マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ
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  •   [No.3808] カイリューが釣れました 10 投稿者:マームル   投稿日:2015/08/23(Sun) 13:50:35     124clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:カイリュー】 【ウインディ

     空が黒くなり、焚火を付けた。
     星が見えている。一通りの治療を終えても、夜を迎えてもカイリューは目を覚まさなかった。
     俺とウインディは、ただカイリューが起きるのを待った。
     ココドラは夜飯を家で待っているのだろうか。
     小さい体だから、外にも出れるようにしてあるし、どこかの廃材を勝手に食ってるかもしれない。
     ふぅ、と俺は息を吐いた。空腹もあったが、それ以上に緊張していた。
     カイリューが起きた時、どう声を掛けようか。結構悩んでいた。
     寧ろ、俺にとってはここからが本番かもしれない。

     日が完全に沈んでから、暫くした頃。カイリューが目を覚ました。
     腕時計では8時を過ぎていた。
    「……起きたか」
     目を擦り、疲れたような目で俺とウインディを見ていた。体を起こすと、木に凭れて口を開け、体の力を抜いた。
     復讐は終わった。納得出来ない形であろうと。
     転生する時がどれ位の時間経った後なのか、そして転生したとしても転生前の記憶を持っているかも分からない。
     誰も実証した人は居ない。
    「なあ」
     俺は、カイリューに言った。
    「前に進む気は無いのか?」
     どういう意味だ、と言うようにカイリューは首を傾げた。
     俺は、唾を飲み込みたくなる気持ちを抑え、なるべく平静にしながら言った。
    「忘れろ、とは言わないけれど、新しく子を育てたりとかをするつもりは無いのか?
     失った物ばかりを悔やんでいても、何にもならないだろう」
     これもまた、ドラマでありそうな陳腐な台詞だ。
     しかし言えば、怒るかもしれないと俺は思っていた。けれどもカイリューは、そうか、と言ったように空を眺めただけだった。
     何だろうか。それは、復讐を終えた後の典型だった。
     気力も何も、カイリューからは無くなっていた。ただの抜け殻のようだった。今までカイリューを傍でかなりの間見て来たが、そんな風になる程、復讐だけの為に生きていたとは思えなかったのに。
     俺は、それ以上何も言えなかった。
     反応は何も無いに等しく、それを予想してなかった俺はどうすれば良いのか、分からなかった。
     ……引っ張るべきだろうか。
     そう、思った。今まではただ、見ているだけだった。肉体の強さからしても、そして身に受けて来た経験も、俺やウインディとは、カイリューは別物だった。
     雷に打たれようが嵐に揉まれようが平然として居られる強靭な体も持っていなければ、子を喪ったような壮絶な経験もしていない。
     俺はカイリューと似ていると思ったとは言え、それはカイリューが大人向けの本だとしたら、俺はそれを分かり易く噛み砕いて内容を簡易化した絵本のようなものだった。
     そんな俺が引っ張っても良いのだろうか。
     前を向いて生きてみろよと、カイリューを無理矢理引っ張っても良いのだろうか。
     ……いや、資格のある無しじゃないものか、これは?
     悩んでも、正答のあるもんじゃなかった。
     こういう時、悩んでしまう自分である事にちょっと後悔を感じる。直感で動ける人間だったらいいのに。
     決める、か。
    「ここに居ちゃあ、色々不便だからな」
     耳は傾けているものの、カイリューはぼうっとしたままだった。
     ハイパーボールを取り出して、軽く下から投げた。
     反射的に、カイリューはそれを掴んだ。捕まらないように、反射的に身に付いたもののように思えた。ボールはあの時と同じく、見事に反応していない。
     カイリューはそれをまじまじと眺めてから、また、俺にボールを返して立ち上がった。
     ただ、初めて出会った時とは違い、カイリューは俺を見つめて来た。
     気怠そうな、気力の無い顔であるのは変わらない。けれど、身振り手振りも無いが、もう一度投げて来いと言っているように思えた。
     付き合ってやるよ、と言った仕方なく、みたいな事なのかもしれないが、俺はもう一度、返されたボールを投げた。
     そして、カイリューは今度は何も抵抗せず、ボールに入った。ボールは震える事もなく、カチッ、と音を立てた。
     出して、言う。
    「帰るぞ」
     言うと、カイリューはゆっくりと頷いた。もう一度カイリューをボールに入れて、焚火を踏み消し、ウインディに乗る。
    「ありがとな」
     ウインディは答える事無く走り出した。
     小山を抜けると、早速街灯が見えた。


     スマホの電源を入れないまま、結局家まで戻って来た。
     すると、懐かしい光が見え、恐怖も覚える。
    「ウインディ……」
     ウインディの足も止まった。
     見えたのはシャンデラの光。その炎に焼かれたら、永遠にこの世を彷徨うとか言われている恐ろしいポケモン。
     事実かどうかは、そうでないと思いたいが、事実らしいのが更に困る。
     同じ炎タイプのウインディでさえ、少し恐れる程だ。
     妻は、俺を見止めると怒ったようにして歩いて来た。隣にはムシャーナも居た。
    「何で、電話切るの。どれだけ心配と思ってるの」
    「いや……」
     言い淀んでいると、はぁ、と妻は一息吐いてから、また言った。
    「無事だった事は良かったわ。で、どうなったの?」
     余り言い辛い事だが、きっと話さないと家にも入れないだろう。
     単刀直入に言う事にした。
    「カイリューは、トルネロスとボルトロスを殺した。トルネロスとボルトロスは光になって消えた。カイリューは俺の手持ちになった」
     沈黙が、流れた。
    「はぁ?」
    「詳しくは、後で話すよ」
    「殺したって何よ」
    「伝説のポケモンは生き返るらしいぞ」
    「知ってるけど、それは仮説でしょうよ」
    「実証されたようなもんだ。それに、な。子供を面白半分に殺す様な伝説だぞ。それに、今回どれだけの被害が出たんだ? 俺は知らんが、かなり出ただろ」
    「う……」
     人も少なからず死んだだろうし。
    「……それに、まあ、俺も、お前と話したい事がある。
     取り敢えず、中に入ろう。腹も減った」
    「分かりました、よ」
     シャンデラの炎が燃え盛らなかった事に内心ほっとしつつ、ふと、思い出した。
     掃除を余りしてない家の中、特に、ウインディの毛だらけになったベッド。俺は、青褪めた。

    * * * * *

     卵が動いていた。
     カイリューはそわそわとしている。その顔は、少し複雑そうでもあった。
     やっぱり、思う所はあるのだろう。
     リュウセンランの塔に見舞いに行った時も、カイリューの気分は重いままだった。まあ、その時にハクリューからカイリューに進化していた、今のカイリューの番になったあのトレーナーとまた会った訳だが。
     俺は何も言わなかった。引っ張ると言っても、やった事は連れ回しただけだ。ココドラも一緒に。
     仕事の時も、休みの時も、ボールから出して連れて歩いた。
     バトルもしたし、釣りもしたし、色んな物も食った。ココドラはコドラに進化して、今ではカイリューでも持ち上げるのが少々辛い位の重さになっていた。
     玉鋼を食わせると、今までにない光悦とした表情になっていたのは忘れられない。
     俺も、妻と仲直りした。やっとの事だ。ウインディがベッドで寝る事も無くなった。その後家具屋に行ったら、ふかふかのでかいクッションに陣取られて買う羽目になったが。
     こいつは甘やかすと碌な事が無い。
     それと結局、原因となった事に対しては、子供には、十分に大きくなってから、両方の主義主張を聞かせて選ばせようという事になった。
     たった一つの、カイリューに比べれば些細な事で俺と妻は止まっていた。そしてヨリを戻せたのも、今となってはカイリューのお蔭かもしれないと思う。
     そんな色んな事があって、カイリューはゆっくりと気力を取り戻していったように見えた。
     子を喪った傷跡は残ったままであれど、顔も段々と活力のあるものになっていき、色んな事を楽しむようになっていった。
     時間が解決してくれる。結局の所、そんなドラマで言われるような事は、現実で起きない事もあれば、起きやすい事もあったりもする。

     ウインディも、この頃休みの日は勝手にどこかへ行っている。帰って来る時の寂しそうでも満足げな顔からするに、どこかで逢瀬でもしてるんじゃないかと思う。
     今もここには居ない。どこかで多分、あれこれしてるんじゃないだろうか。
     コドラは今も、食っちゃ寝ばかりだ。日向で今も寝ている。
     カイリューが空を眺めて緊張を解そうとしていると、卵が激しく動き始めた。
     ぴき、ぴき、と皹が入り、殻が割れて行く。そして、半分程が割れて、中からミニリュウが顔を出した。
     カイリューは少しだけ固まっていたが、何かを決めたような顔でミニリュウを持ち上げて顔を近付けた。
     その顔は、吹っ切れていた。
     俺が今までに見た事の無い、陰は僅かにあるが、とても快活な顔だった。


      [No.3420] 少女の旅(短編集) 投稿者:WK   投稿日:2014/09/29(Mon) 20:47:23     120clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:色々詰め合わせ】 【尻切れでも気にしない

     ご機嫌な蝶になって きらめく風に乗って 今すぐ君に会いに行こう――

     服を選ぶのにどれだけかかったか。
     カント―は比較的温暖な気候で、極端に気温が違う、なんて場所はない。ただ、シオンタウンなんかは別の意味で肌寒いかもしれない、という親父の意見があった。
     あたしは言った通りマサラから一度も出たことがないから、ふーんそうなんだ、じゃあ上着一枚くらい持って行くか。それでおしまい。
     ただ、やはりあたしも女なので、それなりに御洒落をしたい。遭難なんかしたら御洒落もくそもないんだけど、そうならない前提で旅をしようと思っていた。
     どうせ行くなら、楽しみたい。
    「キナリ、まだ終わらないの?」
     お袋の声が聞こえた。このオロオロした少しばかり高めの声とも、しばらくお別れだ。
    「服選んでるの」
    「貴方、今から長旅に出るっていうのに、そんなのんきなこと……」
     やれやれ。今までずっとあたしが家から出ないことを嘆いていたのに、いざ行くとなったらこれか。全く、めんどくさい。
     でも、そんなお袋があたしは嫌いになれない。
    「いいでしょ別に。マサラは田舎だけど、トキワまで行けば結構都会って聞いてるし。まさかジャージ姿で行けとか言わないよね?」
    「そりゃそうだけど……」
    「よし、こんなもんかな」
     カーネルは昨日から、出発前の健康診断として研究所にお泊りしている。ポケモンだって、そりゃ人間よりかは万能な体を持っているけれど、不死身ではないのだ。
     旅先で何かあったら大変だ。
     全身鏡で、今の格好を確認する。カーキ色のキャップに、黒のスキニーパンツ。下は黒のスニーカー。上はピーコックブルーのフード付きシャツに、簡単に折り畳めるジャケット。
     そして、胸にネックレス。お守りだ。
    「よし!」
     部屋を眺める。CDに付いて来たポスター三枚、机と本棚に大量に入れられた大量の本たち。フィギアにゲーム機にテレビにタオルケットが散乱したベッド。
     ……次に会うのは、いつになるだろう。
    「親父は?」
    「外よ。ママも行くわ。研究所」
     これは初耳だった。
    「カーネルちゃん以外にも、ポケモンを連れて行くんでしょ? 何を選ぶのか、ママも見たいのよ」
     もちろん、パパもね。とお袋は言った。さっきとは違う、しっかりした声だった。


     研究所までの道を行く時、二人は一度も喋らなかった。それでも研究所のドアを開けて、カーネルが待ってました!と言わんばかりに飛びついてきた時は、驚いた声を出した。
    「やめてよカーネル、くすぐったいよ」
     もふもふの毛が顔や首に当たる。カーネルは、オスのイーブイだ。性格はれいせいだけど、こういう時に甘えたりするのは、親が寂しがりと無邪気だからなのかもしれない。
     何処からか逃げ出してきて、研究所に侵入したのを博士に見つかって、ここで暮らすことになった。やがて私と出会い、何故だが気が合って、こうしてパートナーになった。
     カント―御三家以外のポケモンをパートナーに選ぶのは、マサラでは私が初めてらしい。でも、流石に外の世界を知らないカーネルだけでは不安だと、博士が気を利かせてくれた。
    「キナリちゃん、博士がお待ちだよ」
     研究員の一人であるキサラギさんがやって来た。カーネルがどいて、やっとあたしは起き上がることができた。
    「朝からずっとそわそわしていてね。ドアが開いた音がした途端、出て行ってしまったんだ」
    「素早さが高いんですかね」
    「サンダースにしたら、もっと素早くなるかもしれないね」
     カーネルは進化の意味を分かっているのだろうか。
     廊下の突き当りのドアを開ける。見知った顔の御爺さんが、あたしを見た。
     隣の長机には、三つのモンスターボール。
    「おお、キナリちゃん。パパさんとママさんも」
    「お世話になります。 ……こんな時期に、御三家ポケモンを取り寄せてもらうなんて」
    「いやいや、また新しいトレーナーが旅立つんです。 おめでたいことですよ」
     あたしはボールを眺める。
     伊達に研究所に出入りしてない。御三家がどういうポケモンかくらい、分かっているつもりだ。でも、いざ選ぶとなると、すごく迷う。
     草タイプのポケモン、フシギダネ。
     炎タイプのポケモン、ヒトカゲ。
     水タイプのポケモン、ゼニガメ。
    「……一度ボールから出そうか」
     難しい顔をして考えている私を見かねたのだろう。キサラギさんが博士に許可をもらい、ボールを全部投げた。
     中から出て来た三体は、あたしの膝小僧くらいしかない、小さな姿をしていた。踏まれたらおしまいなイメージを植え付けて来る。
     カーネルが挨拶をすると、三体は戸惑いながらも挨拶を返して来た。やはり、ポケモン同士の方が意志疎通がしやすいらしい。
    「……こうして見ると、みんな小さいわねえ」
     お袋がそっと、フシギダネを抱き上げた。その優しさに安堵したのか、フシギダネは怯えることなく腕に収まる。
    「不思議ね。 ダイキもこんなに小さなポケモンを連れて、旅立ったのね」
     ダイキはゼニガメを選んだ。あのゼニガメは、今はどうしているだろうか。
     旅が楽し過ぎて、一年に一度くらいしか連絡してこないダイキ。もう、カメックスになっただろうか。
    「……」
     あたしはヒトカゲに右の人差し指を出した。ヒトカゲはあたしを少し見た後、おずおずと自分の左手を出して来た。
     小さい。人の赤ん坊の指のようだ。
    「……おいで」
     そっと両腕を広げると、ヒトカゲはあたしにすり寄って来た。そのまま抱きしめる。
     あったかい。小さくても炎タイプなんだということが分かる。
    「ヒトカゲって、進化したら翼が生えて飛べるようになるんですよね、確か」
    「うん。 リザードンっていうポケモンになるよ」
    「あたしは、この子をそこまで成長させられますかね」
    「そりゃ、君次第だよ。 でも、これだけは言える。 君がポケモン達に精一杯何かを伝えようとすれば、きっと彼らも応えてくれるさ」
     ヒトカゲが鳴いた。頭をなでると、気持ちよさそうに目を閉じる。
    「……決めた」

    「博士、あたし、この子と一緒に行きます」

     
     ヒトカゲにニックネームを付けるか、と聞かれてあたしは悩んだ。どうしよう。付けるとしたら、やっぱりセンスのいい名前を付けてあげたい。
    「この子、オスだね」
    「……後で付け直せますかね」
    「どうだろうなー」
    「じゃあ、いいです。 変えるくらいなら、最初からこのままで」
     よろしくね、“ヒトカゲ”。

