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  [No.1724] 後日談 歩くような速さで 投稿者:空色代吉   投稿日:2022/11/06(Sun) 21:34:29   4clap [■この記事に拍手する] [Tweet]



その日もいい天気な日だった。
私のドーブル、ドルくんと共に出かけるのも久しぶりで、なんだか昔はよくこうしていたなあって思うと、懐かしくなった。

今日の私は、娘がお世話になっている学園に、とある目的で訪れていた。
といってもあの子は今、休学をして旅に出ちゃったんだけどね。
学園長の計らいで、まだいつでも帰って来てもいいと言ってもらえたのはありがたかったんだけど、あの子はあの子の道を進んで行くような……そんな予感がしていた。

事務員さんが私の顔を見て、名前を確認して来る。

「ムラクモ・アサヒさん、ですね。今日はよろしくお願いします」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」

ムラクモ・アサヒ。この名字にもだいぶ慣れたなと思いつつ、私は返事をした。
ユウヅキが姓名だけでも引き継ぎたい、と願ったので私もそれに賛同してこの名字を名乗らせてもらっている。


私が誰からもヨアケと呼ばれなくなってから、15年が経った。
目まぐるしく日々は変化していくけど、それでもちゃんと生きている。
色々悩みはあるけれど、幸せな日々を過ごしているって実感はあった。


  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


私とユウヅキが旅立った後、ヒンメル地方はだいぶ変わったらしい。
その激動の最中に居たデイちゃんから、ちょくちょく情報はもらっていたけど、驚くニュースが多かったな。

中でも一番驚いたのは、ヒンメルにポケモンジムとポケモンリーグが出来たことだった。

きっかけはスオウ王子……いやもうスオウ王か。スオウ王が地方をよくするためそれぞれの土地にジムを置くと宣言したこと。
そこからは目まぐるしいスピードで各地の開発が進み、町が増えていったみたい。

あの頃、帰って来た“闇隠し事件”の被害者も含めて人口爆発していたので、移民も含めたその居住先の確保って名目もあったらしい。
まあ、ヒンメルリーグはご当地リーグみたいなところはあるので、ほとんど私たちの知っているメンバーがジムリーダーや四天王、チャンピオンを務めていたそうだ。

メンバー、と言えば。前に作ったグループメッセージは今でも生きている。アドレス交換もして個別メッセージのやり取りをしている相手もそれなりにいる。先ほど挙げたデイちゃんなんかが筆頭だ。
中には疎遠になったり、ふとした時に連絡をくれたりする人もいる。

なんだかんだ、あの闘いを共にしたメンバーとは、今でも細々と繋がっていた。


プリムラ、プリ姉御はなんやかんやスオウ王と結ばれた後も、ヒンメル地方のポケモンセンターの総括として働いている。偉くなっても傷ついた誰かを助けるために、今日も奔走しているらしい。
プリ姉御のファンだったチギヨさんはというと、彼のブランドがメイちゃんをモデルに起用したおかげでブレイクした。ユーリィさんとは今でもタッグを組んでいるみたい。
ファッションショーで輝くメイちゃんの動画を見たけれど、なかなかに素敵な笑顔で思わず見惚れてしまった。気づけば、彼女は、色んな人に愛されるようになっていた。
メイちゃんと言えば、レイン博士が“ニジノ・レイメイ”というペンネームで本を出し始めていた。メイちゃんは「勝手に使うな!」と恥ずかしそうにしていたけれど、レインさんは「コンビを組んでいた仲じゃないですか」とごり押したらしい。

その彼の出した本のタイトルが……“明け色のチェイサー”。
私たちの関わった一連の事件をモデルにした物語だ。

取材を受けた当初はまさかこんなに世間に広まるとは思っていなかった。図書室とかに置かれるレベルにヒンメル地方では大ヒットしたって。正直今も信じられない。
“明け色のチェイサー”はドラマ化もされて、主役にはハジメ君の妹リッカちゃんが抜擢された。リッカちゃんは「憧れの人の役なので精一杯頑張りたいです」とコメントしていたっけ。いややっぱり照れるな。ハジメ君は人気になっていくリッカちゃんを見て珍しく動揺していたって話は何か可愛かった。

