マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  •   [No.240] これは伸びる 投稿者:あつあつおでん   投稿日:2011/03/20(Sun) 17:49:43     49clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


     タイトルの陽気な匂いに誘われて閲覧してみたら、盛大に吹きましたw
     私の作品の主人公もいい加減な理由で旅をしていますが、トウヤ君のそれは潔いくらい適当だと思います。ただ、それだけに成長が楽しみでもありますよね。

     連載板にはこのようなお笑い要素を含んだ作品が少ないので、是非とも続きが見てみたいです。きっと良い作品になりますよ!


      [No.239] タイトルがすでにホイホイ 投稿者:No.017   投稿日:2011/03/20(Sun) 14:47:51     47clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    とりあえずタイトルに釣られて呼んだ。
    トゥートゥーが出てくるのはいつですかw


    【追記】
    ん? もしかしてトウヤ・トウコのトウ?


      [No.238] 感想がついた驚きにハートブレイクしました。 投稿者:CoCo   投稿日:2011/03/20(Sun) 14:05:31     47clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     
     巳佑さん、感想ありがとうございます。
     シラケた空気になるつもり満々だったので、

    > 「おもしれぇぇぇ!!!!」

     嬉しさと驚きでハートブレイクしています。ありがとうございます。

    > 夜中に騒いで申し訳ありません……でも、トウヤ君に一言、叫んでいいですか?
    > 「(自分は弱者で説得力ないですが)ポケモンなめるなよ!!!!」
     うちのトウヤくんは人や物事をなめるのが趣味みたいです。

    > 腹筋に刺激がいきました。タイトルだけでもインパクト大でしたのに、内容までインパクト大!
     全て勢いです。

    > この先トウヤ君は大丈夫なのでしょうか?
     大丈夫です。

     続きを楽しみに……だと……
     まさかのお言葉をいただいてしまったので、続きも頑張ってみようかと思います。
     御一読ありがとうございました!
     


      [No.237] トウヤ君の勢いにハートブレイクしました。 投稿者:巳佑   投稿日:2011/03/20(Sun) 03:48:52     47clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    夜分遅く、失礼します……巳佑という者です。まず、作品に一言、叫んでいいですか?
    「おもしれぇぇぇ!!!!」

    夜中に騒いで申し訳ありません……でも、トウヤ君に一言、叫んでいいですか?
    「(自分は弱者で説得力ないですが)ポケモンなめるなよ!!!!」

    腹筋に刺激がいきました。タイトルだけでもインパクト大でしたのに、内容までインパクト大!
    そしてトウヤ君のポケモントレーナーになりたい動機が……まぁ、気持ちは分かるような分からないような。(汗)
    この先トウヤ君は大丈夫なのでしょうか? なんかチャンピオンになる為にあの手この手を使いそうな予感がしまして……でも、トウヤ君に謎の期待をしている自分がここにいます。(笑)



    続きを楽しみに待ってます。


    乱文失礼しました。(汗)


    【チャレン君やベルさんの登場も楽しみにしてます】


      [No.236] 夢みるトウトウ☆ハートブレイク 投稿者:CoCo   投稿日:2011/03/20(Sun) 02:55:44     73clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     

     ――そうだ、ポケモンマスターになろう。

     絶対なろう。何がなんでもなろう。どんな手を使ってでもなろう。最悪試合前にチャンピオンや四天王の皆さんが使われる水道に下剤を混ぜて猛烈な便意をもよおさせておきながらなおかつバトルを断れないような状況を作ってでもなろう。
     いいんだ俺はチェレンと違って強くなりたいわけじゃない。ポケモンマスター、イッシュの頂点、それで足りなければ全世界のポケモンバトルのカリスマ、その称号だけあればいい。
     実を言うと、そこまでポケモンが好きなわけでもない。実を言うと。進学が面倒だから旅には出ようと思っていたけど、まあ適当にポケセンで寝泊りしながらバトったりなんだり好きにやっちゃえばいいかなと思っていた。
     しかし、もはや事情が違うのだ。

    「トウコってさ、彼氏とかつくらないの?」
     ↑この一言を言うだけでもどれだけの度胸を掻き集めたことか。

    「うーん、もう好きな人いるんよねー」
     ↑そしてこの一言にどれだけの衝撃を受けたことか(しかし後に「実はトウヤなんだー」って続いたりしないかなあと一握りの期待を持っていたためまだ石にはならなかった)。

    「えっ、誰」
    「なに、知りたいの」
    「いっ、いや、ちょっと気になるけどさ」
    「聞いてもばかにしないでよ?」
    「うん」
    「……チャンピオン」

     は? 何の?
     って聞くじゃん。聞くよね。普通聞くよね。

    「いまは……プロレスかなぁ」

     彼女はまったく素直な顔で言った。

    「プロレス……? いまは?」
    「うん。このあいだのマキシマム仮面戦で勝ってたゴッド沢村さん」
     知らない。
    「強い人が好きなんだよねー。チャンピオンとか。いろいろ勝ち抜いて一番になるってすごくない。かっこいいよねー」

     ものすごい衝撃を受けた。
     頑張るのも勝ちに行くのも面倒だし大変だし辛いしがっついてもみっともないから常に「まずまず」のランクに掴まっていられるよう、それなりの努力とそれなりのサボタージュを掲げてきた自分を一気に否定されたような、というかそういう人タイプじゃないわって言われたような。……いやいやぁ、あくまで好きっつっても憧れレベルなわけだしさぁ、何ら気にする必要は……でも「彼氏」っつって振って「チャンピオン」だよな、つまりどういうこと? まずまずに甘んじてるような男には興味ありませんってこと?

