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  [No.630] 第30話「逆転クルーズ中編」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/08/09(Tue) 14:57:57   77clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「おーい、1人だけだが関係者を連れてきたよ」

「あ、やっと来ました」

 現場の調査をして10分ほど後、ハンサムが何人か引きつれて戻ってきた。

「……第一発見者が2人いるとは聞いていたが、まさかお前さん達だったとはな」

「あ、サトウキビさん。……その服、どうしたんですか?」

 ハンサムの背後から、サトウキビが声をかけた。彼の服装は最後に会った時と違っていた。着流しが小袖、それも鮮やかな浅緑の小袖になっているのだ。また、妙に厚着なせいか汗が滝のように流れている。

「これか。パーティー用に新調しておいたものだ」

 サトウキビは何気なしに答えた。同じ説明でも、市長とその補佐では随分様子が異なる。

「……うおっほん、そろそろよろしいですかな」

 ハンサムは咳払いをした。集まった人々の視線が彼に集中する。

「皆さん、先程説明しましたように、カネナルキ市長が死亡しました。これから現場の検証と検死を行いますので、その間に聞き取り調査をします。よろしいですね?」

 ハンサムの言葉に、全員が首を縦に振った。すると彼の後ろの部下らしき集団が市長の部屋へ乗り込んでいった。

「さて、まずは第一発見者のお二方に話を聞きましょうか。名前を教えてもらいたい」










「……なるほど、たまたま居合わせて部屋に入ったらこの状態だったというわけか」

「そうですね、そこにハンサムさんが来たんですよ」

「うむ、事情はわかった。それでは私も捜査に向かうから、3人はここで待っててください」

 こう言い残すと、ハンサムは部屋の中に入り込んだ。後にはダルマとボルト、サトウキビが残された。

「……さて、時間が空いたな。少し話でもしとこうぜ」

 サトウキビが話しだした。それにつられてダルマとボルトも口を開く。

「サトウキビさん、どうしてあなただけが呼ばれたのですか?」

「……仕方ないだろ、俺の仕事は市長の補佐だからな」

「ま、市長に近い人物だから当然と言えば当然か」

 ボルトはサトウキビの言葉に相槌を入れた。

「それにしても、緑の着物とはまた思いきりましたね」

「そうか? 市長を目立たせるのが今回の狙いだったから、成り行き上こうなっただけなんだが」

「み、緑で目立つんですか?」

「ああ。いずれわかるようになる」

 サトウキビは不敵な笑みを浮かべた。それに対してダルマは釈然としない様子である。

「ところで、サトウキビさんは市長に詳しいんだよね? 僕もそこまでよく知らないし、色々教えてくれないかな」

「別に構わない。とはいえ、俺もそこまでは知らないが」

 サトウキビはボルトの頼みを聞き入れた。

「カネナルキは、元々新聞記者だった。10年くらい前にある事件に関する記事で世間の注目を浴び、その勢いに任せて市長選に当選する。しかし、お茶の間からの興味が失われた途端その立場は不安定なものになった。俺はもう8年くらい補佐をやってるが、その頃から既に議会に糾弾されてばかりだったな」

「はあ。他に何かありませんか?」

「そうだな……やつは左利きだ。それと、詮索好きだ。まあ、その性格が敵対勢力のあら探しなんかに役立っていたわけだが」

「……運が良い人なんですね」

 ダルマは呆れたような口調でこぼした。

「おーい皆さん、検死が済みましたよ」

 そこにハンサムが軽快な足取りで戻ってきた。その手にはメモ用紙を携えている。

「検死ですか。どうだったのですか?」

「まあまあ、慌てない慌てない。えー、『死因は胸から右手のナイフで心臓を刺されたためで、即死。傷口は背中にまで達するが、凶器と傷口の形は一致しない。心臓付近の傷口の幅は小さく、また皮膚近くの幅は大きい。なお、凶器の先端は背中に達していない。なぜなら、ナイフの刃渡りは10センチと、そこまで大きくないからだ』ということらしい。どうしても、死亡推定時刻まで正確には調べられないけど、大体これで合ってるはずです」

「なるほどなるほど……」

 ダルマはハンサムの言葉を一字一句メモに取っている。ペンの音が重苦しい現場に響く。

「……ハンサムさん、あなたはこの事件をどう考えてるのかな?」

 不意に、ボルトがハンサムに尋ねた。ハンサムは目の色を変えて答える。

「そうだな……まあ良いか。皆さん、既にこの事件は解決しました。今からその説明をしましょう」

 ハンサムは右手人差し指と中指を右こめかみに当てると、こう切り出した。

「まず、凶器は胸に刺さったナイフで間違いない。ナイフは、被害者の右手に握られている。そこから導かれる結論は1つ。……自殺だ。被害者は自ら命を絶ったのだ! ……どうです、どこにも矛盾はありませんよ」

「た、確かに。じゃあ市長は自殺?」

 ダルマは首を捻った。これにボルトが突っ込む。

「おいおい、矛盾なら1つあるじゃないか、さっきの話とさ」

「さっきの話? ……あ、確かに。ちょっとハンサムさん」

「なんだい?」

「今の推理……どこか矛盾しています!」

「どこか? 私の推理のどこに矛盾があるんだい?」

「先程あなたはこう説明しました、『死因は、胸から右手に握られているナイフで心臓を一刺し』と。しかし、サトウキビさんによれば市長は左利き。右手で凶器を握っているのは不自然なのです」

