「ほう、遂にここまでやって来たか。手塩にかけて育てた弟子達を倒すとは、やはり俺の目に狂いはなかったな」
「……サトウキビさん」
ラジオ塔の屋上に、追い求めた人はいた。屋上にあるのは小屋の形をした機械に周囲を照らす照明、追い求めたその人、サトウキビ。そしてダルマだけだ。天上では星々が状況を見守る。そうした中、まずダルマが尋ねた。
「まず先に教えてください。何故このような事件を起こしたのですか? 殺人に手を染め、俺達に濡れ衣を着せてまで実行に移したこの動乱の目的を」
「……そんなこたあ、お前さんが知る必要は断じてない。どうとでも判断するが良い」
サトウキビは腕組みしながら飄々と受け答えした。相変わらず手ぬぐいを頭に巻き、サングラスで素顔を隠している。ダルマはそんなサトウキビに対して食い下がる。
「そ、それはあんまりですよ! せめて何があったくらい説明してくれても良いじゃないですか」
「ふん、知ったところでどうするつもりだ? ゴシップ紙にでも情報を売りに行くか? あるいは俺を揺するか? 所詮庶民なんざ、知っててもろくな行動を取らねえ奴らだからな。そう易々と教えられるか」
「な、それはどういうことですか?」
サトウキビの発言に、思わずダルマは首をかしげた。サトウキビの口から刺のある言葉が徐々にあふれ出てくる。拳を握りしめ、歯ぎしりの音はダルマの耳に届くほどだ。だが、勿論この程度で終わるサトウキビではない。次から次へと飛び込んでくる。
「……お前さんも分かっているとは思うが、フスベの発電所を奪還された時点で俺達が使える電力は限られていた。だから怪電波は重要拠点を除き止め、節電に努めた」
「え、洗脳に使う電波は止めていたのですか? しかし、がらん堂に対する反対運動が起こったなんてまるで聞きませんよ。……もしや、情報統制でもしてるのですか?」
ダルマはこの不意打ちに目を丸くした。サトウキビはしてやったりと言わんばかりに鼻で笑う。サトウキビの意図が掴めないダルマは困惑の色を浮かべるばかりである。
「残念ながら外れだ。俺達がそんなことしなくても、反乱は全く起こらなかったからな。ただ一部、お前さん達を除けば」
「反乱が……起きなかった?」
「そうさ。正気を取り戻し、事情を察した庶民の取った行動は何だったか? それは、無関心だ。自分達は厄介事に巻き込まれたくないと、知らんぷりしたのさ。なんとも情けねえ話だ。こういう奴らに限って、人の粗を知っては喜びやがる。ま、こちらからすれば有り難い話だがな」
サトウキビは執拗なまでに悪態をついた。これが本来のサトウキビという男であると勘ぐってしまうほどの勢いである。これには星達も聞きかねたのか姿をくらまし、空は絵の具で塗ったような真っ黒になった。そんな彼の話が一段落すると、ダルマは静かに、しかし力強く口を開いた。
「……あなたが一般人を敵視するのはよく分かりました。しかし、それでこのようなことが許されるはずないでしょう!」
「はっ、甘いな。元より許されないことなのは承知している。それでも自分のケツくらい自分で拭いてやる。だが……もうこんなしみったれたことをやる理由はねえな」
「え、それはどういう……」
サトウキビはダルマの問いかけを無視し、腰に装備しているボールに手を取った。それから彼は鬼気迫る迫力でダルマを促す。
「勝負だ、ダルマ。俺を止めたいのなら力を示してみろ。がらん堂を打ち破ったその力……最後に確かめさせてもらうぜ」
「の、望むところですよ! 絶対にあなたを倒してみせる!」
ダルマもボールを持った。そして、2人同時に最初の1匹を繰り出すのであった。最後の決戦の始まりである。
・次回予告
ダルマとサトウキビ、一世一代の大勝負が幕を開けた。互いに自分の形に持ち込もうと駆け引きを繰り広げるが、ある技で戦況が大きく変わるのであった。次回、第66話「最後の決戦中編」。ダルマの明日はどっちだっ。
・あつあ通信vol.46
以前も書きましたが、サトウキビさんは私の理想とするナイスミドルとなっております。本人の実力もさることながら、若い人を積極的に登用。不可能という言葉を破壊するほど働き、人情に厚い。風情も解す。こんな人が本当にいたらかなり慕われると思います。私もそのようになれるよう、精進しないといけませんね。
あつあ通信vol.46、編者あつあつおでん