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  [No.637] 第33話「コガネシティを脱出せよ」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/08/12(Fri) 10:21:05   78clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「ふうー、ようやく戻ってきたな」

 太陽が仕事を始めだした明け方、コガネの港に数多くのボートが流れてきた。言うまでもなく、昨晩の事件から脱出したものである。その中に、ダルマ達はいた。顔に疲れの色が見え隠れする。彼らはボートが接岸すると、事前に連絡を受け用意されていた縄ばしごを登って上陸した。

「危ねえ危ねえ、もうちょっとで俺の冒険が終わっちまうところだった」

「皆さん無事で良かったですわ」

「当然だ。正義は必ず勝つものだからな」

「……船を爆破させられといてそんなこと言えるとは、刑事さんも中々やるね」

 ゴロウ、ユミ、ハンサム、ボルトはそれぞれ無事を喜びあった。しかし、ただ1人浮かない表情の者もいた。

「おいダルマ。せっかくつながった命なんだしよ、もっと喜ぼうぜ」

「そうは言ってもな……」

「もしかして、サトウキビさんの最後の言葉が気になるのかい?」

「ええ。『俺はあの時のことを決して許さない』と言ってましたが、彼には何かあったのでしょうか?」

 ダルマはボルトに尋ねた。ボルトは腕組みして唸るが、答えは出てこない。

「けどよ、何かあったならニュースの1つにでもなりそうなもんだぜ。『敏腕塾長の知られざる過去』みたいな感じでさ」

「ああ、そりゃ無理だ。彼は自分のことを一切語らないからね。おかげで変な噂も立つんだけど、異議は唱えない。自分のことを話したくないからだそうだよ」

「それは随分徹底してますね」

「全くだよ。彼も僕達と同じ人だけど、まるで別物みたいになんでもできる。彼には妥協という発想がないんだろうな」

 ボルトは深いため息をついた。ダルマは静かな市街地を遠望する。

「……ところで皆様、何か気付きませんか?」

「どうしたのユミ?」

「この街、朝だからということかもしれませんが、昨日と比べて明らかに活気がありません」

「……言われてみればそうだな。ここは港、貨物船から積み荷が下ろされても良さそうなものだ。しかし今は、船どころか人っ子1人いやしない」

 ハンサムは顎に手を当ててまごついた。それを尻目にダルマは胸ポケットからポケギアを取り出す。

「せっかくだから使わないとね。えーと、ラジオラジオっと」

 ダルマはチューニングをして、アンテナを幾らか伸ばした。初め雑音が、徐々にはっきりとした音声が聞こえてくる。

「……全国の諸君、おはよう。我らは泣く子も黙るロケット団だ。首領サカキ様が失踪して3年後、1度はなされた復活宣言は失敗した。しかし我らは諦めなかった! 10年間に及ぶ泥水をすするような地下活動を耐えぬき、今ここにロケット団の完全復活を宣言する! 手始めに昨夜、我らはジョウト地方最大の都市たるコガネシティを占拠した。間もなく街中の捜索を開始するが、目についたやつからは遠慮なく略奪をさせてもらう」

「ろ、ロケット団だと? ヤドンの井戸でセコい商売してた?」

 ダルマは呆気に取られた様子である方向を眺めた。その方向にあるのは、コガネ城の敷地内にそびえ立つラジオ塔だ。

「これまた、厄介な時に来てくれたもんだ」

「ボルトさん、警察はどうなってるんですか?」

「警察? コガネシティの治安は全てがらん堂の門下生がやってたから、多分今回も動いてるはずだよ。まあ、昨日の船上パーティーに結構な人数が借り出されてたし、時間はかかるだろうね」

「ちょっと待った、警察業務を民間に委託していたというのですか? そんな話、国際警察の私でも知りませんよ」

「そうでしょうね。治安が恐ろしく良い街ゆえ、大して気に掛ける必要なんてありませんから。」

 ボルトは大あくびをすると、ラジオの音に耳を澄ませた。

「お、予想通りやってきたみたいだね」

「……全国の諸君、おはよう。って何、もう追い詰められたというのか! く、10年間の努力が……。全国の諸君、ロケット団は永久に不滅だ。そのことを忘れるな!」

 どうやら、スピーカーの向こう側では動きがあったようだ。ロケット団員らしき男の声は途切れ、代わりに聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。

「皆さん、こちらがらん堂のパウルです。たった今ロケット団の脅威は去りました。もう心配いりません。時間がかかってしまい申し訳ありません」

「これは、パウルさんか。あの人残ってたのかな」

 ダルマが進展に思いをめぐらす間にも、パウルは語り続ける。

「今回、事態の鎮圧に時間がかかったのには理由があります。1つは、昨日のカネナルキ市長の船上パーティーに多く人員を割いていたためです。そして2つ目は、その船が沈没したことにより、彼らの帰還が大幅に遅れてしまったことです」

