マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.640] 33話 二つの心 投稿者:照風めめ   投稿日:2011/08/14(Sun) 09:09:23   82clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「俺のターンッ!」
 来た。まだ可能性を広げるカードが。
 風見杯準決勝、俺と拓哉の対戦は中盤に移り始める。拓哉の奇策で優勢が文字通りひっくり返ってしまったが、まだ負けたと決まったわけではない。
 サイドは俺が二枚、拓哉が三枚。俺のバトル場にはゴウカザル50/110。ベンチにはノコッチ60/60とヒコザル50/50、アチャモ60/60。
 対して拓哉のバトル場にはポケモンの道具、達人の帯をつけ超エネルギーが三つついているヨノワール140/140。ベンチには超エネルギー一枚ついたムウマージGL80/80。
 とにかくあのヨノワールを倒す、いや、まずは有効打を与えていかないと。そのためにはゴウカザルに体を張ってもらうしかない。
「まずはベンチの二匹をそれぞれワカシャモ(80/80)、モウカザル(80/80)に進化させてサポーターを発動する。オーキド博士の訪問。その効果で山札からカードを三枚引き、手札を一枚山札の下に戻す。続いてゴージャスボールも発動だ!」
 ゴージャスボールは山札の中から好きなポケモンを一枚手札に加えることが出来るカード。ここで前の番に山札戻されてしまったバシャーモを手札に戻す。
「炎エネルギーをつけ、ゴウカザルでバトルだ。ファイヤーラッシュ! このワザは場の炎エネルギーを任意の数だけトラッシュしてコイントス。そしてオモテの数かける80ダメージを相手に与える」
「あァ? お前の場には今ゴウカザルにつけた炎エネルギー一枚だけじゃねえか。まさかそんなんでどうにかするつもりか?」
「だったらどうした! ゴウカザルについている炎エネルギーをトラッシュ。そしてコイントスだ。……オモテ! よし、攻撃を受けてもらう」
 右の拳に大きな炎を宿したゴウカザルは一つ大きな跳躍でヨノワールの上を取り、灼熱の一撃をヨノワールに上から叩きつける。
 攻撃のヒットと同時に爆発のエフェクトが発生し二匹が黒煙に包まれる。脱するように舞い戻って来たゴウカザルに対し、煙が晴れてもヨノワール60/140はダメージの苦悶からか蹲(うずくま)る。
「やるじゃねェか。だがその程度で俺様は止められねェ」
 確かに、俺の場には再びエネルギーが消え去った。ゴウカザルは恐らく返しの番に倒されてしまうだろう。しかしベンチのポケモンで残りのヨノワールのHPをエネルギー一枚で削りきれるポケモンがいない。
 どうしても二ターン以上かかってしまう。可能なことはそれまでに被害を最小限にすることのみ。
「俺のターン! クク……。ベンチのムウマージGLに超エネルギーをつけ、ヨノワールで攻撃。呪怨!」
 ヨノワールの腹部にある口から六つの火の玉が吐き出され、ゴウカザルを襲う。
 このワザは相手のポケモンに相手が引いたサイドの枚数+五つのダメージカウンターを相手のポケモンに乗せるワザ。今の俺が引いたサイドは一枚なので、六つのダメージカウンターがゴウカザルに乗せられる。ヨノワールの攻撃を受け、苦しみのたうち地を転がるゴウカザル0/110は、やがて手足がだらりと下がってぴくりとも動かなくなる。
「サイドを一枚引いて俺様の番は終わりだ。さあ、これでもまだやると言うなら来なよ」
「俺はワカシャモをバトル場に出す。……そして俺の番だ。まずはモウカザルをゴウカザル(110/110)に、ワカシャモをバシャーモに進化させ、ポケパワー発動。バーニングブレス」
 進化したばかりのバシャーモ130/130は姿が変わるや否や焼けるような赤みを持った炎をヨノワールに吹き付ける。
 両腕でバリケードを組んでヨノワールは抵抗するも、やがて炎の勢いに押されてその身を焼かれてしまう。
「このポケパワーを受けた相手のバトルポケモンは火傷状態になる。炎エネルギーをバシャーモにつけて、俺は自分の番を終了する」
 バシャーモのワザはエネルギーを二枚以上最低でも要求する。ワザが使えないなら、せめて火傷にして少しでもダメージを与えるのみ。
 願いが通じたのか、このポケモンチェックで拓哉はウラを出す。と同時に突然ヨノワールの体が一瞬炎に包まれて、HPを20削る。これでヨノワールの残りHPは40/140。ようやく手の届きそうなところまで削れたか!
