マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ
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  •   [No.3399] フカフカフワフワワンワンディ 投稿者:焼き肉   《URL》   投稿日:2014/09/17(Wed) 23:40:43     72clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:BW2

     わたしのガーディの名前は、ワンディって言う。理由は、ワン、って鳴くから。バウ、じゃねえのってヒュウちゃんに言われたけど、ワンって聞こえるからバウディじゃなくてワンディ。

     タチワキシティの近くのタチワキコンビナートの草むらから、呼ばれてないけど飛び出てきたからつかまえた。タチワキコンビナートには、他にも真っ赤な炎の体のブビィもいて、なんでだろってヒュウちゃんに聞いたら、コンビナートだからだろって言われた。なんでコンビナートだからワンディがいたんだろう。というかコンビナートってなんだろう。



     カフェラウンジ2Fで書いてるシリーズもの。明日の夜にはupできるといいな。


      [No.2618] 半人(サンプル 途中まで) 投稿者:No.017   投稿日:2012/09/14(Fri) 00:20:58     86clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     ニンゲンになりたかった。
     その手に筆を持ち、ノミを持ち、何かを作り出せるニンゲンに。


     一浪で入ったカイナ大の入学式、その入場待ち列は騒がしかった。多岐にわたる学部・学科、それだけの人数を一気に収容できる施設は大学構内に無かったから、それは博物館近くのコンサートホールで行われた。入学式も、卒業式も、この大学は伝統的にそうらしい。
     何、つまらないイベントだ。学長の長い挨拶に始まって、学部長の挨拶、教授陣の紹介が始まる。これがえらく長いのだ。こんなものは学校側の為にあるものだ。あるいは二階席で式を見守る保護者達の為のものだ。つまりは社会的対面を満足させる為のものに過ぎない。
     吹奏楽部の演奏が入ったところで一度、休憩が入る。その時点でオリベは抜け出した。入学式を抜け出した。ここには自分を監督する両親は不在である。要するに自身がここにいる必要は無いと彼は悟った訳だ。それならば少なくとも在学中は暮らす事になるであろうこの街を見ておいたほうがよほど有益であろう。彼はそう考えて、入学式を抜け出したのだった。
     カイナシティにはつい数日前に越してきたばかりだ。新居は間取りしか見ていなかったが、ひどいボロアパートだった。送られてきた荷物も大した量は無く、開けるのに時間はかからなかった。ホウエンの入り口、カナズミまでは寝台列車に乗り、それからは本数の少ないローカル線の乗り継ぎを繰り返した。ずいぶんと遠くに来てしまった。だが、彼自身の望んだ事だった。
     そういえば市場にはまだ行った事がなかったな。そう思って彼は目標をそこに定める事にした。バスを使えば近いらしいが、何せ金が勿体無い。ホールの近くに立っていた看板地図と睨めっこをして、カタヒラ川の河川敷を通って向かう事にした。カタヒラ川は大きな川であった。海に流れ込む直前である川の向こう岸は遠い。向こう岸に開花の時期が終わって葉ばかりになった桜が見えた。カイナシティはホウエンでは大きいほうの都市だったが、こうして少し外に出ればやはり田舎である。橋をかける以外の目的では人の手が入っていないように見えた。広い土手には石が転がっているか、背の高い草、あるいは低木が無秩序に生えている。時折盛り上がり丘になっている場所がいくつもあった。そんな風景がずっと続いているのだ。海に近いここの空ではキャモメがたくさん飛んでいた。きっと草原にも様々なポケモン達が潜んでいるに違いない。
     見れば数メートル向こうで、高い草ががさがさと揺れている。なかなか揺れが大きく、大物のようだった。オリベは少し身構えた。揺れる草がだんだんと上に近づいてきたからだった。
     が、草を掻き分けて歩道に現れたのは予想に反して人間であった。出てきたのは色の白い男だった。スーツを来ていたが、草の葉があちこちについていて台無しになっていた。その後に続いて何やら小さめの黒いポケモンが現れた。黒棒に大きな目玉が一つ、それは宙に浮いていた。
    「…………、……」
     オリベがあっけにとられていると、そのトレーナーと目が合った。
    「やあ、こんにちは」
     トレーナーが言った。
     それがツキミヤソウスケとの出会いだった。
     淡い色の髪でくせ毛、歳は同じくらいか。後に話を聞くと、同じく入学式をサボっていたらしい。
     奇縁という言葉がある。不思議な縁という意味であるが、ツキミヤとの関係はまさに奇縁であろう。今でもオリベはそう思っている。

    *

     私の目はヒトより遠くを見つめる事が出来たし、ヒトが見る事の出来ないものを見る事も出来た。たとえば先の事だ。
     近いうちに雨が降るよ。
     そう伝えるとヒトは私に感謝を捧げた。
     私はヒトに無い能力(ちから)をたくさん持っていて、ヒトビトはそんな私を神様と呼んだ。この土地では私達の一族は特に大切にされていた。ヒトが持たぬ能力(ちから)。それをヒトは畏れ、敬った。
     けれどヒトのほうがずっと多くの事が出来るではないか、と私は思う。
     私はある時、一人の青年に出会い、一層強くそう考えるようになった。

