で顔面にかけられる水。前髪がちぢれ乱れるのが分かった。そしてそれもまた今の私には関係のないこと。
    「どういうつもりだ……」
    「お兄ちゃん、静かにして」
    ナゲキの方に向き直り、片手は乱入者に突き出してストップのポーズをとる。
    邪魔をしないでほしい。今私はナゲキと『話して』るんだから。

    「ナゲキ、とりあえず休もっか」
    「……………キ」
    「この森、お日様の光を浴びてお昼寝するのにも向いてるんだ。そうすれば、痛みも疲れも無くなるの」
    何をどうすればいいのか分からなくなった時、二つの方法があるという。
    一つは、何をすればいいのか、誰かに訊く。
    そしてもう一つは……一休み。頭を落ち着かせて、気分をリセットさせること。
    昔、ママがそう教えてくれた。

    とりあえずでもいい。私にはまだ、ナゲキの気持ちが分からない。だから今はせめて、ナゲキと一緒に休憩をしたいと思う。
    だって『彼』は一一こんなにも傷だらけなのだから。
    近くの大きな木に背中を預け、地面に座る。眠りはしないけど、久しぶりの運動はそれなりに疲れた。
    ナゲキは『何を企んでいる?』みたいな目でこちらを見ている。私は完璧な無防備。リラックスするには力を抜くしかないから。

    「ゲキ…………」
    警戒のオーラ。だけど僅かに戸惑って、本気で敵意を出すことが出来なくて。
    おずおずと近寄り、ナゲキは私の隣に、腰を下ろした。
    信じられん、という人間の声が聞こえた気がしたけれど、今の私にはどうでもいいことだった。



    ◆◆◆



    「馬鹿野郎、無茶しやがって……」
    「それは死ぬ人に捧げる言葉だよ」
    あと私は野郎じゃないよ。こういう時は女郎って言うんだよ。お兄ちゃん。

    転んだ時にほっぺたとかを軽く擦りむいたみたいで、私は再び家に戻されて手当てを受けていた。
    いつっ……心なしか傷口に当てられる薬漬けのガーゼの方が、転倒時より強い痛みを生み出している気がします。でも大人しく座ってないと、目の前で処置してくれてるお兄ちゃんに絶対からかわれるだろうしなぁ……。

    「お前はいつもボーっとしてる割に、変な所ででしゃばり過ぎなんだよ。『カモネギも鳴かずばゲットされまい』って諺があるのを知らないのか?」
    「ボーっとなんかしてないもん」
    「ハンっ、どうかな。つい一週間前こんなことがあったじゃねえか。15匹のルージュラが……」
    「そこまでだ」
    お兄ちゃんにイラっと来た所でパパが仲裁に入って来た。……ていうか居たんですね。印象薄くて気付きませんでしたよ。

    「まあともあれ、ナゲキも戻ってきたのだ。『ケンタロスに引かれてスズのとう参り』という諺もある。結果オーライだ。良しとしよう」
    「親父も随分丸くなったもんだよな。お袋の賜物って奴か?」
    「お前は変わらんな」
    「あんたに似たんだよ」
    「ふん」
    「あの……ちょっと待って下さい、男共様」
    ストーリーに関係なさそうな無駄な台詞の連弾に流れそうだったので、今度は私が水を差す。

    「パパ、ナゲキはどうしてるの?」
    「心配するな。あの程度の傷など、ポケモンバトルでは日常茶飯事だぞ?」
    「『キズぐすり』と『PPエイダー』で処置はしといたぜ。……回復マシンを買える金がありゃ苦労はしねえんだけどな」
    「ナゲキに会いにいっても、いい?」
    「へへ、随分と気にしてるようじゃねえか」
    パパに訊いているのに、何故かお兄ちゃんがニヤけつつしゃしゃり出てくる。
    あの柔道ポケモンさんみたいに、私も格闘技とか習おうかな。主に変質者対策用に。

    「………ねえ、パパ。相談があるの」
    「何だ?」
    「ナゲキを……私のパートナーにしても、いいかな?」
    パパは眉根を寄せ、口を固く結ぶ。……ムッとしたように見えるけれど、それが決まった答えを口にする前にとるブラフだということを、娘の私は知っていた。
    「好きにするがいい」
    「……ありがとう」
    三匹もポケモンを用意してくれて選択肢を与えてくれた博士を無視して、私は四匹目を選ぶ。
    それは私が、ナゲキのことをもっと知りたいと思ったから。
    ナゲキのそばで一緒に過ごして、心と心で近づきたいと思ったから。
    それがいつになるのかは、今はまだ分からないけれど。



    私はお兄ちゃんからナゲキ入りモンスターボールを受け取った。パパからはキズぐすりと空っぽのボールを五つ。あと子供の旅に必要なエトセトラを諸々に。
    それらを詰め込んだリュックを背負って、家族に見送られ家を出る。
    空は快晴。そよ風が気持ちいい。
    ……つまり、順風満帆ってことで。

    「これからよろしくね、ナゲキ」
    手のひらの上、ボールの中の私の友達に話しかける。
    返事は無かったけど、きっと言葉は心に届いて、いつか形になるだろうと、そう思った。



    ◆◆◆



    こうして新米ポケモントレーナー、エリの旅が始まった。

    ……所変わって、再びエリの家の中。
    当分戻ってくることは無いだろう、彼女の家。

    「じゃ、妹を尾行しにいってくるぜ、親父」
    「……………」
    余所行きには不向きな白衣のまま、エリの兄、アキラは玄関口に立ち、父のランドに軽やかな口調でそう言った。
    「大丈夫だって。バレるような失敗(へま)はしねえさ。あいつはヤドンとサイホーンを掛け合わせたような精神の持ち主なんだからよ」
    「……お前がエリにそういう評価を下しているのなら、確かに尾行は必要なのだろうな」
    ランドは複雑そうな面持ちで息子を見やる。

    『ワシも親馬鹿ではない。可愛いかどうかはともかく、子には旅をさせよという言葉もある』
    親馬鹿ではない。……彼が娘に言ったこの言葉に嘘はない。
    確かにエリは要領が悪く、家族から離れて行動させるには大きな不安がある。しかしだからといって、彼女の一人旅に何らかの制約を与えて安全を図ろうという気持ちはランドには微塵も存在していなかった。大体彼女は一人ではない。心強いパートナーもそばに居るのだから。
    それよりも娘には――色々な経験をしてほしい。
    世界を知って、自分のやりたいこと、夢中になれるものを見つけてほしい。
    そのついでとして、せめて皿を割らずに洗い物が出来る程度には成長してもらいたいと、親として願っていた。
    通過儀礼なのだから仕方がないというのも無くはないが、とにかくランドは、エリの旅に自身の心配を介入させる気は無かったのだ。
    そしてそんなランドに対し、エリの旅を頑なに、旅の日が近づいてから今日まで否定し続けていた人間が、兄のアキラだったのである。

    「……一つお前に訊きたい」
    「何ですかオトウサン?」
    「ワシはナゲキ入りのモンスターボールを机の上に置いた覚えは無い。棚に閉まったように記憶しているんだが」
    「かつてない気性の荒さを持つポケモンだからな。ボール入りのまま転げ落ちたのかも」
    「あのナゲキのなつかなさはワシがよく知っている。お前もそうだろう」
    人を喰ったように笑うアキラに、あくまで堅い表情でランドは言う。

    「お前が心配しているエリ。お前が反対しているエリの旅。人間を嫌っているナゲキをお前がエリに押し付けたのだとすれば……奴の冒険は、順風満帆ということにはならないかも知れん」
    エリの旅には反対だと、アキラは繰り返し父親に言ってきた。送り出すというのなら研究者を辞めるとも。
    エリはそれ位の不安に値する少女だと、少なくともアキラは思っている。
    馬鹿にしているのでも見下しているのでもなく………ただ、兄として心配だったから。

    それでも旅に出るというならどうするか。
    ……旅を困難にさせる仕掛けを打てばいい。
    ツタージャ、ポカブ、ミジュマルを取り上げ、代わりにナゲキを使わせた。
    初めから懐かぬポケモンを押し付け、トレーナーへの憧れの前に、多少脚色した現実を突きつけてやった。
    トレーナーになった所で――お前はポケモンを操れはしないのだ、と。