     六年のブランクは、決して小さな物じゃない。
     でもあたしには、それを賄うだけの知識がある。
     さあ、行こう。世界を広げる旅へ。


     無限大な夢の後の 何もない世の中じゃ そうさ愛しい 思いも負けそうになるけど


     マサラから出たことはなかったが、ネット上では様々な情報を入手できる。
     あたしは一番初めのジムは、ニビにすると決めていた。というか、トキワシティのジムが全く機能していなかった、というのが理由だ。
     各ジムは何処からでも挑戦していいようだが、どうせなら近場から挑戦していった方が効率がいいだろう。ジムリーダーは挑戦者が持っているバッジの数によって、使うポケモンを決めるそうだから。
     一番道路を抜け、トレーナーとバトルしてみた。
     野生ポケモンとのバトルとはまた違う。向こうは、トレーナーの指示によって技を繰り出したり、躱してくる。体力だけでなく、頭も使うのだ。
     それでも何とか勝って、レベルを上げて、ニビシティを目指す。途中、トキワの森という深い森を通ることになった。
     ここはさっきまで生息していなかった虫タイプのポケモンが多い。季節は四月で、幸いにもコクーンの孵化の時期にはギリギリ当たらなかった。
     彼らが孵化し、一斉に巣立つのは初夏だ。五月から六月初旬という所。この時期になると各地の警察署が特定のルートしか入っちゃいけないという指示を出す。
     むしよけスプレーを必ず持参するとか、黒や黄色の服は着ないとか。
     万一襲われた時の対処法、とか。
     ヒトカゲは森にいる時、ずっとあたしの足の側から離れなかった。ポケモンにしか感じない何かがあるのか、と思ったが反対にカーネルは何処吹く風で前を行く。
     時折出て来る虫タイプは、二匹を交互に出してバトルさせた。いくら相性のいいヒトカゲがいても、ずっとバトルさせたら疲れてしまう。
     入ってから約一時間。出口付近にいた虫取り少年とのバトルを終え、あたしは森を抜けた。
    「……」
     マサラとは比べ物にならないくらい、発展した街。トキワも結構大きかったが、どちらかといえばこちらの方がより広くて近代的な気がする。
     地図を出して、施設を確かめる。ポケモンセンター、フレンドリィショップ、あの高台にあるのは、多分化石研究所。確か、化石を見つけたら復元してくれるらしいんだけど……。
     何万年も昔、このカント―はほとんど海だった。そこには、今は絶滅してしまい、化石しか残っていないポケモンが沢山生息していた。その化石を何処かで見つけてくれば、その研究所で復元、ポケモンに戻してくれるのだという。
     ネットで見たことがあった。まあ、あたしは化石なんて持ってないから関係ないけど、覗いてみるのも悪くない。
     そして、あの威圧感を放つ建物が……。
    「ほら、見て。 あそこがニビジムだよ」
     カーネルとヒトカゲが、気合いを入れるように鼻から息を勢いよく吐き出した。

    決して諦めない気持ちがあるなら どんな時でも 希望は味方する

     目の前にそびえ立つ、巨大な岩蛇。
     イシツブテをどうにか倒したあたし達の前に、今度はイワークが立ち塞がった。こいつさえ倒せば、念願のジムバッジが手に入る。
     だけど、流石リーグ公認ジム。そう簡単には、勝たせてくれないらしい。
    「イワーク、“たいあたり”だ!」
     ジムリーダーであるタケシさんが指示を飛ばす。それに応え、イワークが長い体をうねらせて突進してくる。
    「カーネル、かわして!」
     その大きさに怯んでいたカーネルだったが、あたしの声で我に帰ったらしい。即座にフィールドを移動させ、相手からの直撃を避ける。
     イワークに当たった岩は、その勢いによって粉々に砕け散った。破片が、あたし達の前を浮遊して落ちて行く。
    「すごい……。 何て威力」
     でも、負けていられない。
    「“かみつく”!」
     イワークの体は、大小様々な岩によって形成されている。そして、それは頭に近付けば近付くほど、大きくでかく、重くなっていく。
     でも尻尾の方は……。
    「長くて軽いから、相手を振り払ったり叩きつけたりするのに向いている。 つまり、コントロールしやすいってこと。 でも、細いから、神経に一番近い場所でもある!」
     カーネルが尻尾に噛付いた。途端に体の芯まで痛みが走り、イワークは暴れ出す。
    「耐えて!」
     噛付いたまま、必死で耐えるカーネル。
    「甘い! “アイアンテール”だ!」
     イワークが尻尾を大きく振り上げた。そのまま、壁に向かって尻尾を勢いよく叩きつける。
     壁の破片が飛び散った。
    「カーネル!」
     次にアタシが見たのは、目を回して壁の破片と寝ているカーネルだった。これで戦闘不能。
    「ご苦労さん」
     アタシの手持ちは、あと一匹。
     最初にカーネルを出したのは、ヒトカゲよりも有利に戦えると思ったからだ。相手は岩、ヒトカゲは炎。確かにカーネルはノーマル・悪タイプの技ばかり覚えているけど、ダメージはヒトカゲが受けるより少なくなるはずだ。
     でも、今カーネルは戦闘不能。そうなれば、必然的にヒトカゲが出ることになる。
     いけるか……。
    「どうした? 次のポケモンは?」
    「……ヒトカゲ!」
     ヒトカゲは勢いよく雄叫びを上げた。その足には震えも、怯みもない。
     むしろ、早く戦いたい、戦わせろ!というオーラが全身がから溢れている。
    「ヒトカゲ……」
     向こうが気合い十分なのを見て、あたしはパン!と頬を両手で叩いた。
     ヒリヒリする。でも、良い薬だ。
     そうだ。ポケモンが戦いたいと思ってるのに、トレーナーであるあたしが躊躇ってどうする。
     あたしに出来るのは、気合い十分のヒトカゲに上手く指示を出し、勝たせてあげることだけ。
     それだけだ。
    「やるよ、ヒトカゲ!」
    「カゲッ!」
     尻尾の先に灯る炎が、一層燃え盛った気がした。


    きらめきをバッグに詰め込んで 君が笑う楽園まで行こう

     カーネルとヒトカゲの活躍で、あたし達は無事に一つ目のバッジを入手した。カント―のリーグに挑戦できるだけのノルマは、最低でも8つ。
     ほとんどのトレーナーは、このままオツキミ山を越えてハナダシティ・ハナダジムに行くそうだ。途中で出会ったおじさんから教えてもらった。
     山を越えるということは、それなりに危険が伴うと考えるべきだろう。
     あたしは回復薬と、非常食にもなるおいしい水やチョコレートなどを大量に持つことにした。

     オツキミ山は、岩だらけで木が一本もない場所だった。出てくるポケモンは、イシツブテやズバットばかり。
     この前のジム戦で、“メタルクロー”を覚えたヒトカゲが活躍してくれる。でも、使い過ぎると危険なので、逃げられる野生ポケモンとの戦闘はなるだけ避けることにした。
     ここは、たまにだがピッピという可愛らしいポケモンが見つかることがあるらしい。何でも女性に人気で、遠く離れたゲームコーナーの景品にもなっているとか。
     ポケモンを景品にしていいものかどうか。そこら辺はまあ、個人の考えに任せることにする。ちなみに、あたしは普通に捕まえたい。
    「しかし、埃っぽいな」
     しばらく雨が降っていないせいもあるだろうけど、山の中は砂埃が舞っていた。おかげで着ているジャケットに砂が積もって、ザリザリする。
     ここで思ったのは、今のあたしの手持ちがこのままで良いのか、ということ。別にカーネルとヒトカゲに不満があるわけじゃない。ただ、もう少しポケモンを持っている方が、戦闘でも有利になるんじゃないかと思ったのだ。
     ハナダジム戦も控えてることだし、草タイプか電気タイプの一匹でもいれば、それなりに有利に戦えるだろう。
    「――まあ、無理してゲットする必要もないと思うけどさ」
     ふと見ると、薄暗い空間の中で白衣を着た男が、もぞもぞ動いている。ポケモンを探してるわけじゃなさそうだ。
     不思議に思って声を掛けると、彼は数メートルほど飛び上がった。
    「ご、ごめんなさい。 脅かすつもりは……」
     だが、彼は突拍子もないことを言ってきた。
    「……君も化石を取りに来たのかい」
     見ると、男の両腕の中に、石の塊のような物が二つあった。ただの石ではないことが、男の必死な様子と、ぼんやりとだが何か模様のような物が浮き出ていることで分かった。
    「それ、化石なんだ! この山で採れるなんて、初耳」
    「これは僕が見つけたんだ! 君にはやらないぞ!」
     話が噛みあわない。ただ、奪うとか奪わないとか関係なく、盗人扱いされたのには流石に腹が立った。
    「あのね、あたしは何もしてないからね。 そっちが勝手に勘違いしてるだけで、君から化石を奪おうなんて思っては……」
    「いけっ、サンド!」
     問答無用というわけか。まあ仕方ない。ちゃっちゃと終わらせよう。

     結論から言えば、あたしの勝ち。ただ、その後が大変だった。
     負けたと知った向こうは、そのまま全部身包みを剥がされると思ったらしい。化石を抱いたまま、何処かへと逃げ出そうとした。
     だが、化石って意外と重い。
     元々貧相な体をしていた男は、その重さに耐えきれなかったのだろう。走り出してすぐに転んで、あたしに起こされた。
     そこでやっと、あたしが盗人じゃないって分かったらしい。話を聞けば、何でもここ最近、オツキミ山に化石を強奪しようとする変な集団が現れたとか。
    「君は違うみたいだ。 ごめん、早とちりしちゃって」
    「その化石、どうするの」
    「グレンタウンに持って行くよ。 研究所でポケモンに復元してもらうんだ。 ……うん、君に片方あげるよ。 今回でよく分かった。 欲を出し過ぎると、碌なことにならないね」
     ……というわけで、あたしは片方の化石を選ぶ権利を手に入れた。彼はこの岩石だらけの場所から化石を掘り出しただけあって、かなり詳しい。
     かつて、この場所は海で、オムナイトとカブトという古代ポケモンが生息していたらしい。彼らは進化するとそれぞれオムスターとカブトプスというポケモンになり、バトルの用途もまた大分違ってくるそうだ。
    「先に選んでいいよ」
    「そうだなー……。 じゃあ、こうらの化石で」
     地図を開いて、グレンタウンを調べる。マサラタウンからが一番近いけれど、生憎あたしは水ポケモンを持っていない。泳いで行くわけにもいかないから、しばらく復元はお預けだ。
     ごたごたしてたら、いつの間にか出口まで来ていた。外に出ると、満月が美しい。
     静かな夜だ。



     正しさなんてもの 人の物差しによって変わる

     ロケット団。
     あたしがその名前をきちんと聞いたのは、ハナダに行ってからだった。
     ジム戦をするために訪れたそこは、何と強盗に入られていた。盗まれた物は確か、技マシンだったと思う。
     そんな物盗んで、どうするんだか。
     その後、何だかんだで黒い趣味の悪い服を着た男と対峙したあたしは、そいつをバトル(と物理)でボコボコにしてやった。
     かなり特徴のある話し方をする男だった。カント―の人間じゃないらしい。何か……。イッシュ地方とかいう、海の向こうの出身だと聞いた。
     面倒なので警察には引き渡さなかった。盗まれた物を取り返せただけでも、満足したし。
     ただ、これで終わりじゃなかった。
     
     二番目、三番目とバッジを手に入れたあたしは、シオンタウンという街へたどり着いた。ここは、親父が言っていた『別の意味で寒気がする街』だ。
     確かに言われた通り、妙に肌寒く感じる。その理由が、ポケモンセンターにいた女性の話で分かった。
     ここは、ポケモンタワーという、ポケモンのお墓がある街なのだ。不謹慎かもしれないが、やはり未練を持って死んだポケモンもいるのだろう。
     きちんと供養されても、どうしても捨てきれない何かがある……。
     ポケモンだって機械じゃないし、そういうこともきっとあるだろう。
     
     ポケモンタワーには、ゴーストタイプが生息しているらしい。扱いは難しいが、上手くいけばトリッキーな戦法で活躍してくれるゴーストタイプ。
     一匹は欲しい所だ。まだカーネルと……リザードしかいないし。
     だが、そうは問屋が卸してくれなかった。
     何故か……本当に何故か、そこはロケット団に占拠されていた。
     墓荒らしでもしてるのかと思ったら、違った。
     ここにはゴーストタイプ以外に、カラカラというポケモンが生息しているらしい。それで、このカラカラが被っている頭の骨は、裏ルートで高く売れるそうだ。
     つまり、金儲けのためだけに、ここを占拠してカラカラを襲っているというわけだ。
     一人下っ端団員を捕まえたあたしは、それを聞き出して吐き気がした。こんなに吐き気を催す邪悪にあったのは、多分生まれて初めてかもしれない。
     だけど、トラブルの元はそれだけじゃなかった。
     何と、そのタワーには幽霊が出るという話まであった。最初はてっきり、ロケット団が一般人を寄せ付けないためだけに作った噂話かと思ったんだけど……。
     出た。本当に、あたしは見た。
     おかげでみっともない醜態を晒すことになってしまった。やだやだ。

     そこで、一匹のはぐれゴースと出会ったあたしは、道案内をしてもらうことになる。そいつは周りに馴染めず、いつも一匹でいたらしい。
     でも、あたしが持っていた音楽プレーヤーに興味を示したようで、自ら道案内を買ってくれることになった。
     ……いざバトルになると、逃げ腰になるけど。『おくびょう』なのかもしれない。ま、良いけどね。
     さて、上の方に行くにつれて、だんだん空気が冷たくなって来た。霊感がないあたしでも分かる。

    『何かいる――』

     冷たい空気と共に、それは現れた。子供に描かせたら、こんな感じになるだろうな……。そんな姿だ。
     攻撃しようとしても、相手は幽霊。実体がない上に、カーネル達も怖がって技を出せない。
     おまけにゴースが全く役に立たない。ゴーストタイプが幽霊にビビッてどうすんの!
     だが、ここで転機が訪れる。
     騒ぎまくってたあたし達の前に、上からロケット団の下っ端がやって来た。どうやら、騒ぎは上にまで響いていたらしい。で、業を煮やした上司に言われて様子を見に来た、と。
     ……いや、その騒ぎの現況を殺してしまえ、的なイントネーションだったのかもしれない。現にその下っ端は、人の一人でも殺してそうな面構えだった。
     しかし彼も運が無かった。
     階段を下りてきた途端、転んだあたしの下敷きになってしまったからだ。
     華の女子高生(十六歳!)の下敷きになるなんて、男としては喜ばしいこと……でもなかったようだ。まあ、その瞬間相手は気絶していたから、話は聞けなかったけど。
     男はおでこにゴーグルのような物を装着していた。そういえば、ロケット団は幽霊騒動に悩まされなかったのだろうか。ポケモンの攻撃が全く効かないなら、当然彼らが使うポケモンも使えないということになる。
     もしかして、とあたしはそのゴーグルをぶんどった。途中、ブチブチという音がしたような気がするが、気にしない。
     少し躊躇った後、レンズの部分だけ目に当てる。
    「……!」
     レンズを通してみた幽霊は、以前図鑑で見たことのあるポケモンに、よく似ていた。そしてその瞬間、あたしは全てを悟った。

     この幽霊は……。ロケット団に殺されたカラカラの、肉親だと。

    ―――――――――――
     好きな曲の歌詞に合わせて書いてみたその一。
     まだまだ続く。
       


      [No.3040] 批評チャットログ 記事24-29 投稿者:No.017   投稿日:2013/08/15(Thu) 09:37:49     72clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:フォルクローレ】 【鳥居の向こう

    チャットログです。記事24〜47を取り扱いました。
    記事によってはあんまり批評になっていませんが、そこはご愛敬でお願いします……
    先に言っておく。
    オオバコとホエルオー、木々神様、白黒英雄まじごめん(

