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夏前にぷらいべったーにあげたやつそのままです。
注意書き必読。
その1
「泣き崩れるハルカちゃんが書きたかった話」
ORのグラードンが起きた後辺りからめざめのほこら前の会話を元にしてますが、だいぶ改変が入っています。
ネタバレを含みますので未プレイの方はご注意ください。
正直言うと、どうしてこうなったのかだいぶ前からわからなかった。
どうしてわたしがマグマ団を止めることになったんだろう、とか。
そもそもホウエンを救うなんて、そんな大それたことは他の誰かがするものだと思っていた。
グラードンが目覚めた後、マグマ団のマツブサとホムラ、それからアクア団のアオギリ達が事態の収拾に動くのはわかる。マグマ団を追っている理由が自分でもよくわからないけど、マグマ団を止めるため海底洞窟に行ったわたしが避難するために外に出るのもわかる。でもなんでアオギリはわたしにルネに来いって言ったのだろう。
こんな、足の竦んでいる子どもに、何ができるっていうんだろう。だって、目の前でグラードンが目覚めるのを見た。あんな、あんな恐ろしい存在に対して何ができるの。
わたしに力を貸せ? いやいや、何言ってるの。あとは自分たちで始末を付けようよ。どこまで子どもに頼る気なの。そりゃたしかに散々マグマ団の邪魔をしておいて、今更関係ないと言い張るのは無理があるかもしれない。
でも、わたしの行く先々で邪魔をしてきたのはマグマ団の方なんだけど、とわたしは言いたい。アオギリの方こそ自分で止めればいいじゃない。自分じゃ止められなかったくせに。
なんて思って、どうしたものかと行動を決めかねていると、突然ダイゴさんが現れた。というか来るのが遅い。もっと早く来てマツブサを止めて欲しかった。そしてダイゴさんまで、わたしを頼りにしてるとか、ルネに来いという。
なんで? なんでこんな子どもにそんなこと言うの。
異常な暑さもあって、もう訳がわからない。
ここまできたんだから最後まで見届けようと言われても、はあそうですか勝手にやってくれません? としか思えない。
わたしは断る理由を探して、ルネには行ったことがないし行き方がわからないから、と説明した。
わたしの言い訳を聞いたダイゴさんは、「飛行タイプのポケモンはいるよね。じゃあ、ぼくの後について来ればいい」と言ってエアームドを出す。にっこり笑ったダイゴさんの笑顔は、わたしを連れて行く気満々だった。
そんな訳でわたしはルネへ行くことになってしまった。
本当になぜだろう。後は全部大人に任せて安全な場所にいたいのに。
全てを焼き尽くすような灼熱の太陽の下、辿り着いたルネシティは不思議な街だった。壁に囲まれている、というと人工的なものをイメージするかもしれないけど、違う。大きな山か何かがえぐれて、窪んだところに街がある、といえばいいのだろうか。
それから、街が白い。ほとんどの建物が白い材質でできているようだ。光を反射してとても眩しい。中心には大きな木、そして街を二つに分ける大きな水路が通っていて、水の街と言った風情。こんな非常時でなければゆっくり観光したいところだ。今はルネ上空に出現した太陽のような何かのせいで暑くてそれどころじゃないけど。
それにしてもなんか変だなやけに静かだなと思ったら、外には誰もおらず、そのせいで綺麗なはずの街はやたらと不気味だった。
「こっちだよハルカちゃん」
ダイゴさんが呼ぶ方へ行くと、そこには綺麗な顔立ちなのにそれを打ち消すほどの変な格好をした男の人がいた。なんだろうこの人。わたしが不思議に思うと同時に、彼もまたわたしを不思議そうに見た。なぜここにいるんだろうと思ったに違いない。わたしもそう思う。
その人自身の説明によると、どうやら彼はルネシティのジムリーダーらしい。変な格好なのも納得がいった。しかも、目覚めの祠、というものを守っているということだ。
場違いなわたしをどうしたものかと考えていたようだけど、時間もないからまあいいかとなったらしく、ミクリさんはダイゴさんとおまけのわたしを目覚めの祠の前へと案内してくれた。
目覚めの祠の前にはマツブサ、ホムラ、アオギリの三人がいて、何やら話し合っていた。
グラードンは目覚めの祠に蓄えられたエネルギーが目的らしい、というのはルネに来る前に聞いていた。彼らの話によると、グラードンを止めるには地底まで行かないといけないようだけど、どうも立ち往生しているようだ。もともとグラードンとの接触のために、マグマ団はマグマスーツなるものを開発してはいたみたいだ。けれど、予想以上に激しさを増したマグマの中を進み、無事にグラードンの元へ辿り着けるかどうかは怪しくてどうしたものかと話し合っていた、ということだった。
「……藍色の珠があれば、もしや」
ミクリさんの言葉にアオギリが反応した。送り火山の老夫婦によると、紅色の球はグラードンに力を与え、逆に藍色の球はそれを抑える力があるらしい。
「我々が送り火山から奪ったのは紅色の珠だけだ。今から送り火山へ行っても間に合うのか……?」
万事休す、とばかりに黙り込んだ大人達を前に、藍色の珠という言葉にわたしは思わず息を呑んだ。ある。鞄の中に。
マグマ団が紅色の珠を奪った後になぜかわたしに託された藍色の珠。正直、わたしが持っていていいんだろうかとずっと思っていた。でもそれが今、役に立つ。
子どもが簡単に口出しできるような雰囲気じゃなかったけど、なんとか声を絞り出す。
「あり、ます」
わたしの発言に大人達は一斉にこちらを見た。視線が集まってわたしは思わず縮こまる。
「今、なんて」
彼らのすごい剣幕に気圧されながらも、わたしは必死に声を出す。
「藍色の珠、持ってます。預かったんです」
震える手で鞄から藍色の珠を取りだした。
「これ……」
みんなに向かって差し出した藍色の珠は、ふわりと青い光を放ってわたし達を包み込んだ。それと同時に暑さが和らぐ。大人達は信じられないという目で、藍色の珠を見つめていた。
「無礼を承知で頼む……それを貸してくれないか」
一番初めに我に返ったマツブサがわたしに頭を下げた。あれだけ敵対していた、しかも大人の男性が頭を下げるだなんてとわたしはおろおろとするしかない。
「もともと私がしでかしたことだ。自分で始末を付けたい。君に託されたものだとはわかっているが、貸してはくれないか」
もちろん嫌だなんて言わない。緊急事態だし、わたしがグラードンを止めろと言われても困る。わたしは頷いてマツブサに藍色の珠を手渡した。けれどその瞬間、青い光は消えて暑さが戻ってきた。
「な……わたしでは認められないというのか! 紅色の珠を奪った私では駄目なのか!」
その後ホムラ、アオギリがそれぞれ持ったけど駄目で、ダイゴさんも試したけどやっぱり光は消えたまま。掟で中に入れないからと渋るミクリさんも持ったけど光らない。ミクリさんから返された藍色の珠をわたしが持つと、先ほどと同じように青い光を放ち、暑さが和らいだ。
嘘、でしょう。
思わず手の中にある藍色の珠を落としそうになる。どうしてわたしなの。
震えが止まらない。信じられない、信じたくない。
助けを求めるように視線をあげると、その先にいたマツブサが真剣な目をしてわたしを見ていた。
「頼む……! こんなことを頼める立場ではないとわかっているが、それでも……。今グラードンを相手に立ち向かえるのは、君と君のポケモン達だけなのだ。世界を、我々の世界を……頼む!」
そして続けてアオギリがわたしに頭を下げる。
「……ガキンチョよう。テメエにだけ重い荷物を背負わせちまってすまねえ。だが、俺からも頼む」
アクア団は他の人の救助に行くとかどうたらなんて話は、聞こえた端から頭の中をすり抜けていった。
ミクリさんまで、君は行かなければならない、とか言い出している。
みんな何を言っているの。
ただ藍色の珠を持っているというだけのわたしに、何を期待するの。
いや、そんなのわかりきっている。
だから。
*
その瞬間、英雄が生まれた、とその場に居合わせたものは思った。おどおどとしていた少女はピンと胸を張り気丈にも笑って見せた。その手が震えていることに皆気がついていたが、気づかないふりをした。
少女ならできる、とその場の誰もが口にした。
そうして少女は堂々と祠の中へ入っていった。
*
扉が閉じられた瞬間、貼り付けた虚勢は剥がれ落ちてわたしは泣き崩れた。なんでわたしなの。
怖い。怖いよ。だってグラードンは伝説のポケモンで、ホウエンどころか世界を滅ぼせるくらいの力を持っているんだよ。死にたくない。
でも、わたしが嫌だと言ったらどうなるかなんて考えるまでもなくて、首を縦に振る以外の選択肢なんてなかった。無理矢理笑って虚勢を張らなければ、足が竦んで中に入ることもできなかっただろう。
いきなりわたしに降りかかった責任は重い。
わたしが行かなきゃみんな死んでしまうし、わたしだって死ぬ。失敗してもみんな死ぬ。責任重大すぎて潰れてしまいそうだ。むしろ今潰れかかっている。
もしうまくいってもわたしだけ死ぬかもしれない。そんな考えが浮かんで涙が止まらなかった。
藍色の珠はなんでわたしを選んだの。こんな弱虫を。死にたくないよ。
ねえ、どうしてわたしだけが危ない目に遭わないといけないの。大人が勝手にやったことなのに、わたしは巻き込まれただけなのに。子どもに任せないでよ。無責任だ、身勝手だ、あんまりだ。謝るくらいなら代わってよ! 大人ってずるい。自分のやったことなのに子どもに押しつけないでよ。
外で喚いておけばよかった。結局行かされるのは変わりなかっただろうけど。死ぬかもしれないなら、強がって平気なふりなんてしなきゃよかった。文句言っておけばよかった。でも今更だ。
死にたくない、死にたくないよ。
座り込んだままわんわん泣いていると、ぐらぐらと地面が揺れた。
ああ、泣く暇もないんだ。そんなにわたしを死なせたいのかな。
涙をぐい、と拭ってわたしは立ち上がった。死にたくないなら、行くしかなかった。震える足を無理矢理動かして、奥へと進む。
ホウエンを救う? とんでもない。
わたしはただ、死にたくなかった。
**********
目覚めの祠に主人公が行かされるのは、祠には子どもしか入れない(穴の大きさ的に、もしくはそういう掟)って言ってたくろみさんの考えに今更ながら超納得しつつ、自分なりに理由を捏造してみたら藍色の珠がーになった。
藍色の珠がハルカちゃんを選んだ理由は知りません。
ほんとは主人公らしく、気丈に振る舞いつつも実は怖くて震えていて、それでもみんなのためにと危険に立ち向かう子のはずだった。
でも実際プレイしたとき、あんまりにも大人達にむかついた気持ちを思い出してたらこうなった。
ゲームではいきなり主人公に行けって言うし…。大人は行くふりくらいしようよ…。
