|
ー ガシャ………。 ガシャ………。
大きなワインの熟成倉庫へと続く農道を歩きながら、なんとなく辺りを見回す。
ここは、シンオウ地方のズイタウン。その一角にあるのが、我がワイナリーだ。
たわわに実ったぶどうと木の実。咲き誇る色とりどりの薔薇とグラシデアの花。その間を走り回るのは、近くの川辺に住む、マリルやブイゼルたちといったみずタイプのポケモンたちと、この農場の一部に住み着いたポニータたちの群れ。朝はムックルが飛ぶ空は、今は夕方のため、ヤミカラスが飛んでいる。しかし、自然豊かな広大な景色に響く、相応しくない鉄の音は、俺が持ってる道具からではなく、その後ろから。
「クゥーン………。」
「ん?……テテュス?どうした?」
「クゥ、。」
俺の後ろを付いていた、黒く大きな、1匹のメスのグラエナが、しきりに小さく、切なさそうに鳴く。ガシャガシャとなるのは、このグラエナの、テテュスの足。右の後ろ足を頻りに上げ下げして、そのたびに少し、痛そうにする。その足は、他の箇所と違う、鉄製の義足が組まれていた。
「足、痛むのか?」
「きゅー……っ。」
「テテュス、ちょっと見せて。」
大丈夫だから、と頭を撫でて落ち着かせて、彼女が痛がってる、義足のつなぎ目のあたりを見ようと、足の付け根の毛をめくりあげた。義足が食い込んでしまっているのか、鉄と肉が擦れて赤く腫れ上がっており、よくみると血が滲んでいる。これはまずい、と直感的にさとり、ケータイを取り出した。
*
*
*
「義足がうまく噛み合わなくなってますね……。そろそろ替え時でしょう。新しいのができるまでは歩かせないであげて下さい。それから、傷薬と包帯をこちらから支給しますね。」
「ありがとうございます………。」
「とりあえず、義足はこちらで慎重にお取りしますね。」
ジョーイさんと、この町の少し老いた女性ドクター、それからラッキーにストレッチャーに乗せられて、治療室へと入って行った。それを見送って、ふぅーっ……と大きな息を吐いて、どかっとソファに座り込む。その横に、ロズレイドが座った。バラの花のようになってる手で、器用に飲み物を開けて飲んでいる。
「ユウ、あなたも飲む?」
「ばあちゃん………。うん。貰うよ。」
おいしいみずを祖母から手渡され、ペットボトルの蓋を取って、口に含む程度に飲んだ。ゆっくりと息をはいたことで、だいぶ落ち着いた。
「よかった…………。テテュスの足、なんとかなりそうで。」
「えぇ。本当にね。」
「……ねぇ。テテュスの名前ってさ。誰が決めたの??」
「おじいさんよ。…でも、それがどうかしたの?」
「うん………。気になったことがあってさ。」
手に持ったおいしいみずを見つめる。ふと、そこに突然ぬっ、と顔が覗き込んできた。驚いてみた先にいたのは、ポニータだった。左目に大きな傷があった。
「ポニータ、だーめ。……ごめんなさい。」
「いえ。……お大事に。ポニータ。」
赤い炎の鬣をふわふわと撫でたあと、ポニータとそのトレーナーを見送った。もう一度だけ、おいしいみずを飲んだ。
「………テテュスってさ。水の女神の名前なんだってね。」
「……そうみたいね。」
「ねぇ。ばあちゃん。」
テテュスになにがあったのか。詳しく教えてほしいな、俺。
爪先を紫色に染めた祖母に目線を送る。
ここ、シンオウ地方には、グラエナはおろか、ポチエナは生息していない。祖父母はともにここ・ズイで生まれ育った人で、ホウエンにもカロスにも行ったことが無い。なのに、うちの農場にはグラエナがいて、しかも相当の美人らしい。ジョーイさんや、ドクター。果てはこの町で育て屋さんをやってる人も口を揃えてそう言うのだ。
主にコンテストなど、ポケモンを魅せることを生業としたトレーナーが彼女を見かけようものなら、義足であることも興味を惹かれるが、その毛並みの良さにも心惹かれるだろう。それほどまでに、このワイナリーの、ひいてはズイタウン全体で人気の高いテテュスだが、彼女の過去を知ってる人間は、祖父母だけだ。
「ね。……教えてよ。俺も、まだ半人前にすらなってないけど、いずれはテテュスのトレーナーになりたいし。」
俺だって、ワイナリーの一員だから。そうは言ってみるものの、祖母は口を開かない。
ばあちゃん、と、もう一度口を開いたところで、治療が終わった合図がなる。扉が静かに開き、ストレッチャーに寝そべったまま、テテュスがやってきた。