    あと検討した順番がばらばらなので、時間と記事順は一致していません。

    ※匿名投稿の性質上、時々作者によるステマ、自作自演があります。



    ■24 鳥居の向こう
    22:25:42 No.017 24 鳥居の向こう
    22:26:35 No.017 まあ これは 小説版と一緒に楽しんでくださいっていうか 両方掲載狙ったなこの野郎wwww
    22:26:48 No.017 冬の神もやっちゃったしな
    22:27:32 音色 これと冬の神は小説にもなってるからセットでお勧めすべきですね
    22:27:48 No.017 小説版で実は裏話がわかって フォルクローレがイラスト見れる っていう
    22:27:59 砂糖水 むしろ冬の神はどこを気に入ってもらえたのかわからない そして書き直すといってやってない
    22:28:41 リング やりませう
    22:29:05 砂糖水 鳥居の向こうは見事すぎてもう
    22:29:13 きとら 狙いというのは見事なものでございます
    22:30:08 No.017 鳥居はうまいことやりやがったよな
    22:32:58 リング ヨノワールが苦労人ですね



    ■25 ポケモン情報コラム:旅人のつぶやき
    22:34:01 No.017 サンドマンはそのまんまの設定の伝承があるようですね
    22:34:09 カラメル おおそうなのですか
    22:34:26 No.017 ただポケモンの世界ではイシズマイにのってる
    22:35:18 No.017 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B6%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%9E%E3%83%B3
    22:35:20 リング イワパレスなら人間でも乗れそう
    22:35:45 No.017 http://www.sandmaennchen.de/ 東ドイツでアニメになってるそうな
    22:36:15 No.017 こいつがイシズマイとかイワパレスに乗ってたら結構かわいいかもとは
    22:36:20 カラメル わお
    22:36:46 きとら 誰かの創作でノボリが通勤用イワパレスにのって出社というのを思い出した
    22:37:50 リング 可愛らしいアニメですなぁ
    22:38:43 No.017 できれば 砂かけとか すなおこしとか そのへんも絡めて欲しかったなぁ

    ■26 見返り狐
    22:39:28 No.017 26 見返り狐
    22:39:54 No.017 私これ結構好きなんだよね これぞ民俗じゃねえ?
    22:40:14 カラメル これ山形だと馬ですね
    22:40:18 きとら どうでもいいですが生息してないものを信仰しているのがすげーなと思いました
    22:40:52 No.017 それはちゃんと理由が書いてあるに出納得した そこを含めていいと思ったな
    22:41:59 リング 信仰がはなれたところに伝わるってのはいいですよね 逆のパターンがシントの遺跡ですが、上手く逆を取った感じ
    22:40:53 カラメル 北海道って結構外の人多くてこういうのもよくありそうです
    22:40:30 リング キュウコンの魔の手が
    22:41:11 きとら キュウコンのしっぽはたくさん
    22:41:54 No.017 ちょっとわかんなかったのは見返りってどういう図なのかわからなかった。 仮に通ったら一回図解してもらったほうがいいかもしれない
    22:42:07 きとら 見返り美人図みたいな感じなんじゃないかな
    22:42:41 No.017 まあ 見返りつーよりは尻尾の数なんでしょうけど
    22:44:00 リング ふもとから見る人には尻を見せている格好で、山頂に向かって吠えている姿?
    22:44:12 カラメル http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%AA%E5%BD%A2
    22:44:25 カラメル 各地にあるのか―
    22:45:08 No.017 なるほど 雪形っていうのか
    22:45:37 リング おぉ、綺麗だ
    22:47:01 カラメル http://www.yukihaku.net/yukigata/ 多分こっちのが詳しい
    22:47:02 No.017 いいね いかにも民俗だ 季節ものというのも素晴らしい
    22:48:21 カラメル 愛媛にもあるのか…
    22:49:43 カラメル ウサギと馬が多い模様 新潟にサカサ狐というの発見
    22:51:57 カラメル 北と南だとかなり傾向違いますね
    22:46:33 リング 山肌に雪が尻尾の形で残っていて、顔がぽつんとある……というのが思い浮かぶなぁ。やっぱりキュウコンは尻を見せて(
    22:50:58 No.017 雪がとけた部分が尻尾になると思ってたんだが違うのか…
    22:51:22 カラメル 雪の部分がしっぽかとてっきり
    22:51:55 No.017 「その際雪の下から現れる山肌の黒が背後へと振り向くキュウコンの形をした影に見えたならば、」ってあるね
    22:52:13 カラメル あうち よく読んでないの丸わかりw
    22:52:14 リング あぁ。逆だったw
    22:52:43 No.017 だよね 尻尾が少ないと冷害 だから 尻尾多いほうが雪がとけてる事になる
    22:52:51 カラメル なる
    22:53:45 No.017 雪型っていうか 雪溶け型っていうかw
    22:54:20 カラメル ああ逆ですね この場合 なるほど だから勘違いしたのか



    ■27 蟲毒
    22:55:01 No.017 これ 好きなんだけど 絵にすんのむずかしいねw 地獄絵図になっちゃうw
    22:55:50 きとら おんみょーんにすればいいんじゃないのかな
    22:56:31 No.017 おんみょーんは核心部だからなぁ なんかオチといい 小説的なんだよね
    22:57:03 No.017 ああ、でもあれか シルエット108つ描いて…(死ぬわ
    22:56:01 No.017 採用されなかったら 小説にぶち込むのもいいように思った
    22:57:35 リング 待てよ、イシツブテとかマルマインなら108描くのも楽だ
    22:58:32 きとら 初代ゆうれいを108つとかでもいいんじゃないか
    22:58:42 リング これ、DP時代のアニメの話ですね。サトシが波導使いと勘違いされたお話
    23:00:24 NOAH ミカルゲって魂108つですよね?108つ事に性格が違うって言うのも面白いなと思う私。
    23:00:41 きとら ピカチュウをつれた でアルセウスのあの人かとおもったらあいつはボサミミピチューだった


    ■28 火猿鬼伝説
    23:03:06 きとら これなんかモデルがあるのかな ぼくかんじよめないからむずかしくてずつうがする
    23:04:31 No.017 元ネタ http://99ya.gozaru.jp/yokoko/8saruoni.htm
    23:03:52 NOAH かえんおに……??
    23:04:03 音色 ひざるおに って読んでた((
    23:04:22 きとら かえんき
    23:04:25 リング かえんきって読んでた
    23:04:42 No.017 ひざるおにって読んでた
    23:04:59 砂糖水 ルビないからどっちでもいいんじゃ…(
    23:06:02 No.017 倒すのにポケモンを使うとか 例の方法をポケモンの頭イイのに教えてもらうとか なんか工夫が欲しかったな
    23:06:45 きとら とりあえずひらがなをください。ゆとりにはむずかしいよみをするかんじがきついです。ルビあっても
    23:07:35 NOAH これで『バオッキーと読みます』とか言われたらもう……w
    23:08:36 砂糖水 ああバオッキーでもいいのかw
    23:07:46 リング 神々をポケモンにするとかの工夫が必要ですね、バシャーモとか
    23:08:06 リング 劣化ザルと呼ばれていたバシャーモとか!
    23:08:26 きとら この倒された後にどすぐろいまさに飢餓ジョーみたいな状態になっているので、そこの川ははいっちゃいけないとか伝承につなげてたらいいなあと思った
    23:08:37 音色 鶏には荷が重いですね>猿
    23:09:04 No.017 そこのおねーさんキレイダネ ボクガイイコト オシエテアゲルヨ
    23:09:13 砂糖水 劣化ザル言わないで!バシャーモさんの方がカッコイイし!
    23:09:32 No.017 バシャーモはイケメンでえろいから許される
    23:09:37 リング やだ、鳩さんが変態
    23:09:40 きとら ポケモン界のイケメン、ラティオスにはおよばn(今関係ない
    23:10:18 NOAH 鳩さんwwいいよもっとヤろうwww
    23:10:23 砂糖水 リングさんが言っても説得力がw
    23:10:40 No.017 リングさんには負けますよ
    23:10:49 リング ゴウカザルもエロイでしょう! はいてないし、はいてないし!
    23:11:08 NOAH もうそうしたらみんなはいてないでしょう
    23:11:17 No.017 もはや記事の話じゃなくなってる
    23:11:42 No.017 火猿鬼は暴れ回りました 卑猥的意味で そして女神に粛正されました


    ■29 慣用句:ユクシーに眠らされる
    23:12:21 No.017 29 慣用句:ユクシーに眠らされる
    23:12:43 リング 図鑑設定通りですね
    23:13:00 No.017 ・「シンオウの学生が祈願に訪れることも少なくありません。」→シンオウの外の学生?
    ・前半部は大変良いのだが、後半部の「ユクシーに眠らされた」事例としての怪しいパッチの解説がわかりにくい。
    23:13:57 きとら 実は後半のアプリの下りがよくわかっておらず その人が開発したアプリはポリゴンZに載せることが出来るのか、それともポリゴンを改良するアプリなのか なのでその辺りをkwskしてもらいたい
    23:14:30 No.017 説明はしょりすぎて私も理解するのに10回くらい読んでしまったので事実わからんのは確かだろう。
    ・「しかし、ネット上にはなぜか、時折思いもよらないようなアプリが無料で流されています。製作者の名前はラマッコロクルという名前で、これはシンオウの古い言葉で『知恵者』を意味し、湖に住むユクシーと同じ名前を名乗っています。」
    →ラマッコロクルは怪しいパッチの製作者なのか、ポリゴンZに搭載できる何らかアプリを開発したのか、前後の文章から読み取る事が出来なかった。思いもよらぬアプリとはどんなアプリだったのか、その説明が無いので前後関係が不明になっている。
    23:15:23 No.017 一生懸命読み取ったところによると
    1、あやしいパッチが開発、ポリゴンZ出現
    2、ポリゴンZにはアプリが搭載できない為、戦闘以外には使えないポケモンだよ。だから進化やめといたほうがいいよ、とポロゴン開発の某企業が牽制
    3、ところがラマッコロクルがポリゴンZに搭載できるアプリを次々に開発、某企業焦る
    4、きっとラマッコロクルがあやしいパッチの開発者に違いない! 某企業が警察に裏金を渡し、捜査を開始
    5、が、捕まるのはプログラムなんて出来ない初心者ばかり。彼らはユクシーに眠らされていたんだ!というのがネット民都市伝説クラスタの見解。
    という事でおk? もうちょっとわかりやすく書いてください。
    23:21:27 砂糖水 鳩さんの解説読んですごく納得
    23:15:06 きとら 校正行きです
    23:15:15 リング そこらへんが分からないと絵にするにも難しいですなぁ
    23:15:57 きとら ユクシーに眠らされていたからなぜ彼らって誰( ゆとりにはむずかしいのでもうすこしkwsk
    23:24:47 きとら 警察に捜査させてもプログラムを学んでない人がパソコン複数で操作していることだけはつかんだがそれ以降はつかめないってことか
    23:18:57 きとら 校正で直せるなら題材まったくもんだいないと思うよ
    23:19:18 No.017 とにかく 前後関係はしょって書きすぎてわかんねええええ ということです
    23:19:31 きとら あと知恵者って意味がなんでユクシーと同じ名前なのかわかんね
    23:19:36 きとら ユクシーってさ Uとピクシー(いたずら好きの妖精ってか小鬼?)合わせた言葉じゃないのか
    23:19:56 No.017 知識の神様だからでしょ はい きとらんは図鑑を読んでこよう!
    23:20:55 No.017
    ちしきのかみ と よばれている。 めを あわせた ものの きおくを けしてしまう ちからを もつという。
    ユクシーの たんじょうにより ひとびとの せいかつを ゆたかにする ちえが うまれたと いわれている。
    ユクシーが とびまわったことで ひとびとに ものごとを かいけつする ちえと いうものが うまれた。
    ひとびとに さまざまな もんだいを かいけつするための ちえを さずけたと いわれる ポケモン。
    23:21:12 きとら ぴじょんぴょんちがうわー ユクシーって名前の由来と知恵者って言う意味が一緒じゃないのになんでだろうねーって話だー
    23:22:27 No.017 ユクシーを知恵物としてるのはユクシーが知識の神様だからであって 名前の由来は関係無いでしょ
    23:22:32 きとら あーなるほど ユクシーと同じ名前じゃなくて、ユクシーと同じ意味の名前を名乗っていますのが正しいんじゃないかそうしたら 全然違う名前じゃん、になる
    23:23:07 リング ユクシーの名前の由来はUMAですし
    23:23:40 きとら 国語の問題だった
    23:23:47 NOAH コロッポロクル=知恵者なのは、まあアイヌ語辺りなのはわかったけど 図鑑の説明とこの記事でなんでコロッポロクル=ユクシーなのかはわかんない
    23:25:16 砂糖水 シンオウの人は昔、ラマッコロクルと呼んでいたポケモンを今はユクシーと呼んでる て感じですかね?
    23:26:42 きとら 学名はユクシーですが、シンオウの古くからの呼び方はラマッコロクルでした。みたいな?
    23:27:15 NOAH ラマッコロクル=アイヌ語でユクシーってことかな
    23:27:11 No.017 あれだな ここもあるいみはしょって説明しちゃってるとこで「知識の神ユクシーを意識していると思われるラマッコロクルを名乗っている 」だったら一発で判る
    23:27:56 砂糖水 予備知識あるせいかあんまりここは混乱しなかった
    23:28:41 No.017 まあ 知識の神ユクシーが前提にあれば ここはあまり混乱しない
    23:26:42 No.017 まあ言いたい事はそういうことだ 題材はいいんじゃないか


      [No.2656] Grow up! 投稿者:きとら   《URL》   投稿日:2012/10/01(Mon) 23:53:07     117clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    「トウコやだ。ベルがいい」
     チェレンの言葉がまっすぐ突き刺さる。トウコが初めて恋を知った相手の言葉はこうだった。
    「トウコ怖いもん。ベルのが優しいから」
     小さい時からずっと三人は一緒だった。優しい女の子のベル、リーダー格のチェレン。トウコがずっと一緒にいるチェレンに惹かれるのは当たり前のことだった。なのにチェレンはそれを何を言ってんだというようにあしらった。理由は、トウコの性格。
    「なんでだよ!ベルも優しいけど私だって優しいじゃん!」
     拒絶され、思わずチェレンを突き飛ばす。尻餅をついたチェレンが、だからだよと小さく言った。


    「あー、ベル?うん……そう……よかったな!」
     何も知らないベルは、トウコによくライブキャスターで連絡してくる。
     ベルはトウコから見ても優しくて気が効く子だ。小さい時からずっと一緒。トウコも女の子というのはこういう子のことを言うと解っている。けれど自分はそんな繊細な性格をしていない。
     少し年上の男の子とも喧嘩して勝ってしまうし、野生のポケモンだって下手したら追い返せる。それなのに、ベルはまわりからかわいがられ、守られて優しく接していた。もちろん、トウコにだって優しい。それゆえトウコの気持ちには気付けない。
     嫉妬まじりの感情を送ってることなんて。
     もし気付いていたなら、連絡して来ない。チェレンと付き合うことにしたとか、チェレンとデートしに行くとか。その話を聞く度にトウコはチェレンに言われた拒絶の言葉が巡った。
    「んじゃ。気をつけろよ。プラズマ団とかもどこにいるかわかんねーし。おう、大丈夫だ、こっちは」
     ライブキャスターを切る。大丈夫なんかじゃない。心が通じなかった相手を、ベルは軽々と触れ合って楽しそうにしている。それを想像しただけでどれだけ平穏な心が保てなくなるか。いつものトウコでいられなくなるか。チェレンもベルも、そんなこと気付かない。むしろトウコなんていなかったかのように二人は振る舞う。
     最悪だ。どうしてこんな嫌われてしまっているのだろう。トウコの心は答えが全く出なかった。



