マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.795] 52話 出陣 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2011/10/26(Wed) 21:23:34   34clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 三月下旬の日曜日、待ちに待ったPCC(ポケモンチャレンジカップ)の※東京Aの地区予選が開催される日だ。
 ※東京A・東京は参加する人数が多いため、東京Aと東京Bに分けられることがある。
 姉を置いて一人、先に会場となるサンシャインシティを目指し池袋駅に着いた。
 「姉を置いて一人」とは言ったものの、日ごろの仲間達とは待ち合わせをしてある。集合場所はJR池袋駅の改札だ。
 どうやら一番乗りらしい。集合時間の七分前に来てしまったのだが、とりあえず歩行者の邪魔にならないよう壁際で待つ。
 三分ほどしてやってきたのは石川薫だった。
「あれ? 遅れてごめん」
「まだ集合時間の四分前だから問題ないぜ」
「いや、本当はおれが一番に来るつもりだったんだけどやられちまった」
 三月下旬の東京はようやく春めいてきた。今日の最高気温は十五度だが、それでも薄着だとそこそこ寒いと感じることもある。
 俺もそれを見越して、真ん中に英語がプリントされた長袖のTシャツの上に長袖の赤系チェックシャツを羽織っているのだが、事あろうか石川は肩出しニット一枚だ。ちなみにパンツは俺が薄青ダメージジーンズで、石川がレギンス付きスカートを履いている。
 しかし肩にギリギリ届かない程度の石川の髪が、柔らかい雰囲気を持ったためなのか可愛らしい印象を受ける。
「毎度思うけど寒くないの?」
「そもそも今日って寒い? 暖かいと思うんだけど」
「いや、なんでもない」
 思えばこいつは真冬にあった風見杯で半袖半ズボンという理解不能な服装をしていた。それに比べれば今回はマシというわけだが、やはり理解に及ばず。
 ちなみに石川とはこの間かーどひーろーで会った後にもう一度別の日にかーどひーろーで会い、そこで連絡先を交換した。折角なので、一緒にPCCに行こうと誘ってみたのだ。
「もうすぐ時間かな」
 他愛ない話をしている最中、ジーンズの尻ポケットに入れていた携帯で時間を確認する。時刻は丁度集合時間の一分前を指していた。
「おっすー、待たせたな」
 図ったかのようなタイミングで人ごみの中から声が聞こえてきた。
 まずやってきたのは恭介と蜂谷と拓哉だった。
「ちょっとまてよ翔、そこの女の子はどなただよおい」
 蜂谷が眉間にしわ寄せ問うてくる。そんながっつくなよ。
「こないだの大会で戦って、かーどひーろーで再会してから連絡先交換したんだよ。お前も初めてかーどひーろー来た時顔見ただろ?」
 人がマジメに答えてやったのに、蜂谷は頭をひねる。そのまま百八十度まわしてやろうか。
「ちょっと待てよ、こないだの大会?」
 蜂谷に代わり今度は恭介が食いついてきた。
「ああ、風見杯本戦の二回戦で」
「ってあの季節違いの服装してたやつか! って男じゃないの!?」
 やっぱりそういう覚え方してたかー。でも本人の目の前で言うのはどうかと思うぞ。
「おれは女だ!」
「説得力ねー!」
 さかさず突っ込んだ石川だが、恭介に返される。互いに睨みあうせいで(恭介が睨む必要性はないと思うが)妙に緊迫した雰囲気になった。
「そういえば確かに風見杯のときと比べて急に印象変わったよね」
 俺の問いかけに石川は睨みあいを中断し、素直に首を縦に振る。
「お母さんに、高校に入るんだから女の子らしくしろって言われてさ」
「じゃあ風見杯のアレは黒歴史になるわけか」
「さっきからうっさい!」
「ごべばっ!」
 鳩尾を思いっきり殴ってきた。とてつもないダメージで、思わず床に両手をつく。その様子を見ていた恭介は、口は笑っているも目が死んでいた。
「遅れてすまんな。何かあったのか?」
 背後から風見の声がした。怪訝な顔を作る風見から手を借りて立ち上がる。
「いや、大丈夫、何でもないさ。おそらくだけど」
「? まあそんなことより時間だしそろそろ行こうか」
「ちょっと待ったぁ!」
 会話を割ったのは蜂谷だ。
「風見の後ろにいる人誰?」
「ああ、お前は風見杯に来てなかったんだな。風見杯ベスト16の向井剛だっけか。PCCに来るようだったからな」
 要は拾ってきたという事か。向井は恥ずかしそうにお辞儀をした。人見知りっぽいね。
