マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ
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  •   [No.3945] インタビュー・ウィズ・メゾン・ド・シオン3 投稿者:くちなし   投稿日:2016/08/07(Sun) 00:51:27     54clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    208号室住人、談
    「クズさんがポケモンマフィア?惜しい!けど違う!彼はロケット出版の編集者で、あんなナリでも妻子持ちのマイホームパパなんだぞ。えっ、僕?・・・・・・僕は担当者に拉致されてボロアポートに監禁もとい缶詰め状態にされてる哀れな物書きだ。ここに泊まれば新作のインスピレーションが沸くかもしれんって言われたんだけど、本当に出るの?夜中にガス状ポケモンが出現するから、寝るときは必ず、枕元に扇風機を回しておけよって言われたけどさ・・・・・・停電になったらどうするんだろうね?例えば、コイルが大量発生してブレーカーに近寄ってきたら・・・・・・いや、それはそれで吝かでもないなぁ。何もかも投げ出して安らかに眠りてぇ」


    206号室住人、談
    「なんだお前等?カメラを下ろせ!ここは彼等の家だ!おもしろ半分で晒し者にするのは止めろ!出ていけ!」
    「貴方、乱暴は止して!話を聞いてもらうチャンスよ!安住の地を失った者たちの声を聞いてもらう絶好のチャンスじゃない!」
    「お前はまだそんなことを言っているのか!?テレビもラジオも変わりない!この期に及んで何を盗る!忌々しい墓荒し共めっ!!出ていけ!出ていけ!」


    通りがかりの住人、談
    「カネジョウ夫妻、頭オカシい。関わらない方が身のためネ。特に夫の方、度が過ぎるポケモン大好きクラブの過激派。ここに生息するゴーストポケモン、ミンナ、ポケモンタワーからやってきたと信じてる。勝手に自分がゴーストポケモンの代弁者だと思い込んでる。可哀想な人、そっとしておいてあげて」
    「私?私チュイ!話はポピーから聞いた!幽霊屋敷住んで長い!知りたいことアルなら何でも教えるネ!ところで・・・・・・取材料はどれくらい出るネ?話はそれからネ!!!」

    通りがかりの住人、改め202号室住人、談
    「理由は知らん。でも、ここ何故かゴーストポケモン沢山住んでるネ。人懐っこいゴース、覗き見大好きな出歯亀エロゴースト、勝手に部屋で寛ぐゲンガー、悪戯好きなムウマ、軒下に張り付いてるカゲボウズの群、管理人を気取ったヨマワル・・・初めは戸惑うの当たり前、上手く付き合えば面白い同居人たちアル。異国の地にやってきた私、最初、ホームシックで辛かたけど、ミンナのお陰で寂しさ吹き飛んだネ。まぁ気絶しちゃうこと、たまにアルけど、それはしょーがないネ。身の安全は運と事故責任アル。それより、ホントにコワいのゴーストポケモンじゃないヨ、ココ」


      [No.3944] 夏の終わりに 投稿者:アナザーレッド   《URL》   投稿日:2016/08/07(Sun) 00:51:18     88clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:ホワイティ杯

     小さな四角い画面の中を冒険してから、僕の将来の夢は、ポケモントレーナーになることだった。



    +++ 夏の終わりに―Another RED― +++



     目が覚めたら、部屋の時計の短針は間もなく三を示そうとしていた。
     閉めっぱなしのカーテンの隙間から、夏の日差しが入り込んできて、足元まで蹴り飛ばしていた薄青のタオルケットに反射している。寝起きの目には光が痛くて、僕はもう一度カーテンをきっちりと閉め直した。
     枕に寝過ぎて痛む頭を預けて、ぼんやりと部屋を見渡す。見慣れた部屋。見慣れ過ぎた部屋。
     学校にも行かず、町に出ることもなく、毎日毎日同じ景色を眺めて過ごす。
     もうかれこれ、十年、僕はここからほとんど出ていない。

     ごろりと寝がえりを打って、一度伸びをして、ふと思い出して敷布団の角をめくる。
     出てきたのは、折りたためないけど画面はカラーの、クリアパープルのゲーム機。刺さっているのは、僕と同い年の、灰色のボディに赤いシールのカセット。
     そういえば昨日、いや今朝? 寝る前にやってて、いつどこまでやったかは覚えてないけど、いつからか染みついた習慣通り、敷布団の下に隠して夢の世界へ行ったんだ。

     僕が生まれた年に出たこのカセットは、僕の兄が置いていったものだ。
     まだ問題なく動くし記録も出来るから、僕はこのソフトばかりやっている。まあ、十年ほど前から、僕がこのシリーズの新作を買えていないせいもあるんだけども。
     電源を入れてみる。動かない。電池が切れている。どうやらいつも通り敷布団の下に入れたけれども、電源を切るのを忘れていたみたいだ。ああ、レポート書いてない。ま、いっか。またやり直せば。
     ベッドから起き上がり、勉強机の引き出しを漁る。電池、まだ在庫があったと思うけど。ACアダプタが何年か前に断線してから、電池しか使えないのがちょっと不便だ。充電式の奴、買おうかな。でも取説には充電式のは使うなって書いてあるんだよな。何でか知らないけど。
     しょうがない、電池はまたネットで注文しておこう。ああでも、最近電池ばっかり大量に買ってるから、そろそろ母さんに不審がられるかな。気をつけなきゃ。

     世界的に大流行したこのシリーズは、世代ごとに四季を表しているって説がある。
     リメイクして紅葉やらが増えた二作目は秋。製作者の春休みの思い出が込められてるって話のある三作目は春。雪に埋まった場所や町が出てくる四作目は冬。
     そして、シリーズ最初のこのソフトは、半袖短パンの男の子や麦わら帽子に虫取り網の少年がたくさん出てくるこのソフトは、夏。
     舞台を突然国外に移した次回作が、時間の流れと共に季節が移り変わるらしいっていうのも、そう考えるとちょっと興味深いかもしれない。
     まあ、あくまでも一部のプレーヤーの考察。確証はない。

     でも、僕はやっぱり、このソフトは「夏」だなあ、って思う。
     ゲーム内で直接季節が示されているわけじゃないんだけど、何だか、小学校の夏休みとか、その間の冒険とか、そんな感じ。
     だから僕は、それぞれのシリーズが四季を表しているという説、嫌いじゃない。

     このソフトの前の持ち主だった兄は、僕より五つ上で、優秀で、明るくて、そつがなくて、人当たりがよくて、僕とは全然違うタイプだった。
     僕がやっているこのソフトを、兄は発売された時から、つまりは僕が生まれた頃からやっていた。母さんは兄の事を溺愛していて、兄の欲しいものは大体買い与えていた。僕がこのソフトに初めて触れたのは、僕が六歳、兄が十一歳の頃、兄が世代を二つ下ったシリーズ新作に夢中になり、互換性のないこのシリーズをあまりやらなくなったからだ。
     そうやって、まあ、お下がりみたいな感じでやり始めたゲームだったけど、僕はそれはそれはまあ夢中になった。世間の流行から遅れること六年、小学校に通う前だった僕の周りでやってる子もそんなにいなかったけど、僕は一人で黙々と画面の中での冒険を楽しんだ。
     永遠の夏休みが閉じ込められた画面の中で、たくさんのポケモンを捕まえ、使役して、チャンピオンになる。
     そんな夢みたいなストーリーに、僕は夢中になった。

     大きくなったらポケモントレーナーになりたい、と僕は言った。
     母さんはため息をついて、兄さんもあんたと同じ頃、同じことを言っていたわよ、と言った。

     兄は母さんに愛されていた。僕が物心ついた頃から、母さんは兄に夢中だった。おかげで僕はほぼ無関心に扱われてきた。
     まあ、それについては別に今更どうこう言うことはない。羨ましい、と思ったことがないわけじゃないんだけど、何ていうか、まあ、今思えば兄も溺愛されているあの状態を喜んでいるわけじゃなかったかもしれないな、と思わないこともない。
     いや、やっぱわからない。ずっと兄の立ち位置を奪いたくて、母さんに愛されたくて、今も実はそう思ってるのかもしれない。

     母さん。そうだ、確か今日母さん、集会に行くって言ってたっけ。

     いつもと同じ時間なら、帰ってくるのは四時過ぎになるはずだ。今は三時ちょっとすぎ。テレビをつける絶好のチャンスじゃないか。今の時間なら、どっかのチャンネルでワイドショーだか情報バラエティーだかやってるはずだ。
     僕はベッドに座ってリモコンを取り、テレビの電源を入れ、チャンネルを適当な局に回した。女子アナか何かの甲高い声が部屋に響く。


    「――さて、こちら、ハナダシティジムでは、今年も毎年恒例の、夏の終わりを飾る水ポケモンによるウォーターショーが……」


     女子アナの背後の大きなプールでは、プールサイドに作られたステージの中央で、オレンジ色の髪のジムリーダーがカメラに向かって手を振っているのが見える。そしてプールの中では、紫のヒトデや角を持った金魚が、水面から勢いよく飛び出しては空中に水滴や虹色の泡を撒き散らしている。水がかかった女子アナが、きゃあきゃあとまた甲高い声を上げる。
     僕は画面の向こう側の光景をぼんやりと眺める。オレンジ髪のジムリーダーがカメラの近くに寄ってくる。年の割にかなり若く見える。僕より十以上年上のはずだから、もう三十路は超えてるはずなんだけど。ハナダジムのウォーターショー、今週末までです、皆さん是非ハナダジムへお越しください、と水浸しの女子アナが視聴者に向けて手を振る。僕は小さくため息をついて、行けるもんならね、と心の中で呟いた。

     タマムシシティにあるゲームフリーク本社が、そのゲームを世に出したのは、ちょうど僕が生まれたのと同じ年のことだ。そのものずばり「ポケットモンスター」という名前。あんまり安直なネーミングで、最初は敬遠する人もいたらしい。
     しかし、このカントーに住む数多くのポケモンの、比較的正確な生息地を反映した登場。実在の人物と、実際に起こった事件を大胆に投影したストーリー。そして何より、あらゆるポケモンを捕まえることができ、全トレーナーの憧れである、ポケモンリーグのチャンピオンに昇り詰めるという夢。そんな内容が若者を中心に受け、爆発的に流行したそうだ。
     ゲームの主人公は十代の少年。同じ年頃の少年少女はトレーナーに憧れ、このソフトの発売からトレーナーの若年層化は一気に加速したという。初代の発売から二十年。今や十代前半でトレーナーとして旅立つことはごく一般的なこととなっており、あの頃感化された少年少女若者たちは、今のトレーナーたちを牽引するベテラントレーナーとなっている。

     僕の兄も、感化された一人だった。

     ガチャ、と玄関の扉が開く音がした。僕は瞬間的にテレビの電源を切った。危ない危ない。いつもより帰宅が早いじゃないか。
     扉一枚隔てたリビングから、ぱたぱたという足音とか紙の束を机に置く音とかが聞こえてくる。ややあってこんこんとノックする音がし、ただいま、という声と共に部屋の扉が開かれた。
     僕はベッドに座ったまま、おかえり、と気がない返事をした。母さんはいつも通り疲れた顔で笑って、僕のそばまで寄ってきた。

    「テレビ、点けたりしてないわよね?」
    「してないよ」

     僕がいつも通り嘘をつくと、母さんは満足そうに笑った。

    「そうよね、テレビとかそういうのに耳を貸しちゃダメなのよ。だって誰も彼もむやみやたらとトレーナーを礼讃する言葉しか言わないものね。こんな社会おかしいわよね。だってトレーナーなんていいことなにもないものね。ほら、今日もトレーナー制度反対集会でお話聞いてきたのよ。今日お話ししてた人もね、娘さんを亡くしたんですって。ひどいわよね、こんなに辛い思いしてる人がたくさんいるのに、政府は全く話を聞いてくれないのよ。それでね、署名をまた集めたんだけどね……」

     早口でいつもと大体同じ内容をまくしたてる母さんの言葉を、僕はいつも通り聞き流した。

     僕の兄は僕が八歳の時、つまり十三歳の時、トレーナーとして旅に出た。
     母さんは最後まで反対していた。僕と兄の父親はどちらもポケモントレーナーで、母さんとは旅の途中にこの町へ来た時に出会ったらしい。僕と兄は父親違いで、二人とも父の顔を見たこともない。行きずりのトレーナーだった父親たちは母さんとの間に子供が出来たことも知らず、どこか知らないところへ行ってしまい、生死すらわからない。そんなのだから母さんはトレーナーというものをそもそもあまりよく思っていなかった。それに何より、母さんは兄を溺愛していたし、自分の目の届かないところに行かれるのは嫌だったのだろう。
     でも、小さい頃から兄の欲しいものは何でも与えてきた母さんは、最終的には兄の強い意志の前に屈した。毎日定時の連絡を入れることを条件に、トレーナーとしての旅を許した。兄は律儀に、毎日母さんへ電話をかけた。まあ、定時にかかってこなかったら母さんの方から電話かけてたんだけど。

     兄からの連絡が途絶えたのは、僕が十歳、兄が旅立って二年のことだった。
     母さんは半狂乱になって行方を探した。警察に日に何度も怒鳴りこみ、探偵のようなものに何件も通い詰め、自分の生活も時間もお金も僕のことも全て投げ捨てて兄を探した。

     連絡が入ったのは、僕が自分の食事を自分で用意するようになってから、三か月ほど経ってからだった。
     呼ばれて行った警察で、僕は結局、兄の顔を見ることはなかった。

     ポケモンセンターの利用記録やら目撃証言やら、そんなものから割り出した結果、兄はとある山に向かっていた。ゲームにも出てくる、ゲームを遊んだことのある人なら誰でも知っている場所だった。
     ただ、ゲームは、どこまで行ってもゲームなのだ。その場所の生態系をかなり正確に再現していると言われているあのシリーズでも、難易度という壁は突き崩せない。ゲームの序盤はレベルを低く、後半は高くせざるを得ない。登場させるポケモンだって、自然と限られてくる。
     そんな風に、ゲームを過信しすぎたトレーナーが、事故に巻き込まれることは珍しくないのだと、警察の人が言っていたことは覚えている。

     僕は結局、兄の顔を見ることはなかった。
     兄は、右手の手首から先しか見つからなかったからだ。

     溺愛した息子を亡くした母さんの嘆きは言うまでもない。葬式どころか四十九日が過ぎても、母さんはひたすら泣き続けていた。僕だって心が痛んだ。息子として、嘆き悲しむ母さんを見るのは辛かった。
     だけど、やっぱりあの時。あの時、僕の道は変わってしまった。

     愛する息子を亡くした母さんは、散々嘆き悲しんだ末、自分にはもうひとり息子がいることを思い出した。
     そして母さんは、これまでほぼ空気のように扱ってきた僕にすがって、こう言った。

    「ねえ、あなたは。あなたはどこにも行かないわよね。お母さんのそばにいてくれるわよね」

     今更何を、と突っぱねることも出来ただろう。僕は身替わりじゃない、と怒ることも出来ただろう。
     だけど、憔悴しきった母さんを見てきた僕は、今まで母さんに愛されることのなかった僕は、弱々しく震える母さんの腕を、振り払うことが出来なかった。

     延々と続くいつも同じ内容の母の説教を聞き流しながら、僕は考える。
     もしあの時、あの腕を振り払っていたら。僕はこうやって十年もこの家に軟禁されることも、ポケモンやトレーナーの情報を発信し続けるテレビを隠れて見ることも、通販の荷物を逐一チェックされることも、兄をトレーナーの世界へ導いたあのゲームの新作を買うことが出来ないということもなかった。
     幼い頃夢見たトレーナーとして、この世界のどこかを旅していただろう。兄の遺したあのゲームの、永遠の夏の世界を旅している、赤い帽子の主人公と同じように。