    「だからさー、格闘技でも、スポーツでも、ポケモンでもやっぱりチャンピオンだよ」
     俺は半分息をしていなかったので、後に続くトウコの「チャンピオン語り」はほぼ耳から耳へ抜けていってしまった。が、ぎりぎりで鼓膜に引っかかった「カントーのすごいポケモントレーナー」の話だけがやや記憶に残った。チャンピオンを倒しながらもさらなる高みを目指して連盟への参加を断った少年がいるらしいと。それを彼女は「とても素敵だ」と言ったような気がする。
     そして、それぐらいなら出来るんじゃないかと、閃いた。
     正直言って運動は苦手中の苦手である。恥さらし必須の運動会では一週間前から欠かさず雨乞いをする(テニス部に所属していたトウコが短距離走を難なくこなしているなか、みっともなく同級生に抜かされていく自分の姿を彼女に晒すのはものすごく苦痛だった)。勉強も頑張れば少しは違うのかもしれないが、頑張る才能というやつが俺にはないのだ。続かない。
     しかしポケモンならば?
     つまり強いポケモンを捕まえて、そいつを鍛えるだけで、自分はなんら身体を鍛えたり脳を酷使したりする必要はないのだ。なんてラクチンなんだポケモントレーナー、将来は絶対ポケモントレーナーになろうとは前々から思っていたが、先日の適正診断で担任に「ポケモンと息が合っていて素晴しい。トレーナーの素質があるよ」と言われ、実際に模擬戦でも好成績を収めた俺ならば死ぬ気で頑張ってなおかついろいろ……いろいろすれば、チャンピオンを倒すくらいなんとかなるかもしれない。リーグ常設の勝ち抜き戦中継なんか見ても、わりとぎりぎりまで四天王倒してる奴多いし。まだチャンピオンを拝めた奴は見たことがないが、四天王戦なんかもよくよく見てみればポカミスとかで落ちるのばっかりだし、あれなら俺でもいけるかもしれない。少なくとも今まで見た中では、そんなに強いトレーナーって居なかった。どいつもポケモンといちゃいちゃしてるだけ。あの様子ならぜったい俺のほうがバトル強くなれる。
     とりあえず、ポケモンならイケる。ポケモンマスターになろう。そう思った。
     彼女に告白するのはその後にしよう。そうだ、チャンピオンを倒した後、インタビューとかで「彼女にこの勝利を捧げます(キリッ」とか言うのも……いやいや、さすがに痛いか。チェレンじゃあるまいし。
     ともかく全ては明日だ。明日トウコの家に送られてくるポケモンを貰って、トレーナーになる。そしてもう学校に行くことも宿題に追われることもなく自由に旅をして、ジムリーダーぶっ倒しまくるんだ……。


    【夢みるトウトウ☆ハートブレイク】


     そんなことを考えていたらなかなか眠れず、いつの間にか布団で時間が過ぎていた気がする。
     せいか。寝坊した。
     ぬくぬくと暖かい布団の中からみょうに明るく感じる部屋を見回し、ねみーとか思いながら身体をむくり起こして、何者かの手によって止められている目覚まし時計を見る。
     10:34。集合時刻は9:00。
     うん。過ぎてる(笑)。
     ……笑えねえよ! えっなにお母さん起こしてくれなかったの!? 普段口うるせえくせに大事なときに使えないな畜生! 着替え! 顔! 朝飯! うわああああああああああ



    ***
    【描いてもいいのよ】
    【批評していいのよ】


     注意書き。
    *原作のキャラクター(主人公、チェレン、ベルなど)が作者のたいへんな曲解を受けて登場します。
    *調理済みのポケモンが食卓に出されます。
    *登場人物による品のない発言がたびたびございます。
    *作者は連載ものを五話以上続けられた経験が生涯通してたった一回しかございません。
    *それもそのはず、基本的に見切り発車で今後の展開とかほとんど考えていません。
    *黒い雨? ああ、そんなものも降ったね。
    *早くも二の舞を踏みそうなかほりがします。

     暇つぶしにホワイトを最初からやり直した結果、このような事態を招いてしまったことをたいへん遺憾に思います。
     読んでしまったみなさま、本当に申し訳ございません。
     勢いでやった。今は後悔している。しかし公開している……。

     とりあえずまずは五話書けるように、頑張ります。
     


      [No.235] Re: 感想です 投稿者:リナ   投稿日:2011/03/19(Sat) 15:47:46     51clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     はじめまして、ふにょんさん。

     お読みいただいてありがとうございます。
     「あからさますぎるかな」と思いながら張った伏線でしたが……お褒めの言葉、うれしいですw

     今後ともよろしくお願い致します(^^)


