「石川おめでと」
辛くも勝利をもぎ取ってきた石川が溢れんばかりの笑みを携え俺達の元に戻ってきた。
「……。あのさ、なんかよそよそしいから下の名前で呼んでくれない?」
「下の名前はえーっと。薫だっけ?」
「うん」
「薫、おめでと」
「うん、ありがとう」
あれ、こいつってこんなキャラだったかな。
「けっ、陽気な事だな」
拓哉(裏)が呆れた目でこちらを見る。こいつの言いたいことはだいたいわかる。
「はいはい。二回戦ももう始まるな」
「二回戦といえば翔とあたしが対戦だね」
と、薫。そういやそうだった。他にもこの二回戦は蜂谷を下した沙羅比香里と、能力者の高津洋二の対戦。そして松野さんともう一人の能力者の山本信幸の対戦もある。注目のカードが多い二回戦だ。
「さて行ってくるか」
「拓哉しっかりな」
「誰に向かって言ってやがる」
相変わらずコミュニケーションの取りにくい奴である。素直になれ素直に。ま、らしいと言えばらしいのだが。
「あっ剛出番だ」
「うん?」
二回戦第一ブロックでは俺らの中では拓哉(裏)と向井剛が出番となる。ちなみにここで二人は潰しあう事はなく、二人が戦うのは順当に行けば準決勝(四回戦)だ。沙羅と高津の対戦もこのブロック。
一方第二ブロックは恭介、風見、俺と薫に松野さんの五人が出て忙しい。恭介と風見は共に勝てば三回戦での対戦。風見杯以来の勝負だ。そして俺か薫のどちらかと松野さんか山本が三回戦で当たることになる。
「頑張ってね」
「……僕も負けないように頑張るよ」
向井の声はどうも弱気だ。
「うーん、剛ももっと自信持てばいいのに」
今から対戦に向かう向井と喋っていた薫を見つめる。……松野さんが負けるとは思わないのだが、万が一。もし俺が負けて薫が勝ち上がって、それで山本も勝って二人の対戦となって山本が勝てば、薫は植物状態になってしまう。
こういう変なややこざに薫はもちろん恭介達を巻き込んじゃダメだ。絶対に勝たなければならない。元より負けるつもりで勝負に挑む気なんてさらさらないのだが。
自信を持て、というのは小さい頃から言われ続けていたことであって、特に小さい頃から馴染みのある薫には事あるごとに言われ続けた。
でも自信を持つというのはどういうことなのか分からず、気丈な振りをしたりもした。
自信というのは辞書によると自分の才能等を信じるということらしいのだが周りの人は僕よりも立派なそれを持っているのでとてもじゃないが信じれない。奥村先輩、風見先輩、長岡先輩、藤原先輩。誰もかれもがこないだの風見杯で上位にいたメンツだ。
手元にあるのは今にも消えそうな炎。しかし周りにはより強い輝きを持つ大きな炎だらけ。委縮するのも仕方ない。
実際ここまで来れたのも、予選といい一回戦といい御世辞にも上手じゃない初心者といったような感じの相手ばかりであったからで、なんとか利を拾う形となっていた。
だがもうそれも通用しない。今、僕の目の前に対戦相手として立っているのは過去の大会(大会に参加したわけではないので聞いた話)やイベントなどで何度も勝ち続けてきた男。中西 哲(なかにし てつ)だ。
スーツを着た四十を越えているパパさんプレイヤーで、柔和な顔つきをしているのだが、それに反して鋭いプレイングで他を寄せ付けない。優勝候補の一角を担う人だ。そして過去に僕自身ジムチャレで完膚なきまで叩きつぶされたことがある。
「お久しぶりですね」
「君は……、先月のジムチャレでの。あのときは私の息子が御世話になりました」
「まぁ……」
二月に行われたジムチャレで彼と対戦した後、小学校中学年くらいの彼の息子とも対戦したのであった。ちなみにそっちは勝てた。
「さて、そろそろ始めますか。私も息子に負けるなと言われているんですよ。というわけで君には悪いが手抜かりは一切ナシで行かせてもらうよ」
「……お願いします」
バトルベルトを起動して対戦の準備を整える。前回はコテンパンにされたのだから、今回は前よりはマシな戦いをすることを目標だ。そう、たとえばせめてサイドを四枚引くくらいか。
「さて、私が先攻をさせてもらってもよろしいですかな」
「はい」
中西さんの最初のバトルポケモンはヒンバス30/30。ベンチにはヤジロン50/50。前戦った時の中西さんのデッキは闘タイプメインのパワーデッキだったがあの時とはまた違うデッキのようだ。
一方僕のバトルポケモンはダンバル50/50でベンチにも同じダンバルが一匹。理想の形ではないが戦えない訳ではない。
「それでは私のターンから。手札の水エネルギーをヒンバスにつけまして、ヒンバスのワザのカウントドローを使わせていただきます。このカウントドローは相手の場にある進化していないポケモンの数だけ山札からカードを引く効果を持っています。今君の場にいる条件に該当するポケモンは二匹。よって二枚引かせてもらい、ターンエンドです」
今回の彼のデッキはどういうデッキなのか、出来れば早めに見切りたかったのだが。もしかして準備に手間がかかるのか?
