マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ
このフォームからは投稿できません。
name
e-mail
url
subject
comment

[もどる] [新規投稿] [新規順タイトル表示] [ツリー表示] [新着順記事] [留意事項] [ワード検索] [過去ログ] [管理用]
  • 以下は新規投稿順のリスト(投稿記事)表示です。
  • 48時間以内の記事は new! で表示されます。
  • 投稿者のメールアドレスがアドレス収集ロボットやウイルスに拾われないよう工夫して表示しています。
  • ソース内に投稿者のリモートホストアドレスが表示されます。

  •   [No.3978] Re: タウンマップ 投稿者:逆行   投稿日:2017/01/31(Tue) 21:10:52     70clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    小樽さん。ご丁寧な感想ありがとうございました!

    今回はスケールがめちゃくちゃ小さいことで主人公を長々と葛藤させる、という始めての試みをしたわけですが、楽しんで頂けたようでホッとしています。

    こういう、原作をなぞりながら心理描写補強を加えるお話は非常に書いていて楽しいです。
    (後ストーリー考えなくていいから楽です)
     

    >ポケモンの存在する世界だから、こういう人も一定数必ずいるんだろうなあと思いもしました。たぶんポケモン原作に対する一種の批評や観察的なところからネタを抽出されたと思うのですが、他の方の観察を読むのってやっぱり楽しいですね。

    最近自分は人間視点のお話ばかり書いていますが、ポケモンの出番を全然出せなくて困ってたんですよね。
    そこで考えたのがこの「ポケモンの目線すら気にする」という設定でした。
    この設定はまたどこかで使おうと思います。
    ただ、違和感を抱く人は違和感を抱くのも事実だと思うので、今度はこれに病名とかを付けて上手いこと落とし込みたいですね。


    > まさにいろんな可能性を想像できる二次創作らしいいい作品だなあ……! と思って読み終えました。「レッド」と聞くと多くの人が「かつてプレイヤーの分身として旅をした少年」か、「かつてセキエイリーグを制覇し今はシロガネやまの奥で待ち受けている青年」を思い浮かべると思うのですが、こういう「ちょっとビクビクしているようなレッド」が存在したっていいんですよね。このレッド少年を通すと、最初の草むらもオーキド研究所も、それからグリーンのお姉さんも少し違って見えてきて面白いです。

    ありがとうございます!
    こういう原作を別の角度から見てみるような二次創作はこれからももっと書いていきたいです。


    > 後ろ暗い経験、とまで言ったら言い過ぎかもしれないけれど、こういう経験がある人ほど共感したり刺さったりするんじゃないかなあと思いました。ちなみに感想を書いている私はもちろん刺さってるほう。

    (・∀・)


    > これがもうレッド君の嘆息そのものって感じがして、正直ニヤニヤしてしまった。ごめんよ少年。

    いやーほんとあのフレンドリィーショップの店員は図々しすぎるんですよ。
    しかも、酔っぱらいの爺とグルを組んで、お使いを終えるまで先へ進めないようにしてますからね。


    改めてご感想の方ありがとうございました。
    それでは失礼致します。


      [No.3977] Re: タウンマップ 投稿者:小樽   投稿日:2017/01/30(Mon) 20:52:09     62clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     こんにちは! twitterの感想を少し膨らませて改めて投下しますね。



     まさにいろんな可能性を想像できる二次創作らしいいい作品だなあ……! と思って読み終えました。
     「レッド」と聞くと多くの人が「かつてプレイヤーの分身として旅をした少年」か、「かつてセキエイリーグを制覇し今はシロガネやまの奥で待ち受けている青年」を思い浮かべると思うのですが、こういう「ちょっとビクビクしているようなレッド」が存在したっていいんですよね。このレッド少年を通すと、最初の草むらもオーキド研究所も、それからグリーンのお姉さんも少し違って見えてきて面白いです。



     一周目は「少年、いくらなんでもそれは思い込みすぎでは……」と思うところがあって、たとえば
    > すなわちコラッタは、ずっと一軒家の前で立ちすくんでいる彼を見て、訝しんでいる可能性も十分あった。
     いやあそこまで考えてないんじゃないかなあ……w というのがレッドの感じていることに対する最初の正直な感想でした。感想を書きながら改めて考えてみると、「ポケモンはそんなとこまで考えてないよw」というそれ自体が、実は人間の傲慢な発想なのかも……と思ったり。



    >  彼は急にポケットに手を入れ、ポケモン図鑑を取り出して画面を見始めた。電源は入れていない。真っ黒な画面を一心不乱に見続けて、あまりにもワザとらしくうんうん頷いている。

    > レッドは嘘をついてしまった。

    > 相手に一滴でも不快な感情を注入させてはいけないと思うあまり、

     そして「相手はそこまで考えてないだろうからそんなに自衛しなくても大丈夫なんじゃないw」と思ってみていることも、実は程度の差はあれ誰もが経験しているんじゃないかなあと思います。嘘に嘘を重ねて自滅したりだとか、気付いていないフリや関心がないフリをしてうまくやり過ごせないかなと脱出路を探してみたりだとか。後ろ暗い経験、とまで言ったら言い過ぎかもしれないけれど、こういう経験がある人ほど共感したり刺さったりするんじゃないかなあと思いました。ちなみに感想を書いている私はもちろん刺さってるほう。
     だからこそ分かるなあと思ったり、他人事に思えなくて「自分もこんな遠回りをしてるのかも」とクスッとしてしまったり。なんだか「レッドも自分もちょっと滑稽だね」と思えたり、同時に「レッドも自分もこれは真剣だよ」と思えたり、不思議な小説です。



    > この世界に生きる選ばれし者の中には、人間の目だけでなく、ポケモン達の目すら気にしていなくてはいけない性格を神から与えられた者が、結構な数存在した。
    ポケモンの存在する世界だから、こういう人も一定数必ずいるんだろうなあと思いもしました。たぶんポケモン原作に対する一種の批評や観察的なところからネタを抽出されたと思うのですが、他の方の観察を読むのってやっぱり楽しいですね。



     この先もこの世界線のレッド君は苦労するのかなあ……と思いもしたのですが、最後の方はそんなレッド君も自分の未知数の可能性を信じて少しずつ変わっていく、そんな将来を予感させて、ちょっと救われた気分。よかったねレッド。がんばれレッド。
     一周してもう一周してみると、考えが整理されて受け止め方も変わってきて面白かったです。ありがとうございました!



     あと、最後の
    > あー、あのフレンドリィーショップのおじさんのような、軽々しく人にお願いできるぶてぶてしさがあればなあ。
     これがもうレッド君の嘆息そのものって感じがして、正直ニヤニヤしてしまった。ごめんよ少年。


      [No.3976] タウンマップ 投稿者:逆行   投稿日:2017/01/29(Sun) 23:39:47     75clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     とある一軒家の前で立ちすくみ、時折頭を抱えたりしゃがんで小石を掴んだりしている、一人の少年がここにいた。少年はあることに関してすこぶる悩みを抱えていた。
     まるでポケモン達が人間の町を囲って監視しているかのように、マサラタウンの周囲には、ポケモンが潜む草むらが地平線の彼方まで生い茂っている。
     その草むらに住むポケモンは、たまに人間の町へふらっとやってくることがある。好奇心旺盛な者なのか、あるいは、ポケモン達がスパイとして送り込んだのか。餌を探しにきたとか、もしくは、ただの迷子であるかもしれない。ともかく、ポケモンは時折町で見かけることがあり、少年の直ぐ傍にもまた、周囲をキョロキョロとしながら、コンクリートの地面に自慢の歯が刺さらないか試している一匹のコラッタがいた。
     少年は特にコラッタを警戒はしていなかった。こんな小さな鼠ポケモンなんて、小さいときにも何回も見たことがあるし、昨日なんて四匹も見たし、そのうち一匹は尻尾が自分に触れていたし。彼はもう、旅立ってから四日も経つのだ。だから全然怖くはなかった。だがその感情が保たれるのは、コラッタが彼と目を合わせるまでのことであった。
     コラッタは決して少年とこれ以上距離を詰めようとはしない。ただひたすら、滑稽な様子の少年を鋭い眼差しで見つめているだけである。
     種族や個体にもよるか、ポケモンは人間の子供に匹敵する程知能が高い者が多い。
     すなわちコラッタは、ずっと一軒家の前で立ちすくんでいる彼を見て、訝しんでいる可能性も十分あった。その証拠に今さっき首を少し傾げた。
     自意識過剰な人間というものは、どの世界にも必ず一定数存在する。選ばれしその人間共は、一人でいる時以外の全ての時間を、周囲の思考を気にして生きていく、辛い生活を強いられる。
     この世界に生きる選ばれし者の中には、人間の目だけでなく、ポケモン達の目すら気にしていなくてはいけない性格を神から与えられた者が、結構な数存在した。
     この彼もまた、その一人であった。勝手に気にして勝手に生きづらくなっている不幸な人間の仲間であった。
     ゆえに彼は今ここにいるコラッタにも、自分がなんて思われているのか気にしている。気にしないといけなくなっている。
     彼は急にポケットに手を入れ、ポケモン図鑑を取り出して画面を見始めた。電源は入れていない。真っ黒な画面を一心不乱に見続けて、あまりにもワザとらしくうんうん頷いている。
     彼の思考は次の通りである。ずっと一つの家を見続けていると、コラッタに不審に思われそうで恐ろしい。なので今度はポケモン図鑑を見ておいて、一つの物を睨み続けるおかしな人間と思われることを避けよう、と。
     他者からどう思われるかを気にするあまり、彼は時折おかしな行動を取ることがあるのだ。


     そんな彼の名前は、レッドと言う。
     最近旅立った、新米のポケモントレーナーである。
     性格がてんで違うじゃないかと憤る人もいるかもしれないが、あくまでこの世界線のレッドはこんな感じであるということでお許し頂きたい。また、作者の自己投影が過ぎるという批判は一行に構わないが、どうかゲームの方のレッドを批判するような真似はよして欲しい。最もそんな、「誰かの空想」と「誰かの空想に対して空想したもの」の区別が付かないような人は、この掲示板にはいないと思われるが。


     マサラタウンから抜け出して、まる二日と半日経ってやっとのことで隣町のトキワまで足を踏み入れることができたのに、レッドはその二日後には再度マサラタウンを訪れていた。
     トキワシティに辿り着いた彼がポケモンセンターの次に向かったのが、フレンドリィーショップだった。レッドはモンスターボールを一つも持っておらず、草むらに落ちていたりしないか探してみたりもしたが見つからず、それでも野性のポケモンは、どんどん元気良く飛び出してくるものだから、旅立ってそうそう鬱になっていた。
     ボールを求めて店に入った、その瞬間のことであった。
    「君は、マサラタウンから来た子だね」
     四十代くらいの店員の人に手招きをしながらそう言われた。
     レッドはここへ来たことを後悔した。手招きを「しっしっ」の合図と勘違いしたように見せかけて、店から抜け出そうとも一瞬考えた。その店員のおっさんをレッドはこれっぽっちも知らなかったが、向こうは自分のことをどうやら知っている、というとても嫌な状況が起こった。
    「君も大きくなったねえ。よその子とゴーヤは育つのが早い!」
     どうやら自分が小さい頃に会ったことがある人みたいだ。だがこれっぽっちも思い出せず、恐らくかなり小さいときに二回ぐらいしか会ったことのない人の可能性が高い。
    「あ、お久しぶりです」
     しかし覚えていませんと言ったら失礼になると思い、レッドは嘘をついてしまった。いくら嘘も方便という言葉があるとはいえ、この後どうなったかを考えると、ここでの嘘は適切ではなかった。
    「おじさんのこと覚えているかい? 嬉しいねえ。ねえ、君にさ、ちょっと頼みがあるんだ。オーキド博士にこれを届けてほしいのね」
     そう言って、彼は一つの高級そうな箱を渡された。中身が空っぽでもウン万円はしそうな程の箱だった。鮮やかな金箔の上に、豪華な桜の花の絵が散りばめられていた。
    「大事なものなんだ。気をつけて運んでおくれよ」
     大事なものであればあるほど自分になんか任せないで自らの手で運ぶべきであると、彼は言いたかった。
     正直な話、レッドは断りたくて仕方がなかった。こんな高そうなものなんか怖くて触りたくもないし、小さい頃に会っているにしても全然記憶にないおっさいの頼みごとなんて聞きたくない。そして何より、やっとの思いでトキワシティまで辿り着けたのに、また戻るなんて嫌過ぎる。
     貴様のことを覚えているとは言ったが、だからと言って親切を押し付けて良い訳ではない。自分で行け! ポケモン持ってなくてもポッポに吹き飛ばされながら進んでいけ!
     等と心の中では怒って叫びまくってはいたが、彼は結局、
    「分かりました。オーキド博士に渡しておきます」
     これが自意識過剰の不幸である。相手に一滴でも不快な感情を注入させてはいけないと思うあまり、記憶がないのにお久しぶりですと言ったり、面倒なお使いをあっさり引き受けたりする。
     こうしてレッドはマサラタウンへと戻るハメになったのである。


     一度通った道とはいえ、道中でポッポが風を起こしコラッタがバッグを漁ろうとしてくるから、しんどいことこの上なかった。ポケモンを倒して経験値を貯めることもせず、どんどんポケモンから逃げてマサラタウンまで向かった。
     マサラタウンに辿り着いた頃に、一旦自分の実家に寄ることも考えたが止めておいた。「なんでもう戻ってきたの?」って聞かれると面倒だと思った。正直な理由を話せば、「なんでそんなこと引き受けちゃうの。あんたっていっつもお人好しなんだから」ってキッチンで愚痴愚痴言われる光景が想像できた。


    「おお、これはこれは。どうもすまんのう。全くあいつは、旅立って間もない子に頼みおって」
     書棚の奥の方にある埃をかぶった分厚い本を取り出そうとしているオーキドを見つけ、例の届け物を渡した。
     オーキドはホコリまみれの手で少々乱雑に箱を開けていた。ここまで丁寧に運んできたことをレッドは激しく後悔した。
    「おおこれは。わしが注文した新型のモンスターボールじゃ。いやーどうもありがとう」
     そのボールを自分にくれるような流れにならないかなあ、というあまりにも望みが薄いことをレッドが考えていると、誰かが機械を蹴ったような音が聞こえきた。
     音のする方角を向くと、やたらと慣れた感じで研究所を小走りで歩く一人の少年の姿があった。その少年は、さっき自分の足が当たってしまったのであろう機械の方を一度振り向いて、一応正常に動いていることを確認していた。そして、
    「じじい、話って何?」
     と大声で言った。
    「うるさいぞグリーン」
    「黙れハゲ」
    「わしはハゲていない」
    「黙れ白髪」
    「日々脳を使っていると白くなるんじゃ」
     二人は怒りながら笑って会話をしていた。いつ見ても楽しそうな孫とおじいちゃんの様子を見ると、自分はこの空間に引き続き入っちゃっていても良いのか、っていう気分にレッドはなる。
     グリーンという名前のこの少年は、レッドの幼馴染でありながら、レッドと同じタイミングで旅立った、謂わばトレーナーのライバルであった。
    「二人に頼みがあるんじゃが……」
     オーキドは、そう前置きした。レッドは、旅立ってから人から何かを頼まれるのが二度目であり、本来極めて不快な気分になる所だ。だが、オーキドの頼みならまだ許せるし、彼の言い方に後ろめたさが感じられなかったので、辛かったり面倒だったりする類の頼み事ではないんだろうと思っていた。
    「二人には、これを完成させて欲しいんじゃ」
     オーキドは赤い長方形の物体を見せた。レッドはこの物体の正体が分かった。その瞬間から嬉しさが溢れた。隣にいるグリーンも同様の感情の筈だと思った。


     レッドとグリーンはポケモン図鑑を完成させる使命を託された。旅をしながらポケモンを捕まえて、ポケモンの生態を図鑑に記録していく。記録された内容は当然研究の役に立つのだろう。
     レッドは非常にワクワクしていた。旅に出るだけでなくこんなことまで託されたのだ。この名声のある博士と脈があって良かったと改めて思った。
     だが。
     レッドはそのワクワクする作業のスタートラインに立つ前に、一つの壁を乗り越えなくてはいけなくなってしまった。たった今、そうなった。
     そうなったのは、グリーンの一言がきっかけだった。
     高揚した気分を味わっている横で、グリーンが大声でこんなことを言い放った。
    「よーし、じじい。全部俺に任せときな。残念ながらレッド、お前の出番は全くないぜ。そうだ、姉ちゃんから『タウンマップ』借りてこよう。お前には貸さないよう言っておくからうちに来ても無駄だからな」
     こらグリーン何を言っとる、と言ったオーキドの声は全く聞こえない。レッドは、絶望の淵に突き落とされていた。ここからどうやって脱出しようか、その方法を懸命に目論んでいた。


     タウンマップとはようするに地図のことであるが、ただ紙に町や道路の場所が描かれているだけの代物ではない。これは電子式であり、今居る自分の場所を赤く点滅させてくれる機能がついている他、この場所は危険であるから近づかない方が良いなどの情報や、その場所のその日の天候の情報も得られる。更にポケモン図鑑とドッキングさせれば、野性のポケモンの住処がどこかも知ることができる。ということはすなわち、ポケモン図鑑を完成させるにあたっては必要不可欠な道具と言えるものだ。
     タウンマップは非常に高価であった。トレーナーを目指す子供は年々増加しており、それに比例してどんどん値段が上がっていった。だから、そう安々と手に入れられるものではない。
     グリーンの姉がタウンマップを持っていて(グリーンの言動からして二つ以上確実に持っている)、なおかつ貸してもらえる可能性があるということが分かれば、このチャンスを是が非でも逃してはいけないと思ってしまった。


     グリーンの姉には小さい頃良く遊んでもらっていた。彼女には自転車の乗り方を教えてもらった。丁度彼女はグリーンに教えていて、いつの間にかレッドにも教えることになったのである。支えなしで自転車を漕げるようになったとき、彼女はとても褒めてくれたのが印象に残っている。
     レッドは、グリーンの姉のことを「グリ姉」と呼んでいた。今考えるととても酷いネーミングである。失礼極まりない。彼女は嫌がっている様子を特に見せなかったが、内心では心底嫌であったに違いない。あんな呼び方してすいませんでしたと、八歳のときに謝りに行こうかとも考えた。だが、謝るときにどうしても「グリ姉」というワードを出さないといけないから、それが原因で億劫だった。
     彼女はとても優しいから、面と向かってお願いすればタウンマップは貸して貰える。グリーンから貸さないように言われても、絶対に貸して貰えると分かる。それにオーキドの孫である。お金はたくさん持っている。タウンマップは一般的には高価であるが、グリーンの姉にとってはそこまで高級品ではないのではないだろうか。
     だが、そうであってもレッドは、「タウンマップ貸してください」、とは言いにくかった。言ったらとても、気まずくなると思っていた。
    レッドが大きくなってからは、グリーンの姉とは全く交流がなかった。それこそ四歳ぐらいのときは毎日のように遊んで貰っていたが、七歳を過ぎた頃からパタリと交流がなくなった。グリーンの家に遊びに行くこと自体が少なかったし、自分達がリビングにいるときは、姉は二階の自室に移動するようにいつしかなっていた。
     ただでさえタウンマップを貸して欲しいという図々しいお願い。これを、幼いときにしか交流のなかった人にする訳である。しかもグリ姉なんて言う酷い呼び方をしていた人にである。
    これがどんなに"ぼんやりと恥ずかしい"ことか、皆には想像できるであろうか。


