マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  •   [No.1021] Re: とある男の物語 投稿者:マサト   投稿日:2012/08/09(Thu) 19:57:13     25clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    ためし
    嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼ああああ嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼ああああああああ嗚呼ああああああああああああああああああああああああああああああああああ嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼ああああああああああああああああああああああああ嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼ああああああああああああああああああああああああ嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼ああああああああああああああああああああああああ嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ


      [No.1019] とある男の物語 投稿者:マサト   投稿日:2012/08/08(Wed) 20:13:20     20clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    はじめまして、私はマサトといいます。
    小説を投稿するのは初めてなので、未熟な面丸出しなんですが、
    次のことを許せる心が銀河系より広い人はどうぞご覧ください。

    ・少年漫画にありきたりなパターン
    ・ほぼオリキャラ
    ・オリジナルの設定なんで公式とちがう所がある

    今回はキャラ紹介です



    主人公
    ミツル
    18歳。しゃべらない。しかし、心のなかで思っていることは悪口ばかり。もしもの時は紙に文字を書いて、相手に伝える。こいつの手持ちのポケモンはこいつの考えている事が大体わかる。
    大食いで、バッグの中身は、七割食料、二割回復道具、残り一割は、電子機器である。本当は機械オタク



    カイト
    18歳。ミツルの友達。年下フェチで、それは親に精神科を進められたほど。地獄耳で25m離れたところ
    に落ちた針の音も、聞き取れる。




    これから、登場人物増やしていきます。


      [No.1018] ナナシマ七日の物語 投稿者:ラクダ   投稿日:2012/08/07(Tue) 23:42:36     52clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     祝・完結! こんばんは、七つの物語を読み切った喜びと寂しさがない交ぜになっているラクダです。
     毎月一話ずつ、きっちりと更新されていくお話をいつも楽しみにしていました。
     全話読了後に何気なく最終更新日を見て驚愕。ひょっとして、これを狙っての一月七日開始だった、と……? うわすげー!!
    (この発見にテンションが上がり、そうだ感想も七日に書かせていただこう! と謎の結論に達したために遅くなってしまいました。読了そのものはかなり前でした、すみません…w)

     
     まず最初の序ですでに心を鷲掴み。不思議で妖しげな夢の場面、正しい歌詞を思い出して口ずさむ場面。ああ、これから物語が始まるのだという期待に鳥肌が立ちました。
     
     続く第一話、火炎鳥の雰囲気も非常に好みでした。淡々としていながら、焦りや不安が生々しく伝わる語りに引き込まれました。この、何かしらの物事に対して自分のせいだろうかと悩む気持ち、子供の頃によく感じたなあ……。
     
     第二話、最初の四行で「亀のヌシ様! 猪のヌシ様! 蛇のヌシ様!」と叫ばずにいられませんでした……w 以前、チャットにてお聞きした「きっとネタが分かるはず」というのはこの事だったのですねw
     
     第三話は“木の実の鈴”の使いどころに脱帽いたしました。木の実を加工し、その音色で「眠り」を覚ます……この発想は無かった、やられた! そして、七話中最も切ないお話の内容にもやられた……。苦しいけれど大好きです。
     
     第四話、なんだか甘酸っぱい……からの苦い記憶。子供の頃の行動を、今はもうどうすることもできないと知っているからこそ感じる後悔と罪悪感。思わずあるある、と頷いてしまいました。これも切ないなあ。
     
     第五話のタイトル、肝試し、青い入道。この後の展開を想像して戦々恐々としていただけに、彼らが無事に帰ることが出来てほっとしました。賢いラプラス素敵な子。といいつつ、ホラーも大好きですが(

     第六話の【そらゆめがたり】に、【くさのゆめがたり】のタイトルを重ね合わせてついついニヤリ。(以前薦めていただいた草祭り、最高でした! 特にくさのゆめがたりがドツボに入りました。ありがとうございました!) あえてポケモンの姿を出さず、ナナシマの謎に焦点を当てた構成が面白かったです。

     第七話、いい意味で起伏の無い、穏やかなお話でした。まさに全体の締めですね。途中、「大自然の力って素晴らしい」に思わず吹きましたが、置き換えて想像すると『旅行に連れて行ったチワワがハスキーになっちゃった☆』みたいなもので。なるほどこれは実家に報告できないよなあとw 大人な雰囲気の語り手さんの、お茶目な一面が素敵でした。

     最終、全ての物語を読んだ後に、再び数え唄を口ずさむととても感慨深いです。改めて上手いなあと。


     どのお話もそれぞれ魅力的でしたが、個人的に一番は藤蔓の揺り籠でした。
     この作品の内容、テーマ、凄く好きです。何がその生き物にとっての“幸せ”なのか? 研究者・少年双方の言い分が分かるだけに、よけいモヤモヤした気持ちに……。
     モデルがロンサム・ジョージであったと聞いてさらに倍増するモヤっと感。
     感情移入しすぎて苦しいのに、何度も読まずにいられないお話でした。うまく言葉にできないくらい、大好きです。

     長くなってしまいましたが、最後に少しだけ。
     連載終了、誠におめでとうございます! そしてお疲れ様でした!
     このシリーズが終わってしまったのだと思うと寂しいですが、きっとまた新しい作品でお会いできる日を楽しみにしております。
     七か月間楽しませていただきました、ありがとうございました!


      [No.1017] [十四章]ポモペ 投稿者:ヨクアターラナイ   投稿日:2012/08/06(Mon) 23:56:29     54clap [■この記事に拍手する] [Tweet]







    『ポケモントレーナーのシオン』





    ガラス戸の向こうから射し込んだ日の光が、立方体の空間をほんのりと満たしていた。
    畳の床もふすまの壁も若草色をした和室の中で、
    親と子がちゃぶ台をはさみ、向かい合って座り込んでいた。

    「おら、誕生日プレゼントだ。受け取れ」

    黒いソファに深々と座るカントが、懐から何かを取り出すと、
    年輪のハッキリしたちゃぶ台の上にバチン! と叩き落とした。
    座布団の上にキチンと正座をして、シオンはまじまじと差し出された物体を観察する。
    光沢のある白い長方形に、『シオン』という文字が見える。
    名前の隣に『TRAINER'S CARD』と書かれてあった。
    ゾッと鳥肌が立った。
    長らく探し求めていた代物が、シオンの手が届く位置で、無防備にぽつんと佇んでいる。
    たまらず、腕をそっと伸ばす。

    「一応言っとくが、それ取ったら家から出て行けよな」

    伸ばした手を、カードの触れる寸前でピタッと止めた。
    何かとんでもないことを宣告された気がして、念のために訊き返す。

    「え? 何? 何だって?」

    「だから、それ取ったら家から出て行けって。今日から晴れて一人暮らしだ。良かったな」

    一瞬、恐怖で頭が真っ白になる。
    この家での暮らしを捨て、安心と安全を失い、これから自分の力で生きていく。
    シオンはとても自分が出来る業とは思えなかった。
    ためらいが生まれ、目の前のボールに手が出せなくなってしまう。

    「どうした? 早く取れよ。いらないのか?」

    カントの挑発的な問いにシオンは焦り、苦悩する。
    生活かトレーナーか、どちらか一つを選ばなければならないようだった。
    気がつけば、人生を賭けた深刻な問題になっている。
    和室の中の空気が急に重苦しくなった。
    何かヤバい取引でもしている気分だった。

    「ちょっと待ってくれないか。父さん、何を言ってるんだ? 変なことを勝手に決めつけるなよ」

    「文句があるのか?」

    どすの利いた声がした。
    刃物のような目付きから鋭い視線がシオンのまぶたに突き刺さる。
    静かな怒りが漂ってきた。

    「いや、別に文句があるってわけじゃないけど……」

    シオンは、やや怖気ずいて言い訳をした。
    先程のポケモンバトルで、シオンはカントを気絶させた後、ピチカにイヌをボコボコにさせた。
    惨めな目に合わせたあげく、正攻法とはかけ離れた戦術を駆使し、あまりにも醜い勝利を掴んでいた。
    そんな憎むべき相手にもかかわらず、謙虚にもカントはトレーナーカードを差し出してくれた。
    感謝せねばならない立場でありながら、文句などを言ってしまえば、
    カントの機嫌を損ねてしまい、トレーナーカードは没収されてしまうだろう。
    しかし、シオンは我が家から去るつもりはなかった。
    一人暮らしには苦しいイメージがつきまとって離れなかった。

    「……どうして、家で暮らしながら、トレーナーをやっていっちゃ駄目なんだよ」

    「あ? 甘えてんのか? 何、俺に頼ってんだよ。
     ポケモンに頼られなきゃならない存在になるんじゃねえのか?」

    「まあそうなんだけど、なんていうか、実家暮らしでもトレーナー目指したって問題ないはずだろ。
     そもそも俺、まだ十五になったばっかだし、いきなり一人暮らしとか厳しくないか?」

    シオンはカントの顔をうかがいながら尋ねる。
    見上げると、亀裂の入った岩のように顔を強張らせた父の顔があった。
    やはり怒っているようだ。

    「おいシオン。お前は何を言っているんだ? まさか、もう忘れたのか?」

    「何が? 何の話だよ?」

    「お前言ったよな。高校進学をやめるって。それでポケモントレーナーを仕事にするって言ったよな?」

    「……ああ、そういえば」

    曖昧に記憶がよみがえる。
    カントに「ポケモンを譲ってくれ!」と頼んだ時の話だった。
    覚悟が決まっていたことさえシオンは忘れていた。

    「なぁ、シオン。ひょっとしてお前、遊びでポケモントレーナーになるって言いやがったのか?」

    「それは違う! 俺はポケモントレーナーを舐めちゃいない!」

    馬鹿にされたと思い、ついムキになって叫んだ。
    ポケモンに対しては真剣な人間であると、シオンは自分を信じていた。

    「けどお前、ポケモンを育てるなんて大したワガママぬかしながら、俺を頼ろうとしてるじゃねえか。
     お前、本当は苦労するつもりなんてないだろ? リスク背負うつもりないだろ?
     自分で責任とってやるつもりなんてあんのか? どうなんだ、えぇ?」