    バトル中に逃亡したのは想定外だったが。……いや想定外というなら、まさかナゲキがエリの説得に応じるとは思っていなかったが。
    しかしアレはただの気まぐれに違いない。ナゲキの心はナゲキ自身のみで閉ざされている。他の存在の介入は絶対に許さない。それがアキラのナゲキに対する見解だった。
    出来るはずが無い。
    ポケモン研究者である自分と父親の力を持ってしても開けなかったナゲキの心を、あの妹に開けるはずが無い。
    ナゲキの存在は必ずや、妹の旅に支障を及ぼすことになるだろう。そうすればやがて旅そのものを続けることが難しくなり、彼女は家に帰ってきてくれる。

    エリには呆けやすい自らの頭に問いかけて欲しい。
    自分はひどく無茶なことをしているのではないか。
    何も考えずに世界に飛び出して、一体何が出来るというのか。

    己の器を、思い知れ。
    そしてさっさと帰ってこい。
    その性格のせいで、辛い思いをする前に。

    「………証拠はありませんぜ、親父。アナタサマがボールをしまったと記憶違いしただけなのですよ。きっと」
    アキラはあくまで軽薄に笑い、ドアを開いて陽光の中に立つ。そのドアから手を離す前に、父親は最後の問いかけを発した。
    この兄もまた、当分帰ってはこないのだろうから。

    「お前は、エリをどう思っているのだ?」
    「守るべき大切な妹だよ。兄が妹に対して抱く感情で、他に何があるっていうんだい?」

    そしてアキラは扉を閉じ、通りへと躍り出た。これから兄の、妹への極秘監視の旅が始まる。
    妹は町の入り口辺りまで行った頃だろうと推測し、その方角に向かおうと振り返った。

    エリが立っていた。

    「―――――え」
    「……待ってたよ。お兄ちゃん」
    呆れた様子の笑顔で屈み、上目で兄を見据える妹。
    「お兄ちゃんがこっそり付いてくるんじゃないかなって気がしたからさ、ちょっと張り込んでいたんですよ。あと三分何も起こらなかったら出発してたんだけどね」
    「………………」
    『付いてくる気がした』。
    その言葉にもまた、嘘は無い。
    どんなに馬鹿でない人間でも、馬鹿の無為無策と勘だけはどうすることも出来ない。

    「いいよ。付いてきたいのなら来ても」
    「何?」
    「パパには許可を取ったんでしょ? なら問題は………うーん、無いんだよね?」
    「……俺に訊くのかよ」
    「い、いいじゃないですか」
    「………はは」
    アキラもまた、呆れ果てた笑いを零す。
    兄の器は妹より広い。故に見破られて逆上することも泣くこともしない。故に笑うしかないのだろうと自己分析し、彼はエリの頭をがしがしとかき回してやった。
    「あ、あうあう、気安く触るな〜」
    「上目で上から目線なんて矛盾した真似するからだ、生意気な奴め。………いいだろう。どこまでお前がポケモンをできるか、この俺が見届けてやる」
    「あはは……不束者ですが、よろしくお願いします」
    「ほざいてろ」

    ――こうしてエリとナゲキ、+アルファの冒険の旅が始まった。
    不安より期待に胸を膨らませ、エリは鼻歌混じりにアキラより前を歩き出す。
    ………アキラはその瞬間に、影を落とした歪みある笑みを浮かべ、妹を見据えた。

    ……お前の旅、すぐに終わらせてやるからな……。



    『投げられて冒険開始?』 終わり

    to be continued


      [No.311] エリと格闘の軌跡 投稿者:ライアーキャット   《URL》   投稿日:2011/04/24(Sun) 17:53:41     64clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    エリと格闘の軌跡 (画像サイズ: 800×800 47kB)

    初めまして! ライアーキャットと申します。
    趣味で小説を色々書いては誰にも見せずに秘匿していましたが、このたびこのようなサイト様に出会い、書きとどめていたポケモン小説を投稿させていただきました。

    登場するポケモンはBWとそれ以前のもので、キャラクターや世界観はオリジナルとなっております。
    ただ、ゲームの設定などがたまにネタとして入り込むことがありますのでご了承くださいませ。

    それから、いわゆる人体への攻撃などの描写が作中には含まれています。苦手な方はご注意ください。

    完結させられるかどうかはわかりませんが、頑張って書いていきたいと思います。宜しくお願いします。

    感想、批評などありましたらご記入いただけると嬉しいです。

    それでは、新米ポケモントレーナー『エリ』の旅におつきあい下さい!


    【描いてもいいのよ】
    【批評していいのよ】


      [No.310] 第4話 白き真実・黒き理想〜レシラム・ゼクロム〜と悪夢の化身〜ダークライ〜 投稿者:魁炎   投稿日:2011/04/24(Sun) 17:12:31     35clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    「まずは、白き真実と黒き理想・・・レシラムとゼクロムの伝説についてだ。」

    「レシラムと・・・ゼクロム。」

    「はるか昔、伝説のドラゴンポケモンのレシラムとゼクロムはそれぞれある双子のパートナーとなった。」

    ダルクは淡々とした口調で語っていく。

    「レシラムは真実を求める兄の、ゼクロムは理想を求める弟のパートナーになり、このランパ地方を発展させるのに貢献し、ランパ地方を滅ぼさんとするものと戦った。その双子の姿に民は心酔し、『黒白の英雄』と崇めた。」

    「黒白の英雄!?」

    「なんだ、知ってたのか。」

    「いや・・・名前は聞いたことあったけど・・・七つの伝説の一つだとは知らなかったんだ。」

    「そうか・・・。まあいい。話をつづけるぞ。」

    ダルクは一呼吸置いて、再び伝説について語り始めた。

    「しかし、ある日双子はそれぞれ求めるものの違いから仲たがいを起こし、決闘を始めるに至った。」

    「・・・!」

    「決闘は三日三晩続いた。疲れ果てた二匹のドラゴンポケモンは石となり、永い眠りについた。双子の兄弟は自らの過ちを反省し、いずこかへと旅立っていった・・・。」

    「それで・・・その後はどうなったんだ?」

    「いや・・・俺が知ってるのはここまでだ。だが・・・二人の英雄とパートナーのドラゴンは今でもランパ地方のどこかで祀られている。どこなのかは知らんが。」

    「そっか・・・。」

    「あと、これは噂なのだが・・・その双子の英雄の子孫がランパ地方のどこかに居るとのことだ。」

    「伝説の英雄の子孫が!?」

    「ああ。その噂から察するに、七つの伝説はただの昔話ではなさそうだということだな。」

    「・・・ふうん。」

    「よし、では次の話をするぞ。次は、ダークライについてだ。」

    「ダークライ・・・。」

    「大昔・・・と言っても、さっきのレシラムとゼクロムの話ほどではないが、ある村が盗賊団に襲われた。だが、その盗賊団が村の空き家で寝ていると、世にも恐ろしい悪夢を見たという。」

    「悪夢・・・?」

    「ああ。ダークライは悪夢を見せる力を持っている。もっともダークライ自身に悪気はなく、自分の身を守ったりするためにやっているが。」

    「ふうん・・・。悪夢を見せるっていうから、どんな恐ろしい奴とか思ってたけど。」

    「話をつづけるぞ。その後、盗賊団は村から逃げ出した。しかし、村人たちはダークライを恐れ、村の外れにある森の祠に封印した。」

    「どうして?ダークライは村人を助けたんじゃないの?」

    「話の中では、自分たちも悪夢を見るのが怖かったのではないかとされている。無論、ダークライにそんな気は一切なかった。だが、結局やつは封印されてしまったんだ・・・。」