    *

     ツキミヤは志ある学生であった。何せ動機がしっかりしているのだ。考古学をやりたい、と彼は語った。それで人文科学科に入ってきたらしい。何でもホウエン地方というのは、遺跡の宝庫であるらしく、もっと高いランクの大学に行けるにも関わらず、わざわざここを選んだらしかった。
     実家から離れたい、行ける大学、そういう理由でホウエン地方を選んだ自分とはえらい違いだとオリベは思った。
    「カタヒラ川の流域って古墳群なんだよ。ちょっと探検しててね」
     と、ツキミヤは語った。なるほど、入学式をサボっていたのはそういう事か。
     いわゆる「意識が高い」連中をオリベは毛嫌いしていたが、ツキミヤとはどういう訳か馬が合った。何というか彼は屈託が無かった。キャンパス内ですれ違えば挨拶をしたし、学食や講義で一緒になれば、隣に座って話しかけてきた。
     だがその一方で、オリベはだんだん講義に出なくなった。始まったばかりの講義にはたくさんの学生がいるが、そのうちのいくらかが抜けて、だんだんとメンバーが固定されてくる。学期が始まって一ヶ月も経つとそういう現象があちこちで起きる。オリベはどちらかと言えば抜ける側の学生であった。なぜなら学ぶ目的など無かったからだ。彼は下宿から大学へは行かず、行ってもすぐに抜け出して、海の近くの神社やカイナ市場で時間を潰す事が多くなっていた。
     大学から坂を下って海側に下りていくと神社があった。石段を登り青い鳥居を潜ると境内に入る。入ってすぐの所、松の木の下に海風がほどよく吹きつけるベンチがあった。オリベはそこに横になって、空を見上げる。無数のキャモメが輪を描きながら飛んでいた。目を閉じるとみゃあみゃあという声と波の音が響いた。彼はこれらの音が好きだった。こうして目を閉じて耳を澄ましている間は雑音が入らない。何者でもなく、捕らわれない自分でいられた。
    「やあ、こんな所にいたんだ」
     声がしてオリベは目を開ける。見ると、ツキミヤとそのポケモンの大きな目玉が上にあった。
    「……何しに来たんだ」
    「最近見かけないからさ、どうしてるかと思って」
    「講義は?」
    「先生が風邪ひいてさ、休講」
    「何でここが分かった?」
    「こいつだよ。こいつ」
     ツキミヤは親指を立てると自身の後ろに浮かぶ黒いポケモンをくいっと指差した。ポケモンは丸い皿みたいな大きな目玉を軸に、申し訳程度に付いた枝のような胴をぐるぐると回している。アンノーンであった。様々な形があって遺跡などにいるポケモンだ。
    「こいつね、探し物が得意なんだよ。目覚めるパワーって奴? 名前はクレフ」
    「形がQなのに?」
    「鍵って意味さ。形が鍵に似てるだろう?」
    「まあ……」
     クレフと名付けられたアンノーンを見る。するとクレフはふわりと寄ってきて、一つしか無い大きな目玉でじろじろとオリベを見ると、ぐるぐると周りを回った。
    「奇怪な奴だ」オリベが言うと、
    「君の事を気に入ってるんだよ。だから見つけられたのさ」と、ツキミヤは答えた。
     ツキミヤは神社の自販機でジュースを買うと、缶をオリベに投げてよこした。モモンジュース、なかなか暴力的な甘さだが、オリベの好物であった。学食で飲んでいたからツキミヤも知っていたのだろう。
    「いいのか、これ」
    「昼寝の邪魔をしてしまったようだからね」
    「じゃ、遠慮なく」
     かちりとスチールの蓋を開けて中に沈めるとぐびぐびとオリベは飲み始めた。隣でツキミヤも缶の蓋を開ける。彼の開けたのはサイコソーダであった。
    「なあオリベ、明日は出てこいよ」
     缶の中身が半分程度になったところでツキミヤは言った。
    「何かあるのか?」
     オリベが尋ねると
    「考古学概論の野外実習があるんだ。場所はカタヒラ川古墳群」
     ツキミヤは目を輝かせて言った。
    「へ、へえ」
    「面白そうだろ?」
    「どうかな」
    「オリベも来るよな?」
    「……分かったよ」
     大して興味など無かったのだが押し切られた。こんな事をわざわざ言う為にここまで来たのだろうか。変わった奴だと思った。気付けばクレフと名付けられたアンノーンがふらふらと境内を漂って行ったり来たりを繰り返していた。あのポケモンなりに楽しんでいるという事なのだろうか?
    「オリベ、見ろよ。あれ」
     そんなQのポケモンの動きを追っていると、ツキミヤが言った。振り返ると、青年は海に浮かぶ小島を指差していた。石垣で出来た人口小島で、その上は草木で覆われている。
    「あれがどうした?」
     オリベが尋ねると、
    「台場だよ」
     とツキミヤは答えた。
    「ダイバって何だ」
    「昔ここのあたりに外国の蒸気船が来た事があってね、その時に砲台を置いたのさ。もう砲台自体は無くなっちゃって、草ぼうぼうだけど。あれでも史跡なんだぜ」
    「へえ?」
     勉強熱心な男だと改めてオリベは思った。地中に埋まってるものしか興味が無いのかと思っていたのに。その後にも、ツキミヤはここの神社の言われなんかを語って聞かせた。何故そんな事を知ってるのかと尋ねたら、この間、ニシムラ教授の民俗学概論でやったと言われた。
    「お前授業出てないからな、少しは出て来いよ。なんなら今までのノート見せてやってもいいぜ?」
     そう言ってツキミヤは笑った。
    「じゃあ次の講義あるから戻るわ」
     そう告げるとツキミヤとアンノーンは石段を降りていった。忙しい奴だなぁ。そんな事を考えながら青年の背中を見送った。
     そうして彼は、後になって知った。その日、講師は風邪などひいておらず、講義も通常通り行っていたらしい事を。

