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なんだこれはかわいい。メタルパウダーの使い方が違うとかそんなことはどうでもいいというくらいかわいい。
そんな話でした。
穴に落ちてもロッククライムで復活し、冷凍ビームで橋を作り、何としても仲の良かった友達そっくりな息子に追いつこうと奮闘するニドキングがかわいい。
息子が「ひー助けてー」みたいな感じで逃げてるのを、ニドキングは「むかしのともだちのにおいがするー♪」みたいなノリで追っかけてたのだと思うと口元がニヤニヤしてきますね。
町外れの山の奥、そこには薬屋を営む小さな一軒家がありました。
家に蓄えていた食べ物が無くなってきたために、近くに買い出しにいかねばなりません。
しかし、薬屋の主人は薬の調合。そして主人の妻は店の番があり、手が離せません。そこで、まだ幼さが残る一人息子に買い出しに行かせることにしました。
「いいかい、この紙に書いてあるものを買いに行くんだよ」
「うん、分かった!」
「山には凶暴なポケモンもいるが、お前はまだ自分のポケモンを持っていない。だから、これを持っていくと良い」
主人は息子に小さな巾着袋を渡します。息子が試しに広げてみると、中には紫色の粉末が入っています。
「これはメタルパウダー。困ったことがあれば、この粉に祈りをささげて辺りへまぶせば、お前の望んだ姿となってきっと助けてくれるよ」
そう言って、主人は息子を送り出しました。
買い物も無事に終わり、荷物を抱えて帰り道に着く息子。行き道は何事もなかった山の小道ですが、帰り道は食べ物の匂いがするからかポケモンの匂いが強くなりました。
しかし徐々に気配は近づいていきます。悪寒を感じた息子が後ろを振り返ると、そこにはニドキングの姿が。しかも一直線にこっちに向かっているではありませんか。
これに気付いた息子は大慌て。荷物を落とさないように抱え直し、出来る限りの早足で家へと向かいます。
そんな息子の前に広がったのは大きな川。しかし慌てて来たため橋まではかなり離れた位置に出てしまいました。
とはいえニドキングが近付いているのは確かです。自分よりも大きな体が迫ってくることにパニック状態に陥った息子は、巾着袋からメタルパウダーをまぶします。
「この川を渡らせろ!」
するとメタルパウダーがオーダイルに姿を変え、背に少年を乗せて川をすいすいと渡っていきます。
これで一安心。と思いきや、ニドキングは波を制して少年の後を追うようについてきます。
息子がモタモタしている間にニドキングとの距離はより詰まり、ついに足を緩めれば間もなく捕まるような間隔になってしまいました。
「落とし穴を掘れ!」
息子はそう叫ぶと、再び巾着袋からメタルパウダーを取り出しては、真後ろにまぶきます。
するとメタルパウダーはサンドパンに姿を変え、両手を素早く動かして、深い落とし穴を掘っていきました。
突進していたニドキングは、落とし穴の手前で急停止出来ずに穴に落ちてしまいました。
ほっとするのもつかの間、ニドキングは落とし穴の中に出来た僅かな凹凸の窪みを利用してロッククライムで地上に瞬く間に出てきてしまいます。
落とし穴から出てきたニドキングとの追いかけっこが再び始まるやいなや、すぐに谷に出てしまいました。
さっきの川と同じく行きと異なる道で来たため、たった一つだけ架かった橋は視界の遥か先です。となれば……。
「空を飛ばせろ!」
息子は残りのメタルパウダー全てを巾着袋から目の前にまぶきます。
するとメタルパウダーはエアームドに姿を変え、息子を乗せて崖をひとっ飛び。
流石にこれにはニドキングも唖然として動きが止まります。が、ニドキングは冷凍ビームを向かいの崖にめがけて放ち、細い氷の道を作って渡ってきました。
とはいえ、崖から家までは目と鼻の先。エアームドから降りて、息子は薬屋の主人の元へ転がり助けを求めました。
「お父さん! 助けてください! ニドキングに追いかけられました!」
薬屋の主人は息子を家に入れると、一人家を飛び出し自らニドキングの元へ近づきました。
息子は不安そうに見ていましたが、ニドキングは主人を襲うどころかむしろ無邪気に戯れています。
どうやらニドキングは昔、薬屋の主人と仲が良かった野生ポケモンだったようです。
ニドキングは食べ物ではなく、薬屋の主人と似た臭いの息子を追いかけていたのでした。
───
お久しぶりです。生きてます。
一年以上前の作品ですが、何気なく置いておきますね。これ以来もう長い間短編書いてませんわ……。
メタルパウダーの使い方違うじゃねーか! というツッコミに関しては二次創作なので大目に見てください。大目に見てください!
うおお!感想ありがとうございます!!
厳選作業すると、まあ当然、気に入らない個体値のものは逃がすわけですが
あれはゲームのシステムだから「にがす」だけなのであって
現実的に考えたら、「にがす」だけじゃ勿体無い、と思うトレーナーがいてもおかしくはないよなあ……と。
それで、孵化したてのポケモンに廃仕様のポケモンぶつけたらまずいだろうと。
そんなイメージで書きました。
知らないとはいえジャッジのお兄ちゃん罪深いですね。
読んでいただき、ありがとうございました!
バイト先の先輩の、お兄さんの友達の話なんだけど。
その人の名前、仮にAさんとしとこうか。
Aさんはその日、森できのみ採りをしていたんだって。
結構奥まで行ったみたいで、珍しいきのみとかあまり見られないポケモンとかもいて熱中してたら、気がついたらもう真っ暗だった。
腕時計で確認した時刻はまだ七時前だったけど、森の中っていうのは人里よりも早く暗くなっちゃうんだよね。こりゃまずいなー、迷わないようにしないとなー、って思ってたけれども足下も周りも見えなくて、やっぱり迷った。
おまけに、うっかりニドキングと鉢合わせしちゃったみたい。向こうも突然現れた人間に驚いたのか、すぐ攻撃されることはなかったけれども慌てて逃げまどったAさんは帰り道を完全に見失ってしまった。
手持ちにひこうポケモンはいなくって、連れていたのはユンゲラー一匹、テレポートを忘れさせたのをあれほど悔やんだことは無いってさ。
ガーディとかポチエナとか、ヨーテリーとか。鼻が利くのがいればまた違ったんだろうけどね。
ともかく、とりあえず歩いてみる他は無く、Aさんは森の中を回っていた。しかし何せ真っ暗だし、ヤミカラスとドンカラスは不気味に鳴いているし、グラエナの遠吠えは聞こえるし。むしポケモンの這うカサカサという音や、どくポケモンか何かが液体を垂らすような水音までして不気味でしょうがない。
イヤだなあ〜、どうにかならないかな〜、って思いながら震える足で地面を踏んでいた。折しも新月で空からの明かりも無く、暑くも寒くも無い中途半端な曇り空には宵の明星だけが鈍く光ってた。
と、何やら音がする。ポケモンの鳴き声じゃない。足音でも無い、水音でも無い。勿論風の音でも無い。ヤマブキとかコガネとか、タチワキみたいな繁華街で聞こえる音によく似ていた。大音量でがんがん鳴り響く音楽と、歓声悲鳴、そして怒号。狂ったように騒ぎ立てる、あの感じだ。
なんだろなー、って思って音の方へとAさんは行ってみることにした。木々の間を縫って音へと近づく。何枚目かの葉っぱをめくると、明かりが見えた。
ど派手なネオンサインにシャレオツぶった筆記体。ピンク、黄色、スカイブルーと目まぐるしく色を変えて光っている眩しすぎなそれは、人の手がほとんど入っていないような森の奥にあるはずの無いものだった。そんな場違いなネオンを見て、Aさんは呟いたんだってさ。