    「父さん。あんまり馬鹿にするなよ。俺をそんなふざけたクズのトレーナーと一緒にされちゃ困る」

    ついムキになって反論した。

    「だったら、なんでカード取らないんだ? さっさと取れよ。いらないのか?」

    「え? ああ、いや、ちょっとボーっとしてただけだ。今とるよ、今」

    没収されそうな雰囲気を感じ取り、シオンは慌てて、そっと手を伸ばした。
    気は進まなかったが、このチャンスを逃してしまうわけにはいかない。
    今までの苦労を無駄には出来なかった。

    「ほら、取ったぞ」

    トレーナーカードを掴んだと同時に、シオンは今まで持っていた大切な何かを手放してしまった。
    夢が叶った瞬間、シオンは後悔した。
    喜びはなく、不安ばかりがあふれてくる。
    困難を乗り越えたばかりだというのに、再び苦行が訪れようとしていた。
    ポケモントレーナーに休息はないのだろうか。

    「それじゃあ俺、準備してくるから。今日中には出ていくから」

    本当にこれでよかったのだろうか。
    疑問と不安を抱えたままシオンは席を立つ。
    手に入れたトレーナーの証を強く握り、忙しなく部屋を後にした。





    衣食住の約束された安心生活を切り捨ててしまった。
    明日からいきなりホームレスに成り下がってしまうかもしれない。
    そんな恐怖が胸を縛りつける。
    これが本当に現実なのか。まるで実感が湧いてこない。
    今すぐ戻ってトレーナーカードを返せば、実家からの追放はまぬがれるだろう。
    しかし、シオンにとっては、トレーナーをあきらめる方がずっと恐ろしかった。
    必死で後を振り返らないようにして階段をのぼっていった。

    気持ちが晴れないまま、二階にまでやってくると、
    シオンは力の入らない手で自室のドアノブをひねる。

    ほこり被った勉強机、ふとんのないベッド、ゲームソフトのつまった本棚、
    そして巨大なクローゼットがシオンの目を引いた。
    異世界にでも繋がっていそうな巨大な扉を開くと、
    服のかかったハンガーの側面がびっしりと並んでいた。
    ほとんどがカントの衣服である。
    その中から一部をひったくると、シオンは寝巻を脱いで、着替えを始めた。


    ダサいと思いながらも買った、真っ黒なTシャツに袖を通す。
    シオンの胸元に、『IamPOKEMONTrainer!』の文字が現れる。
    背中にはモンスターボールと若葉マークのプリントが描かれている。

    新品の全く色あせない群青色のジーンズをはく。
    いずれボロボロでヨレヨレのダメージジーンズにする予定であった。
    デザインよりも、長年使いこんだという事実がカッコイイのだ。

    腰にカントが使わなくなったの茶色いベルトを巻く。
    へその下で銀の四角形が輝く。
    高価なのか安物なのか分からない一品に、拾ってきたモンスターボールホルスターをひっかけた。
    そこに光沢を放つ紅白の球が納まる。

    「そういえば、俺は一人じゃないんだったな」

    ボール内部で暮らす小さな相棒は何よりも心強く、シオンの不安を和らげてくれていた。

    マスターボールみたいな紫の帽子を被った。
    こめかみにピンクの丸、額の部分は白くMの文字が目立つ。
    Mの文字が意味することはシオンにも分からない。

    最後に薄紫色のリュックを取り出した。
    線路みたいに走る白銀のジッパーを引っ張ると、適当に荷物を放り込む。
    着替え一式。
    ポケモン図鑑(本バージョン)。
    食える木の実図鑑(本)。
    オボンのみの缶詰×2。
    見様見真似で詰め込んでみたものの、どれもこれも使うかどうかが分からない。

    「まあ、必要な物が出てきたら、その時にでも買えばいいよな」

    こうして、中学生の財布に大打撃を与えたいかにもな服装をシオンは全て装着した。
    今、最高の人間が誕生したはずだった。
    なんだか生まれ変わったような気がする。
    新しくなった自分を一目見ようと、シオンは部屋を飛び出した。
    階段を駆け下り、洗面所の前へとたどり着く。
    そこには、鏡の中の世界で大笑いする自分がいた。
    想像以上に服装がダサすぎて可笑しかった。
    憧れていた世界の住民になれた自分を見て、思わず感動してしまった。
    冒険しているのか、私服なのか、少々分かりにくいこのダサい服装がシオンは大好きだった。
    ポケモントレーナーになったのだと噛みしめるように再認識した。

    未だ不安を振り払えたわけではない。
    しかし、もう我が家にしがみついて生きようとするのはやめることにした。
    自分がポケモントレーナーだと分かったからだ。

    旅立ちを決意する。
    野宿も覚悟する。
    金の荒稼ぎをも誓う。
    緊張と興奮で胸がドキドキしていた。
    シオンは無性に楽しくなってきた。





    ずいぶん久しぶりに親子そろって昼食をとった。
    二人の間でラーメンのすする音だけが飛び交っている。
    シオンに会話をする気は全くなく、気まずい空気が流れる中でただ麺をすする。
    もしも儲けられなければ毎日こんな貧しい食生活なのだろうか。
    舌の上で栄養を感じられない味がした。
    夢のためには健康をも捨てねばならない。
    くどいスープを吸いつくし、終始無言で食事を終えた。
    空になったカップの容器を放置して、シオンは黙って席を離れる。
    もういかなきゃ、と思った。





    シオンが石造りの白い玄関までやってくると、下駄箱から新品の黒いスニーカーを取り出して、履いた
    靴の側面にマスターボールみたいな紫のラインが入っている。
    ジーンズと同じく、いつか最高のボロボロ靴になる時を楽しみにしていた。
    そんなことを妄想しながら、ひもを固くむすぶ。

    「もう行くのか?」

    振り返ると紺の浴衣が目に入った。
    カントが虚ろな瞳で見下ろしている。
    何事もなかったかのように、シオンは再び靴ひもを結びなおす。
    蝶々結びが中々綺麗に仕上がらない。

    「ああ。もう行ってくるよ。ポケモントレーナーになったんだからな」

    「お前、そんな格好で山やら森やらは抜けられるのか?」

    「その時になったら買いかえればいいだろ。それに、しばらくはトキワにいるだろうから」

    「そうか……なら先に風呂にでも入っていったらどうだ?」

    「トレーナーってのは一週間、
     いや一カ月ぐらいは風呂に入らない時期があったりするもんなんだよ」

    シオンは面倒臭がって答えた。
    カントに心配されてるような気がして妙に居心地が悪い。
    しかし、考えてみれば、これでカントとも我が家とも最後の別れになる。
    カントの態度にも少し納得がいった。

    「シオン。餞別だ、持ってけ」

    再び振り返ると、カントの手から三枚の千円札が差し出された。
    それを無言で受け取る。
    長方形の右側にレッドの肖像画、左側に白銀山、真ん中のだ円形を光にかざすと笑顔のピカチュウが浮かび上がる。
    まるで死者を写したような三枚の紙きれをシオンはありがたく頂戴した。
    早速、ダサい服のおかげで、すっからかんになってしまった財布の中に三千円を投入する。
    ついでにトレーナーカードも押し込んだ。

    「なぁシオン」

    「なんだよさっきから。気持ち悪いな」

    「いつでも帰ってこいよ。その時は、お前のトレーナーカードを取りあげるからよ」

    感情のこもらないような声でカントは淡々と言った。
    それは優しさなのか嫌みなのか、どういうつもりで言ったのかシオンには分からない。

    「俺は絶対に帰らないよ。帰るのはポケモンマスターになった時だけだ」

    自分の意思を率直に伝えた。
    ふいに、こんな他愛ない会話をカントとするは久しぶりだと気が付いた。

    「そうか、なら絶対に帰ってくるな」

    厄介払いのつもりで言ったのか、
    それともシオンのトレーナーとしての成功を祈るつもりで言ったのか。
    真相は分からないが、シオンは訊き返すつもりがなかった。

    「父さんが次に俺の姿を拝めるのはテレビの中だから」

    名残惜しいと思いながらも、シオンは重い腰を上げ、立ち上がった。
    財布をポケットに突っ込み、リュックをしっかり背負いなおす。
    靴のつま先をトントンと床で叩く。

    「気を付けて行ってこいよ」

    「言われなくても分かってる」

    心配されると照れ臭くなって、ついうっとおしそうなふりをした。
    そしてシオンは玄関の扉に手をかける。

    「永遠に行ってきます!」

    最後の言葉を残して、シオンは外の世界へと旅立った。
    もう後には振り返らない。
    扉を越えて、光の中へ。








    つづく?