     翌日にツキミヤの姿は大勢の学生と共にカタヒラ川にあった。オリベの姿には先にクレフが気が付いて、その動きから待ち人の到来を知ったツキミヤは軽く手を挙げて挨拶した。長袖長ズボンに軍手姿の発掘スタイルである。
     実習が始まった。何、つまらない授業だった。大雑把な部分をシャベルで掘って、細かい部分や遺構を移植ごてで掘り進めて行く。溜まった土は「ミ」という塵取りを大きくしたような道具に集め、溜まったら土捨て場に捨てに行く。早い話が土木作業だ。何か埋まっていればまだ面白いのだが、そういう物が出てきた場合、素人の手出しは許されない。即座に教授か専門スタッフが飛んできて、学生はお役御免だ。つまりは力仕事の要員に過ぎない。ふと脇を見るとツキミヤが汗を流しながら、移植ごてで溝を掘っていたが何が楽しいのかさっぱりだった。
     アホらしい。昼休憩を挟んで弁当を食べ終わった頃にオリベは現場を抜け出した。
     カタヒラ川の土手は広かった。現場を離れて歩いていてもあちらこちらに小さな丘のようなものがある。もしやこれがみんな古墳なのか、とオリベは思った。手付かずの古墳もたくさんあるに違いない。
    「ツキミヤの奴、ここの古墳を全部掘り返すつもりなのかな」
     オリベはそう呟くとふかふかした草の生えた緩やかな傾斜の丘を選んで寝転んだ。天気はいい。海に近いこの場所にも、キャモメが飛んでいる。十字架のような形が逆光の黒になって空を舞っていた。さわさわと鳴る草の音を聞きながら、いつしかオリベは眠りに落ちていった。

     ――ユウイチロウ、ユウイチロウ。ちょっと来なさい。
     そんな声が聞こえた。
     振り返るとそこには母がいて、上からオリベを見下ろしていた。その手には何かの紙がある。
     ――またこんな点を取って。あなたこんなんじゃ進学危ないわよ。
     母が言って、幼いオリベは顔をしかめた。ああ、この記憶は確か中学受験だったか、あるいは高校受験だったか、と。
    「そんなの、上を目指すからだろ。俺、行ける所でいいから」
     ――そんな向上心の無い事でどうするの。お祖父様だってそこに行って勉強したのよ。
    「じいちゃんと俺は違うだろ」
     ――ユウジロウだってそこに行かせるつもりなのよ。
     始まった、と彼は思った。母はまた弟を引き合いに出した。
    「勝手にすればいいだろ」彼は返す。
     ――だって、格好つかないじゃないの。あなたはお兄ちゃんなのに。
     オリベは静かに母を睨み付けた。それは違う。格好が付かないと思ってるのは貴女ではないのか、と。
     母にとっての成功モデルはオリベの祖父だった。彼は大学教授であった。そこはカントーでも随一の大学で。だから母は自分達兄弟に同じ道を歩かせようとしているのだ。同じ道、同じ学校に行き、同じ教育を受け、同じようなポジションに就かせる。それが母の教育の目的だった。それに対してオリベは反発を覚えたのだ。おそらくはポケモン関係の仕事をしている父の事も影響していたのだろう。彼はそのように理解している。一度ポケモントレーナーになりたいと言った事があったのだが、母の激しい反対に遭ったからだ。
     一方で素直だったのは弟のユウジロウであった。彼は驚く程素直に、母の教育方針に従った。利発な弟だった。頭が良かった。それ故に母が弟のユウジロウに傾倒するのはごく自然な流れであった。
     そのように母との確執が深まる中、ある夜に兄であるユウイチロウは聞いてしまった。ちょうど祖父が遊びに来ていて、母と二人で酒を飲んでいた。既に父や弟は眠っていた。その席で母が言ったのだ。思い通りにならぬ兄をこう評したのだ。
    「あの子は半分なのよ」
     母は兄の事をそう言った。
     話を聞くに半分しか出来ないという事らしかった。人の言う事を聞かないし、半分しか出来ないのだと。テストの点も望む半分しか取って来ない。あの子は弟の半分しか出来ないのだと。
    「せめてあの子が、ユウジロウの半分でも素直だったら」
     半分。その言葉が抉り込む様に突き刺さった。
     母との溝が決定的になった。母にとって理想の人間とは弟である。兄はその半分である。それはオリベにとって半分しか人間でないと言われたのと同義であった。
     半分。自分は半分。人として、半分。
     一浪をした時に、母はもはや自分を見放したのだろうと彼は思った。その視線は一年遅れで受験生となった弟にのみ向けられていた。浪人時代、人生の中でそこそこ必死に勉強をしたのは決して母の為などではない。ましてや見返したかったからでもなかった。ただ、遠くに行きたかった。考えられる限り遠くへ。ホウエン地方の大学を受けた事などあてつけでしか無かった。そこに目的は無い。大志は無い。やりたい事などオリベには無かった。