「ああ……ディスコ、か」
ってね。
森の中で夜を越すのは不安だし、ディスコなんて久しぶりだからせっかくだしとAさんは入ってみることにした。ほとんど剥がれたポスターの残骸でべたべたのドアを開けると、そこはなかなか本格的だった。
結構な人数がダンスに興じていたり、ところどころで乾杯していたり。バーカンも盛り上がってるし、フロアのど真ん中には紫色のハットに、これまた紫のダメージ加工なジャンパーを身に纏ったDJが客たちを煽っていた。
へ〜いいじゃん、なんて思ってフロアに混ざっていった。途中入場も可能だったらしいね、曲の最中で現れたAさんのことをみんな笑顔で出迎えてくれたんだ。4つ打ちのEDMに合わせて足を動かし、声を上げ、一緒くたになって踊り狂う。ぐるぐると回るミラーボールは、極彩色をフロアに落として冥府の王みたいな存在感を放っていた。
踊り疲れてきたのでちょっと休憩するか、とバーカンに向かう。みんなまだまだ踊っている、元気だなー、よくあんなに動けるなー、って感心しつつ喧噪から距離をとる。色に満ちたフロアとは違ってこちらは光が少なくて心地よい薄暗さ、蒼の照明がい〜い雰囲気。
季節も夏だしそういうキャンペーンなのか、白の浴衣を着たかわいい女の子に、生ね、と声をかける。はあい、なんて氷柱をつついたような透き通った声で笑った女の子は、赤い帯を揺らしてビールを手渡してくれた。チャージ料金三百円、プレミアムモルフォン一杯六百円、あたしのスマイル百円になりまあす、だなんてかわいい笑顔で言ってくるもんだからついついお札一枚渡しちゃったんだ。ありがとうございまあす、カウンター越しの彼女がそう言った時に、首のあたりがひんやりしたかもしれない。
実質千円のビール、まあこういう所では高くても仕方ないからこんなものさ、に口をつける。冷たい。凍るように冷たい。ありえない冷たい。こおりタイプの飲み物かよっていうくらい冷たい。っていうかガチで氷が入っていた。
ビールに氷だと? いや、それが好きな人もいるらしいし美味いという情報もある。だけど大多数の人はいれないだろうし、欲しかったら自分で言うだろうから普通、最初からは入れないだろう。っていうか薄まるじゃないか。
怪訝に思って女の子を見る。視線に気がついた女の子は、テキーラを棚から出す手を止めて、あっその氷あたしの特製ですう〜、なんてにこにこしている。悪気は無さそうだからそれ以上何も言えなくて、一気のみ不可能なビールをちびちび舐めながら適当に頷く。
特製って何のこっちゃ、冷凍庫で水固めただけだろ、てな具合に疑問はまだあるけど、ビールに関してこれ以上言っても仕方なさそうだ。話題を変える。お嬢ちゃん、ここのお客さんたちはすごいんだねえ。さっきからずっと踊ってるのに、ぜんっぜん疲れてなさそうだもん。その声に応えたのは袖を口元によせてきょとんとしてる女の子じゃなくて、いつの間にいたのか、隣でウイスキーの瓶を開けていた男だった。気配も何もなく、すぐ傍で当たり前のような顔をしてグラスを煽るその姿に驚くAさんを意にも介さぬ様子で男はふん、と鼻を鳴らす。
「兄ちゃんそりゃあ当たり前よ。あいつらのこと、よく見てみい」
酒臭い息を吐きながら、その男はにやにやと言った。まるでぼろみたいな灰色のコートは所々に穴が開いてる。ベージュの襟巻きは布切れの如くぺらっぺらだが、どうして屋内のしかもディスコで、それを外さずにいるのだろう。同じくらいの色で同じくらいぼろぼろの帽子の鍔は深く、髭面の目を拝むことは出来ない。
不気味な雰囲気に気圧されつつも、男の言葉にフロアを
振り向く。何もおかしいところはない。みんな楽しそうに踊っている、ミラーボールの光が彼らを照らして代わる代わるの斑点模様を作り出している。
光、というのにふと考える。光があれば影が出来る。それは当たり前のこと、ガーディ西向きゃ尾は東、てな感じだ。
だけど気づいてしまったんだ。ここのディスコにいる人みんな。観客もDJも音響のエンジニアも、みんなみんな。あっちで踊るイカした兄ちゃんも、こっちで笑う派手めの姉ちゃんも、観葉植物に話しかけてる酔っぱらいもみんなみんなみんな。
みんな、影が無かったんだ。
そしてもう一つ、あんなに踊り狂っているのに、足音が全く聞こえない。そりゃあそうだ、みんな足が地についていないんだから。例えじゃない、マジな話。
Aさんの全身の毛という毛がぶわあっ、と逆立つ。あまりの恐怖に、彼、持ってたグラスを落としてしまったんだ。おいおい大丈夫か、と隣の男が苦笑しながらAさんを見た。
一つだけの、赤い目でね。
うわあー!! Aさんが叫んだ時、彼は既に人間じゃあ無かった。どっしりとした、しかし触れれば貫通する鼠色の体躯を持った一つ目のゴーストポケモンさ。サマヨール、下手したらあの世に連れていかれちゃうかもしれない、Aさんはまひともうどくとメロメロがいっぺんにきたみたいな状態の足を動かして男から離れようと席を立った。
お客さあん、どうしたんですかぁ? バーカンの可愛い女の子も既に可愛いとか言っている場合ではなくなっていた。かわいさよりもどちらかと言えばうつくしさコンテスト向きの、こおりゴースト複合ポケモンに変わっちゃってたんだ。嘘みたいに冷たい吐息を悩ましげに吐いた彼女、ユキメノコが首を傾げると、Aさんの落としたグラスからこぼれ出たビールが一瞬にしてこおり状態になってしまった。
次は我が身、オーロラビームかふぶきか、はたまたぜったいれいどか。別にこおりわざを食らったわけでもないのに、Aさんの体温は一気に急降下した。こうかはばつぐんだ!
あっすいませぇん、お客さんに当たっちゃいました? ユキメノコが見当違いな心配をしてくれる。寒いですよねぇ、ごめんなさいですぅ、と相変わらず声は可愛らしいけれどもつり上がった目はファイアーのにらみつけるにも匹敵する恐ろしさだった。そんな自覚がまるでないユキメノコは、今すぐあっためてあげますぅ、と手を叩く。ぶわりと冷気及び粉雪が舞い上がり、カウンターの板がスケートリンクに進化した。
主に寒さでは無い理由で震えていたAさんの前にあった照明の蒼い炎が一気に燃え上がる。簡素な作りのランプだったそれは瞬く間に膨れ上がり、明るいけれども虚ろな目でAさんを見つめた。息を飲んだAさんの眼前で、照明がぐにゃりと大きく曲がる。そのままぐるりと一回転した照明ことランプラーが、自分の存在を誇示するみたいに炎の燃える両腕をAさんへと突き出した。
ひゃあ、とかひょええ、とか、声にならない声をあげてAさんはカウンターから弾かれるようにして遠ざかった。冷や汗だらけのAさんの背中を男の声が追いかける、「嬢ちゃんダメだよ、この子のおにびじゃあこおり状態には効かないよ」。違う、そうじゃない。けどそんなこと指摘している場合でもない。
ひいひい言いながらフロアへ戻る。一刻も早く外に出なければ、しかし客で混雑していてなかなか進めない。足をもつれさせるAさんに誰かがぶつかった。おっとすみません、反射で謝る。
「どうしたのお兄ちゃん、大丈夫?」
ぶつかったのは小さい男の子だった。悪魔の角つき帽子にオレンジ色の半袖Tシャツ、ちょっとやんちゃが入ったじゅくがえりな風貌の彼にAさんは状況も忘れて、こんなところに子供一人で来ちゃだめだよと提言する。
「一人じゃないよ。お母さんときたもん」
お母さん? 尋ねたAさんに男の子は「ほら、あっち」とAさんの後ろを指さした。振り返ったAさんは何か柔らかいものにぶつかった。ぶわりと広がるピンク色の影から黒い球体が現れる。薄暗い照明の中浮かび上がったそれは、超特大サイズのパンプジン!!