     目の前にいるのはNだ。カノコタウンを出てからというもの、何かと会う。ポケモンにしか興味ないことを言っておきながら、トウコの人間関係をずばり言い当てた。
    「キミとボクは似ている。トモダチはあの子たちではない」
     ポケモンと共に孤高の道を歩むものだと、トウコには聞こえた。Nには絶対に弱いところを見せられないと、威嚇してきたけれど、この時ばかりはNが去ってないというのに泣き崩れてしまった。いきなりの変化にNも驚いてしばらくトウコを見つめていた。
     Nの前で泣いたのは一度だけであるが、いけ好かないという点は全く変わらない。けれど、以前とは違う心がトウコにあった。チェレンに感じた以上の親しみ。チェレンと違ってベルよりもじっと見ている。そして優しくしてくれる。こんなトウコでも受け入れてくれる。
     いつか、Nにこの気持ちを告げなければならない。受け入れられないことがない。Nはきっと、好きでいてくれる。
     ライモンシティで観覧車に誘われ、嬉しい半分、何をしていいか解らない半分。Nと二人きりになった瞬間、トウコはNから視線をそらした。けれどそんなトウコ衝撃を告げて行くのである。Nはまっすぐトウコの目を見て。
    「ボクがプラズマ団の王様だ」
     
     まただ。
     
     なぜ受け入れてもらえない。なぜ人を好きになるという気持ちを一切誰も受け入れてくれない。
     そんなに優しくて守られる女の子がいいと言うのだろうか。ベルのような子になれば、誰からも好かれてこの気持ちも受け入れてくれる人が現れるのだろうか。
     思いきって鏡の前でトウコは話しかけた。鏡の中の自分に、優しくなれ、と。
    「おはようベル。今日もいい天気だね。おはようチェレン。今日もきっと……」
     自分じゃない。鏡の中の自分は偽物だった。人に好かれるために取り繕った中身のない自分。
     今のままでは誰にも好かれなくて、愛されなかったとしても、自分を偽ることの方がよほど辛かった。



     休憩の為に地下鉄の駅のベンチで座っていた。何本かのシングルトレインを見送る。次に乗る列車が指定されているからだ。ミックスオレを飲みながら、ひたすらその電車を待った。
    「シングルトレイン、ご乗車の方は」
     トウコは案内された通りの列車に乗る。
     そこから先はいつもと変わらない光景。ワルビアルがなぎ倒し、残った敵をメブキジカが倒して行く。それでも倒せない時はダイケンキの出番。頼りになる相棒とひたすら前へ前へ進むトウコ。
     ポケモントレーナーなんてみんなこんなもの。ジムリーダーも、四天王も、Nもこんなもの。誰もトウコを止められない。トウコを受け入れない。
    「貴方の実力を讃えて、サブウェイマスターがお待ちです」
     何のことか解らなかった。考え事をしていて、その言葉の意味が解らなかった。どうやら次がシングルトレインの先頭車両のようだ。その先にいるのは、バトルサブウェイを取り仕切るもの。
     けれどそんなのどうせ同じだ。皆変わらない光景しかない。トレーナーなんて皆同じ。ポケモンからの信頼は自信がある。それに勝てる人なんていない。
    「ようこそ、バトルサブウェイへ」
     黒いコートを来た車掌。これが噂のサブウェイマスターなのか。確かにオーラはそこらのトレーナーと違うようではあるが。トウコは何も言わずにモンスターボールを差し出した。
    「つべこべ言わずにやろうぜ。どうせお前もその辺のトレーナーなんだろ?」
    「その辺の、とは随分おおざっぱに分類いたしますね。ではその考えが間違いであることを、証明いたしましょうか。貴方の進路がどちらに進むのか、いざ!」
     ノボリの放ったボールからダストダスが現れる。いつもの調子でワルビアルに地震を命令する。あんなポケモン一発で落ちる。そしたら次は……。
    「ダストダス、ダストシュートです!」
     ダストダスの鎧が砕けた。それからの大量の毒がワルビアルに降り掛かる。相性の問題で、そんなダメージはなかったが、トウコは言葉を失った。ダストダスごときが、ワルビアルの攻撃を耐えられるなど思ってもみなかった。
    「あ、ワ、ル、ビアル、じしん!」
     疲れて動けないダストダスは、あっけなくワルビアルの攻撃で倒れる。次は何が来るのか。トウコは知らず知らずのうちに手を握りしめる。
    「おや、あれだけ挑発しておいて、ようやく実力を理解していただけましたか」
     ノボリは涼しい顔をして次のギギギアルを出して来る。しかも早い。ギギギアルはワルビアルにラスターカノンを、しかも最も柔らかい腹の付近を狙ってやって来た。ぐう、とワルビアルは倒れてしまう。
     強い。ノボリはとても強い。サブウェイマスターと名乗るだけあって強い。このままでは負ける。ポケモンが強いことだけが取り柄なのに、負けたら何も残らなくなってしまう。ただの性格の悪い人間になってしまう。
     負けたくない。まだメブキジカもダイケンキも戦える。元気だ。
    「行けっ、メブキジカ!」
     メブキジカがボールから出るのと同時に、トレイン全体が大きく揺れた。カーブだ。技を命令しなければギギギアルは特殊攻撃でメブキジカを攻撃する。けれどこのカーブで飛び蹴りを命令するのは賭けにも等しい。他に何か手はないか。
     メブキジカが角を振る。春風を受けて桜のいい香りが咲いた角。その匂いがトウコに届く。落ち着け、と言われているようだった。
     トウコは決めた。
    「宿り木のタネ」
     メブキジカの方が速かった。宿り木のタネがギギギアルの歯車の隙間に入り込む。体力を少しずつ奪う。ギギギアル自体は、メブキジカに効果は抜群である技を持っていないはずだ。一撃で倒されることだけは防げる。
     ラスターカノンがメブキジカの胴体を狙う。トウコの命令が一瞬遅く、食らってしまう。勢いに飛ばされ、メブキジカは四本の足で倒れまいと踏ん張った。つるつるのサブウェイの床では止まりにくい。けれどなんとかぶつかる前に止まる。そしてそこから強力な四本の足で跳ねる。
    「飛び蹴り!」
     ギギギアルの接続部を狙う。何度か戦って来た相手だ。メブキジカも要領を心得ている。固い蹄が、ギギギアルを強く蹴り飛ばした。大きな金属が、サブウェイの床にがしゃんと落ちる。ノボリがボールに戻した。
    「急所狙い、ですか。運がよろしいですね」
    「最後の一匹で余裕じゃん?どーすんだよ」
     再びサブウェイ全体が揺れる。カーブに差し掛かっているのだ。それに加え、少し減速している。だとすれば次に来るのは加速。それを計算して命令しないとならない。飛び蹴りは強力だが、外すと自分にダメージが来る。ならばこんな揺れる車内で何度も出すのは危険だ。
    「そうですね、最後でございます。では、行きなさいイワパレス!」
     メブキジカの目の前に現れるイワパレス。助かった。これならメブキジカの方が早く動ける。
    「ウッドホーン!」
    「シザークロスです!」
     桜の香りがする角を振りかざし、メブキジカはイワパレスに一直線。強い角の一撃を、自慢のハサミで受け止めた。そしてそのままノボリの命令通りにメブキジカの角は切り裂かれる。
    「そちらも残りは一匹でございますね」
     この車掌、ただ者ではない。改めてトウコは思った。全てを知り尽くしているような、そんな印象を受ける。もしかしたら手のうちですら知られているのではないだろうか。だとしたら勝てるわけがない。
     けれど解らない。解っていたって、力が強ければ勝てるかもしれない。祈るようにトウコはダイケンキのボールを投げた。
    「ウッドホーンくらって、それなりのダメージは入ってるはずだ。ダイケンキ、確実に仕留めろよ。ハイドロポンプ!」
     トウコは命令してから思い出した。ここは平地ではないこと。急な減速に、ダイケンキはハイドロポンプを打ち損ねる。イワパレスがそこを鋭いハサミで切り裂く。ダイケンキのヒゲが切れそうだった。
    「飛ぶ系の技はやめた方が……でもあの防御からして物理よりも特殊の水が絶対いい。ダイケンキ、ハイドロポンプだ!」
     痛がるダイケンキはもう一度、大量の水流を作り出した。今度こそイワパレスに向けて、イワパレスを撃ち落とせるように。絶対に勝つ為に。大好きなトウコに喜んでもらうために。イワパレスの体が全てダイケンキの水流に飲み込まれる。激しい流れに、ノボリですら近づけない。やっと弱まって来た時、イワパレスはノボリの指示を聞ける状態ではなかった。
    「ブラボー!」
     戦いは終わりを告げた。ノボリがその証にイワパレスをボールに戻していた。
    「見事わたくしに勝利なさいました。これより、あなた様をスーパーシングルトレインに挑戦する権利を差し上げましょう!」
     

     ギアステーションに戻って来た。ノボリから貰ったスーパーシングルトレインへの許可証を見る。なんだか実感が湧かない。あんな強いノボリに勝てたということが。実はこれは幻とかなのでは、と何度もこすったり匂いを嗅いだりしているが、まぎれも無い許可証だ。
    「おや、先ほどの方ですね」
     ノボリに話しかけられる。その声は大人のゆったりとした声で、凄く優しそうだ。
    「いや、その、さっきは悪かった。その辺のトレーナーとかいって」
    「いえ、あなた様ほどの実力者ならばわたくしなどその辺のトレーナーと一緒でしょう。スーパーシングルトレインでもご活躍できるかと思いますよ」
     トウコは不思議だった。負けた相手の実力を素直に認めることが出来るなんて。普通のトレーナーはそんなことせず、負けたら暴言を吐いたり、途中で逃げるようにしてどこかへ行く人をたくさん見て来た。
    「ノボリだっけ。ちょっと聞いていいか?」
    「はい、なんでございましょう」
    「どうしてそんなに強いんだ?」
    「わたくしが、サブウェイマスターであるからですよ。あなた様は十分お強いのに、わたくしを強いと思うのでしょうか?」
    「強いじゃねえか。なんであんなに……」
    「……よければお名前お聞かせ願いますか?」
    「トウコ。カノコタウンから来た」
    「トウコ様、ですね。それでは、スーパーシングルトレインでお待ちしております。わたくしとしては、絶対に来ていただきたいところでございます」
     ノボリは右を差し出して来た。トウコはその手を取る。固くかわされた握手は、ポケモントレーナーとして認めていると言われたようだった。
    「すぐ行ってやるよ!じゃあなノボリ!」
     トウコは走り去る。何を期待していたんだ。チェレンもNも、受け入れなかったじゃないか。なのにまた人を好きになるのか。相手はポケモントレーナーとして受け入れているんだ。そうに違いない。期待なんかするな!


     スーパーシングルトレインに通うため、ギアステーションに来る。前はいなかったものに会う。
     サブウェイマスターノボリだ。トウコが来るのを待っているようで、スーパーシングルトレイン乗り場で待っている。もっと話したいが、目を合わせることも出来ない。
    「お待ちください。顔色が悪く見えますよ」
     ノボリがトウコの手を掴む。その時に目があった。
    「だいじょーぶだよ!それよりそんな敵に探りばかりいれて余裕こいてんと知らねーぞ!」
    「トウコ様の強さは存じております。それより次のトレインをクリアすれば、ですね」
     トウコは無言で乗って行った。これ以上期待させるようなことはして欲しく無かった。受け入れない人間が、優しくするなんて、残酷なことだ。ノボリと交した一言一言が、トウコの心を熱くさせる。
     ノボリが欲しい。背の高い、黒いコートの中に抱かれたい。受け止めて欲しい。今のありのままの自分を。ポケモントレーナーとしての価値しかないなんて言わないで欲しい。女の子として、人間としての価値を認めて欲しい。
     そんなの無理なこと解ってる。そんな魅力がないことなんて解ってる。
     ベルのように優しくもない。大人しくもない。突き進むことでしか生きることが出来なかった。可愛くもない自分をノボリのような大人が受け止めてくれるわけがない。
     ノボリと向かい合えば心が折れてしまいそうになる。急激な変化。止まることを知らない恋心が、トウコを苦しめる。
     ノボリとスーパーシングルトレインの中で会った時、それははっきりと現れた。あの時のように行かない。同じ空間にいるというだけでこんなに苦しいものなのか。
    「トウコ様、この電車を降りたらお話があります」
    「な、なんだよ」
    「まあ、いずれにしてもトウコ様が目的地を決めることでございます」
     もう「トウコ様」と呼んでくれることはないということか。それならば最も強いトレーナーとして記憶させてやる。トウコはポケモンを出した。対するノボリも、モンスターボールを投げた。


     頭の中がスパークしたようだった。ギアステーションのベンチにつくと、倒れ込むようにトウコは座る。
    「勝った。けれど」
     好きな男に勝つなんてどうかしてる。負けず嫌いな性格が、こんなところに災いするなんて。
     勝たなければまた会えたかもしれないのに。何をしているのだろう。ノボリに会えないのは嫌だ。
    「トウコ様、先ほどは素晴らしい戦いでしたね」
     顔をあげた。ノボリが涼しい顔をして立っている。また会えた。思わずトウコの顔が明るくなる。
    「トウコ様、健闘をたたえて、もしこれから予定がなければ付き合っていただきたいところがあるのですが」
    「え、ああ、いいぜ。どこに付き合えばいいんだ?」
    「わたくしが休憩によくいくレストランですよ。安さの割にボリュームがあって、人気の店でございます」
     ノボリについていく。こんなに期待させるなんて酷いやつだ。でも、今はノボリとこうして過ごしていたい。


    「わたくしが出しますので、お好きなものをご注文ください」
     駅員に人気の店だというから、小汚い麺屋を想像していた。けれどここはライモンシティだ。まわりはカップルばかりで、これではデートみたいではないか。ノボリは一体なにを企んでいるのか。こんな魅力のない人間を連れてきて、見せ物にしたいのだろうか。
    「ノボリ」
    「なんでございましょう」
    「何を企んでるんだ。期待させるだけさせといて、何してんだよ」
     トウコはイスから立ち上がる。その音に、まわりの視線が一気に集まった。
    「わたくしは何も企んでおりませんよ。ただトウコ様と」
    「してるだろ!人の心弄んで、さらし者にしてーのかよ!てめえはいいよな、そうやって何人も笑い飛ばしてきたんだろ!?」
    「トウコ様?どうしたのですか?」
    「うるせーよ!男なんてどうせベルみてーなか弱いのがいいんだろ!」
     どうせノボリにも受け入れてもらえない。このままじゃいけないのは解ってるけど、自分を偽って生きるほどトウコは器用ではない。まわりの空気に耐えられず、トウコはノボリに背を向けて出て行った。

    「トウコ様!」
     全力でノボリは追いかける。店から出て数歩のところで、トウコを捕まえることが出来た。
    「何があったのでしょう?あの店の選択がよくなかったのでしょうか?」
    「うるせえんだよ!ノボリなんか、ノボリなんか!」
    「わたくしの何がいけなかったのでしょうか?教えてくださいまし。トウコ様に喜んでもらおうとしているのに、泣かせてはわたくしのプライドに関わります」
     ノボリの胸に抱かれて、トウコは一層声を上げて泣いた。止まらなかった。ノボリがこんなに優しいから。
    「トウコ様、おねがいでございます。わたくしの何が気に入らなかったのでしょう?」
     トウコは答えない。代わりに悲鳴にも聞こえる声で泣き続けるだけだった。