    後書?
    オハナシ作るってのは時間を食い過ぎてしまうのが問題ですね。
    クオリティを下げれば解決できそうですね。
    そんなことより次で最終回だそうですよ。


      [No.1016] [十三章]ポモペ 投稿者:ヨクアターラナイ   投稿日:2012/07/30(Mon) 01:17:47     70clap [■この記事に拍手する] [Tweet]




    13

    『堕落』





    深緑の屋根を被った木造建築がどこまでもずらりと連なっている。
    並んだ屋根がギザギザ模様を形作り、その上から傾いた太陽が顔を覗かせた。
    淡白な朝焼けが、トキワシティの住宅街を柔らかい光で照らし出す。

    シオンが寝巻のまま玄関から出て来ると、うんと伸びをして、無味無臭の空気を鼻から吸い込んだ。
    それからサンダルを鳴らし、ふらふらと歩いて、宿敵と向かい合う。
    家々に挟まれた、石畳の広い一本道で、シオンはカントと対峙する。
    浴衣姿に下駄をはいたカントは、離れて観察でもするかのようにシオンを睨んでいた。

    「分かってるだろうが、負けたら、トレーナーやめろよ」

    カントが念を押すように言った。

    「そっちこそ、トレーナーカードの準備は出来てるんだろうな?」

    シオンは抗うべく反論してみせた。

    ふいに、冷めた春風が流れてきた。一瞬、服が肌にへばりつく。
    触覚が活き返り、シオンはモンスターボールを握っていたことを思い出す。
    軽く握りなおした。

    「そろそろ始めないか?」

    「ああ、そうだな」

    カントの声を合図にし、親子そろってボールを天高くにかかげた。
    振り下ろした腕から滑りぬけた鉄球は、石畳にコツンとぶつかり、光の中から手の平に帰って来た。

    シオンの足元でレモンイエローの電気鼠が召喚された。
    ピチカは腰の茶色い二本線とギザギザの尻尾をシオンに向けたまま、ジッと前だけ見つめている。
    その視線の先には、仲の良かったカフェオレ色のポケモンがこちらの様子をうかがっていた。
    巨大な筆の尻尾を揺らす、子犬系のポケモンは、ウサギの耳を立てて、
    何かを訴えるように黒真珠の瞳を見開いている。

    「ピチカ。ポケモンバトルだ。頼むぞ」

    シオンは信じていた。
    相手が親友でもピチカはやっつけてくれる、と。

    ――チュウ……。

    味気ない弱弱しい鳴き声が返ってきた。

    「おいシオン! そいつから攻撃させてこい!」

    突然、カントの張り上げた声が投げられる。

    「そりゃ助かるけど……何で?」

    「イヌに無抵抗なポケモンを攻撃しろってのか? 俺はんなことさせたくねえ。
     だがよ、相手が襲ってきたってんなら話は別だ。応戦しねえわけにはいかねえよなあ」

    シオンにはよくわからない理屈だった。
    おかげで勝利に一歩近づく。
    そして、シオンは、己の人生を賭けたポケモンバトルを開始した。

    「ピチカ、でんじは!」

    ピチカから周囲の空間へ、青白い光の亀裂が走る。
    淡い色の電気エネルギーが震え、増殖し、一点に集まると、蜘蛛の巣を丸めたような球体を作り上げた。
    グジャグジャした、砂嵐のように発光する『でんじは』の塊は、ピチカの尻尾に引っ叩かれ、
    ビビビッとうなりながら、イヌに向かって飛んでいく。

    「イヌ、シャドーボールを撃ってくれ!」

    いきなり生まれた漆黒の闇が、愛らしいイヌの表情をヘルメットのように覆い隠した。
    吸い込まれそうな黒いエネルギーは、イヌの首が振られると同時に放たれる。
    小さなブラックホールが大砲から噴き出したみたいだった。
    暗闇の弾が飛来する。

    ピチカとイヌの間で、光の玉と闇の弾がすれ違った。
    しかし、何もおこらない。
    二つのエネルギーは交わることなく、標的へまっしぐらに突っ走る。

    「来るぞ!」

    漆黒の帯を引き、凶弾が迫る。
    一瞬の間もなかった。
    弾がピチカに触れる。
    ボン!
    重低音が短く響いた。
    シオンの足元で黒い煙が立ち上る。
    ふくれあがった煙の中から、ピチカは後方へと弾き飛ばされた。
    あっという間に、彼方まで飛んでいく。
    人間に思いっ切り蹴りあげられたサッカーボールのようだ。
    小さな体は猛スピードで滑空し、水切りのように大地を何度も跳ね、
    長らくスライディングしてから、ようやくピチカの動きは止まった。
    横たわるピチカが小さく見える。くたびれたボロ雑巾のようだった。

    「ピチカァ!」

    シオンは悲鳴を上げるようにして名前を叫んだ。返事がない。

    「終わったな」

    勝ち誇ったカントの声に、シオンは思わず歯ぎしりをする。
    そしてピチカを見つめて、祈った。頼むから立ってくれ、と。

    ――チュウ!

    意気のいい声が聴こえた。
    目線を戻すと、倒れていたピチカがもぞもぞとうごめいている。
    立ち上がろうとしている。
    体を重たそうにして、それでもよみがえらせようとしている。
    ほとんどひんし状態の肉体を強い意思で突き動かしている。
    倒れていたままでも不思議ではなかった。
    しかし、ピチカは闘志を見せた。
    終わりから絶体絶命へと、ピチカは力を込めて這い上がった。
    胸が熱くなった。
    絶対に勝たなくては!
    シオンは拳を握り、強く勝利を誓った。

    「イヌ、シャドーボールを!」

    休む暇もなく、恐怖の一言が耳に押し寄せる。
    飛来する球状の深い漆黒が目に飛び込んできた。
    シオンを横切った、どす黒い絶望のその先に、立ちあがったピチカが待ち受ける。
    その距離を見通して、シオンは次に何を指示すればよいのか、わかった。

    「よけろピチカ!」

    ミニチュアサイズのピチカが、闘牛士のごとくひらりと身をひるがえし、黒い弾をかわしてみせた。
    命中率百パーセントの技は、ピチカの少し後ろで、煙となって消え去った。

    「そんな馬鹿な!」

    カントの驚きようから、ポケモンに対する知識の欠落さが滲み出ていた。
    一見した所、シャドーボールは直線にしか撃てず、今のピチカに届くまでの距離が長すぎる。
    よけられないはずがない。
    『たいあたり』と同じように、距離が開くほど、命中率はあてにならない。

    「イヌ、シャドーボールだ。何度でも!」

    次から次へと黒い砲丸は放たれ、シオンの隣を通り過ぎて行った。
    その全てをピチカは華麗にかわしてみせた。
    ピチカの向こう側で、黒インクのような濃い黒煙が立ち上り、
    積乱雲のように膨らんでから、空気に溶けるようにして消えていった。

    「なるほど。要は遠すぎるってワケだな。だったらイヌ、ピカチュウとの距離を縮めてくれ。
     歩いて前に進むんだ……どうしたイヌ?」

    イヌは動かなかった。怯えたように前足が震えている。
    きた!
    長らく待ち望んでいた、イヌの『からだがしびれてうごけない』瞬間が訪れる。
    シオンはすかさず命令を下した。

    「でんきショックだ!」

    青白い閃光が瞬く。
    彼方より、空間を切り裂く光の刃がほとばしった。
    狙いの定まらぬ光の槍は、空中に亀裂を描いて、前へ前へと突き進む。

    「逃げろイヌ!」

    イヌの小さな四本の足は、床と一体化したかのように動いてくれない。
    シオンの耳に熱を残して、雷は駆け抜けていく。
    でんきショックがイヌに襲いかかる、その時だった。
    青白い光の切先が、いきなり明滅を起こし、弾けて消滅した。
    雷の頭から尾へと、流れるように火花をまき散らし、でんきショックは、跡形もなく消えてしまった。

    「あっぶねえ! ラッキー!」

    カントの喜びようから見て、イヌが何か仕掛けたというわけではないらしい。
    でんきショックが届かない。つまり、それはピチカのパワー不足を示していた。
    命中率が通用しない距離にいるのは、ピチカとて同じなのだ。
    次の手を打つべく、しばらく頭を使った後、シオンはゾッと寒気がした。詰みだ。

    でんきショックが届く距離ならば、シャドーボールはよけられないだろう。
    しびれてうごけない瞬間に攻撃を仕掛けたとしても、
    次の一撃をよけきれずに、ピチカは倒れると予測できる。
    だから近付けない。
    だから勝ち目がない。
    もしも、ピチカがシャドーボールを相殺できるパワーを持っていればありがたかった。
    たった一発の攻撃でイヌに勝てるというのならば良かった。
    シオンの推測では、ピチカの攻撃は最低でも四発は当てなければイヌは倒せない。
    その四発を当てる間、常に『イヌがしびれてうごけない』なんて都合のよい状況は期待できそうになかった。
    現に、止まっていたイヌの足はもう動き始めている。

    「よぉし。じゃ、イヌ、前に進んでくれ。近付いて、技を当てて、俺達の勝ちだ」

    フサフサした体毛をなびかせて、小さな悪魔が一歩ずつこちらに迫り来る。
    シオンに触れると爆破する導火線の火花ように、イヌはじわじわと這い寄り距離を縮めて来る。
    気持ちが焦り、落ち着かなくなってきた。
    この戦いで敗北すれば死よりも恐ろしい、生殺しの人生がシオンに待ち受けていた。
    ポケモンが目の前にいる世界で、ポケモンと関わることが許されなくなってしまう。
    大切にしていた希望の未来が全て奪い去られてしまう。そんなのは嫌だ。

    なんとかしなければならない。
    なにかしなければならない。
    何をしなければならない?
    どうすればいい?
    俺は一体今から何をどうすればいいんだ?

    苦しくなるほど悩んでいる内に、ふと、懐かしいという気持ちがこみ上げた。
    シオンはこの焦燥感を、つい最近に経験したのを覚えている。
    あの絶体絶命の瞬間を、自分はどうやって切り抜けようとしていただろうか。
    トキワシティの外へ通してもらえなかった時。
    都合よく目の前にボールが転がり落ちてきた時。
    ピチカがいうことをきいてくれなかった時。
    シオンは忘れていた記憶を呼び起こした。
    必死にわるあがきをする自分の姿が目に浮かぶ。
    燻ぶる闘志に再点火。
    単純に勝利を欲し、飢え、渇望した。
    勝ってやる!
    何が何でも勝ってやる!
    どんな手を使ってでも勝ってやる!