あと、せっかく物を取り出すモーションがあるのにポケセンくらいでしか見かけないのもったいないと思った。
イベントであるかと思って期待してたのに全然そんなことなくてずっこけた。
とりあえず、中に入った途端に泣き崩れるハルカちゃんが書きたかった。
え?ユウキくん?入れる隙がなかった…。
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その2
「悪堕ちハルカちゃんを書こうとしたらただの性格と口が悪い子になった話」
これは悪堕ちじゃない…。
大人を土下座させて踏みつけたりとやりたい放題です。
いわゆるヘイト創作っぽいです。
参考:ヘイト創作 とは【ピクシブ百科事典】
http://dic.pixiv.net/a/%E3%83%98%E3%82%A4%E3%83%88%E5%89%B5%E4%BD%9C
ご注意ください。
流れ的には↑の話から分岐した感じです。
わたしに頭を下げる大人達を見て、真っ先に湧いてきた感情は怒りだった。
「土下座」
わたしの口から出てきた言葉に、みんなぽかんとしていた。
「え?」
「土下座して。地面に頭擦り付けながら、お願いしますって、土下座してよ」
ふざけるなふざけるなふざけるな。どうしてわたしがやらなくちゃいけないんだ。わたしは巻き込まれた側じゃないか。こういうのは大人が勝手にやってよ。
あまりにも理不尽な流れに、わたしは少しも納得がいかなかった。納得がいかない、なんて生温い言葉じゃない。わたしは明確に怒っていた。苛立っていた。だって、あんまりじゃないか、おかしいじゃないか。
たしかにわたしは藍色の珠に選ばれたけど、だからといって行かなきゃいけないの? 藍色の珠の件がなければわたしが行く理由もないし、そもそもここにいる必要もない。客観的に見れば、よくわからないまま連れてこられて、巻き込まれただけの子ども。それがわたし。
こんな子どもに全てを託すなら、それなりの態度をするべきじゃないだろうか。だからこそわたしは土下座を要求する。
土下座してよとわたしが繰り返せば、一瞬の躊躇いの後、マツブサは膝をつきわたしの前にひれ伏した。
「お願い、します」
ああ、いい気味だ。元凶のくせに、いや元凶だからか一番潔い。ホムラ、アオギリがそれに続いた。そのままの姿勢でいろと言っておく。太ってるホムラはちょっと苦しそうだけど。
ぽかんとそれを見ていたダイゴとミクリにあなた達も土下座して、と告げたらなぜ自分がという顔をされた。
「え、何。文句あるの?」
この場にいて、わたしに行けと言っているのはマツブサ達だけじゃないでしょう。お前らもだよ。二人の反応に苛立ちが募っていく。
「わたしさあ、ジムリーダーの娘なんだよね。うん、ミクリさんもジムリーダーなのはわかってるよ。さっき聞いたし。お父さんはジムリーダーになったばっかだから発言力はそんなにないかもしれないけどさ。あ、発言とか行為をお父さんにもみ消してもらうって話をするつもりじゃないよ。
なんていうの? その辺の子どもよりは信用あるんじゃないかな。そりゃあ、ぽっと出のお父さんより、ホウエンで生まれ育ったジムリーダーのミクリさんの方が信用あるかも知れないけど。
でも子どもが泣きながら震えて、『死ぬかもしれない危険なところへ無理矢理行かされました!』って言ったらどうかな。しかもその子どもの父親はジムリーダーだったら、本当のことかなって思いそうじゃない? そしたら可哀想な子どもの味方したくなるんじゃないかなあ。全員でなくとも、さ。
全部終わった後ならみんな言いたい放題だろうしね。子どもを無理矢理危険な目に遭わせるなんて! とか、他に方法はなかったのか! って。責めるだけなら簡単だもんね。
まあ、もし現場に居合わせたらみーんな、あなたたちと同じ選択をするだろうけど。でも終わった後なら何とでも言えるでしょ?」
脅すつもりなのかと聞かれて、脅してるつもりだけど? と返した。
「だけど状況としてはそのとおりじゃない。無理矢理、死地に行かせるようなものでしょ? それをさあ、土下座で済ませてあげるんだよ。ねえ、土下座くらい簡単じゃん。土下座してくれるならあとでぎゃーぎゃー騒がないからさ。二人とも大人なんだし、つまんないことで信用失うことになるの嫌でしょ」
ジムリーダーとデボンの御曹司である二人の社会的信用は、この程度で揺らがないかもしれないし、そもそも私が言うようなことが起きるとは限らないけど。それでもわたしは強要する。
「わかったら土下座して」
先に動いたのはダイゴだった。それを見たミクリは観念したように地面に膝をつき、ついには地にひれ伏した。そんなに信用を失うのが怖かった? それとも死ぬのが怖い? まあ理由なんてどっちでもいい。
「あ、ははははは! 大の大人が! 土下座! こんな子どもに、土下座! あっはははははははははは! ……ばっかみたい」
土下座土下座と連呼している自分になぜだか笑いがこみ上げてきて、あまりの馬鹿らしさに吐き気がした。そもそもこの状況が馬鹿馬鹿しい。大人が子どもに全部押しつけて、子どもは大人に土下座しろって言って、大人はそれに従って土下座して。とんだ茶番だ。
「誰が頭上げていいって言ったんだよ、大人しく地面とキスしてろよ」
思わず顔を上げてしまったミクリに、わたしは容赦なくそう言った。馬鹿みたいな状況だからって、顔を上げることを許した覚えはない。
それからわたしは自分の前に晒されたマツブサの無防備な後頭部を躊躇いもなく踏みつけた。
「アンタのせいだ。アンタのせいだアンタのせいだ。なんでわたしが行かなきゃいけないの。アンタが行けばいいのに、どうしてわたしじゃなきゃだめなの。なんでよどうして」
ぐりぐりと地面に押しつけるようにマツブサの頭を踏みにじる。ミクリのお綺麗な顔にも同じことをしたかったけど、さすがにそれはやり過ぎだから我慢した。マツブサはわたしを巻き込んだから容赦なく踏む。ホムラとアオギリが何か言いかける声や、マツブサからうめき声のようなものが聞こえたけど、無視。お前らの言い分なんか聞くものか。
ああむかむかする。大人達を土下座させた上に、マツブサを足蹴にしてもちっともすっきりしない。そりゃそうだ。命をかけるのはわたしだけで、あっちは土下座するだけなんだから。もしかしたら多少はプライドが傷つくかもしれないけど、命に支障はないじゃん。
もういいやと思って足をどけると、みんな頭上げていいよと言ってあげた。でも立つのは許してあげなかった。ぐしゃぐしゃになったマツブサの顔を見ても、罪悪感は欠けらも湧いてこなかった。
ダイゴとミクリは何で自分たちが、と納得のいっていない顔を未だにしていた。隠しているようだけど、わかってしまった。
お前らだってわたしに押しつけているくせに。ちっともわかってない。
イライラする。何か報いを受けさせたい。半ば八つ当たりなのは自覚していたけど、だからどうしたっていうの。
その時ふと、片方はジムリーダーであることを思い出す。もう片方はデボンの御曹司だ。ならきっと彼らは強いトレーナーだろう。
「ね、ダイゴさん、ミクリさん。ポケモン貸して? ミクリさんはジムリーダーなんだから強いでしょ。ダイゴさんもきっと強いよね。だから、貸してよ。
あ、ちゃんとわたしの言うこと聞くように言い含めてね。まさかこんな子どもに、バッジ七つ取っただけの子どもに、そのまま行けなんて言わないよね。なんせ伝説のポケモンを止めに行くんだもの、それ相応の強いポケモンが必要だよね。ねえ貸してよ。……貸せよ」
反応は返ってこない。ふうん、いいのかなあ。人の悪い笑みを浮かべてわたしは言った。
「ルネの人間は中に入れないんでしょ。今から外の人呼ぶ時間あるかなあ。しかも藍色の珠の力が使える人間を探さなきゃいけないでしょ。そんな人いるのかなあ。間に合うかなあ」
さっきから最低なことばかり言っているのに、青い光は弱まることはない。むしろ、わたしの感情に合わせて強くなっている気がした。涼しいどころかいっそ寒気がするくらいだ。
「ねえ。ねえったら」
わたしが了承以外受け付けない返事を強要すると、ダイゴが恐る恐るといった様子で訊ねてくる。
「ハルカちゃんは、お父さんやお母さんが死んでもいいのかい?」
はあ? と思ったわたしは苛立ちと共に言葉を吐き捨てる。
「そうだね、お父さんにもお母さんにも死んで欲しくないし、わたしだって死にたくない。で? だから? このまま大人しくあなた達の言うことを聞いて一人で地底に潜ってグラードンと戦えって? わたしはこのままだと成功率低いから、成功率上げるために協力してよって言ってるだけだけど?
自分で言うのもなんだけど、わたしはポケモンに好かれる質だし、バトルの腕もなかなかだよ。多分将来有望。でもさすがに四天王やチャンピオンの域には達してないよ。グラードンみたいなやつには、そういう強い人が立ち向かうべきじゃない? その代わりをトレーナーになったばかりの子どもがするんだから、それ相応に協力してよ。理解した? ならさっさとポケモン貸して」
そうして二人から半ば奪うようにポケモンを借り受けたわたしはあっさり目覚めの祠の中へ入っていった。去り際に、じゃあいってきますと言ったら、みんなぽかんとしていた。
そりゃわたしだって死にたくはないからね。あんまり駄々こねて時間切れになったら嫌だもの。
ぐらぐら揺れる地面に苦戦しながらも奥へ進むと、いきなりマツブサから通信が入った。グラードンの背中に飛び乗れって? 自分のことじゃないからって無茶振りしやがって。あとでもっかい踏んづけてやろうか。
そんなこんなで辿り着いた最深部。
ミクリ達から奪った、もとい借りたポケモン達をボールから出した。嫌な相手から借りたからって、ポケモンを死なせるようなことはしない。でもわたしのポケモンより鍛えられてて強いのは確実だから頼りにする。その結果、ちょっと危険な目に遭わせるかもしれないけど。ごめんね。
でも大丈夫。みんなで生きて帰る気しかないから。
わたしは藍色の珠を握りしめて、絶対に帰るんだから、と呟いた。
激闘の末、わたしはグラードンを倒した――ことになっている。
みんなにグラードンは倒したって言ったけど、実はちゃっかり捕まえた。やってみたら何とかなるものだね。グラードンはそのまま眠りについたことにした。どうせ誰も祠の中には入らないからばれないでしょ。
マツブサから自分の代わりに返却して欲しいと頼まれた紅色の珠はまだ返してない。もちろん藍色の珠も。これで何しようかなあ。あ、借りたポケモン達もどさくさに紛れてまだ返してない。返す気はあんまりない。大丈夫、大切にするから。
世界の存亡を握ってるっていい気分。わたしがその気になれば全部壊せるんだもの。
わたしに酷いことしてもいいよ? その代わりぜーんぶ壊すけど。
さあ、いつ壊そう?