    「それで・・・その後は?」

    「いや・・・話はここまでだ。すまない・・・。」

    「謝る必要はないって!・・・で、次は?」

    「ああ、次は・・・」

    その時、ダルクに突然3匹のポケモンが襲いかかった。

    「・・・っ!」

    「だ、大丈夫か!?・・・このポケモン達は?」

    「レパルダスにガラガラ、そしてへラクロスだ。しかしこいつら、野生にしては様子が変だな。・・・まさか!」

    「そう!そのまさかさ!」

    上からこえがしたかと思うと、木の上から3人の男が降りてきた。

    その容姿は頭以外の全てを覆い隠した黒い全身タイツのような服装に灰色の手袋と靴を履いている。

    「おい、ダルク。何なんだ、この悪趣味な連中は。」

    「こいつらはデス・クロノス。俺は三日前、こいつらの襲撃を受けた。勝ったのはいいが、まさかまた現れるとはな。」

    「さて・・・こんどこそ、我々についてきてもらうぞ。」

    「ふっ・・・断る!」

    「そうか・・・ならば我々にも考えがある。

    すると、周囲の茂みから同じ服装の男女が10人ほど出てきた。

    「ふふ・・・これならどうだ。」

    「ふん。流石は悪の組織。卑怯な真似するな。ま、敵対する奴等なら、この方が戦いがいがあるがな!」

    ダルクはそう言って、6個のモンスターボールを放り投げた。
    ★―――――★――――――★
    追記:編集しました。今後、このようなことがあるかもしれません。ご了承ください。
    以降、内容が描きかけの時は『編集中』と添えておきます。


      [No.308] 第一話 感動の再会…? 投稿者:いふりーと   投稿日:2011/04/23(Sat) 13:16:53     41clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    ここはジョウト地方の南東に位置する街、ワカバタウン。
    ポケモンの研究者として有名なウツギ博士の研究所のあるこの街に、一軒の孤児院があった。
    と、
    「よい…しょっと。」
    家のドアが開き、中から数人の子供達と一人の少女が出てきた。
    「おっとっと…危ない危ない…。」
    15歳位の年の少女は大きな洗濯籠を持ち、
    「あ、巧、そっち行ったよ!」
    「よーし任せろ!でりゃ!」
    「ナイス巧!ってああ!」
    「そっちそっち!やばいって落ちる!」
    子供達は時折籠から零れ落ちそうになる洗濯物をキャッチしては籠に戻していた。
    「ふう…洗濯終わりっと。」
    そんなこんなで賑やかな洗濯が終わり、ほっと息をつく少女。
    「「「「終わったーー!」」」」
    「皆手伝ってくれてありがとね。あとでドーナツでも作るね。」
    「「「「やったーーー!ありがと文奈お姉ちゃん!」」」」
    子供達が歓声を上げてはしゃぎ回り、少女は「落ち着いて落ち着いて」と宥める。
    この少女、海鳴文奈は15年前、元々老夫婦の家だったこの家の前に捨てられていたのを引き取られ、以来本当の家族のように育てられてきた。
    そして10歳になった春、晴れてポケモントレーナーとなった文奈は各地の大会に出場、見事好成績を残した。
    が、2年前に老夫婦がこの世を去り、孤児院の責任者がいなくなると、文奈はポケモントレーナーを引退し、自分の家であり皆の家であるここを守ると孤児院の新たな責任者となったのだった。
    「さ、手を洗っておやつにしましょうね。」
    文奈がそう言ってドアを開けようとした時、

    バサッ…バサッ…

    「ん?何だろ…。」
    文奈が何かに気づき、辺りを見回す。が、視界に写るのは見慣れたワカバタウンの風景だけだった。
    「…気のせい…かなぁ?」
    首をかしげ、家に戻ろうとする文奈。だが、

    バサッ!バサッ!

    「!気のせいじゃ…ない!この音は…!」
    文奈は音のする方向、空を見上げる。
    そこにはどこまでも広がる青い空、こちらを優しく照りつける太陽。そして…

    バサッ!バサッ!

    こちらに向かってくる一匹のポケモンがそこにはいた。青い体と赤い巨大な羽を持つそのポケモン―ボーマンダのは、巨大な体躯にも拘らず遥か上空を、一人の少年をその背に乗せ飛んでいた。
    そして…


    ドスン!!!!!

    大きな音と風、地面が揺れるほどの衝撃と共に着地した。
    強力な羽ばたきによる風で砂煙がもうもうと立ち込め、数メートルから先の光景が全く見えず、その場にいた面々はたまらず目をつぶってしまう。
    着地したボーマンダは、あくびをしながら体制を低くし、少年はその首を撫でて飛び降りる。
    文奈と同じくらいの年頃の少年は、季節感を無視した(現在は春)黒いコートを羽織っており、真っ直ぐ文奈と子供達の方へと歩き始めた。
    砂煙が晴れて前が確認できるようになった文奈はその少年の顔を見た瞬間、少年に向かって走り出す。
    そして…

    ポカッ!

    「いってぇ!」
    少年の頭を拳骨で小突いた。
    「もう!今まで何してたの零!?2年間ずっと帰ってこないで。こっちは大変だったんだから!」
    「悪かった悪かった。だからもう殴るな!」
    少年―零は頭をさすりながら後退する。
    「はぁ…全く。こっちの気苦労も知らないで、何暢気な事を…。」
    「お、お前等元気にしてたか?」
    「うん!僕は元気だよ!」
    「俺もだ!」
    「私も元気!」
    「そうかそうか…それは何よぶふぇぇっ!!」
    「アンタ…いっぺん死なないと分かんないみたいね…。」
    文奈が拳を固め、鬼のような形相で零に迫る。
    「いや、あの…と、とりあえずは落ち着いて…。」
    「うるさい!吹っ飛べー!!!!!!」
    「ぐはぁぁ!!!!!!!」
    怒りのこもった文奈のパンチは見事決まり、殴られた当人は吹っ飛ばされて星になりましたとさ…めでたしめでたし。

    「めでたくねーだろこのやろーーーー!!!!!!!」


      [No.307] 【第十一話】 投稿者:リナ   投稿日:2011/04/23(Sat) 03:08:54     59clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    28

     いつの間にか雪が止んでいた。

     冷気で研ぎ澄まされた夜に聴こえるのは積もった雪を踏みしめる音。不規則に喉を通る四つの白い息は、現れては雲散霧消していく。

     僕とケイタは追ってきた四人の暴力団メンバーを「ノックアウト」し、用意していたロープで縛りあげた。凍死されても困るので、あらかじめ決めておいた備品用の倉庫まで四人を運ぶ。ヒートとエルクの背中に二人ずつ乗せて倉庫まで歩いていた。

     寒さはほとんど感じなかった。冷たい空気が喉に入るのが苦しい。
     
     背中が汗ばんでいた。

    「大丈夫か? ヒート」

     最後にザングースから受けた傷はそれほど深くはなかったが、ヒートの前足の動きはいつもより鈍かった。

    「すまん、無理させちまった――」

     オーバーヒートは、正直使うつもりはなかった。大技なゆえに隙が生まれやすいし、今回のようなタイミングで使うのは危険だということは分かっていたからだ。しかし、実戦で初めて火炎放射などの「使いやすく便利な技」だと思っていたものがいかに見切られやすく、歯が立たないことがあるのを思い知った。ケイタのように最初から全力で技を放つのは、力を図り合う段階を省く意味ではとても有効な策だったのだ。
     まだまだ僕は「試合」と「戦い」の違いを把握できていない。実戦では「様子見」なんてしてるうちに体力を削られ、どんどん不利になる。

    「予想はしてたが、やっぱりこいつらそれなりに戦いなれてやがる――他が心配だな」

     ケイタがそう言った瞬間、遠くで土砂崩れのような音が響いた。

    「――急ごう」


    29
     
     倉庫の前でタツヤにはち合わせた。

    「おーい! ――よかった、そっちも勝ったんだな!」

     タツヤがこちらに気づき、駆け寄ってくる。いつもは浅黒いタツヤの顔が今はびっくりするほど蒼白に見えた。でも彼のムウマ、ポウルは相変わらずケラケラと頭上を飛び回っていた。アキラ先輩のトドゼルガ――レフの背中には三人の暴力団員がうめいていた。