「おかえり。テテュス……痛かったでしょ?よく頑張ったわ。……さあ。帰りましょう。」
「きゅー……。」
「………。テテュス、お疲れ。」
結局、何も聞けなかった。が、俺が望んでいた彼女の過去は、思わぬ形で聞けることになることを、この時はまだわからなかった。
主人公
ユウ:ズイタウンのとあるワイナリーで働く青年。25才。手持ちはロズレイド♂のディオの他に、もう一体いるもよう。
テテュス:主人公が働くワイナリーの看板娘ならぬ看板ポケモンであるメスのグラエナ。右後ろ足は義足になっている。今作のメインポケモン。名前の由来は、古来の水の女神かららしいが………。
ユウの祖父母:ズイタウンでワイナリーを経営する老夫婦。テテュスを自分たちの子どものように可愛がっている。
始まった時から終わっていた。きっと私のやっていることはそうだったんだろう。未来なんてない袋小路。勝ったところで失うしかない負け街道。それでもいくしかなかった。止まるわけには行かなかった。
戻ることのできない道で止まってしまえば先には進めないから。考えなくてよかったことを考えてしまえば、次の一歩が遅れる。遅れた分だけ余計に考えて、その分だけ救いが遅くなる。それを知っていた。
だから、だからね。
「ベル。もうやめて」
トウコには来てほしくなかった。あなたにだけは止めてほしくなかった。親友に呼び止められれば、足を止めざるを得ないから。
「トウコ。まだ――」
止める気なのか、あるいは止められると思っているのか、どっちを聞くつもりだったのか自分でも分からない。遮るようにして放たれた言葉に思考が停止してしまったから。
「ポケモンが好きだって言ってたじゃない」
「えぇ、そうよ。”ポケモン”は好きよ」
「なら!」
親友の声が聞こえる。今にも泣きだしそうな声。駆け寄って頭を撫でたくなる胸に刺さる声。
その声を聴くのは辛い。でもその声に耳を塞ぐことはできない。許されない。
自分は同じような声を聴き続けるからだ。友達を取らないでよ、と叫ぶ人から容赦なくポケモンを奪うと知っているから、その声に駆け寄ることは許されない。
なによりも、
「トウコ、ポケモンが好きだからこうしているのよ」
これが正しいのだと思って行動してきた。ポケモンのためになると思ったから。大好きなポケモンのためにやってきた。そのためだけにこんなことをやり続けてきたのだ。
「それでもこんなの……こんなの絶対間違ってる」
駄々をこねるように否定する友人を見るのは辛い。私とて気になることで彼女が心を痛めることは分かっていたのにそれでも辛い。
「そうね。私のやってきたことは正しくないわ」
「ベル。そこまで分かっているならやめましょう。まだやり直せるわ」
この親友はやっぱり優しい。あんなに酷いことをしたのに、まだこんな言葉をかけてくれるのか。それでも、そうだからこそ、
「私に止まることは許されないのよ」
こうすることもやめられない。親友と戦いたくない。そんな私はきっとひどく我儘なのだろう。けれど、やめることはできない。私は欲張りだから。
「お願い、トウコ。私と一緒に来て」
泣かせたくない。戦いたくない。けれど、止められない。だから、だから。
「私の手を取って。ポケモンが笑っていられるように。ポケモンが辛い思いをしないように一緒に戦いましょう」
私は手を差し伸べた。
――ポケットモンスターブラックホワイト2――
せっかくなら、きとかげさんの黒ベルに返信投稿しようと思ったけど見つからなかったorz
てなわけで嘘予告第二弾。今回は敵勢について書いてみた。悪とは言えない悪。果たして主人公の取る道は――
ってところで切れるCM雰囲気
【今度はまともな嘘予告なのよ】
【思ったより黒くないのよ】
【好きにしていいのよ】
記事立て乙です〜
場所は浜松町か新橋付近ですかね。
HARUコミの場所自体は東京ビッグサイトです。
http://www.akaboo.jp/event/0318haru17.html
入場に1300円かかりますので、他の同人誌(ポケも出てますし、他ジャンルもあります)を見て回りたい人以外は
打ち上げだけ あるいは しめしあわせてどっかで遊んでいるといいかも。
ご無沙汰しております。586です。
No.017さん主催の「ポケモンストーリーコンテスト・ベスト」の頒布を行うイベント・HARUコミックシティの開催が近づいてまいりました。