      [No.234] 投稿者:夜梨トロ   投稿日:2011/03/19(Sat) 12:44:37     57clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


     二



     僕がおじさんを呼びにいってから約一時間ほどしただろうか。おじさんは風の如く素早くあの生き物の元へ向かうと、せっせと治療を始めた。普段のおっとりとした立ち居振る舞いからは考えられないくらい俊敏な動きだった。薬草などを使って怪我を治しているその様子を僕は途中から見ていられず、寝るふりをして背を向けていた。
     雨は止み、木の葉から雨粒が垂れる昼過ぎ。千切れたような雲の向こうに青空が見える。激しいにわか雨だったなと僕はその空を何となく視界にとらえて虹の在り処を探してみる。けれど七色の橋はその欠片も見えず、高い上空にあるのは雨上がり独特の鮮やかな青色と未だ残る灰色だけ。
     湿った空気が漂う中で、おじさんが僕の真上に顔を覗かせた。それは治療が終わったことを示しているのだろうか、僕は再び立ち上がって振り向く。御神木の根元に身体を委ねる巨体。地面には未だに血が残っていることに僕は縮こまりながらも、まだ出血していないところを確認し安堵する。荒い呼吸も落ち着いて、今は安心して眠っているのだろうか。ほんの少しだけ開いた口から小さな吐息が漏れている。
     半径一メートル以内はまるで見えない壁が張られているかのように、僕はそれ以上近づくことができなかった。足が震えてそれ以上進めない。不安と恐怖が行くなと囁いている。
    「坊、お手柄だったわね」
     おじさんはそう言うと大きな丸い手で僕の頭をそっと撫でた。
    「もう少し遅かったら出血しすぎて間に合わなかったかもしれないもの。それにしてもすごい怪我だったわ。一体何をしてこんなことになったのかしら」
     不思議そうに生き物を見つめるおじさん。こうして並んでみるとやはりおじさんよりもずっと大きい生き物であることが一目瞭然である。今は寝そべっているが、立っている時の迫力を思い出すと今でも震撼する。
     生き物を身を乗り出すように見つめていた僕の背中をおじさんは突然押した。僕は少しよろけて半径一メートル内のその領域に踏み込んだ。当然だが何も起きない。震える足を自分で励ましながら僕は近付く。
     そうすると目を閉じていた目の前の生き物の瞳が見え、僕の足は思わずかたく凍りついてしまった。その黒く大きな瞳が僕の姿をとらえる。
    「……な、なんだよ」
     僕は強がりつつそう呟く。思っていたより小さい声で、もじもじと怖がっているようにしかこれじゃあ聞こえないだろう。その時頭に強烈なげんこつが入り、思わず僕は悲鳴をあげその場に潰れるように座り込む。殴ってきたのは勿論おじさん。
    「ごめんなさいね。怪我は一応吐血ほどはしといたけどしばらくは動かないでくださいね。また血が出たら大変だから」
    「ああ……感謝します」
     僕は頭を抑え涙を堪えながら、その生き物から出てきた声に目を丸くする。その大きな巨体からは考えられないほど小さく、掠れた声だった。僕のさっきの呟きと左程変わらない声量である。声が小さいのはまだスルーできても声の掠れ具合は異常だ。風邪でもひいて喉が潰れているのだろうか。
     少し身体を震わせすぐに痛みに倒れるオレンジの獣。おじさんの忠告を無視して動こうとしたのだ。
    「あなた、どこから来たの? この森に住民じゃあないでしょう?」
     おじさんの問いに少し獣は目を逸らし、しばらく沈黙が流れる。どうしてすぐに答えないのだろう。しかしそのうちその口が開いた。
    「ずっと遠く……海を越えた向こうから……」
    「うみ?」
     僕は思わず聞き返した。彼の掠れ声への心配は虚空に消え、聞いたことの無い単語に僕は興味が向く。ただ相手は“うみ”という単語自体に反応していると気付いていないのだろうか、こくりと頷いただけで話を続ける。
    「いつだったからかこの地方にやってきて、しかし突然捕えられ、今は逃げてここまでやってきた。その途中に崖から落ちてしまった、だから怪我を負ってしまった」
    「崖ってこの近くにあるあの崖? 落ちてよくここまで歩いて来れたわね。頑丈な身体ね」
    「そんなことは無い。結局このざまだからな。……本当は海を越えて戻るべき所に戻りたいが、それは叶いそうにない」
    「海ねえ。それは難しいわね。むしろどうやって海を越えてきたのか、そっちの方が疑問だわ」
     おじさんも“うみ”を知ってるのか。一体何なんだろう“うみ”って。後で聞いたら答えてくれるかな。
     獣は黙ったまま答えない。答えたくないのだろうか。沈黙の後、ウインディは下げていた頭を上げておじさんと相対する。
    「とにかく、助けて下さったのは有りがたい」
    「お礼ならこっちの坊やに言って下さい」
    「ありがとう、ええっと……」
     獣はこちらを真っ直ぐ見つめてくる。
    「名前は何というんだ」
    「名前? 名前なんて別に無いよ」
    「え?」
     オレンジの獣は首をかしげる。そんなにおかしいことだろうか、僕は僕だし、おじさんはおじさん、お母さんはお母さん。それ以外に何があるというのだろうか。
     しかしその後獣は何かを考えるように顔を俯かせて、勝手に一人頷いた。
    「ここの者達は名前など無くてもなんとかなる、というわけか。ふむ」
     何だか馬鹿にされたような気がして、僕はむっと顔をしかめる。
    「じゃああんたは名前があるのかよ」
     意地を張ってそう言うと、おじさんがまた頭を叩いてきた。といっても先程よりも随分優しい威力だったけど。
     獣は少し微笑む。微笑んだその瞬間の生温かい息すらも大きく僕に吹きかかる。少し強い風が吹いたように僕の毛が揺れた。いや、それよりもその微笑んだ表情の柔らかさに僕は驚かされ、印象深く頭の中に残る。
    「ウインディと呼ばれていた」
     溜息をつくように自然と零れてきた言葉は、噛みしめるように籠った声。
    「だからそれが私の名前なのだろう。ウインディと呼んでくれ」
     ウインディ。
     僕はそれを心の中で再び呟いた。それは、他と個を区別するために生まれた言葉。何故だろう、不思議な響きを携えている気がした。僕には無いその名前を、彼は嬉しそうに呼んでくれと話す。僕には無いものを彼は持っている。それは、獣が森の外の世界から来た生き物であることの象徴だった。