     この世界では人の家に勝手に入っても良いことになっている。そういう文化なのだ。インターホンが備え付けられている家もあるが、滅多に使われるものではない。悪い人がやってきたときのために貴重品等は全て金庫に保管している人が多いとはいえ、かなりおおっぴらな文化であると言えよう。引きこもりは引きこもる場所がない。
     勝手に侵入して良いのだから、レッドは入ろうと思えばいつでもグリーンの家に入ることが可能である。しかし彼はいつまで経ってもドアノブに手を付けることすらしなかった。
     本当に自分はやるのか。タウンマップを無条件で貸してもらうなんてするのか。言った瞬間気まずい空気が流れたらどうするのか。やはりどうしてもやり辛いことであった。
     さっきからじろじろコラッタが見てくるから、ポケモン図鑑を開いて不審に思われるのを防ごうとしたが、そろそろそれも限界のようだった。今度はポケモン図鑑をずっと見ていることを不審に思われる。
     もうここは勢いだと自分を鼓舞して、レッドはとうとう(こんなことで"とうとう"という形容動詞は使いたくない)、ドアノブを握った。  
     家の中に一度入ってしまえば、後戻りがし辛い状況に自分を追い込むことができるんだ。と、考えつつも、彼は無意識のうちに、音を立てないようにドアを開けており(音を立てれば家の人に気づかれる)、後戻りするという逃げ道をちゃんと用意していた。
     また心の奥では、グリーンの姉が家にいないことを望んでいた。留守なら修羅場を明日に回すことができる。
     残念ながら家のリビングは電気が付いていた。この家にはグリーンとグリーンの姉しか住んでいなくて、グリーンは現在旅に出ている訳であるから、姉がリビングにいることはほぼ確定している。付けっぱなしで出かけている線は薄いだろう。


     他人の家というものは、どうしてこう独特な匂いがするのだろう。まるで自分がよそ者であることを裏付けるような、違和感を抱かせる匂いがする。決して嗅いで気持ちのよいものではない。だが、思わず逃げたくない程不快な匂い、とまではいかない。
     玄関のカーペットを踏む感触も妙に違和感がある。カーペットと足の裏に妙な摩擦が走っているような感覚が何故かある。極端に固いと感じることもある。
     玄関から見える階段は、やたらと急なような気がする。人の家の階段を上がるときは、手すりがないことを大概呪う。けれども用心するためか、階段で転んだことは一度もない。
     レッドがグリーンの家に入ったのは、およそ一年ぶりのことだった。
     という訳で、前に来たときとだいぶ家の様子が変化している感じだった。彼は良く覚えている。カーペットの色が赤から青になっていた。靴箱が新しくなっていた。玄関にある傘立ての場所がちょっと右にずれていた。些細な違いが幾重に積み重なって、ここは全く違う空間なんじゃないかとまで感じさせた。


     不意のことだ。階段からぴょんと一匹のポケモンが降りてきた。ニドランという兎に良く似たポケモンだった。オスであるがそんなことはどうでもよい。ニドランは、レッドの方をじっと見つめており、その様子に彼はデジャブを感じた。ほんの数分前にもコラッタに睨まれていたのに、またである。
     野性のポケモンよりも遥かに、人間に飼われているポケモンの方の視線は気になるものであり、彼は先程よりも遥かに息を詰まらせていた。ニドランの角には毒があるが、彼は毒よりも鋭利なその目に怯えを抱いていた。
     ニドランは一体今何を考えている? 
     なおレッドは、このニドランとは初対面である。ニドランはいつの間にかこの家に住んでいる。
     自分達が喋っている言葉は人間には伝わらない癖に、人間の言葉はしっかりと理解できるから、レッドはポケモン達がずるいと常々思っていた。
     人間が何を考えているのか、ポケモンは言葉によって知ることができる。
     だが、ポケモンが何を考えているか、人間は言葉によって知ることができない。
     だから、世のブリーダーは仕草とかでなんとなく感情を把握した気になるしかないし、彼のような自意識過剰な人間は、ポケモンの仕草を気にしてあれはこれやと不安を募らせているしかないのだ。


     またレッドには、ニドランにどう思われているか、ということと、もう一つの不安があった。
     ニドランが鳴き声を上げたら飼い主のグリーンの姉がこっちへくるんじゃないか、ということだった。
     レッドは自分のペースでグリーンの姉に会いたいと思っていた。(というのは建前で、本当はグリーンの姉に会わないで帰る余地を残したいだけである。彼は時折、自分の感情の建前を作って、自分自身を納得させようとする)
     とか心配していたらニドランは、小さく鳴き声をあげてしまった。
    咄嗟に今の鳴き声をクシャミで誤魔化そうとしようとするという、訳の分からないことを後一歩でする所だった。彼は瞬間パニックに陥った。
     今直ぐにでも逃げようか迷ったが、グリーンの姉はこっちへこない。大丈夫か。ギリギリセーフだろうか。
     それからニドランは再び階段の方に戻る。急なように見える階段を三段抜かしでジャンプして上っていった。
     自分の視界の外へニドランが行ってくれた。まだ何も果たしていないレッドは、とりあえずの安心感を得る。
     問題はここからである。
     そのまま勢いで姉に会いに行ってしまえば良いものを、レッドは「どういうふうな感じでタウンマップくださいと言えばよいか」、考えに耽ってしまった。彼は具体策を練っているのだ。(予め考えとけば良いものを)。
     レッドの足は、さっきから全くカーペットの上から動いていない。
     

     一番分かりやすくかつ手数が掛からないのは、「ちょっと頼みがあるんですけど」って前置きした後に、「旅に出るからタウンマップ貸して貰えますか」って、単刀直入アンド真っ正直に言ってしまうことだ。
     しかしそんなことは勿論、自意識過剰な彼にできる筈がない。繰り返すが、タウンマップ貸してくださいって言うことは彼にとって非常に難儀なのだ。
     もしもリビングの壁にタウンマップがぶら下がっていた場合なら、こんな作戦も考えられる。
     適当に会話を交えた後に、「これってなんですか?」ってまずタウンマップを指差す。そうすることで、話題をタウンマップの方に持っていく。その話題の最中であれば、「できれば貸してくれませんかね」って、極自然な形で言うことができる。
     タウンマップに対して「これってなんですか?」って聞き方はちょっとまずいだろうか。見えば分かるだろ、って思われそうだ
     そもそも、リビングにタウンマップが飾られてない場合この手段は使えない。この手段は次善策と言った所だろうか。もっとどんな場合でも対応できる方法がありそうだ。
     これはどうだろう。グリーンとさっき出会ったことにしておいて、このように言ってみるのだ。
    「そう言えばグリーンタウンマップ持ってましたけど、グリーンってあれ持ってたんですね」    
     さあどうだ。中々捻られた方法であると思われる。
     「グリーンにも貸したんだけど、レッドも持っていく?」って言ってくれば、この方法は大成功だ。問題は、そう聞いてくる確率がどのくらいか、見積もりがあまり立たないことだ。
     他人にどう思われるのか執拗に考える性格のレッドは、こんな些細なことですら脳味噌全てをフル活用するハメになる。
     レッドの足は、さっきから全くカーペットの上から動いていない。


     あっちらこっちらと思考を巡らせている内に、タウンマップ貸してくださいって言うのはやっぱりおこがましいのではないか、という考えが胸の奥底からまるで助け船のようにやってきた。
     タウンマップがなくても、トレーナーをやれている人は大勢いる。危険な場所なんて町の人に聞いて情報収集すれば分かる。天候に至ってはニュースを見ればよい。
     しかし。
     自分はポケモン図鑑を完成させることを託された訳だ。あちこちいるポケモンをくまなく探すには、タウンマップは必要不可欠なものになってくる。
     図鑑完成は全部グリーンに任せようか。それも一種の手かもしれない。けれどもやっぱり自分もやりたい。
     それならば、タウンマップを自力で手に入れるという手は?
     タウンマップが買えるようになるには後何回バトルで勝てば良いのだろう。負ければ取られる訳だから、単純な計算式では考えられない。親からお金を借りる手もあるが、家はそこまで裕福でもないし、この旅の準備だけでも結構かかっていることを考えると、旅立ってそうそうにお金を借りることを要求するなんてことは、よっぽど生活に困窮しない限りはやってはいけないと思っていた。


     彼は夢中になってあれは駄目これは駄目と考え込んでいた。レッドが少年にしてはここまで色々思考を巡らす理由は、考え事をしている間は、周囲の目があまり気にならなくなる、というのも原因の一つとして挙げられる。
     だからレッドは、今この瞬間自らを脅かす敵の存在に気が付かなかった。ニドランが階段から降りてきた。しかも彼の直ぐ傍まで近づいていた。
     気が付いた彼は目を見開いた。その目の見開きっぷりにニドランの方が驚いてしまって、先程よりも大きな鳴き声をあげてしまった。
     完全終了。
     そんな四字熟語の文字が脳内にbold&redで浮かび上がってきた。
     ところがリビングから人間は出てこなかった。脳内に浮かんだ文字が次第に薄くなっていく。だが安心は全くできない。後もう一回鳴いてしまったら流石に飼い主は訝しがるだろう。
     ニドランはさっきからずっとカーペットの上に立っている人間を見て、どうしたら良いのか分からなくなっていると思われる。グリーンの姉を呼んできた方が良いのか恐らく迷っている。
     人の家に勝手に入っても良いという文化は、飼われているポケモンらにも多大なストレスを与えている。見知らぬ人間が現われたとき飼い主を呼んできた方が良いのか、判断が付かない。怪しい人だと見た目で分かれば良いが、ただの少年であれば分からない。特に変な人間がやってきた訳でもないのに呼んでくるなんてしたら、逆に怒られる可能性もある。
     これ以上カーペットの上に突っ立っていて、ニドランに不審に思われる訳にはいかない。レッドはようやく決意を固めた。カーペットの上から脱出を果たす。リビングのドアノブを握る。一旦離した。深く深呼吸をして再度握った。そしてドアを開けた。
    「こんにちは」
    「あらいらっしゃい」
     グリーンの姉は彼と目を合わせた瞬間微笑を浮かべてそう言った。特に呆然としている様子は見せなくて、レッドは本日何度目か分からない"とりあえずの安心感"を抱いた。
     自分がこれから図鑑完成を目指すために暫くマサラタウンを離れることを知っているから、彼女は挨拶に来たとでも思っているのだろう、とレッドは考えていた。


     そしてそれから数分後。
     レッドは出されたお茶を"客人として普通と思われるペース"で飲みながら、グリーンの姉との会話を淡々と続けていた。旅に出るとき緊張したの? とか、そういうことを尋ねてくる度に、「彼は『はい』とか『あー、しました』」とか、そういう無難な返事ばかりを返していた。
     会話の主導権を完全に握られてしまっていた。これではタウンマップの話を切り出せるのは、いつになるのであろうか。チャンスは待っていても来ないことにレッドは気が付いていたが、会話の主導権をあっさり握られてしまった今、ハンドルを奪いにいくことなんてできなかった。
    「ちょっとトイレ行ってくるね」
     そう言ってグリーンの姉は部屋の外に行った。誰も見てない状況になった所で、レッドは頭を抱えた。窓の方をちらと見た。窓から抜け出してしまうおうかなんて言う突拍子もない考えが一瞬だけ浮かんで、そして呆気なく消滅した。
     レッドは先程考えていた作戦の一つを思い出していた。部屋の中にタウンマップがもしあったら……。
     レッドは首を左右に振り回し振り回し、必死の形相になってタウンマップがどこかにないか探した。飾ってあれば話題に出しやすくなる。
     全然見つからない。立ち上がって探そうか。いや駄目だ。音で部屋中を彷徨っているのがバレる。聞こえないか。いや微妙だ!
     結局レッドが探し当てる前にトイレを流す音が聞こえてきた。トイレの水は尿だけでなく、彼の希望すら容赦なく下水管に流していった。
     グリーンの姉が部屋のドアを開ける。有力だった作戦が一つ潰れた。レッドは激しく動揺した。「うわあああ」と大声で叫んだ。勿論心の中で。
     

     どうする。どうする。
     残っている作戦は何だ。
     グリーンと出会ったことにして、「そういえばグリーンってタウンマップ持っていましたね」って言う作戦はまだ残っている。
     しかしレッドはここへきて、この作戦には大きな穴が空いていることに気が付きはっとなった。
     グリーン出会ったという嘘はバレる可能性がある。
     グリーンが家を出ていったのは二時間以上前のこと。(彼はその二時間の間、グリーンの家の前に立っていた)。
     二時間前に家を出たグリーンとすれ違ったって言ったら、確実に時系列に違和感を抱くだろう。二時間の間何やっていたの? って聞かれてもおかしくない。聞かれたら自分は黙っているしかない。
     駄目だ。この作戦はあまりにも危険が伴う。猛獣が行き交うジャングルに自ら飛び込むようなものだ。


     手元のカードが全てなくなったデュエリストの気分を味わっていると、
    「そう言えばさあ」
     グリーンの姉が新たな話題を振り始める。今度は何だろう。
     「じっちゃんからポケモン、何貰ったの?」
     じっちゃん=オーキドから最初に貰えるポケモンは何選んだのか、ということを聞いてきた。この話題はいつか振られるんじゃないか、とレッドも予想していた。
     本当はこんなことしている場合ではないが、断る的確な理由等もなく、仕方がないとレッドはボールからフシギダネを出した。うわーかわいい、という女性のステレオタイプな叫び声をグリーンの姉はあげた。 
     そんな様子のグリーンの姉を見ながら、半分以上諦めた頭でぼんやりと考える。一か八か帰り際に、ニビシティってどっちでしたっけ? って、唐突につぶやいてみようか。ワザと別の方角を指差しながら。そっちじゃないよって突っ込まれるだろうから、そこからタウンマップの話に繋げるなんてどうだろう。
     駄目かなあ。ニビシティの方角を知らないなんて常識外れすぎるかなあ。
     フシギダネをせっかく出しているわけだから、フシギダネから話を繋げられないか。ふしぎだね、くさたいぷ、たまむしじむ。 
     タマムシティってどこですかって、聞いてみるのはどうだろう。マサラから離れた町なら、どこにあるのか知らなくても違和感はない。
     しかしこの方法には、相応のコミュニケーション能力が必要となってくる。フシギダネの話からタマムシシティまで繋げられる自信が、彼にはなかった。
     どうやってもタウンマップは貰えない。これは詰みである。彼の敗北であると思われた。




    「あ」

     


     グリーンの姉は、突然「あ」と言った。
     この「あ」は、何かに気がついたときに出てくるタイプのものだ。何かと何かの因果関係を理解したときに、無意識に口から出てくるものだ。
     この手の「あ」には大きく分けて二種類のものが存在する。焦りが感じられるようなものと、そうでないもの。
     グリーンの姉が今放った「あ」は後者であった。
    「そういえばグリーンってヒトカゲを選んでたけど、そういうことだったのね。あなたに勝ちたいから、フシギダネに強い炎タイプを選んだのね」
    「……はあ」
     次の瞬間彼の元に幸せの青い鳥が飛んでくる。世界観的には幸せの青いチルットの方が適切ではあろうが、この際そんなことはどうでも良い。
    「グリーンってさあ」
    「はい」
    「タウンマップ、貸してあげないって言っていたでしょ」
     レッドが心の深淵から求めていたワードが、彼女の口から飛び出してきた瞬間だった。


    (もう少しでこの小説は終わります。彼の長々とした葛藤にお付き合い頂きありがとうございました。お疲れ様でした)

     
    「あの、すいません」
    「どうしたの?」
    「良ければなんですけど、自分にも、その、タウンマップ貸してくれあげたりしませんかね」
     日本語があからさまに変になったが、自意識過剰のレベルだけなら既にチャンピオンクラスのレッドは、ついに「お願い」を言うことができた。
    「勿論いいよ。私も、貸した方がいいのかなって思ってたし」
    「ありがとうございます!」
    「図鑑完成頑張ってね」
     立ち上がって丁重に、とても丁重にレッドは頭を下げる。
     これまでレッドは、数々のグリーンの意地悪を受けてきた。そんなグリーンの言動に対して、レッドは生まれて始めて感謝をした。
    まさかグリーンの言葉がきっかけで、旅立って始めての壁を乗り越えることができるとは、思ってもみなかった。ありがとう、グリーン。


     家から脱出したレッドは、今日の日を思い返す。タウンマップ一つ貰うのに波乱万丈であった。とても疲れた一日だった。
     しかしこんなことで一々うだうだ悩んでいて、これから先大丈夫なんだろうか、彼はそう不安に思った。
     だが同時に、こんなことも思う。
     これから先出会う人は、全く知らない人達だ。そういう人達相手ならきっと自分は、あまり気を使わずに接することができる。
     旅の恥はかき捨て。そんな言葉もある。
    「一期一会の付き合いスキル」に関しては、自分はまだまだ未知数なのだ。
     そう考えることにした。心の中では不安が台風の如く渦を巻いていたが、レッドは無理矢理こう考えて、不安から目を逸らそうとした。お前、さっき初対面のポケモンの目線気にしていただろ。そう言ったツッコミは聞こえない振りをした。
     レッドはマサラタウンを抜け出した。眼前に続く広大な草むらを見つめながら、またここを通るのかと溜息を付きながら歩いていった。 
     あー、あのフレンドリィーショップのおじさんのような、軽々しく人にお願いできるぶてぶてしさがあればなあ。


      [No.3975] レベルの基準 投稿者:逆行   投稿日:2017/01/14(Sat) 15:43:21     69clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    Q.モンスターボールは何をすることができる 道具でしょう
    1.ポケモンをつかまえる 2.ポケモンをこうげきできる 3.ポケモンをふやせる 4.ポケモンを料理できる

    Q.ピカチュウは進化すると何になりますか
    1.れいぞうこ 2.チャーハン 3.ライチュウ 4.えのきだけ

    Q.次の中で、げんざい発見されているポケモンのタイプはどれでしょう。
    1.水タイプ 2.よく食べるタイプ 3.気が強いタイプ 4.てんねんタイプ

    Q.モンスターボールは体のどこでにぎりますか
    1.手 2.足 3.むね 4.また 5.体ではにぎらない

    Q.ガーディのあたまは何個あるでしょう。
    1.1個 2.2個3.3個 4.4個 5.ガーディには頭がない  

    Q.ブロスターのみずてっぽうをケンホロウが受けました。さて、どうなるでしょう
    1.ケンホロウはぬれる 2.ケンホロウはぬれない

    Q.進化ポケモンのイーブイは、進化する
    1.はい 2.いいえ

    Q.つぎの中で、ポケモンの体力をかいふくさせる道具はどれでしょう
    1.きずぐすり 2.しょうゆ3.カレーライス4.トイレットペーパー 5.ポケモンはかいふくしない

    Q.ポカブは何タイプでしょう(ヒント:ポカブは口から炎をはきます)
    1.炎タイプ2.水タイプ 3.草タイプ4.ポカブにはタイプがない 5.ポカブはそんざいしない

    Q.サイドンは進化すると何になりますか
    1.モサイドン 2.イサイドン 3.ドサイドン4.ヌサイドン 

    Q.ジムリーダーに勝つと何がもらえるでしょう
    1.ジムバッジ 2.土 3.水 4.ひりょう

    Q.ポケモンはりゃくしてなんというでしょう
    1.ポケモ 2.ケモン 3.ポ 4.ポケモンはりゃくさない

    Q.次の○に入る文字を答えなさい。(ヒント:パンチ系のポケモンのわざです)
    かみなりパ○チ

    Q.ディグダのせいそく地は次のうちどこでしょう
    1.ディグダの穴 2.無人発電所 3.トキワの森 4.ディグダのせいそく地はふめい

    Q.次のうち、ポケモンはどれでしょう
    1.オーキド博士 2.キモリ 3.マンホール 4.木

    Q.ウリムーは氷タイプのわざを使いますが、他のタイプのわざも使うでしょうか
    1.はい 2.いいえ

    ※読者のみんなも解いてみよう!





