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  [No.646] 第38話「内側からの侵攻」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/08/17(Wed) 22:11:00   73clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


「あれ、ボルトさんとハンサムさんとゴロウは?」

 数日後。出発の準備が整ったダルマ達セキエイ高原の面々は、進軍経路を確認するためにポケモンリーグ本部ビルのある部屋へ集められていた。既に夜は更け、隠密活動をするにはもってこいである。現在集合しているのは、ダルマとユミ、ジョバンニとドーゲンのみだ。

「ボルト様とハンサム様は別行動だそうです。ゴロウ様はどうされたのでしょうか」

「彼なら特別に修行中だよ」

 そこに、ワタルがドアを開けて入ってきた。右手には丸めた大きな紙がある。

「なんでも、キョウさんに付きっきりで稽古してもらってるらしい」

「キョウって、四天王のですか?」

「うん、だから僕達の隊はしばらくこの5人で進むことになる。彼は後々援軍として参加してもらうよ」

 ワタルはそう説明すると、咳払いを1回した。一同が彼に注目する。

「さて皆さん、僕達は2つの隊に分かれてコガネシティを目指します。1つは僕が率いる隊で、メンバーはここにいる全員です」

「おいおいあんた、いくら人手不足といっても、さすがに5人は……あ、チャンピオンだったねあんた」

 ドーゲンは自分の疑問に勝手に納得し、うなずいた。ワタルは続ける。

「はい、こちらには僕とジョバンニさんがいるので大丈夫です。それでは、進路の確認をしときますね」

 ワタルは机に右手の紙を広げた。書いてあるのはジョウト地方の地図と大量のメモ書きである。

「まず僕達はセキエイを抜け、直接フスベシティに進みます」

「いきなりフスベですかー。何かあるのですか?」

「……ここにはジョウト地方の電気を賄う発電所があります。がらん堂の強さはポケモンセンターによる無尽蔵の回復ですから、それを止めようというわけです。もっとも、ポケモンセンターには予備電源がありますから油断はできませんけど」

「なるほど。では、その次はどうするんですか?」

「……フスベを攻略した後は、隊を分けて進みます。僕達はキキョウシティ、別動隊はチョウジタウン経由でエンジュシティに。どちらの街も交通の要地だから、ここを押さえれば物資の輸送を止められます」

「どれどれ、キキョウシティに行くにはくらやみのほらあなを通るのか。ゲリラ戦もいいところだな」

「ドーゲンさん、それは言わない約束ですよ。ともかく、2つの隊は36番道路で合流して決戦に臨みます。相手は民間人、鍛えぬかれたポケモンリーグの敵ではありません」

 そこまでワタルが言い切った時、彼の背後にある扉がひとりでに動いた。外から1人の男が入室してくる。

「そいつは聞き捨てならぬ台詞なり。速やかに撤回すべし」

「だ、誰だ!」

 ワタルは背後の男に向けて叫んだ。男は簡素な防具を身につけ、円錐型の帽子をかぶっている。無精髭を生やし、モミアゲがあごでつながっている。

「背後を取られてその余裕……また、愚かならずや」

「……あの、言ってることがよくわからないんですけど」

 ダルマは冷静に突っ込みを入れた。ジョバンニがそれをフォローする。

「どうやら、『背後取られてそんな呑気とは、なんて愚かなことだ』と言ってるようでーす。文語を使うとわかりづらいですねー」

「それで、あんたは誰だ? 俺はドーゲンという者だが」

「……名乗られた手前、名乗るべし。それがしはサバカン、がらん堂が誇る猛者なり」

 謎の男サバカンの言葉に、周囲は言葉を失った。無理もない。厳重警備されているはずのセキエイ高原にがらん堂の刺客の登場が意味することは明白だからだ。

「一体どこから入った? いや、それより他の隊員は!」

「焦るな、チャンピオンよ。今宵はそれがし1人、他には手をつける余裕なし。それがしは、内より入りて衛士を見ず」

「衛士とは警備のことでしょうか。内側から入ったということは、このビルのどこかに隠された入り口でもあるのですか?」

「……それ以上は他言不用だ、娘。さて、それがしの役は貴殿らの力を計ることなり。いざ尋常に勝負!」

 サバカンは廊下まで下がると、ボールを取り出して投げた。出てきたのは赤く、両手に目玉のあるハサミを持ったポケモンである。通常より3倍くらい速そうだ。また、頭には妙な柄の鉢巻きを装備している。

「あのポケモンは……」

 ダルマの図鑑の出番だ。サバカンのポケモンは、ハッサムと呼ばれるストライクの進化形である。鋼タイプがつき素早さこそ低いものの、優秀な耐性で繰り出しやすい。最近はバレットパンチを習得するようになり、決定力がかなり向上している。