     汗を掻いてオリベは目を覚ました。
     ああ、また雑音だ。あの夢だ。ここは場所が悪いとオリベは思った。やはり海がいい、波音は雑音の入る隙を与えない。横たわっていた身体を起こす。場所を変えようと思った。神社に行こう。海に近いあの神社に。古墳らしき草ぼうぼうの丘の向こうに急な土手の上り坂を見、彼は歩き出した。
     だが、急な坂を登りきり、まさに河川の敷地の外側に出ようかと言う時になって、彼の動きは止まった。その視線の下に先ほど通り過ぎた古墳があった。そこに草陰で覆われた入り口のようなものが見えたからであった。
     それはまったくの好奇心であった。オリベは坂を降り、草を掻き分けて進んでいく。近づいてみて、その入り口が顕になった。周囲に粗末な石が転がって、地面にヒビを入れたみたいに三角形の口が開いている。膝を折ればなんとか入れそうな穴であった。暗い。懐中電灯も持っていないから、中は見えない。だが、好奇心がオリベを動かした。腰を屈めながら数メートル程進む。そこで急に天井が高くなったのが分かった。
     オリベはその空間で立ち上がった。手さぐりをしながら内部を把握する。あまり広くはない。畳にすると四枚程度であろうか。中心に何か、表面がざらざらとした、長方形の物が置かれている。
     これは何だろう? だが、暗闇では情報が分からない。明かりを取ってこないと。あるいはツキミヤを呼んできたなら……。そう思ってオリベが再び立ち上がった時、ばり、と何かが砕け散った音がした。靴から伝わってくる感触。どうやら何かを踏んだらしかった。

    *

     里の景色をよく見渡せる丘の上、そこに私は立っている。その下に瓦屋根の集落が見えて、私は焦点を絞る。
     それは大きな屋敷の外れだった。軒先で、若い男が書き物をしていた。白い紙に黒い筆の線が走って、何らかの意味を作っていく。私達の多くは言葉を操れたけれど、文字にまでは興味が無かったから、誰も文字を読めなかった。だから内容までは分からなかった。
     青年は毎日、毎日、ずっと書き物をしていた。そうでなければ書物を読んでいた。
     丘の上から焦点を絞る。そうするといつも彼はそこにいた。
     私は彼に興味を持った。同時に彼の記す言葉に興味を持った。

    *

    「オリベ! オリベ!」
     聞き覚えのある声がしてオリベは目を覚ました。目線の先にはツキミヤとQのポケモン。手に伝わる感触はふかふかとした河川敷の草原のそれであった。どうやらまた眠ってしまったらしいと彼は思った。
    「よう」
     と、オリベは挨拶をした。
    「よう、じゃない。またサボって。もうみんな引き上げたぜ」
     ツキミヤが呆れ気味に言った。同時にふと、アンノーンと目が合った。するとどういう訳か、身を翻して、主人の背中のほうに回り込み、覗き込むようにしたのだった。
    「……? 今、何時だ?」
     こいつこんなによそよそしかっただろうかと思いながら、尋ねた。
    「四時過ぎだよ」
    「ん、もうそんな時間か」
     ちょっとした昼寝のつもりだったのに、ずいぶんと長い間眠ってしまっていたらしい。一度は起きて、神社に向かったつもりでいたが、それもまた夢であったという事か。
    「…………」
     唐突にオリベは起き上がると、古墳の丘を走り登り、周囲の草を掻き分けた。だが、そこには何も無かった。ただ草が生え、石が転がっているだけであった。
    「どうしたんだよ?」
     ツキミヤとアンノーンが後から追いかけて来てオリベに問うた。
    「いや、何でもない」
     オリベは言った。あまりにつまらない発掘実習に乗じて見た夢だったのだ。やはり入り口などある訳が無い。渡る風が河川敷の草原をざわざわと揺らしていた。




    単行本へ続く


      [No.2617] 霊鳥の右目(サンプル 途中まで) 投稿者:No.017   投稿日:2012/09/14(Fri) 00:18:28     74clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     少年は手を見る。
     固まりきらない血がまだ光を反射して輝いている。地面にはいくつかの血痕があった。
     その目の前では、ごめんなさい、ごめんなさいと、緑色の獣を腕に抱いた少女が必死に頭を下げている。
    「本当よ。普段はすごくおとなしい子なの」
     彼女はそのように弁明する。たぶんそれは嘘ではないし、彼女は何も悪くないのだろう。
     だが、少女に抱かれたラクライは毛を逆立て、牙をむき、眉間に皺を寄せる。フーッフーッと息を荒くしていた。
    「……気にしないで」
     少年は言った。
     ちらりと緑の獣を見る。獣は再びウウッと唸って毛を逆立てた。やはり見なければよかったと思い、急ぎ目を逸らす。嫌われたものだ。
     獣の瞳に映ったのは恐怖だった。忌むべき者を見た恐怖だ。手を出してはいけなかった。望むと望まないに限らず嫌われる者はいる。世の中にははみ出し者や除け者というものが必ず存在し、忌まれる者がいる。
     自分はどうやらそっち側の存在であるらしいと、この日、少年は理解したのだ。


