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  •   [No.2963] 【8】替わらずの社(上) 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2013/06/02(Sun) 19:29:32     112clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:携帯獣九十九草子】 【豊縁昔語】 【スリープ
    【8】替わらずの社(上) (画像サイズ: 1200×425 225kB)

     私のおじいさんは宮大工です。宮大工というのは神社やお寺を建てる大工さんのことで、何年も家を離れては、社寺のある地に住んで、仕事をするのです。
     今から私がお話しするのは、私のおじいさんから聞いた話で、おじいさんが若い頃にホウエン地方のさる大きな社殿の建て替えに関わっていた時のことだそうです。
     おじいさんが仕事をしていたのは職人の仲間内で、「赤の神宮」と呼ばれているそれは大きな神社でした。建物の外壁を赤く塗っているのが特徴的な建造物です。その昔ホウエンの民を洪水や長雨から救ったという日照と大地を司る神様を奉っているところだそうです。
     赤の神宮は敷地を東西の区画に分け、二十年ごとに建て替えを行っています。これは、職人の技術を継承することがひとつ、そして決まった年ごとに新しく建て替えることによって永遠を目指したからなのだそうです。建物を支えていた木材自体はまだまだ使えますから、橋になったり、もっと小さな神社の建て替え材料になったり、鳥居になったりするのだそうです。
     おじいさんがやってきた年は、東の建て替えが行われる年でした。
    「よく来たな。まずは社殿を案内しよう」
     棟梁(とうりよう)が相棒であるゴーリキーと一緒に若き日のおじいさんを歓迎しました。棟梁とゴーリキーの後ろについて、おじいさんとその相棒は社殿を見学しました。
    「にしても獏(ばく)が相棒たぁ珍しいなぁ」
     棟梁が言います。獏とは催眠ポケモンのスリープのことです。
     宮大工は仕事の相棒としてポケモンを何匹か持っておりますが、その大抵は格闘タイプのポケモンでした。特に重い荷物を運搬できるワンリキー・ゴーリキーや高所を移動できるマンキー・オコリザルが重宝されたのです。
    「獏蔵(ばくぞう)と言います」
     と、おじいさんは答えます。
    「ケガしてたのを助けてやったら懐いてしまって。でも木材を念力で持ち上げたり出来ますから、重宝しますよ。大食いなのが玉にキズですが」
     若き日のおじいさんは笑いました。
     二人と二匹は広い敷地内を歩き周りました。棟梁はあの建物は何に使うとか、あの建物に見合う立派な柱を探すには苦労したとか、いろいろ聞かせてくれました。二十年に一度建て替えをしているというだけあって、今まで巡ってきた全国の社殿と比べても、建物は新しい感じです。
     しかし、回っていくうちに妙なことに気がつきました。
    「棟梁、よろしいですか」
     おじいさんは尋ねました。
    「何だ」
     そして、東の離れたほうにあるひとつの社殿を指しました。
     いくつもの大きな木と茂みに囲まれて、ひっそりと立っています。
    「さっき通った建物だけ妙に旧いように見えますが」
     すると、棟梁が答えました。
    「ああ、あれはな、替わらずの社だ」
    「替わらずの社?」
    「そうだ。昔は宝物殿として使っていたらしい。東にあるあの社だけは遷宮の年になっても建て替えんのだ」
    「なぜですか」
    「建て替えたくても建て替えられないからだよ。あの社に手を出そうとすると職人やその相棒がケガをしたり、いつの間にか材木が消えてたりするのよ。居なくなった奴もいる。忽然と姿を消してしまってな。それで何十キロも離れた町でぼーっとしてるのが見つかったんだそうだ」
    「…………」
    「とにかく、こいつを相手にしてると他の仕事に差し障るってえんで、誰も手を出さなくなった。神宮側も諦めとってな、あれには外壁の色を塗る以外は手を出さない約束になっとる。触らぬ社に祟り無しってとこだな」
    「中を見てもいいですか」
    「お前も物好きだなあ。長生きしないぞ?まあ、見るだけや掃除するだけなら問題ない。ただし、見たって面白くも何とも無いぞ。何も無いからな」
     そうして、若き日のおじいさんは社殿の中を見せてもらったそうです。
     観音開きの旧(ふる)い扉を開いて、中に入ってみると言われた通り、壁と床と屋根があるだけでした。
    「本当に何もないですね……」
    「だろう? 一体何が理由なのかさっぱりなのだ。さ、気が済んだろう。行くぞ」
     棟梁はそう言うと背を向けました。
    「おいで、行くよ」
     なぜかスリープの獏蔵が社の中空をじっと見つめているので、おじいさんはそう声をかけて連れ出しました。
     後でよくよく思い返してみると、おじいさんが妙にはっきりとした夢を見るようになったのは、その夜からだったそうです。


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