     あの日、僕の夏は終わった。

     僕の時は、始まることのないまま終わった夏を置き去りにしたまま、この部屋の中で止まっている。

     定型の説教を終えた母さんは、これまたいつものように、僕にすがりついてうわごとのように何度もつぶやく。
     あなたはどこにも行かないわよね。お母さんのそばにいてくれるわよね。
     僕はそれに応えない。その無言を肯定と受け止め、母さんはそれで満足する。

     もし。もしも。僕が本当のことを言ったなら。

     僕が今でも、トレーナーになりたいと言ったなら。

     この人は、どんな反応をするのだろう。
     怒るだろうか。悲しむだろうか。それとも、僕は殺されるだろうか。
     二度とベッドから起き上がれないように足をもがれるかもしれない。五感を奪って、母さんなしでは生きられない体にされるかもしれない。十年も家から出ることのなかった僕だ。抵抗することもなく、母さんの好きにされるだろう。
     そうやって延々と考えていると、妙に愉快な気持ちが沸き立ってきて、僕は吐き捨てるように笑う。そしてその不気味な高揚感を抱いたまま、誰にも見つからないようこっそりと、小さな画面の中の夏の世界に飛び込むのだ。


     小さな四角い画面の中を冒険してから、僕の将来の夢は、ポケモントレーナーになることだった。
     今も、それは変わっていない。






    ++++++


      [No.3708] 幼馴染と会った話 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2015/04/11(Sat) 01:29:35     98clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:バトルサブウェイ】 【派生・別パターンも見たいのよ

     バトルサブェイでバトルをしていたところ、十戦目くらいで懐かしい顔に当たった。
     ジャック。同じ町から旅立った同期だった。
     もう何年も会っていなかったが、当時の面影が残っている。
     最初にあいつが貰ったポカブはすっかり立派なエンブオーになっていた。
     連続で繰り出されるつっぱり。車両を揺るがすヒートスタンプ。
     正直かなり手ごわかったがなんとか勝つ事が出来た。

    「あー、やっぱ強いな。お前」

     ジャックは言った。
     相性ではこっちが有利なのに、と。

    「覚えてるか? 最初にポケモン貰った時、俺達バトルしただろ。
     あの時も勝てなくてさ。俺、すごい悔しかったんだ」

     だから一生懸命育てたんだぜ、ジャックは続ける。
     それから二言三言言葉を交わしたけれど、敗者は車両から出なくちゃいけなかった。
     去り際にジャックは言った。

    「あー、とうとう勝てなかったな」

     そう言って同郷の友は出ていった。

     ジャックには辛勝した俺だったが、次の相手にはあっさり負けてしまった。
     あっけないほどの三タテだった。
     俺は車両を降りた。
     おふくろからのライブキャスターが入ったのはホームに降りたすぐ後だったと記憶している。

    「ひさしぶりやねー。今何しとっと?」

     画面の向こうで母が言う。

    「バトル」

     何だよ。こんな時間に。
     内心ウザイと思いながら俺は答える。

    「で、なんか用?」
    「ああ、それがなー……」

     次に母はおかしなことを口にした。

    「お前と同じ時期に旅に出たジャックを覚えとる? あの子、亡くなっとーと」
    「…………」

     何を言っているのかわからなかった。
     だって、ジャックなら。
     さっき。

    「一年前くらいからな、悪かったらしいわ。ずっとヒウンの病院に入院してて」

     今朝、息を引き取ったらしい。
     そう母は告げた。

    「葬式はこっちでやるらしいから、お前も一度顔見せとけ」

     そう母が言って、以後はよく覚えていない。
     その後、葬式があって、そこで俺は物言わぬジャックと再会を果たすがそこにいたのは抜け殻だった。
     本人はもうここにはいないのだと、そんな空虚さが俺の感覚を占めていた。

     あれからもう何年も経って、あの時何を話したかも忘れてしまったけれど、
     とうとう勝てなかった、というその台詞だけが忘れられない。


      [No.3465] 明るい森 投稿者:   《URL》   投稿日:2014/10/22(Wed) 22:32:17     90clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    2014.10.22
    下から読む

    殻:おわり(21:51)
    殻:明るい木漏れ日の差すポケモンの森がありまし。みんな毎日なかよく暮らしておりました。(21:51)
    殻:「やあ、すれっからしめ」しょぼしょぼになったポケモンの一人が呟きました。「けれど明日もきっとみにきてしまう」(21:50)
    殻:「ありがとう」と妖精ポケモンがいいました。「きっと明日もみにきといで」(21:49)
    殻:それをみていたポケモンたちは、いつのまにかしょぼしょぼにしぼんでいました。(21:45)
    殻:ぴたっとポーズをとってみても、濡れた髪がきらきらと輝いています。(21:44)
    殻:妖精ポケモンはくるくると躍りながら、鼻水と椿と髄液とを浴びました。(21:44)
    殻:やがて大きな鼻がくしゃみをしました。やがて長いくちばしが唾をはきました。やがて長い頭がはれつしました。(21:42)
    殻:明るい広場はこうしてにぎやかになりました。誰も彼もさみしくありません。みんなとっても幸せです。誰一人目を合わせません。(21:39)
    殻:それをみて長い頭がからんころんと振るえました。(21:37)
    殻:妖精ポケモンは知らん顔して、じっくりと見せつけるように踊り始めました。(21:36)
    殻:「この子の踊りはとっても素敵」頭の長いポケモンがひとりごちました。「ただもう少しゆっくりじっくり見せてくれたらきっともっと素敵なのになあ」(21:34)
    殻:土の下からもりもりと、頭のながあいポケモンがはいでてきました。(21:32)
    殻:「おいでおいで」妖精ポケモンがいいました。「もっときちんとあたしのダンスをみておいで」(21:31)
    殻:そんな広場の様子を土の下からこっそりうかがっているのは誰なんでしょう。(21:30)
    殻:ながいくちばしがぱくんぱくん鳴りました。(21:30)
    殻:妖精ポケモンはそ知らぬ顔で、腰をひくうく落としました。(21:29)
    殻:「この子の踊りはとっても素敵」くちばしの長いポケモンがいいました。「けれどもう少し腰を低くして踊ったらきっともっと素敵なのになあ」(21:28)
    殻:すると木の葉を散らして、くちばしの長いポケモンが降りてくるのでした。(21:26)
    殻:「おいでおいで」妖精ポケモンがいいました。「もっと近くであたしのダンスをみておいで」(21:25)
    殻:そんな様子を空の高いところから見下ろしているものがありました。(21:24)
    殻:ながあいお鼻がぴくぴくとゆれました。(21:22)
    殻:妖精ポケモンはおすまし顔で、足をたかあくかかげました。(21:22)
    殻:「あのこの踊りはとっても素敵」鼻の長いポケモンがぼそぼそっと呟きました。「でももう少し高く足をあげたらきっともっと素敵にみえるのになあ」(21:20)
    殻:すると切り株の後ろから、鼻のながあいポケモンがのそりのそりとはいでてきました。(21:19)
    殻:「おいでおいで」妖精ポケモンがいいました。「もっとちかくであたしのダンスをみていって」(21:18)
    殻:そんな妖精ポケモンの様子を、切り株のうしろからこっそりのぞいているのはいったいだあれ?(21:17)
    殻:それはかわいらしい妖精ポケモンが、くるくる、くるくるくると踊っていますよ。(21:15)
    殻:明るい木漏れ日のきらきらと差し込む森の中、小さな広場がありました。(21:14)


      [No.3464] Re: 鍋 投稿者:朱烏   投稿日:2014/10/22(Wed) 00:33:02     56clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    映画ではサトシたちに化けても尻尾はそのままでしたね。
    つまりここでも同じ現象が起きている筈。
    なので尻尾が生えた鍋はかわいい説を提唱します。


      [No.3463] 「バトルサブウェイには、バケモノがいる」 投稿者:GPS   投稿日:2014/10/20(Mon) 14:18:29     74clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    バトルサブウェイには、バケモノが住んでいる。
    それは人喰いのバケモノだと言う。


    「こちらはスーパーシングルトレインです。ご乗車になりますか?」
    緑の制服に身を包んだ駅員に頷き、先ほど購入した切符を手渡す。パチンと切られたそれを返してきた彼は、それでは行ってらっしゃいませ、と丁寧に頭を下げた。黙って前を通り過ぎてホームに向かう。
    間も無く滑り込んできたのは緑のラインを車体に走らせた地下鉄で、普通の交通機関として使われているものよりもいくらか冷たい印象を放っていた。それは乗っている人が少ないからなのか、或いは生活に寄り添うものではなくある種の非日常を演出する空間であるからなのか、はたまた単純に使用回数が少ないからか。その疑問は俺が考えたところでわからないだろう、思考を打ち切って、独特の音を立てて開いたドアの中へと足を踏み出す。
    「にゃんにゃんしょうぶだにゃん!」
    乗り込んだ、いっとう端の車両で俺を待っていたのは一人のウェイトレス。惜しみない量のフリルで飾り付けられた服からは、どちらかと言うとメイドカフェの店員といったイメージを受ける。甘ったるい声とふざけた台詞とは裏腹に、嫌々やってますという気持ちを隠す気も無さそうな表情が個性的だった。
    しかし、そんなことはどうでもいい。相手の見た目や性格や肩書きなんて、バトルには何の関係も無いのだから。
    大事なのは、ただ、勝つことのみ。
    媚びるようなポーズを決めてボールを宙に投げたウェイトレスと同時に、俺も自分のモンスターボールをセットする。何度も何度も見ているあの光が車両に満ちて、バトルの開始を暗に告げた。


    いつ誰が言い出したのかわからないその噂は、バトルサブウェイを利用する者たちの間でまことしやかに囁かれていた。
    バトルサブウェイにはバケモノがいて、地下鉄に乗っている人を常に狙っているのだと。
    どんな者でも貪り食うというそのバケモノに目をつけられたら最後、抗うことなどとても出来ずに喰われてしまう。
    そんな噂だった。


    「ふにゃーん! まけちゃったにゃん!」
    にゃんにゃん言葉は崩さぬままに、ウェイトレスが俺を呪い殺しでもしそうな瞳をしてポケモンをボールに戻した。先ほども少し思ったのだけど、彼女はこんな調子で大丈夫なのだろうか。ウェイトレスを名乗っているということは恐らく地下鉄を出てもそうなのだろうけれど、この正直さは果たして業務に支障が出ないのか不安である。
    が、そんなことを考える必要は俺には無い。バトルに勝った俺は、次のバトルに勝つことだけを考えれば良いのだ。鬼の形相のウェイトレスの前を黙って過ぎ、車両の端に設置された、ポケモン回復機能搭載のパソコンを起動する。
    『ただいま 1連勝! 対戦を続けますか?』
    迷わず『はい』を選択、回復の済んだボールを手に取る。殺気立った視線を背中に感じるが、そんなことは俺には微塵も関係無い。俺が今気にするべきことはただ一つ。
    バトルに勝つ、それだけだ。


    バケモノの正体には諸説あった。
    地下鉄そのものがバケモノで、乗り込んだ時には既に喰われているという話もあるし、マルノームやカビゴンが奇怪な力を得て変質したものだと語られることもあった。ポケモンではない、未知の生き物なのではないかと疑う者もいる。
    中でも一番現実味を帯びていない、その癖最も信憑性があるとされているのは、いくつものバトルを勝ち抜いた末に戦えるサブウェイマスター兄弟がバケモノなのだという説だ。彼らは自分たちと戦いたいと望む者をバトルサブウェイに誘い出し、逃げ道の無い地下鉄でそのトレーナーを喰うらしい。
    彼らにとってみればこんな噂、風評被害も甚だしいとしか言いようが無いだろう。


    「瞳の輝き肌の張り あの頃はもう戻ってこない」
    次の車両にいたのは、上品な雰囲気の婦人だった。倒れたポケモンを前に呆然と呟いている彼女の前を素通りしてパソコンに向かう。制した勝負の相手にはもう微塵の興味も無い、婦人の譫言はパソコンのスピーカーから流れ出る電子音に掻き消された。
    『ただいま 2連勝! 対戦をつづけますか?』
    機械的な手つきで『はい』を選ぶ。休んでいる暇など無い、すぐに次の勝負に移らなければ。
    勝つことだけを考えて。


    その噂を本気で信じて怖がる人もいれば、鼻で笑う人もいた。もし自分が狙われたらどうしよう、と涙声で語る人もいれば、そんなものがいるはず無いだろ阿呆らしい、と馬鹿にする人もいた。バケモノがいるのかと駅員に詰め寄る人もいれば、面白半分で噂を流布する人もいた。
    だがそのどんな人たちも、バトルサブウェイを利用することだけはやめなかった。皆、バケモノの有無など知らないとでも言うように地下鉄に乗り続けた。揺れる車両の中で戦うその享楽を求めて、誰もが切符を片手にホームに立つ。
    バケモノがいると言われる地下鉄は、毎日大勢を乗せて地面の中を走るのだ。


    『ただいま 16連勝! 対戦をつづけますか?』
    もう戦えない相手トレーナーの言葉を聞く時間すら惜しい。流れ作業のように『はい』を選択して、俺はさらに隣の車両に移る。
    乗車してから大分時間が経っていた。しかし腕時計も携帯も持っていない俺は、体感以外で経過時間を知る術を持たない。具体的かつ詳細な時間についてもまた然り、だ。
    それでいい。
    時間などわからず、気にしなくて済む方がバトルに集中出来るのだから。
    大切なのは、勝つということだけ。
    それ以外は、考えなくていい。


    俺もその一人だった。
    噂など少しも気に留めず、地下鉄でのバトルに熱中した。元々ポケモンバトルが好きだったと言うのもあるが、バトルサブウェイでのそれは格別だったのだ。
    狭い車内で繰り広げられる戦い。無機質な灰色の壁や床を滑り、ぶつかり合う技と技。外で戦うよりもずっと血に飢えた目をしていて、ギラギラと光る勝利欲求が全身から漏れ出ている狂気のトレーナーたち。闇雲にレベルを上げたのではない、綿密な計算と細かな調整の元に育てられた、嘘のように強いポケモン。
    そして何よりも俺を夢中にさせたのは、連続して行えるバトルだった。
    ポケモントレーナーというものは至る所にいて、バトルが禁止されている場所でなければどこだって戦うことは出来る。しかしポケモンの体力にも限界があるため、ある程度戦ったらポケモンセンターで回復しなければいけない。相手トレーナーが強ければ強い分だけ、連戦出来る回数は減っていく。
    しかしここは違う。地下鉄を降りてセンターに行かずとも、一戦ごとに回復が可能なのだ。車両の隅にあるパソコンにはセンターにある機械と同じ回復システムが搭載されていて、ボールをセットするだけでポケモンは元気になる。
    時間をほとんど置くことなく、連続して出来るバトル。それは通常感じるストレスというものを一切与えず、その代わりに快感が手に入った。


    『ただいま 72連勝! 対戦をつづけますか?』
    その電子音声を聞き終えるよりも早く『はい』を選ぶ。回復のためパソコンにセットしたボールを奪い取るように掴み、俺はドアを引いて隣の車両へと飛び込んだ。
    「わたくし天才幼稚園児! すでに大学を目指しております」
    虚ろな目のトレーナーが言う。舌っ足らずの声は俺の鼓膜を素通りした。敵であるところの少年はごくごく小さな影としてしか目に映らず、最低限の情報だけが脳に届く。
    それで構わない。
    俺が感じるのはトレーナーがどんなヤツかなんかじゃなくて、相手がどんなポケモンを出してくるか。そして、そのポケモンに対してどう立ち回るか。
    それだけだ。
    勝つには、それしか必要無い。


