マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ
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  •   [No.4062] Re: This is new world. 感想です 投稿者:逆行   投稿日:2018/01/14(Sun) 17:26:40     54clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    海さん

    感想ありがとうございます!こちらでは初めまして逆行です!

    うんこ視点の下りは自分も気に入っています。
    この下りをやりたいがためにこの話を書いたと言っても過言ではありません。
    ぶっちゃけ他は全部蛇足です!(笑)

    便秘って本当にしんどいですよね。
    どこまでこの掲示板で汚い話をしていいのか分かりませんが、自分は2週間ぐらい出なかったことがありました。
    ちなみにギネス記録は102日だそうです。(驚くべきことにこの記録はしっかり申請されているという)

    こんな下らないうんこ小説に感想を書いて頂いて感謝です。
    クリスマスで世間が賑わっている最中、独り部屋で黙々とこの話を書いていた甲斐がありました。


      [No.4061] Re: This is new world. 感想です 投稿者:   投稿日:2018/01/14(Sun) 15:30:49     66clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     こんにちは。こちらでは初めまして。ツイッターでお世話になっております、海と申します。

     めちゃくちゃ真面目でめちゃくちゃ面白いじゃないですか……面白い……腹筋を返してください……うんこ視点は卑怯すぎますよ……途中までは必死に我慢するがごとくうんこというワードも出てこなかったのに……頭から最後の尾っぽまで見事に……!!
     便秘……
     辛いですよね……
     私は五日も出なかった経験は無いんですが想像を絶する痛みでしょう……しかし五日って……下痢止めの前に昨日とかのうちに便秘薬を飲んで出せと言いたくなりますね。これが初めての経験でないなら余計に!w
     これだけトレーナーが必死なのにポケモンたちとの温度差がまた、たまりませんね。正直エネコロロが似たパッケージで全然違う薬(たとえば下剤とか)を持ってくるオチかと思ったんですがなんとまさに下痢止めを持ってくるとは!結局下痢止めとしての効力を発揮しなかったとしても!!
    トレーナーくんがぎりぎり切羽詰まりすぎてることが敗因でしたが結果的に大勝利でしたね。やー、もう、何度読んでも……誰しもが経験するであろう、なかなか出てこないブツがようやく出てきた瞬間の、あの、言葉にならない幸福感……開放感……このあたりの描写も流れも鮮やかすぎて共感できすぎて最高でした。からのうんこ視点、流れていく様……サヨナラ……!


     彼は、先程活躍したマッスグマとエネコロロをボールから出す。二匹は、あらゆる華麗な技を畳み掛けるかのように魅せる。観客は彼らの演技に、笑顔で拍手をしたりしている。その笑顔には何の皮肉もない。とても純粋な気持ちで彼らはコンテストを楽しんでいる。
     ついさっきまでうんこと格闘していた者と、その格闘の手伝いをしていたポケモンだとは知らずに。

     ある意味コンテスト本番よりも必死な舞台裏、めちゃくちゃ面白かったです。ハイセンスすぎてこれに返せる感想にならないのが悔しいですが、これが投稿されたのが12月24日だというのも含めて何もかもやられました。傑作です。ありがとうございました。


      [No.4060] 奇人たちのバトルタワー 投稿者:造花   投稿日:2018/01/06(Sat) 22:21:38     57clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    注意、このお話はポケモンとは関係ないキャラクターの設定を借りてポケモントレーナー化&もしポケモンの世界にいたらというIf設定(妄想)を盛り込んでいます。
    たぶんキャラ崩壊してるので苦手な人はごめんなさい。
    彼は手じゃなくてリョナに目覚めてます。ついでにたぶんケモナー。




     世界のどこか、例えば南国の観光リゾート地に、天を穿つ巨大な高層ビルがそびえたつ。その名はバトルタワー。
     壁面全体にガラスをあしらった近代的な姿は、辺りの景観を損なうことなく、この土地が誇る象徴の1つとして、人々から好意的に受け入れられていた。
     一見すると大企業の本社ビルか、或いは高級高層ホテルのように見えるが、実際のところは観光・レジャーを兼ね備えたポケモントレーナーのポケモントレーナーによるポケモントレーナーの為のポケモンバトル施設である。
     年間1000万人を越える観光客たちの大多数は、その高層ビルを必ず訪れていると言っても過言ではない。
     ある者は展望スペースで南国のパノラマを一望し、ある者はビル内部で繰り広げられている無数のポケモンバトルを観戦し・・・或いは自ら挑戦者となり、数多のポケモントレーナーたちと戦いを挑んでいる。
     挑戦者に課せられるルールは次の通り。
     トレーナーは異なる種類のポケモン三体まで用意する。ポケモンに道具を持たせる場合、それらは全て異なるものでなくてはならない。対戦相手と7連戦し、全勝するか敗北・棄権するまで出ることはできない。
     トレーナーは、ポケモンに対してアイテムを使用できない。ポケモンへの行動指示とポケモンの入れ替え、ギブアップのみが許される。
     7連勝を達成すれば、バトルポイントを貰うことができ、貯まったバトルポイントは、ポイント引き換えコーナーでアイテムと交換することができる。
     連勝し続ければ、施設のオーナー「タワータイクーン」の称号を保持する凄腕のポケモントレーナーと戦う権利が与えられる。
     挑戦者を迎え撃つ応戦者たちは、バトルタワーと契約を結んだ社員トレーナーである。彼等にも挑戦者と同様のルールが課せられるが、挑戦者が7連戦の間に如何にして撃ち破らなければならない使命を帯びている。
     挑戦者と応戦者、彼等は純粋にバトルを楽しみたい者、自分の実力者を試したい者、バトルの修行を目的とする者もいれば・・・ただ暴れたいだけの乱暴者や対戦中毒の戦闘狂、自分の強さを誇示したい自惚れ屋、対戦相手をいたぶりたい変態もいる。
     トラブルを招く人物はどこにでもいるが、個人レベルの諍い程度ならまだ許容範囲内だ。
     バトルタワーにとっての真のトラブルメーカーとは、タワータイクーンを二度に渡り撃ち破るだけでは飽きたらず、連勝記録を伸ばし続ける規格外の化物ポケモントレーナーたちである。
     その化物の連勝記録を打ち止める事を使命とする社員や用心棒たちは、昼夜を問わず死に物狂いで応戦している。
     一見すると華やかな観光地の一名所に過ぎないが・・・・・・ここはポケモンバトルの魔境である。

     ★

    (興醒めだな・・・・・・"これ"は見るに耐えられない)

     バトルタワー実戦部門課長補佐を務める中年男性"ビジネスマンのキラ"は、控え室の椅子に座りながら真っ白に燃え尽きて、項垂れるタワータイクーンを見て思う。
     彼女はポケモンリーグチャンピオンとも互角以上に戦えるポケモンバトルの実力者であり、鍛え上げた数多のポケモンたちの中には伝説と評される貴重な個体も存在する。
     そんな彼女が本気で挑んでも全く歯が立たず、悔しさのあまり変装してまでリベンジマッチを幾度となく繰り返したが、全て返り討ちにされてしまっているのだ。
     今の彼女は、青髪の縦ロールのカツラを被り、ミニスカートに黒タイツを履いた若々しいエリートトレーナーのコスプレ(本人は完璧な変装と言い張る)をしており・・・・・・文字通りと言うべきか見た目通りと言うべきか、とにかく無理をして病んでいる状態なのは間違いない。

    「キラさん・・・・・・私また負けてしまいましたわ」
    「えぇ、そのようで・・・次は私の出番なので、それでは」

     タイクーンのかすれるような声を右から左へと受け流し、キラは足早に控え室から出ていく。
     彼女の言葉は怨嗟の念が込められているように重苦しく聴こえてくる。
     まともに取り合っては呪われてしまいそうな負の念を、彼女が纏っているように見えてしまう。
     馬鹿であるが高潔な彼女は、決して口に出しはしないが・・・・・・そもそもこんな醜態を晒している原因は、挑戦者の連勝記録を打ち止められないでいる腑甲斐無い応戦者たちにあるのだ。
     故にキラは次の戦いで必ず勝たなければならないが、相手はタワータイクーンを何度も撃ち破る化物。
     しかし、手段を選ばなければ勝算がない訳ではない。
     タワータイクーンは高潔なポケモントレーナーだ。ポケモンリーグが制定した公式戦のルールに準じた模範的な正当な戦いで1つの頂点まで上り詰めており、それ故に対戦相手を徹底的に対策したメタゲーム・奇策縦横させる柔軟な戦い方をしようとしない節がある。
     キラは挑戦者にコテンパンに打ちのめされたタワータイクーンのポケモンたちの姿を思い出し・・・・・・自身の倒錯的な異常性癖を静かにたぎらせながら、勝ち筋を思案する。
     ビジネスマンのキラ、彼はバトルタワー実戦部門課長補佐であると同時に、バトルタワーに所属する社員トレーナーの中でも有数の実力者であるやり手の危険人物(ヘンタイ)だ。
     彼は時々考える・・・・・・もし自分がポケモンとの出合いがなく、ポケモントレーナーとして成功していなかったとしたらどうなっていたのだろうか?
     しかし、それはまた別のお話で。



     バトルタワーの頂点に一番近いバトルフロア。そこに招待されるポケモントレーナーは連戦連勝記録を更新し続ける者たちだ。
     今その場を陣取るポケモントレーナーは、見た目こそ10代前半くらいの少年だが、ポケモンリーグに挑戦したトレーナーの中でも最速最年少で四天王とチャンピオンを打ち負かし、殿堂入りを果たした稀代の天才ポケモントレーナーと評される逸材だ。
     その面構えは決して変わることがない事で有名らしく、どんな危機的状況に陥っても崩れない完璧なポーカーフェイスを維持し続ける様は、彼の異名・・・もとい蔑称を『サイコパス』やら『マシーン』と足らしめているらしい。
     サービス係が手持ちポケモンを回復している間も、彼は表情1つ変えることなく、新たな対戦相手・・・・・・ビジネスマンのキラが入室しても変わらない。

    「君はここまで飽きもしないで勝ち続けしまったんだね・・・・・・うらやましいよ・・・ヒマそうで」

     年上の大人に嫌味を言われようとも、どこ吹く風が如く気にしていない。それどころか取り合おうともしないで堂々と無視を決め込む始末だ。
     ならばとキラは切り口を変えて相手の出方をうかがう。
    「私の名は『キラ・ヨシカゲ』 年齢33歳。自宅はここからそう遠くない北東部の別荘地帯にあり結婚はしていない。仕事は『バトルタワー』の社員トレーナーで 毎日遅くとも夜8時までには帰宅する。
    タバコは吸わない。酒はたしなむ程度。夜11時には床につき、必ず8時間は睡眠をとるようにしている。寝る前にあたたかいミルクを飲み、20分ほどのストレッチで体をほぐしてから床につくと、ほとんど朝まで熟睡さ。赤ん坊のように疲労やストレスを残さずに朝目を覚ませるんだ。健康診断でも異常無しと言われたよ」

    (・・・・・・何言ってるのキラさん!?)

     その場にいたサービス係の女性は、キラの唐突な自己紹介に困惑の表情を浮かべる。
     しかし、当の挑戦者はノーリアクションのまま、困惑するどこれか苛立って口を挟むこともなく、最後までキラの自分語りを行儀よく(?)聞いてくれていた。
     サービス係りと目が会うとキラは思わず、ギラリと睨み付けてしまい、彼女を萎縮させてしまう。

    (すまない、君は悪くないのに・・・しかし、これではまるで私が赤っ恥をかいているようではないか!!)

     挑戦者もサービス係も誰も悪くない。キラが相手の出方を探ろうとして勝手に自滅しただけなのだから。
     しかし、このままでは締まらないので、話を早々に切り上げて勝負を仕掛ける。

    「何故こんな話をしてるかって・・・・・・それは君が、私の睡眠を妨げるトラブルであり敵という訳だからさ。さて準備はいいかね?」

     キラはスーツの懐からモンスターボールを取り出すと、少年モンスターボールを取り出して構えて見せ、準備万端であることを伝えるように頷いてみせた。

     バトルフィールドにモンスターボールが投げ込まれ、戦いの火蓋は切られる。

     少年が繰り出した先鋒のポケモンはゲンガー。濃紫色の卵型の体には短い手足と尻尾・とがった耳が生えており、赤い双眸をギラギラ輝かせながら、口が裂けそうになるまでヘラヘラ嗤っている。
     ずんぐりむっくりとした愛嬌のある姿をしているが、見た目に反して身のこなしは軽やか、その実は暗闇に潜みながら人の奪い取ろうとする危険なポケモンだ。
     対するキラの一番手のポケモンはアシレーヌ。白と青のツートンボディはアシカと人魚姫を掛け合わせたような美しい姿をし、頭部は泡の髪止めで纏めた水色の長い髪が生え、ヒトデの髪飾りを付けており、実際の性別に関係なく女性的な雰囲気を漂わせる。
     アシレーヌはフィールドに出てくるや否や、口から水のバルーンを無数に放出し、臨戦態勢を整えた。

    「ヘドロ爆弾」

     少年が短く口火を切ると、ゲンガーは口を大きく開けると吐瀉物・・・ではなくヘドロの塊をアシレーヌ目掛けて吐き出す。
     フェアリータイプのアシレーヌにとって毒タイプの攻撃は弱点である。初手はセオリー通りの手堅い責めだ。

    「うたかたのアリア」

     対するキラはアシレーヌの弱点を突かれようとも、決して焦ることなく攻撃技で応戦するよう指示を仰ぐが、相手の出方を受け追加のオーダーを出す。

    「プラン通り"夜の女王"で行こう」

     夜の女王とは、古の音楽家が手掛けた歌劇で歌われるアリアである。その歌に秘められた思いは、絶対に果たさなければならない復讐、バトルタワーの威信をかけた失敗は許されない必勝の作戦が動き出す。

     アシレーヌは水のバルーンを歌声の音波で自在に操る特殊な力を持つ。透き通った綺麗な歌声を響かせながら、先ほど発生させた大小様々な水のバルーンは幾つもの層をなす壁となり、迫り来るヘドロ爆弾の進路を防ぐ。
     バルーンに接触したヘドロ爆弾は汚泥を辺りに撒き散らしながら破裂するが、バルーンの防壁は表面の層が破裂するのみで、他の層は緩衝材となり、攻撃の影響を受けずに形を保っている。
     水のバルーンには触れると破裂する物としない物、二種類のパターンが存在し、ヘドロ爆弾を防いだのは後者、アシレーヌが飛び乗っても破裂しない耐久性を持つ。

    一方、触れると破裂する水のバルーンは、群をなして一斉にゲンガーの方に迫り来る。その様は群を成したヨワシが如く。

     しかし、少年は冷静な指示をゲンガーに仰ぐ。

    「影の中に避難しろ」

     バルーンの群の真下には、半透明の影が無数に出来ていた。
     ゲンガーはシャドーポケモンと分類される通り、影に潜り込む特殊な能力を持つポケモンだ。
     一度、影の中に潜伏してしまうと物理的な力で強引に引きずり出すことは難しいだろう。
     目標を失ったバルーンは床に接触し破裂、強烈な水飛沫と衝撃波を発しながら次から次へと連鎖爆発を起こし、大半が役目をまっとうできないまま消失する。
     最後尾のバルーンが破裂すると同時に、影に潜伏していたゲンガーは依代を失い姿を表した。
     ゲンガーは影から影へと移動しており、既にアシレーヌの目前にまで迫っていた。

     しかしアシレーヌの破裂しないバルーンの防壁は未だ破れる事なく展開しており、その守りの布陣は分厚いまま。

    「バルーンを利用して高くジャンプだ。目標はアシレーヌの影」

     少年の指示を受けたゲンガーは、辺りに漂うバルーンに次々と飛び移り、アシレーヌお株を奪うかの如く宙を舞う。
     邪魔なバルーンを飛び越えてアシレーヌの影に潜伏し、近距離から確実にヘドロ爆弾を当てる算段だ。

     「題目を変えよう・・・"誰も寝てはならぬ"」

     キラはほくそ笑みながら、自分とアシレーヌにしか分からない暗号の指示を出す。
     それは先程の"夜の女王"と同様に、古の音楽家が手掛けた歌劇で歌われるアリアの一種である。
     アシレーヌの歌声が辺りを柔らかく包み込む。その特殊な音波は聴く者を微睡みの世界に誘う催眠効果を有するポケモンの技"うたう"だ。
     しかもアシレーヌは"うたう"と並行して、バルーンを自在に操っていた。
     バルーン利用して跳躍していたゲンガーは、催眠音波の影響を受け、意識を保つことができず落下するが・・・バルーンの集合体は対戦相手を優しく受け止めた。
     プカプカと優しく包み込まれ、ぼやけた視界は宙の中・・・まるで空に浮かぶ雲の上でお昼寝しているかのような錯覚に陥る。
     心地よい感触と耳障りの良い音色、夢と現実の境目が曖昧になり・・・人を呪い殺す影に潜む怪物・ゲンガーは睡魔に堕ちると同時に、戦いを忘れそうな、ほんわかふわふわした気持ちになりそうだった。
     しかし戦いの最中、一時の心地よさに流されて眠ってしまう者の末路は、惨めな敗北しかない。

    ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

     キラの気配が変わる。
     不敵に笑いながら両腕を交差させる。その右腕にはZリングが装着しており、必殺のZワザを発動するべくゼンリョクポーズをしようとしていた。
     しかし、少年も何もしないまま黙って必殺のZワザを受ける気は毛頭無い。

    「眠るくらいなら舌を噛み千切れ」
    「・・・・・・」
    「もう一度言う。眠るくらいなら舌を噛み千切れ」
    「・・・・・・!?」

     少年は決して感情は現さないが、物騒過ぎる激励の命令を僕に送る。

     すると心地良い歌声の中でガブリ・・・と嫌な音がした。

     ゲンガーはワナワナと身を震わせたかと思えば、飛び跳ねながら微睡みの世界から覚醒し、そのままアシレーヌの影に飛び込んだ。

    「なにぃ!!?」

     あの状態で意識を覚醒させるとは想定していなかったキラたちは、完全に虚を衝かれてしまう。
     影への潜伏を許してしまった事も手痛いミスである。キラたちが発動しようとしていたZ技・わだつみのシンフォニアは、対戦相手と十分距離を取らなければ、巻き添えを食らいかねない大技なのだ。
     しかし、影に潜入された以上、下手に逃げ出しても後方からヘドロ爆弾の直撃を受けるてしまう・・・アシレーヌは追い詰められていた。
     しかし、追い詰められた時こそ、冷静に物事を対処しチャンスをモノにするのだ。
     キラ・ヨシカゲはいつだってそうやってきたのだ。今まで乗り越えられなかったトラブルなど一度だってないのだ。

     キラとアシレーヌは覚悟を決めた。
     33歳独身のビジネスマン・キラは両腕で波を描くようにゆらゆら動かし、水タイプ特有のゼンリョクポーズを決める。
     するとキラと共鳴したアシレーヌは、Zパワーを体にまとうと、全力のZワザを解き放つ。

     わだつみのシンフォニア

     ゲンガーが影の中から姿を表し、アシレーヌの無防備な背中にヘドロ爆弾を放つが・・・トレーナーと共鳴した全力の歌姫は、その身を汚泥で穢されようとも歌うことを決して止めない。

     アシレーヌの頭上には既に巨大な水のバルーンが出来上がっており、その場で勢いよく破裂する。
     水飛沫と共に凄まじい衝撃波がバトルフィールドに解き放たれる。トレーナーたちはバトルタワーの特殊防護システム"透明な防御壁"によって戦いの影響を受けることはないが、フィールドのポケモンは、あの一撃をまともに受けては一溜りもないだろう。
     歌を最後まで歌いきったアシレーヌだが、ヘドロ爆弾とわだつみのシンフォニアの直撃をまともに受けて立っていられるハズがなく戦闘不能状態、力なく倒れ伏していた。
     その痛ましい姿を目の当たりにして・・・・・・キラは息を荒げて性的な興奮を感じていた。
     台無しである。彼自身自分が最低だという自覚はある。しかし生れ持った性(サガ)というヤツは、爪が自然に伸び続けるように、誰にも止める事はできないのだ。

     アシレーヌを失ったが引き分けに持ち込めたなら上出来だ。細やかな絶頂(エクスタシー)に浸るキラだが・・・すぐさま冷静さを取り戻す。いないのだ。肝心のゲンガーの姿がどこにも見当たらないのだ。

     まさか・・・その嫌な予感が的中する。


    ゲーゲッゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲ!!!

     嗤い声がどこからともなく聞こえたかと思えば、倒れ伏したアシレーヌの体が宙に吹き飛ぶと、その影の中からゲンガーが飛び出てきた。
     口元を邪悪に裂かせ、悪魔のようにゲラゲラ嗤う。その舌先にはカートゥンアニメに出てくるような冗談みたいな大きな絆創膏がワザとらしく貼られていた。

     キラは激しく動揺する。
     コイツを刺し違えてでも仕留められなかったのは非常に不味い。コイツはまだあの凶悪な技を温存しているのだから・・・!

     
     ▶To Be Continued


    〜〜〜〜〜〜・・・・・・!

    次回予告(仮)

     キラの次鋒・第2のキラークイーンは抱擁ポケモンサーナイト。彼女は場に出るや否やメガシンカ状態になる。
     異常性癖者とのキズナが編み出したとっておきの技は、ポケモンリーグが、その危険性から公式の技から除外した禁じ手ブラックホール!
     キラたちは独自に改良を重ね、ブラックホールをポケモンバトルで使用できる技のレベルまで落とし込めたのであった!

    「コレプサーバリア!」

    サーナイトの周囲に、擬似的に産み出された極小のブラックホールが無数に展開される。

    悪鬼羅刹のゲンガーが繰り出したシャドーボールは、ブラックホールに吸収されてズタズタに引き裂かれてしまう!

    さらにブラックホールを超能力で転移(テレポート)、形を維持するサイコパワーを解放すると・・・

    「コレプサーボム!」

    極小のブラックホールは瞬く間に蒸発!そして大爆発!!!

    止めて!地球が壊れちゃう!!でもそんなの関係ねぇ!!!ポケモンバトルは今、新たなフェイズに移ろうとしていた!!!

    それでも鬼畜ゲンガーは、極悪非道の奥義"道連れ"をチラチラちらつかせメガサーナイトと互角以上に渡り合う!

    ブラックホールが未来に託される時、勝負は決まる!!そしてあの最凶のドラゴンが動き出す!!

     
    次回、メガサーナイト死す
    ポケモンバトルスタンバイ!


      [No.4059] Re: ハウとグー!ラジオ年末スペシャル 投稿者:小樽   投稿日:2018/01/02(Tue) 22:45:22     52clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    こんにちは。感想を書くのはお久しぶりです。小樽です。

    > 「グラジおかんだねー」
    読んだらグラジオくんめっちゃオカンでした。前作もひっくるめて納得してます。
    対してざっくり受け流すハウくんはオカンの子どもの感がありますね。
    ラジオのこの凸凹感がたまらないっす……。

    グラジオくんも強さや鍛錬一辺倒かなと思いきやそうでもなく、
    リーリエのハンカチを大事にしていたりと、実は情に厚いところもあるのが垣間見えますね。
    あと選曲に思わず懐かしさを覚えちゃいました。いいラジオでした。


      [No.4058] ハネッコジャンプ 投稿者:空色代吉   投稿日:2018/01/02(Tue) 21:47:28     76clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     大地を踏みしめ全身に力を籠める。感覚を研ぎ澄まし風の流れを読む。
     重要なのは体の力と風の力。
     両方のバランスを取りベストコンディションになるのをひたすら待つ。
     その時が来るのは、一瞬かもしれないし、丸一日経っても来ないかもしれない。
     それでもただただ待っている。その時を待ち焦がれている。
     睨み上げる先にそびえ立つは、人の手によって作り上げられたラジオ塔。
     その建物から延び出ている頂上こそが、私の目的地だ。
     私は必ずそこへ辿り着いてみせる。絶対にラジオ塔のてっぺんに昇ってみせる。
     あいつらを見返せるのなら私は何でもしてやる。

     このジャンプは、私のすべてを賭けた挑戦である――――そう、思っていたのに。

     私は失敗した。失敗した。失敗してしまった。
     力み過ぎたのがいけなかったのか。風を読み違えたのか。
     努力不足だったのか。はたまた運に見放されたのか。
     とにかく私のジャンプはラジオ塔の半分にも届かなかった。半分さえも届かなかった。
     挙句の果てに風に飛ばされてしまう。私の落下予測地点は海面だった。泳げない私にとってそれは死を意味していた。

     落ちる、落ちる。ゆっくりとだけど確実に落下している。
     私の目指していたラジオ塔のてっぺんが、どんどん遠のいていく。
     短い両手をその頂へと伸ばしても、空を掴むばかり。
     風さえ、風さえあればまだ私は舞い上がれるのに。
     すがる想いを背中に託しても、憧れの頂点は離れていく。
     ああ、私の挑戦はここで終わるのか。
     私をのけ者にしたあいつらを見返せないまま、終わるのか。
     特訓したのに。頑張ったのに。努力したのに。この様か。
     協力してくれたヒマナッツとタマンタにどう顔向けすればいいのだろう。
     あんなに力を貸してくれたのに、応援してくれたのに。私はふたりに借りを返せないまま死ぬのか。
     感謝の言葉さえ、まだ言っていないというのに。

     塩辛い空気の味を噛みしめながら、終わりたくないと蒼天に願った。




    ↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑


     さて、失敗をしてしまった私には残り僅かな時間しか残されていない。
     幸運かは微妙だが、お天道様に願ったおかげで私は走馬燈に陥っていた。
     この恵まれたわずかな時を、気持ちの整理と回想に使いたいと思う。

     まずは自己の再認識から。
     私はハネッコ。ピンクの丸い体に尖った耳を持ち、頭から葉っぱを生やしたキュートな容姿をしたポケモンである。ハネッコとは、私の種族名であり、私自身の個を表す名前は無い。とりあえず友からはハネッコと呼ばれている。
     外見以外に特徴を上げるとするならば、私はとても軽い体をしている。そよ風に吹かれるだけでも飛ばされてしまうほど軽いのである。突風に飛ばされて住処に帰ってくるのに何日もかかる場合もあるほど、ハネッコは軽い。
     だが、その軽さは短所ばかりではない。私は軽いからこそ生かせる技を持っていた。
     その特技とは――――「はねる」
     跳ねる、という言葉を聞くと、ぴょんぴょんぴょこぴょこと低くジャンプするイメージがあるだろう。だが、ハネッコの跳ねるは根本的に違うのだ。
     ハネッコは軽いからこそもともと重力に縛られにくい。更に「はねる」で高く跳べば跳ぶほど、地上との距離が離れるだけ体にかかる重力は距離の二乗に反比例して少なくなるらしい。つまり上へ跳べば跳ぶほど重力の枷から解き放たれ、ますます上昇できるそうだ。
     反比例云々は物知りな知り合いからの受け売りなので、私自身は正直に言うとよく解らない。だがそういう理屈や仕組みがありそうなのは日頃ジャンプをしていて感じていたので、恐らくあってはいるのだろう。
     そして力の入れ具合と解き放つタイミングさえ合わされば、一回のジャンプでニコニコ笑いながら山を軽々と飛び越すことも可能だという伝説も私達ハネッコの間では残っている。
     ハネッコの「はねる」は、無限の可能性を秘めていた。

     力説しておいてあれだが、所詮言い伝えは言い伝えでしかない。私が山越えを出来るかというと、まだその境地まで達していない。私の「はねる」はせいぜいニンゲンの住処である一軒家のてっぺんに届けばいい方だった。そして私の仲間内では一番低い方だった。
     つまり私は、落ちこぼれジャンパーなのであった。


     ハネッコ仲間から落ちこぼれた私は、とうとう群れから追い出されることになる。
     理由は単純。周りのハネッコと一緒の高さまで跳ねることができない私は、渡りの時期に乗る風に乗れず、いつもグループからはぐれて迷惑をかけていたからだ。
     だが、それも仕方のない話である。はぐれた私を捜すことは、仲間にとってはとても危険なことだった。
     まず、手分けして捜すと群れがバラバラになって二次被害どころの騒ぎじゃなくなる。風は都合よく流れてはくれない。かといって群れでまとまって低い場所をうろうろしすぎると襲われるのだ、鳥ポケモンの群れに。最悪の場合みんなまとめてフルコースである。
     だから群れの危険を少なくするために、私を置いていくという判断はやはり正しい。正しいとわかっているだけに情けなく、そして何より悔しかった。

     行き場をなくした私は悩んだ末に、飛ばされないように歩き昔迷子になった時に知り合った友を訪ねた。
     ラジオ塔のある街の近く、海岸沿いにある黄色い花畑にふたりは居た。
     片方は、黄色と茶色の縦縞を持ち、大きな黒い目を輝かせ、私とは違う葉っぱを頭から生やしたヒマナッツというポケモン。
     もう片方は、海に棲んでいる青くて平べったい、長めの触覚と下まつ毛のある目がチャームポイントなタマンタというポケモン。
     慣れない歩きに疲れた私はふたりの顔を見て泣き崩れ、これまでの経緯と悔しい胸の内を吐露した。
     ふたりは相槌をしながら私の話を丸一日聞いてくれた。救われたし、ありがたかった。だが溜め込んでいた胸のつかえが少なくなるのと反比例に惨めさは増していって仕方がなかった。多分反比例とはこういう使い方なのだろうと、その時に悟った。
     頭の葉っぱがしおれた私の心中を察してくれたのか、ヒマナッツがある提案をしてくれた。

    「ハネッコ。悔しいのなら飛べるようになろう。他の仲間に負けないくらい高く、高く跳べるようになろう――――あのラジオ塔のてっぺんに、一回のジャンプで昇れるくらいにさ。そして見返してやろうよ」

     何気ないそのヒマナッツの激励が、私の生きる上での目標、夢……いいや違う。
     これが私の初めての、野望になった。


    ↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑


     それから、私の野望を叶える為の特訓と研究にヒマナッツとタマンタは協力してくれた。
     まず初めにしたのは、ラジオ塔がどれくらいの高さかの把握だった。ラジオ塔の中から歩いて登ってみたのだ。(私だけでは重さが足りなくて入口の自動ドアに反応されなくて凹んだことは、心の隅に置いておく)
     数えてみるとラジオ塔は六回建てで、その最上階の展望台から見た景色は、家々がずいぶん低い所にある風に見えた。私の限界点がこんなに低いものだという現実を突きつけられた。

     タマンタは私の挑戦にまとわりつく身の危険を案じてくれた。

    「この街は海に近いからね。もしジャンプが上手くいかなかったときは海に落ちる可能性が高い。そうしたら僕がハネッコを助けに行っても間に合わないかもしれない。それでも君は挑むのかい?」

     そのタマンタの心配に、私は確かこう答えた。
     どのみち群れに戻れても戻れなくても、高くジャンプできる力がなければ危険なのは変わりない。少しでも生き残りやすい方法を身に着けたい。それになにより私だって“ひとりで生きていける”とあの私を追放した者たちに言ってやりたい。見返してやりたい。と。
     私の言葉を聞いたタマンタは、静かに「そう。なら止めないよ」とこぼした。その時のタマンタの表情は、どこか寂しげに見えた。

     目標の高さを覚えた私は、一旦ふたりと別れ海から離れた森でひたすら跳ねる練習をした。
     切り株の上で踏ん張りをきかせ、跳ねた。昼夜を問わずに跳ねまくった。
     時に風に流され、エアームドの鋼の翼にかすり、ポッポの群れにつつかれ命からがらに逃げ、トランセルがバタフリーに進化して羽ばたく瞬間にも立ち会った。
     時折ヒマナッツが差し入れてくれたモモンの実はとても甘くて美味しかった。
     いくつもの太陽と月が昇っては沈んでいき、雨の日は切り株の虚の中でイメージトレーニングをして過ごす。
     月日が経ち、着実に高く跳べるようになっていく。そしてとうとう森の上からラジオ塔のある街を見渡せるぐらいには跳ねられるようになっていた。

     あとは、天気と風の情報が欲しかった。上手く風に乗れれば、ラジオ塔の頂上に届く自信はついていたのである。
     私が天候を知るあてがなく困っているだろうと思ったのか、ヒマナッツが人間の家にひそかに忍び込んで、ラジオの気象予報をチェックしてくれていた。正直凄く助かった。
     久しぶりに会ったタマンタは一回り大きくなっていた。泳ぐスピードも速くなっていて驚いた覚えがある。タマンタも特訓したのだろう。私も負けてはいられない。
     天候の条件に合わせ体調が絶好調になるように維持し、ついにその時は来た。

     私が選んだのは、澄み渡る青空の日。
     植物の混じったポケモンである私は、晴天の下でたくさん陽光を浴びてエネルギーを溜める。
     準備運動をしてコンディションを整え、ヒマナッツとタマンタが静かに見守る中私はひたすら風とタイミングを待った。

     大地を踏みしめ全身に力を籠める。感覚を研ぎ澄まし風の流れを読む。
     睨み上げる先にそびえ立つは、人の手によって作り上げられたラジオ塔。
     風が来る。力の入れ具合はベストのタイミングに至る。
     心から待ちわびた瞬間にたどり着き、全身全霊を持って地面を蹴った。


    ↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑


     そして私は失敗した。
     本来の力を出し切れなかった。ラジオ塔の半分も届かずに風に流され海の方へ落下していく。
     走馬燈のゆっくりとした時の流れをもってしても、もう海面はすぐ後ろにあるのを察した。
     泣きたかったが、涙は出なかった。それでも口の中はしょっぱかった。
     もう最後の瞬間くらい何も考えずに死ねたらいいと思った。だが私は思考を止めることは出来なかった。
     色々考えたのちに、ある感情がこみ上げてくる。それは悔しさだった。

     悔しい。
     失敗したことが悔しい。
     悔しい。
     見返せなかったことが悔しい。
     悔しい。
     辿り着けなかったことが悔しい。
     悔しい。
     全力を出し切れなかったことが悔しい。
     悔しい。
     心半ばで死んで終わってしまうことが悔しい。

     悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。
     嫌だ。嫌だ。嫌だ。死にたくない。終わりたくない。
     まだ、死ねない。終われない。
     その境地に至った私は、諦め悪く悪あがきでめちゃくちゃにみっともなく叫ぶ。
     格好悪く、助けを求めた。

    「嫌だ……まだ、終わりたくない諦めたくない――――助けて!!」


     助けを求めたら背中を押された気がした。それは気のせいなどではなく、本当に背中を押されていた。
     日差しが一気に強くなり、なんと海面から上昇する風が私の背中を押し上げた。

    「「その言葉を待っていた!!」」

     余裕のできた私は、それまで背にあった海面をようやく見下ろす。そこにはタマンタが「おいかぜ」の技で風を起こし、タマンタの背に乗ったヒマナッツが「にほんばれ」の技を使い日の光を強くして海面を温め、私の真下から援護の上昇気流を発生させてくれていたのである。

    「風を掴め、ハネッコ!!」
    「行くんだハネッコ、頂へ!!」

     今度こそ本当に涙が出た。
     タマンタとヒマナッツが生み出す風は温かく、心地よくて力強くて、即興で生み出されたものではなく、この風を作るのにふたりがどれだけ練習したかが伝わってきて……どこまでも高く跳べる気にさせてくれる。
     頭の葉っぱでたくさん風をうけて、私は舞い上がり昇っていく。
     塔の半分を勢いよく越え、展望台を越え、勢い余って頂上を通り過ぎた。
     慎重にラジオ塔のてっぺんにしがみつくように着地する。
     辿り着いた感想は、喜びよりも高さに対する怖さが勝った。何故なら、私は遥か彼方に広がる地平線よりも真下ばかりを見下ろしていたから。
     石粒よりも小さくなってしまった。ヒマナッツとタマンタの姿を見つけるのに躍起になっていたから、その高さにビビってしまっていた。


    ↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑


     結局私は本来の目的である、昔のハネッコ仲間を見返してやることは出来なかった。
     ジャンプに失敗し、友の手を借りてようやくラジオ塔のてっぺんに到達した私だ。まだまだ精進しなければならない。
     ふたりにお礼を言った時に聞いた話だが、ヒマナッツとタマンタは始めの内は手出しをせずに見守るつもりだったらしい。私が失敗しても命だけ助けるつもりで、手伝う予定はなかったそうだ。だが私の根性を見て、ふたりは私がいつ助けを求めてもいいように上昇気流を作る特訓をこっそりしていたそうだ。

     今回のジャンプを経て、一つ考えを改めたことがある。
     それは、ひとりで生きていくことはやはり難しいということだ。
     ヒマナッツとタマンタにはたくさん協力してもらっていたのに、私はそんな当たり前のことを見失っていた。
     どんなに努力しようとも、強くなろうとも誰かに助けられてしまうことはある。だが、そのことを恥ずべきではないということを知った。

     甘えすぎてもいけないけれども、助けてくれる友を持てたことは私の財産である。
     いずれは私も彼らの力になれるようになりたい。そのくらい格好良くなりたい。
     その大切な気持ちを胸にしまい、これからもハネッコらしく元気に跳ね続けようと私は私に誓った。


      [No.4057] ハウとグー!ラジオ年末スペシャル 投稿者:音響担当:風間深織   投稿日:2017/12/31(Sun) 17:27:06     63clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    「最初はグー! ジャンケングー! 今週も、ハウとグー! ラジオ、始まるよー! ハウだよー!」
    「グラジオだ」
    「グラジオ聞いてよー。今日で、もう今年が終わっちゃうみたいなんだよー、どうしよー?」
    「12月31日だからな」
    「それはー、そうなんだけどー……グラジオは今年やり残したこと、ないのー?」
    「男に二言はない」
    「それ、使い方間違ってる気がするよー? おれはねー、冷蔵庫に昨日買った12月限定の粉雪マラサダを入れっぱなしにしちゃって、まだ食べてないんだよー! 早く食べないと12月終わっちゃ……」
    「そのマラサダがこちらになります」
    「えっ」
    「そのマラサダがこちらになります」
    「えっ、これ、おれが冷蔵庫に……」
    「そのマラサダがこちらに」
    「グラジオ何度もカンペ棒読みするのやめて」
    「……さっきハラさんが届けにきてたぞ」
    「じーちゃんナイス! そういえばこの前も、『ハウ、しまキングは気配りができないといかんぞ。しまキングに限らず、強い者は周りをよく見ているものだ』って言ってたー! さすがおれのじーちゃんだ!」
    「そうか……」
    「どうしたのグラジオー? おれの顔に何かついてるー?」
    「よだれがたれてるぞ。曲が流れてるあいだに早く食べろ。食べながら話されて言葉が通じないのは一度で十分だ」
    「わー、まだ根に持ってるー……」
    「だから早く食べろ。……今日の1曲目は『ゲッタバンバン』」

    ♪〜ゲッタバンバン

    「い……」
    「口を開くな。飲み込んでから話せ」
    「……」
    「ちゃんと噛んで食べろ。喉を詰まらせるぞ」
    「……」
    「食べ終わったら手を拭けよ」
    「……グラジオってさぁー」
    「なんだ」
    「口煩いお母さんみたいだよねー」
    「なっ」
    「グラジおかんだねー」
    「変なあだ名をつけるな」
    「この前もさー、おれがマラサダ食べようとしたら『手は洗ったのか』って言うし、洗ってきたら『ハンカチは持ってないのか』って言うし……」
    「それは当たり前だろう」
    「それでそれで、ハンカチ持ってないって言ったら、ピンクのレースがついたハンカチ貸してくれたんだよー」
    「ぐ……リーリエがくれたんだ」
    「それをちゃんと使ってるのもグラジオの優しさだよねー。ね、グラジおかん?」
    「うるさい、少しはまともなことを話せ」
    「うーん、そうだねー。グラジオいじりはこの辺にしておいて、お便りのコーナーに行ってみよう!」
    「勝手にしろ」
    「最初のお便りは、アローラのカイさんから『こんにちは!いつもハウとグー!ラジオ楽しく聴いています!来年もよろしくお願いします。ハウくんとグラジオくんの来年の目標は何ですか?教えてください!あとハウくん収録終わった後、良かったら一緒にマラサダ食べ納め行きませんか?』だってー!」
    「オレの来年の目標は、己の弱さを補填する、頂点に立てるほどの強さを手に入れることだ」
    「それ、ずっといってるよねー」
    「オレは強さを手に入れたい、それだけだ」
    「じゃあまた強さって書いた色紙あげるよー。おれの目標はー、毎日元気で、ゼンリョクでバトルすることかなー?」
    「それもずっと言ってるやつだろ」
    「初詣で、無病息災全力勝負をお願いするつもりなんだよー」
    「むびょうそ……?」
    「さて、次のお便りに行こうかなー! 次は、ポニ島のジュカインさんから。いつもありがとうー! 『31日なのに年賀状が書き終わっていません。どうしたらいいと思いますか?』うーん、それは大変だねー」
    「漆黒の闇で塗り潰せば書かなくてもいいんじゃないか」
    「それじゃあ呪いの年賀状になっちゃうよー! 確かに、黒で塗り潰せば書かなくてもいいかも……あ!」
    「どうした」
    「逆にさー、真っ白のままにすればいいんじゃないかなー? 自由記入欄的なやつ! ちょっと斬新だよねー……うん、とりあえず頑張ってー! そんなジュカインさんにはこの曲をプレゼント!ハルカの『私負けない!〜ハルカのテーマ〜』」

    ♪〜私負けない!〜ハルカのテーマ〜

    『アローラ観光ならまずココ! アローラローラー♪ アローラ観光案内所!』
    『マラサダー♪ マサラダー♪ サラダではないー♪ マラサダー♪ おいしいー♪ シュガー・クリームもいっぱいー♪ マラサダを食べるなら! マラサダショップへGO!』
    『初詣ならマリエシティヘ。皆様のお越しをお待ちしております』

    「さて、そろそろラジオも後半戦だねー! 次のコーナーに行ってみよう!『グラジオの決め台詞ー!!!』」
    「またこれか……」
    「なんだかんだでずっと続いてるよねー。今日もグラジオに言って欲しい言葉を募集するよー! なんでもいいよー! メールで送ってくれると嬉しいなー」
    「前回の『ククイ博士のプロポーズシーンを2人で再現してください』みたいなやつはやめてくれよ……」
    「えー? いいじゃん、おれは楽しかったよー!」
    「お前が調子に乗るから嫌なんだ!!!」
    「おれにはハウっていう名前がー……っと、最初のメールが来たよ! ブルーバード島のシロイルカさんから『ロケット団の口上をハウくんとグラジオくん二人でやって欲しいです』だってー! グラジオも知ってるよね?」
    「知ってはいるが……」
    「なんだかんだと聞かれたらぁ〜〜?」
    「答えてあげるが世の情け」
    「世界のグズマくんを防ぐためぇ〜〜?」
    「違うだろ」
    「いいのいいのー、世界の平和を守るためぇ〜〜?」
    「愛と真実の悪を貫く」
    「ラッブリーチャーミーなかったきやくぅ〜〜?」
    「ククッ……」
    「グラジオ笑っちゃダメだよー」
    「グ……グラジオ!」
    「ハウだよー!」
    「なんでだよ!!!」
    「え、ダメ?」
    「ダメだろ、続きがあるんだぞ!」
    「思い出せないから次グラジオ言ってー」
    「銀河をかけるロケット団の2人には」
    「ホワイトホール! 白い明日が待ってるぜ!」
    「にゃっ……」
    「グラジオはやくー」
    「騙したな……」
    「そんなことはー、ないよー」
    「目をそらすな」
    「はやくー」
    「ぐっ……にゃ、にゃーんてにゃっ!」
    「もう1回!」
    「やるわけないだろ!」
    『にゃーんてにゃっ!』
    「録音するな!」
    『にゃーんてにゃっ!』
    「楽しかったねー」
    「楽しいわけないだろ!」
    「さて、今日のハウとグー! ラジオ、おしまいの時間が近付いてきましたー。今日でねー、今年の放送は最後なんだけど、来年もゼンリョクでラジオ頑張るからー、みんな聞いてねー!」
    「もうそんな時間か」
    「最後に1曲! これを聞いて新年を迎えると元気になれるんだよー! あと、この曲に出てくる四字熟語の漢字テストを来年やるから、グラジオは勉強してきてねー!」
    「どういう意味だ」
    「今年最後の1曲は『アドバンスアドベンチャー〜ADVANCED ADVENTURE〜』ハウとグー! ラジオ、ハウと」
    「グラジオでした。おいハウ四字熟語って……」