     海の見える学校の、広い敷地の狭い部屋の中で何人かの男達が会合を開いていた。
     右上に小さな写真を貼った書類、そして写真の人物が書いた論文、考査の結果。それらを照会しながら彼らは品定めを行ってゆく。
    「タニグチ君はいいね。卒業論文もしっかりしているし、うちの研究室で貰いたいのだがね」
    「サカシタはどうだね」
    「彼は考査の結果がねえ」
    「だが体力があるだろ?」
    「それは評価に含まれない」
    「だが、フィールドワークでは重要だろ。よく働くんじゃないのかね、彼は」
    「卒論はどうだった?」
    「及第点といったところですかな」
    「まぁいい。うちで面倒見よう」
     そんな風に彼らは学生達をふるいにかけていった。何人かを通らせ、何人かを落とした。
     しかし、ここまでの過程は彼らの予定の範囲内であり、予想の範疇であった。たった一人、最後の一人だけが彼らの本当の議題だった。
    「さて、最後だが」
    「彼か」
    「ああ」
     教授達は選考書類に目を通す。
    「考査の結果は?」
    「……トップですな」
    「卒業論文は?」
    「発表会、聞いていたでしょう?」
    「考古学専攻はみんな聞いていましたな」
    「私は誰一人、質問しないので焦りましたよ」
    「あの後、学生が一人質問しましたな。いい質問だったが、いかんせん彼の切り返しのほうが上だった」
     彼らはそこまで言ってしばらく黙った。誰も先に進めようとしなかった。
    「欲しいのはおらんのかね」
     一人が沈黙を破ったが、誰一人手を挙げない。
    「能力的には並みの院生以上と思いますがね」
    「取るか取らないかは別の問題だよ」
    「分野的には、フジサキ研だと思うが」
    「学士までと約束しました。皆さんもご存知のはずです」
     その中でも比較的若い男が言う。
    「しかし彼を落とすとなると、他の学生も落ちますよ」
    「だから困っている」
    「ようするに合理的な説明が出来るか否かという事だ」
    「学士は所詮アマチュアだ。だが修士はタマゴとはいえ研究者。この違いは重い」
     結論は出なかった。グダグダと議論が続く。
     否、とっく結論は出ているのだ。議題の人物の受け入れ先など、最初から存在しない。後は誰が面倒な役回りを引き受けるか。結果を通知し、合理的説明をするのか。それだけなのだ。だが誰も関わりたくない。触りたくない。それだけなのだ。
    「休憩にしますかな」
     一人の教授がそう言った時、キイと狭い部屋のドアが開いた。
    「お困りのようですな」
     入ってきたのは一人の男だった。コースでは見ない顔だった。だがまったくの知らない顔、部外者という訳でも無かった。
    「オリベ君、」
     一人が男の名前を口にした。
    「民俗学コースの教授が何の用事かね」
     また違う一人が言った。少し不快そうだった。
     彼らの視線の先にいる乱入者はラフな格好だ。ネクタイは緩いし、履物は漁師の履くギョサンだった。大学教授などそんなものかもしれないが、年配には印象がよくない。だが乱入者は気にする様子もなく、
    「例え話をしましょうか」と、言ったのだった。
    「考古学コースには誰もが認める優秀な学生がいる。どの研究室も欲しがっているが、その学生がコースの変更届けを出したなら、皆諦めるしかありません」
    「…………」
     しばらく皆が黙った。いや、食いついた。だが、腹の底で疑念が沸き起こる。
    「オリベ君、何を企んでいるのかね」
    「何も。私は優秀な学生が欲しいだけです。こっちでも院試がありましたがろくなのがいなくてねぇ。ただ……」
    「ただ?」
    「配慮いただけるのであれば、来月のあの件、譲歩いただきたい」
     目配せしてオリベは言った。
    「来月の……」
    「そう、来月です」
     オリベがにやりと笑う。その言葉の真意に部屋のメンバーも気付いた様子だった。
    「つまり取引をしようというのかね。しかし彼が届けなど出すと思うかね」
    「出させてみせます。万が一の場合、今日の事はお忘れくださって結構」
     あくまでひょうひょうとした態度でオリベは続ける。
    「そうですね。とりあえずは院試の選考を今からでも民俗学・考古学コースの合同だったという事にしましょうか。他のコースも巻き込めるなら尚いい。それで責任者を私にするんです。院試に関する質問は全て私を通す事にしましょう」
     なるほど、と教授陣が目配せし合う。例の件はともかく、面倒事をオリベに転化できるのは彼らにとって都合がいい事は確かだった。
    「……分かった」
     彼らの代表格が返事をした。
    「決まりですね」
     オリベが言った。ずり落ちた眼鏡の位置は直さず、レンズを通さずに、下から覗き込むように教授陣を見据えた。そうして彼は二、三彼らに質問やら手続き的な頼み事をすると、部屋を出ていった。
     冬であったが、この日は比較的暖かかった。日光が差し込む廊下をポケットに手を突っ込んで、すたすたとオリベは歩いていく。時折、学生とすれ違ったが知らない顔だ。互いにこれといった挨拶は交わさなかった。
     とりあえず文書作成からかからなければなるまい、彼はそう考えていた。だが、
    『一体何をしようっての』
     途端に声が聞こえて足を止めた。
    「ん?」
     オリベはとぼけた声を発する。
    『とぼけるな。あんな事言って。私は反対だと伝えたはずだよ』
     声が響く。
    「あのなぁ、俺はいつもお前の言う事ばっか聞く訳じゃないぞ」
     面倒くさそうにオリベは言った。いかにもうるさいといった風に。
    『どうして? いつもはあんなに素直なのに』
    「これはこれ。それはそれ。前にも言ったけどな、お前の意見を聞くも聞かないも選択権は俺にあるの。たまたま聞く割合が多いだけだろ。あくまで選ぶのは俺だからな」
    『私が言って、外れた事があった?』
    「お前が勘がいいのは知ってるよ。だが、これはだめだ」
    『だいたいあんなの無理だ。無理に決まってる。夏休み前に相当怒らせたくせに。あの時は本当に危なかった』
    「怒らせるのはいつもの事だ」
    『一緒にいた女の子を覚えてる? あれ以来学校で見かけない』
    「だから? 大方、別れたんだろ? 男女にはよくある事だ」
    『危険なんだよ。ユウイチロウ』
    「お前はいつもそれだ」
    『ユウイチロウは鈍いから分からないのかもしれないが、』
    「うるさいな。あんまり喋るなよ。ただでさえ独り言が多いって言われてるんだ。文句なら部屋に帰ってからでいいだろ?」
     そこまで言うと声が止んだ。やれやれとオリベはまた歩き出した。ポケットに手を突っ込んで、ぺたぺたとギョサンを鳴らしながら、民俗学教授は歩いていった。
     日差しの差し込む長い廊下、そこにはオリベを除いて人は歩いていなかった。