“明け色のチェイサー”といえば、有名な作曲家が作ったドラマのエンディングテーマをアプリちゃんが歌って、それもめちゃめちゃ売れたみたい。
アプリちゃん、それ以外はあんまりヒットしなかったけど、今も細々と活動を続けていて時折連絡をくれる。彼女と彼のとこの女の子の子供がとてもお転婆だって苦笑いしていた。なかなか親子関係って難しいよねえ。

そう言えば一時期うちの子の学園の全然関係ない他学科の教師にソテツさんがいたのはお互いとても驚いた。なんでここに居るの?? って、お互いびっくりしていたな。
ソテツさんは各地を修行や勉強も兼ねて転々としていて、ポケモン保護区制度の時に経験したことから生態保全学の先生になるほどになっていた。「世界には強い相手がごまんといるからね、ポケモンバトルもまだまだやっていくつもりだよ」って言っていた彼の笑顔は、決して作り笑いなんかではなかった。

ソテツさんと言えば、ガーベラ、ガーちゃんを始め、すべての弟子と師弟関係を解消したらしい。でもガーちゃんは新たにポケモン塾をヒンメルで開いていて、ソテツさんから学んだことも含めて、教えを広げていくんだろうな。
ガーちゃんのとこでヒエン君も手伝いしているみたいだけど、ヒエン君なかなかガーちゃんにアタック出来ないって悩んでいたな。この辺どうなるんだろ。

アタックで思い出したけど、ジュウモンジさんがネゴシさんにアタックしたって話もアプリちゃんと一緒にものすごく驚いた。まあ、ジュウモンジさん一回フラれたって聞いたけど、めげずにアタックし続けるとは言っていた。ネゴシさんもまんざらではないらしい。がんばれ。
アキラ君も「心配事もなくなったし、僕も頑張るかな」と意中の相手を口説き落としに行っていたり(めちゃめちゃユウヅキとふたりで応援した)と割と結婚ブームはあった。
まあ、先陣切ったのはトウギリ、トウさんとココチヨ、ココさんのペアだったけどね。
ふたりはカフェエナジーを前のマスターから引き継いで家族経営しているって。ミミッキュが看板ポケモンやっているみたい。

ラブラブっていうとイグサ君とシトりんだね。なんやかんやヒンメルを拠点にして今も死神活動続けているみたい。イチャイチャしすぎていないか心配でイグサ君のお師匠さんもヒンメル地方にやってきたとか。

イグサ君たちのお陰で送られたマナは生まれ変わり、新たなマナフィが【ミョウジョウ】の港町でマスコットになっている。あのマナはもういないけど、今のマナフィは元気で暮らして愛されている。
マナとクロイゼルの悲劇を風化させないように、もともとミュージカルなどに憧れていたミュウトさんが主導で演劇を作ったって話も聞いたな。本の“明け色のチェイサー”の影響もあって、ヴィラン役として作中のクロイゼルは結構人気らしい。ハロウィンとかで白マントの仮装の子供がいるくらいには。
彼のことを怪人と蔑む風潮は、その波に薄れていっている。
でもクロイゼルのしてしまったことは重く、今も彼の罪としてのしかかっているのは変わらない。
デイちゃん情報では、何年か前まではブラウさん人形と一緒に模範囚として過ごしていたって聞くけど、最近のことは知らない。デイちゃんも言わないので、私からは聞かないことにしている。
でも、クロイゼルはクロイゼルの生涯を歩んでいるんだろうなとはぼんやり思う。

囚人と言うとクローバーさんやテイル……さんは出所して、また新たな生活を送っているらしい。テイルさんはユミさんをスカウトして賞金稼ぎに戻ったとか戻ってないとか。ユミさんは今日もお味噌汁飲んでいるのだろうか。クローバーさんはドレディアのクイーンたちと平和に過ごせていると良いな。