    ♪〜アドバンスアドベンチャー〜ADVANCED ADVENTURE〜

    『この放送は、アローラ観光案内所とマラサダショップ、マリエシティの提供で、お送りしました』


      [No.4056] ハウとグー!ラジオ 投稿者:音響担当:風間深織   投稿日:2017/12/31(Sun) 17:25:07     70clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


    ♪〜
    「最初はグー! ジャンケングー! 今週もハウとグー! ラジオ、始まるよー! ハウだよー!」
    「……」
    「ちょっとグラジオー、ちゃんとしゃべろうよー。これ、ラジオだから、しゃべらないと誰がいるのかわからないよー」
    「……グラジオだ」
    「わー、なんだか今週も不安になってきたよー。おれ、口閉じてもいい?」
    「……勝手にしろ」
    「わかったー!」
    「……」
    「……」
    「おい」
    「……」
    「おい、お前だ」
    「……」
    「聞いてるのか?」
    「おれには、ちゃんとハウっていう名前が……あ!しゃべっちゃったよー」
    「ハウ」
    「なにー?」
    「しゃべってくれ」
    「わかったよー。そういえば、夏休みが終わってもう学校が始まった人もいると思うんだけど、グラジオは夏休み何してたー?」
    「オレは自分の弱さと向き合うために、白銀の氷塵の積もった孤高の山で、相棒と共に修行をしていたが……」
    「うーん、よくわからないけど、修行してたってことだよねー。どこかに遊びに行ったりはしなかったのー?」
    「遊び……だと? お前は俺に遊ぶような暇があるとでも思うのか!?」
    「ラジオに来てくれるってことはー、暇なんじゃないのかなー? それに、おれにはハウっていう名前があるってさっきも言ったよねー?」
    「ぐっ……」
    「グラジオの夏休みはなんだかつまらなさそうだから、おれの夏休みの話してもいいー?」
    「勝手にしろ」
    「わかったよー、しない」
    「えっ」
    「しない」
    「しよう」
    「グラジオがそんなに聞きたいっていうなら、してあげるよー。おれ、夏休みの間に、アローラ地方で売ってるマラサダを、全種類食べたんだー!」
    「なるほどな……」
    「マラサダにも色んな種類があって、シュガーと、シナモンと、ココナッツと、あと中にクリームが入ってるのもあるんだー! ナナシの実のクリームと、モモンの実のクリームと、あと」
    「ハウ」
    「どうしたのー? グラジオもマラサダたべたくなったー?」
    「いや、そうじゃないんだが」
    「マトマのクリームが……」
    「ちょっと待て」
    「さっきからどうしたのー? おれにマラサダの話させてよー」
    「この言葉を自分の口から発するのはかなり癪だが、この際だ、心して聞けよ」
    「なになにー?」
    「お前、脂肪という鎧を身に纏ったな?」
    「何言ってるんだよー、おれ、鎧なんて着てないよー? それに、おれにはハウっていう名前がー……」
    「わかった、ハウにもわかりやすく言ってやろう」
    「うん、耳をゴマゾウにして聞いてるよー」
    「オレにはお前が太って見える。それも、ゴンベ並みに横に成長している気がする」
    「えぇーーー! それって、じーちゃんに近付いたってことーーー!?」
    「はぁ……もう何も言うまい。体型的には近付いたかもな、よかったな」
    「わーい、わーい。えっ、なになにー? あっ、えっと、今ねー、音響さんが、そろそろ曲流せってー。えっ、音響さんとかそういうのは言っちゃダメー? ごめんもう言っちゃったよー。グラジオ、タイトル言ってー?」
    「えっ……これをオレが言うのか!?」
    「はやくー」
    「後で覚えとけよ。タケシの……タケシのパラダイス」

    ♪〜タケシのパラダイス

    「みんなきいてよー、曲が流れてる間にグラジオにげんこつされたんだよー」
    「この曲聞くと、オレの気分が反比例して漆黒の底へと堕ちるんだよ」
    「えっ、それって最初はめちゃめちゃテンション高いってことー? しかもその後ガタ落ちで、でも0にはならないから底でもないよねー」
    「そんなわけあるかよ」
    「えっ、もしかして、グラジオって勉強できな……えーーーっと、なんでもないよー! そんな怖い目で睨まないでよー! あ、ちょっとスカル団に似てきたかもー?」
    「……」
    「あぁもうまたグラジオが口閉じちゃったよー…… あ! そうだ! メールとお便りがたくさんきてるんだー!」
    「……」
    「まずは、アーカラ島の、光の三原色赤さんから『タケシのパラダイスを聞いて、ガラガラたちが踊り出しました。でも、俺の知らない謎の山男が混ざっているのは気のせいにしておきます』そうだねー、気のせいにしたほうがいいと思うよー」
    「……」
    「次は、メレメレ島の、エリコさんから『ハウさん、グラジオさん、こんにちは。私はトレーナーズスクールで先生をしています。夏休みが終わり、スクールには日焼けをした子どもたちが毎日元気に登校してきます。ただ、どうしても夏休みの宿題をやってこない子が全体の6割をしめて困っています。ハウさんとグラジオさんは夏休みの宿題をきちんとやっていましたか? そして、子どもたちが宿題をきちんと終わらせるにはどうしたらいいと思いますか?』うーん、夏休みの宿題って、永遠の課題だよねー。グラジオは、どう? ちゃんと宿題やってたのー?」
    「一応やってはいたが……」
    「うんうん」
    「なぜか提出した後に、夏休みの倍の宿題を出されて、しばらく学校を休んでいたことがあった」
    「えぇーーー! それってやっぱり…… えっと、グラジオは、どの教科が1番苦手だったのー?」
    「国語だな。この時の作者の気持ちを答えよっていう問題とか、文章を読んで答えを書くみたいなやつが特にダメだった」
    「あ、ダメそう」
    「うるさい、その達者な口を閉じろ」
    「わかったよー」
    「……」
    「……」
    「開けろ」
    「グラジオも、学ばないよねー」
    「うるさい」
    「ちなみにおれは、ちゃんと宿題やってたよー! 宿題が終わるとじーちゃんがマラサダ買ってくれるんだー! ご褒美があると頑張れる気がするよー」
    「ご褒美か」
    「グラジオは何をもらったら宿題頑張れるー?」
    「己の弱さを補填する、頂点に立てるほどの強さだな」
    「それはちょっとあげられないかなー。後で色紙に強さって書いてプレゼントするねー。さーて、次のお便りにいこうかな。へー、たった今カントー地方からメールがきたよー。カントーの21様ラブさんから『ハウさん、グラジオさん、こんにちは。いつも楽しく聞かせていただいてます。グラジオさんに質問です。グラジオさんには兄弟はいますか? それはどんな方なのでしょうか、教えてください』うわー、これってもしかしてー」
    「リーリエは先々週くらいに電話で特別出演したはずなんだが……」
    「でもさ、あのときはグラジオもリーリエと話すの久しぶりで、緊張して結構辛辣なこと言ってたよねー? あ、それとも照れてたのかなー? このままだとリスナーさん達がグラジオとリーリエのこと誤解したままになっちゃうよー。この機会に本当はどう思ってるのか話してみたらー?」
    「ぐ……そうだな。オレには妹、リーリエがいるんだ」
    「そうだねー」
    「弱々しくて1人じゃ何もできなくて、小さい時もオレの後ろをついて回っては転んで足を擦りむいてたな。本当に鈍臭くて、泣き虫で、でもかなり頑固なんだ」
    「確かに、そんな感じー……って! また辛辣トークになってるよー!?」
    「でも、あいつは今、母の病気を治すために、自分でカントーに行くことを決めて、あっちで頑張っている。良い目をしているやつだ、なんとか頑張っているんだろうな」
    「グラジオ、なんだかんだ言っても、リーリエのことが大好きなんだねー」
    「そうだな。いなくなってから気が付いたが、オレは思いの外家族想いらしい」
    「だってよ、リーリエ! よかったねー。普段は聞けないデレジオの言葉、ちゃんと聞けたかなー?」
    「何!?」
    「今のメール、リーリエからだったんだよー。この前の電話のやつ、やっぱり気にしてたんだねー。グラジオが勝手に電話切っちゃうしさ。本当に良かったねー! 今リーリエからまたメールが来たよー『本当に嫌われたと思っていましたが、そうではなくて安心しました。わたくしは変わらず兄さまのことが大好きですので、母さまの病気が治ったら、またたくさんお話聞かせてください。それまでは、がんばリーリエ! です!』だって! リーリエらしいねー 」
    「クソッ、はめられたのか…… だがリーリエ、お前の想いは上昇気流に乗って、オレに届いたぞ」
    「メールだよー?」
    「お前はさっきからいちいちうるさいんだよ!」
    「怒られちゃったー。さて、ここで1曲。リーリエも、おんなじ空を見ているかなー? ロケット団のニャースさんからのリクエストで、ニャースの、ニャースのうた!」

    ♪〜ニャースのうた

    「良い歌だな」
    「なんだかしんみりしちゃったねー。グラジオ何かしゃべってよー、おれ、さっきからずーっとしゃべってるよー。そろそろ顔の筋肉が疲れてクチナシおじさんみたいになりそうだよー」
    「それはそれで見てみたい気もするが……何をしゃべればいいんだ」
    「それを考えるんだよー。ラジオだから、言葉が少ない方がかっこいいとか、言ってられないよー」
    「チッ」
    「今舌打ちしようとしてできなくて、チッて言ったよねー?」
    「わかった、ちゃんと考えるから、時間をくれ。そろそろCMの時間だ。えーっと、ハウとグー! ラジオは、アローラ観光案内所と、マラサダショップの提供でお送りしています」

    『アローラ観光ならまずココ! アローラローラー♪ アローラ観光案内所!』
    『マラサダー♪ マサラダー♪ サラダではないー♪ マラサダー♪ おいしいー♪ シュガー・クリームもいっぱいー♪ マラサダを食べるなら! マラサダショップへGO!』

    「ハウとグー! ラジオ、パーソナリティのグラジオだ。ハウに何かしゃべれと言われたので、どうしてハウとオレがラジオなんて面倒なものを任されたのか話そうと思う」
    「うん、いいよー」
    「あれは、よく晴れた夏の午後、オレとチャンピオンがハウに連れられてマラサダショップに行ったときだった」
    「なんだかんだで仲良しだよねー」
    「3人でマラサダを頼んで、あいてる席に座ったとき、外から汗の滴りし上裸に白衣のサングラス男が……」
    「ククイ博士のことだねー」
    「そのククイ博士とやらが、チャンピオンとハウにラジオをやらないかと声をかけてきたんだ。どうやら研究が忙しくて、自分のラジオ番組に出演する時間さえも惜しくなったらしい」
    「結構忙しそうだったよねー。リーグ作るのもきっと大変だったろうし、頑張り屋さんだよねー」
    「ハウは『えー、ラジオー? おもしろそー!』って言って、すぐに快諾していたんだが、チャンピオンが厄介で、絶対にやらないって言ってな……」
    「グラジオと違って、言葉が少ないかっこいいオレを演じてるんじゃなくて、本当に話すのが苦手なんだよねー。その分心に熱いものをもってるというかー、ね?」
    「途中まで聞き捨てならないが、今はいい。それで、チャンピオンがオレを推薦して、ハウと2人でラジオをすることになったわけだ」
    「この『ハウとグー! ラジオ』っていうタイトルは、チャンピオンにつけてもらったんだよー。面白いセンスだよねー」
    「最初の放送は大暴走だったよな……」
    「そうだねー…… おれ、じーちゃんに優しく怒られちゃったよー……」
    「……」
    「……」
    「ハウ」
    「どうしたのー?」
    「オレは今役目を終えた。後はハウに任せる」
    「えぇーーー! 聞いてないよーーー! でも、そろそろそう言われると思って、コーナーを考えてきたんだー。グラジオも手伝ってくれるよねー?」
    「わかった、言われたことは何でもやろう」
    「あ、音響さーん、今の録音取れたー?」
    「えっ」
    『わかった、言われたことは何でもやろう』
    「そうそれー。よろしくねー。じゃあ新コーナー! 『グラジオの決め台詞ー!!!』」
    「はっ……ハウこれはどういう……」
    「これから、グラジオに言って欲しい言葉を募集するよー! なんでもいいよー! メールで送ってくれると嬉しいなー」
    「おい、オレはそんなこと」
    『わかった、言われたことは何でもやろう』
    「音響さんタイミングバッチリー! おっと、もう586通もメールが届いてるよー、ありがとー! 最初はこれにしようかな。マサラタウンの3104さんから『オレ、マサラタウンのグラジオ。こっちは相棒のシルヴァディ』まだ言える方だと思うんだけど、どうー?」
    「オレ、マサラタウンのグラジオ。こっちは相棒のシルヴァディ。これでいいのか」
    「テンション低いねー。じゃあ次は……これにしよー! ポニ島のジュカインさんから『ミーに感謝するでしゅ』いいねーこれ、グラジオ言ってみてー」
    「なんでオレが……」
    『わかった、言われたことは何でもやろう』
    「だが……」
    『わかった、言われたことは何でもやろう』
    「ぐっ……みっ、ミーに感謝しゅるでしゅ」
    「あ、グラジオ今噛んだよねー? もう1回ちゃんと言ってよー」
    「ミーに感謝するでしゅ!!!」
    「おぉー、全力なかんじー」
    「ハウ、お前覚えとけよ……」
    「えー? そろそろおなかすいたなー……。え、なに? 時計見ろ? あっ、今日のハウとグー! ラジオ、おしまいの時間が近付いてきましたー。今日は、夏休みの話と、宿題の話と、リーリエの話と……思ってたよりたくさんしゃべってたみたいー! 来週もグラジオの決め台詞のコーナーはやろうと思うからー、メールとお便り待ってるよー! ハウとグー! ラジオ、ハウと」
    「グラジオでした。ハウこの野郎……」
    「わー、げんこつしないでよー! 強さって書いた色紙あげるから、ねぇー!」
    『ミーに感謝しゅるでしゅ』
    「おいっ」
    『ミーに感謝しゅるでしゅ』


    『この放送は、アローラ観光案内所とマラサダショップの提供で、お送りしました』


      [No.4055] 後半部予告 投稿者:あきはばら博士   投稿日:2017/12/30(Sat) 22:52:59     202clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


    次回予告。


    『僕はユリアン。ここはいい国だねぇ』

     ゲンジとカゲマサの前に、キュウコンが立ちはだかる。
     大仰な羽根帽子、原色をふんだんに使った胴着、黄金色に光る美しい体毛を台無しにするように、乱暴に絵具をぶちまけたように原色の布を何重も重ねている、本来ならば気品溢れる九つの尾にはまるで統一感がない縞模様や水玉模様の布が巻かれていた。さらに背中にバグパイプのような、ワケの分からない筒を乗せた姿は、背負ったバグパイプをブカブカと吹いて街を練り歩き、騒がしく祭を盛り上げるピエロにしか見えない。
     そんなキュウコンが、ゲンジの放つ水流を炎で焼き尽くし、水をすべて蒸発させながら襲い掛かる。
     悪魔の手先だと罵られてきたゲッコウガよりも、その姿は正真正銘の"悪魔"のようだった。
    「時代が……終わったんだな」
     倒れたゲンジを前にして、カゲマサは苦虫を噛み潰したように、重い口を開く。

     今、キズナの力が試される。


      [No.4054] 時代 (前半部のみ) 投稿者:あきはばら博士   投稿日:2017/12/30(Sat) 22:51:23     368clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    本は完売していないためすべては公開できませんが、今年の冬コミのゲッコウガ同人アンソロジー「放て!水しゅりけん」 に寄稿させていただいた作品 「時代」 のお試し版です。

    〜〜〜〜〜〜〜



     里が、燃える。

     山の上から目下遠くに見える、炎を上げて焼け落ちる家々を見ながら、彼らは黙り、自分たちが生まれ育った里へ永遠の別れを告げる。
     もうこの地に、彼ら『忍び』が生きる舞台は無い。
    「行こう。これ以上の長居は無用、名残惜しくなるのみだ」
     誰かがそう呟き、一人また一人と里に背を向ける。幼いながらもカゲマサは、必死にその地の最期を目に焼き付けようとしていた。


     ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆


     大きく屈曲して流れる川に優しく抱かれたこの町には、日ごろから様々な人やポケモンが行き来している。町の外には豊かな大地が広がり、市街には石畳の細い路地が入り組んでいる。
     目的地へと向かう道は人であふれていた。もともと国の中心へと向かう賑やかな街道だが、普段よりも増して活気にあふれ、酒や食べ物を売る屋台が軒を並べている。
    「おい、そこのにーちゃん、にーちゃん、ちょいとうちに寄ってかないか、安くしとくぜ」
     威勢のいいヒゲ面の中年の売り子が声を掛けてくる。何を売っている店なのか知らないが、特に欲しいものもなく、金も無い、彼は何も言わず軽く会釈だけをしてその場を立ち去った。
     この青年の名はカゲマサと言った。姓は久瑞(クズイ)、名は景昌(カゲマサ)、そんな彼の故郷の字は、この異国の地で通じる者はいない。
     使い古されて薄く色あせた藍墨色の外套で全身を覆い隠して、背中には大きな荷物を背負い、襟元に縫い付けられた頭巾(フード)を目深に被って、自らの顔を隠していた。彼の故郷では珍しくなかった漆黒の瞳に黒髪のいでたちは、この地では奇異の眼で見られてるため、人前に出るときは必ずこうして顔を隠していた。全身を覆い隠すこの風貌も充分奇異だが、本日だけは喧騒にまぎれて気にするものは誰もいない。
     道の傾斜を登り終えて、ふと後ろを振り返ると町の一部を俯瞰する形となる、青い空の下に、白く塗られた壁と赤い屋根の四階建ての家が多く建ち並び、その隙間を埋めるように高い木が緑を茂らせて顔を出している。屋根を赤くするという発想は一体誰が考え出したのだろうか、派手さや無いがその優しい色合いには、思わずため息が出るような美しさがある。
     カゲマサがその風景に少しの間だけ見とれていると、連れのポケモンに急かされたので石畳の道の歩みを進める。向かう先は王城の競技場だ。


     ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

     
     カゲマサはかつてここから遥か遠く、東の端にある日之本という島国で『忍び』と呼ばれる諜報業を生業としていた。
     戦のある場所、忍びあり。
     とある山奥の里を拠点として日之本の国を飛び回り、主(あるじ)に仕えて、巧みに乱世の世を渡り歩いていた。
     だが不屈の武将イエヤスの元に、世は統一されて乱世は終わり、時代は忍びを必要としなくなった。里はそこで三つの選択をすることになった。

     一つ目は、忍びを捨てて堅気の道を選ぶこと。
     二つ目は、忍びを続けて時代と共に滅びること。
     最後の三つ目は、この日之本を捨て、己の力を欲するであろう新天地を探すこと。

     里の頭首は三つ目の選択肢を選んだ。
     長く続いた戦によって国内の造船技術が大幅に進歩したことで、巨大海洋生物の接触に耐えうる船底を持つ船を作れるようになっていた。また、何匹かの大型水棲モンスターに船を曳いてもらう牽引船(トラクター)の技術が異国から伝わったことにより、より遠い場所にまで、果ては世界の端まで航海することが可能となっていた。遠い異国のどこかには、必ず自らの力を必要とする地はあるはずだと里の皆は希望を抱いていた。
     一度旅立ってしまえば、もうこの地に戻ってくることはない。未練など残らないように住み慣れた故郷に火を放ち、里の金をはたいて購入した大型の牽引船にポケモンたちと共に乗り込んで、一行は海へ乗り出した。

     生まれて初めて足を踏み入れる土地は、どこも驚きに満ちた世界が広がっていた。日之本ではとても想像もできなかった奇想天外な異国の文化に触れて、かつて乱世が終わりを迎えた時のような、変わりゆくものを誰もが感じていた。だがどこも彼らの力を欲する戦のある場所ではなく、ホンコン、インディア、ホープケープ、イスパニア……と世界各国の港を巡るうちに、四年の年月が経過していた。
     そして、とうとうカロスの地にたどり着いた。ここから先に船で進むと極北の地が待っている。だが、長年の航海で自分たちの船は激しく痛んで限界を迎えていた。また極寒の地であるため水温も低く、ラプラスのような寒さに強いポケモンでないととても牽引できない。
     旅を止めて、里の一行はカロスの地に住家を作り、根を下ろすことになった。その頃には一緒に船に乗っていた仲間たちは、旅の途中で亡くなったり、そこまでの寄港地に残り永住する選択をするなどして、半分以下にまで人数が減っていた。
     カゲマサとゲンジは、カロスからさらに陸路で進むことを選び、カロスから東に山を越えたベーメンブルクの地に一人と一匹で移り住んだ。


     ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆


     ベーメンブルク王国の王の居城は町の高台にそびえ立つ。城が創建されてから、次々と新しい建物が付け加えられ、数多くの様式の建物が調和した複合建築となっていた。城の中には多くの中庭をそなえて、季節に応じて様々な花が咲き乱れる。
     その城の建物の一つとして、水路を挟んで向こう側に競技場がある、ポケモンのワザを防ぐ封印の結晶が混ぜ込まれた煉瓦がふんだんに積み上げられており、城壁と同じように、多少のポケモンのワザを受けてもびくともしない。
     騎士たちの演武や儀礼としての試合の他にも、そこに住む民衆たちが自由に使えるポケモンバトル場としても解放されており、民衆にとっては慣れ親しんだ場所であることから、この競技場のことを城と呼ぶ者もいる。
     競技場に入ると奥の受付で出場者登録を行う、頭巾の奥から見える黒い髪と瞳を、受付をしていた従騎士にいぶかしがられてジロジロと見られたが、いつものことだ。もっとも、見られる視線ならば、この連れの方が辛いのだろうと彼は思う。
    『……如何か?』
    「ああ、いよいよだな、調子はどうだ?」
    『無論、万全』
     相変わらずのいつもの調子で返事をする、この連れのポケモンの名は玄次(ゲンジ)、種族はゲッコウガのオス。
     忍びの里の慣わしとして里の子は人語を解するよりも前からケロマツ族と共に育てられる。そのためカゲマサはケロマツ族の鳴声に限れば、その意味を理解できるようになっていた。とは言え、人とポケモンの種族の隔たりのせいなのか、ゲッコウガのゲンジの言葉は少々カゲマサにとって聞き取りづらく、分かり辛いところがあった。
     ゲンジもまた、鼠色をしたカゲマサと同じような外套と頭巾で全身と顔を覆い隠していた。
     ジメジメした湿気のある暗い場所を好み、ぬるぬるとした肌を持つことから、この土地でカエルは悪魔の化身として忌み嫌われており、童話には醜き者や魔女の眷属として登場している。またゲッコウガという種族のポケモンはこの土地には一切生息しておらず、ここの住民たちにとっては得体の知れないモンスターであった。
     そのため人前に出る際には、こうした外套を羽織り、道行く人を驚かせないように身体を隠していた。できることならばゲンジには、こんな外套などを脱いで、息苦しい思いなどせずに大手を振って街中を歩ける日々が来ることをカゲマサは願っていた。

     宮廷音楽隊がトランペットを構え、開始が間近であることを知らせる、高らかなファンファーレが鳴り響く。すっかりお祭りモード一色となっていた。
    「外から来た旅人たちは、これから楽しげな祭が行われるのだろうと勘違いをするだろうな」
    『うむ。が、しかしこれは平和な祭に非ず』
    「ああ、俺たちは、戦争をしにこの場所に来ているんだ」


     ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆


     このベーメンブルク王国の土地には古くから、一つの神及び救世主たる神の息子を信仰する宗教が信じられてきた。
     大昔から脈々と受け継がれてきた教えには、長い歴史の中でさまざまな権威の影響を色濃く受けるようになり、人の欲の垢が付き、教会は私腹を肥やし、国との癒着を繰り返していった。しまいには金を払えば犯した罪が許されるという免罪符なるものまで配られるようになっていた。
     これではダメだと主張する一派が、そうしたものを排除して、かつて千五百年ほど前にあった元々の教義を復活させようとしていた。教会はそれを弾圧しその一派を破門した、破門された一派は新たな教団を立ち上げ、これを新教とし、既存の教会を旧教と呼んで区別した。
     当時のベーメンブルク国王は「新教も旧教も、同じ神を信じ、同じ聖書を守っている。互いにその隣人を愛し、尊重し合うべきである」と諫めて仲を取り持ち、新教徒の教団を認めて、共に手厚く保護をしたために、一つの国の中で仲良くやっていた。
     だが、微妙に似通りながら異なる二つの思想は交わることができなかった、新教に対して猜疑心を抱く新たな国王が王座に就いたことで、国をあげた新教への弾圧が始まった。
     ここで不満が爆発した、旧教は国王側に就き、新教は民衆側に就き、宣戦を布告した。

     戦争。
     と聞くと、土地は焦土となり、両者が血で血を洗う醜い殺し合いをイメージすることが多いが、この当時はそういうわけではなかった。
     戦争で勝利すれば、敗者の土地や人民が手に入る。新たに開墾することはない農地が手に入り、敗者を奴隷としてその農地を耕させることもできる。そうして大量の穀物などを得て、自国の民の腹を満たすことになる。
     いずれ自分のものになると考えれば、相手を殺して土地を焼き払った上で勝利をしても何の意味も無い、それは相手側も同じことを考えている。自軍はもちろんのこと、敵軍の犠牲も出来るだけ出したくない、それでいて敵を負かす必要が出てくる。お互いに示し合わせて、血を流さないような決着を探り合っていく。戦争の目的とは相手を殺したいからではなく、あくまでも自分の利益のためだ。

     かつて五百年ほど前までは、土地は焦土となり、両者が血で血を洗う醜い殺し合いの戦争があった。
     野生のポケモンの襲撃にすら手をこまねくというのに、ポケモンの強大な力に人間の文明と叡智を組み合わせて武器や戦術を練り上げる戦争は、双方ともに布の服で斧を振り下ろし合うようなもので、敵も味方も人間が塵虫(ゴミムシ)のように大量に死んでいく凄惨な戦場に成り果てた。
     ローマ帝国の時代には既に電気ポケモンを利用したレールガンなるものまで発明されていた。東方からの騎馬民族が率いる大量のギャロップ軍団相手に籠城戦を仕掛けたところ、城壁を軽々と跳び越えられて、わずか五日で三つの街が焼け野原になったこともあった。ポケモンの力に対して人間の肉体はあまりに脆かった。
     おびただしい死者に敵も味方も共に悲鳴が上がり、過剰な衝突を避けて双方で代表者を選出して戦わせる形式が生み出されることになった。その決着には文句を挟まず、それ以上の争いをしないという固い誓約が出来上がった。
     この固い誓約の上で行われる勝負は『騎士』という文化と精神に強く結びつき、騎士は勇気と規則をもって国を背負い戦い、その名誉を敬われることになった。

     お互いの大将が五名の騎士を用意し、それぞれが一匹づつポケモンを出して、一騎打ちを行う。
     この形式に至るまでは少々複雑な歴史があり、元々は四名を選出し四対四の勝負であったが、いつしか最後に王自らがポケモンを出して戦うようになっていた。だが、よほどの武勇と指揮に優れた王でない限り、日々の鍛練を重ねている騎士たちに対して勝ち目がないため、最後の王の戦いは飾りになっていた。王侯貴族にとって血を流すことは卑しいこととされていたために、むしろ戦わないことが礼儀でもあった。
     そのため実際には四対四であり、偶数の四名では決着がつかないため、いつしか騎士を五名選出するようになり、この時代では六対六の戦いとなっていた。
     なお、ここでの四人+一は後に『四天王+チャンピオン体制』の元となり、六対六は後世のポケモンリーグ公式試合のレギュレーションとして、手持ち六体がフルバトルというルールに受け継がれている。また、最後の王が飾りと自覚した上で美麗なワザのパフォーマンスを行い、その美しさに相手が拍手して膝をつかせたことから、コンテストバトルという文化が生まれたとされている。

     そうした流す血を無くすための騎士による一騎打ちという形式は、非力な者が犠牲にならず、誰も死なない平和な戦争を作り出すことに成功した反面、多くの者にとって気楽な見世物になっていた。
     戦わないものは遠くで笑って見ていられるが、戦うものはお互いに死力を尽くして命を削りあうものであって、血を流す醜い殺し合いの代わりなのだ、こうした時代の流れを嘆くべきか喜ぶべきか、カゲマサは少々複雑な気分だった。


     ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆


     競技場の観客席には実にさまざまな人間とポケモンたちが集まっていた。国を挙げてのイベントということで、領主や爵位持ちの諸侯たちが各地から集結し、貴賓室では貴婦人たちがお茶を片手に談笑を繰り広げている。バトルというものに全く興味なく、皆が集まる舞踏会の感覚で出席していると見られる。
     そして爵位持ちの貴族たちの席には、やはりというべきか、ルカリオというポケモンが多い。
     この頃のモンスターを収納するためのボールは、木の実にちょっと手を加えただけのボールであり、中のモンスターが好きなように外に出ることができるという、扉が存在しない入れ物にすぎなかった。そのため人間との信頼が失われれば簡単に逃げ出したり、人間を攻撃するリスクが常にあったため、強いモンスターよりも、ちゃんと人間の言うことを聞くポケモンであることが最優先だった。現代のようにポケモンを沈静化させて落ち着かせたり、多少の抵抗ではびくともしないボール構造になるのはまだ先のことだった。

     強いポケモンほど気性が荒く、手懐けることが難しい中、騎士や貴族たちが従者として所有するポケモンとして、ルカリオが圧倒的な人気を誇っていた。
     特筆すべきは主人たる人間に対する強い忠誠心であり、基礎体術から遠距離攻撃、癒しの波動を用いた回復ワザを持ち、戦闘補助も完備、さらに専用の装備を一から鍛えずとも、人間の子ども用の鎧や兜をそのまま流用できることも評価が高い。多くの人に育てられてきたため育成ノウハウの蓄積があり、育成に悩むこともない。
     また、オルドランの波導伝説や、シャラに伝承されるメガルカリオなど、ルカリオに関する伝説は昔から多く、それにあやかっていた、この頃には実用性ではなく慣習として育てるものとなっていた。
     貴族や騎士は自分たちの子女にはリオルを与えて、従者としてルカリオへ進化させる。その需要の多さから貴族のみを対象としたリオル専門の里子業者も複数存在していた。
     騎士と言えばルカリオであり、ルカリオと言えば騎士のポケモンだった。

     戦いに備える控室の中で、カゲマサは身の周りの装備の確認に入る。ポケモンとポケモンの一対一のバトルであり、トレーナーの人間は指示をするだけで戦いに加わるわけではないが、自らの相棒ゲンジと心を合わせて戦闘態勢に入るために万全の装備で挑む。
     腕には籠手(こて)、足には草履と脛当(すねあて)、腰には大きなベルトを締めてそこに道具袋と金具装備を吊るす、首には忍びの里に伝わる護石を掛けて懐にしまう。
     故郷の里から大事に使ってきたものもあれば、この地で新たに買い足したり修繕し直したものもある、どれもカゲマサにとって体の一部として馴染んでいた。自分のものを手早く終えると、ゲンジの装備も確認にかかる。

     カゲマサとゲンジは新教、つまりは民衆軍の三番手として試合にエントリーしていた。
     多く領地と資金を持ち、たくさんの優秀な騎士を抱える国王軍に対して、民衆軍にはそのようなものは無く、各地の騎士たちは国王および領主からの庇護を失うことを恐れ、ほとんどが民衆の味方につかなかった。
     新教への弾圧に怒って決起してみたものの、今こうして蓋を開けてみれば、自分たちに逆らう不穏分子を新教ごと潰そうという魂胆の、国王の巧妙な挑発に見事に乗ってしまったという形だった。その戦力に悩む民衆軍に、カゲマサは自分を売り込んだ。
     忍びの者は影に生きて陰に死ぬ、とカゲマサは幼き時から教わっており、当然そのように生きるべきだと考えていた。この土地にも影に生きて闇に暮らす生業は存在していたが、主との強い信頼関係によってのみ成り立つものであるため、何代にも渡って王侯貴族と密接に結びついていたそのような仕事を、見知らぬ場所からやってきた余所者がありつけるはずは無い。
     食うためには仕事をしなければならないが、そのためにはまず実績が必要だった。外套と頭巾で顔を隠し続ける影の暮らしにこだわらず、頭巾を脱いで光の前に出なければならない、カゲマサはこのチャンスを逃さなかった。
     五人のうちの三番手とは、あまり期待されていないポジションかもしれないが、悪魔の化身を連れた余所者ごときが、この晴れ舞台に立つなど夢物語だろうと思っていたため、戦いの場に出られるというだけで充分な成果であると自負していた。


     ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆


    「出番だカゲマサよ、出ろ」
     簡易な甲冑を着た従騎士の男が、部屋で控えるカゲマサとゲンジを呼びに来た。
     試合は勝ち抜き制であり、バトルフィールドには既に、騎士の装いをしたトレーナーと、先ほどこちらの軍のポケモンを倒したばかりの、マントのようにして翼を丸めて地面に降り立っているコウモリポケモンが、背筋を伸ばして待機していた。
     決められた位置に着くと、ゲンジは着ていた鼠色の外套を脱ぎ捨てる。観客から大きなどよめきが上がり、先ほどまでうるさかった歓声が水を打ったように静まりかえる。醜い姿を見た悲鳴が聞こえてくるようにも思えた。
    「ゲンジ、目の前に集中しよう」
    『……御意也』
     出来ることならば姿を晒さずに戦いたいが、そうはいかない事情がある。ゲッコウガは全身の皮膚を湿らせて、そこからも酸素を取り込むために機敏に動き回っても疲れにくいのだが、服を着ていると文字通りに息苦しい思いをしてしまう、そのため戦闘などで激しく動き回る際には脱くことにしている。
     ゲンジの装備は出来るだけ身軽に、皮膚呼吸のために肌の露出を増やすべく、武装は最低限に抑えている。腕には藍色の手甲、足には藍色の脛当を備えており、久瑞家の家紋である『三つ剣紋』が白字で描かれている。ゲンジは手甲と脛当の裏に収納してある武器の苦無(クナイ)を一本だけ抜きとり、右手に構えた。
     戦いには武器と防具の使用が認められている。武器はワザの補助としての扱うのが一般的であり、ゲンジが持つクナイとは忍びの里に伝わる両刃の武器で、大きさはダガーナイフほどだが、刃をあまり研がず、土を掘ったり壁に打ち込んで足場にすることができ、頑丈さに重きをおいた武器となっている。

     相手トレーナーがこちらに向かって歩いてきた。あと二歩ほどの距離まで近づくと、軽く一礼する。
    「はじめまして。アルビノウァーヌス子爵の第二子、フィオラケス・アルビノウァーヌスだ。よろしく」
    「あ……ああ、はじめまして、名はカゲマサ、姓はクズイ、ご覧の通り爵位も無いの流れ者だ」
    「やはり髪が……ふぅん、珍しいな」
    「…………」
     カゲマサの髪の色を不審がらず、好印象だったのか嬉しそうに笑みをこぼす。
    「良き精神と共にあろう」
    「ああ、あろう」
     肩まで掛かるシルクのように透き通った白銀の髪と、突き刺すような目つきを持つ男だった。背が高くよく絞り込まれた体をしている。一般的な甲冑ではなく、馬に跨って狩りに出かける時に使うような軽い鎧で、マントと儀礼用のレイピアを腰に吊るしている。
     軸足でくるりと半回転して、白い蝙蝠ポケモンの紋章が大きく描かれたマントを翻し、すたすたと元の自分の持ち場に戻っていく。
    『主、何をやっておるのだ』
    「突然のことにびっくりしたんだ、あと名前に、まさか律義に名乗ってくるとは、そういう作法でもあるのか?」
    『知らぬ』
    「アルビノウァーヌス卿の子だったんだな、子爵とは騎士にしては相当な身分だ、こんな俺が相手で大丈夫かな」
     重圧に押されて気弱になり、このような舞台に日陰の存在であるはずの自分がいることに不安になっていた。騎士でされなくとも参戦できるとは言え、本来ならばあのような気高い騎士がここに立っているべきだろう。
     何も持たず、たどたどしい返事しか返せなかった自分を、彼を笑っているだろうか?
    『弱気な。引け目を感じるならば、己の紋でも見ろ』
     ゲンジは自分の手甲に描かれた家紋を見せる。
    「ふっ、それもそうか」
     カゲマサの口角が上がった。自分も長らく続いた里の血が流れているのだから、引け目を感じることはない。少々緊張してしまったのかもしれない。

     カゲマサとゲンジは向き直し、対戦相手となるポケモンの姿をしっかりと見据える。コウモリのような姿をした、ここから西の山岳地帯に生息しているとされるオンバーンというポケモンだ。余計な肉はすべて削ぎ落されて、すらりと鍛え上げられた細い体躯には、その見た目からは想像できない大いなるドラゴンの力の秘めている。
     しなやかな体をぴったり包み込むように、飛行能力を邪魔しないかなり薄い鎧を身に着けている。名のある鍛冶屋の手で丁寧に裏打ちされた鎧には、純白のオンバーンをモチーフにした蝙蝠の紋章が描かれている。白い獣は太古より神の使いとされて神聖視され、あれこそがアルビノウァーヌス家の紋章であり、誇り高き騎士の一匹であると言うことを威風堂々と見せつけている。
     アルビノウァーヌス家は、代々オンバーンを育てる騎士貴族として名が知られており、カゲマサもその噂はかねがね聞いていた。ほんの小さく可愛らしいコウモリが巨大な飛竜に変貌することを突き止めたとされ、武芸に優れた名家だと聞く。領内の山から凶暴な野生ポケモンが下りてきて、人家が脅威に晒されれば、当主自らが剣をふるって退治に向かうらしい。
     その息子であるフィオラケスは狩猟マニアの変人であり、家の中は自作の剥製や標本だらけで、黒髪の男娼をいつも連れて街を歩くなどあまり良い噂を聞かない。黒髪の男が好みだからお前は絶対に近づくな、と友人から忠告されていたので、その名を聞いた時に戸惑いがあったが、会った印象は真面目で実直そうな男と感じとれた。

    「構え、準備はいいか?」
     審判の問いに、両者は大きな声で了解の返答をする。
    「よし!」
    「よし!」
    「では……はじめっ!」
     審判の合図と共に、オンバーンは大きく翼を羽ばたかせて一気に急上昇しながら後退し、距離を取った。そして、空中で息を吸って蒼白い波動を作り出し、相手をめがけて[りゅうのはどう]を放つ。
     ゲンジは[かげぶんしん]を作りながら、前に転がってその攻撃に避けて、数多くの分身を率いて多方向からオンバーンに向かう。
     トレーナーからの指示を聞いて、すかさずオンバーンは大きく息を吸い込み、すさまじい破壊力を持つ[ばくおんぱ]を顔全体から鳴らした。虚ろな分身たちはたちまち消し飛び、ゲンジ自身はダメージを受けるが、充分な距離があったためかそこまでのダメージは受けていない様子だ。
    「なるほど……」
     こちらの攻撃が届かない上空から、貫通力がある高威力ワザの竜の波動と、当てやすく全体範囲ワザの爆音波を使い分けてくる。こちらから遠距離ワザを使えば、その身軽さでヒラリとかわし、ならば近づこうと跳躍すれば竜の波動や爆音波の餌食となるだろう。
     おそらく日々の狩猟で鍛えた長射程の狙撃力を生かし、こちらの攻撃が当たらない距離から、あちらが一方的に攻撃を当て続けるのだろう。
     だが、充分な距離さえ取っていれば、相手の攻撃の発射を見極めた上で避けることができる、避けることに集中して、欲を出さず不用意に近づかない限りは、一方的に攻撃をされることはないだろう。
    『如何にする?』
    「後の手を取る戦いをする以上は、あちらから仕掛けてくるはないと言える。戦の定石に従えば、攻めに出ずに持久戦を仕掛けるべきだろう。薄い鎧とは言え鉄は重い、飛び続ければ疲労をすることは免れない。こちらが地上にいる以上、先に疲れるのは飛び続ける敵だ」
    『為らば、堪え忍ぶとするか。拙者は我が主の判断に従うのみ』
    「……いいや、ここは攻めよう。出来過ぎた定石には乗るべきでない」
    『御意』
     賢明な者ならば、下手に攻めずに様子を見るべきだと判断する。だからこそこれは罠だとカゲマサは感じ取った。相手は持久戦を誘っている、誘うからには溜め技が存在するなどの奥の手や、何らかの理由があるのだろう、そうして作られた流れには乗ってはいけない、率先して逆らうべきだ。
    「跳び、手裏剣を切り口に、斬れ」
    『承知っ』
     ゲンジはクナイを収納し、相手に向かって走り出し、大きく上空に向かって跳躍する。
     オンバーンは、しめたという表情を浮かべた。一度跳躍してしまうと空中では自由が効かなくなる、こちらに向かってくる的へしっかりと狙いを定め、今にも竜の波動を撃とうとした、その刹那にオンバーンの額に水の弾丸が命中した。
     奥義、[水手裏剣]。
     極めて短い予備動作から瞬速で撃ち出される水の矢は、竜の波動に先制して命中する。オンバーンは大きく驚き、ひるんで技が不発になった。
     ワザを撃った反動を受けて、跳躍力が足りず空中で失速する中、踏みこむ動作と同時に、足先から真下に向けて水を噴出することで宙を捕らえ、ゲンジは空中跳躍をした。
     そして、手甲から取り出した二本のクナイを両腕に掴み、相手を目掛けて、一気に振り抜く。
    「クロスロードスラッシュ!」
     縦方向と横方向の十文字の斬撃。
     相手のオンバーンはとっさに身体を傾けて鎧で、その[つじぎり]の攻撃を受け止めるが、刃を防ぐことはできても、衝撃を受け止めることできない。羽ばたく力を失って空中で完全にバランスを崩したオンバーンの首を、すれ違い際に舌を伸ばして絡めとり、空中で思いっきり引きよせて、地面にたたきつけた。
     審判の旗が振り上げられ、決着の合図がされると。
     民衆の歓声がどっと巻き起こった。


     ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆


    「まずは一勝か」
    『然り。下の目標には到達できたか』
    「ああ、最低限の仕事はできた」
     次の対戦相手が位置に着くまでの休憩時間に話をする。
    『仮に勝ち進み、大きな成果を得たならば、主は如何にする? カロスに帰るか?』
    「それは……」
     カゲマサは口ごもった、答えは定まっていたはずだが、自分の中でまだ迷いがあったかもしれない。
    『御免、無粋な問いだ、忘れろ』
    「いや失礼した、何か土産を持って、カロスに寄ってちゃんと詫びの一つは言わなければな、ただ帰るつもりは無い。俺はお前と忍びとして闇に住むんだと決めたんだ」
     そう話しているうちに次の相手が位置に着く。続けての対戦相手はボスゴドラのようだ。
     そのトレーナーもがっしりとしたガタイの良い男で、分厚い甲冑を着こんで彼自身もよく鍛えられている。強いポケモンほど気性が荒くプライドも高く、弱い存在には従おうとしないため、トレーナー自身の強さも必要となる、仮に暴れた際にはトレーナーがポケモンを組み伏せる必要があったため、ポケモンと共に騎士自身の鍛錬も欠かせない。
     先ほどのオンバーン使いのように、相手の詳しい経歴までは分からないが、ボスゴドラを連れた騎士には心当たりがあった、力自慢の重量系戦士であったはずだ。
     彼はこの土地では見ることがなく得体も知れぬゲッコウガの姿を、悪魔でも見るような眼で睨みつけていた。とはいえ軽蔑しているわけではなく、オンバーンを倒した確かな強者として警戒している様子だった。敏捷性に長けており水系統のワザを使うポケモンであるとは既に見抜かれてはいるだろうか。先ほどのように、相手の無知を利用して突破することはもうできないと見られる。
     ボスゴドラは鋼鉄の皮膚の上から、全身を重厚で鈍い輝きをした鋼の鎧で覆い、両手で扱うために作られたはずの無骨な戦斧を片腕で軽々とつかむ。戦斧の柄の先端からはヒラヒラとした糸飾りが翻っていた。
     硬くて重い鎧はポケモンの敏捷性を削ぐ上に、激しく動くと皮膚と鉄が擦れて怪我をするため、できる限りポケモンの鎧の面積は減らすべきだとされるが、鋼の皮膚には鋼の装備はしっくりと良く馴染むため、鋼ポケモンに限れば例外とされている。
    「あれは、もしや……」
     カゲマサは相手の装備について、ある疑念を抱いた。
    「封印の結晶を埋め込んでいるかもしれない、まず確認をしよう」
    『御意』
    「波動展開、水と闇」
     試合開始の合図と同時に指示を出す。ゲンジはそれぞれ小さなものであるが、右手に[みずのはどう]、左手に[あくのはどう]を作り出し、両方同時にボスゴドラに向けて放つ。それに対してボスゴドラは猛然と戦斧を振り上げて、まっすぐ走って向かってくる。
     二つの波動攻撃は鎧の表面に触れると、弾けて消し飛んだ。ゲンジのすぐ横を駆け抜けざま、戦斧の一閃が襲う。ゲンジは姿勢を低くして前方に飛び出し、戦斧の軌道を下に避けて、地面で一回転してすぐに立ち上がった。
    「やはりか……そして速い」
     カゲマサは一人で頷く。
     《封印の結晶》と呼ばれる、ポケモンが持っている不思議な力を打ち消してワザを無力化する特殊な鉱石がある。本来ならば野生のポケモンの襲撃を防ぐために城壁や人間の盾に用いられるものだが、それを組み込んで鎧を作っているようだ。これを装備にするとワザによるエネルギー攻撃を防ぐことができる一方で、その無力化効果により装備ポケモンはワザが一切使えなくなってしまう。
     だがワザを一切使わずともボスゴドラには元々の筋力と防御力、そして圧倒的な重量がある。ワザをお互いに封じ込め、元々のポテンシャルでの勝負に持ち込む心算のようだ。
     かつ、これだけの重装備に似合わない敏捷性を持っていたことから、ボスゴドラは《疾風の首巻》という『ワザを封じ込める代償に素早さを上げる道具』を身に着けているのだと推測した、これは後世において《こだわりスカーフ》と呼ばれる道具の原型にあたるものだ。
     つまり、唯一の弱点となる鈍足で無くなったこのボスゴドラに対して、純粋な力比べをしなければならないということになる。
    「ワザは効かないようだ、構えろ」
    『承知』
     再び打ち込もうとする相手に、ゲンジは一本のクナイを両手で構え、間合いから一歩踏み込んで戦斧の柄の部分を捉えて、相手の攻撃を上手に受け流した。相手は無闇に打ち込むだけでは勝てないと察して立ち止まり、それぞれの武器を握りしめて睨み合う。
     柔軟なゲッコウガの身体の欠点を埋めるために、硬く頑丈さが自慢のクナイであるが、戦斧の攻撃を受けることはできない。わずかでも届きさえすれば、鎧も盾も関係ない、すべてを叩き割って、一撃必殺となるのが戦斧という武器だ。
     先に動いたのはボスゴドラだった、ゲンジの脳天めがけ、叩き割る一撃を振り下ろす、ゲンジはそれを回避しつつ斜め前に跳び、相手の背後に回り込んだ。そして、がら空きの背中に突きを繰り出す。しかし、すばやく向き直ったボスゴドラはそれを斧頭で受け止め、さらにゲンジの身体をクナイごと弾き返した。たまらず後退する。速さは互角、膂力(りょりょく)では完全に劣っている。ゲンジの足が半歩だけ後ろに下がった。
    「隙は必ずあるはずだ。焦るな!」
     カゲマサの声で、目を凝らして相手の視線の動かし方やわずかな力のぶれを探り出す、そしてゲンジが目を瞑ったその隙を狙い、大きく踏み込んで間合いを詰めて戦斧が振り下ろされる。
     ゲンジは左足で踏み込んで、ワザの[まもる]を展開し、クナイの側面を向けて構える。結晶の効果でワザが大きく弱まっているため、まもるの障壁はあっけない音を立てて砕け散ったが、勢いを削るクッションとしては作用し、戦斧をクナイはぎぎぎと嫌な悲鳴を上げながら受け止める。
     クナイを横にずらして手を離し、戦斧を身体のすぐ横に振り下ろさせる。そして同時に脛当から二本目のクナイを引き抜き、右足を軸に体を一回転半させて、自らの膂力と遠心力が合わさった一撃を背後から、相手の鎧の装備の隙間がある脇腹にねじり込んだ。
     うまく刺さった。
     ねじ込んだクナイをテコのようにしてこじ開けて、出来た鎧の隙間へ更なるクナイを楔として打ち込む、全身をくまなくガードするために複雑に組み合った鎧は、このようにされると関節が固定されて、自由な動きができなくなる。
    「渦潮を起こせ」
     ゲンジは地面に両手をつき、大地より大量の水を湧き上がらせて、身動きが取れない相手を巨大な[うずしお]の渦に閉じ込めた。結晶の効果はワザを完全に無力化するわけではない、クナイで作った装備の隙間から水が内部に浸水していく。またたくまにボスゴドラの体力を削りきった。
     審判の旗が振り上げられ、決着の合図がされると。
     民衆の歓声がどっと巻き起こった。


      [No.4053] アローラ、おれのふるさと 投稿者:負け犬のインタールード   投稿日:2017/12/29(Fri) 05:03:26     160clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:作者:久方小風夜】 【ハワイティ杯のおまけ





    ※前作以上にキャラ崩壊と捏造が激しいです

    ※作者はUSM、まだ2つめの島までしか進んでません










     青い空、青い海、白い砂浜。美しい自然と、他にいないポケモンと、あたたかくのんびりとした住人と、独自の文化。
     そんな宣伝文句に躍らされて世界中からやってくる観光客共が、昔から大嫌いだった。




    +++アローラ、おれのふるさと+++




     ポケモンバトルは昔から大好きだったが、最初から強かったかっていうとそうでもねえ。むしろ弱かった。コソクムシは育たないとバトルには向かないし、でも戦わないと育たないし、かといって戦ってそうそう勝てるわけでもない。戦っては負け、また戦っては負け、いつまでたっても同じところで足踏みをしているだけ。
     弱っちいぐずのグズマ。そう言って笑われ、罵倒され、何やってるんだと罵られる。


     何やってんだ。何やってんだ。
     昔から投げつけられ続けていた言葉を、自分で自分に言うようになったのはいつからだっただろう。


     それでも必死で努力して、島巡りも終わらせた。俺に出来ることは精一杯やったんだ。
     だけど周りの奴らの反応は変わらねえ。冷ややかなままだった。
     島巡りなんて所詮は通過儀礼だから。終わらせて当然のことだから。多少ポケモンバトルが強くても、結局はカプに認められていないから。
     そう言って鼻で笑って、無価値な人間だと切り捨てる。
     何を考えているのかわからない、判断基準も曖昧な土地神に認められなけりゃ、この島では何も残らねえ。

     前へ進む方法がわからなくて、でも今更掲げた目標を下げることも出来なくて。
     そうやって出口の見えない暗闇で足掻いても、残された時間が無情に削られていくだけ。
     成果も得られず、満足も出来ず、必死になったところで得るものは何もなく、ただただ時間ばかりが消えていく。フラストレーションばかりが溜まっていく日々。


    「自分をしっかり見直して、足りないところを補うのですな。そうでなければ上には行けませんぞ」

     「師匠」には何度もそう言われた。でも具体的なことは何も言ってくれなかった。どうすれば認められるかなんて、結局誰も教えちゃくれなかった。多分、知ってる奴なんてこの地方のどこにもいやしねぇんだ。
     明確な答えもないまま出口を求めて暴れていると、叱責はより厳しくなった。褒められたことなんて一度もなかった。
     もしかしたらそれは期待の裏返しだったのかもしれないし、俺なら自力で道を見つけるという過剰な期待もあったのかもしれねえ。今ならそう思うが、当時の俺はただただ見捨てられたようにしか思えなかった。


     誰にも認められやしねえ。俺の努力も、俺の気持ちも。


     師も家も捨てた俺のところには、いつの頃からか、同じように挫折した奴らが集まるようになった。
     周りからの勝手で過剰な期待。そして失望。どいつもこいつも、向けられる目は冷ややかで、馬鹿にされ笑いものにされていた。

     島巡りは通過儀礼。島巡りは子供が大人になるための試練。
     それじゃあ、俺たちはどうなんだ。
     島巡りをやったのに誰にも認められなかった奴。島巡りを終わらせることも出来なかった奴。島巡りを始めることすら出来なかった奴。気まぐれな土地神に嫌われた奴。
     そういう奴らは、大人になることすら許されないのか。誰でも平等に減っていく二十歳までの時間の中で、チャンスすらつかめなかった俺たちは。

     体だけ大人になって、心だけは大人になりきれず、それでも大人になれという。

     弱くて行き場のない俺たち負け犬は、集団になって身を守るしかなかった。馬鹿にされないために。指差して笑われないために。
     全員で同じ服を着て、バンダナで顔を隠して、ひとつになったら安心できた。
     他の奴らに嘲笑されても、同じ境遇の奴らが周りにいたから耐えられた。それでも耐えられないなら、力だけはある俺が危害を加えてくる奴を全部ブッ壊してねじ伏せた。

     この島の因習も、この島の人間も、この島の守り神どもも、みんなクズだ。
     見てくれのいい場所だけ見せて、都合のいいところだけ選別して、その影にある挫折と絶望は徹底的に隠して目もくれねえ。

     投げ捨てられて踏みつけられた俺たちは、やり場のない恨みと怒りを持て余し、世界に怯え続けていた。


    「わたくしには、あなたの力が必要なの」

     遙か遠くからやってきた、白く美しい女神のような人にそう言われて、どれだけ嬉しかったことだろう。
     初めて俺を認めてくれた。必要だと言ってくれた。行き場を失った俺たちに、手を差し伸べてくれた。

    「協力してくれるわよね?」

     それは慈悲による救済などではなく、悪魔からの地獄への誘いだったのだけども。
     その手を取らないなんて選択肢、俺にあるわけねぇよな。





     風の強い日だった。
     生まれ故郷の島の、人目の少ない道を歩いていた。俺の家の方から、師匠のいる村の方へ。
     街外れにぽつんと建つ新築の一軒家のあたりで足を止め、ため息をつく。ひょんな流れで師弟関係を復活させられたが、顔を合わせる気にゃなれなかった。元下っ端の奴らも何人かいると聞いて、ますます気まずかった。
     足を向ける方向に迷い、何とはなしに海の方へ向かう。

     海風に乗って、頭のねじが外れたような笑い声が聞こえてきた。何て言ってるかはわからねぇが、時折罵声のような声も混じる。
     何だこれ、と思ったが、自分が向かっている方向にあるものを思い出し、まさか、と小さくつぶやく。
     こんな人気のない小さな砂浜にいる奴なんて、ひとりしか心当たりがねえ。

     白い砂浜にあぐらをかいて座ってるのは、思った通り、白いキャップに白衣を着た男。
     俺の気配に気がつくと、そいつは顔を上げてこちらを見た。久しぶりだね、とか何とか声をかけてきたが、それより俺は、そいつのサングラスの向こう側から滴が零れているのに驚いていた。
     何かあったのか、と聞いても、ちょっとばかり楽しいことがあっただけ、と答えをはぐらかされた。
     笑って、怒って、泣いて、一体何がどうしたってんだ。俺が内心困惑していると、白衣の男は立ち上がって言った。

    「さっき、チャンピオンが来てたよ」

     その一言で、俺はほとんど全てを察した。
     ああ、こいつは。この先輩は。ついに。自分のやりたいことをやり遂げやがった。





     マリエの庭園で「あいつ」に初めて会った時の衝撃が、未だに忘れられない。

     あいつは外から来たのに、この島の禁忌にあっさりと認められて、羨ましかった。
     こいつが目の前の白衣の男の最後の切り札だとすぐに気がついて、恐ろしかった。

     親愛なる挫折仲間が、本気でこの島の伝統をぶち壊しに来たと、あの場で俺だけが感づいていた。





    「なあ、グズマ君。君もリーグにチャレンジしてくれると、とっても面白いことになると思うんだけどなあ」

     ご機嫌な先輩は挑発するように言う。俺はため息をついて返す。

    「あん時言ったろ。ポケモンリーグはいけねえぜ、って。……行く気はねえよ。今のところはな」
    「君が真っ先に、賛成してくれると思ってたんだけどなあ。……リーグのチャンピオンじゃ、お気に召さないかい?」

     愚問だなあ、と呆れて笑うと、そうだよねえ、と苦笑いを返された。

     わかってる。自分がもう戻れねぇことぐらい。
     それでも、違うんだ。満たされねぇんだ。俺がなりたかったのはリーグチャンピオンじゃねえんだ。

     イライラを何度目かわからねぇため息と共に吐き出して、もう行くわ、と踵を返した。
     三歩歩いたところで、また風が吹いた。アローラの風が吹けば、何が起きるかわからねえ、か、とつぶやいた。
     自分でつぶやいた言葉に何だか馬鹿らしくなって、自嘲しながら白衣の先輩の方を向いた。

    「それにしても、派手にぶっ壊してくれやがったなあ、ククイさんよぉ」

     お褒めの言葉ありがとう、と先輩がいつものように人当たりのいい笑顔で笑う。

     ああ、本当に、こいつは、この人は、俺より圧倒的に大人で、俺以上に子供だ。
     子供みたいなわがままを、徹底した大人のやり方で通しやがった。

     この男が吹かせた新しい風がこの場所に何をもたらすのか、それを知るのが俺はまだ、怖い。





     全てをぶち壊したかった。俺たちを認めてくれない世界なんてなくなればよかった。
     だから、代表の計画に喜んで乗った。不気味な空間の裂け目にもついて行った。

     異次元のバケモノに取り憑かれて、代表は狂喜乱舞して、楽しそうに高笑いしてた。でも俺は違った。
     怖かった。自分が自分じゃなくなるみたいだった。
     いや、違う。多分逆だ。体も心も無理矢理目覚めさせられるような。自分の心の底を無理矢理引きずり出されたみたいだった。
     必死で作ってきた外側が壊れそうだった。「何も恐れず、人に恐れられる、破壊という言葉が人の姿をしている俺様」が消えそうだった。
     怖かった。逃げ出したかった。このままじゃ自分が壊れると思った。


     必死で繕ってきた自分の内側をのぞき込んで、俺も少しおかしくなったのかもしれねぇ。
     あの異次元から帰ってきてから、自分がどうすればいいのか、またわからなくなった。

     丸くなったな、とよく言われた。ようやくアンタも落ち着いたね、と笑われたり、あの頃のグズマさんはどこに行っちまったんですか! と泣きつかれたりもした。
     何が正解なのか、どこに行けばいいのか、わからねえ。ただ、何となく思うことが、ひとつだけあった。


     俺はきっと、「キャプテン」になりたかったわけじゃない。
     キャプテンになれば、見返してやれると思っていた。

     ただ、認められたかっただけなんだ。
     背中を叩いて、「よく頑張った!」って言ってもらいたかっただけなんだ。


     誰もいない道端で足を止める。遠くにどこまでも広がるアローラの海が見える。
     もう戻れない子供時代を嘆いても、十一歳には戻れねえ。誰にも認めてもらえなくても、自分の目標を叶えられなくても、時は平等に残酷に過ぎていく。

     叶えられなかった目標に執着しても、先には進めねぇ。


    「……俺も、大人にならなきゃなぁ」


     そう口に出した途端、つ、と滴が頬を伝った。堰を切ったようにぼろぼろと涙がこぼれ落ちる。
     道の端で咲き乱れる、色とりどりの花の側に、崩れるように膝をつく。背中を丸めて、顔を手で覆う。呻くように、のどの奥から声が漏れる。


    「大人に……なりたくねぇなぁ……」


     年を取るのは、絞首台への階段を昇らされているようだった。
     大人になるのは、全てを諦めるのと同じだった。

     将来の希望なんて、この島にはどこにもありゃしねえ。
     全部、終わり。遠い昔にどこかの誰かが勝手に決めたボーダーラインを超えたら、それまでの努力は全て無駄。何も残らねえ。

     もう戻れないのはわかっちゃいるけど、簡単に諦められなかった。
     わかってた。全部わかってたんだ。この島に生きて、この島の規範に従って生きるなら、そうなることはわかってた。

     俺は、この島に認められたかったんだ。
     幼い頃に憧れた夢を、ちゃんと叶えたかったんだ。


     英雄様が海の遥か彼方からこの島にやって来たんだから、俺だって逆に海を超えて遠くに行けるはずだ。
     それでもいいんだ。師匠の息子だってこの地方から飛び出した。どこぞの鳥使いだって世界に羽ばたいて、問題なく成功している。

     それができなかったのは、やっぱり俺が、この島に縛られた人間だから。
     この島に生まれて、この島に生きて、この島で死ぬ。俺は今でもこの島に縛られて、この島に染められて、この島の上で生きている。


     この島を丸ごとブッ壊したかった。土地も、人も、ポケモンも、伝統も。何もかもを無に帰したかった。


     でもそれと同じくらい、俺は、この島を。
     

     風に吹かれて、色とりどりの花片が空に舞った。雲ひとつない真っ青な空に、鮮やかな色彩がちりばめられる。
     行く当てもなく風に吹かれて、どことも知らない場所に落ちていくんだろう。

     起き上がって空を見上げる。風に乾かされた頬を手の平でこすって、両手をポケットに突っ込む。
     もう少しだけ、進むべき道を探して、次の風が吹くのを待つとするか。
     俺はため息交じりに、誰にも聞かれない言葉を小さくつぶやく。





     アローラ、憎ったらしい俺の故郷。



     いつかお前と、ちゃんと向き合える日が来るように。



    +++

    インタールード(Interlude):間奏曲


      [No.3935] インタビュー・ウィズ・メゾン・ド・シオン 投稿者:くちなし   投稿日:2016/08/02(Tue) 00:22:48     67clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


     シオンタウンの片隅に、メゾン・ド・シオンと呼ばれる築数十年の木造ボロアパートがある。
     ラジオ塔に姿を変えたポケモンタワーが、建築される以前から存在するらしい、年期のある物件だ。
     噂では墓跡地に建てられているらしく、お化けや幽霊の目撃談が多い他、入居者の自殺や変死が後を絶たない呪われたアパートと噂されている。
     火を見るより明らかに、問答無用の訳あり事故物件だが、ワンルームで月二万の家賃で住める格安物件だけあり、訳ありな人や物好きな人は好んで引っ越してくるそうだ。
     適応できるかはさて置き。


     元102号室住人の証言
    『あ、あそこは本物のバケモノ屋敷だ!嘘だと思うならアンタ等も実際に住んでみやがれ!部屋に居ても常に誰かの視線を感じて落ち着けやしねぇし、夜な夜なガキの泣き声が聞こえてくるんだ!寝不足で昼寝するつもりが一週間昏睡状態に陥って、目覚めてみりゃ病院のベッドだぜ?無断欠勤で会社は首になるし最悪だコンチクショー!あんなところに引っ越した俺が馬鹿だったよ!』


     103号室住人、談
    『バケモノ屋敷?大袈裟ですねー。ここはそんな物騒なところじゃないですよー。かく言う私は物騒な噂に惹かれて引っ越してきたオカルトマニアなんですけどねー。オカルトマニアにしてみれば、こういういわく付きの場所って聖地なんですよねー。でも正直、期待はずれでしたよー大したことありません。何というか未知との対話を期待してたんですけどねー。もっとこう・・・カヤヤとかトッシーきゅん的な呪いの産物とか欲しいんだけどな〜あれ違う?』

     105号室住人、談
    『期待はずれで大したことない?そりゃ・・・ハナビちゃんは言わば専門家だからなぁ。365日、ゴーストポケモンと慣れ親しんでる彼女にしてみりゃ、ここは遊園地のお化け屋敷にでも思えるんだろう。俺はどうかって?ここの生活にはだいぶ慣れてきたよ。バケモノ屋敷にゃあ違いないが、郷に入りたければ郷に従えばいいだけの話だ。ここで一晩撮影するなら二階に住んでるポピーかチュイちゃんに話を聞いてみるといいよ。それじゃ俺はこれからバイトだから失礼させてもらうよ』


      [No.3934] 夏の始まり 投稿者:ズバットストーカー   投稿日:2016/08/01(Mon) 07:06:35     46clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    その日は蝉のよく鳴く7月の頭のことであった。耳をすませば照り付ける日差しが肌を焼くじゅうじゅうという音が聞こえてきそうな程暑い昼ころ。思えばあの時の私は暑さでどうかしていたのかもしれない。私はいつものコインランドリーに洗濯物を入れ、待ち時間をぶらぶらと歩いていた。
     カナズミシティというのは、このホウエン地方においては、1.2を争う規模の都市となる。その要因が私の職場でもあるデボンコーポレーションだ。主にポケモンとそのトレーナーに関わるグッズ開発を行いそれなりの成功を収めている。私がこの企業に就職を決めた日、大喜びでほめてくれた両親の顔はよく覚えている。将来安定、幸福な未来がきっと待っているとそう思っていたのだ。この私も。
     実際どうだったかというと、勤めだして二年、労働環境は良いし、先輩や上司にいびられたり、給料に悩まされるということもない(決して多いとは言えないが)。定期的に開かれる飲み会や合コンにも参加はしているがいまだ年齢イコール彼女いない歴のままだ。
     時々考えることがある。もしも就職を決める前の私が安定の道を避け、ポケモントレーナーになっていたらと。ポケモントレーナーとして成功できるのはわずかだ。長く苦しい修行の旅をつづけ、それでもうだつの上がらないまま終わっていく者は多い。しかしそれでも今の生活より”生きがい”のようなものがあったのかもしれない。
     コインランドリーの近くの公園に着くとさっそくいつものベンチへと向かっていった。ここのベンチには屋根があり日陰の中で座れるのだ。私は太陽から逃げ込むように屋根の下へ入ると、買っておいた炭酸飲料のフタをぐいと開けた。五分の一ほどをムセそうになりながら飲み込む。この瞬間がたまらなく爽快だ。私はこみあげてくるガスを吐き出そうとちらっとあたりを見渡した。周りに人はいなかったが、思わぬ先客がいたことにここで初めて気づいた。ふぅと控えめにガスを吐き出し、先客のもとへ寄ってみた。
     テッカニンというポケモンは動きが速くバトルでは高速で空中を飛び回り相手を翻弄するという。しかし今目の前で地べたに横たわっているポケモンはゆっくりとでさえ動けなさそうだった。死にかけているのだろう。近づく私に視線だけを向けている。
     そのテッカニンはもたれるように、あるいは抱きかかえるようにしてタマゴに寄り添っていた。興味の湧いた私はそのタマゴへ手を伸ばしてみた。
     ーージジジッー!
     鋭く大きな音を立て微動だに出来ないと思っていたテッカニンが威嚇した。とがった爪をこちらに向けている。
     このテッカニンはタマゴを守ろうとしているのだ。当然のことかもしれない。自分が今にも死にそうな中、野生のポケモンにのこされた使命はただ一つ、次の世代を確実につないでいくことだ。
     ところがその当たり前の行為が私にはとても腹立たしく感じた。私は彼らに危害を加えるつもりなんてなかった。ただの興味本位でタマゴを手に取ってみようとしただけだ。ちょっと見せてもらった後にはちゃんと彼のもとへ戻すつもりだった。それをこの虫は気の狂った殺人鬼から子を守るようにして威嚇したのだ。
     私は伸ばした手を引っ込めると代わりに右足を大きく後ろへと引いた。
     ジージージージーと蝉のうるさい音がする。うだるような暑さが思考を止める。
     気付くと私は引き上げた足を振り下ろしていた。
     蝉の鳴き声が止んだ。


    --------------------------------------------------
    ぱぱぱっと書いて終わりっ!
    ホワイティ杯みなさんお疲れ様でした


      [No.3933] 冬の最中に 投稿者:まーむる   投稿日:2016/07/30(Sat) 23:28:25     54clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     雪が降り積もる中、幾ら毛皮があるからと言って、寒いものは寒い。
    冷えた足裏が段々と痛くなってくる。肉求はもう柔らかさを失っている気がする。爪が凍り付いたような痛みを感じもする。口から吐く息はとても白く、吐く度に街灯に冷たく照らし出される。
    寒い。ああ、寒い。
    体を縮こまらせながら、しん、と静まった夜の道を静かに歩く。聞こえるのは、ジジ、ジジ、と切れかけた街灯の音と、雪の上をさく、さく、と歩く俺の足音だけだ。
    夜に子をあやかした礼として貰って食った、温かい芋の味の付いたジュースの熱も、もう体の中で使い切ってしまった。
    今日は特に寒い。土管の中や、遊具の中、繁みの中でも、結構辛い。
    そんな時は、こっそりとある場所に逃げ込む。

     その目当ての建物まで着いて、俺は軽く手足を動かした。音を出してはいけない。
    強張った体を解して、何度かしゃがんで、それから膝を伸ばして。周りを何度か見回すが、俺を眺めている人間は見える建物の中からは居なかった。
    明かりがついている窓も、全部布で外が見えないようになっている。
    ゾロアークはもう中に居るだろうか? 建物の上から二番目、その真中の部屋。波導を観察すると、中にゾロアークの波導が見えた。居るか。
    さて、と。少し頑張れば、寒さとおさらば出来る。ただ、失敗しては永遠におさらば出来なくなる事もあるかもしれない。
    人間が使ってない空き部屋の、更に加えて窓に鍵が掛かってない所。そんなの、他のどこにあるか分からない。音を立ててばれたりしたら、もうこの寒さに耐えるしかなくなる。
    この町じゃここだけかもしれないし、精神を張り詰めていかなければ。壁の凹凸に手を伸ばして、指に力を入れた。

    -----

     きぃ、と小さく音を立ててルカリオが入って来た。
    入る前に体に積もった雪を払い落としてから、中に入って来て、窓を閉めた。
    体がぷるぷると震えている。ルカリオは俺から毛布を一枚奪って体に巻いた。今日は特別寒い。
    手の甲と胸の棘で毛布が破れる事何て気にせずに、ルカリオは縮こまった。
    俺も、毛布を一枚剥ぎ取られて、この空気の寒さに晒される。
    毛布一枚じゃ寒い……。元からここには二枚しかなかった。薪の無い暖炉。雑多な、俺達にとっても大して意味の無い、金にもならない小物少々。それと、ベッドと毛布。それだけ。ベッドには、人間が使ってるようなフカフカな下地もない。単なる木の枠組み。
    ああ、寒い。外より寒さはマシだとは言え、窓からひしひしと伝わって来る寒さは俺達を蝕んで来る。
    ルカリオと目が合った。
    抱き合って毛布に包まるのは、必然だった。

     ルカリオの背中にしがみ付いて、胴に腕を回した。ルカリオは少し嫌がったが、背に腹は代えられないという感じで、少ししたら大人しくなった。毛布を二重に包み、縮こまる。
    暫くすると、自分の熱とルカリオの熱が合わさっていき、それが毛布で閉じ込められて、温かくなっていく。
    俺だけで二枚の毛布を使っていた時よりも、よっぽど温かい。
    気持ち良い感じだった。大きく息を吐く。するとルカリオがくすぐったいように身じろぎをした。ちょっと楽しい。
    さわさわと脇腹をくすぐれば「アゥ」何て言いやがる。
    それでも、背に腹は代えられない。肘で小突かれたり、俺の長い髪の毛をいじられたりと、その位しかやって来なかった。
    まあ、それも温かくなってきて、余裕が出て来たからだろうな。こいつが来てくれて、本当に良かった。
    血の巡りも良くなっているのを感じる。
    何だか、良い感じだ。

    -----

     抱き締められてる事自体、ちょっと色んな気持ちを感じる。一番占めているのは、やっぱり恥ずかしいというか、そんな気持ち。
    雄が雄を抱いている。なんかなあ、と言う妙な気持ちも勿論ある。
    温かくなってくると、案の定と言うべきか、ゾロアークは俺にちょっかいを出してきた。俺の脇腹をくすぐったりしてきたり、耳裏に生暖かい息を吹きかけて来たり。
    小突いたりしても、あんまり収まらない。かと言って、派手に動けばばれてしまうかもしれないし。
    温かいのは良い事だけど、さっさと飽きて寝てくれないかなと思う。
    唐突に首筋を舐められた。
    「ヒャン!?」
    ぞわりとする。思わず声を出してしまった。
    後ろから聞こえる息遣い。ハーッ、ハーッと、その息はちょっと荒い。
    ……何だ。嫌な感覚がする。俺を弄っていた腕がぎゅっと俺を抱き締めた。片方の手は俺の口を塞いだ。
    何だ。何をしようとしているんだ?
    股間に何かがぶつかった。いや、それの正体は分かっていた。
    うん。俺の両腕は、きつく締められている。
    ……嫌な感覚はした。でも正直に心を眺めよう。嫌じゃない感覚もある。確かに。うん。
    ゾロアークは、俺が嫌だろうとも俺を締め付けてやってしまうんだろうなとも思うが、身じろぎをしても、全力で拒絶しようとは思わなかった。ばれて寒い外に放り出されるのも嫌だった。
    俺は、口の前にあったゾロアークの長い赤い髪の毛をもにもにと口の中に入れた。
    いいのか? と言うようにゾロアークが少しの間、止まる。俺は、声が出ないように、ゾロアークの髪の毛を強く噛んだ。
    容赦なく突っ込んで来た。

     毛布が剥ぎ取られた。ゾロアークは俺の首を甘噛みして、足も俺と絡ませて、腰を振った。
    ケツに入って行く感覚。初めてのその感覚は、ゾロアークの髪の毛を噛んでいなければ大声を出してしまうような、そんな全身に訴えかけて来る感覚だった。
    甘ったるい温い息が俺の首に掛かる。俺はゾロアークの髪の毛を涎塗れにしていく。
    ああ、ああ!
    温かいどころじゃない、熱い。とても熱い。床摺りの音が微かに部屋の中に響く。音を出してはいけない。静かな部屋の中でそれだけの音が響く。
    抱き締められながら、ゾロアークの肉棒の鼓動が次第に克明に感じられて来た。
    びく、びぐ、ともう既に我慢汁が俺のケツに入り込んでいた。そして、俺の肉棒ももう、そそり立っている。
    「ウ……」
    ゾロアークが、腰の動きを止めた。一瞬の後、俺の尻に熱い物が注ぎ込まれ、拘束が緩んだ。
    俺はその瞬間、体を寝返らせた。その緩んだ瞬間にバクーダの噴火のようにはじけ飛んだ欲望が、ゾロアークに向かった。

    -----

     息を吐いたその瞬間に、俺の体が勝手に動いた。いや、動かされた。
    俺の方が単純な力は強くても、ルカリオの方が体の動かし方とか、そういうものは心得てる。格闘タイプってのはそういう奴だから、もうそうされたと感じた時には、半ば諦めていた。ずっと俺の方が上で居たかったがな……。
    ルカリオは音を立てずに俺を仰向けにさせて、首の上に跨った。そそり立った肉棒。我慢汁がもう出ている。未だに噛み締めたままの俺の髪の毛からは、涎が垂れていた。
    咥えたまま髪の毛を引っ張られて首が持ち上げられる。肉棒が頬に当たった。
    両手を頬に当てられて、口を開かせられる。
    肉棒が口の中に入った。
    俺の胸は、ルカリオの尻から漏れ出て来た生暖かい精液で濡れ始めていた。
    びぐびぐと動くルカリオの肉棒を舐める。俺のより太い気がした。ぐじゅ、ぐじゅ、と上から声が聞こえる。ルカリオの涎がぼたぼたと俺の顔に落ちた。
    肉棒がより一層震えて来る。そして、俺の髪の毛が数本噛み千切られた感覚がして、喉の奥にいきなり注ぎ込まれた。
    咳き込む音を毛布で咄嗟に隠すと、思い切り涎と精液塗れになってしまった。

     ふぅー、とルカリオが俺の首の上で息を吐く。
    やってしまったなあ、という後悔とも達成感とも取れない妙な感覚があった。そういう関係になった。
    今日でなくとも、早かれ遅かれ来てたのだろうか。
    何となく顔を見合わせ、ルカリオが俺の上に被さり、口付けをした。舌を交わす。強く抱き合えないのがとても残念だった。その代わりに嫌と言う程互いに深く、互いの唾液をまじ合わせる。肉棒はまだそそり立っていた。音を立てないでやらなければいけない事も残念だった。涎が俺の頬を伝い床に落ちる。
    体は、もう毛布を使っていないのにとても温かい。ルカリオが毛布を引っ掴んで、胸の棘に当てた。
    そうすれば、もう強く互いに抱きしめ合えた。ぎゅっ、と抱き締めて、口も交わしたまま、目を合わせる。
    もう、これからはずっと一緒に居よう。
    言葉でないそれは、ルカリオに伝わっているのも、何故かもう確信出来た。


      [No.3932] ウXEルNOエ 投稿者:水雲(もつく)   投稿日:2016/07/29(Fri) 15:29:02     55clap [■この記事に拍手する] [Tweet]



    [ Open Self Archives log No.017 - 372 / 197 - Break Away ... Clear ]


     五体満足にせよそうでないにせよ、地上へダイブした人間が俺たちにサルベージされ、母艦へ帰投する確率は実質9割。残る1割は大体においてが死亡だが、その実は戦死よりも現地の疫病にやられてくたばる確率のほうが高いらしい。残るわずかな確率で、地上でそのまま作戦の展開を続けている、装備を捨てて逃げおおせているなど。パーソナルネームはとうに忘れたくせに、僚機のそいつがそんな統計結果を過去に言っていたことだけを、俺ははっきりと憶えている。
     そんなヨタを頭から信じる俺ではなかったが、もしも本当ならばつまり、俺はつくづく運がなかった、ということになる。
     この機体に生まれかわってからの一年間だけでも、状況はめまぐるしく変わっていった。俺が参加した作戦は六つあり、その内で実際に乗せた小隊は二つ。そのいずれの人間もポケモンも重装備で実に強面だったが、中身は穏やかな連中だった。目的の陸地に到着するまでの多少の時間でアルコールとエロ本に手を出すアホなんてリョウタ以外に俺は知らないし、具体的なダイブのやり方と、戦地に向かいつつも味わえる背徳的な快感を教えてくれたのはセイジだった。高高度にポケモンは耐え切れないから、まずは人間だけがダイブ。十分な加速と落下を感じた後、パラシュートを展開して減速。空中でパラシュートを解除したそこから先は翼を持つポケモンの背中を借りて降下。その三つを一度に味わえる面白さをお前は知らないだろうとまるで子供のように笑っていた。ここまで事を運んでおいて人間もポケモンもなるべく無事に戦争を終わらせたいなどと思う奴はまさか一人もいなかっただろうが、そんな体捨ててとっとと退役しちまいなと、アキヒロは俺に遠回しな優しさを押しつけてきた。
     その全員が俺の腹(ハッチ)から飛び立ち、そして二度と帰ってこなかった。遺品すら許されなかった。
     名誉だけは守られているといいね、と、僚機のシンカーはなぐさめにもならないことを言ってきた。
     今になって思うのだが――
     奴らは、生死の狭間という厳しい現実(リアル)から目を背けたくて、それぞれなりのスタイルで自己の安定を図ろうとしていたのかもしれない。


