マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
このフォームからは投稿できません。
name
e-mail
url
subject
comment

[新規順タイトル表示] [ツリー表示] [新着順記事] [留意事項] [ワード検索] [過去ログ] [管理用]

  [No.627] 31話 怨み 投稿者:照風めめ   投稿日:2011/08/07(Sun) 07:46:17   65clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 緊張してきた。何もないのに何かしないと不安になるから、意味無く辺りをキョロキョロ見渡したり、手を握って開いたりを繰り返す。
 こんなにジーッとしていられなくなるとは思わなかった。落ち着きがないとは割と普段から言われて来たけど、まさかここまでとは。
 ついにやってきた準決勝、同級生の藤原拓哉を倒し、風見と恭介のどちらか決勝に上がって来た方を倒す。そうすれば優勝だ。賞金だ。
 だが、気になるのは藤原拓哉。拓哉がなぜ準決勝に残っているのか。前々から学校で幾度となく対戦していたが、悪いがそこまでの実力を感じなかった。
 しかし現にここまで来たということは、何かあるということなのだろうか。もちろん、やるからには油断はしない。全力でやるつもりだ。
『準決勝第一試合を始めます。選手は試合会場七番にお集まりください』
 気合いは十分。コンディションも問題なし。さあ、一暴れしてくるか!



「拓哉、よくここまで来たな! 俺とお前で楽しい勝負にしようぜ!」
 右拳を前に突き出し、拓哉にそう言い放つ。気弱だけれど優しいあいつは、恐らく「うん」と笑顔で返してくるだろう。と、思っていたが様子がおかしい。
 似つかわしくない不気味な低い笑みを放つだけで、何も返してこない。おかしい。おかしいと言えば、あいつのトレードマークとも言える腰ほどまである長いストレートの銀色の髪が荒々しく方々に跳ねているのも、普段髪を気にする拓哉らしくなくて何か変な感じがする。
 その時だった。
「何が楽しい勝負だ。ふざけるな!」
 激しい剣幕で、空を割くような怒号に思わず体が震えてしまった。向かい側の拓哉の表情は険しく、いつもにこやかなあいつとは同一人物とは思えないほど暗い。
 あまりに突然な出来ごとに思わずたじろぐ俺は、怯んでしまってやや声が上ずる。
「ど、どうしたんだよ」
「俺様はお前を許さねぇ」
「は? 何をだよ」
 訳が分からない。どうしてそんなことを言われるのか、急いで検証しても浮かばない。
 悪戯なんてしてないし、嫌がらせもしてない。拓哉に対して嫌がるようなことは一切してないはずだ。
 だったら何故。思案を続ける俺に痺れを切らしたかのように、さらに怒号が飛んでくる。
「あぁ!? どこまでもふざけた野郎だ!」
「いや、その……」
 頭が回らない事に加え、驚きや戸惑いが足を引っ張って上手い返しが出来ない。くそ、ワケが分かんねえ!
「お前は俺様を。いいや、俺様の分身を傷つけた。それが許せねえ」
「はぁ!? 分身って何だ? ちょ、ちょっとどういうことか分かるように言ってくれ! さっきからさっぱり分からん」
「けっ……。察しの悪いヤツだな」
 察し? バカ、無茶言え。分身ってどういうことなんだ。
 もしかしてあいつは拓哉のそっくりさんか何かなのか? ダメだ、もう頭がこんがらがってゆっくり考えられない。だというのにあいつの鋭い目線のせいでまるで尋問されているかのような気になる。
「拓哉の親戚か何かか……? あいつは一人っ子だったはずだし」
「違ェよ! 俺は俺だ。藤原拓哉だ」
「じゃあなんだ。同姓同名の──」
「それでもねェ! 俺が正真正銘お前らの知る藤原拓哉……いや、お前が実際に俺と会うのは初めてだな」
「もうさっぱり分かんねえよ! 何なんだ一体!」
「俺はアイツの……。藤原拓哉の負の感情そのものだ。傷つき、ボロボロになったあいつを守るために生まれた人格だ!」
「じ、人格だって!?」
 な、何を言ってるんだこいつ。人格ってアレか……。水曜の夜にやってそうなバラエティー番組でたまに放送してたりする二重人格だとかそんな感じだなんて言うのか。
 まあ、確かに本当にそうであるならこの普段と違う様子も納得出来るっちゃあ出来るが……。
「だからってちょっと待て! 俺何かしたか!?」
「あァ? 自覚ないとは本当におめでたい野郎だ。全てはこいつが元凶だ!」
 拓哉は裏面のポケモンカードを俺に見せつける。さっきから勿体ぶるような事ばっかするせいで、全然事が進まない。
 だが今回はあいつが何を指しているか、流石に分かるぞ。
「ポケモンカードか」
「ああ。その通りだ」
「それは分かったけどどうして!」
「……。お前らが高校入学したばかりの時に俺に話しかけてくれた時は正直言って嬉しかった。中学時代に虐めを受けていた身としては、お前らが差し伸べてくれた手、かけてくれた言葉、何より共に居られると事がとてつもない喜びだった」
「それはどうも……」
「そしてある日、奥村翔。お前は俺様にカードを教えた。カードもくれた。とは言っても所詮はもらったカード。そんなカードを集めた紙束デッキでは、対戦で勝つには無謀にも近い」
 確かに俺が拓哉にあげたカードは、俺にとっては不要だなと思ったカードだった。流石に必要なカードまでは渡せなかった。だが、そこは仕方がないことだろう。
 こちとら裕福な家庭ではない。そこまで恵んでやれるほど、俺は余裕が無い。
「お前らといるのは楽しいし、遊ぶのは楽しい。しかし負け続けるにつれ一つの欲望が産まれた。……勝利への渇望だ」
「……」
「だがうちは両親が離婚し、母親との二人暮らし。金が無い我が家の家計でポケモンカードを続けるのはいかんせん厳しいものがあった。僅かな貯蓄を切り崩し、カードを買っていた矢先の出来事だ。母親にカードが見つかり、酷い目に遭った」
 拓哉が服をめくり上げると、右のわき腹に青く変色した痣が姿を現す。俺と拓哉は十メートル程離れているのにくっきりと見えるそれに、思わず息を飲んだ。
「む、惨い……。まさかそれって!」
「そうだ。母親にやられたんだ。母親にはポケモンカードなんて買う事は極めて愚行に見えたらしい。お前が教えたポケモンカードのせいで、綱渡り状態だった親子関係も限界に来た。崩壊だ。体も心も傷ついた俺、いや、俺の分身は助けを求めた!」
「だからお前がいるってことか……」
「分かってるじゃねェか! だったら俺が仕返しに何をしてやったか分かるよな?」
 そんなこと……知るもんか。言葉にしようとしたが、喉に突っかかって出て来ない。この間の持ち方から少なくともよろしいものではない。もしかして、と最悪の予想をしている時。
 突然、拓哉の唇の両端がつり上がる。とてつもない悪寒にゾッとしたが、その予感ははずれではなかった。
「俺様は怒り余って『こうした』んだよ!」
 拓哉が右手を横に薙ぎ、場外でぼんやりしていた小学生くらいの男の子を指差すと、その男の子の足元から紫色の靄(もや)が現れて彼を包み込んでしまう。
「な、何だ、何が起きてるんだ!?」
 嘘だ。まだ対戦は始まって無いし、そうだとしてもあそこはステージの外。ポケモンのエフェクトではないはず。だというのになんなんだ? 拓哉の手にはスプレーとかそういった小道具の類は一切ない。
 しかしそれだけじゃなかった。靄が晴れるとそこに男の子の姿が無い。辺りを探せど、探せど、探しても。いたはずの彼の姿がいない。
 消えたというのか? そんな事がっ……!
「あの子はどうした!」
 待ってましたと言わんばかりに拓哉の顔が喜色に変わった。ククク、と喉を数度鳴らし、少しずつそれが大きくなってやがてハハハハハッ! と大きく狂気じみた笑い声を木霊させる。
「『別の次元に幽閉した』んだよ。これが俺様の能力(ちから)だァ!」
「ち、能力!? 何なんだそれは! 答えろ!」
「知ったこっちゃねェ! カードに触れてたら気付いたら力が湧いて来たんだ。今なら俺様の望むように出来る……。そんな気がする!」
「まさか……。それをお前の親にしたのか!?」
「だったらどうした。お前がカードを勧めたせいで身に付けた力でな! お前が俺にカードを勧めさえしなければこういうことにはならなかった」
「くっ、そんなの結果論だ!」
「なんとでも言え! お前はクラスで一人ぼっちだった俺様をお前らの仲間にしたわけじゃあない。お前の遊び相手を増やすという自己満足のために俺に近づいたんだ」
「違うっ……! 俺は──」
 なんて逆恨みなんだ。ダメだ、拓哉の暴走が収まらない。しかも得体の知れない謎の能力まである。となると下手な手出しが出来ない。
「だったら勝負だ! 俺が勝てばさっきの男の子や、他の人達を解放しろ!」
「いいぜ……。だが、だがだ! その代わりお前が負けたらどうなるか分かるよなァ!? あァ?」
 負ければ逆に俺が拓哉にさっきの男の子と同じ目に合う……か。
 どっちにしろ言葉で説得は無理だ。こいつで。ポケモンカードでぶつかって、あいつの心に直接当たる!
「さあ、行くぞ!」