     ウインディがやってきたという話は瞬く間に森中に広がり、数刻後には彼の周りは森の皆の姿で埋もれていた。それを僕は遠くから呆然と見詰めていた。興味に目を輝かせた子供がその中の大半で、外からじゃあ様子が殆ど見えないほど沢山居る。おじさんが傍に控えて、怪我が悪化しないか心配しているのがわかる。基本的に安静しなきゃいけないだろうに、周りがこれだけ騒いでいては安静になんてしていられないだろう。まあ、別に僕には関係無い話だけどさ。
     軽く溜息をついた後つまらなくなって上を見上げる。御神木の葉がさわさわと揺れ、その向こうからやってくる木漏れ日がちかちかと光る。先程までの雨は一体なんだったというのか、不思議に思えるほど爽やかで晴れ晴れとしている。空も森の皆のようにから元気にはしゃいでいるようだ。うるさいくらい眩しいんだ。
     耳を立てると様々な黄色い声が飛び交っているのが分かって、聞き取ってみる。大きいなとかすごいねとか、そんな感じ。確かにその言葉に偽りは無く実際とてつもなく大きい。多分森にいる生き物の誰よりも遥かに大きいと思う。けれど何だかそれは僕にとってとてもつまらなく感じられる。突然やってきて森で一番大きな存在になるだなんて、つまんない。なんだか心に針がちょいちょいと刺さる様に痛く感じる。
     ああなんだか、気持ち悪い苛立ちだ。
     いっそ寝てしまえばこの沈んだ心も何となく癒されるだろうか。つまらない時間を起きたまま呆然としているより、眠ってしまった方が有意義なのかな。そうだ、眠ってしまおう。聞こえてくる声を子守唄に変えてしまおう。目をすっと閉じて暗闇の中に潜りこむ。小さい体を更に縮こまらせる。意外と疲れていたのかな、白い雲のようなふわふわした眠気は案外簡単に僕を包み込んでいった。


     おっきいねえ。おっきいなあ。
     すごいねえ。すごいなあ。
     ああそうだ、なんて大きいのだろう。僕の記憶の中のお母さんよりもずっと大きいんだ。でも僕はそれをつまらないと必死に心の中で訴える。


