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  [No.717] 第63話「遅れてきた勇者」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2011/09/14(Wed) 10:00:39   48clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「むむ、お前達。下っぱはキキョウか屋敷にしかいないはずだが、何故ここにいる?」

「いえ、先生からの指示です。キキョウに討伐に行く人数を減らし、屋敷を守れとのことでした」

 がらん堂の入り口には、3人の男がいた。1人は門番、後の2人は弟子のようである。3人とも着流しを着て草履を履いている。門番は2人を鋭い目でチェックすると、門を開けた。

「なるほど、先生の指示なら問題ない。屋敷には見られてはまずいものがたくさんあるからな。よし、入れ」

 門番に促され、2人は礼をしながら黙って門をくぐった。それから門番の死角に入り、そそくさと茂みに飛び込む。2人は頭だけを出し、様子を伺った。広大ながらん堂の屋敷だが、人影はまるでない。そして不気味なほど静かだ。

「……そろそろ良いか、ハンサムさんよ」

「ええ。ここなら大丈夫でしょう、ドーゲンさん」

 2人は誰もいないことを確認すると、おもむろに鼻を引っ張りだした。するとなんということか、顔面の皮膚が全て剥け、別人の顔が現れたではないか。更に2人は着流しも脱いだ。そこにいるのはもはやがらん堂の弟子ではなく、2人の中年男性である。

「ふう、やっと楽になったわい。変装というのは思った以上にキツいな」

「最初は皆そう言いますね。ですが人を騙すのはこの上なく面白いですよ、ドーゲンさん」

「……あんた、本当に警察か?」

 2人のうちの1人であるドーゲンは、もう1人のハンサムに突っ込みを入れた。ハンサムはそれをスルーし、腰をさする。

「さあ、そろそろ中に入りましょうか。がらん堂はキキョウに大半の弟子を投入していると推測される。とすれば屋敷に残る弟子は少数、我々でもなんとか突破できるでしょう。かなり鍛えましたからね、老体に鞭打って」

「おい、俺はまだ45だぞ。……おい、何かおかしくねえか?」

 ふと、ドーゲンが辺りを見回した。そして冷や汗が幾筋も滴ってきた。ドーゲンの言葉の意味をいまいち把握できてないのか、ハンサムは首を捻る。

「おかしい? 私にはなんのことか。静かですし、問題があるようには思えません」

「あんたも分かってねえたあ。静かすぎるだろ、今。ポケモンの鳴き声さえない。明らかに変だ」

「そう言われれば……こ、これは!」

「ふふふ、やはり図星か。警戒して正解だった」

 ハンサムが周囲を眺めると、物影からわらわらと人が集まってきた。数は40人とも50人ともいそうだ。その中には、あの門番も混じっている。

「お前は先程の門番、何をした!」

「何もしてないさ。ただ怪しい奴を敷地内に誘い込んだと仲間に知らせただけのこと」

「くっ、私の変装が見破られるとは……」

 ハンサムが唇を噛んだ。それを受け、門番はにやにやしながら1歩前進する。

「ああ、あれか。確かに変装は完璧と言って差し支えない。だが先生の行動が不自然すぎる。がらん堂は報連相を徹底している故、そのような真似は有り得ない! まして先生がルールを無視したら、私達に示しがつかないだろ?」

「……油断したか。こうなればこちらもただではやられたりしない!」

「ハンサムさんよ、逃げるのも戦うのも無理だと思うのだが」

 ドーゲンは四方を指差した。いつの間にか背後からも弟子が迫り、進退窮まったと表現しても差し支えない。包囲網は徐々に狭まり、血路を開くことすら難しい状況だ。

「くくく、ものわかりの良い奴だ。皆の衆、かかれ!」

「くそっ、ここまでか……」

 ハンサムは天を仰いだ。彼の視界に2つの影が通り過ぎる。次の瞬間、その影が彼の目の前に飛び降り、弟子に向かって突進。それを数回ほど繰り返し、弟子達を皆のびさせてしまった。残るは門番のみである。門番は不測の事態に目を丸くした。

「なな、何が起こった? 私達がらん堂の兄弟が全滅するなど、よほどの手練でないと不可能だぞ! 何者だ一体!」

「……勇者は遅れてやってくる。どんなに遠く離れても、助けの声ありゃ馳せ参じる。これぞヒーローの心意気よ!」

「あ、あれはまさか……」

「1人に1匹のトレーナーか、セキエイで見たな。確か……」

「勇者ゴロウ、ただ今参上!」

 2つの影のうちの1つは人であった。その者は名乗り口上をあげると、門番にのしかかった。

「ば、馬鹿な……」

 門番は抵抗するものの、やはり気絶するのであった。突然登場したその人は、軽いノリでハンサム達に声をかけた。

「ようおっさん達、大丈夫か? 早速だけどがらん堂の奴らを縛るの手伝ってくれよ」










「ゴロウ君、実に驚いたよ。まさかたった1人でこの場を切り抜けてしまうとは」

「うむ、若いもんはそれくらいやんちゃでなければな!」

 一段落した後、ハンサム達は現れた影、ゴロウと話をした。近くには足首と、手首を背中で縛られたがらん堂の弟子達が転がっている。ゴロウは頭をかきながら喋る。

「へへ、セキエイできっちり鍛えた甲斐があったもんだぜ」

「……そういえばゴロウ君、君はどこからやってきたのだ? 道によってはがらん堂の者と鉢合わせたはずだが」

 不意に、ハンサムがゴロウに尋ねた。セキエイからコガネまで、ハンサム達がたどり着くまで10日はかかったのだから、急にやってきたことに疑問を持つのは自然な成り行きである。

「道のり? セキエイからキキョウまで飛んで、そこから自転車で36番道路と35番道路を駆け抜けてきたけど。がらん堂の奴らにはたくさん出くわしたけど、全員倒しといたぜ」

「ぜ、全員か。それはまた……恐ろしい強さだな。しかし、キキョウまで飛んだというのはどういうことだ?」

「ああ、交換システムが改造されてたらしいじゃん。あれを使わせてもらったんだよ。すげえ気分が悪かったけど、おかげで間に合ったみたいだな」

「全くだ。助かったぞボウズ、それとラッタにもな」

 ドーゲンはもう1つの影の正体、ラッタに頭を下げた。ラッタもない首を少し曲げる。

「……さ、ぐずぐずしている暇はない。皆が無事ならここに集合することになっている。それまでに残党探しと物色をしておくとしよう」

 ハンサムがそう言うと、3人と1匹はがらん堂の屋敷へ潜入するのであった。


・次回予告

ドーゲンとハンサム、ゴロウは外で戦っていたワタル達と合流。彼らががらん堂の捜索をしていると、あの人を発見。その人から聞かされたことは、この動乱の根本に関わるものであった。次回、第64話「合流、そして発覚」。彼らの明日はどっちだっ。



・あつあ通信vol.44

カラシ以来の無双状態に、書いてる私もちょっと興奮しました。普段はゲームに忠実な戦闘なので、どうしても無双にならないわけです。

そして今日は久々にダメージ計算がありませんでした。私の連載からバトルを引いたら水分の抜けたキュウリみたいなものですが、終盤だし大丈夫か。何度も言ってますが、70話(遅くとも73話)までには決着がつきます。そこまで読んでもらえれば後はなんとかなりますので、もう少しお付き合いください。


あつあ通信vol.44、編者あつあつおでん


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