     しかしアキラ先輩の姿がない。

    「タツヤ、お前一人か? アキラ先輩一緒じゃないのか?」

    「それが――」タツヤが険しい顔で言った。「先輩、相手のズバットに思いっきり腕噛まれちゃったんだ。応急手当はしたし、携帯で一年呼んでおいたから今は大丈夫だと思うけど――かなり血出てたし、今回はもう戦えないと思う」

     真っ白な雪に鮮血が滴っているのを想像し、僕は目が眩みそうになった。
     先輩が一人戦線離脱。これは思った以上に衝撃があった。

     とりあえず僕たちはノックアウトした暴力団員を倉庫に詰め込んだ。
     
    「でも、実際運が良かった――もっと大変なことになるところだったんだ」

     タツヤが言う。

    「――かなり強敵だったのか?」と僕が訊き返すと、タツヤはかぶりを振った。

     バトル自体は苦戦を強いられたというわけでもなく、けりがついたという。相手のズバットやゴルバットはその身軽さこそ厄介だったものの、最終的には相性で押し切ることができた。それもひとつ「運が良かった」のだが、その後ヒヤリとする出来事が起こった。
     
     バトルの終盤、ポウルが放った「怪しい光」が、ポケモンだけでなくその主人にもその効果が及んでしまい、三人とも錯乱状態に陥ったという。
     そしてあろうことか拳銃を取り出し、自らのこめかみに突きつけた――

    「でも運が良かったんだ。その拳銃、三つとも弾が入ってなかったか、壊れてたみたいなんだ。引き金を引いても銃はうんともすんとも言わなかった。ホントに焦ったよ……」

     何も知らずに笑っているポウルを見て、僕は本気で恐ろしくなった。こいつ、人に自殺させることができるのか――
     それにしても、どこまで間抜けな暴力団なのだろう? 三人揃って撃てもしない拳銃を携帯しているなんて。

     その時、学生会館の方から女の子の声で悲鳴が聴こえた。

     僕らはギクリとして互いに顔を見合わせる。

    「おい今の、ヤスカじゃないか?!」

     学生会館の裏ではヤスカとコウタロウ先輩が相手と対峙しているはずだ。

     ――何があった?

    「クソッ!」

     タツヤが突然走り出した。ポウルもふわふわとその後を追って行く。

    「おい、タツヤ!」

     僕が叫んでもタツヤは振り向きもせず、やがて講義棟の角を曲がって見えなくなってしまった。

    「あいつ、大丈夫かよ――」無鉄砲に走り去っていったタツヤに僕は舌打ちした。

    「――追ってくれるか? おれはユウスケ先輩とシン先輩の方に加勢する」

     ケイタは倉庫の鍵がかかっていることを確認しながら言った。

    「了解」

     レフには倉庫の前で待機してもらうことにした。指示できるトレーナーがいないと戦力として数えるのは難しいというケイタの判断だ。

     僕はケイタと別れ、学生会館の方へ走った。傍らのヒートの息が荒い。

    「踏ん張ってくれヒート――おれも最後まで諦めないからさ」

     ヴォン! と、ヒートは低い声でうなった。


     30

     状況は最悪だった。

    「おっと、また加勢かぁ? ったく他の連中は何やってやがんだ――まあ、何人来たところで変わりはしねぇがな」

     僕が辿り着いた時にはコウタロウ先輩のキュウコンも、タツヤのムウマもおらず、踏み荒らされた雪の上のモンスターボールの中だった。ヤスカのフローゼルはかろうじて雪の中に立ちつくしているが、行動を起こせる状態ではない。右腕に大きな生傷があり、血が滴っていた。

    「お前もポケモンをボールに戻せ! 足元に置いて十歩以上下がれよ? 状況見れば従わねぇわけにはいかねぇよな?」

     ヤスカが五人いる相手のうち一人にはがいじめにされていた。必死に抵抗しようとしているが、首元に相手のドクロッグの腕が押し付けられ、身動きがとれない。

    「――言う通りにしよう」コウタロウ先輩が悔しさを滲ませながら僕に言った。

    「――はい」僕はヒートをボールに戻し、指示どおりにした。

    「ごめん――」

     ヤスカが目を真っ赤にして、かすれた声で言った。タツヤが低い声でうなる。

    「さてさて、俺らとしてはお譲ちゃんから早速いただきたいところだが――その前にお譲ちゃんには野郎が目の前でボコられるのを見てもらおうか? レディーファーストじゃなくて悪いな」

     にやにやと勝ち誇った笑みを浮かべながら、相手とそのポケモン達がじりじりと近づいてきた。フローゼルが残る力を振り絞って飛び上がったが、相手のビーダルに簡単に跳ね返され、雪の中に叩きつけられた。

    「バロン! ――お願い! 止めて!」

     ヤスカの叫び声が構内にこだまする。

    「ケンカ売ってきたのはてめぇらだろうが?! 寝ぼけてんじゃねえ!」

     ヤスカを人質に取っていた男が罵声で返す。ヤスカは「ヒッ!」っと小さく叫び、静かになった。

    「どうしようもないのかよ!」タツヤが後ずさりしながら焦りをあらわにする。

     ポケモンが使えない。ヒートに頼れない。情けない話だが、それだけで足がすくんだ。僕一人の力などたかが知れていることは知っているはずだったが、それでも何も出来ない無力感に絶望した。

     本気でマズいと思った――

     その時だ、奇妙な事が立て続けに起こったのは。

     まず、にじり寄ってきていた暴力団たちを、突然無数の小さな星が襲った。星たちはどこからともなく現れ、彼らに降り注ぐ。続いて数え切れないほどの尖った岩が出現し、まるでひとつひとつが意思を持っているかのごとく、男たちとポケモンに突進した。彼らは驚き、わめき、悪態をついた。

    「な、何だ?! 何が起こってるんだ一体?!」

     僕らは唖然としてそれを見ていた。そして最後に起こった出来事に目を疑った。

    「うわっ?! ど、どうなってんだ?!」ヤスカを人質に取っていた男驚愕の声が聴こえた。

     彼がはがいじめにしているのは、ヤスカではなく同じ仲間の暴力団員だったのだ。既に意識がないようで、完全にのびてしまっている。確かについ何秒か前までヤスカが捕まっていたはずだったのに――いつすり替わったのだ?

    「――運が良かったみたい。いつもより」

     聴き覚えのある声だった。相手の背後に小さな人影が現れた。

    「あ――」驚いて僕は間抜けな声を出した。タツヤも同じだった。

     そこに現れたのは他の誰でもない、マイ先輩だった。「トリック」ですり替えたヤスカに肩をかしていた。傍らにはトゲチックのティムが、小さな羽根をはためかせている。

    「マイ――」コウタロウ先輩が呆れたように言ったが、僕には必死に喜びを隠しているように聴こえた。

    「ごめん、遅れた――てかぼやっとしてる場合じゃないでしょ?!」

     言う通りである。人質は救出した――反撃開始だ。

     僕ら三人は一斉に地面のモンスターボールに走った。


      [No.306] 特別編 CROSS STORY〜大いなる影の力とその代償〜 後編 投稿者:マコ   投稿日:2011/04/22(Fri) 13:41:02     40clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    ※人間消失ネタが入っています。少し注意してご覧下さい。


    戻りの洞窟に入った4人。そこで、ケンジがこの洞窟の仕組みについて話し始めた。
    『この洞窟には、穴が4か所ある。まあ、今いる部屋の場合は入り口を含むから3か所やけど。行先は。で、柱のある部屋を3回見つけたら、その次の部屋でギラティナに会える、という方式やねん。けど、柱を見つける前に行った部屋の数が31を超えると、入り口に戻されんねん。後、4人で固まって行かんと、絶対迷子になるから。みんな理解した?』
    3人は大きく頷き、歩き出した。
    次とその次の部屋には柱がなかった。4個目の部屋で、入るなりドータクンやゴーストが襲いかかってきたのだ!!柱はなかった。4人はポケモンを出して追い払い、そして次の部屋だった。
    天まで届くのではないか、と思わせる大きな柱があったのだ。
    「これ、は……」
    『これが、柱。まず1個目ね』
    その柱にはこうあった。