「あら、ごめんなさい。私の息子が」
どこから出してるのかわからないその口調はおだやかだけど、Aさんよりも大きなこわいかおはおぞましく光り輝いている。おかあさーん、と無邪気に飛びつく男の子の胴体がみるみる内に丸く膨らんでいくのを視界の端から追い出しつつ、Aさんはとんぼがえりで逃げ出した。
どうなってるんだここは、と泣き叫びたくなるのを必死で抑えつつドアへと向かう。一刻も早く逃げ出さなくてはと息を切らして走るAさんの腕を誰かが掴んだ。呼吸が止まるくらいに冷たい感覚、そしてびちゃりと濡れた感触。
「ちょっと〜、もう帰っちゃうの〜?」
自分の腕を掴んでいたのはド派手かつグラマーなレディーだった。真っピンクに染めた長髪と、それと同じ色をした露出が極端に低いワンピース。スリーサイズの全てにおいて個体値高めの彼女はぽってりした紅い唇を尖らせた。
「こっからが楽しいのよ〜? まだ踊りましょうよ」
コケティッシュに首を捻る、雰囲気も相まってメロメロ状態になりそうだったけれども、彼女の後ろにいるこれまた恰幅のいいド派手な男が水色の髪を撫でつけながらいかくしてきたために一歩退く。そういえばこの女、妙に手が濡れている。手汗がひどい、うるおいボディな人なのか? そう思っているAさんの頬を女はちょんと軽くつついた。
「帰っちゃだーめ、ね〜?」
拗ねたような女が頬をぷくっと膨らませる、しかしその膨らませ方は尋常じゃない。白のふわふわな襟さえもはちきらんばかりに膨れ上がった頬の真ん中、つぶらな瞳の女にAさんは気がついた。違う! ボディはボディでも……のろわれの方だ!!
まとわりついていた触手を強引に振り払い、びしゃびしゃになった腕を動かして無我夢中で女を突き放す。既にグラマーどころでは無くなっていた女の身体はぐにゅりと弾力たっぷりにAさんをはじき返した。
ちょっと酷いじゃな〜い、なんて声も鼓膜を素通りしていく。足はまだ動く、ありがとう意外と低い70パーセント。
とりあえず走る。何が何でも走る。しかし人混みのせいでうまく進めない。フロアの片隅に設置された観葉植物が植木鉢から根を引き抜いて飛び出し、幹をうならせ、枝を揺さぶって邪魔をしてくる。低音を響かせるウーファーが、ワブルベースのサウンドだけでは飽きたらずにケタケタ笑いの毒ガスを吐き出している。壁に沿ったロッカーは片っ端から針金みたいな手を生やし始め、無機質なネズミ色を鮮やかなブルーと黄金色に変化させている。ずらりと並んだロッカー、否、もはや荷物では無くミイラを眠らせる棺桶となったそれらの全てが赤い眼をぎょろぎょろと向けてきて、Aさんをかなしばる。それでもまだ、まなざしが赤で助かった。これがくろだったらにげられない!
耳が片方取れたミミロルや眼球が行方不明なヒメグマにつぎはぎだらけのニャオニクスと、ひたすら不気味なぬいぐるみを大量に抱えたゴスロリ女がAさんの逃げまどう様子を見て、錆びた金具みたいな口を笑みの形そのままに裂いていく。
血色の悪い顔に薄い色つき眼鏡をかけ、紫に染めた髪の毛をやたらと逆立てた男がにやにやと笑う。両耳のピアスは合計いくつだろうか、首飾りや腕輪、ダメージ素材の服に腰の上から巻かれたベルト、大量のアクセサリーがリズムに乗って身体を揺らす男の動きに合わせてじゃらじゃらと音を立てる。その全てについた宝石はぎらぎらと悪趣味に光っていて、黒のレンズの向こうにある瞳には白目も黒目も無く、ただただ一際強い輝きを放つだけの石ころだ。
でっぷりと太った丸顔の男が、慌てふためくAさんに気がついて道を開けようとしてくれた。しかし体積の大きいその身体が移動出来る場所などどこにもない、くりっとした眼を困ったように揺らした巨男は、元々膨らんでいた頬をさらにぷっくりと膨らませ、そしてあろうことか浮き上がりやがった。スーパーなブラザーズの赤い方以上の太りっぷりなのにまさかのふゆう、「これがウワサの風船おじさんか」なんて言ってる場合じゃない。
あっちを見てもこっちを見ても、まともな人間なんて一人もいない。こんらんどころの騒ぎでは無い、にたにた笑いを浮かべながら紫電を放ち、ぎゅんぎゅんと猛スピードで回転しているミラーボールの光の粒から逃げるようにして走る。
ようやっと出口にたどり着く。息切れも構わず重い扉に手をかける。一刻も早くここを出たい、流れるミュージックはタマムシゲームコーナーの如く軽快なものだが、こっちにとっちゃあシオンタウンβ、もりのようかん、それかアルフのいせきで聞くラジオのようなものだ。
森の闇につながる扉を開きかけて、ふと視線を感じた。思わず振り返る。抜け出るのに苦労したはずの、混みまくっていたはずのフロアの中央だなんて絶対に見えるわけも無いのに、何故か目が合った。フロアを回してオーディエンスを沸かせているDJ、ど真ん中のブースにいた彼女と目が合った。
長い長い髪を紫ピンクに染め上げて、同じ紫の袖に包まれたほっそい両腕をせわしなく動かしている彼女はAさんをじっと見据えた。赤く光る両目に睨まれて、Aさんは扉を開きかけたまま動けない。
髪をばさりと揺らして、DJがにいっ、と鮮やかな赤いルージュで飾った唇を歪ませた。薄暗いフロアと断続的な明滅を繰り返す照明による極彩の光、蔓延している汗と酒の匂い、耳にがんがん響くダンスミュージック。その全てを従えた彼女はこのディスコの女王、そんな笑顔に魅せられて、こんな時だというのにAさんは見とれてしまう。動きを止めたAさんに、DJの彼女は、歌うように囁いた。
「また、いつでもいらっしゃい」
クラブイベントで、ただの話し声がフロアの中央から出入り口まで届くはずがない。彼女のそれは声じゃなかったんだね。ほろびのうた。それを聞いたきっかり3秒後、Aさんはめのまえがまっくらになった。
で、結局、気がついた頃には朝になってたらしい。
寝ころんでいたその場所にはディスコなんて影も形も無くて、木々が無秩序に生えているだけだったんだって。
でも、ちょっと調べてみたんだけどさ。
そこ、オカルトマニアの間では、結構なメッカなんだよ。
ゴーストポケモンのたまり場ってウワサだよ。
Aさんは言った。
「ムウマージは、呪文によって相手を苦しめることが出来るんだってな」
「呪文と言っても、それが鳴き声による言葉だけとは言いきれない。もしかしたら、自由自在に音楽を聞かせることも呪文の一種なのかもしれない」
「だとしたら、あの夜のDJ、彼女も呪文を使っていたんだろう」
「だけど、あれは苦しめるための呪文じゃない」
「ムウマージの呪文には、相手を幸せにする効果もあるそうだ」
「あれは、そういう類の方だった」
ってね。
だから、先輩のお兄さんは聞いてやったんだ。
幸せになれるなら、また行きたいとは思わない? ってさ。
そしたらAさん、首をぶんぶん振って、「とんでもない!」だって。
あんな怖い思いするのは、もう二度とごめんなんだってさ。
「だけど」Aさん付け加えた。
付け加えて、最後にこう言った。
「もし次に行ったら、もうちょっとは楽しめるかな」
感想ありがとうございました……!