「よし、ここは僕に任せてほしい。カイリュー!」

 ワタルもサバカンに対抗してポケモンを出した。太い尻尾に小型の翼と角を持つ、ダルマ達が脱出する時に乗ったポケモンだ。

「あれは、この間のカイリューですわね」

 ユミも図鑑を引っ張り出した。カイリューは珍しいドラゴンタイプを持ち、攻守にわたり高い能力をほこる。近年野生の個体が発見されて大騒ぎになったそうだ。

「さあ、いざ参らん。バレットパンチだ」

「甘いな、大文字!」

 先手はハッサムだ。ハッサムは自らを白銀の弾丸とし、勢いをつけてカイリューに突進した。攻撃に成功すると一気にサバカンの元に逃げ帰り、カイリューの炎を軽やかに避けきった。カイリューは苦しそうな表情である。

「くっ、たかが先制技でここまで効いてくるなんて……」

「ハッサムの特性はテクニシャン。持ち物はこの拘り鉢巻き。元より高き攻撃を活かせば、チャンピオンのポケモンと言えどかくなるべし」

「あのハッサム、スピードをバレットパンチでカバーしとるな。こりゃ普通にやっても捕まらんぞ」

 端っこで鍋をかぶりながらドーゲンがハッサムの戦いを分析する。それを聞いたワタルは不敵な笑みを浮かべた。

「大丈夫ですよ。僕は腐ってもチャンピオンですから」

「ほう、それはなんともかたはらいたし。ハッサムの攻撃は耐えてせいぜい2回……所詮この程度よ。げに悲しきは貴殿が弱さ。トドメだ、バレットパンチ」

 ハッサムは再び動き始めた。しかし、カイリューは引き付けるだけで何もしてこない。

「……そこだ。カイリュー、燃えろ!」

 ワタルが叫ぶと、カイリューは自らに火を放ち、瞬く間に火だるまとなった。加速していたハッサムだったが、カイリューの熱で少し怯んだ。これを見逃すチャンピオンではない。

「今だ! カイリュー はかいこうせん」

 カイリューは素早く体の炎を消し去ると、口から黄金色の光線を発射した。光線はハッサムの胸部を直撃し、サバカンもろとも壁に叩きつけた。ハッサムは崩れ落ち、サバカンも片膝をついた。

「ぬぬぬ、少し見くびったか。……今日はこの辺で失礼する。しかと報告せん、『ポケモンリーグのワタルはやや危険だ』と」

 サバカンはハッサムをボールに回収すると、膝を引きずりながらも一目散に走りだした。

「あ、待て! 皆さん追いかけましょう!」

「はい!」

「了解です!」

「逃がしませんよー!」

「待たんか若造!」

 ワタルに促され、皆一斉にサバカンを追った。彼の背中を捕まえようと懸命に走るが、いまいち距離が縮まらない。しばらく走ったサバカンはポケモン交換システムのある部屋に入り込んだ。5人もすぐさま後に続く。

「御用だ、観念……あれ?」

「サバカンが」

「いないです」

「だと……?」

「おー、これはミステリーでーす」

 一同は呆気に取られた。交換所には人1人おらず、もぬけの殻と言って差し支えない状況である。部屋には隠れ得る場所などなく、また逃げられる場所もない。ダルマはまごついた。

「うーん、どういうことだろう。手品でも使ったのかな?」

「それはないと思います、ダルマ様。タネになりそうなものなんてどこにもないですもの」

「確かに。じゃあもっと根本的な何かがあるのか……」

 ダルマは頭をかきむしった。ユミ、ジョバンニ、ドーゲンも考え込む中、ワタルは気を取り直してこう指示するのであった。

「しかし、やつがいないのは明らかです。安全が確保された今、大至急状況の把握に移りましょう!」


・次回予告

いよいよ打倒がらん堂の勢力が出発した。最初の目的地、フスベシティに向かう道中、ダルマ達は様々な話をする。それは、今の彼らにとって数少ない安らぎの時であった。次回、第39話「戦場ティータイム」。ダルマの明日はどっちだっ。




・あつあ通信vol.19

この連載でのコガネシティは色々ぶっとんでます。前近代の街並み、生活風景、コガネ城etc...。しかし、構想段階ではこれを遥かに上回るトンデモ設定でした。まず街がガラス管(上空数百メートルまで続く)で覆われ、地上からの強力な電磁石の反発で大地を浮かべます。上部の大地が影を作らないように高度は調整可。連絡手段はエレベーターのみ。で、上は現代のような大都会、下は風情残る街並み(連載でのコガネシティと同じ感じ)というものでした。今思うと……うん、企画って大事。
ちなみに、サバカンさんが言っていた「かたはらいたし」、近世以降は「笑っちゃうぜ」という意味ですが、それ以前は「傍ら痛し」で「気がかりだ」とかいう意味となります。今回は前者の意味が適切でしょうか。

あつあ通信vol.19、編者あつあつおでん


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