    『これは、柱が1本目、部屋は5個目って意味や。あと柱は2本やな』
    「柱見たら、頑張ろう、って意欲が湧いてくるわ」
    そして次の部屋に行くと、またしても柱があったのだ!!
    『すごい!連続で柱を見つけるなんて珍しいのに!!』
    マイコさんは興奮していた。とにもかくにも、あと1本。


    しかし、そこからが長かった。行けども、行けども、柱が見つからない。
    「ずっと見つからないのかな……」
    マイコは落ち込んでいた。悲しいムードに包まれる一行であったが、次の部屋に入った途端に、全員に笑顔が戻った。
    「あっ……」
    「柱や……!」
    『やっとあったわ、3つ目の柱……!』
    『いよいよ、次の部屋ね。ギラティナがいるのは』
    回復を済ませ、次の部屋に足を踏み入れた、その時だった。

    〈グウ……グウウ……〉

    ギラティナのうめき声がした。とても苦しそうだ。その傍らには男が1人。ドルビットだ。
    『どうしたの……一体何が……』
    「くっはっはっは!!財宝とはこういうことか。強力な影の力……!」
    ドルビットは高笑いしていた。
    『お、お前……!力を使いすぎたらどうなるか分かっとんのか!?』
    「え、これは、どういう……?」
    「ドルビットは、ギラティナから力を貰って暴走しよるってことちゃう?ひょっとして、それ、人間には扱えへんシロモノなんやろ」
    『大方その通り、オオバヤシさん。ここは俺ら4人であいつを止めなアカンね』
    4人はフルメンバーを出した。それはとても豪華である。
    『みなさん、力を合わせて行きますよ!』
    マイコさんの声で全メンバーが一斉にフルパワーの技を放った。
    ドルビットの出した、大量のギラティナの形をした影に向かって、火炎放射、ハイドロポンプ、雷、冷凍ビーム、花びらの舞、地震、コメットパンチ……。威力ある大技が次々出され、影を次々掻き消していった。
    「なるほど……俺様に立てつこう、ってか。なら、これはどうだ!!」
    その瞬間、ドルビットの目が赤く光ったかと思うと、黒い大きな球が4人のポケモンに襲い掛かり、皆瀕死寸前に追い込まれてしまった。
    「今の何……?」
    「何か飛んできたよな……?」
    「これはシャドーダイブのエネルギーを1か所に集めて放出した技だ。ダークダイブと言おうか。しかしお前らしぶといな。全員死なないとは」
    『やめなさい!!もう大人しくしてよ!!』
    マイコさんは叫ぶが、ドルビットは聞く耳を持たない。
    『ドルビット、お前そろそろ死んでまうやろな。かわいそうな奴』
    ケンジが意味深なことをボソリと呟いた。
    「え、それってどういうことやねん、ケンジ?」
    『オオバヤシさん、そのままの意味ですよ』
    「ということは……もうすぐあいつは……。けど、こっちも限界ですよ。私も、ばーやんも、マイコさんも、ケンジさん、あなたも……」
    しかし、正直、マイコの言う通り、4人が劣勢であることに変わりない。
    「ごちゃごちゃうるせえ!お前らまとめて殺してや……」
    先程の黒いエネルギー弾をドルビットが放とうとした瞬間だった。

    ドプン、ドプン……。

    彼の足を影が蝕んでいた。エネルギー弾も消えてしまった。
    「え、どういうこと……、どういうことだああっ!!」
    ドルビットは絶叫した。その時、ギラティナの声がした。
    〈愚かなドルビットよ。我のこの力はお前なんかには扱えない。使ったとしても、大きなデメリットを伴うのだ〉
    腰まで影に喰われていた。4人はただ見ることしかできない。
    「それはどういうことだあっ!教えやがれえっ」
    〈影は非常に暴れたがる性質でな。人間がその力を使うと、その人間を喰うというものになっているのだ。喰われないのは我ぐらいだ〉
    「嘘だ!嘘嘘嘘」
    ドルビットはすでに壊れかけている。首から上の部分しかもう残っていない。
    〈お前は地獄にすら行けない。漆黒の闇の中で、生まれ変われず未来永劫暮らすんだな〉
    「そんなのは、嫌だあああっ!!!」
    ドルビットは全て影に喰われ、消え失せたのだ……。
    4人は何も言えなかった。ただ、マイコがすすり泣く声だけが聞こえた。
    そして、その時だった。

    ゴオオオオ……

    穴が開いていた。
    〈我が、この世界とリアルの世界、2つの世界をつないだ。20分は開いている。その前に別れを告げるなり、何か渡すなりをしろ〉
    ギラティナなりの気遣いだった。リアル世界から来た2人は、ここでポケモン世界の2人と別れなければいけない。
    「マイコさん、ケンジさん、短い間でしたが、ありがとうございました」
    マイコがお礼を言う。
    「あの時、2人が導いてくれんかったら……俺らはのたれ死んどったから……本当にありがとう」
    オオバヤシもお礼を言った。
    『いいですよ、そんなお礼を言われるようなことはしてませんし。あ、……そうだ、私からマイコちゃんにプレゼントがあるの』
    『俺からはオオバヤシさんにプレゼントを渡すわ』
    2人が渡したのはポケモンのタマゴ。マイコのは青く、オオバヤシのは赤かった。
    『私のあげたタマゴからは、水タイプのポケモンが孵るってことと、バトルの流れを変えられる特性を持っているってことを教えておくね。ちょっと特別なのよ』
    マイコさんはそう教えてくれた。
    『俺があげたタマゴは炎タイプのポケモンが生まれんねん。こいつも特別で、遺伝させた技と大きく特性が関わっているってことを言うとくで』
    ケンジはそう伝えた。
    「「ありがとうございます!!」」
    2人は礼を言った。恩をたくさんもらって、返しても返しきれない。
    「私達、また会えますか?」
    マイコは帰る前にそう言った。すると、マイコさんは少しだけ涙を流しながら言った。
    『私達は、あなた達のことを見ていますけど……会おうと思えば、いつか、会えますよ』
    「達者でいて下さい。あと、2人とも、ずっと仲良くいて下さいね!!」
    オオバヤシはそう言った。
    『オオバヤシさんに言われなくっても、大丈夫です!そちらこそ達者で!』
    ケンジもちょっとだけ泣いていた。
    そして、2人は穴に入り、元の世界へと帰って行った。
    こうして、ポケモン世界での冒険は幕を閉じたのだ……。


    リアル世界、オオサカ。マイコとオオバヤシはタマゴを抱えたまま、いなくなった場所で倒れていた。そこに、彼らの友人達が集まってきた。
    「マイコも、オオバヤシさんも倒れとるやん……」
    「ここはちょっとでっかい声で起こすか。出て来い、ガマガル!」
    そのうちの1人が、オタマジャクシからカエルになる途中の姿をした振動ポケモンを出した。
    「みんな、耳を塞いでて……ガマガル、ハイパーボイス!!」
    聞こえてきたのは、起こすというよりは耳を壊すような大音波だった。
    「「ぎゃああああ!!!耳が痛いっ!!!」」
    2人とも起きた。しかし、方法がいささか荒かったらしい。起きたと同時に怒っていた。特に、オオバヤシが。
    「おい、コラァ……」
    どす黒い、ヤンキーのようなオーラが立ち上っているようである。
    「ひいぃぃぃっ!!!」

    しばらくお待ちください……。
    (大変お見苦しい映像が流れております……)

    落ち着いたところで、タマゴにひびが入り、そして……生まれた。
    マイコのタマゴからはミズゴロウが、オオバヤシのタマゴからはヒコザルが。
    ミズゴロウの特性は「湿り気」。爆発技及び特性「誘爆」をできなくしてしまう。冷凍ビームや熱湯も覚えている。
    一方、ヒコザルの特性は「鉄の拳」。パンチ系の技の威力が上がるのだ。その特性通り、雷と炎、2つのパンチが使用可能となっており、火炎放射も覚えている。
    普通じゃできない経験と、すごいプレゼントを貰い、とても貴重で、いろんな意味で充実した1日になったのだった。