新たな生活を迎えたメンバーの近況……フランさんやクロガネ君は地元に戻って家業を継いでいたな。フランさんは大農園の主で、クロガネ君は職人。クロガネ君、だいぶたくましくなったってフランさんが言っていた通りだったな。きのみ大好きアキラちゃんも、時折フランさんの大農園に訪れては珍しいきのみを集めているそうだって。
カツミ君は成長と共に身体が丈夫になっていき、遠出が好きだったのもあり各地をよく旅行したりしてる。
相変わらずトーリさん(本名レオットさん)は各地方でチャリティーコンサートを開いているらしい。自分たちの演技で笑顔を作れるのなら、と言っていた。
ヒイロさんはほとんど連絡くれないタイプだけど、時々強いビッパ使いのニュースが流れるたびに、今日もビッちゃんと最強を目指し続けているんだろうなって思っている。
ヨウコさんも写真家としてバリバリ活躍中で、あんまり面識ないけどオカトラさんによく大自然の案内屋をしてもらっているんだとか。
ミケさんはジョウト地方の【エンジュシティ】に戻って探偵を続けている。ラストさんに何かゆすられていた件は、チャラになったと聞いている。
ラストさん。コードネームは「終わりをもたらすもの」って意味だって旅立ちのあの日に教えてもらったな。彼女、じっくり喋ると意外と親しみやすかった。今日も事件に終止符を打つために奔走しているのだろう。
リンドウさんはリーグの門番に再就職してバッジを確認したりしているらしい。クサイハナ使いのアグリさんもクサイハナと共にジムチャレンジャーを応援して見守る職についていた。アリステアお嬢さんは、ポケモン広場の管理をする作業員さんになったって聞いている。
テリー君は、帰って来た幼馴染の子がマッサージ屋さんを開いたって言っていた。それとは別に遺跡調査をしているみたいで、よく彼の車に乗せてもらっているみたい。

そう、彼、ビー君(結局この呼び方に落ち着いてしまった)のことを語ってなかった。
なんとビー君はタクシードライバーになっていた。
アプリちゃんと一緒にタクシーの盛んなカロス地方の【ミアレシティ】に勉強に行って、免許と資格を取って、ヒンメルで個人タクシーを経営し始めたビー君。
誰かに頼りにされる人になりたいって言っていた彼は、毎日誰かしらに頼られている。
ちなみにサモンさんのバイクの弁償金はその新車の足しにしたらしい。

サモンさんはキョウヘイさんと旅立ったことくらいしか私は知らない。でも時折アプリちゃんの元に手紙はやってきているみたい。色々あるみたいだけど、なんとか元気にしているみたい。

ユウヅキのお母さん、レインさんの努力の末スバル博士はつい昨年長い眠りから目覚めた。一回ヒンメルの国外であったけど。雰囲気以外はあんまりユウヅキと似ていなかったな。
でも、スバル博士はクロイゼルに目を付けられた時、彼だけでも逃がそうとスズの塔の前に置いて行ったって言っていた。でも結果的にユウヅキを捨てたことに変わりはない。そんな私には今更母親面はできない、とも言っていた。でもムラクモ性を引き継ぐことに関しては、反対しなかった。私とユウヅキはなかなか簡単にはヒンメル地方へは行けないのだけれど、今度はちゃんとあの子も顔を見せに行きたいなと思った。私の両親とは勘当されて絶縁になってしまったから、尚更。

でも、私の傍にはユウヅキが居てくれたから大丈夫だった。
色々各地を転々として、今の土地に住むようになり、あの子……アユムちゃんが生まれて。
忙しく過ぎていった日々だけど、それでも日々の側らにはちゃんと彼は居てくれた。
私たちを不器用なりに愛してくれている。