翔「今日のキーカードはゴージャスボール!
  好きなポケモンをサーチ出来るぞ!
  ただしデメリットルールは忘れるなよ」

ゴージャスボール トレーナー (破空)
 自分の山札の「ポケモン(ポケモンLV.Xはのぞく)」を1枚、相手プレイヤーに見せてから、手札に加える。その後、山札を切る。
 自分のトラッシュに、すでに別の「ゴージャスボール」があるなら、このカードは使えない。

───
8/8でPCSが三周年! と言うわけでちょっとした三周年記念イベント。

1・藤原拓哉botが登場!
https://twitter.com/#!/ftakuya_bot

2・PCSリメイク三倍速!
今週は通常の水曜日更新だけでなく、8/7、8/10、8/14と新規書き下ろしされた翔VS拓哉が三話公開!

これからも何卒よろしくお願いします。


- 関連一覧ツリー (★ をクリックするとツリー全体を一括表示します)

- 返信フォーム (この記事に返信する場合は下記フォームから投稿して下さい)
おなまえ※必須
Eメール
subject 入力禁止
Title 入力禁止
Theme 入力禁止
タイトル sage
URL 入力禁止
URL
メッセージ   手動改行 強制改行 図表モード
添付ファイル  (500kBまで)
タグ(任意)        
       
削除キー ※必須 (英数字で8文字以内)
プレビュー   

- 以下のフォームから自分の投稿記事を修正・削除することができます -
処理 記事No 削除キー