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  [No.120] 第16話「ロケット団の用心棒」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2010/12/12(Sun) 20:54:17   54clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「もしかして、あれがロケット団でしょうか?」

「そうみたいだな」

「うわ、あれはダサいな。まだダルマのほうがマシじゃねえの?」

「あのなあ……」

井戸の横穴を進むこと30歩、横穴はドーム状の空洞になっていた。地下の町と呼ぶに相応しい広さで、明らかに人の手で広げられたような跡が随所に見受けられる。また、人1人ほどの高さの崖が入り組んであり、奥へ続く道を形成している。そして言うまでもなく、井戸だけあって水溜まりがある。

 そんな井戸の内部を進み、崖を越え、右手の角を2回曲がった先に、黒服黒帽子の集団がたむろしている光景が見られた。

「むむ、誰だ貴様らは!どうやってここに入った!」
そんな井戸の道に、怪しいと言わざるをえない集団がたむろしていた。黒制服の胸には赤字で「R」とプリントされ、丸い蛍光灯のようなものを腰に装備している。

「誰だと言われても、人に頼まれてやって来た者としか言えないんですが」

「頼まれた……?さては貴様ら、俺達を潰しに来たのか」

「まあ、成り行きで頼まれただけですけどね」

「ふん、そんなこたぁ関係ねえ。これでもくらいな!」

黒ずくめの集団は皆一様にボールを投げると、大量のポケモンが出てきた。その大半はこうもりポケモンのズバットと、どくガスポケモンのドガースである。

「よし、それじゃおじいさんのポケモンのお手並み拝見といくか。出てこい!」

大量のポケモンを前にして、ダルマは額の汗を拭い、老人から託されたボールを投げつけた。出てきたのは、大きな耳と体長ほどのしっぽを持ったポケモンであった。体は夕暮れ時の薄紫で、手足と顔はお日様の色である。

「こいつは、なんてポケモンだ?」

「このポケモンはエイパムですね。素早く動き回って、手数で戦うのが得意だそうです」

「随分詳しいな、ユミ」

「市販ですけどポケモン図鑑がありますからね」

ダルマの傍らでは、ユミが折り畳み式のポケモン図鑑片手に周りをチェックしている。さすがの探検家志望である。

「そんなものがあるのか……それよりエイパム、1匹でこの数は大丈夫なのか?」

ダルマは近くでうろちょろしているエイパムに力なく尋ねた。するとエイパムは動くのをやめ、しっぽを揺らしながらポケモンの山と向かい合った。

「ああん?たった1匹で俺達と戦う気か?面白い、徹底的にやってやるぜ!」

「……どうやら、やる気はあるみたいだな。よしエイパム、まずは1発お見舞いしてやれ!」

ポケモンの山とエイパムは、ほぼ同時に動き始めた。だが、先手を取ったのはエイパムであった。まず両手を叩き敵を怯ませ、そこから手始めに1匹殴り飛ばした。飛ばされたポケモンは別のポケモンにぶつかり、さらに別のポケモンへ被害が広がる。これを繰り返し、瞬く間にポケモンの塚が出来上がった。

「な、なんだと!こいつ……できる!」

「す、すごいなこれは。あのおじいさん、相当強いぞ」

ロケット団員達とダルマ、対照的な態度はポケモンの士気にも現れた。いまだに壁をなすロケット団のポケモンはジリジリ後退し、その分エイパムが前進する。しまいには、しっぽを伸ばせば団員達の頭に届くほど距離が縮まった。