    目下まで迫ってきていたイヌが視界に入る。
    遠く離れたピチカでさえも攻撃のよけきれないであろう立ち位置だった。
    イヌの背後をカントがのろのろとついて来る。
    二人と二匹の立ち位置を脳裏で描いたその時、シオンの瞳に希望の光が射しこんだ。
    勝利のために自分が出来る行為が、そこにはあった。

    「イヌ、とどめのシャドーボール! 撃ってくれ!」

    死刑を告げられた無罪の男の気持ちが分かったような気がした。
    想像通りの言葉に、シオンは思わず鼻で笑った。
    イヌは漆黒の砲丸を眼前に装弾し、標準をピチカに合わせ、引き金は絞られた。
    黒い塊が走り出す。
    途端にシオンが走り出す。

    「おおおおっと! 足が滑ったあああっ!」

    振り切った右足に軽い衝撃が響く。
    シオンは飛来した黒い塊を全力で蹴り上げていた。
    弾かれた黒い塊は、進行方向から逆走し、ビュンと風を切って、カントの顔面で爆裂した。
    ばこん!
    黒煙が一気に膨れ上がり、カントの上半身を覆い隠した。
    そこへ、すかさずシオンの人差し指が突き付けられる。

    「ピチカ、でんきショックだ!」

    十分攻撃の届く距離までのこのことやってきた馬鹿な中年に向けて、恐怖の一言を浴びさせた。
    シオンの後頭部をバチッと弾ける音が叩いた。
    青い輝きの一閃が、瞬く間にシオンの隣を横切った。
    空中に獣の牙をなぞったような切り傷の幻を残して、
    横殴りの稲妻はカントの顔面に突き刺さった。
    雷雲を身にまとった中年の怪物から、しゃがれ声の悲鳴が聞こえた。
    畳みかけるようにシオンは大地を蹴り、走る勢いに乗って飛び跳ねた。

    シオンのからてチョップ。
    きゅうしょにあたった。
    こうかはばつぐんだ。
    いきおいあまってシオンはカントのぶつかった。
    カントはたおれた。

    小指の側面がヒリヒリ痛む。
    黒煙の闇も電流の輝きも幻のように消えてなくなると、
    眠るように気絶するカントの姿が現れた。
    これでトレーナーの口を封じた。もう勝利したも同然だった。

    ピチカに目をやると、気の緩んだ締まりのない表情で、そこに突っ立っていた。
    未だ試合は終わっていない。
    シオンは渇を入れるべく、叱るようにして最後の役目を命ずる。

    「ピチカ! イヌを倒せ! とにかくイヌを倒せ!」

    小さな二匹は見つめ合った。
    一瞬、ためらったような間が出来た。
    赤い頬が青く帯電した。
    ピチカは獰猛な顔つきになって、奇声を上げながらイヌに飛び掛かった。

    でんきショック、明滅する青白い電撃を浴びせる。
    でんこうせっか、猛スピードで体をぶつける。
    しっぽをふる、防御力を下げる技で攻撃する。
    でんじは、効果はないみたいだ。
    でたらめな技のオンパレードが、小さな体から、連続で絶え間なく繰り出される。
    イヌは黙って、怒涛の猛攻撃を受け続けた。
    無抵抗で、されるがままに、ただひたすら、無様にやられる時を待っている。
    これがトレーナーに身も心も忠誠を誓った憐れなポケモンの末路だった。

    イヌはいわゆる指示待ちポケモンである。
    カントの命令がなければ、何をどうしてよいのかが分からないのだ。
    自由に攻撃をして、良いのか駄目なのか、分からないのだ。
    ポケモンがトレーナーを信頼した時、自由を失うことになる。
    シオンは衝撃の真実を知ってしまったつもりになった。

    友達を襲うピチカ。
    一方的にやられるイヌ。
    ああ、これがポケモンバトルなのか。
    思っていたよりも、微笑ましい光景ではなかった。

    電気の弾ける音を聴いている内に、イヌは力尽きて倒れた。
    石畳の上でぐったりと眠るように突っ伏している。
    その隣でピチカが勇ましく直立している。
    実感はどこにも見当たらなかったが、確かにシオンの勝ちだった。
    あまりにもあっけない勝利だった。

    シオンは倒れた一人と、倒れた一匹を見下す。
    その最中で、ふと思った。
    こんな馬鹿げた勝ち方をして、カントにポケモントレーナーだと認めてもらえるのか。
    心の奥がざわつき始める。
    無性に恐怖が訪れる。
    そして後悔した。

    「だって、こうするしか、勝てなかったんだよ! 仕方ないだろ! くそ!」

    腹いせに叫んだ。
    苛立ちを解き放つように、恐れを振り払うように、シオンは声を張り上げてわめいた。
    やってはならないことをやってしまった。
    間違いなく間違いを犯してしていた。
    今更、何もかもが手遅れだった。
    もはや祈る他はない。








    後書
    ポケモンバトルはバイオレンスだが、バイオレンスはイケない。
    何か所かアウトだと思って描写モドキの文章を消すことに。
    痛みや苦しみの地の文は少々取扱注意だと思う。
    これからはエログロがなくても気をつけて書くようにします。


      [No.1015] 第24話「休日なんて無かった」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2012/07/26(Thu) 14:08:07     64clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    「さて、立ち読みでもしようか」

     11月8日の日曜日。今日は珍しい休日だ。昼飯の時分だが、俺は本屋に向かっている。人の多い場所に行く気が無いのと、飯屋の奴らの態度が鼻持ちならねえからだ。家からは離れているし、かといって飯屋も駄目。ならば空きっ腹を我慢しても本を読んだ方が良い。

    「今日は掘り出し物でもあれば良いのだが……ん?」

     そんなことを考えながら往来を歩いていたら、1人の女が道行く人々に声をかけているのを見つけた。俺が言えた言葉じゃねえが……あの女、かなり奇妙な服装だな。白いレースのついた黒いスカートに、これまたヤミカラスの濡れ羽のようなパフスリーブの服。ついでにエプロンなんかも着ている。メイド服ってやつか?

    「客引きか、ご苦労なこった」

     全く、あんな服装で声かけなんてよくできるぜ。俺にはあんなのできそうにねえ。ま、だからと言って相手にする理由は無いがな。さっさと本屋に向かおう。

     そう思いながら足早に移動し始めた、まさにその時。俺の目の前にメイド服の女が飛び出してきたのだ。俺はすんでのところで止まったが、そいつとの距離は50センチもくだらない。それから彼女は、およそ聞き慣れない猫なで声でこう言ってのけた。

    「あ、ご主人様! お帰りなさいませ!」

    「な、なんだ! おいてめえ、冗談はよせ」

     俺は可能な限りのけぞった。そしてそのままブリッジの態勢になろうとするも、彼女に左腕を掴まれてしまう。

    「冗談なんかではありませんよー。さあさあ、美味しいお茶の準備ができてます。早く家に入りましょう!」

    「ぐおおおお……」

     こうして俺は、鼻歌まじりの彼女に連れられ、付近の家屋に入るのであった。……やれやれ。










    「はい、どうぞ」

    「お、こいつはナゾノ茶か。しかも上物の……って、そうじゃねえ」

     数分後、俺はメイド服の女に連れられた店で座っていた。個室には、俺と彼女が2人きり。木目が美しいフローリングに白の壁紙、ソファーにテーブルだけのシンプルな部屋だ。そして、テーブルには俺の好物のナゾノ茶。しかし、今の俺に茶を飲む余裕は無い。

     俺は彼女をまじまじと眺めた。……うん? この娘、見覚えがあるぞ。少し探りを入れるか。俺は腕組みをしながら質問をしようとしたが、先手を取ったのは彼女だった。

    「ご主人様、今こんなことを考えてませんか? 『この娘、見覚えがあるぞ』って」

    「ふん、んなのそっちの思い違いだろ」

    「そんなことはありませんよー。なぜなら……私も覚えてますからね、サトウキビさん。いや、今はテンサイさんでしたっけ?」

     俺は不覚にも息を呑んだ。娘の一言は、俺を揺さぶるには十分すぎるものだった。だが、これで思い出したぜ、彼女が誰なのかを。

    「……あんたは確か、ミツバだったかな。身なりと口調が違ったから気付かなかったぜ」

    「ああ、これですか? ですよね、こんな格好は普通しませんから」

     メイド服を着た女、ミツバは無邪気に笑ってみせた。仕事中にんなこと言って良いのかは気になるところだがな。しかし、厄介な奴が現れたぜ。彼女はヒワダのボール職人であるガンテツの孫だ。かつて、旅の途中に知り合ったわけだが……念のために探りを入れるか。

    「全くだ。ところで、あんたは俺のことを突き出す気か」

    「突き出すって、コガネでの事件ですか?」

    「その通り。俺は現在お訪ね者さ、あれほどの馬鹿騒ぎをやったんだからな。もしあんたが俺の存在を警察に知らせても、なんら不思議な話じゃないだろう?」

     俺はナゾノ茶でのどを鳴らしながら、サングラス越しに眼光を飛ばした。まるで通報するなと脅しているかのようだが、断じてそれはない。ただ、話の真偽を判断する時に出る癖だ。