     最後の問題を解き終え、光輝はシャーペンを机上に転がした。ノートなんかを挟むときに使う、シャーペンの上についたクリップは、昨日輪ゴムを装着して遊んでいたら折れてしまってもうない。クリップは転がっていくシャーペンを止める役割も果たすのだが、今はそれがないので、机の角まで辿り着いてようやく停止した。落石を既の所で逃れたシャーペンを再び光輝は持って、筆箱の中へ入れた。もうこいつは使わないという宣言である。
     テストの時間はまだ三十分も残っていた。少年時代の長い三十分を、どう潰そうか思案する。スマホを出す訳には勿論いかないし、読書も禁止されている。シャーペンを改造しようとも考えたが、三ヶ月前のテストで隣の席の前田君がシャーペンを分解していたら、先生から長い定規で頭を叩かれていたのを思い出した。
     やはり自分のテストの答えが本当に正しいのか、見直しをするべきか。しかし光輝は、自分の答案用紙に欠陥があるとはどうしても思えなかった。こんな容易な問題なら、うっかりミスすらしてないだろう。
     テスト終了まで後二十五分。こういうとき、時計の分針は遅くなっているんじゃないかと、光輝は思っていた。他の人はテスト中なるべく時間が欲しいと思うだろうから、時計の針は皆のために協力してくれているんじゃないかと。しかし秒針の方の速度は変わっているようには見えないし、一体どういうことだろうか。

     
     結局薬局放送局光輝は、妄想で暇を潰すことにした。誰からも文句を言われないし、想像力も0.5%くらい上がる筈なのでこれが一番良い。
    「テスト中はうろうろしない」と赤いチョークで書かれた黒板の隣には、この学校の校歌が掘られた所謂校歌板というものがあった。光輝は一番前の 席に座っており、故にその校歌の一つ一つの文字がよく見えた。
     光輝はその校歌板をまじまじと見つめた。そして校歌の文字の隙間を、ポケモンのバチュルが通り抜けて先へ進んでいくという様子を想像して楽しんだ。バチュルはポケモンの中で最も小さいと言われており、この手の妄想をする際には欠かせない存在である。
    「川」の字の棒を一本一本、バチュルは健気にジャンプして渡って行く。続いて「祖」という漢字もクリアし、次の「朝」もその次の「見」も難なくクリア。無事校歌番の端まで辿り着いてハッピーエンドを迎えられるか否かは、全て光輝の匙加減である。橋まで辿り着いたバチュルにどんな恩恵が与えられるのかも、同じく匙加減。それでも、この遊びは結構楽しめる。彼は、誰から教わったという訳でもなく、こういう妄想遊びを、物心ついたときからやっていた。
     バチュルが「力」という漢字を渡ろうとしていたそのとき、テスト終了を告げるチャイムが鳴った。「疲れたー」「難しかったー」という声が、教室の至る所から湧き水のごとく出現する。先生が「はい、まだ喋らない」と言って湧き水の穴を塞いでいく。彼の脳内でスーパーマリオよろしくの活躍をしていたバチュルは、チャイムと同時に足を滑らせて落下した。やがて「ペチャ」という卑猥な効果音と共に床に叩きつけられ、広辞苑の二番目に乗っている方の意味の戦闘不能となった。




     一言で表すならこの町は中途半端な田舎であった。山の頂上から町を見渡すと、田や畑が多いのが分かる。青々とした稲が一列に並び、陽光から栄養を頂戴し健気に身長を伸ばしている。『世界に一つだけの花』のAメロをバックにかけたら映えそうな光景である。道はアスファルトでしっかり舗装されてはいるが、横幅が極めて窮屈であり、トラックを運転する者は多少なりとも緊張を要する。電車は本数こそ少ないがちゃんと運行しており、都会に稼ぎに行く者をしっかりと導いている。会社から帰宅するとき、最寄り駅が近づくにつれ、どんどん車内は空いていくという。地下鉄は全く走っていない。駅付近では、広大な駐車場を保有した大型スーパーが、ドヤ顔を浮かべつつ胸を張って聳え立つ。  
     ポケモンセンターは一応存在するが、利用者はとても少ない。フレンドリーショップは、センターと複合されているのが現在の主流であるが、この町は未だそうなっておらず、少し離れた所に個別に構えている。ここのフレンドリーショップの店員は、全然フレンドリーではないと有名である。客が棚からボールを大量に床に落としても、大体は素知らぬ顔をする。また、道具を売れるという、大方のトレーナーに取っては当たり前であろうサービスを全くやっていない。
     そして、これが中途半端な田舎最大の特長であるが、パチンコ屋がアホみたいな数存在する。ポケモンセンターの隣にもパチンコ屋がある。ポケモンを回復させる役割を果たすセンターと、人間を消耗させる役割を果たすパチンコ屋が並んでいる光景は、中々にシュールであると感じさせる。

     
     この、中途半端な田舎のド真ん中(だが駅からは遠い)。そこには、トレーナーズスクールと呼ばれる学校があった。
     読んで字の如く、トレーナーになるための基礎知識を学ぶための場である。一般的な学校の方でも、ポケモンに関する授業はやる。だが、算数や国語と言った、基本的教養を身につけるための授業の方がメインだ。ポケモン関連の授業はデザートを食べる感覚で気楽に行われている。
     対してここでは非常に偏った内容の授業が行われている。授業のスケジュールは、ポケモンとは何かを教えられる座学やバトルの実技などで埋められる。
     トレーナーズスクールを上位の成績で卒業すると、様々な恩恵が得られる。助成金を貰えるとか、ジムバッジを無条件で二つ、三つ獲得できるとか、桁違いに育てられたポケモンを授与されるとか、その学校によって様々である。恩恵目当てで入学する者も一定数いる。
     だが、学校に通うというのは旅に出るのが遅れる、というデメリットもある。待ちきれず学校を中退し、旅に出てしまうトレーナーもいる。この手の生徒には大多数の教師は眉を顰めている。全校集会で中退する者を「悪い子」と言い放つ教師もいた。
    卒業してもトレーナーにならない者もいる。卒業したくても成績が悪くて進級できない者もいる。トレーナーになってから実力不足を痛感し、旅を中断してスクールに通い始める者もいる。一旦就職するものの、トレーナーになろうと思い立ってスクールに通う。しかし、痺れを切らして旅に出始める、という複雑怪奇なルートを辿っている者もいる。要するに十人十色であった。
     トレーナーズスクールは全国至る所に存在する訳ではない。周りを山で囲まれている村とか、誰も名前を知らないような小さい島とか、ドが付く程の田舎には見つからない。普通の学校の方は、どんな田舎でも一応あるけれども。
     ちなみに、この町を出て南の方角に進んでいくと、正真正銘のド田舎の村があったのだが、五年前まではここにはトレーナーズスクールがあった。が、この村はまず子供が少ない上に、トレーナーを目指すという文化もあまり根付いていない。通う子供は次第に減っていき、遂には生徒数が一人となってしまった。これでは『トレーナーズスクール』ではなく『トレーナースクール』と呼ぶべきであろう。結局、それからすぐに廃校となってしまった。挙句この村は去年ダムに沈んだ。


     それはそれとして、話を戻す。
     光輝は、この学校で圧倒的トップの成績を納めていた。彼の年は現在十二歳。ここのトレーナーズスクールは、最速二十五歳で卒業できるので、後十三年勉強する必要がある。
     この学校は非常に卒業者が少なく、年に一人いれば良い方である。昨年に関しては一人もおらず、卒業式は開催されず校長がハゲ散らかした。トレーナーズスクールは中退するのが普通という感じで、子供達の親は将来を見積もっていた。中退後は普通の学校に入り直すのが一般ルートだった。
     光輝は中退などせずこのまま卒業するつもりであった。二十五歳でバッチ集めを開始するというのは、ちょっと遅すぎるんじゃないかという感覚はあった。だがしかし、トレーナーの世界は厳しいということは朝礼の校長先生の話で幾度も出てきたし、また光輝自身も、まだまだ勉強しないといけないことが山程あると痛感していた。何しろ、野性のポケモンがわんさかいる危険な場所に出向く訳である。ポケモンと人間は互角に戦えない。例えレベル一のポケモンでも人間は殺られる。だから、二十五歳でも決して遅くないのかもしれない。
     ポケモンに背中を狙われたらどうしようか、光輝は著しく不安に思っていた。自分の視界内に出現したらなら何とか対処できそうだが、背後から角を向けて突進してきた場合、あるいは上空から鋭利な嘴を光らせつつ襲ってきた場合、どうやって撃退すればよいのだろう。背中や頭上にでもボールを仕込んでおくのか。ポケモンは勝手にボールから出てくれるだろうか。そういうことも、いずれ教わるものなのだろう。教わるまで、旅には出ない方が良い。
     

     森は静寂で満たされていた。赤茶けた地面には大量の葉が撒き散らされ、時折風が吹いて落ち葉は宙に舞う。木々には大量にコクーンがぶら下がっており、しかも、彼らはいつ一斉進化してもおかしくない状態となっていた。
     そんな鬱蒼とした森の中を彼は独りで彷徨い歩いていた。出口を必死に探しているが見つからず、パニックになる気持ちを収めるべく、パートナーの入ったボールを強く握りしめている。新品であった筈のズボンは既にボロボロとなっていた。枝が刺さって穴が開き、水たまりに転落してずぶ濡れになっていた。
     彼はようやく、森に差し込んでいる光の出先を発見した。彼は涙を零すほど喜び、走ってその出口まで向かった。その時、落葉に隠れた蔦に躓いて本日二度目の転倒をした。足元に注意が全くいってなかった自分を恥じつつ、ズボンに付着した口をはろって顔を上げる。そこには、見たこともない悍ましい生物がいた。
     薄黄色く細長い体。恐らく腹にあたる部分はどっぷりとしており、両端からまるで手のような葉が二枚装着している。後ろにはこれまた黄色の尻尾が生えていた。ここだけ見るとなんともなさそうだが、このポケモンの一番の特長は、体の上部にある日本の牙が備えられた巨大な口である。おおよそ一人の人間なんぞ、たやすく飲み込めてしまうであろう大きさであった。
     彼は、恐怖を感じ、青ざめ、震える足を、なんとか動かして懸命に逃げた。しかしその化け物が放出させた蔓に簡単に捕らえられた。
     人間は泣きながら必死に膝の位置に付けててあったボールに手を伸ばすが、あいにく届きそうにない。化け物の口の中には胃液が詰まっており、それを見た瞬間彼は叫んだが、あいにくそれを聞いて助けに駆けつけてくれる者はいなかった。この化け物の口の中は、常に空っぽであると彼は今まで想像していた。
     胃液の生暖かい感触を、足に感じた。それが最後であった。実に呆気無ない。彼にはやり残したことしかなかった。


     翌週テストが返却された。
    「そうかーガーディの頭は一つかー。三つかと思った」
    「それはドードーだろ。ガーディは一つに決まってんじゃん」
    「モンスターボールって股で握るものじゃないの?」
    「あれ股じゃなかったっけ」
    「自分も股だと思った」
    「じゃあ股でも本当は合ってるのかもね」
    「男は股で握って女は胸で握るのか正しい回答だと思う」
    「オーキド博士ってポケモンじゃなかったっけ?」
    「違うよ。オーキド博士はカントーにある町だよ」
    「そうだ間違えた。チャーハンに進化するのはドガースの方だった」
    「イーブイって、もう進化しているから『進化ポケモン』なんじゃないっけ」
    「ポカブって存在するの?」
     放課後、光輝は答案用紙を持ちながら周りで繰り広げられる会話を聞いて、間違いを指摘したかったがめんどくさいので止めておいためた。
    一問も間違いのない答案用紙をささっと机にしまい、光輝は下校した。

     




     光輝の両親は学校での勉強について、殆ど彼と話をすることがなかった。光輝が優等生であることは一応知っていたが、そのことについて特に胸を張っておらず、ご近所との井戸端会議で自慢するようなこともやらなかったし、華々しい将来を夢想することすらしなかった。 
     光輝は学期終わりにオール五の成績表を母に必ず見せようとしたが、しかし「置いておくね」と言って、成績表の端と机の端を合わせて置き、二階の自部屋からリビングに降りてくると、毎度の如く成績表は全く同じ場所にあるのであった。
     入学して初めての成績表は流石に一瞥はした。父親は先生が記した備考欄を読んで、「何が書いてあるのかさっぱり分からない」とぼやいて、水の入ったグラスに焼酎を入れ始めた。母親は成績表に赤字がないことのみを確認して、スマホを手に取って「やっぱり電波が悪い」と呟いた。
     母はトレーナーズスクールではない、普通の学校に通っていた。その当時の彼女の成績は頗る悪く、五段階評価で最下の「一」ばかりを取得していた。「一」だと数字が赤字になるものだから彼女は成績表の赤い字がトラウマになっていた。
     一方で父は光輝と同じトレーナーズスクールに通っていたが、五年ほどで中退してしまった。中退自体はよくあることであるが、彼が常軌を逸しているのは、その後普通の学校に入学せず、そして旅にも出ず、家に只管引き篭っていたということだ。旅に出ているという名目にしておけば学校の授業は免除される、という仕組みを利用したあまりにも愚盲な行為である。
     そんな親子から、絵に描いたような優等生が育ったのは、決して光輝が彼らを反面教師とし、胸に抱いた反骨精神を武器にして机に齧りついたからではなく、優秀なトレーナーになりたいというストレートな気持ちがあったからであった。


     また光輝には、年が六つ上の姉も存在した。姉はこの町出身としてはかなり珍しく、大学生であった。
    彼女が通う大学はカントーにあって、タマムシ商業大学という名であった。タマムシ商業大学を略すと「タマ大」となり、カントーで最もレベルの高い大学と謳われているタマムシ大学も略すと「タマ大」になることから、よく姉は「うちの大学はあの有名なタマ大なんだよ」、という冗談を言っていた。彼女だけでなく、この種の冗談は全国の大学生が連発している定番のものであり、時にはこのレベルのギャグを芸人が放つこともある。
     他にも、略すと「タマ大」になる大学名はいくつか存在していた。例えば、タマタマ大学も「タマダイ」になるし、ホウエン地方にあるアメタマ大学も略すと「タマ大」になる。後は、ハナダシティのゴールデンボールブリッジの傍にある金の玉橋大学も略すと「タマ大」になる。こちらは「金の玉大」とも略されるので、輝いている分本家のタマ大よりも上等と言われることがある。



     姉は現在帰郷してきていた。三日前に電車に長時間揺られて家までやってきたのだ。
     彼女は大学で心理学を勉強しているようで、机の上には「ポリゴンでも分かる心理学入門」という本が置かれていた。電車の中で時間を潰すためにこの本だけ持ってきたと思われる。
     母が全くテストの結果に興味を示さないので、変わりに光輝は姉に見せた。テストの問題を見た彼女は簡単過ぎてつまらないと言った。光輝はそれに同調して頷いた。姉はトレーナーやポケモンに関する本やテレビ番組は全く興味を示さない人だったが、それでも半分くらいの問題は解けるとのことだった。問題文の文脈とかから、だいたい答えが推測できるらしい。
     



    「じゃあ今から、ボールからポケモンを出して」
     翌日、ポケモンバトルの練習をする授業があった。光輝はその授業で、バトルがクラスで一番できない子にワンツーマンで教えることになった。なんでこんなこと、と思ったが、先生から言われたことだったので仕方がなかった。
    「え、何?」
    「え、じゃなくて、ポケモンを出すの」
     だが、彼が教えている女の子はさっきから全く彼の言っていることを理解せずに変なことばかりやっていた。仕方なく彼は、まずポケモンをボールから出す所から教えることにした。
    「ポケモン持ってるでしょ。その仔をボールから出した」
    「あー、分かった」
     するとその子は、突然どこかへ行ってしまった。彼は慌てて呼び込めたが、止まらなかった。
    しばらくして、彼女は戻ってきた。何故か手には、サッカーボールが握られていた
    「じゃあ今からポケモン出すね」
     女の子は、サッカーボールを何故か叩き始めていた。
    「あれ、出てこないよ」
    「だいぶ違うことやってる。ボールってサッカーボールのことじゃなくて、モンスターボールのこと。ごめん、略した自分が悪かった」
    「あーそういうことか」
     すると今度は、彼女はサッカーボールを光輝のハリマロンの傍に置いた。ハリマロンは激しく困惑している。
    「ええと、うん。それだと、『モンスターボール』じゃなくて『モンスターとボール』だから」
    「えー分かんない」
    「腰につけてるボールをそれから出すの」
     彼女は首を傾げながら、光輝の腰についたボールを触っていた。
    「違う違う。自分の腰についてる方」
    「あっこっちか」
    「後、モンスターボールは触るだけじゃなくて、ちゃんと腰から外して」
     数分後、彼女はようやく自分の腰についたボールを取り外して、握ることができた。
    「握れたね。じゃあ、今から君のコラッタに指示を出して」
    「指示?」
    「そう指示。技名を言って」
    「技名?」
    「このコラッタって何覚えている」
    「私のことなら覚えてる」
    「違くて、技は何覚えているかって話」
    「技って何?」
    「いいや。とりあえず、『しっぽをふる』を命令して」
    「光輝! しっぽをふる!」
    「自分じゃなくてコラッタに命令して」
    「『自分じゃなくてコラッタ』! しっぽをふる!」
    「『自分じゃなくてコラッタ』に命令するんじゃないよ。さすがにそれは分かるでしょ」
    「ごめん」
    「とにかく、早く尻尾振って」
    「えっ、私尻尾持ってないよ」
    「違う、コラッタに命令するの」
    「何を?」
    「だからしっぽをふる!」
    「コラッタ! 『だからしっぽをふる』!」
    「違う!」
     結局、言うことを全く理解しないまま、授業が終わってしまった。


     先程の授業から推測できることであるが、このトレーナーズスクールの生徒には一匹ずつポケモンが配布されている。中退して旅立つときはそのポケモンをパートナーにそのまますることが大半であった。貰えるポケモンは完全にランダムで、成績順に良いポケモンが与えられるとか、そんなことは全くない。成績で誰を回すかを決めるのは合理的なようにも思われるが、成績の悪い子が更に悪くなるという二極化を引きおこす。また、最強のポケモンは誰か、と幾度となく生徒から質問を受けると、教師は決まって「本当に強いポケモンはいない」、言っており、その教えからも反してしまうことにもなる。
     くじ引きで決めていると公表しながら、実は成績の良い順に強いポケモンが渡されている、という学校も一部存在した。その方ができる子が更に自信を持てるようになり、将来世界を動かすようなトレーナーになる可能性がある、という考えの元からであった。けれども、そういう学校はだいたいネットとかで発覚して晒されることが多いから、最近はかなり少なくなった。


     光輝の元には非常に強いポケモンが回されたが、恐らく偶然である。彼に次いで成績が良い子には、言うことを聞きにくいクチートが渡されたことから分かる。先月ポケモンセンターで彼のハリマロンを計測したところ、この毬栗ポケモンは既にレベル八十を超えているらしい。ポケモンのレベルは上限が百なので、相当高い方ということになる。
     ハリマロンが蔓を相手に叩きつけるとあまりの痛みに敵は悲鳴を上げる。体当たりは相手を遠くまで吹っ飛ばせるし、鳴き声を発しただけで攻撃力を下げさせるという特殊な能力も備えていた。耐久力もあって、どんなに強力な攻撃でも一、ニ発で沈むことなんて一度もなかった。
     だが。
     光輝は何かが異常であると思っていた。ハリマロンは、何時まで経っても進化を遂げなかったのである。ポケモンはレベルが上がると例外なく進化する筈なのに、このハリマロンはその兆しすら見せることはない。ハリマロンが何レベルで進化するのかは知らないが、もうレベル上限の半分以上まで到達したのだから、いい加減そのときが来ても良い気がする。
     進化しないのは彼のポケモンだけではなかった。ハリマロンと毎度のごとく互角に戦っている、高木という子のズバットも全然進化しない。高木は早く進化させたくて多めに餌をやっているみたいだが、ズバットが太っていくだけで全く効果がない。唯一進化を遂げたのは新井のキャタピーだけであった。キャタピーは体が固い蛹へと進化を遂げた。そこまで強くはないけれども。
     このことに疑問を抱いているのは光輝だけであった。同級生の多くは「ポケモンはレベルが上がると進化する」ということすら正確に理解していないので、そこをおかしいと思う余裕などないのである。だから無駄に餌をやったりしている。
     残念ながら彼は、ポケモンの進化について詳しく書かれている教科書や資料集を持っておらず、また図書室で探しても見つからなかった。彼が持っているのは、身の回りにあるもののどれがポケモンでどれがポケモンでないかが書かれた資料集とか、そのレベルのものぐらいであった。その資料集には冷蔵庫はポケモンじゃないがピチューはポケモンである、のようなことが延々と淡々と書かれていた。
     図書室の一番奥の書棚に置かれていた、ホコリまみれになっていた資料集の僅か一ページにのみ、「ちょっと先へ進んだ話」という見出しで、進化に関することが少しだけ記されていた。内容は本当に触りだけという感じで、「ハリマロンはレベル○○で進化します」、なんてことは書かれている気配すらなかった。