色々悩んでいることはアユムちゃんのことだった。
あの子にはそれまで、ヒンメル地方のことを伝えないでいた。
でもネットに触れるようになって、どこからか偏った情報を見つけてしまっていた。

「母さんと父さん、どうして話してくれなかったの? 私のことそんなに信頼できなかったの?」

そう言って家を飛び出してしまったあの子の悲しい顔が今でも焼き付いている。
学園長に休学を頼みに行ったのもアユムちゃん本人だった。
どうにも、ヒンメル地方で、私とユウヅキの真実を見極めてきたいって言っていたらしい。
そのことはすぐにビー君たちに相談した。もし、アユムちゃんらしき人物を見つけたら、見守って、困っていたら力になって欲しい。と。
今もこの遠い空の下、あの子は旅を続けている。

色々心配もあるけれど、今祈ることは。
あの子の進む道に、一緒に歩んでくれる大事な人が出来ているといいな、ということだった。



  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


壇上に立ち、ライトを浴びる。
今日私がここに来たのは、アユムちゃんに教えてもらった、私がしなければいけないことをするためだった。

「こんにちは、ムラクモ・アサヒです。今日はよろしくお願いします。さて、皆さんはヒンメル地方で起きた、『闇隠し事件』をご存じでしょうか?」

『闇隠し事件』。
この事件があったことを、アユムちゃんにも、他の人にも時が来るまでと話せないでいた。
でも、それじゃあ、事件のことは知られないで、忘れ去られて、風化していくのだと気づかされた。
赦してはもらった。でも忘れてなかったことにしてはいけないと思った。だから今日この場を用意してもらった。

「今日は、私たちが体験したあの事件のことをお話させていただきます。どうか、最後までお付き合い頂けると幸いです」

私は、ゆっくりとあの頃を思い返し、語り始める。
とても数十分じゃ収まり切れない、みんなのことを、伝えたくて。
私は話す。
事件の中で、彼らがどう生き、どう闘っていたのかを。
少しでも知って、覚えていてもらうために。

そしてアユムちゃんが帰って来た時に、ちゃんと伝えられるように。
私は、今この場に立っていた。




















* * * * * * * *


ヒンメル地方ポケモンリーグ。チャンピオンの手前の間にて、あの人が立ち塞がる。

「――――よっ、ウォーカーさん。いや、アユム。よく他の三人を倒してここまで来たな。レインとは話出来たか?」
「まあ、それなりには。でもオレ……いや、私は貴方がチャンピオンだと思っていたんですけど、ビドー・オリヴィエさん」
「つい先刻まではそうだったんだけどな。まあ、この先に誰が待ち受けているかは、想像つくだろ」
「……手加減はしてないですよね?」
「ああ、しなかったとも」
「……どうして初めてタクシー乗せてもらって、あの子と出会ったあと、私の目的聞いたときにジムに、リーグに挑戦しろって言ったんですか。オリヴィエさん」
「あの時は少しでもジムチャレンジャー増やしてくれってアプリのやつにどやされていたからな。まあでも、お陰で色んな人に聞けたんじゃないか? 知りたがっていたアサヒとユウヅキのこと」
「いやまあそうですけど」
「それに、悪くはなかっただろ、旅ってやつも。まあうちの娘がだいぶ世話になったのは本当に感謝しているよ」
「こちらこそ、ビビアンにはお世話になりました。あの子と一緒の旅路、なんだかんだ楽しかったです」
「まだ旅のクライマックスが残っている。そのためには、俺を倒していかなければいけないけどな」
「そうですね」

キャップ帽を被り直し、オレは、私は相棒の入ったモンスターボールを構える。

「――――ヒンメルリーグ、最後の四天王。『暁星の運び屋』ビドー・オリヴィエだ」
「……ムラクモ・アユム。貴方を倒して、チャンピオンに挑みます。よろしくお願いします!!」

そして、オリヴィエさんと目を合わせ、火蓋は切って落とされた。

王座の間で待っている、彼女に会いに行くために。
絶対に負けられない闘いが幕を上げた。





終。


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