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悪堕ちじゃなくてこれじゃあただの性格悪い子ですね。
作者の性格が悪いから仕方ない。
別にこのキャラが嫌い・憎いなんて気持ちは全くなくて、たんに悪者にしやすいからというダメダメな理由。
悪者にしやすければ誰でもよかった
(あとオチが行方不明すぎて酷いことになって申し訳ない。
ダイゴって呼び捨てにするの超違和感あった。
「ダイゴさん」で一つの単語だから…刷り込まれてるから…(主にくろみさんによって)
ユウキくんは来てなかったことにしてください…これに巻き込むのはあんまりだわ…。
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その2.5
「足して二で割ったらいいかも思ったけど堕ちてないし途中で飽きた話」
書いた話を足して二で割ればちょうどいいのでは?と思ったものの、同じような話を3パターンも書くのに飽きたので、途中で投げました。(読む方も飽きたのでは…)
一応、オチまで書いたけど文章スカスカです。
「……むり、です」
そう言った瞬間、空気が凍り付いた。
「無理です。わたしには、できない……」
「君以外に誰ができるんだ。みんなの命がかかっているんだ」
「……だ、やだ! 何でわたしなの! わたし何もしてないじゃない!」
「マグマ団に立ち向かってきた勇気はどこに行った!」
「そんなの、最初からなかった! わたしの行く先で邪魔をしてきたのはそっちじゃない!」
どうして誰も彼もわたしに行かせようとするの。無理だよ。わたしには荷が重すぎる。
「ハルカちゃん、君が行かなければみんな死んでしまうんだ。ハルカちゃんのお父さんやお母さんも」
「……知らない。知らない知らない、知らない! そんなの知らない! 聞きたくない!」
耳を塞いだところで無意味なのはわかっている。
「行け! 行くんだ!」
「嫌! なんでわたしが行かなきゃいけないの! あなた達が引き起こしたことなのに!」
大人の力には逆らえなかった。暴れるわたしをアオギリが羽交い締めにする。
「……すまない」
誰かの言葉と共に、わたしは目覚めの祠に放り込まれた。続けてマグマスーツがどさりと私の隣に落ちた。
「え」
そして無情にもわたしの目の前で扉は閉じられる。
「出して! 開けて!」
何度も叩くけど開く様子はない。
「なんでえ……」
わたし悪いことした? なんでこんな目に遭わなきゃいけないの。
閉ざされた扉に縋りつきながらわたしは泣き崩れた。
行きたくないよ、死にたくないよ。危ない目になんか遭いたくない。どうしてわたしなの。嫌だ。嫌だよ。
誰も彼もわたしの味方なんかしてくれない。大人なんて大嫌い。
汗と涙のせいで脱水症状でも起こしたのか、頭が痛くて意識が朦朧としていた。動かなければと思うのに、座り込んだまま動けない。
ぐらぐらと揺れる地面に、もう時間が少ないことを悟る。仕方なしに、マグマスーツを抱えて奥へと進んだ。
地底で対峙したグラードンはあまりにも強かった。
みんな必死で戦ってくれた。でも、みんな倒れてしまった。誰ももう、戦えそうにない。
ああ、もうダメだ。わたし、ここで死ぬのかな。この子達も道連れだ。
そう思ったら、いったんは止まった涙がまたあふれ出して目の前がにじむ。
どうしてわたしだったの。こんなにも弱いのに。勝てなかったのに。
あれだけ頑張ったのにグラードンは弱っている様子もなくて、暑さは一向に収まる気配はないし、それどころか増すばかり。藍色の珠がなければきっととっくに死んでいるだろう。もしかしたらこのままだと藍色の珠があってもダメかもしれない。
ああ。暑い、暑い、暑い暑い暑い暑い暑い暑い。
ぼんやりとした頭にふと、ポケモンなら捕まえられるんじゃないか、という考えがよぎった。無理だな、と思いつつ、わたしは今まで何度となく繰り返してきた動作をなぞる。
気がつくと暑さが和らいでいた。あれ?
前方にタイマーボールが転がっている。グラードンは、いない。
帰還したわたしを、誰もが英雄だと言ってもてはやした。わたしはそれに対してにこやかに応じる。けれど心は凍ったまま。どうせみんな、いざとなったらわたしを犠牲にするんでしょう?
あるとき、なんかもう何もかもに疲れてしまって、どうでもよくなって。
ふと、グラードンの入ったボールに話しかけた。
「全部壊しちゃおうか」
その言葉に、ボールがかたりと揺れた。
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地の文書く気力とかなかった。
大人達が酷いですね。
まあ、本気で拒否したらきっとダイゴさんや四天王が何とかしてくれるでしょう。タブンネ。
なぜタイマーボールなのかというと、RS時代は一定ターン以上経過したときのタイマーボールが最強だったから(マスターボール除く
…ですよね?
全編にわたりユウキくんを除け者にしているのは嫌いとかじゃなくてただの技量不足です…。
ユウキくんごめん。
ていうかハルカちゃん、主人公にあるまじき性格ですね…。
以上です。
お粗末様でした。
ホウエン地方、シダケタウン。
ポケモンコンテストはあるが、小さな田舎町である。が、療養地としても有名な場所で、そこへ移住してくる者たちは多い。
その町に、最近新しくある施設が建てられた。トレーナー側の事情でめんどうが見れなくなったポケモン・怪我や病気、生まれつきなものや事故で体の一部が欠損したポケモン・親を亡くしたポケモンなどを預ける施設である。
その施設を建てたのは、ジョウトからやってきた2人の姉妹である。姉はポケモンドクターとしてとても有名な人物で、その妹はブリーダーをしている。
そしてこのお話しは、この2人の姉妹と、彼女たちの支援者である、イッシュ地方ではその名を知らない捕獲屋たちのお話しである。
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*
*
<Case File_1 "英雄"ザングースと"居眠り"チルット>
「さ、診断は終わりよ、新しい包帯持ってくるからここで待ってなさいね、ザングース。」
顔の左側と右足の付け根辺りが禿げ、そこから覗く皮膚は赤く腫れ上がっている。
左目は色素が抜けたのだろうか、本来その瞳の色は黒であるはずなのだが、灰色に変色している。
さらに、爪は左右で長さが違い、こちらにも火傷痕がある他、大小様々な傷痕が痛々しくその両手両腕に残っている。
しかし当のザングースは特に憶することも気にする様子でもなく、むしろ堂々とした態度を取っており、両腕を組んで治療室の椅子にどかりと座っていた。
「クルミ姉さん、診察終わった?」
「あら、お帰りカエデ。あとはあの子に包帯巻けば終わり。」
「?……あ、ザングース。ここにいたの。」
クルミと呼ばれた、白衣を来たハニーブラウンの髪の女性の下にやってきたカエデと呼ばれた少女は、その自慢の赤い髪の上で図太くも居眠りを決め込むチルットと共にやってきた。落ちないようにこっそり手で支えているあたり、その行為を許容してるようである。
が、その居眠りチルットを目にした瞬間、それまで堂々としていた態度のザングースが一変して心配そうな顔付きになる。
椅子から降りて慌ててカエデに近づき、眠りほうけているチルットの顔をそっと覗き込んできた。
「はい、あなたに預けに来たの。姉さんのギャロップにうっかり踏まれそうになったのよ。」
「あら、ヴァニラが?」
「うん。ていうか、踏まれそうになったのに普通に寝てたよこの子。一度起こしたんだけどね……。」
「ふらふらとあなたの頭上に移動してまたそのまま寝ちゃったってわけね……ほんと図太いわね……。」
*
*
<Case File_2 "盲聴"バクオング>
「朝っぱらからうるっさいわね……なんなのよ一体。」
いつもは静かなシダケタウン。しかしその日の朝は、カナシダトンネル方面から響く爆音によってかき消されていた。
その爆音に不満をもらしながら、寝癖だらけのハニーブラウンの髪をボサボサとかき乱すクルミに、彼女の妹のカエデが真新しい白衣を渡す。
「なんか、カナシダトンネルに住み着いたバクオングが暴れまわってるんだって。ジュンサーさんがきて、その対処にリラさんが向かってった。」
「はぁ?なんで車椅子のリラが……。あぁ、ヴィンデとシュロは昨日から留守にしてたわね……。」
「そういうこと。もう少ししたら連絡が来るんじゃないかな。」
「なるほどね、だからリーリエ嬢ご自慢のお紅茶さまが淹れられてないわけだ。
バクオングか……カナシダトンネルはゴニョニョの一大生息地だからね。その中の一匹が進化したのかしら。」
まあ今は考えても始まらないか、と考えて、クルミは寝癖だらけの髪を整えようと洗面所へとその足を向けた。そしてそれと入れ違うように電話が鳴り、カエデがその受話器を取った。
「お電話ありがとうございます。こちら、ポケモン福祉養護施設『葛の葉』の秋風です。」
『あ、カエデちゃん?我らがミス"破天荒"はお目覚め?』
「あ、リラさん。うん、姉さんならさっき起きてきて、いま寝癖治してる。」
『そ。なら早急にカナシダトンネル内に来てって伝えといてくれる? 爆音の元凶さん、ちょーっと様子が変なのよ。』
*
*
人間にも特別養護施設があるんだからポケモンにもあっていいじゃないかと考えて出来た施設が
「ポケモン福祉養護施設『葛の葉』」
我が家のオリジナルトレーナーの設定を何人か改変したうえで小出ししてみました。
ほんとはちゃんとここの長編板に書くつもりだったんですがお仕事が忙しくて進まなかったのでこちらの一粒万倍日の企画の方へと流してみましたん。
Case File_1 は、体中に重度の火傷痕を負いながらもポケモンのタマゴを助け出したザングースと、大火事の後でそのタマゴから孵ったチルットのお話し。
Case File_2 は、生まれつき盲聴のドゴームがバクオンに進化して、その突然の事態に混乱してカナシダトンネル内で暴れてしまうのを、クルミさん(オリトレその1・ポケモンドクター)とリラさん(オリトレその2・車いすに乗ったエリートトレーナー)が鎮めるお話しです。
それぞれザングースとチルットのお話しは前々から書き溜めていたもので、バクオングの話しはツイッターで
「生まれつき盲聴のバクオングが、どれくらいの声量を出せば人間や周りのポケモンたちに迷惑をかけないか試すために、毎日のように大声を出していたら、とかどうでしょうか。」
というりぷを頂いたのをきっかけにそれだ!!と思って書いてたものです。
内容はちょっと違う感じになってしまいましたけどね。
それぞれきちんと形にするつもりではいたんですけどね。時間が許してくれませんでした。でもまた機会があったら再挑戦するつもりです。
to 砂糖水さん
一粒万倍日企画にまた投稿させていただきました。
前に載せていただいた『義足、ワイン、薔薇の花』だけのつもりだったのですが、結局このお話しも書きかけになってしまったのでリサイクルさせていただきました。
まだまだお休みが必要でしたら焦らずゆっくり休んでくださいね。砂糖水さんの体調が良くなりますように。
NOAHより
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タグ: | 【フォルクローレ】 |
たくさんの応募をいただき、ありがとうございました。
GPSさんのやつを採用したく思います!
他のやつは未定ですが、本当に余裕があれば…という感じなので、可能性は低めです。
今後は掲示板企画としてご投稿いただけますと幸いです。
ご投稿、ありがとうございました!
