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  [No.642] 第36話「ライバルを持つこと」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/08/15(Mon) 15:57:50   80clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「静かで良い所ですわね……」

 セキエイ高原のだだっ広い原っぱの真ん中を、ユミは1人で歩いていた。辺りにはそよ風でざわめく草が至るところに生えており、雲がゆっくり流れている。

「それにしても、特訓なんて何をすれば良いのでしょうか。私の場合、やはり自分自身を鍛えたほうが良さそうではありますが……」

 ユミは辺りを見回した。近くをバタフリーが舞っている以外、特に目立つものはない。が、それはユミにとっての話である。彼女のよく知る人物が1人、彼女の視界に入り込んだ。

「あれはやっぱり……先生!」

 ユミはその人物に向かって走った。その人物も彼女に気付いたらしく、声をかける。

「おー、ユミさんではないですかー。こんな所で会うとは奇遇ですねー」

「ジョバンニ先生お久しぶりです。先生こそどうしたのですか?」

「私ですか? ポケモンリーグから力を貸してほしいと言われたのでやってきたというわけでーす」

 ジョバンニは笑顔で受け答えた。相変わらず腹は自己主張をしており、くるくる回る所作も健在だ。だが、ジョバンニの表情は突然曇った。

「……ところで、大丈夫でしたか? 大変な目に遭ったそうですが」

「あ、ご存知でしたか?」

「当然でーす。あれだけ派手に宣伝されては嫌でもわかりまーす。それにしても、よく無事でしたねー」

「はい、変な格好をした殿方に助けられたもので」

「……多分、ワタル君のことですねー。彼にはもう少し服装を考えてもらいたいものです」

「ふふ、そうですね」

 ふと、ユミの顔から笑顔がこぼれた。疲れの色は見えるが、少しはリラックスしたようである。

「では、ここにいるということは……ユミさんもがらん堂討伐に参加するのですか?」

「はい。あの方々を止めなければ、私達はずっと追われる立場になりますから」

「そうですねー。自分の身を自分で守ることは大事でーす。私もお手伝いしますよー。何かできることはありませんかー?」

「そうですね……では、少し相談してもよろしいですか?」










「なーるほど、勝負の際に熱くなっちゃうわけですねー」

 ユミとジョバンニはポケモンリーグ本部ビルのカフェテリアに移動していた。その片隅でユミはノメルティーを、ジョバンニはブラックコーヒーを飲んでいる。

「はい。抑えよう抑えようと意識はしているのですが、いつも周りが見えなくなってしまうのです。他の方にも変な目で見られていると思うと……」

 ユミは無意識のうちにティーカップへ手を伸ばした。ノメルは酸っぱいことに定評のある木の実であり、お茶にしてもその酸味が衰えることはない。ユミは一気に流し込むとむせこんだ。

「……若い時、人にどう思われているかは重要な判断基準になりまーす。私もそうでしたよ、懐かしいでーす」

「え、先生もそのような時期があったのですか?」

 ユミは、さも意外と言わんばかりの驚き様を見せた。ジョバンニは機嫌良く話を続ける。

「もちろんでーす。今でこそ、一歩間違えたら挙動不審と勘違いされますが、あの頃は良い人を演じていましたよー」

「は、はあ。ではどうしてそのような動きを?」

「……私の永遠のライバルのことはご存知ですねー?」

「はい。確か、トウサ様でしたね」

「……彼はなりふり構わず活動してました。私と彼は旅をする途中で好敵手になるわけですが、彼に負けまいと必死になって頑張りました。そうするうちに、自分なりの形が身についていたのでーす。人の影響で普通になってたのが、同じく人の影響でこのようになるとは……当時は思いもしませんでしたよ」

 ジョバンニはテーブルにある塩をコーヒーにふりかけた。ユミが度肝を抜かされているのも気にせず、彼は塩入りコーヒーを飲んだ。ジョバンニは脂汗を流す。

「私達はトレーナーを引退後、10年間科学者をやりましたが……ここでも切磋琢磨の過程で自分の性格や癖など気にもなりませんでしたよ。彼は今どこにいるんですかねー、ポケモンリーグからの協力要請は届いてるはずですが。やはり、ライバルがいないとこちらも元気がなくなりまーす」

「先生……」

 ジョバンニは窓の外をぼんやり眺めた。外では、綿雲の隙間から太陽の光が差し込んでいる。

「ですからユミさん、一生物のライバルを見つけてくださーい。自らの力だけで行動を改めるのは難しいでーす。しかし、ライバルと競い合えば性格のことなんて気になりませーん。むしろ自分の全てに誇りを持てるようになりまーす。その時、もう恥ずかしがることは何もありませーん。『コーヒーに塩を入れたって良いじゃないですか、それが私のルールですからねー』と言えるようになったら楽しいですよー」

「な、なるほど……コーヒーに塩は単なるやせ我慢かと思いましたが、そのような深い考えがあったのですね」

「おー、さすがに塩コーヒーは演技ですよー。さて、迷いも晴れたようですし……鍛練あるのみでーす」

「は、はい! タマゴを2つとも孵さないといけないですし、進化も……やるべきことは多いです!」

「その意気でーす。では外に出ましょう、今日は久々に私が指導しましょうねー」

 ジョバンニは残りのコーヒーを飲み干すと、立ち上がり回転しながら出ていった。ユミもノメルティーを片付けると、軽い足取りでジョバンニの後についていくのであった。


・次回予告

独自に特訓をするゴロウの前に現れたのは、ポケモンリーグ四天王の1人だった。ゴロウは無謀にも、勝負を挑む。次回、第37話「炎の力」。ゴロウの明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.17

がらん堂がダルマ達を捜すという名目で各地を占領してますが、鎌倉時代初頭にも同じようなことがありました。そう、義経です。ルールを破って朝廷から官位をもらった義経は、頼朝から敵視されます(武術が兄より達者なこと、取り返せと命令した三種の神器をスルーした挙げ句海の底に沈めてしまったことも関係してます)。頼朝は義経に適当な罪を着せ、彼の捜索のために守護が全国に置かれました。守護の重要な仕事、大犯三カ条の1つに「殺害人、謀反人の逮捕」があるのもその名残でしょうか。
それにしても、この話は難しかった。こういうしみじみとした話は苦手なもので、さらに後々につながる要素も入れないといけない。次回は楽に書けることを願うばかりです。

あつあ通信vol.17、編者あつあつおでん


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