     そんな俺の意図を察したのか、ミツバはあっけらかんと返答した。

    「確かに、大々的に宣伝してましたからね。『市民を惑わす極悪人のサトウキビ逮捕にご協力ください』みたいに」

    「やっぱりな」

    「でも、私は通報する気はさらさらありませんからね。安心してください」

     あまりにストレートな回答に、俺は思わずむせこんだ。そりゃそうだろ、今の言葉は明らかに反社会的だからな。俺は呼吸を整え、再度問うた。

    「お、おいおい。どういうつもりだ。穏やかじゃないじゃねえか」

    「そりゃ、サトウキビさんは同志ですからね。もちつもたれつですよ」

    「同志、なあ」

     なんだ、彼女は科学者なのか? それとも教育者? いや、さすがにこの風体で教育者はねえな。いずれにしても、彼女の真意を推し量るのは一筋縄じゃなさそうだ。

     俺が少し考え込むと、彼女はまるで何か思いついたかのように、右握りこぶしで左手のひらを叩いた。

    「あ、そうだ! あと30分くらいで交代の時間なんですよ。だから私の家に来てください。びっくりしますよ! もし来ないなら、あなたの正体を町中で言いふらしますからね」

     ミツバはさりげなく牽制をかますと、自分の茶をいれゆっくり飲んだ。俺も、左手で頭を抱えながら湯飲みを空にするのであった。

    「ちっ、しっかりしてやがるぜ」

     休日は長引きそうだな。


    ・次回予告

    ミツバに連れられ、彼女の家にやってきた。……これは大したもんだ。俺はそこで見たものに、不覚にも感嘆するのであった。次回、第25話「悪の技術者」。俺の明日は俺が決める。




    ・あつあ通信vol.90

    このコラムも、はや90回目。意外と頑張れるものですね。

    さて、今回登場したミツバは以前出した気がしますが、覚えていた方はいますかね。以前と言っても、前作ですけど。スタッフロールでも何をやる人なのか分からずじまいでしたが、突然今回の電波を受信したわけです。


    あつあ通信vol.90、編者あつあつおでん


      [No.1014] [十二章]ポモペ 投稿者:ヨクアターラナイ   投稿日:2012/07/21(Sat) 22:14:28     73clap [■この記事に拍手する] [Tweet]






    『二人の執着心』




    ヤマブキ家の居間で、二人と二匹は集まった。

    朝焼けの射す窓際の一角にて、二匹のポケモンがじゃれ合っている。
    ピカチュウのピチカとイーブイのイヌである。
    小さな体の二匹は互いに身を寄せ合い、甲高い声で嬉しそうに鳴き、
    ふざけ合うようにしてたわむれている。
    ふにふにした肉付きのピチカと、もふもふした体毛のイヌが抱き合って、
    薄緑の畳の上をゴロゴロと転がり回っていた。

    その様子を見て、男が一人、腹をすかせた獣のようにうめく。
    ちゃぶ台の上に身を置く、藍染の浴衣をまとった中年の男だ。

    「これは一体何だ? 一体何が起きている? 答えろ、シオン」

    男は顔面に鬼の形相を張り付けていた。
    額に青筋、眉間に亀裂、ギラついた瞳の鋭い眼差しがシオンの目玉を突き刺した。
    どう見てもヤマブキ・カントは怒り狂っていたが、
    ヤマブキ・シオンは眉一つ微動だにさせなかった。

    「見て、何が起きているのか分からないのか? イーブイとピカチュウが遊んでるんだよ、父さん」

    「そりゃ分かるが、そういうことじゃねぇ。
     だから、どうしてこんなことが起きているんだって訊いてるんだ」

    「それは俺が二匹を遊ばせてやったからさ。父さんが居なかったり、寝ている隙だとかにね」

    カントが訝しげにクッと目を細めた。

    「……で、そのピカチュウは何なんだ? 家にいる理由は何だ?」

    「もう分かってるはずなんだけどな。でも、一応教えてやる。戻れ、ピチカ!」

    ふいに名前を呼ばれ、ピカチュウのピチカは、
    背を向けたまま、ピンと耳を立てる。
    そしてピチカは振り返り、くりくりの瞳がシオンの顔を見つけると、大急ぎで駆け寄ってきた。

    「こうゆうことだ」

    あぐらをかいたシオンの膝元を、ピチカが身を寄せるようにして座り込む。

    「俺はピチカを手に入れたんだ。父さんのイヌみたいにね」

    そのイヌに目をやると、ピチカという遊び相手を失い、オロオロとふらつきまわっていた。
    しばらくして、イヌはちゃぶ台の下に潜り込み、その場で居眠りを始めた。
    黒真珠の瞳を閉じ、ウサギの耳を垂らし、大きな筆の尻尾を抱くようにして陰りの中を寝そべっている。
    天使のようなポケモンが眠るその上で、赤鬼のようなトレーナーが目を血走らせていた。

    「愚か者め! とうとうポケモンに手を出しやがったな。罰当たりなことを!
     いいかシオン、お前がやったことはな、
     拉致とか誘拐とか言われる犯罪となんら変わりないんだぞ! 分かってるのか!」

    カントの唾がシオンの顔に飛び散った。
    気持ちが悪かった。

    「随分と大袈裟な物言いだな。ポケモンゲットなんて、皆やってることじゃないか」

    「たわけ! 言い訳する暇があんなら、さっさとそのピカチュウを今すぐ逃がしてこい!」

    猛烈な反発の精神がシオンの中で生まれた。
    カントの命令を受け入れるつもりは微塵もなく、
    居心地の悪さを感じながら、シオンは丁寧に言い訳をした。

    「俺はポケモンを逃がすために捕まえたんじゃない。
     ポケモントレーナーになるために捕まえたんだ。だからそんなこと出来ない」

    「お前の都合なんか知るか! 黙ってピカチュウをトキワの森に帰してこい!」

    「じゃあ聞くけど、どうして俺が俺のピチカを逃がさなきゃいけないんだ。理由を教えてくれよ。分かるように」

    「それは、そのピカチュウが可哀想だからだ。お前のような邪悪な外道をトレーナーに持って、
     そのピカチュウが嫌がっていないワケないだろうに」

    嘲るような言い方だった。
    カントの見下すような瞳に対して、シオンはピチカの頭上を愛でるように撫でつけて見せた。
    ピチカの立っていた長い耳がたれさがり、くすぐったそうに黄色い体をくねらせる。
    ピチカの表情は見えなかったが、シオンの側から離れようとする気配は微塵も現れなかった。

    「へぇー。これが俺を嫌がってるポケモンの態度なのか。ピチカは嫌がってるのか。
     でも父さん、俺にはとても逃げ出したがってるようには見えないけどなぁ」

    カントは悔しそうにピチカをにらみ、次にシオンへ怒りをぶつけるようににらみつけた。

    「……何をした?」

    「え? いや、特に何もしてないけど」

    「一体そのピカチュウに何をした! 何もしていないワケないだろう!」

    カントが声を荒げる。呆気にとられつつも、シオンは、ピチカと出会ってからの事を振り返ってみた。

    「何したっけな……やったことといえば、トキワの森なんかでとれる木の実よりもはるかに上手い飯を食わせてやったり、
     父さんのイヌも含めて友達を作ってやったり……後は安心して眠れる住処を与えてやったってところだろうな。
     ま、大したことをしてはいないよ」

    「やったことは、それだけか? それだけじゃないハズだろう?
     それだけじゃ、ピカチュウが完全に洗脳されてることに納得がいかねぇ」

    内心ギクリとしたが、シオンは平然を装って受け流す。

    「それだけだよ。洗脳とかワケ分からんし。んなことより、ピチカが俺に懐いているのは一目瞭然だろ。
     俺はもう既にポケモントレーナーも同然なんだよ。だから頼む、俺のトレーナーカード作ってくれよ。
     早くポケモントレーナーになりたいんだよ、俺は」

    勢いよく頭を下げ、畳の上に額を打ちつける。もう幾度やったのか分からない、シオンの安っぽい土下座であった。

    「そうか。トレーナーカードが目的か。……馬鹿者め、俺がお前をポケモントレーナーだと認めるワケねぇだろ!
     そしてそのピカチュウを逃がすんだ! 今すぐに!」

    「だから何でそうなる! ピチカが俺を嫌がってないのは分かっただろ!
     どうして父さんは俺からポケモンを遠ざけようとするんだ。一体何が気に入らないんだよ」

    イライラを吐きだすように、感情のままにシオンは叫ぶ。
    カントからトレーナーを嫌悪するオーラが滲み出ていた。
    しかし、その理由がシオンは全く分からない。納得のいく答えを期待し、耳を強く傾ける。

    「よぉく考えてみろ。そのピカチュウはな、家族や友達と無理矢理離れ離れになってしまったんだぞ」

    衝撃的の一言だった。しかし、その意味をすぐには理解出来ない。

    「そのピカチュウにだって家族がいた。仲間だって、友達だっていたはずだ。
     それなのに、ピカチュウは自分の住処から無理矢理引き離された。
     家族からも、友達からも引き離された。お前のせいで、だ!」

    「で、でもさ。……ピチカがそれでいいって思ってるんなら何も悪いことないんじゃないのか?
     ピチカが幸せなんだったら、それで別に……」

    「確かに、そのピカチュウはお前を嫌がってはいないみたいだったな。
     だがな! 俺はピカチュウの父親が未だに子供の帰りを待ってるかと思うと、可哀想で仕方がないんだよ。
     ピカチュウの親も、ピカチュウの友達も、皆帰ってきてくれると信じて待ってるかもしれないんだぞ。
     そこにいるピカチュウの仲間のピカチュウ達の気持ちは一体どう責任とるっていうんだよ、お前は!」

    無駄に感情のこもったカントの力説に、シオンは納得がいってしまった。
    その言葉が真実だと思ってしまった。
    敵の持論にもかかわらず正しいと思ってしまった。
    危険を感じ取り、ついピチカをモンスターボールに戻してしまう。
    ボールを握った手の平から冷たい汗がにじみ出てくる。
    カントを認めてしまいそうな矢先、シオンの脳裏に天からの温かい光が差し込んできた。
    父親を見返す台詞が見つかったのだ。