    繰り返されるバトル。
    それはまるで、麻薬のようだった。
    血走った瞳のトレーナーたちとのバトルは刺激的で、そしてとてつもなく魅力的だったのだ。
    一戦でも多く、バトルがしたいと思った。
    その欲求はやがて、一戦でも多く勝ちたいというものに変わっていった。

    少しでも多く。
    少しでも高く。

    バトルに勝って、高いところに行きたいのだ。


    『ただいま294連勝! 対戦をつづけますか?』
    答えなど決まっていた。パソコンが処理を読み込む時間すらもどかしい。ピッ、という短い音を聞くか聞かないかのところで、俺はボールをひっつかむ。
    さあ、次のバトルだ。相手トレーナーの口上などには耳も貸さず、ボールを投げてポケモンを繰り出した。
    勝つ。
    このバトルにも、勝つ。


    何が何でも、勝つんだ。
    それしか考えられなかった。
    それだけ考えれば良かった。

    一つでも多くの白星を刻めるように。
    僅かでも高みに届くように。

    もっと、もっと、もっと。

    バトルに勝ちたい。

    それだけだった。
    それ以外は、何も無かった。



    『ただいま ?? 連勝! 対戦をつづけますか?』
    パソコンの音声はもう聞かない。『はい』を選びながら回復システムを起動、終了を示す電子音と共にボールをぶんどって次の車両へ。
    窓の外に見えるのは、暗い地下道を照らすライトが発している白い光だけ。等間隔で並べられたそれがやはり等速で動く電車から見ると、決まったペースで流れていくのがわかる。
    この世界には、何も無い。
    あるのはそのライトと、あとはバトルだけ。

    バトルだ。バトルが出来るんだ。
    早く、次のバトルを。
    早く、次の勝利を。

    早く。


    ここではバトルのこと以外、考えなくていいのだ。
    バトルに勝つことだけを考えればいい。

    目が眩む。
    手が震える。
    喉が枯れる。
    足が浮く。
    胃液が逆流する。
    背中に汗が伝う。
    心臓が跳ねる。

    身体中の感覚が、自分から離れていく。
    頭の中に濃い霧がどんどんかかっていって、自分が何なのかすら曖昧になる。

    それでも、これだけはわかる。
    バトルに勝つ。


    バトルに、勝つ。



    「ねえーノボリー」
    「どうかいたましましたか、クダリ」
    「警察の人、来た。行方不明の男の人、最後に見つかったのスーパーシングル。捜索したいから、一緒に来てだって」


    戦って、勝ちを刻む。
    それだけ考える。
    相手のポケモンを倒すことだけ、俺のすべきことはただそれだけ。


    「またでございますか……いくら探されたところで、見つかるはずも無いと思いますけどね」
    「ノボリ、そんなこと言っちゃダメ。もしかしたら、ホントの行方不明かもしれない。まだわかんない」
    「何をおっしゃいますか、クダリ。貴方だってもうわかってらっしゃるんでしょう? 大体、車窓から飛び降りでもしない限り地下鉄で行方不明になんかなりませんよ」


    目に映るのはバトルのみ。
    今の自分はどんな顔をして、どんな声を出していて、どんな風に立っているのか。
    そんなこと、知らなくても問題ない。
    勝てばそれでいい。
    勝つだけでいい。



    「全く、何故そうも愚かなことをしてしまうでしょうか。自分でもわかっているはずですのに、人間のサガというものなのでしょうかね……」
    「『酒は飲んでも飲まれるな』と、おんなじ?」
    「近いような遠いような……まあ、やめ時を見計らうことの出来ない者は地獄を見る、という意味ではそうなのかもしれません」


    どのくらい連戦したんだろう、と疑問が頭に一瞬だけ浮かんだけれどもすぐに掻き消える。
    そんな思いは必要無い、今必要なのは勝利だけ。
    勝利して、次のバトルに進むことだけだ。
    一戦でも多く、バトルを。


    「それにしても……これでまた、例の噂が広がってしまいます。ま、嘘というワケでは無いので敢えて否定をすることも出来ませんけどね」
    「バケモノがいる、って噂でしょ? ボクもお客さんに聞かれたよ、また一人喰われたんですか、って! とっても怖そうだった。顔なんて真っ青」
    「そうでございまし。怖いと思える内が華ですよ……クダリもみすみす喰われないように、気をつけてくださいね」
    「もー、ノボリ! それ、もう耳にマーイーカ! ボクもノボリも大丈夫、駅員のみんなも、心配ない!」
    「それを言うなら耳にオクタンですよ、クダリ。……そうですね、大概の方は心配する必要などございません」


    そうだ。必要なのは、それだけだ。
    勝つこと、だけ。
    勝つんだ。
    バトルに。
    一度でも多く。
    それ以外は、いらない。


    「しかし、噂の一部を訂正させていただきたいものです」
    「うん?」


    一戦でも多くのバトルをして。
    一度でも多くの勝ちを刻んで。

    それだけだ。
    俺はそれだけ、考えればいい。

    他のことはもう、考えられない。


    「今のままのストーリーでは、クダリに尋ねたお客様のように怖がる方もいらっしゃるでしょう」


    頭の中は真っ白だった。
    全ての情報が、消えていた。

    それでも、目の前の敵を倒すために必要なことだけは鮮明に浮かんで、俺の口はポケモンへの指示を勝手に飛ばす。
    これは俺が無意識のうちに自分でそうしているのか、それとも誰かに操られているのか。

    わからない。
    考える必要も無い。

    ただ、勝てばいい。



    「わかった。あの部分だね?」


    勝てばいい。
    それだけだ。


    「ええ。バトルサブウェイのバケモノは、」


    戦って、戦って、戦って。


    「"どんな者でも貪り食う"ものでは無く、」


    勝って、勝って、勝って。


    「"自分の腹に、自ら飛び込んできた者"を喰ってしまうもので、」


    戦って、勝って、それだけを。
    それだけを繰り返す、この地下鉄で。


    「しかもその正体は"人喰いのバケモノ"などにあらず、」


    戦って、


    「バトルのやめ時を見失った、愚かな自分自身……それに過ぎないのですから」


    勝って、


    「そうなった方々に待ち受ける結末は、バケモノに喰われるなどと生易しいものではありません」


    少しでも多くのバトルをするのだ。


    「ずっと、ずっと……それこそ、仮にこのバトルサブウェイが取り壊されて無くなるような、そんな未来が来ても永久に」


    それ以外は必要無い。

    数えることなどとうにやめた、何度目かもわからない勝利を収めた俺はボールをパソコンにセットする。
    車窓の向こうに見えるランプは絶えず流れていって、随分時間が経っているのではないかとうっすら思った。

    いや、やめよう。
    そんな思考は、必要無いのだから。


    一戦でも多くの戦いを。
    少しでも多くの勝利を。


    次の、バトルを。




    「戦うことと勝利だけを求めて、地下鉄を彷徨い、無数のバトルを繰り返すことになるのですよ」


    どこまでも続くかのような闇の中を、ガタゴトと音を立てた地下鉄は走り続ける。

    俺の終点は、まだ、見えない。


      [No.3462] まきばはつづくよどこまでも 投稿者:焼き肉   《URL》   投稿日:2014/10/19(Sun) 21:09:51     152clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:ヒュウメイ】 【BW2

     ザンギ牧場は牧場主の男性と女性のおおらかな気質がそこいら中に漂っている気がする。
     ようはそのくらいのんびりしていると言うことだ。

     敷地内ではメリープがしっぽとモコモコの毛を揺らして円を描きながら追いかけっこをしている。
     ヨーテリーたちは牧場主の夫婦の近くで、番犬としての使命はどこへやらと、すやすやお昼寝中だ。
     牧場の敷地に住み着いている野生のポケモンすらも牧歌的な雰囲気に呑まれているようだ。
     ミネズミが草むらの陰でぐてっと転がっていて、踏みつけそうになる。

     あそこの草むらに、二つの対になった丸い影が見えるけれど、あれもミネズミだろうか。
     ガサガサと草をかきわけながらそっちへ歩いて行ってみる。

    「って、メイかよッ! なんでこんなとこでッ!」
    「えーっと・・・・・・、宝探し?」

     何故か疑問系で説明をするメイの手には、四角い緑の、大きなコンセントの先端みたいな形のダウジングマシンが握られていた。

    「・・・・・・ここ人んちの敷地内じゃないのか?」
    「だって、さっきおじいさんが見えなくてもいろんなものが落ちてるって言ってたから
    ・・・・・・牧場のおじさんと奥さんは別に落ちてたら拾って持って帰ってもいいって言ってたもん」

     そう説明する割に、メイはダウジングマシンを肩にかけている鞄にしまいこんでしまった。
     そんくらいですねるなよッ! とツッコミを入れれば、違うよお、とやっぱりどこかすねた声が返事をする。

    「ヒュウちゃんが来る前にずっと歩いて探してたけど、もうなんにも落ちてないみたいだから。
    このくらいにしとこうかなーって。もう足痛いし。だから休んで座ってたの」
    「あっそ」

     メイにならってドッカリと腰を落ち着けると、隣の幼なじみはえへへと笑う。
     何がおかしいんだと言えば、ここっていつも気持ちがいいよね、とやっぱりニコニコしている。

    「特に何か用があるわけじゃないんだけど・・・・・・牧場のおじさんや奥さんも優しいし、
    なんとなくヒマがあるとここに来ちゃうんだよね」
    「ああ、たしかにここはいいとこだよなッ!」

     夏の暑苦しい日差しを木が遮って、キラキラと木漏れ日を落としているこの土地は、街にいるよりも涼しい。

     木と木の間から見える空の雲は右から左に風に流されている。
     流石に実行には移さないが、キャンプなんかも出来るかもしれない。

    「わたしも大人になったら、こういうところで楽しく過ごしたいなあ」
    「あてはあるのかよ」
    「ヒュウちゃん一緒にやろーよ」
    「オレかよッ?」
    「ヒュウちゃんしか頼める人いないもん」
    「あー・・・・・・まあそうだなあ」

     ハリーセンみたいな髪をかきながら、ちょっと想像してみる。
     メイと一緒に、のどかな土地で、ミルタンクやメリープに囲まれながらいつまでもいつまでも楽しく暮らす。
     牧場の朝は早い。

     メイは昔から早起きが苦手なのんびり屋だけれども、
     牧場を運営するとなったら、頑張って早起きするだろう。
     そして朝、朝食のパンやハムエッグなんかを用意しながら言うのだ。

    「おはよう、あなた」と。

    「・・・・・・考えとくっ!」
    「えへへ、いい返事期待してもいいかな」
    「さあなッ!」

     何だかキュレムのこごえるせかいで頭を冷やしてもらいたいくらい恥ずかしくなったので、
     ヒュウは自分の恥ずかしい想像を無理矢理取っ払った。

     今はこうやって、親切な牧場主さんの土地で、幼なじみと一緒に、のんびり一休みさせてもらうだけでいい。

     どこか遠くで、メリープのよく響くなきごえがしていた。

     ☆

     空の大きなソルロックが目を覚ます前に、牧場主はさっさと起きなくてはならない。
     だからまだ薄暗い空には、おはようを言う太陽さんもいないのだ。
     さっさと服を着て寝室を出ると、おいしそうな匂いが鼻先をくすぐった。

    「おはよう、ヒュウちゃん」
    「・・・・・・おはよ」

     既に着替えて髪まで整えたメイが、朝食をテーブルに並べながらニッコリと朝のあいさつをした。
     それからすぐにムッとした顔になって、ヒュウのおぐしを指で直す。
     やってみれば大変なこともいっぱいな牧場の仕事に、メイは根こそあげなかったものの、その指はだいぶ荒れている。

    「別にいいじゃんッ! どうせ仕事がばたばたして髪どころじゃなくなるんだし、
    大体オレの髪型じゃ、大して代わりやしないだろッ!」
    「ダーメ! ヒュウちゃんの男前が、台無しになるもんっ!」

     彼女なりに満足出来る範囲にヘアスタイルが決まったのか、メイはようやく手を離した。
     それからヒュウがちょっとさびしくなるくらいパッと離れて、スッとイスを引いて手招きをする。

    「さ、ご飯にしよっ!」

     ☆

    「ヒュウちゃんおいしい?」
    「ああ」
    「そのタマゴね、ラッキーのたまごなんだよ。すっごくおいしいよね」
    「うん」
    「牛乳は、ミルタンクのモーモーミルクだし」
    「ああ」
    「ねえヒュウちゃん」
    「ん?」
    「幸せだね」

     ニコニコしながら組んでいるメイの指には、籍を入れたのに指輪の一つもない。
     長い髪を切ることまではしなかったけれど、
     貴金属の類は誤ってポケモンたちが口に入れたりしたら大変だからと、普段の生活で身につけることはなかった。
     彼女のポケモン好きは相変わらずである。

    「・・・・・・そうだな。いーかげん、あなたって呼んでくれたら、オレも文句ねーよ」
    「えー、だってヒュウちゃんはいくつになってもヒュウちゃんだもん」
    「だってさ、それだとオレがむかし思い描いた想像図が」
    「想像図がなーに?」
    「な、なんでもないっ」

     ヒュウはあわててクロワッサンにかぶりつき、野菜のスープを飲んで、今日もうまいなッ! と叫んで完全にごまかした。
     単純な彼女はそれだけで幸せそうに微笑んで、ありがとーと返事をする。
     さっきの想像図うんぬんは忘れてくれたらしい。ホッとした。

     絶対に言えない。あの時つき合ってもいなかったのに、幼なじみの彼女が食卓で微笑んで、
     おはようあなたと言ってくれるのを想像していたなんて!