「な、何っ、左利きだと? ……ふっ、しかし。自殺である根拠は他にもある。これで証明してみせよう」

「だ、大丈夫かな……」

 ダルマの頬を冷や汗が伝う。そんなことはお構い無しにハンサムは続ける。

「何も、自殺の根拠はそれだけではない。くまなく探してみたのですが……部屋には争った形跡がない。また、刺した回数が1回であることから、やはり被害者が自殺だったと断定できたのだ。これなら問題あるまい」

「……あのー、『刺した回数が1回』というのは?」

「うむ、検死の報告書によると『傷口は背中にまで達する』という。この他に外傷は見つかっていないゆえ、刺した回数が1回だと判断したのだ」

「……なるほどね、新しい矛盾が見つかったよ。あなた、本当に警察なのかな? 僕達が調査したほうが良さそうだよ」

 ボルトは勝ち誇った顔でハンサムを挑発した。ハンサムもハンサムで、これに簡単に乗ってきた。

「む、そこまで言うなら示してもらいましょうか、どこが矛盾するのか」

「……さ、出番だよダルマ君」

「やっぱり俺ですか……。まあ、指摘する場所ははっきりしてますけど」

 ダルマはさっきのメモを取り出しこう発言した。

「検死によれば、『凶器と傷口の形は一致しなかった』そうですね。ならば、凶器で刺されたのが1回と断定できるはずがない」

「ぐおっ、なんだと……」

「そもそも、『傷口は胸から背中にまで達する』にもかかわらず『凶器の先端は背中に達していない』。これをどう説明するつもりですか?」

「ぬぬぬ……ほわあぁぁぁぁぁ!」

「これは俺の仮説に過ぎませんけど、被害者は少なくとも2回刺されたんだと思います。刃渡り10センチでは、柄の部分ぎりぎりまで刺しても背中にまで貫通するはずがない。しかし、背中からも刺されていたとしたら? すなわち、被害者が自殺ではなく殺害されたのだとしたら? 状況は一気に変わってくるはずです」

「うんうん、中々厳しい指摘だねー。けど、あの人まだ何か言いたそうだよ?」

 ボルトは人差し指で前方を指した。そこには、まだ納得していない様子のハンサムがいた。

「し、しかしだね。2回刺された証拠なんて……」

「……この人、まだ気付かないのか。ハンサムさん、よく考えてください。傷口はどのような形でしたか?」

「傷口? 確か、『心臓付近の幅は狭く、背中と胸の皮膚に近づくにつれ幅が広くなる』とあったな」

「そう、これこそが2回刺された証拠です。ナイフに限らず、刃物は先端ほど幅が狭く、柄に近づくほど太くなります。背中と胸でそれぞれ刺し、傷口がつながれば、『心臓付近だけ幅が狭い傷口』ができるのです。つまり! 被害者は1度背中から刺された後もう1度、偽装工作のために胸から刺されたのです。……いかがですか、ハンサムさん」

「……は、反論は……な、ない」

 ハンサムは頭をかいた。ダルマは一息ついて伸びをした。

「いやー、さすがだねダルマ君。君は見事示したわけだ、『被害者は自殺ではなく殺害された』と」

「はあ、それほどでも……」

「……で、犯人の目星はついてんのか?」

「う! それは……」

 久々に発したサトウキビの言葉がダルマにクリーンヒットした。それに乗じてハンサムも元気を取り戻す。

「そ、そうだ。殺害されたのなら犯人がいるはずだ。早く調査を……」

「その必要はないぜ、刑事さんよ」

「サトウキビさん?」

「……よく見てみな、部屋の扉の上を」

 サトウキビは視線を扉の上に遣った。その先にあったのは、親指ほどの大きさの機械である。先端にはレンズがついてあり、ダルマ達を睨み付けている。すると、急にハンサムが叫んだ。

「ぼ、防犯カメラ!」

「そうだ。他の部屋の前には置いてないのを考慮すると、こりゃ私設防犯カメラだな」

「私設……市長、何か心配事でもあったのかなあ」

 ボルトが首をかしげた。その時、サトウキビはある提案をした。

「なあ、せっかくだから見てみようぜ。犯人がいるなら、ここに映ってるかもしれねえだろ?」

「た、確かに。どうですかハンサムさん?」

「う、うむ。そうだな、全ての証拠に目を通すのは重要なことだ。早速見てみよう」

「では、俺がビデオデッキを借りてこよう。あんた達はおとなしく待ってな」

 サトウキビはそう言い切ると、颯爽と上の階に移動するのであった。





・次回予告

防犯カメラに映っていた姿は、予想だにしない人物であった。決定的な証拠が飛び出した今、その人物の無実を知っているダルマはただただ矛盾を指摘する。その先に見えた真相とは。次回、第31話「逆転クルーズ中編2」。ダルマの明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.11

最近1話当たりの容量が10000バイトすれすれになる傾向があります。携帯のメールで下書きしてるので中々厳しいです。
さて、この話は某法廷バトルのゲームソフトに多大な影響を受けております。皆さんはダルマより早く真実にたどり着けたでしょうか? 最後の傷口の形は屁理屈みたいなものですが、あとは分かりやすかったと思います。この調子で最後までいきますのでご期待ください。
ちなみに、ハンサムの口調はダルマと話す時とそれ以外とで変えてみました。気付いたかな?
あつあ通信vol.11、編者あつあつおでん


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