     ということで、具体的にいつの事になるかはわからないが、次のダイブ指示とブリーフィングがあるまで、俺の機内には誰もいない状態がずっと続いた。こうなってしまえばやることの大半がなくなったも同然だが、母艦のデッキでふてくされるのもどうかと思ったため、一時的にでも諜報班への異動を希望。誰も乗せないまま、適当な航路でホウエンの空を飛び続け、地上の情報の収集にあたった。確かに俺はやや古めの機体を割り当てられ、武装も最新式ではなかったが、燃費効率はまだ自慢できるレベルだったし、光熱発電系をしっかり稼働させていれば、一ヶ月は飲まず食わずで飛行し続けていられる。俺が単独で地上へ奇襲をかける勝手などもちろん本部が許さないだろうが、人間の肉眼ではとらえられないほどの高高度でぽつねんといる俺だけを、衛星照準でピンポイントに撃ち落とす輩がいるとも思えなかった。よって俺は、今日もこうして、地上へ降り立った仲間たちの顛末を思いながら、ホウエンの空域のあちこちをトロトロと巡っている。
     果ての見えそうにない戦いが始まってもう三年は経つ。その千日でホウエンの約半分が焦土、もしくは紛争地帯と化し、なおも人間とポケモンたちは陸と海の領域を巡って争っている。俺たちは幸運にも引き続き制空権を掌握しており、奴らの勢力を各地の局地エリアにまで抑え込むことにかろうじて成功していた。仲介ないしは天誅という大それた名義のもと、俺たちは俺たちなりの形で戦いを繰り広げているため、あずかり知らぬ民間人たちやポケモンたちが感じる気持ちは様々だろう。連中からすれば俺たちも一端の戦争屋であることに変わりはないだろうし、事を荒立てる「余計な勢力」と思われるのも仕方のない話ではあった。
     だが、あの少女が俺に対して抱いていた心境は、今でも解析できない。
     あいつ自身もかもしれない。
     今からそいつのことを語ろうと思う。
     それは、たいした目的もなしにヒワマキ「だったところ」あたりの、遙か上空を飛んでいたときのことだ。これほどの高高度となると天候の表情はもはや関係ない。空の青。太陽光と雲の白。その二つのみが俺の色覚センサーを塗りつぶしてくる。「景色を移ろいをゆったりと楽しむ」だなんて豪華な演出への望みは到底薄く、自分が動いているのか、空が動いているのかで麻痺しかかる微妙な感覚を満喫するだけだ。ローターと風切の音、レーダーによる座標データの移動だけが俺の飛行を表す指標だった。
     これほどの上空からでも地上の様子がある程度把握できるのと同様で、ピックアップの要求信号が地上から俺の副脳に届いた。か細く頼りないシグナルだったが、なんとか聞き取れた。
     恥ずかしい話だが、当初はエラーだと信じかけた。地上からの要求信号を受け取るだなんて、二つの小隊をとうに失った俺からすればまるで縁のない話で、あまりの異常事態に動転したのだ。しかし、驚きをなんとか二秒以内におさめ、急いで暗号化を正して何者からのそれかを精査する。FCS内部の探偵屋が告げるに、二度目のダイブで飛び立った、ジュンタロウからのものだった。
     三角測量でクロスデータを割り出し、発生地点の座標を探れば、そこは奴らの活動領域Dから微妙に外れた101番道路。何もなさそうなところからだ。
     この時の俺の正直な気持ちを白状すると、あいつが生きているとはますます考えられなくなった。親時計の時間を考えるに、二度目のダイブからはかなりの日数が経つし、他の奴らからの応答もまったくなかったからだ。
     ――なんだよ。
     やはりエラーだったのかもしれない。孤独に苛まれた回路が起こす奇怪な現象だと考えたが、傍受ログはしかとFCSに残っている。
     呼び出された以上は、無視を決め込むわけにもいかない。
     決心した俺は航路を変えてその場から離脱。切り詰めていた燃料を速力に回し、その地点へ急ぎ足で向かった。幾何学模様のように広がる薄雲をローターで粉々に切り飛ばし、何層も沈んでいく。向こうも向こうで、俺へ信号が届いていないと思っているのか、数分おきにそれを飛ばしてきた。
     そこで俺は、相手がジュンタロウや他の奴らではないことを確信する。
     俺たちが応答すれば、向こうが携行するデバイスのいずれかに緑のランプがつく。奴らが、そのことを知らないはずがないから。
     だとすれば、さて、鬼が出るか蛇が出るか。長い時間をかけて俺は雲の中を潜り、やがてセンサーで地上の汚れた空気を感じ始める。緑色よりも焦茶色が目立つようになってしまった地上がゆるやかに立ち昇ってくる。サイドンとニドキングの集団が大げんかしたとしてもそうなるまい、陸地の荒れ具合はここからでも視認できる。地図の詳細を徐々に拡大していくように俺はますます降下し、101番道路を目指す。そこにかつて住んでいたポケモンたちの姿など一匹と見かけず、その中心にて、ケシ粒のように小さい生物をついに俺は認めた。
     少女がひとり、そこにいた。
     何から何まで重装の男もそばにいたが、そっちは全身を地上に預け、すでに事切れているようだった。
     少女もようやっと音から俺の存在を見つけたみたいだが、俺は安易に近づかなかった。更に長い時間をかけて大きく周回し、索敵を続けた。それは杞憂に済み、俺一機を袋にするためだけにここまで呼び寄せたわけではないようだ。警戒フェイズを解いた副脳が適当なランディングポイントを見つけ出し、砂と気流を蹴り立てながら、俺は実に数カ月ぶりに地上ヘと着陸した。
    「――ホントに来た」
     ローター音が激しい中でも、少女のつぶやきははっきりと聞こえた。手にはジュンタロウの所持していた、小型の携帯デバイスがあった。
     俺は聞こえないふりをして、自動で腹を開ける。その動きから意味を察知したらしい少女は、もぞもぞとじれったい動きで膝をひっかけて乗り込んできた。そして中を見渡す。
    「あれ。誰も、いない――?」
     ――ここにいる。
     俺は久方ぶりに、操縦席の背後にあるモニタへ電気を通し、ヒトの言葉で存在を表記した。
     Riser - [ ON ] : ここにいる : [ OFF ]
     少女はわかりやすいくらい驚きの反応を表した。
    「えっ」
     Riser - [ ON ] : だからここだ。このガンシップが俺だ : [ OFF ]
    「こ、コンピュータ、なの?」
     厳密に言えば違うのだが、細かな説明は省いた。
     Riser - [ ON ] : 多目的ヘリ-372・197-ブレイクアウェイ。パーソナルネームは「ライザー」。別に無理して覚える必要はない。お前は? : [ OFF ]
     少女の表情といったらまるで冷えた硫酸を上からかけられたようで、そのまましばし芯まで固まっており、俺の言葉の意味を頭に染み通らせるのにかなりの時間をかけていた。
    「――アスカ」
     俺は機内のセンサーを総動員させ、改めてアスカを見つめた。歳は13、あるいは15。17ということはあるまい。ろくな生活をしていなかったのは火を見るより明らか、服装は下着やツナギのように薄っぺらく単純で、砂埃と硝煙、悲鳴を浴びて生き延びてきたようだ。しかし目の生気だけは不思議と確かで、赤毛のショートヘアは紛争地帯には不自然なくらい鮮明としている。口も聞けるあたり、まだまともなほうだろう。
    「ジュンタロウさんが言ってた。あなたも第三勢力?」
     やはりあの男性はジュンタロウと断言して間違いないだろう。
    「あたし、どうなるの?」
     そうだな、と俺は思う。
     Riser - [ ON ] : とりあえず俺は母艦に帰る。民間人を受け入れる余裕はないだろうが、一晩くらいは泊めてやれるはずだ。そこから先は知らん : [ OFF ]
     そこで少女は俺の腹から顔を覗かせ、いまだ地上にてうずくまるジュンタロウを一瞥する。死体を見て泣いたり喚いたりしないところは助かるが、ある意味俺よりも淡白だ。何かを言われそうになる前に、先回りした。
     Riser - [ ON ] : 諦めろ。お前にここまで持ち運ぶのは無理だろう。後で誰かに回収に向かわせて、こっちで軍葬する : [ OFF ]
     手短にそう表記すると、ローターの回転を加速させ、急浮上する。そのいきなりの変動と衝撃に耐えられなかったアスカが、ひゃ、と言って尻から派手にすっころんだ。携帯デバイスとは反対の手で持っていた、アナログな敵味方識別指標、ドッグタグが床へこぼれ落ちた。
     Riser - [ ON ] : ああすまん。ここに入ってくる奴らはなんとも思わん顔で乗っていたもんでな。どこか適当に座ってろ。今からもっとうるさくなるから、防音の耳あてを絶対外すなよ : [ OFF ]
     小さな頭には大きすぎる耳あてだが、贅沢は言わせない。すっぽりとかぶったのを確認した俺は腹を閉じてロック。主脳で航路を作り、所々のウェイポイントを割り出す。その中で比較的安全なルートを形成した。それに沿って引き続きの上昇と航空を開始。短期記憶野からこれまでの簡単なログを引っ張り出し、母艦とマザーCOMに向けて送信した。果たして向こうがどう反応するかまで、こいつの身柄はそのまま文字通り、俺の腹ひとつで決まるわけだ。
     それまでやれることをやっておこうとセンサーを隈なく走らせ、簡易な検疫チェックを施す。危険物やウイルスを持ち込んでいる気配はなさそうだったが、そこで気づく。
     Riser - [ ON ] : 怪我しているようではないみたいだが、どこか体調悪いのか? : [ OFF ]
     アスカは、瞬きする間をおいてから、
    「なんで?」
     Riser - [ ON ] : 体温が平均よりかなり低い : [ OFF ]
     知らぬ間に体をまさぐられていたことが微妙に不満だったらしく、アスカはシートの上でわずかに腰を動かしてそっぽを向いた。少し低い声で、
    「おなか減ってるのかもね」
     Riser - [ ON ] : さっき転ばせた謝罪のつもりではないが、水とレーションならそこにある。お前のシートのかかと部分に収納されている。あと一通りの薬剤がお前の隣のバックパックに入っている。今から行くところは恐ろしく高くて空気が薄い。俺が言う名前のやつを全部飲んで備えとけ : [ OFF ]
    「れーしょんって?」
     面倒になった俺は逃げた。
     Riser - [ ON ] : 少し古めで、味は保証しない : [ OFF ]
     ほら、言わないことではない。一口ごとにうええうええうええと文句を垂らしながら、しかしアスカは短時間で完全に食い終えた。よほど腹が減っていたと見受けられるが、大人用のあんなシロモノをどういう手順でその小さい体に納めきったのか、俺には謎だった。
     それでも食い物であることに違いはない。空きっ腹にいきなり濃いものは我ながらどうかと思ったが、アスカの機嫌はだいぶましとなっており、自身についてを俺に語ってきた。
     手持ちのポケモンと武装を早々と失い、それでもジュンタロウは命だけは取り留めた。紛争に巻き込まれて間もなく孤児となったアスカを道中で救助し、己の方向感覚だけを頼りに、あちこちを転々としていたそうだ。その足だけで危険領域を脱出し、俺に拾ってもらおうとしたところで、あの土地にはびこる特有の疫病にかかってしまったと。
     となると、遺体の回収は病原菌のために難しくなる。平服でなく滅菌スーツを着た仲間たちに色気のない略式軍葬をされるのは、ジュンタロウとしてもあまり望まない形であろう。ひとまず遺品を回収されただけでも、ジュンタロウは他の仲間よりも一歩だけ幸福だ。俺はそう思うことにした。
     Riser - [ ON ] : ジュンタロウは、最期に何か言ってたか : [ OFF ]
     アスカは無言でうなずき、水で潤った唇をわずかに開ける。
     ――くそ、紫血病(しけつびょう)が目に回っちまった。ということは、俺の逃避行もここまでか。俺も年貢の納め時らしい。さあ、これを使いなさい。俺の指紋とドッグタグで起動して、左下のアイコンをタップすればいい。そうすれば「あいつ」が来るはずだ。そいつは無愛想で俺の死なんてなんとも思わない、きみからすればひどく冷徹なやつかもしれない。だが、もしも生きていて信号を受け取ったら、必ずここまで来てくれるはずだ。あとはそいつに任せなさい。大丈夫、悪いようにはしないはずだから。
     頼んだぞ、ライザー。
     Riser - [ ON ] : そうか : [ OFF ]
     聞き終えた俺は、なぜこいつはその紫血病にかかっていないのかを少し奇妙に感じた。そもそも、いちいち民間人を手当たり次第救護しているようでは、母艦は人であふれかえって、まるごと落っこちかねない。
     Riser - [ ON ] : わかっているだろうが、俺たちの世界は過酷だ。自分の臨終を誰かに見届けてもらっただけでも、あいつはずっと上等だろうな。あの世で今頃自慢していることだろうさ。あいつに代わって礼を言わせてもらう : [ OFF ]
     うん、とアスカは小さくうなずき、
    「そっちの番」
     モニタを見つめてくる。
    「あなた、何?」
     何とはなんだ。随分なご挨拶だ。
    「第三勢力がいるってことは知ってる。ジュンタロウさんが名乗ってた。でも、あなたは、何?」
     俺は答えず、ランデブーポイントに近づいたサインを代わりに鳴らした。
     Riser - [ ON ] : 見えてきたぞ : [ OFF ]
     それは、アスカをピックアップした地点から比較的近めの高高度ポイントにあった。曇りガラスのように汚れきった大気を脱出し、雲より上の空を更に上昇し続けて数十分。俺たち専用の222式暗号を捕捉していれば、やがてその存在が空の向こうから輪郭を露わにしてくる。
     少なくとも万を越える大小様々なプロペラを回転させ、対爆壁で身を固め、超然と浮かぶ機械の山塊。防腐加工の光発電パネルを体のあちこちに貼っつけてエネルギーに変換し、あらゆる箇所のメイン動力としている。ほぼ中心部から水平に切り出して設けた広大なデッキには、数多くの待機(スヌーズ)状態の戦友たちが身を伏せている。
     俺たちや人間、ポケモンを散り散りと投下し、空からの奇襲の数々を成し遂げてきた、鋼鉄の空中山脈。流星の民とトクサネの研究員たちが結束して出来上がった、アスカの言う「第三勢力」組織の本部である。グラードンを崇拝するマグマ団、カイオーガを盲信するアクア団。ホウエンを火の海に変えた二大勢力はそれぞれそう名乗っているが、俺たちに正式な名称は用意されていない。かつて、大空を欲しいがまま制覇していた緑色の巨大なドラゴンポケモン。そいつの歴史を背景に持つ一族の末裔が、俺たちの総本山であるらしい。どういった数学と理屈であの塊が俺と同じ空にあるのか甚だ疑問だったが、あれを発明して設計した人間どもがこの上なく狂っていたことだけは確かだろう。
     なるべく周囲に僚機がいないランディングポイントを探し、そっと降下する。着陸モードとなった俺は最低限の神経プロセス以外全てをサスペンドし、エンジンを完全に停止させ、FCSをロックした。
     ドローンの二機、そして頭に改造ギアをかぶったピジョンとレアコイルが俺の到着を感知して出迎えてくれたが、どうやら俺の報告は末端にまで至っていなかったらしく、アスカの姿を見るなりしこたま驚き、それぞれ思い思いの方向へ飛んでいってしまった。
     Riser - [ ON ] : 降りな : [ OFF ]
     アスカは俺の腹に腰をかけ、足を垂れ下げたまま、恐る恐るモニタを見てきた。
    「あたし、どうなるの? 変なことされない?」
     Riser - [ ON ] : 俺が決めることじゃない。内部は一気圧に与圧されているから茶くらいは出してもらえるかもしれんが、それ以上の妙な期待はするな。首に自白剤を打たれたくなかったら、これを持っていけ : [ OFF ]
     モニタ下にある端末から、専用規格のメモリーカードを吐き出す。
     Riser - [ ON ] : さっきまでの会話とお前の検査データを記録しておいた。役に立つかどうかはさておき、お前に対する俺の評価も添付している。そいつを渡しておけば、自己紹介する手間は省けるだろう : [ OFF ]
    「わかった」
     今にもへし折れそうなくらい不安げで細い腕を差し出し、アスカはメモリーカードを受け取った。胸元でそっと握りしめて降りると、俺の方を何度も振り返りながら、不確かな足取りで本部の奥へと一人歩いて行った。
     何度も、何度も振り返りながら。


     ロトムとポリゴンによる立ち会いのもと、ドローグと不燃コネクタを機体に突き刺して燃料を補給。そうしていると、俺のずっと背後にいた心配症のセイバーが、無線信号を送ってきた。あの子は一体なんなのか、きみはどういうつもりなのか、まさか敵が仕向けてきた特攻兵じゃないのか、などと名誉もクソもない質問を矢継ぎ早にしてきたが、俺からすれば割とどうでもよく、『ジュンタロウからのコールだと思ったらあいつだった』としか言いようがない。それ以上も以下もない。仲間の一人の死を間近で見たこっちの身にもなってほしい。俺は今、ジュンタロウの携帯デバイスをどう弔おうか、FCS内で会議中なのだ。
     不燃コネクタによる回路メンテナンスを終えた時には時刻はすでに真夜中となっていたが、なぜだか休む気になれなかった。俺は本部のマザーCOMと無線交信を続け、今後の作戦についての更新情報を一通り受け取っていた。他の仲間たちが集めたそれによると、戦いの発端となった『あの二匹』が再び眠りについてかれこれ半年がカウントされたとのこと。よほどのことがない限り復活することはないと結論を出したが、俺はあまり真に受けなかった。
     最低限のキセノンランプしか設置されていない、墨を塗りたくったような暗闇を広げているデッキ。ローターを止めている分、風の音が余計に騒がしく聞こえる。母艦や本部、マザーCOMには昼夜の概念はあまり関係ない。そんなものは全て下界の都合だ。だが、こうして、万物を包み込む黒い霧の中を茫漠と待機していると、地獄への方舟に乗せられているような気分が時折俺の思考をかすめるのだった。
     気配。
     重と熱、音をもって誰かが近づいてきているのをセンサーで感じ、腹を開ける。
     戦死して成仏しそこねた地縛霊のように、アスカが闇の向こうからゆったりと現れた。分厚い毛布を一枚身にまとってなおも細っこい佇まいはキセノンランプの光にあぶられて白く見え、その軽い体は高高度の風に煽られるだけで空の彼方へ消し飛ばされてしまいそうなほど儚げだった。
     高高度を維持したままの夜のデッキの寒さはやはり尋常ではないらしく、早々と乗り込んできたあともアスカは大げさなくらい身を震わせていた。
    「ただいま」
     Riser - [ ON ] : 早かったな : [ OFF ]
    「うん。怖そうな人たちから色々な質問されたけど、無実っていうか、無害ってすぐにショーメーしてもらえた。さっきまでずっと寝てたから、おかげでかなり元気になれたよ。あなたにお礼を言いたいって言ったら、すんなり通してもらえた」
     怖そうな人たちってのは多分、キョウイチやジャックのことだろうな。
     Riser - [ ON ] : そうか。ならどうする。地上に戻りたいならそうしてやるが、どこがいい : [ OFF ]
     アスカはそこで指先を口に添え、しばらく考えた。そして、一番最初に思いついたらしいところを言ってきた。
    「住んでたところに戻りたい。マップは表示できる?」
     俺は航空写真にモニタを切り替えたが、わかりにくいといちゃもんをつけられたので、デジタル表示の地図に更にスライドさせる。
     アスカはしばらく目で地図をなぞっていたが、白くて細い指がやがて、画面の一点にそっと触れる。
    「ここ」
     何の変哲もない海の、しかもど真ん中だった。
     作戦展開領域スレスレの。
    「大丈夫。ここであってる。あなたの地図でも表示されないってことは、まだ安全なはずだから」
     よもや身投げはすまい。どうせここまでの付き合いだ。俺は黙って従うことにした。離陸免責ログをマザーCOMに送信し、自動で返信される名義データのもと、ローターを回す。音から起動を察したアスカは、今度こそしっかりとつかまって離陸に備えた。
     全翼機である隣のハンターも起きていたらしく、俺に無線信号を送ってくる。
     Hunter - [ ON ] : よお、もう見送っちまうのか : [ OFF ]
     Riser - [ ON ] : おう。ちょっと行ってくるぜ : [ OFF ]
     ハンターはそこでふざけ半分のような文章で、
     Hunter - [ ON ] : くれぐれも駆け落ちすんなよ : [ OFF ]
     なんだそれは。
    「ねえ」
     ああもう、同時に話しかけてくるな。
     俺はハンターとのコンマ三秒分の接続を切って、モニタに表記する。
     Riser - [ ON ] : なんだ : [ OFF ]
    「さっきの続き。教えて」
     アスカは先ほどと変わらない、おぼろげな表情を見せてくる。
    「あなた、何?」
     軽く浮上しながら、やれやれと思う。さっきははぐらかしたが、向こうは憶えていたようだ。少女のくせして――いや、人間の子供だからこそ、大人とはまた違う特有の勘を持っているらしい。無害と証明されたただの少女だ。ここで打ち明けてもどうせ問題にはならないだろうと高をくくり、俺は打ち明けた。
     Riser - [ ON ] : コモルー : [ OFF ]
     アスカはさしたる反応を見せず、どちらかといえば予期していたような表情の移ろいだった。
    「元はポケモンなの?」
     Riser - [ ON ] : そういうことだ。俺の元の体は、トクサネのとある研究機関の地下だ。血を人工血液に置き換え、特殊な培養液の中で眠っている。戦いが終わるまではずっとこの機体だ : [ OFF ]
     とっくの昔に、ポケモン各々の持ちうる神経が人間のそれよりも遥かに鋭敏でデリケートだと学説的に証明されていた。
     だからこその開発、である。
     当初はトクサネの宇宙センターが、その極限環境にポケモンも導入するため、この戦争よりも遥か以前からS3機密で極秘に進めていたそうだ。機械と肉体の噛みあわせが、未知なる宇宙へ通用するかどうかを確かめる、どちらかといえば平和的利用のはずだった。ところがこの変災である。方針は否応なく180度変更させられ、倫理観も世論も地平線の彼方にかなぐり捨て、公表と同時にまずは地上での有効性を実証するようになった。有事におけるポケモン独自の戦闘理念を前面に押し出すところ――戦争という形――から実践されてしまったのだから、まったく皮肉なものである。人間は自分の思うように計画を進めるのがとことん苦手らしい。
    「あの大きな船といい、とんでもない技術だね」
     Riser - [ ON ] : お前のことを言うつもりではないが、人間は気違いか変態かの大体どちらかだからな : [ OFF ]
    「でもなんで? 一緒に戦えって、あの人たちに命令されたから?」
     Riser - [ ON ] : 違う : [ OFF ]
     俺自身がそれを切望していたからだった。
     一種の取引だったとも言える。地上の情勢がどうであろうと俺にはどうでもいい。この大空を好きなように飛べるのであれば、たとえそれが高高度の飛行を長期間維持できるほどに魔改造されたガンシップであろうと、兵士を地上へ投下する死の運び屋であろうと、なんだって良かった。自分の体で自分の思うがまま空を支配できれば、確かにこの上ない至福だが、俺は第一の夢を叶えられたことに限って言えば、今でも十分に満足している。それに、万が一不幸が連なって撃ち落とされたとしても、記憶野に保存していたこれまでのデータの無線送信を完了させておけば、ものの数時間で新たな機体に生まれ変わり、作戦を続行させることも可能とする、不死身の体だ。まあもっとも、俺のような小隊二つを台無しにした疫病神に、そこまでの予備を回してもらえるかどうかまでは知りかねるが。
     薄情と思われるかもしれないが、少なくとも俺自身はこの戦いについて、格別どうといった感情を持ちあわせていない。心理カウンセリングの担当医から「きみは変わり者だね。ある意味誰よりも危険だ」という身も蓋もない評価を下されるほどだ。感情抑制のための心理的薬物損傷プロセスは特例として省略され、通常よりも早めに意識をこの機体へ移植してもらった。三つ巴でドロドロとなった争いの末に立つ者がどの勢力であろうと、結果として誰が死のうと生きようと、あまり気に留めないようにしている。というよりも、俺に搭載された人間の言語というのはまったく貧弱で、この戦いに対して思う機微も、初めて空を飛べたことに対して抱いた感激も、逐一言葉で表現するのは、もともとポケモンである俺にとっては難しいことなのだった。破壊されるか戦争が集結するその瞬間まで、借り物の姿でひたすら空を飛び、更新された任務をこなしていくだけだ。もしかしたら、機体を返却して元の肉体に戻ったとき、しばらくは空はお預けかと嘆くことすらあるかもしれない。
    「でも、あたしもわかる気がする」
     アスカは操縦席の窓際によりかかり、いつまでたっても変わらない夜空を見つめ、白い呼吸跡をそっと刻み続けている。
    「空を飛ぶのって、気持ちいいよね」
     どういう意味だ――そう思ったが、どうやらその言葉を解釈する前に、レーダーが目的地の範囲に近づいてきたことを示した。月光を浴び、夜空を漕ぐように飛んでいた俺は再び、地上を目指して雲から下へと潜っていった。
     アスカの示した座標ポイントには、アスカの言ったとおり、何かがあった。
     Riser - [ ON ] : おい、あそこに行きたいとか言うんじゃないだろうな : [ OFF ]
     欺瞞システムを立ち上げ、対空レーダーの索敵網をギリギリ妨害できる範囲にまでは近づいてやるも、俺は不穏な気分で訊ねる。
     アスカもアスカなりの否定をしていた。
    「違う――」
     そこらへんを絶対に触らないことを約束に操縦席に座っていたアスカは、今の海原のように青ざめた表情で、光と鉄が絡みあったひとつの海上基地を見下ろしていた。
    「あんなの、あたしの――」
     喉を震わせるアスカは無我夢中で操縦席から抜け出し、どこにそんな力が残っていたのか、俺の腹を手動でこじ開けた。内外の気圧差で機体ががたつき、耐衝撃体勢でもないアスカの赤い髪が風に踊った。
     Riser - [ ON ] : おいばか何してやがる! 死ぬ気か! : [ OFF ]
     もしかしたら、その気だったのかもしれない。
    「あたしの、」
     アスカはパラシュートも装備せず、身を投げ入れてダイブした。
    「あたしの島がぁぁぁああぁぁぁああッ!!」


     数日後にハンターやセイバーに教えられたことだが、どうやらマザーCOMは、検査結果からアスカの正体をすぐに見抜いたらしい。何故あの時教えてくれなかったのか、と俺は気分悪く返したが、『余計な感情を持たれると今後の作戦に支障をきたす可能性があるから』だそうだ。大きなお世話だ。
     しかし、美事(みごと)だセイバー。元ネイティオなだけはある。お前の戯れ言にもたまには耳を貸す必要があるようだな。俺たちが『ただの戦闘ヘリ』でないように、あいつも『ただの人間』ではなかった。人間のみに蔓延する紫血病にかからなかったわけだ。
     海に投げ出され、宙で全身を強烈な光に包まれるさまを、俺はしかと見た。アスカの体は光そのままに遷移を始め、一匹のドラゴンポケモンへと、ものの数秒で変貌を遂げた。腕を折りたたむ滑空状態となり、飛沫を上げる浅い溝を海原へ一直線に掘り、速力を全開にした俺よりも数倍も早い速度で基地へ突撃していった。
     気配と異変に気づいた最初の一人へ横から突進。背骨をあらぬ方向に折られ、そのまま起き上がることはなかった。
     小さな爪を閃かせ、背後の二人目に斬撃を入れた。胸を真一文字にかっさばかれたそいつは血しぶきと悲鳴を上げて転げまわり、少しの間だけは生きていた。
     三人目は、奴らの敵である俺ですら口にするのもはばかれるほど、凄絶な最期を遂げた。
    「あああぁぁぁああぁぁああああぁぁっ!!」
     両腕を広げ、紅い月に向かって吐き出されたそれは、ある種の嬌声のようにも聞こえた。
     センサーを経由してアスカの姿を見た探偵屋が長い時間をかけてライブラリを検索し、あれは95%の確率で「ラティアス」だと俺に言ってきた。
     残る5%は単純に自信のなさからだろうが、気持ちは俺にも良くわかった。
     ――まさか、嘘だろ。あれが。
     ほどなくして、黄色い煙の尻尾をしゅるしゅると情けなくなびかせて、真っ黒な夜空に溶け込んでいくものがあった。瞬間後、真昼のような数十万カンデラの閃光が夜空全面に走る。夜に紛れていた俺の機体がくっきりと浮かび上がり、存在を確かなものとした。
     俺の副脳が緊急コード133を吐き出した。
     照明弾。
     こちらの位置がばれた。
     ――畜生が!
     俺はこの体になった際、文字を獲得した。しかし、発音装置とラウドスピーカーまでは搭載されていない。アスカに呼びかける手段は、アスカがここを飛び出した時点で完全に失われた。そもそも混沌の発狂状態にあるアスカに何を呼びかけたところで正気を引き出せたかどうか、疑わしいところである。応援を待つ暇もなく、呼んだところで、敵の基地に単騎で突っ込んだ無謀さに怒鳴り返されるのがオチだろう。泣く子も黙るアクア団の海上基地へ、人間の子供とさして変わらないくらいの体長である華奢なメスポケモン一匹と、迎撃ミサイルの搭載もないBVR戦クソくらえな汎用ヘリ一機だけで挑む決死隊が、三千世界のいったいどこにいただろうか。
     異常事態の空気が光の速度で伝播し、一次警報のサイレン音が夜の海原へけたたましく鳴り響く。何本ものサーチライトが夜空に向けて槍のように振り回され、俺の体を数度なぎ払った。
     それ見たことか、と俺は毒づく。やむえず光学神経プロテクトを自力で解除し、FCSに火を入れた。照明弾を撃たれたことを表向きの理由に、戦闘モードを緊急起動。機首の下からチェーンガンを抜き出し、左右のミニガンを懐へ回し、フルオート掃射可能の状態としたが、アスカだけは撃たないなどという器用な芸当は保証できない。そもそもここしばらく使っていなかったし、俺なんかのようなはぐれ者に物理的整備を定期的に回してくれるような人員も余裕もなかったため、弾薬はともかく戦闘システムがシケている可能性も大いにありえた。
     そんなもん知るか、と思った。
     急いで視界をナイトビジョンに切り替え、独特のシルエットを成すひとつの熱源に『アスカ』とタグ付け。それら以外の動く者へカッターチェーンを撃てる限り撃った。ただ、海上での射撃は地上とまた勝手が違うらしく、気流のうねりと独特の反動に俺の機体はいつもよりも大きくブレた。笑ってしまいそうになるくらい当たらなかったが、生身相手に機銃をぶっ放すめちゃくちゃ加減を向こうも承知しているらしく、足止めの効果は見込めた。俺は持ちうる限り持っていたフレアを景気よくばらまき、敵の注意と誘導ミサイルの気を引き、機銃での威嚇射撃に入った。その隙にアスカがその身ひとつで特攻。正当防衛の片鱗も思わせない、あるったけの暴力を体全体で爆発させていた。爪と念力、そして波動を振り回し、その獰猛な双眸に映る者全員を、几帳面にも、一人一人、一匹一匹と、順番に血祭りにあげていく。
     涙も凍てつく、悪夢のような一時間だった。
     我を失う紅白のポケモンが敵の基地で縦横無尽に跋扈し、高く吠え、ドラゴンとエスパーの力で鏖殺にかかる様に関して、俺の見下ろせる視界というのは、ある意味極上の特等席だったのかもしれない。あのラティアスの少女は今、この争い全てに対する怒りの代弁者だった。望まぬ波瀾に巻き込まれ、見たくもない死を見せつけられ、あらゆる感情を一点に押し込められ、ついに炸裂させた者の成れの果てであったと、後になっても俺は思っている。
     残存勢力ゼロ、と、俺の副脳が残酷にもそう告げてきた。その内のどこまでがアスカの功績で、どこまでが俺の功績なのだろうか。
     海上基地は、元の形の大部分をなし崩しとしていた。手でつかめそうなほどに濃密な黒煙が立ち込め、火花が不服そうに散り交い、どこを見ても人間とポケモンの肉人形しかない。俺は落ち着きのないバランスで機体をおろす。すぐそこには面を下げるアスカが佇んでいて、機銃がえぐったコンクリートのかけらを両手ですくい上げていた。両翼の垂れ具合から漂わせる哀愁はなんとも言いようがなく、体の白いところをも自身の血と返り血で真っ赤に染めているアスカは、まさに殺戮の痩躯の現れだった。
     一方の俺もずいぶんな有様だった。受けた銃弾は数知れず。無反動砲の二発、はかいこうせんの一発を機体にかすめて破損、ミニガンの左は撃ち尽くす前にやられてセルフパージ。EMP(でんじは)でシステムの一部を狂わされ、FCS内の誰かが訳の分からない言語をずっとしゃべり続けている。当分は格納庫(ドック)で入院生活だが、逆に言えば損傷箇所はたったのそれだけ。エレメントを組んでいても生還が怪しかったあれだけの難事を突破できたのは、もはや奇跡に近かった。冷たい刃の上を渡り歩くようなあの一時間のどこかで姿勢制御系をやられていれば、俺の体は海原に叩きつけられて、二度と空へあることを許されなかっただろう。
     Riser - [ ON ] : 無事か : [ OFF ]
     と、義理で一応モニターに表記した。当然アスカには見えていない。
     人間の姿を失ったアスカは、もう人間の言葉を話さなくなった。
    『あたしと兄さんの島が――無くなっちゃった――』
     おそらく、泣いていたのだろう。
    『ぜったい、大丈夫だって、思ってたのに』
     かける言葉もなかった。
     通信設備を木っ端微塵にしたとはいえ、いつまでもここにいるわけにはいかなかった。
     でも、今のアスカの背中に呼びかける「声」すら、俺は持っていなかった。
    『なによ、』
     涙を見られるのが嫌のようで、アスカは背中をずっと向け、両目をしきりにこすっている。
    『あっち、いってよ、』
     些細なことが喧嘩の発端だったらしい。
     そうでなくとも、かつて「南の孤島」だったここを飛び出し、人間に成りすまし、ホウエン地方へ遊びに行くことはざらだったという。兄が心配するころには戻るつもりだったというが、本当は自分から謝りにいく時間と気持ちの準備をしたかっただけではなかろうかと俺は推測する。
     そこであの、歴史を貪った怪物とも言える二匹の復活である。
     元の姿に戻って逃げる間もなかっただろう。それほどに全ては一瞬だったことを、当時の俺も憶えている。大地のうねりと大嵐にあらゆるものを引き剥がされ、気がつけばジュンタロウに介抱されていた。敵か味方かもわからない相手に正体を打ち明けるわけにもいかず、緊張状態で体力もろくに回復できず、ラティアスの姿に戻る術が秒単位で失われていく。妹がこうしてホウエン地方を逃げまわっている間にも、アクア団は南の孤島を目につけたというわけだ。さすがに人間どももポケモン同様、世界のあちこちを足二本で渡り尽くしているだけであって、海原も例外ではないらしい。中でも連中は俺たち第三勢力にすら見つけられなかったあの小さな島をずばり我が物としたのだから、いいツラの皮だったろう。それをきっかけにアスカも自身の臨界点を越えて戻れたのだから、なかなかひどい因果だ。
    『いつまで、こんなことが続くの?』
     危険領域を命からがら脱出したが、アスカはもう人間の姿には戻らず、憔悴しきった顔で再度機内へと乗り込んでいる。自分で飛ぶ元気も気力もほとんど使い果たしたらしい。初めて出会った時と同じシートに、ぐってりと身を預けている。見ているこっちがもどかしくなるほどの遅さで、じんわりとじこさいせいを施し、傷の治療にあたっていた。
     Riser - [ ON ] : さあな。ともかく、これで片方の痛手となり、悪い意味で刺激が入ったことだけは確かだ。どう転んでも醜い結末がそのうち出てくるだろうさ : [ OFF ]
    『あたし、悪くない。悪いのはこんな戦いを始めた人間』
     否定はできなかった。
     それからしばらくは、お互い沈黙を保つ、非常に静かな航空が続いた。先ほどの大惨事に関する始末の付け方と、セイバーやマザーCOMへの言い訳、空の見えない窮屈な格納庫での修理時間を考えると頭が痛くなりそうだったので、全部向こうに回した。それよりも俺は飛行能力に問題がないか再三とチェックするのに必死で、それに関してはアスカも少しは反省しているらしい。きな臭くなった俺の機内にケチをつけてこなかった。機体損傷率45%を越えたのはかつてのロックバード作戦以来だ。あの失策はマザーCOMが深刻なプログラムエラーに食われ、精度のはっきりしない作戦と会敵予想時刻を示したからだと公式には声明を出している。しかし、敵対勢力の戦力を低く見積もりすぎていたこと、陽動へ割いた者たちに針穴のような人事的ミスを仕込んでしまったことが主な原因だと俺は密かに睨んでいる。勧告があと五分と遅れていたら何もかもがだめになり、人間もポケモンも住めなくなる有史以来最悪の大惨事を招き、あの地域一帯が向こう十年は有毒物質に侵されることとなっていたはずだ。
    『あたし、アーラ』
     出来る限りのじこさいせいを終えたアスカが、頃合いを見つけてつぶやいた。
    『アスカっていうのは人間の偽名。本当の名前、アーラっていうの。兄さんはヒンメル。あなたは?』
     五秒だけ考え、俺は答えた。
     Riser - [ ON ] : ヴォルケ : [ OFF ]
     うん、とアーラは顔を綻ばせる。
    『あたし、ヴォルケのこと、忘れない』
     その笑顔は自然なものだと俺は思う。
    『ここで、お別れでいいよ』
     俺は言われたとおりその場で停止し、ホバリングする。
     Riser - [ ON ] : これからどうするつもりだ : [ OFF ]
    『兄さんを捜す。島は無くなったけど、兄さんはどこかで生きてるって信じたい。あんな人間たちに殺されるような兄さんじゃないはずだから』
     Riser - [ ON ] : そうか。俺に止める権利はない。好きにしろ : [ OFF ]
    『もしも兄さんに会えたら、あたしも兄さんを捜してるって教えてくれる? それと、ごめんなさいって代わりに言ってくれると嬉しいな』
     Riser - [ ON ] : 悪いが、できない約束はしない主義だ : [ OFF ]
     返事を曖昧に濁して腹を開け、アスカを同じ空へとうながす。
     Riser - [ ON ] : 気流に巻き込まれんなよ : [ OFF ]
    『うん。今まで、ありがと』
     どうやらいらぬ心配だったらしい。ラティアスに戻ったアーラの周囲には独特のエネルギーがついてまわっており、ちょっとの気圧差の風に押し負けるようではなかった。
     真横へのダイブを見たのは初めてだった。籠から放たれる小鳥のように、アーラはゆらりと飛び立つ。危なっかしい軌道で正面へ回ってくる。
    『今度会えるときがあったら、戦争が終わってからのほうがいいよね』
     生きていたらな、と思う。
    『そのときは、ちゃんとあたしみたいに元の姿に戻って、ボーマンダに進化しててね。あたしと兄さんとあなたで、一緒に空を飛ぼう』
     ああもう、さっさと行けよ。
     ほら。
     鬱陶しく俺がライトを点滅させると、その意味をアーラはどう解釈したのか、緩やかな速度で俺に接近してきた。
    『約束――、だよ?』
     アーラは俺の鼻のあたりにぶきっちょなキスをよこすと、やや後退。首をひるがえし、一瞬で加速して去っていった。
     俺はその後ろ姿を、レーダーでとらえられなくなるまで、見つめていた。
     ――まったく。
     できない約束はしない主義だと言ったろうに。


     この戦いがいつまで続いて、いつ終わるのかは誰にも見当がつかない。
     俺なんかには知る由もないが、ひょっとしたらマグマ団もアクア団も党首をとっくの前に失っており、形骸化された争いが収拾つかずに延々と長引かされているだけなのかもしれない。俺も第三勢力も、その事実に気づかないだけで、奴らと一緒に着状態の中を無駄に踊らされている可能性がある。
     いずれせよ、どうやら俺は下手な形でくたばることを封じられたようだ。
     人間がお許しを出さない限りは、俺は自身の意で前線を退くことはできないし、退役することも叶わない。第一、この戦争の経験だけを肉体に戻したところでいきなり進化を望めるわけでもない。
     まあ、いい。任務という優先事項は変えられないが、あの少女と約束してしまった以上は、それを新たな希望にしておくことにしよう。
     さて、今回の記録はここまでとする。マザーCOMに検閲されると俺の主観に対して余計な校正がされてしまい、俺の感じたありのままが薄められてしまうため、この草稿もパーソナルメモリにのみ保管しよう。そっちの方が早いので、他の記録に関しては俺の印章でライブラリ検索をしてほしい。


     さようなら。


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      [No.3931] 流しそうめん 投稿者:何処   投稿日:2016/07/29(Fri) 05:10:05     100clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:流しそうめん】 【近所にポケスポットがない】 【近所にコラッタとポッポと虫しか出ない

     

     じーころじーころ。
     蝉がジワジワ揚げられるように鳴いている。
     テッカニンとかではない。ここはホウエンではなく、あんな格好良い虫ポケモンとは縁遠い陸奥の糞田舎だ。
     どのぐらい糞かというとまずポケモンセンターがない。最寄のポケセンは県庁所在地で、バスで一時間半ほど山を降りたのち電車で六駅かかる(補足しておくと、この六駅のうち四駅は無人駅であり、線路間で山を二つ超える)。トレーナーもぜんぜんいないからバトルも発生しないし、そもそも人がいないので目も合わない。盆と正月以外は基本的に爺さんと婆さんしか居ない。分校通いのクソうるせえガキどももいるが、俺と同年代の奴はパッタリいない。そういう連中のうち正気の奴はもうとっくにこんなクソミドリを出ていってしまったのだ。ポケモンもいない、野生じゃコラッタとポッポとキャタピーとビードルぐらいしかいない。しかも俺がボーッと村役場の図書室で読んだ図鑑から鑑みるに平均的な個体より明らかに身体が小さい。さらにググるとド田舎で競争が発生しない環境ではヒエラルキー上位のポケモンほど体格が小さくなったりするとかいう与太を発掘してしまった。もちろんそんな貧相なポケモンでバトルがやれるわけもなく、このへん出身でトレーナーになった奴とか全然知らない。農業開拓したナントカっつう偉い爺さんが持ち込んだケンタロスが僅かばかりの潤いだが、それだってこのドドド田舎の伸びきったゴムみたいな空気にやられて図鑑や風評の雄々しさからは信じられない、というか本当に同種ですか? というぐらい表情がゆるい。完全にゆるみきっている。腹周りもだるんだるんである。しかし人(人?)のことは言えない、毎朝起きたときの俺の表情もだるんだるんである。なにしろ北国なにするものぞ、この盆地、糞みてえに暑いのであった。
    「あ゛つ゛い゛」
     口に出しても現状を確認することしかできない。暑い、とにかく暑いのである。かろうじて舗装されてる家の前の道路に逃げ水が見える。もう洗面所で水を上半身が水浸しになるほど浴びて居間の畳に寝転んでは耐えきれずまた洗面所へ向かうことを繰り返している。庭のほうを見ると小屋の給油タンクの影でいつものポッポ二匹が伸びている。さっきから見てるが、あいつら影が動くのに合わせて移動してんな。賢いんだかアホなんだかわかんねえが。
     死にかけている垣根の知らん花の手入れもかねて水をぶちまけようと思い至って外へ出る。太陽は死の日差しで容赦なく引き籠りの肌を焼く。負けやしない、家の敷地内までなら俺は無敵だ。ホースを取る、焼けつくように熱い。「あっつ」耐えかねて取り落とし、諦めて先に蛇口をひねる。ホースが息を吹き返すようにのたうち出し、水が沸き出る。にわかにポッポどもがくっくくっくと騒ぎ出す。
    「もっとだ……もっと地面にへばりついて乞え。さすれば恵みをやろう」
     このポッポどもはもちろんうちのポケモンではない。がっつり野生である。しかしよくうちの庭を荒らしにくるので、昼間は自宅の警備を副業とする俺とは因縁があった。幾度となく繰り返された戦いの末、うちのケンタロスにやるエサを若干分ける方向で停戦協定が結ばれた。人間にたかったりなどせず、ポッポならポッポらしくキャタピーでも喰ってればいいのである。ポケモンとしての尊厳みたいなものはないのか。だがキャタピーでも糸ぐらいは吐いてくるわけだし、つまりこのポッポどもは安定してエサを得るためにプライドを放棄した怠惰者というわけだ。なんだ、俺と同じじゃん。
     どうせ部屋着の「ダイナマイトバタフリー」とか書いてあるクソTシャツだったので、一発頭から水を被ってシャッキリしたのち、指で潰したホースの先からみずでっぽうを繰り出してくっくくーとわめくポッポどもを強制的に黙らせていると、不意に腹が減ってきた。
     あー。
    「そうめん喰いてえな」
     思わずつぶやくと、ポッポ二匹がおのおの「くっくー」「くっくどぅー」みたいなことを言い出した。
    「マジ? お前らもそうめん喰いたい系?」
     ポケモンに人語は通じるのだろうか。分からんが、少なくともこいつらが昼飯を喰ってないのは確かだ。ずっと庭にいたし。
    「仕方ねえな〜」
     いや〜仕方ないな〜。ポッポに餌をやるためなら仕方ないな〜。秘蔵の流しそうめん装置を展開しちゃうとトラクター小屋に戻ってこれなくてキレられるけど、ポッポに餌やんなきゃいけないし本当に仕方ないな〜。
     こちら、竹を叩き割って作られたマジモンの流しそうめん装置である。ちょっと竹そのものが育ちすぎていてデカいのが御愛嬌だが、おかげさまでホースを固定しやすくてそうめんの流しやすさが高まっている。代わりに箸ですくうのが難しくなっているので、プラチックの先割れスプーンを使用するのがよいとされている(俺の心の中で)。流しそうめんとはいえ流すと流れていってしまうというジレンマめいた欠点があるため、普段は傾斜をゆるやかにしてデカい竹の入れ物を麺が漂っているみたいな感じで使用されるが、今日は俺一人だし、昨日食ったうどんめちゃくちゃ余ってるし、流しうどんでいこう。問題ない、流しそうめんであると認識すればあらゆる麺類は流された瞬間にそうめんと定義されるのだ。問題ない問題ない。
     ポッポと流し損ねたうどんを受け止めるザルを水流の終着点に配置し、ドンキで買った自動麺流しを居間に設置。縁側から庭の真ん中ぐらいまでに向かってゆるやかな傾斜で竹を設置する。うど……そうめんをひとつまみ流してみて、うん、いいぐらいの速度だ。これなら流されているそうめんを掴むという流しそうめんの大目的を果たして満足することができる。流れているのはうどんだが。
     ポッポたちも俺の掴み損ねたベータテストそうめんを律儀に待って食べている。わざわざ流れているところへ飛んでこないあたりは行儀がいいのか怠惰なのかわからないがたぶん後者だ。ここは俺が人間様の意志力というのを見せてやる。人間とは、流れてくるそうめんを箸で掴むという徒労のために二十分かけて準備ができるもののことを言うのだ。流れてくるのはうどんだが。
     さて……真夏の流しそうめん、スタート!
     第一そうめんを先割れで獲得。巻き取るようにして逃がさない。完全に逃がさないとポッポどもが可哀想だが、俺は俺の不器用を完全に計算に入れているので全部取ったりはしない。というか出来ない。というか半分ぐらい逃がした。悲しい。既に溶けかけた氷で薄くなりはじめているつゆにくぐらせて喰らう。ああ……冷たい。冷蔵庫から出したばかりの麺が神の冷たさ。炭水化物とつゆの塩味がすきっ腹に染みる。
    「最高だぜ」
     こんな無駄のためならいくらでも努力ができる。どうだ、これが人間様というものだ。
    「くっく」「くっくズズー」
     見てないですね。
     気を取り直して第二玉の進撃を待つ。おらッ来いよ! こちとら準備はできてんだよ! と思いながら、射出されたそうめん(そうめんとは言ってない)を視認した俺が先割れを構えた瞬間――

     ぺひゃん。

     という音を立てて、上空より飛来した、何かが、ちょうど流れくるところだったそうめんの中に混入した。
    「あっ」
     混入した何かは、動物――おそらくポケモン。見たことのないポケモンだった。地域図鑑にないっつうことはこのへんに生息しているポケモンではないはずだ。生まれたてのネズミみたいななまっちろいピンク色で、大きさは20cmぐらい。竹の中を、そうめんに絡まりながらゆっくり流れてくる。尻尾が長く、そうめんに混ざって本物のそうめんのようになっている。
     そして、そのまま流れてくる。
     そういう……そういう準備はできてない……!
     しかし俺の手は既にそうめん迎撃モードのスイッチがオンされてしまっている。もうそうめんをすくう手を止めることなどできない。
     俺の先割れは無慈悲にも、流れてくるポケモンごとそうめんを受け止めた。そしてつゆにぶち込んだ。
    「みうー」
     器に収まりきらず、茶色いつゆの中で、半身そうめんに絡まりながらポケモンは鳴いた。そりゃあ鳴きたくもなるだろう。俺もちょっと泣きたい。
     まじまじ見つめると本当に見たことがないポケモンだった。耳は三角形でケモノっぽいが、フォルムは流線型で、つるつるした感じがする。前足はほぼ手だが後ろ足が大きく、尻尾はそうめん。目につゆが入ったら痛いと思うので、半身で突っ込んでいるつゆから指でつまんで持ち上げるとまた「みうー」と言った。ふにふにしていて、細かい産毛につゆが珠みたいにくっついている。
     一瞬遅れて、つままれたまま足先をばたばたしはじめた。その一挙だけでとりあえずどんくさいということは分かった。
    「なんかもう……気をつけろよ!」
     言葉がまったく浮かばず、とりあえずそう言って、つゆを泣く泣く捨てて流れてくる水で洗い、地面に降ろす。
    「みうー」
     だが地面が熱かったのか、一瞬目を見開いてから地面を蹴ってふわっと跳ねた。あっ違う、飛んでる! こいつ飛ぶぞ! そういやさっき上から来たな!?
     明らかに物理法則をシカトして浮かび上がったそいつは、しばらく空中をうろうろしたのち、何を思ったのかふたたび流しそうめん装置に飛び込んだ。
    「あっ」
     おま……お前ーッ!
    「みうー」
     それ水浴びかーッ! 水浴びのつもりだなーッ! 流れるプールだなーッ!
    「違ぇよ! それ俺の昼飯だよ!」
     竹の中を流れていくそいつの表情はやすらかだった。お前、今の「みうー」は「ひんやり〜」みたいな感じだなーッ! お前ーッ!
    「許さん、お前はそうめんじゃねえ、うどんだうどんッ!」
     俺は復讐を誓った。そうめんを台無しにしたうどん、お前をこのまま生かして流し続けるわけにはいかないッ……!
     流れてはポッポたちの前に流れ着き、ふよふよと起点に戻ってふたたび流れてくるそいつをすくい上げようとする俺のあくなきバトルが幕を開けた。ポケモンと闘うという意味では完全にポケモンバトルだし、もはや俺はトレーナーであると言える。トレーナーの矜持にかけても絶対にお前をこのまま流しそうめんにはさせない、必ずや掬い上げて、お前がうどんであることを証明してみせるッ……!
     いざ尋常に、そうめんッ!