病んでる……シビルドンは人間が水中じゃ生きていけないって知らないのでその……
あと、とりあえず喋らせるわけにはいかないので、行動面で直球勝負にしたのが原因ですね……。
ペラップと、それからツタージャの話は元々それぞれ独立した短編として発表しようと思ったのですが
あまりにも救いようがなくなってしまったので1エピソードとして使いました。
読んでいただき、とても嬉しいです!
ありがとうございました!!
焼き肉さんこんばんは。
そのひとの正体をぼかしすぎて話の内容までぼやけてしまったので、やっちまったな!って感じなんですが、感想いただけて嬉しいです。
個人的にそこはちょっと気に入っていたので、好きって言っていただけて感無量です!
逢えたかどうかは…読んだ方の心の中で…。
感想ありがとうございました!
七夕の夜のこと。
都会を遠く離れた田舎にひとつの神社がある。そこは小高い丘の上にあり、鳥居に続く石段からは町並みを見下ろすことができた。
街灯が点々と夜道を照らす中、しかしその神社では軒下の電灯がひとつ、境内で虫を集めるのみ。管理が行き届いてないのか、主立った明かりは幽霊か狐の作る鬼火だった。
まさに肝試しの場にしかならないような場所だが、そこに人影がふたつ。石段に腰掛けて夜景を眺める男女の姿があった。
「やってるなぁ」
「まぁ、よう燃えとろうなぁ」
毎年の行事を男は微笑ましく思いながら、方や女は片膝に頬杖をついて眠そうに、目を細める。
両名の視線の先には、町の一角を橙に照らす大きな明かりがあった。もうもうと煙を立てるそれは七夕の笹を燃やす火だ。町中の短冊と笹を集め、まとめて火にくべられていた。
短冊にこめられた願い事は煙となって空の神様のもとに届けられ、やがて叶えられるだろう。そんな人々の神頼みを、あざ笑うように女が言う。
「ああも大量に送られては、お空の神様とやらも手一杯であろうに」
煙の中にどれだけの願いが詰まっているのか。無邪気な風習だと呆れつつ、男から手土産にともらったいなり寿司を頬張った。
そうぼやく女に、男が串団子片手に言い返す。
「確かに多いが、急ぎのお願いなんてのは短冊には書かないだろ。神様には、少しずつゆっくり叶えてもらえばいいんだよ」
「あの量を少しずつか。は、ずいぶんと気の長い」
「そういうもんさ。いつか自分の番が来る。そう信じるんだよ、人は。良い話じゃないか、夢があってさ」
「夢のぉ。そんな程度……」
偏見混じりの男の言葉に女は思う。その程度の願いなら、叶う頃には願ったことさえ忘れているんじゃないか。神に頼るほどのこともないのではないか、と。
「ん?」
「いや、そんな程度なら、神様に頼らんでもそのうち叶えられるのではないか、とな」
「あー、その時はその時だろ。神様が、自分で願いを叶えられるように導いてくれた、ってな」
なんとも前向きな思考だ。いよいよ女も呆れ果て、鼻で笑った。
「盲信ここに極まれり、じゃの」
「そう言うなよ。どうせ、将来の目標みたいな感じで短冊に書くんだからさ」
「将来の目標、のぅ」
我が事のように言う男に、女の興味が向いた。男の顔をのぞき込みながら、口の端は上がり、目がいっそう細くなる。
「かく言うお主は、なんと書いたのかや?」
「黙秘します」
いたって自然に断られた。しかしそれではおもしろくないと女は口を尖らせる。
「かーっ、なんじゃい、生意気な口をききおって。
目標と言うからわしが生き証人となってお主の行く末を見届けてやろうとちょいと世話を焼いてみれば、これか。
そんな人に言えんような目標なぞ墓まで持ってくが良い。どうせ達成できたところで自己満足にしかならんからな。
わしは知らんぞ。目標達成の暁には労いの言葉のひとつぐらいくれてやろうかと思うたが、もう知らん。勝手に一喜一憂するが良いわ」
「拗ねるなよ、面倒くせぇな。おまえ、こういう願掛けの類は他人に言ったら効果がなくなるって、よくいうだろう?」
「そんな迷信、気休めにもならんわ。だったら何ゆえ人目に付くような笹の枝に短冊を吊す」
「個人を特定されなきゃ大丈夫だろ」
「大雑把にもほどがあるのぉ〜……」
細かいのかいい加減なのか。苦々しく顔を歪ませる女に、男はため息をついた。
「そうは言うがな。忘れた頃に叶ってラッキー、そんな程度なんだ。ことさら、達成を労ってもらうようなもんじゃない。それに……なぁ」
「それに?」
「失敗したら、おまえ、笑うだろ?」
「…………」
女は目をそらした。
「……そんなわけだ」
「あ……いや、返事に窮したのは、笑うからではないぞ? 目標の種類によると思って、どう返そうか迷っただけじゃ」
「いーんだよ。どうせもう俺の短冊は煙になってる頃だ。神様、織姫様、彦星様、何卒よろしくお願いします、ってな」
言って、男は団子をかじった。
幸いにして今夜は晴天。明かりの少ない土地柄、見上げれば天の川がはっきりと見えた。しかし風に乗って夜の闇に消えていく願い事たちが、はたして空まで届いてくれるのやら。
だが男の投げやりな態度に、女は納得しない。
「これ、弁明も聞かずに不貞腐れるな。わしばっかり悪いようにされて納得できるか」
「あぁ、そりゃこっちも悪かった。いいからこれでも食って少し黙ってな」
「な……んむ」
女の前に串団子が一本、突き出された。それに女はかじりつき、男の手からもぎ取る。
食わせれば黙るという算段か。少々癪に障ったが、団子一本に免じて女は黙ることにした。
「…………」
その団子がなくなるまでの少しの間、男は夜の音に耳を澄ませる。
ひと気のない神社で聞こえるのは、虫の声と幽霊のすすり泣きくらいだ。泣き声は不気味と思うが、その正体が知れていれば怖くもない。複数のムウマによるすすり泣きの練習風景を見てしまって以来、むしろ微笑ましかった。
そんな折に、男の耳に遠くから拍子木の音が届いた。「火の用心」と声が聞こえ、もうそんな時間かと腕時計を眺める。
「……里の夜景は楽しいか?」
「いや、あんまり」
団子を食い終わったか、女が話しかけてきた。しかしその内容には、いささか同意しかねる。
田舎の夜は控えめに言っても退屈だ。黙って見ていると眠くなってくるし、眠れば幽霊からのいたずらが待っているのだから。
「その割には、向こうの明かりをじっと見ておったがなぁ」
「……そうだったか?」
言われて自覚がないことに気づいた。そろそろ眠気がひどいようだ。調子が悪いか、そろそろ帰って寝るか。思いながらまぶたを揉む。
「眠いか」
「それも、ある。ただ向こうの焚き火、雨降らなくて良かったな、って」
言って、男はふと思い出した。
「……そういや、天気予報じゃ雨じゃなかったか? 今日って」
「予報なぞ知らんな。しかし、昼ぐらいまでは確かに曇り空じゃったのう」
両名が見上げる空は、満天の星空。雲はひとつとして見当たらない。
「はてさて、どこぞのキュウコンあたりが“ひでり”で雲を消し飛ばしたのやもな」
「キュウコンなぁ…………おまえ……」
「さーて、わしには心当たりなんぞありゃせんなー」
白々しいというか胡散臭いというか。なんとも人を馬鹿にしたような女の態度だが、しかし女は続ける。
「言っておくが、わしはむしろ七夕は曇り空であるべきと思うとるからの」
「そりゃまた、ずいぶんひねくれたことで」
「ふん。七夕とは、愛し合いながらも離ればなれの男女が、一年の中で唯一会うことが許される日という」
「今更なことを言うなぁ」
「その今更じゃがな? 考えてもみよ。一年もご無沙汰の男女が再会したならば、ナニをするか……」
「……ぁ゛あ゛?」