    「そういう父さんこそ、イヌを持ってるじゃないか。逃がしてあげたらどうなんだよ。
     イーブイの仲間達が待ってるぞ。可哀想だろ?」

    シオンは勝ち誇った。カントは押し黙った。
    沈黙が流れる。
    どんな事を言って追いうちをかけようか悩んでいる内に、カントが口を開いた。

    「逃がしてやりたいのもやまやまなんだがな。
     イーブイってのは生息地不明のポケモンで、俺も何処に逃がしたらいいのか解らんのだ」

    「は? 父さん、自分で捕まえたんじゃないの?」

    「違えよ。捕まえた連中に聞くと企業秘密だとよ。
     マサラのオーキドにも頼んでみたんだが、カントーじゃイーブイの生息地不明だとか言われた。
     あの頃は今よりはるかにイーブイは珍しいみたいだからな」

    「他の誰かがゲットしたってことか? じゃあ、父さんは一体どうやってゲットしたんだ?」

    「イヌは捕まえたポケモンじゃない。
     ……タマムシシティのスロットの景品でコインと交換してもらった。だから生息地が分からん」

    「うわ、ひっでえ! 要は金で買ったってワケか! 人間にして例えると人身売買ってヤツだ。
     よくもまぁ俺に誘拐だの拉致だのと、酷い犯罪者扱いしてくれたな。
     人のこと悪く言える立場じゃないのに」

    シオンは汚いものを見るような目をして、反吐のように罵倒をかけてやった。
    自分の父親を、見事なまでの偽善者だと思った。

    「とにかく、俺はイヌを逃がすわけにはいかんのだ。
     別の種類のポケモンの巣窟にこいつを一匹落としていくなんて、余計心配になるだけだろうに。
     だからこいつは俺が保護する」

    「ふぅん。でも理由なんて知ったことか。父さんは逃がさないくせに、俺にはピチカを逃がせだって?
     自分に出来ないことを俺にやらせようなんて腐った根性してるよな」

    力説を一蹴。
    弱ったカントは口をもごもごした。

    「そ、それならばシオン。どうしたらピカチュウを逃がしてくれる?」

    「父さん知ってるか? ポケモンってのは『どうぐ』じゃないんだ。『たいせつなもの』なんだ」

    「どっちも物じゃねぇか」

    「まぁ、最後まで聞いてくれ。『どうぐ』は使っても使わなくても捨てられるけれど、
     『たいせつなもの』っていうのは、何が何でも捨てることの出来ないアイテムなんだよ」

    「……は? 何が言いたいんだお前? まどろっこしいぞ?」

    「だーかーらー、ポケモンは捕まえることが出来ても、
     逃がすなんてことは絶対に出来ない! って言ってるんだよ」

    「お前なぁ……そりゃ、ロケット団と同じだぞ」

    「え? 何でいきなりロケット団?」

    「ピカチュウの気持ちを無視して捕まえて、ピカチュウの気持ちを無視した理由で手放さない。
     トレーナーになるっつー自分本位すぎる目的のために、ポケモンの命を利用してやがる。
     ロケット団だろうが。このロケット団! さっさと警察に自首しろ!」

    「けっ! そういう父さんはプラズマ団とそっくりだよな。
     ポケモンが可哀想なんて真っ当っぽい言葉を使ってるけど、
     結局のところ俺に迷惑かけたいだけじゃないのか。この屁理屈偽善犯罪者!」

    「何でお前はそんな歪んだ発想しか出来ないんだ。
     俺はただお前にもっとポケモンの気持ちを尊重しろって言ってるんだよ」

    「父さんは、ポケモンの気持ちより、俺の気持ちを尊重してくれよ。
     俺のトレーナーになりたい気持ち無視してるくせに、どうしてそんな説教が出来る?
     ふざけるなよ。さっきからそんな嫌な命令ばっかりすんなよ」

    イライラしながら語ると、言い訳が返ってこなくなった。
    またしてもカントは黙り込んでしまった。
    しかし、シオンの気持ちを理解してくれたわけではない、とシオンは理解していた。
    分からず屋の息子をどうすれば分からせてやれるのか、とでも考えているのだろう。
    沈黙が続き、カントの呆れたようなため息が漏れてきた時、 シオンは一つの提案を持ちだした。

    「いいアイディアがある」

    「何だ? 言って見ろ」

    「ポケモンバトルでケリをつけよう」

    「……あ?」

    「父さんがバトルで勝ったら、望み通り俺はピチカをトキワの森に逃がす。
     でも、父さんがバトルで負けたのなら、俺にトレーナーカードを渡して貰う。
     これなら文句はないだろう」

    「ないわけねぇだろ! 俺にイヌを闘わせろっていうのか。ふざけんじゃねえ!
     命ある生き物に対して、命令して闘わせるなどと、なんと愚かな。罪悪感を知れ 、痴れ者!」

    カントは本気で怒っていた。シオンは不思議に思った。
    ポケモンバトルはトレーナーならばやって当然の行為であるのに、
    それを許さないというカントの気持ちが全く理解できなかった。そして理解しようとも思わなかった。

    「それでも、ポケモンバトルで決着をつけよう」

    「駄目だ! どうして分からない?」

    「ピチカの命運が、ポケモンの人生がかかってるんだ!
     ポケモン巻き込んでるくせに、ポケモンが傷つかないで済むワケがないだろ!」

    シオンは勢いと気迫をこめて、屁理屈で誤魔化そうと試みる。
    そもそも、ポケモンバトル以外の賭けでシオンはカントに勝てる見込みがないのだ。
    相手はプロのギャンブラーなのだから。

    「だから、そのポケモンを傷つかせないために、ポケモンを逃がせって言ってるんだ!
     ポケモンがよぉ、人間に命令されたから闘うとか、人間の力を使って生活していくとか、
     なんか間違ってるとしか思えねえんだよ!」

    「理屈なんか知らない! 説教も聞かない!
     ピチカを逃がして欲しかったら、ポケモンで闘って勝ち取ってみせろよ!」

    「んだと? トレーナーカードやらんぞ!」

    「ピチカを逃がしてあげないぞ!」

    二人は睨みあった。一歩も引かない、という意思の示すように。
    カントを説得する方法があるのか疑わしかったが、
    やがて、ふてくされたようにシオンは言った。

    「父さんはいいよな。負けたってイヌと別れるワケでもないのに。
     俺だってピチカと離れ離れになんてなりたくないのに!」

    「だから、なんだ? それがどうした?」

    「自分だけ嫌な思いしないで済むなんて思うなよ!
     俺が夢も人生も大事なポケモンも賭けてバトルしようって言ってるのに、
     それなのに、未だ無傷でピチカを逃がしてもらえると思ってるのかよ。
     そんな都合よく、願いが叶うと思うな!
     ワケの分からん理屈ごねてないで、いい加減に覚悟を決めろ!」

    シオンは思いの丈叫びきった。
    突如、目の前の男の表情が、苦痛に耐えるかのように歪んだ。
    歯噛みし、吐くのをこらえるような顔をして、カントはシオンから目をそらした。
    それから自分の座るちゃぶ台の下を覗きこんだ。
    浴衣の懐からモンスターボールを取り出すと、
    カントの真下で眠りこんでいたイヌを、手の平の玉に吸い込んでしまった。
    背筋を伸ばし、手中に収めた紅白の鉄球をじっと見つめる。
    しばらくして、吐き捨てるような舌打ちが鳴り、カントが言った。

    「シオン。お前は男だよな?」

    「ああ。そうだよ」

    「ならば、約束しろ。お前とピカチュウがポケモンバトルで敗北した暁には、ポケモントレーナーを止めるんだ。
     未来永劫あきらめると誓え」

    脅迫じみた確認が、急にシオンに迫って来た。
    思わず返事をためらってしまった。
    夢を捨てることになるかもしれない。嫌だ。
    しかし、ようやくトレーナーになれる目前までやって来たというのに、
    あきらめるなんて出来そうにない。
    ここまでの道のりを思い返し、よくよく考えてみると、
    この程度の勝負も受けられずにしてポケモントレーナーになれるワケがない。
    そんな結論を出すと、シオンは浅い呼吸をして、覚悟を決めて、声を絞り出す。

    「誓うよ。約束する。俺がポケモンバトルで負けたらポケモントレーナーをあきらめるって」

    とんでもないことを言い切ってしまった。
    シオンはもう逃げられない。

    「でも父さん。俺が勝ったら、俺をトレーナーだって認めてくれよ! トレーナーカード寄こせよ!」

    「ああ、約束しよう。シオン、男に二言はないな」

    「ない!」

    「よろしい。ならば表へ出ろ」

    カントがちゃぶ台の上から重い腰を上げた。
    そしてイヌ入りのボールを携え、乱暴な足取りで部屋を去り、家の中からも出て行った。
    玄関の扉が閉まる鈍い響きを最後に、シオンの空間から音が消え去った。
    虚しい空気が訪れる。途端にシオンは力なく笑った。

    「へへっ! ふへへへへっ!」

    喉の奥から勝手に声が出てきた。シオンは気がふれたていた。

    人生を賭けてしまった。夢を賭けてしまった。もしかしたら、という強い恐怖が襲ってくる。
    シオンはもう逃げられない。失敗したら一貫の終わり。一線を越えてしまった。
    狂わずにはいられない。
    しかし、シオンの目には希望の光が映っていた。
    ポケモンバトルを持ちだしたのには、理由があったのだ。

    数日前からシオンは不思議に思っていたことがある。
    どうしてカントのイヌは進化していないのか。
    イーブイはトレーナーに懐いて、レベルアップすると進化するポケモンである。
    そしてイヌは明らかにカントに懐いていた。
    つまり、イヌはレベルアップのしていない弱いポケモンなのだと予測できる。
    恐らく捕まえたばかりの幼いピチカでも勝てるくらいのレベルだ。そう予測した。

    さらに、カントはポケモンバトルを避けようとしていた。
    つまりポケモンバトルの経験が少ないのだ。
    まだトレーナーにすらなっていないシオンよりも、ポケモンバトルの知識が劣っているレベルだ。そう予測した。

    勝算があり、シオンは自分が勝利する姿を頭に思い描く事が出来ていた。
    それでも、シオンに敗北の可能性がないワケではなく、相手が弱いというのも予測の領域にあった。
    それでもシオンは自分とピチカを信じた。
    信じるしかなかった。
    もう逃げられないから、もう勝つしかないのだ。

    シオンは立ち上がると、重い足取りで家の外を目指した。
    最後の闘いの舞台へゆっくりと向かっていく。
    人生を賭けた闘いの舞台へ。







    つづく?