     
     ある日のこと。光輝はとあるテレビアニメを観ている最中、とある発見をしたのである。
     このアニメの主人公は色々な地方を旅している。一つの地方でバッジを八個しっかりと集めて、その後地方リーグで上位まで行く。しかしリーグ後次の地方に行くと、初心者トレーナーに呆気なく負けたりするのである。ポケモンは、前の地方で使っていたものと変わりない。
     負けて悔しそうにする主人公の様子を見て、光輝の頭上に豆電球が光った。ポケモンの強さの基準って、地域ごとに違うのかもしれない。この学校、下手したらこの地方でハリマロンは一番強い。けれども、別の地方、別の町でバトルをすれば、呆気なく負けてしまうこともあるんじゃないか。ハリマロンのレベルは現在八十。それは、この町のレベルの平均を五十にしたからそうなるだけ。他の地方の基準ならもっと低い。
     この説が正しければ、ハリマロンがレベル八十にも関わらず進化しないのも納得がいく。しかしレベルって、そんな町ごとに基準が変わって良いものなのだろうか。




     翌日彼は思い立った。思い切って行動した。この町の北側にある、野性のポケモンがたくさんいる森の中に入ろうと思った。そして野性のポケモンとバトルしようと企んだ。勿論森の中心部になんていかない。少し入り込むだけである。
     危なくなったら、即ハリマロンをボールに戻す。そして森からさっと抜け出す。逃げるときのイメージトレーニングを、夜布団の中で眠りに落ちるまで繰り返した。ハリマロンが、一撃でも喰らったら逃げる。例え勝てそうでも逃げる。何度もそう自分に言い聞かせた。
     家から出るとき、「お金ある?」と母に言われ、財布には小銭すらなかったので、千円札を一枚貰った。今日は特に使わないが、貰えるものは貰っておいた。光輝は普段お金をねだることはせず、親の方がお金があるかどうかを心配して時折、財布にいくら入ってくるか訪ねてくるのである。


     トレーナーになってこの町から旅立つ人は、この森から町を抜けることが多い。というのも、森を超えた先には直ぐにジムのある町が存在する。バッチを集める旅としては大変に効率が良い。そして更に、その町からちょっと歩いた先にある町にもジムがあるという、(この町の人にとっては)とても親切な地方構成となっている。
     旅立ってからいきなりポケモンがうじゃうじゃいる薄暗い森に行くというのは些か危険ではある。だがここさえ抜けてしまえば後はとっても楽だ。森のポケモンに襲われて死んだ人の話を、光輝は何回か耳にしたことはあった。森の入り口をスタートラインとする風潮に反対する人も多い。しかし、どの道危険な場所はいずれ攻略せねばならないし、どこからでもいいじゃないか、というかそう考えるなら旅になんか出るな、という声の方が少し多い。この件に関しては、この町の人達だけの意見の比率であって、他の町の人達は前者の考えに賛同する者の方が多いかもしれない。


     森の入口まで辿り着くものの、そこで光輝は足が止まってしまった。背徳感と恐怖感が、背中から足の裏までするりと撫でる。やっぱり引き返そうか迷った。危ない場所へ行こうとする自分を急に客観視してしまう。
     危ないことしないで帰って勉強しようか、もしくは今日貰った千円で駄菓子でも買ってようか、あるいは適当にぶらぶらしてようか等と、正論な逃げ道をいくつか思い浮かべた。そのときの、ことであった。たった今森から抜け出してきた、一人のトレーナーを発見したのである。
     このトレーナーの年齢は、彼よりも一歳か二歳上くらいの感じであった。トレーナーはこの町の様子を見て、間違った所に来てしまったと言わんばかりの苦笑いを浮かべた後、頭をポリポリと掻きながら、地図を広げつつ、再び森へ入ろうとしていた。光輝の存在には、気がついていなかった。
     そのとき、森から一匹のピジョンが飛び出してきて、光輝は驚きの声を上げてしまった。その声に反応して、トレーナーは彼の方を向いた。ピジョンは鳴きながら再び森の方へ引き返していき、こっちには近づいてこなかった。
     トレーナーと光輝は目があった。目と目が合ったらポケモンバトル。図書館の奥の書棚にあった埃を被っていた本に、そう書いてあったのを思い出した。これは、チャンスであると思った。思い切って、彼はバトルを申し込んだのである。とりあえず戦ってみたく思った。見た目で判断するのはいけないことだと思いつつ、そのトレーナーは決して強そうには見えなかったし、挑むことにさして勇気はいらなかった。いや、勇気はいたけれども、野性のポケモンに挑むよりは遥かに気が楽であった。
     唐突の申し込みであったが、トレーナーは唐突に申し込まれているのに慣れているので、特に顔色は変えずに了承してくれた。正直な所を言ってしまうと、こんなよく分からぬ田舎でよく分からぬ少年とバトルなんてしたくなかっただろう。今さっき森から抜け出して疲れている所でもあるし。
     

     相手はストライクというポケモンを繰り出した。このポケモンを光輝は知っており、ストライクが姿を表した瞬間彼ははにかんだ。資料集の確か百二十一ページに書いてあった。冷蔵庫と違ってストライクはポケモン。ストライクは名前が五文字。ストライクは緑色。そして、ストライクは虫タイプ。彼はストライクに関する様々な情報を知っていた。
     バトルが開始された。ストライクは腕に装着された二本の刃でハリマロンに襲い掛かってきた。
     そして、どうなったか。
     彼のハリマロンは手も足もでなかった。一方的な戦いだった。
     倒れたハリマロンをボールに戻したとき、そこで初めて、彼の予想は確信に変わった。 自分は優等生でもなんでもないことが、はっきりと分かった瞬間だった。
     ポケモンのレベルというのは、地方によって基準が違う。
     そして、バトルの知識も自分には全く足りない。
     それが、この実践で分かった。
     彼は別にショックではなかった。むしろこれで旅立つ理由が出来たのだ。
     トレーナーズスクールは中退することに決めた。二十五歳までまじめにあそこの授業を受けても、立派なトレーナーにはなれないと悟った。


     バトルに負けたら勝った相手に賞金を渡さないといけない、という暗黙の了解がやがて公式となったルールがある。だから、光輝はお金を渡さないといけない。光輝はお金がない、と一瞬焦ったが、本日新たに千円札が財布に追加されていたのを思い出し、安堵した。
     賞金を渡さないといけないことは学校の授業で教えて貰えてなかったが、この間、賞金を支払わずに逃げ出すトレーナーが相次いでいる、という話を、たまたま朝のニュース番組で耳にしたので知っていた。
     財布を開く。小銭を入れる部分は空っぽであった。彼の財布にはぽっきり千円札しかない。
     負けて支払う賞金の額は、現在の持ち金の半分なのが標準的。
     千円あれば五百円を相手に支払うのが普通だ。
     もう一度言うが、彼の財布には千円”札”しかない。
     光輝は二つに折り曲げて入れてあった千円札を一旦広げて、今度は逆に折った。また広げて、折り目をじっと見つめていた。そして。
     その様子を見ていたトレーナーは、次の瞬間目を見開いた。予想もしていなかった彼の行動を見た。
     光輝は、たった今一枚しかない千円札を丁度半分に切ったのだ。
     そして切った半分を、トレーナーに渡した。「これ、負けたから賞金です」。笑みを作ってそう言った。
     自分が取り返しのつかない行為をしたことを、彼はまだ知らない。


    「その青いボールって何?」
     二人はその後、森から少し離れ。ベンチで座って話をした。先程の奇妙な行いを見たトレーナーは光輝に興味が湧いたので、自分の方から誘ってみたのである。
    「これはスーパーボール。モンスターボールよりも性能がいいものだよ。ポケモンが捕まえやすくなるんだ」
    「モンスターボールより性能が良いなら、『スーパーモンスターボール』って名前が正しいんじゃないの。あるいは、モンスターボールの方をスーパーボールの方に合わせて『ノーマルボール』とかにしないと」
    「そんなことに突っ込むのは君が始めてだ」
    「この道具は何?」
    「これはいいつりざおって言って、ボロのつりざおよりもレベルの高い水ポケモンを釣りやすくなって釣り竿」
    「いいつりざおとボロのつりざおがあるの」
    「そう。後すごいつりざおっていう更にすごいのもあるよ」
    「普通のつりざおは」
    「ない」
    「『ボロ』の次が『いい』なの。ずいぶん飛んだね」
    「確かに、言われてみると差がありすぎる気がする」
    「ボロのつりざおって新品でもボロなの?」
    「うん」
    「中古ってこと?」
    「違う」
    「よくわからない。じゃあ、『ボロのきずぐすり』ってないの?」
    「ないよ。きずぐすりがボロいのはシャレにならないから」


     光輝は、トレーナーの少しの間話した後、夕日が沈みそうなのを見て、トレーナーの方が空気を読んで話を切り上げて森へと帰っていった。
     結局、賞金は渡さなくても良いことになった。破れたお札しか持っていないなら所持金はゼロということになるから、トレーナーの情けとかではなくてルールー的にそうなる。お札は、二つに割るともう使えなくなってしまう。千円札しか持っていないときにバトルで負けたら、まず両替してこないといけない。
     光輝は、森に危険なポケモンがいることについて、改めて悩んだ。さっき自分は森に入らなくても、ピジョンが出てきただけで怯えてしまった。見たことのあるポッポより少し大きいだけの存在ごときで、自分の体がここまで反応してしまうなんて思ってもみなかった。
     やっぱり止めようか。トレーナーズスクールで得るものがなくても自分で勉強すればいいじゃないかという考えが、ここにきて出現した。 
     様々な不安が脳裏を駆け巡る。後ろからポケモンが出現したらどうやって逃げるんだろうか。ポケモンは勝手にボールから出てくれるんだろうか。
     けれども同時に思う。やっぱりこういうふうにレベルの低い場所で、一番になってもしょうがないんじゃないのかと。もっとレベルの高い所で、争わないといけない。
     だから、この中途半端な田舎から、本当は出ることが正しいのだろうと。この中途半端な田舎にいたって、いつまでたっても中途半端な状況にしかならない。
     彼は毎晩毎晩、旅に出るか悩んでいた。
     そして。

     数日後の朝。彼は、バラエティに富む様々なものをリュックに収めていた。
     モンスターボールは十個入れた。きずぐすりは多めに十五個用意した。どくけしは一個だけ。
     ポケモンに出会ったとき直ぐ逃げられるよう、あなぬけのひもを二本集めた。これも、リュックの奥の方に入れておく。
     ハリマロンには、きあいのハチマキを持たせておいた。この道具を持てば、どんな強力な攻撃を受けても、必ず一撃だけは堪えることができる。遥かに強いポケモンに出会ったとき、これで時間稼ぎをすることができる。
     それでも戦闘不能になってしまったときのために、以前福引で手に入れた、でかいきんのたまもリュックに入れておいた。これがあれば、きっと大丈夫だ。


     旅立つとしたらポケモンに襲われるという危険が伴うわけで、やっぱりそれは、どうしも気がかりであった。危険を回避するためには、十分は知識があった方がいいのは分かっていた。トレーナーの人達は十分な知識と経験があるから、危機回避がちゃんとできている。
     けれども、光輝は決意を固めた。
     彼は、襲われてもよい、と思うことにした。襲われてもよいなんて考えるのは、異常なことのような気がするけれども、それぐらいの決心があるということだ。旅に出ると、危険がいっぱいあるけれども、どっちにしろ、いつかは危険な目にあうのだから、一緒だ。そんなことに怯えていては、いつまで立ってもここから抜け出せない。いつまで立っても下積みのままだ。だから、襲われてもいい、喰われてもいい、って考えてみる。そうなったら諦めればいい。
     彼の姉はもうカントーに帰ってしまったし、彼の両親は彼が旅立つことについて何も言わなかった。干渉してこないのはいつものことだから、光輝はそんな両親について何も思わなかった。


     こうして彼は旅立った。意気揚々とした自分を作って町から抜け出した。かなり足が竦んでいたけれども、なんとか抜け出すことができた。
     怖かったので、本当は走って抜け出したかった。だがそんなことをしたら逆効果であることがはっきりと分かっていた。だから、ゆっくりとゆっくりと、彼は歩いていった。
     彼が森に入ったそのときの、丁度同時刻のことだった。鬱蒼とした森の奥では、一匹のポケモンがまるで誰かを待つようにそこに立っていた。その腹は大量の溶解液で埋められていた。



     


     


      [No.3974] 某月某日午前二時七分、とある山中の道にて・2016 投稿者:久方小風夜   投稿日:2016/12/23(Fri) 11:55:13     278clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:深夜徘徊】 【セルフパロディ】 【鳥居の向こう





     あれ? 君、こんな時間にこんなところでどうしたの? 道にでも迷った? どこ行きたいの? ……えっ?
     ……ふーん、そんなところに興味あるんだ。君、ちょっと変わってるねえ……。
     ま、いいや。そこなら僕も知ってるところだし、案内してあげるよ。ほら、こっちこっち。
     ん? ああ、ごめんごめん。いつものクセでね。ついつい強く引っ張っちゃった。大丈夫? 肩外れたり……はいくら何でもしてないか。まあいきなり腕引っ張っちゃったことは謝るよ。ごめんね。
     じゃあ行こうか。暗いから足元気をつけて。目的の場所までまだしばらくあるから、頑張ってね。


     そうだなあ。目的地まで黙って歩くのも何だし、少し話でもしようか。君も興味がないってわけじゃないと思う話だし。
     君はさ、「幽霊」って……

     ……え? 興味ない? あっ、そう……うん、わかった……。


     ……。
     …………。
     ………………………………。

     ……あ、あのさ、ちょっと聞いていいかな。

     君、さっきから、何でずっとその手の中の機械いじってるの?

     え? うん、それ。そのさっきから妙に光を放ってる平たい奴。
     スマホ? そうかスマホっていうのか。うん、ごめん、そういうの疎いんだ僕。いやそのガラケー派? とかそういう奴ってわけでもなくて……うん。
     で、そのスマホって奴で何をしてるの?

     ……うん? 『ぽけご』? 流行ってるの? 社会現象? へー……そうなんだ。

     ま、まあ何でもいいんだけどさ。この暗い山道をそれ見ながら歩くとさ、足元危ないと思うけど……。
     ん? ピカチュウ? いたの? どこに? この辺には住んでなかったと思うけど……。
     あ、画面の中? あー、そういうゲームなのか。なるほどね。

     しかし君も何でまたこんな深夜に?
     あ、仕事? 日中出歩く時間がない? そっか、大変だね……うん。おつかれさま。


     さて、ついつい長話……もあんまりしていないけど、さあ、着いたよ。ここが君の目指していた『鳥居』……

     ……あ、あれ? もういいの? え? 帰る? 何で? くぐらないの? 何しに来たの?
     あ……うん……。きをつけてかえってね……。

     ……本当に帰っちゃったよあの人……。



    +++


     
     あれ? 君、こんな時間にこんなところでどうしたの? 道にでも迷った? どこ行きたいの? ……えっ?

     ……あ、あのさー、つかぬ事を聞くけど、君も『ぽけご』って奴……

     そっか……君もか……。ううん、何でもない、こっちの話。
     そうだよね、そのスマホって奴いじりながら歩いてきた時点で嫌な予感はしてたんだよね。
     ま、まあいいや。行こうか。うん。
     くれぐれも足元には気をつけてね。うん。危ないから。


     ねえ、ちょっと聞いていい?
     君たちみたいな『ぽけご』やってる人たちってさ、何で揃いも揃って『鳥居』を目指してるの?

     ……『ぽけすとっぷ』?

     ボールや道具が手に入る? その場所の近くに行くと? あ……そういうこと。
     でも何でこんな場所にある『鳥居』が?
     誰かが登録した? いんぐれす? そんな目的で案内した人いたっけ? うーんちょっと覚えてないな……?
     あっ昼間かな? うんそうかも。それじゃ知らないな。
     ……あまりにもこんな時間に来る人が多いから昼間もあるって発想が浮かばなかったな。


     え? 帰る? 目的地までまだ距離あるけど……。
     何、GPSラグ? 届いたからもういい? 10キロ卵手に入った? うん、よくわかんないけど……よ、よかったね?
     あ……そう。うん……き、きをつけてかえってね……。



    +++



     あっ、君……君はスマホ持ってないね。うん、他の人みたいにスマホいじりながら歩いてない。

     で、君はどこ行きたいの? ……えっ?
     ……ふーん、そんなところに興味あるんだ。君、ちょっと変わってるねえ……。
     ま、いいや。そこなら僕も知ってるところだし、案内してあげるよ。ほら、こっちこっち。
     ん? ああ、ごめんごめん。いつものクセでね。ついつい強く引っ張っちゃった。大丈夫? 肩外れたり……はいくら何でもしてないか。まあいきなり腕引っ張っちゃったことは謝るよ。ごめんね。
     じゃあ行こうか。暗いから足元気をつけて。目的の場所までまだしばらくあるから、頑張ってね。


     そうだなあ。目的地まで黙って歩くのも何だし、少し話でもしようか。君も興味がないってわけじゃないと思う話だし。
     君はさ、「幽霊」って……

     ……え? 興味ない? あっ、そう……うん、わかった……。


     ……。
     …………。
     ………………………………。

     ……あ、あのさ、ちょっと聞いていいかな。

     さっきから君の胸ポケットで虹色の光を放ってる、モンスターボールっぽい色と形をしたものは何?

     ……え? 『ぽけごぷらす』? なにそれ?
     付属品? ボタン押すだけでポケモンや道具を回収?

     あっ……もしかして君もか。君もなのか。

     うん……いや、何でもない。うん、何でもないって。
     最近来る人来る人みんな『ぽけご』目的だからってがっかりしてないよ。してないってば。



    +++



     あー、うん、そっかー。君もかー。
     うん、おっけおっけー大丈夫。把握してる。そのスマホって奴持ってる時点で把握してる。
     はいはい、歩きスマホは気をつけてねー暗いからねー。
     こんな時間にひとりで徘徊するのは僕はお勧めしないんだけどねー現代人はみんな忙しいもんねーそうだよねー。


     うん? そう、君でもう案内するの何人目かな。面倒くさくて数えてないや。
     僕もねえ、別に鳥居へ連れていく案内役ってわけじゃないんだよ。僕はただふらふらふわふわ遊び漂ってるだけであって。
     最近人が急に増えて、誰も彼もそのスマホって奴を持ってるわけさ。そうだよみんな目的は一緒だよ。

     僕だってさ、僕の思ってる目的で『鳥居』を目指す人のために色々話すネタは考えてきてるんだよ。
     最近はアローラとかいう場所も流行ってるみたいだしね。興味深いよね。他の地方にはない風習もいっぱいあるしね。
     でもみんな聞いちゃいないからね。ほら君みたいにずっとスマホいじってる。

     え? ピカチュウがサンタ帽被ってる? 期間限定。? あっそうなんだーふーん。
     へー、写真撮れるんだ。現実の風景にポケモンが混ざるわけね。

     あ、ちょっと待ってやめて待って待って待って。
     ちょっと待って駄目だって! 僕にそのスマホとかいうの向けちゃ駄目だって! 見えちゃうから! そうやって囲まれると正体ばれちゃうから!
     「あれっシンオウはまだ配信されてないはずだけど」じゃないから! 違うから!  先行配信とかじゃないから!