何かを企むようにニヤニヤと語る女に、なんとなく理解した男は何を言い出すこの女、と信じられないモノを見る目を向けた。
「快晴にして見通しも良く、衆人環視の真っ直中で……というのは恥ずかしかろーなぁー」
「おまえ、それって……ぁあ、下品なっ!!」
「か、か、か! 下品で結構。そういう見方もあって、わしに“ひでり”の心当たりは無い。それさえわかってもらえれば充分じゃ」
それだけ言って、女は満足げに鼻で笑った。そう堂々とされては男は黙るしかない。これ以上口出ししても、自分ばかりが騒いでいるようで馬鹿馬鹿しいではないか、と。
「ったく……」
「何にせよ、今夜は快晴じゃ。こうして天の川を見れた。短冊を燃やすのもできた。それを幸いと思うが良い」
まったくもってそのとおりだが、男はうつむいて唸るばかり。騒ぎの原因にそう言われて素直に従うのは、ただただ癪だった。
しかしそうやって下を向いていたから近づく影が見えず、女に背を叩かれることとなった。
「……んむ、少々声が大きかったか。ほれ、お迎えじゃ」
拍子木の音と「火の用心」という声。顔を上げれば、石段の下で錫杖を持った男性と拍子木を手にしたヨマワルが鬼火に照らされていた。
男性とヨマワルの目がこちらを見上げて、
「ひのよぉーじん」
ヨマワルが拍子木をちょんちょん、と鳴らす。もうそろそろ夜も遅いぞ、と。そういう意味である。
「あー……じゃぁ、今日はこれまでだな。もう帰る、おやすみ!」
「おぉ、気をつけて帰るんじゃな」
「あぁ、またな」
団子の串などのゴミを抱えて男は石段を下りていく。やがて夜回りの男性達と共に夜の町に姿を消した。
そして夜の神社に女だけが残る。
「……どれ、わしもひとつやってみるかの」
つぶやき、女が取り出したのは町で配られていた短冊の一枚。本来ならば町の笹と一緒に燃やすものであったが、女はそれを今の今まで持ち続けていた。
願いを書かずに持っていたのだが、そうこうしているうちに焚き火は終わってしまった。だが女は構わない。
白紙の短冊を左手に持つと、右手の親指に歯で傷をつけ、出た血を人差し指につけて文字を書いてゆく。そうして願い事を書き込み、掲げる。
「この場に笹は無いが、ま、燃えれば同じであろう」
そして「いざ」と息を吹きかければ、短冊はたちまち火に包まれ、細い煙を残して灰となって消えた。
「さて、期待せずに待つとするかの」
その言葉を残して女は夜に溶けるように消え去り、後には、
――――コォーーーーン…………。
狐のような声だけが夜の境内に響きわたった。
* * * * *
まず、あつあつおでん様、ネタ拝借と言う形になりましたが、樹液に集まる虫のようにありがたく思いながら使わせていただきました。。
お付き合いいただきありがとうございました。MAXです。
あつあつおでん様のネタから「夜のひでり状態」を見て、「雲が晴れるだけなんじゃないか」と考えた7日の朝。
キュウコンとおしゃべりをするなら古びた神社でこんな具合でしょう、と地元を想起しながら作り上げたこれ。
ジジイ口調の女性と言うステレオタイプなキャラができましたけども……。
書いてて思いました。久方様のある作品と舞台が似てる、と。
だ、大丈夫でしょうか! ちとツイッタで聞いた限りでは概ね寛容でございましたが、自分の説明を誤解されてしまっていたやも……。
不安の残したまま動いたことを謝ります。難があれば即時退去いたします。と、これ以上はネガティブなんで、以上MAXでした。
【批評していいのよ】【書いてもいいのよ】【描いてもいいのよ】【申し訳ないのよ】
夜が明けるまでは七夕だぜ!
そう言い聞かせながら、短いながらも仕上げてみた二つの作品を上げておきます。
……やっぱり、日付的にはアウトな気がしますが、よろしくお願いします。(苦笑)
『まずは灯夢という狐からの願いでアル! みたらし団子をもっといっぱい食べられるようにでアルぜー!! 腹壊すなよでアルヨー!! 』
コジョンドの波動弾が思いっきり、夜明け前の空に消えていく。
『次は日暮山治斗という奴からの願いでアルぜ! みぞ打ちが週に一度だけに減りますようにでアル! っていうかあきらめんなでアルぜー!!』
コジョンドの気合の入った波動弾がまた夜明け前の空に消えていく。
『今度はわらわっちメタモンからでアル! 商売繁盛アルぜー!! にっくいでアルねー!!』
コジョンドの叫びと共に波動弾が夜明け前の空に消えていく。
『次はミュウツーっていうやつからでアル! 借金返せますようにでアルぜー!! というかさっさと返せでアルぜー!!』
コジョンドのおたけびと共に波動弾が夜明け前の空に消えていく。
『続いて長老っていう狐からの願いでアルぜ! 池月とエリスがいつまでも中むつまじくラブラブでありますようにでアルヨー!! 池月ー! また今度、ワタシの新技を受けてくれでアルぜー!』
コジョンドの力を込めた波動弾が夜明け前の空へと消えていく。
『気合だ! 気合だ! 気合だ! で、アルぜー!!!』
コジョンドの全身から爆発音を立てながら波動が溢れる。
『ワタシからのお願いでアル! ワタシより強いやつに出会えますようにでアルぜぇぇぇえええ!!!!』
コジョンドの――。
「あああああ!! もううるさい! だまれぇぇえ!! ワンパターンすぎなんだよぉ! この野郎がぁああ!!」
『おぉ、なんか夜空から現れたと思ったら。ワタシはあんにんどうふでアルね、よろしくでアル』
「あぁ、それは丁寧にどうも、ボクはジラーチ、よろしくね☆ ……って、アホかっ!! もう朝だ、朝!」
『およ? なんか、おでこにタンコブができているでアルが大丈夫でアルか?』
「てめぇにやられたんだよぉおおおお!!」
『おぉ! さすが、ワタシの波動弾でアルね! まさにビックバンでアル! 照れるでアルぜ、礼ならいらないでアルぜ?』
「あほかぁああああ! もういい! 話が進まん! ちょっと狐好きの蛇野朗こいやぁあああああ!!」
※この後、責任持って、(半黒こげの)巳佑が短冊を笹竹にくくりつけました。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
というわけで、かなり遅刻してしまいましたが、私も短冊をつけさせてもらいました。
『いっぱい絵や物語がかけますように、また出会えますように』
『単位がもらえますように』
『学生の間に一回は水樹奈々さんのライブに行けますように』
よし、後もう一つ。
『某ロコンにみぞおちでやられませんように』
ありがとうございました。
【七夕限定のコアラのマーチもぎゅもぎゅ】
【みんなの願い、星に届けー!】
滑り込みセーフ! ε=\_○ノズザー ……え? アウト? 気のせいじゃないですかね。きっとまだ7月7日です。そうに違いない。
と言う訳で数キャラに短冊書いて貰ったんですけどね、ライチュウの奴の以外名前が無いという事態。ポケモンは種族名で表記出来るから良いもののこういう時に困りますね。
とりあえずれっつらごー。
「ライチュウを使うトレーナーが増えます様に コッペ」
「早く良いイーブイが生まれる様に とあるトレーナー」
「イーブイ飽きた。他のが食べたい カイリュー」
「尻尾を枕にさせてくれるキュウコンが手に入ります様に 回答者5」
「いつかまた虹が見られます様に キュウコン」
「ヤミラミにじゃんけんで勝てます様に エビワラー」
「ルカリオのポケモン図鑑の説明文で波導と書かれます様に 門森 輝」
少し遅刻してしまいましたが願いが叶う事を祈ります。30分位なら許容範囲ですよね! 駄目ですかそうですか。
何はともあれ皆様の願いが叶います様に!