    後書
    余計なことを入れ過ぎて、無駄にダラダラ長くなってる気がします。
    次からは、話の本題から脱線した内容を極力減らすよう心がけてみます。
    でも、面白いかどうかなんて意識してないで、さっさと完結しろって感じです。
    では、また次回。


      [No.1013] Section-19 投稿者:あゆみ   投稿日:2012/07/20(Fri) 13:56:15     74clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    多忙につき4か月近くほったらかしていましたが気にしないでください・・・(汗
    では本文。

    アスカとチヒロを始めとする、総勢30名の警察隊とポケモンレンジャーの集団は、バンギラスデパート駅からコトブキネットレール構内に入っていった。
    この駅とテレビコトブキ駅の間に、未知のポケモンの張り巡らした無数の根っこが埋まっており、そこからあの未知のポケモンが現れるのだろうと考えられていた。
    「お姉ちゃん、あのポケモンはどこから現れるか分からないから、慎重に行こうね!」
    普段はいつも笑顔のチヒロも、このときばかりは表情がきわめて厳しい。それは渡されたアルファ・スタイラーの重みだけではない。あの草体を破壊しなければ見慣れたコトブキシティが壊滅してしまう。それだけは阻止しなければならないという表情がありありと見て取れた。
    「ええ。――皆さん、これから草体を爆発させる起爆装置を取り付けに行くことになりますが、あの未知のポケモンが私たちに襲いかかる可能性も十分に考えられます。もしものときに備えて、ポケモンたちをボールから出しておいた方がいいかと思います。」
    アスカが集団を見回して言う。――警察隊は一度地下鉄に取り残されていた乗客を救助しに行こうとして断念したことがある。それだけにアスカの説得は十分なものだった。
    「進言ありがとうございます!」
    警察隊の1人が答える。その声に応じたのか、警察隊はモンスターボールからポケモンを繰り出した。
    ボールから出てきたのはウインディだった。前回のときはガーディだったが、あの未知なるポケモンに全く歯が立たなかった。ほのおのいしで進化したウインディだったらある程度渡り合うことができるだろう。
    「それでは、行きましょう!作戦開始!」

    一団はレールを伝ってテレビコトブキ駅方向――無数の根っこが道をふさいでいて駅の姿を目視することはできないが――に向かっていく。
    だが、警察隊はもちろん、アスカやチヒロもさっき踏み入れたときとは明らかに状況が異なっているのを肌で感じ取っていた。
    「チヒロ。どこかおかしいわ。感じない?」
    「・・・そう言えば、あのポケモンが出している羽音。あれが聞こえないわ。」
    未知のポケモンは、トンネルを飛び回りながら羽音を出していたのだが、今はその羽音が全く聞こえない。これは何を意味しているのだろうか。
    「もしかしたら、あのポケモンは昼行性で、夜間は活動していないのかもしれないわ。だけど油断してはいけないわ。チヒロ、羽音が聞こえないからと言ってあまり深入りしてはいけないわ!」
    「分かったわ、お姉ちゃん!」
    そうこうしている間にも一団はポケモンに襲撃された列車の脇を通り過ぎていく。乗客を救助するので必死だったが、改めて見てみると、ポケモンに襲撃された跡がまだ生々しく残っている。窓ガラスは砕け散っていると言うよりは跡形もなくなっている。そして車体もかなりへこんでいる。そして車内の広告も至る所に散乱しており、ポケモンが繰り出した技が尋常なものではなかったことを改めて感じさせてくれた。
    車両の脇を通り過ぎていくと、もうすぐ目の前まで草体の根っこが迫っていた。だが・・・。
    「お姉ちゃん、あれを見て!」
    チヒロがアルファ・スタイラーで指し示して見せた先に広がっていたもの、それは驚くべき光景だった。
    何と、あの未知のポケモンが至る所に倒れ込んでいるのだった。だがどうも様子がおかしい。単に寝ているだけなのか、それとも隙あらば襲いかかろうとしているのだろうか。
    「ここはあたしに任せて!キャプチャ・オン!」
    アスカが早速アルファ・スタイラーからキャプチャ・ディスクを操り始めた。
    果たして、ぴくりともしない未知のポケモンは何を意味しているのだろうか。そして、アスカ達は草体を破壊することはできるのだろうか。


      [No.1012] 第23話「新顔現る」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2012/07/19(Thu) 07:53:14     76clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    「じゃあ、まずはラディヤからだ。全力でかかってこい」

     俺と部員達は、互いに適当な間合いで対峙した。向こうは1番手がラディヤだ。果たして、いかなる動きをするか注目だな。

     そよ風に周囲の雑草がざわめく。自然の観客もお待ちかねだ、そろそろいくか。俺は先日教えられたようにボールを投げた。それに釣られるようにラディヤも繰り出す。

    「小手調べだ、エレブー!」

    「いきますよ、キノココ!」

     俺が使うのはエレブーだ。先週捕まえた、実に20年ぶりの新戦力。随分せっかちだが、能力や技を考えると適していると言えるだろう。

     対するラディヤはキノココか。かの有名なキノコのほうしを覚えるポケモンで、進化すると無限戦術と言う戦法を使えるキノガッサになる。能力的には平凡だが、一撃で落としては訓練にならない。少しは考えて技を選ばないとな。

    「まずは10まんボルトだ」

     先手はエレブーだ。エレブーは両腕をプロペラの如く回し、頭の角から電撃を放った。電気は伝わるのが速い。キノココはこれを真面目から受け、弾き飛ばされた。しかし、その丸々とした体はすぐに起き上がる。これを見て、ベンチから疑問の声が聞こえてきた。

    「キノココに対して電気技でマスか?」

    「そりゃ訓練だからな。いきなり弱点突いて倒したら、意味が無い」

    「なるほど」

     イスムカが軽くうなずいた。彼が頭を上げるまでの一瞬のうちに、ラディヤは叫ぶ。

    「キノココ、きのこのほうしです!」

     キノココは頭上から苔のような色の粉をばら撒きだした。粉は風に乗り、エレブーにまで到達。すると、エレブーは膝をつき、しまいには地面に伏していびきをかき始めた。

    「まあ、予想通りの展開だな。さて、これからどうする?」

     エレブーは寝た。しかし向こうに決定力は無い。キノココと言えば、どくどくだまを持たせて特性のポイズンヒールを発動し、みがわりを利用して戦う無限戦術だ。それは先程も述べたが、キノココに変化は無い。こりゃ手ぶらか。なら待つか。

    「もちろん考えてあります。やどりぎのタネ!」

     そうこうするうちに、キノココが仕掛けてきた。またしても頭のてっぺんから種を出し、無抵抗なエレブーに発射。種は瞬く間に発芽し、エレブーの左腕に絡みつく。

    「……ほう、それは悪手だな。起きなエレブー、ボルトチェンジだ」

     俺は眠っているエレブーに指示を送った。幸いにもエレブーは目覚めた。それから電気をまとってキノココに体当たりをし、すぐさまボールに戻る。あんまり悠長にやってたら、簡単に交代されるってのが良く分かるだろうな。

    「隙あり、みがわりです!」

     もちろん、彼女もそれは理解しているようだ。俺が次のボールを投げると同時に、キノココは人形を額に作り出した。一方俺は、こいつを2番手に投入。それを見て、ベンチのイスムカが声を上げる。

    「あれは、フォレトスか!」

    「ご名答だ、イスムカ。フォレトス、むしくい攻撃」

     フォレトスは速かった。回転しながらキノココに接近し、鋼鉄の殻で噛みついた。キノココはタネばくだんで抵抗するも、かすり傷にもなりゃしねえ。

    「ああっ、みがわりが……」

    「ついでにもう1発、とどめだ」

     動揺するラディヤを尻目に、もう1度むしくいをお見舞いした。エレブーの攻撃とみがわりで消耗したキノココを倒すには、十分すぎる攻撃だった。キノココは気絶し、その場に転がる。

    「キノココ!」

    「緒戦は俺の勝ちだな。次はどっちが勝負するんだ?」

     俺はベンチの2人に問いかけた。これを受け、威勢よく動いたのはターリブンだ。

    「ふふふ、ここはオイラに任せるでマス。全部やっつけるでマスよ」

    「そいつぁ、大した自信だ。ならば早く出しな」

    「わかったでマス。ハスボー、出陣でマス!」

     ターリブンは腕に力を込めてボールを投げ込んだ。出てきたのは、頭に平たく大きな葉っぱを持つポケモン、ハスボーだ。

    「ハスボー?」

     俺は不意を突かれた気分だった。ハスボーは水、草タイプ。水タイプの技ならフォレトスに通るが、こちらは虫タイプだぞ。もしや……。

    「いくでマス、懐刀めざめるパワー!」

    「……フォレトス、むしくいだ」

     思った通りだ。ハスボーは体から力を放出しようとした。だが、ハスボー程度には抜かれねえよ。なにしろこのフォレトスは、ぎりぎりまで速く動けるように育てなおしたんだからな!