    おしまい


    マコです。無事完結しました。特別編。
    ギラティナはこういうこともできるんじゃないか、と考えてキャラ作りを行いました。
    本当はもう少し前に公開したかったのですが(いきなりミズゴロウとかヒコザルが出てきてビックリした方もいるでしょうし)、他の話を書きまくったところ公開が遅れた、と……。
    両方とも隠れ特性持ちです。
    タマゴから孵ったばかりですが、即戦力です。
    しかし、まあ、楽しく書かせていただきました、特別編。
    今度は本編でお会いしましょう!
    【書いてもいいのよ】
    【描いてもいいのよ】


      [No.305] 特別編 CROSS STORY〜大いなる影の力とその代償〜 前編 投稿者:マコ   投稿日:2011/04/22(Fri) 11:41:58     47clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    ※ポケリアとA Battle Subway STORY(サブスト)とのコラボ作品。
    ポケリア側の登場人物の会話は「」
    サブスト側の登場人物の会話は『』
    そして、この話は、ポケリアその8の後で、その9で起こる事件の前にあった話です。サブストは完結後です。


    10年前、1人の凶悪殺人犯が日本の刑務所を脱獄したというニュースが報道された。その犯人の名はドルビット。警察の決死の捜査の中で、彼は逃走を続けた。結局、彼は捕まらず、行方不明となり、捜査自体が打ち切られた。このときは、マイコは小学生で、オオバヤシは高校生であった。この頃、毎日のようにそのニュースが流れていたので、2人ともこの事件を覚えている。しかし、このときの2人は、10年後にそいつと対峙するなんて思っていない。
    そして、10年後、つまり、現在……


    4匹ずつのポケモンを仲間にした2人が歩いていると、突然足元に謎の魔法陣が現れた。そこから動こうとするも、
    「何これっ……!?」
    「う、動けへん!?」
    金縛りのようなものにかかってその場から離れられない。と思ったら次の瞬間、2人がいた地面が闇に包まれた。そして、そこで金縛りが解ける。
    「「うわああああっ!!!」」
    2人ともそこに吸い込まれていった。それは、ある1日の冒険の始まりだった……。


    所変わって、シンオウ地方、送りの泉。先程の2人とそっくりな男女がそこに向かっていた。
    『ここが送りの泉、か。それにしても……、何か見えにくいな。視界がハッキリせえへん、というか……』
    男がそう言うと、女はこう返した。
    『霧が立ち込めているみたいですね。ウォーグル、出てき……ん?』
    その時だった。霧を切り裂くようにして、2人の男女が突っ込んできた。
    「「うわああああっ!!!」」
    『『ぎゃああああっ!!!』』

    ドッスーーーン!!!

    『ど、どうしたの、いきなり……』
    「い、いたたた……」
    『お前ら、大丈夫か?ケガないか?』
    「いや、何とか大丈夫、なんやけど……」
    その時、降ってきた女、つまりマイコ、がブルブル震えだした。
    「ド、ド、」
    「どうしたん、マイコ?」
    「ドッペルゲンガーだああっ!!!」
    目の前にいる人がそっくりすぎて、若干パニックを起こしているらしい。
    落ち着くのを待ってから話をすることにした。


    『それで、リアルの世界からポケモン世界に……』
    「「はい」」
    『奇妙なこともあるもんやね』
    ポケモン世界の2人にこっちに来た経緯を根掘り葉掘り問われた2人。
    でも、悪い人ではないというのが分かってもらえたようで、自己紹介を始めた。
    「俺は、オオバヤシ ケンジっていうねん。よろしく」
    「私は、サカモト マイコっていいます。よろしくお願いします」
    『俺は彼と同じく、オオバヤシ ケンジ。こっちは……』
    外見も名前も同じ。本当にドッペルゲンガーのようだ。しかし、ケンジの次の一言に、マイコとオオバヤシは絶句することになる。
    『妻のマイコ』
    「「妻!!?」」
    『マイコといいます。よろしくお願いしますね』
    「嘘……妻って……妻って……」
    「こっちでの俺らは夫婦なんや……」
    何か言いようのないショックを受けている間も、ポケモン世界の2人の会話は続く。
    『今、俺らは、送りの泉にある《戻りの洞窟》に行こうとしとんねん』
    『そこでギラティナってポケモンの姿を一目見たい、と思うんだけど……、行きます?』
    「「もちろん!!」」
    それしか選択肢はない。戻れるかもしれないチャンスなのだ。
    『とりあえず、霧をなくして視界を良くしますね。ウォーグル、出てきて!』
    マイコさんが出したのは、威厳があり、百戦錬磨の戦績を持つ勇猛ポケモン。野生のポケモンが皆怯んでしまいそうなくらいである。
    『霧払い!』
    ウォーグルは、翼をはためかせ、一瞬で霧をすべて払い、開けた視界を与えた。
    「すごい……」
    「お前の持ってるワシボンも、強くなったらこうなるんやろ?」
    「そうかもだけど……あの人の腕は相当すごいよ。多分、2人で戦っても簡単にのされるのがオチだろうし」
    道中、話をした結果、お互いの年齢が分かった。
    マイコは20歳、オオバヤシは27歳、マイコさんは25歳、ケンジは26歳ということだ。
    「5歳違うだけで、こんなにも大人なんだ……」
    「俺の方が年上やけど、ちょっとタメ口をきくって無理やなあ……」
    『い、いいんですよ!気にしないで下さい!』
    『そうそう、緊張しすぎたら楽しいもんも楽しく……ん?誰やろう?あれは……?』
    その時、ケンジは人を見つけた。3人もつられてそちらを向く。
    その男は4人と視線を合わせると、戻りの洞窟に入ってしまった。
    「ドルビット……!」
    『誰なんすか、そいつ!?』
    「こっちの世界で10年前に殺人を5件ほどして、捕まったけど刑務所を脱獄した凶悪犯や」
    「その時、毎日のようにニュースで言ってて、ある時行方知れずになったけど……こんな所に……」
    『早くギラティナの元に辿り着けた者に、冥界の王、ギラティナは力を授けるって言われて……!』
    マイコさんはハッと気づき、こう言った。
    『もし、マイコちゃんと、オオバヤシさんの言う通りなら、その人……ドルビットという人を早く止めないと……大惨事に……』
    「「『!!!』」」
    『行きましょう!!』


    後編へ続く


    マコです。特別編。プラチナバージョン主役の霊竜、ギラティナ登場のお話。
    4人が力を合わせていかないと、戻りの洞窟での最終決戦がいい方向に傾かないのです。
    でも、修羅場を乗り越えてきたみんななら問題ないはずです。
    次回の後編で完結予定です。お楽しみに。
    【書いてもいいのよ】
    【描いてもいいのよ】
    【感想待ってるのよ】


      [No.304] ポケモン right and darkness story  投稿者:いふりーと   投稿日:2011/04/21(Thu) 00:50:50     35clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    初めまして!いふりーとと申します!
    前までは別の所で小説を書かせていただいていたのですが、とある事情でこちらに移動することにしました!
    まだまだ未熟者の作品ですが、読んで頂けると幸いです。


      [No.303] 15話 予選終了! 翔VSM[ムービー]ポケモン(後) 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/04/20(Wed) 18:36:22     68clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    15話 予選終了! 翔VSM[ムービー]ポケモン(後) (画像サイズ: 340×400 50kB)