【滑り込みアウト】
【皆様の願いが叶います様に】
毎年こうだが、目の前は人、人、人。浴衣を着た少女が数人のグループで歩いていたり、家族らしき数人が固まって歩いていたり。年齢層は若い顔が多い。そりゃあ、老人がこんなところに来れば人混みで大層疲れるのは目に見えているけれど。
両脇に並ぶ屋台も、たこ焼きや綿飴、かき氷といった定番のものから、ハクリューポテトなる謎の食べ物まで多種多様だ。そしてその店の脇には、必ず一本の笹が立ててある。
今日はタマムシシティ大七夕祭り。老若男女ポケモンを問わず、誰彼もが星に願いをかける日だ。
『ただいま会場が大変混み合っております。モンスターボールの誤開や盗難を防ぐため、ポケモントレーナーの皆様はボールの管理に十分お気をつけください……』
そうアナウンスが聞こえる合間にも、きゃ、と短い女の叫び声がして、モンスターボールの開閉光が夜店の明かりに負けじとばかりに輝く。そちらの方を見れば、出てきたヒメグマが他の客に体当たりしそうになっている。
これが進化後でなくてよかったな、と心中で独りごちる。流石にこの混雑の中に大型ポケモンを持ち込むような非常識なトレーナーがいるのは困る。
隣を行くルージュラくらいが、常識的に受け入れられる最大サイズだろう。これでも道行く人の中には、たまに怪訝そうな視線を投げてくる人もいるけれど。
「とりあえず、一通り店回ってみようか。どっかの店でペン貸して貰って、それも書こう」
そう問いかけると、僕のシャツの裾を掴んでいるルージュラはこくこくと嬉しそうに頷いた。その手には、スターミーとピィの形をした紙が一枚ずつ。
入り口で配っていたもので、もう形からして短冊と言えるのかはよくわからない。配っていたのを見た限りでは、ヒトデマンやスターミーにピィとピッピ、それに三つの願い事を書けるジラーチのものなんかもあった。
三つも願うと欲張りすぎて逆に叶えてもらえないような気がする、と思って、僕らは一枚ずつ、一つの願いを書く短冊をもらった。
出店横に笹がありますので、と言われたが、もうどの笹も短冊でいっぱいだ。今まさに短冊を笹にかけていく人の姿も見える。
それを見ながら人波に流されるように歩いて行って、まずは気になった「ハクリューポテト」と大書された屋台の前で立ち止まる。ご丁寧に直筆らしいハクリューの絵もセットだ。
「いらっしゃい! どうだいお兄さん、そっちのルージュラと一緒に食べてかないかい? うちはポケモン向けの味付けもやってるよ!」
言いながら店主が示したのは、ジャガイモを厚くスライスして、原型を残したまま串に刺して揚げたような食べ物だった。フライドポテトの一種だろうか。
しかし何故これがハクリューなのか、僕にはちょっとよくわからなかった。ジャガイモがそれらしいというわけでもないし、フレーバーにそんなイメージのものがあるわけでもない。
「これ、なんでハクリューって言うんです?」
「ああ、これな。ちょっと切り方に工夫がしてあって……」
店主は刺してあった一本を手に取ると、僕とルージュラの前でくるくると回して見せた。輪切りだと思っていたそれはよく見れば螺旋状で、相当心を広く持って見ればなるほど、長いハクリューの体に見えなくもない、気がする。
「こうやって全部一繋がりにしてあってな、ほら、ハクリューが使うだろ?『たつまき』。形が似てると思ってな!」
「……そっちなんですか? てっきり、ハクリューの体が長いのに似てるからかと」
「いやー、最初はそのまま『たつまき揚げ』とかにしようと思ったんだが恰好がつかなくて」
がはは、と豪快に口を開けて笑う店主に、僕もつられて笑いを返す。ルージュラはじっと興味深そうにポテトを見ている。
「おじさーん、ケチャップ味とポケモン用の苦いのに渋いの、一本ずつちょうだい!」
「人間用一本とポケモン用二本で千円だよ!」
Tシャツ姿の少年が、隣から千円札を突き出している。僕はスペースを作るために、少し脇へ寄った。少年はお金と引き替えにポテトを三本受け取ると、手に持ったジラーチ型の短冊を店横の笹にかけて、後ろの人混みの中に消えていく。
少し内容が気になって、その中身をこっそり横目で覗いてみた。
『チャンピオンになる! トモキ』
真ん中の短冊に力強く大きな、でもお世辞にも読みやすいとは言えなさそうな字が書いてある。両脇の短冊には、「ガウ」「ポポー」の名前と一緒に、ポケモンの足跡。前者の方は短冊からはみ出して、ジラーチの顔に被っている。
なるほどこういう使い方もあったか、と感心した。一人が三つ願い事を書くのは欲張りかもしれないが、三人で一つの大きな願い事を書くなら、叶う確率はもしかしたら上がるかもしれない。
そう思っていたら、シャツの裾がぐいぐい引っ張られた。そちらを見れば、種族に特有の不思議な言葉を発しながら、ルージュラがポテトを指差し何事か訴えている。見ているうちに食べたくなってきたのだろう。
「わかったわかった。……おじさん、ガーリック味とポケモン用の辛いの一本ずつ下さい」
「はいよ! ……ん? 辛いのでいいのかい? ルージュラっちゃあ氷ポケモンだろ? 苦手なんじゃないのかい?」
「あ、いいんです。こいつ、氷ポケモンなのに辛い味が大好きで」
「ほー、見かけによらないモンだねぇ……人間用とポケモン用一本ずつで六五〇円だよ!」
小銭入れから七〇〇円出して、釣りの五〇円とポテトを受け取る。一本はすぐルージュラに渡しておいた。代わりに手の空いた僕が、ルージュラの持つ短冊を受け取った。
トゲトゲしたスターミーと、それよりは丸みを帯びて文字を書くスペースの取り易そうなピィの形をした短冊には、まだ何も書かれていない。
どこか空いたところを探さないとな、と思った。列を作っていた人が後ろから来ているのでは、願い事を書くために店の前を占領してはいられない。
『迷子ポケモンのお呼び出しをいたします。トレーナーID61963、タカノコウキ様。運営本部にてルリリをお預かりしております、至急運営本部までお越し下さい……』
そんなアナウンスが聞こえた頃に、僕らは通りの交差点へと差し掛かった。角に、ひときわ大きな人だかりができている。子どもたちとその手持ちの小さなポケモンが多い。
店の垂れ幕に大書されているのは、「あめ」の二文字のみ。店の隣に座って悠々としているのは、一匹のポニータだ。店主の男は棒の先につけた飴の塊をその体の炎で熱し、へらで細工してひとつの形に仕上げていく。
飴の塊は、既に頭の部分が大きく、尾にかけて細くなる流線型を描いていた。別の、本体に比べれば小さな塊をつけたへらによって、その尾に尾びれがつけられる。男が、集まった子どもたちに向かって問いかけた。
「おじさんは今、何のポケモンを作ってるかなー?」
子どもたちはまだ答えが出せないようで、隣の子どもと相談し合ったり、首を傾げている。その間に飴細工には胸びれがつけられ、頭に小さなツノがついていく。
その様子を見ながら、ピンときたらしい一人の子どもが叫んだ。
「ジュゴンだ!」
「正解! それじゃあここから顔を描くところを見せてあげよう」
外形の完成し終わったジュゴンは、食紅のついた筆で顔を書き加えられてますます本物に近づいていく。目と鼻、それに口を書き加えた飴細工は、最後に袋に収められて他の飴細工と一緒に並んだ。
子どもたちがわあわあと歓声を上げ、そこを見計らって店主が声をかける。
「すごーい!」
「そっくりー!」
「本物みたい!」
「飴ってメタモンみたいだな!」
「この飴細工一個九〇〇円! だ・け・ど、飴風船チャレンジに成功したら、この飴細工をタダであげちゃうぞー!」
目を輝かせて、やるやる、と殺到する子どもたちが受け取っているのは、何の細工もされていないただの飴の塊だ。子どもたちはまるで風船を膨らませるように、ぷうぷうと懸命にその塊を吹いている。
なるほど、これを大きく膨らませることができればOKというしくみらしい。しかし大半の飴は吹いている途中で薄くなって固まり、破れてしまう。
そうした子どもたちが悔しがって再挑戦をし出す間に、男は加工用の飴をまた熱し始めた。
「今度は何のポケモンを作ってみようかなー?」
「ヒトカゲ!」
「バタフリーがいい!」