「僕のターン。ゴージャスボールを使います」
ゴージャスボールはデッキから好きなポケモン(ただしLV.X除く)を手札に一枚加えることのできるグッズだ。僕が選んだのはヌマクロー。
「更にハマナのリサーチを使って僕はデッキから鋼エネルギーとミズゴロウを手札に加え、ベンチにミズゴロウを出します」
ハマナのリサーチはデッキから基本エネルギーまたはたねポケモンを二枚まで選んで手札に加えることのできるサポーターだ。そしてベンチに出したミズゴロウ60/60は二進化するたねポケモンでは高水準のHPを持つ部類だ。
「さっき加えた鋼エネルギーをダンバルにつけてピットサーチ!」
ダンバルの赤い眼から真っすぐ会場の天井に向けて同じ赤いレーザーポイントのような光が発せられる。このワザは自分のデッキからスタジアムカードを一枚選んで相手プレイヤーに見せてから手札に加えるもの。僕は破れた時空を加えた。
「私のターンだね。手札からサポーターカードのデパートガールを使わせてもらうよ。このカードの効果で私は自分の山札からポケモンの道具を三つ手札に加えるんだ。私はエネルギーリンク二枚とベンチシールドを一枚手札に入れてそのベンチシールドをヤジロンにつけさせてもらおうか」
ベンチシールドをつけたポケモンはベンチにいるかぎりワザのダメージを受けない。つまりヤジロンにダメージを与えるならバトル場にひきずりださないといけないわけだ。
「さらにグッズカードのミステリアス・パールを発動。このカードの効果で自分のサイドを全て確認し、その中にあるポケモンを一匹相手に見せてから手札に加えることができる。加えた場合はこのミステリアス・パールをオモテにしてサイドに置くんだ。私はミロカロスを加えるよ」
ミステリアス・パールはかなり人気なレアカードだ。大会上位者のみもらえる限定カード。よく持っているな。
「そしてヒンバスをミロカロスへと進化させて水エネルギーをつけよう」
小さい小さいヒンバスが、光り輝きながらそのフォルムをより大きく、美しく作り変えていく。ミロカロス90/90はヒンバスのHPの三倍もある。これはどう切り抜けるべきか。
「ミロカロスで攻撃といこうか。クリアリング」
大きな体を活かしたミロカロスの攻撃がダンバルに襲いかかる。しかしダメージは思ったより軽く20で済んだ。まだHPは30/50残っている。
「僕のターン! 手札からスタジアムカード、破れた時空を発動」
フィールド全体が破れた時空に姿を変えていく。このスタジアムが場にある限り、お互いのプレイヤーは自分のターンに場に出したばかりのポケモンを進化させられる。
「バトル場のダンバル、ベンチのミズゴロウをそれぞれ進化させる!」
これで僕のポケモンは全体的に強化された。メタング60/80もヌマクロー80/80もHPは一進化の平均。簡単には倒されまい。
「そしてメタングのポケボディー、メタルフロートの効果で逃げるエネルギーがなくなったメタングを逃がしベンチのダンバルを新しくバトル場に出してメタングに闘エネルギーをつける!」
メタングのメタルフロートはこのポケモンに鋼エネルギーがついているなら逃げるエネルギーがなくなるというもの。ここはダンバルを盾にして自分の体勢を整えておきたい。
「ダンバルにはエネルギーがついてないからワザは使えない。ここでターンエンド」
「では私のターン。遠慮はしないよ。ヤジロンをネンドール(80/80)に進化させてポケパワーのコスモパワーを使おう。この効果は手札を一枚か二枚を山札の底に戻して手札が六枚になるようにドローするものだ。今の私の手札は六枚。そのうち二枚を山札の底に戻して山札から二枚引く。そしてサポーターのミズキの検索を発動だ」
ミズキの検索は手札のカードを一枚戻してデッキからポケモンのカードを手札に加えるサポーター。一気に攻めてくるつもりか。
「私はヒンバスを手札に加えてベンチに出す。さらに破れた時空の効果で、ヒンバスをミロカロスに進化だ」
しかし今回のミロカロスはさっきのミロカロスと違う。色違いのミロカロス80/80だ。既にバトル場にいるミロカロスよりもHPが10少ない。
「バトル場のミロカロスに水エネルギーをつけて攻撃だ。スケイルブルー!」
ミロカロスの足元から僕の背丈の三倍くらいはありそうな巨大な波が発生し、ダンバルに打ちつける。見た目通りの壮絶な威力で、あっという間にHPが0だ。次のポケモンに僕はメタングを選択。
「このワザの威力は90から自分の手札の枚数かける10引いたものでね、今の私の手札は二枚。だから与えるダメージは70だ。サイドを引いてターンエンド」
サイドを引く……。つまり手札が一枚増えたことになる。だからなんだっていうんだ。でも何か引っかかる。