     目をまた開くと僕は小さな影の中にいて、すぐにおじさんの傘の中にいるのだと分かった。何か夢を見ていたような気がするのに、内容は何も覚えていない。何も見ていなかったのかもしれない。あやふやな中でゆっくりと身体を起こす。頭が働かず状況を理解するのに少し時間を要した。森は少しだけオレンジ色に染まっていて、静けさを携えた柔らかな時間帯へと移り変わろうとしていた。
     そういえばやけに静かだ。僕はそっと顔を上げると、あのオレンジの獣が同じ場所で身体を横にしていた。周りに群がっていた森の皆の姿は何時の間にやら消えていて、この周りの空間にいるのは僕とおじさんとあの獣だけになっている。ふと僕は頭上に視線をやると、おじさんは目を閉じて一人眠っていた。おじさんを起こさないように忍び足でその場を離れ、傘の下からゆっくりと抜け出す。恐る恐るおじさんの表情を伺ってみるとどうも気が付いていないようで、ほっと胸をなでおろす。
     夕日の輝きが僕を照らし、少し長くて大きな影が僕の足元から伸びる。
     オレンジの獣もおじさんと同じく目を瞑っている。寝ているのだろうか。
     ウインディ、と僕は心の中で呟いた。ウインディというその言葉の羅列はまるで何かの魔法の呪文のように思える。それを口にすると、何かが変わってしまうようなそんな予感が僕の中をよぎる。だから僕はそれを声に出さずに、心の中で唱えた。
     息を止めてなるべく物音を立てないよう慎重に御神木の元へと歩み寄る。息が詰まりそうなほどぴんと張ったような空気の上から、何かの鳥が飛び立ったような音が聞こえてきた。
     その時、分厚い毛の下の黒く大きな瞳が姿を現した。すぐにウインディは僕の姿を捉える。また僕は金縛りにあったように動けなくなる。ウインディは倒していた身体を時間をかけて起こして、立ちあがるまではいかずも身を御神木に寄りかける。それだけで僕にとっては言い知れない巨大な迫力が襲いかかってくる。
    「よく眠っていたな」
     変わらない掠れ声が耳を掻く。
    「べ、別にいいだろ、寝てても」
     僕はせめてもの足掻きのように声を籠らせる。これだけでなんだか自分が本当に小さい存在だと思い知らされて心が締め付けられる。
    「改めて感謝をするよ。君が助けてくれたんだろう」
    「……別に、いいよ、それくらいのこと」
    「そう言うな。おかげで一命をとりとめたんだ、本当に感謝しているよ」
     僕は何だか居たたまれなくなって顔を伏せる。急に恥ずかしくなってきてこの場から逃げ出したくなる。なんだろうこの気持ち、胸のあたりがむず痒くてしょうがない。僕よりずっと大きくて力がありそうな生き物がこうも軽々頭を下げるなんて、こっちは一体どういう表情をしたらいいんだよ。
     しばらく沈黙が続いて、なんともいえない空気で満たされる。何か言葉を発したくなるけど何も出てこなくて、あっちから何か話しかけてくれたらいいのになんて考えていた。きっとおじさんなら何の気兼ねも無く様々な話を持ちかけるだろうけど、生憎今の僕にそこまで余裕は無くて、いっそここから逃げ出そうかと思うのに足は固まっている。
     遠くで誰かの声がする。それは親を呼ぶ子供の声だとすぐに分かった。
    「この森はとても良い場所だ」
     唐突にウインディは話を始める。
    「まだここに来て一日も過ぎていないが、優しさと活気に溢れている。心が落ち着く」
    「……あんなに囲まれて、騒がれてたのに?」
     僕は不思議になって思わず疑問を投げかける。
    「ああ。怪我を負ったこの身体には少し負担かもしれないが、気持ちは幾分と楽になった。しんみりと同情されるよりは、騒がれた方が気は楽だ」
    「ふうん」
     そんなものなんだろうか。よく分からないや。
    「色々とあって、無気力でひたすら歩いていたからな。身体だけ動いていて、そこに意志など無い。ただ、歩いていた。そんな状態のおかげで怪我を負ってしまったのは反省すべき点か」
     最後の一フレーズに自分で少し笑うその表情はなんだかその巨大な図体とは合わないような気がした。けれどかえって僕の心は少し緩んで、つられるようにしていつの間にか笑いがこみあげてきていた。
     ふふ、と無意識に僕が笑うとウインディもはは、と笑う。なんでか分かんないけど笑えてきて、それは止まらなかった。ウインディも僕も小さい声しか出ないけど、その表情は満面一杯に笑みが広がっていた。なんで、どうしてはもうどうでもよくなっていた。
     そうして笑うと、僕の中にあったウインディに対する震えるような警戒心とか恐怖心とか、そんな感情が少しだけひいていくのが自分でも分かった。そして、昼間に親しまれていた理由がほんのちょっとだけ理解できたような気がした。
     けれど意味の分からない笑いの連鎖もそのうちには途切れる。また互いに次の言葉を待つ緊張を持った雰囲気が生まれる。
     オレンジ色の空を、沢山の鳥ポケモン達が群れを成して滑っていくのが目に入った。
    「空、好きなのか?」
     素朴な尋ねごとに僕ははっとして慌てるように下を向く。込み上げる小さな恥ずかしさで頬がほんのりと熱くなる。
    「別に、好きっていうわけじゃあないけど」
    「でもよく空を見上げているね。昼間だってよくそうして見ていた」
     あんなに周りが混み合っている状態で僕の姿を見ていたのだろうか。なんだか全てにおいて見通されているような、自然と喉が渇くような変な感覚が僕に降りかかる。
    「癖だよ、ただの」
    「癖?」
    「……おじさんが空が好きだから、僕も癖になっちゃったんだ」
     適当に言い訳のようにつらつらと出てきた言葉だけど、決して嘘ではない。おじさんは森の中でけっこうロマンチストで、ふと空を見上げては例え話を思いついて僕に話してくれる。雲の形であったり空の青さであったり、太陽の光の強さであったり星の瞬き具合であったり、様々な空の表情を色鮮やかな表現で僕に教えてくれた。そこからおじさん作の物語が生まれたりする。一番最近で言えば黒い流星の話。三日月を空に浮かぶ揺り籠と言ったり、星の煌めきを星達が話をしているようだと話したこともあった。不思議と納得させられることも多々ある。そんな感じの話を小さい頃から聞いてきて、おじさんの傍で共に空を見てきたからか、僕も無意識によく空を見上げている。さすがにそこから詩的に何か発言することはできないけど。恥ずかしいしそれ以前に思いつかないから。
     ふむ、とウインディは頷いておじさんの方を向く。僕もつられてそちらを見る。相変わらず目を閉じたまま、気持ちよさそうに眠りの世界に入っている。どんな夢を見ているのかな。きっと、僕は見た事の無いようなロマンチックな夢をおじさんはいつも見ているんじゃないかな。
     無限に広がるおじさんの中の世界観は綺麗で羨ましくて楽しかった。だから僕はおじさんが大好きだった。
    「なんだか彼を見ていると、こちらまで眠くなりそうだ」
     そう言った後にウインディは大きな欠伸を見せた。いくつも並ぶ巨大な歯が姿を見せ、赤黒い喉も露わになる。何もかも僕とは比較にならないくらい大きくて、呆然としてしまう。
     それは僕にも伝染して、ウインディの口が閉じられた頃僕は弱弱しいほど小さな口をぱっくりと開けて欠伸をする。でも実際そんなに眠くはない。なんとなくの欠伸だ。だって昼間から夕方までであれだけ寝たんだもの。
     ウインディは少しもぞりと身体を動かし、頭を倒す。その目は細く、今にも閉じてしまいそうだ。
     僕はもう一歩、また一歩とウインディに近づいてみる。ゆっくり、ゆっくりと歩み出す度に、僕の中で緊張が膨らむ。けれど何も起こらない。目の前の獣は今、普通に生き物の意欲に従って睡眠につこうとしているだけ。僕と、おじさんとさほど変わらないように感じられた。
     目と鼻の先の距離までやってきた時、ウインディはそっと笑ってみせた。