    単行本へ続く


      [No.2616] 本人の意思 投稿者:フミん   投稿日:2012/09/14(Fri) 00:16:17     117clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    「ブースターだ!」

    「いや、シャワーズ!」
     

    家が敷き詰められた住宅街のある一戸建て。まだ幼く元気のある兄妹が、言い争いをしていた。
    喧嘩の理由は単純だった。二人の家に住むイーブイを、どの種類に進化させるかということである。
    二人はまだ年齢が若すぎるため、自分のポケモンを持っていない。両親に何度もお願いして、漸く家に来たのが一匹のイーブイだった。
     
    イーブイという種族は、様々な種類に進化することができる。住んでいる環境によって様々な個体へ姿を変えることができるため、他のポケモンよりも進化の数が圧倒的に多い。例えば、とても寒い地域に住んでいれば凍えて死なないためにグレイシアに進化する傾向があるし、森に囲まれて育ったイーブイはリーフィアに変化することもあると言われている。
    それ故に、人間が故意的に進化を操作することも多い。理由は、様々だが、大方は人間の都合である。そのため、人間が管理しているイーブイは、環境以外の要因で何に進化するか決まってしまうことが殆どだった。
     
    話は戻るが、兄弟は、イーブイを何に進化させるかで揉めているのだ。


    「ブースターは可愛いじゃないか。赤い体にふわふわした体毛、ずっとぎゅーってしていたくなるんだよ」こう

    言うのは、兄の方。

    「シャワーズにすれば、ひんやりして気持ち良いし、一緒にプールで遊べるもん。だからシャワーズが良いの!」

    そう述べるのは、妹の方。
     
    この二人は、いつも意見が食い違っていた。例えば、兄の方は冬が好きだし、妹は夏の方が好みだった。他にも兄は走るのが好きだし、妹は泳ぐのが好きだったりと、常にこの兄妹はぶつかりあっているのである。
    そのため、今回のことも珍しいことではなかった。


    「シャワーズに進化させたら冬はどうするのさ。冷たくて触っていられないぜ?」

    「ブースターなら冬に抱きしめられるもん。お兄ちゃんだって、真夏にブースターをずっとぎゅってしてるの?」

    「ああ、俺だったら真夏でも真冬でもブースターを抱きしめるもんね」

    「そんなことしたら暑さでお兄ちゃんが倒れちゃうよ。だから、シャワーズにしようよ」

    「そんなこと言ったら、冬に無理にシャワーズを抱きしめたら、お前が風邪引いちゃうじゃないか。だから、ブースターにしようぜ」

    「嫌だ! シャワーズ!」

    「俺だって嫌だ! ブースターが良い!」
     
    お互いに眉間にしわを寄せ、睨みあう兄妹。彼らはまだ、譲り合うということができなかった。両親がいると大人しくなるのだが、生憎、この子達の両親は、まだ仕事で帰って来ない。

    イーブイは、そんな兄妹を毎日見ているのに目もくれずソファーの上で昼寝をしていた。
    散々続いた言い争いが終わったと思うと、兄弟はイーブイの目の前に立ち見下ろしている。
    何事かと顔を上げると、先に兄が言う。