ポケスコの力作群を集めた、まさに珠玉の一冊になる予定です。
ちなみに、当方も昨年のコミックマーケット82にて頒布した「プレゼント」の再販を行う予定です(しれっと宣伝
さて、3/18(日)のイベント終了後に打ち上げを行いたいと思います。
時間帯はイベント終了後、少々余裕を持って17:00前後開始を考えています。終了は状況にもよりますが、概ね20:00頃の見込みです。
つきましては、参加を希望される方を当スレッドにて募らせていただきます。
なお、既に参加を表明されている方に付きましても、今一度メンバーの確認を行うため、当スレッドにて記名いただけると幸いです。
イベントに参加されてそのまま雪崩れ込む予定の方も、打ち上げだけ参加されるという方も、どちらも大歓迎です! 奮ってご参加ください(´ω`)
以上、よろしくお願いいたします。
世の中には言い出しっぺの法則とやらがあるそうなので、書いてみた。
この量書くのに三時間もかかってしまった。精進精進
いやぁ、マジで中身が予想できないので完全に妄想爆発状態ですが、
――――――――――――――――
人生五十年。言葉にすればこれほど短いが実際には様々な出来事があった。酒に女に戦いに、と。そして、出来事が起こるたびに様々なものを失っていく。それは者であり、物だった。そこまで思い返して、
「いろいろあったの七音で済む程度の人生だのう」
と自嘲した。そうだ。短い中には様々なものがあったけれど、結局はそう短くできてしまう程度でしかない。死んでいった者たちの言葉を覚えていても、どんな声音であったか分からなくなっていくように、多くの出来事は色あせていった。
気にも留めてない出来事も含めれば、その数は無数にあるだろう。数えられるはずなのに、混ざり合い数えられぬのは歳を取ったせいか。
城に置いてきた妻がこの場にいれば、こんなことを考える自分を笑うのだろうな。髭をしごきながらそう思う。人間だから当たり前だと慰めるようにそう言うのだろうとも。
「フン。年寄りの冷や水か。隠居でも考えたらどうだ?」
思考に割り込むように聞こえたのは遠雷を思わせる低い言葉だった。誰かは問うまでもない。この自分に無礼なことを言うのは、一人しか否一匹しかいなかった。背後にちらと視線をやる。血を思わせる朱い瞳と雷雲のように黒き体を持った龍がそこにいた。
「いつも通り、礼儀を知らぬな。その翼、切り落としても構わぬのだぞ」
「昔ならいざ知らず、今の貴様では我の動きを捉えることすらできんだろう」
脇差に手を添えながらの剣呑な言葉にそう切り返された。
これが他の者ならすぐに平身低頭し、許しを請うのだろう――それ以前に無礼な振る舞いをする者はいない――がこの龍は怯えもせず、むしろ更なる言葉を返してくる。
こいつとも長い付き合いだ。妻よりも長い年月を共にした。だから、というべきかはわからないが、相棒とも言うべき存在はこの尊大な龍以外にはいなかった。周りに人はいても、家来か敵かだ。軽口や愚痴を聞かせられる他の存在はもう死んでいる。
良いやつは早死にしてしまうというから、一番口汚いこいつが生き残るのもある意味至極当然、当然ではあるがやはりどこか釈然としない。神や仏がいるのなら、良き裁定をしてほしいものである。
「寺に泊まった程度でそんなに感傷的になるとはな」
思わずと言った形で漏れた呟きに対しての返答に確かにらしくなかったなと思い、口の端を歪ませる。
それも致し方なし。血も涙も信ずる神がいなかろうと、
「人が死ぬときは命の行く末について、考えてしまうのさ」
言い終わると同時、目の前の襖が開く。
入ってきたのは一人の男。
「第六天魔王であっても死ぬときはやはり恐れるものなのですね」
怜悧な瞳をこちらに向け、そう言った。会った時から変わらない。氷鳥を従え、冷めた瞳をしているせいで冷めていると思われがちだが内に秘めた情熱は人一倍。そういうやつだ。いつかこういう日が来ると思っていた。
「殿。あなたはもう十分生きたでしょう。現世のことは私に任せ、地獄の天下でも取りに行ってください」
「天運がなかったと諦めて、我が主に打ち取られてください」
肩に留まった氷鳥と共に、好き勝手に言ってきてはいるが、まだ死ぬ時ではない。まだ見ぬ世界を残している。生きることに飽くには長生きはしていない。