タグ: | 【業務連絡】 |
連載モノはカフェラウンジ2F(http://masapoke.sakura.ne.jp/rensai/wforum.cgi)でやったほうがいいですね。
もともと連載用の板なのに加え、途中で止まろうがなんだろうが問題にしてない板なので。
書き続けたかったらそこで続ければいいし、無理そうならやめてもいいですし。
では。
8月13日、快晴。本日も真夏日の予感。
朝からわんわん響く蝉しぐれで目を覚ました。近頃は目覚まし時計が仕事をしなくて済んでしまっている。もごもご起き出して歯を磨いて、洗濯機を回して、朝食用に目玉焼きを作る。そこでふと気づいた。ヤツはどうした。普段ならぼけらーっとした表情で電気鼠やら灰色の鳩やらに化けて部屋中を転がりまくっているへんしんポケモンが目につかない。片付かないワンルームを見回して、紫色の姿を探した。変身していなければの色だが。
紫のめにょんとした生き物はローテーブルに載っかっていた。ノートパソコンやらティッシュボックスやらを押しのけて自分のスペースを作っている。めにょんメタモンは木目調の壁を見つめていた。
「めにょん? 朝ご飯だよ、どうしたー? おーい?」
メタモンは黒ごまの目で私をちらりと見て、また壁に目線を戻す。ハンズで買った壁紙を自分で貼り付けた。素人仕事でしわが目立つが、それ以外はいたって普通の壁。そこをじっと見つめるのは、こちらの精神衛生上良くないのでやめて欲しい。メタモンを持ち上げようとするが、敵も然る者。下だけオクタンに変身して吸盤で机に吸い付いてくる。メタモンの視線の先を見つめてみるが、私に見えるのは壁紙のしわだけ。みつめているとしわが人の顔のように思えてきたので、やめた。
固焼きにした目玉焼きと白米をもって冷蔵庫の前に陣取る。メタモンが見つめている先を見ながら食事はしたくない。ご飯はおいしく食べるべきものだ。蜂蜜梅干しでご飯を食べていると目玉焼きが消えた。みるとメタモンの口が目玉焼きを飲み込むところだった。
その日、一日、メタモンは動くことなく壁を見つめ続けた。
☆★☆★☆★
8月14日、快晴。本日は夏日だとか。
8月に入ってから、とんと目覚まし時計の仕事がなくなっている。かわいそうに。すべては蝉しぐれのせいだ。火炎放射器で焼き払ってやりたい。もごもご起き出して歯を磨き、洗濯機を回し、冷凍庫の食パンをオーブントースターで焼く。そしてやっぱり、メタモンは転がり回っていない。昨日の夜は布団に入ってきてひんやり冷たい思いをできたが、私が起き出す前にローテーブルに載っかって昨日と同じく壁を見つめている。なにがいるって言うんだ、本当に。
「めにょん、朝ご飯。今日はパンだよ、パン。耳をくれてやろう」
メタモンは昨日と同じく黒ごまの目でちらりと私を見て、すぐに壁に目線を戻す。――と思ったが、今日はもごもご動いて私と壁を交互に見る。メタモンが見つめる壁を見てみたが、昨日と同じにしか見えない。ごめんよ、めにょん。私には壁紙のしわしか見えない。チン、とトースターがパンの焼き上がりを告げた。
本日はマーガリンを塗ったパンをキッチンで立ち食いすることにした。今日はメタモンが見つめる先を見ながら。背中はしっかり壁に押し付けている。なんとなく、だ。なんとなく。見つめ続けてもしわ以外のものが見えてこない。アイスコーヒーのカップに手を伸ばしていると、食べかけのパンが消えた。みるとメタモンの口に半分のパンが飲み込まれるところだった。
試しにローテーブルを動かしてみたが、メタモンは器用に顔とおぼしき部分だけを動かして壁を見つめ続けた。ヨルノズク並に回る首だ。
☆★☆★☆★
8月15日、快晴。暑い。本日は猛暑日になりそうだ。
息苦しさで目を覚ます。扇風機のオフタイマーをセットした自分が恨めしい。目覚まし時計をセットし忘れたが、なんの支障もなかった。もごもご起き出そうとして、胸のうえに紫色の物体をみとめた。そりゃまあ、重いはずだ。メタモンにしては小さめの2.5キロをよいせとどけて、もごもご起き出す。歯を磨く。洗濯機を回す。朝食用に作り貯めの
冷凍ホットケーキを解凍する。朝のあれやこれやをこなす私の後を、メタモンがめにょめにょついてきた。
「めにょん、今日は壁みつめなくていいの? ああ、今日はポケフーズだから」
2日ぶりのローテーブルだ。マグカップ入りの緑茶、ぷちホットケーキ二枚、ついでに昨日の残りのポテトサラダ。やっぱりテーブルはいい。食べながら壁をみつめてみたが、なんの変わりもない。当然、8月12日以前のままだ。となりのメタモンをみるとポケフーズの皿を持ち上げてざらざらと一気食いしていた。
暑くて蝉の声も聞こえない。苦労してつけたすだれも意味がない暑さだ。もう空気が熱い。メタモンもとろけている。面積が広がった分、ポケモン用冷却マットに張り付いて多少は涼しそうだ。私も人間用冷却マットを敷いて腹ばいで本を読む。こうしていても、視線なんて感じやしない。一昨日、昨日のメタモンはなにかぼうっとしたい日だったに違いない。そういえば、昨日の夜はメタモンがくっついてこなくて暑かった。叫ばれる節電の夏、一人暮らしでクーラーをつけるのはどこか申し訳ない。寝付きにくい夜で、寝不足だ。
いつの間にか寝落ちてたらしい。目の前にちらつくすだれ越しの陽は夕方の色で、風も幾分かは熱が落ちている。頬に本の跡をつけ、しばらく寝起きの「あと5分だけ」にしがみつく。ふと、影がおちた。小さな影じゃない。ひとの形だ。
あれか。いつもメタモンに雑誌やらバラエティ番組やらを見せて好きな俳優に変身しておくれ、それでにっこり笑って座ってるだけで良いから、それをみて私はニヨニヨするごっこをしているからか。やめてくれ、メタモン。余所から見れば私は立派な変態だ。第一、いつもはあんなに拒むくせに……、
「めにょ……んー」
変身したメタモンが私の髪をなでつける。やたらしわくちゃで、いつも変身して欲しいとせがむ俳優の手には似ても似つかない。むしろこれは、おじいちゃんの手のような、なんというか安心できるような……。がばりと起き上がってメタモンを見る。
老いてなおお洒落で、髪型はいつだって気にしていた。白というより銀の髪を懐かしいにおいのするワックスで撫でつけて、いつも優しげに笑っていて、会えば楽しく勉強しているか訊いてきた。祖母曰く典型的な亭主関白で、若い頃は女好きで、いつも問題つくりまくって、とにかくめちゃくちゃだったらしい祖父がいる。
祖父の口が動く。声はない。「げんきでいるか たのしいか いっしょうけんめいか」あたりだろうか。
呆気にとられたのは一瞬で、その次には祖父の姿がめにょんっと崩れ、紫のメタモンが現れた。黒ごまの目で私を見上げ、にぃっと笑う。めにょめにょ、私の膝に上がって、もう一度にぃっと笑う。メタモンを抱き上げて、めにょめにょした紫の身体に顔を埋めて、なんて答えよう。とりあえず、
「元気だよ。楽しいよ。一生懸命だよ」
++++++
最後の締まりがないなと思いつつ、出してしまえとお邪魔します。それ以前にこれでお題に合っているのだろうかから疑問に思いますが…。
投稿フォーム一発書きは危険ですね、うっかりどこかクリックして画面が飛んであわててブラウザバックしたら文章のこっててホント泣きたくなりました。
Julia(ユリア)
ある夏の日のことだった。森の近くの道を歩いていると、視界の端に黄色いポケモンの姿が映った。ピカチュウだった。群れからはぐれたのか、他に仲間はおらず、ただ一匹だけで佇んでいた。
ピカチュウはこちらを見つめていた。その大きな黒い瞳に、おれは思わず惹き込まれた。やがてピカチュウはおれから視線を外し、森の方へと歩き始めてしまった。しばらく行ったところで、途中で後ろを盗み見るように振り返った。おれが同じ場所にいることを確認すると、戸惑うように視線をさまよわせ、また背を向けて歩き始めた。後方からの視線が気になるようで、振り返ろうとしては止める動作を何度か繰り返していた。おれは、後を追っていいものか迷った。そうしているうちに、ピカチュウの姿は森の中へと消えていってしまった。
それから数キロ歩き、辺りが暗くなり始めた頃、おれは目指していた街に到着した。さほど大きくはない。都市と都市との中継地になるような街だった。だが、どんな小さな街にも、食堂と墓地とポケモンセンターはある。おれはさっそくセンターへ赴くと、ポケモンたちの回復を頼み、今晩の宿をとった。それほど腹は減っていなかったので、紅茶を一杯だけもらうことにした。ポケモンセンターの主であるジョーイさんと談笑しながら、紅茶の香りを楽しんだ。飲み終えると、借りた部屋に向かい、机の上に荷物を置いて、ベッドに横になった。天井を見つめながら、昼に出会ったピカチュウのことを考えていた。
翌朝は5時に起床した。着替えを済ませ、食堂へ行って、朝食のトーストをかじりながら新聞に目を通した。天気欄の他に興味深い記事はなかった。部屋に戻り、身支度をし、受付のジョーイさんに挨拶をして、チェックアウトした。次の目的地へ向かう前に、ふと思い立って、昨日ピカチュウと出会った場所に行ってみることにした。まだ日も高くなく、涼しい時間帯だった。しばらく歩いて、昨日の森が見えてきた。
ピカチュウは昨日と同じ場所にいた。いち早く人が近づく気配を察知していたらしく、こちらが発見したときには、おれの方を見つめていた。片手を上げて挨拶すると、ピカチュウは目をそらしてしまった。だが、今日は森の奥へ行こうとはしなかった。時々こちらを気にする素振りをしながら、所在なさげに空を見上げていた。おれは思い切ってピカチュウの側に近づき、話しかけてみた。
「おはよう。昨日も会ったね」
ピカチュウは、まるで初めて俺の存在に気付いたかのように、驚いた表情を作って見せた。
「君は、この森に住んでるのかい?」
どっちつかずの返事だった。
「ここで何をしてたの? 辺りには、特に何もなさそうだけど」
ピカチュウは言葉を濁した。おれはポケモンの言葉がわからない。なんとなくニュアンスを感じているだけだ。しゃがみこみ、ピカチュウと視線の高さを合わせた。
「突然こんなこと言ったら困るかもしれないけど、君のことが気に入ったんだ。よかったら、おれと一緒に来ないか?」
ピカチュウは、うつむいて黙り込んでしまった。明確に拒否されたというわけではないようだった。大きな黒い瞳には、迷いの色が浮かんでいた。近づいてみて気付いたが、このピカチュウはメスだった。女性に返事を強いてはいけない。おれは立ち上がった。
「明日、また来るよ。返事を考えておいてくれたら嬉しい」
別れ際、おれはまた片手を上げて挨拶をした。ピカチュウはうつむいたままだった。
それから、今朝出発したばかりのポケモンセンターに舞い戻り、二泊目の手続きをした。ジョーイさんは「この街を気に入っていただけたんですね」と嬉しそうだった。事情を正直に話すことは恥ずかしいように思われたので、「ええ。いい場所ですね」と曖昧に微笑んでおいた。