「カイリュー作ってー!」
そのうちの一つを聞き届けたのか、それともそのどれでもないポケモンを題材としているのか。ひのうまポケモンの熱で暖められた飴は、ただの丸い塊から一つの目的へ向けて姿を変えていく。さながら、ポケモンが進化するように。
それを熱っぽく眺める子どもたちの、その大半の手にはもう短冊はない。もうどこかの笹にかけてきてしまったのだろう。
まだ願うべき夢を持っている年代だからだろうか、などと言うと、まだ若いのにと言われるのだろうか。見飽きてきたらしいルージュラが急かすのに合わせて、僕はその人だかりの前から歩き出した。
「現在、タマムシシティ大七夕祭り会場から生中継しております! 見て下さいこの人出、今年の夏も大賑わいです!」
浴衣姿のレポーターがカメラへ向けてそんな台詞を言っているのを後目に、その人だかりのそばを通り過ぎる。ピチューを頭に載せたあのレポーターは、名前は覚えていないがお天気コーナーか何かの顔だったはずだ。
そんなことを考えていると、不意に前に進もうとしていた体がぐっと後ろへ引っ張られる。裾を引きながら後ろを歩いていたルージュラが、急に立ち止まったのだ。
何だよ、とぼやきながら振り返ると、ルージュラの視線はこちらを見ていなかった。
その視線の先にあったのは、「氷」の垂れ幕と、店のテントの内側に貼られた「罰ゲーム用!? 激辛マトマシロップ」の張り紙。僕はそれへ向けて指を指して、ルージュラに聞いてみた。出てきた声は、自然と、なんとなく諦めたような声だった。
「……欲しいんだな?」
ルージュラはこの日一番じゃないかと思うくらいの笑顔で、大きく頷いた。
人混みをかき分けて屋台へ向かうと、丁度それらしき真っ赤なかき氷が、一人の青年の手に渡されていくところだった。連れらしいもう一人の青年にそれを突き出して、何やら揉めている。
「バトルで負けたら食うって言っただろーが! 俺覚えてんぞ!」
「やっぱ食えねえよこんなモン! どう見ても辛いの好きなポケモン用じゃねえか!」
本来の罰ゲーム用途に使うとああなるらしい、という図から目を背け、改めてかき氷を注文し直す。人間の食べられそうな味も売っているから、そのメニューにも一通り目を通して。
「あの激辛を一つと、メロン味一つ」
「はいよ。七〇〇円ね」
ルージュラが隣ですぐにでも小躍りを始めそうな様子で、氷が削られていくのを見ている。こいつにしてみれば好きな温度である冷たいものと、好きな味である辛いものが合わさった食べ物が食える機会なんてそうそうないから、楽しみにするのも分からない話ではない。
紙コップに山盛りの氷が盛りつけられ、その上に見るからに辛そうな真っ赤なシロップがかけられていく。この赤さはイチゴ味と間違わないためなのか、いや違うな。
最後にストローで作ったスプーンが刺さって、差し出された紙コップをルージュラが受け取る。続いて削られ始めた氷は僕の分だ。
その音を聞きながら、僕は店先のペンを取る。書くことがはっきり決まったというわけではないけれど、なんとなく、今のルージュラの様子を見ていたら書きたくなったのだ。他よりも少しだけ、待ち時間が長いというのもある。
スターミー型の短冊の上を、ペンの頭がこつこつと叩く。もやもやとした願い事は、うまく固まってくれない。
「はいよお兄さん、メロン味置いとくよ」
「ああ、ありがとうございます」
ことんと音がして、側に出来上がったかき氷が置かれる。短冊は真っ白なままだ。んー、と唸りながら悩んでいたら、ルージュラが置いてあった短冊のもう片方、ピィ型のものを取っていった。スプーンに頼らず飲んだんじゃないかと思うくらいの速さだ。氷ポケモンだしできてしまうのかも知れない。
何を書くのだろう、とその様子をしばらく見ていたら、ルージュラがペンで書き始めたのは、その口から出るのと同じ、人間にはよくわからない言葉だった。テレビの字幕で見たアラビア語を見ているような感じがする。
ルージュラはそのまま迷いなくさらさらと謎の文字を書き終えて、ペンを元あった場所に戻すと、満足そうに短冊を顔の前に掲げてみせた。何を書いたのかは分からないが、おそらくは心からの願いなんだろう。
そんな表情を見ていると、自然にこちらの筆も動いた。スターミー型の中心、本物ならコアのある部分に、小さな文字で詰め込むように。
『ルージュラの嬉しそうな顔が、もっと見られますように』
書き上げて隣を見てみると、頬を抱えたルージュラが真っ赤になっていた。そりゃあ、僕がルージュラのを見たんだから見られるだろうとは思っていたんだけど。
その様子を見咎めた屋台のおばちゃんが、にんまりとした顔でこちらを見ている。
「あらお兄さん、こんなに女の子真っ赤にしちゃって。まったく色男なんだから」
「は、はあ……えっと、ちょっと失礼します」
周囲からの注目もなんとなく集まっている。僕はかき氷の入った紙コップを取ると、さっと店の脇にある笹に、二人分の短冊をかけた。
トゲのある形の真ん中だけが黒いスターミーと、落書きされたみたいにぐちゃぐちゃの文字が並ぶピィが、他の短冊に混じって揺れる。
それを見届けると、視線から逃れるように、そそくさと僕らはかき氷屋台の前を後にした。
「……にしてもお前、何書いたんだ? まさか、あのかき氷がもっといっぱい食べられますように、とかじゃないよなあ」
道すがら聞いてみると、ルージュラは相当に驚いた顔でこちらを見返してきた。どうして分かった、とでも言いたげに。
図星か、と問えば、黙って頷いていた。
「わかったわかった、今度作るよ。タバスコとかだから、ああいう店で見たのみたいじゃないかもしれないけどさ」
言うが早いか、僕の頬を強烈な吸い付き攻撃……いや、ルージュラのキスが襲った。愛情表現は嬉しいけれど、正直毎回痛いと思っている。
ついでに今日は祭り会場の人の視線もプラスだ。ルージュラを引き剥がして、ふう、と少し溜息をついてみせる。
「そーいうのは家でやって、家で!」
……ただ正直、ここまで愛されるの、まんざらでもない。
――――
七夕と(私の)ノスタルジアとバカップル。
飴細工の屋台を全く見ないんですよ。地元限定だったのだろうか。
他にも屋台にしたら面白そうなのあったんですが、時間と息切れの関係上書けませんでした。
【お題:ポケモンのいる生活(ポケライフ)】
【スペシャルサンクス:#ポケライフ(Twitter)】
【描いてもいいのよ】
【書いてもいいのよ】
【10分弱オーバー】
先客がいたようだ。ついでだからみんなが何を願っているか見ていくか。
「ジムリーダーになりたい ガーネット」
トレーナーなのか。それにしてもハンドルネームではないのだから、本名かいていけばいいのに。織り姫と彦星だって本当の名前が解らなければ叶えようもないだろう。
「微生物研究にいきたい ザフィール」
理系の人間のようだ。字からして男子……だろうか。それにしても最近は短冊にすらハンドルネームを書くのが流行っているのだろうか。私が本名ばりばりで短冊かいてあるのがなんだか怖いではないか。
「商売繁盛。ついでに黒蜜がうるさいので早く諦めさせてください 金柑」
綺麗な字で書いてある。印刷物かこれ。こんな綺麗な字を書く人間がいるとは思わなかった。商人のようだが、きっと学校の成績もよかったのではないか。うーん、なんだか負けた気分だ。
「早くあの子が振り向いてくれますように☆ 黒蜜」
その札の隣にあったのがこれなので、おそらく友達なのだろう。面白いハンドルネームを考えるものだ。
「ゾロアークにお嫁さんが来ますように ツグミ」
ポケモン想いのトレーナーだな。けどゾロアークのお嫁さんなら、トレーナーが探すのがいいのではないだろうか。結構ポケモンセンターでもお見合い希望の紙はってあるし。
「ツグミに彼氏ができますように ネラ」
そこから離れたところに釣り下げられてるのがこれ。ツグミという子は友達に恵まれたのだな。友達に彼氏ができて欲しいというところをみると、ネラという子はもう彼氏持っているのだろう。
あ、この辺なら空いてるな。さて、吊るしてかえろう。
「人間の青いイケメンください。石マニアでもいいです くろみ」
今年こそ、かなうといいなー!