「ふん。貴様に止めることは叶わん。我が覇道はこれからだ」
―――――――
【騙す気しかなかったのよ】
【NはノブナガのN】
【何してもいいのよ】
我が輩はポッチャマである。名をマゼランという。
偉大なる航海士マゼランより名を送られた由緒ある血統の末裔である。その昔、世界一周を目指し、地動説を証明し、その海に散っていった冒険家であるぞ。知らぬとは言わせぬ。我が一族は冒険家を助け、10隻あるうちの1隻を故郷の港まで見送ったのである。故にそこの人間、頭が高い。我が輩には常に従うのだ。
「なにすんだってば!」
我が輩の主人というジュンという愚かな人間に罰を与えた。偉そうに我が輩の背後で次はどの技、あの技とやかましいのである。我が輩のするどい嘴の攻撃に人間など従わせるに容易いものである。
「お主こそ何をする。我が輩はマゼランであるぞ。我が輩に命令するなど100年以上早いわ。そもそもお主は我が輩に命令してばかりで何も疑問に思わないのか。聞けばお主も我が輩と同じポケモンの末裔であると聞く。ならばお主が戦うのが筋というものであろう」
「なにおー!俺はトレーナーなんだ、お前はポッチャマだろ!」
「だからなんなのだ。トレーナーが戦ってはいけない理由などない。我が輩はお主を見ておる故、戦ってくるがいい」
「この、小さいからって生意気な!ポケモンは戦うのが常だろ!」
この愚かな下僕はとてもやかましい。我が輩は静かなものを好む。それにしても我が輩のまわりはやかましいものばかりである。やんちゃで落ち着きのないヒコザルのエンゴと努力家なナエトルのモエギである。正反対と思われる2匹であるが、我が輩には何の遠慮もなく馴れ馴れしい。我が輩は偉いのである。
そう考えればあのヒカリという女子はとても性格が良い。さぞかし男どもが寄ってくるであろう。現に我が輩の下僕ジュンは少しではあるが好意を寄せているようなのである。しかしそのヒカリは下僕ジュンの親友のコウキに好意を寄せているようなのである。奇妙なる人間たちよ。
さらに奇妙なるのは、その人間たちがポケモンの末裔たちであることだという。その昔、シンオウの大地で起きた戦争の後、人の身にその力を封じた祝福のポケモンたちの子孫だという。人の縁とは奇妙なものである。
「いくのだ下僕ジュンよ。ブイゼルなどすぐに倒せるであろう」
その辺の一ポケモンが我が輩の相手になるわけがなかろう。我が輩は下僕ジュンの草技ソーラービームを後ろで眺める。ほほう、さすがの力である。一発で仕留めるとは天晴。下僕が主人を喜ばせたのであるから、ここはほめなければならぬ。主人とは飴と鞭で下僕を懐けるのだ。
「よくやった下僕ジュンよ。主人として喜ばしく思うぞ」
「なんでだよ!」
何かやかましく騒ぎ立てていたが、下僕が主人に逆らうことなどあってはならないのだ。我が輩は下僕ジュンの足を鋭い嘴で突っついたのである。反抗するものは容赦なく制圧するのだ。そう下僕を扱えないのならば主人となることなどできぬ。
しかしこの下僕ジュンは我が輩に関して何の知識もない。それは下僕ジュンが親友たちと一晩森で明かした時の話である。
「エンゴ」
コウキが奴を呼ぶ。ふむ、エンゴはコウキに対して恐怖を感じているのか尻の火が一瞬縮み上がる。
「あ、あっしに」
近づいた瞬間はまさに獲物を捕らえる肉食獣である。コウキがその拳でエンゴの腹をわしづかみしたのだ。
「ぐへっ」
情けない声が上がったものよ。あのやんちゃ坊主がここまで制圧されているとは、コウキという人間は中々のやり手である。
エンゴの方はさっきよりも尻の火を大にして起き上がったのだ。
「な、なにする……」
「火が出やすくなっただろ。もう一度ひのこやってみろ」
ヒコザルの特徴を良く知っている人間である。腹を刺激して火を強くするのだ。なるほど、エンゴがコウキに逆らえない一因がそこであろう。
それにしても下僕ジュンは我が輩のことなど何も知らぬ。何が好物であり、何が楽しいことであるか。嫌いなものは何かなど何も知らぬし知ろうともしない。いやそれは我が輩が間違ってあろう。下僕に全てを求めてはいけないのだ。下僕は下僕らしく、我が輩に従っていればよい。
「い、いいなあマゼラン」
「完全逆転よねマゼランのところ」
エンゴは羨ましそうな目で、モエギは呆れたように見ている。我が輩をじろじろ見るなど無礼にもほどがある!