    「チェレンも、Nも、私を受け入れなかったのに、ノボリもそうなんだろ」
     少し落ち着いたところで、トウコは話す。チェレンのこと、Nのこと。夕方のライモンシティは夜へ向けて街灯がちらほらついていた。ゆったりとしたベンチに座って、トウコは絶対にノボリと目を合わせない。
    「それで、トウコ様は受け入れないと思ったのですか?わたくしが?」
    「うるせーよ。どうせ身の程を知れって思ってんだろ。もうギアステーションなんかこねえよ」
     ノボリはトウコの頬に触れた。そして自分の方へと向ける。
    「トウコ様、それは遠回しにわたくしへの告白と受け取っていいのですね」
     顔を背けようとしてもノボリが離さない。だから目をそらして絶対にノボリを見なかった。泣いた後の酷い顔なんて見られたい人間がいるとは思えない。
    「いいのですね。ではわたくしから口説く手間が省けたというものでございます」
    「はぁ!?人の話きいてたのかよ」
    「聞いてましたよ。その人たちがトウコ様に思うのと、わたくしがトウコ様に対する思いは別でございます。一体、その二人がトウコ様を受け入れなかったからなんだというのです?それがわたくしに何の影響があるというのです?わたくしはトウコ様のことを魅力的なトレーナー、そして女性だと思っています。それだけでは、わたくしと付き合っていただけませんか?」
    「バカ、じゃねえの」
     おさまってきた涙が再びあふれる。
    「こんなひでー言葉使いで、守られるほど弱くもねーし、優しくもねーのに、付き合おうとかバカじゃねえの」
    「そうですね。バカかもしれません。恋は盲目と言うでしょう」
    「ノボリは最上級のバカだ。こんな汚いの口説いて、何になるんだよ」
    「今まで耐えて来た思いがあふれてるだけでございましょう。それに今までの男がトウコ様の魅力に気付かなかっただけでしょう。わたくしと付き合っていただけますね」
     トウコの答えを聞くまでもない。トウコの頬を優しくなでて、唇を重ねる。初めてのキスは、涙でよくわからなくて、それでも心はとびきり嬉しくて、夢じゃなかったら何の奇跡が起きたのか。もっと欲しいとねだっても怒られないだろうか。ノボリの袖を強く掴んだ。



    「トウコ様、朝でございます。起きてくださいまし」
     ノボリの家に泊まった朝は、いつもこうだ。夢と現実の境にいたトウコは、ようやく朝の日差しを迎える。
    「んー、ノボリおはよう」
    「おはようございます。もう朝食できていますよ。今日はトーストと目玉焼きでございます」
     シーツに包まりながら、裸のトウコがベッドから起きて来る。
    「トウコ様、あまりに裸でいるともう一回して欲しいと取りますよ」
    「なっ、ノボリの変態!昨日だって2回もしやがって聞いてないぞ!」
    「なぜ事前に何度するかと申告しなければならないのでしょうか。わたくしは、トウコ様を心のままに愛しているだけでございます」
     トウコの額に軽いキスをする。言葉とは裏腹にもっと欲しいと、表情でねだってる。
    「せめて軽いものに着替えてからですよ。シャワー使ってもいいですから」
    「はいはい。じゃあシャワー借りる」
     トウコをバスルームに見送る。
     別人のようだな、とノボリはいつも思う。今みたいに乱暴な言葉で話すくせに、ベッドの中では今までの経験した女性の誰よりも女の子だ。けれどそれがきっとトウコの本当の顔。それを知っているのはノボリだけで、他の誰にも知られたくない。トウコですら気付いていない色気を見せつけられたら、そう思わない男はいない。
    「早く上がってこないと、冷めてしまいますね」
     コーヒーをいれて、テーブルにつく。朝食の前に、もう一度やってしまえばよかったと思うばかりだった。


    ーーーーーーーーーーー
    ノボリ×主人公♀(トウコ)っていうカップリングがあることに私は非常に驚いています。
    共通点ないじゃん
    本編で接点ないじゃん
    それであんなに人気大爆発なのがタブンネには解らないよ。

    書け書けと言われて書いたもの

    人間の魅力は一面から見ただけでは解らないし、素敵だと思う人間は必ずいるんです。
    ちなみにこのトウコのキャラはみーさんの「掴みにいく者」の主人公が公式絵とぴったりだったので  好きにしていいですよっていうから  その、あの、モデルにしました。
    【好きにしていいですよ】


      [No.2655] フィッシング 投稿者:aotoki   投稿日:2012/10/01(Mon) 21:02:20     110clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    なんか凄いらしいつりざおをもらったので、釣りをしてみることにした。
    ルアーとかもついていて、確かに見た目は凄いつりざおだった。あの棒切れにヒモとエサがついただけのつりざおからはえらい進化だ。
    ひょいっと川に投げるとたしかな手応え。
    引き上げるとルアーの先にギャラドスがひっついていた。


    正直言ってアズマオウくらいを想像してたので、ぶったまげた。

    そのギャラドスには、初めて釣り上げたコイキング、が進化したギャラドス(LV62)を見せて丁重にお帰りいただいた。
    逃げたギャラドスが上げた飛沫を浴びながら、たしかにこれは凄いつりざおだと一人感心した。

    ****

    その後もあちこちでつりざおを振ったけれど、どんな場所でも強いポケモンばかりが釣り上がって、とても面白かった。最近はあんまり野生のポケモンと戦ってなかったから、釣り上げたポケモンとのバトルは地上とはまた違った手応えがあって、いいトレーニングになった。

    近くの水場に飽きると、ギャラドスに跨がって海に出た。
    でもギャラドスに乗ると上手くつりざおが振るえないということに気づいて、残念だけどギャラドスは留守番にしてラプラスに乗っていくことにした。
    海のポケモンもたしかに強かったけど、川のポケモンとはまた違った強さで戦いがいがあった。ただ、ドククラゲの多さにだけは辟易したけれど。

    不機嫌そうに上がってきたオクタン。ルアーをぐるぐるまきにして遊ぶメノクラゲ。マンタインには釣り上げた瞬間逃げられて、水面を5mくらい引きずられた。キングラーには糸を切られかけ、何故か40LVのコイキングが引っ掛かったこともあった。
    どうしても釣れないとき、気まぐれに海の底を覗いてみるとたくさんのテッポウオが泳いでいたこともあって、ポケモンが引っかかったのにも気づかず水色と銀の鱗の流れを眺めていた。
    ちなみに、引っかかったのはコイキング(LV40)だった。
    もちろん、ギャラドスを出して丁重にお帰りいただいた。

    ****

    しばらくすると海にも飽きてしまった。
    困ったことに、川と海以外の水場には心当たりがなかった。当たり前だけど。仕方がないのでつりざおを下ろして、また元の地上暮らしに戻った。
    草むらを出たり入ったりのつまらない日々。
    そういえば、洞窟があるって話をどこかで聞いたな。
    ゴローニャと山道を歩いていくと、たしかにあちらこちらに小さな洞窟があった。大抵はイシツブテとか弱いポケモンのねぐらだったけど、たまーにサナギラスとかが飛び出してくることもあって、こちらはこちらでそれなりに楽しかった。

    ある日、たまたま見つけた深めの洞窟を探検していると、微かに水のが聞こえてきた。音の方に歩いていくと、ちょっとした広場くらいの地底湖があった。

    家に帰って、すぐさま夜の山道を戻った。
    背中では赤いルアーが揺れている。


    地底湖で一人、つりざおを振った。ピチョン、ピチョンと水滴が落ちる音に耳を澄ませながら浮きを眺めていると、川や海の時とは違った感情が浮かんできた。
    静かな湖につりざおと水と一人。
    つり上がったアズマオウは小さかったけど、とても綺麗な色をしていた。

    ****

    地底湖という水場を見つけて、またつりざおを持ち歩く日々が始まった。
    洞窟に潜るとなるとラプラス、ギャラドスだけではきつい。かといって手持ちを一杯にすると大変だ。仕方がないので水上での釣りは諦めて、ゴローニャとカポエラーとデンリュウの三匹で、地底湖の岸に腰かけることにした。
    あんなに静かな湖は珍しかったらしく、地底での釣りは想像以上に大変だった。
    上からゴルバット達の襲撃を受けながら釣糸を垂らす。当然逃げられる確率も跳ね上がる。
    けれどそれだけ釣り上げたときの喜びも格別で、いつのまにか戦うことの喜びよりも、釣り上げることへの喜びのほうが勝ってきていた。

    そんなこんなで一ヶ月。
    なんとはなしに、これはまずいと思った。

    修行がてら、久々にりゅうのあなに入ることにした。もちろんフルメンバーで。
    数ヶ月ぶりのりゅうのあなは、前にも増して静けさと荘厳さに磨きがかかったようだった。けど社への道を渡りながら、静けさ以外の何かに興奮しているのに気がついた。

    イブキさんに相手してもらいながらも、何故か妙なところに引っ掛かりを感じていて、そのせいか二匹もやられてしまった。
    たしかに強いけれど、今日は少しぬるかったわね。
    そう言い残して、イブキさんはハクリューに跨がって水面を滑っていってしまった。

    やっぱり腕が鈍ってしまったかなと思ったそのとき、気づいてしまった。



    りゅうのあなも大きな湖だ。



    一回だけと自分に言い聞かせて、鏡のような水面につりざおを振った。ポチャン、という心地いい音が洞穴に響いた。
    鏡の面は揺らぐことなく、ぼくの顔を映しつづける。あまりの釣れなさに、本当はエサがついてないんじゃないかと三回もルアーを確かめた。もちろん、エサはついている。
    ポチャン、ポチャンと水面にルアーを落としつづける。
    見事なまでに、何も引っかからなかった。

    次で最後、そう心に決めてつりざおを振った後、どうしてこんなにも釣りにはまってしまったか。それを考えた。

    初めは、強いポケモンが出てきたからだった。
    その次は、川のポケモンに飽きたからだった。
    じゃあ、その次は?

    どうして地底湖なんて、今までなら通りすぎてしまうような場所にまで、つりざおを振る理由を探したんだろう。
    バトルに飽きたからだろうか。いやそれはない。だってここに来たのは――

    ・・・・来たのは?
    そう思ったとき、浮きがボチャッと沈んだ。


    来た、と急いでリールを回す。だいぶ深くまで糸が垂れたらしく、なかなか上がってこない。その割に手応えは軽く、まるでなにもひっついていないようにリールが回る。でも浮きは沈んだ。
    ならば、


    「えいっ」


    勢いよくつりざおを後ろに振るうと、水色の影が頭上を舞った。

    それは、小さな―小さな小さなミニリュウだった。

    ぺちゃ、と呆気ない音を立ててミニリュウは地面に落っこちた。呆然と眺めていると、ミニリュウは頭をふるふると数回振って起き上がり、きっとぼくを睨んだ。
    図鑑が未発見のポケモンとランプを点滅させる。捕まえないと。捕まえないと。

    「・・・・そうこなくちゃ」

    ぼくはボールを手に取る。ずっと一緒に歩いてきたモンスターボール。モンスターボールを投げると、相棒の一匹、バクフーンが飛び出した。
    「ヴァクゥゥゥウウウ!!!」

    それでもミニリュウは怯まない。

    ぼくはまたボールを手に取る。今まであえて空っぽにしていたボール、ガンテツさんに作ってもらったルアーボール。
    「バクフーン!かえんほうしゃ!」

    バクフーンとミニリュウが上げる飛沫を浴びながら、ぼくは考える。


    そうか、この時のためだけに、つりざおを振っていたんだ。


    そしてこうも考える。

    このつりざおは本当にすごいつりざおだ。



                                "Great fishing" is the end!

    [後書き]

    どうしてBWからつりざおは一発ですごいのがもらえるようになったんでしょうね。
    リュウラセンの塔でカイリューを釣ったとき、りゅうのあなで必死にミニリューを粘ったのを思い出しました。


      [No.2654] 【愛を込めて】Promised morning【花束を】 投稿者:NOAH   《URL》   投稿日:2012/10/01(Mon) 13:48:15     104clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


    部屋着のまま、夜中にコンビニに出掛けたり
    初めて行ったデートのイタリアンの店に、もう一度行ってみたり
    話のオチを話す前に、思い出し笑いをすぬ彼女の口に
    キスを落として、そのまま彼女の抗議を無視して腕に抱き留めて眠ってしまったり

    俺のノクタスと彼女のキレイハナと共に、小さなアパートの窓際にある
    白い花を咲かせたばかりのクチナシの花に水をあげたり……。
    日々、何気ない日常を、恋人として暮らすうちに、俺はこう思ったわけだ。

    彼女と、ミサと結婚して、家族を作って、そして彼女や子どもや
    ポケモン達に囲まれて、幸せにこの命を終えたいと。



    まだ少し濡れている髪を纏めたまま、ミサはソファの上で胡坐をかき
    クルミル人形を抱いて、お笑い番組を見て笑っている。
    俺もその横で、サザンドラのシルエットが描かれているクッションを
    彼女と同じ体制で抱いて見ていた。
    そのソファの向かい側では、ノクタスが彼女のキレイハナを
    俺たちと同じ体制で抱いてテレビを見ていた。
    あの2匹も、同じ草タイプだからなのか、中睦まじく過ごしている。

    窓際のクチナシの花を見ていると、何時だか友人が教えてくれた
    この花の花言葉を思い出していて、何だか咄嗟に感じた想いを
    突然、彼女に伝えたくなった。

    「ミサ。」
    「なあに?リョウ君。」
    「こんな時に言うのも何だけどさ。」
    「うん。」
    「……結婚、しようか。」
    「…………。」
    「……ミサ?」

    あれ、固まっちゃった……?
    やっぱり突然過ぎたかな……。

    「ミサ、聞いて?突然過ぎたし、本当に、こんな時に言うのも何だし
    今更過ぎるけどさ……俺と、結婚して下さい。」
    「……私と?」
    「うん。俺はミサとがいい。」
    「……私で良ければ、喜んで。」
    「ありがとう……指輪、買いに行かなきゃね。」
    「えー、まだ買ってないのにプロポーズしちゃったの?」
    「だって、たった今決めたもん。」
    「……なら、仕方ないね。」

    幸せそうに笑う彼女を見て、改めて、明日から
    新しい一日が始まるのだと感じた。ノクタスとキレイハナが
    俺たちの側にきて、2匹もおめでとう、とでも言うように鳴いた。

    「あ、いつみんなに報告しようか?」
    「それも明日でいいと思うよ?」
    「そうだね……ねえ、そろそろ寝ようか。」
    「……そうだね。」

    テレビの電源を落として、部屋の明りを消すと
    俺とミサは、すぐ横の部屋で横になった。
    少しして寝息を立てる彼女をそっと抱いて
    暗闇に慣れた目で時計を見れば、2つの針は
    12の数字と重なっていた。

    「……お休み、ミサ。」

    明日は少し冷えるらしいから、温かいスープを作って
    俺よりちょっとだけ寝起きの悪い君を起こしに行くよ。



    目を覚ませばそこには 君がいると約束された
    そんな 幸せの朝を迎えに行こう


    「クチナシ・アカネ科常緑低木。原産地はジョウト〜ホウエン。
    季節は6〜7月。花の色は白。花言葉は『とても嬉しい』『幸運』『幸せを運ぶ』。」

    *あとがき*
    久しぶりに大好きなポルノグラフィティの曲を聞いたらビビッ!と来ました。
    そしてその曲をイメージソングとして起用して、この曲に合いそうな花言葉を探した結果
    クチナシの花になりました。花束を上げると言うより、幸せを与えるという形になりましたね。
    曲の歌詞から少しずつ、自分なりに解釈してアレンジしています

    プロポーズと言うと、サプライズとか色々考えるだろうけど
    私はこんな風に、飾りっ気もムードも何もない、当たり前の日常で
    言われたいと思ってる人間なので、そのイメージを最大限に膨らませて書かせて頂きました。
    結婚に関する話を書きたかったので、私としては満足の行く作品になりました。