     俺が「みうー」と格闘している間に、ポッポたちは流れ着いたうどんをたらふく喰い、充分に水を浴びて満ちたりた表情で去っていった。
     一方の俺はなぜか逃がす隙間などないはずなのにうどんを捕まえることができず、ムキになった結果しっかり汗だくになり、戻ってきた親父に「邪魔だオラーッ」とキレられた。もう死にたい。
    「みうー」
     そんな俺をあざ笑うかのように、うどんはまだ縁側にいる。「暇潰しはもうポッポがいるでしょ、帰してきなさい」と言われたので来た方向に帰そうと何回か空に投げたのだが投げても投げても戻ってくるので、あきらめた。明日、軽トラで山に戻してこようと思う。

     


      [No.3813] Re: 新人はよく食べる 投稿者:No.017   投稿日:2015/08/24(Mon) 00:50:32     78clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    ありがとうございます!
    ふてぶてしさが伝わったのならよかったですwwwww
    たぶんアクア団のイズミさんとかにも「化粧が濃いよ。おばさん」とか言ってるんだと思いますw
    カビゴン系女子wwwwwww


      [No.3812] Re: カイリューが釣れました 10 投稿者:マームル   投稿日:2015/08/23(Sun) 22:31:48     94clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    感想ありがとうございます。
    自分でも、勢いで書いたのでこれがどんなテーマを持って書いたのか良く分かってないんですよね。
    何かしら、確固たるテーマみたいのはあると思うんですけど、自分自身でも分からない内に完結しました。
    どうしてこんな結末になったのか、どうしてこんな流れで、このキャラクターがこういう配置になったかすらも、僕には余り分かってないです。
    まあ、本当にそんなものでしたが、読んでくださってありがとうございました。



    脳内設定。こんなレベルのカイリューが釣れる訳ないとかそういうのはナシで。
    カイリュー  Lv85 ♂ さみしがり
    はかいこうせん ドラゴンテール しんそく ?
     
    ウインディ Lv47 ♂ のうてんき
    しんそく インファイト ? ?

    ココドラ Lv8 → コドラ Lv28 ♂ ずぶとい 
    がむしゃら ? ? ?   


      [No.3811] Re: 新人はよく食べる 投稿者:焼き肉   《URL》   投稿日:2015/08/23(Sun) 19:18:21     96clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:カビゴン系女子

    絵からも字からも伝わる、アカリちゃんのふてぶてしさがツボです。
    彼女はトシハルと会う前からこんなだったのかw
    さすがあの絵葉書(元気なスバメが生まれた)を寄越しただけあるなあと思います。


      [No.3690] Re: さぶじぇくとのーつ のようなもの 投稿者:   《URL》   投稿日:2015/04/07(Tue) 03:56:40     28clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    (*'ω'*)<箱飴さんのレポートだ! 確保しろー!(Ctrl+A(Ctrl+C(Ctrl+V(Ctrl+S #ymny

    まずはレポート提出ありがとうございます。これは興味深い案件です。

    トリガーになるのが小規模なイベントと一般に露見しづらく、イベント後にすべての証跡が消失、
    さらにビルの管理者が部屋を貸し出した記録が無い、しかし一般参加者の証言と参加した証拠はある……
    これは追跡が難しいタイプの案件ですね。
    失踪者が全員10代後半の女性というのも意図を感じさせてぞくぞくします。

    書いて頂きありがとうございました……! 削除なんてとんでもない!
    もしまた案件を見つけて、気が向いたら書いて頂ければ……などと思った次第です。とても面白かったのです。

    うちの方も、今後も背筋がぞわぞわするようなレポートを提出できればと思います。
    ありがとうございました!(*´ω`)


      [No.3689] 資料:ツバキ氏からオダマキ博士へ提出されたメールの一部 投稿者:Ryo   投稿日:2015/04/07(Tue) 01:09:09     58clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    …先日、ネット上にあがった記事を覚えていらっしゃいますでしょうか。プラスルとマイナンがペリッパーを捕食していたという記事です。私はあの記事でどうにも気になることがあり、写真を撮影したカミヤ氏と個人的にコンタクトを取り、当該のプラスルを観察して参りました。
    当該のプラスルは記事にあった通り110番道路で見つかりましたが、記事と異なる点が二点ほどありました。一つは今回の遭遇ではプラスルは群れではなく単独での狩りを行っていたということです。狩りの対象となっていたのはキャモメでした。今回の観察ではこのプラスル以外のプラスル、またはマイナンの捕食行動は見られなかったことから、110番道路におけるプラスル・マイナンの捕食行動を指揮しているのは、恐らくはこの記事になったプラスルのみで、集団での狩りはペリッパーなどの大型の獲物を狙う時のみ行われるのではないかと考えています。
    もう一つ異なる点は、狩りに使われていた技が、記事に書かれていたような「電気を纏ったたいあたり」ではなく「ほうでん」であったことです。こちらはある程度予想していたことでした。プラスルが「たいあたり」を使用した、という記録は過去のいかなるデータにも存在しないからです。当該のプラスルは「ほうでん」を行いながら捕食対象に飛びつき、密着状態で電気を浴びせて麻痺させることで獲物を仕留めていたのです。
    私が申し上げるまでもないことですが、「ほうでん」は戦闘能力(俗にいう「レベル」です)の高いプラスルのみが覚えることができる技であり、110番道路に生息している通常個体のプラスルが使用することはまずありません。実際、私達の観測したプラスルの動きは通常のプラスルに比べて非常に敏捷であり、その動きにも一切迷うところがありませんでした。
    このことから、先日私が撮影、記録したポチエナの共食いとプラスルの捕食には共通するところが多いと思われます。一つには当該個体が周辺の通常個体に比べて極端に高い戦闘能力を持っていること。そして通常個体が使用しない技を使用できるということです。こうした個体は通常の個体が決して成し得ないことを安々と成し得てしまうため、本来の生態から外れた行動をも容易に成し遂げてしまうのではないでしょうか。もしそうであれば、近年発見が相次いでいる、同様の性質を持ったポケモンに対して、早急な調査が求められます。…

    追記
    まだ観測結果が2例しかないため、書くことを控えようかと思いましたが、今後のこの件の調査に際して一つの指針になるのではと思い、こちらに追記します。
    共食いの際にポチエナが同種に対して使っていた「じゃれつく」、捕食の際にプラスルがペリッパーやキャモメに対して使っていた「ほうでん」…これら二つの技の使用状況から考えると、こうしたポケモン達は闇雲に本来の生態から逸脱した行動をとっているのではなく、トレーナー達の間で言われる「タイプ相性」や「レベル」を理解した上で行動しているのではないか、と思えてならないのです。「レベル」については完全な仮説ですが、「スパーク」などの比較的低威力な電気技であれば通常のプラスルでも使用することができるため、タイプ相性のみがトリガーとなっているのであれば、通常のプラスルが狩りを行うところが既に観測されているはずです。しかし自発的に狩りを行っているのは現在、記事になったプラスル一体のみです。ポチエナの共食いを観察した際にもコメントしましたが、これらのポケモンは自らの強さ、というより強みを充分に自覚した上で行動しているように思えるのです。

    博士のおっしゃった仮説の通り、彼らは元々トレーナーのもとにいたところを逃されたか、またはそうしたポケモンから何らかの形で技を受け継いだものと思われます。実際に見た私からしても、彼らの行動はなんと言いますか…俗な言い方になりますが、非常に「ポケモンバトル」的なものを感じたのです。(更に追記すれば、戦闘能力の高さに反比例して生活行動―例えば捕食の仕方等―が非常に稚拙であるところに、彼らが野生になりきれていない部分を感じます)
    単に逃されたポケモンというだけであるなら当該個体を再捕獲し、野生環境から隔離するだけで良いのですが、問題となるのは当該個体が、逃されたポケモンから何らかの形で技を受け継いだ個体であった場合です。この場合、事態は我々の感知しないところで急速に進んでいる可能性があり、ホウエン各地の生態系が根底から覆る恐れがあります。一刻も早い対策を講じねばなりません。

    これは私見ですが…ある種のポケモンが通常では覚えることのできない技を何らかの形で覚えさせる試みは、ポケモントレーナーやポケモンブリーダーによって積極的に行われてきました。その結果、本来の生態からかけ離れた技を駆使するポケモンの姿を目にすることは珍しいことではなくなりました。我々はそうしたポケモンを見て、ポケモンを完全にコントロールすることができるようになったのだ、と思い上がってしまったところはないでしょうか。今回このように元々の生き方を離れてしまった野生ポケモンの姿を見て、私は脳天を殴られたような思いに駆られました。なぜ逸脱した技を覚えたポケモンが野生に還った時のことを、これまで誰も想定しなかったのでしょう。ポケモンの「タマゴ」と呼ばれるものによる技の継承が自然界でも行われるか否か、別な経路があるとすればそれは何なのかについて、なぜ誰も研究しなかったのでしょう。

    少々脱線してしまい、申し訳ありません。どちらにせよ我々は早急にポケモンを野生に還す際のガイドラインを作成すべきではないかと思われますが、なにぶんデータが足りなさすぎます。もしかするともう手遅れなのかもしれません。しかし、2例しか見つかっていない、ということは、2例で済んでいる、ということなのかもしれません。何にせよこの件は早急に調査を進めるべきだと強く感じましたので、このような追記を書かせて頂きました。

    次のフィールドワークではトウカの森付近に趣き、「ブレイブバードを使うスバメ」の調査を行う予定です。技の特性上、場合によっては当該個体を保護する必要が出てくる可能性がありますので、備品のモンスターボールの持ち出しの許可をお願いします。


      [No.3688] ポチエナ共食い ホウエンの生態系に何が-ポケモンジャーナル 投稿者:Ryo   投稿日:2015/04/07(Tue) 01:05:22     67clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    ホウエンジャーナル 20XX年9月20日号

     群れで狩りをし、仲間意識が強いことで知られるポチエナが共食いを行う姿がポケモン研究家によって撮影された。先日撮影されたプラスルとマイナンの狩りに続き、ホウエンに生息するポケモンの生態系に大きな異変が起こっていることを伝えるニュースに、ポケモン生物学者らは大きな関心を寄せている。
     写真が撮影されたのは101番道路。オダマキ博士のフィールドワークを手伝っていた研究助手のツバキ・ユウヤ氏によって撮影された。
     一連の行動を観察、記録していたツバキ氏によると、共食いを行ったポチエナは一頭で現れ、他のポチエナの群れを執拗に攻撃し、逃げ遅れた一頭を捕らえて共食いを行ったという。ツバキ氏は「このポチエナは、この辺りに生息する通常のポチエナに比べて非常に俊敏で力も強いため、通常のポチエナとは大きく異なる生態を持っている可能性がある」とし、「自分が充分強いことを知っているため、群れを作る必要がないのではないか」との見解を示している。一方でこのポチエナが通常の野生個体には見られない「じゃれつく」を使う行動が見られたことから、一般トレーナーが逃がした個体が群れに入れずに単独で行動しているのではないか、という意見もあり、真相はわかっていない。
     しかし、近年、通常の野生ポケモンが本来覚えるはずのない技を使っていた、という報告が相次いでおり、もしこのポチエナが野生個体であることが判明すれば、そうした「異常個体」がホウエンに生息するポケモンの生態系を大きく変える可能性がある。
     日本ポケモン学会ホウエン支部長サトウ・ミキヤ氏は「このような本来の食性から外れた行動を見せるポケモンが増えれば、思わぬポケモンや植物が絶滅の危機に瀕する可能性があり、今後一層ポケモン達の行動を注視する必要がある」とコメントした。


      [No.3687] 「狩り」するプラスル、学者困惑-Pokezine 投稿者:Ryo   投稿日:2015/04/07(Tue) 01:02:38     69clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    Pokezine 20XX年9月13日 19時45分32秒

     おとなしく可愛らしいイメージの電気ポケモン、プラスルがマイナンと協力して群れを作り、ペリッパーを捕食するシーンが撮影され、日本ポケモン学会に衝撃が走っています。
     
     プラスルは最大体長0.4メートルの小型草食ポケモンで、数匹で群れを作り、木の実や草を食べて生活するおとなしく平和的な性格のポケモンです。近似種のマイナンも交えた群れを作ることもありますが、お互い喧嘩をすることもなく、家族のように一緒に仲良く暮らすほどです。今回撮影された写真では、そのプラスルとマイナンがポチエナの群れのように協力して大型ポケモンの「狩り」を行っており、本来の生態からも大きく逸脱した行動にポケモン生物学者達は動揺を見せています。

     写真を撮影したのはカイナシティに住むポケモン写真家のカミヤ・コウイチロウ氏。「101番道路でロゼリアの写真を撮っていたら、近くの草むらで騒がしい鳴き声と火花の弾けるような音がしたので近づいてみたら、プラスルとマイナンがペリッパーを襲っていたんです。本当に驚きました」とのこと。彼が撮影した写真には、数匹のマイナンが電気の網を張ってペリッパーを道路の隅に追い込み、体に電気を纏ったプラスルがペリッパーの頭部にたいあたりを食らわせる、非常に息の合った狩りの様子がありありと写しだされています。

     プラスルやマイナンは小型の虫ポケモンやタマゴなどから動物性タンパク質を摂取することもありますが、積極的に狩りをし、肉食を行うことはこれまで報告されていませんでした。写真を見たポケモン生物学者のハコベ・ケンゾウ氏は「写真を見る限り、プラスルとマイナンの肉食行動は非常に新しい習性のように見えます。例えばルクシオのように普段から肉食を行うポケモンであれば、獲物を追い詰めた際にはまずとどめを刺すために喉元に食らいつきます。それから腹などの柔らかい部位から食べ始めるわけです。ところが写真を見る限りプラスル達は、電気で痺れさせた獲物がまだ飛び立とうとするうちから捕食行動に入っていますし、自分たちが飛びついた部位から闇雲に食べ始めています。狩りのルールが確立されていないのです」と話しています。
    穏やかなはずの彼らを狩りに駆り立てたトリガーは何だったのか。今後地元のポケモン生物学者によって詳しい調査が行われる予定です。


      [No.3685] ギフトパス(終) 投稿者:メルボウヤ   投稿日:2015/04/06(Mon) 21:25:36     118clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:BW】 【サンヨウ】 【送/贈】 【捏造】 【俺設定】 【批評はご勘弁を…

     お騒がせトリオとの共同生活、三日目。
     
     ふと目覚まし時計を見ると、設定時刻を一時間も過ぎていた。うっひゃあ寝坊だーーっ!
     慌てて飛び起きたら布団の上に乗っかっていたらしい小猿たちが「ぷきゃ!」と悲鳴を上げて床へ転がった。我に返る。
    「ああ…お店行かなくていいんだった…」
     私に振り落とされてぷりぷり、もとい、おぷおぷ怒っているバオップ。しくしく、もとい、やぷやぷ泣いているヒヤップ。それから一匹転落を免れたらしいヤナップを順繰りに見渡して、息を吐く。
     目覚まし時計にもお騒がせ三重奏にも気がつかないほど熟睡していたらしい。昨日なかなか寝付けなかった所為かな。なんとなく頭がぼーっとする。
     三匹(正しくはバオップとヒヤップ)を宥めすかしながらリビングへ向かう。ちょうど両親が出勤の支度をしている所だった。キッチンテーブルに私の分の朝食が用意されており、お昼ご飯は冷蔵庫にあるから、と母が言った。
    「行ってらっしゃーい」
     二人が仲良く家を出るのを見送る。それから朝食を済ませ服を着替え、私たちも我が家を後にした。

     アパートの階段を下りて北へ、通い慣れた道筋を辿る足。交差点の横断歩道を渡れば、三日前まで毎朝通っていた三ツ星は目と鼻の先だ。
     あそこへ行かなくなってからたったの三日。なのに、もう何週間も行っていないような感覚だ。ずうっと続いていた習慣を突然断絶すると、こんなにも心がそわそわして落ち着かなくなるのね。
     渡ろうとしていた横断歩道の信号が赤に変わったので、立ち止まる。待つ間、ぼんやりと慣れ親しんだお店を眺めた。
     窓にはカーテンが引かれ、中の様子は判然としない。開店まではまだ時間があるし、スタッフも集まり切っていないんだろう。正面玄関も堅く閉ざされている。
    「……行こうかな」
     三ツ星に。
    「追い出されることはまず無いだろうし」
     アパートを出るやいなや無意識にあそこを目指していた体に対して、そんな風に言い聞かせる。気になるなら行っちゃいなよ私。うん。
    「みんな、お店では静かにしててね!」
     そう言って振り返れば、そこには「分かった!」とでも言うように私を見上げて来る三匹の小猿が……
    「いなーーい!!」
     いなかった。
    「アレッ、どこ行ったの? ヤナップ? バオップ? ヒヤップーー?」
     朝っぱらから大通りで大音声を張り上げる私に通行人が驚愕の表情を向けてきたが、構っていられない。
     一気に冴えた頭をぶんぶん振り振り辺りを見回す。西へ続く別の横断歩道の向こう側に、緑赤青のカラフルな影が走って行くのを発見した。待ってェーーー!
    「やぷっ!」
    「おぷー!」
    「なぷぅ!」
     加速するお騒がせトリオ、追跡する私。必然的に三ツ星からはどんどんどんどん遠ざかる……。

     行き先を鑑みて、公園でまた遊びたいのかと思いきや、どうも違うようで。三匹は公園内の通路を次は北へと突っ切る。木香薔薇が絡まった木製のアーチをくぐると、隣町シッポウシティへと繋がる三番道路に出た。
     丘に建つ幼稚園と育て屋の前を通り過ぎ、前方と左方とに分かれた道をかくんと左折。木立を抜けるとやがて池が見えて来た。向こう岸との間に架けられた小さな橋に差し掛かった所で、三匹の暴走はようやく終止符を打つ。
    「やっ、やっと、止まった…!」
     ぜーぜーと肩で息をする私の真ん前で平然と、どころかすごく嬉しそうに跳ねているヤナップバオップヒヤップ。もう怒る気力が湧かないわ……。
     ひとまず切れ切れになった息を整えようと、深呼吸していると。
    「我々への挨拶も無しに旅に出るつもりですか? メイ」
     聞き慣れた涼しい声が背中に投げかけられ、私は勢いづいて振り向いた。
    「コーンさん! 違いますよ…旅になんか出ません。この子たちを追いかけて来ただけです」
     背後には予測通りコーンさんの姿。腰掛けた自転車を左足で支え、立っていた。少々困り顔で。
    「一緒に行こうと、あなたを誘っているのでしょう」
    「そんな。私にはお店のお手伝いがあるし……」
     そのように返しつつ三匹の様子を窺うと、期待に満ちたキラッキラの眼差しに迎えられた。……そんな顔されましてもねえ。
    「コーンさんはどうしてここに?」
     訊けばシッポウシティに用事がある、とのこと。
     それとこれとは関係無いけど、自転車での外出だと言うのにコーンさんも前日の二人と同様のウエーター姿だ。むしろこれが彼らの普段着と言っても差し支えない着用率。まぁ、私もいつもならエプロンと三角布を着けたままその辺を歩き回るから、人のことを言えない(今は休みだから私服だ)。
    「はあ。店の手伝い、ね…」
     先の私の返答に首を傾げたコーンさんは、自転車を降りて傍らに停めると、私の目を真っ直ぐに見、口を開く。
    「それは本当に、メイが心から追い求めた願望なんですか?」
    「え…」
    「彼らを見ている内に気づいたんじゃありませんか? あなたの願いや望みが、あの場所には無いことに」
     不意の問い掛けでとっさに返す言葉を見つけられず、私は茫然としてしまう。
     あの場所って三ツ星のこと…よね。
    「まだ余裕があります。一つ、為になる話をして差し上げましょうか」
     左の袖口を捲り腕時計を確認したコーンさんは、私のぼんやりした態度に構わず話を進める。
    「メイ。あなたはコーンたち三人が、この先もずっと共に、あの場所にいるものだと思っていますか?」
     またしても唐突な質問。とりあえず頷いてみると、コーンさんは少しだけ悲しそうに頭を振り、足下の小猿たちへと目線を落とす。
    「我々は決して運命共同体ではありません。デントはイッシュ各地の色、味、香りを追究し味わうため、自由気ままな一人旅がしたいと願っていますし、ポッドは一般トレーナーと同じようにジムバッジを集め、いつかはイッシュリーグへ挑戦することを望んでいるんですよ」
     コーンさんは三匹の前に膝をつき、彼らの頭を撫でながら、続ける。
    「このコーンも、いずれは修行の旅に出向こうと考えています。もちろん一人でね。ポケモンもそうですが、コーン自身のレベルも上げることが出来るでしょう。それが、コーンの夢なんです」
    「…………」
    「デントもポッドもコーンも目指す夢は違い、向かう道は異なります。三つ子だからと言って、いつまでも三人、一つ所には留まっていませんよ」
     お騒がせトリオが私たちの周りを跳ね回っている。とても楽しそうなその姿に、コーンさんはふっと口角を上げた。

    「夢……」

     アイドル。美容師。教師。イラストレーター。パティシエール。
     友達はみんな確かな未来像を持っている。将来はどうしたいと問われれば、彼女たちは迷わず即答するだろう。それは、彼女たちが自分にとって最も素晴らしいと考える毎日を形作る、土台となるものだから。
     私の両親も子供の頃に料理人になりたいと願い、望み――今は、ずっと夢見ていた毎日を送っている。
     そしてコーンさんたちも。今は一緒に仕事をしているけれど、いつかはそれぞれに思い描く素敵な日々を送るために、三ツ星から…サンヨウから、旅立つんだ。

     コーンさんはそこですっくと立ち上がり、私を見た。
    「あなたのご両親もコーンらも。あなたの才能がより強く美しく開花し、それを存分に奮うことの叶う未来を求めるならば、それがどんな旅になるとしても、全力であなたを応援する心積もりですよ」
    「……でも」
     戸惑い。躊躇い。迷い。恐れ。心の中に入り乱れ、靄のように蟠るそれらの感情に抗えず、目を伏せる。
     ひゅうと吹いた強い風が、私とコーンさんの髪や服を揺らし、木々の葉をざわめかせ、水面を波立たせる。けれど私の胸にかかった靄までは、払い除けてくれそうもない。
    「ポッドがあなたを夢の跡地へ行かせる、と言い出した時には驚きましたが……しかしメイならもしかしたらと、このコーンも思ったんです。そしてあなたは我々の期待を裏切らず、見事チョロネコと打ち解けてみせた」
     コーンさんは再度足下にいる小猿たちに視線を転じ、左手全体で三匹を指し示す。
    「彼らが何故あなたの採取した果物を盗ったのか、解りますよね? 林の奥にはそれこそ、至る所に果物が生っているにも関わらず。何故、あなたの持っている物を奪ったのか」
     それは、チョロネコたちが自分では果物を採らず、私が譲る物を手にするのと同じ。あの子たちは私が選んだ果物が必ず美味しいことを、知っていた。この子たちにもそれが判ったんだ。
    「生まれ持った才能を、成り行き任せに組み立てられた退屈な暮らしの中に埋没させるなんて、勿体ない。さして好ましくもない行為に、限りある体力を心血を、未来を費やすなんて、これほど味気ないことは無いとは思いませんか?」

     ポッドさんに、私は言った。
     私はトレーナーに興味が無い。そう好きでもないことをやるなんて、おかしくはないか、と。

    「退屈だなんて私…」
     三ツ星での仕事が好きじゃない、合っていない、とは感じない。探してみても一つも不満は無い。
     だけど……ただ一つ、あの場所に何か足りない物があるとしたら、それはたぶん、
     充実感。

    「…………」
     私は前から漠然とそれを感じていた。明確な言葉にする機会が無かっただけで。真っ向から自分の気持ちを見つめようとしなかっただけで。
     だって、“平凡だけれど安定した生活”から脱するには、新しい一歩を踏み出すには、勇気が要る。覚悟を強いられるから……。
    「惰性であの場所に居続けるのは、コーンはあまりお勧めしませんね」

     デントさんは、私に言った。
     自分のことは自分が一番よく解っていると、殆どの人間は考えているけど、周りの人間の方がその人を理解している時もある、と。

     みんな、そう思うんだ。
     私は外へ出た方がいいんだ、って。

    「ま。周りがどうこう言っても結論はメイ、あなたが出すんです。あなたがこの先どういう日々を送りたいのか、それはあなたにしか解らないし、あなたにしか決められないことなんですよ」
     直立不動で黙りこくる私を、小猿たちが静かに静かに見つめていた。



    「いけない。そろそろ行かなければ」
     私が発言するのを待っていたんだろうか。
     声も無くそっぽを向いていたコーンさんが、ふと時計に目をやるや呟いた。スタンドを蹴って解除しサドルに腰を降ろすと、視線を私へ移す。
    「それではまた。はしゃいで池に落ちないよう、気をつけて帰るんですよ」
     この辺りには凶暴なバスラオが沢山棲息していますからね。
     そう言い残し、一路シッポウシティへ向けて、コーンさんは自転車を走らせて行った。

    「………………。」
     いくらはしゃいだって、十五にもなって池ポチャする訳が無いのに…あの青鬼…子供扱いして…!
     しかし、可能性が全く無いとも言い切れない(私はともかくお騒がせトリオは何を為出来すか判らない)。余計なことを始められる前に、ここから離れなきゃ。





    「なぷぷぷっ!」
     バニラビーンズを煮出し終え、色とりどりの果物をカットする作業に移る。
    「おぷおぷー!」
     片手鍋に注いだ水が沸騰したら、そこへミントを入れて。
    「やっぷぅ〜!」
     隣で火にかけられている大きめの鍋では、ミネストローネがふつふつと煮立ち始めた。
    「ぁいたっ。向こうで遊んでよ、もう」
     キッチンテーブルの周りを追いかけっこしている三匹に、時折ぶつかられ小言を溢しながら、私は調理を続ける。

     今日は両親が早く帰って来る日なので、私が夕食を用意することになっていた。メインはたっぷりの野菜とハーブを効かせた特製ミネストローネ。煮込み終わるまでの間、小猿たちの食後のおやつとしてフルーツゼリーを作ることにした。
     バニラとミントで香り付けしたお湯に、グラニュー糖とゼラチンを加え泡立て器で撹拌。火を止めたらオレンジリキュールを少々。粗熱を取ったら平らなカップに流し入れて、とろみがついたら細かく切っておいた果物を沈める。あとはラップをかけて冷蔵庫に入れ、固まるのを待つだけ、っと。
    「ハイハイ、もう少しあっちで遊んでてね」
     作業が一段落したのを感知し、まとわりついて来る三匹をリビングへ追い払う。
     次はサラダを作ろう。
     胡瓜とプチトマト、サニーレタスを洗って水を切る。プチトマトはへたを取って、胡瓜は薄く斜め切り。レタスは手で一口サイズに千切っていく。
    「…………」
     そんな単純作業の傍ら。
     私はコーンさんの言葉を思い出していた。

     才能を存分に奮うことが出来る未来を求めるなら、それがどんな旅になるとしても――。

    「旅…か…」

     仮に私が旅に出るとして。
     私は旅から何を得ようとする?
     何を得るために、私は旅に出ればいい?


     キッチンの椅子に座り、リビングに敷かれたラグの上でポケモンフーズを食べるヤナップたちを眺める。その間にも思考は巡っていた。

     あの子たちはサンヨウへ来るまでの間、色々な人やポケモンを見て来ただろう。
     その人たち、ポケモンたちは、みんな生まれた場所も育った環境も違っていて、そして物の考え方や味の好みも違うんだろう。

     私はイッシュ生まれのイッシュ育ち。
     だけど私が知っている範囲は、イッシュのほんの一部分に過ぎない。

     サンヨウの外には、一体どんな人やポケモンが住んでいるんだろう。
     そこに住む人たちは、ポケモンたちは、どんな料理が好きなんだろう?


     そこまで考えた所で、はたと気づく。


     私はそれを知りたい。
     見てみたい。探してみたいのだと。


    「………………そっか。」

     答えは思いの外呆気なく導き出され、私の胸にすとんと落ちた。



     洗い物をしていると、冷蔵庫に付属したタイマーが鳴った。と、小猿たちが食後とは思えない素早さを以て駆け寄って来る。
    「そこどいてー!」
     占拠される足下に用心しつつ冷蔵庫からカップを取り出し、ラップを外す。それぞれの小皿にひっくり返し、ローテーブルに置く。
    「はい、どうぞ!」
     瞬間、待ってましたとばかりにゼリーに食らいつく三匹。
    「…………。」
     うーん…もうちょっと落ち着いて食べられないものか。メンタルハーブでも盛りつければ良かったかな。

     しかし、つくづくこの子たちは凄い。
     ああいや、食べっぷりのことじゃなくて。

     その幼さで、ここまで三匹きりで旅をしてきたという、事実が。

    「勇気あるよね。あなたたち」
     感嘆の声に反応し、三匹が皿から顔を上げる。直向きで無邪気な三対の瞳が、私の姿を捕らえる。
    「私も、覚悟を決めなきゃいけないけど……」
     ここから旅立とうとしているのは私だけじゃない。デントさんたちも同じ。それには確かに勇気づけられる。
     でも。
    「やっぱり不安になる。ちゃんとやっていけるかって考えると……どうしても、怯んじゃうわ」
     三匹はゼリーの残りを平らげると、こちらへ歩み寄って来た。そして私をじい、と見つめると。
    「なぷぷっ!」
    「おぷおぷ!」
    「やぷぷぅ!」

     そう言って、ニコッと笑った。

    「……………………」

     勇気は、ほんのちょっとでいいんだ。
     覚悟は、何度だって決められるんだ。
     要はやるか、やらないか、なんだよ。

     彼らの目はまるで、そう言っているようだった。



    「……………………うん。」

     少しの沈黙の後、一つ頷いて。
     つられて、私もにっこり頬笑んだ。

    「そうね…………ありがと!」

     背中を押してくれて。




     ガチャ、と扉が開く音がして、ただいま、と二人分の声が聞こえた。
     私は勢いに身を任せ、玄関へと直走る。そしておかえりを言う代わりに、力強い宣言で二人を出迎えた。

    「お父さん、お母さん! 私、決めた。旅に出るっ!!」

     突然過ぎる宣誓に二人はしばらくぽかんとしていたけれど――やがて揃って破顔し、大きく頷いた。





     次の日の昼下がり。
     三人に会いにお店へ顔を出すと、私が声をかけるよりも先にカラフルヘアートリオがやって来た。大体予想はしてたけど、両親は出勤早々、いの一番に彼らに報告したらしい。そんなに嬉しかったんですかお父様お母様……。
     私は三人(と言うかポッドさんとコーンさん)にせびられ、事の顛末を簡潔に伝えた。ヤナップたちのお陰で決心がついた、と。
    「彼らがメイちゃんに、将来について考えるきっかけと勇気をくれたんだね」
     デントさんの台詞に頷きながらも、私は心の中でううん、と頭を振る。
     この子たちだけじゃない。デントさんとポッドさんとコーンさんが、平凡な場所に逃げ込もうとした私を引き留めてくれたんです。
     ……なあんて、照れ臭くて本人たち(と言うかデントさん以外)には言えないけどね。

     その後、私たちは夢の跡地へと向かった。
     この子たちに、ある話をするために。





     夕暮れ時、鮮やかな橙色に全身を包まれてアパートへ戻ると、我が家の扉の前に人影が佇んでいた。
     燃え盛る炎のような形状の髪型。間違えようも無い。赤鬼だ。
    「ポッドさん?」
     呼びかけると少しの間、そして怒声が返って来た。
    「おまえおっせーぞ! 何分待たせんだよッ」
    「は、はい?」
     聞くところによると、三十分ほど前から私たちが帰って来るのをずうーっとここで待っていたんだとか。ポッドさんの割には気の長いことで。
    「用件はなんですか?」
     事務的に問うと、あーだのうーだのと言いながら視線を彷徨わせ始めた。
     挙動不審だ。怪訝に凝視する私とお騒がせトリオ。
     一分くらいそんなことを続け、ポッドさんは苦々しい顔つきでようやく開口する。
    「チョロネコの件……わ、悪かったな」
     刹那、数日前この人が見せた腹立たしい言動の数々がフラッシュバックした。
    「ほんとですよっ!!」
     勢いで憤慨してみせたら予想外に大声が出た。柄にもなくビクッと肩を震わせたポッドさんがちょっぴり可哀想になり(ついでにヤナップたちも驚いて飛び跳ねた)、「でも良い経験になったので今は感謝してます」と続けると、怖じ気づいたまま「お、おう…」と返事をした。
    「あと、コレ」
     小脇に抱えていたクラフト紙の封書から何やら取り出し、こちらに差し出す。どうやら本のようだ。薄い…………本?

     ピュアでイノセントな心の空が脳裏をよぎった。

    「なっ、なんでそんな本を私に寄越すんですかっ!!」
    「はー!? おまえが旅に出るって言うからわざわざ持って来てやったんだろ! ポケモン取扱免許持たずに旅するつもりかよッ!?」
    「え。ポケモン取扱免許?」
     ポッドさんの台詞に違和感を覚え、よくよく本を見てみれば。
     あれよりも大分小さくて、表紙に『ポケモン取扱免許取得の手引き』と書かれていた。
    「な、なぁ〜んだ……すみません。電波な例のあの本かと思って。ありがとうございます」
     非礼を詫び、お礼を言って本を受け取る。
    「ああ、アレ…。アレはデントの私物に昇格したから安心しろ」
     果たしてそれは安心していいものなのやら。
     ポッドさんの声を聞きながら、早速頁を捲る。
    「特別勝負がしたくなくっても、旅するってんならポケモンと一緒の方が断然ラクだし、楽しいかんな。前にも言ったけど、おまえかなり素質あると思う。いっそトレーナーとして旅に出ちゃえよ」
     手引き書を一通り流し読みすると、サンヨウシティに在住している人の場合、トレーナーズスクールに申し込めば、いつでも希望者の好きな時に講習を受けられることが解った。
    「こいつら、おまえと旅したがってんだろ? こいつらのことだったら、オレらが色々教えてやれっしさ」
    「あ…えっと、ポッドさん」
     三匹の前にしゃがみこんで、両手使いで彼らの頭をわしわし撫でまくっているポッドさん。上機嫌な様子で、私は少し申し訳なく思いながら話しかける。
    「そのこと、なんですけど。実は、私……」
     遠慮がちに切り出す私に、ポッドさんは案の定、訝しむように眉根を寄せた。


     ――昨日、三ツ星へ顔を出した後のこと。
     夢の跡地をのんびり歩きながら、私は三匹に、自分の心からの願望を話して聞かせた。
    「旅をするには、トレーナーになるのが一番いいみたい。無料でポケモンセンターに宿泊出来たり、色々と特典があるらしくて」
     香草園へ続く轍の道に差し掛かってすぐ、木陰からチョロネコやムンナが現われて、私を取り巻いた。会わない日が続いていたから気にしてくれていたのかもしれない。
    「でも私、勝負には疎いから、ポケモンのことを一からしっかり勉強したいの。勉強不足でポケモンを傷つけることにならないように、ね」
     チョロネコたちにちょっかいを出したり出されたりしつつも、三匹はしっかり私の声に耳を傾けてくれている。
     草むらに点々と姿を見せ始めるハーブ。その香りを楽しみながら進んで行くと、頭上からマメパトの鳴き声が降って来て、目の前を数匹のミネズミが横切った。
    「その間、あなたたちを待たせたくない。あなたたちと行けたら最高なんだけどね、早く旅を再開したいでしょ? だから、私が責任を持って、あなたたちと色々な場所へ行ってくれる人を探すわ」
     香草園の入口に辿り着いて私は、後ろを歩いていた三匹に振り返った。
    「私の目利きよ? 素敵なトレーナーを見つけるから、期待して!」
     私の言葉が、意図した通りに彼らに伝わったかは、判らない。 
    「…なぷっ」
    「おぷー!」
    「やぷぅ〜」
     でも、三匹がこくんと頷いて、にこにこと笑ったから。
    「良かった。解ってくれて。」
     ありがとう、と言って、笑顔で飛びついてきた三匹を力いっぱい抱きしめた。





     三匹とのお別れ。そして彼らの、新たな旅立ちの日。
     朝の陽射しを受けるサンヨウの街並み。その間を歩いて行く私の後ろには、小猿は一匹だけ。他の二匹は、さっき出会った二人のポケモントレーナーの元へ、送り出して来たところだ。

     最初に見つけたのは、眼鏡をかけた、真面目そうな黒髪の男の子。ミジュマルを連れていたから、そのミジュマルが苦手な草タイプに対抗出来る、バオップを託した。彼なら、怒りっぽいバオップ相手でも冷静に対応出来るだろう。

     次に見つけたのは、ツタージャと追いかけっこをしていた、緑の帽子の、眼差しが優しい女の子。草タイプのツタージャの弱点、炎タイプに有利なヒヤップを託した。彼女なら、ヒヤップの一挙一動に、一喜一憂してくれるだろう。

     三匹離れ離れになるのは嫌がるかなと思っていたけど、そんなことは全く無かった。むしろ、誰が一番楽しい旅が出来るか勝負、という感じのノリで、別れ際、バチバチ火花を散らしていたように私には見えた。

    「おぷおぷー!」

    「やっぷぷぅ!」

     バオップもヒヤップも、私が見込んだトレーナーを気に入ったみたいで、とっても嬉しそうな顔で歩いて行って。
     残るヤナップは心なしか、だんだんとそわそわし始めた。

    「大丈夫。あなたにも、きっといいトレーナーを見つけてみせるから!」
    「なぷー」

     そんな会話をしながら、私とヤナップは再び夢の跡地を訪れた。ここならトレーナーが修行に来ることも多いから、ヤナップを託すのに見合うトレーナーとも出会える気がして。
     そうしたら、やっぱり居た。ヤナップと同じように、好奇心に満ちた面差しをした女の子が。それも狙ったかのように、炎タイプのポケモンと一緒だ。

     この子だ。この子しかいない。
     運命のようにも感じる出会いに胸を高鳴らせつつ、女の子に声をかけた。

    「ねえねえ、あなた。このヤナップが欲しい?」
     私の台詞に、えっ、と言って振り返ったその子。服装もそうだけど、目ぱっちり歯真っ白で、とても健康的だ。何故かきょっとーんとした顔してるけども。
     ……あ、私の所為か。
    「ごめん、唐突過ぎたよね」
     仕切り直し。女の子に謝り、順を追って説明する。
    「あなたポケモントレーナーでしょ? 私はサンヨウのカフェレストで働いているんだけど……このヤナップをね、あなたの旅に連れて行ってもらえないかな、と思って声をかけたの」
    「なぷー!」
     後ろに控えていたヤナップが、待ち切れないとばかりに女の子の前に進み出る。すると女の子よりも先に、彼女の足下にいたポカブがぱっとヤナップに近づいて来て、挨拶するみたいに一声鳴いた。
    「私は事情があってポケモンを持てないの。あなたが良ければ、このヤナップを仲間にしてあげてほしいんだけど……どうかしら?」
     いいんですか、と女の子が驚き半分喜び半分といった体で私に訊ねる。
    「うん! この子、あなたを気に入ったみたいよ。それにポカブも、かな?」
     私の発言にふと視線を落とし、ポカブとヤナップがすっかり打ち解けてじゃれ合っているのを見た女の子は、ははは、と男の子みたいに白い歯を覗かせて笑った。私もつられてくすくす笑う。
    「この子は草タイプだから、あなたのポカブが苦手な水タイプに相性がいいわよ」
     エプロンのポケットに一つ残った紅白色の球体、モンスターボールを、「はい、どうぞ!」と差し出す。私の意図を汲み取り、女の子は私の手からボールを取ると、よろしくね、と言って、ヤナップの頭上にそれをかざした。
    「なぷ!!」
     光に包まれた緑色の小猿は、彼女が持つボールの中に瞬く間に吸い込まれる。
     これで、ヤナップの親トレーナーの登録は完了だ。
     直後、女の子はボールからヤナップを解放したかと思うと、うーんと頭を垂れて考え込んで……しばらくして、ぱぁっと表情を明るくさせた。どうやら、彼に付ける名前を閃いたらしい。
     満開の笑顔でヤナップを抱き上げ、彼女は思いついたばかりの真新しいニックネームで、何度も彼を呼んでいた。



    「…あっ! 大切なこと忘れてたわ!」
     私に礼をして背を向けた女の子に、一番重要なことを話し忘れていたのを思い出して、慌てて呼び止める。
     女の子は私のその言葉に神妙な表情で振り返り――そして。
    「あのね、その子ものすっごく食いしん坊だから、ご飯の時は他の子の分を取らないように、しっかり見張ってね!!」
     大口を開け、笑った。


     焦茶色のポニータテールを楽しげに振って、女の子が去って行く。彼女の足下をポカブ、そしてヤナップが歩いて行く。
     意気揚々と歩き出したヤナップに、彼と同じように旅立ったバオップとヒヤップの面影を重ね、その前途が希望に満ちたものであるように願う。

     空っぽな日々を送っていた私に、歩みたい道を見出すきっかけを贈ってくれた、あなたたちへ。
     今度は私が、あなたたちに最高の旅をプレゼントしてくれるトレーナーたちとの出会いを、贈る。
     次に会う時には、あなたたちが心から願い、望んだ日々を送ることが出来ていますように。

    「私も、そんな日々の中にいますように。」


     私はまだ『やりたいこと』を見つけただけで、目標と言えるほど明確な形をした物は手に入れていないけれど。
     旅をしていく内に、この漠然とした願望の中から「これが私の夢だ」と即答出来る物を、必ず見つけられると、そのことだけは確信していた。


    「いつかどこかで、また会おうね」

     あの、小さくも勇ましい三匹の小猿の背中を、私は祈りを込めて、見送った。












     ――それから、数日後。

     カフェレスト『三ツ星』兼『サンヨウシティポケモンジム』にて、新人トレーナートリオ&お騒がせトリオに早々に再会することになるのは……

     また別の、おはなし!