「それじゃあ僕のターン! 手札からハマナのリサーチを使って闘エネルギーとヤジロンを手札に加え、ヤジロン(50/50)をベンチに出す。そして破れた時空の効果でヤジロンをネンドール(80/80)に進化させ、僕もコスモパワー!」
手札を一枚だけデッキの底に戻す。これで二枚になったから四枚ドローだ。
「メタングに鋼の特殊エネルギーをつけ、メタグロスへ進化だ! メタグロスのポケボディー、グラビテーションの効果で場のポケモンのHPは全て20ずつ小さくなる!」
メタグロスを中心に薄い紫色のドームが形成され場のポケモン全てを包み込んだ。その中にいるポケモンは変な重力に押しつぶされそうでいる。
このポケボディーで僕のポケモンのHPはメタグロスが90/110、ヌマクローとネンドールが60/60。中西さんのポケモンはミロカロス70/70にネンドールと色違いのミロカロスが60/60。
更にメタグロスにつけた鋼の特殊エネルギーは通常の鋼エネルギーと違って鋼ポケモンについているなら受けるワザのダメージを10減らしてくれる。これでグラビテーションのディスアドバンテージも多少はどうにかなる。
「10足りない……。くっ、メタグロスでミロカロスに攻撃。ジオインパクト!」
メタグロスが四つもつ腕のうち一つを地面に擦りつけながら低空移動しミロカロスに近づく。そしてずっと地面に擦りつけていた腕を一気にアッパーカートのように振り上げミロカロスに強大な一撃を喰らわせた。さらに地面から腕を振り上げた際に同時に地中から飛び出した岩がベンチの色ミロカロスに襲いかかる。
「ジオインパクトは場に自分のスタジアムがあるとき、攻撃した相手と同じタイプのポケモンにも20ダメージを与える」
このジオインパクトの元の威力は60。よって相手のミロカロスのHPは10/70、ベンチの色ミロカロスは40/60。
「むっ」
中西さんの表情が僅かに陰る。
「なかなかいい攻撃だ。だが少しだけ足りなかったね」
そう、バトル場のミロカロスは10だけHPを残している。さっき引かれた分のサイドをここで取り返しておきたかったのだが……。
「それでは私のターン。ベンチにカゲボウズ(グラビテーションの効果を受けてHPは30/30)を出そう。そしてバトル場のミロカロスについている超エネルギーをトラッシュしてベンチの色ミロカロスと交代だ」
ここで交代か。だが意図することが分からない。次にジオインパクトを食らえば二匹ともども気絶なのに。更に色ミロカロスにはまだエネルギーはついていない。ワザを使うにはエネルギーが三つ必要なのだ。
「更に手札のポケモンの道具、エネルギーリンクをバトル場の色ミロカロス、ベンチのミロカロスにつけて効果を発動。エネルギーリンクがついているポケモン同士ではエネルギーの移動が自由になるのでね、ミロカロスについている水エネルギー二枚をバトル場の色ミロカロスに移動させ、手札の水エネルギーを色ミロカロスにつけるよ」
これであっという間に色ミロカロスにエネルギーが三枚ついた。早すぎる。
「色ミロカロスで引き潮攻撃といこう」
引き寄せる波がメタグロスを襲う。グラビーテションが発動している中ではいつもよりもダメージの比率が大きい。だから僅かなダメージでも痛いのだが。
引き潮攻撃は80に、色ミロカロスに乗っているダメージカウンターの数×10だけ引いた分の威力を与えるモノ。今色ミロカロスには二つダメカンがあるから80−20で60、更に鋼の特殊エネルギーで10引いて50ダメージだ。これでメタグロスのHPは40/110。
「……」
次同じだけダメージを受ければまずいな。確実にダメージを与えていきたいところだが……。
「先に言っておくが、この色ミロカロスにはアクアミラージュというポケボディーがあるんだ。アクアミラージュは手札が一枚もないときこのポケモンはダメージを受けないというものでね、今の私の手札は?」
「0……」
「そう。だから次のターンに色ミロカロスがダメージを受けることはなく、君のメタグロスを確実に仕留めるよ」
中西さんが前もって説明するということは当然余裕があるということだ。このままでは前と同じく一方的にやられて終わるだけだ。
そんなのは、イヤだ……!
向井「僕もこのコーナーいいんですか?
えっと、それじゃあ今回のキーカードはメタグロスです。
ポケボディーのグラビテーションをどう使うかがカギです」
メタグロスLv.68 HP130 鋼 (DPt3)
ポケボディー グラビデーション
おたがいの場のポケモン全員の最大HPは、それぞれ「20」ずつ小さくなる。おたがいの場で複数の「グラビテーション」がはたらいていても、小さくなるHPは「20」。
鋼鋼無 ジオインパクト 60
場に自分の「スタジアム」があるなら、相手と同じタイプの相手のベンチポケモン全員にも、それぞれ20ダメージ。
弱点 炎+30 抵抗力 超−20 にげる 3