      [No.3219] 次は何して遊ぼうか 投稿者:久方小風夜   投稿日:2014/01/27(Mon) 20:23:00     141clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:鳥居の向こう】 【ひとりかくれんぼ】 【今の時期呪いよりむしろノロが怖い





    『ひとりかくれんぼ』
     ※実行は自己責任で※
     用意するもの
     ・手足のあるぬいぐるみ
     ・針と赤い糸
     ・生米
     ・……


     時刻は午前二時半過ぎ。時計代わりにつけているテレビでは、これ一本で十五歳若返りきめ細かなすべすべもちもちぷるぷるシミなし美白肌になるとかいうちょっと効能が欲張り過ぎな化粧水の通販番組が流れている。テンションの高いナレーションが、今の部屋の状況とあっていなくて少し耳障りに感じる。
     インターネットのオカルトサイトに書かれていた通りの材料を集めて、もう一回手順を確認する。大丈夫。全部そろってる。隠れ場所のクローゼットには塩水を置いたし、ユニットバスの風呂おけに水も張っておいた。

     とある日、ふと見かけたサイトで出会った遊び、「ひとりかくれんぼ」。人形を鬼に見立てて深夜にかくれんぼをすると、不思議な現象がたくさん起きるのだという。
     いとこの自称オカルトマニアであるマユリに電話で話をすると、「絶対やらない方がいい」と言われた。でもやってみる。何か面白そうだから。オカルトに精通したマユリが言うのだから、きっと本当に何かしらあるのだろう。
     まあ、そうは言っても所詮は自称。口を開けばやれ霊が、呪いが。あんなのだから中二病とかメンヘラとか言われるんだから。私は生米と自分の爪を入れたミミちゃんのお腹を縫いながら、「シャレにならないから本当にやめなさいよヒロちゃん」とマユリに電話越しに何度もしつこく言われたのを思い出した。ちなみにヒロちゃんは私。本名はヒロミ。
     ミミちゃんはミミロルのぬいぐるみ。私が小さな頃からずっと持ってたもの。小さな頃はどこかにお出かけする時も、寝る時も、ずっと一緒だった。本当は使いたくなかったんだけど、手足のあるのが他になかったからしょうがない。まあ、ミミちゃんもいい加減ぼろぼろだし、そう遠くないうちに捨ててただろうし。

     余った糸をミミちゃんに巻きつけ終わった頃、テレビからクロージングの音楽が流れ始めた。午前三時。ちょうどいい時間。私はミミちゃんを連れてお風呂場へ向かう。

    「最初の鬼はヒロミだから。最初の……」

     自分が鬼の宣言を三回して、ミミちゃんを風呂桶の中に沈める。リビングに戻って電気を消す。テレビは砂嵐じゃないといけないみたいだけど、今の時代って放送終了しても砂嵐にならないんだよね。まあ、黒画面でいいか。
     目をつぶって十数えてから、カッターを持ってお風呂場に向かう。


     お風呂場に就いた時、私はちょっと息をのんだ。
     だって、水の中に沈めたはずのミミちゃんが、風呂おけの縁に座ってたんだもん。

     ちょっと声が出かけた。危ない危ない。
     大丈夫。このくらいは予想の範囲内。人形が動くのはよくあることってオカルトサイトにも書かれてたもん。そうは思っても、実際に目の当たりにすると、嫌な汗が背中にだらだらと出てきた。

    「ミミちゃん見つけた」

     震える声で私は言う。始めたからには最後までやらなくちゃ。びしょぬれになったミミちゃんを持ちあげて、私は手に持ったカッターナイフをミミちゃんのおなかに突き刺した。

    「次はミミちゃんが鬼」

     ミミちゃんを座っていたところにおいて、私は急いでクローゼットの中に隠れた。


     私はクローゼットの中で息を殺してじっとしていた。何も起こらない。静寂が耳に痛い。音をたてないようにスマートフォンの画面をつける。午前三時四十五分。まだもう少し隠れてなきゃいけないなあ。
     そんなことを考えていると、突然、部屋の中から物音が聞こえてきた。私は思わずスマートフォンを落としそうになった。
     ごそごそと、何かを探しているような音。部屋の中の様子は見えないけど、何かがちゃぶ台に乗ったり、降りたりしているみたい。
     一瞬、女の人の声が聞こえた。すぐ聞こえなくなったと思ったら、また一瞬だけ聞こえる。何度か繰り返されて、テレビのニュースだ、と私は気付いた。一晩中放送を休止していない局では、この時間、延々とニュースを流している。誰かが、テレビのチャンネルを変えている。
     部屋の中の物音は、次第にどたんばたんと大きなものに変わっていた。時お唸り声のようなものも聞こえる。私はぎゅっと自分を抱いた。震えが止まらない。寒い。この部屋こんなに寒かったっけ。
     ちらりとスマートフォンを見た。午前四時過ぎ。もう十分だ。やめよう。私はコップに入れていた塩水を口に含んだ。


     その時、目の前の木の扉が、ドンッ、という大きな音と共に震えた。少し間をおいて、もう一回ドンッ、という衝撃。カリカリカリとひっかくような音。唸り声が板一枚隔てたすぐ向こう側から聞こえてきて、またドンドンドンっと連続して扉が殴られる。私はびっくりして固まって、口に含んでいた塩水をその場にぶちまけてしまった。
     次の瞬間、クローゼットの扉が、黒くて鋭い爪でバリバリっと引き裂かれた。裂けたところをまた殴られて、細かい木片が辺りに散らばる。

     真っ黒な体。真っ赤な目。金色のチャック。
     怒りに体を震わせた様子のジュペッタが、唸り声を上げながら私をにらみつけていた。

     私は一瞬呆気にとられた。でも、ジュペッタのおなかに赤い糸が縫い付けられているのを見て、それが身体に巻きついているのを見て、開いた穴からぽろぽろと生米がこぼれているのを見て、やっと状況を把握した。
     このジュペッタは、ミミちゃんだ。私にぼろぼろにされて、怒ってるんだ。
     私は震える足で逃げようとした。でも、ジュペッタの殺気に満ちた視線が突き刺さって、動けない。
     ジュペッタが鋭い爪を振りかぶる。必死に身体をよじって逃れると、ジュペッタの爪は以前クローゼットに置きっぱなしにしていた段ボールを引き裂いた。
     ばらばらになった段ボールから、何かがコロコロと転がってきた。昔マユリに持たされた、表面を油性マジックで真っ黒に塗ったモンスターボールだ。「これには魔を振り払う力があるのよ」とか意味不明なオカルト全開なこと言ってたから、適当に要らないものと一緒に段ボールに投げ入れたんだった。
     無我夢中でそれを拾って、ジュペッタに投げつけた。ジュペッタが収められたボールは、しばらく木片だらけの床の上でガタガタと暴れていたけれども、やがて動かなくなった。
     私はボールを拾ってちゃぶ台の上に置いて、床にぐったりと倒れた。
     助かった。生きてる。よかった。全身から嫌な汗がとめどなく流れ出た。放送休止時間が終わったテレビでは、朝の通販番組が始まっている。テンションの高い司会が、新しいフライパンの性能を大げさに説明している。
     疲れ果てた私はそのまま、床に突っ伏して寝てしまった。



     目が覚めると、部屋は静かだった。スマートフォンを確認すると、もう昼過ぎだった。私はよろよろと起き上がって、ちゃぶ台の上を見た。黒塗りのモンスターボールはそのまま、机の上に置かれていた。
     部屋を見渡すと、細かな木片が散らばっている。クローゼットの扉は粉々だ。大家さんに電話して弁償しなくちゃ、と私はため息をついた。ユニットバスへ向かい、風呂おけの水を抜いた。
    とりあえずシャワーでも浴びようかな、と思ったところで、ふと気がついた。
     何でこの部屋、静かなんだろう。
     私は慌ててリビングに戻った。テレビはついていない。

     ついていない。


     私は電源を切っていないのに。


     ぞわあっ、と寒気がした。私はその場にへたりこんだ。
     ちゃぶ台の上のモンスターボールが、かたりと少しだけ動いた。


     くすくすくす、と笑い声が聞こえた。部屋中の空気が淀み、ぬるりと肌をなでた。
     視線を感じる。それも四方八方から。

     窓には二階なのに、たくさんの紫色の顔が張り付いていた。
     本棚と壁の隙間から、薄い黒い手が何本も伸びていた。
     ベッドの下の影は笑っていたし、流しの下から桃色の髪のかぼちゃが顔をのぞかせて、愉快そうに歌を歌っていた。

     私が座ったまま少し後ずさると、桃色の髪のかぼちゃが流しの下から出てきて、私の膝に飛び乗った。そして腕のような桃色の髪で、私の首を縛ろうとしてきた。

    「やっ……何これっ……!」

     私は必死で払い除け、急いで玄関へ向かった。逃げなきゃ。逃げなきゃ。
     ドアノブを下げてドアを押した。でも、開かない。鍵は昨日の夜からかけていない。慌てて確認しても、鍵はかかっていない。

    「うそっ……やだ何で?」

     私は必死にドアノブをガチャガチャと動かし、扉に体当たりした。部屋の中にいるモノは、クスクスと笑いながら近づいてくる。

    「やだやだ……やだ! 開いて! 開いてよ!」

     必死で体当たりを繰り返す。部屋の中の何かはすぐそこまで迫っていた。
     次の瞬間、ドアが突然あっさりと開いた。私は夢中で外に出て、ドアを閉めた。鉄扉の向こう側からたくさんの笑い声が聞こえる。
     私は急いでその場から逃げだした。



     靴も履かずに、私は逃げた。目的地もないまま、とにかく全力で街中を走りまわった。
     すれ違う人たちは、不思議なことに誰も私に目を止めない。まるで私のことなど見えていないかのように。
     嫌に静かな大通り。どんよりとした紫色の空。妙になめらかで生ぬるい黒の石畳。
     誰も私を見ていないのに、走っても、走っても、街中から感じる無数の視線。

     通り過ぎる家の軒先ではてるてる坊主が笑っていた。
     街灯の代わりにシャンデリアがぶら下がっていた。
     立ち並ぶ木は笑っていた。
     道行く子供の手には皆一様に紫色の風船が絡まっていたし、空には絶えず気球の群れが飛んでいた。
     上も、下も、右も、左も、どこを向いても何かが私を見つめている。風は生温かく、空気がどろりとしている。足を止めると、何かに足を掴まれそうになる。

     何で、どうしてこんなことに。何が起こってるの。混乱して、涙がぼろぼろと零れおちる。
     ぬぐおうとして、右手に握りしめていたスマートフォンに気がついた。
     急いでマユリに電話をかける。自称オカルトマニアのマユリ。モンスターボールを渡してくれたマユリ。「ひとりかくれんぼ」をやるなと警告してくれたマユリ。

    「もしもし、ヒロちゃん? どうしたの?」
    「まままマユリ! お願い、助けて!」

     私は泣きながら、夜中にやったことと、今の状況をマユリに話した。マユリはため息をついた。

    「あれほどやっちゃダメって言ったのに」
    「ごめんなさい。ごめんなさい」
    「あのねヒロちゃん。「ひとりかくれんぼ」はね、ただの遊びに見えるかもしれないけど、これは降霊術で、れっきとした呪いなんだよ」
    「呪い?」

     そう、とマユリは淡々としゃべる。

    「ぬいぐるみにお米を入れたでしょう。それは肉。ヒロちゃんの爪を入れたでしょう。それは魂。つまりその時点で、そのぬいぐるみはヒロちゃんそのもの。それに刃物を刺すのは、丑の刻参りとほとんど同じことだよ」
    「藁人形にくぎを刺す、あれ?」
    「そう。藁人形は相手の髪の毛を入れるでしょう。しかもね、それだけじゃないんだよ」
    「えっ」

     まだ何かあるの? と私は涙目になって言った。背骨の辺りがひんやりと冷たくなってくる。

    「ぬいぐるみを糸でぐるぐる巻きに縛ったでしょう。そうやって封じ込めるの。恨みと呪いと魔力を、人形の中に縛り付けるの。ヒロちゃんが持っているのは、ただの「ぬいぐるみ」じゃない。魔力を束ねて、縛り付けて形作られた、呪いの「人形(ヒトガタ)」そのものなんだ。それがそこにある、ただそれだけで、周りの恨み辛みを吸収して呪いに変えていくんだよ」
    「……」
    「それで、じゃあ今回、呪いは誰にかかってると思う?」

     入れたのは、私の爪で。つまりこの場合……。

    「……私?」
    「そうだよ。ヒロちゃんは、自分で自分に呪いをかけちゃったんだ。今ヒロちゃんの身に起こってるのは、全部人形に溜めこまれた呪いが呼んだこと。溜めこまれた呪いが形を持って、ヒロちゃんの周りに溢れかえっているんだよ。」
    「どどどどうしよう。どうすれば呪いが解けるの?」
    「終わらせなきゃ。ヒロちゃん。「ひとりかくれんぼ」を、終わらせなきゃ」

     終わらせる? かくれんぼはもう終わった。ミミちゃんはもうボールの中。
     それじゃ駄目だよ、とマユリは言う。

    「手順に書いてあったでしょう。使った人形は、燃やさなきゃいけないの」
    「えっ」
    「ヒロちゃんの勝ちを宣言して、人形を燃やす。そうしないと、「ひとりかくれんぼ」は終わらないよ」

     燃やすって、ミミちゃんを? ……ジュペッタを?

    「私、出来ないよ……」
    「やらなきゃ。じゃないと、ヒロちゃんはずっと呪われたままだよ」
    「でも、燃やす、なんて……」
    「……わかった。今から私、そっちに行くから。だから……」

     マユリがそこまで言った時、突然スマートフォンからノイズが聞こえてきた。マユリの声は聞こえない。
     マユリ? と何度も呼びかける。その時、突然音声がクリアになった。


    『もしもし、私、メリーさん。今、駅にいるの。もしもし、私、メリーさん。今、駅前の道路にいるの。もしもし、私、メリーさん。今、コンビニ前にいるの。もしもし、私、メリーさん。今、あなたの後ろに』

    「嫌ぁっ!!」

     私はスマートフォンを投げ捨てた。白だったはずのスマートフォンはオレンジ色になって、ケラケラと笑い声を上げていた。



     私は家に戻ってきた。本当は帰りたくなかったんだけど、これからマユリが来てくれる。だからきっと、大丈夫。
     玄関のドアを開けると、外よりより一層ぬるりとした空気が肌をなでた。笑い声が聞こえる。私は台所に置いてある油とライターを手にとって、リビングへ向かった。
     ちゃぶ台の上のボールを手に取り、放り投げる。中から、赤い糸が巻きつけられたジュペッタが出てきた。周りの笑い声が消えて、じっとりとしたたくさんの視線だけを感じる。
     ジュペッタはちゃぶ台に座って、じっと私を見つめている。私は手に持った油をジュペッタにかけた。

    「……ミミちゃん……」

     燃やさなきゃ。じゃないと終わらない。この呪いは、解けない。
     油まみれのジュペッタは、何もせずただじっとこちらを見つめている。私はライターに火をつけた。辺りからざわざわとした雰囲気を感じる。
     ジュペッタはただじっとこちらを見つめ続けている。ライターを持った私の手は震えている。

     物心つく前に、お父さんが買ってきたミミロルのぬいぐるみ。
     旅行の時も、寝る時も、ずっと一緒。

    「ごめんね……」


     私は、ライターを投げ捨てた。
     そして、ジュペッタを、ミミちゃんをぎゅっと抱きしめた。


    「痛い思いさせて、ごめんね。怖い思いさせて、ごめんね。ひどいことして、本当にごめんね」

     私はぼろぼろと涙をこぼした。ミミちゃんはぽかんとしている。

     小さな頃は一緒におままごとをして、一緒に散歩して、一緒にご飯を食べて、一緒に寝た。
     時には投げたり、叩いたり、汚したり、乱暴に扱うこともあった。
     目のボタンが取れて、片腕がもげて、大泣きしたこともあった。慣れない手つきで繕って、上手く直すことができなくて、また泣いた。あの頃はまだ元気だったおばあちゃんに直してもらって、大喜びしたこともあった。
     成長した私は、次第にぬいぐるみで遊ぶこともなくなった。それでも何となく、そばにはぬいぐるみがいた。まるで空気のように側に寄り添っていた。そこにあるのが当たり前で、一人暮らしを始めた時も、何となく連れてきてしまった。

     もの言わず動かぬぬいぐるみは、私のどんな行動に対しても、嬉しそうな顔も嫌な表情もせず、感謝も文句も言うことなく、ただ黙ってこちらを見つめていた。
     それは今自分の目の前にいるジュペッタと、全く同じように。

     どうしても、燃やせなかった。
     ミミちゃんを鬼にしたのは、私。呪いを束ねて、ジュペッタにしたのは、私。呪いの人形にしたのは、怒らせたのは、私。悪いのは、全部、私。

    「マユリならきっと、何とかしてくれるよ。オカルトマニアだもん。だから……ずっと一緒にいよ?」

     私がそう言うと、今度はミミちゃんが私を抱きしめた。
     その途端、部屋の嫌な空気が消えて、ふわりと爽やかな風が吹いた。周りを取り囲んでいた視線が、すっかりなくなった。
     ミミちゃんは私の胸にぎゅうとしがみついた。油まみれになったミミちゃん。私の服も油まみれ。