    ――――――――――――――――――――――

    二度目の投稿がまさかの三年後…だと…?
    ……気を取り直してもう一度。
    初めまして! メルボウヤと申します。

    冒頭にある通り、超個人的な理由でBW2はまだプレイしていません。と言うかBW以降、ポケモン関連に全く手を出していません(サイトは畳み、アニメもBW2からは見なくなり…あまり関わるとゲームをやりたくなってしまうので´`)。
    今後何本かBWの話を投稿するのが当面の目標です。求ム…プレッシャー…!

    この話は13年3月21日に、(三)の小猿トリオが旅に出た理由を話すシーン(〜〜勿論三匹は、同時にコクン! と頷いた。)までを故サイトに載せていました。切りが悪過ぎる。
    実はポケスコ第三回のお題が発表された直後に書き始めた代物だったりします(始めから応募しない方向で。何故って絶対一万字内に収まり切らないんですTT)。完成するのが遅過ぎる。
    絵もこれまた年代物ですが(11年10月30日作)折角なので一緒に。ええいもう、チミは何もかもが遅過ぎるんじゃっ(一人芝居)。

    とにもかくにも…ここまで読んで下さり、ありがとうございました!*´∀`*



    おまけ
    ・メイの名前は三つ子に倣い、イギリス英語でトウモロコシの『メイズ』から。私は三つ子ではコーンが一番好きです(何
    ・三猿がギフトパスを覚えられないなんて口惜しや…
    ・チェレンとベルが連れているお猿はヒウンジム突破後に初登場することから、それぞれ野生をヤグルマの森で捕まえた設定なのでしょうが、私の中ではあの通りです。これくらいの俺設定ですとまだまだ序の口レベルです←
    ・それよりデントがプラーズマーされてることに対する謝罪は無いのか(無いです)。



    追記
    この記事を間違えて(三)に返信してしまいました…以後気をつけます…!


      [No.3565] Re: ポケモンの世界のコミケはこうなる 投稿者:マームル   投稿日:2015/01/10(Sat) 01:54:39     70clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    同性愛等のネタにされたポケモンによる破壊活動が勃発。
    迷い込んだ野生ポケモンがその道にはまり込んでトレーナーに付いて行く。
    フーディンやメタグロスなどのポケモンの処理能力が異常性癖に追い付かなくなりショート。
    氷タイプのポケモンが夏に参加し、数分後に瀕死に。
    冬の徹夜組の傍には炎タイプのポケモンが沢山。
    夏の徹夜組には氷タイプが。そして昼には瀕死に。
    ゲッコウガ、テッカニン等のポケモンが盗みを働く。
    伝説ポケの怒り、及び守ろうとする戦いが上空で勃発。(鼻血ブーゼクロムvsストレスマッハレシラムとか)


    馬鹿な事考えたなぁ。


      [No.3564] ある意味同じ? 投稿者:焼き肉   投稿日:2015/01/09(Fri) 22:25:35     52clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     ケモとBLとノマと人外×人間と、とにかく何でもありなカオスジャンルなのは変わらなそう、なんて思いました。

     後一人一冊までな大手サークルの列にゾロアークだのメタモンだの使うやつがいるから、その辺のポケモンの入場に規制がかかったりとか。


      [No.3563] Re: 命の選別 投稿者:焼き肉   投稿日:2015/01/09(Fri) 22:16:47     64clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     ああ、これ4万字もあったのか。気づかなかった。そのくらい入り込めました。現実とゲームの世界の混ぜ具合がいいですね。

     景色や季節ごとの背景描写がとても綺麗です。ポケモンバトルの状態以上と現実の病気をひっかけてるのも上手い。

     個人的に、作中のゲームが大好きなBWなのも嬉しかったです。使い方も上手い。最初の一歩を三人で、ってのを現実のメイとアキラとモトキに重ね合わせているところとか。BWのきなくさいストーリーの空気もこの作品に合ってるなあなんて思います。

     難病ネタと厳選の是非は話の王道ですが、二つのテーマの調理が上手なので新鮮な気分で読めました。

     しかしチューのシーンは微笑ましいやらこっぱずかしいやらでニヤニヤしますね。


      [No.3562] Re: ポケモンの世界のコミケはこうなる 投稿者:   《URL》   投稿日:2015/01/07(Wed) 06:37:03     74clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    <コスプレ編>
    ●ポケモンのコスプレをするトレーナーがいる。
    ●トレーナーのコスプレをするポケモンもいる。
    ●トレーナーのコスプレをするトレーナーだっている。
    ●ポケモンのコスプレをするポケモンすらいる。

    <会場編>
    ●「キノココのマシューちゃんを運営本部にて保護しております」みたいなアナウンスが流れる。
    ●夏コミの熱対策として上空にフリーザーさんが10体くらい常駐して定期的に「こごえるかぜ」してる。
    ●外でジョーイさんのコスプレをしたゴルバットが参加者に献血を呼びかけてる。

    <チラシ編>
    ●ブースに配られるチラシの中にアクア団・マグマ団の勧誘……と見せかけて自組織のオンリーイベントやります! 幹部(本人)も来るよ! とかいうチラシが混ざっている。
    ●「水タイプオンリー」「イーブイ・イーブイ進化系オンリー」のような実際にありそうなものは全然序の口で、「Oアンノーンオンリー」「性格:おくびょうのサザンドラオンリー」「サーナイト(♂)オンリー」といったのマジモンのオンリーなイベント告知のチラシが無数に存在する。

    <ジャンル・サークル編>
    ●ごく当たり前のように「モンスターボール擬人化」なる人間の闇を感じさせるジャンルがある。
    ●かと思えばポケモンが「ジムリーダー疑ポケ化」本を大量に売りさばいていたりしてやっぱりポケモンも闇。
    ●メンバーが正真正銘ピカチュウのみで、十数年に渡ってサトシのピカチュウ本を延々と出し続けているサークルがある。


      [No.3561] 思いつくままに 投稿者:ぴょんぴょん仮面★Raccoo   投稿日:2015/01/07(Wed) 00:38:43     68clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    ・目と目があったら、ポケモンバトル! 想定外の出費で足りなくなった軍資金はそこで掴み取れ!

    ・売り切れに憤慨して誰かが『だいばくはつ』とかしないように、スタッフの手持ちに必ず一匹は特性『しめりけ』ポケモン。

    ・見聞を広めるためにミュウツーさんあたりがコスプレ参加してたりするんじゃないんですかね。

    ・売り切れに絶望した人をゲーチスさんが笑顔で見てる(スタッフさんこちらです)

    ・軍資金確保の為、夏の盆と冬の年末前では四天王やチャンピオン、またはおぼっちゃまやおじょうさまなどが多額の被害を被ってる。


      [No.3560] 会場内は歩いてください 投稿者:リング   投稿日:2015/01/06(Tue) 22:08:18     64clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    会場内は歩いてくださいと注意したのに、皆が皆走るものなので、今年からトリックルームを導入することに決まりました。みんな歩くようになりました。


      [No.3559] とりあえず手始めに 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2015/01/06(Tue) 22:01:45     92clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:コミケ

    ・ポケモンがサークル主のサークルがある
    ・ドーブルが壁サークル
    ・サーナイトがコスプレ広場でトレーナーとコスプレしてる
    ・チャンピオン、四天王、ジムリーダーはナマモノジャンルでBLとか百合がある。ちなみに一番多いのはミクリ様でミクリ島がある。
    ・企業ブースでアクア団やマグマ団がグッズを出している。


      [No.3434] タイトル未定(コジョンドの話) 投稿者:クーウィ   投稿日:2014/10/04(Sat) 15:51:46     69clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


     旭光が静かに踏み込むにつれ、淡い朝靄が動き始めた。夜の冷気を宿す晩春の空気が、色づき始めた草露を残
    し、森の奥へと引き退いていく。徐々に強まる白い光は輝きを増し、夜半の雨に打ち叩かれた下草を、力付ける
    ように優しく包む。イッシュはシッポウの西に広がるヤグルマの森に、何時もと変わらぬ夜明けが訪れていた。
     シッポウの街並が漸く目覚めようとしているこの時間、既にこの地の住人達は朝餉の支度を終えており、てん
    でに箸を取る為稼業を切り上げ、住居の中へと舞い戻っていた。森際に点在する家屋は何れも一風変わった造り
    であり、その殆どが広い庭を構え、更によく整備され細かい砂を敷き詰めた一区画を、その真ん中に設けている
    。砂敷きの広場には木製の杭が立っており、散々に打ちすえられたらしいそれらはまだ比較的新しく、中には早
    朝の鍛錬の結果へし折られた物も混じっている。ヤグルマの森近辺は格闘家の修練場として知られており、南方
    の試し岩を基点として、幾つかの個人道場が散在していた。
     無人となったばかりの稽古場が小鳥達の囀りに満たされる中、不意に何処か遠い場所から、微かな矢声が聞こ
    えてくる。砂浴びを楽しんでいたムックル達は小首を傾げ、次いで何かに納得したように頷き合うと、小さな翼
    をはためかせ、てんでに声のした方へと飛び去ってゆく。雲一つない朝空にゴマを撒いたような黒点が散らばる
    と、まるでそれを引き寄せるが如く、再び鋭い気合いが風に乗って、ヤグルマの里に響き渡った。

     踏みにじっていた下草を朝風に散らしつつ、じっと相手の隙を窺っていたコジョンドのスイは、その雪白の痩
    身を宙空に閃かせ、眼前の敵に躍り掛かった。鞭の一振りの様に風を切り裂く武術ポケモンは一本の征矢と成り
    、自分の一挙手一動を完全に把握しているであろう対戦相手に向け、一直線に突き刺さっていく。
     果たして相手方のポケモンは、彼女の動きに対し的確な反応を示した。既に波導を通し、コジョンドの攻撃を
    予測していたのだろう。相手の体が宙に浮いた瞬間には早くも姿勢を下げて地面を蹴り、最早軌道を変える事の
    出来ない武術ポケモンの死角に位置すべく旋転する。くるりと半身を廻したルカリオは、必要最小限の動きでコ
    ジョンドの攻撃範囲から逃れると、そのまま着地際の間隙に乗ずべく拳を固め、尻尾を揺るがし身構える。
     が、しかし――波導ポケモンが狙い撃とうとしたその隙は、コジョンドが着地寸前に見せた揺らぎによってあ
    っさり消え去り、相殺される。完全に掴んでいた筈の相手の波導が予想外の乱れを見せた時、彼女は既に攻撃の
    態勢に入っており、踏み込んだ脚は全体重を乗せて、次の一撃に向けた最終アプローチを終えてしまっていた。
    「しまった」と臍を噛むのも束の間、次の瞬間ルカリオのリンは鞭の様なもので目元を強打され、出鼻を潰され
    た瓦割りは空を切って、蒼い痩身はバランスを失い、大きくたたらを踏む。曝け出された無防備な脇下にはっけ
    いを打ち込まれた事により、早朝の一本勝負は呆気ない幕切れを迎えた。
    「フェイント、か。引っ掛かった」
     息を詰まらせつつ立ち上がったルカリオが渋い表情で零すと、コジョンドのスイは稽古相手に手を差し伸べ、
    苦笑いしつつ応じて見せる。
    「見切りにはそうするしかないだろ? お互い様さ」



    間に合わなかった企画作品その2。嘗て書いた作品の系列につながる御話。所謂過去編。それ以外については同
    前(


      [No.3432] タイトル未定(臆病ザングースとマニューラの御話) 投稿者:クーウィ   投稿日:2014/10/04(Sat) 15:13:42     141clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:一粒万倍日


     雨雲が去ったばかりの空に、大きな虹が懸かっていた。朝霧の残る踏み分け道はひんやりと涼しく、林の奥か
    ら聞こえて来るテッカニンの鳴き声も、気持ちの良い微風に遠慮してか控え目で大人しい。朝露に濡れた叢を緩
    やかにかわしつつ、ヒューイは木漏れ日に彩られた通い路を、のんびりとした二足歩行で進んでいた。
     大きな房尾に尖がった耳。白い毛皮に緋色のライン。胴長の総身を覆う夏毛はそれでも十分に長く、立って用
    を足すにはやや不適とも見える短い前足には、幾つかの木の実が抱え込まれている。シンオウでは非常に珍しい
    ポケモンである彼は、猫鼬と言う分類や、それに纏わる数々の逸話には到底似合わぬ表情で、幸せそうに欠伸を
    漏らす。この按配なら後二時間ぐらいは、あの狂気じみた殺人光線を恐れる心配は無いと言うものだ。
     シンオウ地方はキッサキシティに程近い、とあるちっぽけな森の中。冬は止めど無く雪が降り注ぐこの辺りも
    、夏の盛りとあっては是非もなく、昼間はそこかしこに陽炎が立ち昇って、涼味も何もあったものではない。元
    々南国の住人である彼は兎も角、間借りをさせて貰っている同居人達は滅法暑さに弱いので、この季節は殆ど動
    こうとしない。勢い役立たずの居候である彼に、雑用の御鉢が回って来ると言う訳である。最も彼自身、現状に
    は酷く窮屈さを感じている為、こうして何かをさせて貰っていた方が反って有難いのだけれど。
     足裏に感じる、まだ温まりきっていないひんやりとした土の感触を楽しんでいる内。やがて不意に林道は途切
    れ、小さな広場に辿り着く。林の中にぽっかりと空いた、雑木も疎らな空白地。所々に岩の突き出たその場所が
    、朝の散歩の終着点だった。足跡や臭いなど、様々なポケモンの痕跡が感じ取れる中、ヒューイは真っ直ぐ手近
    の岩へと歩み寄ると、その根元を覗き込む。そこには良く熟れたクラボの実が幾つかと、硬くて噛み応えのあり
    そうなカゴの実が一つ、大きな蕗の葉の上に並べられていた。此処には目的のものがない。そこで彼はその岩の
    傍を離れると、隣に腰を据えている三角の岩に場を移す。此方の根方にあったのは、喉元を綺麗に裂かれて無念
    気な表情を浮かべている、二匹の野ネズミの死骸。乾いた血の痕にぶるりと身震いした彼は早々にそこから離れ
    ると、三つ目となる赤い岩の方へと足を向けた。日に焼けた岩肌に眼を滑らせていく内、漸くお目当てのものを
    見つけ出す。岩陰に敷かれた緑の葉っぱに乗せられていたのは、つるりとした白肌も眩しい、三個の大きな卵だ
    った。大きさからしてムクバード辺りのものだろうか。朝の光を浴びてつやつやと輝くそれは、如何にも新鮮で
    美味しそうだった。
     品物の質に満足したヒューイは、次いで視線を戻し、自らのなぞった道筋を辿って、岩肌の一角に目を向ける
    。卵が置かれた場所より丁度腕一本分ぐらい上に岩を削って印が付けられており、続いてその下に、品物を置い
    ていった主が必要としているものが、この種族独自のサインで簡潔に記されていた。一番上の表記を見た瞬間、
    彼は思わず顔をほころばせ、我が意を得たりと独り頷く。個人を表すそのサインの主は、顔見知りのマニューラ
    ・ネーベル親爺のものだ。腕の良い狩人である半面酩酊するのが大好きな彼が欲しがるものと言えば、マタタビ
    に辛口木の実と相場が決まっている。案の定『一個につきマタタビ三つ』と言う明記があるのを確認すると、ヒ
    ューイは抱え込んでいた緑色の木の実を全て下ろし、代わりに三つの卵を大事に抱え込んで、悠々とその場を後
    にした。

     遣いに出て行ったザングースが帰って来た時、ねぐらの主であるラクルは、既に朝食となるべき獲物を仕留め
    、丁度綺麗に『調理』を終えて、住処に運び入れた所であった。内臓を取り分けて皮を剥ぎ、近くの流れでよく
    洗った野ネズミの肉を鋭い爪で分けていると、住居としている岩棚の入口から、「ただ今」の声が響いて来る。
    無警戒な足音が近付いて来た所で顔を上げ、そっけない挨拶を返しながら、彼女は狩りのついでに確保しておい
    たオレンの実を汚れてない方の腕で拾い、ひょいとばかりに投げてよこす。「お疲れさん」の言葉と共に飛んで
    きたそれを、紅白の猫鼬は大いに慌てながらも何とか口で受け止めて、腕の中の荷物共々ゆっくり足元に転がし
    た。
    「どうやら収穫があったみたいだね。有難う、助かるよ」
     やれやれと言う風に息を吐く相手に向け、ラクルは何時もと変わらぬ口調で礼を言う。御世辞にも温かみに溢
    れているとは言えない、まさに彼女自身の性格を体現しているような乾いた調子だったが、それでも好意と感謝
    の念は十二分に伝わって来るものだった。それを受けたザングースの方はと言うと、これまた生来の性分がはっ
    きりと表れている感じで、多少慌て気味に応じて見せる。何時になっても打ち解けたようで遠慮会釈の抜けない
    その態度に、家主であるマニューラは内心苦笑を禁じ得ないのだが、それを表に出して見せるほど、彼女も馴れ
    馴れしいポケモンではなかった。
    「いや、大した事じゃないし……! こっちは朝の散歩ついでなんだから、感謝されるほどの事もないよ。木の
    実だって、僕が育てた訳じゃないんだし」
    「どう言ったって、あんたが私達の代わりに交換所に行ってくれたのには変わりないさ。対価だって自前で用意
    してくれたんだ。居候だからって遠慮せずとも、その辺は胸張ってくれて構わない」
    「木の実一つぐらいじゃ足代ですら怪しいからね」と付け加えると、彼女はもう一度礼を言って、ザングースが
    持ち帰った卵の一つを引き寄せた。肉の切れ端を一先ず置いて立ち上がると、卵を軽く叩いて中の様子を確認し
    てから、奥の方へと持っていく。干し草を敷いた寝床の一つに近付き、横になっていた黒い影にそれを渡すと、
    持ち帰った相手に礼を言うよう言い添える。体を持ち上げた黒陰は小柄なニューラの姿になって、そちらを見守
    る気弱な猫鼬ポケモンに、笑顔と共に口を開いた。
    「有難う、ヒューイ兄ちゃん!」
    「どう致しまして、ウララ。暑い日が続いてるけど、早く良くなってね」
     ザングースが言葉を返すと、まだ幼さの残る鉤爪ポケモンは「うん!」と頷いて、彼が持ち帰った御馳走を嬉
    しそうに掲げて見せる。夏バテ気味の妹に寝床を汚さぬよう起きて食事するように言い添えると、ラクルはヒュ
    ーイに向け、自分達も朝食にしようと声をかけた。

     ヒューイは臆病者の猫鼬。ある日ふらりとこの近辺に現れた彼は、今目の前で一緒に朝食を取っている、マニ
    ューラのラクルに拾われた居候だ。元々人間に飼われていた為、野生で生きていく術も心得も一切持たなかった
    彼は、本来の生息地から外れたこの地で仲間も縄張りも持てず追い回された揚句、栄養失調で生き倒れになりか
    かっていた所を、全くの異種族であり野生のポケモンである、彼女によって救われた。
     まだ根雪の深い春先の頃、泥だらけでふらふらのザングースを見つけた彼女は、マニューラという種族が当然
    取るべき行為をあえてやらずに、彼を生かして自分のねぐらまで運び込み、熱心に世話を焼いた。本来なら肉食
    性の狩人であり、仲間内の結束は固い半面異種族に対しては非常に冷酷なニューラ一族の事であるから、彼女の
    この行動は当時大いに波紋を呼び、実際実の兄弟達からも、さっさと始末を付けるよう何度も言われたらしい。
    今でもヒューイ自身、これに関してあくの強い冗談や皮肉を言われる事が少なくないのだから、当の本人である
    ラクルがどれだけ風当たりが強かったかは、推して知るべしと言ったところである。
     ところがしかしラクル自身はと言うと、そんな事は自分からはおくびにも出さず、後に周囲からの言葉よって
    己がどれほどの恩を受けたかを悟った彼が恐る恐る話題を向けてみても、「好きでやった事さ」と切り捨てるだ
    けで、何ほどの事とも思っていないようだった。彼女は寧ろ、ヒューイが自分の妹であるウララの命を救った事
    の方に強い借りを感じているようで、今でもやたらと『手のかかる』ポケモンである彼を止め置き、何くれと面
    倒を見てくれている。正直身の縮むような思いではあるものの、未だに自力で生きていける自信が毛ほどにも感
    じられない彼としては、こうして養って貰う他には光明が見出せないのが現状である。
     ヒューイが彼女に恩を作ったと言うのも、いわば成り行き上の事に過ぎない。長い眠りから覚めたあの日、自
    分の置かれていた状況がまるで分かっていなかった彼に対し、恩人の冷酷ポケモンはどこか落ち着きに欠けた様
    子ながらも、好意的な態度で事の次第を話してくれる。「好きなだけ居てくれて良い」と言い置くと、気忙しげ
    に場を立った彼女の態度が賦に落ちず、おっかなびっくり立ち上がった先で見たのが、熱にうなされているニュ
    ーラと、それを看病しているニューラとマニューラの姉弟だった。狩りの際に負った傷が化膿し、明日をも知れ
    ぬ容体だったウララを救う為、ヒューイはその足でキッサキの町まで駆け走り、毒消しと傷薬を手に入れて来て
    、無事彼女の一命を取り留める事に成功する。長く人間と共に暮らし、『飼われ者(ペット)』の蔑称で呼ばれ
    る身の上だったからこそ出来た芸当であり、同じように命を救われた彼としては寧ろ当然の行いであったものの
    、これによって彼自身の株が大いに上がったのは間違いなかった。結果的に、彼は家族の恩人としてラクル一家
    に受け入れられたし、群れの他のマニューラ達からも、『役立つポケモン』として一応の存在を認めて貰えるよ
    うになったのである。



    間に合わなかった企画作品その1。どうせ自分の事だからどこか別の企画で再利用するかもしれないですが(殴
    )、取りあえず験担ぎも兼ねて……。


      [No.3309] 人を小バカにしたあんちくしょう 投稿者:焼き肉   《URL》   投稿日:2014/06/29(Sun) 22:11:41     81clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:オタマロ】 【洗脳】 【ほのぼの
    人を小バカにしたあんちくしょう (画像サイズ: 400×500 16kB)

    注・このオタマロの顔を一分間見つめてからssをお読みください。


     ボールをおむすびころりんみたいに落っことして転がしたら、何かのポケモンにぶつかった。何だろうと思ってボールから出してみると、そいつは出てくるなり僕をあざ笑っていた。いやあざ笑っているんじゃない、元々そういう顔なのだ、オタマロというポケモンは。

     はっきり言って僕はオタマロが苦手だった。当然いじめたりすることはしないけど、草むらで見かけるとなんだか微妙な気分になってそーっと通り過ぎてしまう。僕を頭ごなしに責める人はまずオタマロと一分でいいから見つめ合ってみて欲しい。あの人を小バカにしたような顔、見てるとなんとも言えない気分にならないか? 見つめ合った人全員が同じ意見を持つとは言わない。

     でも十人に一人か二人くらいは、僕と同じ気分になる人は絶対にいると思う。かわいい、と思える人は本当にポケモンが大好きな人だからそれはそれとして誇っていい。

    「なんでお前、よりによって僕の落としたボールの中に入っちゃうんだよー」
    「しゅううう?」

     仕方がないので意外にもピカチュウよりでっかいその体を持ち上げてしかってみせた。でもオタマロはマイペースに鳴くだけだ。横で成り行きを見ていたボカブにも見せてやると、ヘンな顔をした。さすが僕のボカブ、僕の気持ちをわかってくれるか。



     少し考えて、逃がすことにした。いじめたいわけじゃないけど好きなわけでもないし、そんな僕が連れ歩いてもオタマロにとっていいこととは思えないからだ。草むらの中に、それでもびっくりさせないようにそっと置いて、バイバイと手を振った。

    「じゃあね、もう会うことはないだろうけど元気で」
    「しゅうううう!!」

     バイバイと手を振って背を向けると、何かが後ろからついてくる気配がした。気のせい気のせいっ。明るくスキップをして旅に戻る。いつも通りの、僕とボカブの足音。それに確実に追走する、何かのついてくる音。僕はため息をついた。

    「何でついてくるんだよー」
    「しゅー?」

     僕ががっくり肩を落とすと、後ろからついてきていたオタマロは、きょとんとヘンな顔を傾げていた。そんな小バカにした顔でかわいい仕草をしたってかわいくないぞ。やっぱりその顔が苦手だったので知らん顔をして歩いていると、後ろから「しゅうううううううっ!?」という叫び声が聞こえてきた。思わず振り向くと、野生のポケモンだかトレーナーだかがバトルをした後なのか、結構深い穴にさっきのオタマロが落ちていた。びっくりしているのか、オタマロは「しゅうううう!?」という独特の鳴き声を上げながらパニックを起こしている。

     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・よかった。これでもうついてこないな。

    「ボカー・・・・・・」
    「何だよボカブ! お前だってオタマロの顔を見てヘンな顔してたじゃないか!」

     僕は思わずボカブに怒鳴ったが、ボカブは「でも・・・・・・」という顔をして僕の顔を見上げていた。すごく後味の悪い顔している。嫌いな味の木の実を食べた時だってこんな顔はしない。

     僕のボカブは素直なやつだから、ヘンなのと思ったらヘンなのって顔をするし、嫌いな食べ物を食べればうげーって顔をする。

     でも、ヘンだからっていじめたりはしないし、嫌いな食べ物だからって、露骨に蹴飛ばしてよけたりはしない。

     対する僕はボカブみたいにいい奴じゃない。
     でも、別に苦手だからっていじめたいとは思わない。

    「ああもう!!!」

     やつあたりをするみたいに僕は背負っていたリュックを地面に叩きつけて、穴の中に飛び込んだ。横幅は広いものの幸い底は深くはなく、余裕で這い上がることが出来そうだった。

     ・・・・・・あくまで僕なら、ってことで、〇・五メートルしかないオタマロが果たして自力で這い上がることが出来るかは疑問だけど。僕がオタマロの体を持ち上げると、オタマロは体をじたばたさせた。

    「しゅうううううっ!!」
    「何だよ勝手についてきた癖に、持ち上げたくらいで暴れるなよーー」

     怒鳴ろうとして、オタマロのしっぽに血が滲んでいるのに気づいた。
     ケガをしている。落ちた時に擦りむいたらしい。

    「・・・・・・リュックの中にきずぐすりがある。手当てしてやるから、じっとしてろ」
    「しゅううう?」

     さっきバイバイを言ったときは全然話が通じてなかったけど、じっと顔を見て言った僕の気持ちをなんとなく察してくれたのか、暴れるのをやめて大人しくなった。でもやっぱり顔は僕のことを小バカにしている。

     先にオタマロを外に出してやってから、僕は自力で踏ん張って穴から這い上がった。さっきたたきつける攻撃を喰らわせてやったリュックからきずぐすりを取り出して、地面に座り込んで膝の上にオタマロを抱え上げてやる。ずっと穴の外で待っていたボカブが心配そうに寄ってきた。僕はボカブの頭を撫でてやって、心配ないよ、と言った。

    「ちょっとすりむいただけみたいだからな。すぐ元気になるさ」

     きずぐすりのスプレーをオタマロのしっぽにかけてやると、キズに染みるらしく、オタマロが鳴いた。これは治療行為だからそこはガマンしてもらうしかない。

    「こっからポケモンセンターは少し遠いし、ガマンしろ」
    「しゅううううううっ!!」

     よく見るとしっぽ以外にも至る所にすり傷を作ってたから、全体的に吹き付けてやる。ケガは大したことなさそうだけど、きずぐすりが染みたのか、オタマロはちょっとグッタリしていた。しかたがないからしばらくそのまま膝に乗せておいてやることにした。一息ついたのを見計らって腹の虫が鳴る。昼食にすることにして、リュックから買っておいたサンドイッチを取り出した。

    「しゅううううっ!!」

     食い物の匂いを敏感に察知したのか、オタマロが食べたそうに鳴いたが無視した。きずぐすりまで使ったのにサンドイッチまであげてたまるか。

    「お前にはやらん」

     きっぱりと言い捨てて、リュックからもう一つ包みを取り出す。安物だけど量だけは多いポケモンフードだ。

    「お前はこっちな」

     サンドイッチの包みをいったん脇に置き、手に何個かポケモンフードをあけて、オタマロの口の方に持って行った。ボカブも食べたがったので、こっちは皿に開けて置いてやる。

    「安物だからってわがまま言ったら今度こそキレるぞ」
    「しゅー♪」

     だけどオタマロは文句を言うこともなく、僕の手のひらからポケモンフードを食っている。これだけ食欲があるなら大丈夫そうだ。安心して(少しだけだけど)僕もサンドイッチを食べ始める。

     手当てを受けてついでに飯も食って、オタマロはすっかり元気になったようだった。ボカブはすっかりオタマロと仲良くなって、きれいになったしっぽにじゃれついたりしている。くそうボカブめ。お前だけは僕の気持ちをわかってくれると信じていたのに。いやちょっと違う。ボカブはオタマロの顔を見て笑っている。へんなかおーとでも言いたげだ。だけどオタマロは平然としている。いいのかお前それで。

     ・・・・・・なんにしても、ここまでしてしまったからには連れて行くしかなさそうだ。もう仕方がないとしても、ため息は出る。

    「んじゃ、そろそろ行くか・・・・・・その前に」

     僕はさっきオタマロを助けた、結構深めの穴に目を向けた。

    「ったくもー!!! 地形変えるほどのバトルしたら野生ポケモンだろうとトレーナーだろうとちゃんと戻しとけってんだよ!!!! ジムリーダーだって自分とこのバトルフィールドくらい、バトル終わったら整えてるっつーの!!!!」

     穴を埋め終わる頃には、僕はどろかけでも食らったみたいに土まみれになっていた。しかたない。これ以上ポケモンでもトレーナーでも何でも誰かが落ちてケガでもしたら後味悪いし。ちなみにボカブとオタマロも自慢の後ろ脚としっぽを使って手伝ってくれた。

     うんせ、ほいせ、としっぽで土をはたいて穴に落としていたオタマロは何だか一生懸命だった。相変わらず人を小バカにした顔をしていたけど。


     ( ・´ひ`・ )∋


     オタマロが仲間になって(しまって)しばらく経った。僕は今、ポケモンバトルを挑まれて相手をしている。それはいいんだけど、僕のボカブに対して、相手はメグロコ。ボカブも健闘してるけど、相性の悪さもあって、苦戦を強いられている。ボカブの足がもつれる。これ以上はマズい。

    「ボカブよくやった! 戻れ!」

     ボカブを引っ込め、腰につけたもう一つのボールを取り出した。僕はボールを振りかぶり、投げた。飛び出した光がポケモンの形になって、大地に降り立つ。

    「しゅうううううっ!!」

     ボールから出したオタマロは張り切っていた。本格的な実践は初めてだからな。少しレベルに不安があったのと、やっぱりなかなかあの顔の苦手意識が抜けないのとで、僕はあまりオタマロを積極的に使おうとはしていなかった。が、今はお前だけが頼りだ。頼むぞ。

     不利なタイプを出してきたからか、相手のメグロコはすなじこくを使ってきた。じわじわ削る作戦で来たか。オタマロはすなあらしが痛いのか、「しゅうううっ」と声をあげて、攻撃に耐えている。

    「オタマロ、アクアリング!」
    「しゅうううっ!!」

     その手があった、とばかりにオタマロはしっぽをピンと立てて技を繰り出した。二つの青いリングがオタマロを包んで、傷を癒していく。メグロコはグワッと大きな口を開けて、オタマロに襲いかかった。

     ーーかみつく攻撃でひるみ効果をねらって、反撃させないつもりだ!

    「させるか! オタマロ、バブルこうせん!」
    「しゅううううううっ!!」

     僕の指示を受けて、オタマロは口から勢いよく泡を吐き出した。
     命中!
     相性の悪い攻撃を受けて、メグロコの動きが鈍くなる。
     チャンス!

    「もう一度、バブルこうせん!」
    「しゅううううう!!!」

     とどめの攻撃を食らって、メグロコが力つき、ひっくり返る。

    「やったあ!」
    「しゅー♪」

     飛び上がった僕に向かって、オタマロがうれしそうに飛びついてくる。思わず受け止めて、顔を真正面から見つめてしまった。オタマロの顔はやっぱり人を小バカにした顔をしていた。だけど勝利の喜びのせいか、あんまり気にならない。

    「お前そんな顔してて、結構強いじゃないか!」
    「しゅー♪」

     誉められた(前半の僕の言葉には我ながらちょっと疑問が残るけど)のが嬉しいのか、オタマロはしっぽをパタパタさせて笑った。

     あ、コイツ笑うと結構かわいい。

     一度かわいいと思うと、普段の小バカにした顔もかわいげがあるように思えた。

     苦手意識が抜けないなりに、一緒にいるのだからとボカブと同じようにかわいがっていたつもりだったけれど、これからはもっとかわいがることが出来るような気がした。


     ( ・´ひ`・ )∋



     あれから、ボカブとオタマロもすくすくと育ち、今ではチャオブーとガマガルに進化していた。進化したオタマロは、小バカにした顔がウソのように、普通にかわいい姿になっていた。あれからこれになるってのもスゴい。ポケモンってやっぱり不思議だ。しっぽの辺りに名残はあるといえばあるけど。

     人によってはオタマロの進化系であるガマガルや、ガマガルの進化系のガマゲロゲも不気味だと言うらしいけど、僕個人としてはガマゲロゲはまあ普通にモンスターって感じで味があるし、ガマガルは普通にかわいいと思う。

     ・・・・・・でも、なんだろうこの・・・・・・いいようのない寂しさは。

     認めたくない・・・・・・認めたくないけど、一緒に旅をしている間に、あの人を小バカにしている顔を好きになってしまったみたいだ。じっさいオタマロは顔が苦手なことを除けば、なつっこくて言うこともキチンと聞く、いい子だった。人柄ならぬポケモン柄の勝利というやつかもしれない。人なっつっこい上にかわいくなったのだから、ガマガルを今まで以上に溺愛しても理論としてはおかしくないはずなんだけど。なんだろう・・・・・・寂しい。進化したってガマガルは大事な僕のポケモンだけど・・・・・・寂しい。

    「ねえガマガル、キミガマガルのメスかメタモンの彼女が出来る予定ないの? ああ別にガマゲロゲやオタマロのメスでもいいけど」
    「ガマッ!?」

     すっかりあの人を小バカにしている顔に魅了されてしまった僕は、チャオブーと一緒にポケモンフードを食べているガマガルに対して、ポロッとそんな言葉をこぼしていた。


      [No.3192] 投稿者:リナ   投稿日:2013/12/19(Thu) 00:57:25     67clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


    「ちょっと津々楽さん。どうかしたんですか?」
     いつの間にか目の前の景色に、色が戻り、雑踏が戻ってきた。私は駅前広場のベンチに座っていることを思い出した。社美景は怪訝な目で、私の顔を覗き込んでいた。黒くはない。近くで見ると、白い頬が寒さで少し赤らんでいた。
    「私、今何してた?」
    「魂が抜けてました。ほんの十秒くらいですけど」
     さっきの声は、もうしない。コノが社美景の上で、穏やかな頬笑みを浮かべていた。
     ほんの十秒くらい――そんなことはなかったはずだ。あの白黒の人々がいる、静止した世界を、彼女は経験していない。あの声を聴いたのは私だけで、白黒の人々も、私しか見ていない。
     私にとって、座敷童がタメの女の子で、一緒にもののけさんがいて、しかも彼は日本語をしゃべって、彼女は「神子」だという。それだけでも摩訶不思議な出来事の連続なのに、さっきの声や、あの異常な世界は、その彼女すら知らない世界なのだろうか。
     そうだとしたら、私、ちょっと巻き込まれ過ぎじゃないか。
     方程式の解き方をやっと完璧にしたと思ったら、実は二次方程式もあるんですと言われた。それは、私にはまだ早い。それは二年生で習うんです。まだ私は一年生。方程式までをきちんと解ければ、誰にも文句は言われないはずです。
    「津々楽さんは、吹奏楽部ですか?」
     彼女は脇に置かれたキャリーケースを見て言った。
    「うん」
     担当楽器も訊かれた。フルートだよ。木管の――そう、横笛。
    「今日は練習ですか?」
    「ううん。香田で演奏会があって。その帰り」
    「そうでしたか」彼女はベンチに座り直し、正面を見た。「あまり音楽には詳しくありませんけど、機会があれば、聴いてみたいです。津々楽さんの演奏」
     口ぶりは、やっぱりどこか冷たい。本当に聴きたいと思ってくれているのか怪しいものだ。
     でも彼女にしては、丁寧な言い方だった。ぎこちなくて、無理をしているのが分かる。気を使ってくれているのだ。きっとそういうのは苦手なんだろうなと、私は思った。たぶんそういう場面が、日常にないのだ。
     私はこの子とやっと普通の話題で話すことができたのが、ちょっぴり嬉しかった。
    「もろの木さまの力が、弱まっています」話が戻る。とても強い口調だった。「目に見えない、色んな種類の『毒』が、少しずつ、この天原町に入り込んでいます」
     彼女は「毒」と表現した。さっきの声も言っていた。「大きな力」が入り込んでいる。それは、人と人とを切り離す。
    「今日も、コノを介してもろの木さまの声を聞こうとしました。でも、『カミクチ』は、やっぱり五気が同じ気質でないとだめなようです。コノも全く役に立ちません」
     僕のせいじゃないやい――コノが憤慨した。
     神様に直接お伺いをたてる口寄せを「カミクチ」というらしい。「カミクチ」によって、初めて神様の「御言葉」を聞くことができる。「御言葉」は、コノのような八百万の獣を介した口寄せでは、聞くことができない。土行の社美景では、木行の気質であるもろの木さま本人とは“直接”話すことができないのだ。
     対する私は木行。もろの木さまの声を、直接聞くことが出来るのだ。
     いや、“出来た”のだ。私はさっきまであの、時間の流れない、白黒の人々の世界で、「カミクチ」をしていた。
     あの声は、もろの木さまの、御言葉だったんだ。
    「何とかしてもろの木さまにお伺いをたてて、力が弱まっている原因を探って、天原を“元通り”にしなければなりません。それは、津々楽さんにしかできません」
     私はすっかり怖気づいてしまった。私は既に、彼女の希望通り、もろの木さまの声を聞いた。お伺いを、たててしまった。彼女の知らないうちに、あっさりと。
     そして私は、そのことを彼女に言えない。切り離されていく人々のことを、言えない。少しずつ黒くなっていく人々のことを、言えない。
     あなたがひどく切り離されて、真っ黒になってしまっているだなんて、言えない。 私は守られていると、もろの木さまは言った。でも同時に、社美景に何もしてやれないとも言った。私が木行で、彼女が土行だからなのか。それとも、あまりに切り離されてしまっている人は、神様にはどうにもできないのだろうか。
     神様にどうにもできないのに、私にどうにかできるのだろうか。
    「――私には、たぶん無理だよ」
    「それはやってみないと分かりません」
     社美景は、真っ黒な瞳でこちらを見た。
    「そうかも知れないけど……」
     この天原町は、毎日同じことの繰り返しで、退屈で仕方なくて、そしてとっても平和だ。テレビ画面で繰り広げられている「物騒なこと」は、まだこの町には辿り着いていない。みんなそう思っている。私も、そう思っていた。何か「大きな力」がこの町の平和を脅かしているだなんて言ったところで、町の人たちは誰も信じない。実際に何か大きな事件が起こったわけでもない。今日も駅前広場は夕日で照らされているし、きっと明日も照らされる。何も変わったりしない。
    「コノだって、しっかりサポートしますから」
     社美景は、どうしてここまで必死なのだろう。私は不思議に思った。天原町に入り込んでいるという「大きな力」のことも、どういう経緯で知ることになったのだろう。そして、なぜ彼女は真っ黒になるほどに「切り離されて」しまっているのだろう。
     彼女のことをもっと知りたい。そう思った。力になれるかどうかは分からない。力になりたいと、私自身思っているのかどうかも、正直ふらついている。
     だから、それらの判断も、彼女を知ってから。それからでは駄目だろうか。
    「美景ちゃん」
     私は立ち上がって、キャリーケースを肩に掛けた。突然名前で呼ばれた“美景ちゃん”は、口をぽかんとさせていた。
    「また、会おうよ。今度は友達も連れてくる。あと、フルートも聴かせてあげる」
    「なんですかそれ。出来るのはあなたしかいないって、言ってるじゃないですか」
     美景ちゃんも立ち上がった。コノは何も言わずにぷかぷかと上下に動いている。何だかとても嬉しそうだ。
    「私ね、一人じゃ何も出来ない自信があるよ」
     なんですかそれ。美景ちゃんは同じ台詞を繰り返した。
     そう言えばと、私は思い出した。「私ね、ユズちゃんと話してたの。あなたに、友達になってくれるように頼んでみようかって。来週も同じ時間、ここにいる?」
     訳が分からないという顔をしている美景ちゃんを見ているのは、ちょっと楽しい。
    「そりゃいいや!」コノが両手を広げて言った。「もちろんいるともさ。その子も連れて、茉里もまたおいでよ。僕らは大歓迎だよ」
    「ありがとう、コノさん」
    「どういたしまして、それから僕のことはコノでいいよ」
     そんな会話を交わす隣りで、美景ちゃんは何か言いたそうにしていたけど、最後には「午後四時です。時間通りに、必ず来て下さい」と言った。ユズちゃんを連れてくることに関しては、好きにしてください、だそうだ。
     もろの木さまも言っていた。「もう一度繋ぎ直すことができるのもやはり人であると、私は信じている」って。
     私も、そう信じたい。
     天原町は、へんてこな町だと思う。何が変かって、変なことが起きても、もう次の日には、それも案外普通のことかもしれないと思えてしまうところだ。
     私はただの横笛吹きではなく、木行の気質を持ち合わせた横笛吹きだった。座敷童――もとい社美景、美景ちゃんと出会い、もののけさんと名前を呼び合う仲になり、神様の声も聞いた。そして、頼まれごともされてしまった。巻き込んでしまってすまない、とまで言われた。
     これほどおかしな案件を持ち帰ってきたというのに、次の日にはもうどこから手をつけようかと、冷静に考えている自分がいた。この天原に忍び寄っている「大きな力」とは何なのか、静かに推測していた。
     なんだか忙しくなりそうだ。私は思った。
     今年一番の出来事――このときはまだ、それは起こっていなかった。
     それは突然、全然違う方向からやってくる。
     神様にお願い事をしたことはなかった。切迫して、衝動的に手を合わせることなんて、今まで一度もなかった。私はそれだけ、恵まれた生活をしてきたのかもしれない。
     神様、どうにかしてください――十月ももう終わろうとしていた頃、私は生まれて初めて、神様にお願い事をした。