     やめて! 画面の中の僕にボール投げないで! 違うから! ゲームじゃないから! 捕まらないから! 現実の僕には何もないんだけど何か気持ち悪いから!!



    +++



     君は……あー、えっと、こんな時間にこんなところでどうしたの? 道にでも迷った? どこ行きたいの? ……えっ?

     ……えーっと、ちょっといいかな? 先に確認していい?
     スマホ……持ってないね。ぷらす……もついてないね。

     あ、ねえ、ちょっとだけ聞いてもいい? うん、興味なかったらスルーしていいから。
     君はさ、「幽霊」っていると思う?
     ……あー、うん、ありがとう。その反応ありがとう。すごく嬉しい。

     うん、大丈夫。行こうか。
     あ、あのさ、目的地に着くまでちょっと話してもいい? えっとね、さっきみたいな幽霊とか、境界とか、民俗的なこととか。
     興味ある? そっか……そっか……うん、ありがとう……。

     ……あっ、やっぱりちょっと待って。

     うん、ごめん。ちょっとね、君みたいな人が来るの久々すぎて何か嬉しくなっちゃって。
     大丈夫泣いてない。でもちょっと待って。今ものすごくほっとしてて、ない腰が砕けそうだからちょっとだけ待って。

     そう、今年のある時期からものすごく多くてね。『ぽけご』とかいうのやってる人。
     ガラケー派? あ、そうなんだ。じゃあ『ぽけご』も……興味はあるけどできない、んだ。そっかぁ……。


     ……ねえ、あのさ。僕思うんだけど。
     いやまあ、僕が言うことでもないとは思うけど。


     現代人さ、もうちょっとちゃんと夜寝た方がいいんじゃない?





    ++++++
    「ポケGO徘徊している人にしか見えない」と言われたので


      [No.3771] 太陽の花 投稿者:キャンディミミック   投稿日:2015/06/10(Wed) 21:35:22     46clap [■この記事に拍手する] [Tweet]




    ※この作品は男が書いた♀同士の友情話です。



     昔々あるところに、ユキワラシとチュリネがいました。
     雪の多い北の土地に暮らす好奇心旺盛なユキワラシと、太陽が照らす暖かい南の土地に暮らす内向的なチュリネ。住んでる場所も性格も正反対な二匹だけれど、小さいころからずっと仲良し。
    雪の冷たさに驚く様子を笑ったり、雪国ではなかなか咲かない花を頭に飾ってあげたり、襲ってきたポケモンに噛みついて追い払ったユキワラシをチュリネが治してあげたり。時が過ぎユキメノコとドレディアに進化しても、二匹は仲良く過ごしていました。

     ある朝のこと。突然ドレディアがいなくなってしまいました。南の土地に住んでいる他の草ポケモン達に聞いても、誰も行方を知りません。当初は内気なドレディアのことだからそのうち帰ってくるだろうと思っていましたが、一日経ち、二日経ち、三日経ち、一週間が過ぎ、いてもたってもいられなくなって、行く先に心当たりなんてないけれど、ユキメノコは探しに飛び出しました。
     街へ行って、海へ行って、山を越えて、時には人間に捕まりそうになったり、グラエナに囲まれたりもしたけれど諦めません。どうしても会いたかったのです。

     住み慣れた土地から遠い遠いところにある療養地になっている静かな森で、やっとドレディアを見つけました。どうして急にいなくなったのとか、いない間ずっと寂しかったとか、恨みごとの一つでも言いたかったけれど、ここまでの道中で起きた出来事も話したかったけれど、痩せ細りすっかり色褪せてしまったドレディアを見て、ぎゅっと抱きしめることしかできませんでした。

     ドレディアはぽろぽろ涙を流しながら、観念したように話しはじめました。自分は命と共に色が抜け落ちてしまう病気になってしまったこと、命がもうすぐ尽きてしまうのだということ、こんな自分を見られたくなくて何も言わずに出ていったこと。それをずっと後悔していたことを。
     その日は久しぶりの再会を祝って食べて飲んで、いっぱい話して、いっぱい笑って。

     次の日。ユキメノコと同じくらい白く冷たくなったドレディアは、優しい陽射しをその身に受けて柔らかく微笑んでいました。まるで、会いに来るのを待っていたかのように。
     ユキメノコは声を上げて咽び泣きました。けれど、空っぽの彼女にはそれが愛だとは、ついにわかりませんでした。

     その後また雪の土地へ戻ってきたユキメノコは、生涯洞窟に籠り誰にも会わなかったといいます。
     氷壁に、純白のドレディアを閉じ込めて。


      [No.3770] Re: 人間の家庭とポケモンの家庭 投稿者:焼き肉   《URL》   投稿日:2015/06/07(Sun) 10:12:43     42clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    うわああああああコメントだけでなくイラストまで……! ありがとうございます! ありがとうございます!
    このドヤァって感じのサンドがそのままパンごと食ってやりたいくらいかわええです!
    モノクロなのがまたいい味出してるなあ。

    確かにネズミさんだから最終的には手持ち圧迫するほど増える可能性もなきにしもあらずですね。
    一応トレーナーがポケモンを使役するというのがあの世界の流れなんでしょうが、こういう場合はある種ポケモンの方が立場が上になってしまうわけですねそういえば。
    大人の階段登っちゃったポケモンの気持ちを後になって知るというのは子に親が教わるようで感慨深い。

    あいがるさん、コメント&イラスト本当にありがとうございます!


      [No.3769] 人間の家庭とポケモンの家庭 投稿者:あいがる   投稿日:2015/06/06(Sat) 20:42:07     66clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    人間の家庭とポケモンの家庭 (画像サイズ: 666×470 100kB)

    自分のポケモンが自分たちより先に家庭を持ってしまうと、トレーナー本人たちの人生観にも大きく影響を与えてしまいそうですね。
    トレーナーが子供を持つころには、おそらくサンドパンたちは孫の代までファミリーができてしまっていそうです。
    子育ての苦労が大人になって分かるように、ある程度トレーナー自身が成長して家庭を持ち様々な経験を積んで、そしてやっと手持ちのポケモンファミリーたちの心がよりよく分かってくる、と想像するとなんとも感動的な匂いがします。

    サンドのサンドイッチ、直球ですが、頭に浮かんだイメージがなかなか離れないので絵にして残しておきます。


      [No.3768] Re: 逃避行 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2015/06/05(Fri) 23:26:41     86clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    Re: 逃避行 (画像サイズ: 663×623 47kB)

    うっかりツイッターで発言した結果がこれだよ!!!!

    本当にツイッターに投稿した通りでワロタワロタ……。



    これはたかひなさんに見せなければなるまい。
    ちょっとたかひなさん呼んできますね…


      [No.3767] お宅のPCのセキュリティは大丈夫ですか? 投稿者:Ryo   投稿日:2015/06/05(Fri) 23:23:42     68clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    ところで君、今自宅のパソコン何使ってるんだっけ。え、未だにWindieXP?まさかそれで預かりシステムにアクセスとかしてないよね。あぁ、だめだめ、やめといたほうがいいよ絶対。新しいの買いなよ。え、知らないの?預かりシステムに古いパソコン使い続けてたベテラントレーナーの話。
    じゃあ話しとこうか。あのね、その人、家で使ってるWindieXPのサポートが切れてもずっと使ってたんだって。強いトレーナーだったから賞金には困らなかったみたいなんだけど、全部ポケモンを強くしたり捕まえたりすることに使ってて、パソコンは預かりシステムに繋がればなんでもいいやーって思ってたみたい。
    でもね、それがいけなかったんだ。サポートが切れたパソコンってね、ロトムの格好の住処になるんだ。そういうパソコンって基本一人の人がずっと使ってるからその人の念とか思いが篭りやすいから「憑きやすい」し、いじり放題の色んなプログラムが入ってるからロトムにとってはこれ以上ない遊び場ってわけ。
    そんなパソコンの中で預かりシステムなんか見つけちゃったらさ、ロトムにしてみたら「この中のポケモンで好きなだけ遊んでください」っておもちゃ箱放り投げられたようなもんだよ。
    最初は預かりシステムの壁紙が勝手に変わってた。シンプルな青い背景から、真っ黒な背景に白い羽が舞ってる、一昔前の同人サイトみたいな感じに。でもそのトレーナー、さっきも言ったようにパソコンに関してはどうでもいい感じの人だったから、知らないうちに変なボタン押しちゃったんだろう、って思って放っといたんだって。
    そんでしばらく放っておいて、次に預かりシステムにアクセスした時にはもう悲劇だよ。なんと預けてたポケモン全てにゴーストタイプがついてて、技は全部「のろい」だけになってたんだって。そこでそのトレーナー、慌てて大会用に調整を終えてたポケモンを1匹パソコンから引っ張りだしたんだ。そのポケモン、見た目は普通のカメックスだし、宙に浮いたり体が透けたりするわけでもない。でも手持ちの端末で調べてみると、そこにはしっかり「みず・ゴースト」の表示があったんだって。せっかく苦労して教えた技を何度命令しても、ぽかんと首を傾げるだけ。そのトレーナーさん、もう絶望して膝から崩れ落ちちゃったんだって。目の前が真っ白ってこういうことを言うんだね。
    だから悪いこと言わないから、サポートが切れたパソコンなんて、ずっと使うもんじゃないよ。何が起こるかわかったもんじゃないんだからさ。
    …え?今アクセスしてみたって?預けたポリゴン2が訳の分からない形になってる?…やられたね、こりゃ。


      [No.3766] サンノさんの過去事情 投稿者:焼き肉   《URL》   投稿日:2015/06/05(Fri) 19:29:08     103clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:サンド】 【サンドパン

    「よしよし」

     根済屋サンノが頭を撫でている。僕やネズミたちにするように、小さなチョロネコを撫でている。ベンチの上、サンノが腰かけている。そのサンノの膝の上で、チョロネコはにゃーんと甘えるように鳴きながら彼女の寵愛を受けている。

    「浮気?」

     膝の上のチョロネコを撫でていた彼女が、目の前に立つ僕を見上げる。チョロネコの高貴な紫に触れる指先は存外細くて白い。

    「あなたに対して? ネズミちゃん達に対して?」
    「今はネズミちゃん達に」
    「……浮気じゃないわ」

     チョロネコの額、背中。ネコポケモンが撫でられて嬉しい場所を熟知している手は、ネコに理解のある手だった。

    「ウチにはネコも犬もいらないんじゃなかった?」
    「ここは公園だもの。ウチじゃないわ」
    「ふうん」
    「ネコだって別に嫌いじゃない、でも……」

     撫でる手を止めて、サンノはただ紫の毛並みのポケモンを見おろしている。チョロネコ越しに見るのは、過去の記憶だった。

    「意地悪なネコは嫌い」



     ちょっと昔のこと。まだ僕のサンドパンが僕だけのサンドで、サンノはネズミというかただの昔からのパートナー、ミネズミが好きなだけのちっちゃな女の子だった時のこと。僕の身長はピカチュウ三匹ぶんがやっとで、サンノのポニーテールも髪が短すぎでカントーの昔の流行・ちょんまげみたいだった頃の話だ。

     同じネズミポケモンを持っていて、家も近かった僕らは、いつも一緒だった。サンドのザラザラした毛並みを撫でては、砂ネズミって感じだねとサンノが笑えば、僕もミネズミのほっぺをぷくぷくいじって、ほっぺにいつも何か詰まってるね、なんて言い合っていたお年頃の話だ。

     プラズマ団という奴らが僕らのちっちゃな世界をおびやかした。その頃の僕らはポケモンが人といて幸せか、なんて難しいことは考えてはいなかった。ただサンノとサンドとミネズミと一緒にいられれば良くて、大人が何かを騒いでるなとしか思わなかったと思う。

     それでもプラズマ団は僕らの世界をおびやかした。ただのポケモン勝負も、ポケモンを無理くり操る悪の組織と、ポケモンと遊ぶのが楽しいだけのオトシゴロだった僕らには災厄みたいなもんだ。

     いきなり襲い掛かってきた災厄は、ちょうど今サンノが抱きあげているチョロネコの形をしていた。主人のサンノを庇うように、敵のネコに踊りかかったネズミのミネズミは勇敢だったけれど、タイプというか種族の相性が悪かったのだろうか、窮鼠(きゅうそ)ネコを噛むとはいかなかった。毎日サンノに分けてもらっていた飲料水の効果はなかったようだ。哀れミルミル。

     サンノの腕でぐったりするミルミルに変わって前線に出たのは僕のサンドだったけれど、サンドの爪はサンドパンよりも丸っこくて、そんな彼女の爪は敵を屠(ほふ)るには頼りなかった。力尽きた僕のサンドのザラザラした皮膚に、天敵のネコの爪のトドメが刺さる。かに思われたその時──。

     黄色いリフレクターがサンドとチョロネコの間に立ちふさがったのだ。リフレクターと言ったのは、物理攻撃を防いだからで、黄色いと冒頭で申し書きをしたのはリフレクターの毛が電気で光っていたからだ。

     僕らの住む場所じゃ珍しいピカチュウが、弱ったサンドの代わりにチョロネコの爪の一撃を受けたのだ。ピッ、と赤い液体が地面に飛ぶ。赤い電気袋にかすったらしい。

     ──オレ様のお仲間に、ずいぶん手荒いおもてなししてくれちゃってんじゃねえか。

     ピカチュウ親分が本当にそんなことを言ったかは知らない。でも通りすがりのくせして、見ず知らずのポケモン達に肩入れしたのはマジだった。電気を溜める電気袋に穴が開いてもなんのその、暴風のような放電が二匹のネズミと一匹のチョロネコと、ついでにプラズマ団とやらまで包んだ。

     ボガアアアアアン! と大きな音がした後にはチョロネコとプラズマ団は黒コゲになっていて、プラズマ団はチョロネコを抱え、半泣きになって逃げていった。ちょっとチビってそうなくらい情けない遁走っぷりだった。電気技を食らっても平気な僕のサンドが、黒い三角の目でピカチュウの頼りがいのある背中とかみなり尻尾を見ていた。



    「今思えば、あの時ピカピカに助けられた時点で、もう僕のサンドパンは僕だけのサンドパンじゃなくなっていたのかもなあ」
    「NTR」
    「うるさいよ」
    「うるさくないわよ」

     しかしチョロネコにはうるさかったらしい。うとうとしていたのが、ぴいんと背中を伸ばし、サンノを見上げてなになにどったの? と首を傾げている。ゴメン、とサンノが謝ると、ううん別に、って感じでまたチョロネコは目を閉じた。

     とりとめのない過去の記憶だ。小さかった僕は、ヒーローみたいにカッコよくサンノの事を助けられなかったし。ネコは意地悪で、サンノを助けようとしたポケモンも、実際に助けてくれたポケモンもネズミだった。ネズミ信仰をこじらせ、根済屋さんちのネズミ子さんが出来たわけである。

     公園の噴水近くで、ネズミ一家が交流している。噴水の中に浮いているハスボーを覗き込もうとして、ちっちゃなサンドが落っこちそうになっている。それを僕のサンドパンが抱きとめて、これっ、危ないでしょ! 私達に水は天敵よ! と叱っている。噴水の縁にどっかりと座ったピカピカが、んな過保護にならんでも死にやしねーよちょっと不快になるくらいで、とピカピカ笑う。

    「僕らもそろそろ、サンドパン達みたいに一歩進んでいいんじゃないかな」
    「そして二歩下がる」
    「後退してる!?」

     サンノは悲しみに暮れる僕を見て表情を緩めている。固結びされたロープが解けたような微笑み。サンノがネズミポケモンで手持ちを固めているのは、何もネズミ信仰のせいだけじゃなくて、そういう事があったからネコのポケモンを上手く愛せないのではないかという不安も関係している。うちにはネコも犬もいらないというのは冗談でもないのだ。

     プラズマ団の行動に影響を受けた人は多いという。ポケモンと別れたり、あえて言うことを聞かないポケモンと一緒に生活したり。サンノもそういう人達と同じ人種に当てはまるといえば当てはまるのだろう。

     公園で、チョロネコを抱えてひなたぼっこが出来るのなら大丈夫だと思うんだけどな。サンノはネズミマニアの変なやつだけど、この世界の人々の大半がそうであるように、ポケモンには優しいんだ。

    「老後はチョロネコを一匹傍らに置いて、二人仲良く過ごしたいね」
    「賢い勇敢なネズミちゃん達くらいカッコよくなってから出直しなさい」

     これは手厳しい。


      [No.3557] Re: あけましておめでとうございます。 投稿者:WK   投稿日:2015/01/04(Sun) 12:46:25     39clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     本年もよろしくお願いします。
     さて、目標というよりかは絶対的なこと。

     ・就職する

     早い物で就活生です。先輩達大丈夫かしら……なんて人の事を言ってられない時期になってきました。

     ・オリジナル長編を支部に連載始める
     ・いい加減設定をまとめる
     ・フランス語を少しは話せるようになる

     二月下旬〜三月上旬までフランスに行って来ます。何事もなければ。

     今年も頑張ります!


      [No.3556] Re: あけましておめでとうございます。 投稿者:   《URL》   投稿日:2015/01/04(Sun) 00:48:48     59clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    とりあえずは創作関連のことを書いていきませう。

    ・書きかけてるサイコちゃんの話とローくんの話を完成させる。
    ・『ラストコマンド』が書く書く詐欺なので完成させたい。
    ・あとそれから一つ長い話も完結させたい。
    ・『隠しコマンド』の上司さんの過去話や、ツバキくんとの出会いの話も書きたいなあ。
    ・『イーブイの空を飛ぶ!』もそろそろもう一話くらい追加したいなあ。

    だんだん願望が入ってきてるのは気がつかないで欲しいのですよ。ともあれ、今年もよろしくですよ。


      [No.3555] Re: 何度読んでも 投稿者:GPS   投稿日:2015/01/04(Sun) 00:18:27     67clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    感想だ!!
    ありがとうございます!!

    ありがとうございます!!!!


    めでたい発売日前になんじゃこりゃって感じの話でしたが、読んでいただき幸いです……w
    ただひたすら、生温い霧に包まれた感のあるものが書きたいなあとぼんやり思ったのがきっかけでしたので、後味悪いと言っていただけると嬉しいです!