    「お洗濯しなきゃ、ね」

     私がそう言って笑うと、ミミちゃんもにっこり笑った。
     半日前、私に対して初めて怒ったぬいぐるみあ、今度は私に対して初めて笑いかけた。



     ユニットバスの洗面台にミミちゃんを置いた。ミミちゃんは油まみれの手で、私の服の袖をぎゅっと握って放そうとしなかった。
     ミミちゃんはひたすらじいっと私を見つめていた。離れちゃいや、ここにいて。まるでそう言っているようだった。
     何とか引きはがして、たんすの中のタオルを取りに行く。洗剤はどうしよう。衣類用かな。油だから台所用の方がいいかな。そんなことを考えながら、ユニットバスに戻った。


     私は、タオルをその場に落とした。


    「……え?」

     蛇口はいつの間にか風呂おけに向けて開けられていた。私がタオルを取りに行くほんの数分の間に、風呂おけには半分くらいの水がたまっていた。
     その中に、ミミロルぬいぐるみのミミちゃんが沈んでいた。

    「なん、で……?」

     蛇口を閉め、ミミロルぬいぐるみを水の中から拾い上げる。おなかの赤い糸がなくなっている。
     電話の向こうのマユリの声が、頭に蘇ってきた。


    『ぬいぐるみを糸でぐるぐる巻きに縛ったでしょう。そうやって封じ込めるの』

    『恨みと呪いと魔力を、人形の中に縛り付けるの』

    『ヒロちゃんが持っているのは、ただの「ぬいぐるみ」じゃない。魔力を束ねて、縛り付けて形作られた、呪いの「人形(ヒトガタ)」そのものなんだ』

    『それがそこにある、ただそれだけで、周りの恨み辛みを吸収して呪いに変えていくんだよ』

    『ヒロちゃんは、自分で自分に呪いをかけちゃったんだ』

    『今ヒロちゃんの身に起こってるのは、全部人形に溜めこまれた呪いが呼んだこと』

    『溜めこまれた呪いが形を持って、ヒロちゃんの周りに溢れかえっているんだよ』


     糸が、ほどけてる。
     「人形」が、「ぬいぐるみ」になってる。
     それじゃあ、どこに行ったの?

     束ねられていた呪いは、どこに行ったの?


     赤い糸は風呂おけの水面に浮かんでいた。
     短くちぎられたそれは、ふわふわと揺らいで文字の形になっていた。



    ミ イ ツ ケ タ



     次の瞬間、排水溝からピンク色のぬるぬるした触手が伸びてきて私の身体に巻きついて引きずり込まれあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ








     ぴんぽん、ぴんぽん、と呼び鈴が数回押される。
     反応はなく、次にどんどんどん、と扉が叩かれる。
     除霊グッズが詰め込まれたリュックを背負ったオカルトマニアの少女は、扉の向こうに向けて声を投げかける。

    「ヒロちゃん? ヒロちゃん?」



     部屋の中では、ぽたりと蛇口から水が落ちる音だけが響いていた。




    ++++++++++The end

    とりあえず加筆修正。
    またしれっと直してるかもしれないけど。



























     この身体は、あなたの昔からの友達。
     この魂は、あなたの魂のひとかけら。
     この心は、あなたと一緒にいた証。
     あなたが束ねてくれた呪いで、私はようやく動けるの。

     せっかく見つけたと思ったのに逃げちゃうし、これじゃあかくれんぼというより鬼ごっこね。
     でもようやく捕まえた。これで私の勝ちね。

     ……どこに行くの? 駄目よ逃げちゃ。

     放さない。ここにいなさい。
     あなたはもう見つかったんだから。


     あ、そうか。私、まだ言ってなかったもんね。
     かくれんぼでは見つけた時、鬼はこう言わなきゃならないんだっけ。


    「         」


     これで私の勝ち。私の勝ち。私の勝ち。
     呪いを解いて身体を棄てて、姿かたちは変えたけど、これであなたとずっと一緒。







     さあ、「次は何して遊ぼうか」?


      [No.2975] お返事への返信 投稿者:咲玖   投稿日:2013/06/15(Sat) 20:17:09     58clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     No.017さんへ
     丁寧なお返事、ありがとうございます。最終目的地は面白い本だということ、納得致しました。


     字数についてですが、既にある応募要項でも、字数上限は明示されてないのに、私もカツカツし過ぎたと思います。ただ、15000字規定の多少オーバーで35000字の作品というのは、やはり応募するのに躊躇われるものがありますが……それはひとまず置いておきます。
     面白い作品を載せたいという意図は分かりました。『字数上限なし、ただし、15000字前後で収めるのが理想』というニュアンスでしょうか。投票については蓋を開けてみないと分からないものなので、私には何とも言えません。

    > こちらも焦るあまり咲玖さんにとって好ましくないお誘いの仕方になってしまったのではと思います。
    > その点はお詫びを申し上げます。
    > 申し訳ありませんでした。
     いえ、こちらもムキになりました。すいません。
    「字数オーバーだけど、これ鳥居に載せたいから応募してよ!」とか言われてたらコロリとやられてたかもしれません。
     ただ、この事を水に流すとして、やはりこの作品の応募はやめておきたいと思います。こちらの都合ですが、仮面HNの仮面をいつ剥がすか、という問題もありますので。すいません。


    『鳥居の向こう』をどういう本にしたいかというお話は、よく分かりました。

     で、期限についてですが、失礼ながら正直に申しますと、応募期間や発行時期の話は、私はどうでも良くてですね。私が一番気にしているのは、期間延長を行うことによって、今後、鳩さん主催の企画が不利益を被り続けることです。期間延長は信用を失うことと紙一重だと思います。


    > 意見がありましたらどんどんください。
     私個人としては言いたいことは言ってしまいましたので、しばらくはまた黙ると思います。丁寧なお返事、ありがとうございます。
    でもこのレスを引用するんですけどね。 http://masapoke.sakura.ne.jp/lesson2/wforum.cgi?no=2763&reno= ..... de=msgview

     実り多き企画になりますように。



     586さんへ
     まさかご本人様からレスが返ってくるとは……。
     仰る通り、「夏の朝 夜の道」から影響を受けました。あの世界が、夜で止まったらさぞかし大変だろうな……という辺りから着想を得ました。しかし、改めて読み直すと、オーちゃんの病気を切っ掛けにだんだん村八分にされていく様が恐ろしくて素晴らしいです。「時よ止まれ」はホラーを目指して書いたのですが、こっちの方がよっぽどホラーですね。精進したいと思います!
     これからも影響を受け、高望みながら誰かに影響を与え、そんな作品作りをしていきたいなと思います。

     ありがとうございました。


      [No.2974] ご意見ありがとうございます。 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2013/06/14(Fri) 22:42:51     75clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    No.017です。
    貴重なご意見ありがとうございます。
    たぶん多かれ少なかれ似たような事を思っていた方はいるんじゃないかなと思います。
    けれどなかなかはっきり伝えてくださる方はいらっしゃらないので、言っていただいてよかったと思います。

    ちょっとだけ言い訳をさせていただきますと、応募規約にある、
    「・15000字程度まで、多少のオーバーは可。 ただし、増えただけ掲載は厳しくなる事が予想されます。」
    という含みを持たせた文章にしてあるのは下記のような意図があります。

    『15000字の倍以上の小説が来てもいい。
    ただし規定がある以上、投票でそれを理由としたマイナス補正がかかってくると思われる。
    けれど、本当に面白くてみんながいいと思った小説なら、その補正を破ってきっと上位に入ってくるに違いない。
    そういう作品ならぜひ載せたいし、そんな作品に来て欲しい。』

    という意図です。
    ただ、それがきちんと伝わっていなかったのは、私の企画者としての戦略ミスだと思います。
    応募数が少なめであれば、長めの作品を(評価が高ければ)採用してもいいのではないか、と思っていた矢先でもありました。
    そういった背景があってお声掛けしたのですが、
    こちらも焦るあまり咲玖さんにとって好ましくないお誘いの仕方になってしまったのではと思います。
    その点はお詫びを申し上げます。
    申し訳ありませんでした。



    以下、またしても言い訳がましい感じにはなってしまいますが、
    せっかくですので、現時点の考えを書いておこうと思います。


    ●企画をどこに向かわせたいのか

    企画の最終目的は書籍発行ですから、やはり読んで面白いと思って貰える本を作りたいと思っています。
    さらに言うなら、
    ・ポケモンっていろんな事が出来るんだ! と思って貰える本
    ・私もポケモン小説書きたい。本を出してみたい。やってみたいと思って貰えるような本
    そういうのを作りたいです。

    企画を進めていくと、思うように作品が集まらなかったり、
    もっとこうしたほうがいいんじゃないかというのがどんどん出て来ます。
    私は本の内容がよくなるのであれば、規定をはじめとした予定は柔軟に変えていっていいと思っています。

    ただ、ご指摘にある通り、やり過ぎれば「一貫性が無い」「約束を守らない」という風になりかねません。
    今回はそれが悪い風に出ているなとも感じています。
    もっともっと私の意図を伝えていく努力をしていかないといけないと思っています。


    ●期限について

    現在二次募集を行っていますが、どんなに延ばしても三次までが限界だろうと思っています。
    記事部門に関してはかなり集まってきましたので、
    二次で止めるか、集めるにしてもテーマを海外物などに限定させようかと考えています。

    また、本の発行時期に関しても
    2013年12月の コミックマーケット85(冬コミ)(受かれば) あるいは
    2014年3月の HARU COMICCITY (春コミ)
    には発行したいと考えています。

    発行時期に関しては前々からこのように決めていたので、そういった情報をどんどん出していくべきでした。
    こういった情報が私の頭の中で止まっていて伝わりきっていないのだと思います。
    どんどん出していこうと思います。


    ●ご提案いただいた案につきまして

    投票には全員に参加していただきたいので、
    そのまま使う事は無いと思いますが、何かしらの制限を設けるのはいい案だと思います。
    (記事部門のテーマ制限もそれで思い付いたので)
    何か思い付いたら、試すかもしれません。
    ご意見ありがとうございます。



    この度の件で、企画者としての力の無さを痛感するばかりです。
    これを一つの機として、頑張っていきたいと思います。
    意見がありましたらどんどんください。

    いい本を作りたいと思っています。
    応募を考えてくださっている皆様や応援してくださる皆様、今後ともどうぞよろしくお願い致します。



    No.017


      [No.2973] 恐れ入ります 投稿者:   《URL》   投稿日:2013/06/14(Fri) 21:25:19     72clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    > 咲玖さん
    このハンドルネームでは初めまして! 586と申します。
    作品を読ませていただいたうえで、追記の中に私の名前を見かけたため、
    僭越ながら返信させていただきます。

    > 他の作品に触発されて書き出すこと、私はよくありますから
    > (この作品自体、586さんに相当影響を受けております)。

    投稿いただいた作品を読ませていただき、

    ●セレビィが登場するストーリーであること
    ●閉じた世界、時間の止まった世界を舞台にしたストーリーであること

    以上二点より、「夏の朝 夜の道」(参照:http://fesix.sakura.ne.jp/novels/pokemon/summer.html)を
    お読みになられたのでは、と推察します(もし相違していましたら、失礼をお許しください)。

    率直に申しまして、大変うれしかったです。
    うまい言葉が見当たらず申し訳ないのですが、「報われた」と強く感じました。本当にうれしい限りです。

    先の「夏の朝 夜の道」をお読みいただいたと仮定して……実はこの作品も、ある商業作品を読んで
    衝撃を受けまして、「自分でも書いてみたい!」と衝動的に書き上げた話だったりします。
    要は「夏の朝 夜の道」も「影響を受けて書かれた」作品であり、咲玖さんの「時よ止まれ」と出自を
    同じくしているのです。

    誰かの作品に影響を受けて別の作品を書き、その作品が別の人に影響をもたらしてまた新たな作品を
    産み出す原動力となる。これが創作の醍醐味にして、もっとも理想的な姿だと思わずにはいられません。

    後程作品の感想と、僭越ながら簡単な返礼を寄せさせていただければと考えています。
    恐れ入りますが、今しばらくお待ちください。


    以上、よろしくお願いいたします。


      [No.2972] お言葉ですが 投稿者:咲玖   投稿日:2013/06/14(Fri) 13:15:00     103clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     諾とは言いかねます。

    > 小説部門は応募不足にあえいでいる最中なのでとりあえず投稿するといいと思います!
     そういう理由で投稿することはないです。応募数多かったらどうなんだって話になるんで。(応募数少なそうだから上位入賞できそうだ、という下心ありで投稿したことはありますけど)

    > 文字数も増やそうと思っていましたので。
     これは何万字というレベルでオーバーしていますので、上限を引き上げても難しいと思います。

     文字数の上限を上げたり期間を延長したり気楽にされてますが、それで一体、企画をどこに向かわせたいのでしょう? 今の鳩さんは応募数にばかり囚われているように見えてなりません。
     応募期間を延長すれば、一時的に作品は増えるかもしれません。しかし、そうすることで、「鳩さんは延長する奴だ」という印象を植え付けているように感じます。「どうせ延長するんだから締め切りに間に合わなくてもいい」、そう思って書かない人が増えて、鳩さんは応募作品が集まらないから延長。端から見て、今そういう負のスパイラルに嵌っているようにしか見えないのですよ。

    > 主催がいいって言えばなんでもいい!
     でも、応募者ありきの企画でしょう。
     それと、作品数の上限も書き換えたのに、この上、文字数規定まで書き換えたのでは、単なる約束を守らない人です。

     これは提案ですが、応募数に拘るなら、期間ではなく先着順で区切るという方法はどうでしょう。例えば、「先着順30作品に、被投票権が与えられる」という形式です。作品がいつ集まるや分かりませんが、どの道今の延期を重ねる状況と大差ないと思われます。

     以下独り言ですが。
     鳥居には要件に合わなくて投稿しませんでしたが、それでも、私には書いたら見てほしいっていう欲があって、こちらに投稿しました。
     鳥居に言及したのは、この作品は投稿できないけども、「鳥居でこういうのありなら、自分にも書けるかな」とか、「字数オーバーとかバッカじゃん。俺がもっと上手く書いてやるよ」とか、なんでもいいから他の投稿者の誘い水になればいいな、と思ったからです。他の作品に触発されて書き出すこと、私はよくありますから(この作品自体、586さんに相当影響を受けております)。でも、ちょっと未練タラタラ過ぎましたね。タグの方は消しておきます。お騒がせ致しました。


      [No.2971] 応募しましょう 投稿者:No.017   投稿日:2013/06/14(Fri) 00:48:02     75clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:業務連絡

    No.017です。
    小説部門は応募不足にあえいでいる最中なのでとりあえず投稿するといいと思います!
    文字数も増やそうと思っていましたので。

    仮面HNならなおさら都合がいいというもの。
    今からでもどうぞ!
    主催がいいって言えばなんでもいい!


      [No.2736] Which Pokemon is best for you? 投稿者:門森 輝   投稿日:2012/11/19(Mon) 20:45:22     136clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:書いてもいいのよ】 【描いてもいいのよ】 【回答してくれてもいいのよ】 【語ってくれてもいいのよ】 【好きにしていいのよ】 【Which Pokemon is best for you?