 流れはまだぶり返せる、まだまだ終わらない。
「やってくれる! だがこいつでどうだ。俺様のターン。俺は再びワープゾーンを発動。互いのバトルポケモンをベンチポケモンと入れ替える」
「ま、またやるのか!」
 俺のベンチにはノコッチ60/60とゴウカザル110/110。高いダメージが飛び交う中でノコッチをそんなのこのこと出すわけにもいかない。
「くっ。ゴウカザルをバトル場に繰り出す」
「俺はムウマージGLをバトル場に出す。なお、ヨノワールがベンチに戻ったことでヨノワールの火傷状態は回復する。そしてサポーター、デンジの哲学を使わせてもらうぜ」
 デンジの哲学は手札が六枚になるまでカードを引くことの出来る強力なドローソース。今の拓哉の手札は0なので、そっくりそのまま六枚を引く事になる。
「ムウマージGLに超エネルギーをつけ……、お楽しみはここからだァ! 俺はムウマージGLをレベルアップ。さあ現れろ、ムウマージGL LV.X!」
 禍々しいほどの紫の閃光が一瞬視界を覆い尽くし、ムウマージGL LV.X100/100が姿を現す。まだヨノワール以外にも切り札があるのかっ……。
「ポケパワーを発動だァ! マジカルスイッチ。その効果で俺のポケモンについているポケモンの道具を一枚手札に戻す」
 ムウマージGL LV.Xの眼が光ると、ベンチに控えているヨノワールの達人の帯がしゅるりとほどけて消えていく。達人の帯が消えたことでヨノワールの最大HPが下がり、20/120へ。
「な、どうしてわざわざHPを下げるような真似を!」
「パーティの始まりだァ! ムウマージGL LV.Xでバトル。闇の呪(まじな)い! このワザは相手のポケモンに手札の枚数だけダメージカウンターを乗せる!」
「手札の数だけだって!?」
 なるほど、確かにそれならマジカルスイッチで達人の帯を戻し、手札を増やした意味が分かる。ムウマージが謎の呪術を呟くとゴウカザルの体が宙に浮き、締め付けられる。今の拓哉の手札は五枚なので、ゴウカザルに乗せられるダメージカウンターも五つ。これで残りHPが60/110まで削られた。
 ヨノワールといいムウマージGL LV.Xといいダメージを与えるのではなくダメージカウンターを乗せるだったり、奇妙なプレイスタイルのせいで動きが読めない。
 今まで戦ってきた拓哉とは本当に別人の様な気がする。……よくよく考えたら別人格とからしいから、それも当たり前か。
「まだまだァ! 俺のターン。ゴウカザルをベンチ逃がし、バシャーモをバトル場に戻す。ゴウカザルの逃げるエネルギーは0なので、コスト無しで交代が可能だ。さらにバシャーモに炎エネルギーをつけ、ポケパワーのバーニングブレス。ムウマージGL LV.Xを火傷状態にする」
「けっ、しつけぇ野郎だ」
「更に攻撃だ。鷲掴み!」
 どういう原理かは知らないが、幽体のムウマージGL LV.X60/100の首元をがっちり押さえこんでバシャーモは放そうとしない。
 ワザの威力は40と平々凡々だが、このワザは相手を逃がさなくする追加効果がある。逃がさなくすれば火傷を継続させやすい。それを加味してのバーニングブレスと鷲掴みのコンボだ。
「ポケモンチェック。……けっ、ウラか」
 ムウマージGL LV.Xの体が炎に包まれ、HPを削っていく。残りHPは40/100。後一発鷲掴みを決めるだけで倒せるまで削れた。
「俺様のターン。攻撃だ。闇の呪い!」
 手札が一枚増えたことで闇の呪いの威力も上がる。ダメージカウンターを六つ乗せられたバシャーモ70/130は、ムウマージGL LV.Xの手を放さまいとただひたすら堪える。
 ダメージの計算が終わり、拓哉の番が終わったことでバシャーモはムウマージGL LV.Xから離れる。さらにポケモンチェックでウラを出したため、続けざまに火傷のダメージを受けてついにムウマージGL LV.XのHPも20/100まで削られる。
「拓哉! お前は本当はポケモンカードが好きなんじゃないのか?」
「何を言いやがる!」
「ずっと俺と対戦してる間、お前は常に楽しそうにしていた。なのにそのポケモンカードで誰かを傷つけるなんて間違ってるだろ!」
「う、五月蠅い! 俺の、俺らの辛さがお前なんかに分かるか!」
「分からないさ。お前がこうして俺に伝えてくれないと」
「っ……」
「こうして対戦をやってると、相手がどんな気持ちでどんな風に思ってプレイしてるかが伝わるんだ。でもお前のやってるそれは、ただ現実から逃げて苦しみを紛らわせているだけだ。本当に苦しみから逃れたいならば、辛い現実と向き合って乗り越えなきゃならない!」
「余計なお世話だッ!」
「ならば力づくで分からせてやる。俺のっ、ターン! ベンチのゴウカザルに炎エネルギーをつけてバシャーモで攻撃。鷲掴み!」
 最後のバシャーモの一突きがムウマージGL LV.Xを攻撃する。勢いよく宙に投げ出されたムウマージGL LV.X0/100は、ヨノワールの隣まで吹き飛ばされてそのまま起き上がること無く倒れる。
「ぐううう!」
「俺はサイドを一枚引いてターンエンドだ。さあ、カードを引け! お前の全てをぶつけて来い」