    >  妄想の果てに幻覚を見て自殺したと取るべきか、解放されて自由になったと取るべきか。結果に苦い思いもありつつ、なんとなくホッとしたのは最後の僕があまりに嬉しそうで楽しそうで、ああ良かったねと言いたいようないや良い状況ではないだろうというか! こう、どう表現していいか分からないくらい複雑な気持ちですが、この何とも言えない余韻がとても好きです。個人的には、本人が望んだある意味幸せな結末だったんじゃないかなー、と。
    >  家族にしてみればハッピーエンドとは言えないのでしょうが。

    深く考えずに勢いで書いたため設定がたがたですが、実は『幻覚』でも無いという体でした。
    その証拠に、『僕』がどのようにして壁を抜け、転落したのかは一切不明。
    体を通すことの出来ない窓しか無い部屋から、なぜ『僕』はいなくなったのか。

    書き終わってからなら何とでも言えるので後付け的な部分もありますが、
    実はタイトルと『僕』の台詞そのもの、全ては『罪人』に対する『罰』でした。
    一つの世界を捨て、忘れようとした『僕』はその世界にとって紛れも無い罪人です。
    お前の居場所だったこの場所を忘れるな、逃げられると思うな、そんな果ての『罰』が『僕』に起きた幻覚でした。

    生涯に渡って、いや、死んでも尚『僕』はその罪に苛まれ続けるのです。

    >  家族といえば、両親や兄妹、そして友人から見た「僕」と、語り手の「僕」との間に少し違和感がある気がするのは気のせいでしょうか……? 
    >  僕がとことんゲームの主人公になりきってしまったのだ、と考えるべきなのでしょうが、家族や友人の「まるで取憑かれたような」「ノイローゼや神経衰弱の類に罹る前兆は無く」「彼に暗さや鬱のようなものを感じたことは一度も無い。精神病に罹るだなんて、その片鱗すらも見せていないと思う」のあたりを繰り返し読むうちに、なんだか別人のようだなあと。
    >  静かで穏やかな性格で、前日まで普通に振る舞い、引き籠りをやめるために自分からリセットすると吹っ切れて……それでこれほど惑うものなのかと。
    >  考えていた以上に思い入れが強くて結局吹っ切れなかった? ……あるいは、全てを消去した瞬間に僕も消え「Xの主人公」が「僕」になってしまったのでは? だからあんなに悲嘆に暮れて、最後は肉体を脱ぎ捨てて飛び去って行った…………というのは考えすぎでしょうか。全然的外れだったらごめんなさい(

    それは、今まで僕が引きこもっていて、生活の大半をポケモン世界が占めていたという理由もあります。
    せめて他のことがもっと頭の中にあれば、そう簡単に惑わされることもなかったのかもしれませんが、
    例えば部活に打ち込む学生から学校そのものを取り上げたようなレベルの虚無感、しかも取り戻せないという事実が、彼を苦しめるのを手伝ったのでしょう。

    現実から隔離しかけた意識と、虚構が生んだ呪いは『罪人』に『罰』を与えることを可能にしたのかもしれません。


    もしも『僕』が、ホウエン地方のトレーナーとして、あの世界に生き続けていたのなら。
    或いは、完全に手放さずに、二つの世界を渡り歩く選択をしていたら。

    『罪人』になどにはならずに済んだのでしょうけど。


    なんだか湿っぽい感じになってしまった上にぐちゃぐちゃですが、そんなイメージでしたw
    感想、本当にありがとうございました!!


      [No.3554] Re: あけましておめでとうございます。 投稿者:   《URL》   投稿日:2015/01/03(Sat) 21:45:14     76clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    ★創作のこと
    「シンデレラ・ガールはくじけない」を完結させる。

    ★ポケモンのこと
    超長期に渡って積んでいたD/SS/B/Yをそれぞれがんばって一週する。

    ★他のこと
    その他積みゲーをがんばって消化する。


    (´・ω・`)自分ちょっと積み過ぎ違う?(ymny


      [No.3552] 2015年もよろしくお願いします。 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2015/01/03(Sat) 11:35:05     105clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    改めて。

    創作活動
    ・「鳥居の向こう」発行
    ・「カゲボウズ4巻」発行

    プライベート
    ・脂肪を減らす
    ・お金を増やす
    ・車の免許再取得

    2015年もよろしくお願いします。


      [No.3551] ラプラスと消えた少年 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2015/01/03(Sat) 09:34:59     153clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:ラプラス】 【ポケモン世界の事件】 【フォルクローレ的何か

     水族館で少年が不法侵入で逮捕された。彼の狙いはラプラス。水族館ではラプラスの歌が名物で歌声を目当てにたくさんの人がつめかけていた。
     一方、少年はこう証言する。
    「ラプラスはずっと助けを求めていた。助けて、助けて、ここから出して、と歌っていた。僕だけにはわかったんだ」

     尚、話の枝葉が広がってこのような噂がある。
     少年は釈放された後にトレーナーになった。研鑽して8つのバッジを集めた彼はその足で水族館へと向かい、建物、水槽を破壊し、ラプラスを奪取した。そして今も少年はラプラスと旅をしている……。
     そんな話を少年はすると、海に向かって口笛を吹いた。現れたのはラプラスで、少年は飛び乗った。私は何かを聞こうとしたけれどうまく言葉にならなかった。そうして彼らは水平線へと消えていった。


      [No.3336] もうひとつのお月さま 投稿者:焼き肉   《URL》   投稿日:2014/08/10(Sun) 00:53:05     121clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:イーブイ】 【ルナトーン

     絵本っぽいものの二本立てその一。
     即興二次小説のお題で書いたものです。



     ふよふよと月夜に浮かぶもう一つのお月さまに、イーブイは長い耳をピクピクさせます。

    「こんばんは、もう一つのお月さま」
    「こんばんは、かわいらしいウサギさん」

     下方からの声に、呼ばれたお月さまはウサギの元にふよふよと体を下降させました。
     降りてくるお月さまの背後には、もっと大きな、似た形のお月さまがあります。

    「この辺りにはいっぱいルナトーンがいるのに、よくわたくしだとわかりましたね」
    「簡単だよ、だってぼくの知ってるお月さまには、目のすぐ下にまあるい穴があるからね」

     イーブイは胸を張って、見覚えのあるお月さまの真っ赤な目の下にある大きなクレーターを指さしたのでした。

    「わたくしもすぐにウサギさんがわたくしの知るウサギさんだとわかりましたよ。その首から下げているフシギな形の石は、見間違えようがありませんからね」

     ルナトーンはイーブイの首から下がっている、どこかルナトーンに似た形の石を見ていいました。

    「シャワーズ兄ちゃんもブースター兄ちゃんも、サンダース姉ちゃんも、みんな石を使って進化したのに、ぼくはぜんぜん進化する気配すらないんだ。変なの。ずーっとこうやって、月の形をした石を首からさげてるのにさ」
    「うーん、どうしてでしょうねえ」
    「お月さま成分が足りないのかなあ。ねえ、お月さま。今夜はあなたの体の上で眠ってもいい?」
    「かまいませんよ」

     OKの返事が来たので、イーブイはルナトーンの硬くてほのかにあたたかい体の上で眠ることにしました。ルナトーンがイーブイの体を鼻の下に乗せて、すみかに帰る途中だというのに、イーブイの意識はすでに半分ほど夢の中へうずもれかけています。

    「ねえお月さま、ぼくいつ進化できるのかなあ」
    「そうですねえ、わたくしにもまったくわかりませんが、まだウサギさんはお小さいのですから、急ぐ必要はないのではないでしょうか」
    「ぼくはねえ、お月さまにピッタリな、真っ黒な夜の体になりたいんだ。なのにぼくの首の下にある石は、いつまでたってもお願いごとをかなえてくれやしない」
    「あせる必要はありませんよ。あなたのお兄さんお姉さんも、ウサギさんくらい小さかった時は、まだイーブイだったのでしょう?」
    「うん、そうだけど……ぼくは早く進化したいんだ。そうしておとなになりたい。おとなになったら、お月さまのおヨメさんにしてくれる?」
    「そうですね、あなたの騒がしおてんばが直ったら」
    「むー、ひどいや、ぼくは本気なのに」
    「フフフ、直ったら、考えてあげますよ」
    「ほんとうに? うれしいなあ」

     その言葉を最後に、イーブイは完全に夢の中へ意識をうずめてしまいました。


     みなさんもご存知のように、イーブイはつきのいしで進化することはありません。イーブイの望む真っ黒な体になりたいのなら、誰かとの信頼関係が必要なのです。

     誰か。そう、誰か──。

     例えば、イーブイが夢中なお月さまが振り向いてくれたら──。イーブイは念願の、真っ黒な夜色の姿に変化をとげることが出来るかもしれません。



     お題:見憶えのある月

     

     自分の趣味的には最初から相思相愛のが好みなんですがオチにつながらないのでボツになりました。
     なつき度進化なんだからなついてればいけそうな気もしますけどね。

    もうひとつのお月さま (画像サイズ: 400×333 53kB)

      [No.3128] よもやまばなし@銭湯ゆずりは 投稿者:リナ   投稿日:2013/11/25(Mon) 23:24:16     118clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:四方山話】 【何しても構わないのよ


     よもやまばなし@銭湯ゆずりは

     ○ぱーそなりてぃー

     津々楽茉里(つづらまつり):「天原フォークテイル」の主人公。
     杠奈都子(ゆずりはなつこ):茉里の友達。「銭湯ゆずりは」の娘。

     ――――――――

     津々楽 「――ユズちゃん、これ何?」

       杠 「よくぞ訊いてくれたね津々楽君。この『よもやまばなし』はね、著者が一人でも多くの人にこのお話を楽しんでほしいという、純粋な気持ちから生まれた本編『天原フォークテイル』の脱線コーナーなのだよ。平たく言えば、著者の構ってちゃんな性格が露呈した、自己満コーナーだよ」

     津々楽 「その自己満に、入浴中の私たちが勝手に使われるのは、どうなんだろうね」

       杠 「おや? もしかして茉里ちゃん、少々御立腹かな?」

     津々楽 「だって、全部文章化されるって思うと、言いたいことも言えなそうだし」

       杠 「そんなん気にしないっ! 普段思ってることが言えないキャラ設定の茉里の内側を覗くというのが、このコーナーの裏目的なんだよ」

     津々楽 「でも、この小説一人称だし、私の心理描写はむしろ結構書かれてるけど」

       杠 「あははー! そうだね! まあそんなことどうだっていいんだよ! そもそも趣旨なんてないんだしっ!」

     津々楽 「じゃあ、私たちは何について話せばいいの?」

       杠 「そうだねぇ……じゃあ第一回らしく、この話の見どころというか、注目してほしいところなんかを聞いていこうかな」

     津々楽 「一応ユズちゃんがメインMCなんだね」

       杠 「――みたいね。まあ細かいことはいいの! まずは茉里から、見どころをどうぞ」

     津々楽 「うーん(そもそも完結してないしなあ)、とにかくまず言えることは、ポケモン小説なのに、ポケモンの気配すら感じません」

       杠 「いきなり欠陥突いてどうすんのよ……」

     津々楽 「一応著者としては、『ポケモンの固有名詞を出さずに、ポケモンの世界を感じてもらう』という思惑はあるみたいです。だた、それが伝わるかどうかはまた別だと、言い訳もしています」

       杠 「うん。見切り発射だったもの、今回も」

     津々楽 「見切れず発射にならないようにしてほしいね」

       杠 「そ、そうだね」

     津々楽 「もともとは、ただいま(2013年11月25日現在)開催中の『鳥居の向こう』という小説コンテストに向けた執筆だったんだよね」

       杠 「そう。でも『ポケモン出て来へんやん』っていう批評が怖くて、止めたらしいね」

     津々楽 「それを差し引いても読ませる文章力、という点では、自信がなかったんだね」

       杠 「まるで作者に個人的な恨みでもあるかのよな、辛辣なコメントだね。最初『天原フォークテイル』は、実は『天原説話』とか『天原伝記』とか、そういうタイトルだったらしいよ。でも、『なんか堅っ苦しい感じだな。厨房が主人公なんだし、横文字にしよう、そうしよう』ってなったんだ」

     津々楽 「安易だね」

       杠 「茉里、本編と違って、こっちではざくざく言うね」

     津々楽 「いや、なんか本編とは少しくらい差別化図った方が良いかなって」

       杠 「結構乗る気じゃん。まあとにかく、こういう脱線企画もやりやすい、ラフに扱えるお話になるように、横文字になりました」

     津々楽 「なりました」

       杠 「うん、じゃあ次。えー、このお話の人物描写における考察」

     津々楽 「中学生のする議論ではないよね」

       杠 「まああれよ。髪が長いとか短いとか、背が高いとか低いとか、可愛いとか不細工とか」

     津々楽 「うーん、そのまんま書いちゃうと、やっぱりチープだよね」

       杠 「じゃあ、今お互いに描写してみようよ。本編の補完ってことで」

     津々楽 「え? 今やるの?」

       杠 「茉里はね、とりあえず背が小さい」

     津々楽 「始まってるし。てか怒るよ?」

       杠 「小学四年生って言ってもバレないかも。肌もなんか、赤ちゃんっぽいし。髪も細っそいよね。今はボブっぽいショートだけど、伸ばしても似合うとは思うよ。あと身体は全然質量ないのに、パーツが大きいよね。口とか目とか耳とか、あとほら、掌」

     津々楽 「――手が大きいと、フルートも吹きやすいの」

       杠 「でも胸は無い」

     津々楽 「おいこら」

       杠 「すみません」

     津々楽 「――胸については、ユズちゃんもじゃん」

       杠 「そうでした。まあそこは中学生なんで、巨乳っていう設定もどうかと」

     津々楽 「なにそれ自分ばっか。じゃあ次私ね。ユズちゃんは――うーん、背丈も体型も、とりあえず普通。髪は長め。そのくらいかな」

       杠 「え? 寂しい寂しい! もうちょっと書き込んでよ!」

     津々楽 「あとはね――ちょっと目が怖い。真面目な顔してると、まるで誰かを呪い殺そうとしてるみたい。冷徹、冷酷、氷結、冷凍庫、冷凍食品――」

       杠 「ちょ……後半連想が適当だよ! てかなんかショックそれ」

     津々楽 「あ、あとちょっと毛深い!」

       杠 「だー!!! ま、茉里! そろそろあがらないとのぼせちゃうよ? 今日はこの辺でお開き!」

     津々楽 「ちょっとだよ? 腕とかよーく見ないと分かんないくらいだよ? ほら、このくらい近くで見ないと――」

       杠 「も、もう分かったから! それ以上は、ね!」

     よもやまばなし@銭湯ゆずりは おわり。


      [No.2918] 返信遅れてすみません。 投稿者:レイコ   投稿日:2013/04/01(Mon) 21:00:26     37clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    >No.17さん
    お久しぶりです。大変遅くなってしまいました。申し訳ありません。
    そして熱烈な推薦!! ありがとうございますありがとうございます……><
    詳細に読み込んでいただけた上にポイントまで押さえてくださって、本当に感謝しています。
    作者の私以上に「ベトミちゃん」の世界を理解しているのではないか、思わせられるほどです。
    このように読者様の力で作品の深みが増していくのだなぁと、推敲していたあの頃が感慨深いです。
    アーカイブは構いません、どうぞじゃんじゃん変更してくださいませ。

    ご好評に値するクオリティに達しているものか、未だ不安がありますが……
    それでも! あの時点で自分の持っていたものをしっかりと出せた達成感だけはあります。
    これも全て皆様のおかげ。下げた頭がブラジルを向いたまま動きません。
    改めて、ありがとうございました!!!


      [No.2917] 遅れてきた青年 真・最終話「帰ってきた青年」 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2013/04/01(Mon) 00:55:27     119clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:遅れてきた青年】 【むかし人とポケモンは(ry】 【ギラティナ買収

    遅れてきた青年 真・最終話「帰ってきた青年」


    ある朝起きると、目の前にアオバが立っていた。
    「やあシロナ! ひさしぶり! チャンピオンにはなったかい?」
    「え、え? アオバ!? どういう事なの!?」
    「ギラティナに賄賂を渡して、こっちに戻ってきたんだ」
    アオバはさりげなくすごい事を口走った。
    黄泉がえりも金次第ということか。
    と、とにかく、やっとあの時言えなかった事が言えるのだ。
    「ア、アオバ! 私ずっとあなたの事が……」
    私は言葉を紡いだ。だが……
    「ごめんシロナ」
    アオバは首を振った。
    「え…? 一体どういうことなの!?」
    「ごめん……実は俺、人間の女には興味がないんだ」

    リンゴーン、リンゴーン。
    チャペルの鐘が鳴っている。
    「結婚おめでとうアオバー!」
    「嫁さんと幸せになー!」
    みんながアオバの事を祝福している。
    アオバの隣には白いウエディングドレスを着たガブちゃん(ガブリアス♀)の姿があった。
    「アオバってば彼女の事が好きだったのね。それじゃあしょうがないわね」
    私は溜息をついた。
    結婚式は最高潮を迎え、純白のドレスのガブリエルがブーケを投げる。
    それがどういう訳か私の手の中に振ってきた。
    「そうか……私も新しい恋をしなくちゃね」
    そう言って私は気持ちを切り替えた。


    そして私は今、手持ちのリオ(ルカリオ♂)と付き合っている。



    遅れてきた青年 真・最終話 〜完〜


      [No.2686] 【業務連絡】11/17(土) 19:00より掲示板のアップデートを実施します 投稿者:   《URL》   投稿日:2012/11/16(Fri) 18:36:29     37clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    お世話になっております。586です。

    先月からご協力いただいていた新掲示板のテストについて、デバッグに一定の目途が立ったため、
    明日11/17(土)の19:00〜21:00頃に掲示板のアップデートを行います。
    その間は掲示板へのアクセスができない状態となりますので、あらかじめご認識ください。
    また、18:30頃のログを元に新掲示板への移行を行いますので、18:30以降の記事投稿は控えてください。

    アップデートに際してトラブルが発生し、23:00を過ぎてもトラブルが解消できない場合は、
    その時点で一旦現行の掲示板への巻き戻しを行って復旧する予定です。

    以上、お手数をお掛けいたしますが、よろしくお願いいたします。


      [No.2718] Re: 訂正 投稿者:フミん   投稿日:2012/11/12(Mon) 22:42:34     90clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:77の質問 】 【質問

    今更冷静に見返したら訂正したい箇所があったので、変更しておきます。


    ●17.あなたの持っているポケモンソフトを教えて!→ポケダンでしょうか

    本家ポケモン(ルビサファ以外全部、エメラルドはやった)、ポケダン。

    ●49.この人の本が出たら絶対読む! この人の影響を受けている! 好きなプロ作家さん・同人作家さんっています? 愛読書でも可。→向水遙(4コマ漫画家)←作家じゃないね 時雨沢恵一(ライトノベル作家) 秋山瑞人(ライトノベル作家) 安部公房(小説家) 森博嗣(小説家) 村上春樹(小説家) ついでに言うと、星新一はあまり読んでいないです。 愛読書は『猫の地球儀』『ダンス・ダンス・ダンス』『村上春樹堂』『キノの旅』

    『村上春樹堂』ではなく『村上朝日堂』でした。


    他にも誤字はありますが、上記2つは明らかに誤解を招くので訂正します。


      [No.2513] ありがとうございます 投稿者:aotoki   投稿日:2012/07/10(Tue) 20:38:27     45clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    ご批評ありがとうございます。まさか渡邉さんにコメントをいただけるとは・・・・

    文体やテンポのお話、非常に参考になりました。後半は書いていて自分でもまずいなと思っていたのですが、やはり言われてしまったと赤面しております。
    普段はケータイのメール機能でメモしたものをPCに落として修正してたのですが、これだけはケータイでの確認で終ってしまったので・・・・とこう言い訳するのが一番いけないのですよね。

    重い口調は自分の悪い癖だなと思っていたので、しっかり治していきたいと思います。


    > 面白い話だったから、ねちねちと文章にケチつけてみました。
    > ホントね、小さいころのフライトの話、これいいと思ったんだけどね。

    この二行に完璧なお褒めの言葉を頂けるよう、書き直してみたいと思います。

    本当にありがとうございました。


      [No.2512] Re: バルーンフライト 投稿者:渡邉健太   投稿日:2012/07/09(Mon) 23:43:11     56clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    前半、文章のテンポがよかったから、後半のもったりした感じが残念だね。
    経緯やらなんやらを語り口調でやられると、説明臭い上に台詞とのメリハリがなくなる。
    そういう描写をさらっと書いて、小さいころのパートと文体で差別化できたら格好いい文章になる。
    (まあ、十二年経っても精神年齢の低そうな主人公だから、これでいいのかもしれないけど。)