    「ブイルは(イーブイの名前である)、ブースターに進化したいよな?」
     
    妹。

    「ブイルはシャワーズに進化したいよね。私のこと大好きだもんね」

    「ブイルはお前のことなんか好きじゃないって。ブイルが好きなのは俺だよな」

    「そうやって、人のことをいじめるような最低な人間をブイルが好きになるわけないじゃない。ねーブイル」

    「あーあ、やだやだ。強引に姿を変えられるのは嫌だってさ。他人のことを思っているように見せかけて、実は自分の都合を突き通そうとしている人って、タチが悪いんだよな」

    「お兄ちゃん。そろそろ怒るよ」

    「やるか」

    「手加減しないよ」
     
    彼らは拳を握り、今にも喧嘩を始めそうになる。怪我をしたら流石に洒落にならないので、ブイルと呼ばれたイーブイは起き上がり、自分の気持ちを堂々と伝えた。


    「僕は、昔からサンダースになりたいと思っているんだ」
     
    胸を張り、しっかりと自己主張をするブイル。
    すると、二人の表情は一変する。

    「何言ってるんだ。サンダースになったら静電気が大変だろう。それに、ふわふわした体毛が少なくなっちゃうじゃないか」これは兄。

    「そうよ。サンダースだと一緒にプールで泳げないよ? だから考え直そうよ」これは妹。

    「だから勝手に決めるなって。ブースターが良いに決まってるだろ」

    「違うの! シャワーズが良いの!」

    「ブースター!」

    「シャワーズ!」
     
    ついには殴りあいの喧嘩を始めてしまう二人。さすがにここまでくると放っておけないので、ブイルはなんとか止めさせる。


    「これ以上喧嘩するなら、何に進化するかお母さんに決めて貰おうかなあ」
     
    さり気なく呟くブイル。
    お母さん、兄妹にとって大切な家族であり、恐れる対象である。
    兄妹は理解していた。お母さんが主導権を握れば、全ての物事は強引に決定してしまうのである。そのため、ブイルが何に進化するかを母親に頼むということは、自分達の意見が通らなくなることがほぼ確実だった。


    「ごめんブイル、俺達が悪かった」

    「お願いブイル、それだけは止めて」
     
    母に決定権が移ることだけは、何としても阻止しなければならない。兄妹の態度は一変した。

    「もう喧嘩しない?」

    「しないしない。絶対にしない」

    「うん。お兄ちゃんと私は仲良しだもん。喧嘩なんてしないよねー」

    「ああ、しないとも」
     
    ぎこちない笑顔で肩を組む兄妹。それならば、とブイルは言う。
    「僕が何に進化するのか、仲良く決めてね」
     
    兄妹は黙って頷いた。とりあえず、今日の兄妹戦争は回避できた訳だ。
    しかし、明日には同じことを繰り返すのだろう。そう思うと、このままイーブイの姿で一生を終えた方が良いのではないかと思うブイルだった。



    ――――――――――

    地味にお久しぶりです。
    夏コミ82に来てくれた方がもしいたら、ありがとうございました。またちょくちょくイベントには参加していると思います。
    9月のチャレンジャーは他のイベントで売り子を頼まれた為、参加を断念しました。鳩さんの新刊はまた今度になりそうです。

    現在、冬コミに向けてワープロ打っています。こういうネタは直ぐ思いつくのですが、遅筆なのが悩みです。


    フミん


    【批評していいのよ】
    【描いてもいいのよ】


      [No.2615] 【ポケライフ】お客さんの来ない日 投稿者:久方小風夜   投稿日:2012/09/13(Thu) 22:59:08     173clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:ポケライフ】 【冥土喫茶】 【何もかも投げ出して喫茶店経営したい】 【|ω・)
    【ポケライフ】お客さんの来ない日 (画像サイズ: 887×682 200kB)

     僕の喫茶店は、通称「冥土喫茶」と呼ばれている。


     別に雰囲気がおどろおどろしいとか、入ったら呪われるとか、ましてや本当にあの世にあるとか、そういうことじゃない。もちろんメイドさんがいるわけでもない。
     赤レンガの壁にアルコールランプの明かりの内装はお客さんたちにも落ち着くって評判だし、庭では奥さんが手入れしている花壇を眺めながらお茶を楽しめる席も用意してある。メニューだって自信がある。コーヒーは自家焙煎だし、甘味も軽食も手作りだ。

     ただちょっと、集まるのだ。ゴーストポケモンが。


     それというのも、僕がこの喫茶店を開いたばっかりの頃だ。
     昔からのささやかな夢で、街の片隅で小さな喫茶店でもやりたいな、って思ってた。
     で、とある町で店舗を借りたものの、喫茶店としてやっていくにはちょっと狭すぎて、しょうがないからもうちょっと広い場所に移ることを夢見ながら数年間、自家焙煎のコーヒー豆を売っていた。
     その頃に後々僕の弟子となる子と会ったんだけど、その時その子が連れていたのがヨマワルだったんだよね。

     しばらくして資金もたまって、長年お付き合いしてた奥さんとも結婚して、晴れて郊外の一軒家に移り住んだわけだ。
     ちょうどその直後、例の弟子が「迷子のヨマワル拾ったんですが育てません?」とか言ってきて。
     まー僕もそれなりにポケモンを育てることには興味を持ってたし? 弟子の様子見てヨマワルかわいいなーとか思ってたし? じゃあせっかくだからってことでもらいうけたわけだ。

     最初は僕と奥さんの2人で喫茶店をやってたんだけど、しばらくして奥さんが妊娠したから、僕ひとりで店をやることになっちゃったんだよね。
     そんなに大きな店じゃないけど、ひとりで注文聞いてコーヒー淹れてお菓子用意して運んで掃除して片付けて、って結構大変なんだよね。自分がまだ慣れてなかったのもあるけど。時期的にもお店を開いてまだそんなに経ってない。常連さんが出来て、お客さんが入るようになって、これからが大事って時だから。