おれは、ポケモントレーナーの修業をしながら旅をしている。将来はジムリーダーになることが目標だ。どうせならトレーナーの最高峰であるポケモンリーグの四天王やチャンピオンを目指せ、と激励する人もいるが、現実的に考えて無理だ。努力すればジムリーダーにはなれるかもしれないが、それもギリギリできるかどうかだと思っている。大会で実績を残せば、まずはジムトレーナーとして雇ってもらえる。そのジムの中で実力を高め、先代のリーダーの指名を受けて、ようやくジムリーダーになれる。だからその道筋は、各地のジムを回って修業を積み、実力を上げ、リーダー公認の証であるバッヂを集め、地方リーグに出て勝ち進み、あわよくば全国大会へ進出することだった。
今滞在している街にもジムはある。ポケモンリーグ公認ではないのでバッヂはもらえないが、一時の修業の場としては十分だろう。おれは旅の途中で仲間にしたポケモンたちを連れ、ジムに出かけた。
ジムにはおれ以外の利用者はおらず、のびのびと施設を使うことができた。それどころか、リーダーから直々に指導を受けることもできた。午前中の約4時間、みっちりと修業を積み、ポケモンたちもおれも疲労困憊だった。小規模ながら、ジムの質は高いように思えた。じきに公認を受けることになるだろう。おれがそのように言ったら、リーダーは「それはどうかな」と笑った。
昼食もリーダーと一緒にとった。滅多にない機会なので、ジムリーダーの内情についていろいろと質問をした。公認ジムになるとポケモンリーグから支給金が出る代わりに、雑務が大幅に増え、訪問者が激増する。トレーナーを雇うことになるので、彼らの管理もしなければならない。リーグ公認と言えば聞こえはいいが、負担はかなり大きくなるようだった。リーダーは「今の気楽なジム商売が性に合っている」と言った。「しかし公認リーダーは名誉ではないですか」とおれが尋ねると、「名誉がすべてではないよ」との返事だった。
午後は街を観光した。それほど見る場所はなかった。まずは、街外れでひっそりと営業している博物館に行って「街の歴史展」を一通り眺めた。帰り際、併設されていたみやげ物屋で立ち話をし、街が見どころとして推している古い建築物を三か所ほど教えてもらった。すべて徒歩で回ってみたが、旅をしている者にとっては、どれも特に真新しいものではなかった。
歩き回って腹が空いたので、夕食をとるためにポケモンセンターへ帰ることにした。その途中、店仕舞いを終えたジムリーダーと出くわした。飲みに誘われたので、ご相伴に預かることにした。ポケモンセンターに電話を掛け、今晩の食事は要らないとの旨を伝えた。ジョーイさんが「今日の料理は特別に力を入れましたのに」と残念そうに言ったので、おれは申し訳ない気持ちになった。
リーダー行きつけの飲み屋では、今のおれにとって一番関心のある話題になった。森の近くで出会った、あのピカチュウのことだった。
「あの子はねえ、人を待ってるんだよ」
「待っている? 捨てられたのですか?」
「ん……詳しい事情は知らないんだが、もう一週間はあそこにいる。食べ物はなんとか調達しているみたいだ。しかし、森にも馴染めず、行くあてもなく、待ち人は来ない。引き取り手もいない。哀れな子だ」
おれはその話を聞きながら、ある決心を固めていた。
それからしばらく飲んだ。勘定を済ませ、店を出た。よろめきながら、どうにかポケモンセンターにたどりつくことができた。ジョーイさんはまだ起きていた。おれが酔っ払っているのを見つけると、「しょうがない人ですね」と言って、水を用意し、おれの部屋まで付き添ってくれた。田舎の人は優しいのだなと、半分眠りに落ちながら思った。
翌朝起きたのは9時過ぎだった。おれは朝食の時間に大幅に遅刻して食堂に向かった。食事はまだ片づけられていなかった。昨晩の「特別に力を入れた料理」を取っておいてくれたらしく、朝から宮廷料理のフルコース並みの豪勢なメニューだった。二日酔いで頭が痛かったが食欲はあったので、よく味わって残さず食べた。
食堂を出ると、その足でセンターの受付に向かい、ジョーイさんに朝食の礼と昨晩の詫びを言った。それから、長期滞在の手続きを頼んだ。驚くジョーイさんには「もっとあなたの料理を食べたくなったので」と説明したが、滞在を伸ばすことを決めた本当の理由は、この街のジムに通うためだった。公認でないとは言え、リーダーが直接指導してくれるジムは貴重だからだ。指導内容も悪くない。吸収できるだけのことを学んでから出発したかった。もちろん、例のピカチュウのことも理由の一つではあった。だが彼女の件は、今日中に結果を出すつもりだった。
滞在手続きを終えると、おれは三度目の正直と意気込んで、あのピカチュウがいた場所へと向かった。そうして、おれたちはまたしても対面を果たした。片手を上げて挨拶をすると、ピカチュウも遠慮がちに同じ挨拶を返してくれた。おれは嬉しくなった。昨日のようにピカチュウと視線の高さを合わせ、単刀直入に切り込んだ。
「誰かを待ってるんだね。もう、一週間も」
ピカチュウは目を伏せてしまった。
「その人のこと、好きだったのかい?」
首を横に振った。否定ではなく、わからない、という意味のように思えた。
「帰ってくるかもわからない人を待つのは、辛いと思う。おれなら、君にそんな寂しい思いはさせない。いつだって側にいる。だから、一緒に来て欲しい」
目をまっすぐ見据え、精一杯の求愛の言葉を告げた。ピカチュウは黙っていた。おれは返事を待ち続けた。実際にどれくらい経ったかわからないが、何時間も待ち続けているような気がした。
しばらくして、ピカチュウが、かすかに頷いたのがわかった。了承の返事だった。歓喜を抑えながら、おれはピカチュウの手を取った。彼女は、大きな黒い瞳で見つめ返してきた。至近距離でその瞳に見つめられると、ぞくりとした。
「ありがとう。君のこと、大切にする」
おれはピカチュウに名前を捧げた。昨晩すでに考えてあった名前だ。
ユリア。それが彼女の新しい名になった。
ポケモントレーナーが一番苦労するのは、ポケモンたちのメンタル管理だという。トレーナーが特定のポケモンだけに愛着を持つと、他のポケモンたちが嫉妬する。そうなるとバトルどころではない。言うことは聞いてくれないし、ポケモン同士の連携など望むべくもないからだ。そのことを思い知ったのは、ユリアがパーティに入ってからだった。
おれは最初からユリアにぞっこんだったが、彼女の方はそうでもなかった。ユリアを食事に連れて行き、おれの真向かいに座らせ、積極的に話しかけてみるが、いつも曖昧な返事しか寄越さなかった。ポケモン用のアクセサリーなどを買い与えてみても、つれない反応を示すだけだ。ユリアとの付き合いのことで悩み、寝付けない夜もあった。ポケモンの感情に関する本を読み漁ってもみた。とにかくおれの頭の中はユリアのことでいっぱいだった。
そんな体たらくだから、次第に、以前から一緒にいるポケモンたちへの配慮が手薄になっていった。感情面での付き合いが減り、義務的なやり取りに終始するようになった。気付いたときには、おれはポケモンたちからの信頼を失ってしまっていた。そのような状態に陥って初めて、彼らの気持ちを理解した。トレーナーとポケモンは一蓮托生。ポケモンからすれば、トレーナーに見向きされなくなったら終わりなのだ。おれはユリアを除くポケモンたちと話し合い、謝罪し、これからは改善していくと誓った。彼らの反応は、納得半分、疑い半分、と言ったところだった。これからの行動で示していくしかなかった。
ところが、他のポケモンたちとの時間を増やすと、今度はユリアが機嫌を損ねてしまった。これまで、おれのことなど何とも思っていない風に振る舞っていながら、自分への関心が薄れると途端に不満を持ち始めた。厄介なことになった、とおれは感じた。ユリアに構うと他のポケモンたちが不満を持つ。逆もまた然り。そのような構図では、両者が仲違いするのは時間の問題だった。パーティの空気が悪くなり始めていた。問題の根本にユリアがいるのは明らかだった。
おれは宿泊中の部屋で、ユリアだけをボールから出した。不機嫌そうな表情だった。
「やあ。とりあえず座ってよ」
ベッドの上に座るよう勧めると、ユリアはその通りにした。おれは椅子に座った。
「何を話したいかは、わかるよね」
そっぽを向いたまま何も答えない。
「ユリア、もっとみんなとも仲良くできないかな?」
無反応。
「おれも、君だけに構ってやることはできないんだ。それはわかってくれるだろ?」
するとユリアは、なじるような視線を向けてきた。耐えかねて、思わず目をそらしてしまった。気付いてはいた。彼女は捨てられたポケモンだ。普通のポケモン以上に愛情に飢えているはずだ。ユリアがずっとつれない態度をとっていたのは、おれが本当に愛情を注いでくれるか試していたのだろう。おれは再び彼女の瞳を見つめ、言った。
「おれは君が好きだ。初めて会ったときから好きだった。本当のことを言うと、他のポケモンたちより、ずっと好きだと思う」
ユリアの視線が落ちた。
「でも、おれはポケモントレーナーだ。少なくともみんなの前では平等に接しなきゃならない。好きな気持ちを抑えなきゃならない。だから、もしそれを許してくれないのなら、おれは君を――」
突然、ユリアがベッドから飛び降り、おれの足にすがりついてきた。あの黒くて大きな目にうっすらと涙を浮かべ、見上げてくる。その眼差しに、おれは吸い込まれそうになった。どうしようもなくユリアが愛おしくなった。おれは彼女の小さな体を抱き上げ、そのまま抱き締めた。抵抗はなかった。
「ごめん。寂しい思いをさせてしまったね。二人きりの時は、思い切り甘えていいから」
腕の中ですすり泣く声が聞こえてきた。おれはユリアの体温を感じていた。
その晩、おれたちは一緒のベッドで眠った。
しばらくユリアは上機嫌だった。他のポケモンたちとも表面上はうまくやれるようになった。しかし、火種がいまだくすぶっているのをおれは感じていた。早いうちに、何とかしなければならない。
ジムでの修業後、自販機で買ったコーヒーを飲みながらパーティのメンタルケアについて考えていると、リーダーに話しかけられた。
「今日もお疲れ様。ところで、君のピカチュウのことなんだが」
リーダーには、おれがユリアを引き取ったことを伝えてあった。そのときは喜んでくれたが、どこか複雑な表情が混じっていたのを、おれは見逃していなかった。
「ユリアが、どうかしましたか?」
「本当にあの子を育てる気か? 君のパーティの和を乱すことになっているように見えるのだが」
「それは……その通りだと思います」
「弱い者に救いの手を差し伸べる。立派なことだ。しかし君には夢があるだろう。こんなことを言いたくはないが、あのピカチュウ一匹のために、君は夢を掴み損ねるかもしれない。そうなったとき、君はあの子を恨まずにいられるか?」
ユリアを恨む? あり得ない。そんなことは考えられなかった。
「おれはユリアのことが大事ですし、それはこれからもずっと変わりません」
「そのために夢を失ってもいいと?」
「いえ、夢というほどのものでは……。何にせよ、今はよくわかりません」
「まあ君はまだ若い。チャンスはいくらでもある。失敗して学ぶのもいいかもしれないな」
そう言うと、リーダーはジムへと帰っていった。おれが何を失敗しているというのだろうか。
それから数ヶ月が過ぎた。おれは毎日ジムに通い、午前中は修業に打ち込んだ。リーダーと一緒に昼食をとり、時には午後も稽古を付けてもらい、それから夕食まではポケモンたちやジョーイさん、ポケモンセンターを訪れるトレーナーと話したり、街の付近を散歩したり、本を読んだりしていた。夜は、リーダーに飲みに誘われた日以外は、人目を忍んでユリアと過ごした。二人でいると、時の経つのを忘れた。おれもユリアも、お互いの存在がなくてはならないものになっていった。