しゃらしゃらと涼しげな音を立てながら、大きな笹が夜風に揺れています。
その枝葉には、色とりどりの短冊がいくつも結び付けられていました。柔らかな風に踊るそれらには、人とポケモンの祈りや願いが書き込まれています。
道の向こうからくたびれた様子の駱駝が一頭、とぼとぼと歩いて来ました。
足を引きながら笹竹の前にやってきた駱駝は、大きな溜息を吐いて背中の荷を下ろしました。小さな袋に詰め込まれた短冊の束です。
あれからもう一年が経ったんだなあ、と呟きつつ、さらさらと手元の用紙に何かを書き付けています。
肉厚の蹄で器用に――どうやってという疑問は胸にしまっておきましょう――結び付けられたそれには、『藁一本で背骨が折れそうなこの現状を、なんとか打破できますように』とありました。なんとまあ、辛気臭いことです。
……それはさておき、自分の分を書き終えた駱駝は、預かってきたらしい短冊たちを次々と結び付け始めました。
『ブラック3・ホワイト3で主役級に抜擢されますように 風神・雷神』
『またポケンテンの新作料理を食べられますように 学生A・B』
『監督の尻をひっぱたいてとっととロケを終わらせて、年内には上映できますように 飛雲組』
『世界中での百鬼夜行を望む 闇の女王』
『第三部及び完結編まで続きますように! 甲斐メンバーの一人』
『今年の夏休みも、あいぼうといっぱい遊べますように 夏休み少年』
『いつまでも“彼”と一緒にいられますように 名も無き村娘』
『もう大爆発を命じられませんように ドガース』
『今年も美味しい食事にありつけますように。 桜乙女』
『僕たちが無事に「割れ」られますように タマタマ』
『彼らの旅立ちを祝福できますように…… マサラの研究員』
『この世界に生まれ出ることができますように 未完の物語一同』
さらさら、しゃらしゃらと笹が揺れています。
一年分の願いを括り終えて、駱駝はふうと息をつきました。
しばらくぼんやりと色紙の踊るさまを眺めていましたが、やがて意を決したように首を振ると、元来た道をのろのろと引き返して行きました。
おや? 駱駝の立っていた場所に、二枚の短冊が落ちています。どうやら、付け忘れてしまったようです。
仕方がないので、私が結んで締めくくりましょう。
『受験・就職・体調・原稿その他もろもろの、皆様の願いが良い方向へ向かいますように』
『自分の思い描くものを、思い描いた形に出来ますように。今後も地道に書き続けられますように』
七夕の夜に、願いを込めて。
ご無沙汰しています。
しとしと雨の降る七夕を迎えました。
それでも街中では浴衣を着た人たちに出会ったりちいさな七夕飾りを見つけたりと、すっかり七夕ムードですね。
「黄金色を追い求める最高のトーストマイスターになる ちるり」
「リーフィアといっぱいあそべますように ミノリ」
「今年もご主人さまのいちばんでありたい チリーン」
「さらに出番をよこせ ムウマ丼推進委員会」
「めざせコンスタントに短編投下 小樽ミオ
「池月くんがエリス嬢のもとに帰れる日が早く来ますように」
今年は夏コミにスペースを出される方もいらっしゃるので、素晴らしい祭典になるようにお祈りします。
個人的には、有明夏の陣2012で私自身が討ち死にしないようにと願うばかりです(笑)
短冊の願いごと、届くといいな!
※追記:読み返したら語弊ありげな箇所があったので直しておきました、すみませんm(_ _)m
梅雨の宿命だわな……
止まれ、不景気な事言っててもしゃあないので……!
『今年こそ日の目を…… 書きかけ山脈関係者一同』
『武運長久・凶運回避 ボックス対戦組』
『求むルカリオ 目指せ獣人パ結成! アジル(コジョンド)・シュテル(コジョフー)・グリレ(ゾロア)・ギブリ(ゾロアーク)・ケム(リオル)』
『神は言っている……仲間を救えと イ―ノック(コイキング move担当)』
『原こ(赤黒いものが飛び散っていて読めない……) **ウィ』
うーん、不景気だわ(
皆さんはもっと明るく楽しい七夕祭りをお過ごしくださるよう……!(笑)
では。ゲームも創作の方も、もっともっとギアを上げて行きたいですね〜。
『これからもこの場所により多くの作品が集まって、創作者の方々の良き憩いの場であり続けますように』。
サイコソーダ大好きダイケンキ、シェノンがてくてくと道を歩いていると、目の前に笹が立っていました。
その笹には短冊がたったの一枚だけ、ひらりひらりと揺れていました。水色の短冊には、太く黒々とした、おそらく筆ペンで書いたのであろうでっかい『合格祈願』の四文字。
「何かすっげぇ切なくなる光景だな」
ありのままを口にした後、そのシェノンは何も言わずに代表として持ってきた短冊をかけていきます。去年よりも数枚、増えている気がします。シェノンはまず彼の仲間たちの短冊をかけ終えると、見覚えの無い字形で書かれた残りの三枚を見つめました。
一枚目は、ひらがなとカタカナだけで書かれた、まるで小学生が書いたような文字。
『これからも おじさんと たくさん ほんが よめますように! ルキ』
二枚目は、綺麗な、大人が書いたような文字。名前はありません。
『平和な日々が続き、彼を置いていったりするようなことが起こらない事を祈る』
三枚目は、少し丸みがかった、女の子っぽい字。黄色い短冊です。
『今年も向日葵が沢山咲きますように。 再会できますように 夏希』
その三枚も掛け終えると、シェノンは「サイコソーダの季節だなぁ」などと呟きながら去っていきました。
夜空に、星々を湛えた天の川が輝いておりましたとさ。
【短冊 どうか増やしてほしいのよ】 【なんか今年もやっちゃったのよ】
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