     で、僕は気がついたらヨマワルに「手伝ってくれない?」って聞いてた。ヨマワルの手も借りたいという慣用句はなかったと思うけど、そんな気持ち。
     そしたら意外とあっさり言うこと聞いてくれて、まずは店の掃除を手伝ってくれるようになった。
     教えたら食器を洗ったり、注文されたものを席まで届けたり、注文を取ったり、何かいろいろ出来るようになった。
     しばらくしたらサマヨールに進化して、細かい作業ができるようになって、ケーキをよそったり、ケーキを作ったり、クッキー焼いたり、紅茶を淹れたり、豆を量ったり、豆を挽いたり、コーヒー淹れたり、コーヒー飲んだり、僕のブレンドに文句を言ってきたりした。

     まあ良く働いてくれるもんだから、だんだんお店の評判が広がって、お客さんがたくさん来るようになった。
     で、相方はいつの間にかお客さんたちから「副店長」って呼ばれるようになってた。
     まー確かにそう呼ばれてもしょうがないよね。僕より働いてるような気がしないでもないしね。
     ヨノワールに進化してからというもの、来る人来る人に「店長より副店長の方が威厳ありますよね」とか言われるのが僕としてはちょっと不満だ。


     うん、まあ、ずっと僕と副店長の2人(1人と1匹)体制でお店をやってたんだけど。


     いつの間にか、増えてた。


     いや、僕が新しいポケモン捕まえたとかそういうわけじゃない。
     そもそものきっかけは、副店長が外出した先で、野生のカゲボウズを拾ってきたことだ。
     言葉は話せないし表情も基本ポーカーフェイスだから、身振り手振りで強引に解釈した結果、「何か知らないけどついてきた」……ということらしい。
     まあ別に困るわけじゃないし、暇だったし、せっかくだからとコーヒーを出した。

     そしたら懐かれた。

     いやまあ考えたら野生のポケモンに餌付けするようなものなのかもしれないけど、それを言うならまずは連れて帰ってきた副店長に文句を言ってください。
     ちなみにそのカゲボウズ、進化した今でも常連と化して、よくカウンターに寝転がって新聞読んでます。

     で、それをきっかけに、色んな野生のポケモンがうちに来るようになったんだよね。主にゴーストタイプが。多分副店長が副店長だから。
     勝手に人の店にたむろしてるわけだけど、たまにお店を手伝ってくれることもあるから何とも言えない。
     ゴーストやゲンガーは注文を取りに行ってくれるし、ヤミラミは注文のものを運んでくれる。
     ムウマとムウマージはよくお店の掃除をしてくれる。イトマルやバチュル辺りとは巣の存亡をめぐって仁義なき争いを繰り広げているようだ。
     ユキメノコとその子供のユキワラシは氷が切れた時に用意してくれる。この親子が来るようになってから、夏のメニューにかき氷が増えた。
     ヒトモシの集団は、たまにサイフォンの熱源の代わりになっている。燃料代を節約できるかと思ったら、コーヒーが何だか生気の抜けたような味になったからやめた。
     フワンテはよく、お店に飾る花を摘んでくる。でもこの前店に行ったら花瓶にキマワリが刺さってた。本人(本花?)がまんざらでもない顔だったからそのままにしておいたけど。でも次の日にはいなくなった……と思ったら代わりにチェリムが刺さってた。
     その辺にいっぱいいるカゲボウズやらヨマワルやらゴースやらは……うん、まあ、遊びに来てるんだろうな。気まぐれに手伝ってくれたりするけど、基本的にお客さんにちょっかい出したり、僕にちょっかい出したり、副店長にちょっかい出して追い払われたりしている。
     副店長は副店長で、マイペースかつ確実に仕事をやってくれる。僕はまあ、遊べとせがんでくるちびっこたちを適当にあしらいつつ、適当に仕事をしている。げに頼もしきは副店長だ。全く。


     まあおかげさまで、喫茶店はお客さんたちに「冥土喫茶」とあだ名をつけられ、その筋ではそこそこ有名になっているらしい。
     イーブイやエネコやミミロルみたいな、かわいくて癒されるポケモンと触れ合えるカフェなんかはよく聞くけど、うちはあだ名からして何だか禍々しい気がしてならない。
     話に聞くと、例の弟子の店も僕の店以上にゴーストのたまり場と化しているらしいので、師弟そろってろくでもない店を経営する運命だったようだ。


     さて、と。
     今日は珍しくお客さんが来ないし、ここのところの暑さでだるいし、眠いし、副店長は本読んでるし、相変わらずポケモンたちがいっぱいだし。


     ドアベルが鳴るまで、ちょっと寝かせてもらうとするかね。



    +++++

    「ますたーおきろー」
    「ますたーおきゃくさんきちゃうぞー」
    「どうしたますたー? たいちょうわるいのかー?」
    「どうせ夏バテでしょ。副店長、どうする?」
    「……放っとけ」


    こっそりイラコンに紛れ込ませていただいた1枚。
    塗ろうと思ったところで灰色の色鉛筆が消失していて、別色で無理やり塗った思い出。


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