街には、新しいトレーナーが訪れては去っていった。おれは、いろんな人たちと出会った。旅を始めたばかりの新米から、全国大会への出場経験を持つベテラントレーナーまで。彼らとの試合を経験し、対話を重ねていくうちに、おれの中で、トレーナーとしての将来像が明確になっていくのがわかった。漠然と考えていたトレーナー人生だったが、今やおれは、全生涯をかけてその目標に打ち込みたいと思うようになっていた。一度きりの人生なのだから、たとえ上手く行かなくとも、やりたいことをやりきってから死にたい。おれは最後までポケモントレーナーとして生きて行きたいと思ったし、そのために人生を捧げようと決めた。おれが毎晩のようにその夢を語るようになると、ユリアはいつも嬉しそうに聞いてくれた。「大変な生活になるけど、ずっとついてきてくれる?」と尋ねると、彼女はためらいなく頷いてくれた。二人なら、辛い道のりでも乗り越えていけるような気がしていた。
ある日、この街にまた新しい訪問者がやってきた。有名な女性だった。24歳の若さでポケモンリーグ四天王の一人に就任しながら、わずか三ヶ月で辞職し、行方をくらましていた人物だ。写真やテレビで見た通りの美人だった。彼女は「リサ」と名乗ったが、偽名だった。
「それはペンネームですか?」
「どうして?」
「だってあなたの名前は――」
おれは彼女の本名を言った。それを聞いて、彼女は明るく笑った。
「その名前は捨てたの。今の私はリサ」
おれたちはポケモンセンターのロビーで話していた。ジョーイさんがいつものように紅茶を運んでくれたが、少し虫の居所が悪そうに見えた。
「私のことを知ってるなんて、キミは勉強熱心なポケモントレーナーなのね」
「あなたは有名ですよ」
「そう? ありがと」
そう言ってリサは微笑んだ。胸の奥がはねるのを感じた。
リサはいろいろなことを尋ねてきた。だが、トレーナーにとって定番となる質問は来なかった。いつから旅をしているのか、この街へはいつ来たか、バッヂはいくつ持っているか。そういったことはまったく聞かれなかった。代わりにリサが聞いてきたのは、第一におれの名前、それから年齢、出身、生年月日、家族構成、両親の仕事、学校での成績、趣味、特技、好きな食べ物、好きなスポーツ、そして好きな異性のタイプ。一通り聞き終えると、リサは総括するようにこう言った。
「キミは平凡な人間だね。でも磨けば光るタイプ。いい指導者にめぐりあえるかどうかが肝かな」
おれは呆気にとられた。元リーグ四天王は、三流占い師にでもなったのだろうか。彼女はおれが戸惑うのを見て笑った。
「あのね、キミ。人間の素質って、ちょっと話せばわかっちゃうものなの。話の内容は大して重要じゃない。態度とか、話しぶりとか、他にも……いろいろ見ていると、素質の有無くらいは読めてくる」
「それで、おれは平凡だって言うんですか?」
「世の中の九割九分九厘の人は平凡なのよ。私もそう。でも、偶然いい先生にめぐりあえた。運がよかっただけ」
次の台詞は、まったく予想していなかった。
「キミも運がいいわ。私の弟子にならない?」
そして翌日、おれは街を発つことになった。お世話になったジムリーダーと連絡先を交換し、再会を約束した。ジョーイさんに出発の旨を伝えたら泣かれてしまって、チェックアウトの手続きを済ませるまで少し手間取った。その様子を見ていたリサが言った。
「キミは悪い男だね。無自覚なところがサイアク」
「なんのことですか?」
「いつか痛い目見るから」
幸先がよいとは言えなかったが、急遽始まることになったこの二人旅に、おれは興奮していた。相方が「元リーグ四天王だから」ということも当然あるが、「年上の美人だから」という理由の方が大きかった。男なら何かを期待せずにはいられないだろう。気がかりなのはユリアのことだった。他のポケモンたちはリサとの二人旅を歓迎するだろうが、ユリアが快く思わないだろうことは容易に想像できた。
「だがこれは、トレーナーにとってこの上ない僥倖だ。ユリアがなんと言おうと、みすみす機会を逃すなんてありえない」
そう自分に言い聞かせ、おれはリサの隣に並んで歩き続けた。
道中、リサは身の上話を聞かせてくれた。ジムバッヂを集める過程から、地方リーグ、全国リーグを勝ちあがり、実力を認められて四天王になるまでの話。四天王の仕事の内情。そして、四天王を辞めてから何をしていたのか。
「旅をしながら、出会うトレーナーにアドバイスをしてた。そうすると、何も言わなくても謝礼を払ってくれるの。そういうつもりはなかったんだけど、私としても生活資金は必要だったから、ありがたく受け取ってたわ」
「前にも弟子はいたんですか?」
「キミみたいな?」
「ええ」
「一人ね。嫉妬した?」
「まさか」
「私はね、人を育てる方が向いてるんだなぁって思ったのよ」
「ポケモンを育てるよりも?」
「結局、あの子たちは別の生き物なのよね。こっちがどれだけ尽くしてみても、本当の意味でわかりあうことはない。それに気付いたとき、なんだか虚しくなっちゃったの」
「人間同士ならわかりあえるんですか?」
「ポケモンよりはね。こんなこと、これからトレーナーとして大成しようってキミに言うのはよくないのかもしれないけど。それでも、知っておいて。相手のこと、わかったつもりになるのが、一番よくないのよ」
話を聞きながら、ユリアのことを考えていた。おれは、彼女の何をわかっているだろう。
二日かけて次の街にたどりついた。ポケモンセンターに宿をとると、自室でユリアのボールを開けた。二人きりになるのは、リサに同行するようになってからは初めてだった。いつもならすぐに飛びついて甘えてくるのに、今日はおれのことを睨みつけているだけだった。あまりにも予想通りで、口を開くのも気が重かった。おれは分かりきった質問をした。
「リサさんとの旅、反対だった?」
当然、と言わんばかりにユリアは頷いた。
「あの人は、トレーナーの最高峰にいるんだ。おれは何としてもトレーナー稼業で食べて行きたいと思ってる。だから、このチャンスを逃すわけにはいかない」
ユリアは首を横に振る。そんなことを聞きたいのではない。そう言っていた。心の中を全部見透かされているみたいで、冷や汗が出そうだった。
「大丈夫だよ。あの人は尊敬できる師匠だけど、それ以上の感情は一切ない。そういう目で見たこともない。ユリアが心配しているようなことは、一つもないから」
突然、ユリアは電気袋から放電した。感情が高ぶったようだ。目からは涙があふれていた。嘘つき、と言っているように見えた。おれは電気に注意しながらユリアに近づき、その体を抱きしめた。
「嘘じゃない、本当だよ。おれが好きなのはユリアだけだ。だから、そんなに不安にならないで」
ユリアは放電をやめ、大人しくなった。ひとまずは落ち着いたようだった。その頭を撫でながら、おれは自分の心の中に、今までにない考えが生まれてくるのを感じ取っていた。
リサはリサで、ユリアについて思うところがあるらしかった。ユリアのバトルの様子を見ているときは、決まって難しい顔をしていた。あるとき、リサはおれに言った。
「あのピカチュウ、バトル向きじゃないわよ」
「どういうことですか?」
「目の前の敵が見えてない。いつも何か別のことを考えてる。ねえ、あの子に肩入れしすぎてない?」
おれは何も言えなかった。
「バトルで勝てるトレーナーになるためには、あの子をパーティに入れていてはダメ。足を引っ張ることしかしないわ」
「ユリアは前に一度捨てられたポケモンなんです。だから、無下に扱うようなことは……」
「捨てポケモンを救いたいなら、強くなって賞金を稼いで、そのお金で孤児院でも作りなさい。やりたいことすべてを今すぐやろうとしていたら、結局は何にも出来ない。順序を間違えないで。あなたは何よりもまず、バトルに勝たなければいけない」
そんなこと、言われずともわかっていた。
「ユリアを戦闘に出さなければいいんですね?」
「それで足りるかしら」
「……つまり、捨てろと」
「野生に返すだけよ。あの子、普段からキミの重荷になってる気がするの。違う?」
おれは答えなかったが、リサの慧眼には驚いていた。ユリアを手放すという考えには、魅力を感じずにはいられなかった。
実際のところ、おれは、ユリアに構っている時間を無駄だと感じるようになっていた。そんな暇があるのなら、戦術書を読んだり、ポケモンバトルの映像を見たりして勉強した方が、よっぽど自分のためになることはわかっていた。それでもユリアとの時間を作り続けていたのは、ひとえに、彼女の持つ心の傷に配慮してのことだった。捨てられたことによるトラウマは、きっとおれが及びつかないくらいに辛いのだろう。せめておれだけは、彼女の味方になってやらなければならないと思っていた。
もう一つ、かつて言ってしまった「いつだって側にいる」という言葉が、自分を縛る鎖になっていた。そのような台詞を軽々しく使ってはいけなかった。永遠の関係を誓うということは、何よりも重い契約だった。
それからしばらく経ったが、結局のところ、おれはユリアを捨てられなかった。捨てて楽になりたいと考えているおれの内心など知らず、無邪気に笑っているユリアを見ていると、この笑顔を壊すなんてとんでもないことに思えた。頭をなでてやると、くすぐったそうにはしゃぐ。抱きしめてやると、安心しきったような声を出して甘えてくる。ユリアにだけこっそりお菓子を買ってやると、たったそれだけのことなのに、本当に喜んでくれた。その仕草の一つひとつを見るにつけ、おれはユリアを一層離れがたく感じるようになった。
だが、愛おしく思う気持ちと同じくらい、ユリアの存在を負担に感じるようにもなっていた。彼女のことで頭を悩ます頻度は著しく増えてきていた。おれがリサと戦術の話をしているだけで、ユリアは不機嫌になった。そうなると、機嫌を取るためにまた時間が無駄になる。そのたび、おれはユリアに対する苛立ちと不満が募っていった。
リサに詳しい事情を話すことはなかったが、おれとユリアが抱えている問題には勘づいていたようで、彼女なりに気を遣ってくれた。
「キミ、最近疲れてるんじゃない? 温泉でも行こっか」
「いいですね。でも、おれは大丈夫ですよ」
「行くって言ったら行くの。師匠の言うことは絶対なんだから」
おれは、リサと過ごす時間に安らぎを感じるようになっていた。師匠としてのリサを相手にしているときは緊張するが、普段の彼女と話しているのは楽しかった。ユリアとの時間も一応楽しくはあったが、いつどんなことが引き金となって機嫌を損ねるか分からず、常に気を張っていなければならなかった。それほどまでに配慮してもなお、ユリアは理不尽に怒ったし、おれは彼女をなだめなければならなかった。そのたびに、おれは疲れ果ててしまっていた。この気疲れはいつまで続くのか、と考えて億劫になった。
だが、何のことはない。他ならぬおれ自身が、今の状況を続けることを選んでいただけなのだった。