     月曜の朝、チャイムが鳴り終わってもユズちゃんの席が空いていた。
     担任の三橋先生が入ってきて、日直が号令をかける。先生はちらりとその空席を見た。眼鏡越しに見える目は、いつもの優しい目だったけど、すこし強張っていた。礼が済むのを待って、先生は口を開いた。
     杠さんは、ご家庭の都合により、今週はお休みされます。授業のノートは、皆さん交代で取ってあげて下さい。それから――
    「ノートとプリントを持っていく係は、津々楽さん、お願いできますか?」
     三橋先生は、まるで最初から決めていたように、私を見た。
    「――はい」
    「ありがとう。では、出席を取りますね」
     いつもの穏やかな声で、淡々とクラスメイトの名前が呼ばれていく。さしたる連絡事項もなく、先生は出席簿を教卓にとん、と立てた。
     朝のホームルームが終わった後、私は職員室に呼ばれた。
    「すぐですよ。もちろん、説教なんかじゃありませんから」
     先生はにっこりと笑顔で言ってくれたけど、やっぱりちょっと目が強張っている。 教室から職員室までの廊下は、いつもより長く感じられた。三歩前を歩く三橋先生の背中が軽く左右に揺れている。
    「先生。ユズちゃんに何かあったんですか?」
     耐え切れなくなり、職員室のドアの前で、私は訊いた。
    「津々楽さんからは、何も?」
    「聞いてません」
     演奏会に来てくれると言っていたことも、先生に話した。おばあちゃんと一緒に来てくれると、ユズちゃんは言ってたんです。でも、来なかった。
    「大丈夫。心配しないで下さい」
     職員室は、いつものコーヒーの匂いと、給湯室から来るたばこの臭いが入り混じっていた。一応分煙するために、吸い殻入れが給湯室にだけ置いてあるのだ。職員用の机のうち七割以上の席が空いていたけど、その机の大半はずいぶんと散らかっていた。
     添削中の理科の小テストとか、付箋やプリントが挟まって分厚くなった教科書、コンビニ袋に入った菓子パンもあった。英語の筒井先生の机には、ワークが三クラス分、うず高く積み上がっていた。
     三橋先生は自分の席へ歩いていき、椅子に座った。他の机と違って、三橋先生の机はとてもよく整理されていた。
     先生は、私を振り返った。
    「先週土曜日の朝、杠さんのおばあ様が病院に運ばれたそうです」
     私は先生の言葉を頭の中で反復した。無言で十回くらい、「病院」と「運ばれた」を反復した。
    「昨日の夜、お母さんから電話がありまして、今はもう落ち着いているようですが、しばらく目が離せないそうです。そういう状態なので、杠さんも、学校には来れません。分かりますね?」
     ほとんど息を吐いただけのようなかすかすの声で、私は「はい」と言った。
     あの演奏会の日の朝、ユズちゃんのあばあちゃんは倒れた。他でもないユズちゃんがそれに気が付いて、すぐに救急車を呼んだらしい。今は柿倉市の総合病院に入院しているという。先生が状況をそんなふうに話してくれたけど、それ以上のことには言及しなかった。
     土日の二日間、杠家は大変なことになっていたのだ。変な噂ばっかり早く広まるくせに、こういうことには「天原町の噂好き」も、てんで役に立たない。
     そして、先生は私に訊いた。
    「津々楽さんは、杠さんの、一番のお友達ですね」
     無意識に、私は頷いた。そのつもりです。
    「会いに行ってあげてください。ノートやプリントを渡すだけでなく、話を聞いてあげてください。今の杠さんには、それが大切ですよ」
     穏やかな声だったけど、三橋先生はとても真剣だった。
    「はい、分かりました。でも、会いに行くなら私だけじゃなくて、バスケ部の友達とか、他の子からも元気づけたりしてあげた方が」
     先生は、かぶりを振った。それではいけません、と。
    「“みんな”が相手では、恐らく杠さんはみんなに心配されないように、作り笑いをしてやり過ごしてしまうでしょう。それでは、杠さんへの“お見舞い”の意味がないのです。今回のことで、杠さんが一人で抱え込んでしまっていることがあります。それについて、私が詰め寄っても逆効果ですし、大人がただ事実を言い当てようとしたところで、やはり意味がないのです。それを吐き出せるように、津々楽さんだけで、行ってあげてください」
     私は黙って頷いた。どこか、含みのある言い方だった。そもそもユズちゃんと仲が良いというだけで、わざわざ職員室で状況を話してくれるのも、よく考えたらちょっと変だ。
     ユズちゃんは強い。強いけど、今はすごく心配だった。そう思う私の気持ちを、三橋先生は察してくれたのだろうか。
     放課後、私は部活を休んでユズちゃんのおばあちゃんが入院している病院へ向かった。家には、学校の電話を借りて連絡を入れた。お母さんの耳にも入ってなかったようで、三橋先生がかけてくれた電話口から、びっくりするほど大きな声が聞こえた。
     お母さんと先生との会話の中で、「脳梗塞」という病名が聞こえた。それを聴いたとき、背中がざわりとした。先生は声を小さくして、出来るだけ私に聞こえないようにしていたみたいだけど、残酷にもそれが、一番はっきりと聞こえた。
     柿倉市立総合病院のある柿倉駅は、天原駅から上り電車で三駅だった。演奏会のあった香田市とは逆方向になる。正面の改札口から出て、道路を挟んだすぐ目の前に、その病院はそびえ立っている。小さい頃、水疱瘡にかかったときにこの病院に通っていた。ただっ広い駐車場と、くすんだクリーム色の外壁を、うっすら覚えている。
     あんなに大きな声で笑い、あんなに元気に竹ぼうきを振り回し、あんなに柔らかい笑顔だったユズちゃんのおばあちゃんは、小さく縮んて病室のベッドに横たわっていた。
     言葉を失うほど、小さく見えた。色も、黒ずんで見えた。老いた身体の臭いと、消毒薬の臭いが混ざり合っていた。
    「ちょっと、茉里ちゃんじゃない!」
     ベッドの脇には、ユズちゃんのお母さんが座っていた。おばあちゃんほどではないけど、どこか小さく見える。病室を訪れた私を見るとすぐに立ち上がって、駆け寄ってきてくれた。
     おばさんの明るい二重の瞳や、笑うといたずらっぽくなる口元は、ユズちゃんとそっくりだ。すらりと背が高くて、綺麗な人だった。会ったときはいつも、優しくて魅力的な笑顔を分けてくれる人だった。でも、今近くで見るおばさんは、白髪と皺がすごく目立った。笑っているけど、悲しげな笑顔だった。
    「部活があるんでしょ? 休んで平気なの?」
    「はい。顧問の先生には言ってあります」
    「そうなの――ごめんなさい、津々楽さんのところには、すぐにきちんとお知らせしなきゃと思っていたんだけど、ばたばたしちゃってて。本当に、びっくりさせちゃったわね」
     ありがとう、来てくれて。おばさんは言った。
     私はベッドの僅かな膨らみと、静かに呼吸する皺だらけの顔を見た。ユズちゃんのおばあちゃんに取り付けられた人工呼吸器のチューブが、本当におばあちゃんは倒れてしまったんだと、私に実感させる。息が詰まりそうになり、鼻の奥がつんとした。
     おばさんは病室の隅に重ねてあったスツールをひとつ出し、私に勧めてくれた。お礼を言って、私が座ったのを見届けてから、彼女も自分の椅子に座り直した。
     おばさん訊いて下さい。
     金曜日、お風呂に入れてもらいに行った時は、全然こんなんじゃなかったんです。
     いつも通りすごく元気で、ユズちゃん――奈都子さんを怒鳴りつけるくらいだったんです。
     本当にこんなふうになるなんて、私信じられません。
     どうしてこんなことになっちゃったんですか?
     おばあちゃんは、どこが悪かったんですか?
     大丈夫ですよね?
     助かるんですよね?
     まさか、死んじゃったりしないですよね?
    「私、また元気になるって信じてます」
     言いたかった言葉を全部飲み込んで、気付いたら私は、そう口にしていた。
     私は津々楽茉里だ。杠家の親戚や、まして家族ではない。余計にうろたえたり、余計に悲しんだり、してはいけない。
     そうしても許されるのは、孫のユズちゃんだけだ。
    「――そうね。茉里ちゃんが来てくれて、お母さんも喜んでるわ」
     おばさんは、弱々しく微笑んだ。
     これは後から知ったことだけど、ユズちゃんのおばあちゃんは脳卒中だった。
     かかりつけののお医者さんに、以前から血圧が高いことを心配されていた。高血圧と加齢からくる動脈硬化もあり、乳製品やマグネシウムを含む食品を勧められていた。おばあちゃんはお医者さんの言うことを守って、ごまを使った料理を多くしたり、苦手だった乳製品も、出来るだけ食べるようにしていた。きちんと予防していたのだ。
     それなのに、おばあちゃんの動脈は硬くなり、弾力を失っていった。
     土曜の早朝、おばあちゃんの心臓でできた血栓は血液中を流れていき、脳に到達した。血管が詰まり、脳卒中を引き起こした。
     急性期の心原性脳梗塞だ。元気だと思っていたユズちゃんのおばあちゃんは、導火線付きだった。
    「すみません、奈都子さんは?」
     私はおばさんに尋ねた。ユズちゃんの姿がなかった。
    「ああ、そうよね。奈都子は先に帰ったわ。やらなきゃいけないことがあるって。一人で帰すのも心配だったんだけど、お母さんのことも一人にしておけなくて」
     おばさんが迷っていると、ユズちゃんは言ったそうだ。私は一人で大丈夫、と。
     大丈夫なもんか。つよがり。
    「今日の授業のノートとプリント、持ってきたんです」
     そう言えば、家族以外の大人と話すときはいつからか敬語になっていた。でも、ユズちゃんのおばあちゃんと話すときだけは違った。小さい頃からの言葉づかいが、今でもそのままになっていた。
    「茉里ちゃんは優しい子ね。何だか申し訳ないわ。どうもありがとう」
     おばさんは大袈裟すぎるほどのありがとうを、たくさん私に浴びせた。
    「ノート、私が預かっておくわね」
    「いえ。私、直接渡します。奈都子さんに用事もあるので」
    「あらそう? いやだわ、何から何まで本当に迷惑ばっかり――そう言えば土曜日も奈都子たち、茉里ちゃんの演奏会に行く予定だったのよね? ごめんなさい。すっぽかしちゃったわね――」
     おばさんは目を伏せる。私はかぶりを振った。
    「また年明けにあります。演奏会。その、すごく楽しみにしてくれてたんで、次は来てほしいなって、思います」
     今日は音楽室に置きっぱなしにしてきたフルート。彼はケースに入って、部屋の奥の棚で、静かに眠っている。私程度のレベルの演奏者なんてたくさんいるし、耳の肥えた人からすれば、中学生の吹く横笛なんて、聴くに堪えないのだろう。
     でも、私のフルートを聴きたいって、言ってくれる人がいるのだ。孫の友達だというだけで、応援してくれる人がいるのだ。
     明日は部活に行こう。きちんと、練習しよう。そう思った。
     病院を後にした頃には、もう十七時を回っていた。
     陽が落ちるのがどんどん早くなる。柿倉の駅の周りは新興住宅地で、天原と比べれば二世代くらい若い街だ。真新しいマンションがドミノ見たいに並んでいる。
     背の低い建物がごちゃごちゃしている天原とは違い、計画的に区分けされ、優れた外観にデザインされ、ゴミ捨て場さえも清潔で、自分と他人とは、セキュリティという壁できちんと仕切られていた。
     マンションとマンションの隙間から、ぎりぎりの太陽が最後の力を振り絞って、街に光を浴びせていた。横断歩道を渡る私の東側に、長い長い影が伸びている。
     柿倉駅のホームで電車を待ちながら、私は考えた。
     どこか違和感がある。今朝、職員室で三橋先生と話した時から、うっすら感じていた。ユズちゃんのお母さんに久しぶりに会って、話して、その違和感はますます膨れ上がった。大人たちの話す言葉のその行間から、妙なぎこちなさを感じる。
     ただの杞憂に終わってくれればいいのだけど。


      [No.3191] クロと青の器の中の人でした。 投稿者:No.017   投稿日:2013/12/18(Wed) 00:07:02     58clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:鳥居の向こう
    クロと青の器の中の人でした。 (画像サイズ: 589×412 71kB)

    今回は長い長い小説を二編も読んでいただき、ありがとうございました。
    クロはかなり優勝を狙って書いたのですが、
    まさか地味でウケないだろうと思っていた青の器がきちゃうとは思いも寄らぬ展開でした。
    ご評価いただきありがとうございました。

    写真はうちのクロと青の器を書くにあたって参考にした資料です。


      [No.3071] ゼッタイダヨ。【改稿版】 投稿者:きとかげ   投稿日:2013/10/08(Tue) 04:44:42     100clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:タブンネ】 【タブンネ】 【タブンネ】 【タブンネ】 【タブンネ】 【タブンネ】 【タブンネ】 【タブンネ】 【タブンネ】 【タブンネ


     タブンネを殺してはいけない。絶対だよ。


     目の前にピンクの肉塊が転がっていた。ほんの少し前までは生きていた。私はただ呆然と、それを見下ろしていた。
    「嘘でしょ」
     草むらから飛び出してきたから、これはチャンスだと思って、手持ちのジヘッドに攻撃させた。タブンネはあっけなくやられて、動かなくなった。予想以上にレベル差があったのだ。
     事故だよ、事故。私は自分に言い聞かせる。事故だ。野生ポケモンを追い払おうとして攻撃して、当たりどころが悪かったという不幸な事故は、珍しいものじゃない。私はとりあえず十字を切って、タブンネの遺体を草むらの奥に押し込んだ。脱力したタブンネの体は重たくて、作業に時間が掛かってしまった。その間、青空をくり抜いたような瞳が遺体に不似合いな爽やかさで、ずっと私を見ていた。
     タブンネ、ヒヤリングポケモン。優しいポケモンで、戦う相手に経験値をたくさんくれる。並外れた感覚でポケモンの体調をよく捉えるから、ポケモンセンターでも助手ポケモンとして多く飼われている。そんな優しいポケモンだけど、一つだけやってはいけないことがある。タブンネを、どんな理由であっても、殺してはならない。殺したら、大変なことになる。
     他のポケモンなら、シキジカやバッフロンなら食肉として利用されるかもしれない。暴れて被害を出して、駆除されるポケモンだっているだろう。でも、タブンネは、タブンネだけは、いかなる理由があっても殺してはならない。旅に出てから、先輩トレーナーたちに口を酸っぱくして言われたことだった。
     そんなの、都市伝説よ。私は思う。学校や家庭で、そんなこと聞いたことない。言ってるのは、バトルトレーナーと言われる専業のトレーナーたちだけ。きっと都市伝説。手持ちのポケモンたちの経験値の為にタブンネを“狩る”彼らなりの良心の現れ。例えば魂を食らうとか死者に供えられた蝋燭が化けるとか言われてるヒトモシならまだしも、タブンネで何かしら大変なことなんて、起こるわけがない。
     それに、これは事故。ノーカウント。きっと、大変なことになんてならない。タブンネを隠し終えた私は、立ち上がって汗を拭く。大変なことなんてなりはしない。もう一度そう自己暗示をかけて、ジヘッドをボールに戻そうと振り向いた。
     そこにジヘッドはいなかった。
     私は目を疑った。
     いたのはサザンドラだった。
     私が惰性で構えていたボールに、サザンドラは小首を傾げながら吸い込まれていった。私も首を傾げながら、スマホのアプリでサザンドラのデータを調べた。それによると確かにこの子は私のジヘッドだったポケモンらしい。でもおかしい。このジヘッドは今朝モノズから進化したばかりなのに、あのタブンネでは一発でサザンドラへ進化するほどレベルは上がらないはずなのに。私はスマホの画面を注視したまま呆けたようにその場に立ち止まって考えて、そしてある仮説を立てた。

     目の前にピンクの肉塊が転がっていた。ほんの少し前までは生きていた。私は手袋を嵌めて死体を草むらの奥に隠すと、次を探した。後ろでは学習装置を付けたハクリューが、ほんの数瞬前までミニリュウだったポケモンが、くるぐるくるぐる、歓喜か嗚咽か分からない鳴き声を上げている。
     ――最初の事故から暫くして、私は二度目の“事故”を起こした。バトルで勝てないとか、育成が上手くいかないとかフラれたとか色々あって、手加減を間違えたのだ。そして、その“事故”で私は、あの日立てた仮説が正しいことを確信した。
    すなわち、タブンネは普通に倒すだけでもポケモンを良く成長させるが、殺せばその成長度合いは桁外れのものになる、ということ。人が来ないような場所にある草むらを探す手間はあるが、対価はそれを補って余りある。
     私は思う。タブンネを殺してはいけない、なんて都市伝説、端から出鱈目だったのだ。きっと、この美味しい情報を他に知られるまいと思った誰かが流したものだろう。
     私は静かな草むらでタブンネを探す。私の手持ちには育成中のポケモンがハクリューを含めあと五匹、控えている。
     これを始めてから、私のバトルの勝率は目に見えて上がった。今まで二十連勝くらいしか出来なかったバトルサブウェイで、四十八連勝してサブウェイマスターに挑むのが当たり前になった。そうなるとバトルが楽しくなる。もっと色んなポケモンを育てたくなる。ガブリアスも、バンギラスも、メタグロスも、ハピナスも育てたい。砂パも雨パも試したいし、マイナーどころを主軸にした冒険的なパーティも作りたい。
     その為に、タブンネ。

     探していたタブンネは、間もなく出てきた。いつも通りサザンドラを出してやっつけた。いつも通り使い捨ての手袋を出して死体を草むらの奥に押し込めようとした矢先、タブンネが不意に首をもたげて、言った。
    「気付け」
     私は慌てて手を離した。仕留め切れなかったのかと思ったが、ハクリューはカイリューに進化しているし、タブンネはきちんと事切れている。余力を振り絞って動いたものらしい。それと幻聴だろう。私はさっさとタブンネを草むらの奥に押し込むと、その場を去った。疲れているのだろう。今日はさっさと休もう。道中、背中を這い回るような視線を感じて後ろを振り向いたが、静かな湖面が晴れ渡った青空を映しているだけだった。いよいよ疲れている。
     町に戻ってポケモンセンターを目指して歩いている時も、舐め回すような視線をずっと感じていた。気になって何度も辺りを見回す。そんな私の行動が目立ったのか、知らない小男が一人、私に近付いてきた。
     私は顔を顰めた。嫌な臭いのする小男だった。小男は妙に円な目で私を見て、言った。
    「トレーナーさん、トレーナーさん、それはよろしくない」
     変な言いがかりを付けないで、と言って私は一歩下がった。すると小男は一歩距離を詰めた。ボロ布同然のマントの下から、まるで腐った肉でも持ち歩いているのかのような臭いがする。トレーナーとは名ばかりの、浮浪者だろう。私みたいにバトルで連戦連勝すれば、美味しい物も食べられるし、綺麗な服も着られるのに。
    「トレーナーさん、トレーナーさん」
     小男の目が嫌に気になった。それは、小男を持ち上げてみたら、目玉のところで頭蓋が貫通して見えそうなくらい、青空そっくりの空色だった。
    「今まで倒したタブンネと同じ数の蝋燭を、殺したのも普通に倒したのも含めた数を、一番近いタブンネの墓に、供えなさい。悪いことは言わない。そうしなさい」
     小男はそれだけ言って去っていった。
     なにそれ、馬鹿らしい。小男が見えなくなった後、私は小さな小さな声で呟いた。タブンネを倒した数だけの蝋燭なんて。
     でも、気味が悪いから念の為、蝋燭を百本買って、さっきの草むらに行った。すると先程は見当たらなかった祠があって、中を覗くと、蝋燭をたくさん並べられるよう、窪みの付いた仕切り板が入っていた。下の方に十数本、燃え尽きそうな蝋燭が立っていた。私は蝋燭の封を解いて、その中に白い寸詰まりな蝋燭を追加した。倒したタブンネの数は分からないが、百本もあれば十分だろう。奥から順にライターで火を付ける。数が数なので流石に時間が掛かり、全部灯し終えて祠の扉を閉じた時には、空の方も焼けたように赤く染まっていた。

     今度こそ、私はポケモンセンターに向かった。
     自動ドアをくぐった。どこの町でも同じポケモンセンターの内装が、トレーナーたちに安心感を与えてくれる。
     私は真正面にあるカウンターに向かう。
    「すいません」
     タブンネ? ピンク色の生物がこっちを見て、私は何故かドキリとした。何を考えているんだろう。この子は野生のタブンネたちとは無関係のはずだ。
    「誰かいる?」
     タブンネ。
     タブンネは短い手を私に差し出した。ちょいちょい、と指を動かす。私が反応に困っていると、タブンネはカウンターの下からトレーを出してきた。穴ぼこが六つ空いた金属製のトレー。ポケモンを回復機械にかける時に、モンスターボールをセットするのに使うやつ。さっきの祠の仕切り板にも似ている。
     タブンネ。
     タブンネはトレーを私に差し出した。回復してやる、ということだろうけど。
    「ねえ、人を呼んで」
     しかし、タブンネは引かない。私は仕方なくトレーに六つのボール全部をセットして、タブンネに渡した。タブンネは奥のドアをくぐって姿を消す。カウンターの中に回復機械があるのに。奥に行く時は混んでる時だけのはずなのに。今はとても空いているのに。
     戻ってきたタブンネの手に、トレーはなかった。タブンネはタブンネ、と言って私に鍵を渡した。キーホルダーに数字が刻印されている。ポケモンセンターの宿泊部屋の番号。
    「ねえ、私のポケモンは?」
     聞いてみるが、タブンネはタブンネ、と言って奥に引っ込んでしまった。あのタブンネでは話が通じない。人を探そうかとも思ったけれど、関係者以外立入禁止の多いポケモンセンターをうろうろするのは気が進まない。鍵も貰ったことだし、丁度疲れていたし、一旦部屋で休むことにしよう。窓の外を見ると、もう日も沈んでいた。
     私は番号の合う部屋に入り、着替えだけ済ませてベッドに倒れ込む。すぐに眠りに落ちたが、心地良い眠りとは言いがたかった。
     夢の中で私は逃げ続けていた。何から逃げているかも分からず、逃げていた。逃げ道などどこにもないと分かっているのに。途中、何度も目が覚めたり、夢に戻ったりした。夢でも現でも逃げ続けているような感じがした。
     目が覚めた。目覚まし時計のアラームが鳴っていた。いつもと同じ六時。けれど、外はまだ暗い。今日はお日様と一緒に起きることにしよう。私は布団を被り直して、二度寝を決め込むことにした。夢見が悪くて寝不足だったのか、今度もするりと眠りに落ちた。けれど、嫌な夢は見なかった。
     次に起きる。十時。びっくりして飛び起きた。しかし、外はまだ暗い。おかしい。いくらなんでも、もう日が昇っているはず。曇っているのだろうか。空を見上げようとしたけれど、嵌め殺しの窓の向こうには隣のビル壁が迫っていて、空を見ようにも見られなかった。天気の確認は諦めよう。
     私は荷物をまとめてポケモンセンターのロビーに向かった。もうポケモンたちの回復は終わっているはずだ。鍵をカウンターの上に置いて、その場に陣取って、しばし待つ。タブンネが出てきた。
    「ねえ、昨日預けたポケモンたちを受け取りたいんだけど」
     タブンネ。
    「回復、もう済んでるでしょ?」
     タブンネ。
    「それとも、なにか具合でも悪かった?」
     タブンネ。
    「ああもう、あなたじゃ話にならないから、人を呼んでくれる?」
     タブンネ、タブンネ。
     目の前のタブンネは、笑っているだけ。
     しびれを切らした私は、手を口の横に当てて叫んだ。「誰かいませんか」返ってきたのは静寂。そしてタブンネの笑い声。
    「誰もいないの? まさか」
     そのまさか。私ははっとしてロビーを見回す。誰もいない。受付の人はおろか、ポケモントレーナーさえ、町の人さえ、人っ子一人いないロビー。
     町の中心のポケモンセンターのロビーに私一人しかいないなんてことが、あるだろうか。あるとして、それは天文学的に低い確率だと私の脳が弾き出す。ここにいるのは私とタブンネだけ。タブンネだけ。
     タブンネ、タブンネ、タブンネ、タブンネ、タブンネ、タブンネ。
     カウンターを振り返った私は悲鳴を上げた。誰か、はいた。ポケモンセンターの奥の関係者以外立入禁止の向こうからやってきた。ピンクの丸こい体つきのポケモン、タブンネが、タブンネだけが、大量に。
     自分の鼓膜が引き破かれそうな悲鳴を上げて、私は出口へ走った。自動ドアは開かない。手を掛ける。力を込める。自動ドアは今度は閉じる方向に意志を定めたかのように動かなかった。踏ん張る私の足ばかり滑る。
     タブンネ、タブンネ、タブンネ、タブンネ、タブンネ、タブンネ。
     タブンネたちがやってきた。私は悲鳴を上げる。恥も外聞もなく、謝罪らしき言葉を吐きながら、自動ドアに手を掛ける。
     タブンネ、タブンネ、タブンネ、タブンネ、タブンネ、タブンネ。
     ピンク色の肉の塊が迫ってくる。ごめんなさい。私は叫ぶ。ほんの出来心だったの。バトルで勝ちたかったの、分かって――
     タブンネ、タブンネ、タブンネ、タブンネ、タブンネ、タブンネ。
     衝撃。タブンネと自動ドアに挟まれての衝突。突撃系の技を食らったらしいと気付くも遅く。肉塊で押しつぶされた私の意識に嫌な臭いが入り込んだ。


     今日未明、町の外の草むらで、旅装のトレーナーが遺体で発見された。タブンネ。
     遺体の状況から、バトル中、外れたポケモンの技が直撃したものと思われる。タブンネ。
     このようなバトル中の不幸な事故は、決して珍しくない。タブンネ。
     バトルする皆々様は注意されたし。特にタブンネ狩りが好きな皆々様は。ゼッタイダヨ。


    〜〜〜
     きっちり数を数えておけば、もしもの時も大丈夫ですね。よかったよかった。


      [No.2942] 【3】羽衣 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2013/05/06(Mon) 22:14:45     122clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:クレセリア】 【ハクリュー】 【】 【携帯獣九十九草子
    【3】羽衣 (画像サイズ: 800×572 161kB)

     先日の土曜、彼の誘いで能楽堂に行きました。
     誘われたのは公演の前日のことでした。いつもの事ではありますが、どうも彼はギリギリになってから誘う癖があるみたいです。まあ、暇だったらから行くのですけど。
    「いつ買ったの? そのチケット」
     私が訪ねると、
    「国文学科なんだから伝統芸能くらい見とくもんだよ」
     などと言ってはぐらかされました。

     今回見るのは三番目物「鬘(かづら)物(もの)」と言われるジャンルに属する「羽衣」という演目だと彼は説明しました。優美な女性達を主人公とした作品群なのだそうです。
     ポポンと打ちものの鼓が鳴ります。神秘的な増(ぞう)の面を被った役者が橋掛(はしがかり)を通って現れます。これがこの演目、「羽衣」の主役(シテ)である天女でした。
     相手役(ワキ)である漁師、白龍はミホマツバラの浜で、美しい羽衣が松の枝に掛けてあるのを見つけます。白龍はこれを家宝にしようと考え、持ち帰ろうとしますが、そこに持ち主である天女が現れる、という筋書きです。
     天女は白龍に羽衣を返して欲しいと訴えます。しかし、白龍は聞き入れません。天女は羽衣がないと天界に帰れないのだと訴え、悲嘆に暮れます。それでさすがに白龍も哀れと思い、条件付きで返してやることにしました。
     天人の舞楽を見せて欲しい。それが白龍が出した条件でした。天女はそれに応え、羽衣を受け取ると、舞を披露しながら、シロガネ山を越え、天に戻っていくのです。
     天女の舞は、序之舞から破之舞へと移り変わり、今まさに曲は最高潮に達しようとしていました。周囲に黄金を降らせながら、天女が舞い上がっていく様が表現されます。
     ちらりと横を見ると、彼は感慨深そうにその舞に見入っていました。能は最小限の舞台装置と最小限の動きで事象を表現しますので、観る人の想像力に委ねるところが大きいのでしょう。彼はすっかり自分の世界に入り込んでいるように見えました。

    「羽衣に出てくる天女ってクレセリアのことだと思うんだ」
     夕食の席で彼はそう語りました。
     クレセリアというのは、シンオウ地方での目撃証言があるとても珍しいポケモンです。
     そのクレセリアの持つベールのような羽。羽衣とはまさにその羽のことだと言うのが彼の弁でした。
     クレセリアは飛行する時、そのベールのような羽から光る粒子を舞い散らせながら飛んでゆく。その様子は黄金を降らせながら天に昇ってゆく天女の姿と重なるのだと彼は熱っぽく語り続けました。
     きらびやかな衣装を纏った天女も彼の目を通すとポケモンに変換されてしまうようです。
    「でもミホマツバラがあるのってジョウトでしょ。クレセリアはシンオウ地方のポケモンなのだから違うんじゃないかしら」
     私はいつものようにちょっとだけ反論します。
     すると彼はいつものように答えます。
    「いや、天女の言う天界をシンオウと捉えることも出来るし、シンオウ地方であった話がジョウトのミホに伝わって定着するまでに形を変えたのかも……」
    「でも羽を松の枝に掛けたりするかしら」
    「それは演出とか物の例えさ」
     彼は言いました。
     ちなみに、能「羽衣」の天女は羽衣を返してもらい、天界に帰りますが、漁師が羽衣を隠してしまって、帰ることが出来ず漁師と結婚するというエピソードも説話の中には存在します。この場合、彼の大好きなシンオウ神話の「むかし、人とポケモンが結婚していた」という話に結びついていくわけですが、もちろんその手の話題が出たのは言うまでもありません。
    「そういえば漁師の名前、白龍なのよね。白龍自体がポケモンのハクリューの例えだという可能性は? カイリューとかでもいいけれど」
    「あ、それは気がつかなかった」
     そんなやりとりがずっと続いて夜も更けていきます。

     困ったことに、帰ろうという頃になって雨が降り出しました。
    「あちゃー、傘持って来てない」
     私が言うと、
    「じゃ、送ってくよ」
     と、彼が言いました。
    「別にいい」と断ったのですが、何だかんだで押し切られる形になりました。駅への道すがら彼は言いました。
    「実は人形浄瑠璃のチケットが二枚あるんだけど」
    「いつ?」
    「明日」
    「…………」
     私は呆れたような視線を送りましたが、彼は彼は視線を逸らして黙っています。
     ……まあ、明日は日曜日ですし、いいですけれど。
     ぱたぱたと雨粒が傘を鳴らします。
     雨はまだまだ止まなさそうです。
     もしあの漁師がハクリューであるのなら、こうやって、天女を留めたのかもしれない――私は密かにそう思いました。


      [No.2825] 一つの硝子を割る時 投稿者:WK   投稿日:2013/01/02(Wed) 22:01:33     53clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    あけましておめでとうございます。WKです。
    昨日両親とも話し合ったんですけど、まずこれかな、と。

    ・人脈を作る。

    友達は大切にしましょう。みたいな。
    あとは...

    ・オフ会主催してみたい
    ・続きそうで続かない物語は最初から書かない
    ・長編必ず一つは完成させる
    ・画力を上げる
    ・情報処理試験を何とかしたい

    一番目は言うだけならタダ。わはは


    【今年もよろしく】
    【一度キャラを壊す必要がありそうだなぁ】


      [No.2824] 【あけましておめでとうございます】2013年の目標を書くスレ 投稿者:No.017   投稿日:2013/01/02(Wed) 21:35:53     78clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:2013年爆発しろ!
    【あけましておめでとうございます】2013年の目標を書くスレ (画像サイズ: 563×819 154kB)

    マサポケの皆様、あけましておめでとうございます。No.017です。本日、実家より帰還しました。
    新年のご挨拶がてら2013年の目標などを書きませんか。
    小説の事、ポケモンの事、対戦の事、その他何でもオッケー。


    2013年も何卒よろしくお願い致します。


      [No.2682] バトルとはちょっと違うかもですが 投稿者:No.017   投稿日:2012/11/06(Tue) 20:33:28     67clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    単行本「霊鳥の左目、霊鳥の右目」より引用します。


     このあたりでいいだろうかと、あたりをつけて青年はキャモメ絵馬の一番上に新たな一枚を重ねる。この神社の御利益は勝負事――彼は願掛けの相手を想った。神など信じてはいなかったが、誰かの為に足を運び、願を掛けるのは悪くないかもしれない。こんな事を考えるのも追いつめられて、ヤキが回ったからかもしれなかった。
     御利益か。運べるものなら運んでみせろよ。
     青年は内心で呟くと、白い翼を広げた鳥ポケモンを軽く撫でる。来た道を戻り始めた。尤も「彼女」なら、こんな事をしなくても叶えるだろう。そんな事を思いながら。
     湿った落ち葉を踏みしめながら青年は戻っていく。用を済ますと関心が薄れたのか振り返るような事はしなかった。
     ただし、からん、と乾いた音がするまでは、であった。
    「?」
     絵馬と絵馬とがぶつかりあって鳴らす音。青年は振り返った。
     見れば先ほど絵馬を奉納した掛所に、小さな鳥ポケモンが一羽、ちょこんととまっていた。
     緑玉。そのように青年は思った。緑の玉に赤いアンテナと黄色の嘴がついている。向けられる目線は鳥というより人に近い。なんというか目に力がある。
     ネイティ、小鳥ポケモン。遺跡や神社に現れる彼らは、鳥ポケモンという側面の他にエスパーの顔を併せ持つ。
    「………………」
    「……、……」
     両者は一定の距離を保ったまま、しばし互いを見つめていたが、先に緑玉が動き出した。屋根に足を引っかけ、ぐぐっと小さな身体を伸ばす。青年が先ほど掛けた絵馬の紐をくわえると、ひょいっと掛所から降り立った。同時に絵馬が落ちた。先ほど願を掛けた絵馬が。
    「……え」
     緑玉の思わぬ行動に青年の反応は遅れた。地面に降り立ったネイティは、今度は絵馬の板そのものをくわえ、しっかりと持つ。まるで邪魔なものを除けるのだと言わんばかりに、ぴょんぴょんと移動を始めた。
    「おい、ちょっと待てよ!」
     状況を察した青年が踵を返した。が、ちらりとネイティが振り返って目が合ったかと思うと、次の瞬間にぱっと姿が消えてしまった。
    「テレポートか!」
     青年は叫んだ。訳が分からなかった。今掛けたばかりの絵馬が持ち去られた。何の為に? まったくもって意味が分からなかった。
     待て、落ち着くのだ。青年は自身に言い聞かせた。確かこの前ガイドで読んだ。ネイティのテレポートはそう遠くには移動できないらしい、と。
    「……出ておいで」
     落ち着いた声になって青年は言った。足元から伸びる影がざわざわと蠢いて、無数の影が飛び出した。
    「行け」
     青年は言った。この林にいるポケモンを炙り出せ、と。角付きてるてるぼうずが足元から次々と湧き出して、無数の影が林の中を飛んでいく。緑玉の探索が始まった。
     そうして、すぐに場所は特定された。キキッと斜め上のほうでカゲボウズの声がしたからだ。
     捕らえたか。そう思ってその方向をむいた瞬間、パシイッとハリセンで叩くような炸裂音がしてカゲボウズが落下してきた。
    「!?」
     青年は落ちてくるカゲボウズを受け止める。見れば目を回して、気絶していた。後頭部に強い力で思い切り叩いたような痕がついている。がさっと音がして少し離れた場所に何かが降り立った。ネイティだった。絵馬を嘴にくわえたままのそれはちらりと青年を見、消えた。
    「……逃がすな」
     その一言で動きを止めていた影達が再び動き出す。だが、また数メートル先でパシイッとハリセンで叩くような音が響き、またカゲボウズが一匹、落ちた。
     ネイティが別の掛所の上に姿を現す。行け、と青年が叫び、影達が向かっていく。が、また消えた。と、思うとカゲボウズのすぐ後ろにふっと姿を現して角の生えた頭に小さな翼を勢いよく叩きつけた。
     スパンッ。林に音が響く。カゲボウズがまた一匹、地面に落ちて目を回した。
    「……!」
     青年は目を丸くした。まさかこの小さな鳥ポケモンがそこまでやるとは予想していなかった。
     青年の動揺はそのままカゲボウズ達に伝わった。スパンッ、パシイッと連続して炸裂音が響く。近くの動けずにいるカゲボウズ達が緑玉に落とされていった。周りに邪魔者がいなくなると、ジャンプとテレポートを繰り返し、緑玉は逃げていった。結局、青年と影達はその姿を見失ってしまった。
    「…………嘘だろ」
     青年は唖然として、そうとしか言う事が出来なかった。誰が予想するのだろうか、神社でポケモンに絵馬を盗られるなどと。不意を突かれたとはいえ、多数対一羽で負けを喫するなどと。
    「………………」
     ポケモンというものを甘く見ていた。青年はある種の概念を打ち破られた気がした。
     だが、いや、と彼は思い直した。そういえば昔あったではないか。たった一匹に痛い目に遭わされた事が。ここのところ痛んでいなかったからな、と青年は胸を撫でた。だがそれにしたって、相手は一匹の小さなポケモンだ。こう鮮やかにしてやられた事自体は驚きであった。
    「的が小さいからな……人間と違って」
     そう青年は小さく呟いた。不意を突かれて逃がしてしまったが、今度は逃がしはしまいと思った。御利益を信じていないとはいっても、邪魔をされるのは気に食わない。一度、灸を据えてやらなければなるまい。
     林が風でざわざわと鳴った。再び静けさを取り戻した林は先ほどより暗く、湿っているように思われた。


      [No.2681] 【突発性】バトルしようぜ!【企画】 投稿者:aotoki   投稿日:2012/11/06(Tue) 19:58:27     73clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    ポケモン小説の醍醐味の一つ、バトルシーン。
    でもバトルシーンってそこまでのシチュエーションを考えるのが結構めんどくさくないですか?
    だから書いてないって方、意外と多いんじゃありませんか?

    ・・・・え?私だけ?

    ・・・・

    そ、そんなことないよね!みんな黙ってるだけだもんね!ね!///


    というわけで(謎)、勝っても負けてもお祭り騒ぎ!バトルしようぜポケモンバトル!!


    ****
    ・TEST版の「77の質問」で「バトルシーン書いてる?」と聞かれて何も答えられなかったaotokiによる突発企画です。
    ・皆さんが思いついたバトルシーンをとにかく集めてみよう!オリトレ・原作可です。
    ・さすがに「シチュエーション」「登場人物(そこにいる人)」は初めに書きましょう。
    ・マサポケの趣旨にあるとおり、「気軽に書く!」思いついたところまでで全然かまいません。
     べつに勝敗つかなくて「俺たちの本当の戦いはここからだ!」でも。

    【例】
    (軽トラの荷台に男が一人、後ろから車が何台か迫ってきている)
    アカザ:荷台に立つ男 カイドウ:気楽な運転手

    「―来たぞ!」

    オレが叫んだのと同時に、車から大量のガーメイルが飛びたった。

    「うっわ何だありゃ!!流石にキモイな!」運転席の窓からカイドウが顔を出した。
    「いいからテメェは運転してろ!トゲキッス!10万ボルト!」
    「ふにゃうっ!」
    トゲキッスの羽が金色に光り、バチィン!と一気にガーメイルがあさっての方向に飛んでいく。
    「ガーメイル、さざめけっ!」車から男の声がする。




      [No.2712] Re: マサポケノベラーさんへ77の質問 投稿者:はる○   《URL》   投稿日:2012/11/04(Sun) 21:56:15     130clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:77の質問】 【そして77の答え】 【本当に?】 【77も答えたのか?】 【そうなのか?】 【真相やいかに】 【正解は以下で

    586さんのお助けツールに感動したので、殆ど投稿した事の無い人間ではありますが、
    せっかくなので答えてみました。どうも、はるまるです、どうも。

    > ●1.My name is ○○○. まずは名前を教えてください。
    はる○。はるまると読みます。まる大事です。

    > ●2.↑とは言いましたが、実は×××とも名乗ってるんです…… HN複数持ってます?またそのHNは?
    最近ははる○で統一していますが、はるまるの表記が場所によって違ったり違わなかったりします。
    過去のHNは心の奥底に閉まっておきます(思い出したくない)。

    > ●3.年齢・性別・生息地などなど。あなたの正体プリーズ。勿論言える範囲だけでOK。
    ジョウトからカントーに上京した大学生です。念のため書いておきますが女です。

    > ●4.オールジャンルで(※全てにおいて)好きなもの。
    人の笑ってる顔が好きです。

    > ●5.オールジャンルで嫌いなもの。
    寒いのが駄目です。

    > ●6.あなたの性格。自覚している長所や短所……
    長所 一旦集中するとそれしか見えなくなる。
    短所 周りを一切見ていない。

    > ●7.あなたを一言で表すと? 日本語でも英語でもスワヒリ語でもおっけー。
    残念。

    > ●8.あなたの職業は? 真面目に答えてもボケてもいいですよw
    駄目学生です。どんどん駄目になっていく気がしています。これは駄目です。

    > ●9.学校の教科で得意科目と苦手科目を一個づつ上げるとしたら?
    得意 国語全般。
    苦手 数学全般。

    > ●10.持ってる資格とか賞罰。何でもいいから書いてみると……
    特に何も持ってないと思います…。
    習字の授業でみんなで出した書き初めか何かで、全員賞がもらえることになっていたんですが、
    クラスがほぼ金賞・銀賞を貰っている中で銅賞を取ったくらい何も持ってないです。

    > ●11.インターネット歴。いつからだったかなぁ……今何年になるかなぁ……
    物心ついた時から。

    > ●12.自分専用のパソコンって持ってます?
    持ってます。

    > ●13.ネットで便利だと思うこと。不便だと思うこと。
    便利だと思うのは、思った事をすぐに発信できること。
    不便だと思うのは、あまりにも簡単に発信でき過ぎてしまうこと。

    > ●14.お気に入りのサイト、教えてくださいw
    ポケモン関係無くてもかまわないでしょうか?
    今野隼史さん「辺境紳士社交場」 http://frontierpub.jp/index.html
    イラストレーターの今野隼史さんの個人サイトです。
    デジタルイラストやアナログ(アクリルガッシュが主)イラストが数多く展示されています。
    どれも「こんな絵を書きたい!!!!!!」と思わずにはいられない、熱量にあふれた作品です。

    > ●15.自分のホームページ、pixivアカウント、twitterアカウント等ありますか? 良かったらここでCMタイム。無論ジャンル問わず。
    個人サイト 「THE LODESTAR」 http://hal-world.com/
    TINAMI http://www.tinami.com/creator/profile/35968
    twitter https://twitter.com/halmaru900
    pixivもやってはいますが、あんまりメインで使っていないので、活動は上記3つが主です。

    > ●16.ポケモン歴は何年? また、ポケモンにはまった原因って何?
    物心ついた時から…? 原因は兄がハマっていたから。

    > ●17.あなたの持っているポケモンソフトを教えて!
    赤、緑、青、ピカチュウ、金、クリスタル、ルビー、FR、LG、ダイヤモンド、SS、ホワイト、
    ピカチュウげんきでちゅう、ポケモンチャンネル〜ピカチュウといっしょ〜、
    ポケモンピンボール、ポケモンスナップ、ポケモンスタジアム、ポケモンコロシアム、
    ポケモンXD 闇の旋風ダーク・ルギア、ポケモン不思議のダンジョン青の救助隊、
    ポケモン不思議のダンジョン闇の探検隊、ポケモンカードGB。
    ……ぐらいかなあ。
    あとポケットピカチュウとポケットピカチュウカラーとか持ってた。ポケモンミニとか。懐かしい。

    > ●18.こいつが俺のパーティだ! ゲームでのベストメンバー、教えてください。私はこんなコダワリを持ってパーティを選んでいます。なんてのもあったら。
    とくにない。

    > ●19.アニメ見てるかー? ポケスペ読んでるかー? ポケモンカードやってるかー?
    アニメは昔見てました。ポケスペは昔読んでました。ポケモンカードはやったことありません。

    > ●20.一番好きなポケモン! どうしても絞りきれなかったら複数回答も可。
    ゼニガメ。

    > ●21.一番好きなトレーナー! ゲームでもアニメでもポケスペでも……
    ハヤトがすごい好きだった記憶がありますが、今はエリカが好きです。

    > ●22.一番好きな、技? アイテム? 属性? シリーズ? ……何かある?
    傾向として着物属性のキャラが好きみたいで……、……え、そういう意味じゃない?