「ポッチャマに使われてるんじゃ、今度も俺の勝ちだな」
コウキが我が輩の好物をちらつかせて言う。おお、この人間は中々解っておる。下僕は一切そういうのを渡さないのである。これではこの下僕の主人をやっている意味がないであろう。それに加えて苦いポフィンまでついてるとは、我が輩はコウキと共についていけばよかったのである。なぜこんな下僕ジュンに出会ってしまったのであろう。
「絶対次も負けねーからな!」
「次も、って俺に勝ったことないだろ」
そうなのである。コウキのポケモンは皆強いのである。我が輩も後一歩のところであのクロバットに敗れてしまった。エンゴにもモエギにも負けたことないのに、コウキとは面白いやつである。
「マゼランの技もロクにえらべなくて、俺に勝てるわけがない」
「もっと言うがいいコウキよ。下僕ジュンは我が輩のことなどなにも知らぬ」
ポケモントレーナーというものにレベルがあるというならば、下僕ジュンは全くもって下であろう。もっと精進するがよい。
「マゼランって、ジュン君の主人なのですか?」
その通りだヒカリよ。下僕ジュンは否定を始めたので、我が輩の嘴でつついてやった。
「よくぞ理解できた。我が輩は偉大なるエンペルトの父と母より生まれた高貴なる血統より生まれたエリートである」
「エンペルトなのですか。私、エンペルトっていう映画みましたよ! タマゴを二つ産んで、そのうちの優れた方だけ育てるのですよね。見た時は捨てられた方がかわいそうだと思ったのですが、過酷な環境で生きられないことが多いというのを聞いて。マゼランはその中でも優秀なのですね」
ヒカリよ良く知っておる。エンペルトとはドキュメンタリー映画という映画らしいのだが、そういうのすら見てない下僕ジュンは全く。
「生きられないのを知って悲しむエンペルトもいて、私は凄くエンペルトって辛いんだなって思います」
もう言うなヒカリよ。それは事実だとしても、映画という娯楽であろう。
下僕ジュンはせっかちである。コウキとヒカリがのんびり歩いていてもさっさと先にいってしまう。最初は二人が仲良くしているのを見たくないのだと思っていたが、そうではない。本当にただせっかちなのだ。おかげでナナカマドという人間に頼まれたギンガ団対決も、下僕ジュンが通り過ぎた頃に終わっているのだ。
そのおかげで我が輩はギンガ団を見たのはその時が初めてであった。
その頃、我が輩はポッチャマではなく、父上と母上と同じエンペルトであった。前を塞ぐポケモンは全てなぎ倒しここまで来たのである。前にエンゴはコウキの指示がなければ戦えないと負抜けたことを言ったが、我が輩は違う。我が輩の独断で戦うことができるし、それで良かったのである。
そのおかげであろう。ミオシティでナナカマドと会った時に言われたのである。「強そうになった」と。我が輩のおかげである。感謝するがいい下僕ジュンよ。鋼の翼で背中を叩いた。
「そこで、湖の調査をして欲しいのだ。ヒカリはシンジ湖、ジュンはエイチ湖、コウキはリッシ湖だ。特にジュン、お前が一番遠いが、できるな?」
「もちろん!俺が一番だって!」
言うが早いのだ。おいかける我が輩の身にもなって欲しい。こういうとき、ゴンベのごんたろうは追いかけない。我が輩もそれが良いと思われたが、我が輩のいないところで下僕ジュンが困っても我が輩が困る。最近ではギャロップの一角の辻(いっかくのつじ)が走って連れ戻すことがある。
吹雪くテンガン山を抜けて雪道を走る。普通の人間であればこんなところ走れないであろう。我が輩に乗り、傾斜から速度をあげて飛び出すという、どこかのゲームのペンギンのようである。吹雪と雪の冷たさが我が輩の体に容赦なく突きつける。なんぞこの寒さ。我が輩の故郷に比べれば寒いとか凍えるとか笑止!