    さておき、小さなころのエピソードの最後の一文。

    > あの後僕はもう一度一人で発電所に行ったけど、フワンテはいなかった。

    これは話を終わらせるためのテキストだよね。
    伏線にもなってなくて、たいへんよろしくない。

    面白い話だったから、ねちねちと文章にケチつけてみました。
    ホントね、小さいころのフライトの話、これいいと思ったんだけどね。


      [No.2511] Re: 【便乗】 [快晴の七夕] 投稿者:あつあつおでん   投稿日:2012/07/08(Sun) 19:25:23     97clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    あのネタ話からこのような真面目な話ができるとは。思わず唸りました。ありがとうございます。

    私もキュウコンと色々やってみたいです。


      [No.2510] きつねびさらさら 投稿者:巳佑   投稿日:2012/07/08(Sun) 05:55:23     91clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     そこはとある稲荷神社。
     周りには一人もいない静かな境内、まるでそこだけ別世界のような不思議な静寂が漂う中、一匹の獣がそこにただずんでいました。
     神社の外側はぐるっと木々で覆いつくされており、内側に招き入れたかのように差し込む月光がその狐を照らしています。
     白銀に身を包んだ滑らかな肢体。
     ふんわりと揺れている九つの尻尾。
     そして、その尻尾にはたくさんの短冊が貼られていました。
     
     くわぁああん。
     くわぁあああん。

     凛と天に向かって鳴く獣の声はまるで鈴の音のように。
     そして、笛の音を奏でるように獣の口元から青白い焔が伸びていきます。
     
     くわぁあああん。
     くわぁああああああん。

     何度も月に木霊していく自分の歌に合わせて、獣は踊り始めます。
     青白い焔がその踊りに導かれるように、宵の宙を舞い、いくつかの輪を作っていきます。
     月光に照らされた青白い焔はらんらんと妖しく、まるでおいでおいでと誰かを招くかのように揺れています。

     くわぁあああん。
     くわぁああああああん。

     やがて、獣の吐いた青白い焔は尻尾の方にゆらりと向かい、そしてそこに張られている紙に取りつきます。
     すると、青白い焔に抱かれた紙は燃えていき、やがて、真白な灰となって、高く高く宵の空に昇っては消えていきます。
     また一枚。
     もう一枚。
     青白い焔で灰となって、宵の空に飛んでいっていきます。

    『もっとポケモンバトルが強くなりますように』
    『タマムシ大学に受かりますように』
    『タマゴから元気なポケモンが生まれますように』
     
     様々な願いが星へと届いていきます。
     
     くわぁあああん。
     くわぁああああああん。

     短冊に込められた願いを感じながら獣は踊り続けます。
     星に人やポケモンの願いを聞かせるように青白い歌を紡ぎながら。

     くわぁあああん。
     
     くわぁああああああん。
     
     
     くわぁあああん。
     
     
     
     くわぁああああああああああん。


      [No.2509] おほしさまぎらぎら 投稿者:巳佑   投稿日:2012/07/08(Sun) 05:53:34     72clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     
     夜空にきらきらと流れるは天の川。
     そこに一匹の黒い翼を持っており、金色の飾りを携えたポケモンが泳いでいました。
     ゆっくりゆっくりと泳いでいる、そのポケモンの上には一匹のポケモンと一人の人間が隣同士で座っています。
     一匹は白い二本の角の生やし、悪魔のような尻尾を生やしたポケモン――ヘルガーで、その隣にいる人間は白い髪を肩まで垂らした少女でした。
     少女は眼前に広がる星々を指で示しながらきゃっきゃっと楽しそうに笑い、ヘルガーはその姿に微笑みながら頷きます。
    「ねぇねぇ、ヘルガーいっぱいお星さまがあってきれいだよね! なんか海みたいだなぁ、泳げないのかなぁ」
     そんなことを言いながら飛び込もうとする少女の脚に、ヘルガーが前足を置いて一つ鳴きました。その顔は悲しそうなもので、天の川を泳ぐポケモンも少女の方へと顔を向け、その目つきを鋭く当てていました。少女は残念そうに肩を落とし、再びヘルガーの横に座ると、そのまましばらく無言が一人と一匹の間に流れます。先ほどの楽しげな雰囲気はどこへやらで、水を打ったかのように沈黙の時間は流れていきます。
     その時間がいくぶん流れた後、少女が口を開きました。
    「ねぇ、ヘルガー。わたしね、おねがいしたんだ。ヘルガーとずっといっしょにいられるようにって。もっといっしょにあそべるようにって。ねぇ、ヘルガー。わたしたちずっといっしょなんだよね? そうなんだよね? ねぇ、ねぇってば!!」
     気がつけば、少女の喉からはおえつが漏れ出ており、やがて我慢が切れた少女はヘルガーを抱きしめ、わんわんと泣き始めます。少女のほっぺたにつたう感情がヘルガーの首元へと溶けていき、ヘルガーはただ、目をつぶることしかできませんでした。少女の気持ちが痛いほど、ヘルガーの心の中に入り込んできて、その痛みでまぶたが重くなって――。

     ぱぁんぱぁん。

     何かが弾ける音がしました。
     その音に目を覚まされたかのようにヘルガーの瞳がぱっと開きます。続けて、同様にその音に呼ばれたかのように少女もなんだろうと、音がした方に泣きじゃくりながらも向きます。

     ぱぁんぱぁん。

     天の川を泳ぐポケモンの下で、広がっては消える赤い花、青い花の光、黄色い花。
     少女とヘルガーの瞳の中に何度も咲いては散ってを繰り返していきます。
    「わぁ……! あれって花火かなっ!?」
     そうだと言わんばかりにヘルガーがばうと鳴きます。少女の瞳からはもう涙は止まっており、ヘルガーも楽しそうに尻尾を揺らしており、そのまま、少女とヘルガーはしばらく花火を眺め続けていました。
     
     耳の中を揺らす花が咲く音。
     瞳の中に飛び込む花が咲く姿。

     少女がゆっくりと口を開きました。
    「もう、わたし、ヘルガーとバイバイ、しなきゃ、いけないのかな」
     少女の問いかけにヘルガーが静かにうなずきました。   
     その応えに少女はまた泣きそうにながらも、ヘルガーをぎゅっと抱きしめ、また口を開きます。
    「もっと、もっと、いたかったよぉ、もっと、もっと、あそびたかったよぉ」
     我慢し切れなかった涙の粒がぽろぽろと少女の瞳からこぼれ落ちていきます。

     昼間が暑いから、夜に散歩した夏の日々。
     川辺で蛍火を追いかけ回った日々。
     その追いかけっこの中で見つけた夜空に咲く綺麗な花。
     また一緒に見ようねとあの夏に植えた約束の種。
     秋風の中を一緒に通り過ぎ、冬の雪をくぐって、それから春の桜をかぶって――。
      
     やがて、ヘルガーが少女から離れると、天の川を泳ぎ続けるポケモンの背中の端まで歩み寄り、少女の方に向きます。
     
     ばう、と涙をこぼしながらも微笑みながら鳴いて、天の川の中に落ちました。
      
     星の川に落としたその体はやがて光の粒になって消えていってしまいました。

    「バイバイ……ヘルガー」
     天の川を泳ぐポケモンの背中に涙をこぼしながら、少女はヘルガーが消えていってしまった方をずっと見続けますと、やがて、少女は自分がいつのまにか一個の黒いタマゴらしいものを抱いているのに気がつきました。
     もしかしてヘルガーがくれたのかなと思ったのと同時に、急に眠くなってきた少女はやがてばたりと倒れ、そのまま重くなったまぶたを閉じました。


    ―――――――――――――――――――――――――――

    「白穂(しらほ)、白穂」
    「……うーん、お、おかあさん?」
    「おはよう、どう? 今日は学校に行けそう? まだ無理だったら休んでもいいのよ?」
    「あ、う、うん。ちょっとまって……あれ?」
    「あら、そのタマゴどうしたの?」
    「…………」
    「白穂?」
    「……ううん、なんでもない、ねぇ、おかあさん。このタマゴ育ててもいい?」
    「ちゃんと、育てるならいいけど……大丈夫なの?」
    「うん、大丈夫!」

     その少女――白穂はまんべんな笑みを見せて答えました。

    「だって、このタマゴにはヘルガーとの思い出がいっぱいつまってるんだもん!」


      [No.2508] 【便乗】 [快晴の七夕] 投稿者:MAX   投稿日:2012/07/08(Sun) 05:53:12     112clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     七夕の夜のこと。
     都会を遠く離れた田舎にひとつの神社がある。そこは小高い丘の上にあり、鳥居に続く石段からは町並みを見下ろすことができた。
     街灯が点々と夜道を照らす中、しかしその神社では軒下の電灯がひとつ、境内で虫を集めるのみ。管理が行き届いてないのか、主立った明かりは幽霊か狐の作る鬼火だった。
     まさに肝試しの場にしかならないような場所だが、そこに人影がふたつ。石段に腰掛けて夜景を眺める男女の姿があった。

    「やってるなぁ」
    「まぁ、よう燃えとろうなぁ」

     毎年の行事を男は微笑ましく思いながら、方や女は片膝に頬杖をついて眠そうに、目を細める。
     両名の視線の先には、町の一角を橙に照らす大きな明かりがあった。もうもうと煙を立てるそれは七夕の笹を燃やす火だ。町中の短冊と笹を集め、まとめて火にくべられていた。
     短冊にこめられた願い事は煙となって空の神様のもとに届けられ、やがて叶えられるだろう。そんな人々の神頼みを、あざ笑うように女が言う。

    「ああも大量に送られては、お空の神様とやらも手一杯であろうに」

     煙の中にどれだけの願いが詰まっているのか。無邪気な風習だと呆れつつ、男から手土産にともらったいなり寿司を頬張った。
     そうぼやく女に、男が串団子片手に言い返す。

    「確かに多いが、急ぎのお願いなんてのは短冊には書かないだろ。神様には、少しずつゆっくり叶えてもらえばいいんだよ」
    「あの量を少しずつか。は、ずいぶんと気の長い」
    「そういうもんさ。いつか自分の番が来る。そう信じるんだよ、人は。良い話じゃないか、夢があってさ」
    「夢のぉ。そんな程度……」

     偏見混じりの男の言葉に女は思う。その程度の願いなら、叶う頃には願ったことさえ忘れているんじゃないか。神に頼るほどのこともないのではないか、と。

    「ん?」
    「いや、そんな程度なら、神様に頼らんでもそのうち叶えられるのではないか、とな」
    「あー、その時はその時だろ。神様が、自分で願いを叶えられるように導いてくれた、ってな」

     なんとも前向きな思考だ。いよいよ女も呆れ果て、鼻で笑った。

    「盲信ここに極まれり、じゃの」
    「そう言うなよ。どうせ、将来の目標みたいな感じで短冊に書くんだからさ」
    「将来の目標、のぅ」

     我が事のように言う男に、女の興味が向いた。男の顔をのぞき込みながら、口の端は上がり、目がいっそう細くなる。

    「かく言うお主は、なんと書いたのかや?」
    「黙秘します」

     いたって自然に断られた。しかしそれではおもしろくないと女は口を尖らせる。

    「かーっ、なんじゃい、生意気な口をききおって。
     目標と言うからわしが生き証人となってお主の行く末を見届けてやろうとちょいと世話を焼いてみれば、これか。
     そんな人に言えんような目標なぞ墓まで持ってくが良い。どうせ達成できたところで自己満足にしかならんからな。
     わしは知らんぞ。目標達成の暁には労いの言葉のひとつぐらいくれてやろうかと思うたが、もう知らん。勝手に一喜一憂するが良いわ」
    「拗ねるなよ、面倒くせぇな。おまえ、こういう願掛けの類は他人に言ったら効果がなくなるって、よくいうだろう?」
    「そんな迷信、気休めにもならんわ。だったら何ゆえ人目に付くような笹の枝に短冊を吊す」
    「個人を特定されなきゃ大丈夫だろ」
    「大雑把にもほどがあるのぉ〜……」

     細かいのかいい加減なのか。苦々しく顔を歪ませる女に、男はため息をついた。

    「そうは言うがな。忘れた頃に叶ってラッキー、そんな程度なんだ。ことさら、達成を労ってもらうようなもんじゃない。それに……なぁ」
    「それに?」
    「失敗したら、おまえ、笑うだろ?」
    「…………」

     女は目をそらした。

    「……そんなわけだ」
    「あ……いや、返事に窮したのは、笑うからではないぞ? 目標の種類によると思って、どう返そうか迷っただけじゃ」
    「いーんだよ。どうせもう俺の短冊は煙になってる頃だ。神様、織姫様、彦星様、何卒よろしくお願いします、ってな」

     言って、男は団子をかじった。
     幸いにして今夜は晴天。明かりの少ない土地柄、見上げれば天の川がはっきりと見えた。しかし風に乗って夜の闇に消えていく願い事たちが、はたして空まで届いてくれるのやら。
     だが男の投げやりな態度に、女は納得しない。

    「これ、弁明も聞かずに不貞腐れるな。わしばっかり悪いようにされて納得できるか」
    「あぁ、そりゃこっちも悪かった。いいからこれでも食って少し黙ってな」
    「な……んむ」

     女の前に串団子が一本、突き出された。それに女はかじりつき、男の手からもぎ取る。
     食わせれば黙るという算段か。少々癪に障ったが、団子一本に免じて女は黙ることにした。

    「…………」

     その団子がなくなるまでの少しの間、男は夜の音に耳を澄ませる。
     ひと気のない神社で聞こえるのは、虫の声と幽霊のすすり泣きくらいだ。泣き声は不気味と思うが、その正体が知れていれば怖くもない。複数のムウマによるすすり泣きの練習風景を見てしまって以来、むしろ微笑ましかった。
     そんな折に、男の耳に遠くから拍子木の音が届いた。「火の用心」と声が聞こえ、もうそんな時間かと腕時計を眺める。

    「……里の夜景は楽しいか?」
    「いや、あんまり」

     団子を食い終わったか、女が話しかけてきた。しかしその内容には、いささか同意しかねる。
     田舎の夜は控えめに言っても退屈だ。黙って見ていると眠くなってくるし、眠れば幽霊からのいたずらが待っているのだから。

    「その割には、向こうの明かりをじっと見ておったがなぁ」
    「……そうだったか?」

     言われて自覚がないことに気づいた。そろそろ眠気がひどいようだ。調子が悪いか、そろそろ帰って寝るか。思いながらまぶたを揉む。

    「眠いか」
    「それも、ある。ただ向こうの焚き火、雨降らなくて良かったな、って」

     言って、男はふと思い出した。

    「……そういや、天気予報じゃ雨じゃなかったか? 今日って」
    「予報なぞ知らんな。しかし、昼ぐらいまでは確かに曇り空じゃったのう」

     両名が見上げる空は、満天の星空。雲はひとつとして見当たらない。

    「はてさて、どこぞのキュウコンあたりが“ひでり”で雲を消し飛ばしたのやもな」
    「キュウコンなぁ…………おまえ……」
    「さーて、わしには心当たりなんぞありゃせんなー」

     白々しいというか胡散臭いというか。なんとも人を馬鹿にしたような女の態度だが、しかし女は続ける。

    「言っておくが、わしはむしろ七夕は曇り空であるべきと思うとるからの」
    「そりゃまた、ずいぶんひねくれたことで」
    「ふん。七夕とは、愛し合いながらも離ればなれの男女が、一年の中で唯一会うことが許される日という」
    「今更なことを言うなぁ」
    「その今更じゃがな? 考えてもみよ。一年もご無沙汰の男女が再会したならば、ナニをするか……」
    「……ぁ゛あ゛?」

     何かを企むようにニヤニヤと語る女に、なんとなく理解した男は何を言い出すこの女、と信じられないモノを見る目を向けた。

    「快晴にして見通しも良く、衆人環視の真っ直中で……というのは恥ずかしかろーなぁー」
    「おまえ、それって……ぁあ、下品なっ!!」
    「か、か、か! 下品で結構。そういう見方もあって、わしに“ひでり”の心当たりは無い。それさえわかってもらえれば充分じゃ」

     それだけ言って、女は満足げに鼻で笑った。そう堂々とされては男は黙るしかない。これ以上口出ししても、自分ばかりが騒いでいるようで馬鹿馬鹿しいではないか、と。

    「ったく……」
    「何にせよ、今夜は快晴じゃ。こうして天の川を見れた。短冊を燃やすのもできた。それを幸いと思うが良い」

     まったくもってそのとおりだが、男はうつむいて唸るばかり。騒ぎの原因にそう言われて素直に従うのは、ただただ癪だった。
     しかしそうやって下を向いていたから近づく影が見えず、女に背を叩かれることとなった。

    「……んむ、少々声が大きかったか。ほれ、お迎えじゃ」

     拍子木の音と「火の用心」という声。顔を上げれば、石段の下で錫杖を持った男性と拍子木を手にしたヨマワルが鬼火に照らされていた。
     男性とヨマワルの目がこちらを見上げて、

    「ひのよぉーじん」

     ヨマワルが拍子木をちょんちょん、と鳴らす。もうそろそろ夜も遅いぞ、と。そういう意味である。

    「あー……じゃぁ、今日はこれまでだな。もう帰る、おやすみ!」
    「おぉ、気をつけて帰るんじゃな」
    「あぁ、またな」

     団子の串などのゴミを抱えて男は石段を下りていく。やがて夜回りの男性達と共に夜の町に姿を消した。
     そして夜の神社に女だけが残る。

    「……どれ、わしもひとつやってみるかの」

     つぶやき、女が取り出したのは町で配られていた短冊の一枚。本来ならば町の笹と一緒に燃やすものであったが、女はそれを今の今まで持ち続けていた。
     願いを書かずに持っていたのだが、そうこうしているうちに焚き火は終わってしまった。だが女は構わない。
     白紙の短冊を左手に持つと、右手の親指に歯で傷をつけ、出た血を人差し指につけて文字を書いてゆく。そうして願い事を書き込み、掲げる。

    「この場に笹は無いが、ま、燃えれば同じであろう」

     そして「いざ」と息を吹きかければ、短冊はたちまち火に包まれ、細い煙を残して灰となって消えた。

    「さて、期待せずに待つとするかの」

     その言葉を残して女は夜に溶けるように消え去り、後には、

    ――――コォーーーーン…………。

     狐のような声だけが夜の境内に響きわたった。






     * * * * *



     まず、あつあつおでん様、ネタ拝借と言う形になりましたが、樹液に集まる虫のようにありがたく思いながら使わせていただきました。。

     お付き合いいただきありがとうございました。MAXです。
     あつあつおでん様のネタから「夜のひでり状態」を見て、「雲が晴れるだけなんじゃないか」と考えた7日の朝。
     キュウコンとおしゃべりをするなら古びた神社でこんな具合でしょう、と地元を想起しながら作り上げたこれ。
     ジジイ口調の女性と言うステレオタイプなキャラができましたけども……。
     書いてて思いました。久方様のある作品と舞台が似てる、と。
     だ、大丈夫でしょうか! ちとツイッタで聞いた限りでは概ね寛容でございましたが、自分の説明を誤解されてしまっていたやも……。
     不安の残したまま動いたことを謝ります。難があれば即時退去いたします。と、これ以上はネガティブなんで、以上MAXでした。

    【批評していいのよ】【書いてもいいのよ】【描いてもいいのよ】【申し訳ないのよ】


      [No.2507] 【短編2つ】七夕過ぎし暁に照らして 投稿者:巳佑   投稿日:2012/07/08(Sun) 05:50:35     65clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     
     夜が明けるまでは七夕だぜ! 
     そう言い聞かせながら、短いながらも仕上げてみた二つの作品を上げておきます。

     ……やっぱり、日付的にはアウトな気がしますが、よろしくお願いします。(苦笑)


      [No.2506] 『願いを叫ぶでアルぜ!』 投稿者:巳佑   投稿日:2012/07/08(Sun) 05:47:29     102clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