     こんなにも大きな身体をしているのに、目の前で無防備に静かに眠ろうとしている。風の如く突然ここにやってきて、なのに自然と溶け込んでいる理由は彼の大らかな性格にあるのだろう。
     目に見えるものだけが全てではないのかもしれない。

     また、うみのことを尋ねてみようか。
     僕はそんなことを考えながら、ウインディの穏やかな顔を見つめていた。


      [No.233] 報告感謝 投稿者:No.017   投稿日:2011/03/17(Thu) 20:21:07     34clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    うわあああああ、HPで指摘されてたけどこっちもか……
    報告ありがとうございます。

    素で気がついていませんでした。


    >  野の火、いつも楽しみに読ませていただいております。印刷して読んでいます(

    いん、さつ……?

    いつも楽しみだなんてうれしいこといってくれるじゃないの(


    >  ついにクライマックスということで、二十話の次回更新が待ち遠しいです。
    >  こんな時勢ですが、ゆっくりと書いていただければと思います。軒下で飽咋を数えながらお待ちしておりますので。

    現代パートの断片断片はちょくちょく出来てるんですが、
    どうやら古代パートに苦手意識があるらしく(
    しかし一番の問題はやはり(ry

    書いてみてはじめて「お前こういう話だったのか」とわかることがあります。
    そして伸びます。
    二十話いっちゃうかなーなんて言ってたら本当にいきやがったよ。どうしてくれるんだよ。
    すべてが収束するのにもう少し時間かかりますが、きっと終わらせます。

    メッセージありがとう


      [No.232] Re: (十八)策略 へご報告 投稿者:CoCo   投稿日:2011/03/17(Thu) 18:45:21     30clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     

     読み返して気がつきましたが、こちら、コピペの失敗でしょうか、本文が二重に投稿されております。
     やけにページが重かったので、ご報告をば。

     野の火、いつも楽しみに読ませていただいております。印刷して読んでいます(
     ついにクライマックスということで、二十話の次回更新が待ち遠しいです。
     こんな時勢ですが、ゆっくりと書いていただければと思います。軒下で飽咋を数えながらお待ちしておりますので。

     


      [No.231] (二十) (冒頭部のみ) 投稿者:No.017   投稿日:2011/03/17(Thu) 08:35:53     55clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    (二十)


    「一体、誰が……」

     ナナクサは困惑を口にした。
     神降ろしの儀。
     それは秘術、禁術の類である。
     一介の人間が見様見真似で出来ることでは無く、またそれを識る者が現代にいるのかも定かでは無かった。
     仮に名を識るものがいるとしよう。だが、よほどその道に通じている者でなければ。人の世の外を歩いているような蛇の道をゆく人間でなければ、儀式を実行することは出来ない。
     そんな者がこの村にいるだろうか、とナナクサは思う。

    「ありえない。一体いつ入りこんで、こんな……」

     別殿はセキュリティに守られている。
     下手に侵入を試みれば警報が鳴る。だからこそキクイチロウを捕まえて鍵を開いたのだ。
     何よりナナクサを驚愕させたのは張られた札の記述の正確さと材料だった。
     自身の血に類する何かで正確に記述された神文。
     こんな芸当をやってのける者がこの村の中にいる――いるのだろうか。
     すると、キクイチロウが言った。

    「お前がいなくなった前の夜、ここの警報が鳴った。あれはお前ではないのか」

     何日か前に鳴った警報。
     おそらく札を貼られたのはその時だ。
     キクイチロウはずっとナナクサを疑っていた。いや、ナナクサだろうと信じて疑わなかった。