我が輩の嘴には氷がついていた。翼にもついていた。よくみれば下僕ジュンの頭にも雪がつもっていた。それなのに目の前の湖は凍ることもなく、ただ静かにさざ波をうっていた。
「エイチ湖についたのだぞ。どこから調査を頼まれているのだ?」
「え、あれ、えーっと」
「やっと一人ずつになったわね」
我が輩は初めてギンガ団を見た。ピンク色の派手な髪と寒さをものともしない奇妙な格好。なるほど、普通の人間とは違う。
「えっと、お前ギンガ団だな!」
「そうよ。この際改めて自己紹介するまでもないわね」
ブニャットが現れたのである。一角の辻が角を向ける。ひるむことなく向かってくるブニャット。一角の辻が少し出遅れた。そんなに素早いポケモンであったか?我が輩は目を疑った。
「なんだってんだよ!」
「純粋なポケモン勝負。貴方なら知ってるでしょう、大昔の戦いで負けた方がどうなったか。勝利した方に全てを奪われ、逃げ回る日々。貴方は敗者になるの。それだけよ」
「そんなの、やってみなけりゃ解んないだろ!」
「解るのよ」
下僕よ何を慌てている。なぜいつもと違うのだ。このままでは勝てるものも勝てなくなる。
「下僕を下がっているがいい。訳の分からぬギンガ団とやらに邪魔されてはナナカマドにも頭が上がらないであろう」
ブニャットなど何度も戦っている。勝てないはずなどない。下僕ジュンは何よりナナカマドのにらみが怖いらしい。ならばナナカマドに怒られない方法を主人である我が輩がとってやる。感謝するがいい。
「エンペルト、ね」
「そうだ、エンペルトだぜ。俺のエンペルトは……」
「人の手に渡るエンペルトは両親から見放された生きる力のないポッチャマ」
下僕ジュンが一瞬息を止める。
「知らないの?エンペルトの夫婦は一度に二つのタマゴを産む。そして強い方だけを育てる。育てられない、育児放棄されたポッチャマを保護したのが……」
「黙れ宇宙人」
我が輩は強いのである。エリートである。偉大なる航海士の名をもらった。優秀な兄もいる。我が輩は優秀なのだ。優秀だからこそ人間の手に渡り、下僕を使って強くなったのである。
「そこまで我が輩を挑発するのなら来るがいい。全てを破壊するのみ!」
我が輩は強い。エンゴやモエギに負けたことなどない。野生のポケモンにも負けたことがない。優秀なエンペルトであるぞ!