     一番好きなポケモン? そうだね……僕はアブソルかな。
     やっぱりかっこよくて可愛いからね、喉元撫でた時の嬉しそうな顔とか一度は見ておくべきだよ。
     それに危険な時とかは教えてくれるしね。頼りになるよ。

     一番好きなポケモンか……んー、コリンクだな。
     可愛いってのが一番の理由だな。やっぱ何にしても可愛さって大事だな、うん。

     ミュウってすげぇよな! 
     幻のポケモンって呼ばれる位珍しいんだろ? いつか絶対俺が捕まえて有名になってやるんだ! 絶対だぞ! 絶対! 

     ガブリアスだな。
     強い。とにかく強い。こいつのおかげで小さな大会だったら大抵勝てるからな。完封勝ちする様はマジかっこいい。

     一番好きなポケモン……一番……一番かぁ……。うーん……あっそうだ、一番好きって言うか一匹だけ選んで旅するって言うならメタモンかな。
     好きなポケモン多くて一匹に絞れないからさ、だったら色んなポケモンに変身出来るメタモンがいいや。皆同じ位好きなんだもん。

     エネコ! エネコだいすき! 
     エネコはねー、なでるとねー、にゃー! ってなくの! 
     あとねあとねー、ポケじゃらしであそんでたらしっぽおいかけてぐるぐるまわるの! すっごいかわいいの! 

     一番好きなポケモンはブーピッグかな。
     理由? 理由……理由……理由ねぇ……んー、理由はないかなー。何て言うか好きなんだよね。どこが好きってのは分からないけどとにかく好きなんだよ。

     私はデスマスが好き。
     デスマスは元々人間だったって言うじゃない? だから私ももしかしたらって思ってるの。一度で良いからポケモンとお話ししてみたいの。私は死んだらデスマスになれるかな……? 

     何と言ってもイーブイでしょう。
     あの可愛さと言ったらね、説明しなくても分かるでしょう。それに進化が多彩ですから可能性は無限大ですよ。どれに進化させても物凄く可愛いんですがその分迷うんですよね。それで結局進化させないんですよ、何か勿体無くて。もう本当に皆可愛いですからね。あ、やっぱりさっきの答え訂正します。イーブイが一番好きって言いましたけどやっぱり8匹セットですよ。8匹1組。イーブイとその進化形の8匹が一番好きですね。 

     僕は今はメタモンが一番気になりますね。
     何故変身時に体積も質量も自由自在なのか分かってませんし、タマゴだってまだ見つかってません。他にもまだまだ分かっていない事は沢山あります。
     分からなかった事が分かった時って、凄く楽しいんですよ。研究のし甲斐がありますね。

     一番と言われてもなぁ……んー、んー……あー、でもなぁ……んー……あー駄目だ。決められない。

     一番好きなポケモン……どのポケモンが好きと言うより俺はこいつが一番好きですね。
     こいつは俺が最初に手に入れたポケモンでしてね、やっぱりかなりの思い入れがあるんですよ。今までずっと一緒にやってきた訳ですから。
     まぁこのポケモンが一番好きだとも言えるかもしれませんけど、こいつがこのポケモンじゃなくても俺はこいつが一番好きですから、やっぱりちょっと違うんですよ。
     こいつだったら例え何のポケモンだったとしても愛せる自信があります。



     Which Pokemon is best for you?

    ――――――――――――――――――――――――

     と言う訳で「そらとぶポケモンキッズ」のワンフレーズをテーマに。直訳すると「あなたにとってどのポケモンが一番ですか?」みたいな感じで良いんですよね。要は一番好きなポケモンを聞いてるって事で良いんですよね。違ったらこれ書いた意味なくなりますけど。多分合ってるとは思いますが何分英語は苦手なものでしてね。簡単な文だからこそ間違ってたら恥ずかしいので不安に。本当にこんな簡単な一文間違ってたら恥ずかしいなんてレベルじゃ(ry
     まぁそれはさておき内容の方は思いつくままに書きました。好きな理由が可愛いからって回答が多くなってしまったのは多分その所為。少し雑なのもその所為。とにかく可愛いは正義。
     ちなみに私はルカリオが一番好きです。ルカリオかわいいよルカリオ。映画のEDの笑顔とか素晴らしいですよ。スマブラでも溺れたり噛まれたり可愛いですよ。ルカリオかわいいよルカリオ。可愛いしか言ってませんね。でも種族で答えてますので個体は沢山いますから性格を理由に出来ませんし仕方ないですよね。とにかくルカリオかわいいよルカリオ。
     
    【ルカリオかわいいよルカリオ】


      [No.2502] 曇天のさらに上空は晴天だと信じてる 投稿者:ラクダ   投稿日:2012/07/07(Sat) 22:33:19     104clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     しゃらしゃらと涼しげな音を立てながら、大きな笹が夜風に揺れています。
     その枝葉には、色とりどりの短冊がいくつも結び付けられていました。柔らかな風に踊るそれらには、人とポケモンの祈りや願いが書き込まれています。
     
     道の向こうからくたびれた様子の駱駝が一頭、とぼとぼと歩いて来ました。
     足を引きながら笹竹の前にやってきた駱駝は、大きな溜息を吐いて背中の荷を下ろしました。小さな袋に詰め込まれた短冊の束です。
     あれからもう一年が経ったんだなあ、と呟きつつ、さらさらと手元の用紙に何かを書き付けています。
     肉厚の蹄で器用に――どうやってという疑問は胸にしまっておきましょう――結び付けられたそれには、『藁一本で背骨が折れそうなこの現状を、なんとか打破できますように』とありました。なんとまあ、辛気臭いことです。
     ……それはさておき、自分の分を書き終えた駱駝は、預かってきたらしい短冊たちを次々と結び付け始めました。

    『ブラック3・ホワイト3で主役級に抜擢されますように  風神・雷神』

    『またポケンテンの新作料理を食べられますように  学生A・B』

    『監督の尻をひっぱたいてとっととロケを終わらせて、年内には上映できますように  飛雲組』

    『世界中での百鬼夜行を望む  闇の女王』

    『第三部及び完結編まで続きますように!  甲斐メンバーの一人』

    『今年の夏休みも、あいぼうといっぱい遊べますように  夏休み少年』

    『いつまでも“彼”と一緒にいられますように  名も無き村娘』

    『もう大爆発を命じられませんように  ドガース』

    『今年も美味しい食事にありつけますように。  桜乙女』

    『僕たちが無事に「割れ」られますように  タマタマ』

    『彼らの旅立ちを祝福できますように……  マサラの研究員』

    『この世界に生まれ出ることができますように  未完の物語一同』

     さらさら、しゃらしゃらと笹が揺れています。
     一年分の願いを括り終えて、駱駝はふうと息をつきました。
     しばらくぼんやりと色紙の踊るさまを眺めていましたが、やがて意を決したように首を振ると、元来た道をのろのろと引き返して行きました。

     おや? 駱駝の立っていた場所に、二枚の短冊が落ちています。どうやら、付け忘れてしまったようです。
     仕方がないので、私が結んで締めくくりましょう。


    『受験・就職・体調・原稿その他もろもろの、皆様の願いが良い方向へ向かいますように』

    『自分の思い描くものを、思い描いた形に出来ますように。今後も地道に書き続けられますように』

     七夕の夜に、願いを込めて。


      [No.2501] 鵲橋は雲の上 投稿者:小樽ミオ   投稿日:2012/07/07(Sat) 19:22:21     98clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     ご無沙汰しています。

     しとしと雨の降る七夕を迎えました。
     それでも街中では浴衣を着た人たちに出会ったりちいさな七夕飾りを見つけたりと、すっかり七夕ムードですね。

    「黄金色を追い求める最高のトーストマイスターになる   ちるり」
    「リーフィアといっぱいあそべますように   ミノリ」
    「今年もご主人さまのいちばんでありたい   チリーン」
    「さらに出番をよこせ   ムウマ丼推進委員会」
    「めざせコンスタントに短編投下   小樽ミオ
    「池月くんがエリス嬢のもとに帰れる日が早く来ますように」

     今年は夏コミにスペースを出される方もいらっしゃるので、素晴らしい祭典になるようにお祈りします。
     個人的には、有明夏の陣2012で私自身が討ち死にしないようにと願うばかりです(笑)

     短冊の願いごと、届くといいな!

    ※追記:読み返したら語弊ありげな箇所があったので直しておきました、すみませんm(_ _)m


      [No.2500] 相も変わらずの曇り空orz 投稿者:クーウィ   投稿日:2012/07/07(Sat) 15:54:48     98clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    梅雨の宿命だわな……
    止まれ、不景気な事言っててもしゃあないので……!


    『今年こそ日の目を…… 書きかけ山脈関係者一同』
    『武運長久・凶運回避 ボックス対戦組』
    『求むルカリオ 目指せ獣人パ結成! アジル(コジョンド)・シュテル(コジョフー)・グリレ(ゾロア)・ギブリ(ゾロアーク)・ケム(リオル)』
    『神は言っている……仲間を救えと イ―ノック(コイキング move担当)』

    『原こ(赤黒いものが飛び散っていて読めない……) **ウィ』


    うーん、不景気だわ(
    皆さんはもっと明るく楽しい七夕祭りをお過ごしくださるよう……!(笑)

    では。ゲームも創作の方も、もっともっとギアを上げて行きたいですね〜。

    『これからもこの場所により多くの作品が集まって、創作者の方々の良き憩いの場であり続けますように』。


      [No.2499] 今年も 立てたよ 笹竹を 投稿者:銀波オルカ   投稿日:2012/07/06(Fri) 21:45:14     105clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     サイコソーダ大好きダイケンキ、シェノンがてくてくと道を歩いていると、目の前に笹が立っていました。
     その笹には短冊がたったの一枚だけ、ひらりひらりと揺れていました。水色の短冊には、太く黒々とした、おそらく筆ペンで書いたのであろうでっかい『合格祈願』の四文字。

    「何かすっげぇ切なくなる光景だな」

     ありのままを口にした後、そのシェノンは何も言わずに代表として持ってきた短冊をかけていきます。去年よりも数枚、増えている気がします。シェノンはまず彼の仲間たちの短冊をかけ終えると、見覚えの無い字形で書かれた残りの三枚を見つめました。

     一枚目は、ひらがなとカタカナだけで書かれた、まるで小学生が書いたような文字。

    『これからも おじさんと たくさん ほんが よめますように!  ルキ』


     二枚目は、綺麗な、大人が書いたような文字。名前はありません。

    『平和な日々が続き、彼を置いていったりするようなことが起こらない事を祈る』


     三枚目は、少し丸みがかった、女の子っぽい字。黄色い短冊です。

    『今年も向日葵が沢山咲きますように。 再会できますように  夏希』

     その三枚も掛け終えると、シェノンは「サイコソーダの季節だなぁ」などと呟きながら去っていきました。
     夜空に、星々を湛えた天の川が輝いておりましたとさ。


    【短冊 どうか増やしてほしいのよ】 【なんか今年もやっちゃったのよ】


      [No.2498] ポケモンニュース七夕編【ポケライフ】 投稿者:あつあつおでん   投稿日:2012/07/06(Fri) 21:07:43     114clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     こんばんは、6時のニュースです。

     さて、今日は七夕。各地で笹が飾られる中、ある事件が起こりました。では現場から中継です。

    「本日午後3時頃、このトクサネシティで大量のキュウコンを連れて辺りを干上がらせた疑いで男が逮捕されました。男は非理亜住(ひりあ じゅう)容疑者で、調べに対し容疑を認めているとのことです。非理亜容疑者は特性が『ひでり』のキュウコンを使って夜を明るくしようとしましたが、駆け付けた警察に『明るくても七夕じゃなくても、カップルはいちゃいちゃするんだぞ!』と説得され、その場に崩れ落ちました。非理亜容疑者は動機を『夜を明るくすれば七夕をできなくなると思った』と語っています。以上、現場からでした」

     ありがとうございました。1年前にも似たような事件がありましたが、どこにでもこうした人はいるものですね。では、次のニュースはこちら。






    1年前はサーナイトのブラックホール設定を使い、今年はキュウコン。来年はどうなることやら。


      [No.2497] Re: 好評の未刊 掲載許可願い 投稿者:レイニー   投稿日:2012/07/04(Wed) 20:05:05     98clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    自分の過去記事がいきなり上がってるとビビりますね。こんばんは。
    掲載の方OKです!


      [No.2496] 好評の未刊 掲載許可願い 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2012/07/04(Wed) 12:40:34     100clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    殴りにいけるアイドルのネタ、TBN48のひみつって題で夏コミ新刊の好評の未刊部に載せたいのですが、いいでしょうか?


    TBN48のひみつ レイニー

     キャッチコピーは殴りに行けるアイドル。
    戦場と化す握手会に直撃取材を敢行、タブンネ。

    という感じにしたいのですが。


      [No.2495] スカイアローブリッジにて 投稿者:銀波オルカ   投稿日:2012/07/04(Wed) 00:45:13     105clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    スカイアローブリッジにて (画像サイズ: 768×615 68kB)

     私、銀波オルカがここに来て、一年経っちゃいました。というか書いてたら日付変わっちゃいました(笑)
     さきほど自分の処女作を読み返して、顔からブラストバーンが出そうな勢いです…。筆力あんまり成長してませんけどね! 最近都合によりほとんど投稿できてませんが、駄文&スローペースでのろのろ運転し続けてます。遅すぎ。

     流石に一年経って何もしないのも、というか我が家の某ダイケンキが「なんかやれよー」とうるさいので、とりあえずサイコソーダでも買ってきました。スカイアローブリッジの上って風があって気持ちよさそう、と個人的に思ってます。
     オルカはこの一年、BW2はお預けです。というわけで当分彼らも休憩ですね。自分の夢に向けて少しずつ、一歩一歩進んでいきたいと思います。
     えっと、シェノン。そういうわけであんまり遊んであげられなくなるかも。まあ、たまには会いに来るから……え、分かったからサイコソーダ買って来い? はいはい。


     勇気を振り絞ってチャットに初参加したのが始まりだったと思います。以来リレー小説に飛び入りしたり、処女作書いてみたり、鳩さんの小説コンテストで評価に参加させていただいたり……。思い起こせばけっこういろいろありました。

     どうぞ皆さん、これからもよろしくお願いします!!