     フォレトスはハスボーの攻撃を避け、またしても殻で食らいついた。そして、ハスボーもキノココと同じ末路をたどった。ミイラ取りがミイラになるってところか。

    「や、やられたでマスー!」

     ターリブンは地面を踏みつけた。その悔しさをぶつけてほしいものだな、今後の訓練に。

    「やれやれ、まだまだ読みが甘いな。わざわざ弱点の相手に出したら、疑われて当然だ。では、最後はイスムカの番だぞ」

    「は、はい。くそー、こうなりゃやけくそだ。トゲピー、頼む!」

     さあ、ターリブンも退けた。残るはイスムカただ1人。イスムカは明らかに緊張している。表情が強張っているからな。そんな彼が勝負を託したのは、まだよちよち歩きのトゲピーだった。こいつぁ、面食らったぜ。

    「トゲピー……だと? サファリにこんなポケモンいたか?」

    「いませんよ。このトゲピーは、家にいるトゲキッスが持ってたタマゴから生まれたんです」

    「そういうことか。ま、いるならなんだって構わん。フォレトス、じしん攻撃」

     俺はすぐさま勝負に出た。フォレトスは軽く飛び上がると、大地に全力でタックル。そこからトゲピー目がけて地割れが起こった。その衝撃でトゲピーは転ぶ。もっとも、この程度で沈む程やわな耐久でないことは分かっている。それはイスムカも同じなようで、彼は緊張しながらも声に力を込めた。

    「負けるなトゲピー、だいもんじだ!」

     トゲピーは、イスムカの期待に応えんとばかりに両手を前に突き出し、口から火の玉を発射。火の玉はすぐに大の字となり、フォレトスに襲いかかる。フォレトスはしばし火だるまとなったが、なんとかしのいだ。俺は冷や汗を滴らせながらも胸を張る。

    「ぐ、だいもんじたあ派手にやってくれるじゃねえか。だが残念、さすがのフォレトスもこの程度の攻撃は……こ、これは!」

    俺はうなった。なぜなら、耐えたはずのフォレトスが飴玉のように転がってしまったからだ。まさか、この俺が素人に不覚を取ろうとは……。

    「フォレトスが倒れています! トゲピーの勝ちですわ!」

    「ふうー、危なかった。特性『てんのめぐみ』で火傷にできなかったら負けてました」

     イスムカは額の汗を拭った。ま、こんなこともあるよな。気にしても仕方ない。俺は次のボールを懐から取り出し、こう言うのであった。

    「……ふん、運には恵まれているようだな。それが吉と出るか凶と出るか、見物だぜ。さあて、気を抜くなよ。勝負はまだまだこれからだ」



    ・次回予告

    今日は久方ぶりの休日だ。だが、ただ休むのは大層愚か故に立ち読みでもすることにした。そのつもりだったのだが……。次回、第24話「休日なんて無かった」。俺の明日は俺が決める。


    ・あつあ通信vol.89

    今日は久々の対戦回。ダメージ計算は全員レベル50の6V。ただしハスボーはめざぱの都合上攻撃特攻素早がU。キノココは陽気無振り、エレブーはせっかち無振り、フォレトスは陽気攻撃素早252振り、ハスボーは控えめ無振り、トゲピーは図太い無振り。キノココはエレブーの10万ボルトとボルトチェンジを確定で耐えます。しかしむしくいにはやられます。ハスボーも確定1発。一方トゲピーの大文字はフォレトスでもタネばくだんのダメージ込みで耐えられるものの、火傷ダメージ込みだとギリギリ確定1発にできます。


    あつあ通信vol.89、編者あつあつおでん


      [No.1011] 3話  角飾り(後編) 投稿者:銀波オルカ   投稿日:2012/07/12(Thu) 22:07:56     47clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

      ※ 一部、生物に対する残酷な描写が含まれます。苦手な方はご注意下さい?




     日がとっぷりと沈んで、紫がかった夕闇が空を覆っていた。

     パチパチと音を立てながら輝く松明を、疲れた様子で眺める女性。黒いショートカットの髪、一見ラフなスタイルでよく動き回りそうな若い彼女は、実はポケモンの研究クラブに所属する立派な研究員。しかし白衣でも着ていない限り、人に言ってもあまり信じてもらえそうに無い。
     彼女は数日前から、ある理由でこの村に滞在しているのだった。

     彼女、カナメ(本名:黒島 要)の在するクラブの研究テーマは、“ポケモンの予知能力について”。現在最新の技術で研究を進めても、ポケモンには本当に未知の部分が多い。そのうち、例えば時間を超えて攻撃する『みらいよち』等の技、人や物、自然環境に起こりうる事へ対しての察知。そういうものが、おおかた研究対象にされていた。
     そして、彼女がこの村を訪れた理由。それは、災いポケモン“アブソル”に関する祭りを見るためである。いや、祭りというよりは“儀式”といった方が正しいかも知れなかった。少なくとも、おめでたい類のものでは無い。少々、見ていられる自信が無くなってくるのを自分で感じていた。

     一気に暗くなって、物々しい雰囲気が村には立ち込めてきたところだ。それはざわめく村人たちが発しているのか、はたまた黒い塊と化した木々がそう見せているのかは分からない。

    「おい、本当に大丈夫かクロシマ? 見てられなくなったら無理すんなよ?」
     同僚の一人が彼女に声を掛けた。それもそのはず、日々意気込んで研究に没頭し、そのうえ自然へも出向く行動力を持ち合わせたカナメは、疲れた姿を普段滅多に見せる事が無かったからだ。

    「疲れてるだけだから、大丈夫だって」

     アブソルが捕まったので儀式を執り行うという連絡が入り、研究クラブの数人で約一日かかって交通の便の悪いこの村へ急いで来たのだ。疲れていないほうがおかしい。
     そこまでして来たのだから、できればしっかりと見、参考にして帰りたい。カナメは一人ぼーっとそんな事を考えていた所だった。

     突如、人ごみのざわめきが強まったのを聞き、視線を移した彼らの目にまず映ったのは、白と黒の物体。


     白い物体、と見えたのは、“毛皮”、そして“骨”。すでに焼かれ洗われ、闇に浮かぶような白さのそれは、丁度四足で歩くポケモン一頭分ほどの量と大きさで、木で作られた机の上に乗せられている。机の下には、薪がすでに置かれていた。

     黒い物体は一つだけ、村長が抱えていた。長く湾曲した、やや薄く黒い角。まさしく災いポケモンの持つそれだった。


     突如目に入ってきたあまりにも衝撃的すぎる光景を、研究員一同は言葉を失ったまま凝視していた。
     毛皮も骨も、ポケモンを研究する上で彼らの誰もがもちろん一度は目にした事がある。ここに置かれた物はしかし、彼らの目には違う物の様に映ったことだろう。

     骨格標本でも、剥製でも、インテリアでもない、骨と毛皮。これから炎に焼かれようとしている、忌み嫌われ、捕らえられて殺された者の抜け殻――
     もう魂も宿っていない抜け殻でさえも、炎で跡形も無く燃やし尽くしてしまう。なんと残酷なのだろう。
     何か、古風な口調で、詩のようなものが唄われているのが聞こえた。とりあえずビデオカメラで撮っている人がいるから、後からでも調べられるだろう――そんな事が、もう何も考えられなくなったカナメの頭にすっと上った。

     そして村長が、持っていた黒光りする角を高々と掲げると同時に紅い炎がボウッと燃え上がる。

     パチパチと音を立てる炎が、カナメ達の目にはやけに美しく映った。何故だかは誰も知らない。
     ああ、燃やされて、焼かれておしまいだ、よかったね。後ろの方で、誰かがそんな事を言っていたのが耳に入った。

     村長が持っている角だけは、燃やさずに取っておき、村の御社に飾るのだそうだ。カナメはこの村に来る前にインターネットで調べた事を思い出した。


     *


    (『アブソル』って、“災いを呼ぶポケモン”なんだ……。)

     燃える炎を眺めながら、ナツキの意識はついさっきの記憶に飛んでいた。
     白くて、長く黒い角を持ったフウ達は、アブソルというポケモンなのだそうだ。隣に居る祖母が、儀式の直前に話した事が何度も何度も耳の奥に蘇る。

     ――アブソルってのはね、災いを呼んでくるポケモンだよ。
     だからこうやってね、見つけたら退治するのさ。
     なっちゃんも、山に行く時は気を付けなさいね。最近はほとんど見ないって言うからおばあちゃん安心して言わなかったけど、見つけたらすぐ大人に知らせなさい。


     なら、私にもいつか災いが来るのだろうか?
     それは怖い。
     大人に正直に言った方が良いのだろうか。

     でも、フウは私が迷子になった時、助けてくれたよね。

    (フウは、私の友達……)

     声も分かるくらいの。
     もし見つかったら、フウは殺されて、あんなふうに毛皮と骨にされて、燃やされる。
     友達が殺されてみんなの前で燃やされるなんて嫌だ。

    (…でも、フウは私に何も言わなかった)


     隠していたの?

     言いたくなかったの?

     それとも、大人の人たちは間違っているの?


     それだけをナツキは今すぐフウに聞きに行きたかった。



    【次回予告】
     ナツキは昨晩見た壮絶な光景、知った事実がまだ信じきれない……。
     揺れる心のまま、山へと足を運ぶ少女の思いやいかに。



    ―――――
     やっと新キャラ登場。もう執筆ペースについては何も言わないで置こうか…。
     ちまちま、本当にちまちまと書いてます。それでも読んでくださる皆さんに本当に感謝です。

    【好きにしていいのよ】


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