    > ●23.21、22、23で答えた中から好きなお題を1つ、全力をあげて語り倒してください。惚気OK。親馬鹿OK。妄想暴走勿論OK。
    好きという以上に重要な事が何かあるでしょうか…?

    > ●24.ポケモンファンの聖地、ポケモンセンター。行ったことある?
    ないです。実在するらしいですね。

    > ●25.主人公の名前=ゲーム中でのあなたの名前は?
    本名付けてましたが、最近は「はる○」と付けています。

    > ●26.あなた自身をポケモンに例えると、何が一番近いですか?
    ゴンベとかカビゴンに似てるって昔よく言われました。食っちゃ寝ばっかりして丸々太ってるあたり。

    > ●27.突然ですが、あなたはポケモンワールドのトレーナーだとします。名前、出身、手持ち、職業etc……「あなた」の設定を、参加型キャラメイキングの要領で。
    名前 はる○
    出身 キキョウシティ
    手持ち ゼニガメ・ナエトル・コータス・プロトーガ…とか?
    職業 ポケモンごっこしたい。着ぐるみ着たい。あれあったかそう。

    > ●28.なぜポケモン小説を書こうと思った? きっかけになった作品とかあります?
    これなら私にも書けそうだと思ってしまったから。
    きっかけになった作品は特に無いです。その後影響を受けた作品ならたくさんありますが。

    > ●29.連載派? 短編派?
    短編派ですねぇ。

    > ●30.公式のキャラクターは小説に出すほう? それともオリトレ派? ポケモンのみ?
    公式キャラクターも出しますが、メインはオリジナルキャラの場合が多いです。

    > ●31.あなたが今書いている小説。ズバリタイトルは!!
    「恋はドキドキ☆止まらない 〜あなたと私の恋する蜜月〜(仮題)」

    > ●32.↑のあらすじ・特徴的なところ、ウリ等をどうぞ。
    女の子二人が青春で百合百合しくきゃっきゃうふふします。

    > ●33.あなたの小説の中で、あなた自身が一番気に入ってるキャラは? どんな所が気に入ってる?
    うーん…九十九勝利・一之瀬素直コンビは気に入ってます。名前とか。

    > ●34.あなたが今まで書いた小説の中で一番気に入っている話はどの作品? どのエピソード? よかったらその部分、見せて欲しいなぁ……。
    まだあんまり書いてないので、特にないです。

    > ●35.オレの小説、何はなくともコレだけは頑張ってるぜ! ってのを最低でも一つ。
    会話のテンポ。会話部分だけでもポンポン読んでもらえればなあ、と思いながら書いています。

    > ●36.逆に、ここんとこ何とかしたいな……これからの課題だ、ってのも一つだけ。
    会話以外のところが一々回りくどい。

    > ●37.小説に出すキャラ(ポケモンも含)の名前、どんな感じでつけます? 例もあげて教えてくれたら嬉しいなぁw
    名は体を表したり、表さなかったり……みたいな感じで付けてます。

    > ●38.ついでだから小説のタイトルの由来や、副題(あれば)のつけ方も教えてもらおう。
    だいたいのイメージ。

    > ●39.インスピレーションキタ━━━━━(゜∀゜)━━━━━!! アイディアが湧いてくるのはどんな時?
    暇してる時か、すごく忙しくてそんな場合じゃない時。

    > ●40.あなたの小説主人公は、実はあなた自身の鏡? それともどっちかというと、憧れの姿??
    特にどちらでもないというか、物語の展開に合いそうな感じの造形。

    > ●41.小説中にバトル描写って出すほう?
    割と毎回出してる気がしました。

    > ●42.小説の中の性的描写、死ネタ、殺しネタ。あなたの意見を述べてください。
    それが必要なら何も言うことはないと思います。

    > ●43.小説の中のやおいネタ、百合ネタ。あなたの以下同文。(意味が分からない人はパスOK)
    もっとください。

    > ●44.小説の中のオリジナル地方、オリジナル技、オリジナルポケ。あな以下同文。
    それでしか表現できないことがあるなら必要なのだと思います。
    でも説明がめんどくさそうなので私はあんまりやる気は無いかな。
    公式で出てない地方とか気になるところですけどね…。

    > ●45.打ち切り……
    俺達のポケモンマスターを目指す冒険はこれからだ!!!!!!

    > ●46.アイディアが全然湧かない!!? どうしよう……。スランプと、その脱出法について一通り。
    とくにないです。

    > ●47.後の展開に繋がる伏線を結構張る方だと思う。
    張って張ったことを忘れるぐらいどうしようもない人です。

    > ●48.ぶっちゃけた話、やっぱり年齢が高いほど上手い文章が書ける?
    どうでしょうね。書いてる人の年齢ってあんまり気にした事ないですね。

    > ●49.この人の本が出たら絶対読む! この人の影響を受けている! 好きなプロ作家さん・同人作家さんっています? 愛読書でも可。
    照れくさいので、ひみつにしておきます。

    > ●50.同人とかサークルってやってますか? 自分の本って出したい?
    やってないですけど、やりたいですね。本出してみたいですね、小説じゃなくてイラストや漫画でも。

    > ●51.語彙(ゴイ、使える単語量)ってどうやって増やします?
    ジャンルを限らず色んな本を読むのが一番楽じゃないですか。

    > ●52.ムラムラと執筆意欲が湧いてくる……のはこんな時!
    「…(もやもや)」

    > ●53.ポケモン以外の小説、書いたことありますか?
    あります。

    > ●54.小説を書く者として、一番大事だと思うもの。
    中二力。

    > ●55.他のポケモン小説書きさんの小説で、好きな作品を好きなだけ上げてください。
    では、上げないでおきます。言動から察してください。

    > ●56.他のポケモン小説書きさんの小説登場人物で、好きなキャラっています? 誰ですか?
    とくにいないです。

    > ●57.密かにライバルだと思っているポケモン小説書きさんはあの人だ! 最低一人は上げてくださいねw
    うーん…ポケモン小説という場では、いないです。
    ポケモンに限らないイラストだといないこともないですが、でも、この場では上げられません。

    > ●58.そういや今更だけど、ポケモン小説書き歴は○○年です。○○歳からです。
    忘れましたが、多分、中学生とかの頃に書いたのが最初です。
    でもちゃんと世に出したのはポケスコからです。

    > ●59.ポケモン小説書きをやっていて嬉しかった事、辛かった事を一つずつ。
    会話のテンポを褒めてもらえたのは嬉しかったです。

    > ●60.何だかんだ言っても、自分の小説に誰よりハマッているのは自分自身だと思う……
    意外とそうでもない気がしました。

    > ●61.長く険しい人生。いつまでポケモン小説を書いていようかな……
    どうでしょうね。

    > ●62.これからポケモン小説を書く方にアドバイスがあれば。
    心を解き放って書くと良い感じです。

    > ●63.いつ頃この『マサラのポケモン図書館』に辿り着きましたか?
    小学校高学年〜中学生頃だと思います。

    > ●64.『ほびぃすてぇしょん』『おきらく ごくらく』『旧・マサポケ』……何の事だか分かります?
    わからないです、多分。

    > ●65.リアルタイムの親善空間・チャット。行きます? どれくらいの頻度で?
    チャット会とかあると行ったりしないこともありません。

    > ●66. 小説コンテスト出た事あります? 出てみたい?
    出た事あります。あれ以外でマサポケに登場した事がありません。

    > ●67. ストーリーコンテスト・ベスト他、マサポケの本って持ってる? マサポケで本を出す事になったら参加したい?
    ベストは持ってます。他は持っていません。
    本は、小説以外の部分で参加してみたいなと密かに思っています。

    > ●68.鴨志田さんや鈴木ミカルゲさんの事、どう思う?
    ゆるキャラですね。

    > ●69.我らがマサポケ管理人、No.017さんに一言贈ってください。
    いつも小説読んでおります。
    もっと言いたい事の纏まった感想を送りたいのですが、
    毎度なんとなく言い足りない感じで難しいですね。

    > ●70.これからマサポケではこれが流行る! これを流行らせたい!
    流行の事はよくわかりませんね。

    > ●71.学校好きですか?(学生でない方は、好きでしたか?)
    好きだけど早く家に帰りたいです。

    > ●72.ポケモン以外で好きなジャンル、アニメ・漫画・ゲーム。あります? 何ですか?
    色々あります。
    ゲームはRPGが好きです、TRPG等電源通さないゲームも好きです。
    漫画は主に少年漫画が好きです。あと百合。
    アニメは日曜日の朝にやってるようなヤツが好きです。

    > ●73.音楽って聴きます? 好きなアーティストとかジャンルをお一つ。
    「いきものがかり」が好きです。
    好きなジャンルはよくわかりません。

    > ●74.ジブリの名作「となりのトトロ」の主人公って誰だと思います?
    中トトロがいちばん好きです。

    > ●75.ここでお約束、あなたの恋愛話v 言えるところまで言ってみよう!
    ないです。

    > ●76.♪なりたいな ならなくちゃ 絶対なってやる〜…… 将来の夢は? 恥ずかしがらなくていいですよw
    人に憧れられる人間になりたいです。

    > ●77.さぁ、最後です。……邪魔するものは何も無い。今の想いを込め、好きなことを叫べ!!
    だんだんお腹空いてきました。


      [No.2586] Re: 俺とポケモンのへーわな生活。 投稿者:ねここ   投稿日:2012/08/25(Sat) 17:57:36     98clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


    はじめまして。ねここと申します。

    「俺とポケモンのへーわな生活。」読ませていただきました。
    投稿されてから結構経っているようで感想なんか今更ながらというか、感想を書くのが初めてというかでプチパニックですがお許し下さい。

    このお話は完全にわたしの理想です。
    羨ましいですわたしはメタモンがいいです。←

    レンジのところのくだりがとても良い表現だなあと思いました。
    全体的にさくさく読み進められて、面白かったです。

    主人公君が魅力的過ぎt(ry

    こんな感想でいいのかまじでええええという感じですが、とにかく素晴らしいお話でした。素敵です。
    感想もっと早くに書きたかった……(´・_・`)

    では失礼しました。


      [No.2585] 【閲覧注意】じこあんじ 投稿者:門森 輝   投稿日:2012/08/23(Thu) 22:42:30     110clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    ※ポケモン等を殺したりといった要素を含みます。含むどころかメインになってます。あと嘔吐や見方次第では拘束・監禁・調教といった要素も含みます。という訳で閲覧注意です。








































     僕は悪くない。仕方ないんだ。悪いのは僕を使う人間なんだ。
     確かに僕は今まで沢山の人間やポケモンを殺して来た。でも、それは全部あいつらの指示だ。僕の意志じゃない。仕方ない事なんだ。だから――僕は悪くない。

     そう考える様にしてから、随分と楽になった。

     僕の意志じゃない。それは間違いないんだ。でも、でも、それならどうしてあの時、つまらないなんて思ったんだろう――。




     初めて殺したのはいつだっただろう。僕が生まれ育てられたこの大きな建物の一室で、訓練と称されたそれは行われた。形式自体はそれまでの訓練と同じで、あいつらに用意されたポケモンと戦うというものだった。ただ、指示が違った。それまでとは違い、はっきりと告げられた。殺せ、と。
     どうすれば良いのか分からなかった。動けなかった。その時、あいつらが一言おい、と言った。分かっているな、とでも言うかの様に。
     命令に従わなければどんな目に遭うか、思い出し、吐いてしまった。今でも思い出す度に体が震えてしまう。殺したくなかった。でも、あんな目に遭うのはそれ以上に嫌だった。今度はもっと酷いかもしれない、殺されてしまうかもしれない。恐怖が僕を突き動かした。そして、僕はそのポケモンに襲い掛かった。多分、泣いていたと思う。あのポケモンも、僕も。
     自分がしてしまった事を改めて自覚した時、またしても吐いてしまった。殺した時の感触が、悲鳴が、表情が、次々と甦ってきた。自分が、殺した。その事実を認めたくなかった。でも、どうしようもなかった。殺さなければまたあんな目に遭っていた、仕方なかった、と必死に自分を説得した。でも、逆らっても殺される訳じゃない。それにもし殺されるとしても、こんな自分の為に他のポケモンを殺す様なポケモンより、あのポケモンの方が生きるべきだったんじゃないか、そんな思いは拭えなかった。
     それからは通常の訓練に加えて、殺せと指示が出る事があった。僕はその度に葛藤し、恐怖し、殺し、後悔してきた。自殺だって何度も考えた。でも、出来なかった。自分が助かる為に殺して来たのだから、当然と言えば当然だ。でも、自分1匹が助かる為に何匹も犠牲になっている事がおかしいのは分かっていた。もし僕が死んだらそれまで殺したポケモンが生き返るのなら、あの時はまだ自殺に踏み切っていたかもしれない。
     初めて殺した時、いや、殺させられた時から数週間が経った頃だっただろうか。僕の主人が決まり、それまで訓練と呼ばれていた事は仕事と呼ばれる様になった。それを境に変わった事と言えば、まず場所だろう。初めて仕事として指示が出た時、僕は初めてこの建物から出た。その時見た景色は、僕が生活してきた部屋よりも、訓練の時に連れてかれた部屋よりも、それまで見たどんな場所よりも直線が少なく、沢山の色があった。前にも横にも壁は見えず、駆け出したかった。勿論出来るはずもなかったが、戦っている時は、あんな場所で動ける事に喜びや楽しさを感じていた気がする。殺せと指示が出ていたにも関わらず、笑っていた様な気もする。それ位新鮮だった。
     他に変わった事は、仕事の対象がポケモンに限らなくなった事や、首に枷の様な物を付けられる様になった事、他のポケモンと協力して戦う事があった事もだろう。初めて協力して戦った時、僕は同じ様な境遇のポケモンがいる事を知った。協力したポケモンは首には同じ枷を付け、傍らにはあいつと似た様な服装の人間がいた。その人間とあいつが何やら話している間に彼と少しだけ話した所、彼が僕と同じ様な境遇である事、そして彼が他にもそんなポケモンを数匹知っている事を話してくれた。多分まだまだいるだろうという事も。
     その仕事を無事に終え、部屋に戻された僕は考え事に耽っていた。僕みたいなポケモンが沢山いるという事がどういう事か。


     まず、僕は殺すのが嫌だ。慣れてしまって来ていても、外で動ける事が楽しくても、それは変わっていないはずだ。いや、絶対に変わっていない。でも、指示に従わなければあんな目に遭わされる。だから、仕方ない。そう考えて来てはいたけど、割り切れてはいなかった。でも、でも、僕と同じ境遇のポケモンがいるのなら、無理に殺させられてるポケモンがいるのなら、僕が殺していなくてもあのポケモン達は助からなかったんじゃないか? 僕が殺さなくても他のポケモンが殺したんじゃないか? 訓練のは別のポケモンの訓練に回され、仕事のは別のポケモンが仕事で殺すんじゃないか? 今まで僕は自分が殺したからそのポケモンが死んだ、自分が殺さなければそのポケモンは死ななかったと思っていた。でも、あいつらに選ばれた時点でもう助からなかったんじゃないか? それなら、それなら――

     指示に逆らう理由はないんじゃないか?

     そうだ、逆らう理由なんてない。僕は殺すのは嫌だ。殺すのは悪い事だ。でも、相手はもう死んでいるも同然なんだ。あいつらに選ばれた時点で助かる事は出来ないんだ。殺すのは僕だ。でも、死ぬのは僕の所為じゃない。あいつらの所為だ。悪いのはあいつらなんだ。だから、僕は悪くないんだ。それにもし僕が逆らったら、あいつらは代わりのポケモンを使うかもしれない。そうしたら、また僕みたいに扱われるのだろう。それは間違いなく辛い事だ。なら、僕が指示に従う事は良い事なんじゃないか? 僕が指示に従う事で、ポケモンを1匹助けている事になるんじゃないか? そうだ、僕は殺す事で誰かを苦しめているんじゃない、誰かを助けているんだ。だから、僕は悪くない。殺す事自体は悪い事でも、指示に従う事は良い事なんだ。それに殺すのは僕の意志じゃないんだ。あいつらの指示だから仕方ないんだ。悪いのはあいつらで、僕は悪くないんだ。そうだ、僕は悪くない――。


     そう考えた時、何だか楽になった気がした。仕事だって楽しみに思えて来ていた。仕事はない方が良いんだとは思いつつも、この建物の外に出られる事は魅力的だった。
     実際、罪悪感さえなければ仕事は楽しかった。罪悪感が込み上げて来る時もあったけど、その度に自分自身に言い聞かせて来た。僕は悪くない、自分の意志じゃないんだ、仕方ない事なんだ、と。そうだ、殺すのは僕の意志じゃない。絶対に、絶対に違う。でも、僕は確かにあの時つまらないと思ってしまったんだ。どうして、どうして僕はそんな風に思ったんだろう――。
     今日の仕事の事だ。最近は殺す指示が多くなっていた気がする。前回まででも何回連続でその指示が出ていただろうか。だから、今回もそうだと思っていた。でも、出された指示は殺すな、生け捕りにしろというものだった。その時だ。つまらないと思ってしまったのは。何で、どうして僕はそう思ってしまったんだろう? 今までを思い返してみても分からない。何がつまらないんだろう? 楽しかったのは外で動ける事のはずだ。でも、殺しても殺さなくても動ける事には変わりない。それで変わる事と言ったら――。いや違う。絶対に違う。そうだ、仕事は無事に殺さずに終える事が出来たんだ。殺さずに済むならそれが一番良いんだ。僕は殺したくないんだから。僕は殺したくないんだ。殺すのは僕の意志じゃないんだ。だから、だから、殺す事が面白いと思うはずはないんだ。絶対にそんなはずはないんだ。でも、それならどうして――。僕は、本当は――。違う。違う! 違う! きっと他に理由があるんだ。つまらないと思った理由が。でも、分からない。いや、分からなくて良いのかもしれない。とにかく違うんだ。殺す事が楽しいはずがない。殺すのは僕の意志じゃないんだ。仕方なくそうしているだけなんだ。それさえ分かっていれば良いんだ。僕の意志じゃないのは間違いないんだから。絶対に、絶対に。僕は殺したくなくて、殺さずに済んだんだ。殺さずに済んだんだから良いんだ。僕は殺したくないんだから。そうだ、今まで殺して来たのは全部あいつらが悪いんだ。僕の意志じゃないんだ。だから、だから――

     僕は悪くないんだ。


    ―――――――――――――――――――――

     えーと、はい、ごめんなさいごめんなさい。でもこれでも結構自重しました。多分全年齢ですよね、多分。リョナとかイマサラタウンな箇所は省きましたし。
     と言う訳で悪の組織的な何かに使われるポケモンの話。続くかもしれませんし続かないかもしれません。続くけど投稿出来ない可能性も結構あったり。
     でも1匹ずつ管理してる理由とか首輪付ける理由とかどうでもいい事は考えてあるのに組織の大きさとか目的とかを決めてないという。そっちの方が大事だというのに。決まってても書く訳じゃないのであまり影響は無いのですけれども。それにしてもこいつら殺しすぎですね。ロケット団でさえ殺したと明確に分かるのはあのガラガラ位だった様な気がするというのに。こいつらどんだけ悪い奴らなんだっていう。イッツ無計画。
     食料とかもどういった設定にしましょうかね。木の実を用意されてるとかが無難ですかね。でもイマサラタウンな案の方が自然に思えてしまうという。殺す理由にも繋げられますし。
     さて、何のポケモンかはご自由に想像して下さい。首があって自己暗示が使えれば大体当てはめられると思いますので。キュウコンとかグラエナとかゾロアークとか。アブソルなんかも夢特性が正義の心ですからその場合葛藤が激しそうで可愛いですね。結論も自分のやっている事は正義だと思い込んだり。あと個人的にはブラッキーの妄想が捗ったり。自己暗示使えますし悪タイプなのも似合いますしなにより懐き進化で分岐進化という所が。懐いた理由とか妄想がイマサラタウン。分岐進化はここまでだとあまり関係して来ないんですけどね。
     あと読点とか「でも」とかが多すぎますね。読み辛くてすみません。でも読み辛い方が雰囲気出る場面もありますよね。それが意図的だったら良いんですけどね。全体的に読み辛いですからどうしようもないですね、すみません。
     何はともあれ書いてて楽しかったです。書いててと言うよりは妄想しててと言った方が正しいかもしれませんけど。

    【書いてもいいのよ】
    【描いてもいいのよ】
    【虐めてもいいのよ】
    【ややイマサラタウン】


      [No.2584] 宿題終わった? 投稿者:神風紀成   投稿日:2012/08/23(Thu) 09:15:44     80clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    弟の宿題を手伝うことになった。
    バスケ部、塾、学校の宿題。彼の夏休みは夏休みじゃない。こんなことを言うと世の大学生や社会人の皆さんに怒られるかもしれないが、彼もまともな休みはお盆のみだった。
    でもまあ、川に遊びに行ったりプールに行ったり遊びの面でも充実はしていたようだが。

    さて、宿題の話である。塾の課題は親と一緒にやるため、どうしても時間が押してしまう。
    この十三年間、一度も誰かに宿題を手伝ってもらうことがなかった弟が、下でポケモンをしていた私に『姉ちゃん宿題手伝って』と頼んできた。
    『何でだよ』『だって暇そうじゃん』『暇そうなら誰にでも宿題頼むんかいお前は』『大丈夫だよ、数学じゃないから』『じゃあ何』『短歌作って』『……は?』

    話を聞けば、去年の夏休みの宿題の進化版で、今年は短歌を作ることになったらしい。

    「俳句はなんとかなったんだけど、短歌って難しいんだよね。ラストの十四文字」
    「普通の俳句の後に『そしてかがやく ウルトラソウル』って付ければ何でも短歌になるよ」
    「えwww ちょwww ブフォッww」

    ツボッたらしい。一分間近く笑い転げていた。放っておこう。
    自慢じゃないがこういう物は得意である。中三の冬休みの宿題で俳句を作り、某飲料水の俳句コンクールに出したら佳作をもらったこともある。あれは私の数少ない栄光の一つだ。『言われている人は舞台へ上がってください』と言われてスッと立ち上がった時の周りの視線が忘れられない。
    まあ最も……その日は一がついた通知表が返ってくる日でもあったのだけど――

    「できた」


    人工の 青に映るは 水の色 瞳の裏に 焼きつく光

    「ボツ」
    「何で!?」
    「アンタさあ、弟がこんなの作ると思う?」
    「思いません」
    「もっとこう……中二男子が作りそうな物をだな……」

    母親と談義している横で、当の本人は漫画を読んで笑っている。カチンとくる。

    「『兄弟に 宿題任せる 馬鹿一人 お前もやれよ この野郎』」
    「ナイス」
    「えー……」
    「つべこべ言わないでお前も作れ!もう二度と漫画貸さんぞ!」

    何度目かの『私何でこんなことしてるんだろう……』という気持ちが胸を包む。疲れた。もう怒る気力もない。
    仕方ないので『中二男子』らしい物を作ってみる。

    「『歯にしみる アイスキャンディー もう一本 今年は何本 いけるかな』」


    ―――――――――――――――――
    余談。
    実際にこういうことが我が家で起きているので書いてみた。ポケモン出てこないけど気にしない。
    俳句・短歌は得意です。作者名言えないけど。

    【宿題終わった?】


      [No.2583] 優しい君たちへ 投稿者:ねここ   投稿日:2012/08/22(Wed) 17:42:02     108clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


     小さい頃、私はよく迷子になる子供だった。道に迷っても「迷ったということ」を認めたくなくて、ずっと一人で歩き回っていた――そんなような記憶がたくさん残っている。幼い私はとても頑固だった。今でもきっとそうなのだろうけど。

     私はある時、近所の小さな山で迷子になったことがある。普段見たことのないようなたくさんのポケモンが木々の上で生活している様子を、目を輝かせて観察していた。

     そうしたら、いつの間にか一人ぼっち。だが、私はいつものことだと軽く考え、自分からその山に迷い込んでいった。

     甘蜜をなめるヒメグマ、木から木へ飛び移るグライガー、遠くへ飛んでいくヌケニン、相撲をとるヘラクロス、瞑想をしているアサナン――。

     野生のポケモンも、その景色も、何もかもが私には魅力的に見えた。孤独の静寂さえ、楽しいものだった。

     だがそれは、最初だけ。山にはじきに夕暮れがおとずれた。いつもだったらもう家に帰っている時間。でも私は、出口の分からない天然の迷路から出ることができないままでいた。静寂の中、あてもなく彷徨い歩くしかないそんな状況。次第にゴーストポケモンが増えてきたところで、私はようやく心細くなり、ついに、どうすればいいのと泣き始めた。

     しばらくしゃがみこんで泣いていると、葉を踏む音が泣きじゃくる私の元へ近付いてきた。さくさく、さく、さくり。嗚咽に溶け込む足音。

    「ココ」

     かけられた声に顔を上げると、小さな体に鎧を着込んだココドラが、同じ目線で私をじっと見つめていた。水色の瞳が、心配そうにゆらゆら揺れている。よく見ると、ココドラの後ろにはコドラが、コドラの後ろにはボスゴドラが――。ちいさな私は驚きのあまり腰が抜けてしまい、ひたすらそのココドラたちを見上げることしかできなかった。

     しかし、ボスゴドラは私が迷子だというのを察したのか、ひょいと小さな私を肩に乗せてくれた。どこもかしこもごつごつしていたが、体温がよく伝わってきたのを覚えている。当時の私はまだボスゴドラの気性の荒さは知らなかった為、素直に「助けてくれたんだ」という思いしかなかった。

     それから、ボスゴドラは丁寧にも私を家まで送り届けてくれた。人目につかない森から森へ。誰にも見付かることはなく、私は見知った住宅街に帰って来れた。何で彼らが私の家を知っていたのかは、今でもよく分からない。けれど、それから家に帰った私は――お母さんには物凄く怒られたけど――優しいボスゴドラたちと友達になることに決めた。

     そして、今。私はあの時のボスゴドラたちと暮らしている。大学生になり、大きくなった今でも私の大切な家族だ。ココドラもコドラもボスゴドラも、あの頃から変わらない姿で、私の傍にいてくれる。迷子になった私を救ってくれた英雄たちは、今日も変わらずポケモンフーズを頬張っていた。






    怖そうなポケモンがやさしいとかわいいと思います。

    そうなん?みたいなツッコミは多々あると思いますが気にしない方向で。

    【書いてもいいのよ】
    【描いてもいいのよ】


      [No.2582] 誰も来ないけど続き書いてみる 投稿者:NOAH   投稿日:2012/08/22(Wed) 14:28:57     78clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


    かえちゃんの「引っ越し」 と言うものが終わって
    お昼ご飯も食べて、窓側になぜかあったあたしの特等席に立つと
    かえちゃんは急に「何か」 をし出した。

    ロゼッタ(ロズレイド♀)が言うには
    『かえちゃんの本を片付ける』 らしい。
    うー、みんな手伝うのかな……。

    「メイプルー、ちょっと手伝ってー。」

    『なに、かえちゃん!メイプル何でもやるよ!』

    かえちゃんの頭に乗っかって、覗き込んだ。
    かえちゃんの髪、綺麗な赤色でいい匂いー。

    「これ、カーテン。付けれる?」

    『お安い御用だ!』

    よかった。あたしもかえちゃんの手伝いができて。
    カーテンレールの上狭いから乗れないけど、何とかなるかな。

    『メイプル、無理しないでよ?』

    『もう、ロゼッタてば心配症なんだから!
    このくらい平気だよ!と、言うか、これくらいできないと
    かえちゃんの相棒失格になるよ、あたし。』

    『大丈夫よ、そのときは私がカエデの相棒になるから。』

    『え………。』

    『うふふ♪冗談よ♪』

    ごめん、ロゼッタ……冗談に聞こえない。
    まあ、相棒の座を渡す気はないから、いいけどさ!!
    とりあえず、カーテン付けちゃおっと。


    ――――――――――――――――――――――――――


    「きゃああっ!!」

    どさどさ!!

    『な、なに!?かえちゃんどうしたの!?』

    『たいへん だ ! あるじ が ほん の なか に うもれている !!』

    『いけない、助けるぞ!!』

    アコニ(ゲンガー♂)とツァオメイ(コジョンド♂)によって
    かえちゃんは本の中から助け出されました。(気絶してるっぽいけど。)

    あちゃー、部屋の中が本まみれだ。
    大丈夫かな、これ……。

    ―ドンドンドンドン!!

    「秋風さん!どうしましたー!?秋風さん!!」

    『あるじ の おとなりさん だね。でようか?』

    『俺が行く。アコニはここにいろ。
    ロゼッタとメイプルは片付け頼む。』

    あーあ、先が思いやられるよ……。


    *あとがき*
    今回はメイプル視点で書いて見ました。
    全体的にどたっとしてますね、ごめんなさい。

    引っ越し初日でトラブル発生。
    どうしてこうなった……。

    *タグ*
    【書いてもいいのよ】
    【描いてもいいのよ】
    【水東荘新規居住者、及び住人募集】


      [No.2581] Re: 【書いてみた】201号室:ミズシマ 投稿者:NOAH   投稿日:2012/08/21(Tue) 20:12:58     83clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


    おお。神風さま!ホウエン居住レポートに
    小説を投稿して頂きありがとうございます!!

    201号室、水嶋兄弟、登録しました(^_^)
    レパルダス可愛い……米粒つけてすり寄ってくるなんて……!!

    これからよろしくお願いしますね(^_^)

    では、続きをば

    ――――――――――――――――――――――――――――

    挨拶周りを終えて、部屋に戻った。
    時計の針は12時を大きく過ぎていた。

    『ヤミィ♪』

    「ふふ……お隣さんのレパルダスとすっかり仲良くなったのね」

    201号室の水嶋大輝さんと、その弟の凛さん。
    大輝さんは礼儀正しい、真面目そうな青年で
    凛さんはどこか、つん、とした、何だかチョロネコや
    ニューラを彷彿とさせる少年だった。

    そして、今はご愛用の止まり木で羽を休ませながら
    日向に当たり、気持ち良さそうに目を瞑るメイプルは
    挨拶周りで出会った、凛さんの足下にすり寄ってきた
    一匹のレパルダスと、楽しそうに、何かを話していた様子だった。
    悪タイプ同士、どこか話が合ったのだろう。
    あの場に姉さんのマニューラがいたら、更に盛り上がっていたに違いない。

    そんなことを思いながら、メイプルを始めとした、私の手持ち達の
    お昼を用意して、私自身も、ここに来る途中で寄ってきた、コンビニで買った
    お握りとお茶をちゃぶ台の上に置くと、残りの五匹をボールから出して
    大量の本や調理器をどうしようか、近くにスーパーでもないだろうかと考えつつ
    エビマヨの入ったお握りを口に入れた。


    *あとがき*
    セリフ少ない;;!!
    書きたいこと纏まらなかった上にお昼ご飯のようすしか書けなかった……。
    でも、これで一旦落ち着きましたので、ゆっくり書けます(^_^)

    カエデちゃんはヤミカラス♀のメイプル含め、6匹の手持ちがいます。
    他の5匹も追々、紹介する予定です。
    あと、彼女のお姉さんもいつか出します。

    *タグ*
    【書いてもいいのよ】
    【描いてもいいのよ】
    【水東荘新規居住者、及び住人募集】


      [No.2580] 【ポケライフ】歯磨き【百字】 投稿者:門森 輝   投稿日:2012/08/21(Tue) 17:11:20     95clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     おーい、ブースター。こっち来いこっち。歯磨き。こら逃げんな。
     ほら口開けて。あーんしてあーん、あーん……何? 鼻にねじ込んで欲しいって? はいそうそうあーん。良い子良い子。
     そのままじっとしてろよ?

    ――――――――――――――――――

     久々に100字。
     ザングースやアブソルの歯磨き絵見てたらポケモンの歯磨きってポケライフになるんじゃないかなーとか思いましてですね、こうなりました。
     ブースターにしたのはほのおのキバ(笑)をネタにしたかったからなんですけどポケライフなら理由付けしなくても良いかなーとか思いましてですね、省いたら100字に近くなったのでいっそ100字にしてしまおうと。
     まぁ何が言いたいかって言うと歯磨き絵もっと増えろって事ですね。イラコン関係無しに見たいですね。グラエナとかウインディとかブラッキーとかレントラーとかライボルトとk(強制終了
     四足の子とか自分じゃ出来ないでしょうし、二足の子にわざわざやってあげるのも素晴らしいですね。いや、自分で磨いてるのもそれはそれで素晴らしいですけど。
     とにかく歯磨き絵増えろって事です。歯磨き絵増えろ。
     
    【書いてもいいのよ】
    【描いてもいいのよ】
    【寧ろ描いて下さい】
    【ブースターかわいいよブースター】
    【歯磨き絵増えろ】


      [No.2579] 【書いてみた】201号室:ミズシマ 投稿者:神風紀成   投稿日:2012/08/21(Tue) 16:13:42     85clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    チョロネコの額ほどの空間に、ちゃぶ台と座布団二枚。
    ちゃぶ台の上に、湯のみが二つ。
    湯のみの側に、野菜炒めの皿と御握りと味噌汁のお椀が二つずつ。

    座布団の上に、子供一人。
    座布団の上に、大人一人。

    子供の側に、レパルダス一匹。
    大人の側に、ルカリオ一匹。

    『いただきます』の声が二つ。それを見計らったかのようなノックの音が、二回。
    何でもない兄弟の日常が、この音で崩される。

    「はい」

    レパルダスを撫でていた凛は、兄である大輝が立ち上がったのを確認して御握りに手を伸ばした。熱いので注意して中身を割る。梅干入り。白米がピンク色に染まっている。
    熱い味噌汁を見て、少し顔を顰める。

    「もう少しぬるめにしてって言ったのに……」

    凛は猫舌である。どんなに大好きな物でも、熱々は食べられない。おまけにこの部屋には冷房がついていない。あるのはいつ壊れてもおかしくない扇風機のみである。
    それでも日当たりの関係か、ここに越してきてからは一度も熱中症にはなったことがない。兄の健康管理のおかげかもしれないが。

    「凛!来て挨拶しなさい」

    氷水を飲んでいたところへ、兄の声が響く。ため息をついて、レパルダスを飛び越えた。
    玄関先に立つ二つの人影。一つは兄。もう一つは…… 女性だ。
    髪は赤毛。以前読んだ『赤毛のアン』に出てくる赤よりも少しだけ濃い。あちらが『にんじん』なら、こちらは『トマト』とギルバートに言われることだろう。
    背丈は小柄。いや、兄の側に立っているから小さく見えるだけかもしれない。兄は百八十近い。ちなみにオレは百五十ちょっとしかない。
    彼女の頭に停まっているのは、図鑑でしか見たことのない、ヤミカラス。重くないのだろうか。

    「今日からこの水東荘に住むことになりました、秋風カエデです。……よろしくお願いします」
    「こちらこそ。私は水嶋 大輝です。こちらは弟の凛」
    「……はじめまして」

    困ったことがあれば何でも言ってください、という兄の言葉に彼女は『ありがとうございます』と言い、『これ、うちの実家の名物です』といかり饅頭を渡してきた。
    こちらで言うヒウンアイスみたいなポジションだろうか。
    ふと足元に柔らかい感触。レパルダスが玄関先までやってきていた。口元に米粒が付いてる。

    「こら、レパルダス、ダメだってば」
    『ミャオン』

    レパルダスとヤミカラスはお喋りを始めてしまった。悪タイプ同士、何か通じ合うものがあるのかもしれない。
    『これからよろしくお願いします』という挨拶で、一先ず彼女は部屋に戻って行った。

    「美人さんだったね」
    「……」
    「どうしたの?……もしかして、気になった?」
    「馬鹿を言うな。早く食べろ」
    「はいはい」

    華ができた、気がする。
    なんだか楽しくなりそうだ。


    ――――――――――――――
    えっと、初めまして。神風紀成と申します。
    面白そうだったので書いちゃったんですけど…… いいんですかね、こんな感じで?
    他の部屋の住人さんがどんな感じなのか気になってます。
    とりあえず、彼らもよろしくお願いします(?)

    では。


      [No.2578] ホウエン居住レポート 投稿者:NOAH   投稿日:2012/08/21(Tue) 09:57:38     95clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


    引っ越し。

    それは住み慣れた土地を離れ、新しい土地で、新しい人達に出会うことができる、素敵なイベント。

    ジョウト生まれのカントー育ちでありながら、シンオウやイッシュにも行ったことがある私なのだが、ホウエンには初めて来るどころか、これから目の前の、水東荘(みあずまそう)という二階建の古いアパートに、住むというから驚きだ。

    まずいな私。生きていけるだろうか。

    「貴女が秋風カエデさん?ヘェ、これまた
    えーらしい子が来たなぁ。その紅い髪もえぇなぁ。」

    「はあ……ありがとうございます……。」

    「ああ、えーらしい別嬪さんやから見惚れてたわぁ。
    私は一応、ここの大家やっとるんよぉ。
    何かあったら声掛けてな?」

    ああ、大家さんだったのか。
    しかし、「えーらしい」 とは一体……。
    方言かな。あとで調べよう。

    とりあえず、大家さんに鍵を貰うと
    突然、腰のボールホルダーのモンスターボールから
    一匹飛び出してきた。

    間違いない。我が相棒、メイプルだ。(因みにヤミカラスの♀である)
    空中で翼を羽ばたきながら現れ、そのまま私の頭に乗っかった。
    この子は、人の頭に乗るのが好き乗っかり魔である。

    「まあ、ヤミカラス!初めて見るわぁ。
    ホウエンにはいないから、なかなか見れないんよ。
    それにしても、主人に似てえーらしい子やねぇ。」

    あ、メイプルが照れた。「えーらしい」 の意味は
    流石にわかってないな。だって私も知らないし。

    とりあえず、大家さんに礼を言ってその場を離れると、私はこれから住む、203号室に向かった。
    メイプルは相変わらず、頭に乗っかったままだ。

    カンカン、と、子気味よく階建を登ってすぐが203号室。
    貰った鍵を差し込んで扉を開けると、大きな本棚と、メイプルご愛用の止まり木(実は結構、高かったり)を含んだ
    大きな荷物以外、段ボールの中で眠っている。

    しかし、まず先に何をしよう。
    片付けか、差し入れを渡すか、調べものか……。
    メイプルは早速、ご愛用の止まり木に止まって部屋をぐるり、と見渡していた。

    時刻はちょうどお昼頃。
    しかも、今日は休日だ。

    なら、差し入れを渡して、ご飯を食べて
    それから片付けと行こうか。

    そうと決まると、私はメイプルを呼んで頭に乗せると
    ジョウト名物のいかり饅頭を持って、お隣さんへと挨拶しに向かった。


    *あとがき*
    覚えている人がいるかはわかりませんがお久しぶりです。
    NOAHと言います。語り部九尾の作者と言えばわかるでしょうか……。

    いろいろあって、現在は九州に引っ越して暮らしてます
    場所は大分県です。なのでそこで覚えた方言を入れました
    「えーらしい」とは、大分弁で「可愛らしい」 と言う意味です。

    また暫くお世話になります。よろしくお願いします。

    *タグ*
    【書いてもいいのよ】
    【描いてもいいのよ】
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      [No.2577] 投稿者:   《URL》   投稿日:2012/08/20(Mon) 22:26:27     99clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


     たまに、自分の今の日々に意味があるのか疑問に思うことがある。
     過去を振り返るのも飽きてしまった。
     最早退屈など感じてはいないが。

     自分がここに存在する事は周りから快くは思われていないようだ。
     しかし、いくら迫害されようが自分自身ではろくに動けない。
     最早、夢も希望もない。

     私の身体は常に膜で覆われている。
     外からどう見えているかなど私の知った事ではないが、中から見てみると意外と半透明で不確かな物だ。
     既に慣れてしまっただけかも知れないが。

     ある日、自分の目に小さな光が入ってきた。
     暗闇に慣れていた私にとって、その小さな光は視界が霞んでしまう程眩しかった。
     「光」から拒絶され、何時の間にか暗闇を負の走行性を身に付けていた自分だが、今回はなんとなくその「光」に近づきたくなった。

     自分の運命はなんとなく理解していた。
     この半透明で不確かな膜が無くなり周りから煙たがられる「蛾」になるのだ。
     その「運命」とやらを、「理解」はしたが、「受け入れた」憶えなど何処にもない。
     ―――自分は、「蛾」ではなく「蝶」になりたい。周りから煙たがられる、汚らしい「蛾」では無く、周りから求められる、美しい「蝶」になりたい。
     強くそう思ったことが何度かある。
     まあ、そう思うと同時に「理性」とやらにへし折られてしまうのだが。その「夢」や「希望」は。

     例の「光」は日に日に強くなった。
     「光」が強くなる度に、「痛み」も強くなった。
     この身体になり、ろくに動けなくなってから受けた「痛み」だ。
     私に「痛み」を与えた者の姿は克明に覚えているが、別に復讐しようだとかは全く考えなかった。
     ―――どうせ消えかけていた「痛み」だ。別にどうって事はない。
     ただ、憶えていたいと思った。絶対に、永遠に憶えていようと誓った。

     久しぶりに過去を振り返ってみた。
     この半透明で不確かな膜が、私を包み込んだ直後の事を思い出した。
     今ではすっかり荒んでしまったが、あの頃はまだまともな心を持っていた。
     あの頃はまだ「夢」や「希望」を持っていた。
     忘れないでいて欲しかった。
     何かと繋がっていたかった。
     恐らく、この願望は過去形で正しいと思う。

     ある日の真夜中、光が強くなるのを止めた。
     その代わりに、私自身が強く発光しているのがわかった。
     それと同時に、私は自分に進化の時が訪れた事を悟った。
     ―――やはり私は蛾になるのだろうか。
     ―――やはり私に蝶になる権利はないのだろうか。
     そんな事を思って、ようやく自分が解った。
     自分は自分で思っている程諦めの良い生物ではなかったのだ。
     そう悟りきった時、私の発光は止まった。
     もしかしたら、私は蝶になっているのかも知れない。
     そんな淡い希望を抱き、辺りを見回すが、生憎水溜りの様なものは見当たらない。
     水溜りを探してうろついていると、遠くの方に光が見えた。
     私は何かに導かれるようにその光へと飛んで行った。

          −end−


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