    皆さんも、花言葉から何か書いて見て下さい。
    より、ポケモン愛が深まると思いますよ。

    イメージソング
    ポルノグラフィティ:約束の朝


    【書いてもいいのよ】
    【描いてもいいのよ】
    【批評していいのよ】


      [No.2653] 可愛いミーナ 投稿者:久方小風夜   投稿日:2012/09/29(Sat) 00:14:07     128clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     煙草が切れた。
     ちゃぶ台の向かい側で、安いだけが売りの水みたいな発泡酒(自称「ビールより美味い」らしいけどただの詐欺広告)を飲んでいる友人のジョーに聞くと、煙管かメンソールしかないけどいいかと答えられた。いいわけあるか。
     引き出しの中に、税金が値上がりする前に買いだめしたストックがまだあったかもしれないと思って立ち上がる。そのタイミングで、携帯のバイブが鳴った。
     送り主とメールの中身を見るだけ見て、携帯を閉じてベッドの上に放り投げる。ジョーが勝手に秘蔵の日本酒の栓を開けて、勝手に人の冷凍庫からロックアイスを出して、勝手に飲みながら言った。

    「また女?」
    「先週海でひっかけた奴。別れようってさ」
    「嘘つけ。どうせまたお前、捨てられてもしょうがないくらい冷たくしてたんだろ」
    「まあな。そろそろ飽きてたし」
    「キョーイチ、お前はまたそうやって女を1人泣かせたわけか。全くひどい奴だな。鬼だわ鬼。外道。鬼畜。最低。男としてというより人として引くわ」

     俺はジョーが水のようにぐいぐいとあおる日本酒のグラスを取り上げた。勝手に飲むな。これは俺の地元の酒蔵の一番いい奴だぞ。もらいもんだけど。
     まぁ人としていい奴だし話してて面白い奴ではあるんだが、こいつがいると酒が当社比13倍速くらいで消費される気がする。
     こいつと出会ったのは去年の春先。仲間内で花見をしていたところに、旅の途中この辺りの町でしばらく居座ろうと考えていたこいつが混ざってきた。
     あれから1年ちょい。大事に隠しておいた特級のウィスキーもウォッカもラムもテキーラもワインもシャンパンも焼酎も泡盛も、全部こいつにやられた。去年の夏、仲間内でバーベキューするために夕方買ったビール瓶3ケースが、日が暮れる前にこいつに1滴残らず消費されていたのは今や伝説となっている。

    「何でそんなにとっかえひっかえするかねぇ。男なら惚れた女一筋で生きていけってもんだろ」
    「酒と手持ちのポケモンが嫁って豪語してたお前に言われても説得力ないわー」
    「うるせぇそれとこれとは話が別だ」
    「何でわざわざひとりに絞って自分から縛られるような真似しなきゃならねぇんだよ、めんどくせぇ」
    「おいお前、キョーイチ、ちょっとそこに直れ」

     ジョーがちゃぶ台をばんばんと叩いた。シカトしようと思ったけどしつこく叩いてくるからしぶしぶ座った。こいつが騒がしくしてアパートの下とか隣の住人ににらまれたら生活しづらい。

    「何だよ」
    「お前だってよ、昔は夢見てたんじゃねーのか? 美人でかわいくて優しくて気立てが良くて料理が美味くて家事が得意で子供とポケモンが好きで嫉妬しなくて懐が広くてでもちょっとだけ頑固で美人でかわいい女(ひと)と幸せな結婚してさぁ、毎日仕事して帰ったら嫁さんがキッスで迎えてくれて、あなた毎日毎日お仕事お疲れ様お風呂にするご飯にする今日はちょっと頑張ってみたのあなたの好きなハンバーグよお風呂入るなら背中も流してあげるわ、とか言ってくれてさぁ、それで時々は些細なことで喧嘩して3日間くらい口もきかないけどまた些細なことで仲直りしてさぁ、でもっていずれリタイアしてからは今度はこっちから、ようやく時間に余裕も出来たし子供もひとり立ちしたしこれからは2人で目いっぱい時間を使えるなとりあえず手始めに海外へ旅行でも行こうかお前前からイッシュに行きたいって言ってたもんなそうだな思い切って船で世界一周にでも行こうか大丈夫だよこれまで一生懸命働いてきたから蓄えはあるし、とか言ってさぁ、それで今際の淵では大泣きする嫁さんに向かって、こらこら泣くんじゃないよお前は笑ってる顔が一番きれいなんだから俺が今までの人生何のために頑張ってきたと思ってるんだただお前の笑顔のためだけだぜ最期くらい最高の笑顔で見送ってくれよそうすれば俺はあの世に行っても最高に幸せだからさ、とか言ってさ、それで2人笑顔で大往生、とか考えてただろ」
    「お前……よくそんな立て板に水を流すようにさらさらとこっぱずかしいセリフが出てくるな」
    「ともかく、お前だってそんなピュアでイノセントな時期があったろ」
    「何10年前の話だよ。ってか、そんなピュアでイノセントとか軽く超越した脳内お花畑な思考、今更小学生でも抱かんわ」
    「そうかなぁ」
    「そうだよ」
    「そうかなぁ……」

     ジョーは空になった発泡酒の缶をちゃぶ台の上で転がしつつ、しつこくぶつぶつと呟いていた。……いい奴なんだが、いやまあいい奴なんだが。ちょっと面倒くさい時はある。いやしょっちゅうある。

    「いいんだよ。俺も相手もどうせ遊びなんだし」

     煙草買ってくるわ、と俺はコンビニへ向かった。四合瓶で8000円の特撰純米大吟醸は奴への生贄に捧げるしかないようだ。



    +++可愛いミーナ+++



     まだ夏も始まったばかりだが、海岸はいつ行っても祭りのような様相を呈している。
     灼けた砂の上をぴょんぴょん飛び跳ねるように走っていく浮き輪の少女。1つの氷イチゴを2人でつつき合うカップル。大きなパラソルの下でポケモンバトルを始める少年たち。海の家に隣接する畳の休憩所で熟睡する父親と、その腕を引っ張る娘。
     俺は海の家で瓶入りのコーラを買い、適当な日陰に入る。じりじりと暑い陽射しに炭酸が滲みる。ビールも悪くないが、昼間っから酒を飲むのは好きじゃない。どこぞのアルコール処理機じゃあるまいし。

     さて、誰かいないものか。俺は浜辺の全体へ目を走らせる。
     この時期海辺に来ている女ってのは、結構な確率で男に拾われに来ている奴だと思って問題ないと俺は思っている。でなけりゃ、誰が好き好んで、日焼け止めを塗りたくった上で海にも入らないのに露出度の高い服を着て、そのお世辞にも豊かとはいえないボディラインをわざわざ男に見せつけるように浜辺に寝そべったりするもんか。
     大体、最近の女は痩せすぎなんだ。どいつもこいつも骨と皮ばっかりの骸骨みたいな身体しやがって。その状態で「やだ―太っちゃったー」とか言われてもこっちとしては「はぁ?」としか言いようがないわ。お前らもっと脂肪つけろ。痛いんだよ抱いたときに。

     ……まあ、俺の好みの話はどうでもいい。とりあえず今は、今日1日だけでも暇をつぶせる相手を探そう。
     明らかに射程圏外なガキやババアはどうでもいい。わざわざ人の彼女に手を出すような面倒な趣味も俺はない。
     上着のポケットから煙草を1本取り出し、火をつける。暇そうな女は……と。

     うぇ、何だこの味気持ち悪ぃ。パッケージを見返すと、ジョーがよく吸ってるウルトラメンソールだった。あんにゃろう、俺がメンソール嫌いなの知っててこっそり仕込みやがったな。今度会ったらぶっ殺す。
     さっさと火を消して、いつもの黒い箱に金色の文字がおどる箱に替える。あんにゃろう格好つけて煙管とか吸ってんだったらもうそっちだけ吸ってろ。くそが。

     ゆっくり煙を吸って、ささくれ立った心を落ち着かせる。落ち着け俺。
     舌の付け根にまだメンソールの味が残っている。気持ち悪い吐きそうだ。
     時代錯誤甚だしく煙管なんぞ吸っている割に、紙巻き煙草だとなぜかメンソールのきっつい奴しか吸わない親友の顔が思い出される。そういやまたあいつに高い酒やられたんだったな。この煙草買いにコンビニに行ってる間に案の定飲みつくしやがって。追加で買ってきたビールも飲みつくしやがって。どこに入っていってるんだその水分とアルコール。
     いやまぁ、うん、いい奴なんだけど、でも何だかなぁ、よくわからん。ロマンチストというか……夢見がち?
     何だっけ、理想の恋人? 馬鹿馬鹿しい。そんな幻想とっくの昔に捨てたわ。

     ちょうど1本目を吸い終わった頃、俺の目に1人の女が映った。
     ボブカットの髪の毛に、ふんわりとしたワンピース。白いサンダル。派手な格好ではないけれど、顔はとてもかわいい。ぱっちりとした黒目がちの目に、すっと伸びた鼻筋。ぷっくりとした唇。ほんのり小麦色の肌。その辺にいる他の病的な細さの女と比べるまでもない肉付き。完全に俺のタイプだ。
     その女は1人で、砂浜をあてどなく歩いていた。海風にスカートがはためく。連れがいる様子もないし、散歩でもしているのか。
     目が合った。こっちをじっと見つめてくる。俺はすたすたと歩み寄った。

    「今、暇?」

     俺が尋ねると、女はこくりとうなずいた。少し話でもしないか、と聞くと、またすぐにうなずいた。何だこいつ。他の女は大抵、断るか無駄に焦らすかしてきたのに。警戒心がないのか。詐欺とかキャッチセールスにすぐ引っかかるんじゃないのか? どうでもいい心配をしてしまう。
     陽射しが強いから、パラソル付きの休憩場所に移動しようか、と提案すると、女はやっぱりあっさりと賛成した。
     日陰で座ってひと息つくと、女は少し恥ずかしそうに笑って言った。

    「実は、初めて見た時からカッコいい人だな、って思ってたんです」

     ……詐欺にあってるのは俺の方なのか?
     わずかばかり警戒心を抱きつつ、何か飲むかと聞いた。女は少し迷って答えた。

    「コーラにしようかな」

     あ、趣味が合った。

     海の家で瓶入りのコーラを買って女に渡した。女は喜んで受け取る。笑顔がかわいい。
     そう言えば、名前。名前聞いてなかった。

    「俺はキョーイチ。君の名前は?」

     俺が尋ねると、女はとてもかわいらしい笑顔を俺に向けて言った。

    「ミーナ。ミーナよ」


     しばらく海岸でミーナと話をした。ミーナはとてもよくしゃべり、よく聞いて、よく笑った。
     好きなもの。嫌いなもの。ミーナとはびっくりするほどよく趣味が合った。


    「ミーナはどうして海に来たんだ?」
    「うーん、退屈だったからかな」
    「退屈?」
    「誰もいなかったから。寂しかったの」

     ミーナはそう言って海を見つめた。
     ふわりと潮風がミーナの髪を揺らす。ほんの少し、ミーナの眉尻が下がった。海を映したようにゆらゆら揺れる瞳の中に、確かな「寂しさ」が見て取れた。

    「じゃあ、俺と付き合わない?」

     俺がそう言うと、ミーナはびっくりしたような顔をして、こっちを見つめた。

    「どうして?」
    「俺も退屈だから」

     何それ、とミーナは呆れたように笑ったが、「いいよ」と答えた。

    「夏の間くらい、一緒にいられる人がいるっていうのも、確かにいいかもしれないわね」

     そう言って、ミーナはまた笑った。


    +++


     次の日も、海岸へ行くとミーナが待っていた。
     どこか行こうか、と言うと、街をぶらぶらしたいな、と返してきた。

     平日の昼間だからか、人通りもまばらな商店街。
     数人の女子集団が、店先に置かれている夏服を手にきゃっきゃと声を上げている。やめとけ、今お前が持ってる蛍光イエローの鞄にショッキングピンクのタンクトップは目が痛いぞ正直。

     ミーナを見ると、どうも落ち着きがない。傍らの店にちらちらと目線を送っている。
     やや小奇麗な山小屋といった外見。どうやら、シルバーアクセサリーをメインに取り扱っている店のようだ。ミーナは初めて会った時からあまり着飾っていなかったが、やはり女の子なのでアクセサリーの類は気になるらしい。
     何だ、見たいんなら遠慮せず言えばいいのに、と俺は言った。ミーナはぽっと頬を染めて、照れたように笑った。

     店に入ると、ミーナは一目散に店の奥の方へ駆けていった。楽しそうにしているので、俺はひとりで店内を物色した。髑髏のついたごつい指輪。天然石のぶら下がったピアス。皮で編まれたブレスレット。男物も女物もごちゃごちゃに置いてある。
     こちらなどお客様にお似合いですよ、と店員がごつい鎖で十字架にハブネークが絡みついたトップの、重そうなペンダントを薦めてきた。細工も細かいしデザインも嫌いじゃないが、値段を見てげんなりした。5桁はないわ。俺はいいんで、と言うと、店員はやや不満そうな顔でレジに戻った。

     ミーナは何を見ているんだろうか、と思ってそばに行くと、ガラスケースの中のピアスとにらめっこしていた。
     そういえば、ミーナはピアス穴開けてたっけ。いつも透明な樹脂のピアス止めをつけてるけど。

    「気にいった奴でもあったのか?」

     俺が尋ねると、ミーナは1700円と書かれた棚の中のひとつを指差した。
     フックの先に燻した銀の薔薇の花が2、3個ぶら下がっている。女がつけるにはちょっとごつい気がするが、男がつけるには少々派手だ。ユニセックスと言うより、中途半端なデザインと言った方がしっくりくる。
     しかしミーナはこれが気にいったようだ。買ってやろうか、というと、ミーナはぱあっと顔を輝かせて俺に抱きついてきた。
     レジの奥に引っ込んでいた店員を呼んだ。店員はガラスケースを開けながら言った。

    「こちらですか? そうですねぇ、こちら、男性でも気軽につけられるデザインですよね」
    「いや、俺のじゃないんだけど」
    「あっ、贈り物でしたか? 彼女さんですか? ラッピング、210円ですがいかがですか?」
    「いいよそのままで。つけて帰るから」

     俺がそういうと、店員は首をひねりながらレジへ向かった。


    「……ど、どうかな?」

     店の外で、ミーナが少しおどおどしながら聞いてきた。
     両耳にはさっき買った薔薇のピアスがさがっている。

    「うん、まあ、思ったよりごつくないな」
    「えへへ、そうかな?」
    「うんうん、似合ってる似合ってる」

     何か適当に答えてない? とミーナは少し頬を膨らませた。
     でも実際、思ったより似合っていた。ミーナの何となくふわふわした印象といぶし銀の薔薇は合わないんじゃないかと思ってたけど、意外とそうでもなかった。むしろ重たさがアクセントになっている。

    「次、どこ行く?」

     俺がそう尋ねると、ミーナはえっと、と言ったきり少し口をつぐんで、俯いて両手をもじもじとさせた。
     長い沈黙に、ポケットの中の煙草を取り出すか否か迷い始めた頃、ミーナが顔を真っ赤にして、小さな声で言った。

    「……キョーイチの家、行きたいな……って」

     俺はちょっと呆気にとられた。
     いや、まあ、別にあれだけど、会ったの昨日の今日だし、見た目どっちかというと清純系だし……。

    「思ったより積極的なんだな」
    「……〜っもー! いいよっ! 忘れてっ!」

     ミーナはそのまま口や耳からかえんほうしゃが出るんじゃないかってくらい顔を真っ赤にして、そっぽを向いた。
     俺はやれやれ、と笑って、ミーナの腕をひいた。

    「いいじゃん。来なよ」
    「…………」
    「来ないのか?」
    「……行く」

     ミーナはそう言うと、顔を隠すように俺の腕にしがみついてきた。二の腕に当たるミーナの頬が熱かった。


    +++


     夜中に目を覚ますと、ベッドの上に1人だった。
     鞄も脱ぎ散らかした服もない。俺が寝てる間に帰ったのか? と、寝ぼけた頭をぼりぼり掻く。

     黒字に金色の文字が書かれた箱から煙草を1本取り出して、火をつける。
     煙を灰に吸いこみながら、働かない頭をぼんやりと動かして、身体の相性よかったなあ、と心の中で呟いた。
     暗い部屋に白い煙が漂う。気だるさに水でも飲むか、とベッドから起き上がろうとした。