      [No.2494] 好奇心 投稿者:フミん   投稿日:2012/06/30(Sat) 20:06:44     104clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


    「いらっしゃい、よく来たね」

    「こんにちは、おじさん」
     
    都心から少し離れた高級住宅街、少年は親戚のおじさんの家に遊びに来ていた。
    少年にとって、おじさんは父親の兄にあたる。住んでいる家も近所のため、少年はよくおじさんの家に訪れていた。
     
    その理由はただ一つ。おじさんが集めている物に興味があるからである。
    おじさんは、いわゆるコレクターの一人だった。何を集めているかというと、ポケモンに関連する道具である。
    例えば、ポケモンを捕まえるモンスターボールの初期型。他にも、ポケモンを進化させる石や、特別な進化を手助けする特殊な道具等、種類は様々である。特に、今の時代出回っていない物を収集するのが趣味だった。
    少年は、どこにでもいるポケモン好きである。だからこそ、普通に生活していたらお目にかかれない道具が沢山見られるおじさんの家は魅力的だった。
    彼の腕の中には、コラッタが抱きかかえられている。


    「お父さんから聞いたよ。珍しい物を手に入れたんだって?」

    「おお、そうなんだよ。お前は私の話を熱心に聞いてくれるからな、どうしても見せておきたかったんだ」
     
    少年が案内されたのは、立派な家の奥にある倉庫。そこは特に丈夫に作られており、万が一泥棒が入らないようにするためにセキュリティも高い。指紋認識はもちろん、目や声帯を認証しなければ中には入れない。今のところ、その中に入れるのはおじさんと少年、それに少年の父親だけだった。
    次に軽い霧のようなものをふりかけられる。それは、中に入る人につく細菌を除去するものだった。おじさんの方は平然としているが、少年は顔をしかめて目を瞑っている。少年のポケモンのコラッタも、小さなくしゃみをした。

    漸く入り口を通ると、涼しい空気が肌を撫でる。収集している貴重品が極力傷まないように、中の湿度と温度も保たれているのだった。
    この場所は、二人にとって天国と言っても過言ではない。ここに来ると何時間も外に出ないのは当たり前のことだった。
    おじさんは、迷わず倉庫の奥へと歩いていく。少年は大人の歩調に必死に着いていく。
     
    二人が足を止めた場所は、わざマシンを並べている棚だった。

    わざマシンと言えば、ポケモンに技を覚えさせる道具のことである。本来ポケモンはバトルをしたり鍛えたりと、経験を積まなければ新しいわざを覚えることはない。しかしこの道具を使えば、あっという間にわざを習得することができる。それがポケモンにとって役立つかはともかく、昔から活用されてきた道具の一つだった。
    少年は、ここにはよくお世話になっていた。なぜなら、わざマシンはとても高価だからである。
    モンスターボールはとても安い。この世界では必需品なので子どものお小遣いでも充分購入可能なのだが、わざマシンに関してはそう簡単にはいかない。物によっては値段や生産される数等の障害によって、大の大人でも入手困難な物もある。
     
    おじさんは、古い物もそうだが最近の道具も集めている。そのため、少年はここに来ればポケモンを強化することができた。周囲の友人からも差をつけられる。まだまだ世間が狭い彼にとって、これ程嬉しいことはない。


    「そういえば、おじさんこの前はありがとう。また僕、ポケモンバトルで友達に勝てたよ」

    「おお、そうかそうか。ギガインパクトはとても強力な技だからな」
     
    おじさんは皺を寄せて嬉しそうに笑い、少年の頭を撫でる。

    「ここに、見せてくれる物があるの?」

    「そうだ。これだな」
     
    おじさんは、わざわざ手袋をはめて棚に手を伸ばす。その様子から少年は、いかに貴重な物なのかを察することができた。
    紙でできた長方形の箱。その中の円盤は倉庫の照明を反射し、少年の目を軽く刺激する。箱も随分と黄ばんでおり、外には手書きで描かれたような文字で『わざマシン』と書かれていた。

    「これがわざマシンなの? 大きな箱だね」
     
    少年の頭をすっぽり覆うことができる大きさである。

    「そうだよ。これは発明家がわざマシンというものを開発した時、つまり、本当に一番最初の頃作られたわざマシンの一つだ」

    「そうなんだ、どうりで古いと思った」

    「今でもわざマシンはそれなりに高価だろう? 当時はもっと高かったんだよ」

    「もっと高かったって、どれくらい?」

    「そうだなあ、今お店で発売されているわざマシンを、五個はいっぺんに買えるだろうね」

    「そんなに高かったんだね。でもそんなに高かったら、誰も買わないんじゃない?」

    「そうでもないよ。買う人が本当に必要ならば、高い金を出しても手に入れたいと思うものさ。お前だって、欲しいゲームがあったらお小遣いを使うのを我慢するし、誕生日やクリスマスにお父さんやお母さんにおねだりするだろう。大人だって同じさ」

    「大人もおねだりするの?」

    「ああ、そういうことじゃなくてね。要するに、大人も子どもも、欲しい物に向かって努力するってこと」
     
    少年は首を傾げたが、何となく分かるかもと呟いた。

    「おじさん、これを買うのに幾ら使ったの?」
     
    彼は、少年の耳で購入した値段を教える。


    「もしおじさんが結婚していたら、お嫁さんに怒られちゃうね」

    「本当だな」
     
    手が届かない訳ではないが、一人の労働者が何ヶ月も働いてやっと受け取れる程のお金を使ったことに少年は驚きつつも、いつものことだなと思っていた。それだけこのおじさんが裕福なのは知っているからだ。

    「ねえおじさん、これって何のわざマシンなの?」

    少年が尋ねる。わざマシンが何故価値あるものなのか、それはわざマシンがわざのデータを収録してあるからだ。使う人が必要なわざが記録されていなければ、そのわざマシンを所持していても意味がない。
    時代によって変化はするものの、どんなわざが収録されているかは、番号によって区別されている。おじさんが大事に持つ大きな箱には、その番号が書かれていなかった。

    「これか。高い値段で買っておいてなんだが、実はこのわざマシンはポケモンに使うものとしてはそんなに価値がないんだ。当時としては、どうしてこんなわざマシンがあったのかよく分からないと言うコレクターもいるからね。このわざマシンは何十年も前の物だがちゃんと役目を果たすことができる。だからこそ、価値が跳ね上がっているんだ」

    「だからおじさん。中身はどんな技が入っているの?」
     
    焦らすおじさんに、少年は答えを促す。

    「これはね、当時カントー地方で発売されたわざマシンじゅう・・・」
     
    ここまで言った瞬間、倉庫に大きな音が響く。音はおじさんのズボンから聞こえてくる。わざマシンを元の場所に戻し、少年から少し離れた場所で携帯電話の着信に出た。


    「もしもし。はい、ええ―――――分かりました。直ぐに確認します」
     
    そう言い残すと、おじさんは電話を止め少年の頭を撫でながら言う。

    「悪い。ちょっと仕事の資料を確認してくる。直ぐに戻ってくるから、倉庫で好きな物を見ていてくれ。手に取る時は、ビニール手袋をして触ってくれな」
     
    いそいそと倉庫を出て行くおじさん。どうやら本当に急いでいるらしい。こういうことは今までにも何度か経験しているので、少年はタイミングが悪かった程度しか感じていなかった。

    広い倉庫の中、少年とコラッタが取り残される。話す相手がいなければ、この場所はとても静かな所だった。ここだけ時間が止まっていると言っても誰も疑わないだろう。
    自由に見ていてくれても良い。そう言われても、少年の心は先程のわざマシンに釘付けだった。

    このわざマシンには、どんな技が記録されているのだろう。

    おじさんはそんなに価値がないものと言っていた。けれど、あんなに大事に扱っていたのだから、物としての価値は高いことは少年にも理解できる。ポケモンのわざとして価値がないと言っていたが、それはバトルをする上での意味だろうか。それとも、日常生活をする上? いずれにしても興味がある。
    少年はコラッタを下ろし言われた通り使い捨てのビニール手袋をはめる。慎重に、壊さないようにそのわざマシンを手にとった。
     
    近くで見ると、いかに古い物なのかを再認識する。少し力を入れてしまえば箱が歪んでしまいそうだし、古い本のような匂いがした。

    箱を開けると、ディスクと共にボタンがあった。ゆっくりと赤いボタンを押す。
    ピピッ と大きな音が鳴り箱を落としそうになるが、きちんと箱に力を入れた。


    『わざマシン起動――――――が収録されています。ポケモンにわざを覚えさせる場合、ディスクを取り外しポケモンに当ててください』


    百貨店でアナウンスされるような、女性の聴き取りやすい声が備え付けのスピーカーから流れてくる。おじさんの言っていた通り、まだちゃんと使えるらしい。しかし、何の技がインプットされているか分からない。
    でもどうせ、ポケモンが覚えるわざなんて直ぐ忘れさせることができる。おじさんが言っていた通り本当に使えない技なら、直ぐに別のわざを覚えさせれば良い。少年は好奇心に負けてディスクを取り外し、コラッタの額に当てた。


    『確認しています――――コラッタ、ねずみポケモン。わざを覚えられます。わざのインプットを開始します』

     
    コラッタはわざマシンを使われることに慣れているからか、少年がわざマシンを当ててきてもじっとしている。少年の手の中にある箱は、カリカリと擦れるような音を立てながらコラッタに情報を送っていく。
    自分は、同級生は誰も手にすることができない貴重なわざマシンを使っているのだ。そう思うだけで優越感に浸ることができる。これでまた仲間に差をつけることができるかもしれない。考えるだけで、少年の胸は高鳴った。
    やがて倉庫に響いていた音が鳴り止んだ。終わったらしい。コラッタからディスクを外し、静かになったわざマシンを丁寧に棚へ戻したと同時におじさんが戻ってきた。


    「いやあ、ごめんね。ちょっと仕事でトラブルが起きたみたいで」
     
    穏やかな笑顔を少年に向ける。少年は思わず目を逸らす。おじさんの方は、少年のそのほんの少しの変化を見逃さなかった。
    おじさんは先程自分で戻したわざマシンを見つめ、その後少年に視線を当てる。

    「使ったのかい?」

    クリスマスプレゼントもお年玉も、そして誕生日プレゼントも欲しい物をくれる。いつも優しいおじさん。そんな彼が怒っている。そのことに気づいた少年は、俯いたまま動けなくなった。

    「本当のことを言いなさい」

    更なる圧力。ついに観念して、顔を下げたまま謝る。

    「ごめんなさい。勝手に使っちゃったんだ、あのわざマシン」

    おじさんがため息をつく。


    「良かったね、君が本当の息子なら怒鳴り散らしているよ」

    おじさんは屈み、少年と目線を合わせた。

    「なんでおじさんが怒っているか分かるかい? 人の断りなしにその人の物を使ったからだ。そういうのは卑怯っていうんだよ」

    「ごめんなさい」

    「今度そういうことしたら、二度とここには来ちゃいけないよ」
     
    少年は涙目になるが、男が簡単に泣くなと更に喝を入れる。彼は素直に頷いた。
    おじさんは頭をかく。


    「参ったなあ。まあ壊されるよりはマシだったか・・・」

    少年は、彼が言っている意味が分からなかった。

    「実はね、昔のわざマシンというのは使い捨てだったんだ。一度ポケモンにわざを教えたら、そのわざマシンは二度と使えないんだよ」
     
    もうこのわざマシンは使えない。その事実を知った瞬間少年は自分がとんでもない過ちを犯したことに気がついた。

    「それは本当に初期型だからね、メーカーも復刻していないしリサイクルもできないんだ」

    「ごめん、なさい」

    「済んでしまったことは仕方ない。次に同じことをしなければ良いんだ」
     
    コラッタは事態が飲み込めず少年の足に寄り添っている。

    「ほら、コラッタもいつまでもくよくよするなってさ」

    「うん、おじさん本当にごめんなさい」

    「反省しているなら良い。同じことはしないことだ」
     
    はい と返事を返して、少年はコラッタを抱き上げて頭を撫でる。コラッタは嬉しそうに喉を鳴らしている。



    「でも本当にそのわざマシンを使ってしまったのか。きっと、直ぐにわざを忘れさせたくなるよ」

    「とっても貴重なわざマシンを使ったもの。忘れさせないよ」

    「そう言ってくれるのは嬉しいんだがなあ、いつまでその志が持つことやら」

    「どうして? そんなにそのわざマシンは使えないの?」

    「ああ、そのわざマシンの番号は12。当時は、みずでっぽうというわざが記録されていたんだ」





    ――――――――――

    何故わざマシンにみずでっぽうがあったのか。初代ポケモンを知っているなら同じ疑問を持った人がいると思います。
    因みに私は、みずでっぽうはいつもコラッタに覚えさせていました。
     
    フミん


    【批評していいのよ】
    【描いてもいいのよ】


      [No.2493] バルーンフライト 投稿者:aotoki   投稿日:2012/06/30(Sat) 20:06:40     109clap [■この記事に拍手する] [Tweet]



    はじめてフワンテで飛ぶことを知ったのは、まだソノオにいた11歳の頃。


    「なぁ…ホントに大丈夫なのか?」
    「大丈夫だって。向こうから手つかまれても逆に俺らが振り回せるって、兄貴の図鑑に書いてあった」
    「それに俺らも生きてるし、な」

    たまに川沿いの発電所にやってくるフワンテの手を捕まえて、5秒キープする。そんな、田舎町のガキの精一杯
    の度胸だめしがきっかけだった。たしかあの時は仲のいい奴らに誘われて、すこしドキドキしながら川まで歩い
    ていったんだっけ。

    かすれた看板の近くで、紫色のポケモンがふよふよと漂っている。
    「…ほら。今後ろ向いてるからチャンスだぞ」
    「えっ、でも・・・・」
    「ニツキが成功すれば5レンチャンで、タツキたちの記録抜けるんだよ〜。だから、ほら行っちゃえって」
    「う。・・・・うん。じゃあ…行くよ」
    友達の一人に背中を押されて、僕はゆっくりフワンテへの一歩を踏み出した。

    僕の家は何故か妙なところで厳しい家で、その時一緒に行った友達含め、周りの奴らはみんなはじめてのポケモ
    ンを貰っていたんだけれど、その頃の僕はまだポケモンを貰えていなかった。だから友達よりもずっと、フワン
    テとの距離感がやけに大きくて、度胸だめし以前のところで緊張したのを今でも覚えている。
    まだまだ幼かった僕の手が、フワンテの小さな手と視界の上でようやく重なったとき、突然フワンテがくるりと
    こちらを向いた。
    「ぷを?」


    フワンテと目があった瞬間の衝撃は、今でも軽くトラウマだったりする。


    「うっ、うわぁぁぁあ!?」「ぷををを?!」
    悲鳴を上げながら慌てて後ずさる僕に、フワンテも軽く飛び退く。というか明らかに逃げようと浮き上がる。
    「ヤバい!逃げられるよコレ!」「馬鹿!はやく手掴め!!」

    ビビりながらそれでもフワンテに手を伸ばしたのは、僕なりのプライドってやつだったのかもしれない。
    必死に伸ばした僕の手はふたまわりは小さいフワンテの手をがっしりと捕まえて、なんとかフワンテの逃亡は阻
    止出来た。
    「ぷををを〜!!」
    ぐるぐると回りながらフワンテは必死に逃げようとする。でも5秒キープのためには、この手を離すわけにはい
    かなかった。


    「1!」友達のカウントが始まる。


    「2!」体を膨らませて、フワンテがさらに逃げようとする。


    「3!」「ぐうぅぅぅ…」僕は必死に足を踏ん張る。内心、魂を持っていかれるんじゃと思いながら。


    「4!」ずりずりと足が地面を滑りはじめる。なんだよ振り回せるなんて嘘じゃないか!そんな図鑑と友達への
    文句を考えられたのもそこまでだった。


    「5!」

    僕の足が、地面から離れた。


    「・・・・え?」
    上を見上げると、眩しい位の青空。

    下を見下ろすと、一面に広がる花畑。

    「うそ・・・・だろ?」
    信じられないことに、僕はフワンテに掴まって、空を飛んでいた。

    今さらになって考えてみると、飛び降りて怪我しないくらいの高さだったんだからそんな風景見えるはずはない
    んだけど、とにかく11歳の僕には、見慣れたソノオのあれとは違う、もっと別な感じで綺麗な花畑が見えた。
    風もないのに、何故かフワンテは滑るように進んでいって、花畑は僕の足元を過ぎていく。鳥ポケモンで飛んだ
    とき―初めて飛んだのは父親のムクホークだったっけ―とは違う、あくまでも穏やかな、なめらかなフライト。
    「すっげぇ・・・・」

    どれくらい、僕はフワンテに掴まっていたんだろう。

    「ニツキ!いいから手離せ!」「まだそんな高くないから今なら降りれるぞ!」
    その声に反射的に手を離した僕は、無様に花畑…ではなく草の生えた地面に転げ落ちた。