「コウキ君!」
「ヒカリ、無事だったか!」
ヒカリは我が輩を無言で見た。コウキの表情が変わった。
「エンペルト?マゼランか?ジュンはどうした?どこにいった?なんでボロボロなんだ?ジュンはどうしたんだよ」
こんな早口でまくしたてた時のコウキは怒っている。いつものことだから知っていた。下僕ジュンの親友にあわす顔などない。
「すまない!」
我が輩は地面に頭をつける。
「我が輩の力が足りなかったのだ。そうでなければジュンは……」
なりふりなど構わぬ。我が輩が惨めでも構わぬ。弱くても構わぬ。
「ギンガ団は将を落とすなら馬からだとあざ笑っていた。ジュンは我が輩にコウキのところまで伝えよと」
我が輩の力が足りなかった。ギンガ団にかどわされるのをただ聞くしかなかった。吹雪の中、アクアジェットで逃げるしかなかった。
「他のポケモンもジュンと一緒にかどわされた。頼む、ジュンと仲間を助けてくれ!」
何も言わず、コウキが我が輩の目の前に回復の薬を置く。
「将だと?ふざけんな。俺たちは誰もが馬なんかじゃねえ」
顔をあげればゴウカザルより燃えてるコウキが見える。
「ヒカリ、ナナカマドのじいさんに調査遅れるって伝えてくれ」
「あ、私も行きます!」
「我が輩も!」
「ダメだ。ジュンに続いてヒカリまで取られたら俺が手も足もでねえ。マゼランをさらに傷付けたら俺はジュンに顔向けできねえよ。エンゴ、行くぞ!」
隣にいるエンゴの炎よりも激しく見えた。空を飛ぶコウキを見送ると、我が輩の目の前に火花が散った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
友達からポッチャマもらったら生意気だった。
マゼランはマゼランペンギンより。世界一周した本人からつけられた
エンペルトという映画は皇帝ペンギンというドキュメンタリー映画。
ペンギンは足の間にタマゴいれてあたためますが、一度落とすと二度と暖めない。
アニメなどでヒカリにはポッチャマといいますが、ナエトルの方が似合ってるのは色合いかもしれない。
むしろポッチャマの図鑑をみて、やっていけるのがジュンしかいなそう。
【好きにしていいのよ】【げしげししていいのよ】
ぜひ皆さんに読んで欲しかったので、
タカマサさんにお願いしちゃいました。
投稿して貰った甲斐があったわ〜。
たまにやってくるとこんな掘り出し物がいつも見つかるなんて、やっぱりここはいいサイトですね。
ゲームの世界を否定したように見えて、途中『 誰が葵に手を差し伸べてやれた? 例え親に、教師に、級友に、自分自身に裏切られたとしても――虚構(フィクション)だけは、いつも俺たちの味方だったんだ。』と書いてるあたり、さりげなく「勇気のきっかけ」的な感じで虚構を評価してるんだなと感じました。
そして虚構を捨てて新たに現実で生きていこうと決意した上での、最後のくだり(「めざせポケモンマスター」の歌詞からとったのか?)も素敵です。
とても面白かったです。
2月22日、2が三つ、トゥートゥートゥー……。
ゾロ目だとは思っていたのですが、ネイティオさんにお目にかかることになるとは思っていませんでした。
くちばしに瞳、端正な仕上がりでいろんな味のフレーバーが楽しめそうですね!
好きな人の過去や未来が覗けるかも!? ということでこれまた若い女の子の間で特に人気が出そうなイメージです(笑)
これだけのものだったら222円はお得だなぁ。それじゃ私も……え、もう売ってない??
ところで、ネイティオさんのお顔の抹茶アイス、これって丸ごと抹茶アイスなんでしょうか。
実はアイスの中でも抹茶はお気に入りのひとつなので、すごく食べてみたくて仕方がないんですよね(笑)
「2」の図案化もオシャレでした、お疲れさまです(*^-^*)
おどれ おどれ 二匹のドラゴン
朝も夜も混ざり すべてが許される
ぐるぐるわかれて ぐるぐるまざって
まわるまわる まわってねじれて
踊れ 踊れ 二匹のドラゴン
〜雪花の町のわらべ歌より〜
*
旅人ひとり訪れる、そこはカゴメタウン。
街角の公園、子供たちは遊び、歌う。
二人の童女が手を打ち合い、身振り手振りを持って、歌う。
旅のアナタや どこ行く人ぞ
今に日暮れじゃ こちらにおいで
暗闇夜闇は人には怖い
怖けりゃ休め 隠れて休め
お日様眠れば まっくろくろの
寒いが出てきてなお怖い、なお怖い
この町の童歌か。ここもまた、歌われる民話があるのだろう。
「旅の人かいね?」
不意に老人の声。傍ら、椅子に腰掛けた老婆が。
「こん町は初めてかい?」
えぇ、まぁ。と答えれば、「そうかいね」と言う。
「こん町は夜になっと、怖いのが来て出歩いとるもんを取って食うっつうんよ。早いとこ出てくっつんならともかく、泊まってくんなら、日ぃ落ちる前に宿とるこったな」
なるほど。それは、あの子たちが歌うのと、関係が?