「ぐぐ、戦局はきわめて不利か。幹部殿もいらっしゃらない。こうなったら……こうだ!」

ここで、団員達は叫ぶと背を向け全速力で走りだした。

「おい、逃げるのかよ!」

「うるさい!これは戦略的撤退なのだっ!」

「……やれやれ、しょうがないな。ユミ、ゴロウ、追い掛けるぞ」

「はい!」

「任せろ!」

ダルマ達は奥へ逃げ込んだ団員達の追跡を開始した。先頭はエイパムだ。エイパムは自らの体を振り子のように揺らし、その反動でどんどん進んでいく。

その時である。奥から何かを叩く音が幾度か響き、そのたびにうめき声が漏れてきた。

「な、なんだ今の音は?」

「なんだか、ちょっと怪しいですね」

「ダルマ、ここは少し待ったほうが良くないか?」

「そうだな。エイパム、ちょっと止まれ!」

ダルマは先ゆくエイパムをボールに戻そうとした。だがエイパムは、大丈夫と言わんばかりにしっぽを振りながら進むだけである。

「おいおい、なんで言うことを聞かないんだよ」

「多分、ダルマ様のことを認めていないのでは?」

「認めていない?」

「はい。人のポケモンは、トレーナーの腕が未熟だと言うことを聞きません。基準はジムバッジらしいのですが、ダルマ様はまだ1個しか持ってないですから言うことを聞かないのだと思います」

「……なるほど。なんか悔しいなぁ」

ダルマが冗談を言っていると、またしても奥から音が響いてきた。先ほどと違い、何かが飛びこみ、ゴロウと接触した。

「ぐおっ、なんじゃこりゃ!」

「ゴロウ、大丈夫か!?」

「いてて、何とか大丈夫……ってこいつ、エイパムじゃねえか!」

 ゴロウがしりもちをつきながら抱えたものは、エイパムであった。胸部と背中に殴ったような跡があり、目は渦を巻いている。

「もしかして、今の音は……」

「エイパムを攻撃した音だったのでしょうか?」

「そうなるな。しかし、あれほど素早いエイパムを、それも一撃なんて、一体誰の仕業だ?」

「そいつは俺の仕業さ!」

その時、井戸に高笑いが響いた。奥からである。ダルマ達がその方向を凝視すると、暗がりから人が1人出てきた。

「おやおや、こんなとこまで物好きな奴らと思ったら、いつかの弱小トレーナーじゃねえか」

「!?……お前は一体……」

「おいおい、あれだけ徹底的にやっといて忘れるのかよ、心外だな。……俺はカラシだ、覚えときな」

「カラシだと!?何故こんなところで……」

「ご存知なのですか?ダルマ様」

「ああ。忘れられるわけがない。ヨシノで1度戦ったけど、歯が立たなかった」

「そのような方が、どうしてこのようなところに?」
 井戸の中を、徐々に張り詰めた空気が満たす。そんな中、カラシの視線がユミを捉えた。

「……お、中々の美形だな。あんな奴らと一緒とは、もったいない」

「え?もう、からかわないで、質問に答えてください!」

カラシの突然の言葉に、ユミは思わず顔を赤らめ拳を軽く振った。その際、近くにあった岩にヒビが入った。

「俺がいる理由?ただ雇われただけだ」

「雇われたって、もしかしてロケット団にか?」

「そうだ。金と侵入者との勝負が報酬さ。もっとも、金なんてこれっぽっちも支給されなかったがな」

「……何だか、地味に気の毒な奴だな」

「ふん、そうでもなかったがな」

「……え?」

 ダルマは拍子抜けついでにこう漏らした。

「弱いとはいえ、侵入者が3人も来たんだ。練習相手くらいにはなるだろう。悪いがやられてもらうぜ」

ここまで言うと、カラシは腰についていた唯一のボールを投げ付けた。ボールはやや離れた位置にある崖に届くと、中からカラカラが出てきた。

「何だ、結構高い位置に出てきたな。もしかして失投でもしたか?」

「何とでも言ってろ。これが俺のやり方だ」

ダルマの皮肉をカラシはさらりと流した。右足のつまさきで軽く地面を突いているその姿は、溢れんばかりに余裕に満ちている。

「ダルマ、どうするんだ!エイパムはもう戦えねえぞ!」

ゴロウがエイパムを抱えながらダルマに近寄ると、ダルマは黙ってエイパムをボールに戻した。その顔には、心なしか力が入っている。

「決まってるだろ?……リベンジを果たすぞ!」


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