 向井と同級生(幼馴染でもあるらしい)である石川は、「一緒にいこーぜ!」と背中をバシバシ叩きまくってる。手綱は石川にアリ、か。
「それじゃあそろそろ行くぞ」
 音頭を取ったのは風見だった。皆が風見の後ろをついていく形になる。
 風見と絡むようになってから知ったのだが、非常にリーダーシップを持っている。働いているという理由もあるのだろうが、各々に別方向を向いているヤツらを一気に同じ向きに向かせる程のリーダーシップは天性のものだろう。
「今回の会場はサンシャインシティだ。35番出口から出るのが一番早い」
 下調べもバッチリか、風見先導のまま地上に出てからも迷うことなく進んでいく。休日日曜の朝も、池袋は人の行き交いがとても盛んだ。七人で固まってあるいていると通れる道も通れないので、自然とだいたいな二列縦隊に組まれる。
 俺はなんとなく先頭の風見の左隣りで落ち着いた。俺の後ろには恭介と蜂谷と拓哉、その更に後ろは石川と向井と続く。
「翔、今回の自信の程は?」
「まあ少なからず予選は抜けたいな」
「なんだ、風見杯の優勝者がこんな弱気とは拍子抜けだな」
「本当のことを言うと全国に出たい」
「本音はそっちか。まあ会場に向かう人の大多数が望むことだからな」
「いや、約束なんだ」
「約束?」
 風見が眉をひそめる。風見の疑問に応えるために、ポケットに入れていたデッキケースから一枚のカードを取り出す。
「『マニーの決意』? 見た感じ創作カードのようだが」
 まるで警察官が証拠品をみるかのように、そのカードをいろんな角度から見る。
 このカードは、裏面は普通のカードと変わりないのだが、表面の部分は剥がされ、ザラザラになった表面にボールペン等でイラストとテキストが書かれているものだ。
「一応サポーターか。筆跡は翔のではないな」
 風見が呟いたように、一応このカードはサポーター扱いである。どっちにしろ実際に勝負するときには使わないけどね。バクフーンを連れ、腕組みをした男がイラストの部分に鎮座している。
 このカードの効果のテキストは、『全国大会で再会する約束を守る』とある。風見が言った通り、これを書いたのは俺ではない。
「これは?」
「中学時代の仲間と書いたんだ。これと同じのがあと二枚、その仲間が各自持ってる」
「ほう、じゃあその仲間というのも翔とあと二人か」
「ああ。一人は今大阪にいて、もう一人は東京にいるはずなんだけど……」
「?」
「連絡がつかないんだ。メールしても電話しても、年賀状も帰ってこないし」
「気になるな」
「冴木才知(さえき さいじ)ってやつなんだけどな……」
「全国に出れば何も分かるかもしれない、ってことか」
 黙って頷く。風見が返してきたカードをデッキケースに戻す。
「翔、これを貸しておく。使うか使わないかはお前次第だ」
 風見がポケットから十枚程度のカードを裏向けのまま渡した。拒否出来ない雰囲気に負け、何事もないかのように受け取ってしまう。
「よし、後はこのエレベーターで三階まで昇ったら会場だ。気を引き締めていくぞ!」
「おー!」
 カリスマ性だな、と感じる。今の風見がとった音頭も、普段は俺がするポジショリングなんだが今日は風見の機嫌がいいような気もする。おー! と返した恭介達の表情も実に柔らかい。
 サンシャインシティ、文化会館展示ホールへ向かうエレベーターは四つ。エレベーターホールには、俺たち以外にPCCに出ると思われるような人達が見受けられる。
 バトルベルトを既に装着している人はカードで出るのだろうと分かるが、俺のようにまだ未装着の人をゲームかカードかどちらで出るのかは分からない。
「翔、エレベーター来たぞー」
 蜂谷に小突かれる。辺りを見回すのに必死で、目の前の目的を忘れるところだった。稼働するエレベーターは四つあるが、どれもこれもエレベーター一つではここにいる人を運びきれない。ちょうど他にも降りてきたエレベーターに人が分かれて乗り込む。
 自分の意志でエレベーターに向かわずとも、人ごみに押されて自然とエレベーターの中に収まる。エレベーターが閉まる瞬間、ホールの方から嫌な視線を感じたような気がした。



翔「今回のキーカードはマニーの決意。
  一年前の約束のカードだ」

マニーの決意 サポーター
 全国大会で再会する約束を守る。

 サポーターは、自分の番に1枚だけ使える。使ったら、自分のバトル場の横におき、自分の番の終わりにトラッシュ。

※このカードは実在しません。


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