「おぉ。全部じゃないがな、昔っから夜中に外出たもんがおらんようになることが、ちょくちょくあってなぁ。後で見つかったもんは寒いーさむいーってガタガタ震えるんよ」
それは怖い。それで、子供たちが真似をしないようにと、あんな風に歌われているんですか。
「あぁ。やめろっつうとやりたがる聞かん坊もおったが、そいつもおらんようなってな……。こん町で、ただの迷信って馬鹿にするもんはもうおらんよ」
…………。
まっくら寒いのどこからくるか
だぁれも知らんと言うとこじゃ
おうたら食われるさらわれる、と
だぁれも知らんと言うものじゃ
暗いの怖い おうたら食うぞ
寒いの怖い さろうてやるぞ
怖けりゃ帰ろ おうちへ帰ろ
あったか明るいおうちにおらば
暗いも寒いもようおらん、ようおらん
恐ろしい伝説は、事実をもとに語られる。知りたがりの犠牲の上に歌われる。
なるほど。だから、この町の人間は夜には外を出歩かないのか。
ところでおばあさん、と訪ねる。
「なんかね?」
さらわれたけど見つかったって人、どこで見つかったんですか?
「おぉ? 北の山ん中さぁ。あの辺は、そんな高いとこでもないんに雪のひどいとこでぇな。きっと悪いもんがおるんじゃーって、とっちめに行くもんがようおったよ」
……そりゃそうでしょうね。それで?
「なーんも。見つからなんだ、ならまだしも、遭難して世話焼かせるもんまでおったさぁ」
そうですか。近づいたら、それだけで危ないのか……。
「あんたもそうならんようにな」
おっと。
こちらの意図を見抜いていたか。まぁ、あんな質問をする旅人は、よっぽどの知りたがりぐらいなものと思ったんだろう。まさにその通りだ。
……ありがとう、おばあさん。お礼といってはなんですが、私も余所の土地の“伝承”ってヤツをお教えしましょう。
*
白の竜と黒の竜 二匹は螺旋にそって踊り狂う
竜は何時から踊っているのか それはもう分からない ぐるぐるまわって混ざりあい ぐるぐるまわって離れて行く
螺旋がいつかねじりに変わり 二つの竜は一つのまどろみに戻ろうとする
ねじりはまざりを拒絶する 螺旋は昼と夜とを分離して 白と黒はまた黒と白に戻る
いつか螺旋の軌跡は塔になる
白の黒とは踊り続ける
いつだか踊りの疲れはて 白と黒とは休息を望む
次に混ざり合った時 黒と白は白と黒に分離して ぱたりと踊るのをやめた
後に残るは白の珠 後に残るは黒の珠
踊れ 踊れ 踊りつかれた二匹のドラゴン
朝と夜はすっかり別れ 混ざりも捻りもなくなって
螺旋の軌跡ばかりが残る
*
旅人ひとり、町を離れる。
求めるは三匹目の存在。いるかさえ知られぬ存在。
しかし歌われる。怖い、寒いそれが。
ならば、知りたい。そして伝えたい。
求めよう。故に。
北へ。
* * * * *
お久しゅうございます、MAXです。
今回は、音色さんからネタの提供を受けての作品でございます。
ある時「即興でなんか作ってみましょうよ。だからテーマ出して」と三題噺のお客側みたいなこと言われまして、「じゃぁ、わらべうた、でなんか考えてみましょうよ」と。そして音色さんから黒と白のドラゴンのお話を、自分はカゴメタウンの伝承でネタを出したのでした。
以上のネタをまとめて今回の作品にしたのですが、その話があったのは1月26日のこと。おおよそ1ヶ月前です。
……ここまで形にするのが遅うなりました。申し訳ない!
以上、MAXでした。
【批評、感想、再利用 何でもよろしくてよ】
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 | 32 | 33 | 34 | 35 | 36 | 37 | 38 | 39 | 40 | 41 | 42 | 43 | 44 | 45 | 46 | 47 | 48 | 49 | 50 | 51 | 52 | 53 | 54 | 55 | 56 | 57 | 58 | 59 | 60 | 61 | 62 | 63 | 64 | 65 | 66 | 67 | 68 | 69 | 70 | 71 | 72 | 73 | 74 | 75 | 76 | 77 | 78 | 79 | 80 | 81 | 82 | 83 | 84 | 85 | 86 | 87 | 88 | 89 | 90 | 91 | 92 | 93 | 94 | 95 | 96 | 97 | 98 | 99 | 100 | 101 | 102 | 103 | 104 | 105 | 106 | 107 | 108 | 109 | 110 | |