    「違う。僕じゃない。僕はずっと山にいた」

     そう弁解をするとキクイチロウが吼えた。

    「お前でないなら誰だと言うんだ! お前のほかに九十九を復活させたい者がいるとでも言うのか!」
    「それは、」

     ナナクサは言葉に詰まった。
     だが、すぐ次の瞬間に理解した。
     いる。いるではないか。九十九を復活させたい者――雨降の敗北を望む者が。
     ずっとずっといたではないか。
     自身が丸め込んだ今年の九十九に挑んだ、明確な目的をもって九十九になろうとした者が。

    「ハハ……そうか。『あいつ』か」

     準備がいいものだ、とナナクサは苦笑した。
     そうだ、あの男は最初から誰をも頼ってはいなかったのだ。
     たまたま利害が一致しただけ。もとより一人で事を起こすつもりだったのだ。
     自身が"儀式"をこなす。ツキミヤコウスケが"舞台"をこなす。
     だが『あいつ』は儀式も舞台も一人でやろうとしていたのだ。

    「やられた、やられたよ。本当に、敵に回さなくてよかった」

     目的は定かでない。あの男が何のために妖狐の復活を望むのか。
     ただひとつはっきりしていること。それは不本意ながらも手間が省けたらしい、ということだった。

    「そこの畳を剥がしてくれないか」

     コノハナにナナクサは指示を下す。
     小人が二、三匹、畳に手をかけた。畳が二枚、三枚と引き剥がされてゆく。
     そこに現われたものを見て、ナナクサは困惑と喜びが混じった笑みを浮かべた。
     畳の下には札と同じ古代文字で描かれた円陣のような文様が記述されていた。
     
    「完璧だ。完璧だよ、ヒスイ」

     参ったなという具合でナナクサは唸った。

    「まったく、僕の立場がないじゃないか」

     そうして、すずりに残った黒い血を太い筆で吸い取り、付け足すようにして追加の記述を行った。
     しかしそれは、あえていうならば、こう記述する程度のものであった。
     余計な衝撃が外に漏れないようにする程度のもの。押さえるべきポイントは押さえられている。堰を切れば間違いなく動き出すだろう。

    「ふむ。これでいい」

     彼は円陣の外側にさらさらと記述を書き足すと、木の実をひとつ、コノハナから受け取って術の中心に据えた。
     その直ぐ後だった。円陣の文字がまるで熱を宿した炭のように赤く、赤く輝きだした。
     にわかに別殿の中が熱を帯びはじめた。

    「……始まった」

     赤い紅い炎の輝き。
     その光が足元からナナクサの顔を照らし、揺らめいた。




     石舞台を松明が照らし、翁の面と狐の面が対峙している。

    「雨の神を名乗りし者よ。うぬに問いたきことあり」

     脚本(ほん)にはないその台詞に、舞台を知る多くの村人はざわめいた。
     どういうことだ、何かが違う、どうなっている、と。
     あるものは目配せして、隣の反応を見たが、隣の反応のまた似たようなものだった。
     今年から演出が変わったのだろうか?
     なかにはそのように考える者もいて舞台演出のほうを見たが、彼女もまた困惑の表情を浮かべていた。
     面に隠された役者の表情は伺えない。
     脚本に無い台詞を吐いた狐の面からも、またそれを受けた翁の面からもそれを読み取ることが出来ないことが彼らの困惑を一層深める一因となった。
     狐面は続ける。

    「この土地の者は、何ゆえに雨を求める?」

     村人はその問いに少し安堵した。
     それは至極当たり前の問いであり、アドリブの一部であるように思われたからだ。
     
    「至極当然の事。田の稲穂育くみしは、田を満たす水なり。故にこの土地にありし者、雨を求めたり」

     即座に翁面が返した。
     とっさのアドリブだったが、それは彼にとって至極当たり前の答えだった。
     だが、妖狐は嗤った。その答えを嘲笑った。

    「奇しき事を申す。我、貴殿より旧き時よりこの地に在りし。しかれども、この地の田、水を得るに雨を求めたことは無し。見よ」

     狐面は扇である方向を指した。

    「この地には旧くから、水湛えた河流れ、土地潤したり」

     扇の指したその方向は河だった。
     岸辺近くに穴守家が料理を振舞った長屋のある、あの河。
     かつてシュウイチやタマエが共に魚を獲ったという河。
     六十五年前、野の火が現れたその時にシュウイチが村人達に石を投げられたのもこの河だった。

    「この地の者共、かの水を田に引き稲穂育みたり」

     妖狐が続ける。
     特訓の為に移動する時は決まって、ナナクサがこの土地のことを語ってきかせてきた。村を流れる河のこともその話題の一つだった。
     ナナクサは上流のほうを仰ぎ見て語っていた。
     村を囲う山々。それらが水を蓄え、この河に水を注ぎ込んでいる。特に重要なのはここから山一つ越えたところにある森だ。古の木々が根を降ろす森。この土地より高い場所に位置するその森に河の始まりがある。森から始まった小川はやがて川となり、険しい山の斜面の分け目から姿を現す頃には河となって、この土地に流れ着く。