あるとき、決定的な事件が起きた。その晩は珍しくホテルに宿泊していた。地上八階の部屋だった。おれはへまをやらかして、ユリアを激昂させてしまっていた。彼女は窓を開けると、枠の上に立って、大声でわめいた。今にも飛び降りかねない様子だった。いくら人より運動能力に優れるポケモンでも、この高さから落ちたら死んでしまう。おれは焦った。なんとか落ち着かせようとしたが、近づこうとすると威嚇されて、身動きがとれなかった。
隣の部屋にいたリサが騒ぎを聞きつけ、ポケモンと一緒におれの部屋に入ってきた。ユリアがもの凄い形相でリサを睨んだ。その様子を見るとリサは一笑し、「私だけ見てくれないなら死んでやる、ってわけ? 迷惑な子」と言い放った。ユリアは一瞬で顔色を変え、牙をむいてリサに飛びかかった。リサの後ろに控えていたポケモンが、即座にユリアの体を押さえ込んだ。リサは動じることもなく、ホテルのフロントに電話を掛けて、鎮静剤を持ってこさせた。その間もユリアはわめき声を上げ続けていた。鎮静剤を打って大人しくなったユリアをモンスターボールに戻すと、おれはリサに謝罪した。
「この子、病気だわ。入院が必要なタイプのね。これからも連れて旅をするなんてムリよ。キミも、随分と我慢してたんでしょ?」
おれはついに弱音を吐いた。もうユリアと一緒にいるのが辛い、彼女のことは大切だが、これ以上振り回されるのはごめんだ、もう無理だと。それまで溜めこんでいた気持ちを、余すところなく吐き出した。リサは、そのすべてを受け止めてくれた。おれがユリアにそうしていたように、リサはおれを抱きしめた。救われた気がした。
翌日、おれはユリアをある施設へと連れて行った。人間と暮らしていたポケモンを野生に返すための更生施設だ。ここで治療を受け、心の傷を癒してから、ユリアは野生に帰ることになる。彼女もどこに連れて行かれるのか薄々と感じていたのだろう。もはや騒ぐこともなく、無表情のまま押し黙っていた。おれは考えてあった台詞を言った。
「ユリア。初めて会ったとき、ずっと一緒にいると言ったよね。約束を守れなくて、本当にごめん」
無反応。
「おれは君のことが大好きだった。でも、君は変わってしまった。これ以上、君と居続けることはできない」
無反応。
「だからここでお別れだ。今までありがとう。楽しかった」
無反応。
ユリアは一貫して無反応だった。ぼんやりしたまま、何も言わない。それがかえって不気味に思えた。施設の職員に引き渡されてからも、ユリアは黙ったままだった。目はうつろで、どこを見つめるでもなく視線をさまよわせていた。そんな彼女の姿を見ていられなくて、おれは背を向けてしまった。それがおれたちの別れとなった。あっけないものだった。
数年後、おれはポケモンリーグ全国大会の開催地にいた。観客としてではなく、選手として。傍らには共に厳しい修行を耐え抜いてきたポケモンたち、そしてリサがいた。
「ついにここまで来たわね」
「リサのおかげだよ」
「そういうことは、優勝してから言ってちょうだい。がんばってね、ダーリン」
おれたちの関係は、単なる師匠と弟子以上のものになっていた。今やおれにとってのリサは、師匠であり、愛する人であり、一生をかけて守るべき女性だった。
「ねえ、リサ。もしおれがこの大会で優勝したら」
「ストップ。それも優勝してから言って。私、待ってるから……」
おれたちは第一試合の会場へ向かった。開催地はとても広く、移動には地下鉄を使う。巨大な円形スタジアムの周りを囲うように、線路が敷設されていた。
最寄りの駅に移動し、薄暗い階段を下りた。早い時間帯だったのでホームは空いていた。時刻表を見ると、間もなく列車が来るようだった。おれたちは、まだ誰も並んでいない場所を選び、列車の到着を待った。
不意に、誰かに呼ばれた気がして、おれは振り返った。見覚えのある黄色いポケモンが、そこにいた。あんなに美しかった目の輝きは、どす黒く濁ってしまっていた。
おれが彼女の名を呼ぼうとしたとき、腹部に強い衝撃を受けた。体当たりをされたのだと気付いた。おれの体は吹っ飛ばされ、ホームを越えて、線路の上にあおむけに叩きつけられた。背中を強打して息ができなくなった。喉が声を振り絞った。遅れて痛みがやってくる。
右の方に刺すような光を感じた。続いて聴覚が、列車の近づいてくる音を認識し始めた。痛みをこらえて目を開けると、視界の端に列車の姿が映った。まるで死者を迎えに来た棺のように、ゆっくりと迫ってくる。その間、彼女との出会いから別れまでの思い出が、浮かんでは消えていった。
――そういえば、変わってしまったのはおれの方だったか。
轟音に包まれるホームの中に、リサの絶叫と、ユリアの甲高い笑い声がこだましていた。
了
後記
もうほとんどの方は初めましてですね。メビウスと申します。
久しぶりに小説書いたので、せっかくだから投稿してみました。
また書きたくなったら来ます。
『ポケッター……140字以内でメッセージを投稿することが出来る情報サービスのこと。主な発信地はイッシュだが、ここ数年で別地方にも浸透してきている。
利用者は人間だが、時々キーボードの打ち方を覚えたポケモンが自分のアカウントを持って発言していることもある』
pika_se バンダナピカチュウ
今日も暑いな うち今電気止められてどうしよう
2分前
flmetal 鋼のペンギン術師
@pika_se うち来る?
1分前
caffe_kanban バクフーン@進化したぜ
@pika_se てかお前電気タイプなんだからお前がなんとかしろよ
30秒前
『……』
冷房が効いた店内。カウンター下で、バクフーンはノートパソコンとにらめっこしていた。頭上でユエがレジ打ちをしている。
夏休みになってから、こうしてポケッターで呟くことが増えた。元はと言えばユエに『カフェのアカウント作ったから、ついでにアンタも呟いてみたら?看板も知性がないと』とやや無茶振りを言われ、仕方なしにローマ字と入力方法を覚えてみた次第だ。
だが、やってみるとなかなか面白い。色んな情報が飛び交っているし、こうして直接会わなくても友人と話すことができる。
最も、不特定多数の人間が見るものだから砕けた話はあまりできないが。
「マスターのバクフーン、すごいですね。キーボードの打ち方を知ってるなんて」
「ああ。カフェのアカウントの更新頼もうと思ったんだけど、まさかハマるとは」
「いいなー。私もポケモンに覚えさせてみようかな」
「あれ、貴方のポケモンって……」
「カイリキーです」
「残りの二本の腕どうすんのよ」
caffe_kanban バクフーン@進化したぜ
俺の主人の知り合いが俺を見て自分のポケモンに打ち方覚えさせようとか言ってる
すぐさま返事があった。
kusahebi_ms M・S@ジャローダ
@caffe_kanban ちなみにそのポケモンは?
caffe_kanban バクフーン@進化したぜ
カイリキー
kusahebi_ms M・S@ジャローダ
@caffe_kanban パソコン代が心配だ
あまり知られていないだけで、キーボードを打てるポケモンは意外に多い。
きちんと指や腕があるなしでなく、あのフルメタルが出来るのだから、指が無い……たとえば、ゴースなんて腕どころか肉体という物がなくても、なんとか出来る気がする。
たとえばあのガスを使うとか。パソコンが壊れるかもしれないけど。
どうやったのか聞いてみると、俺のような奴だけでなく、『主人がやっているのを見ていたら覚えてしまった』という話も少なくない。
ちなみにその中には、主人が自分がキーボードを打てることを知らない奴もいる。
ポケモンと人の境界線は、確実に消えてきている。
もしかしたら何処かの昔話みたいに、恋人同士になって、しかも結婚までする―― なんてことも、ありえるかもしれない。
―――――――――――――
2ちゃんねるやDQNネームはあるのにツイッターがないなあ……ふと思いついた結果がこれだよ!
皆さんのポケモンも、もしかしたら知らないところでこんなことしてるかもしれませんね。
お互い知らずにフォローしてたりして……
あれ?何か近い話を昔読んだような。
【何をしてもいいのよ】
【皆さんのポケモンのアカウントは?】
コメントありがとうございます、ぺこり。
クリムガンはやっぱりびびっときますよね、ビビットカラーだけに。
最近はステルスロックも習得して使いやすさはましましたが、しかし世間の風は冷たいものですね。
案外耐久がありますので、ゴツメとセットでご使用していただけるとなかなかの働きですよ。
改めてコメントありがとうございました、お互いクリム頑張りましょう!
みなさん、夏ですね。いや、冬でしょうか?
冬でも夏でも、あなたのそばにはポケモンがいます。
ポケモンがいれば楽しい話もある。楽しい話があれば悲しい話もある。
悲しい話には・・・・怖さが”憑き物”ですよね?
悲しくなくてもいい。怖くなくてもいい。
電子の世界に広がる未知領域。それが「電子携獣奇譚草子」です。
さぁ、あなたが垣間見た未知の世界・・・・どんなものでしたか?
期間は8/15まで。皆さんのお話は一冊にまとめ、おくりびやまに奉納する予定です。
皆様のご参加、お待ちしております・・・・
**********
要するに創作ポケモン怖い話を集めようってことです。はい。
ですが、ただ怖いだけじゃ味がないのでルールを一つ決めさせて頂きます。
ズバリ、「ポケモンがした、人間の知り得ない現象」を書くこと。
ポケモンなんてまだまだ分からないことだらけ。私たちの知らないチカラで、知らないトコロで何をしていてもおかしくないですよね?
純粋ホラーもよし。じんわりくる温かい話でもよし。ちょっと気持ち悪くてもよし。
ただし過度のグロ表現はご遠慮ください。あくまで「ポケットモンスター」の範疇でお願いします。
こんにちは。神風紀成と申します。
巷で噂の『DQNネーム』まさかポケモンに持ってくるとは考えなかったなあ……
なんででしょうね。違和感があまり感じられないんですよね。
多分カタカナか平仮名じゃないと付けられないからなんだろうな(ゲームに限るけど)
以前テレビで見たポケモンバトルで、ポケモンの名前を顔文字で設定していた子がいてびっくりした覚えがあります。
さてさて、リアルの方ですね。
友人は以前イーブイ進化系でパーティを組んでいた時に、グレイシアに『ツンデーレ』サンダースに『カーネル』と付けていました。
「なんでツンデーレ?」と聞いたら「だってグレさんツンデレじゃん」という訳の分からない答えが返ってきて頭を抱えました。
ちなみに私は彼らの水・炎・電気に『サイダー』『レモン』『オレンジ』と付けました。今でも健在です。
今ではあまり考えませんが、中二の時にイタリア語にやたらとハマりまして。
捕まえるポケモンをほとんどそれに関した単語で付けていました。いや、ブラックのパーティもそうだったんですけど。
ツンベアーに『ギアッチョ』と付けたのはやりすぎだったかな……と今更ながら思います。ちなみに『氷』です。
>> 個体登録の際に、そのポケモンの将来を考えてみてはどうだろうか。
彼らを使う人間の名前もそうなる時代が来るんでしょうね、きっと……
> 暑いですね、暑いとカキゴーリとでも名付けたオニゴーリを触りまくりたくなります。「ねぇ、カキゴーリ。かき氷食べる?」とか言ってカキゴーリ(オニゴーリ)をあたふたさせてやりたくなります。
ユキカブリに『キントキ』とか?『ウジキン』だと何か卑語に思えてならない。
長文失礼いたしました。では!