    少し遠くから、友達が走ってくる。
    「おい大丈夫か!?」
    「な・・・・なんとか」
    くらくらする頭で見上げた空には、天高く舞い上がるフワンテ。
    「すっげーよニツキ!お前空飛んでたんだぞ!」
    「うん…ほんと・・・・すごかった」
    友達からの心配と称賛に、僕は上の空で答えていた。


    『3秒間のフライト』。
    この僕の記録はしばらく抜かされることはなくて、タツキがフワンテを追いかけるあまり発電所の機械にぶつか
    って壊してしまい、大人にこの遊びがバレて度胸だめし自体が無くなることで、めでたく殿堂入りとなった。

    あの後僕はもう一度一人で発電所に行ったけど、フワンテはいなかった。


    ****
    あれから12年。

    「よーし、いくぞフワライド!」「ぷをを〜〜!」

    僕はわざわざフワライドで空を飛ぶ、風変わりなトレーナーとなっていた。
    あの時のように手に捕まる訳じゃなくてフワライドに乗っかる形でのフライトだけど、それでもあのふよふよと
    浮かぶ感じ、楽しさは変わらない。今はソノオからノモセに引っ越して、すっかりあの頃を思い返すこともなく
    なったけど、このフワライドと子どものフワンテだけが子どものころの僕を忘れさせないでくれていた。
    トレーナーとしての仕事も上々で、今話題のフリーターになることもなく安定した暮らしを送れている。もちろ
    んパートナーたちも増えて、うるさいながらも楽しい暮らしだ。
    ただひとつ問題なのは――


    『何?またアンタ彼女にフられたの?』

    電話の向こうで、コハルが呆れたような口調で言った。
    「うん……」『もうこれで何回目よ?』
    「3回目…」『嘘。4回目よ。もー、アンタが失恋した月は電話代が上がるから迷惑なのよ』
    「でもさ…こういう愚痴聞いてくれるのも言えるのもお前だけなんだよ」

    コハルはバイト中に知り合った数少ない…というか唯一の女友達で、こんな僕と長々と電話で話してくれる良い
    友達だった。

    『…まぁいいけど。で何?また原因はアレ?』
    「そう…アレ。」僕はフローゼルとじゃれあうフワライドに目をやった。
    『アンタさぁ…そうやって妙に見栄張るからダメなのよ』
    「だってデートに空から颯爽と登場するのは男のロマンだろ?」
    『それでデートに2時間遅れるんだったらロマンもムードも皆無よ』
    それに僕は枕をバンと叩いて応じた。
    「しょうがないじゃないか!フワライドで飛ぶんだから!それくらい大目に…」
    『でもフラれたのは事実でしょ?女からすればデートに遅れる男はサイテーなのよ。分かる?』
    「う゛っ」
    何回も言われてきたフラれ文句を突きつけられ、僕は布団に撃墜される。
    「……でも」『でもじゃない』

    そう、僕のフワライド――というかフワライドのそらをとぶは遅すぎるのだ。それも洒落にならないレベルで。
    飛んだのに遅刻は当たり前。下手すれば風に流されあらぬ方角へ飛んでいき、家に帰るのもままならななくなる

    もう何回『コトブキで待ち合わせね!』と言われて絶望に落ちたことか。
    もし僕がトバリかナギサみたいな都会あたりに住んでいたら、遠出の心配をする回数もぐっと減ってたと思うん
    だけど、残念ながら僕の住まいはノモセ。おまけにここシンオウ沿岸部はわりに風が強い場所で、フワライド乗
    りにはかなりつらい場所なのだと、ノモセに住まいを見つけてから知った。

    デートはおろか、普段の外出もままならない。

    この大問題に、僕は決着をつけられていなかった。

    『いいかげん諦めたら?アンタ、ペリッパー持ってるでしょ?』
    「……ねぇコハル。僕の体質分かって言ってるの?」
    『分かってるわ』
    コハルはしれっと言った。
    『でもそこはもう割りきっちゃうしかないんじゃない?』
    「…確かにデートに遅れる男はサイテーかもしれない。それは認める。でも、デートにベロンベロンに酔ってく
    る男も僕からしたらサイテーだ」
    たしか父親のムクホークに乗せられた時も、酔っちゃって大変だったっけ・・・・僕はぼんやり昔のことを思い
    返す。
    『・・・・まぁね。それもそうね』
    そういえば、とコハルは言葉を次ぐ。
    『アタシの知り合いの医者、そういう体質に詳しいらしいんだけど・・どうする?』
    何回も言われてきた事実を突きつけられ、僕は沈黙する。

    助けを求めるように見た部屋の床には、ふわふわと飛び回るフワライドの影が踊る。その影に一瞬あの青空と紫
    色の輝点が写った。それと花畑も。

    「・・・ゴメン、コハル。」
    僕はあの夢のような、夢だったかもしれない、あのフライトが忘れられないんだ。
    「やっぱ…僕はフワライドで飛びたいんだ」
    『・・・・アンタさぁ』
    「分かってるよ」僕は苦笑いしながら答えた。そうやって意地張るからダメなんだって。
    『・・・・分かった。とにかく愚痴だけは聞いてあげるから、あとは自分でなんとかしなさいよ。いいわね?』
    あと電話代はレストラン払いでね、と言い残し、コハルはブツッと電話を切った。

    「・・・・どうしよう…」
    布団に寝転がった僕を、ぷを?と上からフワライドが覗きこんできた。心なしか心配そうな目をしていて、僕は
    申し訳なさで一杯になる。
    「ん?コハルがななつぼし奢れってさ。電話代の代わりに」
    あくまでも明るくそう言うと、あのレストランの高さを知っているフワライドは、ぷるぷると頭・・・・という
    か顔・・・・というか体を振った。
    「だよなぁ・・・・ちょっとアンフェアだよね」
    ぷぅ、と同意するかのように少し膨らんだフワライドは、開けてた窓から入ってきた夜風に煽られ、部屋の向こ
    うまで飛んでいった。
    「・・・・ホント、どうしよう」
    昔読んだ本にも、こんなシーンがあった気がする。たしか、泥棒になるか否かを延々と悩んで、試しに入った家
    で結論が出る話。
    「・・・・あ、そうだ」
    あることを思い付いた僕は、布団から勢いよく起き上がった。その風に煽られたのか、またフワライドが少し飛
    んでいく。

    ****
    「ん〜・・・・ないなぁ・・・・・・・・」
    かれこれ2時間、僕はパソコンとにらみあっていた。

    要するに決断にはきっかけが必要。そんな訳で僕の背中を押してくれる情報を得るため、僕は検索結果を上から
    順にクリックしていた。

    Goluugに入れたキーワードは、『フワライド』『飛行』『悩み』。

    でも引っ掛かってくるのはそういうフワライド乗りのコミュニティやサイトばかりで、そういうコアなファンは
    僕の悩みを「それがロマン」と割りきってしまっていたのだった。でも残念ながら僕はフワライドのロマンより
    、男としてのロマンや人間としての効率の方をまだ求めたい。

    何十回、薄紫色のサイトを見ただろう。白とグレーを基調にしたそのサイトは、唐突に現れた。
    「・・・・なんだここ」


    『小鳩印のお悩み相談室』。


    見たことのないポケモンの隣に、そのサイトの名前が控え目に記されていた。
    見知らぬ鳥ポケモンはこういう。

    『ようこそ。このサイトはフリー形式のお悩み相談サイトです。僭越ながらこのピジョンが、アナタの悩みの平
    和的解決のため、メッセージを運ばせていただいております。もし、なにかお悩みのある方は、この下の「マメ
    パトの木」に。お悩み解決のお手伝いをしてくださる方は、「ムックルの木」をクリックしてください。
    私の飛行が、アナタの悩みを少しでも軽く出来ますよう・・・・』

    どうやらこのサイトは、何回もでてきた「お悩み」と最後の一行の「飛行」に引っ掛かったらしかった。
    「お悩み相談室・・・・か」
    最近はこういう体裁を装って個人情報を盗むサイトがあるらしいけど、緊張しながらクリックして現れたフォー
    ムには、ニックネームと悩みを書く欄しかなくて、どうも犯罪の匂いはしなかった。
    「……やってみる?」
    僕は画面の明かりに照らされるフワライドの寝顔を見る。ただのイビキかもしれないけど、ぷふぅとフワライド
    は答えてくれた。
    「・・・・よし」
    僕はキーボードに指を当てた。
    ニックネームは少し迷ったけど、『小春』にした。


    ****

    そらをとぶが遅すぎます

    フワライドのそらをとぶは遅すぎてまともな移動手段になりません。
    デートで颯爽と空から登場、のようなことをしたかったのですが、フワライドに乗っていったところ約束時間を
    かなり過ぎてしまいました。彼女に振られました。気分が沈んだのでそらをとぶで帰ったのですが、夕暮れ時に
    ぷかぷか浮いているのが心にしみました。
    リーグ戦でも空から颯爽と登場がしたかったのですが、あまりにもゆっくりすぎるそらをとぶで遅刻しました。
    不戦敗で夕日が心にしみました。

    フワライドに乗り続けたいです。でも遅すぎます。フワライドをそらをとぶ要員にしている方は、どんな対策を
    とっているのでしょうか?
    お答え、よろしくお願いします。

    補足
    鳥ポケモンに乗ってそらをとぶと酔います。

    ****


    「・・・・お?」
    意外なことに、返事はすぐ帰ってきていた。


    『もしあなたが鳥ポケモンをお持ちなら、「おいかぜ」と「そらをとぶ」を覚えさせることをお勧めします。
    おいかぜをしてもらいながら併走(併飛行?)してもらえば、かなり早くなるかと思います。
    あなたを乗せて飛べなかったポケモンも、きっと満足してくれるはずです。
    ・・・・ただし飛ばしすぎにはご注意を。』


    「そうか・・・・おいかぜ、かぁ」たしか効果は『味方のすばやさをしばらく上げる』、だったなと僕はおぼろ
    気な記憶を思い出した。
    というかリーグに再挑戦しようとしている身なのにこんな技の記憶がテキトーでいいのだろうかと一人思う。
    そういえばフワンテ時代に「覚えますか?」と聞かれて、どうせダブルバトルはしないからとキャンセルした覚
    えがある。

    そこでもうひとつ、僕は思い出したことがあった。

    この間引っ越してきたオタク風の男。たしか技マニアとか言っていた気がする。なんか技を思い出させるとか、
    させないとか言っていて・・・・
    「……よし」
    僕は一つこの作戦にかけてみることにした。
    Goluugのワード欄を白紙に戻す。新しく入れたのは、さっきみたフワライド乗りのコミュニティサイトの
    名前だった。

    ****
    「よし・・・・行きますか」

    僕はバックパックのバックルを締め、天高くボールを放り投げた。
    「フワライド!フワンテ!飛ぶよ!」「ぷををを!!」「ぷぉっ!」

    僕はフワライドの頭に飛び乗り、空へ舞い上がった。
    冬だというのに暖かいシンオウの空。けどテンガン下ろしの風は冬のままで、僕らに吹き付けてくる。案の定フ
    ワライドの進路がやや東に逸れた。
    僕はあの小鳩の言葉を慎重に思い出す。
    「フワンテ!右舷に回れ!」「ぷお!」
    フワライドより小さい体のフワンテは機動力が高い。テンガン下ろしに煽られながらも、なんとか僕らの右斜め
    前、指示通りの位置についてくれた。
    「よし!そこで『おいかぜ』!」
    内心上手くいくかと思いつつ、僕はフワンテにやや鋭めに命令する。
    すると―

    「ぷおわ!」

    ごうとフワンテから信じられないくらいの強風が吹き出してきた。
    「うおっ?!」僕は一瞬風に浮いた体を掴み戻し、なんとかフワライドに掴まり直す。おいかぜってこんなすご
    い技だったっけ?そう思ったのもつかの間、視界がぐんと上に煽られた。

    「お?」
    下を見ると、僕は空を飛んでいた。
    今までにないくらい、高く。今までにないくらい、速く。
    遠い街並みの中にも一瞬、花畑が見えた気がした。

    「お・・・・おおおぉ!!」

    おいかぜに乗って、フワライドはテンガン山にぐんぐん迫っていく。風に流されるのではなく、あくまでも乗っ
    て。フワライド乗りのサイトで知ったんだけど、フワライドの持つあの黄色い四枚のひらひらは風の流れを捕ら
    えるためのもの、つまり翼に近いものらしい。僕にとっては風と恋への敗北旗でしかなかった翼は、今飛ぶため
    に意思をもってはためいていた。

    「ほんとに・・・・ほんとに空飛んでるぞフワライド!」
    僕はフワライドの紫の体を思わず叩いた。
    「ぷを〜!」
    少し不機嫌そうな、でも楽しそうな声をあげてフワライドはさらに速度を上げる。昔感じたムクホーク羽ばたき
    とは違う、水面を滑るようなフライト。
    「ぷぉ〜♪」
    僕らの脇を、フワンテが楽しそうに回りながら追い越していく。
    あの日の僕が掴まっている気がして、僕はしばらくフワンテの手を目で追いかけていた。

    ****
    「よし・・・・見えてきた」「ぷぉっ!」「ぷををー!」
    遠くのテレビ塔を見つめながら、僕は嬉しさを噛み殺していた。ここまで2時間。今までの最高記録、いやもう
    別次元の速さだ。
    途中一回PP補給でヒメリの実を使ったけど、これくらいなら二人にも負担を掛けないだろう。


    フワライドと一緒に、飛び続けることが出来る。


    それだけでもう、涙が出そうだった。いやもう出てたのかもしれない。けどこれからのことを考えると、泣き顔
    をつくる訳にかいかなかった。
    「・・・・じゃあ後少しだし、おいかぜ使い切っちゃうか!」
    「ぷぉぉっ!」
    勢いよく吹き出す風に乗って、僕らは塔の立つ街を目指す。
    幸せの名前がつけられた、僕にとっては不幸の街。でも今日からは幸せを受け入れられるかもしれない。

    街の広場が見えてくる。その時、僕の頭に一抹の不安がよぎった。



    (――止まるの、どうしよう)



    「危ない!」
    その声に反射的に振り向いた僕は、無様に花畑・・・・ではなくタイルの地面に転がり落ちた。僕が落ちたおか
    げでフワライドは地面に激突しなくてすんだけど、僕は盛大に顔を擦りむくことになった。
    少し遠くから誰かが駆け寄ってくる。

    「ちょっと何・・・・・・アンタ何してんのよ!」
    顔を上げると、コハルが呆れたような顔で僕を見下ろしていた。

    腕時計を見ると、10時を少し過ぎた位置を指している。

    「・・・・ゴメン、遅れちゃった」地べたに転がりながら、僕は曖昧に笑う。
    「遅れすぎよ、バカ」
    フワライドがコトブキのビル風に揺れる。少しお洒落をした君は、やれやれと笑ってくれた。


    "following others without much thought" THE END!


    【あとがきと謝辞】
    初めましての方は初めまして。
    また読んでくださった方はありがとうございます。aotokiと申す者です。
    ねぇこの話って長編?短編?どっちなの!!この中途な長さをどうにかしてぇぇ(ry

    ・・・・まず、この話の原案となる素敵な悩みを下さった小春さん、そしてお悩み相談企画を立ち上げて下さっ
    たマサポケ管理人のNo.017さんに感謝の意を述べたいと思います。
    お二人がいなかったらこの物語は出来ませんでした。本当にありがとうございます。
    果たして私の愚答が小春さんの悩みを解決出来たかは分かりませんが・・・・


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