     ちくり、と右手の人差指に何かが刺さった。
     いぶし銀の薔薇のピアスのフックだった。じわりと赤い痕が白いシーツに広がる。

     あれ、ミーナの奴、忘れていったのか?
     しょうがないなあ、と言いつつ、俺はピアスをズボンのポケットに入れた。



     次の日海に行くと、ミーナが待っていた。

    「昨日勝手に帰っちゃってごめんね」
    「いや別に。……あ、そうだ」

     ピアスを渡そうとポケットに手を入れた。
     しかし、ポケットの中は空だった。

     どうしたの? とミーナが首をかしげながら聞いてきた。
     その両耳には、いぶし銀の薔薇のピアスがさがっていた。


    +++


     お盆の時期は海岸にメノクラゲとかその辺りが大量発生するから海には行きたくないよな、と俺は言った。
     そうだよね、とミーナは答えた。
     しかし暑い。今年は特に暑い。このままじゃ陸に打ち上げられたコイキングになりそうだな、と俺は言った。
     本当だよね、とミーナは答えた。

     プールでも行くか? と俺は聞いた。
     行く、とミーナはすぐに答えた。


     行ってみたけど、水の中は人でごった返していた。
     あれじゃあ水の中を泳ぐというより、人の間を水が流れていると言った方が近い。
     プールサイドにいくつか刺してあるパラソルの影の下に座って、売店で買ってきたかき氷を2人でつつく。

    「やっぱり人多いねえ」
    「休みだもんな」
    「なあ、そこの兄ちゃん、ポケモン持ってるだろ?」

     2人でのんびりとしていると、海パンをはいた小学生くらいのガキンチョが、いきなり声をかけてきた。

    「ん? ああ、まあな」
    「じゃあ勝負しようぜ! シングルの2対2でどうだ!」
    「……まあ、別にいいけど」

     やれやれ。このくらいの年頃のガキンチョってのは、こっちの都合もろくに聞かず、相手がどんな奴かもあまり考えずにバトルを仕掛けてくる。ポケモンバトルを始めて間もない奴らが多いから、しょうがないか。
     プールサイドに備え付けられているバトル用の広場へ向かう。俺はベルトからボールを2つ選んだ。頑張って、とミーナが笑顔で手を振ってきた。

    「よーし、行くぞっ! マグマッグ!」
    「行ってこい、チャコ」

     俺が最初に選んだのは、頭に大きな葉っぱを生やした小さな怪獣、もといチコリータのチャコ。
     相手は相手は溶岩のなめくじ。よりによって炎天下のプールサイドで。クソ暑い。ふざけんな。

    「マグマッグ、ひのこだ!」
    「チャコ、はっぱカッター」

     小さな炎が、チャコの放った葉っぱに引火して、本体に当たる前に灰になって地面に落ちる。
     はぁ? マジ? とガキンチョが驚愕の声を上げる。うん、相手が悪かったな。

    「坊主、いいこと教えてやるよ。兄ちゃんはこれでも結構強いぜ」
    「う、うるせぇ! おれは負けねぇんだっ! マグマッグ、ふんえん!」

     ぶわっと周囲に炎と熱い煙が散らばる。熱い。熱いというか暑い。めちゃくちゃ暑い。思わず咥えていた煙草のフィルターを噛みつぶした。やべぇマジイライラする。
     チャコの葉っぱに小さな炎がついていた。必死で振り払って消したが、少しやけどしたようだ。
     相手を睨みつけ、鋭い鳴き声を上げる。ああなるほど、チャコも相当イラついてるってわけか。上等上等。

    「チャコ、からげんき」

     その葉っぱのやけどの分も込みだ。遠慮せずやっちまえ。
     チャコは首から伸ばしたつるで思いっきり相手を打ちすえる。あまりの猛攻に、相手は恐れおののいて戦意を喪失したようだ。

    「ううっ……行けっ! クヌギダマ!」
    「戻れチャコ。行ってこい、エリー」

     俺は黄色いふわふわモコモコの体毛を持った羊、メリープを繰り出した。
     相手は硬い殻を纏った木の実みたいな虫。相性はそんなにいいわけでもない、か。

    「エリー、とっしん」
    「クヌギダマ! てっぺき!」

     走って勢いをつけてエリーの頭がクヌギダマの身体にぶつかる。ごつっ、と鈍い音がした。エリーが少し涙目になって数歩下がる。
     なるほど、なかなか防御力はあるみたいだな。よく育ってる。

    「クヌギダマ、こうそくスピン!」
    「エリー、わたほうし」

     クヌギダマが超高速で回転しながらエリーにぶつかってくる。細かい綿くずがバトルフィールド周辺に舞い散る。
     俺は咥えていた煙草を携帯灰皿に押し付けた。

    「エリー、もっとだ」

     エリーの体毛が電気を含んでふわりと膨らむ。クヌギダマがまたぶつかってきて綿くずが散らばる。
     視界が少し白くぼやけてくる程度の綿の量。ふむ、こんなもんか。

    「坊主、お前結構センスあるよ。このままエリーを覆う綿を削って、適当に防御削ったところでだいばくはつ……って流れだろ? いいと思うぜ。でもまだまだ足りねーな」
    「は?」
    「経験だよ経験。大人になって考えつくことってのもあるってこった。ま、今回は学校じゃ教えてくれない課外授業だと思っとけよ」

     学校じゃあ型にはまったバトルしか教えてくれねぇからな。
     だがまあ、世の中そう一筋縄ではいかないんだよな。ゲームか何かじゃあるまいし。

    「ま、たまには、爆発される側ってのも経験しとけってこった」

     えっ、とガキンチョが目を丸くする。

    「ほうでん」

     空気中を漂う無数の繊維。
     放電で発生した火花。

     結果、爆発。


    「……はい、ジュリア。おつかれさん」

     俺は傍らに控えていたキルリアの頭をなでた。ぱちん、と音を立てて、バトルフィールドを覆っていたリフレクターの壁が解除される。
     若干煤で黒くなったフィールドに転がっているのは、これまた若干黒くなって目をまわしているクヌギダマと、少し汚れたクリーム色の綿の塊。
     塊の中からエリーがぴょこんと顔と手足としっぽを出す。

    「に、兄ちゃんむちゃくちゃだよ……」
    「経験だと思っとけ。世の中そうそう良心的なトレーナーばっかじゃねぇぞ。……ま、大人げなかったとは思うからよ。回復が終わったらこれで手持ちの連中にアイスでも買ってやれ」

     俺はポケットから財布を取り出して、金色の硬貨を1枚ガキンチョに渡した。
     おれが負けたのに、とガキンチョは言ってきたが、ガキンチョから金をむしる気はさらさらねーしただの野良バトルに賞金も何もねーよ、と返して追い払った。

     ふう、と息をついてミーナの隣に座り、ポケットから煙草を1本取り出して火をつけた。
     ミーナはお疲れ様、と言ってタオルを渡してきた。

    「バトル強いんだね。ちょっと驚いちゃった。思ってたよりもすごく大胆な攻撃するし」
    「あー、まあ、知り合いにガサツだけど超強い奴がいてな……そいつの影響がな……」

     めちゃくちゃ強いけど、豪快すぎる上に博打うちのどうしようもないあいつ。バトル場でも煙管をふかしながら日本酒の一升瓶を小脇に抱えているあの馬鹿。飲酒バトルの違反で捕まるんじゃないかとずっと思っているけど、今のところ無事なようだ。
     エリーの粉塵爆発も、元はと言えばあいつのエルフーンが使ってた方法だ。散々わたほうしでフィールドに糸屑をばらまいたかと思うと、かえんだまを投げつけてくる。笑顔で。いたずらごころの特性もあるのかもしれないが相当腹黒い。しかもあいつは俺と違ってリフレクターとかその辺の技を使える奴がいないから、トレーナーが危ない。特に室内では。どうも警察の目は節穴のようだ。あらゆる方面で。
     ……まあいろいろ問題はあるけど、何だかんだでバトルは馬鹿みたいに強いから、俺もいろいろ教えてもらったりしたけど。

    「それに、何て言うか……意外と、可愛いポケモン使うんだね」
    「い、いいじゃねーか。趣味だよ。悪いか」
    「ごめんごめん、馬鹿にしたつもりはないの。ちょっと意外だなーって思っただけで。ね、他の子は?」

     そうだな、と言いながら、俺はベルトからボールを外した。

    「キルリアのジュリア。メリープのエリー。ポニータのジョニー。チコリータのチャコ。ヒヤッキーのヒロシ」
    「何かヒヤッキーだけ方向性が違わない?」
    「しょうがねぇだろ勝手につけられたんだよ名前。それから……」
    「ねえねえ、そこのお兄さんっ!」

     突然、妙にハイテンションな甲高い声が突き刺さってきた。
     顔を上げると、水着を着た女の子が3人、俺たちを取り囲んでいた。

    「お兄さん、バトル強いねーっ! ねえ、よかったら私たちと遊ばない?」
    「は?」

     何だこいつら。
     まあ確かに、俺1人だったら遊んでたと思う。でも今はどこからどう見ても明らかに連れがいる状況じゃねぇか。いくら夏のプールで頭のネジが外れてるって言ってもマナー違反だろ。

    「俺、連れいるし」
    「連れぇ〜?」

     俺は隣に座るミーナを指差した。女子どもは俺の指先を目で追いかけて、また俺の方を向いた。

    「……ねえ、私たちと遊んだ方が絶対楽しいよ〜? ねー、ほらぁ……」
    「いい加減にしてっ!!」

     ミーナが突然、立ち上がって大声で怒鳴った。

    「いくら何でもひどいじゃない! そりゃ、私はそんなに魅力もないかもしれないけど、キョーイチは今私と遊んでくれてるの! 今は私のものなの!!」
    「ミーナ、いいから! わかったって!」

     俺は慌ててミーナを止めた。
     女子連中は俺たちに軽蔑するような視線を送り、「何アイツ」「意味わかんない、気持ち悪い」などと口々に言いながら去っていった。

    「ミーナ……」
    「ご……ごめん、キョーイチ。私……」
    「……い、いや、いいんだ。何つーか……すっげー、嬉しいかも」

     いつもにこにこと穏やかなミーナが、感情をむき出しにして怒っている。しかも、俺のために。
     それが妙に恥ずかしくて、こそばゆくて、嬉しかった。

     ミーナが俺の手に手を重ねてきた。
     赤く染まった頬。上目遣いの視線。眉上で切りそろえられた髪の毛を払うと、くすぐったそうに眼を細めた。
     傾きかけた太陽が伸ばした2人の影が、そっと重なった。


    +++


    「アスベスト、なげつける!」
    「わー待てっ!! まだリフレクター貼ってねぇ!! ってかお前も対策なしにその技使うんじゃねぇよ馬鹿!!」

     綿毛を背負った羊が綿の中からかえんだまを取り出そうとするのを慌てて止めた。冗談じゃない。爆発に巻き込まれるのなんてまっぴらごめんだ。
     ジョーはアスベストというどことなく物騒な名前のエルフーンをボールに戻した。粉塵爆発は起こすわ、ぼうふうで柵やら街灯やらをなぎ倒すわ、部屋の中だろうがどこだろうが気がついたら人の背中に勝手に張り付いてるわ、服(特にニット)に絡みついてなかなか取れない繊維を残していくわ、いろいろと前科の多いポケモンだ。何よりそれら全てを笑顔でやってくるのが怖い。行動が大胆というか大雑把なのは飼い主のせいだろうが、こいつ自身の性格も相当悪い。多分。

    「ふー。久々に手合わせしたけど、お前ちょっと腕がなまってんじゃねえか? キョーイチ」
    「あー、夏入ってから、最近プール行った時に絡んできたガキンチョとしかバトルしてねぇからなぁ……」

     公園のベンチに座って、煙草に火をつける。ジョーは今日は煙管のようだ。
     せめてよく着てる作務衣とか着流しとか謎の派手な着物とかならまだ絵になっただろうに。何で今日に限ってお前はあずきジャージなんだ。深夜の公園でだるそうに座って時代錯誤な煙管をふかしている上下あずき色のジャージの男なんて、いろいろちぐはぐ過ぎて人が通りかかったら確実に二度見されると思う。ちなみに俺はもう慣れた。
     煙を吸い込み、大きく息をつく。

    「ジョー、お前さ、普通に強いんだからもうちょっと考えて技出せねぇの?」
    「えー、考えてるだろ。組み合わせとか、作戦とか」
    「そうじゃなくってさ。例えばぼうふうにしてももうちょっと照準を合わせて当てるとか、爆発するならトレーナーその他周囲に被害がないように配慮するとかさ、お前免許取る時に習うとこだろそこは」
    「悪かったなノーコンで」
    「お前マジでいつか捕まるぞ。安全対策不足か器物損壊か飲酒バトルで」

     へいへい、とジョーはやる気のなさそうな返事をした。
     煙管煙草独特のふわりとした芳醇なにおいがする。ジョーはふと俺のベルトにつけているボールに目を落とした。

    「おいキョーイチ、このボール、ヒビ入ってるじゃねーか」
    「え? うわ、マジだ。あれー? いつやっちまったかなぁ? 最近バトルしてねーから思い出せねぇ……」
    「早いとこポケセンかショップ行って直してもらった方がいいぜ。昔、知り合いがひび入ったボールそのままにしてたら、いきなりボールが割れてカビゴンが出てきて、危うく圧死するとこだったって言ってたし」
    「そりゃこえーな。気が向いたら直しとくわ」

     星空に向けて煙を吐き出す。ちかちかとした瞬きが少ない、澄んだ空だ。
     ジョーも空を見上げながら、もう秋の空だなぁ、とつぶやいた。

    「俺、秋になったらまた旅に出ようと思うんだ」

     唐突に、ジョーがそう言った。
     元々こいつは、ポケモンを育てながらあてもない旅をしていたらしい。去年の春この町に来て、1年とちょっと、この町を拠点に周辺をうろうろしていたようだ。町にいる間は、バイトか何かで金を稼いだり、酒を飲んだり、バトルを指導したり、酒を飲んだり、俺や友人と遊んだり、酒を飲んだり、酒を飲んだりしていたようだ。

    「へぇ、今度はどこに行くんだ?」
    「まだ決めてねぇけど、もっと北の方へ行こうかなと思ってる」
    「北ねぇ。これから冬に向かうってのにご苦労なこって」
    「ばーか、冬だから北に行くんだよ。わかってねぇなぁ」

     そう言ってジョーは煙管の上下を返し、ふっと吹いて灰を落とした。
     丸めた煙草葉を雁首に詰め、また一服ふかして、ジョーが言った。

    「そういやキョーイチ、お前、彼女とはどうなんだ?」
    「あれ……お前に話したっけ?」
    「いいや? でも最近飲みにも誘わねーし、彼女いるんじゃねえの?」
    「まあ、いるけど……」

     ミーナと出会って1カ月と少し。お互い遊びと割り切ってはいるはずだが、意外と長く続いているもんだ。
     ジョーはベンチの背もたれに肘をついて、俺の顔をじっと見ていた。

    「……何だよ気色悪いな」
    「いいや、何て言うか……。……いや、やっぱりいいや」
    「何だよ。気になるじゃねぇか」
    「いや。何か、お前幸せそうだなぁと思って」
    「……そうか?」