「うーん、やはり報告はいってたみたいだね」

「……私達は、犯罪者であるロケット団員をほぼ捕まえました。ところが、私達の包囲網をくぐり抜け、今尚街にのさばる団員が5人もいるのです」

「へー、しぶといやつもいるもんだな。5人なんて、まるで戦隊ヒーローじゃねえか」

「やつらは船上でカネナルキ市長を殺害し、私達のコガネシティを支えていたサトウキビ先生に濡れ衣を着せた。その上船を爆破し、私達の活動を妨害した。……残念なことに、サトウキビ先生とは現在連絡が取れていません」

 パウルはむせび泣いているようだ。ここから、彼の悲痛な面持ちが容易に想像できる。また驚いたことに、先程までもぬけの殻と言えた市街地も急に騒がしくなってきた。

「サトウキビさんが行方不明というだけでこれだけ街が揺れるなんて……慕われていたんだな、あの人」

「しかし、市長を殺害したのが5人とはどういうことでしょうか?」

 ユミの問いに答えるかの如く、ラジオから荒い口調の一言が届いた。

「私達のサトウキビ先生を罠にはめた人物、それは以下の通りです。ダルマ、ゴロウ、ユミ、ボルト、ハンサム……この5人こそ、私達に残された不和の種なのです!」

「……な」

「な、なんだってんだよー!」

「私達が、おじさまを……」

「罠にはめただって?」

「ちょっと待った、どうして私までそうなるんだ!」

 パウルの怒りに満ちた放送は、ダルマ達の動揺を誘った。互いに顔を見合わせ、頭からクエスチョンマークが飛び出している。

「皆さん、安心してください。サトウキビ先生は不死身です。例えどれだけ辛くても、あの人は必ずやまた、私達の前に現れることでしょう。では、今私達にできることは何ですか? ……そうです。凶悪犯罪者の5人を捕まえ、先生の復活までこの街を守ることです。大丈夫、恐れることはないです。皆さん手に手を取り合い、私達の街を守りましょう! 尚、市長が死亡した現在、がらん堂の者が代理で街の運営を担います。その点についてはご容赦ください」

 パウルが全て言い切ると、ダルマは黙ってラジオのスイッチを切った。5人の中に重苦しい空気が流れる。

「ダルマ様……どうしましょう?」

「そ、そりゃ決まってるだろ、この街から逃げる」

「逃げるったってどこにだよ?」

「う、そうだな。ウバメの森なら隠れる所もいっぱいあるだろうし、南に行ってみるか」

 ダルマは南の方角に進路を取った。海岸沿いに道があり、こっそり抜け出すのに悪くない。

 ところが、その道の遥か遠くから人影が出てきた。人影はこちらにゆっくり接近してくる。

「ありゃりゃ、面倒なお客さんがいるよ。他の道を探したほうが……」

「いや、その必要はない」

 ボルトの言葉をハンサムが遮った。彼はあちこちを指差した。皆がそれに注視すると、全ての道からこちらに向けて市民が迫ってくるではないか。ダルマは頭をかきむしった。

「……あーあ、遂に俺達の冒険もここまでか。ポケモンリーグ、行きたかったんだけどなあ」

「ダルマ様、そのようなことは言わないでください!」

「そう言われても、しょうがな……」

 ダルマはここまで言いかけて、飲み込んだ。ユミの頬から光るものが流れ落ちるのが、彼の視界に入ったからである。

「くっそー、誰でも良いから助けてくれー!」

 ダルマはまたしても天を仰いだ。しかし空は薄い雲に覆われているだけである。

 その時である。何か大きなものが3つダルマ達の頭上から降りてきた。何かには小さな翼と角がついており、どうやらポケモンらしい。また、うち1つには人が乗っている。コスプレまがいの怪しい格好である。

「君達、早く乗るんだ!」

「え、あなたはもしや……」

「話は後だ。とにかく今は脱出しよう。さあ急いで!」

 ダルマ達は急かされるようにポケモンの背中にしがみついた。怪しい格好の人物は5人がいることを確認すると、口笛を吹いた。ポケモンは大地を蹴りあげ、すんでのところで大空に飛び立つのであった。



・次回予告

怪しげな人物に連れてこられた場所、そこはダルマが目指した地であった。憧れの大地で聞かされた事実は、ダルマ達の運命を変えることになる。次回、第34話「自らのために」。ダルマの明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.14

最近ふと思ったのですか、ツリー式掲示板ってどれくらいまで投稿できるのでしょうかね。この調子だとかなり話数が増えるので、限界になったら分けないといけませんね。
さて、次回はあの人が登場。ダルマの身に何が起きるのか、乞うご期待。


あつあ通信vol.14、編者あつあつおでん


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