「おとうとの かたきを とるのです!」
「いやだね やったね たぶんね へんだね」
上記の文章はすべて、実際につけられたポケモンのニックネームである。
近年、ポケモンに珍名をつけることが流行っている。俗に言うキラキラネームである。ユニーク過ぎる名付けに一部ではDQN(ドキュン)ネームとも揶揄されている。
全国トレーナー協会の定めでは公式戦に他種族名をつけたポケモン、同一ニックネームのついたポケモンを使用することが認められていない。また、卑猥な単語、他人を貶める単語をニックネームとしてつけられたポケモンがグローバルトレードシステム上に預けられるということが多発したため、トレーナー協会は2010年より新規個体登録の際に禁止単語をもうけることにした。
イッシュ地方から広まったバトル形式、トリプルバトルも珍名を助長しているのではという愛護団体もいる。いままでのシングルバトル、ダブルバトル形式ではみられなかった文章を表現する珍名だ。ネット上では、そういった文章ネームとでも呼ぶものを投稿するサイトまでできている。
ニックネームはポケモンとのきずなを深めるものだ。おや登録されたトレーナー以外は変えることができず、リリースされたあとに別のトレーナーに捕獲されてもニックネームを変えることはできない。 捕獲したポケモンがおや登録がされているリリース個体であり、ニックネームが不愉快だったためリリースではなく、ボールに入れられたまま数年間放置されてしまったという事件も起きている。
個体登録の際に、そのポケモンの将来を考えてみてはどうだろうか。
☆★☆★☆★
暑いですね、暑いとカキゴーリとでも名付けたオニゴーリを触りまくりたくなります。「ねぇ、カキゴーリ。かき氷食べる?」とか言ってカキゴーリ(オニゴーリ)をあたふたさせてやりたくなります。
初めまして……ですね。神風紀成と申します。
まず一言。
可愛い!可愛すぎるぞマロンくん!
もうバトルうんぬんとか使えないとか使えるとかの問題じゃない!
これがギャップ萌えというやつなのか……(
ちなみにクリムガンは私も好きです。ビビットカラーが眩しい。
最初見た時『!?』と思ったものです。
カラーだけならお菓子やジャージに使えると思います。汚れが目立たなくていい。
お菓子は以前書いた話にキャンディーとして出したことがあります。アメリカンっぽくて。
とりあえず頑張ってマロンくん!
では。
――あら? お客様なんて珍しいわね。こんにちはお嬢ちゃん。どこから来たの?
「あっち。あっちの隙間から入ってきたの」
――まあ、あんなに狭いところを潜ってきたの。中は真っ暗なのに、勇敢な子ね。
「大丈夫、全然怖くなかったよ。クーちゃんが一緒だもん」
――可愛いぬいぐるみね。ミミロル……だったかしら?
「うん、そうだよ。お姉さんすごいねえ、こんなに暗いのにちゃんと見えるんだ!」
――長い間ここにいるから、目が慣れちゃったのよ。元々、夜目は利く方だけれどね。
「ふぅん、そうなんだ。長い間って、どれくらい?」
――うーん、どれくらいかしらねえ。長すぎて忘れちゃったわ。
「ずっと一人でここにいたの? ……寂しくなかった? 怖くなかった?」
――いいえ、他にもたくさんいるから、寂しくも怖くもなかったわ。今は私以外、みんな眠っているけれどね。心配してくれるの? 優しい子ね。
「……ううん、優しくないもん。今日またお母さんに怒られちゃったし」
――あら、どうして?
「あたしがリカを叩いたから。だってリカがあたしのクーちゃん勝手に持ってっちゃうんだもん、ケンカになって叩いちゃった。
そしたらお母さんが『乱暴にしちゃダメ! リカはまだ赤ちゃんなのよ、ケガしたらどうするの!』って。あと、『ミカはお姉ちゃんなんだから、おもちゃくらい貸してあげなさい』って。リカの事ばっかり味方するんだよ、ひどいよ!」
――あらあら。色々大変そうね。
「あっ、笑ってるでしょ! 見えなくても分かるよ、声が震えてるもん!」
――ごめんなさいね。楽しそうで、つい。
「えー、全然楽しくないよ! お母さんもお父さんも、おじいちゃんもおばあちゃんも、みんなみーんなリカの事ばっかり可愛がってあたしはほったらかしなんだもん。せっかくシンオウに遊びに来てるのに、つまんないよこんなの!」
――あなたシンオウの子じゃないのね。家族で旅行に来たのかしら?
「うん。でも夏休みだから、どこへ行っても人がいっぱいで凄いの。だから人の少なそうな、このナントカイセキにみんなで来たんだ。……でもね、ケンカしちゃったからここに逃げてきたの」
――そうなの。確かに、ここにいたら見つかることはないでしょうね。いつまでだって隠れていられるわ。
「あーあ、あ母さん怒ってるだろうなあ……。帰ったらまた、お説教されるのかな。……イヤだなあ、しばらく隠れておこうかな」
――それがいいわ、私が話し相手になってあげる。きっと退屈しないわよ。
「ホント? ありがとう! えーっとね、何からお話しする?」
――ふふ、焦らなくていいのよ。時間はたくさんあるんだから。
そうね、私は色々な話を聞きたいわ。外の世界についてや、あなたや家族の事とか、色々、ね……。
… … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … …
「……でね、その時には……ふわぁ」
――あら、大丈夫? 眠くなってきたの?
「ん、ちょっぴりだけ。ずうっとお話してたから、疲れてきちゃった」
――無理しないでね。ちょっと休憩しましょうか。床が硬いかもしれないけど、横になるといいわ。
「わあ、ひんやりして気持ちいいね。なんだか寝ちゃいそう」
――眠ってもいいのよ。眠って嫌なことを忘れてしまえば、きっと楽になるわ。
「イヤな事、かぁ。怒られることとか、夏休みの宿題とか、リカの事とか……? あと、野菜食べなさいって言われること!」
――私には、少し羨ましいくらいだけれどね。
「えー、こんなのがー? 面倒くさいだけじゃない。あーあ、なんでこんなにイヤな事って多いんだろう……。あたし、人間じゃなくてポケモンなら良かったのになー……」
――ポケモン、好き? ポケモンになってみたいって、思う?
「うん、だーいすき! ポケモンになったら、もう宿題とか色々しなくていいよね! 毎日好きな事たくさんできて楽しそう!」
――ふふふ。そうね、大抵のポケモンは自由だものね。
「いいなぁ……。なってみたいなぁ……」
――……夢なら見られるんじゃないかしら。夢の中でなら、どんなポケモンにだってなれるわよ? あなたの望みのままに、好きなだけ。
さあ、目を閉じてごらんなさい。頭の中で、なりたいポケモンを思い浮かべてみて……?
「うーん……そんなに簡単に見られるかなあ……。確かに眠くなってきた、けど……」
――大丈夫、大丈夫。私を信じて……。
「…………う……ん……。…………夢の中で、おともだちいっぱい……できるかな……?」
――ええ、きっと。たくさんのお友達が出来るわ。私が保証してあげる。
――いい子ね……ゆっくりお休みなさい。目が覚めた時には、きっと……あなたの望みが叶っているから。
… … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … …
行方不明の少女が見つかったのは、彼女が迷子になった遺跡群から遠く離れた場所でした。
茫洋とした瞳で彷徨う少女を保護した警察は、要領を得ない話の中からなんとか名前を聞き出して、家族の元へと送り届けることができました。
黙ったまま涙ぐむ父親と人目もはばからずに号泣する母親の姿、彼らにしっかりと抱きしめられる少女の姿は、職務上見慣れたものであっても警官たちの心を揺さぶりました。
今後はご両親から離れて独り歩きしないように。運よく出会わなかったけれども、本来野生のポケモンは怖い生き物なんだよ。一人の時に出会うと命に関わるからね。
警官がそう言い聞かせると、少女は真面目な顔で頷きました。
お巡りさん、連れて帰ってくれてありがとう。
愛らしい少女のお礼の言葉を胸に、警官たちは暖かな気持ちで帰路につきました。
シンオウを出る前日の事です。
出立の準備やお土産の確認などに大わらわの母親がふと気づくと、娘二人の姿が見えません。慌てて探せば、彼女たちはホテルの庭で仲良く寄り添っていました。
うっとりと青い空を見つめる姉の隣で、幼い妹がミミロルのぬいぐるみを振り回して歓声を上げています。
あれはお気に入りのクーちゃんのはず。大切なぬいぐるみをあっさり手放した娘に驚いて、母親は理由を尋ねました。
彼女の答えはこうでした。
「いいの、あのぬいぐるみはリカちゃんにあげる。だって私はもう、大切なものを取り換えて貰ったんだもの。今あるものだけで十分幸せよ」
迷子になった一件以来、どことなく大人びた娘を不思議に思いつつ……きっと、妹を持ったことで姉としての自覚がようやく出てきたのだろうと考えて、母親は嬉しくなりました。
いい子ね、と褒めると、娘は無邪気に笑います。
母親が機嫌よく立ち去ると、少女は再び空を見上げて物思いに耽ります。
青い空のむこう、朽ち果てた遺跡群――その地下に封じられた、要石を想って。
彼女の望みはすべて叶いました。
自由に動かせる体を、どこまでも広がる世界を、迎え入れてくれる家族を、新しい人生を、すべて手に入れました。
“彼女”の望みも叶ったはずです。
もう怒られることも宿題の心配をすることもなく、うるさい妹に邪魔されることも、野菜を食べるよう強制されることもありません。望み通りポケモンとなり、友達と仲良く暮らすことができるでしょう。“彼女”はきっと歓迎されたはずです。
忘却の地に封じられたミカルゲの、百八番目の魂として。
私は今、すごく幸せよ。あなたは、どう?
小さく呟いて、少女は薄い笑みを浮かべるのでした。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
眠れぬ夜に一気書き。背筋をぞわっとさせるお話が増えるといいな、に諸手を挙げて賛成中。しかし、自分の話では涼をとれないという言葉にも残念ながら賛成中。読んで下さった方の背筋をぞわぞわさせることに成功したのかどうか不安です。もしならなかった場合、誰かに頼んで背中を人差し指でつつつっと縦になぞってもらってください。ほーら、ぞわっとしてきた筈…………え、違う?
個人的に、入れ替わりネタは怖いものの一つです。ちなみに自分で書いておいて何ですが、彼女たちの口調が赤チェリム姉さんと女の子に諸被りな気がしますが、書き分けができていないだけで別人です。あちらは(一応)人間です。
タイトル【トリック】は技名より。本来は「相手のどうぐと自分のどうぐを入れ替える。相手も自分もどうぐを持っていない場合は失敗する」ものですが、今回は道具の代わりに魂を取り換える、として使っています。【すりかえ】も候補だったのですが、こちらだといきなり内容がバレそうだったので却下。
まだまだ長い夏の夜、もっとたくさんの「ぞわっと話」が読めますようにと願いを込めて。
読了いただき、ありがとうございました!
【ホラーいいよねホラー】
【なにをしてもいいのよ】
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