     幸せ、ねえ。
     まあ確かに、不幸せではないと思うけど。

     しかし何だろう。何かこう、のどの奥の方に何かがつっかえてるような、胸やけを起こしているような、魚の骨が引っ掛かってるような、何とも言えない違和感は。


    +++


    「もうすぐ、夏も終わるね」

     ミーナが窓を開けると、湿った外の空気と、真っ赤な夕日の影が部屋に入ってきた。吹き込んできた外気で、ミーナの短い髪がふわりと揺れる。

    「秋になったら、お月見でもしようか。夏の間はいっぱい海に行ったから、山もいいかもね。イチョウとかカエデとか、綺麗に染まってて……」

     楽しそうに笑いながら、ミーナが俺のそばにぴったりと寄り添う。
     頬と頬が触れる。ミーナの肌は冷たい。
     目をやると、窓から差し込んできた夕日を背負うミーナは、姿も表情も影色に塗りつぶされている。目だけが唯一、煌々と輝いて見えた。

    「ミーナ」
    「ん? どうしたの?」

     ミーナが小首をかしげる。
     俺は口を開いた。言葉が出ない。夕日がすっかり建物の影に隠れてしまうほど、長い沈黙が2人を包んだ。

     何とも表現しがたい不安。違和感。気持ち悪さ。
     不快な感情が胸を満たす。


    「別れよう」


     不意に、そんな言葉が口をついて出た。


     ミーナはぽかんとした顔で俺を見た。

    「……どうして?」

     ミーナは今にも泣きそうな声で、そう聞いてきた。
     俺は口を開いた。胸の中のわだかまりが、自然と言葉を作っていくようだった。

    「飽きた、から」

     再び長い沈黙が、俺とミーナを包んだ。
     押し寄せてきた大きな波が、波打ち際で砕けて消えるように、俺の心の中のありとあらゆる感情が押し流されて消えていく。


    「……そっ、か。わかった」

     沈黙を破ったのは、ミーナの明るい声だった。
     俺はびっくりして顔を上げた。ミーナは笑顔で、でも目元は涙で濡らして、俺を見ていた。

    「うん。そうだね。元々、お互い遊びだったもんね」
    「……」
    「わかった。夏ももう終わりだもん。ひと夏の想い出、充分だよ」
    「ミーナ」
    「でも、いつかキョーイチがまた恋をしたら、世界中の誰より幸せになってくれないと許さないからね」

     ミーナはそっと俺の手を握った。
     耳から下がった薔薇の花がきらりと光っていた。

    「楽しかったよ、キョーイチ。さよなら」



     部屋の中は真っ白だった。
     窓の外はモノクロだった。

     幸せだった。夏の間、俺は幸せだった。
     切なくて、不安で、不気味なくらい、俺は幸せだったんだ。

     そうだ。元から、どうせ遊びの関係だったんだ。
     お互い相手がいなくて、隣が開いているからとりあえずそれを埋めただけ。
     それ以上の関係になりうるわけがない。


     ああ、そういえば。
     自分から別れを告げるのって、これが初めてだ。


     開けっぱなしの窓から、音楽が聴こえてきた。
     初めてミーナとこの部屋で一晩過ごした時、つけていたラジオで流れていた曲。
     古い西部劇の主題歌。静かに響くアコースティックギター。哀愁漂う女性の歌声。

     温かい手のひら。
     花の香りがする髪の毛。
     くるくると表情を変える潤んだ瞳。
     薔薇の花弁のような唇が紡ぐ言葉を、唇で塞いで止めたあの夜。



    「ミーナ」


     ミーナ。
     ミーナ。
     ミーナ。ミーナ。ミーナ。

     ミーナ。ミーナ。ミーナ。ミーナ。ミーナ。
     ミーナミーナミーナミーナミーナミーナミーナミーナミーナミーナミーナミーナミーナミーナミーナミーナミーナミーナ……ミーナ!



    「ミーナ! ミーナ!!」



     錆ついた空。

     枯れて頭を垂れた向日葵。

     頬を濡らすのは雨粒。



    「やっぱりお前のことが好きなんだ!! ミーナ!!!」


     俺は馬鹿だ。
     ほんの一時の気まぐれで、別れよう、だなんて。
     確かに最初は遊びだった。

     でも、いつの間にか、本気で好きになっていた。


     モノクロの街を走る。

     雨が奏でる女性の歌声。

     頭に響く波の音。


     突然体が宙を舞い、俺は真っ黒な地面に叩きつけられた。



    +++



     俺は白い天井を見上げていた。
     柔らかい。これはベッドだ。俺の部屋じゃない。誰かいる。白い服。医者と看護師。

    「目が覚めたか! よかった! ここは病院だ。自分のことはわかるか?」
    「……ミーナは?」

     医者が何か言ってきたが、どうでもいいことだ。
     俺はミーナを探さなきゃならない。

     起き上がろうとすると、医者は慌てて俺を押さえつけた。

    「こ、こら! まだ起きちゃいかん!」
    「放せ! 放せよ! 俺はミーナを探さなきゃならないんだ!」

     腕に刺さっていた点滴の針を引き抜き、俺を押さえつける医者を力ずくで振りほどこうとした。
     押さえつけろ、人を呼べ、鎮静剤を、などと医者と看護師がわめく声が耳から耳に抜ける。

     その時だった。
     ドゴヅッ、という鈍い音とともに、丸くて硬いものが、ものすごい勢いで俺の額に叩きつけられた。
     激痛と混乱。俺は驚いて動きを止めた。

    「落ち着け、馬鹿野郎」

     いきなり頭突きをかましてきたそいつ……ジョーは、そう言ってため息をついた。

    「何があったんだ?」

     ジョーが静かな口調で聞いてくる。
     真っ白だった心が動き出す。体が震える。鼓動が速くなる。

    「……探さないと、間違えたんだ、俺は、ミーナを、ひどいこと」
    「おい、落ち着け」
    「ほんの気まぐれで、俺は、不安になって、だって、ミーナは、好きだったのに」
    「しっかりしろ、キョーイチ!」

     ジョーが俺の両肩をつかんで揺さぶった。


    「いないんだ! お前の言ってる『ミーナ』は! どこにも!!」

    「……え?」

    「夢だったんだ。全部、夢だったんだよ」


     何を言ってるんだ?
     だってミーナは、夏の間ずっと俺のそばで、一緒にいて……。

     とりあえず深呼吸しろ、とジョーが言ってきた。
     大きく息を吸ってゆっくり息を吐くと、モノクロだった世界に、ぼんやりと色がついたように感じた。

     ジョーはため息をついて、諭すような口調で言った。


    「『ミーナ』は……お前のムンナだろ?」


     世界が崩れる。
     目の前が一斉に、鮮やかに色づく。

     俺はおそるおそる、腰に手をやった。
     手に触れたのは、ひびの入ったモンスターボール。
     中に入っているのは、夏の初めに進化した……ムシャーナの、ミーナ。


     医者が静かに言った。


    「キョーイチさん。あなたの症状は……重度の『夢の煙中毒』です」


     『夢を現実にすること』が、そのポケモン、正確にはそのポケモンが出す「夢の煙」の持つ能力。ドリームワールドという施設で使われているように、夢の中の道具やポケモンを実体化することさえ出来ると言われている、摩訶不思議な物体だ。
     しかし、それは「正しく使えば」の話だ。力が強すぎるため、ドリームワールドでも、「夢の煙」の使用は1日につき1時間までと制限がかけられている。

     四六時中、「夢の煙」を浴び続けていたらどうなるか。

     ひと言で言えば、起きたまま夢を見る。
     密かに抱いていた夢。心の奥底の願望。それが幻覚や幻聴となって現れる。
     夢を見ている本人にだけは、リアルな実体を伴って。

     その状態が長く続くと、しだいに夢と現実の区別がつかなくなる。
     本当はないものが見え、あるものが見えなくなる。実際に鳴っている音とは違う音が耳に入り、存在しないものに体を触れられる。
     そして最終的には、精神が堪えきれなくなり、心が壊れてしまう。


    「俺が見つけた時、お前は遮断機を乗り越えて列車の前に飛びだそうとしてた。とっさに『ぼうふう』で吹き飛ばさなかったら死んでたぞ」

     ぼんやりと、この場所にいる前に感じた浮遊感を思い出す。
     でも、実感が伴わない。
     頭の中がぐるぐるして、何が何だかわからない。

     体の中から『夢の煙』の成分がすっかり抜けきって、心が落ち着くまでは入院しましょう、と医者が言ってきた。


    +++


     窓から外を見ると、庭に植えてある木々の葉が、ちらりほらりと赤みを帯びてきていた。
     あれは桜の木か。春になるとさぞやきれいなんだろうな。さすがにそんな頃まで入院するのはごめんだが。


     中庭に出た。入院している身だが、最近は出歩くのも比較的自由になった。時間までに病室に戻りさえすれば。
     灰皿が設置してあるベンチへ行くと、俺の見舞いに来たのであろうジョーが一服していた。

    「秋になったら、旅に出るんじゃなかったのか?」
    「俺の中では、モミジが赤くなるまでは秋じゃねーんだよ」

     何だそりゃ、と笑いながら、俺はジョーの隣に座った。右手に持っている箱から、シガレットを1本抜き取る。ジョーは呆れたように笑った。

    「入院患者が煙草なんか吸うんじゃないよ全く」

     そう言いつつ、ジョーはポケットからジッポライターを取り出す。

    「メンソールだぞ」
    「いいよ」

     煙を吸い込む。すうっとした刺激が呼吸器を抜ける。舌の根が苦くて眉をしかめた。
     ふう、と煙を吐き出し、手すりに肘をついて頭を抱えた。慣れない味の煙草にくらくらする。

     まぶたを閉じると、彼女が俺の前で、笑顔で手を振っているような気がした。
     ゆっくりと目を開ける。俺の目に映るのは、その身の色を変えて秋の到来を告げようとしている、桜の木ばかりだった。


     そっと目を閉じた。

     両目から、ぼろっと涙が零れおちて頬を伝った。


     大丈夫か、とジョーが声をかけてくる。

     煙草の煙が目に染みただけだ、と俺は答えた。


     左手をズボンのポケットに突っ込むと、指先にチクリと何かが刺さった。
     取り出してみると、燻し銀の薔薇のピアスだった。

     夢だった。そう、全部夢だったんだ。
     夏の間に見た、ひと時の夢。
     俺の夢の中の彼女と、夢の中で恋に落ちた。ただ、それだけのことだった。

     だけど、彼女は確かに俺のそばにいた。
     俺は彼女と夏の初めに出会って、夏に恋して、夏の終わりに別れた。
     それは確かなことなんだ。

     俺にとって、初めてのことだった。


     本気の恋だったんだ。



     ああ、駄目だ。やっぱりメンソールは嫌いだ。

     涙がちっとも止まりゃしない。



     時計の針は3時を示していた。
     どこからか、教会の鐘の音が風に乗って聞こえてきた。










    ++++++++++The end

    special thanks/桑田佳祐「可愛いミーナ」


    カラオケで久々に歌ったら降ってきた。
    年齢=恋人いない歴の自分には色々と無茶だった。
    ごめんなさい。

    それにしても、どうやら自分は相当ムンナが好きらしいと最近気付いた。


      [No.2291] Re: 【告知】3/18(日) HARUコミックシティ打ち上げ会 投稿者:No.017(なみライ、りえ代理)   《URL》   投稿日:2012/03/11(Sun) 20:25:20     77clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    なみのりライチュウ氏が出たいそうです〜
    我らの強い味方、なみライ氏もメンバーにお願いしますー

    あ、あとりえさんも入れておいてね。


      [No.2290] Re: 【告知】3/18(日) HARUコミックシティ打ち上げ会 投稿者:小樽   投稿日:2012/03/11(Sun) 18:14:16     73clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     遅くなりまして恐縮です、小樽です。

     春コミからの流れでそのまま参加させていただきたいと思います。
     当日もどうぞよろしくお願いします。m(_ _)m

     初売り子で緊張気味ですが、やれることをやってきます(`・ω・´)


      [No.2289] ディスプレイボード2 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2012/03/11(Sun) 17:31:29     82clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    ディスプレイボード2 (画像サイズ: 1200×858 341kB)

    良い感じの感想・キャッチコピーがあったらこちらで採用したいと思います!


      [No.2288] ディスプレイボード1 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2012/03/11(Sun) 17:29:47     74clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    ディスプレイボード1 (画像サイズ: 1200×850 283kB)

    掲載作品決定の流れとかです。


      [No.2287] Re: 【告知】3/18(日) HARUコミックシティ打ち上げ会 投稿者:風間深織   投稿日:2012/03/11(Sun) 16:07:12     77clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    予算の見直しをしていただいたそうで、どうやら私も打ち上げに行けそうです。
    今月のマステは我慢します……
    春コミではお手伝いをさせていただきますので、よろしくお願いします!
    めいみちゃんの遺影持っていきますね!


      [No.2286] 【お知らせ】場所/予算の再掲 投稿者:   《URL》   投稿日:2012/03/11(Sun) 15:51:04     93clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    記事を掲載して一週間+αが経過しました。
    イベントの開催当日まで一週間となりましたので、少々気が早いですが


    3/13(火) 21:00


    上記の時間までに参加表明をなされた方でメンバーを確定したいと思います。
    まだ参加表明をされていない方は、お早目の返信をお願いいたします。


    -----------------------------ここまで前回のお知らせ-----------------------------


    鳩さんからアドバイスをもらい、予算関連の見直しを行いました(鳩さん、ありがとうございます)。
    以下のような形で行こうと思います。


    1.中学生・高校生・浪人生・今年まで高校生だった(=4月から大学生になる)人
      → \2,000
    2.大学生
      → \3,000
    3.社会人
      → \4,000


    前回は参加のハードルが高すぎたので、構成を考え直してみました。
    少しでも気軽にご参加いただければ、と思います。

    場所は以下の通りです。こちらは変更ナシです。


    お祭り御殿 新橋店
    http://r.tabelog.com/tokyo/A1301/A130103/13131629/


    大体17:30〜18:00頃に開始したいと考えています。ご意見などありましたら、お気軽にお寄せください。

    以上、よろしくお願いいたします(´ω`)


      [No.2285] ベスト大賞作品 感想・キャッチコピー募集【3/11いっぱいまで】 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2012/03/11(Sun) 03:13:25     69clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    ポケスコ大賞作品の感想を募集します。

    ・140文字以内でまとめてください。
    ・いい感じのものは即売会展示の作品紹介に採用します。
    ・ポケスコ参加者かどうかは問いません。


    対象作品:

    フレアドライブ
    こちら側の半生
    赤い月


    よろしくお願い致します。


      [No.2284] 追記 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2012/03/11(Sun) 01:53:16     89clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    予算は見直します。
    しばし待たれよ。


      [No.2283] Re: 【告知】3/18(日) HARUコミックシティ打ち上げ会 投稿者:CoCo   《URL》   投稿日:2012/03/11(Sun) 01:43:08     84clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


     スカイプで参加表明するように言われたので。

     いきます。
     しばらく東京ともお別れです
     めいっぱい都会の空気を吸い込みながら
     吐き出し
     ゆっくりと天を仰ぎ
     フランス語でアンノーンを説得します

     うそです

     行くのはうそじゃないのでよろしくお願いします


      [No.2282] Re: 【告知】3/18(日) HARUコミックシティ打ち上げ会 投稿者:西条流月(代理タブンネ)   投稿日:2012/03/10(Sat) 22:54:33     76clap [■この記事に拍手する] [Tweet]



    きとらさんが諸事情あってPCが使えないようなので、代理として書き込みました
    きとらさんもさんかするらしいので、名簿に加えておいてください。


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