「まずは態勢を整えねばな、身代わりだ」
「ならばこちらはわるだくみ!」
バトルに新たな流れが生まれつつあった。キュウコンは不敵な笑みを浮かべながら辺りに熱を撒き散らす。一方ラッキーは身代わり人形を作り、タマゴを入れる袋の中に入れた。互いににらみ合いを続け、攻め手に欠く。
「試合は緊迫した展開が続きます。しかし両者決定打を欠きます」
「ほれほれダルマ、そっちが来ないならこっちから行くぞ。ラッキー、どくどくだ」
「くっ、ひとまず身代わりだ!」
ここでラッキーが動いた。タマゴの袋の中から毒々しい塊を投げつけてきた。キュウコンは身代わり人形でそれを受けとめる。人形には傷1つできず、互いの人形が残る形となった。
「うむ、避けられてしまったか。このままではすこぶる不利、これはあやつの出番だな。ゆくのだニョロトノ!」
「今だ、わるだくみ!」
ドーゲンはラッキーを引っ込めると、別のポケモンを繰り出した。腹部に渦巻きがあるポケモンである。キュウコンはすかさずわるだくみで特攻を上げた。
「ドーゲン選手、ラッキーからニョロトノに交代です。そしてスタジアムはいきなり土砂降りになったぁ!」
「そ、そんな馬鹿な、出てきただけで雨が降るなんて……」
天気がめまぐるしく変わる中、ダルマは図鑑を開いた。ニョロトノはニョロゾの進化形で、全体的に平均的な能力を持つ。ほろびのうたやアンコールといった補助技を備え、相手をかき回しながら攻撃をする。また、ごくまれに天気を変える特性を持つ個体もいる。
「ぬはは、ニョロトノの特性はあめふらし。晴れてなければキュウコンなど怖くないわ、ハイドロポンプ!」
「くそ、身代わりでしのぐんだ!」
先手はニョロトノだ。キュウコンを上回る速さで水柱を発射する。キュウコンは身代わり人形でそれをしのぎ、再び人形を盾にした。
「こりゃまずいな……って、あれ? ニョロトノってそんなに速くないはずだぞ。もしや……」
ふと、ダルマは首を捻った。そしてニョロトノを凝視する。頭、腕、足……あちこちチェックした末、ダルマは思わず唸る。しかしその間にもニョロトノの攻撃は止まらない。
「どんどんゆくぞ、ハイドロポンプ!」
「させるか、かなしばりで止めろ!」
ニョロトノはもう1度キュウコンの身代わり人形を破壊した。その隙に、キュウコンはニョロトノをにらみつける。すると、ニョロトノは上手く動けなくなってしまったではないか。
「ぐう、しまった。戻れニョロトノ、ゲンガー!」
「隙あり、大文字!」
慌てたドーゲンはニョロトノを戻し、5匹目のゲンガーを投入。キュウコンは雨を蒸気にする程熱い大の字の炎を撃った。出てきたゲンガーはこの炎をまともに受け、何もせず倒れてしまった。
「ゲンガー戦闘不能、キュウコンの勝ち!」
「い、一体何が起こったのでしょうか。有利なはずのニョロトノを交代。そして雨にもかかわらず大文字1発で倒れてしまいました」
「……父さん、ニョロトノの持ち物はこだわりスカーフなんでしょ。でなければ、キュウコンより速く動けるはずがない。どこに隠したのかは分からないけど」
「やはり読まれたか。さすが俺の息子だ。実は背中に貼りつけておいたのさ。ではもう1度、ニョロトノ!」
ドーゲンはカラクリをばらした上で、ニョロトノを再度送り出した。天気は相変わらず雨、ダルマは3匹目のボールを握り締める。
「ここは引くべきと見た。戻れキュウコン、オーダイル!」
「そうはいかん、ハイドロポンプ」
ダルマは手早くキュウコンとオーダイルを入れ替えた。オーダイルは出てきて早々ハイドロポンプを浴びる。だがニョロトノの攻撃はまだまだ終わらない。
「続けるのだニョロトノ!」
「負けるか、つるぎのまい!」
ニョロトノは何回も水の槍を刺してきた。オーダイルはオボンの実をほおばりながら、負けじと戦いの舞いを披露する。反撃の準備は整った。
「そこから地震攻撃!」
オーダイルは地面を踏みならし、波でニョロトノを攻めた。ニョロトノは浮き足だっていたのか、転んで背中を打った。
「よし、とどめのアクアジェットだ!」
このタイミングで、オーダイルは水をまといニョロトノに襲いかかった。雨、つるぎのまい、特性の激流……まさに水を得た魚、ニョロトノを完膚なきまで叩きのめした。
「ニョロトノ戦闘不能、オーダイルの勝ち!」
「オーダイル、交代から強引にニョロトノを沈めました。今は普段と違い雨の恩恵があります。果たしてどこまで戦えるのでしょうか」
実況の解説と並行して、観客席もざわついてきた。モニターに映し出される残りポケモンは、ダルマが6匹に対し、ドーゲンは3匹。もっとも、ドーゲン自身は意に介さない様子で笑い飛ばしている。
「……がはははは、これで勝ったつもりか? まだ俺は3匹も残しておる。出でよ、エアームド!」
「ふん、今更出ても遅い。アクアテール!」
ドーゲンは先程のエアームドを場に呼んだ。一気に勝負を決めようとしたオーダイルは自慢の尻尾でエアームドを打ちのめす。だが、エアームドはなんとか堪えた。
「甘いわ、頑丈からのドリルくちばし」
エアームドはオーダイルを逃がさない。その鋼鉄のくちばしで突きまくる。虫の息だったオーダイルはたまらず気絶した。
「オーダイル戦闘不能、エアームドの勝ち!」
「ふっ、やっぱ頑丈は便利だな、不測の事態に柔軟な対応ができる」
ドーゲンは胸を張ってダルマを威圧した。ダルマは一瞬たじろぐものの、モニターを見て深呼吸をした。少し落ち着いた模様だ。
「……よく考えたら、俺にはまだ5匹も残っているじゃないか。何故不利なはずの父さんがあんなハッタリをするのか掴めないな。けど、いくら厄介な戦いをされても、最後は必ず勝ち抜いてみせる!」
・次回予告
親子対決も佳境に入った。数で押すダルマと戦略で戦うドーゲン。勝負の行方は如何に。次回、第79話「ポケモンリーグ5回戦第1試合後編」。ダルマの明日はどっちだっ。
・あつあ通信vol.59
今考えたら、キュウコンの攻撃技が文字しかない。あと、パパさんの使うポケモンが贅沢すぎる。そういえば、パパさんの6匹目は何かわかりますか? 少しバトルの組み合わせを勉強していればすぐわかるはずですよ。
ダメージ計算は、ニョロトノ@こだわりスカーフ臆病特攻素早振り、ゲンガー@命の珠臆病特攻素早振り、オーダイル@オボン意地っ張りHP攻撃振り、エアームドわんぱくHP防御振り。悪巧み2回積んだら雨でも大文字でゲンガーを確定1発。オーダイルはステルスロックとニョロトノの雨ハイドロポンプ3回をオボン込みで乱数で耐え、剣の舞からの地震と激流アクアジェットで倒せます。雨剣の舞激流アクアテールでエアームドの頑丈を発動させます。
あつあ通信vol.59、編者あつあつおでん