マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.718] 42話 能力者の影 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/09/14(Wed) 17:25:30   69clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「戻すときは逆の手順だ。テーブルに近づいて、ベルトとキッチリ合わせてテーブル手前のボタンを押す。そう、それでテーブルの脚がなくなる。今度は一個だけ残ったポケット傍のモンスターボールのボタンを押してくれ。その時も危ないから手とか近付けるなよ。最後にさっきのボールを最初とは逆にへそ側へ押してカチッと鳴ったら終わりだ。そう、そうだ」
 言われた通りの操作して二人はバトルベルトをはずして風見に返す。しかめっ面の拓哉とは反対で、風見はテストプレイが上手く行ってご満悦のようだ。
「さて、私に負けたから言うことを一つ聞いてもらうわよ」
『……はぁ。どうしても戦いたいなら戦ってあげるわ。その代わり、負けたら勝った方の言う事を一つ聞く』
 そういやそんなこと言ってたね。だんまりの拓哉の元に、静かに松野さんが歩み寄る。
「私の言う事は、『私の言う事を聞いてほしい』よ」
「は?」
「え?」
 俺と拓哉から思わず間抜けた声が出る。意味を理解するまでに少しの間を必要とした。
「まあ、分かりやすく言うと、貴方達を呼んだ理由を話すからさっきみたいに喧嘩とか売らないで私の話を黙って聞いてほしいの」
 意外と従順で、拓哉はあっさり黙り込んだ。松野さんはそれを見てようやく満足したのか、その話を始める。
「大事な大事な話だから、ちゃんとよく聞いててね」
 松野さんの目が真剣になり、それに誘われるように自然と雰囲気が重たくなる。張りつめた空気ゆえに、自分の唾を飲み込む音が聞こえた。
「まず、君」
 と言って松野さんは拓哉を指差す。
「この前の風見杯で、君は人を消した。君の言い方を借りると、異次元に幽閉した、かしら」
「あ、ああ」
「君みたいに不思議な『能力(ちから)』を持つ人が最近あちこちに現れたの」
「なんだと?」
「どういうことですか? 詳しく教えてください」
 風見だけは話を聞くというより、話を聞いている俺と拓哉を静観しているようだった。事情は既に聞いているまたは知っているのだろうか。
「それぞれ藤原君とは違う能力だけど、まあ似た類のものが跋扈して困ってるのよ。たとえば、ここ東京では対戦相手がことごとく意識不明になったり、青森県ではカードのポケモンが具現化したり、島根県では左半身麻痺の女の子がポケモンカードをやっているうちに麻痺が回復したり」
「いろいろありますね」
「今のところ二十八人確認されてるわ。このままだと増加していく一方よ」
「それで?」
「この、能力を持つ人のこと。まあ能力者って名づけようかしら。その人達の全員が勝率百パーセントなのよ。ほら」
 ポケットから取り出した小さなモニターにはその能力者の名前が羅列してあり、名前の隣に勝敗数が並んでいる。勝数にはばらつきがあるが、負けは揃って0。しかし気になることが一つ。
「あれ? 拓哉の名前はないけど」
「ええ。理屈はさっぱり分からないけど、対戦で負けると能力が無くなるみたい。だから藤原君はもう欄外なの」
 確かに、拓哉はあの能力はもう使えないと言っていた。あまりしっくりこない理由だが、そうなった以上事実と認めるしかない。
「今のところ、負けた能力者は藤原君を含め五名。その五名とも、事情を聞く限り何かしら出来事があって精神状態が崩れてから、能力を身に付けたらしいわ」
 拓哉が心なしか萎れている。まあ気持ちは分かる。あまり触れられたくない過去だろうし、最も能力のこと自体がそうかもしれないけど。
「俺達を呼んだのはそれを伝えるだけじゃないでしょう?」
「ええ、もちろんよ。君たちにはお願いがあるの。風見君も含めてね」
 じっとこちらを見つめていただけの風見がふと我に返ったように松野さんを見る。
「そうなんですか?」
「いや、昨日言ったじゃない」
 本題に入る、気が引き締まる場面で風見のこれだ。空気が読めそうで読めないところはなんとかしてほしい。お陰で文字通り気が抜けて行ったよ。
「はぁ。何だかグダグダになったけど、本題よ。貴方達には能力者を倒してほしい」
 予想はしていたけど、倒してほしいって簡単に言ってくれる。拓哉と戦うときだって大変だったのに。
「まだそうなってないのが不思議だけど、このまま不祥事が表立ってしまったらポケモンカード自体が完全に信用を失ってしまうの。我儘なのは承知よ。でもこれもポケモンカードの、いや、むしろポケモンの存続のためなの!」
 最後の言葉で完全にお願いが脅迫になったじゃないか。ポケモンカードの存続がかかっているとかまで言われれば、こうなったらもう選択肢は一つしかない。
「なんとかします」
「おい翔! それでいいのか!?」
「いや、いいもクソもないだろ」
「そうだ。実質俺たちには拒否権はないようなもんだ」
「おい、風見。テメーまで!」
 拓哉は不満を口に現わすが、やがて威勢は消えていき、「仕方ねえ」と静かに言い放った。
「皆ありがとう。能力者のほとんどが、後に開かれるPCCに出場登録してるらしいの。対戦表は操作できないけど、高確率で勝ちあがってくるはずよ。つまりいつかは戦う事になる。その時に、必ず……」
「ちょっと待ってください。それはいいんですけど、東京はまだしも他の道府県は?」
「勿論手を回してあるわ。貴方達には目の前の事だけ考えてれば大丈夫よ」
 風見杯も決して穏やかな動機じゃなかったが、PCCもまたそうなるのだろうか。いいや、今からそんなことを考えてもどうにもならない。
「まあなんにせよ、俺たちは初めから相手が誰だろうと勝ち抜くつもりですよ」
「それもそうだな」
「ふん、全くだ!」
「ふふっ。それじゃあ頼んだわよ、頼もしい三人さん」
 からかわれているのか、本気で言ってもらえているのやら。とりあえずただ、今は笑っていた。
 やがて俺たちは能力者の真の恐ろしさを知ることになるが、それはまだまだ先の話になる。



松野「今日のキーカードというよりは前回のキーカードよ。
   このスタジアムが場にある限り出した番、あるいは進化した番にも進化できるわ。
   これがあるだけで試合のスピードが一気に変わるわね」

破れた時空 サポーター
 おたがいのプレイヤーは、自分の番に、その番に出たばかりのポケモンを進化させられる。(その番に進化したポケモンも進化させられる。)

 スタジアムは、自分の番に1回だけバトル場の横に出せる。別の名前のスタジアムが出たなら、このカードをトラッシュ。


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