    『まずは灯夢という狐からの願いでアル! みたらし団子をもっといっぱい食べられるようにでアルぜー!! 腹壊すなよでアルヨー!! 』
     コジョンドの波動弾が思いっきり、夜明け前の空に消えていく。

    『次は日暮山治斗という奴からの願いでアルぜ! みぞ打ちが週に一度だけに減りますようにでアル! っていうかあきらめんなでアルぜー!!』
     コジョンドの気合の入った波動弾がまた夜明け前の空に消えていく。

    『今度はわらわっちメタモンからでアル! 商売繁盛アルぜー!! にっくいでアルねー!!』
     コジョンドの叫びと共に波動弾が夜明け前の空に消えていく。

    『次はミュウツーっていうやつからでアル! 借金返せますようにでアルぜー!! というかさっさと返せでアルぜー!!』
     コジョンドのおたけびと共に波動弾が夜明け前の空に消えていく。

    『続いて長老っていう狐からの願いでアルぜ! 池月とエリスがいつまでも中むつまじくラブラブでありますようにでアルヨー!! 池月ー! また今度、ワタシの新技を受けてくれでアルぜー!』
     コジョンドの力を込めた波動弾が夜明け前の空へと消えていく。

    『気合だ! 気合だ! 気合だ! で、アルぜー!!!』
     コジョンドの全身から爆発音を立てながら波動が溢れる。

    『ワタシからのお願いでアル! ワタシより強いやつに出会えますようにでアルぜぇぇぇえええ!!!!』
     コジョンドの――。

    「あああああ!! もううるさい! だまれぇぇえ!! ワンパターンすぎなんだよぉ! この野郎がぁああ!!」
    『おぉ、なんか夜空から現れたと思ったら。ワタシはあんにんどうふでアルね、よろしくでアル』
    「あぁ、それは丁寧にどうも、ボクはジラーチ、よろしくね☆ ……って、アホかっ!! もう朝だ、朝!」
    『およ? なんか、おでこにタンコブができているでアルが大丈夫でアルか?』
    「てめぇにやられたんだよぉおおおお!!」
    『おぉ! さすが、ワタシの波動弾でアルね! まさにビックバンでアル! 照れるでアルぜ、礼ならいらないでアルぜ?』

    「あほかぁああああ! もういい! 話が進まん! ちょっと狐好きの蛇野朗こいやぁあああああ!!」

     ※この後、責任持って、(半黒こげの)巳佑が短冊を笹竹にくくりつけました。

    ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
     
     というわけで、かなり遅刻してしまいましたが、私も短冊をつけさせてもらいました。
    『いっぱい絵や物語がかけますように、また出会えますように』
    『単位がもらえますように』
    『学生の間に一回は水樹奈々さんのライブに行けますように』

     よし、後もう一つ。 

    『某ロコンにみぞおちでやられませんように』

     ありがとうございました。

    【七夕限定のコアラのマーチもぎゅもぎゅ】
    【みんなの願い、星に届けー!】


      [No.2505] 星に願いを 投稿者:門森 輝   投稿日:2012/07/08(Sun) 00:34:33     95clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     滑り込みセーフ! ε=\_○ノズザー  ……え? アウト? 気のせいじゃないですかね。きっとまだ7月7日です。そうに違いない。
     と言う訳で数キャラに短冊書いて貰ったんですけどね、ライチュウの奴の以外名前が無いという事態。ポケモンは種族名で表記出来るから良いもののこういう時に困りますね。
     とりあえずれっつらごー。

    「ライチュウを使うトレーナーが増えます様に  コッペ」

    「早く良いイーブイが生まれる様に  とあるトレーナー」

    「イーブイ飽きた。他のが食べたい  カイリュー」

    「尻尾を枕にさせてくれるキュウコンが手に入ります様に  回答者5」

    「いつかまた虹が見られます様に  キュウコン」

    「ヤミラミにじゃんけんで勝てます様に  エビワラー」

    「ルカリオのポケモン図鑑の説明文で波導と書かれます様に  門森 輝」

     少し遅刻してしまいましたが願いが叶う事を祈ります。30分位なら許容範囲ですよね! 駄目ですかそうですか。
     何はともあれ皆様の願いが叶います様に!

    【滑り込みアウト】
    【皆様の願いが叶います様に】


      [No.2504] 【ポケライフ】七夕祭 投稿者:ピッチ   投稿日:2012/07/08(Sun) 00:11:26     92clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     毎年こうだが、目の前は人、人、人。浴衣を着た少女が数人のグループで歩いていたり、家族らしき数人が固まって歩いていたり。年齢層は若い顔が多い。そりゃあ、老人がこんなところに来れば人混みで大層疲れるのは目に見えているけれど。
     両脇に並ぶ屋台も、たこ焼きや綿飴、かき氷といった定番のものから、ハクリューポテトなる謎の食べ物まで多種多様だ。そしてその店の脇には、必ず一本の笹が立ててある。
     今日はタマムシシティ大七夕祭り。老若男女ポケモンを問わず、誰彼もが星に願いをかける日だ。

    『ただいま会場が大変混み合っております。モンスターボールの誤開や盗難を防ぐため、ポケモントレーナーの皆様はボールの管理に十分お気をつけください……』

     そうアナウンスが聞こえる合間にも、きゃ、と短い女の叫び声がして、モンスターボールの開閉光が夜店の明かりに負けじとばかりに輝く。そちらの方を見れば、出てきたヒメグマが他の客に体当たりしそうになっている。
     これが進化後でなくてよかったな、と心中で独りごちる。流石にこの混雑の中に大型ポケモンを持ち込むような非常識なトレーナーがいるのは困る。
     隣を行くルージュラくらいが、常識的に受け入れられる最大サイズだろう。これでも道行く人の中には、たまに怪訝そうな視線を投げてくる人もいるけれど。

    「とりあえず、一通り店回ってみようか。どっかの店でペン貸して貰って、それも書こう」

     そう問いかけると、僕のシャツの裾を掴んでいるルージュラはこくこくと嬉しそうに頷いた。その手には、スターミーとピィの形をした紙が一枚ずつ。
     入り口で配っていたもので、もう形からして短冊と言えるのかはよくわからない。配っていたのを見た限りでは、ヒトデマンやスターミーにピィとピッピ、それに三つの願い事を書けるジラーチのものなんかもあった。
     三つも願うと欲張りすぎて逆に叶えてもらえないような気がする、と思って、僕らは一枚ずつ、一つの願いを書く短冊をもらった。
     出店横に笹がありますので、と言われたが、もうどの笹も短冊でいっぱいだ。今まさに短冊を笹にかけていく人の姿も見える。
     それを見ながら人波に流されるように歩いて行って、まずは気になった「ハクリューポテト」と大書された屋台の前で立ち止まる。ご丁寧に直筆らしいハクリューの絵もセットだ。

    「いらっしゃい! どうだいお兄さん、そっちのルージュラと一緒に食べてかないかい? うちはポケモン向けの味付けもやってるよ!」

     言いながら店主が示したのは、ジャガイモを厚くスライスして、原型を残したまま串に刺して揚げたような食べ物だった。フライドポテトの一種だろうか。
     しかし何故これがハクリューなのか、僕にはちょっとよくわからなかった。ジャガイモがそれらしいというわけでもないし、フレーバーにそんなイメージのものがあるわけでもない。

    「これ、なんでハクリューって言うんです?」
    「ああ、これな。ちょっと切り方に工夫がしてあって……」

     店主は刺してあった一本を手に取ると、僕とルージュラの前でくるくると回して見せた。輪切りだと思っていたそれはよく見れば螺旋状で、相当心を広く持って見ればなるほど、長いハクリューの体に見えなくもない、気がする。

    「こうやって全部一繋がりにしてあってな、ほら、ハクリューが使うだろ?『たつまき』。形が似てると思ってな!」
    「……そっちなんですか? てっきり、ハクリューの体が長いのに似てるからかと」
    「いやー、最初はそのまま『たつまき揚げ』とかにしようと思ったんだが恰好がつかなくて」

     がはは、と豪快に口を開けて笑う店主に、僕もつられて笑いを返す。ルージュラはじっと興味深そうにポテトを見ている。

    「おじさーん、ケチャップ味とポケモン用の苦いのに渋いの、一本ずつちょうだい!」
    「人間用一本とポケモン用二本で千円だよ!」

     Tシャツ姿の少年が、隣から千円札を突き出している。僕はスペースを作るために、少し脇へ寄った。少年はお金と引き替えにポテトを三本受け取ると、手に持ったジラーチ型の短冊を店横の笹にかけて、後ろの人混みの中に消えていく。
     少し内容が気になって、その中身をこっそり横目で覗いてみた。

    『チャンピオンになる! トモキ』

     真ん中の短冊に力強く大きな、でもお世辞にも読みやすいとは言えなさそうな字が書いてある。両脇の短冊には、「ガウ」「ポポー」の名前と一緒に、ポケモンの足跡。前者の方は短冊からはみ出して、ジラーチの顔に被っている。
     なるほどこういう使い方もあったか、と感心した。一人が三つ願い事を書くのは欲張りかもしれないが、三人で一つの大きな願い事を書くなら、叶う確率はもしかしたら上がるかもしれない。
     そう思っていたら、シャツの裾がぐいぐい引っ張られた。そちらを見れば、種族に特有の不思議な言葉を発しながら、ルージュラがポテトを指差し何事か訴えている。見ているうちに食べたくなってきたのだろう。

    「わかったわかった。……おじさん、ガーリック味とポケモン用の辛いの一本ずつ下さい」
    「はいよ! ……ん? 辛いのでいいのかい? ルージュラっちゃあ氷ポケモンだろ? 苦手なんじゃないのかい?」
    「あ、いいんです。こいつ、氷ポケモンなのに辛い味が大好きで」
    「ほー、見かけによらないモンだねぇ……人間用とポケモン用一本ずつで六五〇円だよ!」

     小銭入れから七〇〇円出して、釣りの五〇円とポテトを受け取る。一本はすぐルージュラに渡しておいた。代わりに手の空いた僕が、ルージュラの持つ短冊を受け取った。
     トゲトゲしたスターミーと、それよりは丸みを帯びて文字を書くスペースの取り易そうなピィの形をした短冊には、まだ何も書かれていない。
     どこか空いたところを探さないとな、と思った。列を作っていた人が後ろから来ているのでは、願い事を書くために店の前を占領してはいられない。



    『迷子ポケモンのお呼び出しをいたします。トレーナーID61963、タカノコウキ様。運営本部にてルリリをお預かりしております、至急運営本部までお越し下さい……』

     そんなアナウンスが聞こえた頃に、僕らは通りの交差点へと差し掛かった。角に、ひときわ大きな人だかりができている。子どもたちとその手持ちの小さなポケモンが多い。
     店の垂れ幕に大書されているのは、「あめ」の二文字のみ。店の隣に座って悠々としているのは、一匹のポニータだ。店主の男は棒の先につけた飴の塊をその体の炎で熱し、へらで細工してひとつの形に仕上げていく。
     飴の塊は、既に頭の部分が大きく、尾にかけて細くなる流線型を描いていた。別の、本体に比べれば小さな塊をつけたへらによって、その尾に尾びれがつけられる。男が、集まった子どもたちに向かって問いかけた。

    「おじさんは今、何のポケモンを作ってるかなー?」

     子どもたちはまだ答えが出せないようで、隣の子どもと相談し合ったり、首を傾げている。その間に飴細工には胸びれがつけられ、頭に小さなツノがついていく。
     その様子を見ながら、ピンときたらしい一人の子どもが叫んだ。

    「ジュゴンだ!」
    「正解! それじゃあここから顔を描くところを見せてあげよう」

     外形の完成し終わったジュゴンは、食紅のついた筆で顔を書き加えられてますます本物に近づいていく。目と鼻、それに口を書き加えた飴細工は、最後に袋に収められて他の飴細工と一緒に並んだ。
     子どもたちがわあわあと歓声を上げ、そこを見計らって店主が声をかける。

    「すごーい!」
    「そっくりー!」
    「本物みたい!」
    「飴ってメタモンみたいだな!」
    「この飴細工一個九〇〇円! だ・け・ど、飴風船チャレンジに成功したら、この飴細工をタダであげちゃうぞー!」

     目を輝かせて、やるやる、と殺到する子どもたちが受け取っているのは、何の細工もされていないただの飴の塊だ。子どもたちはまるで風船を膨らませるように、ぷうぷうと懸命にその塊を吹いている。
     なるほど、これを大きく膨らませることができればOKというしくみらしい。しかし大半の飴は吹いている途中で薄くなって固まり、破れてしまう。
     そうした子どもたちが悔しがって再挑戦をし出す間に、男は加工用の飴をまた熱し始めた。

    「今度は何のポケモンを作ってみようかなー?」
    「ヒトカゲ!」
    「バタフリーがいい!」
    「カイリュー作ってー!」

     そのうちの一つを聞き届けたのか、それともそのどれでもないポケモンを題材としているのか。ひのうまポケモンの熱で暖められた飴は、ただの丸い塊から一つの目的へ向けて姿を変えていく。さながら、ポケモンが進化するように。
     それを熱っぽく眺める子どもたちの、その大半の手にはもう短冊はない。もうどこかの笹にかけてきてしまったのだろう。
     まだ願うべき夢を持っている年代だからだろうか、などと言うと、まだ若いのにと言われるのだろうか。見飽きてきたらしいルージュラが急かすのに合わせて、僕はその人だかりの前から歩き出した。



    「現在、タマムシシティ大七夕祭り会場から生中継しております! 見て下さいこの人出、今年の夏も大賑わいです!」

     浴衣姿のレポーターがカメラへ向けてそんな台詞を言っているのを後目に、その人だかりのそばを通り過ぎる。ピチューを頭に載せたあのレポーターは、名前は覚えていないがお天気コーナーか何かの顔だったはずだ。
     そんなことを考えていると、不意に前に進もうとしていた体がぐっと後ろへ引っ張られる。裾を引きながら後ろを歩いていたルージュラが、急に立ち止まったのだ。
     何だよ、とぼやきながら振り返ると、ルージュラの視線はこちらを見ていなかった。
     その視線の先にあったのは、「氷」の垂れ幕と、店のテントの内側に貼られた「罰ゲーム用!? 激辛マトマシロップ」の張り紙。僕はそれへ向けて指を指して、ルージュラに聞いてみた。出てきた声は、自然と、なんとなく諦めたような声だった。

    「……欲しいんだな?」

     ルージュラはこの日一番じゃないかと思うくらいの笑顔で、大きく頷いた。

     人混みをかき分けて屋台へ向かうと、丁度それらしき真っ赤なかき氷が、一人の青年の手に渡されていくところだった。連れらしいもう一人の青年にそれを突き出して、何やら揉めている。

    「バトルで負けたら食うって言っただろーが! 俺覚えてんぞ!」
    「やっぱ食えねえよこんなモン! どう見ても辛いの好きなポケモン用じゃねえか!」

     本来の罰ゲーム用途に使うとああなるらしい、という図から目を背け、改めてかき氷を注文し直す。人間の食べられそうな味も売っているから、そのメニューにも一通り目を通して。

    「あの激辛を一つと、メロン味一つ」
    「はいよ。七〇〇円ね」

     ルージュラが隣ですぐにでも小躍りを始めそうな様子で、氷が削られていくのを見ている。こいつにしてみれば好きな温度である冷たいものと、好きな味である辛いものが合わさった食べ物が食える機会なんてそうそうないから、楽しみにするのも分からない話ではない。
     紙コップに山盛りの氷が盛りつけられ、その上に見るからに辛そうな真っ赤なシロップがかけられていく。この赤さはイチゴ味と間違わないためなのか、いや違うな。
     最後にストローで作ったスプーンが刺さって、差し出された紙コップをルージュラが受け取る。続いて削られ始めた氷は僕の分だ。
     その音を聞きながら、僕は店先のペンを取る。書くことがはっきり決まったというわけではないけれど、なんとなく、今のルージュラの様子を見ていたら書きたくなったのだ。他よりも少しだけ、待ち時間が長いというのもある。
     スターミー型の短冊の上を、ペンの頭がこつこつと叩く。もやもやとした願い事は、うまく固まってくれない。

    「はいよお兄さん、メロン味置いとくよ」
    「ああ、ありがとうございます」

     ことんと音がして、側に出来上がったかき氷が置かれる。短冊は真っ白なままだ。んー、と唸りながら悩んでいたら、ルージュラが置いてあった短冊のもう片方、ピィ型のものを取っていった。スプーンに頼らず飲んだんじゃないかと思うくらいの速さだ。氷ポケモンだしできてしまうのかも知れない。
     何を書くのだろう、とその様子をしばらく見ていたら、ルージュラがペンで書き始めたのは、その口から出るのと同じ、人間にはよくわからない言葉だった。テレビの字幕で見たアラビア語を見ているような感じがする。
     ルージュラはそのまま迷いなくさらさらと謎の文字を書き終えて、ペンを元あった場所に戻すと、満足そうに短冊を顔の前に掲げてみせた。何を書いたのかは分からないが、おそらくは心からの願いなんだろう。
     そんな表情を見ていると、自然にこちらの筆も動いた。スターミー型の中心、本物ならコアのある部分に、小さな文字で詰め込むように。

    『ルージュラの嬉しそうな顔が、もっと見られますように』

     書き上げて隣を見てみると、頬を抱えたルージュラが真っ赤になっていた。そりゃあ、僕がルージュラのを見たんだから見られるだろうとは思っていたんだけど。
     その様子を見咎めた屋台のおばちゃんが、にんまりとした顔でこちらを見ている。

    「あらお兄さん、こんなに女の子真っ赤にしちゃって。まったく色男なんだから」
    「は、はあ……えっと、ちょっと失礼します」

     周囲からの注目もなんとなく集まっている。僕はかき氷の入った紙コップを取ると、さっと店の脇にある笹に、二人分の短冊をかけた。
     トゲのある形の真ん中だけが黒いスターミーと、落書きされたみたいにぐちゃぐちゃの文字が並ぶピィが、他の短冊に混じって揺れる。
     それを見届けると、視線から逃れるように、そそくさと僕らはかき氷屋台の前を後にした。

    「……にしてもお前、何書いたんだ? まさか、あのかき氷がもっといっぱい食べられますように、とかじゃないよなあ」

     道すがら聞いてみると、ルージュラは相当に驚いた顔でこちらを見返してきた。どうして分かった、とでも言いたげに。
     図星か、と問えば、黙って頷いていた。

    「わかったわかった、今度作るよ。タバスコとかだから、ああいう店で見たのみたいじゃないかもしれないけどさ」

     言うが早いか、僕の頬を強烈な吸い付き攻撃……いや、ルージュラのキスが襲った。愛情表現は嬉しいけれど、正直毎回痛いと思っている。
     ついでに今日は祭り会場の人の視線もプラスだ。ルージュラを引き剥がして、ふう、と少し溜息をついてみせる。

    「そーいうのは家でやって、家で!」

     ……ただ正直、ここまで愛されるの、まんざらでもない。



    ――――
    七夕と(私の)ノスタルジアとバカップル。

    飴細工の屋台を全く見ないんですよ。地元限定だったのだろうか。
    他にも屋台にしたら面白そうなのあったんですが、時間と息切れの関係上書けませんでした。

    【お題:ポケモンのいる生活(ポケライフ)】
    【スペシャルサンクス:#ポケライフ(Twitter)】
    【描いてもいいのよ】
    【書いてもいいのよ】
    【10分弱オーバー】


    | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 | 32 | 33 | 34 | 35 | 36 | 37 | 38 | 39 | 40 | 41 | 42 | 43 | 44 | 45 | 46 | 47 | 48 | 49 | 50 | 51 | 52 | 53 | 54 | 55 | 56 | 57 | 58 | 59 | 60 | 61 | 62 | 63 | 64 |


    - 以下のフォームから自分の投稿記事を修正・削除することができます -
    処理 記事No 削除キー

    - Web Forum Antispam Version -