     今の俺のバトル場にはノコッチ10/60、そしてベンチには炎エネルギーがついたヒトカゲ60/60。対戦相手の小学生のバトル場には水エネルギーが三枚、雷エネルギーが一枚ついたパルキアM90/90に、ベンチにはピカチュウM60/60、ポッチャマM60/60、ニャースM50/50、ミミロルM50/50、ギザみみピチューM30/30。互いのサイドはまだ三枚。
     相手が使うのはムービーデッキ。そもそもファンデッキは基本的にデッキパワーに乏しく、しかも高コストなことがある。分かりやすく言うと、千五百円のカラフルな弁当があるが、五百円の弁当のほうがうまかった。
     まあこの際分かりにくさはどうでもいいとして、要するにコレクション用のカードなのでそもそも強くないということだ。
     しかし油断大敵とはまさにこのこと、思う以上に理想の展開につなげることが出来ない。
    「俺の番だ」
     引いたカードはふしぎなアメ。気を抜いていられない状況の中でどう攻めるべきか。今ある手札で必至にめぐらせる。
    「ヒトカゲを対象にふしぎなアメ発動。このカードの効果によりヒトカゲをリザードンに進化させる!」
     ヒトカゲの足元から光の柱が立つ。俺は手札のリザードンのカードをヒトカゲに重ねた。光の柱が消えるとともにリザードン140/140の雄たけびが会場に響く。
    「リザードンに炎エネルギーをつけて、ノコッチのへびどりを発動。山札からカードを一枚引いてターンエンドだ」
     防戦一方だが仕方ない……。しかし次の番には逆襲の始まりだ。
    「僕のターンドロー! 手札の雷エネルギーをピカチュウMにつけてパルキアMで攻撃。一刀両断!」
     轟音と共にパルキアMがノコッチを粉砕する。これでノコッチ0/60は気絶だ。
    「さらにコイントス! えっと、オモテなのでリザードンに20ダメージ!」
     パルキアMがリザードンに向かって腕をふるうと、真空波のようなものがベンチのリザードン120/140に直撃する。ベンチへの攻撃は弱点や抵抗力の計算を行わないのが救いだ。
    「ノコッチが気絶したのでサイドカードを一枚引くよ」
    「次のバトルポケモンはリザードンだ」
    「それじゃあターンエンド」
    「俺のターン!」
     引いたカードはマグマラシ。しかし肝心のヒノアラシがいない。リザードンを倒されるとベンチポケモンがいなくなり、負けてしまう。だがあいにくたねポケモンを呼べそうにはない。ここは強気で攻め続けるしか。
    「手札のリザードンに炎エネルギーをつけて攻撃! バーニングテール!」
     リザードンが尻尾でパルキアMに攻撃する。派手な音をたててパルキアMに傷を負わせる。
     致命傷にはなったものの倒しきることはできない。HP90のパルキアMに80ダメージを与えたため残りHPは10/90となる。
     そしてバーニングテールのコストとしてリザードンの炎エネルギーを一枚トラッシュする。
    「僕のターン。ミチーナしんでんの効果発動! 自分の番に一回、自分の場のM[ムービー]と名の付くポケモンを一枚選択し、ダメージカウンターを二つ取り除けます。僕はパルキアMを選択」
     パルキアMはHPを20回復したため、これで残りHPは30/90だ。
    「ピカチュウMに雷エネルギーをつけていっとうりょうだんで攻撃!」
     パルキアMの攻撃が続く。炎タイプのリザードンに弱点のタイプである水タイプが攻撃したため、通常の50ダメージにさらに30ダメージが追加され80ダメージ。残りHPは40/140。パルキアM以外から攻撃を受けようとあとほぼ一、二撃で倒される。 
    「俺の番だ、ドロー!」
     引いたのはスーパーボールだ。山札のたねポケモンをベンチに出すことができるカードである。これでヒノアラシを呼びこまないと。
    「手札のスーパーボールを発動! デッキのたねポケモンを選択し、ベンチに出すことができる。俺はヒノアラシを呼ぶぜ」
     ベンチエリアにヒノアラシ60/60が元気よく登場する。
    「ヒノアラシに炎エネルギーをつけて、リザードンで攻撃! 炎の翼!」
     炎の翼は本来30ダメージなのだが、リザードンのポケボディーである火炎の陣の効果により、ベンチの炎タイプの数だけ与えるダメージが+10される。今、ベンチには炎タイプのヒノアラシが一匹いるので30+10=40ダメージを与える。
     高く跳び上がったリザードンは、炎を身に纏いながらパルキアMに向かって急降下して突撃する。パルキアM0/90はこれで気絶。相手の次のバトルポケモンはポッチャマM60/60である。あくまで相性で攻める気か。
    「相手のポケモンを気絶させたため、サイドカードを一枚引いて終わりだ」
     引いたカードはヒトカゲ。たねポケモンを引けたのはラッキー。
    「僕の番です。ドロー。ピカチュウMに雷エネルギーをつけてターンエンドです」
     弱点で攻めるという予想は大きく外れる。やはりというかなんというか、あのベンチで蓄えられているピカチュウM60/60がキーになるようだ。
    「俺のターン!」
     エネルギー転送のカードを引いた。このカードはデッキから基本エネルギー一枚を手札に加えるカードだ。デッキ圧縮(山札の数を減らす手段)にはもってこい。
    「俺はエネルギー転送を発動。炎エネルギーを手札に加える。そしてヒトカゲをベンチに出し、ヒノアラシをマグマラシに進化させる」
     ベンチにヒトカゲ60/60がこれまた元気よく飛び出る。一方のヒノアラシは白い光に包まれマグマラシ80/80へと姿を変えた。
    「そしてリザードンに炎エネルギをつけてポッチャマMを攻撃。バーニングテールっ!」
     リザードンのポケボディー、火炎の陣の効果により80+20=100ダメージ。HPが60しかないポッチャマMは一瞬で気絶の大技だ。そして相手の最後のポケモンはピカチュウM。本命がようやく登場らしい。
    「サイドカードをひかせてもらうぜ」
    「僕の番、ピカチュウMに水エネルギーをつけます。そしてピカチュウMをレベルアップ!」
     ピカチュウMが光輝き、ピカチュウMLV.X90/90へレベルアップを遂げる。なるほど、レベルアップはバトル場のポケモンにしかすることが出来ない。この時をずっと待っていたのか。
    「リザードンに攻撃、ボルテッカー!」
     ピカチュウMLV.Xが黄色い光に包まれてリザードンへ突撃していく。
    「ピカチュウMLV.Xは自分にも20ダメージを受けるけども、相手に100ダメージを与える強力な技です」
    「100ダメージ!?」
     3ケタのダメージなんて滅多にない。リザードンはHPが0/140を下回り、気絶となる。俺の最後のバトルポケモンはマグマラシ80/80だ。
     一方ピカチュウMLV.Xはボルテッカーの反動として20ダメージを受けることになり、残りHPが70/90となる。しかしマグマラシの攻撃一撃で沈めることが出来ない。そうなれば返しのターンにマグマラシはやられてしまう。
    「サイドカードを引いて終わりです」
    「俺のターンドロー!」
     この番で打開策を見つけなくてはいけないが……。どうやらいいものを引いた。これで逆転への方程式が完成だ!
    「行くぜ、マグマラシをバクフーンex(150/150)に進化させる!」
     マグマラシは普通のバクフーンより一回り大きいバクフーンに進化する。
    「そしてこの進化した瞬間にバクフーンexのポケパワー発動! バーストアップ!」
     相手の小学生の顔が驚愕と困惑に歪む。
    「このポケパワーは自分の番にこのカードを手札から進化させた時に発動する。相手のベンチポケモンの数までデッキから炎エネルギーを自分の炎ポケモンにつけることができる。今、君の所のベンチポケモンは三匹なので、デッキから炎エネルギーを三枚このバクフーンexにつけることができる!」
     これでバクフーンexには炎エネルギーが四枚ついたことになり、唯一のワザを使えるようになった。準備は完璧、一気に畳み掛ける!
    「これでトドメだ! バクフーンexの攻撃。メラメラ!」
     バクフーンexの口から巨大な火の玉が発せられ、ピカチュウMLV.Xに襲い掛かる。巨大な爆音と同時に、ひっくり返ってすっかり伸びたピカチュウMLV.X0/90の姿が。
     残りHPが70のピカチュウMLV.Xは80ダメージのメラメラを受けて気絶となったのだ。
    「最後のサイドカードをひいて、ゲームセットだ!」
     ゲームが終わると同時に3Dで映し出されていたポケモンは消滅。モニターにはYOU WINと味気ない文字が浮かび上がった。
    「ありがとうございました」
     互いに礼をする。これで五勝、決勝への切符を手に入れた。
     予選用のエントリーカードをスタッフに渡し、本戦用のエントリーカードをもらう。エントリーカードの番号は2だ。この番号によって本戦のトーナメントの相手が決まる。
     本戦用のエントリーカードの番号は勝ち抜け順なので、先に勝ち抜いた人が一人いるらしい。
     予選を勝ち抜いた人は檀上で待機することになっている。つまりそこに一番抜けがいるということだ。一番抜けの顔を一瞬でも早く見たい思い出階段を駆け上がり、檀上にいる一番抜けの少年を見て驚く。
    「お前が一番抜けか。……拓哉」
     しかし拓哉は似合わない不敵な笑みを浮かべていた。