    「この地を流れし河、この地を見下ろす山々の蓄えし水なり」

     河が血管だとするならば森はその心臓部。たとえ――

    「たとえ雨降らぬ年にも枯れることはなかりけり」

     妖狐の声が舞台に響き渡った。
     それは雨の神の存在意義に関わる問いだった。
     元来、水が豊かな地で雨の神にすがる必要は無い。妖狐はそう云ったのだ。
     偽物とはいえ、よく出来た脚本だ。面の内側で青年は思う。そうして狭い視界の向こう側にある翁の面の表情を伺った。

    「戯言を! 豊かなるこの地に悪しき火を撒き散らす。それが貴様だ」

     翁の面はそう言ってすぐに切り替えした。
     その声は怒りであるとか動揺のようなもので震えているように聞こえた。

    「我、悪しき火より田を守らん。我が雨の存在理由そこにあり」

     来た。青年は心中で呟いた。
     それこそが望んでいた台詞だった。

    「雨の神よ。あいわかった」

     この年の九十九は言った。
     炎のゆらめきで、狐面が笑ったように見えた。

    「ならば守ってみせよ。そなたが悪しき火というものから、見事、田を守ってみせよ。我とそなたと、真剣勝負といたそうぞ!」

     ざわりとどよめきが起こった。

    「真剣、勝負……?」
    「左様なり」

     雨の神に狐は即答する。

    「我、祭の数だけの戯れを繰り返したり。我が炎、雨に勝てぬは脚本(ほん)故なり。我が意に背きその脚本(ほん)をなぞりたるが故なり。我が敗北、我が意に背きし結果なり」

     妖狐は云った。あえて云ってはならぬことを。
     つまり、いつも負けているのは脚本のト書きに仕方なく従っているだけだ、と云っているのだ。貴様を勝たせてやっているのだ、と。
     それは暗黙の了解。誰もが知っているが口にはしない決まりごと。

    「聞け! 我が意思、我が言葉は操り人の筋を通したるが故なり! 我、炎の操り人の内より、今年の九十九となりし。ならばこそ我、水の操り人より選ばれし者と勝負欲すなり。我、操り人の筋を通したり!」

     それは悪意を持った明らかな挑発だった。
     だが……

    (手遅れだ)

     翁の面のその内側でトウイチロウは歯噛みした。
     今年の九十九は何かが違う。何かを仕掛けてくる。
     そんな予感を祖父は口にしていたし、トウイチロウ自身にも何か感じるところがあった。そしてその予感は、今まさに眼前にて現実となった。
     これは脚本を無視した無茶苦茶な主張だ。そんなことは言葉を発した九十九本人も分かっているだろう。だからこそ、新たな価値観を九十九は舞台に持ち込んだ。役者という基準でなく、操り人として、ポケモントレーナーとしての価値観を持ち込んだのだ。操り人として試合をさせてくれ。結果の決まった戯れではなく、本当の勝負を、と。
     無論、こんなことは許されない。許されていいはずが無い。だが……

    (手遅れだ。もはや道理を通しても、神の顔は立たぬ……!)

     言霊は放たれてしまった。言葉が放たれ耳に届いた時に、それは舞台の台詞となった。妖狐の言葉が音となって届いたその時に、そこには力が宿った。
     狭い視界の向こうで狐面の裂けた口が嗤っている。出方を伺っていた。
     脚本の記述に従えという道理。それは当然の主張と要求。
     けれどそれを口にしてしまったら、舞台は壊れる。雨の神の面目と神性は失われるだろう。
     村人のプライドとして、長の孫として、あるいは舞台の一員として、何よりも雨降として。
     それは避けなければならなかった。

    「よかろう!」

     雨の神は応えた。またどよめきが起こった。

    「我、数多の水の操り人より勝ち上がり、今年の神となりし。同様に貴殿、炎の操り人の内より勝ち出でて、今年の九十九となりし。ならば勝ち上がった者同士、ここで雌雄決するもまた筋なり!」

     キクイチロウは続けざまにそう言った。
     舞台の主役が応えることで、舞台の行き先は固まった。

    (手遅れだが、手遅れではない。むしろ……)

     演技でない勝負を受ける。そう決意を固めた時に妙な冷静さがキクイチロウの中に戻ってきた。ようするに勝てばいい。勝てばすべてが元通りなのだ。
     いや、むしろ真剣勝負で勝利すれば、神の神性と説得力は一層強まるに違いない。お堅い村の長老達にも、すべては今年の演出だったと説明すればいい。彼は自分にそう言い聞かせると、徐々に九十九との距離をとった。九十九が呼応して、それに習った。
     それが合図だった。

    「カメジロー!」
    「カゲボウズ!」

     上手下手に分かれた雨降と九十九は、まるで初めから示し合わせていたかのように互いの相棒の名を呼んだ。
     舞台の中央に、二本の砲台を背負う大きな亀、そして小さな闇色の人形ポケモンが躍り出た。










    (とりあえずここまで)
    (現代パートのバトルまで終わりましたが、途中が埋まってないのでとりあえずここまで)

    また原稿があるのでしばらく潜ります(


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