「ジョバンニさんジョバンニさん」
「どうしましたかーダルマ君、お金なら別の人に借りてくださーい」
発電所の攻防から一夜明け、ダルマ達はフスベの町中を歩いていた。山の上にあるフスベシティは空気が薄いのだが、5日間もかけて山越えをした彼らには大した問題ではなさそうだ。ドーゲンとボルトに至っては呑気に鼻歌オーケストラをやっている。
「いやいや違いますよ。がらん堂の技術についてです」
「ほー、あなたも科学に興味がありますかー。なんでも聞いてくださーい」
「では遠慮なく。人の転送と怪電波なんて、誰が開発したんでしょうか?」
「ふむふむ、なーるほど」
ジョバンニが何度もうなずく。はっきりしないジョバンニに、ダルマは詰め寄る。
「正確に答えてください。これらの技術は表立ってできるものではありません。その道の専門家が長い年月を費やさなければ実現は難しいでしょう。あなたは昔科学者だったそうですが、このような分野の研究者に心当たりはありませんか?」
「……そうですねー。私も年ですから、少し記憶が曖昧なのでーす」
「じょ、ジョバンニさんっていくつなんですか?」
「今年で35になりまーす」
「十分若いじゃないですか!」
「ふふっ、あなたも年を取ればわかりまーす」
「な、なんだか地味に突き刺さる台詞だ……」
「とにかく、キキョウに戻ったら自宅の資料を調べてみましょう。それまでは待つことでーす。焦らない焦らない」
「は、はあ。ではお願いしますね」
ダルマは複雑な面持ちで歩き続けた。対してジョバンニは軽快に跳ね歩く。
「お、やっと見えてきたな」
やがて、とある建物が視界に入ってきた。ワタルは額の汗を拭いながらそれを指差す。
「あれはフスベジム。僕も昔修行した場所だけど、皆元気かなあ。がらん堂の被害に遭ってなければ良いけど」
「ほう、人をも巻き込むはかいこうせんはそこで身につけたのか。中々面白そうだな、がはははは」
ドーゲンの言葉に唇を震えさせながらも、ワタルは歩を進めた。そして、ようやく入り口にまで辿り着いた。古ぼけた外装に柱の曲がったポスト、立て札にはかすれた字で「フスベシティジム。ジムリーダー」とまでは書かれている。だが、肝心要のリーダーの名前がきれいに消えている。
「懐かしいな、この感じ。ただいまー」
ワタルは引き戸を引いた。滑りが悪いものの無事に開き、一同は中に入り込む。驚くべきことに、屋根がない。どうやら外から確認できたのははりぼてのようである。ジム自体は学校のグランド程度の広さがあるので、大型のポケモンでも縦横無尽に戦える。
「……誰かと思えば、負け犬に成り下がったチャンピオン御一行じゃないの」
「おいおい、久々の再開の第一声がそれはないだろイブキ」
そこに、1人の女性がいた。ワタルに苦笑いされたイブキと呼ばれる女性は、まずワタル同様マントを羽織っている。肘までの長い手袋をはめ、ブーツを履き、膝すれすれのスカートを着用。お互い似たり寄ったりなセンスを持ち合わせているみたいだ。
「皆さん、こちらはフスベジムリーダーのイブキ、僕の妹弟子です。気難しいやつですが、どうかいたっ!」
「……余計なことは言わなくてよろしい」
イブキはさりげなく左腕でワタルの首の後ろをチョップした。ワタルはすぐさまその部分をもみほぐす。
「それで? 大挙してジムに押しかけた理由は何かしら」
「ああ、まずは無事か確かめに。もう1つは訓練に付き合ってほしい」
「なるほどね。……私達は無事よ。完璧をよしとするフスベジムが雑兵ごときに遅れをとることなどあり得ないわ」
イブキは胸を張って答えた。ボルトは彼女のボディラインに釘付けだが、彼女の一睨みで真顔に戻る。