    翔「今日のキーカードはバクフーンex!
      exのカードは気絶すると二枚もサイドカードをひかれてしまうが、
      その分パワーにあふれてるぜ!」

    バクフーンex HP150 炎 (構築済みスターター「バクフーンex★炎」)
    ポケモンexがきぜつしたとき、相手プレイヤーはサイドを2枚とります。
    ポケパワー バーストアップ
     このパワーは、自分の番に、このカードを手札から出して、自分のポケモンを進化させたとき、1回使うことができる。 自分の山札から、相手のベンチポケモンの数ぶんまでの炎エネルギーを選び出し、自分の炎ポケモン1匹につける。 その後、その山札を切る。
    炎炎無無 メラメラ 80
     自分のエネルギーを1個トラッシュする。 その後、相手のエネルギーを1個トラッシュする。
    弱点 水闘×2 抵抗力 ─ にげる 1


      [No.302] 番外編 2つの小話 投稿者:マコ   投稿日:2011/04/20(Wed) 14:24:42     54clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    今回は、本編とはちょっと違う、小話を用意しました。2個あります。
    文末には教訓みたいなものも載せておきますね。
    それでは、スタートです!

    (1)目覚め石のお話

    マイコが「府立カセキ復元・発掘センター」に行って、珍しい石を採ってきたという。
    エメラルドグリーンに輝く、丸い石が2つ。
    「見てこれ!目覚め石っていうんだ!」
    この目覚め石、キルリアのオスをエルレイドに、ユキワラシのメスをユキメノコにするものなのだ。
    そして、それは、偶然にもキルリアを持っていた、オオバヤシとアキヤマに1個ずつ渡された。


    そして、2人とも、キルリアに石をあてた。
    すると……、
    「おお!!光りだしてるで!!」
    アキヤマの持っていたキルリアはオスだったのだ。
    つまり、腕に刃を持つ、スマートなポケモン、エルレイドを得た、というわけだ。
    「うわあ、すごい!」
    「すごいですよね、オオバヤシさ……ん?」
    マイコもアキヤマもその進化の神秘に驚く中、もう一人の青年、オオバヤシは、というと……、

    姿の変わらないキルリアを見て、ただ首をかしげていた。

    「!!!やばいっ」
    「どないしたん、マイコ?」
    「しまった……、下調べしとくんだった……」
    「やから、どないしたん?」
    マイコは気づいた。
    「アッキー、マズいことになった……。ばーやんのキルリア、メスなんだ……」
    「めっちゃヤバいやんか!!!」
    そう、オオバヤシのキルリアは、メスだったのだ。


    オオバヤシに、真実を伝えた。
    「ふーん、つまり、俺のキルリアは石の進化をせーへんのか」
    「「すみません」」
    「でもええよ、キルリアの進化は石だけちゃうもんな」
    「育てることでサーナイトになるんだよね」
    「ほんなら、マイコ、アキヤマ、ちょっと来い」
    オオバヤシは2人を呼んだ。
    「え?」
    「どないしました?」
    「キルリアを進化させるためのお手合わせを頼む」
    戦いで進化させよう、身近に相手がいるから、とオオバヤシは考えたのだ。


    そして、1時間後……
    「ばーやん、強すぎるよ……」
    「戦いで怒りを乗せとったんか、あの人は……」
    「いやあ、お前らよう頑張ったで」
    1人3匹出す(オオバヤシはフルメンバー)マルチバトルの結果、マイコとアキヤマはへばりこんだ。
    彼らの周りでは、チャオブー、ヌマクロー、ラクライ、ジャノビー、エルレイド、ヘルガーがばったりと倒れ、ノックアウトされていた。
    実はオオバヤシの手持ちのポケモンたちは、いつもの3倍くらいの威力の攻撃を放っていたのだ。
    それに2人とも、手も足も出なかったわけだ。
    「せやけど、ほら、キルリアはサーナイトに進化したんやから、ええんちゃう?」
    ずっと出ずっぱりのキルリアは、きちんとサーナイトになっていた。
    悪い人と戦うのもいいけど、自主トレ感覚で身近な人と戦うのも悪くないと思う3人だった。
    (あれは申し訳なかったけど、ボロ負けだったなあ…………)
    ただ、マイコの中では、石のことについての謝罪と負けず嫌いが同居して、ぐちゃぐちゃとなっていたが。
    (リベンジ果たそう!!!)

    教訓……下調べは念入りに



    (2)ロケット団下っ端のお話

    なんにもない なんにもない まったくなんにもない
    (ある歌の一節から引用。)
    俺はロケット弾の下っ端だ。名前?んなもん忘れちまった。
    なんせ、入ってからずっと「下っ端」って呼ばれてんだから。
    いいよな、幹部は。給料いっぱいもらってるし、名前もちゃんとある。
    俺らはそこらへんのヒヨッコたちからバトルで取るしか方法がねえんだ。
    でも、俺には、必殺の特技がある。

    「ひったくり」だ。ポケモンを利用した、な。

    さーて、どいつがいいかな。

    決めた!

    あの女にしよう。

    「ドーブル!神速で、女のバッグを盗れ!ボールもだ!」
    俺様の相棒、ドーブルは、こいつらしか使えねえ技「スケッチ」で、ウインディから「神速」をもらった。
    こいつならいける!

    バッ!!!

    ほら盗った!ボールは3個か。まあいいか……

    「ひったくりーーー!!!」
    ゲッ、気づかれた!
    「待てやこら!!マイコちゃんの荷物返せ!!」
    あいつ連れが居やがったか!女と身長が違わねえチビか……
    「お前チビ言うたなコラアアア!!!」
    地獄耳じゃねえかこいつ!ってか読心術者か!?


    あれ、いつの間にか俺の上に、緑色の虫がいる!?静かに追ってたのか?
    「ビブラーバ!砂嵐!!」
    うわ、視界が利かねえ!痛い、痛い!!
    「フタチマルは水の波動!ニューラは泥棒!バッグとボールを奪ってくれ!」
    ドーブルがやられてる!!水か、やりやがった……あ!!奪ったはずのバッグとボール3個がない!!!
    「泥棒すんじゃねえよ!!俺が盗ったやつを」
    「お前認めてもうてるやんか。盗りましたって」
    「タロウちゃんありがとう。私1人だったらダメだった……」
    女がしきりに感謝してやがる。俺のせっかくの稼ぎをフイにしやがって……


    お、やっと砂嵐が晴れた。逃げられる……ってえ!?
    真上に雨雲が……

    「ラクライ、雷」

    ドオォォォーーーン!!

    「うわああああ!!!」

    やっぱりこうなるのかよ!!これだから下っ端はつらいんだよ!!

    なんにもない なんにもない まったくなんにもない

    教訓その1……人のものは盗っちゃダメ
    教訓その2……他人のコンプレックスをつつくな


    おしまい


    マコです。今回はちょっと小話を。
    1つ目のお話は、経験ある人もいるかもです。
    目覚め石って使えるポケモンと性別が決まってますからね。
    大変です。ちなみにエルレイドってかっこいいですよね。
    シュッとしたスタイリッシュな見た目にやられます。
    キルリアがオスでもサーナイトにする人は……いますよね?
    2つ目のお話は、絶対やってはいけません。
    私にしては珍しく、悪党目線で書きました。
    マイコちゃんを狙うからそうなるんですよ。
    ちなみにこのお話でも暗に示しましたが、キザキくんは身長コンプレックスです。
    後、最後にマイコちゃんのラクライがやったものは、雨を利用した「必中雷コンボ」です。
    これは、やってる人多いかもです。
    【書いてもいいのよ】
    【描いてもいいのよ】


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