「ヨノワールをバトル場に出し、俺のタァーン! ヨノワールで呪怨攻撃だ。お前が更にサイドを引いたことで呪怨の威力が増し、バシャーモにダメージカウンターを七つ乗せる」
「なっ! くう。やるじゃないか」
「サイドを一枚引いて俺様の番は終わりだ! これで互いにサイドは一枚ずつ。次の俺の番で決着をつけてやる」
 バシャーモの残りHPを全て削り取られる。まさかあいつ、ここまで計算してムウマージGL LV.Xとヨノワールを入れ替えたりしたのか。やっぱり強い。
 だけど勝利への道筋は見えている。ゴウカザルをバトル場に出し、最後の攻防に挑む。
「悪いが、お前の番まで回すつもりはないぜ。俺のターン。ゴウカザルに炎エネルギーをつけて、攻撃。これがトドメの一撃だ。怒り!」
 拓哉が舌打ちをして一歩下がる。対峙するゴウカザルは、体中から猛る炎を発し、今にもヨノワールに飛びかかろうとしている。
「怒りの元の威力は30だが、ゴウカザルに乗っているダメージカウンターの数かける10ダメージ威力があがる。今のゴウカザルに乗っているのは五つ、よって80ダメージだ!」
 ゴウカザルは赤い閃光となってヨノワールに飛びかかり、会場中に響き渡るような大きな爆発音と同時にダウンナックルをぶちかます。
 地面に叩きつけられたヨノワール0/120はゴムボールのように一度弾み、そのまま倒れ伏す。
「最後のサイドを引いて、俺の勝ちだ。──っておい! 拓哉!」
 サイドを引いて試合終了のブザーが鳴る。と同時に突然拓哉が糸の切れたマリオネットのように崩れ落ちるのを見て、カードを残したまま慌てて拓哉の元まで駆け寄る。
 ショックで放心、なんてそんなものじゃなくて本当に危ない倒れ方をした。俺がいた場所からは良く見えなかったが、後頭部を打ちつけたかもしれない。
「拓哉! 大丈夫か! おい、しっかりし──」
「そんな騒ぐなよ……」
 倒れている拓哉は薄めを開き、唇から洩れるような小さな声で応対する。特別容態が悪いという感じがしなくて、少し安堵した。
「騒いで当たり前だろ。友達なんだから」
「……何だか突然力が入らなくなりやがった。能力(ちから)の方も、さっぱりだ。急に抜けたっていうか、俺も全然分かんねえけど」
 能力が無くなった? もしかして、と思いギャラリーの方に視線を動かすと、試合前に拓哉に幽閉されていた男の子が元の場所に再び現れている。消されたまま、という訳ではないようなので安堵する。きっと同じような目にあった人、例えば拓哉のお母さんとかもきっと戻ってきているかもしれない……。
 とにかく拓哉が分からない以上俺もさっぱり分からないが、拓哉の能力とやらが効力を失ったのだろうか?
「今から医務室だか救護室だかに連れていくからな!」
「……世話焼きな奴だ」
「良いだろ。……今度はちゃんと、楽しい勝負をやろうぜ」
「ああ……」
 拓哉の唇が閉じると、やがて瞼もふっと閉じる。一時は驚いたが、すぐに心地よさそうな寝息が聞こえて胸を撫で下ろす。
 能力が何かは分からないままだったけど、とりあえず一段落ついたからよしとしよう。
 結局自分一人だけでは拓哉を抱え上げるほどの筋力がなかったので、助けを求めて担架で運んでもらった。



「もしもし、松野です。今風見杯会場なんだけどまた能力(ちから)が確認されたわ。今回は『異次元へ幽閉する』ってものみたい。えぇ。……いや、奥村翔っていう少年が能力を持っている少年を倒したわ。倒されたらやはり急にその場に倒れこんで意識を失ったみたい。今は医務室に行ってるけど別段異常はないらしいわ。とにかくそれに関するレポートもまた用意しておくから。それじゃあ」
 松野は青色でシンプルデザインの携帯電話を閉じると、近くにある椅子に腰かける。
 ポケモンカードを介して通常では考えられないことを引き起こす能力。ある日突然姿を現して以来、松野はそれの対応に追われ続けていた。
 意味のわからない上対策の仕方も分からないままの状況で引きずりまわされ、松野もうんざりし続けている。ただただ謎ばかり積み重なり、一切の糸口が見えない。どうして? なんのために? どうすれば?
 そんな松野の疑問は解決しないまま、準決勝の第二試合、風見雄大対長岡恭介も今から始まろうとしていた。



翔「今日のキーカードはムウマージGL LV.X!
  マジカルリターンで手札を増やし、
  やみのまじないで一気に決めろ!」

ムウマージGL LV.X HP100 超 (PROMO)
ポケパワー マジカルリターン
 自分の番に何回でも使える。自分のポケモンについている「ポケモンのどうぐ」または「ワザマシン」を1枚、自分の手札に戻す。このパワーは、このポケモンが特殊状態なら使えない。
超超無 やみのまじない
 自分の手札の枚数ぶんのダメージカウンターを、相手にのせる。このワザでのせられるダメージカウンターは、8個まで。
─このカードは、バトル場のムウマージGL(ジムリーダー)に重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 悪×2 抵抗力 無−20 逃げる 1


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