「最初に言っておくけど、私は弱いトレーナーと訓練する気なんてさらさらない。だからまずは手頃な相手と勝負させてもらうわ。そうね、そこの冴えない男がおあつらえ向きかしらね」
イブキは人差し指で実験台を指し示した。ジョバンニの隣で眠そうにあくびをするダルマが犠牲者である。
「お、俺ですか?」
「そうよ。神聖なジムであくびをするその無神経さ、私が叩き潰してあげるわ。感謝することね」
「使用ポケモンは3匹ずつ。その他は公式ルールに則ります。では、始め!」
ダルマとイブキは対面し、審判をワタルが務める。他のギャラリーは遠巻きに眺めている。そのような状況で、フスベジム戦は幕を開けた。
「初陣だ、イーブイ!」
「ハクリュー、まずは小手調べよ」
ダルマの先頭はイーブイ、イブキのトップはハクリューだ。ダルマは早速図鑑に目を通す。
「なになに、ハクリューはドラゴンタイプのポケモンで、耐性に優れている。弱点は氷かドラゴンのみにもかかわらず水、草、炎、電気に抵抗を持つ。ただし耐久は平凡なのでそこまで頑丈ではない、か」
ダルマはハクリューを見やった。群青の背中に純白の腹、首根っこの玉に頭部の羽が目立つ。一方イーブイは、ハーネス代わりか赤いひものようなものを胴に巻き付けている。
「先手はいただくわ、げきりん!」
先に動いたのはイブキのハクリューだ。体から湯気を放ちながら尻尾でイーブイを打ちのめしまくった。ところがイーブイは避けようともせずに攻撃を受けた。
「へへ、たった1回の攻撃じゃあイーブイは倒せないよ。じたばただ!」
ハクリューの攻撃が一段落するとイーブイの反撃が始まった。先程の手痛い打撃をものともせずハクリューの懐に飛び込むと、力一杯暴れたのである。引っ掻き傷やはたかれた跡で彩られたハクリューは、たまらず地に伏せてしまった。
「ハクリュー戦闘不能、イーブイの勝ち!」
「くっ、今の攻撃……あんな小柄のポケモンが出せる力じゃないわ。一体何が起こったというの?」
イブキは目の前の出来事を信じがたいのか、拳を握り締めながらハクリューをボールに戻した。
「あれはおそらくダルマ様の得意技、気合いのタスキとじたばたの組み合わせですね。ですが、それだけでハクリューを一撃で倒せるでしょうか?」
「なんだお嬢ちゃん、適応力を知らんのか?」
外野では、戦況のチェックに余念がないユミにドーゲンが補足をしている。
「適応力は、自分と同じタイプの技を使うと威力が上がるという代物でな。タスキとじたばたと組み合わせればイーブイの進化形より高い決定力をはじき出せるというカラクリよ」
「なるほど。さすがドーゲン様、道具職人はバトルに関する造詣が深いですわ」
「なに、これくらいは基本よ。俺もダルマのように旅をしていたもんでね。さて、そろそろ次の勝負が始まるぞ」
ドーゲンは自信満々な表情でイブキに注目した。彼女は既に2匹目のポケモンを用意している。
「フン、最後に勝つのはこの私よ。この子でそれを完璧に証明してみせるわ」
・次回予告
イブキのポケモンはどれもこれも鍛え上げられており、正攻法では勝ち目がない。ダルマはあらゆる技を活かして戦わざるを得ない状況に。そして、遂にとんでもない戦力が目覚める。次回、第44話「フスベジム後編、空飛ぶ砲台」。ダルマの明日はどっちだっ。
・あつあ通信vol.24
ダルマ、ゴロウ、ユミの3人の中で、今1番強いのは誰なんでしょうか。個人的にはダルマですが、四天王のポケモンを倒すゴロウも有力。もっとも、最終的な面子はどう考えてもユミが優勢(夢イーブイ、フカマル、ウパーなどの実力者が数多く在籍)。まあ、主人公が誰かわからないのでなんとも言えないですね、今は。
あつあ通信vol.24、編者あつあつおでん